説明

インクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータ及びその形成方法

【課題】インクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータ及びその形成方法を提供する。
【解決手段】圧力チャンバの上部壁をなす振動板の上部に形成される下部電極と、下部電極上の圧力チャンバに対応する位置に形成され、その周辺部と前記下部電極との間に空間が形成された圧電膜と、前記圧電膜上に形成されて圧電膜に電圧を印加する上部電極と、を備える。一方、前記圧電膜は、周辺部に形成された空間の代わりにその側面が下部電極の上面に対して実質的に直角をなすように形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電方式のインクジェットプリントヘッドに係り、より詳細には、圧電方式のインクジェットプリントヘッドにおけるインクを吐き出させる駆動力を提供する圧電アクチュエータ及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェットプリントヘッドは、印刷用インクの微小な液滴を記録用紙上の所望の位置に吐き出させて所定色相の画像に印刷する装置である。このようなインクジェットプリントヘッドはインク吐き出し方式によって大きく2つに分類される。その一つは、熱源を用いてインクにバブルを発生させ、そのバブルの膨張力によってインクを吐き出させる熱駆動方式のインクジェットプリントヘッドであり、他の一つは、圧電体を用いてその圧電体の変形によってインクに加えられる圧力によってインクを吐き出させる圧電方式のインクジェットプリントヘッドである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,956,829号明細書
【特許文献2】米国特許第5,929,881号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記圧電方式のインクジェットプリントヘッドの一般的な構成は図1Aに示されている。図1Aを参照すれば、流路形成板10の内部にはインク流路をなすリザーバ2、リストリクター3、圧力チャンバ4及びノズル5が形成されており、流路形成板10の上部には圧電アクチュエータ20が設けられている。リザーバ2は、インクコンテナ(図示せず)から流入されたインクを貯蔵するところであり、リストリクター3は、リザーバ2から圧力チャンバ4にインクが流入される通路である。圧力チャンバ4は、吐き出されるインクが充填されるところであって、圧電アクチュエータ20の駆動によりその体積が変わることによってインクの吐き出し又は流入のための圧力変化を生成する。このために、流路形成板10の圧力チャンバ4の上部壁をなす部位は圧電アクチュエータ20によって変形される振動板1の役割をする。このような構成を有する従来の圧電方式のインクジェットプリントヘッドの作動を説明すれば、圧電アクチュエータ20の駆動によって振動板1が変形されれば圧力チャンバ4の体積が減少し、これによる圧力チャンバ4内の圧力変化によって圧力チャンバ4内のインクはノズル5を通じて外部に吐き出される。次いで、圧電アクチュエータ20の駆動により振動板1が本来の形態に復元されれば圧力チャンバ4の体積が増加し、これによる圧力変化によってリザーバ2に貯蔵されているインクがリストリクター3を通じて圧力チャンバ4内に流入される。
【0005】
図1Bには前記圧電アクチュエータの構造が詳細に示されている。図1Bを参照すれば、流路形成板10は、主にセラミック材料、金属材料、合成樹脂材料またはシリコン基板からなる多数の薄いプレート11、12、13を各々加工して前記インク流路の部分を形成した後、これら多数のプレート11、12、13を接着剤を用いて接着してなる。圧力チャンバ4の上部に積層されるプレート13は、前記のように振動板1の役割をする。そして、圧電アクチュエータ20は、下部電極21、圧電膜22、及び上部電極23からなり、これらは振動板1の上部に順次積層されている。前記下部電極21は、振動板1の上面に所定の金属物質をスパッタリングすることによって形成され、前記圧電膜22は、圧電性質を有するペースト状態のセラミック材料を下部電極21上にスクリーンプリンティング法によって所定厚さに塗布した後、焼結することで形成される。そして、上部電極23は、圧電膜22の上面に導電性物質をスクリーンプリンティングによって塗布したり、スパッター、evaporator、又はE−beamなどを用いて蒸着したりすることによって形成される。ところで、従来のスクリーンプリンティング法によって形成された圧電膜22は、ペースト状態の材料特性上、周囲に広がって正確な大きさ及び長方形を成さず、示したように中央部は厚く、両周辺部は薄くなる。このために、従来には上部電極23を圧電膜22の薄い周辺部を除いて厚い中央部にのみ形成した。その理由は、上部電極23が圧電膜22上の正確な位置に形成できずに少しでも外れるようになれば、上部電極23と下部電極21とが短絡する問題が発生する可能性が高まるからである。そして、圧電膜22の焼結後には圧電膜22に電界を加えて圧電特性を発生させるためのポーリング(polling)工程が行われるが、該ポーリング工程においては上部電極23と下部電極21との間に約10kV/cmの高い電場が印加される。この時、圧電膜22の薄い周辺部に上部電極23が形成されている場合には、上部電極23と下部電極21との間の間隔が非常に小さくなり絶縁破壊(breakdown)が生じて圧電膜22にクラックが発生するか圧電膜22の圧電特性に相当な悪影響を及ぼす。
【0006】
こうした理由によって、従来には前記のように上部電極23を圧電膜22の薄い周辺部を避けて厚い中央部にだけ形成したため、上部電極23の幅は圧電膜22の幅に比べて相当に狭くなり、結果的に圧電膜22が十分な圧電効果を発揮できない問題点があった。
【0007】
そして、より高い印刷品質、すなわち高解像度と高い印刷速度とを得るためにはノズルの密度を高めることが必要である。このためには、圧力チャンバ4の大きさと隣接した圧力チャンバ4間の間隔を縮めなければならず、これによって圧電膜22の幅も縮まる。しかし、圧電膜22の幅がさらに微細になる場合、従来の圧電アクチュエータ形成方法によっては上部電極23を圧電膜22上に形成させるのがさらに難しくなり、これは圧電アクチュエータ20の形成において制約として作用する。前記従来の方法による場合、一般に50μmの線幅が限界と知られている。
【0008】
一方、特許文献1には、駆動電極を振動板に直接接触するように形成し、駆動電極と圧電膜との幅を振動板の幅よりも狭く形成した圧電アクチュエータが開示されている。そして、特許文献2には、振動板の効率的な振動のために下部電極の幅を圧力チャンバの幅よりも狭く形成した圧電アクチュエータが開示されている。しかし、前記圧電アクチュエータらは以下で説明する本発明に係る圧電アクチュエータとは異なる構造を有しており、その形成方法も本発明とは差がある。
【0009】
本発明は前記問題点を解決するために案出されたものであって、本発明の目的は、十分な圧電効果を発揮できるようにより広い上部電極を形成でき、ポーリング工程や駆動時に圧電膜の絶縁破壊を防止できる構造を有するインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータとその形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の技術的課題を解決するために、本発明の第1実施例による圧電アクチュエータは、圧力チャンバの上部壁をなす振動板の上部に形成され、前記振動板を変形させることによって前記圧力チャンバにインクの吐き出しのための駆動力を提供するインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータにおいて、前記振動板上に形成される下部電極と、前記下部電極上に前記圧力チャンバに対応する位置に形成され、その周辺部と前記下部電極との間に空間が形成された圧電膜と、前記圧電膜上に形成されて前記圧電膜に電圧を印加する上部電極と、を備える。
【0011】
前記第1実施例において、前記圧電膜の前記下部電極に接触する部位の幅は、前記圧力チャンバの幅の70〜90%であることが好ましい。
【0012】
一方、本発明の第2実施例による圧電アクチュエータは、圧力チャンバの上部壁をなす振動板の上部に形成され、前記振動板を変形させることによって前記圧力チャンバにインクの吐き出しのための駆動力を提供するインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータにおいて、前記振動板上に形成される下部電極と、前記下部電極上に前記圧力チャンバに対応する位置に形成され、その側面が前記下部電極の上面に対して実質的に直角をなす圧電膜と、前記圧電膜上に形成されて前記圧電膜に電圧を印加する上部電極と、を備える。
【0013】
前記第2実施例において、前記圧電膜は、一定した高さの長方形の断面形状を有することが好ましく、その幅は、前記圧力チャンバの幅の70〜90%であることが好ましく、前記上部電極の幅は、前記圧電膜の幅と同一であることが好ましい。
【0014】
本発明の第1実施例による圧電アクチュエータ形成方法は、圧力チャンバの上部壁をなす振動板の上部に形成され、前記振動板を変形させることによって前記圧力チャンバにインクの吐き出しのための駆動力を提供するインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータ形成方法において、前記振動板上に下部電極を形成する段階と、前記下部電極の全面にフォトレジストを所定厚さに塗布する段階と、前記フォトレジストをパターニングして前記圧力チャンバに対応する位置に開口部を形成する段階と、前記開口部によって露出された前記下部電極上に圧電物質を前記開口部の幅よりも広く塗布することによって圧電膜を形成する段階と、前記圧電膜上に上部電極を形成する段階と、前記フォトレジストを除去して前記圧電膜の周辺部と前記下部電極との間に空間を形成する段階と、前記圧電膜を焼結させる段階と、前記圧電膜に圧電特性を与えるために電界を加えるポーリング段階と、を備える。
【0015】
前記方法において、前記フォトレジストの塗布の厚さは2〜8μmであることが好ましい。
【0016】
一方、本発明の第2実施例による圧電アクチュエータ形成方法は、圧力チャンバの上部壁をなす振動板の上部に形成され、前記振動板を変形させることによって前記圧力チャンバにインクの吐き出しのための駆動力を提供するインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータ形成方法において、前記振動板上に下部電極を形成する段階と、前記下部電極の全面にフォトレジストを所定厚さに塗布する段階と、前記フォトレジストをパターニングして前記圧力チャンバに対応する位置に開口部を形成する段階と、前記開口部の内部に圧電物質を塗布して前記開口部によって露出された前記下部電極上にその側面が前記下部電極の上面に対して実質的に直角をなす圧電膜を形成する段階と、前記圧電膜上に前記開口部から外れないように上部電極を形成する段階と、前記フォトレジストを除去する段階と、前記圧電膜を焼結させる段階と、前記圧電膜に圧電特性を与えるために電界を加えるポーリング段階と、を備える。
【0017】
前記方法において、前記フォトレジストの塗布の厚さは20〜40μmであることが好ましい。
【0018】
また、前記圧電膜は、一定した高さの長方形の断面形状に形成されることが好ましく、前記上部電極は、前記圧電膜の幅と同一な幅に形成されることが好ましい。
【0019】
前記の両方法における前記開口部の幅は、前記圧力チャンバの幅の70〜90%であることが好ましい。
【0020】
また、前記圧電物質は、スクリーンプリンティングによって塗布され得る。
【0021】
また、前記圧力チャンバと前記振動板とは、シリコン基板に形成され、前記シリコン基板と前記下部電極との間にはシリコン酸化膜が形成され得る。
【0022】
また、前記下部電極は、前記振動板上にスパッタリングによってTi層及びPt層が順次蒸着されてなることが好ましい。また、前記上部電極は、電極物質を前記圧電膜上にプリンティングするか、スパッタリング、蒸発装置(evaporator)及び電子ビーム(E−beam)のうち何れか一つを用いて電極物質を前記圧電膜上に蒸着することによって形成され得る。
【0023】
本発明によれば、より広い上部電極を形成できて十分な圧電効果を発揮し、ポーリング工程や駆動時に圧電膜の絶縁破壊を防止できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータ及びその形成方法は次のような効果を有する。
【0025】
第1に、下部電極と圧電膜との周辺部の間に空間が形成された場合には、上部電極をさらに広く形成しても短絡が発生せず、ポーリング工程や駆動時に圧電膜の絶縁破壊も発生しない。したがって、十分な圧電効果が発揮できる。
【0026】
第2に、圧電膜の側面が下部電極の上面に対して実質的に直角に形成された場合には圧電膜の断面が長方形をなす。したがって、上部電極の幅を圧電膜の幅と同一にできるので、同一面積に対して最大の圧電効果を発揮することができる。また、上部電極下の圧電膜の厚さが一定しているため短絡や圧電膜の絶縁破壊も生じない。そして、圧電膜を一定の厚さにさらに薄く形成できるので、圧電アクチュエータをより微細な大きさに精密でかつ容易に形成できる。したがって、解像度向上のためにプリントヘッドを高密度に製作する最近の趨勢に適している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】従来の圧電方式のインクジェットプリントヘッドの一般的な構成を示す図面である。
【図1B】従来の圧電アクチュエータの構造を詳細に示した図1Aに表されたA−A′線に沿った断面図である。
【図2】本発明の望ましい第1実施例によるインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータの構造を示す断面図である。
【図3】本発明の望ましい第2実施例によるインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータの構造を示す断面図である。
【図4A】圧電膜及び上部電極の形状による振動板の変位を解析した結果を示す図面である。
【図4B】圧電膜及び上部電極の形状による振動板の変位を解析した結果を示す図面である。
【図4C】圧電膜及び上部電極の形状による振動板の変位を解析した結果を示す図面である。
【図4D】圧電膜及び上部電極の形状による振動板の変位を解析した結果を示す図面である。
【図5A】図2に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図5B】図2に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図5C】図2に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図5D】図2に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図5E】図2に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図5F】図2に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図5G】図2に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図5H】図2に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図6A】図3に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図6B】図3に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図6C】図3に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図6D】図3に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図6E】図3に示された圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【図7A】図6A乃至図6Eに示された方法により形成された圧電アクチュエータのSEM写真である。
【図7B】図6A乃至図6Eに示された方法により形成された圧電アクチュエータのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付した図面に基づき、本発明の望ましい実施形態を詳細に説明する。図面において同じ参照符号は同じ構成要素を示し、図面における各構成要素の大きさは説明の明確性及び便宜上のため誇張され得る。また、ある層が基板や他の層の「上」にあると説明された場合、前記ある層は基板や他の層に直接接触してその上に存在することもでき、又は、その間に第3の層が存在することもできる。図2は、本発明の望ましい第1実施例によるインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータの構造を示す断面図である。
【0029】
図2を参照すれば、本発明によるインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータ120は、圧力チャンバ114の上部壁をなす振動板113の上部に形成され、前記振動板113を変形させることによって圧力チャンバ114にインクの吐き出しのための駆動力を提供する役割を果たす。このような圧電アクチュエータ120は、共通電極の役割をする下部電極121と、電圧の印加に応じて変形される圧電膜122と、駆動電極の役割をする上部電極123とを具備し、下部電極121、圧電膜122、及び上部電極123が前記振動板113上に順次積層された構造を有する。
【0030】
前述のように、圧電方式のインクジェットプリントヘッドには、吐き出されるインクが充填される圧力チャンバ114と、前記圧力チャンバ114にインクを供給するか圧力チャンバ114からインクを吐き出せるためのインク流路(図示せず)が設けられる。このようなインク流路は、ベース基板111及びチャンバ形成基板112を含む多数のプレートに形成される。
【0031】
前記下部電極121は前記振動板113上に形成される。前記下部電極121は、伝導性を有する単一金属層からなりうるが、示したようにTi層121a及びPt層121bの二つの金属層からなることが好ましい。前記Ti/Pt層121a、121bは、共通電極の役割をするだけではなく、その上に形成される圧電膜122及びその下の振動板113の間の相互拡散(inter-diffusion)を防止する拡散防止層の役割もする。
【0032】
一方、前記振動板113がシリコンからなる場合には、振動板113及び下部電極121の間には絶縁膜としてシリコン酸化膜115が形成され得る。このシリコン酸化膜115は、絶縁膜としての機能だけではなく、振動板113及び下部電極121間の物質拡散を抑制して熱的ストレスを調節する機能も有する。
【0033】
前記圧電膜122は、下部電極121上に形成され、圧力チャンバ114に対応する位置に配置される。そして、圧電膜122の周辺部と下部電極121との間には所定の幅及び高さを有する空間が形成される。この時、圧電膜122の両側に形成した空間(S)の間の間隔、すなわち圧電膜122の下部電極121に接触する部位の幅は、圧力チャンバ114の幅の70〜90%程度であることが好ましい。
【0034】
前記上部電極123は圧電膜122上に形成され、圧電膜122に電圧を印加する駆動電極の役割を果たす。
【0035】
前記のような構造を有する本発明の第1実施例による圧電アクチュエータ120においては、圧電膜122の周辺部及び下部電極121の間に空間(S)が形成されているので、上部電極123を従来よりも広く形成しても上部電極123及び下部電極121間に短絡が発生せず、ポーリング工程や圧電アクチュエータ120の駆動時に圧電膜122の絶縁破壊も発生しない。したがって、本発明に係る圧電アクチュエータ120はより広い上部電極123によって十分な圧電効果を発揮できる長所を有する。図3は、本発明の望ましい第2実施例によるインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータの構造を示す断面図である。本実施例による圧電アクチュエータは圧電膜の形状を除いては前述した第1実施例と同様である。したがって、以下では前述した第1実施例と同じ部分についてはその説明を省略したり簡略にしたりする。
【0036】
図3を参照すれば、本発明の第2実施例による圧電アクチュエータ220も共通電極の役割をする下部電極221と、電圧の印加に応じて変形される圧電膜222と、駆動電極の役割をする上部電極223とを具備する。前記下部電極221、圧電膜222、及び上部電極223は振動板213上に順次積層される。前記圧力チャンバ214とインク流路(図示せず)はベース基板211及びチャンバ形成基板212を含む多数のプレートに形成され、前記振動板213は圧力チャンバ214の上部壁をなす。
【0037】
前記下部電極221は、前記振動板213上に形成され、示したようにTi層221a及びPt層221bの二つの金属層からなり得る。前記Ti/Pt層221a、221bの役割は前述した第1実施例と同一である。そして、前記振動板213がシリコンからなる場合は、前述した第1実施例のように振動板213と下部電極221との間に絶縁膜としてシリコン酸化膜215が形成されうる。
【0038】
前記圧電膜222は、下部電極221上に形成され、圧力チャンバ214に対応する位置に配置される。そして、圧電膜222は、その側面が下部電極221の上面に対して実質的に直角をなすように形成される。また、前記圧電膜222は、一定した高さの長方形の断面形状を有することが好ましく、その幅は圧力チャンバ214の幅の70〜90%程度であることが好ましい。
【0039】
前記上部電極223は、圧電膜222上に形成され、その幅は圧電膜222の幅と同一であることが好ましい。
【0040】
前記のような構造を有する本発明の第2実施例による圧電アクチュエータ220においては、圧電膜222の側面が下部電極221の上面に対して実質的に直角に形成されるので、前記圧電膜222は、薄い周辺部を有しておらず、一定した高さの長方形の断面形状を有することができる。したがって、上部電極223の幅を圧電膜222の幅と同じにできて同一面積に対して最大の圧電効果を表すことができ、この場合にも上部電極223及び下部電極221の短絡や圧電膜222の絶縁破壊が生じない。そして、圧電膜222を一定した厚さでさらに薄く形成できるので、圧電アクチュエータ220をより微細で、精密に形成でき、隣接した圧電膜222間の間隔も縮めることができる。したがって、前記圧電アクチュエータ220を高密度に配置できて高解像度を有するインクジェットプリントヘッドを容易に具現できる。
【0041】
図4Aないし図4Dは圧電膜及び上部電極の形状による振動板の変位を解析した結果を示した図面である。図面における左側には圧電アクチュエータの構造が示されており、右側には左側に示された圧電アクチュエータの各々に対して構造解析した結果が示されている。
【0042】
図4Aには、本発明の望ましい第2実施例による圧電アクチュエータによる振動板の変位を解析した結果が示されている。ここで、圧電膜は長方形断面を有しており、圧電膜及び電極らは圧力チャンバ幅(W)の75%の幅に形成される。このような圧電アクチュエータによって変形される振動板の変位は解析の結果0.493μmとなった。
【0043】
図4Bにおいては、圧電膜の幅は圧力チャンバの幅(W)と同一にするが、電極の幅は圧力チャンバ幅(W)の75%に形成される。このような圧電アクチュエータによって変形される振動板の変位は解析の結果0.280になり、これは図4Aの場合に比べて57%程度である。図4Cでは、圧電膜は、圧力チャンバ(W)の幅と同一にするが、周辺部が薄い形状を有し、電極の幅は圧力チャンバ幅(W)の75%に形成される。このような圧電アクチュエータによって変形される振動板の変位は解析の結果0.368μmと表され、これは図4Aの場合に比べて75%程度である。
【0044】
図4Dにおいては、圧電膜は、圧力チャンバ幅(W)の90%の幅に形成されるが、周辺部が薄い形状を有し、上部電極の幅は圧力チャンバ幅(W)の65%に形成される。このような圧電アクチュエータによって変形される振動板の変位は解析の結果0.467μmと表され、これは図4Aの場合に比べて94%程度である。
【0045】
前記のように、圧電膜の断面を長方形に形成し、その幅を圧力チャンバの幅よりも狭く形成した場合に、振動板の変位が最も大きく示される。したがって、図4Aに示された構造を有する本発明の第2実施例による圧電アクチュエータによれば振動板を効率的に振動させうることが分かる。そして、本発明の第1実施例による圧電アクチュエータにおいても、圧電膜の下部電極に接触する部位の幅が圧力チャンバの幅に比べて狭いことが前記の理由から好ましいことが分かる。
【0046】
以下に、添付した図面を参照して本発明に係るインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータを形成する方法を説明する。
【0047】
図5Aないし図5Hは、図2に示した圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【0048】
まず、図5A及び図5Bを共に参照すれば、圧力チャンバ114の上部壁をなす振動板113は、示したようにシリコン基板112をその底面から所定深さにエッチングして圧力チャンバ114の形成と同時に形成できる。具体的に、図5Aに示したように、シリコン基板112を酸化炉で湿式又は乾式酸化させてシリコン基板112の表面にシリコン酸化膜115、116を形成する。次いで、図5Bに示したように、シリコン基板112の底面に形成された酸化膜116をフォトレジストパターンを用いてパターニングすることによって圧力チャンバ114が形成される部位の基板112を露出させた後、露出された基板112を所定深さに乾式又は湿式エッチングして圧力チャンバ114を形成する。この時、エッチング後に残る基板112の残存部分が振動板113をなす。
【0049】
一方、前記圧力チャンバ114及び振動板113は公知の他の方法で形成できる。例えば、圧力チャンバ114及び振動板113は各々他の基板に形成されうる。この場合には、圧力チャンバ114が貫通形成された基板上に別の基板を接着して振動板113を形成する。
【0050】
次に、図5Cに示したように、シリコン基板112の上面に形成された酸化膜115の全面に下部電極121を形成する。下部電極121は、前述のようにTi層121a及びPt層121bの二つの金属層からなり得る。前記Ti層121aは、酸化膜115の全面にTiをスパッタリングによって約400Åの厚さに蒸着することで形成でき、Pt層121bは、前記Ti層121aの全面にPtをスパッタリングによって約5,000Åの厚さに蒸着することで形成できる。
【0051】
次に、図5Dに示したように、下部電極121の全面にフォトレジストPRを所定厚さ、例えば2〜8μm程度の厚さに塗布する。次いで、フォトレジストPRを露光及び現像工程を経てパターニングすることにより、図5Eに示したように圧力チャンバ114に対応する位置に、圧力チャンバ114幅の約70〜90%の幅を有する開口部hを形成する。この開口部hによって下部電極121の一部が露出される。
【0052】
次に、スクリーンプリンティングによりペースト状態の圧電物質を露出された下部電極121上に開口部hの幅よりも若干広く塗布することによって、図5Fに示したように圧電膜122を形成する。この時、前記圧電物質としては様々なものが用いられるが、好ましくはPZT(Lead Zirconate Titanate)セラミック材料が用いられる。
【0053】
次に、図5Gに示したように、圧電膜122上に上部電極123を形成する。具体的に、上部電極123は、圧電膜122上に電極材料、例えばAg−Pdペーストをプリンティングすることによって形成できる。一方、上部電極123は、スパッター、evaporatorまたはE−beamなどを使用して電極物質をシャドーマスクを用いて圧電膜122上に所定厚さに蒸着することによって形成することもできる。次いで、圧電膜122と上部電極123とを100〜110℃で約5〜10分乾燥させる。次に、フォトレジストPRをアセトンを用いて除去すれば、図5Hに示したように圧電膜122の周辺部と下部電極121との間に所定幅と高さとを有する空間(S)が形成される。
【0054】
最後に、圧電膜122を所定温度、例えば900〜1,000℃で焼結後、圧電膜122に電界を加えて圧電特性を発生させるポーリング工程を経ると、本発明の第1実施例による圧電アクチュエータ120が完成される。
【0055】
図6A乃至図6Eは、図3に示した本発明の第2実施例による圧電アクチュエータ形成方法を段階的に示す図面である。
【0056】
まず、図6Aを参照すれば、基板212の上面及び底面には各々酸化膜215、216が形成され、基板212には圧力チャンバ214及び振動板213が形成される。そして、酸化膜215の上部にはTi層221a及びPt層221bからなる下部電極221が形成される。前記のように、下部電極221を形成する段階までは前述した図5Aないし図5Cに示した段階と同じなので、詳細な説明は省略する。
【0057】
次いで、下部電極221の全面にフォトレジストPRを所定厚さ、例えば20〜40μm程度の厚さに塗布する。この時、フォトレジストPRの塗布の厚さは図5Dに示したフォトレジストPRよりも厚く形成される。次いで、塗布されたフォトレジストPRを露光及び現像工程を経てパターニングすることで、図6Bに示したように圧力チャンバ214に対応する位置に、圧力チャンバ214幅の約70〜90%の幅を有する開口部hを形成して下部電極221の一部を露出させる。
【0058】
次に、図6Cに示したように、ペースト状態の圧電物質を露出された下部電極221上にスクリーンプリンティングによって塗布するが、この時、前記圧電物質が前記開口部hから外れないようにする。これによって、開口部h内部にのみ圧電膜222が形成される。この時、前記圧電物質としては前述のようにPZTセラミック材料が用いられる。
【0059】
次に、図6Dに示したように、圧電膜222上に上部電極223を形成する。上部電極223の形成方法は図5Gに示した段階で説明したのと同一である。ただし、本実施例における上部電極223は、圧電膜222のように開口部h内部に形成される。このために、前記のようにフォトレジストPRを比較的に高く形成することが好ましい。次いで、圧電膜222及び上部電極223を100〜110℃で約5〜10分乾燥させる。
【0060】
次に、アセトンを用いてフォトレジストPRを除去すれば、図6Eに示したように下部電極221上には側面が下部電極221の上面に対して実質的に直角をなす圧電膜222と、圧電膜222の幅と同じ幅を有する上部電極223とのみが残存する。
【0061】
最後に、圧電膜222を所定温度、例えば900〜1,000℃で焼結させた後、圧電膜222に電界を加えて圧電特性を発生させるポーリング工程を経ると、本発明の第2実施例による圧電アクチュエータ220が完成される。
【0062】
前記のように形成された本発明の第2実施例による圧電アクチュエータのSEM写真が図7A及び図7Bに示されている。
【0063】
図7A及び図7Bを見ると、圧電膜222の側面が下部電極221の上面に対してほぼ直角をなしていることがわかる。また、圧電膜222の断面形状も高さがほぼ一定した長方形をなしており、その全体形状は直六面体をなしていることが分かる。
【0064】
以上、本発明の望ましい実施例を詳細に説明したが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならばこれより多様な変形及び均等な他実施例が可能である。例えば、本発明における圧電アクチュエータの各構成要素を形成する方法は単に例示的なものであって、多様なエッチング方法及び蒸着方法が適用可能で、各段階の手順も例示と異ならせることができる。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は特許請求の範囲によってのみ決まるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、十分な圧電効果が発揮できるようにより広い上部電極を形成でき、ポーリング工程や駆動時に圧電膜の絶縁破壊を防止できる構造を有するインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータとその形成方法に用いられる。
【符号の説明】
【0066】
120 圧電アクチュエータ
111 ベース基板
112 チャンバ形成基板
113 振動板
114 圧力チャンバ
115 シリコン酸化膜
121 下部電極
121a Ti層
121b Pt層
122 圧電膜
123 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力チャンバの上部壁をなす振動板の上部に形成され、前記振動板を変形させることによって前記圧力チャンバにインクの吐き出しのための駆動力を提供するインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータにおいて、 前記振動板上に形成される下部電極と、 前記下部電極上に前記圧力チャンバに対応する位置に形成され、周辺部の下面に垂直方向に所定の高さを有する段差が設けられ、前記段差により周辺部の下面が前記下部電極の上面よりも高い位置に位置することでその周辺部と前記下部電極との間に空間が形成された圧電膜と、 前記圧電膜上に形成されて前記圧電膜に電圧を印加する上部電極と、
を備えることを特徴とするインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記圧電膜の前記下部電極に接触する部位の幅は、前記圧力チャンバの幅の70〜90%であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリントヘッドの圧電アクチュエータ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2010−132008(P2010−132008A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61365(P2010−61365)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【分割の表示】特願2004−81701(P2004−81701)の分割
【原出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】