説明

インクジェットヘッド及びその製造方法

【課題】キャビティユニットの連通孔から圧力室に、インクが略直角に屈曲しながら流入するように構成されている場合であっても、この屈曲部分に溜まる気泡の除去を容易且つ確実に行う。
【解決手段】アクチュエータ21で覆われる圧力室24は連通孔28と接続する一端24aからノズル23と接続する他端24bへ向けアクチュエータ21に沿ってインクを流すように形成され、且つ連通孔28は圧力室24でのインクの流れ方向と略直角でかつアクチュエータ21と対向する方向に開口形成されて、連通孔28を経たインクが圧力室24の一端にて流れる方向を略直角に屈曲させるように構成されているインクジェットヘッド1であって、連通孔28に対応するアクチュエータ21の部位には、圧力室24の一端24aにおけるインクの流れに直角な断面積S1を広げるように、圧力室24毎に凹部50が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドに係り、特に、吐出圧力を受ける圧力室に連通孔を経てインクを供給するように構成されたキャビティユニットを有するインクジェットヘッド及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のインクジェットヘッドでは小型化が進められており、本出願人も、例えば、特許文献1に開示しているように、インクジェットヘッドにおいてインク流通路を内部に有するキャビティユニットを薄い複数枚のプレートを積層して構成することで、ヘッド全体の薄型化を図っている。
【0003】
キャビティユニットの複数枚のプレートとしては、複数のノズルが穿設されたプレート、各ノズル毎の圧力室が形成されたプレート、インク供給源から供給されたインクを一旦溜める共通インク室が形成されたプレート、共通インク室のインクを各圧力室に分配するための連通孔(特許文献1では連通路38と記載)が形成されたプレート等が備えられている。そして、前記圧力室に充填されたインクに吐出圧力を与えるアクチュエータが、前記圧力室を覆うようにキャビティユニットに積層されている。
【0004】
このような薄型のキャビティユニットでは、キャビティユニット全体の厚み寸法を有効に利用して、吐出に必要なインク流通路を確保するために、インク流通路をキャビティユニットの内部において、プレートの積層方向(厚み方向)に貫通させたり、各プレートの面方向と平行に延ばしたりして構成している。具体的には、アクチュエータからの吐出圧力を受ける圧力室を、アクチュエータと対向する背面側のプレートに、ノズルを前面側のプレートに、共通インク室を積層方向の中間のプレートに、それぞれ配置している。そして、インクは、共通インク室に供給されたのち、図8(a)に模式的に図示しているように、プレートの積層方向に沿って連通孔28を進んで圧力室24の一端24aに達し、この圧力室24の一端24aで流れる方向を略直角に屈曲させて、アクチュエータ21の面に沿って圧力室24の他端24bへ進み、再びこの他端24bで、流れる方向を略直角に屈曲させて、キャビティユニットの前面側に設けたノズルに至るように構成されている。
【特許文献1】特開2005−41047号公報(図4及び図5参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクジェットヘッドでは、キャビティユニットの内部のインクに気泡が混入すると、インクの吐出不良を引き起こすため、キャビティユニットのノズル側からインクを強制的に吸引(または加圧)して、インクとともに気泡を排出するメンテナンス(パージ処理)が行われる。
【0006】
しかしながら、前述したように、インク流通路を略直角に屈曲させるように構成していると、この屈曲部分に気泡が停滞し、停滞した気泡は後から来た気泡と合体して大きな気泡に成長し易い。特に、圧力室は、インクに大きな吐出圧力を与えるためにはアクチュエータの動作に伴う断面積の変化率を大きくする必要があり、アクチュエータと対向する幅(図8(c)の平面図においてW)が大きく、深さ(図8(a)において上下方向)が小さい扁平な断面形状であることが好ましい。また、連通孔が形成されるプレートは、キャビティユニット全体に剛性を与えるために、圧力室を形成するプレートよりも厚いプレートであることが好ましく、その厚さに対して小さい連通孔を穿設することが困難なので、連通孔はその厚さ程度の直径を有するものとなる。このため、図8(b)に示すように、連通孔28の内側にて大きく成長した気泡Aは球形であるから、その気泡の直径よりも小さい深さの圧力室24に入り込み難く、圧力室24の天井面に停滞してしまう。その結果、圧力室24側への流路の実質的な断面積が制限され、圧力室24へのインク供給量が減少し、印字不良を生じることになる。
【0007】
この気泡を除去するためには、インクに圧力をかけて連通孔28から圧力室24へ流れを生じさせるパージ処理を行う必要があるが、図8(c)に示すように圧力室24の幅Wが連通孔28の直径Lよりも十分に大きいため、パージ処理によるインクの流れは圧力室24の幅方向に逃げてしまい、気泡Aを押すことができない。このため、気泡Aの球形状を扁平形状に変形させる程の大きな圧力をインクにかけてパージ処理を行わないと、気泡を確実に除去することができず、パージ処理に伴うインクの無駄な吐出や、パージ処理用のポンプの大型化も招来するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解消するものであり、キャビティユニットの連通孔から圧力室に、インクが略直角に屈曲しながら流入するように構成されているものにおいて、この屈曲部分に溜まる気泡の除去を容易且つ確実に行うことのできるインクジェットヘッド及びその製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明におけるインクジェットヘッドは、インクを吐出する複数のノズル毎に対応して設けられた圧力室と、複数の圧力室にインクを分配するための共通インク室と、この共通インク室と前記圧力室とを接続する連通孔とが形成されているキャビティユニットと、このキャビティユニットに前記圧力室の一側を覆って装着されて前記圧力室に充填されたインクに吐出圧力を与えるアクチュエータとを備え、前記圧力室は前記連通孔と接続する一端から前記ノズルと接続する他端へ向け前記アクチュエータに沿ってインクを流すように形成され、且つ前記連通孔は前記圧力室でのインクの流れ方向と略直角でかつ前記アクチュエータと対向する方向に開口形成されて、前記連通孔を経たインクが前記圧力室の一端にて流れる方向を略直角に屈曲させるように構成されているインクジェットヘッドであって、前記連通孔に対応する前記アクチュエータの部位には、前記圧力室の一端におけるインクの流れに直角な方向の断面積を広げるように、前記圧力室毎に凹部が形成されていることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットヘッドにおいて、前記キャビティユニットは、前記圧力室を形成するプレート、前記連通孔を形成するプレート、前記共通インク室を形成するプレートを積層して形成され、前記アクチュエータは、前記圧力室を形成するプレートに、前記連通孔を形成するプレートとは反対側に積層されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のインクジェットヘッドにおいて、インクの流れに直角な方向の断面のうち、前記圧力室の一端の断面が前記連通孔の断面よりも、断面積が小さく且つ扁平に形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または2記載のインクジェットヘッドにおいて、前記アクチュエータに形成された凹部は、その内側が曲面形状に形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項5に記載の発明におけるインクジェットヘッドの製造方法は、請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットヘッドにおいて、前記アクチュエータは、圧電セラミックス素材を焼成して形成された圧電アクチュエータであり、前記凹部は、焼成後の圧電アクチュエータにおける圧電セラミックスを除去加工して形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項6に記載の発明におけるインクジェットヘッドの製造方法は、請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットヘッドにおいて、前記アクチュエータは、圧電セラミックス素材のシートを積層し焼成により一体化して形成された圧電アクチュエータであり、前記凹部は、焼成前の圧電セラミックス素材のシート面における前記凹部が形成されるべき部位に、凸型部材による押圧で窪みを設けておくことにより形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項7に記載の発明におけるインクジェットヘッドの製造方法は、請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットヘッドにおいて、前記アクチュエータは、圧電セラミックス素材のシートを積層し焼成により一体化して形成された圧電アクチュエータであり、前記凹部は、焼成前の圧電セラミックス素材のシート面における前記凹部が形成されるべき部位に、樹脂材料をパターン形成し、前記焼成によって前記樹脂材料を除去させて形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、圧力室の一端におけるインクの流れに直角な断面積を広げるようアクチュエータ側に凹部を設けて、この屈曲する部分の内部空間が広げられているから、連通孔から圧力室へインクが略直角に屈曲しながら流れ込むときに、気泡が通過し易くなる。その結果、仮に前記屈曲部分で引っ掛かった気泡が大きく成長していても、メンテナンス時に、気泡をインクとともにノズルから強制的に排出するようなパージ処理を行うと、気泡は容易に圧力室側に流れて外部に排出されるので、インクの吐出不良を未然に防止できる。
【0017】
また、凹部はアクチュエータ側に設けられているので、連通孔や圧力室の設計形状を変更することなく、前記屈曲部分の内部空間を広げることができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、キャビティユニットは、それぞれにインク流通路が形成された複数のプレートが積層されているから、複雑で微細な形状のインク流通路を内部に有するキャビティユニットを容易に且つ薄型に構成することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、連通孔から圧力室へインクが流入する前記屈曲部分では、屈曲の前後で断面積が小さくなるうえに、その断面形状もさらに扁平さを増すので、インク中で球形をなす気泡は、連通孔から圧力室へ極めて流入し難い構造となっているが、請求項1に記載したように凹部を設けることによって、前記連通孔及び圧力室の形状を変えなくても、気泡を圧力室へ流入し易くすることができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、凹部の内側が球面形状であるから、気泡が凹部の内側で引っ掛かり難くなるという効果を奏する。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、アクチュエータとして圧電アクチュエータを用いているから、焼成された圧電セラミックスを除去加工することで、所望の形状の凹部を簡単に形成することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、アクチュエータとして、圧電セラミックス素材のシート(一般的に、グリーンシートと呼ばれるもの)を用いて圧電アクチュエータを形成しており、焼成前の圧電セラミックス素材のシートは軟質であるから、このシートに対して、窪みの押圧形成が容易にでき、所望の形状の凹部を凸型部材によって簡単に形成することができる。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、アクチュエータとして、圧電セラミックス素材のシート(一般的に、グリーンシートと呼ばれるもの)を用いて圧電アクチュエータを形成しており、焼成前の圧電セラミックス素材のシートにおける凹部が形成される部位に、樹脂材料をパターン形成し、樹脂材料とともに、前記圧電セラミックス素材のシートを焼成して一体化すると、焼成工程で樹脂材料が除去されるから、焼成後には前記樹脂材料のパターンが凹部となって残る。従って、凹部の形状は、樹脂材料のパターンを変えるだけで設定でき、また、樹脂材料の除去も、前記焼成工程を利用することで、特別な工程を付加せずに行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の基本的な実施形態を、図1〜図7を用いて説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態によるインクジェットヘッド1におけるキャビティユニット20、圧電アクチュエータ21、及びフレキシブルフラットケーブル22の斜視図であり、複数枚のプレートからなるキャビティユニット20にプレート型の圧電アクチュエータ21が接合され、このプレート型の圧電アクチュエータ21の上面に外部機器との接続のためのフレキシブルフラットケーブル22が重ね接合されている。そして、キャビティユニット20の下面側に開口されたノズル23から、下向きにインクが吐出するものとする(図3参照)。
【0026】
前記キャビティユニット20は、図2に示すように、ノズルプレート30、スペーサプレート31、2枚のマニホールドプレート33a、33b、サプライプレート34、ベースプレート35、及びキャビティプレート36の合計7枚の薄い板をそれぞれ接着剤にて重ね接合した構造となっている。
【0027】
実施形態では、各プレート30〜36は40〜150μm程度の厚さを有し、ノズルプレート30はポリイミド等の合成樹脂製で、その他のプレート31〜36は42%ニッケル合金鋼板製である。前記ノズルプレート30には、微小径(25μm程度)のインク吐出用のノズル23が微小間隔で多数個穿設されている。このノズル23は、当該ノズルプレート30における長辺方向(X方向)と平行な2列に配列されている。
【0028】
また、前記キャビティプレート36には、図2に示すように、複数の圧力室24がキャビティプレート36の長辺(前記X方向)と平行な2列に配列されている。実施形態では、前記各圧力室24は、平面視細長形状でその長手方向がキャビティプレート36の短辺方向(Y方向)に沿うようにキャビティプレート36の板厚を貫通して穿設されている。各圧力室24の長手方向の一端24aには連通孔28が接続され、この一端24aは連通孔28及び接続流路29を介して共通インク室25と連通している。各圧力室24の長手方向の他端24bは、ベースプレート35、サプライプレート34と2枚のマニホールドプレート33a、33b、及びスペーサプレート31に穿設されている貫通路26を介して、ノズルプレート30における前記各ノズル23に連通している。
【0029】
圧力室24は、図4に示すように、幅寸法W、深さ寸法Dを有しているが、前述したようにキャビティプレート36の板厚を貫通して形成されているので、圧力室24の深さ寸法Dは、キャビティプレート36の厚み寸法T1と同じである。圧力室24のインクの流れに直角な断面積S1は、前記幅寸法W、深さ寸法Dで決定される(図4及び図5(a)参照)。圧力室24は、インクに大きな吐出圧力を与えるためにはアクチュエータの動作に伴う断面積の変化率を大きくする必要があり、W>Dの関係に設定され、具体的には、幅寸法Wは、ほぼ250μm〜300μm、深さ寸法Dは、ほぼ40μm〜60μmである。
【0030】
キャビティプレート36の下面に隣接するベースプレート35には、各圧力室24の一端24aに接続する連通孔28がそれぞれ穿設されており、連通孔28では、アクチュエータ21に向かうようにインクが流れる。ベースプレート35は、キャビティユニット全体に剛性を与えるために、キャビティプレート36よりも厚いプレート(厚み寸法T2)であることが好ましい。連通孔28は、その厚さT2に対して小さいものを穿設することが困難なので、その厚さ程度の直径2Rを有するものとなる。具体的には、厚み寸法T2および直径2Rは、ともにほぼ100μm〜150μmである。連通孔28は、図4に示すように、半径Rの平面視円形状で、インクの流れに直角な断面積がS2に形成されている。断面積S2は、圧力室24の一端24aの断面積S1よりも大きく形成されている。
【0031】
ベースプレート35の下面に隣接するサプライプレート34には、共通インク室25から前記各圧力室24へインクを供給するための接続流路29が設けられる。そして各接続流路29には、共通インク室25からインクが入る入口孔と、連通孔28と対向して開口する出口孔と、入口孔と出口孔との間にあって、接続流路29中で最も大きな流路抵抗となるように断面積を小さくして形成された絞り部とが備えられている。接続流路29の一端は共通インク室25に、他端は連通孔28を介して圧力室24にそれぞれ連通している。この絞り部は、ノズル23からインクを吐出させるために、圧力室24が吐出圧力を受けたときに、共通インク室25側へのインクの後退を防止し、効率よくインクをノズル23側に前進させるために設けたものである。
【0032】
2枚のマニホールドプレート33a,33bには、その長辺方向(X方向)に沿って長い2つの共通インク室25が前記ノズル23の各列に沿って延びるように板厚を貫通して形成されている。すなわち、図2及び図3に示すように、2枚のマニホールドプレート33a、33bを積層し、かつその上面をサプライプレート34にて覆い、下面をスペーサプレート31にて覆うことにより、合計2つの共通インク室(マニホールド室)25が形成される。各共通インク室25は、各プレートの積層方向から平面視したときに、前記圧力室24の一部と重なって圧力室24の列方向(ノズル23の列方向)に沿って長く延びている。
【0033】
また、図2に示すように、キャビティプレート36、ベースプレート35、及びサプライプレート34の一方の短辺側の端部には、上下の位置を対応させて、それぞれ2つのインク供給口40が穿設されている。インク供給源からのインクが、これらインク供給口40から共通インク室25の一端部に連通するようになっている。また、インク供給口40には、フィルタ体40aが接着剤等で貼着されている。
【0034】
キャビティユニット20におけるインク流通路では、インクは、インク供給口40から共通インク室25に供給された後、図3に示すように、サプライプレート34の接続流路29及びベースプレート35の連通孔28を経由して各圧力室24に分配供給される。そして、インクは各圧力室24内から前記貫通路26を通って、その圧力室24に対応するノズル23に至るという構成になっている。
【0035】
一方、前記圧電アクチュエータ21には、特開平4−341853号公報等に開示された公知のものと同様に、全ての圧力室24にわたる大きさを有する扁平形状で且つその扁平な方向と直交する方向に積層される複数のセラミックス層と、この複数のセラミックス層の扁平な方向の面上に配置される複数の電極層とが備えられている。ここでは、セラミックス粉末、バインダ、溶剤を混合したものを1枚の厚さが30μm程度になるように扁平に成形した圧電セラミックス素材のシート(グリーンシート)の複数枚のうち適数枚のシート面に導電性ペーストで電極層を印刷法等によって形成し、その複数枚のグリーンシートを積層して焼成することで、圧電アクチュエータ21を形成している。これにより、各グリーンシートは、焼結体のセラミックス層となる。
【0036】
電極層としては、圧力室24毎に形成される個別電極の電極層と、複数の圧力室24に跨って形成されるコモン電極の電極層とがセラミックス層の積層方向に対をなす駆動用電極の層と、最上面に配置されフレキシブルフラットケーブル22と電気的に接続される表面電極46の層とが設けられている(図1参照)。このように電極層が設けられた圧電アクチュエータ21では、公知のように個別電極とコモン電極との間に高電圧を印加することで、両電極に挟まれたセラミックス層の部分が分極され、活性部として形成される。
【0037】
このように形成された圧電アクチュエータ21は、個別電極を圧力室24に対応させて各圧力室24を覆ってキャビティプレート36上に固着される。個別電極とコモン電極との間に駆動電圧を選択的に印加することで、両電極に挟まれたセラミックス層の部分が変形して、圧力室24に容積変化を生じさせる。その結果、圧力室内のインクに吐出圧力を与え、インクをノズル23から吐出させる。
【0038】
圧電アクチュエータ21には、前記圧力室24の一端24aにおけるインクの流れ方向に略直角な方向の断面積S1を広げるように、圧力室24毎に、連通孔28と対向する圧電アクチュエータの面に凹部50が形成されている(図5(a)(b)及び、図6(c)参照)。この凹部50は、平面視(各プレートの広幅面と直角な方向)において連通孔28の上端開口部よりも大きく形成され、圧力室24の底面と一部重なって他端24b側へ向け連通孔28からはみ出して形成されている。凹部50の天井面は、圧力室24の他端24b側へ向け連続的あるいは段階的に下降する形状に形成され、連通孔28の断面積S2から圧力室24の一端24aをへて他端24b側へ向かうインク流に直角な断面積が急激に変化することのないようにしている。この実施形態では、凹部50は、球面の一部となっており、凹部50は圧電アクチュエータ21の内部の電極に干渉しない位置に設けられている。
【0039】
この凹部50の製造方法としては、前述した圧電アクチュエータ21が、圧電セラミックス素材のシートを積層して焼成し一体形成された後に、図7(a)に示すように、焼結体のセラミックスの前記凹部50が形成されるべき部位を、除去加工して形成することができる。加工方法として、レーザ加工あるいは超音波加工等が適用できる。図7(a)では、超音波加工用の工具53を、セラミックス層の表面に当接させている状態を模式的に図示している。
【0040】
凹部50の他の製造方法としては、図7(b)に示すように、圧電アクチュエータ21が焼成される前であって、圧電セラミックス素材のグリーンシート54を積層した状態(シート面が柔らかい状態)において、凸型部材51で押圧して窪みを設け、その後に焼成することで、圧電アクチュエータ21に凹部50を形成してもよい。
【0041】
凹部50のさらに他の製造方法としては、図7(c)に示すように、前述と同様の、圧電アクチュエータ21が焼成される前であって、圧電セラミックス素材のグリーンシート54を積層した状態(シート面が柔らかい状態)において、樹脂材料52の略球状のパターンを押圧しながら形成し、その後にこの樹脂材料52を除去して製造してもよい。グリーンシート54は柔らかいので、樹脂材料52をパターン形成する際に押圧することで、簡単に窪みを作り、同時にこの窪みに樹脂材料52を埋設させることができる。樹脂材料52の蒸発温度は、一般的に、グリーンシート54の焼成温度よりも低いので、積層されたグリーンシート54を焼成して一体化し圧電アクチュエータ21を形成する工程で、樹脂材料52は蒸発により除去され、前記窪みが凹部50として残る。この方法では、樹脂材料52の除去にグリーンシート54の焼成工程を利用しているから、特別な除去工程を付加する必要がない。
【0042】
このように構成されたインクジェットヘッド1では、前述のように圧力室24に流れ込むインクは、連通孔28を上昇して圧電アクチュエータ21に当たって略直角に向きを変え、圧力室24の一端24aから圧力室24の他端に向けて流れる。このとき、圧力室24の一端24aの断面積S1は、連通孔28の断面積S2よりも小さく、かつ圧力室の深さ寸法Dが連通孔28の直径2Rよりも十分に小さいから、連通孔28の内側で気泡が、深さ寸法Dよりも大きく成長すると、凹部50を設けない従来の状態では、気泡は、連通孔28の内壁に内接した状態で留まり、そのまま安定的に保たれるので、圧力室24への流入が困難となり、パージ処理に際して大きな圧力をかけても、排出することができない。
【0043】
しかしながら、本実施形態では、圧力室24の一端24aに対応する圧電アクチュエータ21の部位に凹部50が形成されている。従って、連通孔28から圧力室24へインクが屈曲して流れ込む部位において、断面積の急激な変化が緩和されることと、さらに、凹部50の天井面が、圧力室24の一端24aの断面積をすぼめるように下降していることで、気泡が連通孔28から圧力室24へ変形しながら流れ込み易くなって、パージ処理によってインクが吸引(あるいは加圧)されると、気泡はインク流とともに速やかに圧力室24及び貫通路26を経てノズル23から外部に排出されるのである。
【0044】
上記実施形態では、インクジェットヘッドを、ノズル23が下に向くように水平に配置し、連通孔28から鉛直上方に気泡が浮上する場合について説明したが、ノズル23が横向きあるいは上向きになるようにインクジェットヘッドを配置した場合でも、パージ処理によってインクが吸引(あるいは加圧)されると、同様にインクや気泡は流れるので、同じ効果が得られる。
【0045】
このように、本実施形態では凹部50を設けることで、インクに含まれる気泡を確実且つ簡単に排出できるので、ノズルからの吐出不良を未然に防ぐことができる。また、気泡を簡単に、即ち短時間で排出できるので、パージ処理において気泡とともに吐出されるインク量を抑制でき、インクの無駄な消費を防止できる。さらに、パージ処理に用いるポンプの圧力も低減できるため、ポンプの能力を低くして部品コストの削減も可能となる。
【0046】
特に、本実施形態のように、キャビティユニット20のプレートが金属製の場合には、インク流通路を構成するための凹所や貫通穴等は、ウエットエッチング法で加工されることが多い。ウエットエッチング法では、エッチングがプレートの板厚方向と同じ速度でプレートの面方向にも進行するから、板厚よりも小さい内径の凹所や貫通穴等の加工は極めて困難である。そのため、キャビティユニット20全体の剛性を高めるために、連通孔28が形成されているベースプレート35の板厚T2を厚くすると、連通孔28の半径R及び断面積S2も大きくならざるを得ない。一方、圧力室24を有するキャビティティプレート36は、アクチュエータの動作に伴う圧力室24の断面積の変化率を大きくするために板厚T1が薄くなり、圧力室24でのインクの流れに直角な断面は、扁平な形状となる。従って、これらの理由から、連通孔28から圧力室の一端24aにかけて、略直角に曲がりながら、断面積が小さく且つ扁平に形成されてしまうことになるが、本発明のように、圧電アクチュエータ21側に凹部50を設けることで、圧力室24や連通孔28の設計形状を変更しなくても、気泡の除去を容易に行うことができるようになるのである。
【0047】
上記実施形態では、アクチュエータとして圧電式のものを例示したが、連通孔と対向する位置に凹部50を形成できるアクチュエータであればよく、静電気など他の駆動方式のものにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態のインクジェットヘッドの斜視図である。
【図2】インクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図3】図1のIII −III 線矢視断面図である。
【図4】キャビティユニットの要部の分解斜視図である。
【図5】(a)はキャビティユニットの要部の縦断面図、(b)は圧電アクチュエータの下面図である。
【図6】(a)は図5(a)のVIa−VIa線拡大断面図、(b)は連通孔の模式的平面図、(c)は図5(a)のVIc−VIc線拡大断面図である。
【図7】(a)は凹部を超音波加工する状態を示す模式図、(b)は凹部を凸型部材で形成する状態を示す模式図、(c)は凹部を樹脂材料のパターンで形成する状態を示す模式図である。
【図8】(a)(b)及び(c)は従来のキャビティユニットのインクの流れを示す模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1 インクジェットヘッド
20 キャビティユニット
21 圧電アクチュエータ
22 フレキシブルフラットケーブル
23 ノズル
24 圧力室
24a 一端部
24b 他端部
25 共通インク室
26 貫通路
28 連通孔
29 接続流路
30 ノズルプレート
35 ベースプレート
36 キャビティプレート
50 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズル毎に対応して設けられた圧力室と、複数の圧力室にインクを分配するための共通インク室と、この共通インク室と前記圧力室とを接続する連通孔とが形成されているキャビティユニットと、このキャビティユニットに前記圧力室の一側を覆って装着されて前記圧力室に充填されたインクに吐出圧力を与えるアクチュエータとを備え、
前記圧力室は前記連通孔と接続する一端から前記ノズルと接続する他端へ向け前記アクチュエータに沿ってインクを流すように形成され、且つ前記連通孔は前記圧力室でのインクの流れ方向と略直角でかつ前記アクチュエータと対向する方向に開口形成されて、前記連通孔を経たインクが前記圧力室の一端にて流れる方向を略直角に屈曲させるように構成されているインクジェットヘッドであって、
前記連通孔に対応する前記アクチュエータの部位には、前記圧力室の一端におけるインクの流れに直角な方向の断面積を広げるように、前記圧力室毎に凹部が形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記キャビティユニットは、前記圧力室を形成するプレート、前記連通孔を形成するプレート、前記共通インク室を形成するプレートを積層して形成され、前記アクチュエータは、前記圧力室を形成するプレートに、前記連通孔を形成するプレートとは反対側に積層されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
インクの流れに直角な方向の断面のうち、前記圧力室の一端の断面が前記連通孔の断面よりも、断面積が小さく且つ扁平に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記アクチュエータに形成された凹部は、その内側が曲面形状に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記アクチュエータは、圧電セラミックス素材を焼成して形成された圧電アクチュエータであり、前記凹部は、焼成後の圧電アクチュエータにおける圧電セラミックスを除去加工して形成されていることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記アクチュエータは、圧電セラミックス素材のシートを積層し焼成により一体化して形成された圧電アクチュエータであり、前記凹部は、焼成前の圧電セラミックス素材のシート面における前記凹部が形成されるべき部位に、凸型部材による押圧で窪みを設けておくことにより形成されていることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記アクチュエータは、圧電セラミックス素材のシートを積層し焼成により一体化して形成された圧電アクチュエータであり、前記凹部は、焼成前の圧電セラミックス素材のシート面における前記凹部が形成されるべき部位に、樹脂材料をパターン形成し、前記焼成によって前記樹脂材料を除去させて形成されていることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−106016(P2007−106016A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300111(P2005−300111)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】