説明

インクジェットヘッド

【課題】高粘度インクがノズルプレート上で移動しやすく、高粘度インクをノズルプレート上から除去しやすくすることにより、ワイピングにより正常なインク吐出ができる状態に回復させることを容易にする。
【解決手段】予め粗面化処理(酸素プラズマ処理又はサンドブラスト処理)により表面粗さ(Ra)0.01〜0.1とされたノズルプレート21表面に、フッ素含有化合物又はシラン化合物を原料としてプラズマCVD法により0.5μm以下のプラズマ重合膜を形成し、その皮膜上にフッ素樹脂を塗布し、撥インク膜を形成する。プラズマ重合の原料となるフッ素含有化合物としては、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルケン、パーフルオロエーテルが好ましい。ノズルプレート21の基材は、ガラス転移点(Tg)100℃以上の樹脂又は金属からなることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェットプリンタのノズルプレート表面に撥インク膜が形成されたインクジェットヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェットプリンタは、ノズル内にインクを満たして正の圧力を掛け、インクをインク室から押し出し、続いてインクに負の圧力を掛けてノズル内に引き戻すことにより、押し出したインク柱を引きちぎって、ノズルからのインク滴を吐出するものである。このときインクメニスカスはノズル内に深く引き込まれ、又この負圧によりインクタンクからノズル内にインクが満たされ、次の吐出に備える。負圧が反転して正圧になると、メニスカスが再び押し出され、ノズルの出口方向に移動する。
【0003】
この様に、インクを吐出するために掛けた圧力が、インクを吐出した後も残留して振動するため、ノズル内のインク圧力が変動してインクメニスカスが振動する。この振動は数回繰り返され、次第に減衰して次の吐出が可能となる。又、ヘッドの方式によっては、一つのインク室からインクを吐出すると、隣接するインク室にも吐出圧力が伝わってインクメニスカスが振動する。
【0004】
この圧力変動によりノズル内のインクに正圧が掛かるとき、インクが吐出口から外に溢れ出ることがある。ノズルプレートの表面に溢れ出たインクは、次の負圧でノズル内に引き込まれるが、溢れ出しやすさや、引き込まれやすさは、インクとノズルプレート表面との濡れ性、即ち、接触角が関係する。この様にインクジェットヘッドのノズルプレートの表面は、溢れ出たインクで汚れやすく、これが安定吐出を妨げ、画像を劣化させる原因となる。
【0005】
また吐出したインク滴が、尻尾がちぎれたり、被印刷物とノズル間の距離が約1mmと近傍であることから被印刷物に当たって飛び散ったりして、微小なインクミストがノズルプレートに付着することもある。
【0006】
溢れ出たインクや付着したインクミストは、ノズルプレート上に蓄積されてインク溜まりを形成し、この溜まりが吐出口に触れると吐出するインク滴を引っ張り、吐出方向を曲げてしまう。更にインク溜まりが大きくなって吐出口を覆うと、この溜まりを突き破ってインク滴が吐出するときインクが飛び散り、画像を汚してしまう。更にインク溜まりが吐出口を厚く覆うとインクが吐出しなくなる。又、ノズルプレート上のインク溜まりに、被印刷物である紙や布等から発生する塵が付着しやすく、それがノズル穴を塞ぐことがある。
【0007】
この様に吐出口周辺にインクが溜まると正常な吐出ができなくなるので、ノズルプレートの表面に溢れ出たインクを、吐出と吐出の間に負圧を利用してノズル内に引き込む必要がある。又、ノズル内に引き込みきれないインクや、外部から付着したインクは、インク吐出口から離れた場所に移動させて保持し、時々ワイピングにより拭き取る必要がある。
【0008】
上述の如く、インクジェットプリンタにおいては、ノズルプレートのインク吐出口周囲を清浄に保つことが重要であり、インクによる汚れを防ぐために、ノズルプレートに撥インク処理を施すことが行われている。
【0009】
ノズルプレート表面を撥インク処理すると、インクのメニスカスが吐出口から外に出ても、インクがノズルプレート上に溢れ出たり、濡れ拡がったりしにくくなる。又、インクが溢れ出ても、ノズルプレート表面が撥インク処理されていると、インクは弾かれて微小な半球になるので、ノズルプレートとの接触面積が小さくなり、ノズルプレート上を移動しやすく、ヘッドの振動等により吐出口から離れて、次のインク滴の吐出を妨害しない、等の効果がある。
【0010】
有効な撥インク処理としては、例えば特開昭58−175666号、同59−87163号、同61−141565号、特開平4−211959号等に記載される様に、プラズマCVD法によって撥インク膜を形成することが知られている。
【0011】
しかし、インクが低粘度であればノズルプレートに撥インク膜を形成しなくても、ノズルプレート上に付着したインクはノズルプレート上を移動しやすいため、ノズルプレート上に付着したインクをワイピングにより容易に取り除くことができた。そのため、所定のタイミングでノズルプレート上のワイピングを行えば、吐出不良を起こさせることなく、質の高い画像記録を行うことが可能であった。
【0012】
記録媒体として樹脂フィルム等のインク吸収性のないものを使用する場合、高粘度のインクを用いることが有効である。記録媒体として樹脂フィルム等のインク吸収性のないものを使用する場合、高粘度のインクを用いることにより着弾したインクが記録媒体上で安定するように(流れたりしないように)できる。さらに高粘度に加え、紫外線硬化性等の照射線硬化性のインクを用い、インク着弾直後に紫外線等の照射線を記録媒体上のインクに照射して硬化させ完全に定着させることができる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高粘度インクを使用する場合は、低粘度インクを使用する場合に比較して、付着したインク滴が高粘度であるため、付着した位置から移動しにくく、ノズル近傍に付着すると、射出されたインクを、低粘度インクを使用したときよりも強く引き寄せ、吐出方向を大きく曲げてしまう。
また、高粘度インクは、低粘度インクに比較してワイピングによりノズルプレート上から除去しにくい。
したがって高粘度インクの場合、所定のタイミングでノズルプレート上のワイピングを行っても、正常なインク吐出ができる状態に回復させることができずに画像記録を劣化させてしまうおそれが高い。
【0014】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高粘度インクを吐出するインクジェットヘッドにおいて、高粘度インクがノズルプレート上で移動しやすく、高粘度インクをノズルプレート上から除去しやすくすることにより、ワイピングにより正常なインク吐出ができる状態に回復させることを容易にし、これにより、高粘度インクによる吐出不良を低減でき、長期に亘る安定した吐出を保証するインクジェットヘッドを提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、表面にフッ素樹脂が塗布されて撥インク膜が形成されたノズルプレートを有し、高粘度インクを吐出するインクジェットヘッドである。
【0016】
したがって請求項1記載の発明によれば、ノズルプレート表面を撥インク処理すると、インクのメニスカスが吐出口から外に出ても、インクがノズルプレート上に溢れ出たり、濡れ拡がったりしにくくなる。又、インクが溢れ出ても、ノズルプレート表面が撥インク処理されていると、インクは弾かれて微小な半球になるので、ノズルプレートとの接触面積が小さくなり、ノズルプレート上を移動しやすく、ヘッドの振動等により吐出口から離れて、次のインク滴の吐出を妨害しない。高粘度インクであってもノズルプレート上で移動しやすくなり、ノズルプレート上から除去しやすくなるので、ワイピングにより正常なインク吐出ができる状態に回復させることが容易になり、これにより、高粘度インクによる吐出不良を低減でき、長期に亘る安定した吐出を保証できるという利点がある。
【0017】
フッ素樹脂は市販されているものを採用することができ、デュポン社製、商品名PTFE、FEP、PFA、AF1600、AF1061、AF2400や、旭硝子(株)製、商品名CYTOP、CTX−809A、CTL−109M等を挙げることができる。前記PTFE、FEP、PFA等は水や有機溶媒を媒体とした分散物として、AFシリーズやCYTOP等はフッ素系の溶媒に溶解して塗布し、膜厚0.1〜2μm程度のフッ素樹脂撥インク膜を形成する。なおフッ素樹脂塗布膜は、塗布後加熱処理することによって接着強度を向上させることができる。
【0018】
請求項2記載の発明は、フッ素含有化合物又はシラン化合物を原料として、プラズマCVD法により形成されたプラズマ重合膜上にフッ素樹脂が塗布されて撥インク膜が形成されたノズルプレートを有し、高粘度インクを吐出するインクジェットヘッドである。
フッ素含有化合物又はシラン化合物を原料として、プラズマCVD法により形成されたプラズマ重合膜は、撥インク性のフッ素樹脂の接着性を向上させる。
【0019】
プラズマ重合によって形成する撥インク膜の信頼性はノズルプレートの基材表面の表面粗さを調整することにより向上できるため、前記プラズマ重合膜が被着する前記ノズルプレートの基材表面は、予め粗面化処理により表面粗さ(Ra)0.01〜0.1とされていることが好ましい。
【0020】
前記プラズマ重合膜の膜厚は0.5μm以下であることが好ましい。プラズマ重合膜の膜厚は、0.5μmより厚いと膜はがれやひび割れが発生しやすいので、0.5μm以下、好ましくは0.01〜0.2μmとする。成膜速度はガス種の内容や成膜条件によって異なるが、膜の厚さは成膜時間のコントロールで制御できる。
【0021】
前記粗面化処理としては、粗さの異方性が見られない点で、酸素プラズマ処理又はサンドブラスト処理が好ましい。
【0022】
前記プラズマ重合の原料となるフッ素含有化合物としては、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルケン、パーフルオロエーテルが好ましく、具体的には、C、C、C、CFOCF、CF=CFOCFCF=CF等が挙げられる。
【0023】
プラズマ重合は、プラズマが発生している環境中又はその近傍で行われるために、ノズルプレートの基材が耐熱性を有していないと熱による変形などが起こるため、前記ノズルプレートの基材は、ガラス転移点(Tg)100℃以上の樹脂又は金属からなることが好ましい。樹脂としては、ポリイミド(300℃)、ポリエーテルイミド(216℃)、ポリエーテルサルホン(230℃)、非晶ポリアクリレート(175℃)、ポリエチレンナフタレート(113℃)、ポリエーテルエーテルケトン(143℃)等が挙げられる(カッコ内はTg)。
【0024】
また、前記高粘度インクの30℃における粘度が10mPa・s以上であることが好ましい。
【0025】
本発明が解決しようとする問題性は30℃における粘度が10mPa・s以上である高粘度インクにおいて顕著であるため、本発明を適用する実効性は30℃における粘度が10mPa・s以上である高粘度インクにおいて高まる。
【0026】
また、前記高粘度インクの30℃における粘度が10mPa・s以上500mPa・s以下であることが好ましい。
【0027】
本発明における高粘度インクは、30℃での粘度が10〜500mPa・sの液体である。但し、40〜500mPa・sが好ましい。10mPa・s未満では滲みが劣化、また500mPa・sを超えると、画質の平滑性が失われる。また、このインクは60℃で3〜30mPa・sの液体であることが好ましく、より好ましくは、3〜20mPa・sである。3mPa・s以下では、高速射出に不具合を生じ、また30mPa・sでは、射出性が劣化する。
【0028】
また、前記高粘度インクは、紫外線硬化性等の照射線硬化性のインクを用いることが望ましい。記録媒体として樹脂フィルム等のインク吸収性のないものを使用する場合、高粘度のインクを用いることにより着弾したインクを記録媒体上に安定させることができる。さらに、紫外線硬化性等の照射線硬化性のインクを用いることで、インク着弾直後に紫外線等の照射線を記録媒体上のインクに照射して硬化させ完全に定着させることができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施形態を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の実施形態として、図1に示すインクジェットプリンタ1に、図2に示すインクジェットヘッド20が用いられる例を説明する。
【0030】
まず図1を参照して、インクジェットプリンタの全体構成について説明する。図1はインクジェットプリンタの全体構成図である。
インクジェットプリンタ1は、インクを滴として記録媒体99に向けて吐出し、その後、記録媒体99のうちインク滴が着弾した領域に紫外線を照射することで、記録媒体99に画像を記録するものである。
【0031】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、その基本構成として、記録媒体99にインク滴を吐出する複数の記録ヘッド2,2,…と、各記録ヘッド2にインクを供給する複数のサブタンク3,3,…と、主走査方向Aに沿って移動可能なキャリッジ4aを備えるキャリッジ機構4と、各記録ヘッド2のメンテナンスを行うメンテナンスユニット6と、未使用状態のキャリッジ4が待機するホームポジション7と、各色のインクを貯留する複数のメインタンク8,8,…と、各メインタンク8に接続された複数の加圧ポンプ9,9,…と、各メインタンク8から各サブタンク3へとインクを供給するインク供給部材10と、記録媒体99の非記録面を吸引保持するプラテン11と、記録媒体99を副走査方向Bに送り出す送り機構(図示せず)と、インクの付着した記録媒体99に紫外線を照射する照射手段(図示せず)と、上記各部材の動作を制御する制御装置(図示せず)とを備える。
【0032】
メンテナンスユニット6は、図1に示す通り、キャリッジ4aの一方の移動端に設けられた部材であって、各記録ヘッド2の下面を覆って各ノズルからインクを吸引する複数の吸引キャップ61,61,…と、各記録ヘッド2の下面に残るインクを拭き取るブレード部62とを備える。
【0033】
ホームポジション7は、図1に示す通り、キャリッジ4aの他方の移動端に設けられている。複数の記録ヘッド2,2,…及びキャリッジ4a等が記録動作に関わらないとき、複数の記録ヘッド2,2,…及びキャリッジ4aがこのホームポジション7に待機するようになっている。ホームポジション7には、複数の保湿キャップ71,71,…が設けられている。これら複数の保湿キャップ71,71,…は、キャリッジ4aに搭載された記録ヘッド2と同じ数だけ設けられている。各保湿キャップ71は、各記録ヘッド2の下部を覆えるよう各記録ヘッド2の下部に対応するサイズ及び形状等を有しており、各記録ヘッド2に係るインクの保湿を行うものである。
【0034】
キャリッジ機構4は、前述した複数の記録ヘッド2,2,…及び複数のサブタンク3,3,…を搭載したキャリッジ4aと、主走査方向Aに沿って延在してキャリッジ4aの主走査方向Aへの移動をガイドするガイド部材4bと、キャリッジ4aを支持した状態でキャリッジ4aを移動させる搬送ベルト(図示せず)と、キャリッジ4aの移動の駆動源となる搬送モータ(図示せず)とを備える。
【0035】
インク供給部材10は、複数のメインタンク8,8,…から複数のサブタンク3,3,…へとインクの色毎に通じる部材であって、各メインタンク8から各サブタンク3へと各色のインクを供給する。
【0036】
インク供給部材10と複数のメインタンク8,8,…との間には、複数の加圧ポンプ9,9,…が介在している。各加圧ポンプ9は、各メインタンク8毎に設けられている。各加圧ポンプ9により各メインタンク8から当該メインタンク8に通じるサブタンク3へのインクの供給を行う。
【0037】
複数のサブタンク3,3,…は、複数のメインタンク8,8,…に貯留された各色のインクを一時的に貯留するものである。各サブタンク3には記録ヘッド2がそれぞれ接続されており、一時的に貯留したインクを記録ヘッド2に供給する機能を有する。また、各サブタンク3は、キャリッジ4aに搭載されており、キャリッジ4aの移動に追従する。
【0038】
複数の記録ヘッド2,2,…は前記した複数のサブタンク3,3,…に接続されているとともに、サブタンク3同様、キャリッジ4aに搭載されてキャリッジ4aの移動に追従する。そして、各記録ヘッド2は、キャリッジ4aの移動中において当該記録ヘッド2に接続されたサブタンク3から供給されたインクを記録媒体99に吐出する。
【0039】
次に、図2を参照して上記記録ヘッド2として用いられるインクジェットヘッドについて説明する。
図2は、本発明の実施形態のインクジェットヘッドの構成図である。図2に示すように、本実施形態の高粘度インクを用いるインクジェットプリンタのインクジェットヘッド20は、ノズルプレート21、ノズル22、ピエゾ素子駆動部23、マニフォールド24、駆動基盤25とを備える。インクジェットヘッド20は図1に示す記録ヘッド2に該当する。
【0040】
ノズルプレート21の基材は、ガラス転移点(Tg)100℃以上の樹脂又は金属からなる。
ノズルプレート21表面は、フッ素含有化合物又はシラン化合物を原料としてプラズマ重合により皮膜が形成され、その皮膜を下地として、フッ素樹脂が塗布され、撥インク膜が形成されている。フッ素含有化合物又はシラン化合物を原料としてプラズマ重合により形成された皮膜は、フッ素樹脂の接着性を向上させる。
【0041】
プラズマ重合の原料となるフッ素含有化合物としては、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルケン、パーフルオロエーテルが好ましく、具体的には、C、C、C、CFOCF、CF=CFOCFCF=CF等が挙げられる。プラズマ重合の原料となるシラン化合物としては、一般式R−Si−X(n−4)で表される化合物であることが好ましい。(式中、Rはメチル基、フェニル基又は含フッ素アルキル基を表し、Xはアルコキシ基又はハロゲン原子を表し、nは0〜4の整数である。)
【0042】
プラズマ重合を形成させるノズルプレート21表面は、予め粗面化処理により表面粗さ(Ra)0.01〜0.1にしておき、プラズマ重合膜の膜厚は、0.5μm以下とする。粗面化処理としては、粗さの異方性が見られない点で、酸素プラズマ処理又はサンドブラスト処理が好ましい。
【0043】
インクジェットヘッド20には、メインタンク8からインク供給部材10を介してサブタンク3より紫外線硬化性の高粘度インクが供給される。ノズルプレート21には、インクを吐出するノズル22の吐出口が多数設けられており、サブタンク3から供給されるインクがノズル22内に充填される。各ノズル22にはピエゾ素子が設けられており、ピエゾ素子が駆動基盤25により駆動されてノズル22からインク滴が吐出される。使用するインクは30℃における粘度が10mPa・s以上500mPa・s以下である高粘度インクとする。
【0044】
ノズル22から吐出された高粘度インクは、インク吸収性のない記録媒体99上に着弾し、紫外線を照射され、硬化される(UV硬化方式)。インク吸収性のない記録媒体ないしインク吸収性の低い記録媒体(あるいは、インク非吸収性記録媒体)とは、インク吸収性のない材料ないしインク吸収性の低い材料(あるいはインク非吸収性材料)からなる記録媒体、あるいはインク吸収性のない材料ないしインク吸収性の低い材料(あるいはインク非吸収性材料)からなる表面層(画像形成層)を有する記録媒体であり、インク吸収性のない材料ないしインク吸収性の低い材料(あるいはインク非吸収性材料)は、例えば各種の樹脂や金属である。
なお、本発明者らの実験により、本発明における高粘度インクの原料としてカチオン重合系光硬化樹脂を用いることにより、インクがノズルプレート21上で弾かれやすく、クリーニング性が良好となることが認められた。
【0045】
以下にノズルプレート21の4つの形成例を示す。
実施形態−1
(ノズルプレート基材)厚さ75μmのポリイミドシート
(プラズマエッチング処理)撥インク膜形成前の粗面化処理として、アルゴンガス雰囲気下、流量50sccm、圧力20Pa、マイクロ波出力200Wで5分間処理し、シートの表面粗さ(Ra)0.02μmとした。
【0046】
(プラズマ重合撥インク膜の形成)30℃に保持した気化器中に95重量部の(CHSi(OCH及び5重量部のC17Si(OCを入れ、キャリアガスとしてアルゴンガスを用い、真空チャンバー中の環境を、キャリアガス流量50sccm、圧力20Pa、マイクロ波出力200Wとして20分間プラズマ重合膜の成膜を行った。
【0047】
(ノズル孔加工及びヘッド本体への貼合)表面をクリーニングした定盤上に真空吸着によってシートを固定し、レーザー入射角度が0.1°以内になる様調整し、エネルギー密度を前記コーン角度が7°以内になる様に調整して、酸素ガスの吹きつけを行いながらエキシマレーザーにてノズル孔の加工を行った。ノズルプレート形状に切り出して、ヘッド本体のチャネル部分に位置合わせして貼り付けた。
【0048】
実施形態−2
(ノズルプレート基材)厚さ75μmのステンレス板
(ノズル孔加工)外径50μmの極小ポンチと微細加工用プレス機を使用してノズル孔加工を行い、ポンチ打ち抜き時に発生したノズル周りのバリを研磨により取り除き、洗浄した。
【0049】
(サンドブラスト処理)撥インク膜形成前の粗面化処理として、砥粒サイズ#1500(約17μm径)を用いて処理し、表面粗さ(Ra)0.06μmとした。
【0050】
(プラズマ重合撥インク膜の形成)ノズルプレートの接着面側全体を覆い且つArガスがノズル孔から吹き出すように真空チャンバー内にセットし、プラズマ重合原料としてのCガス流量を50sccm、圧力20Pa、マイクロ波出力200Wとして20分間プラズマ重合膜の成膜を行った。
【0051】
(ヘッド本体への貼合)ノズルプレートをヘッド本体のチャネル部分に位置合わせして貼り付けた。
【0052】
実施形態−3
(ノズルプレート基材)厚さ75μmのステンレス板
(ノズル孔加工)外径50μmの極小ポンチと微細加工用プレス機を使用してノズル孔加工を行い、ポンチ打ち抜き時に発生したノズル周りのバリを研磨により取り除き、洗浄した。
【0053】
(サンドブラスト処理)撥インク膜形成前の粗面化処理として、砥粒サイズ#1500(約17μm径)を用いて処理し、表面粗さ(Ra)0.06μmとした。
【0054】
(プラズマ重合撥インク膜の形成)プラズマ重合原料として95重量部の(CHSi(OCH及び5重量部のC17Si(OCを用い、キャリアガスとしてアルゴンガスを用い、真空チャンバー中の環境を、原料ガス流量50sccm、圧力20Pa、マイクロ波出力200Wとして20分間プラズマ重合膜の成膜を行った。
【0055】
(プラズマエッチング)ノズルプレートのインク吐出面側に保護シートを貼り付け、保護シート面を上にしてチャンバー内部にセットし、CFと酸素の混合ガス流量を50sccm、圧力20Pa、マイクロ波出力200Wとして10分間プラズマエッチングを行った。
【0056】
(ヘッド本体への貼合)保護シートを剥離したノズルプレートをヘッド本体のチャネル部分に位置合わせして貼り付けた。
【0057】
実施形態−4
(ノズルプレート基材)厚さ75μmのポリイミドシート
(プラズマエッチング処理)撥インク膜形成前の粗面化処理として、アルゴンガス雰囲気下、流量50sccm、圧力20Pa、マイクロ波出力200Wで5分間処理し、シートの表面粗さ(Ra)0.02μmとした。
【0058】
(プラズマ重合下地膜の形成)30℃に保持した気化器中に95重量部の(CHSi(OCH及び5重量部のC17Si(OCを入れ、キャリアガスとしてアルゴンガスを用い、真空チャンバー中の環境を、キャリアガス流量50sccm、圧力20Pa、マイクロ波出力200Wとして5分間プラズマ重合膜の成膜を行った。
【0059】
(撥インクフッ素樹脂膜の塗布)AF1601(前出)の6%溶液をワイヤーバーを用いて1μmの厚さに塗布し、15分放置して自然乾燥させた後、170℃のオーブン内に6時間置いた。
【0060】
(ノズル孔加工及びヘッド本体への貼合)表面をクリーニングした定盤上に真空吸着によってシートを固定し、レーザー入射角度が0.1°以内になる様調整し、エネルギー密度を前記コーン角度が7°以内になる様に調整して、酸素ガスの吹きつけを行いながらエキシマレーザーにてノズル孔の加工を行った。ノズルプレート形状に切り出して、ヘッド本体のチャネル部分に位置合わせして貼り付けた。
【0061】
次に、本発明の実施形態として適用可能な技術内容につき項を分けて説明する。
<射出量>
1ドットあたりの射出量は2pl(ピコリットル)〜20plである。好ましくは4pl〜10plである。1ドットあたり20plを超えると高精細印字が難しく、また、1ドットあたり2pl未満では形成される画像の濃度が低くなってしまう。
【0062】
<ドット径>
記録媒体上に形成されるドット径は50μm〜200μmである。好ましくは50μm〜150μmであり、さらに好ましくは55μm〜100μmである。50μm未満では形成される画像の濃度が低くなってしまい、また、200μmよりも大きければ高精細印字が難しい。
【0063】
<水及び有機溶媒を含有しない>
用いられるインクは、実質的に水及び有機溶媒を含有しないことが望ましい。実質的に含有しないとは、水及び有機溶媒の含有量が1重量%未満であることをいう。
【0064】
<インクジェット方式>
インクジェットプリンタのインク吐出の駆動力として、インクに対しての適用範囲が広く、高速射出が可能な圧電体の圧電作用を利用する方式が好ましい。それは具体的には、例えば特公平4−48622号に記載されるように、圧電性基体上に形成された微細な溝の内部に電極膜が形成され、さらに絶縁膜で覆われているインク流路とするインクジェットヘッド方式である。
【0065】
<照射線源>
紫外線、電子線、X線、可視光、赤外光などを照射する様々な線源を用いることが可能であるが、硬化性、線源のコスト等を考慮すると、紫外線を照射する線源が好ましい。紫外線線源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマーランプ、紫外線レーザー・LEDなどを用いることができる。
【0066】
基本的な照射方法は、特開昭60−132767号に開示されている。これによると、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。照射はインク着弾後、一定時間をおいて行われることになる。さらに、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。WO9954415号では、照射方法として、光ファイバーを用いた方法や、コリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されている。本発明の実施形態として、これらの照射方法を用いることが可能である。
【0067】
具体的には、帯状のメタルハライドランプ管、紫外線ランプ管が好ましい。線源は、実質的にインクジェットプリンタに固定化し、稼働部をなくすことで、安価な構成とすることが可能である。
【0068】
照射は、各色の画像形成毎に行われることが好ましく、つまり、いずれの露光方式でも線源は2種用意し、第2の線源によって、硬化を完了させることが好ましい形態の1つである。これは、2色目の着弾インクの濡れ性、インク間の接着性を得ることと、線源を安価に組むことに寄与する。
【0069】
なお第1の線源と、第2の線源とは露光波長または露光照度を変えることが好ましい。第1の線源の照射エネルギーを第2の線源の照射エネルギーより小さく、すなわち第1の線源の照射エネルギーを照射エネルギー総量の1〜20%、好ましくは1〜10%、さらに好ましくは1〜5%とする。照度を変えた照射を行うことで、硬化後の分子量分布が好ましいものとなる。つまり一度に高照度の照射を行ってしまうと、重合率は高められるものの、重合したポリマーの分子量は小さく、強度が得られない。
【0070】
また、第1の線源の照射は、第2の線源の照射よりも長波長とすることで、第1の照射では、インクの表層を硬化させてインクの滲みを抑えられ、第2の照射では、照射線が届きにくい記録媒体近傍のインクを硬化させ、密着性を改善することができる。インク内部の硬化促進のためにも、第2の照射線波長は長波長であることが好ましい。
【0071】
<照射タイミング>
上記インクを用い、一定温度にインクを加温するとともに、着弾から照射までの時間を0.01〜0.5秒、好ましくは0.01〜0.3秒、さらに好ましくは0.01〜0.15秒後に放射線を照射することすることができる。このように着弾から照射までの時間を極短時間に制御することにより、着弾インクが硬化前に滲むことを防止することが可能となる。また、多孔質な記録媒体に対しても光源の届かない深部までインクが浸透する前に露光することができるため、未反応モノマーの残留を抑えられ、臭気を低減できる。これは、高粘度のインクを用いることで大きな相乗効果をもたらすことになる。特に、25℃におけるインク粘度が35〜500mPa・sのインクを用いると大きな効果を得ることができる。このような記録方法を取ることで、表面の濡れ性が異なる様々な記録媒体に対しても、着弾したインクのドット径を一定に保つことができ、画質が向上する。なお、カラー画像を得るためには、明度の低い色から順に重ねていくことが好ましい。明度の低いインクを重ねると、下部のインクまで照射線が到達しにくく、硬化感度の阻害、残留モノマーの増加及び臭気の発生、密着性の劣化が生じやすい。また、照射は、全色を射出してまとめて露光することが可能だが、一色毎に露光するほうが、硬化促進の観点で好ましい。
【0072】
また、複数色のヘッドからなるユニットでは、各色間を実質的に照射線透過性とすることが好ましい。具体的には、照射線透過性の部材でヘッド間を構成するか、部材を配置させない構成である。このような簡単な構成とすることで、各色毎に、着弾直後、速やかに照射することが可能であり、特に二次色の滲み防止、双方向描画における、行きと帰りのドット滲み差を防止(行きと帰りの色が異なるのを防ぐ)できるため、好ましい。
【0073】
<インク加熱、ヘッド温調>
上記インクを30〜150℃に加熱し、インク粘度を下げて射出することが射出安定性の点で好ましい。さらに好ましくは40〜100℃である。30℃以下及び150℃以上では、射出が困難になる。照射線硬化型インクは、概して水性インクより粘度が高いため、温度変動による粘度変動幅が大きい。粘度変動はそのまま液滴サイズ、液滴射出速度に大きく影響を与え、画質劣化を起こすため、インク温度をできるだけ一定に保つことが必要である。インク温度の制御幅は設定温度±5℃、好ましくは設定温度±2℃、さらに好ましくは設定温度±1℃である。インクジェットプリンタには、インク温度の安定化手段を備えるが、一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。
【0074】
温度コントロールのため、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。また、加熱するヘッドユニットは、装置本体や外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断もしくは断熱されていることが好ましい。加熱に要するプリンタ立ち上げ時間を短縮するため、また熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0075】
<粘度>
本発明の実施形態におけるインクは、30℃での粘度が10〜500mPa・sの液体である。好ましくは、40〜500mPa・sが好ましい。10mPa・s未満では滲みが劣化、また500mPa・sを超えると、画質の平滑性が失われる。また、このインクは60℃で3〜30mPa・sの液体であることが好ましく、より好ましくは、3〜20mPa・sである。3mPa・s以下では、高速射出に不具合を生じ、また30mPa・sでは、射出性が劣化する。
【0076】
なお、このインクの粘度は、JIS Z 8803に規定する液体の粘度−測定方法に従う。この方法の粘度の測定には、HAAKE社製回転式粘度計(ビスコテスター)型式VT07Lを用いることができる。
【0077】
【発明の効果】
上述したように本発明によれば、高粘度インクであっても、インクがノズルプレート上で移動しやすくなり、ノズルプレート上から除去しやすくなるので、ワイピングにより正常なインク吐出ができる状態に回復させることが容易になり、これにより、高粘度インクによる吐出不良を低減でき、長期に亘る安定した吐出を保証できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態のインクジェットプリンタの全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態のインクジェットヘッドの構成図である。
【符号の説明】
1…インクジェットプリンタ 2…記録ヘッド 3…サブタンク 4…キャリッジ機構 4a…キャリッジ 4b…ガイド部材 6…メンテナンスユニット 7…ホームポジション 8…メインタンク 9…加圧ポンプ 10…インク供給部材 11…プラテン 20…インクジェットヘッド 21…ノズルプレート 22…ノズル 23…ピエゾ素子駆動部 24…マニフォールド 25…駆動基盤
99…記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にフッ素樹脂が塗布されて撥インク膜が形成されたノズ
ルプレートを有し、高粘度インクを吐出するインクジェットヘッド。
【請求項2】
フッ素含有化合物又はシラン化合物を原料として、プラズマCVD法により形成されたプラズマ重合膜上にフッ素樹脂が塗布されて撥インク膜が形成されたノズルプレートを有し、高粘度インクを吐出するインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記プラズマ重合膜が被着する前記ノズルプレートの基材表面は、予め粗面化処理により表面粗さ(Ra)0.01〜0.1とされたことを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記プラズマ重合膜の膜厚が0.5μm以下であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記粗面化処理が酸素プラズマ処理又はサンドブラスト処理であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記フッ素含有化合物がパーフルオロアルカン、パーフルオロアルケン、パーフルオロエーテルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2から請求項5のうちいずれか一に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記ノズルプレートの基材が、ガラス転移点(Tg)100℃以上の樹脂又は金属からなることを特徴とする請求項2から請求項6のうちいずれか一に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記高粘度インクの30℃における粘度が10mPa・s以上であることを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記高粘度インクの30℃における粘度が10mPa・s以上500mPa・s以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記高粘度インクが紫外線の被照射によって硬化するインクであることを特徴とする請求項1から請求項9のうちいずれか一に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2004−34331(P2004−34331A)
【公開日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−190641(P2002−190641)
【出願日】平成14年6月28日(2002.6.28)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】