説明

インクジェットヘッド

【課題】ノズル孔の直近においても確実にインクを循環させ、精度の良いパターニングを行なうことが可能なインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェットヘッドは、隔壁3によって互いに隔てられた複数のインク溝を有する圧電基板1と、複数のインク溝の上側を塞いで複数の個別インク室2として規定するノズル板21と、複数の個別インク室2の一端側において第1共通インク室を規定しつつ他端側において第2共通インク室を規定するように圧電基板1に取り付けられたマニホールドとを備え、複数の個別インク室2の各々は、インク流入のための第1インク通過部22と、インク流出のための第2インク通過部23とを備え、第1,第2インク通過部22,23は、隔壁3の変形で個別インク室2内部に圧力変化が生じたときにインクが定められた一方に向けて流れやすいように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタにおいては、インパクト印字装置に代わって、カラー化、多階調化に対応しやすいインクジェット方式などのノンインパクト印字装置が急速に普及している。これに用いるインク噴射装置としてのインクジェットヘッドとしては、特に、印字に必要なインク滴のみを噴射するというドロップ・オン・デマンド型が、噴射効率の良さ、低コスト化の容易さなどから注目されている。ドロップ・オン・デマンド型としては、カイザー(Kyser)方式やサーマルジェット方式が主流となっている。
【0003】
しかし、カイザー方式は、小型化が困難で高密度化に不向きであるという欠点を有していた。また、サーマルジェット方式は、高密度化には適しているものの、ヒータでインクを加熱してインク内にバブル(泡)を生じさせて、そのバブルのエネルギーを利用して噴射させる方式であるため、インクの耐熱性が要求され、また、ヒータの長寿命化も困難であり、エネルギー効率が悪いため、消費電力も大きくなるという問題を有していた。
【0004】
このような各方式の欠点を解決するものとして、圧電材料のシェアモード変形を利用したインクジェット方式が提案されている。この方式は、圧電材料からなるインクチャンネルの壁(以下、「チャンネル壁」という。)の両側面に形成した電極を用いて、圧電材料の分極方向と直交する方向に電界を生じさせることで、シェアモードでチャンネル壁を変形させ、その際に生じる圧力波変動を利用してインク滴を吐出するものであり、ノズルの高密度化、低消費電力化、高駆動周波数化に適している。
【0005】
最近はこのシェアモード変形を利用したインクジェットヘッドを産業用途に利用することが盛んに行なわれるようになり始めている。たとえば、インクとして導電材料を吐出させることによって配線を描画したり、R,G,Bの各色のインクを吐出させることによってカラーフィルタを作製したり、熱硬化性または紫外線(UV)硬化性のインクを吐出させることによって、マイクロレンズやスペーサなどのような3次元構造物を作製したり、といった応用が進められている。
【0006】
このように多岐にわたるインクジェット応用分野の発展に伴い、使用されるインクも多種多様になっている。たとえば、有機溶剤を含有して揮発性の高いインクや、強酸性・強アルカリ性のインク、顔料や樹脂成分を含むインク、ビーズなどの微粒子を含有するインク、さらにはこれらを複合したインクなどが挙げられる。中でもビーズなどの微粒子を含有するインクは、インクの溶媒と含有される微粒子の比重差により、微粒子が沈殿または浮遊し、インク中の微粒子濃度に分布の偏在が引き起こされるおそれがある。分布が偏った場合、吐出時の液滴中に含まれる微粒子数にばらつきが生じてしまい、製品の性能劣化、不良発生をもたらす。さらには、ノズル孔を目詰まりさせてしまうおそれもある。
【0007】
このような事態を回避するためには、インクジェットヘッド内でインクを循環、撹拌させることによって微粒子の沈殿を防止する必要がある。さらに厳密には、吐出時の液滴中に含まれる微粒子数を安定させて吐出させるためには、上述のインクの循環、撹拌はインクがノズル孔の直近にある時点においてもなされることが重要である。
【0008】
ノズル孔直近までインクを循環、撹拌させるための技術として、特開平10−114081号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1の図2、図3に示されたインクジェットヘッドでは、ノズル開口を有する圧力発生室を挟むように両側に2つの共通のインク準備室が配置されており、これら2つの共通のインク準備室は圧力発生室に連通している。この装置では、一方の共通インク室から他方の共通のインク準備室へ圧力発生室を介してインクを供給できる構造となっている。このインクジェットヘッドにおいては、ノズル孔のある圧力発生室自体がインクの通り道となるため、ノズル孔の直近までインクを循環することが可能である。また、特許文献1の第4図では、上記インクジェットヘッドを備える記録装置の全体が示されており、この記録装置では、インクカートリッジからインクジェットヘッドを経由してサブタンクへとインクを補充する一方、サブタンクからインクジェットヘッドを経由してインクカートリッジへと水頭差を利用してインクを戻すことも可能となっている。特許文献1の記録装置では、このようにしてインクを循環させている。
【0009】
特開平10−110681号公報(特許文献2)では、圧力室の入口と出口とで流路の形状を違えた構造としておき、圧力室上部のダイヤフラムの上下方向の変位によってインクを入口側から出口側に吐出させるマイクロポンプが記載されている。
【0010】
特開2001−322099号公報(特許文献3)では、加圧室の上面を塞ぐように配置された圧電素子に所定の波形の電圧を印加して屈曲変形させることによって加圧室の前後の第1,第2流路に流路抵抗差を生じさせ、正逆両方向に微小量の液体を送るマイクロポンプが記載されている。
【特許文献1】特開平10−114081号公報
【特許文献2】特開平10−110681号公報
【特許文献3】特開2001−322099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のインクジェットヘッド構造では、インクの吐出をさせるエネルギーを生み出すのは直接的には圧力発生室内のインクの流れということになるが、このインクの流れは、圧力発生室の外部で制御されている。したがって、圧力発生室内部での流量を制御をすることができていない。特に、圧力発生室内部での微小インク流れの制御を正確に行なうことはできない。圧力発生室内部におけるインク流路抵抗のばらつきは、吐出されるインクの体積がばらつく原因となり、パターニング精度の劣化を引き起こす。また、インクチャンネル間でインクの循環ぶりが均一でないため、粘度や混合物の濃度がインクチャンネル間で異なってくるおそれがある。このようなばらつきもまた、パターニング精度が劣化する原因となる。
【0012】
また、上記特許文献2,3に記載のマイクロポンプでは、微少量のインクを搬送することのみを目的としており、インクジェット装置として、多数のノズルからインクを吐出させ、高精度にパターニングすることは目的として想定されていない。
【0013】
そこで、本発明は、インクを吐出させるノズル孔の直近で確実にインクを循環させ、精度の良いパターニングを行なうことが可能なインクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に基づくインクジェットヘッドは、隔壁によって互いに隔てられ、かつ内壁に電極が設けられた複数のインク溝を有する圧電基板と、上記圧電基板の上記隔壁の上部に接着されることによって上記複数のインク溝の上側を塞いで上記複数のインク溝を複数の個別インク室として規定するノズル板と、上記複数の個別インク室の一端側において上記個別インク室と連通する第1共通インク室を規定しつつ、上記複数の個別インク室の他端側において上記個別インク室と連通する第2共通インク室を規定するように、上記圧電基板に取り付けられたマニホールドとを備える。上記複数の個別インク室の各々は、インクが流入するための第1インク通過部と、インクが流出するための第2インク通過部とを備える。上記第1インク通過部と上記第2インク通過部とは、隔壁が変形して上記複数の個別インク室の内部に圧力変化が生じたときにインクが定められた一方に向けて流れやすいように構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧力発生部の動作を利用して、インクを吐出させるノズル孔の直近の位置を含む個別インク室内でインクを積極的に流動ないし循環させることができるので、密度、粘度、含有物の濃度などといったインク特性を均一に保つことができ、精度の良いパターニングを行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(一般的なインクジェットヘッド)
図1に一般的なインクジェットヘッド25を示す。このインクジェットヘッド25は、圧電方式のインクジェットヘッドである。図1では分かり易くするためにノズル板21を取り外した状態を示しているが、「インクジェットヘッド25」といった場合、ノズル板21を含めた全体を指す。一方、図2は図1に示したインクジェットヘッド25のうち主要部分のみを抜き出した図である。図2では分かり易くするために、ノズル板21を接着した状態を示している。以下、図1、図2を参照して、一般的なインクジェットヘッド25の構造および製造方法について説明を行なう。
【0017】
インクジェットヘッド25は、溝加工により互いに平行となるように並ぶ複数の細長い隔壁3で互いに隔てられるように加工され、内壁に電極4が設けられた複数のインク溝としての個別インク室2によって構成される圧力発生部を有する圧電基板1と、圧電基板1の電極4を外部に引き出すための電極引出し部8に対して接続された配線基板10と、圧電基板1の隔壁3上に接着され、複数の個別インク室2に対応するように配置された複数のノズル孔20を有するノズル板21と、圧電基板1を配置する圧電基板用凹部17を有するマニホールド11とを備える。ノズル板21は、圧電基板1の隔壁3上端とマニホールド11とにまたがるようにして接着されている。
【0018】
また、配線基板10の先には駆動装置41が電気的に接続されている。圧電基板1の電極4は、配線基板10を介することによって駆動装置41と電気的に接続されている。駆動装置41は、ドライバICを備えている。駆動装置41が電極4の各々に電圧を印加することにより、各個別インク室2における圧力発生部が選択的に駆動され、インク流路すなわち図1における個別インク室2の両側の隔壁3がシェアモード変形を起こし、個別インク室2の容積が変化するので、その結果としてノズル孔20からインクが吐出される。
【0019】
マニホールド11は、インクの供給、排出のための第1ニップル12と第2ニップル13とを備える。第1ニップル12は、圧電基板用凹部17に圧電基板10を配置した際に圧電基板10の一方の側に隣接して生じる空間である第1共通インク室5に連通している。第2ニップル13は、圧電基板用凹部17に圧電基板10を配置した際に圧電基板10の他方の側に隣接して生じる空間である第2共通インク室6に連通している。
【0020】
図1に示したインクジェットヘッド25におけるインクの流れについて説明する。インクは、第1ニップル12を通過し第1共通インク室5に流れ込む。続いて、圧電基板1に形成された個別インク室2を通過し、第2共通インク室6に流れ込む。さらにインクは第2ニップル13を通過してマニホールド11の外へ出ていく。
【0021】
(一般的なインクジェットヘッドの製造方法)
次に、図2を参照してインクジェットヘッド25の製造方法を説明する。図2に示されるように、一様な断面積のインク流路としての個別インク室2およびこれらを隔てる隔壁3は、圧電基板1にダイシングブレードによる溝加工を施すことで形成することができる。この溝加工は切削加工である。続いて、隔壁3をシェアモード変形で駆動させるための電極4を形成する。電極4は、RF(Radio Frequency)マグネトロンスパッタ装置を用いて導電性材料を成膜することにより形成することができる。たとえば、銅をスパッタリング法により成膜すればよい。この際の成膜により、電極4の材料としての導電膜はインク溝の内壁はもちろんのこと、隔壁3の上面、圧電基板1の上面、側面などといった具合に、露出している面の全てに成膜されてしまう。そこで、圧電基板1の表面に成膜された導電膜のうち不要な部分はダイシングブレードによって研削加工することにより除去する。こうすることで、各個別インク室2を隔てる隔壁3の上面においては導電膜がない状態とすることができ、各個別インク室2ごとに電極4を分離することができる。
【0022】
図1、図2に示した例では、配線基板10を図中下側に向けて引き出しているので、圧電基板1の図2における手前側の側面においては導電膜を残す構成としている。成膜時にはこの手前側の面においても全面に電極が成膜されているので、各個別インク室2に対応して個別に駆動させるには、電極を個別インク室2ごとに分離する必要がある。そのためには、隔壁3に対応する位置で、圧電基板1の手前側の面を、ダイシングブレードにて研削加工すればよい。こうして、各隔壁3の中心線に対応する位置で線状に導電膜が除去された領域を作る。その結果、導電膜は各個別インク室2ごとに分離され、電極引出し部8となる。
【0023】
個別インク室2ごとに分離された導電膜である電極引出し部8は、配線基板10に接続される。この例では、ACFフィルム(異方性導電フィルム)を電極引出し部8と配線基板10の配線部分との間に挟み込むようにして圧着させて接続を行なっている。他にワイヤボンディングによる方法など、一般的な基板接続方法を適用してもよい。
【0024】
また、個別インク室2内には、電極4の絶縁性や性能を保護するために、有機絶縁膜を形成するが、図中では省略している。
【0025】
次に、第1共通インク室5、第2共通インク室6を形成するために、この圧電基板1をマニホールド11(図1参照)に対して接着する。マニホールド11は、アルミニウム、ステンレス、セラミックスなどのうちのいずれかの材料からなる厚さ10mmの板状部材において上面から圧電基板1の厚み分だけザグリ加工を施すことによって圧電基板用凹部17を形成したものである。圧電基板用凹部17としての空間のうち両端のそれぞれ一部は、第1共通インク室5、第2共通インク室6となる空間である。また、マニホールド11の圧電基板用凹部17は底が完全に塞がれた凹部ではなく、底の一部に、配線基板10を通過させるための開口部(図示せず)が形成されている。
【0026】
続いて、圧電基板1とマニホールド11とまたがるように、ノズル孔20を有するノズル板21を接着する。これにより、インクジェットヘッド25内に個別インク室2と第1共通インク室5と第2共通インク室6とが構築される。
【0027】
圧電基板1にノズル板21を接合した後、ノズル板21とマニホールド11との隙間、および、ノズル板21と配線基板10との隙間に接着剤を流し込んで封止することにより、インクジェットヘッド25が作製される。
【0028】
上述の一般的なインクジェットヘッドの基本構造、製造方法を踏まえ、以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
(実施の形態1)
(構成)
図3、図4を参照して、本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドについて説明する。
【0030】
図3に本実施の形態におけるインクジェットヘッドの主要部分を示す。本実施の形態におけるインクジェットヘッドの全体像は図1に示したのと同様であるが、個別インク室2の構造は図2に示したものと異なり、図3に示す構造になっている。図4は図3の構造を図3における矢印91の側から見た断面図である。
【0031】
本実施の形態におけるインクジェットヘッドは、隔壁3によって互いに隔てられ、かつ内壁に電極4が設けられた複数のインク溝を有する圧電基板1と、圧電基板1の隔壁3の上部に接着されることによって複数のインク溝の上側を塞いで複数のインク溝を複数の個別インク室2として規定するノズル板21と、複数の個別インク室2の一端側において個別インク室2と連通する第1共通インク室5を規定しつつ、複数の個別インク室2の他端側において個別インク室2と連通する第2共通インク室6を規定するように、圧電基板1に取り付けられたマニホールド11とを備える。複数の個別インク室2の各々は、インクが流入するための第1インク通過部22と、インクが流出するための第2インク通過部23とを備える。第1インク通過部22と第2インク通過部23とは、隔壁3が変形して複数の個別インク室2の内部に圧力変化が生じたときにインクが定められた一方に向けて流れやすいように構成されている。
【0032】
本実施の形態におけるインクジェットヘッドは、いわばインク搬送機能を有しているともいえる。インク搬送機能をもたせるために、個別インク室2内の流路抵抗は部位によって異なるようになっている。
【0033】
より好ましくは、本実施の形態におけるインクジェットヘッドにおいては、第1インク通過部22と第2インク通過部23との間には、インクが通過する際の流路抵抗に差がある。
【0034】
具体的には、図3、図4に示すように、個別インク室2の一方の端部には突起部24が備わっている。個別インク室2内を流れるインクの流路断面積は、突起部24が存在する区間においては急激に小さくなる。突起部24によって流路断面積が狭められている区間が第1インク通過部22である。
【0035】
一方、個別インク室2の他方の端部においては、個別インク室2は何ら狭められることなく一様の流路断面積のままで第2共通インク室6に連通している。個別インク室2のうち第2共通インク室6に対して連通している部分の近傍における区間が第2インク通過部23である。
【0036】
すなわち、本実施の形態におけるインクジェットヘッドにおいては好ましいことに、第1インク通過部22は、第2インク通過部23より流路断面積が小さくなっている。
【0037】
(個別インク室の作製方法)
次に、突起部24を備えた個別インク室2の作製方法について説明する。
【0038】
突起部24は、圧電基板1に溝加工を行って個別インク室2となるべきインク溝を一様な断面積となるように作製し、これらのインク溝の内面に電極4を形成した後、接着樹脂材料(931−1T1N1:日本エイブルスティック社製)を、圧電基板1に形成されたインク溝のうち第1インク経路22となるべき側の端部において、複数のインク溝を跨ぐように一直線状に塗布することによって、形成することができる。この塗布に当たっては、接着剤塗布装置として一般的に用いられる、ディスペンサなどの機器を用いることで、塗布量や塗布位置を制御しながら簡単に塗布することができる。突起部24を形成する材料は、インクに対する耐性、接着強度、粘度、塗布方法などを適宜考慮して選択すればよい。この例で、上記931−1T1N1を採用したのは、個別インク室2となるべきインク溝の内壁面と突起部24とが、凹凸少なく滑らかに接合できるからである。インク流路に面した部分に隙間や凹凸などあると、気泡が発生したり、気泡やインクの滞留が生じたりする傾向があるので、インク流路に面した部分、すなわちインクと接する部分はなるべく滑らかな面となっていることが好ましい。インクが滞留した場合にはそのインクは流動しないので劣化する場合があり、その場合、劣化したインクが特定の場所に滞留することになる。インク流路に面した部分がいずれも滑らかな面となっていれば、気泡やインクが滞留することも防ぐことができる。その結果、ノズル孔20付近に気泡が滞留したり、劣化したインクが滞留したりするを防止することができる。その結果、これらの滞留に起因して不吐出が発生したり、吐出安定性を損なったりする事態を予防することができる。また、上述のように接着樹脂材料を用いると、塗布して硬化させるだけで突起部24を簡単に形成することができるため、作業も非常に簡便である。なお、滑らかな接合部となるようにするためには、接着樹脂材料の粘度や、個別インク室の壁面と接着樹脂材料との接触角などが関係するが、適当な材料を適宜選択すればよい。
【0039】
なお、上述した塗布方法の場合、接着樹脂材料が隔壁3の上面にも塗布されてしまう。隔壁3の上面にも接着樹脂材料が付着したままでノズル板21を貼り付けると、高さのばらつきが生じ、着弾精度の劣化や吐出不良の原因となる。そこで、電極4の除去のために隔壁3の上面をダイシングブレードで研削加工する際に同時に壁面上部の接着樹脂材料も除去することで、平坦化を行なうことが好ましい。
【0040】
次に、このような構造で、上述の製造方法にて製造された、インクジェットヘッドにおけるインク搬送の様子について説明する。
【0041】
(インク搬送方法)
個別インク室2において入口から出口までインクが流れる、すなわち、第1インク通過部22から第2インク通過部23へとインクが搬送されるためには、以下の2つの条件が必要である。
【0042】
条件1 何らかの圧力が発生すること。
条件2 個別インク室2の内部にあるインクにとって、入口に向けてより出口に向けての方がインクが流れやすくなっていること。
【0043】
上記条件2を達成するには、第2インク通過部23から第1インク通過部22に向かって流れるよりも、第1インク通過部22から第2インク通過部23に向かって流れる際の流路抵抗が小さい状態となっていることが必要である。
【0044】
まず、条件1として圧力発生部において、圧力が発生する過程について説明する。
《圧力発生部について》
インクに加える圧力は、電極4に電圧を印加し、圧電基板を構成する圧電材料を駆動させることにより発生させることが可能である。ある電圧印加により、個別インク室の壁面が駆動し、個別インク室の容積が圧縮する方向に働くとすると、逆の電圧を印加することによって、個別インク室の容積は拡大する。また、圧電材料の駆動は、駆動装置(図示せず)により、電極4に印加される電圧の大きさ、印加時間、立ち上がり時間などの、印加電圧波形を適宜調節することによって制御することができる。これにより、個別インク室内のインクにかかる圧力を発生させるタイミング、時間、強さを適宜調節することができる。
【0045】
次に、条件2である流路抵抗差が発生するための要件について述べる。
《流路抵抗差によるインクの挙動》
流路抵抗差は、インク経路の形状を部位によって変えることにより生じさせることができる。一般的に、流路の断面積と長さとにより流路抵抗の大きさは決まる。流路の断面積が小さければ、流路抵抗は大きくなる。本実施の形態では、第1インク通過部22において、突起部24が存在することによって流路断面積が小さくなっている。よって、第1インク通過部22と第2インク通過部23とを比べた場合、個別インク室2内のインクにとっては第1インク通過部22を流れる方が流路抵抗が大きく、第2インク通過部23を流れる方が流路抵抗が小さい、すなわち流れやすいので、インクは第2インク通過部23の方に向かって流れることとなる。
【0046】
次に、圧力発生の駆動方法によるインク流れの挙動を示し、圧力発生の繰り返しでインク室内のインクを搬送する過程を説明する。
【0047】
《圧力発生部の駆動方法》
図5は、流路抵抗の大きさと、個別インク室容積の拡大/縮小に要する時間の単位時間当たりにかかる圧力との相関関係を示すグラフである。
【0048】
図5に示すように、断面積が大きく元々流路抵抗の小さいインク流路、すなわち個別インク室2から第2共通インク室6へと連通する部分にある第2インク通過部23においては、単位時間当たりにかかる圧力が変化したとしても、流路抵抗にはさほど変化が生じない。第2インク通過部23においては急に高い圧力が作用したとしても十分に流れることができるからである。
【0049】
しかし、逆に断面積が小さく元々流路抵抗が大きいインク流路、すなわち第1インク通過部22においては、単位時間当たりに急激に大きな圧力がかかると、乱流が発生し、流路抵抗も急激に増大する。図5のグラフにはその流路抵抗の増大ぶりが示されている。
【0050】
この原理を用いて、個別インク室2の容積の拡大時よりも縮小時に単位時間当たりにかかる圧力が大きくなるように駆動することで、インク流路断面積の小さい、第1インク通過部22に大きな抵抗が発生し、個別インク室2の拡大縮小時のインク量の総和を考えると、第2インク通過部23にかかる抵抗が全体として小さくなり、インクが搬送されやすい状態となる。
【0051】
以上のように、本実施の形態におけるインクジェットヘッドにおいては、駆動させる単位時間当たりの圧力、すなわち、発生させる圧力、もしくは発生時間を制御することで、インクを予め設定した所望の向きに搬送することが可能となる。
【0052】
また、流路抵抗の大きい流路においては、負から正に圧力を変化させる際に、その圧力変動にかける時間が短ければ短いほど、流速は遅くなる。同じだけの圧力変動であっても長い時間をかけて行なえば、流速はあまり変化せずに流れる。一方、流路抵抗の小さい流路においては、圧力変動にかける時間の長さと、その結果生じる流速の変化量との間に相関関係があまりない。したがって、流路の流路抵抗が大きいほど、圧力変動にかける時間の長さを変えることによって流速の変化量に大きな影響を与えやすいといえる。よって、圧力変動に係る時間の長さを制御する駆動手段を備えることで、流速の変化量をコントロールすることができ、個別インク室2をインクが所望の流速で流れる状態を実現することができる。
【0053】
個別インク室2の容積が拡大する時間が縮小する時間より長ければ、第1インク通過部22から第2インク通過部23にインクが流れる傾向が生じるので、個別インク室2内でインクを一方向に搬送することが可能である。
【0054】
要するに、本実施の形態におけるインクジェットヘッドとしては、個別インク室2の容積が拡大する時間が縮小する時間よりも長くなるように圧電基板1を駆動するための駆動装置を備えることが好ましい。駆動装置は、図1に示した駆動装置41のように配線基板10から離れたところに設置されるものであってもよく、配線基板10の表面に搭載されるものであってもよい。
【0055】
(作用・効果)
以上のように、本実施の形態におけるインクジェットヘッドを用いれば、インクを吐出させるための圧力発生部の動作を利用して、インクが吐出するノズル孔20の直近の位置を含む個別インク室2内でインクを積極的に流動させることができるので、密度、粘度、含有物の濃度などといったインク特性を均一に保つことができる。本実施の形態では、そのような均一な特性を有する状態でインクを吐出することが可能となるので、安定して高精度のパターニングやメンテナンス動作を行なうことが可能である。
【0056】
一般的に、取扱いの難しいインク、たとえば高粘度化しやすいなど、特性変化の激しいインクの場合はインクがタンクに収まっている状態からノズル孔20から吐出されるまでの間で不均一な状態となりやすく、吐出精度劣化の要因となる。しかし、本発明によれば、個別インク室2内においてインクを常に均一に流動させることができ、インク特性の不均一な領域が生じにくくすることができる。
【0057】
特に、ビーズなどの微粒子を含有したインクは取扱いが難しい。インクの主溶媒と微粒子との比重差により、微粒子が沈殿または浮遊し、吐出時の液滴中に含まれる微粒子数にばらつきが生じるからである。しかし、本発明によればインクジェットヘッド25内でインクを循環させることでインクを撹拌することができるので、微粒子の沈殿や浮遊を防止することが可能である。さらに、ノズル孔20の直近の位置まで含めてインクを循環させ、撹拌することができるので、吐出時のインク液滴中に含まれる微粒子数を安定させて吐出させることができる。
【0058】
さらに、本発明では、インクを搬送するための装置を別途必要としないので、インクジェットヘッド25の装置構成が簡便となる。また、従来であれば、インクジェットヘッドと外部装置との間をつなぐ流路における抵抗などの外乱要因が多くあったため、個別インク室内を適切に制御することが難しかった。さらに個別インク室内の圧力発生部によって与えられる圧力も考慮する必要があった。そのため、正確にインクが搬送される状態を作り出し、制御するには多くの考慮すべきパラメータがあったが、本実施の形態におけるインクジェットヘッドの構造を採用すれば、インクが搬送される状態を制御することが容易である。
【0059】
また、多数のノズル孔20から均一な状態でインクが吐出するためには、ノズル孔20に対応した個別インク室2内のインクが、各インクチャンネルに属する個別インク室2ごとにばらつくことなく、均一な状態であることが必要である。本発明によれば、各々の個別インク室2に圧力発生部があり、インクの搬送も制御することができるため、個別インク室2内ではインクは均一な流動状態を保つことが可能である。
【0060】
これより、本発明によるインクジェットヘッド25では、インク特性を均一に保つことができるため、吐出特性や着弾精度の良いパターニング動作や、それを達成するためのメンテナンス動作を行なうことができる。
【0061】
なお、本実施の形態におけるインクジェットヘッドにおいては、好ましいひとつの形態として、第1共通インク室5と第2共通インク室6とは、個別インク室2を介してのみ連通している。このような構成になっている場合、第1共通インク室5からインクが供給され、第2共通インク室6へインクが排出されるという一方向にインクを搬送することができるので、個別インク室2に次々と新しいインクが充填されることになり、常に新しいインクでパターニングやメンテナンス動作を行なうことができる。
【0062】
この挙動を説明する。ある1つの個別インク室2内で第1インク通過部22から第2インク通過部23に向かって流れるように、上述の駆動方法で圧電基板1を駆動したとき、その流れの助けとなるように隣のインクチャンネルの個別インク室2では、通常は逆のパターンで駆動をすることに行なわれる。しかし本発明に基づくインクジェットヘッドでは、隣のインクチャンネルの駆動をしないでおくことが好ましい。こうすることで、逆流するインク量はわずかとなり、全体としてインクは一方向に流れることとなる。
【0063】
また、たとえ第1,第2共通インク室5,6の間に個別インク室2以外を他のルートを経由して連通する部分があった場合でも、その他のルートの流路抵抗が個別インク室2に流出入する際の流路抵抗よりも大きければ、選択的に個別インク室2にインクが流れることといなる。その結果、第1,第2共通インク室5,6がそのような他のルートを介して連通していない場合とほぼ同様の挙動となる。したがって、本発明に基づく実施の形態としては、第1共通インク室と第2共通インク室とは個別インク室を介して連通しておりなおかつ他の経路によっても連通しており、前記他の経路の流路抵抗は前記個別インク室2の流路抵抗より大きくなっているような構造であってもよい。
【0064】
(実施の形態2)
(構成)
図6〜図8を参照して、本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドについて説明する。図6は本実施の形態におけるインクジェットヘッドの主要部分だけを抽出して示したものである。本実施の形態におけるインクジェットヘッドの全体の構成は図1に示したものと同様である。図7は、図6における矢印91の向きから見た断面図である。図6では、分かり易くするために図中手前の絞り板27が取り外された状態で示している。図6、図7に示すように、本実施の形態におけるインクジェットヘッドにおいては、図2で示したようなインクジェットヘッド25の基本構造において、個別インク室2の両方の端部のうち第1共通インク室5と連結する側の端部に、個別インク室2に対応した絞り孔26が設けられている絞り板27を接着することによって、流路断面積を急激に変化させた第1インク通過部22を形成している。ここでは絞り孔26を個別インク室2の一部とみなしている。個別インク室2のうち絞り孔26が占める区間が、流路抵抗の大きい第1インク通過部22に相当する。なお、絞り板27は、少なくとも第1共通インク室5と個別インク室2とが連通する領域を覆うものであればよい。
【0065】
本実施の形態の具体例としては、絞り板27の基材としてポリイミドからなる厚み75μmのシートを用いることができる。このシートに対してエキシマレーザ光を照射することにより円形の孔を加工する。この加工により円形の絞り孔26を形成している。この加工の様子を図8に示す。円形の孔がパターニングされたマスクを介してエキシマレーザ光を照射することで、所望の形状および穴径になるように精度良くレーザ加工を行なうことができる。このような基材および加工方法によれば、第1インク通過部22の断面積および長さを精度良く加工することができ、インク溝の断面積の範囲内に適合するように第1インク通過部22の断面積を精度良く設定できる。なお、絞り板27の基材、厚さ、絞り孔26の大きさは、インク種類、接着強度、加工精度に対応して適宜選択すればよい。このように作製した絞り板27を、絞り孔26とインク溝とが対応するように位置合わせして、圧電基板1に接着した。接着に当たっては、耐薬品性や接着強度などを考慮した接着樹脂材料(931−1T1N1:日本エイブルスティック社製)を接着剤として利用して接着した。
【0066】
なお、上述のレーザ加工においては、第1インク通過部22として提供される絞り孔26は圧電基板1に近づくほど開口面積が狭くなるテーパ形状となるように加工している。
【0067】
要するに、本実施の形態におけるインクジェットヘッドにおいては、第1インク通過部22は、圧電基板1に隣接する部材に設けられた形状によって構成されている。
【0068】
(作用・効果)
本実施の形態におけるインクジェットヘッドでは、上述したような絞り孔26を用いて第1インク通過部22を構成することにより、本実施の形態では、効率良くインク搬送機能が働くこととなる。一様な開口面積を有する孔に比べて、このようなテーパ形状の孔の場合は、テーパ形状で絞った方向、すなわち、広い方から狭い方に向かって流れるインクに対して生じる流路抵抗が少ない。したがって、個別インク室2にインクが流入する際には、絞り孔26を経由して効率良くインクが流入する一方、個別インク室2からインクが流出する際には逆に圧力損失が大きく、流出しようとする流れにとっては、効率が低下する。よって、流出、流入を引き起こし得る動作が交互に繰り返される際の全体としては流出よりも流入の方が生じやすくなる。その結果、本実施の形態における第1インク通過部22は所定の側へのインク搬送機能に助力することになる。
【0069】
(実施の形態3)
(構成)
図9、図10を参照して、本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッドについて説明する。図9は本実施の形態におけるインクジェットヘッドの主要部分だけを抽出して示したものである。本実施の形態におけるインクジェットヘッドの全体の構成は図1に示したものと同様である。図10は、図9における矢印91の向きから見た断面図である。図9、図10に示すように、本実施の形態におけるインクジェットヘッドは、図2で示すようなインクジェットヘッド25の基本構造において、以下の変形を施したものである。すなわち、個別インク室2の両方の端部のうち第1共通インク室5と連結する側の端部において、インク溝の内部を突起部24で塞ぎ、ノズル板21に切欠き28を形成している。こうすることで、流路断面積の小さい、すなわち流路抵抗の大きな第1インク通過部22を形成している。切欠き28によって実現される第1インク通過部22はあくまで個別インク室2の一部であるが、インク溝の外である。個別インク室2のうち、圧電基板1に設けられたインク溝の部分と第1共通インク室5との間を移動するインクにとって通過可能な経路は、ノズル板21に加工された切欠き28の部分のみとなる。すなわち、個別インク室2によって形成される流路のうち切欠き28が占める区間が第1インク通過部22となっている。
【0070】
(製造方法)
本実施の形態におけるインクジェットヘッドの製造方法について述べる。
【0071】
突起部24の形成方法は、実施の形態1で述べたものと同様である。すなわち、インク溝の内部に電極4を形成した後、ディスペンサなどの機器を用いて接着樹脂材料(931−1T1N1)を、圧電基板1に形成されたインク溝のうち第1インク経路22となるべき側の端部において、複数のインク溝を跨ぐように一直線状に塗布することによって、形成することができる。遮断すべき部分でない部分、すなわち、隔壁3の上面や圧電基板1の側面に付着した余分な接着樹脂材料は、ダイシング加工を行なうことによって除去すればよい。
【0072】
次に、ノズル板21を隔壁3の上面に接着する。ここでノズル板21の基材としてはポリイミドからなる厚み75μmのシートを用いることができる。ノズル板21には予め、ノズル孔21と第1インク通過部22となるべき切欠き28とを形成しておく。ノズル孔21および切欠き28の加工は、エキシマレーザ光を、マスクを介して照射することにより行なうことができる。第1インク通過部22となるべき切欠き28は、個別インク室2の端部に対応する位置に、図11に示すように30μmの深さで形成される。深さおよび加工面積は、インクや吐出状況に合わせて適宜設定すればよい。
【0073】
本実施の形態では、このような切欠き28を用いて第1インク通過部22を実現しているのであるが、ここで述べた製造方法を用いれば、第1インク経路22の断面積および長さを精度良く形成することができる。
【0074】
(実施の形態4)
(構成)
図12、図13を参照して、本発明に基づく実施の形態4におけるインクジェットヘッドについて説明する。図12は本実施の形態におけるインクジェットヘッドの主要部分だけを抽出して示したものである。本実施の形態におけるインクジェットヘッドの全体の構成は図1に示したものと同様である。図13は、図12における矢印91の向きから見た断面図である。図12、13に示すように、本実施の形態におけるインクジェットヘッドは、図2で示すようなインクジェットヘッド25の基本構造において、以下の変形を施したものである。すなわち、本実施の形態におけるインクジェットヘッドにおいては、個別インク室2の大部分を規定するインク溝の断面積が一定でなく、インク溝は徐々に流路断面積が変化する構造となっている。これまでに説明した実施の形態1〜3ではいずれも第1インク通過部22において急激に流路断面積が変化するような構造となっていたが、本実施の形態では、第1インク通過部22と第2インク通過部23との間で徐々に滑らかに流路断面積が変化している。これにより、第1インク経路22での流路断面積は第2インク経路23での流路断面積に比べて小さくなっている。その結果、第1インク経路22における流路抵抗が第2インク経路23における流路抵抗よりも大きくなっている。
【0075】
本実施の形態では、個別インク室2を構成するインク溝の両方の端部のうち、第1共通インク室5に連通する側の端部が第1インク通過部22に相当し、第2共通インク室6に連通する側の端部が第2インク経路23に相当する。
【0076】
(製造方法)
本実施の形態におけるインクジェットヘッドでは、圧電基板1にインク溝を形成する時点で、インク溝の深さが徐々に変化するように形成することが求められるが、そのように深さが変化する溝加工はダイシングブレードによる研削加工のみで形成することができる。すなわち、ダイシングブレードを水平方向に走行させる際に、上下方向すなわち切込方向にも移動させて研削すればよい。このようにすることで、溝深さを変化させることができるので、所望の勾配で溝深さが次第に深くまたは次第に浅くなるように加工することができる。このように加工することにより、図12、図13に示すように溝深さが変化しているインク溝を圧電基板1に形成することができる。このようなインク溝を得た後のインクジェットヘッドの製造方法については、実施の形態1で説明したものと基本的に同じである。ただし、実施の形態1において行なった第1インク通過部22を形成する工程は本実施の形態では不要である。本実施の形態では、インク溝に突起部を付与したり、別部材を用いたりする必要がないため、全体として製造方法が簡便である。
【0077】
(インク搬送方法)
本実施の形態では、実施の形態1〜3におけるインクジェットヘッドの個別インク室にあったような急激な断面積の変化はないため、乱流は比較的発生しにくい。ただし、第1インク通過部22と第2インク通過部23とを比較すると、個別インク室2から外部にインクが流出しようとする際には、一方端部と他方端部とで流路断面積が異なるので、流路抵抗に差が生じる。すなわち、第1インク通過部22の方が、第2インク通過部23よりも断面積が小さいため、第1インク通過部22では流路抵抗が大きくなる。したがって、インク溝の内部で圧力変化が生じたとき、インク溝の内部にあるインクは第2インク通過部23から流出する方向に働く。一方、流入の際は、第1,第2インク通過部22,23間の断面積の差に比べて、第1,第2インク通過部22,23と第1,第2共通インク室5,6との断面積の差の方が圧倒的に大きいため、第1,第2共通インク室5,6から第1,第2インク通過部22,23へのインク流入にかかる抵抗はほぼ同じとみなすことができる。よって、全体としては、第1インク通過部22から第2インク通過部23に向かう向きでインク流れは方向付けられ、個別インク室2内をインクが搬送されることとなる。
【0078】
また、実施の形態1で圧力発生部の駆動方法に関して説明した事項も適用可能である。すなわち、本実施の形態におけるインクジェットヘッドにおいても、圧力発生部の駆動方法に関しては、個別インク室2の容積が拡大する際よりも縮小する際の方が単位時間当たりにかかる圧力が大きくなるように駆動することによって、インクが搬送されやすい状態とすることができる。
【0079】
(その他の変形例)
個別インク室2内の部位によって流路抵抗に差を生じさせる方法としては、これまでの各実施の形態で説明したように構造で流路抵抗を制御する方法以外に、流れるインク自体の特性を変えるという方法もある。たとえば、個別インク室2内に向けてヒータなどを配置し、第1インク通過部と第2インク通過部とでインクが異なる熱分布を有するように設定することが考えられる。一般に、高温における方がインクの粘度は低くなり、流れやすくなる。すなわち流路抵抗が低くなる。このように温度差を設けることによって流路抵抗に差を生じさせることができる。ただし、温度を変えることはインクの特性を変えてしまうことにもなり得るので、インクの寿命や着弾に影響がないか、インクおよびインクジェットヘッドの仕様を踏まえ、十分に考慮する必要がある。
【0080】
また、個別インク室2またはインクジェットヘッドにとってのインクの入口・出口に水頭差を設けておいて、水頭差によって生じる力をインク搬送のために補助的に用いてもよい。
【0081】
以上のように、本発明に基づくインクジェットヘッドによれば、個別インク室2の内部のうち、圧力発生部によってインクが吐出するノズル孔20に直近した位置においてもインクを十分に流動させることができるので、密度、粘度、含有物の濃度などといったインク特性を均一に保つことができ、その結果、特性が均一なインクを吐出することが可能となる。したがって、安定して高精度のパターニングやメンテナンス動作を行なうことが可能となる。また、インク搬送装置を外部に用いなくても個別インク室自体にある程度のインク搬送機能をもたせることができるので、装置構造を簡便とすることができる。
【0082】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】一般的なインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図2】一般的なインクジェットヘッドの主要部分の斜視図である。
【図3】本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの主要部分の斜視図である。
【図4】本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの主要部分の断面図である。
【図5】流路抵抗の大きさと、個別インク室容積の拡大/縮小に要する時間の単位時間当たりにかかる圧力との相関関係を示すグラフである。
【図6】本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドの主要部分の斜視図である。
【図7】本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドの主要部分の断面図である。
【図8】本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドに用いられる絞り板を加工する様子の説明図である。
【図9】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッドの主要部分の斜視図である。
【図10】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッドの主要部分の断面図である。
【図11】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッドに用いられるノズル板を加工する様子の説明図である。
【図12】本発明に基づく実施の形態4におけるインクジェットヘッドの主要部分の斜視図である。
【図13】本発明に基づく実施の形態4におけるインクジェットヘッドの主要部分の断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 圧電基板、2 個別インク室、3 隔壁、4 電極、5 第1共通インク室、6 第2共通インク室、8 電極引出し部、10 配線基板、11 マニホールド、12 第1ニップル、13 第2ニップル、17 圧電基板用凹部、20 ノズル孔、21 ノズル板、22 第1インク通過部、23 第2インク通過部、24 突起部、25 インクジェットヘッド、26 絞り孔、27 絞り板、28 切欠き、41 駆動装置、91 矢印。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁によって互いに隔てられ、かつ内壁に電極が設けられた複数のインク溝を有する圧電基板と、
前記圧電基板の前記隔壁の上部に接着されることによって前記複数のインク溝の上側を塞いで前記複数のインク溝を複数の個別インク室として規定するノズル板と、
前記複数の個別インク室の一端側において前記個別インク室と連通する第1共通インク室を規定しつつ、前記複数の個別インク室の他端側において前記個別インク室と連通する第2共通インク室を規定するように、前記圧電基板に取り付けられたマニホールドとを備え、
前記複数の個別インク室の各々は、インクが流入するための第1インク通過部と、インクが流出するための第2インク通過部とを備え、
前記第1インク通過部と前記第2インク通過部とは、隔壁が変形して前記複数の個別インク室の内部に前記圧力変化が生じたときにインクが定められた一方に向けて流れやすいように構成されている、インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第1インク通過部と前記第2インク通過部との間には、インクが通過する際の流路抵抗に差がある、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第1共通インク室と前記第2共通インク室とは前記個別インク室を介してのみ連通している、請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記第1共通インク室と前記第2共通インク室とは前記個別インク室を介して連通しておりなおかつ他の経路によっても連通しており、前記他の経路の流路抵抗は前記個別インク室の流路抵抗より大きくなっている、請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記第1インク通過部は、前記第2インク通過部より流路断面積が小さくなっている、請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記第1インク通過部は、前記圧電基板に隣接する部材に設けられた形状によって構成されている、請求項1から5のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記個別インク室の容積が拡大する時間が縮小する時間よりも長くなるように前記圧電基板を駆動するための駆動装置を備える、請求項1から6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−83118(P2009−83118A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252072(P2007−252072)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】