説明

インクジェットヘッド

【課題】ヘッドチップが大型化することなく、ヘッドチップ上の限られたスペースに電流密度の小さな共通電極を備えた独立駆動型のインクジェットヘッドの提供。
【解決手段】ヘッドチップ1は、後面に、駆動チャネル11A、11B内の駆動電極と導通する接続電極が形成され、前面に、複数のダミーチャネル12A、12B内の駆動電極と共通に導通する共通電極17A、17Bが形成されていると共に、駆動チャネル11A、11B及びダミーチャネル12A、12Bの他に、前面から後面に貫通する貫通孔16A、16Bを有しており、共通電極17A、17Bは、貫通孔16A、16B内を通ってヘッドチップ1の後面に引き出されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドに関し、詳しくは、インク吐出を行わないダミーチャネル内の駆動電極と共通に導通する共通電極の電流密度を小さくすることができるインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
チャネルを区画する駆動壁に形成された駆動電極に所定電圧の駆動信号を印加することにより駆動壁を変形させ、そのとき発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたインクジェットヘッドとして、前面及び後面にそれぞれチャネルの開口部が配置されたいわゆるハーモニカ型のヘッドチップを有するものが知られている。その中でも、チャネル列内の各チャネルをインク吐出を行う駆動チャネルとインク吐出を行わないダミーチャネルとに分け、これらを交互に配置することによってチャネル列を構成した独立駆動タイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッドがある。駆動チャネルとダミーチャネルとを交互に配置することにより、全ての駆動チャネルから同時にインクを吐出することが可能である。
【0003】
独立駆動タイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッドでは、各ダミーチャネル内の駆動電極は共通に接地又は共通の駆動信号を印加することができるため、従来では、同一チャネル列内の各ダミーチャネルの駆動電極を、ヘッドチップのチャネルが開口する面上で、1本の電極(共通電極)にまとめることで、駆動ICの数を低減させると共に、駆動回路との電気的接続の簡略化を図っている。この面と同一面上には、各駆動チャネルの駆動電極とそれぞれ導通する接続電極も個別に形成されている(特許文献1の図15、特許文献2、特許文献3の図2、図16)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−274327号公報
【特許文献2】特開2008−143167号公報
【特許文献3】特開平8−197728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、インクジェットヘッドは更なるコンパクト化、高密度化が要望されるようになり、ヘッドチップはより一層の小型化、薄型化が要請されている。このため、特許文献1の図15や特許文献2に記載のように、ヘッドチップの面上にチャネル列と平行に延びる共通電極を形成する場合、そのスペースは限られ、極めて細幅の共通電極しか形成することができなくなってきている。特に、複数のチャネル列を平行に有するヘッドチップの場合、チャネル列間のスペースは極めて狭小となり、この間に広幅の共通電極を形成することは困難である。
【0006】
共通電極の電極幅が小さい場合、そこを流れる電流密度が大きくなってしまい、過剰な電流が流れて、駆動チャネルから吐出される液滴速度が遅くなる等、射出特性に影響が出てしまう。特に、駆動電極に印加する駆動信号としてパルス信号を使用する場合、瞬間的に流れる電流量が非常に大きくなる性質があり、電流密度の増大化は大きな問題となる。
【0007】
ヘッドチップの面上において、共通電極の電極幅を大きくせずに電流密度を下げる方法として、共通電極の厚みを厚くする方法が考えられるが、例えばヘッドチップに使用される電極金属として一般的なアルミニウムの場合、通常は表面から5μm程度の厚みで形成される。これを更に厚く、例えば10μm以上に形成することは困難であり、ヘッドチップの面上に形成する共通電極の厚みを制御することによって電流密度を低下させることは現実的な方法ではない。
【0008】
そこで、本発明は、ヘッドチップが大型化することなく、ヘッドチップ上の限られたスペースに電流密度の小さな共通電極を備えた独立駆動型のインクジェットヘッドを提供することを課題とする。
【0009】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0011】
請求項1記載の発明は、チャネルと圧電素子からなる駆動壁とが交互に配置されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されると共に、前記チャネル列がインク吐出を行う駆動チャネルとインク吐出を行わないダミーチャネルとが交互に配置されて構成されてなるヘッドチップを有し、前記駆動電極に電圧を印加することによって、前記駆動チャネル内のインクを前記ヘッドチップの前面に配置されたノズルから吐出させるインクジェットヘッドであって、
前記ヘッドチップは、後面に、前記駆動チャネル内の前記駆動電極と導通する接続電極が形成され、前面に、複数の前記ダミーチャネル内の前記駆動電極と共通に導通する共通電極が形成されていると共に、前記駆動チャネル及び前記ダミーチャネルの他に、前面から後面に貫通する貫通孔を有しており、
前記共通電極は、前記貫通孔内を通って前記ヘッドチップの後面に引き出されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0012】
請求項2記載の発明は、前記貫通孔は、前記ヘッドチップに複数設けられており、
前記共通電極は、複数の前記貫通孔を通って前記ヘッドチップの後面に引き出されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0013】
請求項3記載の発明は、前記貫通孔は、前記チャネル列よりも該チャネル列方向の外側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0014】
請求項4記載の発明は、前記ヘッドチップは、複数並設されたチャネル列を有しており、
前記貫通孔及び前記共通電極は、前記チャネル列毎にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のインクジェットヘッドである。
【0015】
請求項5記載の発明は、前記インクジェットヘッドは、更に前記ヘッドチップの後面に接合される配線基板を有し、前記配線基板は、前記接続電極と前記後面に引き出された前記共通電極とに各々対応して接続される複数の配線電極を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ヘッドチップが大型化することなく、ヘッドチップ上の限られたスペースに電流密度の小さな共通電極を備えた独立駆動型のインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドの分解斜視図
【図2】ヘッドチップの部分正面図
【図3】ヘッドチップの部分背面図
【図4】図2の(iv)−(iv)線に沿う断面図
【図5】図4中のE1領域の部分拡大断面図
【図6】図4中のE2領域の部分拡大断面図
【図7】図4中のE3領域の部分拡大断面図
【図8】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例の説明図
【図9】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例の説明図
【図10】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例の説明図
【図11】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例の説明図
【図12】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例の説明図
【図13】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例の説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明におけるヘッドチップは、チャネルと圧電素子からなる駆動壁とが交互に配置されてなるチャネル列を有している。ヘッドチップは、前面及び後面にそれぞれチャネルの開口部が対向して配置される。各チャネルは、後面の開口部(チャネルの入口)から前面の開口部(チャネルの出口)にかけて断面形状が変化しないストレート状に形成され、各チャネル内に臨む駆動壁の表面には駆動電極が形成される。このようなヘッドチップは、六面体からなるいわゆるハーモニカ型のヘッドチップであり、駆動壁両面の各駆動電極に、駆動回路から送られる所定電圧の駆動信号を印加することによって駆動壁をせん断変形させ、チャネル内に供給されたインクに吐出のための圧力変化を与え、ヘッドチップの前面に配置されたノズルからインク滴として吐出させる。
【0019】
本発明では、このような六面体のハーモニカ型のヘッドチップにおいて、ノズルが配置されてインクが吐出される側の面を「前面」、その反対側の面を「後面」と定義する。また、ヘッドチップの前面又は後面と平行な方向であって該ヘッドチップから離れる方向をヘッドチップの「側方」と定義する。
【0020】
本発明におけるチャネル列は、駆動チャネルとダミーチャネルとが交互に配置される独立駆動型のヘッドチップである。ヘッドチップの後面には、駆動チャネル内の駆動電極と導通する駆動チャネル用接続電極が個別に形成され、前面には、複数のダミーチャネル内の駆動電極のみに共通に導通する共通電極が形成されている。
【0021】
駆動チャネルとは、画像記録時に画像データに応じてノズルからインク吐出を行うチャネルであり、ダミーチャネルとは、画像データに関わらず、常にインク吐出を行わないチャネルである。ダミーチャネルはインク吐出を行う必要がないため、一般に入口側の開口部が閉塞されてインク充填されないか、ノズルプレートにダミーチャネルに対応するノズルが形成されない。
【0022】
ヘッドチップには、駆動チャネル及びダミーチャネルの他に、前面から後面に貫通する貫通孔を有している。貫通孔はチャネル構造であることが好ましい。ヘッドチップの作製時に、駆動チャネル及びダミーチャネルと同時に溝加工することによって簡単に形成することができるためである。チャネル構造の貫通孔は、ダミーチャネルと同様、インク吐出を行わないチャネルである。
【0023】
ヘッドチップの前面に形成される共通電極は、この貫通孔内を通ってヘッドチップの後面に電気的に引き出されている。従って、ヘッドチップの前面には、駆動チャネルの接続電極は存在せず、共通電極だけを形成できるので、この前面を利用して十分に広幅な大面積の電流密度の小さい共通電極を形成することができる。このため、共通電極の抵抗を十分小さくすることが可能で、安定した射出が可能となる。
【0024】
また、ヘッドチップの面には、駆動チャネルに対応する接続電極が配列されると共に、共通電極の一端が貫通孔を通って配置されるので、ヘッドチップの後面において各接続電極と共通電極とに対する駆動信号の印加を行うことが可能となる。ヘッドチップの後面に引き出された共通電極の一端には、駆動信号の印加のための接続部が形成される。
【0025】
共通電極は貫通孔内を通るので、電極部分が表面に露出せず、埃やインク等の水分の付着に起因する短絡等の心配がない。しかも、貫通孔の内面の例えば底面と側面といった具合に2面以上を利用することができるので、ヘッドチップの表面の1面のみを利用して平面的に電極を配線して導通させるよりも多くの電気的接続領域をとることができる。従って、高信頼性である。しかも、余計な部品を使って電極を引き回す必要がないため、インクジェットヘッドのコンパクト化を阻害することもない。
【0026】
また、駆動チャネルやダミーチャネルと同様のチャネル構造とすることで、通常の貫通電極用穴あけ加工のようにアスペクト比の制約もないため、L長(インク吐出方向のチャネルの駆動部分の長さ)が長くても対応可能である。
【0027】
共通電極が貫通孔内を通るために、貫通孔の内面には共通電極と導通する金属膜からなる貫通電極が形成される。また、貫通孔の内部全体を導電性ペースト等の金属材料で埋めて共通電極と導通させるようにしてもよく、更に、貫通孔内にAl線やCu線等の金属線を埋め込むことで共通電極と導通させるようにしてもよい。貫通孔の内部を金属材料や金属線で埋めるようにすることで、貫通孔の部分での抵抗値を下げることができる。
【0028】
貫通孔をチャネル構造とした場合は、駆動チャネル及びダミーチャネル内に駆動電極を形成するのと同時に貫通孔内に金属膜からなる貫通電極を形成することができる。
【0029】
貫通孔はヘッドチップに複数設けることが好ましい。この場合、共通電極は、複数の貫通孔を通ってヘッドチップの後面に引き出される。このように複数の貫通孔を利用して共通電極をヘッドチップの後面まで引き出すようにしても、貫通孔の部分での抵抗値を下げることができる。
【0030】
貫通孔は、チャネル列よりも該チャネル列方向の外側(ヘッドチップのチャネル方向の端部側)に配置されることが好ましい。これにより、ヘッドチップの後面に接続電極と、この後面に配置される共通電極の接続部とを交差(短絡)することなく区別して配置させることが容易となる。貫通孔はチャネル列方向のいずれか一方の外側にあればよい。
【0031】
本発明において、ヘッドチップは複数並設されたチャネル列を有していてもよい。各チャネル列は、それぞれ駆動チャネルとダミーチャネルとを交互に有する。この場合、貫通孔はチャネル列毎に設けられ、共通電極はチャネル列間で短絡しないようにそれぞれ設けられる。
【0032】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0033】
図1は本発明に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、図2はそのヘッドチップの部分正面図、図3はそのヘッドチップの部分背面図、図4は図2の(iv)−(iv)線に沿う断面図、図5は図4中のE1領域の部分拡大断面図、図6は図4中のE2領域の部分拡大断面図、図7は図4中のE3領域の部分拡大断面図である。
【0034】
図1において、1はハーモニカ型のヘッドチップ、2はノズルプレート、3は配線基板、4は電気配線部材である。
【0035】
ヘッドチップ1は、A列、B列の2列のチャネル列を有している。ここでは、図2、図3中の下側のチャネル列をA列、上側のチャネル列をB列とする。各チャネル列は、それぞれ駆動チャネル11A、11Bとダミーチャネル12A、12Bとが交互に配置されている。隣接する駆動チャネル11A又は11Bとダミーチャネル12A又は12Bとの間は圧電素子からなる駆動壁13A又は13Bとなっている。各駆動チャネル11A、11Bと各ダミーチャネル12A、12Bは、ヘッドチップ1の前面1aと後面1bとにそれぞれ開口しており、その内面には駆動電極14A、14Bがそれぞれ密着形成されている。
【0036】
ヘッドチップ1の後面1bには、一端が駆動チャネル11A、11B内の駆動電極14A、14Bと導通する接続電極15A、15Bが形成されている。各接続電極15A、15Bの他端は、A列ではヘッドチップ1の後面1bにおけるチャネル列と平行な一方の端縁1cまで延び、該端縁1cに各駆動チャネル11Aと同ピッチで配列されている。B列ではA列において隣接する駆動チャネル11Aとダミーチャネル12Aとの間の駆動壁13A上を通って、同じく端縁1cまで延び、接続電極15Aと交互となるように配列されている。
【0037】
A列及びB列の各チャネル列の該チャネル列方向の外側には、それぞれヘッドチップ1の前面1aから後面1bにかけて貫通する複数の貫通孔16A、16Bが設けられている。各貫通孔16A、16Bは、駆動チャネル11A、11B及びダミーチャネル12A、12Bと同様のチャネル構造である。
【0038】
ヘッドチップ1の前面1aには、それぞれチャネル列方向に延びる広幅の共通電極17A、17Bがチャネル列毎に短絡しないように分かれて形成されている。各共通電極17A、17Bは、対応するチャネル列を取り囲み、そのうちの駆動チャネル11A、11Bの開口部の周囲からは離間しているが、各ダミーチャネル12A、12Bの開口部から内部に侵入して、該ダミーチャネル12A、12B内の駆動電極14A、14Bのみと導通している(図5参照)。
【0039】
共通電極17A、17Bは、それぞれA列又はB列の対応する全ての貫通孔16A、16Bを取り囲むように設けられている。貫通孔16A、16Bの内面には、図5に示すように、金属膜からなる貫通電極161A、161Bが形成されており、共通電極17A、17Bは貫通孔16A、16Bの前面1a側の開口部から内部に侵入して、貫通電極161A、161Bと導通している(図6参照)。
【0040】
なお、図2〜図4において、符号18は、後述するヘッドチップ1の作製時に、余剰の接着剤を受け入れるための接着剤受け溝である。ここでは複数の接着剤受け溝18が、A列のチャネル列の最外端のチャネルと貫通孔16Aの間に、チャネル列方向に沿って配列されている。共通電極17Aは、これら接着剤受け溝18の前面1a側の開口部の周囲からは離間するように設けられている。
【0041】
ヘッドチップ1の前面1aに設けられた共通電極17A、17Bは、貫通孔16A、16B内の貫通電極161A、161Bを介してヘッドチップ1の後面1bに電気的に引き出されている。ヘッドチップ1の後面1bには、貫通孔16A、16Bの開口部を取り囲むように共通電極17A、17Bの後面1b側の接続部171A、171Bが設けられている。接続部171A、171Bは、貫通孔16A、16Bの後面1b側の開口部から内部に侵入して、貫通電極161A、161Bと導通している(図7参照)。
【0042】
接続部171Aは、全ての貫通孔16Aを取り囲む大きさの面積を有すると共に、各接続電極15A、15Bと同様にヘッドチップ1の端面1cまで広幅のまま延びている。また、接続電極171Bは、全ての貫通孔16Bを取り囲む大きさの面積を有すると共に、接着剤受け溝18の後面1b側の開口部を全て取り囲み、接続部171AとA列の最外端のチャネルとの間を通って、接続部171Aと同様にヘッドチップ1の端面1cまで広幅のまま延びている。従って、ヘッドチップ1の後面1bの端縁1cには、各接続電極15A、15Bに加えて、その外側に共通電極17A、17Bの接続部171A、171Bも配列されている。
【0043】
なお、図5〜図7において、符号19はヘッドチップ1の表面に形成されたパリレン膜等の絶縁保護膜である。絶縁保護膜19は、駆動電極14A、14B、接続電極15A、15B、共通電極17A、17B、その接続部171A、171B及び貫通電極161A、161Bのそれぞれの表面を覆ってインクとの接触から保護する。
【0044】
ノズルプレート2は、ヘッドチップ1の前面1aに接合されている。ノズルプレート2には、A列及びB列の各駆動チャネル121に対応する位置にのみノズル21が開設されている。
【0045】
配線基板3は、ヘッドチップ1の後面1bに接着剤によって接合される。配線基板3は、例えばガラス、シリコン、セラミックス等によってヘッドチップ1の後面1bよりも大判な平板状に形成された基板である。ヘッドチップ1の後面1bと接合する接合領域(図1中の一点鎖線で示される領域)31内には、ヘッドチップ1の後面1bに開口する駆動チャネル11A、11Bに対応する位置のみに、配線基板3の背面側(ヘッドチップ1とは反対面側)に設けられる不図示の共通インク室から各駆動チャネル11A、11B内に共通にインクを供給するためのインク供給口32A、32Bが個別に開設されている。従って、ヘッドチップ1のダミーチャネル12A、12Bの入口側の開口部は配線基板3によって閉塞され、共通インク室からインクが供給されないようになっている。また、貫通孔16A、16B及び接着剤受け溝18の後面1b側も、配線基板3によって閉塞される。
【0046】
配線基板3におけるヘッドチップ1と接合される側の面(以下、表面という。)には、ヘッドチップ1の後面1bに配列されている各接続電極15A、15Bと電気的接続される配線電極33A、33B及び共通電極17A、17Bの接続部171A、171Bと電気的接続される配線電極34A、34Bが、配線基板3の表面上においてヘッドチップ1のチャネル列と直交する方向に延びるように、蒸着又はスパッタリング等によって形成されている。
【0047】
配線電極33A、33Bの一端は、ヘッドチップ1の各接続電極15A、141と接するべく接合領域31内に位置し、他端は、該接合領域31からヘッドチップ1のチャネル列と直交する側方に張り出した配線基板3の端部3aまで延び、該端部3aにおいて配列されている。また、同様に、配線電極34A、34Bの一端は、ヘッドチップ1の各接続部171A、171Bと接するべく接合領域31内に位置し、他端は、同じく配線基板3の端部3aまで延び、該端部3aにおいて配列されている。
【0048】
電気配線部材4は配線基板3の表面側の端部3aに接合され、不図示の駆動回路からの駆動信号を、配線基板3の配線電極33A、33B、34A、34B、接続電極15A、15B、共通電極17A、17Bを利用して、それぞれ駆動電極14A、14Bに印加する。電気配線部材4としては、フレキシブルプリント基板(FPC)が好ましく使用できる。
【0049】
次に、このようなインクジェットヘッドの製造方法の一例について図8〜図13を用いて説明する。
【0050】
まず、それぞれ分極された圧電材料基板101、102を用意し、それらの分極方向(図8中の矢印で示す)を異ならせて積層し、エポキシ系接着剤によって接合することで積層基板100を作製する。上側の圧電材料基板102の上面には、予めレジスト103を形成しておき、その上面側からダイシングソー400を用いて、後に駆動チャネル及びダミーチャネルとなる複数のチャネル溝104と、後に貫通孔となる複数のチャネル溝105を加工する。なお、この工程では、チャネル溝104と105の間に、接着剤受け溝となる複数の溝106も加工される。各チャネル溝104、105は、いずれも積層基板100の一端から他端にかけて、下側の圧電材料基板101の中途部に至る所定の深さで、平行な溝状に形成される。また、各溝106も、積層基板100の一端から他端にかけて、所定の深さで、平行な溝状に形成される。(図8)。
【0051】
次いで、チャネル溝104、105及び溝106が形成された積層基板100に対し、その上面側から蒸着又はスパッタリングによって金属膜を形成した後、レジスト103を除去すると、駆動チャネル及びダミーチャネルとなる各チャネル溝104の内面全面(両側面及び底面)に残存する金属膜によって駆動電極14が形成され、貫通孔となる各チャネル溝105の内面全面(両側面及び底面)に残存する金属膜によって貫通電極161が形成される(図9)。
【0052】
また、このとき、接着剤受け溝となる各溝106の内面全面にも同様に金属膜が残存する。
【0053】
次いで、駆動電極14及び貫通電極161が形成された積層基板100の上面に、同様にしてチャネル溝104、105及び溝106と駆動電極14及び貫通電極161を形成した積層基板100’を積層し、更にその積層基板100’の上面に、圧電材料基板101、102と同じ圧電材料基板(非分極)等からなるカバー基板200を被覆し、これらをエポキシ系接着剤によってそれぞれ接合する。これにより、積層基板100の各チャネル溝104、105及び各溝106の上方は積層基板100’によって閉塞されると共に、積層基板100’の各チャネル溝104、105の上方はカバー基板200によって閉塞され、駆動チャネル11及びダミーチャネル12が交互となる2列のチャネル列と複数の貫通孔16と、積層基板100と100’間の複数の接着剤受け溝18とが形成される(図10)。
【0054】
なお、ここでは上側の積層基板100’には接着剤受け溝18が形成される必要はない。この接着剤受け溝18は、下側の積層基板100と上側の積層基板100’との間に形成される接着剤層の余剰の接着剤を受け入れると共に、接着剤層中の気泡の排出を行うことで、ヘッドチップ1の後面1bにおいて両積層基板100、100’間を跨るように形成される接続部171B(図3参照)が、両積層基板100、100’間で確実に導通し得るようにしている。
【0055】
このように積層基板100、100’とカバー基板200とを、各チャネル11、12の開口面が同一面となるように向きを合わせて積層することで、チャネル列が2列となるヘッド基板300を作製する。得られたヘッド基板300は、各チャネル11、12が長い長尺基板であるため、各チャネル11、12の長さが所望の長さ(L長)となるように、ダイシングソーを用いて、図11中のc−c線に沿うように、各チャネル11、12の長さ方向と直交する方向にフルカットすることによって、1枚のヘッド基板300から複数のヘッドチップ1を作製する(図11)。
【0056】
次いで、ヘッドチップ1の前面1a及び後面1bに、それぞれドライフィルム500を貼着し、露光現像によって、前面1aにおいて共通電極を形成すべき領域501A、501Bと、後面1bにおいて接続電極を形成すべき領域502A、502B及び共通電極の接続部を形成すべき領域503A、503Bのドライフィルム500を除去する。これにより、これら各領域501A、501Bではヘッドチップ1の前面1aが露出し、各領域502A、502B、503A、503Bではヘッドチップ1の後面1bが露出する(図12、図13)。
【0057】
前面1aの領域501A、501B内には、ダミーチャネル12A、12Bの各開口部と貫通孔16A、16Bの各開口部とが露出しているが、駆動チャネル11A、11Bの各開口部と接着剤受け溝18の各開口部とはドライフィルム500によって塞がれている。
【0058】
また、後面1bの領域502A、502Bは、駆動チャネル11A、11Bの各開口部と連設して露出しているが、ダミーチャネル12A、12Bの各開口部はドライフィルム500によって塞がれている。
【0059】
更に、同じく後面1bの領域503A、503B内には、ダミーチャネル12A、12Bの各開口部と貫通孔16A、16Bの各開口部と接着剤受け溝18の各開口部とが露出している。
【0060】
その後、このヘッドチップ1の前面1a及び後面1bに対し、蒸着又はスパッタリングによって金属膜を形成する。金属膜は前面1a側でダミーチャネル12A、12Bの各開口部と貫通孔16A、16Bの各開口部から内部に侵入し、駆動電極14A、14B及び貫通電極161A、161Bと導通する。
【0061】
また、後面1bでは、金属膜は駆動チャネル11A、11Bの各開口部と貫通孔16A、16Bの各開口部から内部に侵入し、それぞれ駆動電極14A、14B、貫通電極161A、161Bと導通する。このとき、後面1bに露出する接着剤受け溝18の内部にも金属膜が侵入するが、接着剤受け溝18の前面1a側は、ドライフィルム500で塞がれているため、接着剤受け溝18内の金属膜を介して前面1a側の金属膜と短絡するようなことはない。
【0062】
このようにして金属膜を形成した後、ドライフィルム500を除去することで、図2、図3に示したように、前面1aの領域501A、501B内には金属膜によってそれぞれ共通電極17A、17Bが形成され、後面1bの領域502A、502B内にはそれぞれ接続電極15A、15Bが形成され、同じく後面1bの領域503A、503B内にはそれぞれ共通電極17A、17Bの接続部171A、171Bが形成される。
【0063】
その後、ヘッドチップ1の後面1b以外の外面と各駆動電極14A、14Bの表面と各貫通電極161A、161Bの表面に、各電極を保護するための絶縁保護膜19を被覆形成する。
【0064】
このようにして作製されたヘッドチップ1の前面1aには、ノズル21が形成されたノズルプレート2がエポキシ系接着剤によって接合され、後面1bには、インク供給口32A、32B及び配線電極33A、33B、34A、34Bが形成された配線基板3をエポキシ系接着剤又は異方性導電性接着剤によって、各接続電極15A、15B及び各接続部171A、171Bと各配線電極33A、33B、34A、34Bとがそれぞれ電気的に接続されるように接合し、更に、配線基板3の背面側に不図示のマニホールドをエポキシ系接着剤によって接合する。
【0065】
配線基板3の端部3aには、不図示の駆動回路からの駆動信号を印加するための電気配線部材4が異方性導電性フィルム等を介して接合される。
【符号の説明】
【0066】
1:ヘッドチップ
1a:前面
1b:後面
1c:端縁
11A、11B:駆動チャネル
12A、12B:ダミーチャネル
13A、13B:駆動壁
14A、14B:駆動電極
15A、15B:接続電極
16A、16B:貫通孔
161A、161B:貫通電極
17A、17B:共通電極
171A、171B:共通電極の接続部
18:接着剤受け溝
19:絶縁保護膜
2:ノズルプレート
21:ノズル
3:配線基板
31:接合領域
32A、32B:インク供給口
33A、33B:配線電極
34A、34B:配線電極
4:電気配線部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネルと圧電素子からなる駆動壁とが交互に配置されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されると共に、前記チャネル列がインク吐出を行う駆動チャネルとインク吐出を行わないダミーチャネルとが交互に配置されて構成されてなるヘッドチップを有し、前記駆動電極に電圧を印加することによって、前記駆動チャネル内のインクを前記ヘッドチップの前面に配置されたノズルから吐出させるインクジェットヘッドであって、
前記ヘッドチップは、後面に、前記駆動チャネル内の前記駆動電極と導通する接続電極が形成され、前面に、複数の前記ダミーチャネル内の前記駆動電極と共通に導通する共通電極が形成されていると共に、前記駆動チャネル及び前記ダミーチャネルの他に、前面から後面に貫通する貫通孔を有しており、
前記共通電極は、前記貫通孔内を通って前記ヘッドチップの後面に引き出されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記ヘッドチップに複数設けられており、
前記共通電極は、複数の前記貫通孔を通って前記ヘッドチップの後面に引き出されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記チャネル列よりも該チャネル列方向の外側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ヘッドチップは、複数並設されたチャネル列を有しており、
前記貫通孔及び前記共通電極は、前記チャネル列毎にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドは、更に前記ヘッドチップの後面に接合される配線基板を有し、
前記配線基板は、前記接続電極と前記後面に引き出された前記共通電極とに各々対応して接続される複数の配線電極を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−25119(P2012−25119A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168470(P2010−168470)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】