インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法
【課題】記録ヘッドの小型化と低コスト化をさらに進展できるようにしたインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】流路形成基板1と、流路形成基板1の表面に形成された圧力発生室3と、流路形成基板1に形成されて圧力発生室3に連通するノズル開口部5と、流路形成基板1の表面側に形成されて圧力発生室3を覆う振動膜7と、振動膜7を挟んで圧力発生室3と対向する領域に形成された圧電素子10と、流路形成基板1の表面であって圧力発生室3と並ぶ領域に形成されたドライバ回路9と、流路形成基板1の表面側に形成されて、ドライバ回路9と圧電素子10とを接続する配線層25と、を備える。
【解決手段】流路形成基板1と、流路形成基板1の表面に形成された圧力発生室3と、流路形成基板1に形成されて圧力発生室3に連通するノズル開口部5と、流路形成基板1の表面側に形成されて圧力発生室3を覆う振動膜7と、振動膜7を挟んで圧力発生室3と対向する領域に形成された圧電素子10と、流路形成基板1の表面であって圧力発生室3と並ぶ領域に形成されたドライバ回路9と、流路形成基板1の表面側に形成されて、ドライバ回路9と圧電素子10とを接続する配線層25と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電素子を駆動するための回路(以下、ドライバ回路という。)はIC素子として別基板に製造されたものが記録ヘッドに装着され、各圧電素子とIC素子との接続はワイヤーボンディングで行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−254639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年では、インクジェット式記録ヘッドの小型化や高性能化を目的に、ノズル開口部の高密度化と圧電素子の狭ピッチ化が進んでいる。
しかしながら、ワイヤーボンディングによりIC素子の出力端子と圧電素子とを接続する場合は、ワイヤー同士を少なくとも50μm以上離しておく(即ち、ワイヤーの間隔を50μm以上とする)必要があるため、面積を広く確保する必要がある。また、ワイヤーの被接合領域の上方に一定のスペースを確保して、ワイヤーを屈曲させる必要がある。このため、記録ヘッドの小面積化や低背化、圧電素子の狭ピッチ化、ノズル開口部の高密度化をさらに進展させることは難しく、ワイヤーボンディングによる接続は限界に近づきつつあった。
【0004】
また、特許文献1に開示された技術によれば、ドライバ回路を有する基板、圧力発生室を有する基板、ノズルを有する基板をそれぞれ別基板で構成しているため、部品点数が多く、低コスト化が難しいという課題があった。
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、記録ヘッドの小型化と低コスト化をさらに進展できるようにしたインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔発明1〕 上記目的を達成するために、発明1のインクジェット式記録ヘッドは、第1基板と、前記第1基板の一方の面に形成された圧力発生室と、前記第1基板に形成されて前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、前記第1基板の一方の面側に形成されて前記圧力発生室を覆う振動膜と、前記振動膜を挟んで、前記圧力発生室と対向する領域に形成された圧電素子と、前記第1基板の一方の面であって前記圧力発生室と並ぶ領域に形成された集積回路と、前記第1基板の一方の面側に形成されて、前記集積回路と前記圧電素子とを接続する配線層と、を備えることを特徴とするものである。ここで、本発明の「集積回路」は、例えば、インクジェット式記録ヘッドを駆動するためのドライバ回路である。
このような構成であれば、集積回路と、圧力発生室及びノズル開口部が全て第1基板に形成されているので、部品点数が少なくて済む。これにより、組立工程を簡素化することができるので、インクジェット式記録ヘッドの低コスト化が可能となる。
【0006】
〔発明2〕 発明2のインクジェット式記録ヘッドは、発明1のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記振動膜を挟んで、前記第1基板の一方の面側に接合された第2基板と、前記第2基板に形成されて前記圧力発生室に連通するリザーバと、をさらに備えることを特徴とするものである。
このような構成であれば、圧電素子の変位を直接振動膜に伝えることができ、リザーバから圧力発生室に供給されたインク液をノズル開口部から吐出させることができる。
【0007】
〔発明3〕 発明3のインクジェット式記録ヘッドは、発明2のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記第2基板に形成された開口部、をさらに備え、前記開口部は前記振動膜を底面とし、前記圧電素子は、前記振動膜を底面とする前記開口部内に配置されていることを特徴とするものである。
このような構成であれば、第2基板に圧電素子が伸長、縮小するためのスペースを確保することができると共に、集積回路と圧電素子とを接続するために必要なスペースが低減されるので、記録ヘッドの低背化や小面積化、圧電素子の狭ピッチ化、ノズル開口部の高密度化をそれぞれ進展させることができる。
【0008】
〔発明4〕 発明4のインクジェット式記録ヘッドは、発明1から発明3の何れか一のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記ノズル開口部は、前記第1基板の他方の面に開口していることを特徴とするものである。
このような構成であれば、第1基板の他方の面に向けてインク液を吐出することができる。
【0009】
〔発明5〕 発明5のインクジェット式記録ヘッドは、発明2から発明4の何れか一のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記第1基板と第2基板とを接合する接合層、をさらに備え、前記第1基板及び前記第2基板はそれぞれシリコンからなり、前記接合層はシリコン酸化膜からなることを特徴とするものである。
このような構成であれば、例えばCVD法や塗布法により、接合層を薄く形成することができるので、インクジェット式記録ヘッドのさらなる低背化に寄与することができる。また、有機物を含まないように接着層を高純度に形成することができるので、接着層を形成した後も高温を伴う処理を施すことが可能であり、熱履歴に対する許容度を高めることができる。
【0010】
〔発明6〕 発明6のインクジェット式記録ヘッドは、発明1から発明5の何れか一のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記配線層は、高融点金属からなることを特徴とするものである。ここで、高融点金属としては、例えば、タングステン(W)、チタン(Ti)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)等の単体金属や、これらを用いた合金やシリサイド金属等が挙げられる。
このような構成であれば、配線層を形成した後も高温を伴う処理を施すことが可能であり、熱履歴に対する許容度を高めることができる。
〔発明7〕 発明7のインクジェット式記録装置は、発明1から発明6の何れか一のインクジェット式記録ヘッドを具備したことを特徴とするものである。
このような構成であれば、発明1から発明6のインクジェット式記録ヘッドが応用されるので、インクジェット式記録装置の小型化と低コスト化が可能である。
【0011】
〔発明8〕 発明8のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、第1基板の一方の面に圧力発生室を形成する工程と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部を前記第1基板に形成する工程と、前記第1基板の一方の面であって前記圧力発生室と並ぶ領域に集積回路を形成する工程と、前記圧力発生室を覆う振動膜を前記第1基板の一方の面側に形成する工程と、前記振動膜を挟んで、前記圧力発生室と対向する領域に、圧電素子を形成する工程と、前記集積回路と前記圧電素子とを接続する配線層を前記第1基板の一方の面側に形成する工程と、を含むことを特徴とするものである。
このような方法であれば、部品点数を減らすことができ、組立工程を簡素化することができる。これにより、インクジェット式記録ヘッドの低コスト化が可能となる。
【0012】
〔発明9〕 発明9のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明8のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記振動膜を形成する工程は、第2基板の一方の面に振動膜を形成する工程と、前記振動膜が形成された前記第2基板の一方の面を前記第1基板の一方の面側に接合する工程と、を有することを特徴とするものである。
このような方法であれば、前記第1基板と前記第2基板を容易に接合でき、かつ、ワイヤーボンディングに依らずに集積回路と圧電素子との接続を実現することができ、記録ヘッドの低背化や小面積化、圧電素子の狭ピッチ化、ノズル開口部の高密度化をそれぞれ進展させることができる。また、部品点数を減らすことができ、組立工程を簡素化することができる。これにより、インクジェット式記録ヘッドの低コスト化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す断面図である。また、図2は、インクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す下面図である。図1及び図2に示すように、このインクジェット式記録ヘッド100は、例えば、流路形成基板1と、流路形成基板1の一方の面(例えば、表面)に形成された圧力発生室3と、流路形成基板1の表面に形成されて圧力発生室3に連通するノズル開口部5と、流路形成基板1の表面側に形成されて前記圧力発生室3を覆う振動膜7と、流路形成基板1の表面であって圧力発生室3と並ぶ領域に形成されたドライバ回路9と、振動膜7を挟んで圧力発生室3と対向する領域に配置された圧電素子10と、流路形成基板1の表面側に配置された配線層21、23、25と、振動膜7を挟んで流路形成基板1の表面側に接合された弾性膜形成基板51と、弾性膜形成基板51に形成されて圧力発生室3に連通するリザーバ30と、を備える。
【0014】
これらの中で、流路形成基板1は、例えば面方位(100)のバルクシリコン基板である。この流路形成基板1は、例えば、50μm〜500μmの厚さを有し、個々に区画された複数の圧力発生室3(圧力室、又は、インクキャビティと呼ぶこともできる)が形成されている。圧力発生室3にはリザーバ30からインク液が供給される。圧力発生室3の深さ(即ち、流路形成基板1の表面から圧力発生室3の底面までの距離)は、例えば10μm〜50μm程度である。
振動膜7は弾性膜であり、流路形成基板1の表面側に配置されて圧力発生室3を覆っている。この振動膜7は、例えばシリコン酸化(SiO2)膜若しくはシリコン窒化(Si3N4)膜、又は、これらを積層した膜からなる。振動膜7の厚さは、例えば100nm〜10μm程度である。なお、図1では、振動膜7の一例として、第1の弾性膜6と第2の弾性膜8とからなる積層構造の膜を示している。第1の弾性膜6の厚さは、例えば1nm〜10μm程度である。また、第2の弾性膜8の厚さは、例えば、1nm〜10μm程度である。
【0015】
また、ノズル開口部5は、流路形成基板1を貫通するように形成されており、その一端が流路形成基板1の他方の面(例えば、裏面)で開口している。このインクジェット式記録ヘッド100において、圧力発生室3にインク液が供給された状態で振動膜7が振動すると、圧力発生室3内の圧力が変化して、圧力発生室3からノズル開口部5へインク液が送られる。そして、送られたインク液はノズル開口部5からその外(図1では、ノズル開口部5の上方)へ吐出される。なお、インク液に圧力を与える圧力発生室3の容積と、ノズル開口部5の大きさは、インク液の吐出量とその吐出スピード、吐出周波数などに応じて最適化されている。
【0016】
ドライバ回路9は、圧電素子10を駆動するための回路であり、いわゆるCMOSプロセスにより形成された集積回路である。
図3に示すように、ドライバ回路9は、その内部に例えばMOSトランジスタ等からなるスイッチ素子9aを複数有する。これらスイッチ素子9aは、圧電素子10と例えば1:1に対応している。そして、ドライバ回路9は、このようなスイッチ素子9aをオン、オフすることにより、それぞれの圧電素子10に対して電圧を選択的に印加する機能を有する。つまり、ドライバ回路9は個々の圧電素子10に対して印加される電圧のオン、オフを制御することができ、これにより、個々のノズル(即ち、1つの圧力発生室3とこれに連通するノズル開口部5)に対してインク液の吐出の有無を制御することができるようになっている。このような制御機能を有するドライバ回路9は、図1に示すように、流路形成基板1の表面であって、圧力発生室3と隣接する領域に形成されている(つまり、断面視で圧力発生室3と横並びとなるように形成されている。)。そして、このドライバ回路9の能動面(即ち、回路形成面)には複数個の外部接続端子(即ち、バンプ電極)9bが形成されている。
【0017】
圧電素子10は、例えば、振動膜7と接する下部電極11と、下部電極11上に形成された圧電体13と、圧電体13上に形成された上部電極15とを有する。ここで、下部電極11は、例えば複数の圧電素子10にわたる共通の電極である。また、圧電体13は、電圧を加えると伸長、収縮する、又は、歪みが生じるような誘電体であり、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)である。さらに、上部電極15は、下部電極11とは異なり共通の電極ではなく、個々の圧電体13と1:1で対応した個別の電極である。このような構成の圧電素子10は、個々の圧力発生室3と対向する領域にそれぞれ設けられている。
【0018】
配線層25は、ドライバ回路9と圧電素子10とを接続するものである。図1に示すように、配線層25の一端はドライバ回路9が有するバンプ電極9bに接合され、配線層25の他端は圧電素子10の上部電極15に接続している。これにより、ドライバ回路9から圧電素子10に電圧を印加することが可能となっている。
また、図1に示す配線層21、23は、ドライバ回路9と図示しないメインボード上の集積回路とを接続するものである。ここで、メインボードとは、インクジェット式記録装置の内部に設けられた、記録ヘッド100以外の基板である。このメインボード上には、駆動波形生成部やベースドライバなどの集積回路が形成されている。これらの集積回路は、圧電素子10を駆動するための信号(即ち、駆動波形)を生成し、また必要に応じて、この信号を増幅する機能を有する。
【0019】
弾性膜形成基板51は、例えば面方位(100)又は(111)のバルクシリコン基板からなる。図1及び図2に示すように、この弾性膜形成基板51には、外部からインク液の供給を受けるリザーバ30が形成されている。リザーバ30は、弾性膜形成基板51の表面から裏面にかけて形成された貫通口からなり、前述の全ての圧力発生室3の容積よりも十分に大きい容積を持つように大きく形成されている。また、この弾性膜形成基板51には、前述の圧電素子10を収納するための開口部33も形成されている。この開口部33は、弾性膜形成基板51の表面から裏面にかけて形成されており、その底面の一部または全部は振動膜7となっている。なお、この弾性膜形成基板51は、その名称が示すように、弾性膜6、8を形成する際の下地としても使用されるが、その具体的な例については後で説明する。
【0020】
このような構成のインクジェット式記録ヘッド100は、図示しない外部インク供給手段からリザーバ30にインク液を取り込み、リザーバ30からノズル開口部5に至るまでの間をインク液で満たしておく。そして、ドライバ回路9により、圧電素子10の上部電極15と下部電極11との間に電圧を印加して圧電体13を伸長、収縮させ、又は、歪みを生じさせる。これにより、振動膜7が変形して圧力発生室3内の圧力が高まり、ノズル開口部5からインク液が吐出される。次に、このインクジェット式記録ヘッド100の製造方法について説明する。
【0021】
図4〜図20は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す断面図である。この製造方法は、流路形成基板1側の製造工程と、弾性膜形成基板51側の製造工程と、これら両基板を貼り合わせて一体化させる工程とに大別される。ここでは、始めに流路形成基板1側の製造工程について図4〜図8を参照しながら説明し、次に弾性膜形成基板51側の製造工程について図9〜図13を参照しながら説明する。その後、これら両基板1、51の表面同士を張り合わせて一体化させる工程等について、図14〜図20を参照しながら説明する。
【0022】
まず、流路形成基板1側の製造工程では、図4に示すように流路形成基板1の表面にドライバ回路9を形成する。ドライバ回路9の形成は、例えば通常のCMOSプロセスにより行う。なお、図示しないが、ドライバ回路9の内部に形成される配線(即ち、内部配線)は、少なくとも融点が700℃以上の材料を用いて形成する。例えば、タングステン(W)、チタン(Ti)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)等の単体金属や、これらを用いた合金やシリサイド金属等の高融点材料を用いて、内部配線を形成する。これにより、以降の熱処理を伴う工程(例えば、圧電体13を焼結する工程等)において、内部配線の溶融を防ぐことができる。
次に、ドライバ回路9が形成された流路形成基板1の表面に絶縁膜2を形成する。この絶縁膜2には、例えば、SiO2膜若しくはSi3N4膜、又は、これらを積層した膜である。この絶縁膜の形成は、例えばCVD法や塗布法により行う。
【0023】
次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、絶縁膜を部分的にエッチングして、ドライバ回路9の表面にあるパッド電極を底面に露出させたコンタクトホールを形成する。そして、このコンタクトホールを埋め込むように流路形成基板1の表面に導電膜を形成する。ここで、上記の内部配線と同様の理由から、この導電膜には、例えば、W、Ti、Pt、Ni、Cr、Cu等の単体金属やこれらを用いた合金やシリサイド金属等の高融点材料を用いる。高融点材料の形成は、例えばスパッタリングにより行う。続いて、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、この導電膜を部分的にエッチングして、コンタクトホール以外の領域から導電膜を取り除く。これにより、図5に示すように、導電膜からなるバンプ電極9bをコンタクトホール内に形成する。バンプ電極9bはドライバ回路9表面のパッド電極に接続しており、このバンプ電極9bを介して、ドライバ回路9は信号を授受することができる。
【0024】
次に、図6に示すように、バンプ電極9bが形成された流路形成基板1の表面側に接合絶縁膜4を形成する。この接合絶縁膜4は例えばSiO2膜であり、その形成は例えばCVD法や塗布法で行う。この接合絶縁膜4の厚さは、例えば10nm〜10μm程度である。
次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、この接合絶縁膜4を部分的にエッチングして、バンプ電極9bの表面を底面に露出させた開口部16を形成する。また、この開口部16の形成工程と前後するタイミングで、図7に示すように、圧力発生室3を形成する。ここでは、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、圧力発生室3の形成領域にある接合絶縁膜4と、絶縁膜2及び流路形成基板1の表面を順次、部分的にエッチングして、圧力発生室3を形成する。次に、図8に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、圧力発生室3の底面にノズル開口部5を形成する。ここでは、ノズル開口部5の先端(即ち、図8において、上側の端部)を流路形成基板1の裏面側に到達させない。以上で、流路形成基板1側の工程を終了する。
【0025】
次に、弾性膜形成基板51側の製造工程では、図9に示すように、弾性膜形成基板51の表面に弾性膜6を形成する。この弾性膜6は、例えばSiO2膜若しくはSi3N4膜、又は、これらを積層した膜からなる。また、ここでは、弾性膜形成基板51の表面に下地膜(例えば、Si3N4膜等)を形成し、下地膜の上に弾性膜6を形成するようにしても良い。
【0026】
次に、図10に示すように、振動膜7上にメインボード等に繋がる配線層23を形成する。ここでは、弾性膜6上に、例えば、W、Ti、Pt、Ni、Cr、Cu等の単体金属やこれらを用いた合金やシリサイド金属等の高融点材料からなる膜をスパッタリングで形成する。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、この高融点材料からなる膜を部分的にエッチングする。このような部分的なエッチング(即ち、パターニング)により、高融点材料からなる配線層23を形成する。次に、図11に示すように、配線層23が形成された弾性膜形成基板51の表面側に弾性膜(以下、接合絶縁膜ともいう。)8を形成する。この接合絶縁膜8は例えばSiO2膜であり、その形成は例えばCVD法や塗布法で行う。ここでは、接合絶縁膜を配線層23よりも厚膜に形成する。また、接合絶縁膜8の材料には、接合絶縁膜4(図6参照。)と同じ材料を用いることが好ましい。例えば、接合絶縁膜4がSiO2膜である場合は、接合絶縁膜8としてSiO2膜を形成することが好ましい。これにより、後の工程で、接合絶縁膜4、8同士を密着性高く接合することができる。なお、この実施形態では、このような接合絶縁膜(即ち、弾性膜)8と、弾性膜6とによって、振動膜7が構成される。
【0027】
次に、図12に示すように、例えばCMPにより、接合絶縁膜8の表面を研削して、接合絶縁膜8下から配線層23の表面を露出させる。そして、図13に示すように、配線層23の端部(即ち、ドライバ回路9のパッド電極と重なる位置)に配線層21を形成する。以上で、弾性膜形成基板51側の製造工程を終了する。
次に、図14に示すように、流路形成基板1の表面と、弾性膜形成基板51の表面を対向させ、この状態で流路形成基板1と弾性膜形成基板51とを張り合わせて一体化させる。つまり、流路形成基板1の表面と、弾性膜形成基板51の表面とを接合する。この接合は、例えば、接合絶縁膜4の表面と接合絶縁膜8の表面とを接触させた状態で両基板を加熱することにより行う。接合絶縁膜4、8が共にSiO2膜からなる場合、加熱温度は例えば900℃以上である。900℃以上の熱処理により、接合絶縁膜4、8の接触界面においてSiO2膜が軟化して密着する。これにより、接合絶縁膜4、8間に高い接合強度を持たせることができる。加熱する際の雰囲気は、酸素(O2)又はO2+水素(H2)等の酸化種を含んだ雰囲気中で行っても良いし、窒素(N2)又はアルゴン(Ar)等の不活性なガス雰囲気中で行って良い。
【0028】
或いは、上記の接合は、表面活性化法による常温接合で行っても良い。表面活性化法では、例えば高真空に排気したチャンバー内に流路形成基板1と弾性膜形成基板51を配置し、このチャンバー内で各基板の表面に例えばArなどをスパッタしてその表面を粗面化する。そして、高真空に維持されたチャンバー内で、これら両基板の粗面化された表面を接触させることにより、両基板の表面を接合させる。この表面活性化法では、両基板を常温で接合することができるので、ドライバ回路9に対する熱履歴の付加が無いという利点がある。
【0029】
次に、図15に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、弾性膜形成基板51をその裏面側から部分的にエッチングして、振動膜7の裏面側を露出させる。これにより、弾性膜形成基板51の圧電素子形成領域に振動膜7を底面とする開口部33を形成する。また、この開口部33の形成工程と前後して、或いは並行して、弾性膜形成基板51にリザーバ30を形成する。即ち、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、弾性膜形成基板51をその裏面側から部分的にエッチングして、弾性膜形成基板51のインク液供給領域に貫通口からなるリザーバ30を形成する。このリザーバ30の形成工程では、弾性膜形成基板51のインク供給領域を圧力発生室3まで完全に貫通させる。
【0030】
なお、上記の開口部33の形成工程やリザーバ30の形成工程において、弾性膜形成基板51のエッチングはドライエッチングで行っても良いし、ウェットエッチングで行っても良い。弾性膜形成基板51がシリコンからなる場合は、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて弾性膜形成基板51をウェットエッチングすることが可能である。
なお、弾性膜形成基板51のエッチングをウェットエッチングで行う場合は、面方位(110)のバルクシリコン基板が弾性膜形成基板51に適している。また、弾性膜形成基板51のエッチングをドライエッチングで行う場合は、面方位(100)のバルクシリコン基板が弾性膜形成基板51に適している。
【0031】
次に、図16に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、振動膜7と、接合絶縁膜4を順次、部分的にエッチングして、バンプ電極9bの表面を底面に露出させた開口部35を形成する。そして、これ以降の工程では、個々の圧力発生室3に対応して、振動膜7の裏面側(即ち、振動膜7を挟んで圧力発生室3と対向する領域)に圧電素子10を形成する。
【0032】
具体的には、図17に示すように、まず、下部電極11と配線層25とを形成する。ここでは、始めに、振動膜7の裏面側に下部電極膜を形成する。下部電極膜の形成は、例えばスパッタリング法により行う。また、下部電極膜の材料としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等が好適である。その理由は、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体膜は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。下部電極膜の材料には、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持することができるような材料を選択して用いる必要がある。特に、圧電体膜としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないような材料を選択して用いることが望ましい。このような条件を満たす材料として、Pt、Ir等が好適である。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、下部電極膜を部分的にエッチングして、共通電極としての形状を有した下部電極11と、開口部35(図16参照。)内に埋め込まれてバンプ電極9bに接続する配線層25と、を形成する。図17に示すように、下部電極11と配線層25は互いに離れており繋がっていない。つまり、下部電極11と配線層25は、それぞれ電気的に独立している。
【0033】
次に、図18に示すように、圧電体13を形成する。ここでは、例えば、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布し乾燥してゲル化し、さらに高温で焼結すること(即ち、ゾルーゲル法)で圧電体膜を形成する。圧電体膜の材料としては、PZT系の材料が好適であり、その場合の焼結温度は例えば700℃程度である。なお、この圧電体膜の成膜方法は、ゾルーゲル法に限定されず、例えば、スパッタリング法、又は、MOD法(有機金属熱塗布分解法)などのスピンコート法により成膜しても良い。或いは、ゾルーゲル法又はスパッタリング法若しくはMOD法等によりPZTの前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法により成膜しても良い。このような方法により形成される圧電体膜の厚さは、例えば0.2〜5μmである。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、圧電体膜を部分的にエッチングして、下部電極11とその周辺領域(即ち、圧電体13形成領域)に圧電体膜を残し、それ以外の領域から圧電体膜を取り除く。これにより、圧電体13を形成する。
【0034】
次に、図19に示すように、上部電極15を形成する。ここでは、始めに、上部電極膜を成膜する。上部電極膜は、導電性の高い材料であれば良く、Al、金(Au)、ニッケル(Ni)、Pt等の金属膜や、導電性酸化物等を使用することができる。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、上部電極膜を部分的にエッチングして、配線層25に接続した上部電極15を形成する。これにより、振動膜7を挟んで圧力発生室3と対向する領域に、下部電極11と圧電体13と上部電極15とからなる圧電素子10が完成する。
なお、本実施形態では、下部電極11を圧電素子10の共通電極とし、上部電極15を圧電素子10の個別電極としているが、ドライバ回路9や配線の都合でこれを逆にしても良い。つまり、下部電極11を個別電極とし、上部電極15を共通電極としても良い。その場合は、配線層25は下部電極11と接続し、上部電極15とは接続しないように、下部電極膜と上部電極膜をそれぞれパターニングすれば良い。
【0035】
その後、図20に示すように、流路形成基板1の裏面全体を例えば数百μm研削して、ノズル開口部5の先端を開口させる。以上のような工程を経て、図1に示したインクジェット式記録ヘッド100が完成する。
このように、本発明の実施形態によれば、ワイヤーボンディングに依らずに、ドライバ回路9と圧電素子10とを接続することができる。これにより、流路形成基板の表面側において、ドライバ回路9と圧電素子10とを接続するために必要なスペースが低減されるので、記録ヘッドの低背化や小面積化、圧電素子の狭ピッチ化、ノズル開口部の高密度化をそれぞれ進展させることができる。
【0036】
例えば、ワイヤーボンディングによる接続では、ワイヤー同士を少なくとも50μm以上離しておく(即ち、ワイヤーの間隔を50μm以上とする)必要があり、それゆえ、ノズル開口部5の密度について、360dpi(dot per inch:1インチ当たりのノズル数)以上の高密度化が困難であった。これに対し、本発明の実施形態によれば、配線層21、23、25の間隔を50μm以下とすることができるので、圧電素子10の狭ピッチ化、ノズル開口部5の高密度化が可能であり、ノズル開口部5の密度について、360dpi以上の高密度化を容易に達成することができる。また、バンプ電極9bの表面に至る開口部35は、厚さが数百nm〜数μm程度の接合絶縁膜4や振動膜7をエッチングすることにより形成されているので、その狭ピッチ化も可能である。
【0037】
さらに、ドライバ回路9と、圧力発生室3及びノズル開口部5が全て流路形成基板1に形成されているので、部品点数が少なくて済む。これにより、組立工程を簡素化することができるので、インクジェット式記録ヘッドの低コスト化が可能となる。
また、上記のインクジェット式記録ヘッド100を具備したインクジェット式記録装置によれば、インクジェット式記録装置の小型化と低コスト化が可能である。
この実施形態では、流路形成基板1が本発明の「第1基板」に対応し、流路形成基板1の裏面が本発明の「第1基板の一方の面」に対応し、流路形成基板1の表面が本発明の「第1基板の他方の面」に対応している。また、ドライバ回路9が本発明の「集積回路」に対応し、第1の弾性膜6と、第2の弾性膜(即ち、接合絶縁膜)8とからなる振動膜が本発明の「振動膜」に対応している。さらに、弾性膜形成基板51が本発明の「第2基板」に対応し、接合絶縁膜4、8が本発明の「接合層」に対応している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す断面図。
【図2】実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す下面図。
【図3】ドライバ回路9の機能の一例を示す図。
【図4】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その1)。
【図5】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その2)。
【図6】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その3)。
【図7】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その4)。
【図8】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その5)。
【図9】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その6)。
【図10】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その7)。
【図11】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その8)。
【図12】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その9)。
【図13】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その10)。
【図14】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その11)。
【図15】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その12)。
【図16】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その13)。
【図17】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その14)。
【図18】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その15)。
【図19】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その16)。
【図20】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その17)。
【符号の説明】
【0039】
1 基板、2 絶縁膜、3 圧力発生室、4 接合絶縁膜、5 ノズル開口部、6 弾性膜、7 振動膜、8 弾性膜(接合絶縁膜)、9 ドライバ回路、9a スイッチ素子、9b バンプ電極、10 圧電素子、11 下部電極、13 圧電体、15 上部電極、16、33、35 開口部、21、23、25 配線層、30 リザーバ、51 流路形成基板、100 インクジェット式記録ヘッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電素子を駆動するための回路(以下、ドライバ回路という。)はIC素子として別基板に製造されたものが記録ヘッドに装着され、各圧電素子とIC素子との接続はワイヤーボンディングで行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−254639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年では、インクジェット式記録ヘッドの小型化や高性能化を目的に、ノズル開口部の高密度化と圧電素子の狭ピッチ化が進んでいる。
しかしながら、ワイヤーボンディングによりIC素子の出力端子と圧電素子とを接続する場合は、ワイヤー同士を少なくとも50μm以上離しておく(即ち、ワイヤーの間隔を50μm以上とする)必要があるため、面積を広く確保する必要がある。また、ワイヤーの被接合領域の上方に一定のスペースを確保して、ワイヤーを屈曲させる必要がある。このため、記録ヘッドの小面積化や低背化、圧電素子の狭ピッチ化、ノズル開口部の高密度化をさらに進展させることは難しく、ワイヤーボンディングによる接続は限界に近づきつつあった。
【0004】
また、特許文献1に開示された技術によれば、ドライバ回路を有する基板、圧力発生室を有する基板、ノズルを有する基板をそれぞれ別基板で構成しているため、部品点数が多く、低コスト化が難しいという課題があった。
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、記録ヘッドの小型化と低コスト化をさらに進展できるようにしたインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔発明1〕 上記目的を達成するために、発明1のインクジェット式記録ヘッドは、第1基板と、前記第1基板の一方の面に形成された圧力発生室と、前記第1基板に形成されて前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、前記第1基板の一方の面側に形成されて前記圧力発生室を覆う振動膜と、前記振動膜を挟んで、前記圧力発生室と対向する領域に形成された圧電素子と、前記第1基板の一方の面であって前記圧力発生室と並ぶ領域に形成された集積回路と、前記第1基板の一方の面側に形成されて、前記集積回路と前記圧電素子とを接続する配線層と、を備えることを特徴とするものである。ここで、本発明の「集積回路」は、例えば、インクジェット式記録ヘッドを駆動するためのドライバ回路である。
このような構成であれば、集積回路と、圧力発生室及びノズル開口部が全て第1基板に形成されているので、部品点数が少なくて済む。これにより、組立工程を簡素化することができるので、インクジェット式記録ヘッドの低コスト化が可能となる。
【0006】
〔発明2〕 発明2のインクジェット式記録ヘッドは、発明1のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記振動膜を挟んで、前記第1基板の一方の面側に接合された第2基板と、前記第2基板に形成されて前記圧力発生室に連通するリザーバと、をさらに備えることを特徴とするものである。
このような構成であれば、圧電素子の変位を直接振動膜に伝えることができ、リザーバから圧力発生室に供給されたインク液をノズル開口部から吐出させることができる。
【0007】
〔発明3〕 発明3のインクジェット式記録ヘッドは、発明2のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記第2基板に形成された開口部、をさらに備え、前記開口部は前記振動膜を底面とし、前記圧電素子は、前記振動膜を底面とする前記開口部内に配置されていることを特徴とするものである。
このような構成であれば、第2基板に圧電素子が伸長、縮小するためのスペースを確保することができると共に、集積回路と圧電素子とを接続するために必要なスペースが低減されるので、記録ヘッドの低背化や小面積化、圧電素子の狭ピッチ化、ノズル開口部の高密度化をそれぞれ進展させることができる。
【0008】
〔発明4〕 発明4のインクジェット式記録ヘッドは、発明1から発明3の何れか一のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記ノズル開口部は、前記第1基板の他方の面に開口していることを特徴とするものである。
このような構成であれば、第1基板の他方の面に向けてインク液を吐出することができる。
【0009】
〔発明5〕 発明5のインクジェット式記録ヘッドは、発明2から発明4の何れか一のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記第1基板と第2基板とを接合する接合層、をさらに備え、前記第1基板及び前記第2基板はそれぞれシリコンからなり、前記接合層はシリコン酸化膜からなることを特徴とするものである。
このような構成であれば、例えばCVD法や塗布法により、接合層を薄く形成することができるので、インクジェット式記録ヘッドのさらなる低背化に寄与することができる。また、有機物を含まないように接着層を高純度に形成することができるので、接着層を形成した後も高温を伴う処理を施すことが可能であり、熱履歴に対する許容度を高めることができる。
【0010】
〔発明6〕 発明6のインクジェット式記録ヘッドは、発明1から発明5の何れか一のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記配線層は、高融点金属からなることを特徴とするものである。ここで、高融点金属としては、例えば、タングステン(W)、チタン(Ti)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)等の単体金属や、これらを用いた合金やシリサイド金属等が挙げられる。
このような構成であれば、配線層を形成した後も高温を伴う処理を施すことが可能であり、熱履歴に対する許容度を高めることができる。
〔発明7〕 発明7のインクジェット式記録装置は、発明1から発明6の何れか一のインクジェット式記録ヘッドを具備したことを特徴とするものである。
このような構成であれば、発明1から発明6のインクジェット式記録ヘッドが応用されるので、インクジェット式記録装置の小型化と低コスト化が可能である。
【0011】
〔発明8〕 発明8のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、第1基板の一方の面に圧力発生室を形成する工程と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部を前記第1基板に形成する工程と、前記第1基板の一方の面であって前記圧力発生室と並ぶ領域に集積回路を形成する工程と、前記圧力発生室を覆う振動膜を前記第1基板の一方の面側に形成する工程と、前記振動膜を挟んで、前記圧力発生室と対向する領域に、圧電素子を形成する工程と、前記集積回路と前記圧電素子とを接続する配線層を前記第1基板の一方の面側に形成する工程と、を含むことを特徴とするものである。
このような方法であれば、部品点数を減らすことができ、組立工程を簡素化することができる。これにより、インクジェット式記録ヘッドの低コスト化が可能となる。
【0012】
〔発明9〕 発明9のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明8のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記振動膜を形成する工程は、第2基板の一方の面に振動膜を形成する工程と、前記振動膜が形成された前記第2基板の一方の面を前記第1基板の一方の面側に接合する工程と、を有することを特徴とするものである。
このような方法であれば、前記第1基板と前記第2基板を容易に接合でき、かつ、ワイヤーボンディングに依らずに集積回路と圧電素子との接続を実現することができ、記録ヘッドの低背化や小面積化、圧電素子の狭ピッチ化、ノズル開口部の高密度化をそれぞれ進展させることができる。また、部品点数を減らすことができ、組立工程を簡素化することができる。これにより、インクジェット式記録ヘッドの低コスト化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す断面図である。また、図2は、インクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す下面図である。図1及び図2に示すように、このインクジェット式記録ヘッド100は、例えば、流路形成基板1と、流路形成基板1の一方の面(例えば、表面)に形成された圧力発生室3と、流路形成基板1の表面に形成されて圧力発生室3に連通するノズル開口部5と、流路形成基板1の表面側に形成されて前記圧力発生室3を覆う振動膜7と、流路形成基板1の表面であって圧力発生室3と並ぶ領域に形成されたドライバ回路9と、振動膜7を挟んで圧力発生室3と対向する領域に配置された圧電素子10と、流路形成基板1の表面側に配置された配線層21、23、25と、振動膜7を挟んで流路形成基板1の表面側に接合された弾性膜形成基板51と、弾性膜形成基板51に形成されて圧力発生室3に連通するリザーバ30と、を備える。
【0014】
これらの中で、流路形成基板1は、例えば面方位(100)のバルクシリコン基板である。この流路形成基板1は、例えば、50μm〜500μmの厚さを有し、個々に区画された複数の圧力発生室3(圧力室、又は、インクキャビティと呼ぶこともできる)が形成されている。圧力発生室3にはリザーバ30からインク液が供給される。圧力発生室3の深さ(即ち、流路形成基板1の表面から圧力発生室3の底面までの距離)は、例えば10μm〜50μm程度である。
振動膜7は弾性膜であり、流路形成基板1の表面側に配置されて圧力発生室3を覆っている。この振動膜7は、例えばシリコン酸化(SiO2)膜若しくはシリコン窒化(Si3N4)膜、又は、これらを積層した膜からなる。振動膜7の厚さは、例えば100nm〜10μm程度である。なお、図1では、振動膜7の一例として、第1の弾性膜6と第2の弾性膜8とからなる積層構造の膜を示している。第1の弾性膜6の厚さは、例えば1nm〜10μm程度である。また、第2の弾性膜8の厚さは、例えば、1nm〜10μm程度である。
【0015】
また、ノズル開口部5は、流路形成基板1を貫通するように形成されており、その一端が流路形成基板1の他方の面(例えば、裏面)で開口している。このインクジェット式記録ヘッド100において、圧力発生室3にインク液が供給された状態で振動膜7が振動すると、圧力発生室3内の圧力が変化して、圧力発生室3からノズル開口部5へインク液が送られる。そして、送られたインク液はノズル開口部5からその外(図1では、ノズル開口部5の上方)へ吐出される。なお、インク液に圧力を与える圧力発生室3の容積と、ノズル開口部5の大きさは、インク液の吐出量とその吐出スピード、吐出周波数などに応じて最適化されている。
【0016】
ドライバ回路9は、圧電素子10を駆動するための回路であり、いわゆるCMOSプロセスにより形成された集積回路である。
図3に示すように、ドライバ回路9は、その内部に例えばMOSトランジスタ等からなるスイッチ素子9aを複数有する。これらスイッチ素子9aは、圧電素子10と例えば1:1に対応している。そして、ドライバ回路9は、このようなスイッチ素子9aをオン、オフすることにより、それぞれの圧電素子10に対して電圧を選択的に印加する機能を有する。つまり、ドライバ回路9は個々の圧電素子10に対して印加される電圧のオン、オフを制御することができ、これにより、個々のノズル(即ち、1つの圧力発生室3とこれに連通するノズル開口部5)に対してインク液の吐出の有無を制御することができるようになっている。このような制御機能を有するドライバ回路9は、図1に示すように、流路形成基板1の表面であって、圧力発生室3と隣接する領域に形成されている(つまり、断面視で圧力発生室3と横並びとなるように形成されている。)。そして、このドライバ回路9の能動面(即ち、回路形成面)には複数個の外部接続端子(即ち、バンプ電極)9bが形成されている。
【0017】
圧電素子10は、例えば、振動膜7と接する下部電極11と、下部電極11上に形成された圧電体13と、圧電体13上に形成された上部電極15とを有する。ここで、下部電極11は、例えば複数の圧電素子10にわたる共通の電極である。また、圧電体13は、電圧を加えると伸長、収縮する、又は、歪みが生じるような誘電体であり、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)である。さらに、上部電極15は、下部電極11とは異なり共通の電極ではなく、個々の圧電体13と1:1で対応した個別の電極である。このような構成の圧電素子10は、個々の圧力発生室3と対向する領域にそれぞれ設けられている。
【0018】
配線層25は、ドライバ回路9と圧電素子10とを接続するものである。図1に示すように、配線層25の一端はドライバ回路9が有するバンプ電極9bに接合され、配線層25の他端は圧電素子10の上部電極15に接続している。これにより、ドライバ回路9から圧電素子10に電圧を印加することが可能となっている。
また、図1に示す配線層21、23は、ドライバ回路9と図示しないメインボード上の集積回路とを接続するものである。ここで、メインボードとは、インクジェット式記録装置の内部に設けられた、記録ヘッド100以外の基板である。このメインボード上には、駆動波形生成部やベースドライバなどの集積回路が形成されている。これらの集積回路は、圧電素子10を駆動するための信号(即ち、駆動波形)を生成し、また必要に応じて、この信号を増幅する機能を有する。
【0019】
弾性膜形成基板51は、例えば面方位(100)又は(111)のバルクシリコン基板からなる。図1及び図2に示すように、この弾性膜形成基板51には、外部からインク液の供給を受けるリザーバ30が形成されている。リザーバ30は、弾性膜形成基板51の表面から裏面にかけて形成された貫通口からなり、前述の全ての圧力発生室3の容積よりも十分に大きい容積を持つように大きく形成されている。また、この弾性膜形成基板51には、前述の圧電素子10を収納するための開口部33も形成されている。この開口部33は、弾性膜形成基板51の表面から裏面にかけて形成されており、その底面の一部または全部は振動膜7となっている。なお、この弾性膜形成基板51は、その名称が示すように、弾性膜6、8を形成する際の下地としても使用されるが、その具体的な例については後で説明する。
【0020】
このような構成のインクジェット式記録ヘッド100は、図示しない外部インク供給手段からリザーバ30にインク液を取り込み、リザーバ30からノズル開口部5に至るまでの間をインク液で満たしておく。そして、ドライバ回路9により、圧電素子10の上部電極15と下部電極11との間に電圧を印加して圧電体13を伸長、収縮させ、又は、歪みを生じさせる。これにより、振動膜7が変形して圧力発生室3内の圧力が高まり、ノズル開口部5からインク液が吐出される。次に、このインクジェット式記録ヘッド100の製造方法について説明する。
【0021】
図4〜図20は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す断面図である。この製造方法は、流路形成基板1側の製造工程と、弾性膜形成基板51側の製造工程と、これら両基板を貼り合わせて一体化させる工程とに大別される。ここでは、始めに流路形成基板1側の製造工程について図4〜図8を参照しながら説明し、次に弾性膜形成基板51側の製造工程について図9〜図13を参照しながら説明する。その後、これら両基板1、51の表面同士を張り合わせて一体化させる工程等について、図14〜図20を参照しながら説明する。
【0022】
まず、流路形成基板1側の製造工程では、図4に示すように流路形成基板1の表面にドライバ回路9を形成する。ドライバ回路9の形成は、例えば通常のCMOSプロセスにより行う。なお、図示しないが、ドライバ回路9の内部に形成される配線(即ち、内部配線)は、少なくとも融点が700℃以上の材料を用いて形成する。例えば、タングステン(W)、チタン(Ti)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)等の単体金属や、これらを用いた合金やシリサイド金属等の高融点材料を用いて、内部配線を形成する。これにより、以降の熱処理を伴う工程(例えば、圧電体13を焼結する工程等)において、内部配線の溶融を防ぐことができる。
次に、ドライバ回路9が形成された流路形成基板1の表面に絶縁膜2を形成する。この絶縁膜2には、例えば、SiO2膜若しくはSi3N4膜、又は、これらを積層した膜である。この絶縁膜の形成は、例えばCVD法や塗布法により行う。
【0023】
次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、絶縁膜を部分的にエッチングして、ドライバ回路9の表面にあるパッド電極を底面に露出させたコンタクトホールを形成する。そして、このコンタクトホールを埋め込むように流路形成基板1の表面に導電膜を形成する。ここで、上記の内部配線と同様の理由から、この導電膜には、例えば、W、Ti、Pt、Ni、Cr、Cu等の単体金属やこれらを用いた合金やシリサイド金属等の高融点材料を用いる。高融点材料の形成は、例えばスパッタリングにより行う。続いて、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、この導電膜を部分的にエッチングして、コンタクトホール以外の領域から導電膜を取り除く。これにより、図5に示すように、導電膜からなるバンプ電極9bをコンタクトホール内に形成する。バンプ電極9bはドライバ回路9表面のパッド電極に接続しており、このバンプ電極9bを介して、ドライバ回路9は信号を授受することができる。
【0024】
次に、図6に示すように、バンプ電極9bが形成された流路形成基板1の表面側に接合絶縁膜4を形成する。この接合絶縁膜4は例えばSiO2膜であり、その形成は例えばCVD法や塗布法で行う。この接合絶縁膜4の厚さは、例えば10nm〜10μm程度である。
次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、この接合絶縁膜4を部分的にエッチングして、バンプ電極9bの表面を底面に露出させた開口部16を形成する。また、この開口部16の形成工程と前後するタイミングで、図7に示すように、圧力発生室3を形成する。ここでは、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、圧力発生室3の形成領域にある接合絶縁膜4と、絶縁膜2及び流路形成基板1の表面を順次、部分的にエッチングして、圧力発生室3を形成する。次に、図8に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、圧力発生室3の底面にノズル開口部5を形成する。ここでは、ノズル開口部5の先端(即ち、図8において、上側の端部)を流路形成基板1の裏面側に到達させない。以上で、流路形成基板1側の工程を終了する。
【0025】
次に、弾性膜形成基板51側の製造工程では、図9に示すように、弾性膜形成基板51の表面に弾性膜6を形成する。この弾性膜6は、例えばSiO2膜若しくはSi3N4膜、又は、これらを積層した膜からなる。また、ここでは、弾性膜形成基板51の表面に下地膜(例えば、Si3N4膜等)を形成し、下地膜の上に弾性膜6を形成するようにしても良い。
【0026】
次に、図10に示すように、振動膜7上にメインボード等に繋がる配線層23を形成する。ここでは、弾性膜6上に、例えば、W、Ti、Pt、Ni、Cr、Cu等の単体金属やこれらを用いた合金やシリサイド金属等の高融点材料からなる膜をスパッタリングで形成する。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、この高融点材料からなる膜を部分的にエッチングする。このような部分的なエッチング(即ち、パターニング)により、高融点材料からなる配線層23を形成する。次に、図11に示すように、配線層23が形成された弾性膜形成基板51の表面側に弾性膜(以下、接合絶縁膜ともいう。)8を形成する。この接合絶縁膜8は例えばSiO2膜であり、その形成は例えばCVD法や塗布法で行う。ここでは、接合絶縁膜を配線層23よりも厚膜に形成する。また、接合絶縁膜8の材料には、接合絶縁膜4(図6参照。)と同じ材料を用いることが好ましい。例えば、接合絶縁膜4がSiO2膜である場合は、接合絶縁膜8としてSiO2膜を形成することが好ましい。これにより、後の工程で、接合絶縁膜4、8同士を密着性高く接合することができる。なお、この実施形態では、このような接合絶縁膜(即ち、弾性膜)8と、弾性膜6とによって、振動膜7が構成される。
【0027】
次に、図12に示すように、例えばCMPにより、接合絶縁膜8の表面を研削して、接合絶縁膜8下から配線層23の表面を露出させる。そして、図13に示すように、配線層23の端部(即ち、ドライバ回路9のパッド電極と重なる位置)に配線層21を形成する。以上で、弾性膜形成基板51側の製造工程を終了する。
次に、図14に示すように、流路形成基板1の表面と、弾性膜形成基板51の表面を対向させ、この状態で流路形成基板1と弾性膜形成基板51とを張り合わせて一体化させる。つまり、流路形成基板1の表面と、弾性膜形成基板51の表面とを接合する。この接合は、例えば、接合絶縁膜4の表面と接合絶縁膜8の表面とを接触させた状態で両基板を加熱することにより行う。接合絶縁膜4、8が共にSiO2膜からなる場合、加熱温度は例えば900℃以上である。900℃以上の熱処理により、接合絶縁膜4、8の接触界面においてSiO2膜が軟化して密着する。これにより、接合絶縁膜4、8間に高い接合強度を持たせることができる。加熱する際の雰囲気は、酸素(O2)又はO2+水素(H2)等の酸化種を含んだ雰囲気中で行っても良いし、窒素(N2)又はアルゴン(Ar)等の不活性なガス雰囲気中で行って良い。
【0028】
或いは、上記の接合は、表面活性化法による常温接合で行っても良い。表面活性化法では、例えば高真空に排気したチャンバー内に流路形成基板1と弾性膜形成基板51を配置し、このチャンバー内で各基板の表面に例えばArなどをスパッタしてその表面を粗面化する。そして、高真空に維持されたチャンバー内で、これら両基板の粗面化された表面を接触させることにより、両基板の表面を接合させる。この表面活性化法では、両基板を常温で接合することができるので、ドライバ回路9に対する熱履歴の付加が無いという利点がある。
【0029】
次に、図15に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、弾性膜形成基板51をその裏面側から部分的にエッチングして、振動膜7の裏面側を露出させる。これにより、弾性膜形成基板51の圧電素子形成領域に振動膜7を底面とする開口部33を形成する。また、この開口部33の形成工程と前後して、或いは並行して、弾性膜形成基板51にリザーバ30を形成する。即ち、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、弾性膜形成基板51をその裏面側から部分的にエッチングして、弾性膜形成基板51のインク液供給領域に貫通口からなるリザーバ30を形成する。このリザーバ30の形成工程では、弾性膜形成基板51のインク供給領域を圧力発生室3まで完全に貫通させる。
【0030】
なお、上記の開口部33の形成工程やリザーバ30の形成工程において、弾性膜形成基板51のエッチングはドライエッチングで行っても良いし、ウェットエッチングで行っても良い。弾性膜形成基板51がシリコンからなる場合は、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて弾性膜形成基板51をウェットエッチングすることが可能である。
なお、弾性膜形成基板51のエッチングをウェットエッチングで行う場合は、面方位(110)のバルクシリコン基板が弾性膜形成基板51に適している。また、弾性膜形成基板51のエッチングをドライエッチングで行う場合は、面方位(100)のバルクシリコン基板が弾性膜形成基板51に適している。
【0031】
次に、図16に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、振動膜7と、接合絶縁膜4を順次、部分的にエッチングして、バンプ電極9bの表面を底面に露出させた開口部35を形成する。そして、これ以降の工程では、個々の圧力発生室3に対応して、振動膜7の裏面側(即ち、振動膜7を挟んで圧力発生室3と対向する領域)に圧電素子10を形成する。
【0032】
具体的には、図17に示すように、まず、下部電極11と配線層25とを形成する。ここでは、始めに、振動膜7の裏面側に下部電極膜を形成する。下部電極膜の形成は、例えばスパッタリング法により行う。また、下部電極膜の材料としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等が好適である。その理由は、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体膜は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。下部電極膜の材料には、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持することができるような材料を選択して用いる必要がある。特に、圧電体膜としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないような材料を選択して用いることが望ましい。このような条件を満たす材料として、Pt、Ir等が好適である。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、下部電極膜を部分的にエッチングして、共通電極としての形状を有した下部電極11と、開口部35(図16参照。)内に埋め込まれてバンプ電極9bに接続する配線層25と、を形成する。図17に示すように、下部電極11と配線層25は互いに離れており繋がっていない。つまり、下部電極11と配線層25は、それぞれ電気的に独立している。
【0033】
次に、図18に示すように、圧電体13を形成する。ここでは、例えば、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布し乾燥してゲル化し、さらに高温で焼結すること(即ち、ゾルーゲル法)で圧電体膜を形成する。圧電体膜の材料としては、PZT系の材料が好適であり、その場合の焼結温度は例えば700℃程度である。なお、この圧電体膜の成膜方法は、ゾルーゲル法に限定されず、例えば、スパッタリング法、又は、MOD法(有機金属熱塗布分解法)などのスピンコート法により成膜しても良い。或いは、ゾルーゲル法又はスパッタリング法若しくはMOD法等によりPZTの前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法により成膜しても良い。このような方法により形成される圧電体膜の厚さは、例えば0.2〜5μmである。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、圧電体膜を部分的にエッチングして、下部電極11とその周辺領域(即ち、圧電体13形成領域)に圧電体膜を残し、それ以外の領域から圧電体膜を取り除く。これにより、圧電体13を形成する。
【0034】
次に、図19に示すように、上部電極15を形成する。ここでは、始めに、上部電極膜を成膜する。上部電極膜は、導電性の高い材料であれば良く、Al、金(Au)、ニッケル(Ni)、Pt等の金属膜や、導電性酸化物等を使用することができる。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、上部電極膜を部分的にエッチングして、配線層25に接続した上部電極15を形成する。これにより、振動膜7を挟んで圧力発生室3と対向する領域に、下部電極11と圧電体13と上部電極15とからなる圧電素子10が完成する。
なお、本実施形態では、下部電極11を圧電素子10の共通電極とし、上部電極15を圧電素子10の個別電極としているが、ドライバ回路9や配線の都合でこれを逆にしても良い。つまり、下部電極11を個別電極とし、上部電極15を共通電極としても良い。その場合は、配線層25は下部電極11と接続し、上部電極15とは接続しないように、下部電極膜と上部電極膜をそれぞれパターニングすれば良い。
【0035】
その後、図20に示すように、流路形成基板1の裏面全体を例えば数百μm研削して、ノズル開口部5の先端を開口させる。以上のような工程を経て、図1に示したインクジェット式記録ヘッド100が完成する。
このように、本発明の実施形態によれば、ワイヤーボンディングに依らずに、ドライバ回路9と圧電素子10とを接続することができる。これにより、流路形成基板の表面側において、ドライバ回路9と圧電素子10とを接続するために必要なスペースが低減されるので、記録ヘッドの低背化や小面積化、圧電素子の狭ピッチ化、ノズル開口部の高密度化をそれぞれ進展させることができる。
【0036】
例えば、ワイヤーボンディングによる接続では、ワイヤー同士を少なくとも50μm以上離しておく(即ち、ワイヤーの間隔を50μm以上とする)必要があり、それゆえ、ノズル開口部5の密度について、360dpi(dot per inch:1インチ当たりのノズル数)以上の高密度化が困難であった。これに対し、本発明の実施形態によれば、配線層21、23、25の間隔を50μm以下とすることができるので、圧電素子10の狭ピッチ化、ノズル開口部5の高密度化が可能であり、ノズル開口部5の密度について、360dpi以上の高密度化を容易に達成することができる。また、バンプ電極9bの表面に至る開口部35は、厚さが数百nm〜数μm程度の接合絶縁膜4や振動膜7をエッチングすることにより形成されているので、その狭ピッチ化も可能である。
【0037】
さらに、ドライバ回路9と、圧力発生室3及びノズル開口部5が全て流路形成基板1に形成されているので、部品点数が少なくて済む。これにより、組立工程を簡素化することができるので、インクジェット式記録ヘッドの低コスト化が可能となる。
また、上記のインクジェット式記録ヘッド100を具備したインクジェット式記録装置によれば、インクジェット式記録装置の小型化と低コスト化が可能である。
この実施形態では、流路形成基板1が本発明の「第1基板」に対応し、流路形成基板1の裏面が本発明の「第1基板の一方の面」に対応し、流路形成基板1の表面が本発明の「第1基板の他方の面」に対応している。また、ドライバ回路9が本発明の「集積回路」に対応し、第1の弾性膜6と、第2の弾性膜(即ち、接合絶縁膜)8とからなる振動膜が本発明の「振動膜」に対応している。さらに、弾性膜形成基板51が本発明の「第2基板」に対応し、接合絶縁膜4、8が本発明の「接合層」に対応している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す断面図。
【図2】実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す下面図。
【図3】ドライバ回路9の機能の一例を示す図。
【図4】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その1)。
【図5】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その2)。
【図6】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その3)。
【図7】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その4)。
【図8】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その5)。
【図9】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その6)。
【図10】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その7)。
【図11】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その8)。
【図12】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その9)。
【図13】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その10)。
【図14】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その11)。
【図15】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その12)。
【図16】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その13)。
【図17】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その14)。
【図18】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その15)。
【図19】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その16)。
【図20】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その17)。
【符号の説明】
【0039】
1 基板、2 絶縁膜、3 圧力発生室、4 接合絶縁膜、5 ノズル開口部、6 弾性膜、7 振動膜、8 弾性膜(接合絶縁膜)、9 ドライバ回路、9a スイッチ素子、9b バンプ電極、10 圧電素子、11 下部電極、13 圧電体、15 上部電極、16、33、35 開口部、21、23、25 配線層、30 リザーバ、51 流路形成基板、100 インクジェット式記録ヘッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板の一方の面に形成された圧力発生室と、
前記第1基板に形成されて前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、
前記第1基板の一方の面側に形成されて前記圧力発生室を覆う振動膜と、
前記振動膜を挟んで、前記圧力発生室と対向する領域に形成された圧電素子と、
前記第1基板の一方の面であって前記圧力発生室と並ぶ領域に形成された集積回路と、
前記第1基板の一方の面側に形成されて、前記集積回路と前記圧電素子とを接続する配線層と、を備えることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】
前記振動膜を挟んで、前記第1基板の一方の面側に接合された第2基板と、
前記第2基板に形成されて前記圧力発生室に連通するリザーバと、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】
前記第2基板に形成された開口部、をさらに備え、
前記開口部は前記振動膜を底面とし、
前記圧電素子は、前記振動膜を底面とする前記開口部内に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】
前記ノズル開口部は、前記第1基板の他方の面に開口していることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】
前記第1基板と第2基板とを接合する接合層、をさらに備え、
前記第1基板及び前記第2基板はそれぞれシリコンからなり、
前記接合層はシリコン酸化膜からなることを特徴とする請求項2から請求項4の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項6】
前記配線層は、高融点金属からなることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッドを具備したことを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項8】
第1基板の一方の面に圧力発生室を形成する工程と、
前記圧力発生室に連通するノズル開口部を前記第1基板に形成する工程と、
前記第1基板の一方の面であって前記圧力発生室と並ぶ領域に集積回路を形成する工程と、
前記圧力発生室を覆う振動膜を前記第1基板の一方の面側に形成する工程と、
前記振動膜を挟んで、前記圧力発生室と対向する領域に、圧電素子を形成する工程と、
前記集積回路と前記圧電素子とを接続する配線層を前記第1基板の一方の面側に形成する工程と、を含むことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記振動膜を形成する工程は、
第2基板の一方の面に振動膜を形成する工程と、
前記振動膜が形成された前記第2基板の一方の面を前記第1基板の一方の面側に接合する工程と、を有することを特徴とする請求項8に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板の一方の面に形成された圧力発生室と、
前記第1基板に形成されて前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、
前記第1基板の一方の面側に形成されて前記圧力発生室を覆う振動膜と、
前記振動膜を挟んで、前記圧力発生室と対向する領域に形成された圧電素子と、
前記第1基板の一方の面であって前記圧力発生室と並ぶ領域に形成された集積回路と、
前記第1基板の一方の面側に形成されて、前記集積回路と前記圧電素子とを接続する配線層と、を備えることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】
前記振動膜を挟んで、前記第1基板の一方の面側に接合された第2基板と、
前記第2基板に形成されて前記圧力発生室に連通するリザーバと、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】
前記第2基板に形成された開口部、をさらに備え、
前記開口部は前記振動膜を底面とし、
前記圧電素子は、前記振動膜を底面とする前記開口部内に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】
前記ノズル開口部は、前記第1基板の他方の面に開口していることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】
前記第1基板と第2基板とを接合する接合層、をさらに備え、
前記第1基板及び前記第2基板はそれぞれシリコンからなり、
前記接合層はシリコン酸化膜からなることを特徴とする請求項2から請求項4の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項6】
前記配線層は、高融点金属からなることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッドを具備したことを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項8】
第1基板の一方の面に圧力発生室を形成する工程と、
前記圧力発生室に連通するノズル開口部を前記第1基板に形成する工程と、
前記第1基板の一方の面であって前記圧力発生室と並ぶ領域に集積回路を形成する工程と、
前記圧力発生室を覆う振動膜を前記第1基板の一方の面側に形成する工程と、
前記振動膜を挟んで、前記圧力発生室と対向する領域に、圧電素子を形成する工程と、
前記集積回路と前記圧電素子とを接続する配線層を前記第1基板の一方の面側に形成する工程と、を含むことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記振動膜を形成する工程は、
第2基板の一方の面に振動膜を形成する工程と、
前記振動膜が形成された前記第2基板の一方の面を前記第1基板の一方の面側に接合する工程と、を有することを特徴とする請求項8に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−5900(P2010−5900A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167449(P2008−167449)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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