説明

インクジェット記録用インク、インクカートリッジ、インクジェット記録装置、インク記録物

【課題】樹脂微粒子を含んでいるにもかかわらず、ノズルプレートに固着することがないインクジェット記録用インクの提供。
【解決手段】少なくとも水、水溶性有機溶剤、顔料及び樹脂微粒子を含有するインクであって、該顔料の表面に、化学式(1)で示される単量体を構成単位として含有するポリマー鎖がグラフトされているインクジェット記録用インク。


式中、R1はH又はCHを表し、nは炭素数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク、該インクを収容したインクカートリッジ、該カートリッジを搭載したインクジェット記録装置、前記インクを用いて印字された記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料を着色剤(色材)として用いたインクジェット記録用インク(以下、単にインクということもある)は周知であり、記録媒体への顔料の定着性をよくするため、樹脂をバインダーとして用いることも周知である。
例えば特許文献1には、顔料の定着成分として樹脂微粒子を含むインクが開示されている。しかし、このような従来のインクでは、ノズルプレート上に付着したインクが乾燥した場合、被膜を形成して固着してしまうという問題があった。その解決手段として樹脂の最低造膜温度等に着目したものはあるが、顔料について検討した例は見当たらない。
一方、表面にポリマー鎖をグラフトさせた顔料は公知であるが(特許文献2等参照)、ノズルプレートへの固着について検討した例は見当たらない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、樹脂微粒子を含んでいるにもかかわらず、ノズルプレートに固着することがないインクジェット記録用インク、該インクを収容したインクカートリッジ、該カートリッジを搭載したインクジェット記録装置、前記インクを用いて印字された記録物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、特定のポリマー鎖をグラフト重合した顔料をインクジェット記録用インクに用いることにより、ノズルプレートに付着し固まったインクを剥離させる作用が生じることを初めて見出し本発明に至った。詳しくは、顔料及び定着性を付与するための樹脂微粒子を含んだ水性インクにおいて、記録媒体への定着性を確保しつつ、ノズルプレートにはインクが固着しないような組成として、ポリアルキレンオキサイドや長鎖アルキル基のような低表面エネルギー部位を有する単量体を構成単位とするポリマー鎖を表面にグラフトさせた顔料を用いることが有効であることを見出した。
【0005】
即ち、上記課題は次の1)〜6)の発明によって解決される。
1) 少なくとも水、水溶性有機溶剤、顔料及び樹脂微粒子を含有するインクであって、該顔料の表面に、下記化学式(1)〜(4)で示される単量体から選ばれる少なくとも1種を構成単位として含有するポリマー鎖がグラフトされていることを特徴とするインクジェット記録用インク
【化1】

式中、R1はH又はCHを表し、nは炭素数を表す。
【化2】

式中、R2、R3は、それぞれH又はCHを表し、mは繰り返し単位数を表す。
【化3】

式中、R4、R5は、それぞれH又はCHを表し、pは繰り返し単位数を表す。
【化4】

式中、R6、R7は、それぞれH又はCHを表し、k、lは繰り返し単位数を表す。
2) 樹脂微粒子の体積平均粒径が、表面にポリマー鎖がグラフトされた顔料の体積平均粒径よりも小さいことを特徴とする1)に記載のインクジェット記録用インク。
3) 表面酸化処理した非ポリマーグラフトカーボンをさらに含有することを特徴とする1)又は2)に記載のインクジェット記録用インク。
4) 1)〜3)のいずれかに記載のインクジェット記録用インクを容器に収容したインクカートリッジ。
5) 4)に記載のインクカートリッジを搭載したインクジェット記録装置。
6) 1)〜3)のいずれかに記載のインクジェット記録用インクを用いて印字されたインク記録物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、樹脂微粒子を含んでいるにもかかわらず、ノズルプレートに固着することがないインクジェット記録用インク、該インクを収容したインクカートリッジ、該カートリッジを搭載したインクジェット記録装置、前記インクを用いて印字された記録物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】インクジェット記録装置の一例について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
(インクジェット記録用インク)
本発明のインクジェット記録用インクは、水性インクであって、顔料の表面に前記化学式(1)〜(4)で示される単量体から選ばれる少なくとも1種を構成単位として含有するポリマー鎖がグラフトされていることを特徴とする。
このような表面にポリマー鎖をグラフト重合した顔料は、顔料表面に存在するカルボキシル基、フェノール性水酸基、アゾ基などの官能基と、これらの官能基と反応可能な単量体をラジカル重合させる方法、ペルオキシエステル基やトリクロロアセチル基のような重合開始基を顔料表面に導入しグラフト鎖を成長させる方法、顔料表面に存在する官能基とポリマー末端の官能基との高分子反応による方法、顔料表面の官能基から段階的にポリマーを生長させ、多分岐のポリマーをグラフトする方法などにより合成することができる。この中で特に、顔料表面の官能基と、該官能基と反応可能な単量体とをラジカル重合させる方法が好ましい。
【0009】
化学式(1)で示される長鎖アルキル基を含有するビニル系単量体や、化学式(2)〜(4)で示されるアルキレングリコール系単量体は、基材に対する接着性が低いため、ノズルを配列したプレート上に付着しにくい性質を有する。また、定着成分である樹脂微粒子を混合したインクにおいて、乾燥により樹脂成分が膜を形成した際に、該樹脂成分がノズルプレートに固着することを防ぐ役割を果たす。付着したインクの表面は乾燥しても基材との密着面で剥離するため、ヘッドクリーニング動作によって簡単に取り除くことができ、インクによる汚れがノズルプレートに蓄積されることがない。
化学式(1)において、炭素数nは12〜18であることが好ましい。12以上であれば、ノズルプレートに対する樹脂の固着を十分に防ぐことができ、18以下であれば顔料分散体の保存性が悪化することがない。
化学式(2)において、繰り返し数mは4〜12であることが好ましく、前記化学式(3)において、繰り返し数pは6〜9であることが好ましい。繰り返し数mが4以上、又はpが6以上であれば、ノズルプレートに対する樹脂の固着を十分に防ぐことができ、mが12以下、又はpが9以下であれば、顔料分散体の保存安定性が悪化したり、印字画像濃度が低くなったりすることがない。
化学式(4)において、繰り返し数k+lは4〜12であることが好ましい。繰り返し数k+lが4以上であれば、ノズルプレートに対する樹脂の固着を十分に防ぐことができ、繰り返し数k+lが12以下であれば、顔料分散体の保存安定性が悪化したり、印字画像濃度が低くなったりすることがない。
【0010】
本発明のインクに用いるカラー顔料としてはフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、(チオ)インジゴイド、複素環式イエロー、ピラントロンなどが挙げられる。
フタロシアニンブルーの代表的な例としては、銅フタロシアニンブルー及びその誘導体(ピグメントブルー15)が挙げられる。
キナクリドンの代表的な例としては、ピグメントオレンジ48、ピグメントオレンジ49、ピグメントレッド122、ピグメントレッド192、ピグメントレッド202、ピグメントレッド206、ピグメントレッド207、ピグメントレッド209、ピグメントバイオレット19及びピグメントバイオレット42が挙げられる。
アントラキノンの代表的な例としては、ピグメントレッド43、ピグメントレッド194(ペリノンレッド)、ピグメントレッド216(臭素化ピラントロンレッド)及びピグメントレッド226(ピラントロンレッド)が挙げられる。
ペリレンの代表的な例としては、ピグメントレッド123(ベルミリオン)、ピグメントレッド149(スカーレット)、ピグメントレッド179(マルーン)、ピグメントレッド190(レッド)、ピグメントバイオレット、ピグメントレッド189(イエローシェードレッド)及びピグメントレッド224が挙げられる。
(チオ)インジゴイドの代表的な例としては、ピグメントレッド86、ピグメントレッド87、ピグメントレッド88、ピグメントレッド181、ピグメントレッド198、ピグメントバイオレット36及びピグメントバイオレット38が挙げられる。
複素環式イエローの代表的な例としては、ピグメントイエロー117及びピグメントイエロー138が挙げられる。
その他の着色顔料の例は、The Colour Index、第三版(The Society of Dyers and Colourists,1982)に記載されている。
【0011】
本発明のインクに用いるブラック顔料としてはカーボンブラックが挙げられるが、特に一次粒径が、10〜40nm、BET法による比表面積が、50〜300m/g、DBP吸油量が、40〜150mL/100gを有するものが好ましい。
具体例としては、#2700、#2650、#2600、#2450B、#2400B、#2350、#2300、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#900、#850、#750B、MCF88、#650B、MA600、MA77、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA100S、MA220、MA230、MA200RB、MA14、#52、#50、#47、#45、#45L、#44、#40、#33、#32、#30、#25、#20、#10、#5、#95、#85、CF9、#260(以上、三菱化学社製)、Raven700、同5750、同5250、同5000、同3500、同1255(以上、コロンビア社製)、Regal400R、同330R、同660R、MogulL、Monarch700、同800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、Monarch1400(以上、キャボット社製)、カラーブラックFW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、プリンテックス35、同U、同V、同140U、同140V、スペシャルブラック6、同5、同4A、同4(以上、デグッサ社製)、トーカブラック#8500、同#8300、同#7550、同#7400、同#7360、同#7350、同#7270、同#7100(以上、東海カーボン社製)、シヨウブラックN110、同N220、同N234、同N339、同N330、同N326、同N330T、同MAF、同N550(以上、キャボットジャパン社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
カーボンブラックの表面を酸化処理し表面官能基を増やすことにより、グラフトされるポリマー鎖をより多く導入することができる。
カーボンブラックの酸化処理方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えばオゾン等の酸化性ガスを用いた気相酸化や、液体の酸化剤を用いた液相酸化が挙げられる。液体の酸化剤としては、過酸化水素、ヨウ素水、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、硝酸、過マンガン酸塩、ニクロム酸塩、過硫酸塩等がある。
【0013】
ポリマー鎖をグラフトした顔料のインク中の含有量は4〜15質量%が好ましく、5〜12質量%がより好ましい。含有量が4質量%よりも少ないと十分な画像濃度を得られないことがあり、15質量%を超えるとインク粘度が高くなり吐出安定性が悪化することがある。
ポリマー鎖はグラフトされていないが表面に親水性官能基を有する顔料を、インク中に更に含有させてもよい。このような非ポリマーグラフト顔料は、定着性樹脂と一緒にインク中に加えた場合、乾燥時にインク固着を起こす傾向があるが、本発明のポリマー鎖をグラフトした顔料と一緒に用いることで、ノズルプレートへの固着を防ぐことができる。
【0014】
本発明のインクに用いる樹脂微粒子としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、アクリル−シリコーン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル−ウレタン系樹脂などの分散体が挙げられる。この中で、アクリル−スチレン系樹脂、アクリル−シリコーン系樹脂、アクリル−ウレタン系樹脂などの変性アクリル樹脂の水分散体が、耐擦過性、耐マーカー性の向上といった点で好ましい。中でも、アクリル−スチレン系樹脂、アクリル−シリコーン系樹脂、アクリル−ウレタン系樹脂などの変性アクリル樹脂は、本発明の顔料にグラフトするポリマー鎖と相溶しやすいため、ノズルプレートへの固着防止効果が十分に発揮される傾向があり、かつ保存性も良好であり好ましい。
樹脂微粒子の添加量は、質量比率で、顔料:樹脂微粒子=1:0.2〜0.8とすることが好ましい。樹脂微粒子の比率が0.2未満では、十分な定着性を得られないことがあり、0.8を超えると、保存性が悪化したりノズルでの乾燥や固化が発生しやすくなり、吐出性が悪化したりする場合がある。
樹脂微粒子の体積平均粒径は、表面にポリマー鎖がグラフトされた顔料の体積平均粒径よりも小さいことが好ましい。樹脂微粒子の体積平均粒径の方が大きいと、ノズルでの乾燥や固化が発生しやすくなり、吐出性が悪化したりする場合がある。また、ノズルやフィルターへの詰まりを発生させないため、樹脂微粒子の体積平均粒径は200nm以下が好ましい。
【0015】
本発明のインクに用いる水溶性有機溶剤には特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、公知の種々のものを用いることができるが、溶解性と水分蒸発による噴射特性不良の防止に対して優れた効果が得られる点から、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドンが好適である。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
水溶性有機溶剤のインク中の含有量は15〜40質量%が好ましく、20〜35質量%がより好ましい。含有量が少なすぎるとノズルが乾燥しやすくなり液滴の吐出不良が発生することがあり、多すぎるとインク粘度が高くなり、適正な粘度範囲を超えてしまうことがある。
【0016】
本発明のインクには界面活性剤を添加してもよく、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤から選ばれるものを単独で、又は二種以上混合して用いることができる。
アニオン系界面活性剤としては、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルアリールエーテルリン酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、アルキルアリールエーテルエステル硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルカンオレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、エーテルカルボキシレート、スルホコハク酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、脂肪酸塩、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、ナフテン酸塩等が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、イミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン誘導体、ジメチルアルキルラウリルベタイン、アルキルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン等が挙げられる。
【0017】
本発明のインクには、浸透剤として炭素数7〜11のジオール化合物を添加することができる。インク中の含有量は1〜5質量%が好ましい。1質量%未満では十分な浸透性が得られず、5質量%よりも多いと保存安定性が低下することがある。
ジオール化合物としては、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールなどが好適である。
浸透剤の添加により、記録用紙への浸透性が向上し、用紙搬送時に擦れて汚れが発生したり、両面印字のため記録媒体の記録面を反転させる際に搬送ベルトにインクを付着させて汚れが発生したりすることがなく、良好な画像を形成することができる。
【0018】
更に、本発明のインクには、必要に応じて、公知の種々の添加剤(pH調整剤、防錆剤、防腐防黴剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤など)を加えてもよい。
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずにpHを7以上に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて任意の物質を使用することができる。
その例としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物;水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
防腐防黴剤としては、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、ぺンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム等が挙げられる。
【0019】
本発明のインクの粘度は、25℃で、5〜20mPa・sが好ましく、6〜12mPa・sがより好ましい。粘度が20mPa・sを超えると、吐出安定性の確保が困難になることがある。
本発明のインクの表面張力は、20℃で、23〜40mN/mが好ましい。表面張力が、23mN/m未満では、記録媒体上での滲みが顕著になったり、安定した噴射が得られなくなったりすることがあり、40mN/mを超えると、記録媒体へのインク浸透が十分に起らず、乾燥時間の長時間化を招くことがある。
本発明のインクのpHは、7〜10が好ましい。
インクを長期保存すると物性が変化することがある。特に加熱して保存するとインクの粘度上昇やpHの低下がみられるが、できる限り変化が少ないことが好ましい。例えば、60℃で2週間保存後の増粘率は5%以内であることが好ましく、pHの低下率は−5%以内であることが好ましい。
【0020】
本発明のインクは、容器に収容してインクカートリッジとして用いることができる。容器としては公知のものを用いればよい。
また、このインクカートリッジを搭載してインクジェット記録装置として用いることもできる。
また、本発明のインクを用いて、インクジェット記録方式による画像記録装置(プリンタ等)により印字されたインク記録物を得ることができる。このインク記録物は高画質で滲みがなく、経時安定性に優れ、各種の印字乃至画像の記録された資料等として各種用途に好適に使用することができる。
上記インク記録物を構成する記録媒体としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシートなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ここで、図1を参照しつつインクジェット記録装置の一例について説明する。このインクジェット記録装置は、印刷用紙等の記録媒体に対し、例えば4色(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)のインクを吐出して画像形成するものである。
インクジェット記録装置1は、各色のインクを吐出する4個のインクジェットヘッド11と、4個のインクジェットヘッド11を搭載したキャリッジ12と、図示しない駆動系によりキャリッジ12が主走査方向(図の左右方向)に移動するのをガイドするガイドロッド13と、印刷用紙Pを副走査方向(図の上下方向)に搬送する用紙搬送機構14とを備えている。用紙搬送機構14は、図示しない駆動系により回転する搬送ローラ15、テンションローラ16、及びこれらの間に掛け渡された搬送ベルト17を有している。
各インクジェットヘッド11は、圧電素子からなる圧電アクチュエータを備えている。もちろん、インクを吐出するための他のアクチュエータ、例えば、サーマルアクチュエータ、形状記憶合金アクチュエータ又は静電アクチュエータを備えたものでもよい。
更に、インクジェット記録装置1は、各色のインクを収容した4個のインクカートリッジ18と、キャリッジ12に搭載され、各インクジェットヘッド11に連なる4個のサブタンク19と、各インクカートリッジ18と各サブタンク19とを連通するインク供給チューブ(図示省略)とを備えており、各インクカートリッジ18に収容された各色のインクが、各サブタンク19を介して各インクジェットヘッド11に供給されるようになっている。つまり、インク供給チューブ、サブタンク19及びインクジェットヘッド11のヘッド内流路により、インクジェット記録装置1の液体流路が構成されている。なお、インク供給チューブには、インクカートリッジ18内のインクをサブタンク19へ供給するための供給ポンプ(図示省略)が付設されている。
インクジェットヘッド11のノズル列は1列でも2列でもよく、2列の場合にはそれぞれのノズル列から異なったインクを吐出させてもよい。この場合、一方のインクが本発明のポリマー鎖をグラフトした顔料を含有していれば、もう一方のインクに該本発明の顔料を含有していなくても、吸引・ワイピングといったクリーニング動作の際、ノズル基板上でインクが混合するので、固着防止効果を付与することができる。
【0022】
ノズルプレートは、金属材料(電鋳工法によるNiメッキ膜等)で形成され、インク滴を飛翔させるための微細な吐出口であるノズルが多数形成されている。ノズルプレートのインク吐出面(ノズル表面側)には、インクの滴形状や飛翔特性を安定化させ、高品位の画像品質が得られるようにするため撥インク層を設けることが多い。撥インク層の材料はインクをはじく材料であれば特に限定されないが、具体例としてはフッ素系撥水材料、シリコーン系撥水材料が挙げられる。
撥インク層の形成手段としては、PTFE−Ni共析メッキ、フッ素樹脂の電着塗装、蒸発性のあるフッ素樹脂(例えば、フッ化ピッチなど)の蒸着コート、シリコーン系樹脂又はフッ素系樹脂を溶剤塗布し焼き付ける方法等が挙げられ、インク物性に応じて適宜選定する。
撥インク層の表面粗さRaは、0.2μm以下にすることが好ましい。これによりワイピング時の拭き残しを低減することができる。また、ノズルプレートの臨界表面張力は、インクの表面張力よりも小さいことが好ましい。
本発明のインクは、このような撥インク層を設けたノズルプレートへの固着防止に顕著な効果を奏する。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0024】
<合成例1>(ポリマー鎖をグラフトしたカーボンブラック顔料分散液)
比表面積が260m/g、DBP吸油量が69mLのカーボンブラック(#960/三菱化学)20gに、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]20gを加え、メタノール500mL中、65℃で36時間反応させた。
反応終了後、生成物を濾過しメタノールで洗浄し乾燥させて、アゾ基が導入されたカーボンブラックを得た。
このアゾ基が導入されたカーボンブラック10gとメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(ブレンマーPME−200/日本油脂)100gと、過酸化ベンゾイル1gを、テトラヒドロフラン500mL中で窒素雰囲気下、60℃で10時間反応させた。メタノールで洗浄し濾過した後、乾燥し、1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液でpHが8となるよう調整し、更に水分を調整し、0.8mmのガラスビーズを加えて分散処理を行い、化学式(2)(R2=CH、R3=CH、m=4)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたカーボンブラック顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は95nmであった。
【0025】
<合成例2>(ポリマー鎖をグラフトしたカーボンブラック顔料分散液)
ブレンマーPME−200を、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(ブレンマーPME−550/日本油脂)に変えた点以外は、合成例1と同じ方法で合成を行い、化学式(2)(R2=CH、R3=CH、m=12)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたカーボンブラック顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は101nmであった。
【0026】
<合成例3>(ポリマー鎖をグラフトしたカーボンブラック顔料分散液)
ブレンマーPME−200を、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(ブレンマーAP−550/日本油脂)に変えた点以外は、合成例1と同じ方法で合成を行い、化学式(3)(R4=H、R5=H、p=9)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたカーボンブラック顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は98nmであった。
【0027】
<合成例4>(ポリマー鎖をグラフトしたカーボンブラック顔料分散液)
ブレンマーPME−200を、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(ブレンマーAP−400/日本油脂)に変えた点以外は、合成例1と同じ方法で合成を行い、化学式(3)(R4=H、R5=H、p=6)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたカーボンブラック顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は100nmであった。
【0028】
<合成例5>(ポリマー鎖をグラフトしたキナクリドン顔料分散液)
キナクリドン30g、アジピン酸ジクロリド20mL、ピリジン20mLを、テトラヒドロフラン800mL中に混合し、60℃で2時間攪拌を行った。
次いで、生成したアシルキナクリドンを濾過し、テトラヒドロフランで洗浄を行った。これに、t−ブチルパーオキサイド200mLと水酸化ナトリウム5gを混合し、窒素雰囲気下、10時間反応させた。反応終了後、生成物を濾過し、メタノールで洗浄し乾燥して、t−ブチルパーオキシエステル基が導入されたキナクリドンを得た。
このキナクリドン10gとステアリルアクリレート100gを混合し、窒素雰囲気下、70℃で30分攪拌し反応させて反応生成物を得た。
この反応生成物をメタノールで洗浄し濾過した後、乾燥し、1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液でpHが8となるよう調整し、更に水分を調整して、化学式(1)(R1=H、n=18)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたキナクリドン顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は122nmであった。
【0029】
<合成例6>(ポリマー鎖をグラフトしたキナクリドン顔料分散液)
ステアリルアクリレートを、ラウリルアクリレート(ブレンマーLA/日本油脂)に変えた点以外は、合成例5と同じ方法で合成を行い、化学式(1)(R1=H、n=12)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたキナクリドン顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は117nmであった。
【0030】
<合成例7>(ポリマー鎖をグラフトしたキナクリドン顔料分散液)
ステアリルアクリレートを、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー50PEP−300/日本油脂)に変えた点以外は、合成例5と同じ方法で合成を行い、化学式(4)(R6=CH、R7=H、k=3.5、l=2.5)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたキナクリドン顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は120nmであった。
【0031】
<合成例8>(ポリマー鎖をグラフトしたキナクリドン顔料分散液)
ステアリルアクリレートを、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノメタクリレート(ブレンマー70PEP−350/日本油脂)に変えた点以外は、合成例5と同じ方法で合成を行い、化学式(4)(R6=CH、R7=H、k=5、l=2)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたキナクリドン顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は123nmであった。
【0032】
<合成例9>(ポリマー鎖をグラフトしたカーボンブラック顔料分散液)
ブレンマーPME−200を、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(ブレンマーPME−550/日本油脂)に変えた点以外は、合成例1と同じ方法で合成を行い、化学式(2)(R2=CH、R3=CH、m=12)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたカーボンブラック顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は102nmであった。
【0033】
<合成例10>(ポリマー鎖をグラフトしたカーボンブラック顔料分散液)
ブレンマーPME−200を、ポリプロピレングリコールメタクリレート(ブレンマーPP−800/日本油脂)に変えた点以外は、合成例1と同じ方法で合成を行い、化学式(3)(R4=H、R5=H、p=13)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたカーボンブラック顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は103nmであった。
【0034】
<合成例11>(ポリマー鎖をグラフトしたキナクリドン顔料分散液)
ステアリルアクリレートを、ベヘニルアクリレートに変えた点以外は、合成例5と同じ方法で合成を行い、化学式(1)(R1=H、n=22)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたキナクリドン顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は120nmであった。
【0035】
<合成例12>(ポリマー鎖をグラフトしたキナクリドン顔料分散液)
ステアリルアクリレートを、フェノキシ−ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)メタクリレート(ブレンマー50EP−300/日本油脂)に変えた点以外は、合成例5と同じ方法で合成を行い、化学式(4)(R6=CH、R7=H、k=3.5、l=2.5)で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたキナクリドン顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は123nmであった。
【0036】
<合成例13>(ポリマー鎖をグラフトしたカーボンブラック顔料分散液)
ブレンマーPME−200をフェノキシポリエチレングリコールメタクリレート(ブレンマーAAE−50/日本油脂)に変えた点以外は、合成例1と同じ方法で合成を行い、下記化学式で示される単量体を構成単位とするポリマー鎖がグラフトされたカーボンブラック顔料水分散液(固形分18%)を得た。体積平均粒径は97nmであった。
【化5】

【0037】
<調製例1>(表面酸化処理したカーボンブラック顔料分散液)
比表面積が260m/g、DBP吸油量が69mLのカーボンブラック(#960/三菱化学)300gを水1000mLに混合し、次亜塩素酸ナトリウム450gを滴下して、100℃で10時間攪拌した。得られたスラリーを5μmメンブランフィルターで濾過し、水で洗浄した。得られた顔料固形物を水3000mLに再分散し、pHが7となるよう水酸化カリウムで中和した後、限外濾過膜で残塩を分離して、顔料濃度が18%となるように水分を調整した。得られた顔料分散液の体積平均粒径は96nmであった。
【0038】
実施例1〜22、比較例1〜2
表1〜表3に示す各インク組成物を調製し、pHが9となるように水酸化ナトリウムで調整した。その後、平均孔径0.8μmのメンブランフィルターで濾過しインクを得た。
なお、実施例15は浸透剤を含まない例、実施例16はフッ素系界面活性剤を用いた例、実施例17、18は、ポリマー鎖を有さない表面酸化処理した顔料を併用した例である。また、比較例1は化学式(1)〜(4)以外のポリマー鎖がグラフトされた顔料を用いた例、比較例2はポリマー鎖を有さない顔料を用いた例である。
【0039】
上記実施例及び比較例の各インクの諸特性について、下記のようにして評価を行った。結果を表4〜表6に示す。
<インクの粘度>
RL−500(東機産業社製)を用いて、25℃における粘度を測定した。
<インクの体積平均粒径>
インクを純水で希釈し、粒度分布測定装置(マイクロトラックUPA、日機装社製)を用いて体積平均粒径(D50%)を測定した。
<インクの表面張力>
静的表面張力計(BVP−Z、協和界面化学社製)を用いて、23℃±2℃における表面張力を測定した。
<インクのpH>
pHメーター(HM−A、東亜電波工業社製)を用いて、23℃±2℃におけるpHを測定した
<画像濃度>
インクジェットプリンタ(リコー製:IPSIO GX5000)に、実施例1〜22及び比較例1〜2のインクをそれぞれ充填して、Type6200紙(NBSリコー製)に解像度600dpiで印字を行った。これを乾燥させた後、反射型カラー分光測色濃度計(X−Rite社製)を用いて画像濃度を測定した。
【0040】
<擦過性>
インクジェットプリンタ(リコー製:IPSIO GX5000)に、実施例1〜22及び比較例1〜2のインクをそれぞれ充填して、Type6200紙(NBSリコー製)に解像度600dpiで印字を行った。これを乾燥させた後、綿布で印字部を10回擦り、綿布への顔料転写具合を目視で観察し、下記基準により評価した。
〔評価基準〕
○:綿布への顔料転写は殆ど見られない。
△:若干の顔料転写が見られる。
×:明らかに顔料が転写している。
【0041】
<耐マーカー性>
インクジェットプリンタ(リコー製:IPSIO GX5000)に、実施例1〜22及び比較例1〜2のインクをそれぞれ充填して、Type6200紙(NBSリコー製)に解像度600dpiで印字を行った。これを乾燥させた後、黄色の蛍光マーカー(OPTEX/Zebra製)で印字した文字の上をマーキングし、擦れ具合を下記基準により評価した。
〔評価基準〕
○:マーカーによる擦れは発生していない。
△:若干の擦れが見られる。
×:明らかに擦れが発生し、マーカーのペン先に顔料が付着している。
【0042】
<連続吐出性>
インクジェットプリンタ(リコー製:IPSIO GX5000)に、実施例1〜22及び比較例1〜2のインクをそれぞれ充填して、Type6200紙(NBSリコー製)に解像度600dpi、32℃・30%RHの環境で、連続200枚印字を行い、吐出乱れや吐出不具合を下記基準により評価した。
〔評価基準〕
○:吐出乱れや不吐出は見られない。
△:3個以下のノズルの不吐出、吐出乱れがある。
×:4個以上のノズルの不吐出、吐出乱れがある。
【0043】
<放置後吐出性>
インクジェットプリンタ(リコー製:IPSIO GX5000)に、実施例1〜22及び比較例1〜2のインクをそれぞれ充填して全色クリーニングを行った後、32℃・30%RHの環境で1ヶ月放置した。放置後、ノズルチェック印字を行い、吐出乱れや吐出不具合を下記基準により評価した。
〔評価基準〕
○:吐出乱れや不吐出は見られない。
△:3個以下のノズルの不吐出、吐出乱れがある。
×:4個以上のノズルの不吐出、吐出乱れがある。
【0044】
<両面印刷適正>
インクジェットプリンタ(リコー製:IPSIO GX5000)に、実施例1〜22及び比較例1〜2のインクをそれぞれ充填して、Type6200紙(NBSリコー製)に解像度600dpi、25℃・50%RHの環境で、乾燥待ち時間を入れず両面印刷を行った。用紙を反転する際に発生する画像の擦れを下記基準により評価した。
〔評価基準〕
○:全く擦れは見られない。
△:うっすらと点状に汚れが見られる。
×:印刷部分を引きずるような擦れが見られる。
【0045】
<インク保存性>
実施例1〜22及び比較例1〜2のインクをカートリッジに充填して60℃で2週間保存し、インクの粘度変化を観察した。
〔評価基準〕
○:粘度変化が5%未満
△:粘度変化が5%以上10%未満
×:粘度変化が10%以上
【0046】
<ノズルプレートへのインク固着>
実施例1〜22及び比較例1〜2のインクを、ノズルプレート(Ni製シリコーン撥水コート)の上に1滴垂らして、50℃の恒温槽内で5時間放置した。インク乾燥物を取り出して放冷した後、水の入ったビーカー内に浸漬し、固着したインクを洗い流した。この時のノズルプレートへのインク残り具合を下記基準により目視で評価した。
〔評価基準〕
◎:固着したインクは完全に剥離し、ノズルプレート上に全く跡残りはない。
○:固着したインクは完全に剥離するが、ノズルプレート上にインクの跡が残る。
△:固着したインクはほぼ剥離するが、ノズルプレート上に若干跡が残る。
×:固着したインクは殆ど剥離せず、ノズルプレート上に残留する。
【0047】
表4〜表6に示したように、表面に所定のポリマー鎖がグラフトされている顔料を用いた実施例は、ノズルプレートへのインク固着の評価結果が「△」以上であったが、該顔料を用いていない比較例は、ノズルプレートへのインク固着の評価結果が「×」であった。
また、樹脂微粒子の体積平均粒径が、表面にポリマー鎖がグラフトされた顔料の体積平均粒径よりも小さい実施例は、顔料の体積平均粒径よりも大きい実施例10、13に比べて、ノズルプレートへのインク固着が良好であり、吐出性も良好であった。
さらに、ポリマー鎖を有さない表面酸化処理した顔料を併用した実施例17、18は、併用していない実施例に比べて、画像濃度が良好であった。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
上記表1〜表3中に商品名で示した材料の会社名、材料の種類は次のとおりである。
・サンモールEW102(三洋化成工業社)…アクリル−シリコン系樹脂微粒子分散体
・538(ジョンソンポリマー社)…アクリル系樹脂微粒子分散体
・450(ジョンソンポリマー社)…アクリル−スチレン系樹脂微粒子分散体
・LX432M(日本ゼオン社)…スチレン−ブタジエン系樹脂微粒子分散体
・タケラックW5661(三井武田ケミカル社)…ウレタン系樹脂微粒子分散体
・ソフタノールEP7025(日本触媒社)…ノニオン系界面活性剤
・サーフロンS−111(旭硝子社)…フッ素系界面活性剤
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

【0055】
実施例23
下記表7に示す素材からなるプレート(支持体)上に、実施例1及び実施例5のインクを滴下し、前記<ノズルプレートへのインク固着>の評価手順に従って、固着試験を実施した。結果を表8に示す。
【表7】

上記表中の「PTFE」はポリテトラフルオロエチレンを示す。
【表8】

【符号の説明】
【0056】
1 インクジェット記録装置
11 インクジェットヘッド
12 インクジェットヘッド11を搭載したキャリッジ
13 ガイドロッド
14 用紙搬送機構
15 搬送ローラ
16 テンションローラ
17 搬送ベルト
18 インクカートリッジ
19 サブタンク
【先行技術文献】
【特許文献】
【0057】
【特許文献1】特開2001−329199号公報
【特許文献2】特許第3264821号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、水溶性有機溶剤、顔料及び樹脂微粒子を含有するインクであって、該顔料の表面に、下記化学式(1)〜(4)で示される単量体から選ばれる少なくとも1種を構成単位として含有するポリマー鎖がグラフトされていることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【化6】

式中、R1はH又はCHを表し、nは炭素数を表す。
【化7】

式中、R2、R3は、それぞれH又はCHを表し、mは繰り返し単位数を表す。
【化8】

式中、R4、R5は、それぞれH又はCHを表し、pは繰り返し単位数を表す。
【化9】

式中、R6、R7は、それぞれH又はCHを表し、k、lは繰り返し単位数を表す。
【請求項2】
樹脂微粒子の体積平均粒径が、表面にポリマー鎖がグラフトされた顔料の体積平均粒径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
表面酸化処理した非ポリマーグラフトカーボンをさらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用インクを容器に収容したインクカートリッジ。
【請求項5】
請求項4に記載のインクカートリッジを搭載したインクジェット記録装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用インクを用いて印字されたインク記録物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−202845(P2010−202845A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53151(P2009−53151)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】