インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法
【課題】記録ヘッドの記録素子の昇温に起因する、吐出量変動を十分に抑制することができなかった。
【解決手段】複数の発熱抵抗体を有する記録素子を含む記録素子列を備えた記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶している温度分布記憶手段と、前記温度検知手段で検知された前記記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算手段と、前記温度勾配計算手段により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶手段が予め記憶している前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測手段と、前記予測手段の予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御手段とを有することを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】複数の発熱抵抗体を有する記録素子を含む記録素子列を備えた記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶している温度分布記憶手段と、前記温度検知手段で検知された前記記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算手段と、前記温度勾配計算手段により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶手段が予め記憶している前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測手段と、前記予測手段の予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御手段とを有することを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関し、特に、インクの吐出量誤差を最小限に抑え、画質劣化を抑制するインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の記録素子を備えた各記録ヘッドを複数並列固定して、記録媒体を走査し記録する方式のインクジェット記録装置が提供されている。このような構成のインクジェット記録装置は、記録ヘッドを走査して記録するいわゆるシリアルスキャン方式よりも記録速度が速いのが特徴である。
【0003】
記録速度の高速化を達成する上で問題になるのは、記録ヘッドの昇温によるインクの吐出量変動に起因する画質劣化である。そこで、良好な画像を得るために、記録される画像等における濃度ムラ等の発生を極力抑える目的で、記録ヘッドから吐出されるインクの吐出量を安定化するための制御が種々行なわれてきた(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
発熱抵抗体(以下、ヒータともいう)に電気パルスを印加し、インクを急速に加熱してインクを液相から気相に状態変化させることで発泡力を生起させるインクジェット記録方式がある。この記録方式では、インクが液相から気相に状態変化するまでのエネルギーの投入方法によって吐出量はほぼ決定される。このため、インクが気相に状態変化した後では、どのようなエネルギー投入を行ってもほとんど吐出量には影響がない。
【0005】
インクジェット記録装置において、従来の昇温に起因した吐出量変動の対策の一つは、気相に状態変化するまでのエネルギーの投入方法を制御するものである。例えば、図9に示すような分割パルスを用い、プレヒートパルス、メインヒートパルス、これらのパルス間の休止時間(インターバルタイム)を制御することにより吐出量を変調する方法がある。
【0006】
図9は、記録ヘッドに印加するヒートパルスのタイムチャートを示す図である。ここで用いるヒートパルスは、分割パルスであり、パルス幅を変調できる。
【0007】
記録ヘッドを駆動するためのヒートパルスのパルス幅と駆動電圧Vopは、ヒータボードの面積、抵抗値、膜構造や記録ヘッドのノズル構造によって決まる。
【0008】
図9において、P1はプレヒートパルス、P2はインターバルタイム、P3はメインヒートパルスを示している。記録ヘッドに設けられた温度センサ(ダイオードセンサ等)の温度情報に基づいて、P1、P2、P3の内少なくとも1つ以上のパルス波形は変調される。また、T1、T2、T3は印加パルスの立ち上がり時刻であり、夫々、P1、P2、P3を決めるための時刻を示している。
【0009】
プレヒートパルスP1は主にノズル内のインク温度を制御するためのパルス幅であり、記録ヘッドの温度センサを利用して検知された温度に従って、そのパルス幅が制御される。この時、インクに熱エネルギーを加えすぎて、プレヒートでインクが発泡しないようにそのパルス幅は制御される。
【0010】
インターバルタイムP2は、プレヒートパルスP1とメインヒートパルスP3との相互干渉を防止する目的と、プレヒートパルスP1で与えた熱エネルギーをヒータ上部のインク中へ拡散させ、ノズル内インクの温度を均一化する目的のため設けられる。
【0011】
メインヒートパルスP3は、インクを発泡させ、吐出口からインク滴を吐出するためのエネルギーをインクに与える。
【0012】
一方、記録媒体の全面に、均一な画像を記録した場合、記録素子列方向の温度分布は均一とはならず、記録素子列中央部が高く記録素子列両端部が低くなる。特に昇温が大きくなる記録の終盤では、図2(a)の「実際の温度分布」を示す曲線のようにその傾向は顕著になる。なお、図2(a)は、記録媒体の全面に、均一な画像を記録した場合における、記録の終盤での記録素子列の温度分布を示している。
【0013】
その結果、例えば均一な濃度の画像を記録したつもりでも、記録素子列中央部の記録素子によって記録された画像の濃度は、記録素子列両端部の記録素子によって記録された画像の濃度よりも大きくなり画像の劣化を招いていた。
【0014】
そこで、このような場合、記録素子列方向の温度分布に応じて、各記録素子に対して最適な吐出パルスを選択することにより、各記録素子からのインクの吐出量をほぼ一定に保つ吐出量制御方法が考えられる。
【0015】
例えば、図2(a)では、「実際の温度分布」を示す曲線に対して、3種類の吐出パルスを用いて吐出量を制御している。領域A及びEの記録素子には、図13のパルス幅テーブルNo3の吐出パルスを使用する。領域B及びDの記録素子は、領域A及びEの記録素子よりも温度が高いので、パルス幅テーブルNo4の吐出パルスを使用し、吐出量の増加を抑制する。領域Cの記録素子は、さらに温度が高いので、パルス幅テーブルNo5の吐出パルスを使用する。
【0016】
ここで、図2(a)における「吐出パルス設定温度分布」を示す階段状の線図が記録素子列方向の温度分布であれば、全記録素子列のインク滴の吐出量は一定になるが、実際の温度分布は「実際の温度分布」を示す線図である。従って、図2(b)は、「実際の温度分布」を示す線図と、「吐出パルス設定温度分布」を示す線図との温度差を示す図である。図2(b)は、記録素子列における温度誤差を表している。図2(b)では、0を中心に幅W2の誤差を持つことを示している。
【0017】
使用する吐出パルスの種類を増やし、温度変化に応じてきめ細かく吐出パルスを変えることで、この吐出量誤差を少なくできる。従って、許容できる吐出量誤差の範囲内となるように、吐出パルスの種類数を決めればよい。許容できる吐出量誤差の範囲は、例えば画像の濃度の変化が目視できるか否かによって決められる。
【0018】
しかしながら、記録する画像はいつも記録素子列方向に均一な濃度の画像とは限らないので、温度分布も図2(a)の「実際の温度分布」を示す線図のようになるとは限らない。例えば、図7(b)のような一部の記録素子のみを用いて記録を行う画像を記録する場合、記録素子列方向の各記録素子の温度分布は、図7(a)の線図Aのようになる。また、図7(c)のようなさらに画像の幅が狭く、かつ図7(b)の画像より濃度が低い画像の記録をする場合、図7(a)の線図Bのような温度分布になる。両者は明らかに異なる温度分布を示すが、両端の温度センサにて測定する温度は等しくなる。本来、温度分布の異なるこのような2種類の画像を記録する際は、当然吐出パルスの与え方は違ってくるはずであるが、温度センサの測定温度が等しいので区別することができない。
【0019】
このように実際には、色々な温度分布が発生するが、その温度分布を予測するのは煩雑である。このため、記録素子列内の各記録素子に温度差が生じないように、記録中に記録に用いられるヒータ以外のヒータにインクを吐出しない範囲のパルス幅のヒートパルスを印加することにより温度の安定を図ることがなされている(特許文献3参照)。
【0020】
図8は、インクを吐出しない範囲のパルスでの加熱(短パルス加熱)を行うためのヒートパルスを示している。短パルスP4のパルス幅は通常の記録を行うための吐出パルスより短く設定される。
【0021】
インクを吐出しない範囲のパルスとは、インクを吐出させるのに十分なエネルギー与えない程度のパルスである。短パルスは吐出パルスに比べ消費エネルギーは少ないが、吐出パルスの場合は吐出されるインク滴によって熱が排出される。このため、吐出をしないぎりぎりのパルスと吐出パルスとのヘッド昇温に寄与するエネルギーは、ほぼ同等であることがわかっている。
【0022】
従って、どのような画像であっても、記録中に記録に用いられるヒータ(吐出パルスの与えられるヒータ)以外のヒータに短パルスP4を与えれば、全面均一な画像と同等なパルスを印加することができる。このため、常に図2(a)の「実際の温度分布」を示す線図と同様の温度分布を得ることができる。
【0023】
ただ、このように記録媒体の全面に均一な画像を記録した場合と同等なパルスを印加した場合でも、記録素子列方向の各記録素子の温度は、前述したように記録素子列中央部の記録素子が高く、記録素子列両端部の記録素子が低くなる。特に昇温が大きくなる画像の記録の終盤では、図2(a)の「実際の温度分布」を示す曲線のようにその傾向は顕著になる。
【0024】
その結果、例えば、均一な濃度の画像記録を行うために、各記録素子へ同一の吐出パルスを印加した場合であっても、記録素子列中央部の記録素子によって記録された画像の濃度が、記録素子列両端部の記録素子によって記録された画像の濃度よりも大きくなる。このような濃度差が画像の品位を低下させていた。
【特許文献1】特開平5−31905号公報
【特許文献2】特開平9−183222号公報
【特許文献3】特開2001−239655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上記のとおり、従来の技術において、記録ヘッドの記録素子の昇温に起因する、吐出量変動を十分に防止する技術は開示されていない。
【0026】
一方、記録媒体の全面に均一な濃度の画像を記録する場合、図2(a)で示されるように、記録素子列方向の温度分布は、左右対称となり、記録素子列の両端に備えられた二つの温度センサによるそれぞれの測定温度も等しくなると考えられる。各記録素子は、ヒータを加熱するためのエネルギーを、ほぼ均一に与えられるためである。しかし、実際には、例えば、記録ヘッドを構成する記録素子基板と支持基板とを接着する接着剤の厚みムラ等の要因により、図3(a)に示すように、左右非対称の温度分布となり、二つの温度センサの各測定温度も違う場合があることがわかった。
【0027】
この場合、二つの温度センサによるそれぞれの測定温度の平均値に基づいて、図2(a)の場合と同様に、三種類の吐出パルスを決めるとする。すると、図3(a)に示すように、「吐出パルス設定温度分布」を示す線図は、特に記録素子列の両端付近で「実際の温度分布」を示す線図から大きくずれてしまう。その結果、図3(b)に示すように、「実際の温度分布」を示す線図と「吐出パルス設定温度分布」を示す線図との温度差が大きくなる。図3(b)に示すように誤差幅の値W3は、図2(b)で説明した誤差幅の値W2より大きい。この温度差すなわち温度誤差が大きくなる程、吐出量の変動が大きくなる。従って、濃度むらが目立ち画像の品位が低下する。
【0028】
特に、記録素子基板を複数有し、各記録素子基板の記録素子列の端部が互いに少しオーバーラップするように千鳥状に配置された記録ヘッドを用いた場合画像劣化が顕著であることがわかった。各記録素子列端部での吐出量変動により、各記録素子基板の境界部によって形成される画像部分の、濃度差が視認しやすく目立つためである。
【0029】
そこで、本発明の目的は、記録ヘッドの記録素子の昇温に起因する、吐出量変動を抑制し、画質劣化を効果的に抑制するインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記課題を解決するために、第1の本発明は、複数の発熱抵抗体を有する記録素子を含む記録素子列を備えた記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶している温度分布記憶手段と、前記温度検知手段で検知された前記記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算手段と、前記温度勾配計算手段により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶手段が予め記憶している前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測手段と、前記予測手段の予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御手段とを有することを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0031】
また、第2の本発明は、複数の発熱抵抗体を有する記録素子からなる記録素子列を備えた記録ヘッドと、少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、前記記録素子に印加するための複数の吐出パルスを予め記憶している記憶手段とを有するインクジェット記録装置を用いるインクジェット記録方法であって、前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶しておく温度分布記憶工程と、前記温度検知手段により前記記録ヘッドの温度を検知する検知工程と、前記検知工程において検知された記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算工程と、前記温度勾配計算工程により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶工程により予め記憶されている前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測工程と、前記予測工程による予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御工程とを有することを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0032】
以上の構成により、本発明によれば、記録ヘッドの記録素子の昇温に起因する、吐出量変動を抑制し、画質劣化を効果的に抑制するインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明の実施例を記載する。
【0034】
なお、以下に説明する実施例では、インクジェット記録方式を用いた記録装置としてプリンタを例に挙げ説明する。
【0035】
なお、この明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0036】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0037】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化が挙げられる。
【0038】
さらに、「実際の温度分布」とは、記録素子列の実際の温度分布の他、温度検知手段により検知される記録ヘッドの温度から想定される、記録素子列の温度分布を示す場合もある。
【0039】
図10は、本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置1の概略構成を示す断面図である。図10において、3は、記録ヘッドであり、本実施例ではブラック(K)、シアン(C)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)各色のインクを吐出する4つの記録ヘッド31〜34を有している。これらの記録ヘッドは、後述する制御部により駆動され対応するインクのインク滴を吐出しカラー記録を行う。
【0040】
シート状の記録媒体(以下、単にシートと称する)STは、図示しない給送部から給送され、搬送ベルト2に静電吸着されて移動しつつ記録ヘッド3の下を通過する際に記録が行われる。搬送装置である搬送ベルト2は、円環状の帯部材であって、搬送ベルト駆動ローラ5、支持ローラ6、7によって張架され、回転駆動することによりシートSTを搬送する。
【0041】
8は、搬送ベルト2のクリーニング機構であり、ベルト上に付着したインクを除去する。インクの吐出量と記録ヘッド3の温度には相関がある。具体的には、一般に15℃〜65℃の範囲で、記録ヘッド3の温度に対してインク吐出量はほぼ一定の割合で増加していく。従って、記録ヘッド3の温度に応じて発熱抵抗体(ヒータ)に印加するヒートパルスの形状を変化させることは、吐出量を一定に保つための有効な手段である。シートST全面にインクドットの密度が高い画像を形成した場合に、同一のパルス幅のヒートパルスを印加して吐出を繰り返していくと、徐々に記録ヘッド3の温度が上昇し、各記録素子からの吐出量が増え結果的に画像の濃度が高くなる。そこで、記録ヘッド3の温度の上昇を検出して、あるところでヒートパルスのパルス幅を切り替えれば、吐出量の増加を補正することができる。
【0042】
図11は、インクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。31はブラック用記録ヘッド、32はシアン用記録ヘッド、33はイエロー用記録ヘッド、34はマゼンタ用記録ヘッド、5は搬送ベルト駆動ローラである。記録ヘッド31〜34には、それぞれ記録ヘッドの温度を検出する為の温度センサが構成されており、温度センサは、吐出ノズルの近傍に配置されている。
【0043】
20は制御部であり、CPU21、プログラムを格納するROM22、制御に必要なワーク用データを保存するRAM23、ゲートアレイ24を含んでいる。このゲートアレイ24は、搬送ベルト駆動ローラ5の駆動制御信号、記録ヘッド3への画像信号および制御信号、クリーニング機構8の駆動制御信号、後述するパルス幅テーブル値などを出力する。25はイメージメモリであり、ゲートアレイ24が外部から受信した記録データを一時記憶する。
【0044】
図12は、記録ヘッドの温度に対して、吐出量(Vd)を一定に保つ為の、本実施例におけるパルス幅テーブルの選択例を示した図である。図13に示すパルス幅テーブルNo1〜10の10種類の吐出パルスを設定し、記録ヘッドの温度に応じて、吐出量の振れ幅が、画像上問題とならないΔVd以内となるように吐出量をコントロールすることが可能になる。
【0045】
図13は、本実施例で用いた実際の吐出パルスに対応するパルス波形(パルス幅テーブルNo1〜10)を図示したものである。プレヒートパルスの幅を変え、それに合わせてメインヒートパルスの幅も変えることによって、吐出量をコントロールすることができる。P1、P2およびP3は、各パルス波形を再現するためのタイミング(時間間隔)を示しており、これらの値を、ROM22内のパルス幅テーブルに格納しておき、ゲートアレイ24に展開して使用する。
【0046】
実際の記録において、このような構成でインクの吐出を連続で繰り返すと、記録ヘッドの温度は徐々に上昇するため、各記録素子からの吐出量も徐々に増加する。そこで、温度センサにて検出される記録ヘッドの温度がある閾値を越えると、吐出量が少なくなる吐出パルスに切り替える。例えば、途中で吐出パルスを切り替えて記録を行った画像を示す図14の拡大図において、線分Aよりも左側の部分であるインクドット52の列のインクドットまでの記録を図13のパルス幅テーブルNo7で記録したとする。すると、線分Aよりも右側の部分であるインクドット51の列のインクドットからの記録は、パルス幅テーブルNo8に切り替わる。インクドット51の列のインクドットの吐出量は、パルス幅テーブルNo7での最初のインクドット(不図示)と同じ吐出量である。しかし、パルス幅テーブルNo7の吐出パルスで吐出しつづけている間に温度が上昇し、パルス幅テーブルNo8に切り替わる直前のインクドット52の吐出量はインクドット51の吐出量に比べ少し多くなる。このため、図示するようにインクドット52の大きさはインクドット51に比べ少し大きくなってしまう。しかし、インクドット51とインクドット52との吐出量差が、図12に示すΔVd以内になっていれば、人間の目では境界がわからず画像上問題はない。
【0047】
図6は、本発明で使用できる代表的な記録ヘッド3を記録素子基板側からみた図である。この記録ヘッド3は、記録装置1に固定され、図中矢印の方向に記録媒体が移動しながら記録が行われる。記録ヘッド3は、記録素子列N1,N2を備えた記録素子基板501を複数(501a〜501f)有し、各々の記録素子基板は、記録素子列N1,N2の端部が互いに少しオーバーラップするように千鳥状に配置されている。
【0048】
記録素子基板501は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板で形成されている。支持基板502は、例えば、厚さ3〜10mmのアルミナ(Al2O3)材料で形成されている。なお、支持基板の素材は、アルミナに限られることなく、記録素子基板501の材料の線膨張率と同等の線膨張率を有し、かつ、アルミナの熱伝導率と同等もしくは同等以上の熱伝導率を有する材料で作られてもよい。
【0049】
支持基板502の素材は、例えば、シリコン(Si)、カーボングラファイト、ジルコニア、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)がある。支持基板502には、記録素子基板501に不図示のインクタンクなどからインクを供給するためのインク供給口(不図示)が形成されている。記録素子基板501のインク供給口は、支持基板502のインク供給口(不図示)に対応し、かつ、記録素子基板501は、支持基板502に対して位置精度良く接着固定される。その接着剤は、例えば、粘度が低く、接触面に形成される接着層が薄く、かつ、硬化後、比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。例えば、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤、もしくは紫外線硬化併用型の熱硬化接着剤が用いられ、接着層の厚みは50μm以下が望ましい。特に、記録素子基板501の記録による熱を、支持基板502側へ逃がす事を考えると10μm以下が望ましい。
【0050】
記録素子基板501には、記録素子列N1、N2以外にダイオードなどで形成された温度センサ503、504が各記録素子列の(配列方向の)両側に設けられている。
図6に示すように、記録素子基板501には温度センサが4つ設けられている。記録素子列N1の両側にそれぞれ1つづつ、記録素子列N2の両側にそれぞれ1つづつ設けられている。温度センサ503、504により各記録素子列の温度変化を検出する構成になっている。
【0051】
このような、温度センサが各記録素子列の両側に設けられ、記録素子列の端部が互いに重複するように一方向に配列することにより構成されるフルライン記録ヘッドは、好ましく用いられる。
【0052】
図1は、全面に画像を形成する場合、特に1ページの記録を行う際の終盤における記録素子列に沿った温度分布が、左右非対称形状になったときの温度分布を示す。
【0053】
「実際の温度分布」を示す線図では中央部が高くなる傾向は変わらないが、記録素子列の左側端部の温度が右側端部の温度よりも低くなっている。例えば、図6における記録素子基板501aと501dがこのような温度分布となる。記録素子基板501aと501dの右側には、隣接して記録素子基板501bと501eが設けられているが、左側はヘッド端部で記録素子基板は設けられていない。従って、右側からは隣接した記録素子基板から発生する熱によって加熱されるが、左側からは加熱されない。そのため記録素子基板501aと501dは、記録素子列の左側端部の温度が右側端部の温度よりも低くなる。一方記録ヘッド3の逆側の端部に配置されている記録素子基板501cと501fは、逆に記録素子列の右側端部の温度が左側端部の温度よりも低くなる。
【0054】
また、記録素子基板501aと501dだけ又はいずれか一方だけが駆動され、隣接した記録素子基板501bと501eが駆動されずに画像を形成する場合、上記の場合程ではないが、記録素子列の左側端部の温度が右側端部の温度より低くなる。これは、記録素子基板501aと501dの左側はヘッド端部であるため、空気中への放熱が促進されるためである。
【0055】
上記で全面に画像を形成する場合の「実際の温度分布」を示す線図を図1(a)のようにA,B,C,Dの四つの範囲に分け、それぞれの範囲の上限温度と下限温度の平均温度を計算し、図中階段状の「吐出パルス設定温度分布」を設定する。この「吐出パルス設定温度分布」を示す線図から、各範囲A,B,C,Dにて記録素子に印加する吐出パルスを決定する。図1(b)は図2(b)や図3(b)と同様の図である。その時の温度誤差は図1(b)に示すように図2(b)のような理想的温度分布の場合とほとんど変わらないので、記録された画像の吐出量誤差を抑えることができ、画像劣化があまり生じない。
【0056】
次に図1(c)、図1(d)及び、図4のフローチャートによって、吐出パルス設定の手順を説明する。
【0057】
最初に、記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予めROM等(温度分布記憶手段)に記憶している記録装置を用いて、記録中の任意の時点で記録素子列両側に配置された温度センサの温度を測定する(ステップS210)。次に、ステップS220で、温度センサの測定結果から、記録素子列の温度勾配を計算(温度勾配計算を実行)する。
【0058】
次に、予め記憶している温度分布と、ステップS220で計算した温度勾配とから、補正後の温度分布を計算し、予測する(ステップS230)(予測温度を得る)。予め記憶している温度分布は、例えば、図2(a)に示すような温度分布である。
【0059】
次に、補正後の温度分布より三段階の温度レベル(温度領域/温度範囲)(1)、(2)、(3)に分割する(ステップS240)。詳細には、例えば、図1(c)に示されるように、補正後の温度分布の最高温度と最低温度の差を求め、それを3等分すればよい。例えば、温度領域(1)は温度T1〜T2、温度領域(2)は温度T2〜T3、温度領域(3)は温度T3〜T4で表される。
【0060】
次に、図1(c)及び図1(d)に示されるように、補正後の温度分布の曲線から温度レベル(1)、(2)、(3)を示す領域A,B,C,Dを求める(ステップS250)。即ち、記録素子列を温度領域に基づき4つの領域に分ける。
【0061】
そして、領域A,B,C,Dの中央温度を求める(ステップS260)。ここで、中央温度とは、例えば各領域内での最大温度と最低温度の中央となる温度のことである。
【0062】
最後に、この中央温度から各領域A,B,C,Dの吐出パルスを選択する(ステップS270)。所望の吐出量を得るため、図5に示すような、吐出パルスの温度毎()温度範囲毎)のテーブルが予め設けられており、記録素子毎にこのテーブルから吐出パルスを選択する。例えば温度が37℃のときは吐出パルスNo5選択する。なお、吐出パルスを選択する単位は、複数の記録素子毎でもよく、例えば連続する4つの記録素子には同じ吐出パルスを選択しても良い。
【0063】
以上説明した方法によれば、記録素子列の両側の温度センサにおける測定温度に差があっても、実際の温度分布に近い温度分布を求めることができ、その結果、吐出量誤差を最小限に抑えることができる。
【0064】
なお、ここで説明した実施例は、記録素子基板を複数備えた記録ヘッドを用いて説明したが、本発明は、記録素子基板を1個しか持たない記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置にも適応できる。
【0065】
また、本実施例では、三段階の温度レベル(温度領域)に分け、記録素子列を温度領域に基づき4つの領域に分けたが、分割数はこの値に限定するものではない。
【0066】
なお、図6に示したセンサの数、配置は他の形態でも構わない。例えば、記録素子基板501に設ける温度センサの数を2つにしても構わない。この場合、記録素子基板501の両端に1つづつ設け、記録素子列N1の温度測定と、記録素子列N2の温度測定を兼用する。
【0067】
また、記録中の、記録に用いられる記録素子と記録に用いられない記録素子との間の温度差を低減するため、記録時に、記録に用いられない記録素子に、インクを吐出しない範囲のパルス幅のヒートパルスを印加する制御手段をさらに有する構成であってもよい。このような構成であれば、補正後の温度分布を計算する精度が高くなり、吐出量誤差をさらに抑えることができるためである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明における記録素子列の温度分布を示す図である。
【図2】記録素子列の温度分布を示す図である。
【図3】記録素子列の温度分布を示す図である。
【図4】本発明の実施例のフローチャートである。
【図5】温度毎の吐出パルスのテーブルを示す図である。
【図6】記録ヘッドを記録素子基板側からみた図である。
【図7】特定の画像と、この画像を記録した際の記録素子列の温度分布とを示す図である。
【図8】短パルス加熱を行うためのヒートパルスを示す図である。
【図9】記録ヘッドに印加するヒートパルスのタイムチャートを示す図である。
【図10】インクジェット記録装置の概略構成を示す断面図である。
【図11】インクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の実施例のパルス幅テーブルの選択例を示す図である。
【図13】吐出パルスの波形を示す図である。
【図14】途中で吐出パルスを切り替えて記録を行った画像を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
20 制御部
21 CPU
22 ROM
23 RAM
24 ゲートアレイ
25 イメージメモリ
31 ブラック用記録ヘッド
32 シアン用記録ヘッド
33 イエロー用記録ヘッド
34 マゼンタ用記録ヘッド
503 温度センサ
504 温度センサ
N1 記録素子列
N2 記録素子列
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関し、特に、インクの吐出量誤差を最小限に抑え、画質劣化を抑制するインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の記録素子を備えた各記録ヘッドを複数並列固定して、記録媒体を走査し記録する方式のインクジェット記録装置が提供されている。このような構成のインクジェット記録装置は、記録ヘッドを走査して記録するいわゆるシリアルスキャン方式よりも記録速度が速いのが特徴である。
【0003】
記録速度の高速化を達成する上で問題になるのは、記録ヘッドの昇温によるインクの吐出量変動に起因する画質劣化である。そこで、良好な画像を得るために、記録される画像等における濃度ムラ等の発生を極力抑える目的で、記録ヘッドから吐出されるインクの吐出量を安定化するための制御が種々行なわれてきた(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
発熱抵抗体(以下、ヒータともいう)に電気パルスを印加し、インクを急速に加熱してインクを液相から気相に状態変化させることで発泡力を生起させるインクジェット記録方式がある。この記録方式では、インクが液相から気相に状態変化するまでのエネルギーの投入方法によって吐出量はほぼ決定される。このため、インクが気相に状態変化した後では、どのようなエネルギー投入を行ってもほとんど吐出量には影響がない。
【0005】
インクジェット記録装置において、従来の昇温に起因した吐出量変動の対策の一つは、気相に状態変化するまでのエネルギーの投入方法を制御するものである。例えば、図9に示すような分割パルスを用い、プレヒートパルス、メインヒートパルス、これらのパルス間の休止時間(インターバルタイム)を制御することにより吐出量を変調する方法がある。
【0006】
図9は、記録ヘッドに印加するヒートパルスのタイムチャートを示す図である。ここで用いるヒートパルスは、分割パルスであり、パルス幅を変調できる。
【0007】
記録ヘッドを駆動するためのヒートパルスのパルス幅と駆動電圧Vopは、ヒータボードの面積、抵抗値、膜構造や記録ヘッドのノズル構造によって決まる。
【0008】
図9において、P1はプレヒートパルス、P2はインターバルタイム、P3はメインヒートパルスを示している。記録ヘッドに設けられた温度センサ(ダイオードセンサ等)の温度情報に基づいて、P1、P2、P3の内少なくとも1つ以上のパルス波形は変調される。また、T1、T2、T3は印加パルスの立ち上がり時刻であり、夫々、P1、P2、P3を決めるための時刻を示している。
【0009】
プレヒートパルスP1は主にノズル内のインク温度を制御するためのパルス幅であり、記録ヘッドの温度センサを利用して検知された温度に従って、そのパルス幅が制御される。この時、インクに熱エネルギーを加えすぎて、プレヒートでインクが発泡しないようにそのパルス幅は制御される。
【0010】
インターバルタイムP2は、プレヒートパルスP1とメインヒートパルスP3との相互干渉を防止する目的と、プレヒートパルスP1で与えた熱エネルギーをヒータ上部のインク中へ拡散させ、ノズル内インクの温度を均一化する目的のため設けられる。
【0011】
メインヒートパルスP3は、インクを発泡させ、吐出口からインク滴を吐出するためのエネルギーをインクに与える。
【0012】
一方、記録媒体の全面に、均一な画像を記録した場合、記録素子列方向の温度分布は均一とはならず、記録素子列中央部が高く記録素子列両端部が低くなる。特に昇温が大きくなる記録の終盤では、図2(a)の「実際の温度分布」を示す曲線のようにその傾向は顕著になる。なお、図2(a)は、記録媒体の全面に、均一な画像を記録した場合における、記録の終盤での記録素子列の温度分布を示している。
【0013】
その結果、例えば均一な濃度の画像を記録したつもりでも、記録素子列中央部の記録素子によって記録された画像の濃度は、記録素子列両端部の記録素子によって記録された画像の濃度よりも大きくなり画像の劣化を招いていた。
【0014】
そこで、このような場合、記録素子列方向の温度分布に応じて、各記録素子に対して最適な吐出パルスを選択することにより、各記録素子からのインクの吐出量をほぼ一定に保つ吐出量制御方法が考えられる。
【0015】
例えば、図2(a)では、「実際の温度分布」を示す曲線に対して、3種類の吐出パルスを用いて吐出量を制御している。領域A及びEの記録素子には、図13のパルス幅テーブルNo3の吐出パルスを使用する。領域B及びDの記録素子は、領域A及びEの記録素子よりも温度が高いので、パルス幅テーブルNo4の吐出パルスを使用し、吐出量の増加を抑制する。領域Cの記録素子は、さらに温度が高いので、パルス幅テーブルNo5の吐出パルスを使用する。
【0016】
ここで、図2(a)における「吐出パルス設定温度分布」を示す階段状の線図が記録素子列方向の温度分布であれば、全記録素子列のインク滴の吐出量は一定になるが、実際の温度分布は「実際の温度分布」を示す線図である。従って、図2(b)は、「実際の温度分布」を示す線図と、「吐出パルス設定温度分布」を示す線図との温度差を示す図である。図2(b)は、記録素子列における温度誤差を表している。図2(b)では、0を中心に幅W2の誤差を持つことを示している。
【0017】
使用する吐出パルスの種類を増やし、温度変化に応じてきめ細かく吐出パルスを変えることで、この吐出量誤差を少なくできる。従って、許容できる吐出量誤差の範囲内となるように、吐出パルスの種類数を決めればよい。許容できる吐出量誤差の範囲は、例えば画像の濃度の変化が目視できるか否かによって決められる。
【0018】
しかしながら、記録する画像はいつも記録素子列方向に均一な濃度の画像とは限らないので、温度分布も図2(a)の「実際の温度分布」を示す線図のようになるとは限らない。例えば、図7(b)のような一部の記録素子のみを用いて記録を行う画像を記録する場合、記録素子列方向の各記録素子の温度分布は、図7(a)の線図Aのようになる。また、図7(c)のようなさらに画像の幅が狭く、かつ図7(b)の画像より濃度が低い画像の記録をする場合、図7(a)の線図Bのような温度分布になる。両者は明らかに異なる温度分布を示すが、両端の温度センサにて測定する温度は等しくなる。本来、温度分布の異なるこのような2種類の画像を記録する際は、当然吐出パルスの与え方は違ってくるはずであるが、温度センサの測定温度が等しいので区別することができない。
【0019】
このように実際には、色々な温度分布が発生するが、その温度分布を予測するのは煩雑である。このため、記録素子列内の各記録素子に温度差が生じないように、記録中に記録に用いられるヒータ以外のヒータにインクを吐出しない範囲のパルス幅のヒートパルスを印加することにより温度の安定を図ることがなされている(特許文献3参照)。
【0020】
図8は、インクを吐出しない範囲のパルスでの加熱(短パルス加熱)を行うためのヒートパルスを示している。短パルスP4のパルス幅は通常の記録を行うための吐出パルスより短く設定される。
【0021】
インクを吐出しない範囲のパルスとは、インクを吐出させるのに十分なエネルギー与えない程度のパルスである。短パルスは吐出パルスに比べ消費エネルギーは少ないが、吐出パルスの場合は吐出されるインク滴によって熱が排出される。このため、吐出をしないぎりぎりのパルスと吐出パルスとのヘッド昇温に寄与するエネルギーは、ほぼ同等であることがわかっている。
【0022】
従って、どのような画像であっても、記録中に記録に用いられるヒータ(吐出パルスの与えられるヒータ)以外のヒータに短パルスP4を与えれば、全面均一な画像と同等なパルスを印加することができる。このため、常に図2(a)の「実際の温度分布」を示す線図と同様の温度分布を得ることができる。
【0023】
ただ、このように記録媒体の全面に均一な画像を記録した場合と同等なパルスを印加した場合でも、記録素子列方向の各記録素子の温度は、前述したように記録素子列中央部の記録素子が高く、記録素子列両端部の記録素子が低くなる。特に昇温が大きくなる画像の記録の終盤では、図2(a)の「実際の温度分布」を示す曲線のようにその傾向は顕著になる。
【0024】
その結果、例えば、均一な濃度の画像記録を行うために、各記録素子へ同一の吐出パルスを印加した場合であっても、記録素子列中央部の記録素子によって記録された画像の濃度が、記録素子列両端部の記録素子によって記録された画像の濃度よりも大きくなる。このような濃度差が画像の品位を低下させていた。
【特許文献1】特開平5−31905号公報
【特許文献2】特開平9−183222号公報
【特許文献3】特開2001−239655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上記のとおり、従来の技術において、記録ヘッドの記録素子の昇温に起因する、吐出量変動を十分に防止する技術は開示されていない。
【0026】
一方、記録媒体の全面に均一な濃度の画像を記録する場合、図2(a)で示されるように、記録素子列方向の温度分布は、左右対称となり、記録素子列の両端に備えられた二つの温度センサによるそれぞれの測定温度も等しくなると考えられる。各記録素子は、ヒータを加熱するためのエネルギーを、ほぼ均一に与えられるためである。しかし、実際には、例えば、記録ヘッドを構成する記録素子基板と支持基板とを接着する接着剤の厚みムラ等の要因により、図3(a)に示すように、左右非対称の温度分布となり、二つの温度センサの各測定温度も違う場合があることがわかった。
【0027】
この場合、二つの温度センサによるそれぞれの測定温度の平均値に基づいて、図2(a)の場合と同様に、三種類の吐出パルスを決めるとする。すると、図3(a)に示すように、「吐出パルス設定温度分布」を示す線図は、特に記録素子列の両端付近で「実際の温度分布」を示す線図から大きくずれてしまう。その結果、図3(b)に示すように、「実際の温度分布」を示す線図と「吐出パルス設定温度分布」を示す線図との温度差が大きくなる。図3(b)に示すように誤差幅の値W3は、図2(b)で説明した誤差幅の値W2より大きい。この温度差すなわち温度誤差が大きくなる程、吐出量の変動が大きくなる。従って、濃度むらが目立ち画像の品位が低下する。
【0028】
特に、記録素子基板を複数有し、各記録素子基板の記録素子列の端部が互いに少しオーバーラップするように千鳥状に配置された記録ヘッドを用いた場合画像劣化が顕著であることがわかった。各記録素子列端部での吐出量変動により、各記録素子基板の境界部によって形成される画像部分の、濃度差が視認しやすく目立つためである。
【0029】
そこで、本発明の目的は、記録ヘッドの記録素子の昇温に起因する、吐出量変動を抑制し、画質劣化を効果的に抑制するインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記課題を解決するために、第1の本発明は、複数の発熱抵抗体を有する記録素子を含む記録素子列を備えた記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶している温度分布記憶手段と、前記温度検知手段で検知された前記記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算手段と、前記温度勾配計算手段により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶手段が予め記憶している前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測手段と、前記予測手段の予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御手段とを有することを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0031】
また、第2の本発明は、複数の発熱抵抗体を有する記録素子からなる記録素子列を備えた記録ヘッドと、少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、前記記録素子に印加するための複数の吐出パルスを予め記憶している記憶手段とを有するインクジェット記録装置を用いるインクジェット記録方法であって、前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶しておく温度分布記憶工程と、前記温度検知手段により前記記録ヘッドの温度を検知する検知工程と、前記検知工程において検知された記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算工程と、前記温度勾配計算工程により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶工程により予め記憶されている前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測工程と、前記予測工程による予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御工程とを有することを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0032】
以上の構成により、本発明によれば、記録ヘッドの記録素子の昇温に起因する、吐出量変動を抑制し、画質劣化を効果的に抑制するインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明の実施例を記載する。
【0034】
なお、以下に説明する実施例では、インクジェット記録方式を用いた記録装置としてプリンタを例に挙げ説明する。
【0035】
なお、この明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0036】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0037】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化が挙げられる。
【0038】
さらに、「実際の温度分布」とは、記録素子列の実際の温度分布の他、温度検知手段により検知される記録ヘッドの温度から想定される、記録素子列の温度分布を示す場合もある。
【0039】
図10は、本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置1の概略構成を示す断面図である。図10において、3は、記録ヘッドであり、本実施例ではブラック(K)、シアン(C)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)各色のインクを吐出する4つの記録ヘッド31〜34を有している。これらの記録ヘッドは、後述する制御部により駆動され対応するインクのインク滴を吐出しカラー記録を行う。
【0040】
シート状の記録媒体(以下、単にシートと称する)STは、図示しない給送部から給送され、搬送ベルト2に静電吸着されて移動しつつ記録ヘッド3の下を通過する際に記録が行われる。搬送装置である搬送ベルト2は、円環状の帯部材であって、搬送ベルト駆動ローラ5、支持ローラ6、7によって張架され、回転駆動することによりシートSTを搬送する。
【0041】
8は、搬送ベルト2のクリーニング機構であり、ベルト上に付着したインクを除去する。インクの吐出量と記録ヘッド3の温度には相関がある。具体的には、一般に15℃〜65℃の範囲で、記録ヘッド3の温度に対してインク吐出量はほぼ一定の割合で増加していく。従って、記録ヘッド3の温度に応じて発熱抵抗体(ヒータ)に印加するヒートパルスの形状を変化させることは、吐出量を一定に保つための有効な手段である。シートST全面にインクドットの密度が高い画像を形成した場合に、同一のパルス幅のヒートパルスを印加して吐出を繰り返していくと、徐々に記録ヘッド3の温度が上昇し、各記録素子からの吐出量が増え結果的に画像の濃度が高くなる。そこで、記録ヘッド3の温度の上昇を検出して、あるところでヒートパルスのパルス幅を切り替えれば、吐出量の増加を補正することができる。
【0042】
図11は、インクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。31はブラック用記録ヘッド、32はシアン用記録ヘッド、33はイエロー用記録ヘッド、34はマゼンタ用記録ヘッド、5は搬送ベルト駆動ローラである。記録ヘッド31〜34には、それぞれ記録ヘッドの温度を検出する為の温度センサが構成されており、温度センサは、吐出ノズルの近傍に配置されている。
【0043】
20は制御部であり、CPU21、プログラムを格納するROM22、制御に必要なワーク用データを保存するRAM23、ゲートアレイ24を含んでいる。このゲートアレイ24は、搬送ベルト駆動ローラ5の駆動制御信号、記録ヘッド3への画像信号および制御信号、クリーニング機構8の駆動制御信号、後述するパルス幅テーブル値などを出力する。25はイメージメモリであり、ゲートアレイ24が外部から受信した記録データを一時記憶する。
【0044】
図12は、記録ヘッドの温度に対して、吐出量(Vd)を一定に保つ為の、本実施例におけるパルス幅テーブルの選択例を示した図である。図13に示すパルス幅テーブルNo1〜10の10種類の吐出パルスを設定し、記録ヘッドの温度に応じて、吐出量の振れ幅が、画像上問題とならないΔVd以内となるように吐出量をコントロールすることが可能になる。
【0045】
図13は、本実施例で用いた実際の吐出パルスに対応するパルス波形(パルス幅テーブルNo1〜10)を図示したものである。プレヒートパルスの幅を変え、それに合わせてメインヒートパルスの幅も変えることによって、吐出量をコントロールすることができる。P1、P2およびP3は、各パルス波形を再現するためのタイミング(時間間隔)を示しており、これらの値を、ROM22内のパルス幅テーブルに格納しておき、ゲートアレイ24に展開して使用する。
【0046】
実際の記録において、このような構成でインクの吐出を連続で繰り返すと、記録ヘッドの温度は徐々に上昇するため、各記録素子からの吐出量も徐々に増加する。そこで、温度センサにて検出される記録ヘッドの温度がある閾値を越えると、吐出量が少なくなる吐出パルスに切り替える。例えば、途中で吐出パルスを切り替えて記録を行った画像を示す図14の拡大図において、線分Aよりも左側の部分であるインクドット52の列のインクドットまでの記録を図13のパルス幅テーブルNo7で記録したとする。すると、線分Aよりも右側の部分であるインクドット51の列のインクドットからの記録は、パルス幅テーブルNo8に切り替わる。インクドット51の列のインクドットの吐出量は、パルス幅テーブルNo7での最初のインクドット(不図示)と同じ吐出量である。しかし、パルス幅テーブルNo7の吐出パルスで吐出しつづけている間に温度が上昇し、パルス幅テーブルNo8に切り替わる直前のインクドット52の吐出量はインクドット51の吐出量に比べ少し多くなる。このため、図示するようにインクドット52の大きさはインクドット51に比べ少し大きくなってしまう。しかし、インクドット51とインクドット52との吐出量差が、図12に示すΔVd以内になっていれば、人間の目では境界がわからず画像上問題はない。
【0047】
図6は、本発明で使用できる代表的な記録ヘッド3を記録素子基板側からみた図である。この記録ヘッド3は、記録装置1に固定され、図中矢印の方向に記録媒体が移動しながら記録が行われる。記録ヘッド3は、記録素子列N1,N2を備えた記録素子基板501を複数(501a〜501f)有し、各々の記録素子基板は、記録素子列N1,N2の端部が互いに少しオーバーラップするように千鳥状に配置されている。
【0048】
記録素子基板501は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板で形成されている。支持基板502は、例えば、厚さ3〜10mmのアルミナ(Al2O3)材料で形成されている。なお、支持基板の素材は、アルミナに限られることなく、記録素子基板501の材料の線膨張率と同等の線膨張率を有し、かつ、アルミナの熱伝導率と同等もしくは同等以上の熱伝導率を有する材料で作られてもよい。
【0049】
支持基板502の素材は、例えば、シリコン(Si)、カーボングラファイト、ジルコニア、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)がある。支持基板502には、記録素子基板501に不図示のインクタンクなどからインクを供給するためのインク供給口(不図示)が形成されている。記録素子基板501のインク供給口は、支持基板502のインク供給口(不図示)に対応し、かつ、記録素子基板501は、支持基板502に対して位置精度良く接着固定される。その接着剤は、例えば、粘度が低く、接触面に形成される接着層が薄く、かつ、硬化後、比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。例えば、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤、もしくは紫外線硬化併用型の熱硬化接着剤が用いられ、接着層の厚みは50μm以下が望ましい。特に、記録素子基板501の記録による熱を、支持基板502側へ逃がす事を考えると10μm以下が望ましい。
【0050】
記録素子基板501には、記録素子列N1、N2以外にダイオードなどで形成された温度センサ503、504が各記録素子列の(配列方向の)両側に設けられている。
図6に示すように、記録素子基板501には温度センサが4つ設けられている。記録素子列N1の両側にそれぞれ1つづつ、記録素子列N2の両側にそれぞれ1つづつ設けられている。温度センサ503、504により各記録素子列の温度変化を検出する構成になっている。
【0051】
このような、温度センサが各記録素子列の両側に設けられ、記録素子列の端部が互いに重複するように一方向に配列することにより構成されるフルライン記録ヘッドは、好ましく用いられる。
【0052】
図1は、全面に画像を形成する場合、特に1ページの記録を行う際の終盤における記録素子列に沿った温度分布が、左右非対称形状になったときの温度分布を示す。
【0053】
「実際の温度分布」を示す線図では中央部が高くなる傾向は変わらないが、記録素子列の左側端部の温度が右側端部の温度よりも低くなっている。例えば、図6における記録素子基板501aと501dがこのような温度分布となる。記録素子基板501aと501dの右側には、隣接して記録素子基板501bと501eが設けられているが、左側はヘッド端部で記録素子基板は設けられていない。従って、右側からは隣接した記録素子基板から発生する熱によって加熱されるが、左側からは加熱されない。そのため記録素子基板501aと501dは、記録素子列の左側端部の温度が右側端部の温度よりも低くなる。一方記録ヘッド3の逆側の端部に配置されている記録素子基板501cと501fは、逆に記録素子列の右側端部の温度が左側端部の温度よりも低くなる。
【0054】
また、記録素子基板501aと501dだけ又はいずれか一方だけが駆動され、隣接した記録素子基板501bと501eが駆動されずに画像を形成する場合、上記の場合程ではないが、記録素子列の左側端部の温度が右側端部の温度より低くなる。これは、記録素子基板501aと501dの左側はヘッド端部であるため、空気中への放熱が促進されるためである。
【0055】
上記で全面に画像を形成する場合の「実際の温度分布」を示す線図を図1(a)のようにA,B,C,Dの四つの範囲に分け、それぞれの範囲の上限温度と下限温度の平均温度を計算し、図中階段状の「吐出パルス設定温度分布」を設定する。この「吐出パルス設定温度分布」を示す線図から、各範囲A,B,C,Dにて記録素子に印加する吐出パルスを決定する。図1(b)は図2(b)や図3(b)と同様の図である。その時の温度誤差は図1(b)に示すように図2(b)のような理想的温度分布の場合とほとんど変わらないので、記録された画像の吐出量誤差を抑えることができ、画像劣化があまり生じない。
【0056】
次に図1(c)、図1(d)及び、図4のフローチャートによって、吐出パルス設定の手順を説明する。
【0057】
最初に、記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予めROM等(温度分布記憶手段)に記憶している記録装置を用いて、記録中の任意の時点で記録素子列両側に配置された温度センサの温度を測定する(ステップS210)。次に、ステップS220で、温度センサの測定結果から、記録素子列の温度勾配を計算(温度勾配計算を実行)する。
【0058】
次に、予め記憶している温度分布と、ステップS220で計算した温度勾配とから、補正後の温度分布を計算し、予測する(ステップS230)(予測温度を得る)。予め記憶している温度分布は、例えば、図2(a)に示すような温度分布である。
【0059】
次に、補正後の温度分布より三段階の温度レベル(温度領域/温度範囲)(1)、(2)、(3)に分割する(ステップS240)。詳細には、例えば、図1(c)に示されるように、補正後の温度分布の最高温度と最低温度の差を求め、それを3等分すればよい。例えば、温度領域(1)は温度T1〜T2、温度領域(2)は温度T2〜T3、温度領域(3)は温度T3〜T4で表される。
【0060】
次に、図1(c)及び図1(d)に示されるように、補正後の温度分布の曲線から温度レベル(1)、(2)、(3)を示す領域A,B,C,Dを求める(ステップS250)。即ち、記録素子列を温度領域に基づき4つの領域に分ける。
【0061】
そして、領域A,B,C,Dの中央温度を求める(ステップS260)。ここで、中央温度とは、例えば各領域内での最大温度と最低温度の中央となる温度のことである。
【0062】
最後に、この中央温度から各領域A,B,C,Dの吐出パルスを選択する(ステップS270)。所望の吐出量を得るため、図5に示すような、吐出パルスの温度毎()温度範囲毎)のテーブルが予め設けられており、記録素子毎にこのテーブルから吐出パルスを選択する。例えば温度が37℃のときは吐出パルスNo5選択する。なお、吐出パルスを選択する単位は、複数の記録素子毎でもよく、例えば連続する4つの記録素子には同じ吐出パルスを選択しても良い。
【0063】
以上説明した方法によれば、記録素子列の両側の温度センサにおける測定温度に差があっても、実際の温度分布に近い温度分布を求めることができ、その結果、吐出量誤差を最小限に抑えることができる。
【0064】
なお、ここで説明した実施例は、記録素子基板を複数備えた記録ヘッドを用いて説明したが、本発明は、記録素子基板を1個しか持たない記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置にも適応できる。
【0065】
また、本実施例では、三段階の温度レベル(温度領域)に分け、記録素子列を温度領域に基づき4つの領域に分けたが、分割数はこの値に限定するものではない。
【0066】
なお、図6に示したセンサの数、配置は他の形態でも構わない。例えば、記録素子基板501に設ける温度センサの数を2つにしても構わない。この場合、記録素子基板501の両端に1つづつ設け、記録素子列N1の温度測定と、記録素子列N2の温度測定を兼用する。
【0067】
また、記録中の、記録に用いられる記録素子と記録に用いられない記録素子との間の温度差を低減するため、記録時に、記録に用いられない記録素子に、インクを吐出しない範囲のパルス幅のヒートパルスを印加する制御手段をさらに有する構成であってもよい。このような構成であれば、補正後の温度分布を計算する精度が高くなり、吐出量誤差をさらに抑えることができるためである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明における記録素子列の温度分布を示す図である。
【図2】記録素子列の温度分布を示す図である。
【図3】記録素子列の温度分布を示す図である。
【図4】本発明の実施例のフローチャートである。
【図5】温度毎の吐出パルスのテーブルを示す図である。
【図6】記録ヘッドを記録素子基板側からみた図である。
【図7】特定の画像と、この画像を記録した際の記録素子列の温度分布とを示す図である。
【図8】短パルス加熱を行うためのヒートパルスを示す図である。
【図9】記録ヘッドに印加するヒートパルスのタイムチャートを示す図である。
【図10】インクジェット記録装置の概略構成を示す断面図である。
【図11】インクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の実施例のパルス幅テーブルの選択例を示す図である。
【図13】吐出パルスの波形を示す図である。
【図14】途中で吐出パルスを切り替えて記録を行った画像を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
20 制御部
21 CPU
22 ROM
23 RAM
24 ゲートアレイ
25 イメージメモリ
31 ブラック用記録ヘッド
32 シアン用記録ヘッド
33 イエロー用記録ヘッド
34 マゼンタ用記録ヘッド
503 温度センサ
504 温度センサ
N1 記録素子列
N2 記録素子列
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発熱抵抗体を有する記録素子を含む記録素子列を備えた記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、
少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、
前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶している温度分布記憶手段と、
前記温度検知手段で検知された前記記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算手段と、
前記温度勾配計算手段により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶手段が予め記憶している前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測手段と、
前記予測手段の予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御手段とを有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、予め定められた複数の温度範囲毎に異なる吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記複数の温度範囲それぞれの中央温度に応じて異なる吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、記録時に記録に用いられない記録素子を加熱するためのパルスを印加することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、前記記録素子列の端部が互いに重複するように一方向に配列することにより構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
複数の発熱抵抗体を有する記録素子からなる記録素子列を備えた記録ヘッドと、少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、前記記録素子に印加するための複数の吐出パルスを予め記憶している記憶手段とを有するインクジェット記録装置を用いるインクジェット記録方法であって、
前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶しておく温度分布記憶工程と、
前記温度検知手段により前記記録ヘッドの温度を検知する検知工程と、
前記検知工程において検知された記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算工程と、
前記温度勾配計算工程により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶工程により予め記憶されている前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測工程と、
前記予測工程による予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御工程とを有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項1】
複数の発熱抵抗体を有する記録素子を含む記録素子列を備えた記録ヘッドを有するインクジェット記録装置であって、
少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、
前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶している温度分布記憶手段と、
前記温度検知手段で検知された前記記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算手段と、
前記温度勾配計算手段により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶手段が予め記憶している前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測手段と、
前記予測手段の予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御手段とを有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、予め定められた複数の温度範囲毎に異なる吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記複数の温度範囲それぞれの中央温度に応じて異なる吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、記録時に記録に用いられない記録素子を加熱するためのパルスを印加することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、前記記録素子列の端部が互いに重複するように一方向に配列することにより構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
複数の発熱抵抗体を有する記録素子からなる記録素子列を備えた記録ヘッドと、少なくとも前記記録素子列の配列方向の両側に備えられ、前記記録ヘッドの温度を検知する温度検知手段と、前記記録素子に印加するための複数の吐出パルスを予め記憶している記憶手段とを有するインクジェット記録装置を用いるインクジェット記録方法であって、
前記記録素子を駆動して記録を行った時に想定される前記記録素子列に沿った温度分布を予め記憶しておく温度分布記憶工程と、
前記温度検知手段により前記記録ヘッドの温度を検知する検知工程と、
前記検知工程において検知された記録ヘッドの温度から、前記記録素子列の温度勾配を計算する温度勾配計算工程と、
前記温度勾配計算工程により計算された温度勾配と、前記温度分布記憶工程により予め記憶されている前記記録素子列に沿った温度分布とを用いて、各々の前記記録素子の温度を予測する予測工程と、
前記予測工程による予測温度に基づいて決定される吐出パルスを各々の前記記録素子に対して印加する制御工程とを有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−168626(P2008−168626A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318999(P2007−318999)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]