説明

インク組成物、インクセット、及び画像形成方法

【課題】メンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性に優れたインク組成物を提供する。
【解決手段】式(1)で表され、SP値8.80以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物に由来する構造単位から選択される1種以上と、酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上と、からなる樹脂粒子、(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物、水、顔料、及び重合開始剤を含有するインク組成物と、SP値8.00以上12.00(cal/cm1/2以下の化合物を含有するメンテナンス液と、を有するインクセット〔R:H、メチル基;L:単結合又は2価の基;R:H、炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基;RがHであるときLは2価の基である。〕。−(−CH−C(R)(COOLR)−)−(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インクセット、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー画像を記録する画像記録の方法として、インクジェット技術が知られている。インクジェット技術は、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野に適用されてきたが、近年では商業印刷分野での応用がなされつつある。
インクジェット技術に用いられるインク(インク組成物)の含有成分の1つとして、顔料が広く用いられている。顔料を含むインク(顔料インク)や、この顔料インクを用いた画像形成方法について、これまでに種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、インクの凝集性に優れ、高速で耐擦過性及び描画性に優れた画像の記録が行なえる、顔料、ポリマー粒子、及び活性エネルギー線により重合する水溶性の重合性化合物を含むインク組成物と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液と、を含むインクセットが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、優れたメンテナンス性を有するインクセットとして、pH7〜10であり顔料及びポリマー粒子を含有する水性インク組成物と、水、有機溶媒、塩基性化合物及び酸性化合物を含有しpH6.0〜8.5であるインクジェット記録用メンテナンス液と、を含むインクセットが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−70693号公報
【特許文献2】特開2011−68085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、顔料、水、樹脂粒子、(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物、及び重合開始剤を含む水性の硬化型インクは、インクジェットヘッド等の部材に付着(例えば固着)した際、メンテナンス液等の液体によって除去しようとしても除去し難い(即ち、メンテナンス性に劣る)傾向があり、更に、メンテナンス液によるメンテナンス後の再吐出性が低下しやすい傾向がある。
従って、上記の水性の硬化型インクについては、メンテナンス液によるメンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性に関し、更なる改善が必要である。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、メンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性に優れたインクセットを提供することである。
また、本発明の目的は、前記インクセットが用いられ、長期に亘り安定して画像を形成できる画像形成方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、顔料、水、樹脂粒子、(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物、及び重合開始剤を含む水性の硬化型インクと、メンテナンス液と、を含むインクセットに関し、樹脂粒子を構成する構造単位の構造を特定すること、樹脂粒子を形成するための重合性化合物のうち、酸性基又はその塩を有する構造単位を形成するための重合性化合物以外の重合性化合物のSP値を特定すること、及びメンテナンス液中の成分のSP値を特定することにより、メンテナンス性とメンテナンス後の再吐出性とを向上させることができるとの知見を得、この知見に基づき本発明を完成させた。
即ち、前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
【0007】
<1> 下記一般式(1)で表され、SP値が8.80(cal/cm1/2以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物に由来する構造単位から選択される1種以上と、酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上と、からなる樹脂粒子、(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物、水、顔料、及び重合開始剤を含有するインク組成物と、SP値が8.00(cal/cm1/2以上12.00(cal/cm1/2以下の化合物を含有するメンテナンス液と、を有するインクセット。
【0008】
【化1】



【0009】
〔一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Lは、単結合、又は2価の連結基を表す。Rは、水素原子、炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基を表す。但し、Rが水素原子であるときは、Lは2価の連結基である。〕
【0010】
<2> 前記一般式(1)におけるLが、単結合、又は−((CHO)−*で表される基(n及びmは、それぞれ独立に1以上の整数を表し、*は、Rとの結合位置を表す)である<1>に記載のインクセット。
<3> 前記樹脂粒子のガラス転移温度が、150℃未満である<1>又は<2>に記載のインクセット。
<4> 前記樹脂粒子が、転相乳化法により得られた樹脂粒子である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のインクセット。
<5> 前記樹脂粒子の全量に対し、前記一般式(1)で表され、SP値が8.80(cal/cm1/2以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物に由来する構造単位から選択される1種以上の含有量が80〜98質量%であり、かつ、前記酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上の含有量が2〜20質量%である<1>〜<4>のいずれか1つに記載のインクセット。
<6> 更に、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液を有する<1>〜<5>のいずれか1つに記載のインクセット。
<7> 前記凝集剤が、酸性化合物、多価金属塩、及びカチオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種である<6>に記載のインクセット。
【0011】
<8> <1>〜<7>のいずれか1つに記載のインクセットが用いられ、前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体上に付与するインク付与工程と、前記インクジェットヘッドに付着したインク組成物を前記メンテナンス液により除去するインク除去工程と、を有する画像形成方法。
<9> 更に、前記記録媒体上に付与された前記インク組成物に活性エネルギー線を照射して該インク組成物を硬化させる硬化工程を有する<8>に記載の画像形成方法。
<10> 更に、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液を記録媒体上に付与する処理液付与工程を有する<8>又は<9>に記載の画像形成方法。
<11> 前記インク付与工程は、前記処理液付与工程よりも後に設けられ、前記記録媒体上に付与された前記処理液上に前記インク組成物を付与する工程である<10>に記載の画像形成方法。
<12> 前記記録媒体が、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙である<8>〜<11>のいずれか1つに記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性に優れたインクセットを提供することができる。
また、本発明によれば、前記インクセットが用いられ、長期に亘り安定して画像を形成できる画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の画像形成方法の実施に用いるインクジェット記録装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のインクセット及び画像形成方法について詳細に説明する。
【0015】
≪インクセット≫
本発明のインクセットは、後述の一般式(1)で表され、SP値が8.80(cal/cm1/2以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物に由来する構造単位から選択される1種以上と、酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上と、からなる樹脂粒子、(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物、水、顔料、及び重合開始剤を含有するインク組成物(以下、「インク」ともいう)の少なくとも1種と、SP値が8.00(cal/cm1/2以上12.00(cal/cm1/2以下の化合物を含有するメンテナンス液の少なくとも1種と、を有する。
【0016】
本発明における「メンテナンス」には、インク組成物を吐出するインクジェットヘッド及びその吐出性能を初期の状態もしくはそれに近い状態に保ち、持続すること(保守)に加え、インクジェットヘッドを洗浄(クリーニング)して、より良好な状態に整備、維持することが含まれる。
本発明における「メンテナンス性」は、インク組成物(例えば、インク固着物)に対する洗浄性(除去性)を指す。
【0017】
また、本発明における「SP値」(溶解度パラメーター、単位:(cal/cm1/2)は、Fedors法に従い、下記式により算出された値である。
SP値(δ)=[ΣEcoh/ΣV]1/2
ここで、ΣEcohは凝集エネルギー、ΣVはモル分子容を示す。
上記「Fedors法」の詳細は、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p.147〜154(1967)に記載されており、本発明におけるSP値は、この文献に記載の方法で算出する。
【0018】
本発明のインクセットでは、インク組成物中の樹脂粒子を形成するための重合性化合物のうち、後述の一般式(1)で表される構造単位を形成するための重合性化合物のSP値と、メンテナンス液中の化合物のSP値と、が近接した値であることにより、インクジェットヘッド等の部材に付着(例えば固着)した前記インク組成物を前記メンテナンス液によって除去し易くなる(即ち、メンテナンス性が向上する)。
【0019】
更に、本発明者の検討により、インク組成物中の樹脂粒子を構成する構造単位に、シクロヘキシル基やイソボルニル基のような環状アルキル基が含まれると、メンテナンス性(除去性)が顕著に低下することがわかった。
そこで、樹脂粒子の構造単位を、かかる環状アルキル基を含まない範囲に特定することで、メンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性が顕著に向上することがわかった。
【0020】
以上により、本発明のインクセットによれば、メンテナンス性が顕著に向上し、メンテナンス後の再吐出性が顕著に向上する。
【0021】
以下、本発明のインクセットの構成要素について説明する。
【0022】
≪インク組成物≫
本発明におけるインク組成物(インク)は、下記一般式(1)で表され、SP値が8.80(cal/cm1/2以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物に由来する構造単位から選択される1種以上と、酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上と、からなる樹脂粒子(以下、「特定樹脂粒子」ともいう)、(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物、水、顔料、及び重合開始剤を含有する。
【0023】
<樹脂粒子>
前記特定樹脂粒子は、下記一般式(1)で表される構造単位であって、SP値が8.80(cal/cm1/2以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物に由来する構造単位から選択される1種以上と、酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上と、からなる。
インク組成物に樹脂粒子が含まれることにより、画像の強度(例えば耐擦過性や耐ブロッキング性)が向上する。
本発明では、樹脂粒子として前記特定樹脂粒子を用いることにより、後述する「SP値が8.00(cal/cm1/2以上12.00(cal/cm1/2以下である化合物を含有するメンテナンス液」による、該インク組成物のメンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性が顕著に向上する。
前記重合性化合物(前記樹脂粒子を形成するための重合性化合物)のSP値は、メンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性を更に向上させる観点から、9.00(cal/cm1/2以上13.60(cal/cm1/2以下が好ましく、9.20(cal/cm1/2以上13.20(cal/cm1/2以下がより好ましい。
【0024】
(一般式(1)で表される構造単位)
次に、一般式(1)について説明する。
前記特定樹脂粒子は、下記一般式(1)で表される構造単位の1種以上を含む。
該構造単位は、画像の強度向上(例えば耐擦過性や耐ブロッキング性)に寄与する。
また、該構造単位を形成するための重合性化合物のSP値を上記範囲に特定することにより、後述するメンテナンス液による、インク組成物のメンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性が顕著に向上する。
【0025】
【化2】

【0026】
一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Lは、単結合、又は2価の連結基を表す。Rは、水素原子、炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基を表す。但し、Rが水素原子であるときは、Lは2価の連結基である。
【0027】
前記Lで表される2価の連結基には特に限定はなく、−((CHO)−*で表される基(n及びmは、それぞれ独立に1以上の整数を表し、*は、Rとの結合位置を表す)、アルキレン基、が挙げられる。
前記Lとしては、単結合又は2価の連結基である−((CHO)−*で表される基(n及びmは、それぞれ独立に1以上の整数を表し、*は、Rとの結合位置を表す)が好ましい。
前記「−((CHO)−*」におけるnとしては、1〜12の整数が好ましく、1〜6の整数がより好ましく、1又は2が更に好ましく、2が最も好ましい。
前記「−((CHO)−*」におけるmとしては、1〜200の整数が好ましく、1〜100の整数がより好ましい。
【0028】
前記Rで表される炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基)、ブチル基(n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。
前記Rで表される直鎖又は分岐のアルキル基の炭素数は1〜6が好ましい。
前記Rで表される炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
前記Rで表される炭素数7〜12のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基が挙げられる。
【0029】
前記一般式(1)で表される構造単位は、SP値が8.80(cal/cm1/2以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物(以下、「特定モノマー」ともいう)に由来する構造単位である。
前記特定モノマーとしては、以下に例示するモノマーからSP値が前記範囲に入るものを選択して用いることができる。
即ち、前記特定モノマーとして使用し得るモノマーとしては、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12のアルキルエステル、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12のヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12のアルコキシエステル、炭素数6〜10のアリール基を含有する(メタ)アクリレート、炭素数7〜12のアラルキル基を含有する(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0030】
本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0031】
以下、前記特定モノマーの具体例をSP値とともに示すが本発明は以下の具体例に限定されることはない。以下の具体例において、カッコ内の数値はSP値(単位:(cal/cm1/2)を表す。
前記(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12のアルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル(9.34)、メタクリル酸ブチル(9.09)、メタクリル酸ドデシル(8.84)、が挙げられる。
前記(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12のヒドロキシアルキルエステルとしては、ヒドロキシエチルアクリレート(13.05)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(12.32)が挙げられる。
前記(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12のアルコキシエステルとしては、メトキシエチルアクリレート(9.41)、メトキシエチルメタクリレート(9.34)が挙げられる。
前記炭素数6〜10のアリール基を含有する(メタ)アクリレートとしては、フェノキシエチルアクリレート(10.41)、フェノキシエチルメタクリレート(10.29)が挙げられる。
前記炭素数7〜12のアラルキル基を含有する(メタ)アクリレートとしては、ベンジルメタクリレート(10.33)、フェネチルメタクリレート(10.17)が挙げられる。
前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールアクリレート(エチレングリコールに由来する構造単位の繰り返し数100)(9.48)、ポリエチレングリコールアクリレート(エチレングリコールに由来する構造単位の繰り返し数200)(9.42)が挙げられる。
【0032】
前記特定樹脂粒子は、前記一般式(1)で表される構造単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
本発明の効果をより効果的に奏する観点からは、前記特定樹脂粒子は、前記一般式(1)で表される構造単位であってRが炭素数6〜10のアリール基又は炭素数7〜12のアラルキル基である構造単位と、前記一般式(1)で表される構造単位であってRが炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基である構造単位と、を含むことが好ましい。
【0033】
(酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位)
前記特定樹脂粒子は、酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上を有する。該構造単位は、樹脂粒子全体の分散進度及び分散安定性に寄与する。
【0034】
前記酸性基を有する構造単位は、例えば、酸性基を有する重合性化合物の重合により形成される。
酸性基の塩を有する構造単位は、酸性基を有する構造単位を中和して得られた構造単位であってもよいし(中和の詳細については後述する)、酸性基の塩を有する重合性化合物の重合により形成された構造単位であってもよい。
前記酸性基を有する重合性化合物及び酸性基の塩を有する重合性化合物のSP値については特に限定はない。
【0035】
前記酸性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。
前記酸性基を有する重合性化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
前記不飽和カルボン酸モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記不飽和スルホン酸モノマーの具体例としては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
前記不飽和リン酸モノマーの具体例としては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記酸性基を有する重合性化合物の中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましく、特には(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0036】
前記酸性基の塩としては、カルボキシル基、スルホン酸基、又はリン酸基のアルカリ金属塩(K塩、Na塩、Li塩等)が挙げられる。中でも、カルボキシル基のアルカリ金属塩(K塩、Na塩、Li塩等)が好ましい。
前記酸性基の塩を有する重合性化合物としては、例えば、上記で例示した酸性基を有する重合性化合物のアルカリ金属塩(K塩、Na塩、Li塩等)が挙げられ、中でも、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩(K塩、Na塩、Li塩等)が好ましい。
【0037】
前記特定樹脂粒子は、酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される構造単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
前記特定樹脂粒子は、分散安定性の観点からは、酸性基を有する構造単位と、酸性基の塩を有する構造単位と、を含むことが好ましい。
特に、前記特定樹脂粒子は、インク組成物が重合性化合物を含む場合における分散安定性の観点からは、比率〔酸性基の塩の数/(酸性基の数+酸性基の塩の数)〕が、0.5〜0.9であることが好ましく、0.6〜0.9であることがより好ましく、0.7〜0.9であることが特に好ましい。
酸性基を有する構造単位と、酸性基の塩を有する構造単位と、を含む特定樹脂粒子は、例えば、酸性基を有する構造単位を含み酸性基の塩を有する構造単位を含まない樹脂粒子を作製し、次いで該樹脂粒子の酸性基を中和することにより作製できる。この場合、比率は、中和度に相当する。
【0038】
前記特定樹脂粒子における共重合比には特に限定はないが、前記樹脂粒子の全量に対し、前記「一般式(1)で表され、SP値が8.80(cal/cm1/2以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物に由来する構造単位から選択される1種以上」の含有量が80〜98質量%(より好ましくは85〜97質量%)であり、かつ、前記「酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上」の含有量が2〜20質量%(より好ましくは3〜15質量%)であることが好ましい。ここで、全構造単位の合計は100質量%である。
上記共重合比であると、後述するメンテナンス液による、インク組成物のメンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性がより顕著に向上する。
【0039】
また、前記特定樹脂粒子は、後述の処理液又はこれを乾燥させた紙領域と接触した際に凝集、又は分散不安定化してインクを増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有することが好ましい。
インク組成物中における前記特定樹脂粒子の形態としては、水および有機溶剤の少なくとも1種に分散されている形態(例えばラテックスの形態)が好ましい。
【0040】
前記特定樹脂粒子としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等あるいはそのラテックスを用いることができる。アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂を好ましい例として挙げることができる。
【0041】
前記特定樹脂粒子の重量平均分子量は1万以上、20万以下が好ましく、より好ましくは2万以上、20万以下である。
また前記特定樹脂粒子の体積平均粒径は、1nm〜1μmの範囲が好ましく、1〜200nmの範囲がより好ましく、1〜100nmの範囲が更に好ましく、1〜50nmの範囲が特に好ましい。
なお、特定樹脂粒子の体積平均粒径は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)によって測定することができる。
【0042】
なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgeL SuperHZ2000(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.35質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0043】
また、前記特定樹脂粒子は、ガラス転移温度(T)が150℃未満であることが好ましい。前記特定樹脂粒子のガラス転移温度(T)が150℃未満であると、メンテナンス性がより向上する。
前記ガラス転移温度(T)の下限には特に限定はないが、該下限は、30℃が好ましく、40℃がより好ましく、50℃がさらに好ましい。
【0044】
特定樹脂粒子のガラス転移温度(T)は、通常用いられる方法によって適宜制御することができる。例えば、特定樹脂粒子を構成するモノマー(重合性化合物)の重合性基の種類、モノマー上の置換基の種類やその構成比率、特定樹脂粒子を構成するポリマーの分子量等を適宜選択することで、特定樹脂粒子のガラス転移温度(T)を所望の範囲に制御することができる。
【0045】
前記特定樹脂粒子のガラス転移温度(T)は、実測によって得られる測定Tを適用する。
具体的には、測定Tとしては、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220を用いて通常の測定条件で測定された値を意味する。但し、樹脂の分解等により測定が困難な場合には、下記の計算式で算出される計算Tgを適用する。計算Tは下記の式(1)で計算されるものである。
1/Tg=Σ(X/Tg) ・・・(1)
ここで、計算対象となるポリマーはi=1からnまでのn種のモノマー成分が共重合しているとする。Xはi番目のモノマーの重量分率(ΣX=1)、Tgはi番目のモノマーの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度)である。但し、Σはi=1からnまでの和をとる。尚、各モノマーの単独重合体ガラス転移温度の値(Tg)は、Polymer Handbook (3rd Edition) (J.Brandrup, E.H.Immergut著(Wiley−Interscience、1989))の値を採用する。
【0046】
前記特定樹脂粒子の含有量はインク組成物全量に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.1〜10質量%がさらに好ましい。
また、特定樹脂微子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ樹脂粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
【0047】
前記特定樹脂粒子としては、転相乳化法により得られた樹脂粒子であることが好ましく、下記の自己分散性樹脂の粒子(自己分散性樹脂粒子)がより好ましい。
ここで、自己分散性樹脂とは、界面活性剤の不存在下、転相乳化法により分散状態としたとき、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーをいう。
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
また、「水不溶性」とは、水100質量部(25℃)に対する溶解量が5.0質量部以下であることを指す。
前記自己分散性樹脂粒子としては、特開2010−64480号公報の段落0090〜0121や、特開2011−068085号公報の段落0130〜0167に記載されている自己分散性樹脂粒子の中から選択して用いることができる。
【0048】
自己分散性樹脂の粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量としては、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0049】
本発明における特定樹脂粒子を構成する樹脂(例えば、前記自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマー)は、炭素数6〜10のアリール基を含有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位及び炭素数7〜12のアラルキル基を含有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の少なくとも一方と、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜4)のアルキルエステルに由来する構造単位と、からなることが好ましい。
更には、前記特定樹脂粒子を構成する樹脂は、ポリマーの親疎水性制御の観点から、炭素数6〜10のアリール基を含有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位及び炭素数7〜12のアラルキル基を含有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の少なくとも一方を共重合比率として15〜80質量%と、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜4)のアルキルエステルに由来する構造単位と、からなることが好ましい。
その中でも、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及びベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位の少なくとも一方を共重合比率として15〜80質量%と、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜12(好ましくは炭素数1〜4)のアルキルエステルに由来する構造単位と、からなることがより好ましい。
また、前記特定樹脂粒子を構成する樹脂は、これらの好ましい形態に更に加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
また、上述の好ましい形態に係る樹脂は、中和により、全カルボキシル基のうちの少なくとも一部がカルボキシル基の塩(例えばアルカリ金属塩)となっていてもよい。
【0050】
以下、前記特定樹脂粒子を構成する樹脂(例えば、自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマー)の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、括弧内は共重合成分の質量比を表す。また、下記具体例では、中和により、全カルボキシル基のうちの少なくとも一部がカルボキシル基の塩(例えばアルカリ金属塩)となっていてもよい。
【0051】
・ベンジルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
・メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(80/10/10)
・メチルメタクリレート/メタクリル酸/アクリル酸共重合体(88/6/6)
・メトキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/40/10)
・ヒドロキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/40/10)
・ドデシルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(10/80/10)
・ポリエチレングリコールアクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(10/80/10)
・フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
・フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
・ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/59/6)
・ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
・フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
・ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
・メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
・メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)
・メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)
・メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)
・メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)
【0052】
前記自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては特に制限はなく、例えば、重合性界面活性剤の存在下に、乳化重合を行い、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、上記親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、共重合させる方法を挙げることができる。前記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物としたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0053】
前記自己分散性樹脂粒子は、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成された第1のポリマーを含み、前記第1のポリマーはカルボキシル基を有し(かつ、好ましくは酸価が25〜100であって)、前記第1のポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。
すなわち、前記自己分散性樹脂粒子の製造方法は、有機溶媒中で前記第1のポリマーを合成する工程と、前記第1のポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを含むことが好ましい。
このときの中和度は、0.5〜0.9であることが好ましく、0.6〜0.9であることがより好ましく、0.7〜0.9であることが特に好ましい。
ここで、中和度は、比率〔中和されたカルボキシル基の数/中和前のカルボキシル基の総数〕を指す。言い換えれば、中和度は、中和後における比率〔カルボキシル基の塩の数/カルボキシル基の数+カルボキシル基の塩の数〕である。
【0054】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):第1のポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程。
工程(2):前記混合物から、前記有機溶媒を除去する工程。
【0055】
前記工程(1)は、まず前記第1のポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。
該混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0056】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。
アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましい。また、油系から水系への転相時への極性変化を穏和にする目的で、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンを併用することも好ましい。該溶剤を併用することで、凝集沈降や粒子同士の融着が無く、分散安定性の高い微粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。
【0057】
中和剤は、酸性基(例えば、カルボキシル基)の一部又は全部が中和され、自己分散性樹脂が水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、自己分散性樹脂粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0058】
これら塩基性化合物は、酸性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。15モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が発現し、100モル%以下とすることで、水溶性成分を低下させる効果がある。
【0059】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性樹脂粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0060】
前記自己分散性樹脂粒子の体積平均粒径は、10nm〜400nmの範囲であることが好ましく、10nm〜200nmがより好ましく、10nm〜100nmがさらに好ましい。10nm以上の体積平均粒径であることで製造適性が向上する。また、400nm以下の体積平均粒径とすることで保存安定性が向上する。
また、自己分散性樹脂粒子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、水不溶性粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
尚、自己分散性樹脂粒子の平均粒径及び粒径分布は、例えば、光散乱法を用いて測定することができる。
前記自己分散性樹脂粒子は、本発明におけるインク組成物に好適に含有させることができ、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
<(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物>
本発明におけるインク組成物は、(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物を少なくとも1種含む。
ここで、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
本発明におけるインク組成物が(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物を含むことにより、該重合性化合物を含まない場合(例えば、(メタ)アクリルアミド構造を有しない重合性化合物を用いた場合)と比較して、インク組成物の熱経時安定性が向上する。
更に、本発明におけるインク組成物が(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物を含むことにより、該重合性化合物を含まない場合(例えば、(メタ)アクリルアミド構造を有しない重合性化合物を用いた場合)と比較して、硬化感度が向上するという効果も得られる。
【0062】
前記(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物は、活性エネルギー線(例えば、放射線もしくは光、又は電子線など)が照射されることにより重合する化合物であることが好ましい。
【0063】
前記(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物は特に限定はないが、水溶性の化合物であることが好ましい。ここで、水溶性とは、水に一定濃度以上溶解できることをいい、水性のインク中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであればよい。また、後述する水溶性有機溶剤を添加することにより溶解度が上がってインク中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。具体的には、25℃の水に対する溶解度が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。
【0064】
前記(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物としては、(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物を用いてもよいし、(メタ)アクリルアミド構造を有する多官能の重合性化合物を用いてもよいし、これらを併用してもよい。
(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、特に好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドであり、最も好ましくはヒドロキシエチルアクリルアミドである。
(メタ)アクリルアミド構造を有する多官能の重合性化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0065】
本発明の(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物は、硬化感度向上の観点からは、(メタ)アクリルアミド構造を有する多官能の重合性化合物を含むことが好ましく、下記一般式(2)で表される化合物を含むことがより好ましい。
【0066】
【化3】

【0067】
一般式(2)中、Qはn価の連結基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。また、nは2以上の整数を表す。
【0068】
一般式(2)で表される化合物は、不飽和単量体が、アミド結合により連結基Qに結合したものである。
は、水素原子、又はメチル基をあらわし、好ましくは水素原子である。
連結基Qの価数nに制限はないが、重合効率、吐出安定性を向上させる観点から、n=2以上6以下がより好ましく、n=2以上4以下がさらに好ましい。
【0069】
また、連結基Qは(メタ)アクリルアミド構造と連結可能な基であれば特に制限はないが、一般式(2)で表される化合物が前述の水溶性を満たすような連結基から選択されることが好ましく、具体的には以下の化合物群Xから2以上の水素原子又はヒドロキシル基が除去された残基をあげることができる。
【0070】
−化合物群X−
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール,2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール,1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの縮合体、低分子ポリビニルアルコール、又は糖類などのポリオール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンジアミン、などのポリアミン類。
【0071】
さらに、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の炭素数4以下の置換又は無置換のアルキレン鎖、更にはピリジン環、イミダゾール環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの飽和もしくは不飽和のヘテロ環を有する官能基などを例示することができる。
【0072】
連結基Qとしては、水溶性の観点からオキシアルキレン基(好ましくはオキシエチレン基)を含む連結基であることが好ましい。この中でも、オキシアルキレン基(好ましくはオキシエチレン基)を2つ以上含む連結基であることがより好ましく、オキシアルキレン基(好ましくはオキシエチレン基)を3つ以上含む連結基であることが更に好ましい。
連結基Qの特に好ましい形態は、該連結基Qがオキシアルキレン基(好ましくはオキシエチレン基)を(好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上)含むポリオール類の残基である形態である。
【0073】
前記一般式(2)で表される重合性化合物の具体例としては、例えば以下に示す重合性化合物をあげることができる。
【0074】
【化4】

【0075】
【化5】

【0076】
【化6】



【0077】
【化7】

【0078】
【化8】

【0079】
【化9】

【0080】
本発明におけるインク組成物は、前記(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物を1種のみ含有してもよいし、2種以上を含有してもよい。本発明におけるインク組成物が(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物を2種以上を含有する場合、(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物の少なくとも1種と(メタ)アクリルアミド構造を有する多官能の重合性化合物の少なくとも1種とを含有することが好ましい
前記(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物のインク組成物中における含有量(2種以上の場合には総含有量)としては、インク組成物全質量に対して、5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%が更に好ましく、15〜25質量%が最も好ましい。
【0081】
<顔料>
本発明におけるインク組成物は、顔料を少なくとも1種含む。
前記顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。
前記顔料は、水に殆ど不溶であるか又は難溶である顔料であることが、インク着色性の点で好ましい。
【0082】
前記顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機顔料又は無機顔料を用いることができる。
【0083】
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。前記アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、などが挙げられる。前記多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、などが挙げられる。前記染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート、などが挙げられる。
【0084】
また前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
【0085】
本発明に用いることができる顔料として具体的には、例えば、特開2007−100071号公報の段落番号[0142]〜[0145]に記載の顔料などが挙げられる。
【0086】
上記の顔料は、1種単独で使用してもよく、また、上記した各群内もしくは各群間より複数種を選択して組み合わせて使用してもよい。
顔料のインク組成物中における含有量としては、色濃度、粒状性、インク安定性、吐出信頼性の観点から、インク組成物の全質量に対して、1〜25質量%となる量が好ましく、2〜20質量%となる量がより好ましい。
【0087】
(分散剤)
本発明におけるインク組成物において、前記顔料は、分散剤によって分散されていることが好ましい。
前記分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよいが、ポリマー分散剤が好ましい。また、ポリマー分散剤としては水溶性ポリマー分散剤でも水不溶性ポリマー分散剤の何れでもよい。
更に、本発明におけるインク組成物において、前記顔料はポリマー分散剤(樹脂)で分散されることにより、表面の少なくとも一部が樹脂により被覆されていることが好ましい。表面の少なくとも一部が樹脂により被覆された顔料を、以下、「樹脂被覆顔料」ともいう。
【0088】
前記ポリマー分散剤としては水溶性ポリマー分散剤でも水不溶性ポリマー分散剤の何れでもよい。
前記ポリマー分散剤としては、分散安定性とインクジェット方式に適用した場合の吐出性の観点から、水不溶性ポリマー分散剤であることが好ましい。
【0089】
−水不溶性ポリマー分散剤−
前記水不溶性ポリマー分散剤(以下、単に「分散剤」ということがある)としては、水不溶性のポリマーであって、顔料を分散可能であれば特に制限は無く、従来公知の水不溶性ポリマー分散剤を用いることができる。水不溶性ポリマー分散剤は、例えば、疎水性の構成単位と親水性の構成単位の両方を含んで構成することができる。
ここで「水不溶性」とは、水100質量部(25℃)に対する溶解量が5.0質量部以下であることを指す。
【0090】
前記疎水性の構成単位を構成するモノマーとしては、スチレン系モノマー、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0091】
また前記親水性構成単位を構成するモノマーとしては、親水性基を含むモノマーであれば特に制限はない。前記親水性基としては、ノニオン性基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。尚、ノニオン性基としては、水酸基、(窒素原子が無置換の)アミド基、アルキレンオキシド重合体(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等)に由来する基、糖アルコールに由来する基等が挙げられる。
【0092】
前記親水性構成単位は、分散安定性の観点から、少なくともカルボキシル基を含むことが好ましく、ノニオン性基とカルボキシル基を共に含む形態であることもまた好ましい。
【0093】
前記水不溶性ポリマー分散剤として、具体的には、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0094】
前記水不溶性ポリマー分散剤としては、顔料の分散安定性の観点から、カルボキシル基を含むビニルポリマーであることが好ましく、疎水性の構成単位として少なくとも芳香族基含有モノマーに由来する構成単位を有し、親水性の構成単位としてカルボキシル基を含む構成単位を有するビニルポリマーであることがより好ましい。
【0095】
また前記水不溶性ポリマー分散剤の重量平均分子量としては、顔料の分散安定性の観点から、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
【0096】
前記樹脂被覆顔料における樹脂(水不溶性ポリマー)の含有量は、顔料の分散性、インク着色性、分散安定性の観点から、顔料に対し、10〜100質量%であることが好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。
前記樹脂被覆顔料中の分散剤の含有量が、上記範囲であることにより、顔料が適量の分散剤で被覆され、粒径が小さく経時安定に優れた着色粒子を得やすい傾向となり好ましい。
【0097】
前記樹脂被覆顔料は、前記水不溶性ポリマー分散剤に加えて、その他の分散剤を含んでいてもよい。例えば、従来公知の水溶性低分子分散剤や、水溶性ポリマー等を用いることができる。前記水不溶性ポリマー分散剤以外の分散剤の含有量は、前記分散剤の含有量の範囲内で用いることができる。
【0098】
前記樹脂被覆顔料は、分散安定性と吐出性の観点から、前記顔料および前記水不溶性ポリマー分散剤を含んで構成されていることが好ましい。
前記樹脂被覆顔料は、例えば、顔料、分散剤、必要に応じて溶媒(好ましくは有機溶剤)等を含む混合物を、分散機により分散することで、樹脂被覆顔料の分散物として得ることができる。
【0099】
前記樹脂被覆顔料の分散物は、例えば、前記顔料と前記水不溶性ポリマー分散剤と該分散剤を溶解又は分散する有機溶剤との混合物に、塩基性物質を含む水溶液を加える工程(混合・水和工程)の後、前記有機溶剤を除く工程(溶剤除去工程)を設けて分散物として製造することができる。これにより、微細に分散され、保存安定性に優れた樹脂被覆顔料の分散物を作製することができる。
ここで、有機溶剤は、前記分散剤を溶解又は分散できることが好ましいが、これに加えて水に対してある程度の親和性を有することが好ましい。具体的には、20℃下で水に対する溶解度が10質量%以上50質量%以下であるものが好ましい。
【0100】
前記樹脂被覆顔料の分散物は、更に詳細には、下記の工程(1)および工程(2)を含む製造方法で製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0101】
工程(1):顔料、分散剤、および該分散剤を溶解又は分散する有機溶剤と共に、塩基性物質を含み、水を主成分とする溶液を含有する混合物を分散処理する工程
工程(2):分散処理後の混合物から、前記有機溶剤の少なくとも一部を除去する工程
【0102】
前記工程(1)では、まず、前記分散剤を有機溶剤に溶解又は分散させて混合物を得る(混合工程)。次に、着色剤、塩基性物質を含み、水を主成分とする溶液、水、および必要に応じて界面活性剤等を、前記混合物に加えて混合、分散処理し、水中油型の分散物を得る。
【0103】
前記塩基性物質は、ポリマーが有することがあるアニオン性基(好ましくは、カルボキシル基)の中和に用いられる。前記アニオン性基の中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる着色剤粒子の分散物の液性が、例えばpHが4.5〜10であるものが好ましい。前記ポリマーの望まれる中和度により、pHを決めることもできる。
【0104】
前記有機溶剤の好ましい例としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒が挙げられる。これらのうちアルコール系溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、イソプロパノール、アセトンおよびメチルエチルケトンが好ましく、特に、メチルエチルケトンが好ましい。有機溶剤は、1種単独で用いても複数併用してもよい。
【0105】
前記樹脂被覆顔料の分散物の製造においては、二本ロール、三本ロール、ボールミル、トロンミル、ディスパー、ニーダー、コニーダー、ホモジナイザー、ブレンダー、単軸若しくは2軸の押出機等を用いて、強い剪断力を与えながら混練分散処理を行なうことができる。なお、混練、分散についての詳細は、T.C. Patton著”Paint Flow and Pigment Dispersion”(1964年 John Wiley and Sons社刊)等に記載されている。
また、必要に応じて、縦型もしくは横型のサンドグラインダー、ピンミル、スリットミル、超音波分散機等を用い、0.01〜1mmの粒径のガラス、ジルコニア等でできたビーズを用いた微分散処理を行うことにより得ることができる。
【0106】
前記樹脂被覆顔料の分散物の製造における有機溶剤の除去は、特に方法が限定されるものではなく、減圧蒸留等の公知の方法により除去できる。
【0107】
このようにして得られた樹脂被覆顔料の分散物における樹脂被覆顔料は良好な分散状態を保ち、かつ、得られた着色粒子分散物は経時安定性に優れたものとなる。
【0108】
本発明において樹脂被覆顔料の体積平均粒径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。体積平均粒径が200nm以下であることで色再現性が良好になり、インクジェット方式の場合には打滴特性が良好になる。また、体積平均粒径が10nm以上であることで、耐光性が良好になる。
なお、樹脂被覆顔料の体積平均粒径は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)によって測定することができる。
【0109】
また、樹脂被覆顔料の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ樹脂被覆顔料を、2種以上混合して使用してもよい。
尚、樹脂被覆顔料の体積平均粒径および粒径分布は、例えば、光散乱法を用いて測定することができる。
【0110】
本発明において、上記樹脂被覆顔料は1種単独で、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0111】
<重合開始剤>
本発明におけるインク組成物は重合開始剤を少なくとも1種含有する。
前記重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用することができる。中でも、ラジカル重合開始剤が好ましい。
前記ラジカル重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)アシルホスフィン化合物、(c)芳香族オニウム塩化合物、(d)有機化酸化物、(e)チオ化合物、(f)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(g)ケトオキシムエステル化合物、(h)ボレート化合物、(i)アジニウム化合物、(j)メタロセン化合物、(k)活性エステル化合物、(l)炭素ハロゲン結合を有する化合物、並びに(m)アルキルアミン化合物等が挙げられる。
重合開始剤の具体例としては、例えば、加藤清視著「紫外線硬化システム」(株式会社総合技術センター発行:平成元年)の第65〜148頁に記載されている重合開始剤などを挙げることができる。
【0112】
本発明における重合開始剤としては、水溶性の重合開始剤等を用いることが出来る。尚、ここでいう水溶性とは、25℃において蒸留水に0.5質量%以上溶解することを意味する。前記水溶性の重合開始剤は、25℃において蒸留水に1質量%以上溶解することが好ましく、3質量%以上溶解することがより好ましい。
【0113】
前記水溶性の重合開始剤としては、例えば、下記一般式(A)で表される化合物や、特開2005―307198号公報に記載の化合物等を挙げることができる。
中でも、本発明の効果をより効果的に奏する観点から、下記一般式(A)で表される水溶性の重合開始剤であることが好ましい。
【0114】
【化10】

【0115】
一般式(A)中、mおよびnはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表す。
一般式(A)において、mが0〜3であってnが0又は1であることが好ましく、mが0又は1であってnが0であることがより好ましい。
一般式(A)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0116】
【化11】

【0117】
一般式(A)で表される化合物は、特開2005−307198号公報等の記載に準じて合成した化合物であっても、市販の化合物であってもよい。一般式(A)で表される市販の化合物としては例えば、イルガキュア2959(m=0、n=0)を挙げることができる。
【0118】
本発明におけるインク組成物において、重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明におけるインク組成物における重合開始剤の含有量は、固形分換算で0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜20質量%の範囲であることがより好ましく、1.0〜15質量%の範囲であることがさらに好ましい。
また、前記重合開始剤の含有量は、インク組成物の全量に対し、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、1〜10質量%が特に好ましい。
【0119】
<水>
本発明におけるインク組成物は水を含む。
即ち、本発明におけるインク組成物は、水性のインク組成物である。
本発明における水としては、イオン交換水、蒸留水などのイオン性不純物を含まない水を用いることが好ましい。
また、インク組成物における水の含有率は、目的に応じて適宜選択されるが、10〜95質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましい。
【0120】
<水溶性有機溶剤>
本発明におけるインク組成物は、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含有していてもよい。ここでいう水溶性とは25℃で水に対する溶解度が1質量%以上を意味する。
前記水溶性有機溶剤の例としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルカンジオール(多価アルコール類);糖アルコール類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0121】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、特開2011−074150号公報の段落0124〜0135や、特開2011−079901号公報の段落0104〜0119等に記載の公知の水溶性有機溶剤を用いることもできる。
【0122】
本発明におけるインク組成物が水溶性有機溶剤を含有する場合、その含有量は、インク組成物の全量に対し、60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0123】
<界面活性剤>
本発明におけるインク組成物は、必要に応じて、界面活性剤の少なくとも1種を含むことができる。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。
【0124】
表面張力調整剤として、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも使用することができる。更に、上記の分散剤(高分子分散剤)を界面活性剤としても用いてもよい。
本発明においては、インクの打滴干渉抑制の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、中でもアセチレングリコール誘導体(アセチレングリコール系界面活性剤)がより好ましい。
【0125】
前記アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキシド付加物等を挙げることができ、これから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの化合物の市販品としては例えば、日信化学工業社のオルフィンE1010などのEシリーズを挙げることができる。
【0126】
界面活性剤(表面張力調整剤)をインク組成物に含有する場合、界面活性剤はインクジェット方式によりインク組成物の吐出を良好に行う観点から、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整できる範囲の量を含有するのが好ましく、表面張力の点からはより好ましくは20〜45mN/mであり、更に好ましくは25〜40mN/mである。
【0127】
界面活性剤のインク組成物中における界面活性剤の具体的な量としては、前記表面張力となる範囲が好ましいこと以外は特に制限はなく、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%であり、更に好ましくは0.2〜3質量%である。
【0128】
<固体湿潤剤>
本発明におけるインク組成物は、固体湿潤剤を含有してもよい。
ここで、固体湿潤剤とは、保水機能を有し、25℃で固体の水溶性化合物を意味する。固体湿潤剤は、保湿機能が高く、固体湿潤剤としてインクの望ましくない乾燥、凝固を防止する機能を有し、本発明のインク組成物に好適に使用することができる。
【0129】
前記固体湿潤剤としては、一般に水性インク組成物に使用されるものをそのまま利用することが可能であり、より具体的には、尿素及び尿素誘導体、糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール等である。
【0130】
尿素誘導体の例としては、尿素の窒素上の水素をアルキル基、もしくはアルカノールで置換した化合物、チオ尿素、チオ尿素の窒素上の水素をアルキル基、もしくはアルカノールで置換した化合物等が挙げられ、具体的には、N,N−ジメチル尿素、チオ尿素、エチレン尿素、ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシブチル尿素、エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素等が挙げられる。
【0131】
前記糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類があげられ、具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などがあげられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸、アミノ酸、チオ糖など)があげられる。特に糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。ヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液(分子量350000)として市販されているものを使用することができる。
【0132】
本発明におけるインク組成物が固体湿潤剤を含有する場合、固体湿潤剤の含有量は、拭き取り性を向上させる観点等からは、インク組成物の全量に対し、1.0質量%以上20.0質量%未満が好ましく、2.0質量%以上15.0質量%未満がより好ましく、3.0質量%以上10.0質量%未満が更に好ましい。
ここで、本発明におけるインク組成物に含まれる固体湿潤剤が2種以上である場合は、該2種以上の合計量が上記範囲にあればよい。
【0133】
<その他の成分>
本発明におけるインク組成物は、必要に応じ、その他の成分として各種の添加剤を含むことができる。
前記各種の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、又はキレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0134】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0135】
褪色防止剤としては、各種の有機系および金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としては、例えば、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
【0136】
防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ソルビン酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。
防黴剤は、インク組成物中の含有量が0.02〜1.00質量%である範囲とするのが好ましい。
【0137】
pH調整剤としては、調合されるインク組成物に悪影響を及ぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物など)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
【0138】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0139】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0140】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0141】
<インク組成物の物性>
本発明におけるインク組成物の表面張力(25℃)としては、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN/m以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上40mN/m以下である。
表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定される。
【0142】
また、本発明におけるインク組成物の25℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。
粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定される。
【0143】
≪メンテナンス液≫
本発明におけるメンテナンス液は、SP値が8.00(cal/cm1/2以上12.00(cal/cm1/2以下である化合物(以下、「特定化合物」ともいう)を少なくとも1種含有する。
メンテナンス液に前記特定化合物が含まれることにより、前述のインク組成物に対するメンテナンス性が顕著に向上し、該メンテナンス液によるメンテナンス後において前述のインク組成物の再吐出性が顕著に向上する。
かかる効果をより効果的に奏する観点からは、特定化合物の含有量(2種以上である場合には総含有量。以下同じ。)は、メンテナンス液の全量に対し、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0144】
本発明のメンテナンス液は、メンテナンス性向上の観点から、水を含有することが好ましい。
本発明のメンテナンス液が水を含有する場合、水の含有量には特に限定はないが、メンテナンス性向上の観点から、メンテナンス液全量に対する水の含有量は50質量%以上であることが好ましい。
【0145】
本発明のメンテナンス液が水を含有する場合、前記特定化合物は該メンテナンス液から水を除いた成分中における主成分であることが好ましい。
ここで、主成分とは、含有比率が最も多い成分を指す。
好ましくは、本発明のメンテナンス液が水を含有する場合、前記特定化合物の含有量は、該メンテナンス液から水を除いた全質量に対し60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0146】
また、前記特定化合物のSP値は、メンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性を更に向上させる観点から、8.50(cal/cm1/2以上11.50(cal/cm1/2以下がより好ましい。
【0147】
<SP値が8.00(cal/cm1/2以上12.00(cal/cm1/2以下である化合物>
SP値が8.00(cal/cm1/2以上12.00(cal/cm1/2以下である化合物(特定化合物)としてはSP値がこの範囲を満たす限り特に限定はないが、例えば、水溶性有機溶媒が挙げられる。ここでいう水溶性とは25℃で水に対する溶解度が1質量%以上を意味する。
特定化合物である水溶性有機溶媒としては、例えば特開2011−68085号公報の段落0026〜0038に記載されている有機溶媒の中から、SP値が8.00(cal/cm1/2以上12.00(cal/cm1/2以下である有機溶媒を適宜選択して用いることができる。
【0148】
特定化合物である水溶性有機溶媒としては、SP値が上記範囲を満たすポリアルキレンオキシアルキルエーテルが特に好ましい。
【0149】
以下、特定化合物である水溶性有機溶媒の具体例を示すが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。カッコ内の数値はそのSP値(単位:(cal/cm1/2)である。
【0150】
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(10.95)
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(10.51)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(10.31)
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(10.41)
・メチルエチルケトン(8.98)
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル(11.22)
【0151】
【化12】

【0152】
・nCO(AO)−H(AO=EO又はPO;比率はEO:PO=1:1)(9.83)
・nCO(AO)10−H(AO=EO又はPO;比率はEO:PO=1:1)(9.19)
・HO(A’O)40−H(A’O=EO又はPO;比率はEO:PO=1:3)(9.14)
・HO(A’’O)55−H(A’’O=EO又はPO;比率はEO:PO=5:6)(9.19)
・HO(PO)−H(10.36)
EO、POはエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基を表す。
これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0153】
<pH>
本発明におけるメンテナンス液のpHは、好ましくはpH6.0〜pH8.0であり、より好ましくはpH6.5〜pH8.0であり、更に好ましくはpH7.0〜pH7.8である。
メンテナンス液のpHが6.0以上であると、メンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性を更に向上させることができる。
メンテナンス液のpHが8.0以上であると、該メンテナンス液によるインクジェットヘッド等の部材(金属製部材や、部材の表面に設けられたフッ化アルキル基を有する撥液膜等)の損傷を、より抑制できる。
本発明におけるメンテナンス液のpHを上記範囲に調整し易い点から、本発明におけるメンテナンス液は、塩基性化合物及び酸性化合物を含むことが好ましい。
特に、pKa値が6.0〜8.5の範囲にある塩基性化合物と酸性化合物を併用することにより、好ましいpH領域で緩衝能が高く、pH安定効果に特に優れるメンテナンス液が得られる。
【0154】
<塩基性化合物>
前記塩基性化合物としては、メンテナンス液の溶媒(例えば、水、水と有機溶媒の混合溶媒等)に5mmol/L以上の溶解度を有するものを好適に用いることができる。
前記塩基性化合物は、無機化合物及び有機化合物のいずれでもよいが、所望の範囲のpKaが得やすいこと、メンテナンス液への溶解性の点から、より好ましくは有機塩基性化合物である。一塩基化合物であっても多塩基化合物であってもよい。有機塩基性化合物の場合のpKa値は、共役酸のpKa値である。
【0155】
前記塩基性化合物は、上記メンテナンス液の好ましいpHの範囲で有効にpH緩衝能を有する点で、pKa値が好ましくは6.0〜8.5の範囲にあり、より好ましくは6.5〜8.4であり、更に好ましくは6.8〜8.3である。
【0156】
上記条件を満足する塩基性化合物としては、例えば以下の具体的化合物が挙げられる。
【0157】
・カコジル酸(pKa:6.2)
・2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−2,2’,2”−ニトリロトリエタノール(pKa:6.5)
・ピペラジン−N,N’−ビス−(2−エタン硫酸)(pKa:6.8)
・リン酸(pKa2:6.86)
・イミダゾール(pKa:7.0)
・N’−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’,2−エタン硫酸(pKa:7.6)
・N−メチルモルホリン(pKa:7.8)
・トリエタノールアミン(pKa:7.8)
・ヒドラジン(pKa:8.11)
・トリスヒドロキシメチルアミノメタン(pKa:8.3)
【0158】
<酸性化合物>
前記酸性化合物としては特に限定されるわけではなく、無機酸、有機酸のいずれも用いることが出来る。無機酸としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。有機酸としては、酢酸、酒石酸、サリチル酸、スルホサリチル酸、安息香酸等が挙げられる。本発明の酸性化合物は好ましくは無機酸である。また、強酸、弱酸のいずれも用いることが出来るが、高いpH緩衝能の観点から、好ましくは強酸である。
酸性化合物は、1種でも2種以上併用しても良い。
【0159】
前記酸性化合物の添加量は、メンテナンス液のpH緩衝能が高い点から、酸当量で、塩基性化合物の0.05当量〜0.95当量が好ましく、0.10当量〜0.90当量がより好ましく、0.15当量〜0.85当量が更に好ましい。複数の酸性化合物を用いる場合は、そのトータル量が上記範囲にあるのが好ましい。
【0160】
本発明における塩基性化合物と酸性化合物の好ましい組み合わせは、有機塩基性化合物と無機酸である。
【0161】
<界面活性剤>
本発明におけるメンテナンス液は、界面活性剤の少なくとも1種を含むことができる。
前記界面活性剤としては、表面張力調整剤として機能するものが好適である。
前記界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキルカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンジオール誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。
中でも、インクとの凝集反応を起こさない等の点で、アセチレンジオール誘導体やアルキルカルボン酸ナトリウムやアルキルスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0162】
界面活性剤のメンテナンス液中における含有量としては、メンテナンス液の全質量に対して、0.5質量%〜10質量%が好ましく、より好ましくは1質量%〜3質量%である。界面活性剤の含有量が前記範囲内であると、洗浄性(メンテナンス性)の点で有利である。
【0163】
<その他添加剤>
本発明におけるメンテナンス液は、上記の成分に加え、必要に応じて、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤(ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤等)、消泡剤、粘度調整剤などのその他の添加剤を含むことができる。
【0164】
<メンテナンス液の物性等>
本発明におけるメンテナンス液は、本発明におけるインク組成物と混合した際に凝集を起こさない液であることが好ましい。凝集を起こしてしまうと、インク組成物中の顔料等の成分が更にインクジェットヘッド等に固着して本発明の効果を低減させてしまうためである。
【0165】
メンテナンス液の20℃での粘度は、作業性の観点から、1mPa・s以上1000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは1mPa・s以上500mPa・s未満、更に好ましくは2mPa・s以上100mPa・s未満である。
本発明における粘度の測定については、前記「インク組成物」の項に記載の測定方法と同様である。
【0166】
本発明におけるメンテナンス液は、顔料を含まない無色の液体であることが好ましい。
また、メンテナンス液における固形分(25℃)の含量としては、特に限定されるものではないが、洗浄後の固形物残留を防ぐ観点から、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0167】
また、本発明においては、乾燥防止、湿潤性向上、浸透性向上の観点で、本発明の効果を損なわない範囲で、前記特定化合物である水溶性有機溶剤以外の他の溶剤を併用しても良い。他の溶剤としては、公知の溶剤を用いることができる。
【0168】
≪処理液≫
本発明のインクセットは、既述の本発明におけるインク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液の少なくとも1種を有することが好ましい。
既述の本発明におけるインク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
また、処理液が凝集剤を含むことで、良好な画像品質で耐ブロッキング性に優れた画像を形成することができる。
【0169】
(凝集剤)
前記処理液は、インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む。
前記凝集剤は、記録媒体上においてインク組成物と接触することにより、インク組成物を凝集(固定化)可能なものであり、固定化剤として機能する。例えば、処理液を記録媒体(好ましくは、塗工紙)に付与することにより記録媒体上に凝集剤が存在している状態で、インク組成物がさらに着滴して凝集剤に接触することにより、インク組成物中の成分を凝集させて、インク組成物を記録媒体上に固定化することができる。
【0170】
前記インク組成物中の成分を固定化させる成分としては、酸性化合物、カチオン性ポリマー、多価金属塩等を挙げることができる。これらは1種単独でも、2種以上を併用することができる。
【0171】
−酸性化合物−
前記酸性化合物としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、およびこれらの化合物の誘導体、ならびにこれらの塩等が好適に挙げられる。
【0172】
これらの中でも、水溶性の高い酸性化合物が好ましい。また、インク組成物と反応してインク全体を固定化させる観点から、3価以下の酸性化合物が好ましく、2価以上3価以下の酸性化合物が特に好ましい。
酸性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0173】
前記処理液が酸性化合物を含む場合、処理液のpH(25℃)は、0.1〜6.8であることが好ましく、0.5〜6.0であることがより好ましく、0.8〜5.0であることがさらに好ましい。
【0174】
前記酸性化合物の含有量は、前記処理液の全質量に対し、40質量%以下であることが好ましく、15〜40質量%であることがより好ましい。酸性化合物の含有量を15〜40質量%とすることでインク組成物中の成分をより効率的に固定化することができる。
さらに酸性化合物の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%〜35質量%であることが好ましい。
【0175】
−多価金属塩−
前記多価金属塩は、アルカリ土類金属、亜鉛族金属等の2価以上の金属を含む化合物であり、Ca2+、Cu2+、Al3+等の金属イオンの酢酸塩、酸化物等を挙げることができる。
【0176】
前記多価金属塩を含む処理液が付与された記録媒体にインク組成物を吐出する場合のインク組成物の凝集反応は、インク組成物中に分散した粒子、例えば、顔料や、樹脂粒子等の粒子の分散安定性を減じ、インク組成物全体の粘度を上昇させることで達成することができる。例えば、インク組成物中の顔料や、樹脂粒子などの粒子がカルボキシル基等の弱酸性の官能基を有するとき、当該粒子は前記弱酸性の官能基の働きにより分散安定化しているが、当該粒子の表面電荷を、多価金属塩と相互作用させることにより減じ、分散安定性を低下することができる。したがって、処理液に含まれる固定化剤としての多価金属塩は、凝集反応の観点で、価数が2価以上、すなわち多価であることが必要であり、凝集反応性の観点で、3価以上の多価金属イオンからなる多価金属塩であることが好ましい。
【0177】
以上の観点から、本発明における処理液に用いることのできる多価金属塩は、以下に示す多価金属イオンと陰イオンとの塩、ポリ水酸化アルミニウムおよびポリ塩化アルミニウムのいずれか1種以上であることが好ましい。
【0178】
多価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Sr2+、Zn2+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、Fe2+、La3+、Nd3+、Y3+、およびZr4+などが挙げられる。これら多価金属イオンを処理液中に含有させるためには、前記多価金属の塩を用いればよい。
塩とは、上記のような多価金属イオンと、これらのイオンに結合する陰イオンとから構成される金属塩のことであるが、溶媒に可溶なものであることが好ましい。ここで、前記溶媒とは、多価金属塩とともに処理液を構成する媒質であり、例えば、水や後述する有機溶剤が挙げられる。
【0179】
前記多価金属イオンと塩を形成するための好ましい陰イオンとしては、例えば、Cl、NO、I、Br、ClO、CHCOO、SO2−などが挙げられる。
多価金属イオンと陰イオンとは、それぞれ単独種又は複数種を用いて多価金属イオンと陰イオンとの塩を形成することができる。
【0180】
上記以外の多価金属塩としては、例えば、ポリ水酸化アルミニウムおよびポリ塩化アルミニウムなどが挙げられる。
【0181】
前記多価金属塩としては、反応性や着色性、さらには取り扱いの容易さなどの点から、多価金属イオンと陰イオンとの塩を用いることが好ましく、多価金属イオンとしては、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Al3+およびY3+から選ばれる少なくとも1種が好ましく、さらには、Ca2+が好ましい。
また、陰イオンとしては、溶解性などの観点から、NOが特に好ましい。
前記多価金属塩は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0182】
前記多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%以上であることが好ましい。これにより、より効果的にインク組成物中の成分を固定化することができる。
多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%〜35質量%であることが好ましい。
【0183】
多価金属塩の記録媒体への付与量としては、インク組成物を凝集させるに足る量であれば特に制限はないが、インク組成物を固定化し易いとの観点から、
0.5g/m〜4.0g/mであることが好ましく、0.9g/m〜3.75g/mであることがより好ましい。
【0184】
−カチオン性ポリマー−
前記カチオン性ポリマーとしては、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニドから選ばれる少なくとも1種のカチオン性ポリマーである。
カチオン性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0185】
上記カチオン性ポリマーの中でも、凝集速度の観点で有利な、ポリグアニド(好ましくは、ポリ(ヘキサメチレングアニジン)アセテート、ポリモノグアニド、ポリメリックビグアニド)、ポリエチレンイミン、ポリ(ビニルピリジン)が好ましい。
【0186】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理液の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理液をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、500〜500,000の範囲が好ましく、700〜200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは1,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量は、500以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理液をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0187】
前記処理液はカチオン性ポリマーを含む場合、処理液のpH(25℃)は、1.0〜10.0であることが好ましく、2.0〜9.0であることがより好ましく、3.0〜7.0であることがさらに好ましい。
【0188】
カチオン性ポリマーの含有量は、前記処理液の全質量に対して、1質量%〜35質量%であることが好ましく、5質量%〜25質量%であることがより好ましい。
カチオン性ポリマーの塗工紙への付与量としては、インク組成物を安定化させるに足る量であれば特に制限はないが、インク組成物を固定化し易いとの観点から、0.5g/m〜4.0g/mであることが好ましく、0.9g/m〜3.75g/mであることがより好ましい。
【0189】
≪画像形成方法≫
本発明の画像形成方法は、既述の本発明のインクセットが用いられ、既述の本発明におけるインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体上に付与するインク付与工程と、前記インクジェットヘッドに付着したインク組成物を前記メンテナンス液により除去するインク除去工程と、を有する。本発明の画像形成方法は、必要に応じて、更に他の工程を有していてもよい。
【0190】
<インク付与工程>
前記インク付与工程は、既述の本発明におけるインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体上に付与する工程である。
本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。なお、インク組成物の詳細及び好ましい態様などインク組成物の詳細については、インク組成物に関する説明で既述した通りである。
【0191】
インクジェット法を利用した画像の記録は、具体的には、エネルギーを供与することにより、所望の被記録媒体、すなわち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載のインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に液体組成物を吐出することにより行なえる。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0192】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
【0193】
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0194】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0195】
インクジェット記録方法の具体例を以下に示す。
インクジェット記録方法として、(1)静電吸引方式とよばれる方法がある。静電吸引方式は、ノズルとノズルの前方に配置された加速電極との間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に噴射させ、そのインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えることによって、インク滴を記録媒体上に向けて飛ばしてインクを記録媒体上に定着させて画像を記録する方法、又はインク滴を偏向させずに、印刷情報信号に従ってインク滴をノズルから記録媒体上にむけて噴射させることにより画像を記録媒体上に定着させて記録する方法である。
【0196】
また、(2)小型ポンプによってインク液に圧力を加えるとともに、インクジェットノズルを水晶振動子等によって機械的に振動させることによって、強制的にノズルからインク滴を噴射させる方法がある。ノズルから噴射されたインク滴は、噴射されると同時に帯電され、このインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えてインク滴を記録媒体に向かって飛ばすことにより、記録媒体上に画像を記録する方法である。
【0197】
次に、(3)インク液に圧電素子によって圧力と印刷情報信号を同時に加え、ノズルからインク滴を記録媒体に向けて噴射させ、記録媒体上に画像を記録する方法(ピエゾ)、(4)印刷信号情報にしたがって微小電極を用いてインク液を加熱して発泡させ、この泡を膨張させることによってインク液をノズルから記録媒体に向けて噴射し、記録媒体上に画像を記録する方法(バブルジェット(登録商標))がある。
【0198】
インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明の画像形成方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0199】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1〜10pl(ピコリットル)が好ましく、1.5〜6plがより好ましい。また、画像のムラ、連続諧調のつながりを改良する観点で、異なる液適量を組み合わせて吐出することも有効であり、このような場合でも本発明は好適に使用できる。
【0200】
<インク除去工程>
本発明におけるインク除去工程は、前記インクジェットヘッドに付着した前記インク組成物(前記インク組成物の固着物(インク固着物)を含む。以下同じ。)を既述の本発明におけるメンテナンス液により除去する工程である。本工程で用いるメンテナンス液の構成及び好ましい態様などの詳細については、既述した通りである。
【0201】
インク除去工程では、ヘッドのノズル面からインク組成物を除去するために、ヘッド(例えば、ヘッド周辺及びインク流路等;以下、「ヘッド等」ともいう。)にメンテナンス液を付与する。メンテナンス液をヘッド等に付与することにより、インク組成物(例えばインク固着物)は溶解、膨潤等する。
メンテナンス液の付与は、例えば、インクジェット法による吐出、ローラーを用いた塗布、噴霧などにより行なえる。
【0202】
また、メンテナンス液を付与する前又は後に、ブレードによる掻き取り、布や紙類での払拭により、インク組成物を除去することが好ましい。好ましい方法としては、メンテナンス液を付与後にワイパブレードを用いてノズル面を擦り(ワイピング)インク組成物を掻き落とす方法、風圧やメンテナンス液等の液圧等によりインク組成物を取り除く方法、布や紙類でインク組成物を払拭する方法が挙げられる。
【0203】
前記ワイパブレードの材質は弾性を有するゴムが好ましく、具体的な材質としては、ブチルゴム、クロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。ワイパブレードに撥インク性を付与するためフッ素樹脂等によりコーティングを施したワイパブレードを用いても構わない。
【0204】
メンテナンス液の付与量としては、インク組成物を溶解、膨潤等できる量であれば特に制限はないが、好ましくは、1g/m〜100g/mとすることができる。
【0205】
<処理液付与工程>
本発明の画像形成方法は、更に、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体上に付与する処理液付与工程を有することが好ましい。
本工程で記録媒体上に付与された処理液と、前記インク付与工程で記録媒体上に付与されたインク組成物と、が接触して画像が形成される。この場合、インク組成物中の顔料や樹脂粒子等の分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液は凝集剤を少なくとも含有してなり、各成分の詳細及び好ましい態様については、既述の「処理液」の項で説明した通りである。
【0206】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0207】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。
本発明においては、処理液付与工程の後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。換言すれば、前述のインク付与工程が、本処理液付与工程よりも後に設けられ、本処理液付与工程で記録媒体上に付与された処理液上に前述のインク組成物を付与する工程であることが好ましい。具体的には、記録媒体上に、インク組成物を付与する前に、予め前記処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0208】
処理液付与工程における処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集剤の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集剤の付与量が0.2〜0.7g/mとなる量が好ましい。凝集剤は、付与量が0.1g/m以上であるとインク組成物の種々の使用形態に応じ良好な高速凝集性が保てる。また、凝集剤の付与量が0.7g/m以下であることは、付与した記録媒体の表面性をより向上できる(光沢の変化等をより抑制できる)点で好ましい。
【0209】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0210】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0211】
<硬化工程>
本発明の画像形成方法は、更に、前記インク付与工程により記録媒体上に付与された前記インク組成物に活性エネルギー線を照射して該インク組成物を硬化させる硬化工程を有することが好ましい。
ここで使用される活性エネルギー線は、α線、γ線、電子線、X線、紫外線、可視光、赤外光などが挙げられる。中でも、紫外線が好ましい。
硬化工程により、インク組成物中のモノマー成分(重合性化合物)を確実に重合硬化させることができる。このとき、活性エネルギー線を照射する光源を記録媒体の記録面に対向配置し、記録面の全体を照射すれば、インク組成物の付与により形成された画像全体の硬化を行うことができる。なお、活性エネルギー線を照射する光源は、紫外線照射ランプ、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することもできる。
前記硬化工程は前記インク付与工程の後に設けられるが、本発明の画像形成方法が前記処理液付与工程を有する場合には、前記インク付与工程及び前記処理液付与工程の後に設けられることが好ましい。
【0212】
活性エネルギー線の照射条件としては、重合性化合物が重合硬化可能であれば特に制限されない。例えば活性エネルギー線の波長としては、例えば、200〜600nmであることが好ましく、300〜450nmであることがより好ましく、350〜420nmであることがさらに好ましい。
活性エネルギー線の出力としては、5000mJ/cm以下であることが好ましく、10〜4000mJ/cmであることがより好ましく、20〜3000mJ/cmであることがさらに好ましい。
【0213】
<記録媒体>
本発明の画像形成方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明の画像形成方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0214】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しらおい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0215】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明の画像形成方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましく、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのがより好ましい。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【0216】
<インクジェット記録装置>
次に、本発明の画像形成方法を実施するのに好適なインクジェット記録装置の一例を図1を参照して具体的に説明する。図1は、インクジェット記録装置全体の構成例を示す概略構成図である。
【0217】
図1に示すように、インクジェット記録装置は、記録媒体の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、処理液を吐出する処理液吐出用ヘッド12Sを備えた処理液付与部12と、付与された処理液を乾燥させる加熱手段(不図示)を備えた処理液乾燥ゾーン13と、各種インク組成物を吐出するインク吐出部14と、吐出されたインク組成物を乾燥させるインク乾燥ゾーン15とが配設されている。また、記録媒体の搬送方向におけるインク乾燥ゾーン15の下流側には、紫外線照射ランプ16Sを備えた紫外線照射部16が配設されている。
【0218】
このインクジェット記録装置に供給された記録媒体は、記録媒体が装填されたケースから記録媒体を給紙する給紙部から、搬送ローラによって、処理液付与部12、処理液乾燥ゾーン13、インク吐出部14、インク乾燥ゾーン15、紫外線照射部16と順に送られて集積部に集積される。搬送は、搬送ローラによる方法のほか、ドラム状部材を用いたドラム搬送方式やベルト搬送方式、ステージを用いたステージ搬送方式などを採用してもよい。
【0219】
複数配置された搬送ローラのうち、少なくとも1つのローラはモータ(不図示)の動力が伝達された駆動ローラとすることができる。モータで回転する駆動ローラを定速回転することにより、記録媒体は所定の方向に所定の搬送量で搬送されるようになっている。
【0220】
処理液付与部12には、処理液を貯留する貯留タンクに繋がる処理液吐出用ヘッド12Sが設けられている。処理液吐出用ヘッド12Sは、記録媒体の記録面と対向配置された吐出ノズルから処理液を吐出し、記録媒体の上に処理液を液滴付与できるようになっている。なお、処理液付与部12は、ノズル状のヘッドから吐出する方式に限らず、塗布ローラを用いた塗布方式を採用することもできる。この塗布方式は、下流側に配置されたインク吐出部14で記録媒体上にインク滴が着弾する画像領域を含むほぼ全面に処理液を容易に付与することができる。記録媒体上の処理液の厚みを一定にするために、例えば、エアナイフを用いたり、あるいは尖鋭な角を有する部材を、処理液の規定量に対応するギャップを記録媒体との間に設けて設置する等の方法を設けてもよい。
【0221】
処理液付与部12の記録媒体搬送方向の下流側には、処理液乾燥ゾーン13が配置されている。処理液乾燥ゾーン13は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段を用いて構成することができる。加熱手段は、記録媒体の遮断層形成面と反対側(例えば、記録媒体を自動搬送する場合は記録媒体を載せて搬送する搬送機構の下方)にヒータ等の発熱体を設置する方法や、記録媒体の遮断層形成面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0222】
また、記録媒体の種類(材質、厚み等)や環境温度等によって、記録媒体の表面温度は変化するため、記録媒体の表面温度を計測する計測部と該計測部で計測された記録媒体の表面温度の値を加熱制御部にフィードバックする制御機構を設けて温度制御しながら遮断層を形成することが好ましい。記録媒体の表面温度を計測する計測部としては、接触又は非接触の温度計が好ましい。
また、溶媒除去ローラー等を用いて溶媒除去を行なってもよい。他の態様として、エアナイフで余剰な溶媒を記録媒体から取り除く方式も用いられる。
【0223】
インク吐出部14は、処理液乾燥ゾーン13の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク吐出部14には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色インクを貯留するインク貯留部の各々と繋がる記録用ヘッド(インク吐出用ヘッド)30K、30C、30M、30Yが配置されている。不図示の各インク貯留部には、各色相に対応する顔料と樹脂粒子と水溶性有機溶剤と水とを含有するインク組成物が貯留されており、画像の記録に際して必要に応じて各インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Yに供給されるようになっている。また、インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、及び30Yの搬送方向下流側には、図1に示すように、必要に応じて特色インクを吐出可能なように、特色インク吐出用の記録ヘッド30A、30Bを更に配設することもできる。
【0224】
インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Yは、記録媒体の記録面と対向配置された吐出ノズルから、それぞれ画像に対応するインクを吐出する。これにより、記録媒体の記録面上に各色インクが付与され、カラー画像が記録される。
【0225】
処理液吐出用ヘッド12S、並びにインク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bはいずれも、記録媒体上に記録される画像の最大記録幅にわたって多数の吐出口(ノズル)が配列されたフルラインヘッドとなっている。記録媒体の幅方向(記録媒体搬送面において搬送方向と直交する方向)に短尺のシャトルヘッドを往復走査しながら記録を行なうシリアル型のものに比べて、記録媒体に高速に画像記録を行なうことができる。本発明においては、シリアル型での記録、又は比較的高速記録が可能な方式、例えば1回の走査で1ラインを形成するシングルパスで主走査方向に吐出して記録できる方式での記録のいずれを採用してもよいが、本発明の画像記録方法によればシングルパスによる方式でも再現性の高い高品位の画像が得られる。
【0226】
ここでは、処理液吐出用ヘッド12S、並びにインク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bは、全て同一構造になっている。
【0227】
処理液の付与量とインク組成物の付与量とは、必要に応じて調節することが好ましい。例えば、記録媒体に応じて、処理液とインク組成物とが混合してできる凝集物の粘弾性等の物性を調節する等のために、処理液の付与量を変えてもよい。
【0228】
インク乾燥ゾーン15は、インク吐出部14の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク乾燥ゾーン15は、処理液乾燥ゾーン13と同様に構成することができる。
【0229】
紫外線照射部16は、インク乾燥ゾーン15の記録媒体搬送方向のさらに下流側に配置されており、紫外線照射部16に設けられた紫外線照射ランプ16Sにより紫外線を照射し、画像乾燥後の画像中のモノマー成分を重合硬化させるようになっている。紫外線照射ランプ16Sは、記録媒体の記録面と対向配置されたランプにより記録面の全体を照射し、画像全体の硬化が行なえるようになっている。なお、紫外線照射部16は、紫外線照射ランプ16Sに限らず、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することもできる。
紫外線照射部16は、インク乾燥ゾーン15の前後のいずれに設置されていてもよく、インク乾燥ゾーン15の前後両方に設置してもよい。
【0230】
また、インクジェット記録装置には、給紙部から集積部までの搬送路に、記録媒体に加熱処理を施す加熱手段を配置することもできる。例えば、処理液乾燥ゾーン13の上流側や、インク吐出部14とインク乾燥ゾーン15との間、などの所望の位置に加熱手段を配置することで、記録媒体を所望の温度に昇温させることにより、乾燥、定着を効果的に行なうようにすることが可能である。
【実施例】
【0231】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。また、SP値の単位は(cal/cm1/2である。
【0232】
≪自己分散性樹脂粒子の水分散物の調製≫
下記表1及び表2に示す自己分散性樹脂粒子1〜11の水分散物を調製した。
以下、表1及び表2中の自己分散性樹脂粒子2(表1及び表2中の「No.2」)の水分散物の調製を中心に説明する。
【0233】
<自己分散性樹脂粒子2の水分散物の調製>
転相乳化法により、自己分散性樹脂粒子2の水分散物を調製した。詳細を以下に示す。
まず、攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。その後、フラスコ内温度を75℃に保ちながら、フェノキシエチルアクリレート180.0g、メチルメタクリレート162.0g、アクリル酸18.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、これに「V−601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.72g及びイソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続け、フェノキシエチルアクリレート(PhoEA)/メチルメタクリレート(MMA)/アクリル酸(AA)(=50/45/5[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
得られた共重合体の組成はH−NMRで確認した。また、得られた共重合体は、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)が64,000であり、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法により求められた酸価が38.9mgKOH/gであった。
【0234】
次に、得られた樹脂溶液668.3gを秤量し、これにイソプロパノール388.3g及び1mol/L NaOH水溶液161.0mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した(中和)。次に、蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度28.0質量%の自己分散性樹脂粒子2の水分散物を得た。自己分散性樹脂粒子2における中和度はモル当量の比で0.8である。即ち、フェノキシエチルアクリレート(PhoEA)/メチルメタクリレート(MMA)/アクリル酸(AA)(=50/45/5[質量比])共重合体に含まれる全てのカルボキシル基(−COOH基)のうち80個数%が中和により−COONa基となっている。
【0235】
上記自己分散性樹脂粒子2のガラス転移温度(T)を以下の方法で測定したところ、50℃であった。
(ガラス転移温度(T)の測定)
固形分で0.5gの自己分散性樹脂粒子2の水分散物を50℃で4時間、減圧乾燥させ、ポリマー固形分を得た。得られたポリマー固形分を用い、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計(DSC)EXSTAR6220によりTを測定した。 測定条件は、サンプル量5mgをアルミパンに密閉し、窒素雰囲気下、以下の温度プロファイルで2回目の昇温時の測定データのDDSCのピークトップの値をTとした。
30℃→−50℃ (50℃/分で冷却)
−50℃→120℃(20℃/分で昇温)
120℃→−50℃(50℃/分で冷却)
−50℃→120℃(20℃/分で昇温)
【0236】
下記表1及び表2に示すように、自己分散性樹脂粒子2は、共重合質量比〔PhoEA/MMA/AA〕=50/45/5の共重合体が中和度0.8で中和されたものである。
下記表1及び表2に示すように、各モノマー種のSP値は、PhoEA、MMA、AAの順に、10.41、9.34、11.89である。
下記表1及び表2中ではPhoEA/MMA/AAの組成からなる自己分散性樹脂粒子2を形成する各モノマー種のSP値を、「10.41/9.34/11.89」と表記した。
表1及び表2中では、自己分散性樹脂粒子2以外のその他の自己分散性樹脂粒子を形成する各モノマー種のSP値も、同様に表記した。
【0237】
<自己分散性樹脂粒子1及び3〜11の水分散物の調製>
モノマー種の種類及び量を変更することにより、組成及び共重合質量比を下記表1及び表2に示すように変更したこと以外は自己分散性樹脂粒子2の合成と同様にして、自己分散性樹脂粒子1及び3〜11を合成した。
自己分散性樹脂粒子1及び3〜11のそれぞれにおける、重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(T)、及び各モノマー種のSP値は、下記表1及び表2に示すとおりである。
なお、下記表1及び表2において、モノマー種の略号と化合物名との対応については後述する。
【0238】
≪インク組成物の調製≫
以下のようにして、インク組成物として、シアンインク(C1)〜(C11)、マゼンタインク(M1)、イエローインク(Y1)、及びブラックインク(K1)をそれぞれ調製した。
【0239】
<シアンインク(C1)の調製>
(ポリマー分散剤P−1の合成)
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、下記構造のポリマー分散剤P−1を96g得た。
【0240】
得られたポリマー分散剤P−1の組成は、H−NMRで確認した。また、得られたポリマー分散剤P−1は、重量平均分子量(Mw)が44,600であり、酸価が65.2mgKOH/gであった。ここで重量平均分子量及び酸価は、前述の「自己分散性樹脂粒子の水分散物の調製」で説明した方法と同様の方法で測定した。
【0241】
【化13】

【0242】
(樹脂被覆シアン顔料分散物(C)の調製)
シアン顔料であるピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブルーA220、大日精化(株)製)10部と、上記ポリマー分散剤P−1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1mol/L NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆シアン顔料の分散物(樹脂被覆シアン顔料分散物(C))を得た。
【0243】
(シアンインク(C1)の調製)
下記組成の各成分を混合し、その後、5μmメンブランフィルタでろ過してシアンインクC−1を調製した。
【0244】
−シアンインク(C1)の組成−
・上記で得られた樹脂被覆シアン顔料分散物(C) … 6%(固形分濃度)
・イルガキュア2959(重合開始剤;BASFジャパン社製) … 3%
・前記重合性化合物2(アクリルアミド構造を有する重合性化合物) … 20%
・自己分散性樹脂粒子1の水分散物 … 7.1%
・オルフィンE1010(日信化学(株)製;界面活性剤) … 1%
・イオン交換水 … 残量(インク全量が100%となるよう加えた)
【0245】
pHメーターWM−50EG(東亜DKK(株)製)を用いて、シアン顔料インクC1のpH(25℃)を測定したところ、pH値は8.5であった。
以降の記載におけるpH値の測定装置及び温度も、上記測定装置及び温度と同様である。
【0246】
前記重合性化合物2は、以下のようにして合成した。
まず、攪拌機を備えた1Lの三口フラスコに4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン40.0g(182mmol)、炭酸水素ナトリウム37.8g(450mmol)、水100g、テトラヒドロフラン300mLを加えて、氷浴下、アクリル酸クロリド35.2g(389mmol)を20分かけて滴下した。滴下後、室温で5時間攪拌した後、得られた反応混合物から減圧下でテトラヒドロフランを留去した。次に水層を酢酸エチル200mlで4回抽出し、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、減圧下溶媒留去することにより重合性化合物2の白色固体を35.0g(107mmol、収率59%)得た。
【0247】
<シアンインク(C2)〜(C11)の調製>
シアンインク(C1)の調製において、自己分散性樹脂粒子1を、それぞれ、下記表1に示す自己分散性樹脂粒子2〜11のいずれか1つに変更したこと以外はシアンインク(C1)の調製と同様にして、シアンインク(C2)〜(C11)をそれぞれ調製した。
シアンインク(C2)〜(C11)のpH値は、いずれも8.5であった。
【0248】
<マゼンタインク(M1)の調製>
上記シアンインク(C1)の調製(詳しくは樹脂被覆シアン顔料の分散物(C)の調製)において、シアン顔料であるフタロシアニンブルーA220を、マゼンタ顔料であるChromophthal Jet Magenta DMQ(ピグメント・レッド122、BASFジャパン社製)に変更したこと以外は上記シアンインク(C1)の調製と同様にして、マゼンタインク(M1)を調製した。
マゼンタインク(M1)のpH値は、8.5であった。
【0249】
<イエローインク(Y1)の調製>
上記シアンインク(C1)の調製(詳しくは樹脂被覆シアン顔料の分散物(C)の調製)において、シアン顔料であるフタロシアニンブルーA220を、イエロー顔料であるIrgalite Yellow GS(ピグメント・イエロー74、BASFジャパン社製)に変更したこと以外は上記シアンインク(C1)の調製と同様にして、イエローインク(Y1)を調製した。
イエローインク(Y1)のpH値は、8.5であった。
【0250】
<ブラックインク(K1)の調製>
上記シアンインク(C1)の調製(詳しくは樹脂被覆シアン顔料の分散物(C)の調製)において、シアン顔料であるフタロシアニンブルーA220を、ブラック顔料であるCAB−O−JETTM 200(カーボンブラック、CABOT社製)に変更したこと以外は上記シアンインク(C1)の調製と同様にして、ブラックインク(K1)を調製した。pH値は8.5であった。
ブラックインク(K1)のpH値は、8.5であった。
【0251】
≪メンテナンス液の調製≫
<メンテナンス液1の調製>
下記組成の各成分を混合し、メンテナンス液1を作製した。
メンテナンス液1のpHは7.53であった。
下記組成において、塩酸の量は、酸当量でトリスヒドロキシメチルアミノメタンの約0.4当量に相当する。
−メンテナンス液1の組成−
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGmBE) … 25%
・トリスヒドロキシメチルアミノメタン … 0.9%
・1N塩酸 … 3%
・イオン交換水 … 71.1%
【0252】
<メンテナンス液2〜6の調製>
メンテナンス液1の調製において、DEGmBEを同質量の下記表1及び表2に示す化合物に変更したこと以外はメンテナンス液1の調製と同様にして、メンテナンス液2〜6を調製した。
メンテナンス液2〜6のpHは、いずれも7.53であった。
下記表1及び表2中のメンテナンス液中の化合物の略号と化合物名との対応については後述する。
【0253】
≪処理液の調製≫
<処理液1の調製>
下記組成の各成分を混合し、処理液1を作製した。東亜DKK(株)製のpHメーターWM−50EGにて、処理液1のpH(25℃)を測定したところ、1.0であった。
−処理液1の組成−
・マロン酸(立山化成(株)製;酸性化合物) … 25.0%
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(水溶性有機溶媒) … 5%
・イオン交換水 … 残量(処理液全量で100%となるよう加えた)
【0254】
<処理液2の調製>
下記組成の各成分を混合し、処理液2を作製した。東亜DKK(株)製のpHメーターWM−50EGにて、pH調整後の処理液2のpH(25℃)を測定したところ、4.0であった。
−処理液2の組成−
・ポリエチレンイミン(日本触媒社製;カチオン性ポリマー) … 13.0%
・イオン交換水 … 残量(処理液全量で100%となるよう加えた)
【0255】
<処理液3の調製>
下記組成の各成分を混合し、処理液3を作製した。東亜DKK(株)製のpHメーターWM−50EGにて、処理液3のpH(25℃)を測定したところ、4.0であった。
−処理液3の組成−
・硝酸マグネシウム … 15%
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(和光純薬工業(株)製) … 4%
・界面活性剤A(10%、構造:C15−CH=CH−C14−C(=O)−N(CH)−CHCH−SONa) … 1%
・イオン交換水 … 残量(処理液全量で100%となるよう加えた)
【0256】
〔実施例1〜24及び比較例1〜18〕
≪インクセット≫
上記で準備した、インク、メンテナンス液、及び処理液を下記表1及び表2に示すように組み合わせたインクセットを準備した。
【0257】
≪画像形成(インクジェット記録)≫
上記インクセットを用い、以下のようにして画像形成(インクジェット記録)を行った。
【0258】
インクジェット記録に際し、記録媒体(塗工紙)として、OKトップコート+(坪量104.7g/m)を用意した。
次に、表1に示すインクと処理液の組み合わせのインクセットを用い、4色シングルパス記録によりライン画像とベタ画像を形成した。
【0259】
まず、図1に示すように、記録媒体の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、処理液を吐出する処理液吐出用ヘッド12Sを備えた処理液付与部12と、付与された処理液を乾燥させる処理液乾燥ゾーン13と、各種インクを吐出するインク吐出部14と、吐出されたインクを乾燥させるインク乾燥ゾーン15と、紫外線(UV)を照射可能なUV照射ランプ16Sを備えたUV照射部16とが配設されたインクジェット装置を準備した。
【0260】
処理液乾燥ゾーン13は、図示しないが、記録媒体の記録面側には乾燥風を送って乾燥を行なう送風器を備え、記録媒体の非記録面側には赤外線ヒータを備えており、処理液付与部で処理液の付与を開始した後900msecが経過するまでに、温度・風量を調節して水性処理液中の水の70質量%以上を蒸発(乾燥)できるように構成されている。また、インク吐出部14は、搬送方向(矢印方向)にブラックインク吐出用ヘッド30K、シアンインク吐出用ヘッド30C、マゼンタインク吐出用ヘッド30M、及びイエローインク吐出用ヘッド30Yが順次配置されており、各ヘッドは1200dpi/20inch幅フルラインヘッドであり、各色をシングルパスで主走査方向に吐出して記録できるようになっている。
【0261】
図1に示すように構成されたインクジェット装置の処理液吐出用ヘッド、インク吐出用ヘッドにそれぞれ繋がる貯留タンク(不図示)に、処理液1、ブラックインクK1、シアンインクC1〜C11のいずれか1つ、マゼンタインクM1、及びイエローインクY1を装填して、記録媒体にベタ画像及び1200dpiのライン画像を記録した。
【0262】
ライン画像は、1200dpiの幅1ドットのライン、幅2ドットのライン、幅4ドットのラインをシングルパスで主走査方向に吐出して記録し、ベタ画像は、記録媒体をA5サイズにカットしたサンプルの全面にインクを吐出してベタ画像とした。
なお、記録する際の諸条件は下記の通りである。
【0263】
(1)処理液付与工程
記録媒体上に処理液吐出用ヘッド12Sから処理液をシングルパスで吐出した。付与量が、1.4g/mとなるように処理液を吐出した。
【0264】
(2)処理工程
処理液の乾燥は処理液乾燥ゾーン13で行ない、処理液乾燥ゾーンを水性処理液の吐出開始から900msec迄に通過するようにした。下記条件にて処理液が吐出された記録媒体について乾燥処理及び浸透処理を施した。
・風速:10m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱した。
【0265】
(3)インク付与工程
その後、インク吐出用ヘッドにより、処理液が付与された記録媒体の付与面に、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、およびイエローインクをシングルパスで吐出して、ライン画像、ベタ画像をそれぞれ形成した。各インクの吐出は、下記条件にて行った。
・ヘッド:1,200dpi/20inch幅のピエゾフルラインヘッドを4色分配置
・吐出液滴量:2.0pL
・駆動周波数:30kHz
【0266】
(4)インク乾燥工程
インク乾燥ゾーン15で、インク組成物が付与された記録媒体を下記条件で乾燥した。
・乾燥方法:送風乾燥
・風速:15m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱した。
【0267】
(5)UV露光工程
画像乾燥後、UV照射部16において、UV光(アイグラフィックス(株)製 メタルハライドランプ 最大照射波長 365nm)を積算照射量3J/cmになるように照射して画像を硬化した。
【0268】
(6)固定化工程
次に、下記条件でローラー対を通過させることにより加熱定着処理を実施した。
・シリコンゴムローラ(硬度50°、ニップ幅5mm)
・ローラー温度:70℃
・圧力:0.2MPa
【0269】
≪評価≫
上記で準備したインクセット及び形成された画像について、以下の評価を行った。
評価結果を下記表1及び表2に示す。
【0270】
<メンテナンス性(インクの除去性)>
インクセットに含まれるインクを、下記のテストピースの表面にスプレーにより吹き付けて、滴径50μmのインク付着物を作製し、23℃50%RHの環境下で1時間乾燥させた。
このテストピースの表面の材質は、インクジェット記録装置のヘッド基材の表面に設ける、フッ化アルキル基を有する撥液膜と同じ材質である。
インク付着物乾燥後のテストピースを、同じインクセットに含まれるメンテナンス液中に1秒間浸漬させた後、該メンテナンス液中から取り出し、光学顕微鏡によりインク付着物を観察し、浸漬後のインク付着物の面積を求めた。
【0271】
〜評価基準〜
A … 浸漬後のテストピース表面にはインクの付着は認められなかった。
B … 浸漬後のインク付着物の面積は、浸漬前のインク付着物の面積に対し、5%未満であった。
C … 浸漬後のインク付着物の面積は、浸漬前のインク付着物の面積に対し、5%以上10%未満であった。
D … 浸漬後のインク付着物の面積は、浸漬前のインク付着物の面積に対し、10%以上であった。
※C,Dは実用上問題のあるレベルである。
【0272】
<メンテナンス後におけるインクの再吐出性>
リコー社製GELJET GX5000プリンターを改造したインクジェットプリンターに上記インクセット(インク、メンテナンス液、及び処理液)を装填した。
次に、該インクジェットプリンターに装填されたインクを、打滴量3.5pL、インク塗設量5g/mとなる量で吐出した。
この吐出後、前記インクジェットプリンターに装填されたメンテナンス液をヘッドのノズル面にローラーにて付与した後、ワイパブレード(水素化NBR)でインクジェットヘッドのノズル面をワイピングした(以下、この操作を「メンテナンス)とする)。
メンテナンス後、インクを再吐出した。
【0273】
以上の操作を、下記(1)〜(3)に示す各条件で行い、各条件において合否を判定した。
(1)60分連続吐出終了直後にブレードワイプ(メンテナンス)を1回実施し、その後のインク吐出率が90%以上の場合、合格。
(2)1分間吐出後30分休止し、休止後にブレードワイプ(メンテナンス)を1回実施し、その後のインク吐出率が90%以上の場合、合格。
(3)10分間吐出終了直後にブレードワイプ(メンテナンス)を1回実施し、その後、インクを再吐出して形成された画像に画像ムラが見られない場合、合格。
【0274】
−インク吐出率の測定法−
実験開始時に全ノズルが吐出していることを確認し、メンテナンスを含めた実験終了後の吐出ノズル数をカウントして、下記の通りインク吐出率を算出した。
インク吐出率(%)=([メンテナンス後の吐出ノズル数]/[全ノズル数])×100(%)
【0275】
上記(1)〜(3)における合否の結果に基づき、下記評価基準に従って、メンテナンス後におけるインクの再吐出性を評価した。
【0276】
〜メンテナンス後におけるインクの再吐出性の評価基準〜
A:3項目とも合格の場合
B:2項目が合格の場合
C:1項目のみ合格の場合
D:3項目とも不合格の場合
【0277】
<画像の耐ブロッキング性>
上記「画像形成(インクジェット記録)」に示した方法により、シアンインクC1〜C11のそれぞれによるベタ画像(シアンベタ画像)をそれぞれ形成した。形成された各シアンベタ画像について、以下のようにして耐ブロッキング性を評価した。
シアンベタ画像が記録されたA5サイズの記録媒体における2cm四方のベタ部を、印字直後(印字から30分以内)、記録していない記録媒体(記録に用いたものと同じ記録媒体;以下、本評価において未使用サンプルという。)を重ねて荷重350kg/mをかけて、60℃、30%RHの環境条件下に、24時間放置した。放置後、未使用サンプルの白地部分へのインクの転写度合いを目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
【0278】
〜評価基準〜
A:インクの転写は全くなかった。
B:インクの転写はほとんど目立たなかった。
C:インクの転写が多少見られ、実用上の許容限界レベルであった。
D:インクの転写が顕著であった。
※Dは実用上問題のあるレベルである。
【0279】
【表1】

【0280】
【表2】

【0281】
<表1及び表2の説明>
・表1及び表2におけるSP値の単位は(cal/cm1/2である。
・表1及び表2において、モノマー種の略号と化合物名との対応は以下のとおりである。
(モノマー種の略号と化合物名との対応)
BzMA … ベンジルメタクリレート
PhoEA … フェノキシエチルアクリレート
MMA … メタクリル酸メチル
BMA … メタクリル酸ブチル
MAA … メタクリル酸
AA … アクリル酸
MeoEA … メトキシエチルアクリレート
HEA … ヒドロキシエチルアクリレート
DMA … メタクリル酸ドデシル
PEGA … ポリエチレングリコールアクリレート(エチレングリコールに由来する構造単位の繰り返し数100)
IBOMA … イソボルニルメタクリレート
EIMA … メタクリル酸エイコシル
HEAA … 2−ヒドロキシエチルアクリルアミド
・表1及び表2中のメンテナンス液中の化合物の略号と化合物名との対応は以下のとおりである。
(メンテナンス液中の化合物の略号と化合物名)
DEGmBE … ジエチレングリコールモノブチルエーテル
MEK … メチルエチルケトン
DEGmME … ジエチレングリコールモノメチルエーテル
TMP … トリメチロールプロパン
n−HEX … n−ヘキサン
1,6−HDO … 1,6−ヘキサンジオール
【0282】
表1及び表2に示すように、実施例1〜24では、メンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性に優れていた。更に、実施例1〜24では、耐ブロッキング性に優れた画像を形成することができた。
これに対し、インク中の樹脂粒子が、一般式(1)で表される構造単位及び酸性基又はその塩を有する構造単位のいずれにも該当しない構造単位を含む比較例1及び2、SP値が8.80未満の重合性化合物に由来する構造単位を含む比較例11、SP値が14.00を超える重合性化合物に由来する構造単位を含む比較例12、メンテナンス液中の化合物のSP値が8.00(cal/cm1/2未満である比較例13〜15、並びに、メンテナンス液中の化合物のSP値が12.00(cal/cm1/2を超える比較例3〜10及び16〜18では、メンテナンス性及びメンテナンス後の再吐出性が低下した。
【0283】
次に、処理液1を処理液2又は処理液3に変更したこと以外は実施例1〜24と同様にして耐ブロッキング性の評価を行ったところ、処理液2を用いた場合及び処理液3を用いた場合のいずれにおいても、処理液1を用いた実施例1〜24と同様に、耐ブロッキング性に優れた画像を形成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、SP値が8.80(cal/cm1/2以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物に由来する構造単位から選択される1種以上と、酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上と、からなる樹脂粒子、(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物、水、顔料、及び重合開始剤を含有するインク組成物と、
SP値が8.00(cal/cm1/2以上12.00(cal/cm1/2以下の化合物を含有するメンテナンス液と、
を有するインクセット。
【化1】


〔一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Lは、単結合、又は2価の連結基を表す。Rは、水素原子、炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数7〜12のアラルキル基を表す。但し、Rが水素原子であるときは、Lは2価の連結基である。〕
【請求項2】
前記一般式(1)におけるLが、単結合、又は−((CHO)−*で表される基(n及びmは、それぞれ独立に1以上の整数を表し、*は、Rとの結合位置を表す)である請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記樹脂粒子のガラス転移温度が、150℃未満である請求項1又は請求項2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記樹脂粒子が、転相乳化法により得られた樹脂粒子である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記樹脂粒子の全量に対し、
前記一般式(1)で表され、SP値が8.80(cal/cm1/2以上14.00(cal/cm1/2以下の重合性化合物に由来する構造単位から選択される1種以上の含有量が80〜98質量%であり、かつ、
前記酸性基を有する構造単位及び酸性基の塩を有する構造単位から選択される1種以上の含有量が2〜20質量%である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
更に、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液を有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項7】
前記凝集剤が、酸性化合物、多価金属塩、及びカチオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載のインクセット。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインクセットが用いられ、
前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体上に付与するインク付与工程と、
前記インクジェットヘッドに付着したインク組成物を前記メンテナンス液により除去するインク除去工程と、
を有する画像形成方法。
【請求項9】
更に、前記記録媒体上に付与された前記インク組成物に活性エネルギー線を照射して該インク組成物を硬化させる硬化工程を有する請求項8に記載の画像形成方法。
【請求項10】
更に、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液を記録媒体上に付与する処理液付与工程を有する請求項8又は請求項9に記載の画像形成方法。
【請求項11】
前記インク付与工程は、前記処理液付与工程よりも後に設けられ、前記記録媒体上に付与された前記処理液上に前記インク組成物を付与する工程である請求項10に記載の画像形成方法。
【請求項12】
前記記録媒体が、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙である請求項8〜請求項11のいずれか1項に記載の画像形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−64074(P2013−64074A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203637(P2011−203637)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】