説明

インスリン抵抗性およびインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態の治療方法

【課題】MINORおよびTR3遺伝子が、ヒトおよび充分に特性付けされた様々な動物モデルにおいてインスリン抵抗性および2型糖尿病の一機能として差分発現されるインスリン応答性遺伝子であることを開示する。
【解決手段】本開示では、MINORおよびTR3が、インスリン抵抗性において一定の機能的役割を果たすことを示す。この結果、MINORおよびTR3は、インスリン抵抗性ならびに/またはインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態と戦うための魅力的な新規治療標的である。インスリン抵抗性ならびにインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態(II型糖尿病を含む)とMINORおよびTR3遺伝子発現の相関関係も開示する。また、インスリン抵抗性およびインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態または容態を治療および/または予防するための診断、治療および予防方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インスリン抵抗性ならびにインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態の治療および/または予防方法、より詳細には、新規薬物標的、バイオマーカーおよび遺伝子発現による骨格筋におけるインスリン抵抗性の治療および/または予防方法に関する。こうした方法を使用して、インスリン抵抗性ならびにインスリン抵抗性を特徴とする様々な疾病状態および容態に苦しむ被験者を治療することができ、または危険性のある被験者においてインスリン抵抗性もしくはインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および様態の発生を予防することができる。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、インスリン分泌の異常および/またはインスリンの作用に対する被験者の応答の異常(インスリン抵抗性)を原因とする疾病であり、結果として、糖代謝の調節不全をもたらす。糖尿病には、1型糖尿病および2型糖尿病という二つの主形態がある。一般に、1型糖尿病は、膵臓β細胞機能の喪失およびインスリン生産の絶対的なまたは実質的に絶対的な不足を特徴とする自己免疫疾患である。米国では、糖尿病患者の〜5%が、1型糖尿病に罹患している。残りの糖尿病人口(〜95%)は、2型糖尿病に罹患していおり、これは、次の二つの生理プロセスのうちの一方または両方の異常に主として起因する:1)膵機能不全、食後などの血糖値上昇に応じた膵臓からのインスリン分泌の不足;および2)インスリン抵抗性、インスリン作用の標的組織、主として骨格筋、脂肪および肝臓のこのホルモンに対する応答不能。これらの異常の結果として血糖が上昇し、これがグルコース媒介細胞毒性および結果として生じる病的状態(腎症、神経障害、網膜障害など)を導く。インスリン抵抗性は、2型糖尿病の発現と強い相関関係がある。
【0003】
インスリン抵抗性は、多数の疾病状態および容態にも関連し、糖尿病でない個体の約30から40%に存在する。これらの疾病状態および容態には、前糖尿病および代謝性症候群(インスリン抵抗性症候群とも呼ばれる)(1−3)が挙げられるが、これらに限定されない。前糖尿病は、耐糖能低下(IGT)または空腹時血糖異常(IFG)のいずれかを特徴とする耐糖能が異常な状態である。前糖尿病の患者は、インスリン抵抗性であり、将来、顕性2型糖尿病へと進行する危険性が高い状態にある。代謝性症候群は、高インスリン血症、異常耐糖能、肥満、腹部または上半身区画への脂肪の再分布、高血圧、線維素溶解異常、ならびに高トリグリセリド、低HDLコレステロールおよび小型で密度が高いLDL粒子を特徴とする異常脂血症を含む(しかし、これらに限定されない)関連素質群である(1−4)。インスリン抵抗性は、これらの素質の各々に関連付けられており、これは、代謝性症候群とインスリン抵抗性が互いに密接な関係にあることを示唆している。代謝性症候群の診断は、将来的な2型糖尿病発現の、ならびに結果として心臓発作、卒中および抹消血管疾患をもたらすアテローム性動脈硬化症促進の有力な危険因子である。
【0004】
骨格筋は、インスリンによって媒介されるグルコース取り込みの主標的組織であり(グルコース取り込みの約80から95%を担っている)、インスリン抵抗性の発症位置であり、骨格筋におけるグルコース取り込みの異常は、インスリン抵抗性の臨床症状発現の主誘因である。インスリン抵抗性についての分子的な基本原理は、完全にはわかっていないが、インスリンシグナル変換異常およびグルコース輸送担体蛋白質の異常細胞間移行を含むようである(5)。ヒトの筋肉における遺伝子発現に対するインスリンの影響は、広範には研究されておらず、大部分の先行研究は、単一の遺伝子に、または限られた焦点で少数の遺伝子に集中していた(6−8)。
【0005】
従って、インスリン抵抗性は、代謝性症候群、前糖尿病、多嚢胞卵巣症候群、2型糖尿病、脂質代謝異常、肥満、不妊症、炎症性障害、癌、炎症性疾患、アルツハイマー病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患および抹消血管疾患を含む(しかし、これらに限定されない)ヒトの多様な疾病状態および容態の病理発生の一構成要素である。インスリン抵抗性と戦う治療様式を使用して、インスリン抵抗性これ自体ばかりでなく、インスリン抵抗性を特徴とする疾病状態または容態も、有効に治療および予防することができる。血糖正常の(正常血糖の)個体では、骨格筋が、インスリンに応じた血液からのグルコース取り込みの約80から95%を担っているので、骨格筋におけるインスリン抵抗性は、抗糖尿病療法の主標的組織および重要な薬物標的候補源を意味する。
【非特許文献1】Remington:The Science and Practice of Parmacy Parmaceutical Sciences,Lippincott Williams and Wilkins(A.R.Gennaro editor,20th edition)
【非特許文献2】Pharmaceutics and Pharmacy Practice,J.B.Lippincott Co.,Phiradelphia,Pa.,Banker and Chalmers,Eds.,238−250(1982)およびASHP Handbook on Injectable Drugs,Toissel,4th ed.,622−630(1986)
【発明の開示】
【0006】
(発明の要約)
本開示は、インスリン抵抗性ならびにインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態、例えばII型糖尿病(しかし、これに限定されない)の治療および/または予防方法、より詳細には、新規薬物標的、バイオマーカーおよび遺伝子発現によるインスリン抵抗性の治療および/または予防方法に関する。開示するこれらの方法を使用して、インスリン抵抗性ならびに/またはインスリン抵抗性を特徴とする様々な疾病状態および容態に苦しむ被験者を治療することができる。開示するこれらの方法を使用して、危険性のある被験者においてインスリン抵抗性またはインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態の発生を予防することもできる。
【0007】
本開示により、MINORおよびTR3遺伝子が、インスリンによって媒介される血液からのグルコース取り込みに関与する一般経路の成分であることも実証する。本開示により、インスリンが、MINORおよびTR3遺伝子の発現を増加させることを示し、ならびにこのMINOR遺伝子の発現増加が、インスリン応答性グルコース輸送を増進すること、インスリンによって媒介されるGLUT−4グルコース輸送担体の原形質膜への補充を増進することをさらに示す。本開示は、MINORおよび/またはTR3遺伝子の活性および/または発現ならびにこの発生経路を検出することによる、インスリン抵抗性ならびに/または例えばII型糖尿病などのインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態への罹病性の診断をこうした診断が必要な個体において行う方法も提供する。本開示は、MINORおよび/またはTR3経路を活性化することによる、インスリン抵抗性の治療および/または予防をこうした治療または予防が必要な被験者において行う方法も提供する。本開示は、MINORおよび/またはTR3経路を活性化することによる、インスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態の治療および/または予防をこうした治療または予防が必要な患者において行う方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(詳細な説明)
本開示には、正常なおよびインスリン抵抗性のヒトドナーからの100を超える骨格筋生検材料についての徹底したゲノム研究から、医薬的介入のための二つの新規標的候補を発見したことを記載する。12,000を超えるヒト配列プローブ(Affymetrix U95A)についての遺伝子発現プロフィールのアッセイ、この後の各生検材料の50を超える詳細な臨床パラメータ(例えば、高インスリン血/正常血糖クランプにより評価した全身グルコース取り込み)の多変量分析により、正常なドナーにおいてインスリン抵抗性個体と比較して有意に異なる発現プロフィールを有する数百の遺伝子を特定した。このセットの中に二つの遺伝子(MINORおよびTR3)があり、詳細には、これらは、これらの蛋白質配列および推定三次元構造に基づき、PPARγ、チオゾリジンジオン(TZD)類のインスリン感作薬(例えば、トログリタゾン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾンなど)の既知薬物標的、を含む核内ホルモン受容体(NHR)のサブファミリーの新規メンバーである。多くのNHRは、下流の遺伝子発現の全プログラムを制御し、結果として組織生理に影響を及ぼす「主調節因子」蛋白質であることが知られている。TZDは、新種の抗糖尿病性化合物の代表であり、骨格筋におけるインスリン抵抗性に焦点を合わせた唯一の既存薬物に相当する。概して効能はあるが、これらの化合物には、一部の患者において体重増加を誘導するなど、望ましくない副作用がない訳ではない。従って、生物物理学的特性に関連はあるが別個の機能を有する新規薬物標的の発見は、有意な治療上の可能性をもたらす。さらに、本開示で説明するMINORおよび/またはTR3遺伝子の蛋白質産物の発現プロフィールは、個体におけるインスリン抵抗性の程度を、骨格筋の直接アッセイによって評価するために使用される、またはこれらのNHRの発現プロフィールにより直接もしくは間接的にこれ自体が調節される血液中の代理バイオマーカーの量を測定することによって間接的に評価するために使用される、バイオマーカーの代表であり得る。
【0009】
本開示により、MINORおよびTR3遺伝子が、インスリン応答性遺伝子であること、ならびにMINORおよびTR3遺伝子が、ヒトおよび充分に特性付けされた様々な動物モデルにおいてインスリン抵抗性および2型糖尿病の一機能として差分発現されることを実証する。さらに、本開示により、MINORおよびTR3が、インスリン感受性増大において機能的役割を有することを示す。具体的には、本開示により、1)MINOR発現が、インスリン標的組織、筋肉および脂肪に限定される一方で、TR3は、これらの組織において発現されるとともに、よりいたるところでも発現されること;2)MINORおよびTR3遺伝子の発現が、インスリン抵抗性、2型糖尿病および肥満の齧歯動物モデルからの筋肉において一貫して減少すること;3)MINORおよびTR3が、3T3−L1脂肪細胞において、インスリン媒介シグナル変換に使用される代謝経路(PI3−キナーゼ、p38MAPおよびPKC)によるシグナル伝達によりインスリンによって誘発されること;4)MINORおよびTR3が、3T3−L1脂肪細胞においてチアゾリジンジオンインスリン感作薬によって誘発されること;5)レンチウイルスベクターが安定的に形質導入された脂肪細胞系統において、MINOR発現が、グルコース輸送の刺激に対するインスリンの感受性を著しく増大させること;および6)MINOR発現の増大が、インスリン応答性細胞タイプの細胞表面へのGLUT4グルコース輸送担体蛋白質の代謝増加の結果として、グルコース輸送の刺激増大を招くことを実証する。
【0010】
定義
ここで用いる用語「予防」、「予防する」、「予防(すること)」、「抑制」、「抑制する」および「抑制(すること)」は、疾病状態または容態の臨床症状発現を予防または低減するために、この疾病状態または容態の臨床症状の発症前に開始される行為の過程(化合物または医薬組成物の投与など)を指す。こうした予防および抑制は、絶対に有用である必要はない。
【0011】
ここで用いる用語「治療」、「治療する」および「治療(すること)」は、疾病状態または容態の臨床症状発現を排除または低減するために、この疾病状態または容態の臨床症状の発症後に開始される行為の経過(化合物または医薬組成物の投与など)を指す。こうした治療は、絶対に有用である必要はない。
【0012】
ここで用いる用語「治療が必要な」は、患者に必要である、または患者が治療による恩恵を受けるであろうという、ケアする人がなす判断を指す。この判断は、ケアする人の熟練の技の領域に存するが、この患者が、本開示の方法または化合物によって治療することができる容態の結果としての病気である、または病気になるという知識を含む、様々な要因に基づいてなされる。
【0013】
ここで用いる用語「予防が必要な」は、患者に必要である、または患者が予防による恩恵を受けるであろうという、ケアする人がなす判断を指す。この判断は、ケアする人の熟練の技の領域に存するが、この患者が、本開示の方法または化合物によって予防することができる容態の結果として病気になるであろう、または病気になるかもしれないという知識を含む、様々な要因に基づいてなされる。
【0014】
ここで用いる用語「個体」、「被験者」または「患者」は、マウス、ラット、他の齧歯動物、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマまたは霊長類およびヒトなどの哺乳動物を含むあらゆる動物を指す。この用語は、雄もしくは雌または両方を指定してもよいし、雄または雌を抜かしてもよい。
【0015】
ここで用いる用語「治療有効量」は、疾病状態または容態の症状、側面または特徴に対して検出可能な正の効果を及ぼすことができる、単独での化合物または医薬組成物の一部として化合物の量を指す。こうした効果は、絶対に有益である必要はない。
【0016】
ここで用いる用語「インスリン抵抗性」は、正常な量のインスリンによって正常な生理または分子応答を生じさせることができない状況を指す。場合により、内在的に生産されるか、外から加えられる過剰な生理学的量のインスリン(例えば100単位を超える)によって、インスリン抵抗性を全部または一部克服することができ、または生物学的応答を生じさせることができる。
【0017】
MINORおよびTR3
MINORおよびTR3遺伝子は、インスリンによって媒介される血液からのグルコース取り込みに関与する一般経路の成分である。この言説に矛盾することなく、本開示では、インスリンが、MINORおよびTR3遺伝子の発現を増加させることを証明し、このMINOR遺伝子の発現増加が、インスリン応答性グルコース輸送を増進すること、インスリンによって媒介されるGLUT−4グルコース輸送担体の原形質膜への補充を増進することをさらに示す。本開示は、MINORおよび/またはTR3経路を活性化することにより、インスリン抵抗性の治療および/または予防をこうした治療または予防が必要な被験者において行う方法も提供する。本開示は、MINORおよび/またはTR3経路を活性化することにより、インスリン抵抗性を特徴とする疾病状態または容態の治療または予防をこうした治療または予防が必要な患者において行う方法を提供する。これらの疾病状態および容態には、代謝性疾患、前糖尿病、多嚢胞卵巣症候群、2型糖尿病、脂質代謝異常、肥満、不妊症、炎症性障害、癌、炎症性疾患、アルツハイマー病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患および抹消血管疾患が挙げられるが、これらに限定されない。MINORおよび/またはTR3経路の活性化には、MINORおよび/もしくはTR3遺伝子発現の産物の絶対レベルの増加、MINORおよび/もしくはTR3遺伝子の発現レベルもしくは率の増加、MINORおよび/もしくはTR3遺伝子発現の産物の安定性の増大、MINORおよび/もしくはTR3遺伝子のポリペプチド産物のレベルおよび/もしくは活性の変更、MINORおよび/もしくはTR3経路におけるMINORおよび/もしくはT3の下流の蛋白質の活性もしくは発現の増加または低減、または前述のいずれかの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。MINORおよび/またはT3経路のこうした活性化は、直接的な方法によって達成してもよいし、間接的な方法によって達成してもよい。例えば、直接的な方法には、MINORおよび/またはTR3遺伝子発現のレベルを増加させる方法、MINORおよび/またはTR3遺伝子発現のポリペプチド産物のレベルを増加させる方法、またはMINORおよび/もしくはTR3遺伝子またはこれらの発現産物の安定性を増大させる方法を挙げることができるが、これらに限定されない。間接的な方法には、MINORおよび/またはTR3経路における下流事象を活性化する方法を挙げることができるが、これに限定されない。こうした下流事象には、MINORおよび/またはTR3による影響を受ける蛋白質または酵素の刺激または阻害が挙げられるが、これらに限定されない。これらの蛋白質または酵素は、MINORおよび/もしくはTR3経路の生物学的応答の媒介、またはMINORおよび/もしくはTR3経路の生物学的応答に対する拮抗/ダウンレギュレーションに関与する。上のいずれもが、少なくとも一つの活性成分を含む医薬組成物または生物工学製品の投与によって、またはMINORおよび/もしくはTR3遺伝子またはこうした遺伝子の発現産物の人工的な誘導によって達成することができる。
【0018】
一つの実施態様において、本開示の教示は、こうした治療が必要な患者におけるインスリン抵抗性の治療を提供する。治療の方法は、こうした治療が必要な被験者を特定する段階、ならびにMINORおよび/またはTR3遺伝子経路を活性化する段階を含む。一つの実施態様において、前記活性化は、MIONRおよび/またはTR3遺伝子の発現を増加させることによって達成される。一つの実施態様において、こうした発現増加は、MINORおよび/もしくはTR3経路を活性化することができる化合物、またはMINORおよび/もしくはTR3経路を活性化することができる少なくとも一つの活性成分を含有する医薬組成物を投与することによって達成される。代替実施態様において、こうした発現増加は、MINORおよび/またはTR3遺伝子の少なくとも一部を前記被験者の組織(例えば、限定ではないが、骨格筋または脂肪組織)に導入することによって達成することができる。こうした活性化は、この結果として、前記被験者においてインスリン抵抗性を治療することとなろう。こうした治療は、インスリン応答性組織におけるグルコース取り込みの増加、インスリン応答性組織におけるインスリン感受性の増大、または前述の組合せを含むことができる。他のメカニズムがこうした治療に関与することもある。
【0019】
代替実施態様において、本開示の教示は、こうした予防が必要な患者におけるインスリン抵抗性の予防を提供する。予防の方法は、こうした予防が必要な被験者を特定する段階、ならびにMINORおよび/またはTR3遺伝子経路を活性化する段階を含む。一つの実施態様において、前記活性化は、MIONRおよび/またはTR3遺伝子の発現を増加させることによって達成される。一つの実施態様において、こうした発現増加は、MINORおよび/もしくはTR3経路を活性化することができる化合物、またはMINORおよび/もしくはTR3経路を活性化することができる少なくとも一つの活性成分を含有する医薬組成物を投与することによって達成される。代替実施態様において、こうした発現増加は、MINORおよび/またはTR3遺伝子の少なくとも一部を前記被験者の組織(例えば、限定ではないが、骨格筋または脂肪組織)に導入することによって達成することができる。こうした活性化は、この結果として、前記被験者においてインスリン抵抗性を予防することとなろう。こうした予防は、インスリン応答性組織におけるグルコース取り込みの増加、インスリン応答性組織におけるインスリン感受性の増大、または前述の組合せを含むことができる。他のメカニズムがこうした予防に関与することもある。
【0020】
本開示は、MINORおよび/またはTR3経路を活性化することによる、こうした治療が必要な被験者におけるインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態の治療も提供する。治療の方法は、こうした治療が必要な被験者を特定する段階、ならびにMINORおよび/またはTR3遺伝子経路を活性化する段階を含む。一つの実施態様において、前記活性化は、MIONRおよび/またはTR3遺伝子の発現を増加させることによって達成される。一つの実施態様において、こうした発現増加は、MINORおよび/もしくはTR3経路を活性化することができる化合物、またはMINORおよび/もしくはTR3経路を活性化することができる少なくとも一つの活性成分を含有する医薬組成物を投与することによって達成される。代替実施態様において、こうした発現増加は、MINORおよび/またはTR3遺伝子の少なくとも一部を前記被験者の組織(例えば、限定ではないが、骨格筋または脂肪組織)に導入することによって達成することができる。こうした活性化は、この結果として、前記被験者における疾病状態または容態の少なくとも一つの側面を治療することとなろう。こうした治療は、インスリン応答性組織におけるグルコース取り込みの増加、インスリン応答性組織におけるインスリン感受性の増大、または前述の組合せを含むことができる。他のメカニズムがこうした治療に関与することもある。
【0021】
本開示は、MINORおよび/またはTR3経路を活性化することによる、こうした治療が必要な被験者におけるインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態の予防も提供する。予防の方法は、こうした予防が必要な被験者を特定する段階、ならびにMINORおよび/またはTR3遺伝子経路を活性化する段階を含む。一つの実施態様において、前記活性化は、MIONRおよび/またはTR3遺伝子の発現を増加させることによって達成される。一つの実施態様において、こうした活性化は、MINORおよび/もしくはTR3経路を活性化することができる化合物、またはMINORおよび/もしくはTR3経路を活性化することができる少なくとも一つの活性成分を含有する医薬組成物を投与することによって達成される。代替実施態様において、こうした発現増加は、MINORおよび/またはTR3遺伝子の少なくとも一部を前記被験者の組織(例えば、限定ではないが、骨格筋または脂肪組織)に導入することによって達成することができる。こうした活性化は、この結果として、前記被験者における疾病状態または容態の少なくとも一つの側面を予防することとなろう。こうした予防は、インスリン応答性組織におけるグルコース取り込みの増加、インスリン応答性組織におけるインスリン感受性の増大、または前述の組合せを含むことができる。他のメカニズムがこうした予防に関与することもある。
【0022】
本明細書において論じる治療および予防方法は、MINORおよび/またはTR3経路を活性化する化合物または医薬組成物と併せて一つまたはそれ以上の追加の治療薬をさらに投与することも含むことができる。一つの実施態様において、前記一つまたはそれ以上の追加の治療薬は、メトホルミン、スルホリル尿素またはインスリンを含む。
【0023】
さらに、本開示の教示を用いて、MINORおよび/またはTR3経路を活性化する化合物を特定することができる。こうして特定された化合物は、上で説明した治療および/または予防に有用である。こうした化合物は、小分子製剤、ペプチド、生物工学製品、様々な非コーディングRNA、アンチセンス分子および抗体であり得る。こうした化合物を特定するための方法またはアッセイは、MINORおよび/またはTR3遺伝子の少なくとも一部を発現する細胞系統を生じさせること、前記細胞を候補化合物ともにインキュベートすること、ならびに前記候補化合物に対する応答を測定することを含む。こうした応答は、当該技術分野において現在知られている分析技法を使用して測定することができるいずれの応答であってもよい。具体例としての応答には、MINORおよび/もしくはTR3遺伝子発現レベルの増大、MINORおよび/もしくはTR3遺伝子産物によりコードされたポリペプチドのレベルもしくは活性の増大またはMINORおよび/もしくはTR3遺伝子、またはこれらのポリペプチド産物によって媒介される機能的応答、例えば、グルコース取り込み増加、グルコース調節に関与する輸送担体(限定ではないが、GLUT4輸送担体など)の発現増加、グルコース調節に関与する輸送担体(限定ではないが、GLUT4輸送担体など)の細胞膜へのトランスロケーション増加、またはMINORおよび/もしくはTR3活性化によって調節される下流シグナル変換経路の活性増大が挙げられるが、これらに限定されない。また、MINORおよび/またはTR3経路において活性化される下流成分を発現する細胞系統を生じさせ、上で論じたような特定方法において使用してもよい。加えて、上で論じた判断基準のいずれかに関して、測定された前記候補化合物に対する応答を低減することができる。
【0024】
代替実施態様では、本開示の教示を使用して、発現MINORポリペプチド、発現TR3ポリペプチドまたはいずれかのポリペプチドの断片に結合する化合物を特定することができる。この結合は、直接的であってもよいし、間接的であってもよい。直接結合とは、化合物が、媒介蛋白質の介入なしに、直接、MINORおよび/またはTR3ポリペプチドに結合することを意味する。間接結合とは、化合物が、媒介ポリペプチドもしくは構造を経てMINORおよび/もしくはTR3に結合すること、または化合物が、MINORおよび/もしくはTR3を含む多蛋白質複合体に結合することを意味する。従って、同定された化合物は、上で説明した治療および/または予防方法に有用であり得る。こうした化合物は、小分子製剤、ペプチド、生物工学製品、様々な非コーディングRNA、アンチセンス分子および抗体であり得る。こうした化合物を特定するための方法またはアッセイは、MINORおよび/またはTR3遺伝子の少なくとも一部を発現する細胞系統を生じさせること、前記細胞を候補化合物ともにインキュベートすること、ならびに前記候補化合物が前期細胞系統において発現されたにMINORおよび/またはTR3ポリペプチドに結合するかどうかの判定を評価することを含む。
【0025】
本発明の教示を利用して、MINORおよび/もしくはTR3遺伝子またはこれらの遺伝子の断片を、インスリン抵抗性またはインスリン抵抗性に関連した疾病状態もしくは容態に罹患しているか、罹患している疑いのある、従って、治療および/または予防の必要がある患者の体に所望の遺伝子を導入することによる遺伝子療法のために、使用することもできる。この後、この所望の遺伝子を発現させ、治療および/または予防を達成することができる。遺伝子またはこれらの断片を患者に導入するための多くの方法が存在する。例えば、遺伝子は、ベクターに導入することができ、および遺伝子またはこの断片が発現され、治療の可能性が実現するように患者に導入することができる。具体例としての導入方法には、ウイルスベクター(レトロウイルスを含む)およびリポソームが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、インビボ、エクスビボ、いずれで患者に導入してもよい。インビボ治療の場合、ベクターは、患者に、例えば非経口的に、簡単に注入することができ、遺伝子発現に適する標的細胞を見つけることができる。エクスビボ治療の場合、細胞をインビトロで成長させ、ウイルスで形質導入またはトランスフェクトし、コラーゲンマトリックスなどの担体に包埋し、この後、これを患者に、例えば皮下移植物として移植する。
【0026】
医薬組成物
記載した方法において使用するための化合物または医薬組成物は、当該技術分野において公知のいずれの方法によって調合してもよい。本化合物および医薬組成物を調製するための一定の具体例としての方法を本明細書に記載するが、限定例と見なすべきではない。さらに、本化合物または医薬組成物は、当該技術分野において周知のごとく被験者に投与することができ、健康管理を行う人によって決定される。一定の投与方式を本明細書に提供するが、限定例と見なすべきではない。さらに、本明細書に記載する方法では、本化合物または医薬組成物を他の薬剤とともに投与することができる。こうした他の薬剤は、例えば、開示する化合物の分解もしくは不活性化を制限することまたは開示する化合物の吸収もしくは活性を増大させることなどにより、開示する化合物の活性を増大させることができる。
【0027】
記載した化合物および医薬組成物は、開示する化合物を活性成分として含有する医薬製剤の形態で、例えば、エーロゾル、半固体または液体形態で、使用することができる。加えて、本医薬組成物は、適切な医薬適合性担体との混合物で使用することができる。こうした医薬適合性担体には、医薬適用に適する有機または無機担体、賦形剤または希釈剤が挙げられるが、これらに限定されない。錠剤、ペレット、カプセル、吸入剤、座剤、溶液、乳剤、懸濁液、エーロゾルおよび使用に適する他のあらゆる形態については、常用の非毒性で医薬適合性の担体、賦形剤または希釈剤と活性成分を配合することができる。医薬組成物に使用するための医薬適合性担体は、医薬分野では周知であり、例えば、(非特許文献1)に記載されている。こうした材料は、利用される投与量および濃度で受容者に対して非毒性であり、こうした材料には、水、タルク、アラビアゴム、ゼラチン、三ケイ酸マグネシウム、ケラチン、コロイドシリカ、尿素、緩衝液(例えばリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩および他の有機酸塩)、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸)、低分子量(残基数約10未満の)ペプチド(例えばポリアルギニン)、蛋白質、(例えば血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン)、親水性ポリマー(例えばポリビニルピロリドン)、アミノ酸(例えばグリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸またはアルギニン)、単糖類、二糖類および他の炭水化物(セルロースもしくはこの誘導体、ラクトース、マンニトール、グルコース、マンノース、デキストリン、バレイショもしくはトウモロコシデンプンまたはデンプンペーストを含む)、キレート剤(例えばEDTA)、糖アルコール(例えばマンニトールまたはソルビトール)、対イオン(例えばナトリウム)および/または非イオン性界面活性剤(例えばTween、Pluronicsまたはポリエチレングリコール)が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、本医薬組成物は、味覚向上剤、安定剤、増粘剤、着色剤および香料などの(しかし、これらに限定されない)補助剤を含むことができる。
【0028】
医薬組成物は、所望の純度を有する本開示の化合物を医薬分野では周知であるような生理学的に許容される担体、賦形剤、安定剤、補助剤などと混合することによって、保管用または投与用に調製することができる。こうした医薬組成物は、持続放出性または持効性調合物で提供することができる。
【0029】
本医薬組成物は、固体剤形、例えばカプセル、錠剤および粉末で、または液体剤形、例えばエリキシル、シロップおよび懸濁液で経口投与することができる。滅菌液体剤形で非経口投与することもできる。さらに、医薬組成物は、固体、液体もしくはエーロゾル形態による経粘膜送達により非経口投与することができ、またはパッチ装置または軟膏により経皮投与することができる。経粘膜投与の様々なタイプとしては、気道粘膜投与、鼻粘膜投与、経口経粘膜(例えば舌下および口腔内)投与、および直腸内経粘膜投与が挙げられる。
【0030】
錠剤またはカプセルなどの(しかし、これらに限定されない)固体組成物の調製については、医薬組成物を適切な医薬適合性担体、例えば従来どおりの錠剤形成性分(ラクトース、スクロース、マンニトール、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、アルギン酸、微結晶性セルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ゴム、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ソルビトール、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、リン酸二カルシウム、他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、崩壊剤、湿潤剤、保存薬、着香剤および生理学的適合性担体)および希釈剤(水、食塩水または緩衝溶液が挙げられるが、これらに限定されない)と混合して、実質的に均一な組成物を作ることができる。この実質的に均一な組成物とは、成分(本明細書に記載の化合物および医薬適合性担体)が、この組成物全体にわたって均等に分散されていて、この組成物を錠剤、ピルおよびカプセルなどの等しく有効な単位剤形に容易に小分けすることができることを意味する。記載した固体組成物は、被覆するか別様に配合して、持続作用の利点をもたらす剤形を生じさせることができる。例えば、錠剤またはピルは、内部投与成分および外部投与成分を含むことができ、後者は、前者を覆う外皮の形態である。胃での消化を阻止するために役立ち、内部成分は胃を通過させるか、放出を遅らせる腸溶性層によって、これら二成分を分離することができる。様々な材料をこうした腸溶性層またはコーティングに使用することができ、こうした材料には、多数の高分子酸、および高分子酸とセラック、セチルアルコールおよび酢酸セルロースなどの材料の混合物が挙げられる。活性化合物は、例えばカカオ脂または他のグリセリドなどの従来どおりの座剤用基剤を含有する、座剤または停留浣腸剤などの直腸内用組成物に調合することもできる。固体組成物は、例えば界面活性剤、滑沢剤および内部充填剤(ラクトース、スクロース、リン酸カルシウムおよびトウモロコシデンプンなど)を含有するカプセル、例えば外皮の堅いまたは柔らかいゼラチンタイプのカプセル、も含むことができる。
【0031】
鼻腔内投与、肺内投与または他の吸入方式による投与については、適する噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、窒素、プロパン、二酸化炭素または他の適するガス)を使用して、本医薬組成物をポンプ付きスプレー容器から溶液もしくは懸濁液の形態で、または加圧容器もしくはネブライザからエーロゾルスプレー押出物として、または乾燥粉末として、送達することができる。エーロゾルまたは粉末形式の場合、送達される化合物の量(用量)は、計量された量を送達するためのバルブを設けることによって測定することができる。
【0032】
液体形態は、経口投与、非経口投与または経粘膜投与することができる。液体投与に適する形態には、水溶液、安定的に着香されたシロップ、水性または油性懸濁液、および食用油、例えば綿実油、ごま油、ヤシ油または落花生油で着香された乳剤、ならびにエリキシルおよび同様の医薬用ビヒクルが挙げられる。水性懸濁液に適する分散または懸濁化剤には、合成天然ゴム(例えばトラガカントゴム、アラビアゴム)、アルジネート、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンまたはゼラチンが挙げられる。こうした液体製剤は、懸濁化剤(例えばソルビトールシロップ、メチルセルロースまたは水素化食用脂肪);乳化剤(例えばレシチンまたはアラビアゴム);非水系ビヒクル(例えば、扁桃油、油性エステルまたはエチルアルコール);保存薬(例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピルまたはソルビン酸);および人工または天然着色剤および/または甘味料などの医薬適合性の添加剤を用いる従来どおりの手段によって調製することができる。液体調合物は、医薬適合性の界面活性剤、懸濁化剤または乳化剤を添加した、またはしていない、水およびアルコール、例えばエタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、グリセリンおよびポリエチレンアルコールなどの希釈剤を含むことができる。口腔内または舌下投与については、組成物は、従来どおりの手法で調合された錠剤またはロゼンジの形態をとることができる。ロゼンジ形態は、着香剤、通常はスクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカントゴム中の活性成分、ならびにゼラチンおよびグリセリンなどの不活性基剤またはスクロースおよびアラビアゴム中の活性成分を含む香剤、ならびに活性成分に加えて当該技術分野では周知であるような担体を含有するゲルを含むことができる。
【0033】
開示する化合物は、(単独のものであろうと、医薬組成物中のものであろうと)、非経口投与用に調合することができる。非経口投与には、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経皮投与、クモ膜下投与、関節内投与、心臓内投与、球後投与および持続放出性移植物などの移植物による投与を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0034】
本医薬組成物は、アンプルおよびバイアルなどの1回分の用量または複数回分の用量用の密封容器に入れて提供することができ、注射には使用直前に滅菌液体賦形剤、例えば水を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管することができる。即時調合注射溶液および懸濁液は、滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。注射用組成物のために有効な医薬適合性担体の要件は、通常の当業者には公知である。(非特許文献2)参照。
【0035】
本医薬組成物は、医薬有効量で投与することができる。この医薬有効量は、勿論、個々の化合物の薬力学的特性ならびにこの投与方式および投与経路;被験者の年齢、健康状態および体重;疾病状態または容態の重症度および期;同時治療の種類;治療の頻度;ならびに所望の効果などの周知の因子に依存して変化するであろう。投与される化合物の全量も、投与の経路、タイミングおよび頻度、ならびに化合物の投与に随伴し得るあらゆる有害副作用および所望の生理学的効果の存在、性質および程度によって決定されるであろう。様々な容態または疾病状態、特に慢性の容態または疾病状態が、複数の投与を伴う長期治療を必要とし得ることは、当業者には理解されるであろう。
【実施例】
【0036】
MINORおよびTR3遺伝子は、インスリン抵抗性において差分発現される
インスリン作用の主標的組織は、骨格筋、脂肪組織および肝臓組織である。骨格筋は、インスリンによって媒介されるグルコース取り込みの主標的組織であり(グルコース取り込みの約95%を担っている)、インスリン抵抗性の発症位置である。骨格筋におけるグルコース取り込みの異常は、インスリン抵抗性の臨床症状発現の主誘因である。インスリン抵抗性についての分子的な基本原理は、充分にはわかっていないが、インスリンシグナル変換異常およびグルコース輸送担体蛋白質の異常細胞間移行を含むようである(5)。ヒトのインスリン抵抗性の原因である分子異常をよりよく理解するために、代謝によって定義した三つのサブグループのボランティアから骨格筋生検材料を入手した:(A)インスリン感受性、(B)インスリン抵抗性、および(C)2型糖尿病。各サブグループからの生検材料は、基底条件下および高インスリン血の三時間後の両方で得た。Affymetrix Hu95A遺伝子発現チップを利用するcDNAマイクロアレイ法を用いて(製造業者のインストラクションに従って行った)、これらの筋肉生検材料における差分遺伝子発現を評価した。ヒトの筋肉における遺伝子発現に対するインスリンの影響は、広範には研究されておらず、大部分の先行研究は、単一の遺伝子に、または限られた焦点で少数の遺伝子に集中していた(6−8)。
【0037】
本発明者らは、インスリン感受性の個体と比較したとき、2型糖尿病に罹患しているまたはしていない被験者におけるインスリン抵抗性は、骨格筋における差分遺伝子発現を随伴することを発見した。詳細には、転写因子をコードする100を超える遺伝子が、インスリンによって急性的に調節されること、および/または骨格筋において、三つの定義サブグループ間で差分発現されることを証明した。これらの転写因子の多くが、亜鉛フィンガーモチーフを発現した。表1は、MINOR[マイトジェン誘導性核内オーファン受容体(Mitogen−Inducible Nuclear Orphan Receptor)、ゲンバンクアクセッション番号:U12767;配列番号1は、MINOR遺伝子のヌクレオチド配列(CDSを指定する)を示し;配列番号2は、MINOR遺伝子によってコードされたペプチドのポリペプチド配列を示す]およびTR3[ゲンバンクアクセッション番号L13740;配列番号3は、TR3遺伝子のヌクレオチド配列(CDSを指定する)を示し、配列番号4は、TR3遺伝子によってコードされたペプチドのポリペプチド配列を示す]を含むこれらの遺伝子のうちの二つについてのデータ(すなわち、統計学的に有意な差分発現についてのp値)を示すものである。MINORおよびTR3は、両方とも、オーファン核内受容体のNGFI−Bファミリーに属する。
【0038】
MINOR(NOR−1、TECおよびCHNとしても知られており、核内受容体命名システムではNR4A3と呼ばれる)は、アポトーシスを受けるラット胚前脳ニューロンの一次培養物において誘導された蛋白質として、本来、同定されたオーファン核内受容体である(9)。このDNA結合ドメインの相同性分析により、NINORは、Nurr1(TINUR、NOTとしても知られており、核内受容体命名システムではNR4A2と呼ばれる)およびTR3(Nur77、NGFI−Bとしても知られており、核内受容体命名システムではNR4A1と呼ばれる)とともに、オーファン核内受容体のNGFI−Bファミリーのメンバーとして同定される。NGFI−B受容体は、ステロイド/甲状腺受容体スーパーファミリーのメンバーである。
【0039】
NGFI−Bファミリーの受容体の間のN末端トランス活性化ドメインおよびC末端「リガンド結合ドメイン」の相同性は、それぞれ、37から53%および53から77%である。リガンドが一切存在しない場合、MINOR、Nurr1およびTR3は、各々、ヌクレオチド配列AAAGGTCAを特徴とするNGFI−B依存性DNA要素に結合し、活性化することができる(10)。MINOR、Nurr1およびTR3は、二つの亜鉛フィンガーとAボックスと呼ばれるドメインから成るこれらのDNA結合ドメインにおいて97%を超える相同性を各々が共有している。しかし、レチン酸の存在下、MINORではなくTR3およびNurr1は、レチノイドX受容体とヘテロダイマーを形成し得、五つのヌクレオチドで区切られたダイレクトリピート(DR5)から成るDNA要素を調節する(11−13)。NGFI−B蛋白質は、種々の細胞タイプにおいて神経内分泌調節、神経分化、肝臓再生、細胞アポトーシスおよび細胞分裂刺激に関与する即初期遺伝子産物である(14−17)。
【0040】
組織特異的発現
MINORおよび/またはTR3の調節が、インスリン抵抗性において一定の役割を果たすかどうか判定するために、MINORおよびTR3遺伝子の組織特異的発現を検査した。ノーザンブロット分析を行って、脳、心臓、骨格筋、結腸、胸腺、脾臓、腎臓、肝臓、小腸、胎盤、肺および血液白血球におけるMINORおよびTR3遺伝子発現を検査した(図1)。ヒトの多数の組織のノーザンブロットをClontech(カリフォルニア州、パロアルト)から購入した。これらのレーンの各々が、指定のヒト組織からのmRNAを含有しており、膜にブロットした各RNAの量をβアクチンcDNA対照プローブで正規化した。MINOR遺伝子のハイブリダイゼーションを検出するためのプローブは、1.1kb cDNA断片であった(17)。結果は、MINORが、ヒト骨格筋および脂肪細胞(これらは、両方とも、古典的インスリン標的組織を含む)においてのみ高度に発現されることを示した。対照的に、TR3は、骨格筋および脂肪組織、ならびに多数の他の組織において発現された(データ表示なし)。
【0041】
MINORおよびTR3発現は、糖尿病ラットおよびマウスの骨格筋では低減される
MINORおよび/またはTR3遺伝子が、インスリン抵抗性および/または2型糖尿病において異常調節されるかどうかを判定するために、MINORおよびTR3遺伝子発現を幾つかの動物モデルにおいて分析した。ツッカー糖尿病肥満(Zicker diabetic fatty:ZDF)ラット、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ラット、db/dbマウス(レプチン受容体の欠損を発現するマウス)およびob/obマウス(脂肪細胞由来ホルモンレプチンの欠損を発現するマウス)は、インスリン抵抗性、糖尿病または肥満動物モデルとして充分に特性付けされている(18、20)。これらの糖尿病およびインスリン抵抗性ラットまたはマウスから骨格筋組織を入手し、均質化し、cDNA合成のためにmRNAを抽出した。このcDNAを定量リアルタイムPCRに使用して、MINORおよびTR3遺伝子の発現を測定した。
【0042】
骨格筋サンプルにおけるMINORおよびTR3遺伝子の発現は、インスリン抵抗性、糖尿病および肥満のこれら動物モデルでは、適切な対照動物と比較して、MINORおよびTR3遺伝子発現の低減を示した。図2Aは、MINORおよびTR3遺伝子発現が、STZおよびZDFラットモデルにおいて有意に低減されたことを示すものである。2Bおよび2Cは、ob/obおよびdb/dbマウスモデルについての同様の結果を示すものである。従って、二つの転写因子をコードするMINORおよびTR3遺伝子の発現低下は、動物モデルにおけるインスリン抵抗性、糖尿病および肥満と確実に関連している。この結果は、インスリン抵抗性および2型糖尿病ヒト被験者からの骨格筋生検材料で観察されたMINORおよびTR3遺伝子の発現低下と相関している(表1)。
【0043】
3T3−L1脂肪細胞におけるMINORおよびTR3の発現
上で説明したマイクロアレイ分析では、ヒト骨格筋においてインスリン刺激によりMINORおよびTR3遺伝子発現が強く誘発された(表1)ので、インスリン刺激に対するMINORおよびTR3遺伝子発現の応答をもう一つの主インスリン標的組織である脂肪細胞において試験した。完全分化3T3−L1脂肪細胞を、様々な時間、100nMのインスリンで処理した(0から8時間;0時間時点は、対照としての役割を果たし、インスリンを添加していない)。対照および処理した脂肪細胞を溶解し、cDNA合成のためにmRNAを抽出した。定量リアルタイムPCRを行って、MINORおよびTR3遺伝子の発現レベルを検出した。図3Aおよび3Bに示すように、インスリンは、完全分化脂肪細胞において、MINORおよびTR3遺伝子発現を刺激した(Nurr1遺伝子発現は刺激しなかった;データ表示なし)。図3Aは、脂肪細胞におけるMINOR遺伝子発現に対するインスリンの影響を示すものであり、および4時間の期間にわたって持続するMINOR遺伝子発現の急速な増加を示している。インスリンは、TR3遺伝子発現脂肪細胞も刺激したが、異なる一時的な応答で、TR3発現レベルは、処理の2時間後までにベースラインに戻った(図3B)。
【0044】
MINORおよびTR3遺伝子発現に対するインスリンの刺激効果は、PI−3−キナーゼ経路、p38MAP−K経路、およびプロテインキナーゼC(PKC)経路によるシグナル変換に依存した。特異的な化学的阻害剤の投与によりこれらの経路のいずれかを遮断すると、MINORまたはTR3遺伝子発現を刺激するインスリンの能力が低下した(図3C)。完全分化3T3−L1脂肪細胞を1時間、100nMのインスリンのみで、または100nMのインスリンに加えてLY294002(PI3−キナーゼ阻害剤、10nM)、SB203580(p38 MAPキナーゼ阻害剤、10nM)またはRo318220(プロテインキナーゼC阻害剤、50nM)で処理した。対照脂肪細胞には、インスリンも阻害剤も与えなかった。対照および処理した脂肪細胞を溶解し、cDNA合成のためにmRNAを抽出した。定量リアルタイムPCRを行って、MINORおよびTR3遺伝子の発現レベルを検出した。図3Cでわかるように、PI−3−キナーゼ経路、p38MAP−K経路またはプロテインキナーゼC(PKC)経路の阻害により、MINORおよびTR3遺伝子発現を刺激するインスリンの能力は阻害された。重要なこととして、これらの経路の各々が、GLUT4グルコース輸送担体の調節およびサイクリングを刺激するインスリンの能力に関係している。これらの結果は、MINORおよびTR3が、インスリン応答性遺伝子であり、インスリン作用の特異的標的(すなわち、脂肪細胞)において発現されることを示している。さらに、これらの結果は、インスリンに応答する遺伝子発現増加が、充分に特性付けされたインスリンシグナル変換カスケード阻害剤で、少なくとも一部は阻害されることを示している。
【0045】
チアゾリジンジオン(TZD)は、3T3−L1脂肪細胞においてMINORおよびTR3を誘発する
次に、チアゾリジンジオン類のインスリン感作薬の中の幾つかの薬物、すなわちトログリタゾンおよびピオグリタゾンの効果を、3T3−L1脂肪細胞におけるMINORおよびTR3遺伝子発現を誘発するこれらの能力について検査した。チアゾリジンジオン(TZD)およびチアゾリジンジオン様薬物は、インスリン抵抗性を改善することがわかっており、動物モデルおよび患者における糖尿病の治療薬として使用されている(22)。これらの薬物は、インスリンによる筋肉グルコース取り込みの刺激および肝臓グルコース生産の阻害を改善することにより、血漿グルコースを減少させ、付随して高インスリン血を低下させる。TZDおよびTZD様薬物の抗糖尿病作用は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARγ)、転写因子の核内受容体スーパーファミリー(24)のメンバー、の活性化に起因する(23)。PPARγのTZD作用薬は、グルコース排出に影響を及ぼし、これは、一般に、筋肉において発生すると考えられているが、PPARγは、この組織において非常に少量、発現される。MINORおよびTR3が、骨格筋において高度に発現されるという結果からして、TZDは、MINORおよびTR3遺伝子発現を刺激することができると推測するのが、妥当である。また、MINORおよびTR3の活性化は、PPARγの活性化後の結果に相当し、インスリン感作性TZD薬の効果の直媒介因子になる。TZDおよびTZD様薬のインスリン感作効果は、体重増加、浮腫、血管内容積拡大、貧血およびうっ血性心不全などの望ましくない副作用を同伴する。PPARγの活性化後の薬物作用は、TZDの望ましくない副作用を伴わずにインスリン感受性増大を招く可能性が残されている。
【0046】
完全分化3T3−L1脂肪細胞を10nMの指示チアゾリジンジオン(トログリタゾンまたはピオグリタゾン)で0から48時間処理した。対照細胞(0時間時点)には、ビヒクルのみを与えた。対照および処理した脂肪細胞を溶解し、cDNA合成のためにmRNAを抽出した。定量リアルタイムPCRを使用して、MINORの発現レベル(図4Aおよび4B)ならびにTR3(図4Cおよび4D)の発現レベルを測定した。図4AからDは、トログリタゾンおよびピオグリタゾンが、脂肪細胞におけるMINORおよびTR3遺伝子発現を刺激することを示している。これらの遺伝子の発現は、対照細胞では、これらの時間経過を通して影響を受けなかった。従って、MINORおよびTR3は、ヒトにおいてインスリン感受性を増大させるために使用されるチアゾリジンジオン薬によって誘発された。
【0047】
MINORは、3T3−L1脂肪細胞においてグルコース取り込みに対するインスリンの作用を増進する
MINOR遺伝子発現増加の生物学的または機能的効果を特定するために、組換えMINORレンチウイルスベクターを作成し、3T3−L1脂肪細胞系統を安定的に形質導入するために使用した。幾つかのMINORレンチウイルスベクターを作成した。使用したMINOR cDNA配列を、次のように呼ぶ:(i)MINOR、(ii)MINOR2、(iii)MINOR L1、(iv)MINOR L2、および(v)MINOR L3。これらの構築物は、次のとおりの完全長MINORコード配列を含有した:MINORについては、完全CDS;MINOR2については、CDSのヌクレオチド183から1971;MINOR L1、MINORL2およびMINORL3については、CDSのヌクレオチド100から1971(17)。各々の場合、融合cDNAを、V5エピトープタグの付加により作製し、ViraPower−CMVベクター(Invitrogen)にクローン化した。組換えレンチウイルスプラスミドおよび対照レンチウイルスLacZ遺伝子構築物をHEK293細胞にトランスフェクトして、組換えレンチウイルスを作製した。X−gal染色を行って、HEK293細胞トランスフェクションが成功したこと、および感染性ウイルス粒子が生産されたことを確認した。
【0048】
MINORまたはLacZ遺伝子を過発現する安定な3T3−L1脂肪細胞系統を樹立するために、HEK293細胞から精製した組換えMINORまたはLacZレンチウイルス株を使用して、3T3−L1脂肪細胞を感染させた。形質導入の48時間後、これらの細胞を20日間、ブラストサイジン選択下(10μg/mL)に置いた。ウエスタンブロット分析による抗生物質選択後、安定な組換えMINORまたはLacZ遺伝子発現についての試験を行った。これらの実験によって、記載のMINOR遺伝子構築物またはLazZ遺伝子の発現が持続された多数のクローン脂肪細胞系統が生じた。
【0049】
グルコース取り込みは、グルコース取り込みおよび代謝を刺激するインスリンの能力における律速段階である。インスリンは、細胞表面における特異的グルコース輸送担体アイソフォーム、GLUT4の濃度を上昇させることによって標的細胞へのグルコース輸送を増加させる(5、21)。MINORが、GLUT4の調節に関与するならば、MINOR形質導入脂肪細胞は、グルコース輸送系の刺激に対するインスリン応答の増加を示すはずである。図5に示すように、完全分化脂肪細胞におけるグルコース取り込みを最大限に刺激するインスリンの能力は、対照LacZ過発現脂肪細胞と比較すると、MINOR過発現細胞では80%を超えて増大した(P<0.01)。これは、5つの安定的に形質導入されたMINOR発現細胞系統のすべてについて当てはまった。総用量応答曲線において、グルコース輸送応答は、グルコース輸送刺激についてのインスリンED50の変化を伴わずに、MINOR形質導入細胞における全インスリン濃度範囲にわたって著しく増した(データ表示なし)。
【0050】
図6Aから6Dは、MINOR遺伝子発現が、脂肪細胞の原形質膜にGLUT−4グルコース輸送担体を補充するインスリン刺激能力を増大させることを示している(配列番号5は、GLUT4遺伝子のヌクレオチド配列(CDSを指定する)を示し;配列番号6は、このGLUT4遺伝子によってコードされたペプチドのポリペプチド配列を示す)。これらの実験では、「原形質膜ローン(plasma membrane lawn)」法(26)を使用して、細胞表面原形質膜におけるGLUT4グルコース輸送担体蛋白質の相対量を定量した。MINOR遺伝子形質導入3T3−L1線維芽細胞および対照LacZ形質導入線維芽細胞をカバーガラスの上で成長させ、脂肪細胞に分化させた。これらの実験では、完全長MINOR構築物を使用した(MINORヌクレオチド183−1971および100−1971を含有するベクターについても同様の結果が得られた)。この後、脂肪細胞を、30分間、100nMのインスリンを用いて、または用いずに(基底)刺激した。この後、脂肪細胞を洗浄し、カバーガラスに付着した残留物および原形質膜のシートを超音波処理によって粉砕した。多クローン性抗GLUT4抗体およびFITC結合二次抗体を使用して、原形質膜会合GLUT4を検出した。
【0051】
対照(LacZでトランスフェクトした)脂肪細胞では、インスリン刺激が、原形質膜におけるGLUT4染色の増加をもたらし、これは、増加数の細胞内GLUT4輸送担体を細胞表面に補充するインスリンの公知能力と一致する。MINOR遺伝子を過発現する脂肪細胞では、原形質膜にGLUT4グルコース輸送担体を補充するインスリン刺激の能力は、対照LacZ発現脂肪細胞と比較して、明確に刺激される(図6Aおよび6Bを図6Cおよび6Dと比較)。従って、MINOR遺伝子発現は、血液からおよび組織へとグルコースを輸送するインスリン刺激の能力を媒介する正常な細胞プロセスを強化することによってインスリン刺激グルコース輸送を増加させる。
【0052】
実施例の考察
上記実施例は、MINORおよびTR3遺伝子が、インスリン応答性遺伝子であること、ならびにMINORおよびTR3遺伝子が、ヒトおよび充分に特性付けされた様々な動物モデルにおいてインスリン抵抗性および2型糖尿病の一機能として差分発現されることを実証している。さらに、本開示により、MINORおよびTR3が、インスリン感受性増大において一定の機能的役割を果たすことが証明される。具体的には、本実施例は、1)MINOR発現が、インスリン標的組織、筋肉および脂肪に限定される一方で、TR3は、これらの組織において発現されるとともに、よりいたるところでも発現されること;2)MINORおよびTR3遺伝子の発現が、インスリン抵抗性、2型糖尿病および肥満の齧歯動物モデルからの筋肉において一貫して減少すること;3)MINORおよびTR3が、3T3−L1脂肪細胞において、インスリン媒介シグナル変換に使用される代謝経路(PI3−キナーゼ、p38MAPおよびPKC)によるシグナル伝達により、インスリンによって誘発されること;4)MINORおよびTR3が、3T3−L1脂肪細胞においてチアゾリジンジオンインスリン感作薬によって誘発されること;5)レンチウイルスベクターが安定的に形質導入された脂肪細胞系統において、MINOR発現が、グルコース輸送の刺激に対するインスリンの感受性を著しく増大させること;および6)MINOR発現の増大が、インスリン応答性細胞タイプの細胞表面へのGLUT4グルコース輸送担体蛋白質の代謝増加の結果として、グルコース輸送の刺激増大を招くことを実証している。
【0053】
これらの結果は、インスリン抵抗性が、MINORおよびTR3遺伝子の発現減少と関連していることを実証している。さらに、本開示は、MINORおよびTR3遺伝子発現の刺激が、インスリンによって媒介される血液からのグルコースのクリアランスを増進することにより、インスリン抵抗性を著しく低下させ、これに応じてインスリン感受性を増加させることができることを実証している。
【0054】
従って、MINORおよびTR3は、インスリン抵抗性と戦うための魅力的な新規治療標的である。具体的には、小分子製剤による、遺伝子操作による、または他の手段によるMINORおよびTR3経路の活性化は、インスリン抵抗性またはインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態もしくは容態の治療への新しい有効なアプローチに相当する。さらに、MINORおよび/またはTR3経路によって媒介される下流シグナリング事象の活性化も、インスリン抵抗性またはインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態もしくは容態の治療への新しい有効なアプローチである。これらの疾病状態および容態には、代謝性症候群、前糖尿病、多嚢胞卵巣症候群、2型糖尿病、脂質代謝異常、肥満、不妊症、炎症性障害、癌、炎症性疾患、アルツハイマー病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患および抹消血管疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
開示したように、インスリン抵抗性ならびにインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態の治療および予防の新たな直接的治療標的の構成に加えて、MINORおよびTR3は、インスリン抵抗性ならびにインスリン抵抗性を特徴とする疾病状態および容態を治療するための新規治療薬のスクリーニングに利用することもできる。こうした新規治療薬には、MINORおよびTR3の合成または内在性リガンドが挙げられるが、これらに限定されない。同様に、MINORおよびTR3は、所望の治療効果を媒介する下流の分子事象を特定するための基準となり得る。例えば、MINORおよびTR3、または対応するコード化蛋白質と相互作用する因子、によって調節される遺伝子の探索により、新規薬物標的または治療アプローチを特定することができよう。MINORまたはTR3発現、これらの転写因子による遺伝子の調節、および関連した細胞作用の根底にある分子経路の理解を進めることは、治療介入の多数の新たな機会を示唆する可能性を秘めている。
【0056】
上述の説明は、本開示を例証し、説明するものである。加えて、本開示は、本化合物の一定の実施態様のみを示し、説明しているが、上で述べたように、本開示の教示は、様々な他の組合せ、変形および状況で使用することができ、本明細書に明示したような本発明の概念の範囲内で、上記教示および/または関連技術分はの技能または知識に見合った変更および変形を行うことができることは、理解されるであろう。さらに、本明細書において上で説明した実施態様は、わかっている最良の本発明の実施方式を説明するためのものであり、ならびに他の当業者が、こうしたまたは他の実施態様において、および本発明の特定の適用または使用に必要な様々な変形を行って、本発明を利用することができるようにするためのものである。従って、本明細書は、本明細書に開示する形に本発明を限定するためのものではない。本明細書において引用したすべての参照は、本開示物に完全に記載されているがごとく、参照により組込まれている。
【0057】
【表1】



【0058】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】ヒト組織におけるMINOR遺伝子発現を示す図である。ノーザンブロット分析を行って、ヒト組織におけるMINOR遺伝子発現を検査した。ヒトの多数の組織ノーザンブロットをClontech(カリフォルニア州、パロアルト)から購入し、製造業者のインストラクションに従って使用した。レーンの各々が、特定のヒト組織からのmRNAを含有しており、膜にブロットされた各RNAの量をβアクチンcDNA対照プローブで正規化した。MINOR遺伝子ハイブリダイゼーションシグナルを検出するためのプローブは、ヌクレオチド3874から4976に対応する1.1kb cDNA断片であった(17)。
【図2】糖尿病およびインスリン抵抗性ラットおよびマウスの骨格筋におけるMINORおよびTR3遺伝子発現を示す図である。糖尿病およびインスリン抵抗性ラットまたはマウスからの骨格筋組織を均質化し、cDNA合成のためにmRNAを抽出した。定量リアルタイムPCRを使用して、MINORおよびTR3遺伝子の発現を測定した。図2Aは、スtレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ラット(STZ Rat)とツッカー糖尿病肥満ラット(ZDF Rat)の間のMINORおよびTR3遺伝子発現の比較を示す図である。図2Bは、ob/obマウスと対照マウスの間のMINORおよびTR3遺伝子発現の比較を示す図である(ob/obは、脂肪細胞由来ホルモンレプチンの欠失を発現するインスリン抵抗性マウスモデルを表し、対照マウスは、この欠損がないマウスを示す)。図2Cは、db/dbマウスと対照マウスの間のMINORおよびTR3遺伝子発現の比較を示す図である(db/dbは、レプチン受容体の欠失を発現するインスリン抵抗性および糖尿病マウスモデルを表し、対照マウスは、この欠失がないマウスを示す)。結果は、すべて、3つ別個の実験からの平均±SEを意味する。
【図3】3T3−L1脂肪細胞におけるMINORおよびTR3遺伝子発現に対するインスリン刺激の効果を示す図である。図3Aおよび3Bは、インスリンが3T3−L1脂肪細胞においてMINORおよびTR3遺伝子発現を誘発することを示している。完全分化3T3−L1脂肪細胞を、100nMのインスリンで8時間以下、処理するか(被処理)、0nMのインスリンで処理した(0時間対照)。対照および処理した脂肪細胞を溶解し、cDNA合成のためにmRNAを抽出した。定量リアルタイムPCRを使用して、MINORの発現(図3A)およびTR3の発現(図3B)を測定した。結果は、3つ別個の実験からの平均±SEを意味する。図3Cは、様々なシグナル経路の阻害が、インスリン刺激によるMINORおよびTR3遺伝子発現を低下させることを示している。完全分化3T3−L1脂肪細胞を、100nMのインスリンのみで(対照)、またはこれに加えてLY294002(PI−3−キナーゼ阻害剤)、SB203580(p38 MAPキナーゼ阻害剤)、Ro318220(プロテインキナーゼC阻害剤)で、1時間、処理した。対照および処理した脂肪細胞を溶解し、cDNA合成のためにmRNAを抽出した。定量リアルタイムPCRを行って、MINORおよびTR3遺伝子の発現レベルを検出した。結果は、3つ別個の実験からの平均±SEを意味する。
【図4】3T3−L1脂肪細胞において、チアゾリジンジオン(TZD)が、MINORおよびTR3遺伝子発現を刺激することを示す図である。完全分化3T3−L1脂肪細胞を10nMの指示チアゾリジンジオン(トログリタゾンまたはピオグリタゾン)で、0から48時間、処理した。対照細胞には、ビヒクルのみを与えた。対照および処理した脂肪細胞を溶解し、cDNA合成のためにmRNAを抽出した。定量リアルタイムPCRを使用して、MINOR遺伝子の発現レベル(図4Aおよび4B)ならびにTR3遺伝子の発現レベル(図4Cおよび4D)を測定した。結果は、3つ別個の実験からの平均±SEを意味する。
【図5】MINORがインスリン応答性グルコース輸送を増進することを示す図である。完全分化脂肪細胞、LacZを過発現している対照脂肪細胞系統(LacZ18)、および5つの異なるMINOR過発現細胞系統(Minor;Minor2;MinorL1;MinorL2およびMinorL3)をインスリン不在下(基底)およびインスリン(100nM)の存在下、37℃で30分間インキュベートした。この後、2−デオキシグルコース輸送の測定を行った(25)。結果は、3つ別個の実験からの平均±SEを意味し;インスリンで刺激した対照とインスリンで刺激したMINOR過発現細胞とを比較するために、p<0.01。
【図6】インスリンによって媒介されるGLUT4グルコース輸送担体の原形質膜への補充に対するMINOR遺伝子発現の影響を示す図である。MINOR遺伝子形質導入3T3−L1線維芽細胞および対照LacZ形質導入線維芽細胞をカバーガラス上で成長させ、脂肪細胞に分化させた。この後、脂肪細胞を、30分間、100nMのインスリンを用いて刺激するか(被インスリン刺激)、用いずに刺激した(基底)。この後、脂肪細胞を洗浄し、カバーガラスに付着した残留物および原形質膜のシートを超音波処理によって分裂させた(原形質膜ローンアッセイ)(26)。多クローン性抗GLUT4抗体およびFITC結合二次抗体を使用して、原形質膜会合GLUT4を検出した。(A)基底LacZ発現脂肪細胞;(B)インスリンで刺激したLacZ発現脂肪細胞;(C)基底Minor発現脂肪細胞;(D)インスリンで刺激したMinor発現脂肪細胞。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者におけるインスリン抵抗性を治療または予防するための方法であって、前記治療または予防が必要な被験者を特定すること、MINOR、TR3ならびにMINORおよびTR3から成る群より選択されるインスリン応答性遺伝子を活性化することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記活性化が、前記インスリン応答性遺伝子を活性化する化合物を投与することによって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記活性化が、前記インスリン応答性遺伝子の少なくとも断片を、前記インスリン応答性遺伝子の発現が増加するように、前記被験者の組織に導入することによって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織が、骨格筋または脂肪組織である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも一つの第二の治療薬を前記被験者に投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第二治療薬が、メトホルミン、スルホリル尿素およびインスリンから成る群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
被験者におけるインスリン抵抗性関連疾病状態を治療または予防するための方法であって、前記治療または予防が必要な被験者を特定すること、MINOR、TR3ならびにMINORおよびTR3から成る群より選択されるインスリン応答性遺伝子を活性化することを含む、前記方法。
【請求項8】
前記活性化が、前記インスリン応答性遺伝子を活性化する化合物を投与することによって達成される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記活性化が、前記インスリン応答性遺伝子の少なくとも断片を、前記インスリン応答性遺伝子の発現が増加するように、前記被験者の組織に導入することによって達成される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記組織が、骨格筋または脂肪組織である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも一つの第二の治療薬を前記被験者に投与することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記第二治療薬が、メトホルミン、スルホリル尿素およびインスリンから成る群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記インスリン抵抗性関連疾病状態が、代謝性症候群、前糖尿病、多嚢胞卵巣症候群、2型糖尿病、脂質代謝異常、肥満、不妊症、炎症性障害、癌、炎症性疾患、アルツハイマー病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患および抹消血管疾患から成る群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
インスリン応答遺伝子を活性化する化合物を特定するための方法であって、
a.MINOR、TR3ならびにMINORおよびTR3から成る群より選択される前記インスリン応答性遺伝子の少なくとも一部を発現する細胞を生じさせる段階;
b.前記細胞を前記化合物とともにインキュベートする段階;および
c.前記化合物に対する応答を測定する段階
を含む、前記方法。
【請求項15】
前記応答が、MINORまたはTR3のうちの少なくとも一方の発現の増加である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記応答が、前記インスリン応答性遺伝子によりコードされたポリペプチドの発現の増加、前記インスリン応答性遺伝子によりコードされたポリペプチドの活性の増大、前記インスリン応答性遺伝子によって媒介される機能的応答から成る群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記機能的応答が、グルコース取り込み増加、グルコース調節に関与する輸送担体の発現増加、グルコース調節に関与する輸送担体の細胞膜へのトランスロケーション増加、および前記インスリン応答性遺伝子によって調節される下流シグナル変換経路の活性増大から成る群より選択される応答のうちの少なくとも一つである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記輸送担体が、GLUT4輸送担体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
化合物が、MINOR、TR3ならびにMINORおよびTR3から成る群より選択される遺伝子のポリペプチド産物と相互作用するかどうかを判定する段階を含む、インスリン抵抗性の治療または予防に有用な化合物を特定するための方法。
【請求項20】
前記相互作用が、直接的相互作用または間接的相互作用である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
インスリン抵抗性を治療または予防するための方法であって、前記治療または予防が必要な被験者に請求項19に記載の方法によって特定された化合物の治療有効量を投与することを含む、前記方法。
【請求項22】
化合物が、MINOR、TR3ならびにMINORおよびTR3から成る群より選択される遺伝子を活性化するかどうかを判定する段階を含む、インスリン抵抗性の治療または予防に有用な化合物を特定するための方法。
【請求項23】
インスリン抵抗性を治療または予防するための方法であって、前記治療または予防が必要な被験者に請求項22に記載の方法によって特定された化合物の治療有効量を投与することを含む、前記方法。
【請求項24】
化合物が、MINOR、TR3ならびにMINORおよびTR3から成る群より選択される遺伝子のポリペプチド産物と相互作用するかどうかを判定する段階を含む、インスリン抵抗性関連疾病状態の治療または予防に有用な化合物を特定するための方法。
【請求項25】
前記相互作用が、直接的相互作用または間接的相互作用である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記インスリン抵抗性関連疾病状態が、代謝性症候群、前糖尿病、多嚢胞卵巣症候群、2型糖尿病、脂質代謝異常、肥満、不妊症、炎症性障害、癌、炎症性疾患、アルツハイマー病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患および抹消血管疾患から成る群より選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
インスリン抵抗性関連疾病状態を治療または予防するための方法であって、前記治療または予防が必要な被験者に、請求項24に記載の方法によって特定された化合物の治療有効量を投与することを含む、前記方法。
【請求項28】
前記インスリン抵抗性関連疾病状態が、代謝性症候群、前糖尿病、多嚢胞卵巣症候群、2型糖尿病、脂質代謝異常、肥満、不妊症、炎症性障害、癌、炎症性疾患、アルツハイマー病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患および抹消血管疾患から成る群より選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
化合物が、MINOR、TR3ならびにMINORおよびTR3から成る群より選択される遺伝子を活性化するかどうかを判定する段階を含む、インスリン抵抗性関連疾病状態の治療または予防に有用な化合物を特定するための方法。
【請求項30】
前記インスリン抵抗性関連疾病状態が、代謝性症候群、前糖尿病、多嚢胞卵巣症候群、2型糖尿病、脂質代謝異常、肥満、不妊症、炎症性障害、癌、炎症性疾患、アルツハイマー病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患および抹消血管疾患から成る群より選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
インスリン抵抗性関連疾病状態を治療または予防するための方法であって、前記治療または予防が必要な被験者に、請求項29に記載の方法によって特定された化合物の治療有効量を投与することを含む、前記方法。
【請求項32】
前記インスリン抵抗性関連疾病状態が、代謝性症候群、前糖尿病、多嚢胞卵巣症候群、2型糖尿病、脂質代謝異常、肥満、不妊症、炎症性障害、癌、炎症性疾患、アルツハイマー病、高血圧、アテローム性動脈硬化症、心血管疾患および抹消血管疾患から成る群より選択される、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−290885(P2006−290885A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−82723(P2006−82723)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(505320791)ザ・ユー・エイ・ビー・リサーチ・フアンデーシヨン (5)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】