インドールおよび関連化合物から成るホスホリパーゼ−A2阻害薬を用いた、食事関連疾患の治療
本発明は、ホスホリパーゼ関連疾患の治療のための方法と製薬組成を提示する。特に、本発明は、被験動物のインスリン関連疾患や体重関連疾患、コレステロール関連疾患を治療する方法を提示する。この方法には一般に、ホスホリパーゼA2 阻害薬の投与が含まれ、このホスホリパーゼA2 阻害薬は、例えばインドール含有化合物などの、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物から成る。本発明により治療される疾患としては、例えば、肥満、糖尿病(2型糖尿病など)、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、これらの組合せがある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連申請)
この特許申請は、共同所有・共同申請の米国特許申請Serial No. 10/838,879 (“Phospholipase Inhibitors Localized in the Gastrointestinal Lumen”、2004年5月3日、Hui et al.により申請) に優先する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ホスホリパーゼは、膜の流動性・安定性の調節、リン脂質の消化・代謝、および炎症経路や血行調整その他の細胞プロセスに関連する細胞内メッセンジャーの生成など、さまざまな生化学的プロセスに重要な役割を果たす酵素群である。ホスホリパーゼは、選択的リン酸化、pH、細胞内カルシウム濃度などの、さまざまなメカニズムによって自己調節が行われている。ホスホリパーゼの活性を調整することによって、関連する生化学プロセスを調節するようにすることができ、この目的でこれまでに数多くのホスホリパーゼ阻害薬が開発されている。
【0003】
この分野では、数多くのホスホリパーゼ-A2 (PL A2または PL A2) 阻害薬が知られている。PL A2 阻害薬には例えば、小分子阻害薬やリン脂質類似体、遷移状態類似体化合物などがある。これら小分子阻害薬は、例えば、炎症状態に関連する適応のために開発されたものが多い。知られているホスホリパーゼ-A2としては次のような例があり、この他にもあり得る:アルキノイル安息香酸、チオフェンカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸(例:特許文献1を参照)、カルボン酸アミド誘導体 (例:特許文献2を参照)、アミノ酸エステルおよびアミド誘導体 (例:特許文献3を参照)、アミノテトラゾール(例:特許文献4を参照)、アリルオキシアシルチアゾール (例:特許文献5を参照)、アゼチジノン (例:特許文献6を参照)、ベンゼンスルホン酸誘導体 (例:特許文献7を参照)、安息香酸誘導体(例:特許文献8を参照)、ベンゾチオフェン (例:特許文献9を参照)、ベンジルアルコール (例:特許文献10を参照)、ベンジルフェニルピリミジン (例:特許文献11を参照)、ベンジルアミン(例:特許文献12を参照)、シナモン酸化合物 (例:特許文献13を参照)、シナモン酸誘導体 (例:特許文献14を参照)、シクロヘプタインドール (例:特許文献15を参照)、エタンアミンベンゼン、イミダゾリジノン、チアゾールジノン、ピロリジノン(例:特許文献16を参照)、インドールグリオキサミド (例:特許文献17を参照)、インドールグリオキサミド (例:特許文献18を参照)、インドール (例:特許文献19および 特許文献20を参照)、インドリ (例:特許文献21を参照)、インドリ含有スルホンアミド、N-シル-N-シナモニルエチレンジアミン誘導体 (例:特許文献22を参照)、ナフィルアセトアミド(例:特許文献23を参照)、N-置換グリシン (例:特許文献24を参照)、リン脂質Phosopholipid誘導体 (例:特許文献25および特許文献26を参照)、ピペラジン(例:特許文献27を参照)、ピリドンおよびピリミドン (例:特許文献28を参照)、6-カルバモイルピコリン酸誘導体 (例:特許文献29を参照)、ステロイド、およびアミノ含有側鎖をもつ、ステロイドの環状炭化水素類似体(例:特許文献30を参照)、トリフルオロブタノン (例:特許文献31および特許文献32を参照)、アビエチン酸誘導体 (例:特許文献33を参照)、ベンジルホスフィン酸エステル(例:特許文献34)。
【0004】
膵臓ホスホリパーゼA2 IB (PLA2 IB) は、リン脂質の消化・処理の役割を担っていると考えられている。例えばPLA2 IBは、ホスファチジルコリン(PC) を代謝により分解し、リソホスファチジルコリン (LPC) と遊離脂肪酸 (FFA) を反応生成物として生成する作用を有する酵素である。胆汁リン脂質が腸粘液内のコレステロール摂取を遅らせることと、PCの脂肪分解がコレステロール吸収のために必要な前準備であることが報告されている。(非特許文献1、非特許文献2)。さらに、ホスファチジルコリンがコレステロール吸収を遅らせるという事実は、ラットおよび人間に投与した研究でも明らかにされている。例えば、PLA2 IB がコレステロール・胆汁酸・トリグリセリドの混合ミセル中で行うPCの代謝は、コレステロールを腸細胞に吸収するための最初の段階であることが報告されている。(非特許文献3)。また、PLA2 IB活性は、リン脂質を含む小胞内における、膵臓リパーゼ/コリパーゼ媒介によるトリアシルグリセロール加水分解に必要であり、これも消化器官からのトリグリセリド吸収のために必要な前準備段階である。(非特許文献4)。PLA2 IB阻害薬は、ラットを用いたリンパ瘻の実験で、コレステロール吸収を低下させることが示されている。(非特許文献5)。
【0005】
また最近、遺伝子操作によりPLA2欠損 (PLA2 (-/-) マウス、またここではPLA2ノックアウトマウスとも呼ぶ) を用いた研究では、PLA2 (-/-) マウスに通常の食餌を与えたところ、そのコレステロール吸収効率と血漿中脂質濃度は野生型マウスPLA2(+/+) とほぼ同じであった。(非特許文献6)。同じ研究で、PLA2 (-/-) 群では、膵臓PLA2活性がないにもかかわらず腸内PCが完全に加水分解されていたことも示された。この研究により、ホスホリパーゼ活性を有する1つまたは複数の他の酵素が、PLA2活性を補償し、リン脂質に触媒として作用しコレステロール吸収を促進していることが示された。この観察結果より、コレステロール吸収を鈍らせるためにこれまで投与されていたPLA2阻害薬(例えばHomanらの特許文献35参照) は、おそらくPLA2に対して非選択的 (非特異性) であることが予想される。すなわち、これらの阻害薬は明らかに、PLA2以外のホスホリパーゼ(例えばホスホリパーゼB) も阻害し、これら他の酵素がPLA2活性の欠乏を補おうとするのを阻んでいる。したがって、PLA2を阻害することは、コレステロール吸収の低下に必要ではあるが、通常の食餌を与えたマウスにおいてコレステロール吸収を低下させるにはこれだけでは充分ではないと結論づけられる。
【0006】
さらに、PLA2ノックアウトマウスを用いた別の研究では、高脂肪・高コレステロール食餌を与えられたマウスにおいて、食餌による肥満と肥満によるインスリン抵抗性に対し、有益な影響があったことが報告されている。(非特許文献6). 特に、野生型マウスとPLA2 (-/-) マウスを正常な食餌で管理した場合、体重増加には差が見られなかったことは、過去の研究報告 (非特許文献7) とも合致している。しかしながら、高脂肪・高コレステロール食餌を投与した場合、野生型PLA2(+/+) マウスと比べると、PLA2 (-/-) マウスには、次のような結果が生じたことが報告されている: 16週間で体重増加が減少し、一方野生型マウスでは脂肪が増加したため、体重の差が観察された;空腹時の血漿中レプチン濃度がかなり低下した; グルコース負荷耐性が向上した; 高脂肪食餌によって起きるインスリン抵抗性に対する防御力が向上した。しかしながら、高脂肪・高コレステロール食餌を投与した野生型PLA2(+/+) マウスとPLA2 (-/-) マウスにおいて、血漿中の遊離脂肪酸、コレステロール、トリグリセリド濃度については、明らかな差は見られなかった。PLA2(-/-) マウスでは便に含まれる脂肪量が増加していることが明らかになっているが、明白な脂肪便を起こしているわけではなく、脂肪吸収がやや減少しただけであることが示されている。
【0007】
米国で糖尿病を患う人は1820万人にのぼり、人口の6%以上を占めている。糖尿病とは、インスリンの生成または適切な利用ができなくなっている疾患である。2型糖尿病(別名・非インスリン依存性糖尿病、NIDDM) は糖尿病と診断された患者の80〜90%を占め、インスリン抵抗性により起こる。2型糖尿病におけるインスリン抵抗性とは、血漿中のインスリン濃度が正常〜高値であるにもかかわらず、血中グルコース濃度を好ましい範囲に保つことができない状態である。
【0008】
肥満は、2型糖尿病の主要因のひとつであり、冠状血管心疾患、骨関節症、呼吸障害、一部の癌など、さまざまな疾患の要因にもなっている。体重増加を抑制しようとするさまざまな試みにもかかわらず、米国をはじめとする先進諸国では、肥満が常に、深刻な健康問題のひとつである。実際、米国の成人の60%以上が体重超過であると見なされ、医学的に肥満とされる人は約22%にのぼる。
【0009】
食べ物も、非HDLコレステロールなどの血漿中のコレステロール値を上げる要因となり、他の脂質関連の疾患にも寄与する。この脂質関連の疾患は、一般に脂質代謝異常と呼ばれ、高コレステロール血症や高トリグリセリド血症などさまざまな徴候を含む。非HDLコレステロールは、アテローム発生およびその続発症、すなわち動脈硬化や冠状動脈疾患、心筋梗塞、虚血性脳卒中などの心臓病を含む心臓血管疾患と密接な関係がある。これらを合わせると、先進諸国において予防可能な疾患の中で筆頭に挙げられる。実際米国では1200万人が冠状動脈疾患を有しており、高コレステロールで治療が必要な人は約3600万人にのぼると見積られている。
【0010】
高コレステロール血症患者では、LDLコレステロールを低くすることが治療の主目的となる。ヒドロキシメチルグルタリル-コエンザイムA (HMG-CoA) 還元酵素阻害薬 (スタチン)が、血清中LDLコレステロール値を下げるのに使用されていることが報告されている。しかしながら、スタチン系薬剤の使用に関しては、肝不全や横紋筋融解 (筋肉の病変) など重篤で命に関わり得る副作用が報告されている。最近では、コレステロール阻害薬として、単独投与またはスタチンとの併用で、エゼチミブが使用されるようになった。高トリグリセリド血症の患者では、血清中の高トリグリセリド濃度を下げるためにフィブレート(ジェムフィブロジルなど) が使用されている。しかし、この薬を使用した患者の一部から消化器官の副作用が報告され、またスタチンとジェムフィブロジルを併用投与された一部患者で、明らかな筋炎が生じたことが報告されている。腎不全や肝不全、腎臓・肝臓機能障害は、ジェムフィブロジル投与が相対禁忌となる。これは、同薬の約60〜90%が腎臓で処理され、残ったものが肝臓で分解されると見られているためである。特に、高トリグリセリド血症は高コレステロール血症と深くリンクしている可能性がある。トリグリセリド濃度が400〜1000mg/dlの患者は、LDLコレステロールも10〜30%増加していることがある。高トリグリセリド血症でHDLコレステロールが低い患者に対しては、血清HDLコレステロールを高め、血清トリグリセリド濃度を低くするために、ニコチン酸が使用される。この主な副作用は、一部の患者に皮膚の紅潮が起こることである。(例えば一般には、非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10を参照)。
【特許文献1】米国特許第5,086,067号明細書
【特許文献2】国際公開第91/08737号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2002/008189号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,968,963号明細書
【特許文献5】国際公開第00/034254号パンフレット
【特許文献6】国際公開第97/02242号パンフレット
【特許文献7】米国特許第5,470,882号明細書
【特許文献8】特開平8−325154号公報
【特許文献9】国際公開第02/000641号パンフレット
【特許文献10】米国特許第5,124,334号明細書
【特許文献11】国際公開第00/027824号パンフレット
【特許文献12】米国特許第5,039,706号明細書
【特許文献13】特開平7−252187号公報
【特許文献14】米国特許第5,578,639号明細書
【特許文献15】国際公開第03/016277号パンフレット
【特許文献16】国際公開第03/031414号パンフレット
【特許文献17】米国特許5,654,326号明細書
【特許文献18】国際公開第99/56752号パンフレット
【特許文献19】米国特許第6,630,496号明細書
【特許文献20】国際公開第99/43672号パンフレット
【特許文献21】国際公開第00/3048122号パンフレット
【特許文献22】国際公開第96/03371号パンフレット
【特許文献23】欧州特許第77927号明細書
【特許文献24】米国特許第5,298,652号明細書
【特許文献25】米国特許第5,144,045号明細書
【特許文献26】米国特許第6,495,596号明細書
【特許文献27】国際公開第03/048139号パンフレット
【特許文献28】国際公開第03/086400号パンフレット
【特許文献29】特開平7−224038号公報
【特許文献30】国際公開第87/02367号パンフレット
【特許文献31】米国特許第6,350,892号明細書
【特許文献32】米国特許出願第2002/068722号明細書
【特許文献33】米国特許第4,948,813号明細書
【特許文献34】米国特許第5,504,073号明細書
【特許文献35】国際公開第96/01253号パンフレット
【非特許文献1】Rampone,A.J. and L.W.Long(1977).”The effect of phosphatidylcholine and lysophosphatidylcholine on the absorption and mucosal metabolism of oleic acid and cholesterol in vitro.”Biochim Biophys Acta 486(3):500−10.
【非特許文献2】Rampone,A.J. and C.M.Machida(1981).”Mode of action of lecithin in suppressing cholesterol absorption.”J Lipid Res 22(5):744−52
【非特許文献3】Mackay,K.,J.R.Starr,et al.(1997).”Phosphatidylcholine Hydrolysis Is Required for Pancreatic Cholesterol Esterase− and Phospholipase A2−facilitated Cholesterol Uptake into Intestinal Caco−2 Cells.”Journal of Biological Chemistry 272(20):13380−13389
【非特許文献4】Young,S.C.and D.Y.Hui(1999).”Pancreatic lipase/colipase−mediated triacylglycerol hydrolysis is required for cholesterol transport from lipid emulsions to intestinal cells.” Biochem J 339(Pt 3):615−20
【非特許文献5】Homan,R.and B.R.Krause(1997).”Established and emerging strategies for inhibition of cholesterol absorption.”Current Pharmaceutical Design 3(1):29−44
【非特許文献6】Huggins,Protection against diet−induced obesity and obesity−related insulin resistance in Group 1B−PL A2−deficient mice,Am.J.Physiol.Endocrinol.Metab.283:E994−E1001(2002)
【非特許文献7】Richmond,B.L.,A.C.Boileau,et al.(2001).”Compensatory phospholipid digestion is required for cholesterol absorption in pancreatic phospholipase A(2)−deficient mice.”Gastroenterology 120(5):1193−202
【非特許文献8】Knopp,RH:Drug treatment of lipid disorders,New England Journal of Medicine 341:7(1999)498
【非特許文献9】Pasternak,RC et al:ACC/AHA/NHLBI Clinical Advisory on the use and safety of statins, Circulation 106(2002)1024
【非特許文献10】Grundy,SM et al: Implications of recent clinical trials for the National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III Guidelines,Circulation 110(2004)227
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
糖尿病や肥満、コレステロール関連疾患 (一般的な脂質障害を含む) の罹患率が非常に高いにもかかわらず、これら疾患の治療には、副作用を減らすなどの改善アプローチが依然として必要とされている。ホスホリパーゼ阻害薬は、炎症関連適応ではさまざまなものについて数多くの評価研究が行われているが、肥満や糖尿病、コレステロール関連疾患の治療については、ホスホリパーゼA2阻害薬の効果を調べる研究はあまり行われていない。特にこの点において、ホスホリパーゼ-A2阻害薬と同程度の効果を有する特定の薬剤は、遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) 実験動物の有益な効果に近い、あるいは匹敵するような表現型効果を有するものは、これまで見出されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の概要)
本発明は、インスリン関連疾患 (糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患など、ホスホリパーゼに関連した疾患の治療に有益なホスホリパーゼ阻害薬から成る、方法、組成、薬剤、食品、キットを提示する。
【0013】
本発明の第1の面は、食事関連疾患のうち1つまたは複数の疾患を治療する方法に関連している。この食事関連疾患は、体重関連疾患、インスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、これらの組合せのうちいずれかであり、好ましくは例えば、肥満、糖尿病(2型糖尿病など)、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、これらの組合せがある。あるアプローチにおいて、この方法には、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) を効果的な用量投与することが含まれる。別のアプローチにおいて、この方法には、ホスホリパーゼ-A2 阻害薬(好ましくはホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬) の効果的な用量を被験者に投与することが含まれ、ここでこのホスホリパーゼ-A2阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物 (または薬学的に受容できるその塩) である。
【0014】
本発明の第2の面は、被験者における脂肪、グルコース、コレステロール(またはこれらの組合せ) の代謝を調製するための方法を示す。あるアプローチにおいて、この方法には、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物 (または薬学的に受容できるその塩)を効果的な用量投与することが含まれる。第2のアプローチにおいて、この方法には、ホスホリパーゼ-A2 阻害薬 (好ましくはホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬) の効果的な用量を被験者に投与することが含まれ、ここでこのホスホリパーゼ-A2 阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) である。
【0015】
本発明は、第3の面のあるアプローチにおいて、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) を薬剤として製造し、この製剤を用いて、体重関連疾患やインスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、これらの組合せ (好ましくは例えば、肥満、糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、これらの組合せなど)を治療することから成る方法に関連する。本発明のこの面の別のアプローチにおいて本発明は、ホスホリパーゼ-A2 阻害薬 (好ましくはホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬) を薬剤として製造し、この製剤を用いて、体重関連疾患やインスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、これらの組合せ (好ましくは例えば、肥満、糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、これらの組合せなど)を治療することから成る方法に関連する。ここでこのホスホリパーゼ-A2 は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物 (または薬学的に受容できるその塩)から成る。
【0016】
第4の面のあるアプローチにおいて、本発明は、食べられる食品と、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) とを含む食品製品組成に関連する。別のアプローチにおいて、本発明は、食べられる食品とホスホリパーゼ-A2阻害薬(好ましくはホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬) とを含む食品組成に関連し、ここでこのホスホリパーゼ-A2 阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) である。いくつかの実施例において、この食品はビタミンサプリメントとホスホリパーゼ-A2阻害薬から成る (あるいはこれらを主成分とする)ものにすることができる。
【0017】
前述の第1〜第4の面それぞれに関する実施例を含め、本発明の各実施例において一般に、ホスホリパーゼ-A2阻害薬は、五員環と六員環を融合したものから成る置換有機化合物 (または置換有機化合物部分を含む) から成り、この五員環または六員環の環構造内、または五員環と六員環それぞれの環構造内に1つまたは複数のヘテロ原子(例えば窒素や酸素) を含むものにし、この置換基によってこの化合物 (または化合物部分) のホスホリパーゼ-A2阻害機能が生じているものにすることができる。好ましい実施例において、ホスホリパーゼ-A2阻害薬またはその阻害機能部分は、置換インドール部分などのインドール含有部分(ここではインドール、インドール化合物、インドール部分とも言及される) を有するものにすることができる。特に好ましいインドール化合物および部分が、ここで記述される。これら実施例はそれぞれ、上記および以下に述べられている他の面や実施例と、さまざまな特定の組合せや順序で使用することができる。
【0018】
本発明の実施例全般において、上記の第1〜第4の面それぞれに関する実施例も含めて、ホスホリパーゼ-A2阻害薬には管腔集中機能を持たせることができる。例えば、ホスホリパーゼ-A2阻害薬には、阻害薬に管腔集中機能をもたらすような化学的・物理的性質を持たせることができる。このような実施例において好ましくは、ホスホリパーゼ阻害薬の約80%が消化管内に留まるような化学的または物理的性質を有し、さらに好ましくは、(それぞれ、被験者に阻害薬を投与後)ホスホリパーゼ阻害薬の少なくとも約90%が消化管内に留まるような化学的または物理的性質を有する。このような化学的・物理的性質は、例えば、オリゴマー部分やポリマー部分、疎水性部分、親水性部分、荷電部分、およびこれらの組合せのうち、少なくとも1つを有する阻害薬によって実現できる。これら実施例はそれぞれ、上記および以下に述べられている他の面や実施例と、さまざまな特定の組合せや順序で使用することができる。
【0019】
本発明の実施例全般において、上記の第1〜第4の面それぞれに関する実施例も含めて、ホスホリパーゼ-A2阻害薬は、五員環と六員環を融合したものから成る置換有機化合物から成る、または主成分とするものにすることができる。いくつかの実施例においてホスホリパーゼ阻害薬は、五員環と六員環を融合したものを有する置換有機化合物部分から成り、その部分は非吸収性または吸収不能部分、好ましくは非吸収性または吸収不能のオリゴマー部分またはポリマー部分に結合している(共有結合、直接的結合、または結合部分を介した間接的結合など)。これら実施例はそれぞれ、上記および以下に述べられている他の面や実施例と、さまざまな特定の組合せや順序で使用することができる。
【0020】
本発明の実施例全般において、上記の第1〜第4の面それぞれに関する実施例も含めて、ホスホリパーゼ-A2 阻害薬は、投与または摂取の後に顕著な脂肪便を引き起こさない。これら実施例はそれぞれ、上記および以下に述べられている他の面や実施例と、さまざまな特定の組合せや順序で使用することができる。
【0021】
上記には、本発明のさまざまな面を要約してさまざまな機能が記載されているが、これらについて下記に述べる詳細は、制限なく、本発明のさまざまな面それぞれについて使用することができる。本発明の他の機能、目的、利点については、一部はこの分野の技能をもつ者には明らかであり、一部はここにおいて指摘される。簡略仕様に記載されている参照文献は、あらゆる目的について参照によってここに組み込まれる。さらに、この分野の技能をもつ者には、ここに公開または申請されている内容に関する特許文献および非特許文献として、この内容についてさらに詳しい手順説明を提供する関連文献が数多く存在する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(発明の明細)
本発明は、ホスホリパーゼ阻害薬と、そのホスホリパーゼ阻害薬を構成する組成 (製薬組成、薬剤、食品を含む)、その製剤・薬剤・食品の製造方法、およびそれらをさまざまな病状の治療薬として使用する方法を提示する。本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、詳細を下記に示すように、インスリン関連疾患(糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患、およびこれらの組合せを含む、ホスホリパーゼに関連した数多くの疾患の治療において使用することができる。
【0023】
(概要)
本発明は、ある面において、ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬の効果的な用量を被験者に投与することによって、このような疾患を治療する方法から成る。ここでこのホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物である。本発明はまた別の面において、このホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬の効果的な量を投与することによって、被験者の脂肪やグルコース、コレステロールの代謝を調節する方法を検討する。本発明にはさらに別の面として、ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬を使用した方法を含む。ここで被験者の疾患 (体重関連疾患、インスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、およびこれらの組合せ) を治療するための製剤としてこの薬剤投与が指示され、またこのホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬は五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物から成る。本発明には、さらに別の面として、食べられる食品とホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬から成る食品組成が含まれ、好ましくは、このホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬が五員環と六員環を融合したものを有する置換有機化合物から成る。
【0024】
ゆえに、本発明のさまざまな面の好ましい実施例全般において、ホスホリパーゼ阻害薬 (または阻害機能部分) は、五員環と六員環を融合した部分 (または薬学的に受容できるその塩) を有する置換有機化合物 (または置換有機化合物から派生した部分)を有する。好ましくは、この阻害薬はホスホリパーゼ-A2の阻害機能、好ましくはホスホリパーゼ-A2 IBの阻害機能をもたらしている置換基を有している。好ましくは、ホスホリパーゼ阻害薬は、1つまたは複数のヘテロ原子(例えば窒素、酸素、イオウ) を含む五員環と六員環を融合したもので、このヘテロ原子は、この五員環または六員環の環構造内、または五員環と六員環それぞれの環構造内(または薬学的に受容できる塩) にある。さらに好ましくは、この阻害薬 (または阻害機能部分) には、ホスホリパーゼ阻害機能をもたらす効果がある置換基を持たせることができる。
【0025】
例5 (関連する例5A〜5Cも含む)に示すように、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物 (またはその誘導体部分) は、効果的なホスホリパーゼ-2A IB阻害薬であり、遺伝的欠損のあるPLA2(-/-) マウスの効果に匹敵する表現型効果を有する。さらに、このような化合物 (またはその誘導体部分) は、体重関連疾患やインスリン関連疾患、コレステロール関連疾患(特に、肥満や糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症などを含む) などの治療に有効である。
【0026】
特定の化合物(2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸) についてのみが例5に記載されているin-vivo研究で評価されているが (図2)、以下に述べるように、阻害効果は構造と活性の関係によって生じると考えられるため、この研究結果は本発明をさらに幅広くサポートする。簡単に言えば、本申請書に特に記載されていない理論に拘束されることなく、五員環と六員環を融合したものから成る化合物は、置換基の配置に適切な結合距離と結合角度を有するという特長がある。例えば、図6Aに示すインドール化合物の配置3と配置4や、図6Bに示す五員環と六員環の融合を含むインドール関連化合物の-R3および -R4 配置などがこれにあたる。これらインドール化合物およびインドール関連化合物の鏡像類似体も、後述のように、本発明に関連して使用することができる。
【0027】
後述するいくつかの好ましい実施例において、ホスホリパーゼ-A2阻害薬 (または阻害機能部分) はインドール化合物またはインドール関連化合物から成る。
【0028】
また、後述するいくつかの好ましい実施例において、ホスホリパーゼ-A2阻害薬 (または阻害機能部分) は管腔集中型ホスホリパーゼ-A2阻害薬である。
【0029】
(好ましいインドール関連化合物と、PLA2阻害薬としてのインドール化合物)
好ましい実施例において、ホスホリパーゼA2の阻害機能部分は、五員環と六員環の融合した化合物 (または薬学的に受容できるその塩) から成る。この構造を下の化学式 (I) に示す:
【0030】
【化5】
ここでこのコア構造は飽和 (図示) でも不飽和 (非図示) でもよく、R1 〜R7 は次の群から独立して選択することができる: 水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。また、これらの追加または代替として、R1〜R7 のうち独立して選択される2つの隣り合う置換基間に別の環をもつことができ、この追加環は五員環、六員環、七員環のいずれかを独立に選び、また炭素環、複素環、あるいはこの組合せにすることができる。
【0031】
ここで一般に、上記のインドール関連化合物におけるR1 〜R7 について:
アミン基は第一アミン、第二アミン、第三アミンのいずれでもよい。
【0032】
ハロゲン基はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれでもよい。
【0033】
カルボニル基は、下の化学式に示すように、さらに置換基 (下記に定義) を有するカルボニル官能部分でもよい。
【0034】
【化6】
酸基は、プロトンを供給する有機基であり、水素結合することができるもので、カルボン酸、硫酸、スルホン酸、ホスホン酸、置換ホスホン酸、リン酸、置換リン酸、5-テトラゾリルなどがこれに含まれ、これらに限定されない。
【0035】
【化7】
アルキル基自体、または他の置換基の一部となるアルキル基は、置換基を有しているものでも有していないものでもよく、直鎖または分岐した炭化水素であり、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基などがある。
【0036】
アルケニル基自体、または他の基と組み合わせるアルケニル基は、置換基を有しているものでも有していないものでもよく、直鎖または分岐した、不飽和結合を有する炭化水素であり、ビニル基、プロペニル基、クロトニル基、イソペンテニル基、さまざまなブテニル異性体などがある。
【0037】
炭素環基は置換基を有しているものでも有していないものでもよく、飽和または不飽和のいずれでもよく、炭素原子のみから成る5〜14員の有機環で、例えばシクロアルキル基、シクロアルケニル基、フェニル基、スピロ[5.5] ウンデカニル基、ナフチル基、ノルボルナニル基、ビシクロヘプタジエニル基、トルリル基、キシレニル基、インデニル基、スチルベニル基、テルフェニリル基、ジフェニルエチレニル基、フェニルシクロヘキセニル基、アセナフチレニル基、アンスラセニル基、ビフェニル基、ビベンジリル基などがある。
【0038】
複素環基は、単環でも複環でもよく、飽和でも不飽和でもよく、また置換基を有しているものでも有していないものでもよく、5〜14の複素環員原子をもち、1〜3個のヘテロ原子(窒素、酸素、イオウのいずれでもよい) を有する。複素環基としては、ピロリル基、ピロロジニル基、ピペリジニル基、フラニル基、チオフェニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、フェニルイミダゾリル基、トリアゾリル基、イソキサゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ノルハルマニル基、アザインドリル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、インダゾリル基、イミダゾピリジニル基、ベンゾトリアゾリル基、アンスラニリル基、1,2-ベンズイソキサゾリル基、ベンズオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、プリニル基、ピリジニル基、ジピリジリル基、フェニルピリジニル基、ベンジルピリジニル基、ピリミジニル基、フェニルピリミジニル基、ピラジニル基、1,3,5-トリアジニル基、キノリニル基、フタルアジニル基、キナゾリニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、ホモピペラジニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、オキサカニル基、1,3-ジオキソラニル基、1,3-ジオキサニル基、1,4-ジオキサニル基、テトラヒドロチオフェニル基、ペンタメチレンスルファジル基、1,3-ジチアニル基、1,4-ジチアニル基、1,4-チオキサニル基、アゼチジニル基、ヘキサメチレンイミニウム基、ヘプタメチレンイミニウム基、ピペラジニル基、キノキサリニル基などがある。
【0039】
アシルアミノ基は、下の化学式に示すように、さらに2つの置換基 (下記に定義) を有するアシルアミノ官能部分でもよい。
【0040】
【化8】
オキシミル基は、下の化学式に示すように、さらに2つの置換基 (下記に定義) を有するオキシミル官能部分でもよい。
【0041】
【化9】
ヒドラジル基は、下の化学式に示すように、さらに3つの置換基 (下記に定義) を有するヒドラジル官能部分でもよい。
【0042】
【化10】
置換基を有する置換基とは、列記されている置換基の1つまたは複数を組み合わせたもので、好ましくは例えば、次のような部分から成る:
下記のような、−酸素−アルキル−酸部分
【0043】
【化11】
下記のような、−カルボニル−アシルアミノ−水素部分
【0044】
【化12】
下記のような、−アルキル−炭素環−アルケニル部分
【0045】
【化13】
下記のような、−カルボニル−アルキル−チオール部分
【0046】
【化14】
下記のような、−アミン−カルボニル−アミン部分
【0047】
【化15】
さらなる置換基としては、水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せの中から選択される。
【0048】
このインドール関連化合物のR1 〜R7 の特に好ましい置換基について、好ましいインドール化合物と関連して下記に述べる。
【0049】
好ましい実施例において、ホスホリパーゼ-A2阻害機能部分は、置換インドール部分などのインドール化合物 (インドール含有化合物またはインドール官能部分を有する化合物) から成る。例えばその実施例において、インドール含有化合物は化学式IIおよびIII(下図) に示すような化合物である:
【0050】
【化16】
ここでR1〜R7 は次の基の中から独立に選択される: 水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基(−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。また、これらの追加または代替として、R1〜R7 のうち独立して選択される2つの隣り合う置換基間に別の環をもつことができ、この追加環は五員環、六員環、七員環のいずれかを独立に選び、また炭素環、複素環、あるいはこの組合せにすることができる。
【0051】
追加の環を有するインドール化合物としては、例えば、化学式IVa〜IVf がある (下図の、上段左から右へ順にIVa、IVb、IVc、下段左から右へ順にIVd、IVe、IVf):
【0052】
【化17】
一般に、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基などのさまざまなタイプの置換基は、融合した五員環・六員環を有するインドール関連化合物と関連して、上記で定義できる。
【0053】
本発明の実施例それぞれにおいて、融合した五員環・六員環を有するインドール関連化合物およびインドール化合物を含めて、好ましい置換基について、下記に説明される。
【0054】
好ましいR1 は、次の中から選択される: 水素、酸素、イオウ、アミン基、ハロゲン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR1 は、次の中から選択される: 水素、ハロゲン基、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R1は特に、アルキル基、炭素環基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R1 の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0055】
【化18】
好ましいR2 は、次の中から選択される: 水素、酸素、ハロゲン基、カルボニル基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR2は、次の中から選択される: 水素、ハロゲン基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R2 は特に、ハロゲン基、アルキル基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R2の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0056】
【化19】
好ましいR3 は、次の中から選択される: 水素、酸素、イオウ、アミン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR3は、次の中から選択される: 水素、酸素、アミン基、水酸基 (−OH)、カルボニル基、アルキル基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R3は特に、カルボニル基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R3 の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0057】
【化20】
好ましいR4 およびR5 は、次の中から独立に選択される:水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、水酸基 (−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR4およびR5 は、次の中から独立に選択される: 水素、酸素、イオウ、アミン基、酸基、アルキル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R4とR5はそれぞれ独立に、酸素、水酸基 (−OH)、酸基、アルキル基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R4 およびR5の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0058】
【化21】
好ましいR6 は、次の中から選択される: 水素、酸素、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、酸基、アルキル基、炭素環基、アシルアミノ基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。 特に好ましいR6 は、次の中から選択される: 水素、酸素、アミン基、ハロゲン基、水酸基(−OH)、酸基、アルキル基、アシルアミノ基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R6 は特に、アミン基、酸基、アルキル基、置換された置換基の中から優先的に選択される。 R6 の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0059】
【化22】
好ましいR7 は、次の中から選択される: 水素、酸素、イオウ、アミン基、ハロゲン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR7は、次の中から選択される: 水素、ハロゲン基、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R7は特に、炭素環基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R7 の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0060】
【化23】
上記の置換基R1〜R7それぞれについての好ましい選択は、それぞれのバリエーションおよび組合せで使用することができる。例えば特定の好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、R1〜R7 を次のように選択した置換基で構成することができる: R1 は好ましくはアルキル基、炭素環基、置換された置換基の中から選択される。R2は好ましくはハロゲン基、アルキル基、置換された置換基の中から選択される。R3 は好ましくはカルボニル基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基の中から選択される。R4 とR5 はそれぞれ独立に、好ましくは酸素、水酸基(−OH)、酸基、アルキル基、置換された置換基の中から選択される。R6 は好ましくはアミン基、酸基、アルキル基、置換された置換基の中から選択される。R7 好ましくは炭素環基、置換された置換基の中から選択される。
【0061】
いくつかの実施例において、特定のインドールグリオキサミドが、PL A2阻害機能部分として特に有用である。具体的には、図2に示す [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] (ここではILY-4001およびメチルインドキサムとも呼ぶ) が、効果的なホスホリパーゼ阻害薬または阻害機能部分であることが見出されている。 このインドール化合物の構造を、下記の化学式 (V) に示す:
【0062】
【化24】
この化合物は、in-vitro分析に基づき、さまざまなクラスのPLA2のホスホリパーゼ活性に対し、in vitro でのマウスおよびヒトのPLA2 IB酵素に対する強い阻害薬として作用する(Singer, Ghomashchi et al. 2002; Smart, Pan et al. 2004) ことが示されている。このインドール化合物は上記のように、合成され (例4を参照)、マウスモデルにおいてホスホリパーゼ-A2阻害の in-vivoでの評価が行われた。(例5 (例5A〜5Cを含む) を参照)。このインドール化合物について、阻害活性、吸収、生物学的利用能の観点で特性が調べられている。(例6(例6A〜6Cを含む) を参照)。
【0063】
他のインドール化合物も、本発明の範囲に含まれる。例えば、文献では数多くのインドール類について、構造と活性との関係を研究した報告が記述されている ((Schevitz, Bach et al. 1995; Dillard, Bach et al. 1996; Dillard, Bach etal. 1996; Draheim, Bach et al. 1996; Mihelich and Schevitz 1999)。表1は、さまざまなインドール化合物について、ヒト非膵臓PLA2(hnp PLA2)、ヒト膵臓分泌PLA2 (hps PLA2)、ブタ膵臓分泌PLA2 (pps PLA2) など異なるホスホリパーゼ酵素に対する活性データの報告をまとめたものである。
【0064】
【表1−1】
【0065】
【表1−2】
【0066】
【表1−3】
【0067】
【表1−4】
【0068】
【表1−5】
他のインドール化合物も、本発明の範囲に含めることができる。表2には、このような他のインドール化合物をいくつか挙げる。
【0069】
【表2】
他に、ヘテロ原子を少なくとも1つ有する五員環・六員環融合を有する他の化合物 (ここではインドール関連化合物と総称する) も、本発明に関連して使用することができる。表3には、このような他のインドール関連化合物がいくつか挙げられており、該当するものについては特許番号も記載されている。
【0070】
【表3−1】
【0071】
【表3−2】
【0072】
【表3−3】
【0073】
【表3−4】
図6Cと6Dに示すように、本発明のインドール化合物には一般に、「逆インドール化合物」が含まれる。これは五員環と六員環の間の融合部結合に直交して二等分する線を対称軸とし、置換基は同じ位置まま保持された、インドールのコア構造の鏡像類似体である。(図6Cと図6Dを比較のこと)。本発明のインドール化合物とインドール関連化合物には、「相反インドール化合物」と「相反インドール関連化合物」が含まれる。これは五員環と六員環の間の融合部結合に沿った線を対称軸とし、少なくとも-R3と-R4 位置のそれぞれの置換基、および-R1 と-R7 位置のそれぞれの置換基が同じ位置に保持され、-R2位置と、-R5 および-R6 位置の少なくとも一方の置換基が同じ位置に保持された、インドールのコア構造の鏡像類似体である。
【0074】
化学式 (I) 〜(V)で示されているものを含め、上記のインドール関連化合物およびインドール化合物すべての塩は、本発明の別の一面である。本発明の化合物で酸性基または塩基性基を有する場合、さまざまな塩が形成でき、これらは元の化合物より水溶性が高く、生理学的にも適していることがある。
【0075】
薬学的に許容できる塩としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどとの塩があり、これらに限定されない。塩は、溶液中で酸を塩基で処理するか、または酸をイオン交換樹脂に通すことにより、簡単に酸を含まない状態に調製される。薬学的に受容できる塩の定義に含まれるものは、比較的無毒で、無機・有機塩基を追加した本発明の化合物の塩である。この塩基には例えば、アンモニウム、第四アンモニウム、アミン陽イオン (本発明の化合物との塩を形成するのに充分な塩基性を有する窒素含有塩基から誘導される) がある (例えばS. M. Berge, et al.,"Pharmaceutical Salts,"J. Phar. Sci., 66: 1-19 (1977) を参照)。さらに、本発明の化合物の塩基性基は、適切な有機酸または無機酸と反応して、次のような塩を形成することができる:酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クラブラン酸塩、クエン酸塩、塩化物、エデト酸塩、エジシラート、エストラート、エシラート、フッ化物、フマル酸塩、グルセプタート、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、臭化物、塩化物、ヒドロキシナフトアート、ヨウ化物、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マルセアート、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル塩、硝酸メチル、硫酸メチル、ムカート、ナプシラート、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、吉草酸塩。
【0076】
この分野の技能をもつ者であれば、ここに記載されている化合物の互変体や構造異性体、幾何異性体、光学異性体の現象を示すことができる。本発明には、ここに記載されている性質を有する化合物のあらゆる互変体、構造異性体、光学異性体、幾何異性体も含み、またこれらさまざまな形態の混合物も含むことが理解されるはずである。ここに記載されている化合物のプロドラッグおよび活性代謝物も、本発明の範囲に含まれる。
【0077】
(ホスホリパーゼと、インドールおよびインドール関連化合物の使用による阻害)
本発明のさまざまな面に含まれる実施例において全般に、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼの触媒活性を改変または阻害 (鈍化させる、または低下させる) ことができる。ここで好ましくは、ホスホリパーゼは消化器官内 (胃を含む) で分泌または保持され、さらに好ましくは十二指腸や小腸内で分泌または保持される。例えばこのような酵素には、グループIB分泌ホスホリパーゼA2(PL A2 -IB) が優先的に含まれこれらに限定されない。ここでこれらは膵臓ホスホリパーゼA2 (p-PL A2)とも呼ばれ、ここではPL A2 IB またはホスホリパーゼ-A2 IBと呼ばれる。これら酵素には、グループIIAホスホリパーゼA2(PL A2 IIA) などの、他の分泌ホスホリパーゼA2も含まれる。いくつかの実施例において、特に本発明の好ましいインドール化合物および好ましいインドール関連化合物に関連し、他のホスホリパーゼ(例えばホスホリパーゼA1 (PLA1)、ホスホリパーゼB (PLB)、ホスホリパーゼC (PLC)、ホスホリパーゼD (PLD) など)も、本発明の範疇にあると見なされる。本発明の阻害薬は、好ましくは、少なくともホスホリパーゼ-A2 IB 酵素の活性を阻害する。
【0078】
いくつかの実施例において、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼA2 活性など (例えばホスホリパーゼA2 IBなどを含む) のホスホリパーゼ活性を特異的に阻害する、または顕著に特異的に阻害する。例えば、いくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、膵臓トリグリセリドリパーゼ(PTL) やカルボキシルエステルリパーゼ (CEL) といったリパーゼ類は阻害しない、または顕著には阻害しない、または基本的に阻害しない。いくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬はPLA2 を阻害し、好ましくはホスホリパーゼ-A2 IBを阻害するが、それぞれの場合において、他のホスホリパーゼは阻害しないか、または顕著には阻害しないか、または基本的には阻害しない。またいくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬はPLA2 を阻害し、好ましくはホスホリパーゼ-A2 IBを阻害するが、それぞれの場合において、PLA1は阻害しないか、または顕著には阻害しないか、または基本的には阻害しない。またいくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬はPL A2を阻害し、好ましくはホスホリパーゼ-A2 IBを阻害するが、PLBは阻害しないか、または顕著には阻害しないか、または基本的には阻害しない。いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は消化器官粘膜上では作用しない。例えば、膜に結合したホスホリパーゼを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。
【0079】
PL A2、PLA1、PLBの活性の違いは、この分野で一般によく知られている。PL A2 はリン脂質をsn-2 位置で加水分解し、1-アシルリソリン脂質と脂肪酸を遊離させる。PLA1 はリン脂質のsn-1 位置に作用して、2-アシルリソリン脂質と脂肪酸を遊離させる。ホスホリパーゼBはリン脂質のsn-1 位置とsn-2位置の両方に割れ目を入れ、グリセロールと2つの脂肪酸に分解する。例えば、Devlin, Editor, Textbook of Biochemistry with Clinical Correlations, 5th ed. Pp 1104-1110 (2002) を参照。
【0080】
消化器官内のPLA1、PL A2 (ホスホリパーゼ-A2 IBを含む)、PLBが作用するリン脂質基質は、ほとんどがホスファチジルコリンとホスファチジルコリンエタノールアミンであり、これらは食物由来のものもあれば胆汁酸由来のものもあり、また細胞膜の剥落物に由来することもある。例えば、ホスファチジルコリンの消化の場合、PLA1 はsn-1 位置に作用して2-アシルリソホスファチジルコリンと遊離脂肪酸を生成する。PL A2 はsn-2 位置に作用して1-アシルリソホスファチジルコリンと遊離脂肪酸を生成する。PLBは両方の位置に作用して、グリセロール3-ホスホリルコリンと遊離脂肪酸2つを生成する(Devlin, 2002)。
【0081】
膵臓PL A2(およびホスホリパーゼ-A2 IB) は、膵臓外分泌腺の腺房から分泌され、膵液を介して十二指腸内に放出される。PL A2(およびホスホリパーゼ-A2 IB) はプロ酵素として分泌され、ポリペプチド鎖を持っているため、この部分にプロテアーゼによって割れ目が入り、これにより酵素の触媒部位が活性化される。PLA2 イソ酵素についての構造と活性の関係 (SAR) の報告には、数多くの共通特徴がある (例えばGelb M., Chemical Reviews, 2001, 101:2613-2653; Homan, R.,Advances in Pharmacology, 1995, 12:31-66; and Jain,M. K., Intestinal Lipid Metabolism, Biology, pathology, and interfacial enzymology of pancreatic phospholipase A2, 2001, 81-104を参照。このそれぞれが、参照によってここに組み込まれる)。
【0082】
本発明の阻害薬は、ホスホリパーゼ活性、特にPL A2 活性を阻害する、この共通特徴の一部を利用することができる。PL A2 酵素の共通特徴としては、サイズが約13〜約15 kDaで、熱に安定で、6〜8個のジスルフィド架橋をもつことなどがある。.また、PLA2 酵素の共通特徴には、活性部位構造の保護や、カルシウム依存活性もある。さらに、HisとAspの残基が水分子およびカルシウム陽イオンに協調して結合し、His-カルシウム-Aspの組合せとなる触媒メカニズムも含まれる。リン脂質基質は、詳細が後述されるように、プラスに荷電している疎水性残基(リジンおよびアルギニン残基) に包まれているスロットに、極性の頭部を持つ基が入り込むことにより、この触媒部位にアクセスできる。触媒部位内では、複数配位結合したカルシウムイオンが、リン脂質基質の sn-2 位置のアシルカルボニル基を活性化させ、加水分解が起きる(Devlin, 2002)。いくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、この触媒部位と相互作用することにより、PL A2 の触媒活性を阻害する。
【0083】
PL A2 酵素は主に、消化器官管腔内にある脂質集合体の脂質・水界面において、リン脂質基質を分解する活性を有する。脂質集合体は例えば、脂肪滴や乳液滴、液胞、混合ミセル、ディスクなどがあり、これらにはトリグリセリドや脂肪酸、胆汁酸、リン脂質、ホスファチジルコリン、リソリン脂質、リソホスファチジルコリン、コレステロール、コレステロールエステル、その他の両親媒性物質、その他の食物代謝生成物などが含まれる。このような酵素は、脂質・水の界面に「留まって」いる間に、作用すると見なされる。このような脂質集合体において、上記の他の化合物と共に、リン脂質基質は通常、単一層または二層になり、これが脂質集合体の外側表面を形成する。触媒部位を保持するホスホリパーゼの表面は、リン脂質基質にアクセスするため、この界面に接触している。このようなホスホリパーゼの表面は、i面 (酵素の界面認識面) として知られる。PL A2 の i 面の構造的機能は、数多く公表されている。例えば、Jain,M.K, et al, Methods in Enzymology, vol.239, 1995, 568-614を参照し、参照によってここに組み込まれる。本発明の阻害薬は、PLA2 活性を阻害する構造的機能を利用することができる。例えば、触媒部位を形成するスロットの開口部は、i面に対して垂直であることが知られている。開口部は、疎水性残基の最初のクラウンによって囲まれており (主にロイシンとイソロイシンの残基)、これ自身が、陽イオン残基のリング内に収められている(リジンおよびアルギニン残基を含む)。
【0084】
記載のように、PL A2 酵素は、保護されている活性部位構造や、触媒メカニズム (His とAspの残基が水分子およびカルシウム陽イオンに協調して結合する)を共有している。理論に拘束されることなく、リン脂質基質は、プラスに荷電している疎水性残基に包まれているスロットに、極性の頭部を持つ基が入り込むことにより、このような酵素の触媒部位にアクセスできる。触媒部位内では、複数配位結合したカルシウムイオンが、リン脂質基質の sn-2 位置のアシルカルボニル基を活性化させ、加水分解が起きる。
【0085】
ホスホリパーゼ-A2酵素の構造・活性関係については数多くの研究があり、これに例5 (例5A〜5Cを含む) に示されている重要な実験データを考え併せれば、この分野の技能をもつ者は、ILY-4001について観察された阻害効果が、本発明の他のインドール化合物(例えば同じコア構造を有するもの) やインドール関連化合物 (五員環および六員環の融合部分から成る) の中で、特に評価すべきものであることがわかる。特に、本申請書に明示的に記載されていない理論に拘束されることなく、例えば図6Aに示すインドール構造の3、4、5位置の置換基は、酵素およびカルシウムイオンとの極性相互作用(カルシウム依存性のホスホリパーゼ活性に関連して) を効果的にするよう選択・評価することができるため、この分野の技能を有する者には有効であることがわかる。同様に、このインドール構造の1および2位置の置換基を、比較的疎水性のものに選択・評価できるため、この分野の技能を有する者には有効であることがわかる。組合せを考えると、3、4、5位置に極性基、1、2位置に比較的疎水性の基を配置すると、この阻害薬(または阻害機能部分) が疎水性の脂質と水との界面に (疎水性部分を介して) 効果的になじむことができ、また、阻害薬 (または阻害機能部分) の極性部分が酵素のポケット(極性の頭部を持つ基が、プラスに荷電している疎水性残基に包まれているスロットに通る) に効果的にはまり込むことができる。同様に、例えば図6Bに示すように、インドール関連化合物の対応する基にも同じ機能をもたせることができ、これが評価される。特に、インドール関連化合物のR3、R4、R5位置の置換基は、酵素およびカルシウムイオンとの極性相互作用を考えて効果的に選択・評価することができ、インドール関連化合物のR1 とR2位置の置換基は、比較的疎水性のものを選択・評価することができるため、この分野に技能をもつ者には評価される。
【0086】
同様に、図6Cと6Dに示すように、前述の、特定インドール化合物のコア構造の鏡像類似体である逆インドール化合物と、前述の、特定インドール化合物またはインドール関連化合物のコア構造の別種の鏡像類似体である相反インドール化合物および相反インドール関連化合物は、同じように極性基と疎水性基を配置することにより、本発明の範疇内で、別のインドール構造やインドール関連構造を提示することができる。
【0087】
さらに、この分野の技能をもつ者であれば、既知の分析・評価アプローチを用いて、本発明の範囲にある特定の阻害薬を評価することができる。例えば、本発明の阻害薬の阻害程度は、in-vitro 分析 (例えば例6Aを参照) やin-vivo 研究 (例えば例5を参照) を用いて評価することができる。さらに、ホスホリパーゼ酵素とホスホリパーゼ阻害薬との結合は、核磁気共鳴を用いて、例えばその結合作用に必要な部位、または必要でない部位を識別し、評価することができる。さらに、この分野に技能を有する者は、ホスホリパーゼ阻害薬の構造・活性関係(SAR) を活用して、構造的バリエーションが許されている位置を調べることができる。ホスホリパーゼ阻害薬候補のライブラリは、ホスホリパーゼ阻害機能部分のさまざまな結合部位がまとめられており(上記の情報に基づくか、または無作為に選択)、これにより、複数の方向にホスホリパーゼ阻害機能部分を置くことができる。候補物のホスホリパーゼ阻害活性を評価することにより、ホスホリパーゼ阻害機能部分をポリマー部分または他の非吸収性部分に適切に取り付けたホスホリパーゼ阻害薬を得ることができる。
【0088】
一般に、阻害の程度は本発明では狭い意味では重要ではないが、特定の実施例においては大きな意味をもつことがある。ゆえに、「阻害」およびこの関連用語は、酵素活性の完全な阻害を意味するものではない。例えば阻害とは、阻害薬がない場合に比較して、酵素活性を少なくとも約50%、少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約98%、さらに好ましくは少なくとも99%、低下させることを意味する。最も好ましくは、ホスホリパーゼ阻害治療を受ける患者において、治療する疾患(例えばここに公開されているもの) の少なくとも1つに対し治療または予防的なメリットを生じさせるのに充分効果的な用量で、酵素活性を低減することを意味する。また反対に、「阻害しない」およびこの関連用語は必ずしも、酵素活性への影響が全く存在しない状態を意味するものではない。例えば、阻害薬の存在下において酵素活性が約20%、約10%、約5%、好ましくは約2%、より好ましくは約1%低減した状態を意味する。最も好ましくは、明らかな効果が生じない程度の、酵素活性のごくわずかな低下を意味する。さらに、「顕著に阻害しない」およびこの関連用語は、阻害薬の存在下において酵素活性が約40%、約30%、約25%、好ましくは約20%、より好ましくは約15%低減した状態を意味する。さらに、「基本的に阻害しない」およびこの関連用語は、阻害薬の存在下において酵素活性が約30%、約25%、約20%、好ましくは約15%、より好ましくは約10%低減した状態を意味する。
【0089】
阻害薬は、ホスホリパーゼ活性を、可逆的または不可逆的に阻害するよう影響を与える。本発明のホスホリパーゼ阻害薬による可逆的阻害には、競合的 (例えば、ホスホリパーゼの触媒部位にホスホリパーゼ阻害薬が結合する場合) な場合と非競合的 (ホスホリパーゼのアロステリック部位にホスホリパーゼ阻害薬が結合し、アロステリックな変化をもたらす場合)、および競合不可(阻害薬が、ホスホリパーゼと基質の複合体に結合する場合) のものがある。阻害は不可逆反応のこともある。この場合、ホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼの特定部位に結合したまま、または顕著に結合したまま、または本質的に結合したままであり、酵素から分離せず、または顕著に分離することはなく、または本質的に分離することはない。
【0090】
(ホスホリパーゼ関連疾患の治療方法)
本発明は、ホスホリパーゼ関連疾患の治療方法を提示する。好ましい実施例において、この阻害薬は、消化器官管腔内に集中的に留まる。ここで用いられる「ホスホリパーゼ関連疾患」という語は、ホスホリパーゼの活性や再吸収の改変や、ホスホリパーゼの生成物または生成物の影響を改変することが望ましい状態を指す。好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、ホスホリパーゼの活性や再吸収を低下させ、また、ホスホリパーゼの生成物または生成物の影響を低下させる。ここで用いられる「ホスホリパーゼA2関連疾患」という語は、ホスホリパーゼA2の活性や再吸収の改変や、ホスホリパーゼA2活性の生成物または生成物の影響を改変することが望ましい状態を指す。好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、ホスホリパーゼA2の活性や再吸収を低下させ、また、ホスホリパーゼA2の生成物または生成物の影響を低下させる。ホスホリパーゼA2関連疾患の例としては、インスリン関連疾患(糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患、これらの組合せがあり、これらに限定されない。
【0091】
本発明は、被験動物治療のための方法、製薬組成、キットを提示する。ここで「被験動物」とは、人間以外の哺乳類だけでなく、人間も含む。例えば哺乳動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ネコ、イヌ、ブタ、家禽類、ウシ、ウマ、これらの組合せの中から選ばれる。
【0092】
ここで使用される「治療」という語には、治療効果や予防的効果の達成が含まれる。治療効果とは、対象疾患の根本的治癒や状態改善を意味する。例えば、糖尿病患者における治療効果とは、糖尿病の根本的治癒または状態改善が含まれる。また治療効果は、元となっている疾患そのものはまだ残っていても、それに関連する生理学的症状を根本的に治癒または状態改善し、これにより患者の回復が見られるようにすることである。例えば、糖尿病でPL A2 活性を低下させると、インスリン抵抗性が補正されるだけでなく、疲労感や目のかすみ、手足の刺激感など糖尿病に伴うその他の症状を有する患者についても改善が見られ、治療上利益が得られる。予防的効果については、たとえ診断がついていなくとも、ホスホリパーゼ関連の疾患(糖尿病、肥満、高コレステロール血症など) の高リスク患者や、これら疾患の生理学的症状を訴える患者に対し、本発明のホスホリパーゼ阻害薬を投与することができる。
【0093】
本発明は、ホスホリパーゼ阻害薬から成る組成を提示する。いくつかの実施例において、この阻害薬は、消化器官粘膜から吸収されず、またあるいは消化器官粘膜細胞からの流出の結果として消化器官管腔内に集中して留まる。
【0094】
好ましい実施例において、本発明のホスホリパーゼ阻害薬には、ホスホリパーゼ活性を阻害することにより、1つまたは複数の疾患の治療において、予防的効果と治療的効果のいずれか、または両方がある。
【0095】
ここに記載されている、ホスホリパーゼを効果的に阻害する方法は、ホスホリパーゼ関連疾患に適用できる。すなわち、ホスホリパーゼの活性や再吸収の改変や、ホスホリパーゼの生成物または生成物の影響を改変することが望ましい状態に対して適用できる。好ましくは、このような疾患には、ホスホリパーゼA2関連疾患と、食事によって生じたホスホリパーゼA2関連疾患 (食事によってもたらされ、加速し、悪化し、または影響を受けたもの)が含まれる。ホスホリパーゼA2関連疾患には、糖尿病、体重増加、コレステロール関連疾患の他に、高脂血症、高コレステロール血症、心臓血管疾患(心臓病や脳卒中など)、高血圧、癌、睡眠時無呼吸、骨関節症、胆嚢疾患、脂肪肝、2型糖尿病、その他のインスリン関連疾患などがあり、これらに限られない。いくつかの実施例において、これら疾患の1つまたは複数は、高脂肪食または欧米型食事の摂取の結果生じることがある。またいくつかの実施例において、これら疾患の1つまたは複数は、遺伝的要因、代謝障害、環境要因、行動要因、あるいはこれらの’組合せにより生じることがある。
【0096】
(欧米型食事と欧米型関連食事)
一般に、本発明のいくつかの実施例は、高炭水化物食、高糖類食、高脂肪食、高コレステロール食のいずれか1つあるいは複数の組合せに関連している。このような食事は全般に、ここにおいて「高リスク食」と呼ばれる (これには例えば、欧米型食事が含まれ得る)。このような食事は、肥満関連の疾患やインスリン関連の疾患、コレステロール関連の疾患などを含む、1つまたは複数の疾患について、被験患者のリスク条件を高めることがある。特に、こういった高リスク食は、いくつかの実施例において、少なくとも高炭水化物食を含み、これに高糖類食、高脂肪食、高コレステロール食のいずれか1つまたは複数を伴う。高リスク食には、高糖類食に、高脂肪食と高コレステロール食のいずれか1つまたは両方を伴ったものも含まれる。高リスク食には、高脂肪食に高コレステロール食を伴ったものも含まれる。いくつかの実施例において、高リスク食には、高炭水化物食、高糖類食、高脂肪食を組み合わせたものが含まれる。また他の実施例において、高リスク食には、高炭水化物食、高糖類食、高コレステロール食が含まれる。また他の実施例において、高リスク食には、高炭水化物食、高脂肪食、高コレステロール食が含まれる。また他の実施例において、高リスク食には、高糖類食、高脂肪食、高コレステロール食が含まれる。いくつかの実施例において、高リスク食には、高炭水化物食、高糖類食、高脂肪食、高コレステロール食が含まれる。
【0097】
一般に、被験者の食事は、合計カロリーの内容 (例えば、一日の合計カロリー内容) から成る。いくつかの実施例において、被験者の食事は高脂肪食である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50%が脂肪によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が脂肪によるものである。いくつかの実施例において、高脂肪食に、高炭水化物食、高糖類食、高コレステロール食のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が脂肪によるものである。
【0098】
同様に、いくつかの実施例において、食事は高炭水化物食である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が炭水化物によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が炭水化物によるものである。いくつかの実施例において、高炭水化物食に、高脂肪食、高糖類食、高コレステロール食のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が炭水化物によるものである。
【0099】
さらに、いくつかの実施例において、食事は高糖類食である。実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が糖類によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が糖類によるものである。いくつかの実施例において、高糖類食に、高脂肪食、高炭水化物食、高コレステロール食のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が糖類によるものである。
【0100】
同様に、いくつかの実施例において、食事は高コレステロール食である。このような実施例において、食事は少なくとも約1 %のコレステロール (wt/wt、脂肪に対する割合) を含む。この他の実施例において、食事には少なくとも約0.5 %、または少なくとも約0.3%、または少なくとも約0.1 %、または少なくとも約0.07 %のコレステロール (wt/wt、脂肪に対する割合) が含まれる。いくつかの実施例において、高コレステロール食に、高脂肪食、高炭水化物食、高糖類食のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、食事には少なくとも約0.05%、または少なくとも約0.03%(wt/wt、脂肪に対する割合) のコレステロールが含まれる。
【0101】
一例として、高脂肪食には例えば、肉、乳製品、アルコールを多く含み、また加工食品や牛肉・羊肉、炭酸飲料、菓子類、精白した穀物、デザート、高脂肪乳製品などが含まれ、このとき脂肪由来のカロリーは少なくとも25%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約8%、または、脂肪由来のカロリーは少なくとも30%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約10%、または、脂肪由来のカロリーは少なくとも34%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約12%、または、脂肪由来のカロリーは少なくとも42%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約15%、または、脂肪由来のカロリーは少なくとも50%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約20%である。このような高脂肪食のひとつが「欧米型食事」であり、これは例えば、典型的なアメリカ型食事や西ヨーロッパ型食事、オーストラリア型食事、日本型食事など、先進工業国の食事を指す。欧米型食事の典型的な例としては例えば、脂肪が少なくとも約17%でコレステロールが少なくとも約0.1%(wt/wt)、または脂肪が少なくとも約21%でコレステロールが少なくとも約0.15% (wt/wt)、または脂肪が少なくとも約25%でコレステロールが少なくとも約0.2%(wt/wt) の食事が挙げられる。
【0102】
このような高リスク食には、1つまたは複数の高リスク食品が含まれていることがある。
【0103】
食品の使用される条件を検討し、一般に、本発明のいくつかの実施例は、高炭水化物食品、高糖類食品、高脂肪食品、高コレステロール食品のいずれか1つあるいは複数の組合せに関連している。このような食品は全般に、ここにおいて「高リスク食品」と呼ばれる (これには例えば、欧米型食品が含まれ得る)。このような食品は、肥満関連の疾患やインスリン関連の疾患、コレステロール関連の疾患などを含む、1つまたは複数の疾患について、被験患者のリスク条件を高めることがある。特に、こういった高リスク食品は、いくつかの実施例において、少なくとも高炭水化物食食品を含み、これに高糖類食品、高脂肪食品、高コレステロール食品のいずれか1つまたは複数を伴う。高リスク食品には、高糖類食品に、高脂肪食品と高コレステロール食品のいずれか1つまたは両方を伴ったものも含まれる。高リスク食品には、高脂肪食品に高コレステロール食品を伴ったものも含まれる。いくつかの実施例において、高リスク食品には、高炭水化物食品、高糖類食品、高脂肪食品を組み合わせたものが含まれる。また他の実施例において、高リスク食品には、高炭水化物食品、高糖類食品、高コレステロール食品が含まれる。また他の実施例において、高リスク食品には、高炭水化物食品、高脂肪食品、高コレステロール食品が含まれる。また他の実施例において、高リスク食品には、高糖類食品、高脂肪食品、高コレステロール食品が含まれる。いくつかの実施例において、高リスク食品には、高炭水化物食品、高糖類食品、高脂肪食品、高コレステロール食品が含まれる。
【0104】
ここで、食品の組成は食品の合計カロリー内容から成る。いくつかの実施例において、食品は高脂肪食品である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が脂肪によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が脂肪によるものである。いくつかの実施例において、高脂肪食品に、高炭水化物食品、高糖類食品、高コレステロール食品のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が脂肪によるものである。
【0105】
同様に、いくつかの実施例において、食品は高炭水化物食品である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が炭水化物によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が炭水化物によるものである。いくつかの実施例において、高炭水化物食品に、高脂肪食品、高糖類食品、高コレステロール食品のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が炭水化物によるものである。
【0106】
さらに、いくつかの実施例において、食品は高糖類食品である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が糖類によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が糖類によるものである。いくつかの実施例において、高糖類食品に、高脂肪食品、高炭水化物食品、高コレステロール食品のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が糖類によるものである。
【0107】
同様に、いくつかの実施例において、食品は高コレステロール食品である。このような実施例において、食品は少なくとも約1 %のコレステロール (wt/wt、脂肪に対する割合) を含む。この他の実施例において、食品には少なくとも約0.5 %、または少なくとも約0.3%、または少なくとも約0.1 %、または少なくとも約0.07 %のコレステロール (wt/wt、脂肪に対する割合) が含まれる。いくつかの実施例において、高コレステロール食品に、高脂肪食品、高炭水化物食品、高糖類食品のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、食品には少なくとも約0.05%、または少なくとも約0.03%(wt/wt、脂肪に対する割合) のコレステロールが含まれる。
【0108】
上記のように、本発明の方法は、インスリン関連疾患、体重関連疾患、コレステロール関連疾患 (一般的な脂質代謝異常を含む)、これらの組合せを治療するため広く行われている他の治療例と、一緒に行うことで有益な結果が得られる。これら疾患の各側面について下記に記載する。
【0109】
(インスリン関連疾患の治療)
ここで用いられる「インスリン関連疾患」という語は、身体のインスリン生成やインスリン使用が適切でない、糖尿病などの疾患を指す。典型的には、前糖尿病状態または糖尿病の診断は、空腹時血漿グルコース検査 (FPG) や経口グルコース負荷試験 (OGTT) により行われる。FPG検査の場合、空腹時の血中グルコース濃度が約100〜125mg/dlが前糖尿病状態、空腹時の血中グルコース濃度が約126 mg/dl以上の場合が糖尿病であることを示す。OGTT試験では、患者の空腹時の血中グルコース濃度と、グルコースを多量に含んだ飲物を飲んで2時間後の血中グルコース濃度を測定する。2時間後の血液グルコース濃度が約140〜199mg/dlが前糖尿病状態、2時間後の血液グルコース濃度が約200 mg/dl以上の場合が糖尿病であることを示す。
【0110】
特定の実施例において、本発明の、管腔集中型ホスホリパーゼ阻害薬は、例えば糖尿病 (好ましくは2型糖尿病) などのインスリン関連疾患の治療に有益である。この利点としては例えば、インスリン感受性の増加とグルコース負荷耐性の改善が挙げられ、この他にもあり得る。他の利点としては、空腹時血中インスリン濃度の低下、組織内グルコース濃度の上昇、インスリン刺激によるグルコース代謝の増加などがあり得る。
【0111】
これらの利点は、特定の仮説に限定されることなく、PLA2 活性の低下によって得られる数多くの効果によってもたらされたものであり、例えば消化器官粘膜を介したリン脂質の膜輸送の減少や、1-アシルリソリン脂質(1-アシルリソホスファチジルコリンなど) の生成減少や輸送減少などがある。ここで1-アシルリソホスファチジルコリンは、糖尿病などのインスリン関連疾患における二次的経路で、シグナル分子としてはたらくことがある。
【0112】
いくつかの実施例において、管腔集中型のホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼA2を阻害するのに使用されるが、ホスホリパーゼBを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬はホスホリパーゼA2を阻害するが、他の消化器官内ホスホリパーゼは阻害しない。すなわち、ホスホリパーゼA1 を阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。また、ホスホリパーゼBを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。
【0113】
(体重関連疾患の治療)
ここで用いられる「体重関連疾患」という語は、望ましくない体重超過や肥満、高脂血症状態を指し、特に高脂肪食や欧米型食事によって生じた体重増加を指す。通常、体重超過あるいは肥満であるかどうかの判定基準には、ボディマス指数 (BMI) が使用される。例えば成人の場合、BMIが約25以上の場合に体重超過、約30以上の場合に肥満と見なされる。子供の場合は、年齢ボディマス指数表が使用され、BMIが約85パーセンタイルを超える場合は「体重超過の危険」、約95パーセンタイルを超える場合は「肥満」と見なされる。
【0114】
特定の実施例において、本発明の、管腔集中型ホスホリパーゼA2阻害薬は、望ましくない体重超過や肥満などの体重関連疾患の治療に用いることができる。特定の実施例において、管腔集中型ホスホリパーゼA2阻害薬は、典型的な欧米型食事後の脂質吸収を低下させる。特定の実施例において、管腔集中型ホスホリパーゼA2阻害薬は、典型的な欧米型食事を摂取している被験者の脂肪排泄を増加させる。特定の好ましい実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は、(典型的な)欧米型食事を摂取している被験者の体重増加を低下させる。特定の実施例において、本発明の適用により、特定の組織や器官の重量増加を優先的に減らすことができる。例えば、いくつかの実施例においてホスホリパーゼA2阻害薬は、欧米型食事を摂取している被験者の白色脂肪の重量増加を減らすことができる。
【0115】
これらの利点は、特定の仮説に限定されることなく、PLA2 活性の低下によって得られる数多くの効果によってもたらされたものである。例えば、PL A2活性の阻害により、消化器官管腔 (例えば小腸粘膜) を介したリン脂質の輸送を減少させることができ、これにより、特に高脂肪食を与えられている哺乳動物において、腸細胞でリン脂質蓄積(ホスファチジルコリンなど) の消費が起こる。このような場合、リン脂質の新たな合成は、トリグリセリドをキロミクロンとして運搬するために必要なリン脂質 (例えばホスファチジルコリン)の高い回転率を維持するには充分ではない場合があり (Tso, in Fat Absorption, 1986, chapt.6 177-195, Kuksis A., Ed. を参照)、参照によってここに組み込まれる。
【0116】
PL A2阻害によって、1-アシルリソリン脂質 (1-アシルリソホスファチジルコリンなど) の生成も抑制されることがある。この1-アシルリソリン脂質は、セクリチンなどの消化酵素やホルモンを放出するなど、脂肪吸収の上方調節経路においてシグナル分子としてはたらく可能性がある。これについてはHuggins,Protection against diet-induced obesity and obesity-related insulin resistance in Group 1B- PL A2 -deficient mice, Am. J. Physiol. Endocrinol.Metab. 283:E994-E1001 (2002) に記載されており、参照によってここに組み込まれる。
【0117】
本発明の他の一面として、体重増加による食事誘発性糖尿病の発症を低下または遅らせるための組成、キット、方法が提示される。制限のない高脂肪食により、体重増加だけでなく、糖尿病性のインスリン抵抗性も増大し得る。この抵抗性は、被験者においてインスリン濃度とレプチン濃度が低下していることによって認識されることがある。ここに公開されるホスホリパーゼ阻害薬、組成、キット、方法は、食事による糖尿病や、その他のインスリン関連疾患 (欧米型食事を摂取している被験者でのインスリン濃度やレプチン濃度の低下) の予防的治療に用いることができる。
【0118】
いくつかの実施例において、管腔集中型のホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼA2を阻害するのに使用されるが、ホスホリパーゼBを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬はホスホリパーゼA2を阻害するが、他の消化器官内ホスホリパーゼは阻害しない。すなわち、ホスホリパーゼA1 を阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。また、ホスホリパーゼBを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。
【0119】
(コレステロール関連疾患の治療)
ここで用いられる「コレステロール関連疾患」という語は、HMG-CoAリダクターゼ活性の調節または生成の調節が望ましい状態で、またはHMG-CoAリダクターゼの生成物の影響を調節することが望ましい状態で、いずれの場合にも一般的に、脂質代謝異常を含むことがあるような状態を指す。好ましい実施例において、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、HMG-CoAリダクターゼの活性あるいは生成を低下させ、またはHMG-CoAリダクターゼの生成物の影響を低下させる。例えば、コレステロール関連疾患には、コレステロール値の上昇、特に血漿中の非HDLコレステロール値の上昇(LDLコレステロール値やVLDL/LDL値の上昇) が含まれ得る。通常、コレステロール値が高いとされる基準にはさまざまあり、例えばPearlman BL,The New Cholesterol Guidelines, Postgrad Med, 2002; 112(2):13-26 に記載されており、参照によりここに組み込まれる。ガイドラインとしては、HDL値と比較したLDL値など、血清中の脂肪プロファイルがある。
【0120】
コレステロール関連疾患の例としては、高コレステロール血症、アテローム発生およびその続発症である心臓血管疾患 (アテローム性動脈硬化を含む)、その他の血管炎症、心筋梗塞、虚血性脳卒中、閉塞性脳卒中、末梢血管疾患、その他、コレステロールの低下により利益が得られるような疾患が含まれる。
【0121】
他に特に注目されるコレステロール関連疾患として、高トリグリセリド血症などの脂質代謝異常がある。肝臓でのトリグリセリド合成は、存在する脂肪酸、貯蔵グリコーゲン、インスリン対グルカゴン比によって調節されている。高グルコース食の患者 (例えば高炭水化物食や高糖類食、およびこのような食事を通常摂取していることが知られる群の患者) は、過剰なインスリンレベルを維持するホルモンバランスが維持される傾向にあり、従ってグリコーゲン貯蔵が進む傾向にあり、これら両方によって肝臓トリグリセリド合成が進む。さらに、糖尿病患者は、体重超過であることが多く、カロリー超過状態にあるため、特にこの状態になりやすい。ゆえに、本発明は特に、ここに説明される各実施例において、高トリグリセリド血症に対する治療の観点に注目する。
【0122】
本申請書には特に記載されていない理論に拘束されることなく、本発明のホスホリパーゼA2阻害薬は、複数のメカニズム経路によって、トリグリセリドおよびコレステロールを調節することができる。例えば、本発明のホスホリパーゼA2阻害薬は消化器官からのコレステロール吸収とトリグリセリド吸収を調節することができ、また例えばリソホスファチジルコリン(PLA2触媒によるホスファチジルコリンの加水分解生成物) などのシグナル分子を介して、脂肪とグルコースの代謝を調節することができる。ここでこのシグナル分子は、直接に作用するか、またはインスリンなどの他のホルモンと共に作用する。このような代謝調節により、高脂肪/ 高二糖類食あるいは高脂肪 / 高炭水化物食を摂取する患者の血清コレステロール値および血清トリグリセリド濃度に、直接的な影響を与えることができる。VLDLは肝臓から末梢組織へと体内循環するために、肝臓によって製造されるリポタンパク質である。VLDLのコア部分にはトリグリセリド、コレステロール、ホスホリパーゼが含まれ、周辺部分にはアポリポタンパク質B100、C1、CII、CIII、Eが含まれる。VLDLの重量の半分以上はトリグリセリドであり、VLDLのサイズはトリグリセリドの量によって決まる。カロリーが過剰な状態や糖尿病、アルコール消費後は、過剰なトリグリセリドが存在するため、肝臓によって非常に大きなVLDLが分泌される。ここで、ホスホリパーゼA2活性の阻害により、例えば肝臓でのトリグリセリド合成などを含む、代謝の調節を行うことができる。トリグリセリド合成の調節(低下、あるいは少なくとも増加程度が比較的抑制) により、血清トリグリセリド濃度や血清コレステロール値の調節の基盤ができ、ひいては高トリグリセリド血症や高コレステロール血症の治療の基盤が得られる。この治療は、糖尿病患者(炭水化物の制限のため、脂肪の多い食事になることが多い) と高トリグリセリド血症患者 (脂肪の代わりに高炭水化物食を摂ることが多い) の両方に有益となる。この点について、多くの糖尿病患者や高トリグリセリド血症患者にとって、高タンパク食にするだけでは、通常、長期的に持続するのは難しい。
【0123】
さらに、血清トリグリセリド濃度の調節により、アテローム性動脈硬化などの心臓血管疾患にも有益な効果が得られる。肝臓でトリグリセリドをパッケージしたVLDLは循環血中に放出され、リポプロテインリパーゼにより加水分解されて、VLDLレムナント (=IDL) に変換される。VLDLレムナントは肝臓に戻る(大きいものは優先的にこちらになる) か、またはLDL値を上昇させる。ゆえに、循環血中のVLDLが上昇するとHDL (コレステロールの逆輸送を行うはたらきがある)が下がる。高トリグリセリド血症によりLDL値の上昇とHDL値の低下が起こるため、高トリグリセリド血症は、アテローム性動脈硬化や冠状動脈疾患 (および上記のその他の疾患も含む)のリスクファクターとなっている。従って、本発明のホスホリパーゼA2阻害薬を用いた高トリグリセリド血状態の調節は、このような心臓血管疾患の治療の基盤ともなる。
【0124】
本発明の組成・キット・方法で治療が可能なその他のコレステロール関連疾患としては、現在スタチン系薬剤で治療されている疾患や、その他、コレステロール吸収の低減によって利益が得られるような疾患が含まれる。
【0125】
特定の実施例において、本発明の、管腔集中型ホスホリパーゼ阻害薬は、コレステロール値の低下、特に血漿中非HDLコレステロール値の低下、および高トリグリセリド血症の治療に用いることができる。
【0126】
いくつかの好ましい実施例において、この組成はホスホリパーゼA2と、ホスホリパーゼA2に加えて他の消化器官内ホスホリパーゼを少なくとも1つ (好ましくはホスホリパーゼB、またはホスホリパーゼA1、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼDなど)阻害することができる。
【0127】
本発明の他の実施例において、各種ホスホリパーゼに対する活性の差を利用することによって、他のホスホリパーゼ阻害によって生じる好ましくない副作用を起こさずに、特定のホスホリパーゼ関連疾患を治療することができる。例えば、特定の実施例において、PL A2 を阻害するけれどもPLA1やPLB、PLC、PLDなどを阻害しない、または顕著に阻害することはない、または基本的に阻害しないようなホスホリパーゼ阻害薬は、インスリン関連疾患(糖尿病など) や体重関連疾患 (肥満など) の治療に使用することができ、このときにホスホリパーゼ阻害治療を受けている被験者 (被験者が高脂肪食を摂取中の場合など)のコレステロール吸収に影響を与えず、または顕著には影響を与えず、または基本的には影響を与えない。
【0128】
ここに公開されるホスホリパーゼ阻害薬、方法、キットは、ホスホリパーゼ関連疾患の治療に用いることができる。いくつかの好ましい実施例において、この治療の効果は、被験者の食事や活動に変化をもたらすことなく実現することができる。例えば、消化器官内でのPL A2 活性が阻害されることにより、欧米型食事を摂る被験者は、PL A2 阻害薬治療を受けていない被験者に比べて、脂肪吸収が低下し、あるいは体重増加が減る可能性がある。さらに好ましくは、被験者のエネルギー消費量や食物摂取に変化、あるいは顕著な変化、あるいは基本的な変化がないままに、そして被験者の体温に変化、あるいは顕著な変化、あるいは基本的な変化がないままに、この脂肪吸収・体重増加の低下が起こる。さらに、好ましい実施例において、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、非・高脂肪食の代謝に対する正常状態に影響を与えることなく、高脂肪食の特定の有害な結果を相殺するために使用することができる。
【0129】
本発明には、ホスホリパーゼ関連疾患の治療に用いることができるキットも含まれる。このホスホリパーゼ関連疾患は、好ましくはホスホリパーゼA2関連疾患や、食事によって起こるホスホリパーゼ関連疾患 (例えばインスリン関連疾患 (糖尿病、特に2型糖尿病など)や体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患などを含みこれらに限定されない)が含まれる。このキットは、本発明の組成が少なくとも1種類と、ここに記載されているさまざまな方法に従った使用説明書から成る。
【0130】
(阻害薬の調剤、投与経路、効果的な用量)
本発明に役立つホスホリパーゼ阻害薬、または薬学的に受容できるこれらの塩は、さまざまな投与経路や方法を使って患者に投与することができる。「薬学的に受容できる塩」とは、本発明の化合物の生物学的効果および特性を維持でき、生物学的あるいは他の面で不都合が生じないような塩のことである。このような塩としては、塩酸、臭素酸、リン酸、硝酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酢酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、マンデル酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸など、無機酸または有機酸との塩が含まれる。さらに、本発明の化合物にカルボキシル基などの酸基が含まれている場合は、無機塩基または有機塩基との、薬学的に受容できる塩に転換することができる。適した塩基の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどがある。
【0131】
必要や目的に応じて、ホスホリパーゼ阻害薬は、1つまたは複数の他の治療薬と組み合わせて投与することができる。本発明の組成と共に投与できる治療薬の選択は、ある程度、治療する疾患によって異なる。例えば、肥満やその他体重関連疾患の治療の場合、本発明のいくつかの実施例におけるホスホリパーゼ阻害薬は、スタチン剤やフィブレート剤、胆汁酸結合剤、エゼチミブ剤(Zetiaなど)、サポニン剤、リパーゼ阻害剤 (Orlistatなど)、食欲抑制剤といった薬剤と組み合わせて使用することができる。インスリン関連疾患 (糖尿病など)に関して、本発明のいくつかの実施例におけるホスホリパーゼ阻害薬は、ビグアニド剤 (Metforminなど)、チアゾリジンジオン、α-グルコシダーゼ阻害薬などと組み合わせて使用することができる。
【0132】
ホスホリパーゼ阻害薬 (または薬学的に受容できる塩) は、それ自体で、または製薬組成の形で投与することができる。この製薬組成においては、活性組成は、薬学的に受容できる担体や賦形剤、希釈剤を1つまたは複数使った混合物中に用いられる。本発明に従った使用の製薬組成は、従来的手法により調剤することができる。すなわち、1つまたは複数の、生理学的に受容できる担体(賦形剤と助剤から成る) を使用し、活性物質のプロセスを促進し、製薬分野で使用可能な調剤にする。適切な調剤は、選択する投与経路によって異なる。
【0133】
ホスホリパーゼ阻害薬は直接配置や経口、直腸経由で投与することができる。好ましくは、このホスホリパーゼ阻害薬またはホスホリパーゼ阻害薬から成る製薬組成は経口投与される。ホスホリパーゼ阻害薬を投与する経口剤の形態には、粉末、錠剤、カプセル、溶液、乳剤などがある。効果量を1用量で投与することもできれば、適切な時間間隔 (例えば数時間) をおいて、用量を何回かに分けて投与することもできる。
【0134】
経口投与では、この分野でよく知られている薬学的に受容できる担体活性物質と活性物質とをあらかじめ混合して調剤することができる。治療する患者に経口投与するための、本発明の組成の調剤に使用できる担体としては、錠剤、粒剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液、カシェ剤、その他類似の形態がある。いくつかの実施例において、この阻害薬は徐放薬として製剤することができる。経口用途の製薬調剤は、固体賦形剤と、得られた混合物をすり潰し (オプション)、細粒の混合物を処理し、場合によっては適切な助剤を加えて、錠剤または糖衣錠コアを得る。適切な賦形剤としては、特に糖などの増量剤(ラクトース、蔗糖、マンニトール、ソルビトールなど) と、セルロース調剤 (例えばトウモロコシでんぷん、小麦でんぷん、米でんぷん、馬鈴薯でんぷん、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP) など) がある。望ましい場合は、架橋ポリビニルピロリドンや寒天、アルギン酸またはその塩 (アルギン酸ナトリウムなど) の分解剤を追加することもできる。
【0135】
糖衣錠コアは、適切なコーティングで提供される。このためには、濃縮糖液を使用することができる。この濃縮糖液にはオプションとして、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、Carbopolゲル、ポリエチレングリコールや二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒や溶媒混合物などを含めることができる。識別のためや、活性物質用量が異なる組合せを区別するため、染料や顔料を錠剤または糖衣錠コーティングに追加することもできる。いくつかの実施例において、経口調剤には腸内用樹脂コーティングはない。
【0136】
経口投与に用いられる製薬製剤には、ゼラチン製のプッシュフィット型カプセルや、ゼラチンと可塑剤 (グリセロールやソルビトール) 製の密封型ソフトカプセルが含まれる。プッシュフィット型カプセルには、増量剤 (ラクトースなど)、結合剤(でんぷんなど)、潤滑剤 (タルクやステアリン酸マグネシウム)、安定剤 (オプション)と活性成分との混合物を中に入れることができる。ソフトカプセルについては、活性組成を適切な液体(脂肪油、液体パラフィン、液体ポリエチレングリコールなど) に溶解または懸濁させる。さらに、安定剤を追加することもできる。経口投与用の製剤はすべて、投与に適した用量でなければならない。
【0137】
経口用および非経口用の液体調剤に使用する適切な担体としては、薬学的に受容できる非水性の極性溶媒が含まれ、これには炭化水素、アルコール、アミド、油脂、エステル、エーテル、ケトン、これらの混合物があり、さらに水、生理食塩水、電解質溶液、デキストロース溶液 (DW5など)、その他の薬学的に受容できる水性の液体がある。
【0138】
薬学的に受容できる非水性の極性溶媒としては、以下のものが挙げられ、これらに限定されない:アルコール類 (脂肪族アルコールまたは芳香族アルコールで炭素数が2〜30のもの。メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t-ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ベンジルアルコール、アミレンハイドレート、グリセリン(グリセロール)、グリコール、ヘキシレングリコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、脂肪酸アルコールの脂肪酸エステル(ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールをはじめとするポリアルキレングリコールなど)、ソルビタン、コレステロール、蔗糖など); アミド類 (ジメチルアセトアミド(DMA)、ベンジルベンゾエートDMA、N,N-ジメチルアセトアミドのアミド類、2-ピロリジノン、ポリビニルピロリドン、1-メチル-2-ピロリジノンなど); エステル類(2-ピロリジノン、1-メチル-2-ピロリジノン、酢酸エステル (モノアセチン、ジアセチン、トリアセチンなど) など、脂肪族または芳香族エステル (ジメチルスルホキシド(DMSO)、オレイン酸アルキル、カプリル酸エチル、安息香酸エチル、酢酸エチル、オクタン酸エステル、安息香酸ベンジル、酢酸ベンジル、グリセリンエステル (モノグリセリル、ジグリセリル、トリグリセリルのクエン酸エステルまたは酒石酸エステルなど)、炭酸エチル、オレイン酸エチル、乳酸エチル、N-メチルピロリジノン、脂肪酸エステル(ミリスチン酸イソプロピルなど))、ソルビタンの脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリル、グリセリドエステル (モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)、脂肪酸由来PEGエステル(ヒドロキシステアリン酸PEG、ヒドロキシオレイン酸PEGなど)、プルロニック60、ポリオキシエチレンソルビトールオレイン酸ポリエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリル酸、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸)、アルキレンオキシ基置換の脂肪酸エステル(ポリオキシル40水素化ひまし油、ポリオキシエチレン化ひまし油など)、糖脂肪酸エステル (単糖類、二糖類、オリゴ糖類、またはこれらの混合物と脂肪酸 (カプリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、カプリル酸、ラウリル酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸と、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸)との縮合生成物)、ステロイドエステルなど); アルキルエーテル、アリルエーテル、環状エーテル (ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルイソソルビドなど);グリコフロール (テトラヒドロフルフリルアルコールポリエチレングリコールエーテル); ケトン類 (アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなど);脂肪族・環状脂肪族・芳香族炭化水素 (ベンゼン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、ジオキソラン、ヘキサン、n-ヘキサン、n-デカン、n-ドデカン、スルホラン、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン、トルエン、テトラメチレンスルホキシド、ジメチルスルホキシド(DMSO) など); 油脂 (鉱物油、動物性油、植物性油、精油、合成由来) (鉱物油 (精製パラフィン油、脂肪族炭化水素、蝋ベースの炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素の混合物など)、植物性油(亜麻仁油、大豆油、ひまし油、菜種油、ココヤシ油、桐油、ベニバナ油、綿実油、グラウンドナッツ油、ヤシ油、オリーブ油、コーン油、コーン胚芽油、胡麻油、桃仁油、ピーナツ油など)、グリセリド類(モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)、動物性油 (タラ肝油、ハリバ肝油、魚油、鯨油、スクアレン、スクアラン、ポリオキシエチレン化ひまし油、サメ肝油、オレイン油など));ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化アリル (塩化メチレンなど); モノエタノールアミン; トロラミン; 石油ベンジン; オメガ-3多不飽和脂肪酸 (α-リノレン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸など);12-ヒドロキシステアリン酸のポリグリコールエステル; ポリエチレングリコール; ポリオキシエチレングリセロール など。
【0139】
本発明のホスホリパーゼ阻害薬の製剤組成に使用するのに、受容できるその他の溶媒としては、例えば、直接配置用としては、この分野でよく知られている技法がある。詳しくはModern Pharmaceutics, (G. Banker et al., eds., 3d ed.)(Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., 1995), The Handbook of Pharmaceutical Excipients,(American Pharmaceutical Association, Washington, D.C.; The Pharmacological Basis of Therapeutics, (Goodman & Gilman, McGraw Hill Publishing),Remington's Pharmaceutical Sciences (A. Gennaro, ed., 19th ed.)(Mack Publishing, Easton, Pa., 1995), Pharmaceutical Dosage Forms, (H. Lieberman etal., eds.,)(Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., 1980); The United States Pharmacopeia 24, The National Formulary 19, (National Publishing, Philadelphia,Pa., 2000) を参照のこと。
【0140】
直腸投与の製剤は、ホスホリパーゼ阻害薬を消化器官内 (小腸など) に放出するため、座剤、軟膏、浣腸剤、錠剤、クリームなどの形で調製することができる。直腸座剤は、本発明のホスホリパーゼ阻害薬1つまたは複数と、薬学的に受容できるその塩、受容できる賦形剤(ココアバターなど) を混合し、融点を調節するために必要に応じて蝋を追加して調製することができる。受容できる賦形剤としては他に、グリセリン、サリチル酸塩、ポリエチレングリコールなどがある。これらは通常の保管温度では固体で、ホスホリパーゼ阻害薬を放出するのに適した体内(直腸内など) 温度では液体となる。ソフトなゼラチンタイプの直腸用製剤や座剤には、油も使用される。さまざまな分子量のポリエチレングリコールなど、水溶性の座剤ベースも使用することができる。水、生理食塩水、水性デキストロースおよび関連の糖水溶液、グリセロールを使用し、懸濁剤としてペクチンやcarbomer、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースを用い、緩衝液や保存料なども加えて、懸濁液製剤を調製することもできる。
【0141】
本発明の使用に適した製薬組成は、活性成分が効果的な分量、すなわち治療する疾患のうちすくなくとも1つについて、治療や予防のメリットを達成するのに充分な分量で存在する組成である。個々の用途に効果的な実際量は、疾患や投与経路によって異なってくる。有効量の決定は、特にここに記載される情報を踏まえれば、ゆうにこの分野の技能の範囲内である。例えば上の表1には、対応するホスホリパーゼ阻害薬部分の効果的な用量を選択するのに、通常この分野で用いられている技法のひとつを利用したガイドラインとして、IC50の値と範囲が示されている。
【0142】
ホスホリパーゼ阻害薬に関しての効果的な量とは、一般に、医療・製薬分野の規制・指導機関 (FDAやAMAなど) またはメーカーやサプライヤーが推奨または認定する、用量範囲、投与方式、製剤形態などを意味する。ホスホリパーゼ阻害薬の効果的な用量は、例えば、Physicians Desk Referenceで見つけることができる。インスリン関連疾患 (糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患などのホスホリパーゼ関連疾患の治療においてメリットを得るための効果的な量とは、一般に、医療・製薬分野の規制・指導機関(FDAやAMAなど) またはメーカーやサプライヤーが推奨または認定する、臨床結果を達成するレベルを意味する。
【0143】
この分野の通常の技法に通じた者ならば、ホスホリパーゼ阻害薬の効果的な量を決定することができる。本発明において、消化器官管腔に集中的に留まるホスホリパーゼ阻害薬の効果的な量は、このような管腔集中機能を持たない場合の投与量よりも少なくすることができる。本発明については、ホスホリパーゼ阻害薬の投与量を少しでも減少させることが有用であると見なされる。ホスホリパーゼ阻害薬の効果的な投与量を大幅に、または統計的に顕著に減少させることが、特に好ましい。本発明のいくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は、管腔集中機能を持たない阻害薬に比べて、ホスホリパーゼの活性を低下させる効果が高い。ホスホリパーゼ阻害薬の管腔集中機能により、インスリン関連疾患 (糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患など、ホスホリパーゼに関連した疾患の治療に必要な効果的用量を、約5%〜約95%減らすことができる。使用するホスホリパーゼ阻害薬の量は、推奨用量と同じこともあれば、より多いこともあり、また、より少ないこともある。
【0144】
いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬の推奨用量は、約0.1 mg/kg/日〜約1,000 mg/kg/日の範囲である。人間に対する有効量は、動物モデルから決定することができる。例えば、人間の用量は、動物(下記の例に記述されたマウスモデルなど) に効果が見出された循環中濃度や消化管内濃度を達成するように、処方することができる。
【0145】
この分野で通常の技能をもつ者であれば、ホスホリパーゼの生成物 (PL A2 の生成物であるリソホスファチジルコリン (LPC) など) の量を測定することにより、ホスホリパーゼの阻害程度を測定することができる。LPCの量は例えば、食後に小腸内やリンパ液、血清中の濃度を測定することによって決定できる。ホスホリパーゼ阻害の量を測定する他の技法としては、消化器官内の流動サンプルを直接採取する方法がある。この分野で通常の技能をもつ者であれば、例えば、血清中のコレステロール値やトリグリセリド濃度を調べることにより、患者における本発明のホスホリパーゼ阻害薬の効果をモニターすることもできる。他の技法は、この分野で通常の技能をもつ者にとっては明らかである。いくつかの実施例について、ホスホリパーゼ阻害の測定や、ホスホリパーゼ阻害薬の効果を検証するアプローチは、後述の例に詳しく説明される。
【0146】
(管腔集中 PLA2)
前述のように、いくつかの実施例において、本発明のPLA2阻害薬は、好ましくは管腔集中型PLA2である。このホスホリパーゼ阻害薬は、管腔集中機能と酵素阻害機能の両方を有するようにすることができる。いくつかのスキームにおいて、このような二機能性は共同作用的に(例えば、同じ構造特徴や荷電性の特徴を使用することによって) 実現することができ、また他のスキームでは、管腔集中機能は酵素阻害機能とは独立に (異なる構造や荷電性の特徴を使用することによって)実現することができる。
【0147】
図2に示す化合物2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸 (ここではILY-4001またはメチルインドキサムとも呼ぶ) は、in-vitro Caco-2 細胞検査 (例6Bを参照) およびin-vivo の生物学的利用能研究 (例えば例6Cを参照)を使用して、その吸収性が評価されている。本発明の好ましい実施例によると、例えば、荷電の改変や、インドール部分とポリマーとの間の共有結合により、この化合物の生物学的利用能が低下する代わりに管腔集中機能を向上させることができる。(例えば共同所有PCT申請番号US/2005/____________、Charmot et al. “Phospholipase Inhibitors Localized in the Gastrointestinal Lumen” (2005年5月3日) を参照。この内容は参照によってここに組み込まれる)。
【0148】
本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、好ましくは消化器官管腔内に集中して留まり、これにより、被験者に投与した場合に、ホスホリパーゼ阻害薬の多くの部分が消化器官管腔に残る。投与後、管腔集中型ホスホリパーゼ阻害薬は、消化器官 (胃、十二指腸、小腸、大腸) に留まり、自然に通り抜ける (消化器官を経由して体外に排泄されるまで)。ホスホリパーゼ阻害薬は好ましくは、少なくとも胃と十二指腸を通過する間はかなり安定(例えば、組成や、ホスホリパーゼを阻害する機能の面で) であり、さらに好ましくは、胃、十二指腸、小腸を通過する間にかなり安定であり、最も好ましくは、全消化器官を通過する間ずっと、かなり安定である。ホスホリパーゼ阻害薬は、消化器官管腔内で作用し、例えばホスホリパーゼ基質を異化するか、または、ホスホリパーゼによる消化生成物の吸収や下流の活性を改変することができる。
【0149】
ホスホリパーゼ阻害薬は、あるアプローチにおいて、消化器官管腔内に留まり、消化器官粘膜からは吸収されない。別のアプローチでは、ホスホリパーゼ阻害薬は粘膜細胞にいったん吸収され、消化器官管腔内に排出されて戻されることにより、消化器官管腔内に集中して留まることができる。
【0150】
概して、ホスホリパーゼ阻害薬に管腔集中機能をもたせる前述のような一般的アプローチの分類に拘束されることなく、本発明の好ましいホスホリパーゼ阻害薬は (本発明のさまざまな面を考慮した上で)、いくつかの全般的な管腔集中機能の実施例によって実現できる。ある全般的な管腔集中機能の実施例において、例えば、ホスホリパーゼ阻害薬は、本発明のホスホリパーゼ阻害部分(前述のインドール関連化合物およびインドール化合物) に、あるオリゴマーまたはポリマー部分が共有結合 (直接に、または結合部分を介して間接的に結合) したものである。さらに全般的な実施例において、上記のインドール関連化合物およびインドール化合物を含め、管腔集中型ホスホリパーゼ阻害薬は、それ自体の置換有機小分子とすることができる。
【0151】
本発明のさまざまな面に含まれているそれぞれの面および実施例において一般に、阻害薬は、被験者に投与した後、被験者の消化器官管腔内に留まる。ここで被験者は被験動物、好ましくは哺乳動物であり、これにはヒトや、他の哺乳動物 (マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ネコ、イヌ、ブタ、家禽類、ウシ、ウマなど) が含まれる。「消化器官管腔」という後は、ここでは単に「管腔」とも呼ばれ、動物の内臓一般も含めた消化器官の内側の空間を指す。いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は消化器官粘膜からは吸収されない。「消化器官粘膜」とは、身体の他の部分と消化器官管腔とを分ける細胞層を指し、胃粘膜や腸粘膜、例えば小腸の粘膜などが含まれる。いくつかの実施例において、管腔集中機能は、消化器官粘膜細胞によって阻害薬がいったん吸収された後、消化器官管腔内に排出されることによって達成される。「消化器官粘膜細胞」とは、消化器官粘膜のあらゆる細胞を指し、例えば、小腸の腸細胞、結腸の腸細胞、頂端部細胞などの腸の上皮細胞が含まれる。このような排出によって、全体的な「非吸収性」が実現でき、この語および類似表現が以下用いられる。
【0152】
好ましいアプローチにおいて、ホスホリパーゼ阻害薬は、消化器官管腔から消化器官粘膜細胞にはあまり吸収されない阻害薬である。ここで「吸収されない」という表現は、使用された阻害薬のかなりの部分、好ましくは統計的にかなりの部分、より好ましくはホスホリパーゼ阻害薬の実質上すべてが、消化器官管腔内に留まることを指す。例えば、ホスホリパーゼ阻害薬の少なくとも約80%が消化器官管腔内に留まり、ホスホリパーゼ阻害薬の少なくとも約85%が消化器官管腔内に留まり、ホスホリパーゼ阻害薬の少なくとも約90%が消化器官管腔内に留まり、少なくとも約95%、少なくとも約98%、好ましくは少なくとも約99%、より好ましくは少なくとも約99.5%が消化器官管腔内に留まる。その代わり、血清中生物学的利用能の点で述べたように、ホスホリパーゼ阻害薬のうち生理学的にはごくわずかの量が、被験者に投与後に被験者の血清中に吸収されている。例えば、ホスホリパーゼ阻害薬を被験者に投与後、投与したホスホリパーゼ阻害薬の約20%未満が被験者の血清中に生じ(投与後の検出可能な血清中生物学的利用能に基づく)、好ましくはホスホリパーゼ阻害薬の約15%未満、最も好ましくはホスホリパーゼ阻害薬の約10%未満が被験者の血清中に生じる。いくつかの実施例においては、約5%未満、約2%未満、約1%未満、最も好ましくは約0.5%が、被験者の血清中に生じる。いくつかの場合において、消化器官管腔集中機能では、例えば細胞間輸送および細胞内輸送の両方について、および能動的輸送や受動的輸送について、消化器官粘膜を介した移動量を減らすことができる。このような実施例のホスホリパーゼ阻害薬は、例えば小腸の頂端部細胞を介した細胞内輸送について、消化器官粘膜細胞への浸透全体が阻害される。このような実施例においてホスホリパーゼ阻害薬は、管腔内を覆う消化器官粘膜細胞間の細胞間輸送において、「タイトな接合」を通り抜ける浸透全体が阻害される。「吸収されない」という表現は、以下「非吸収性」「非吸収」などの類似表現としても同様に以下用いられる。
【0153】
いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬または阻害部分は、ホスホリパーゼ阻害薬の特に荷電やサイズ、およびその他の物理的・化学的パラメータを改変することによって、非吸収性にすることができる。例えばいくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は、消化器官粘膜からの吸収を最小限またはゼロにするような分子構造にすることができる。薬剤の吸収性については、例えば、Lipinskyルール (“the rule of five”とも呼ばれる) などの薬力学原則を適用することによって選択できる。ガイドラインとしてLipinskyは(i) 分子量、(ii) 水素結合ドナーの数、(iii) 水素結合アクセプターの数、(iv) 水/オクタノールの分配係数 (Moriguchi logP) を示し、それぞれが特定の閾値を超えれば、一般に、全身性濃度には顕著な影響は生じない。Lipinskyet al, Advanced Drug Delivery Reviews, 46, 2001 3-26を参照。この内容は参照によってここに組み込まれる。従って、非吸収性のホスホリパーゼ阻害薬は、Lipinskyの閾値の1つまたは複数、好ましくは2つ以上、3つ以上、4つ以上、またはLipinskyの閾値すべてを上回るような分子構造を構成することによって実現できる。詳しくはLipinskiet al., Experimental and computational approaches to estimate solubility and permeability in drug discovery and development settings, Adv. Drug Delivery Reviews, 46:3-26 (2001) や、Lipinski, Drug-like properties and the causes o poor solubility and poor permeability, J. Pharm. & Toxicol. Methods, 44:235-249(2000) を参照。この内容は参照によってここに組み込まれる。いくつかの好ましい実施例において、例えば、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、次のような特性を1つまたは複数有するように構築することができる:(i) 分子量が約500 Daより大きい、(ii) NHやOHなどの水素結合ドナーとなり得るものの数が約5より大きい、(iii)O原子やN原子などの水素結合アクセプターとなり得るものの数が約10より大きい、(iv)Moriguchi分配係数が約105 より大きい、すなわちlogPが約5より大きい。下記に述べるホスホリパーゼ阻害薬やホスホリパーゼ阻害機能部分の既知の技法はすべて、非吸収性分子構造の構築に使用することができる。
【0154】
好ましくは、この化合物の浸透性は実験によってスクリーニングされる。浸透係数はこの分野の技能を有するものに知られている方法によって測定することができ、例えばCaco-2 細胞浸透性検査などがある。ヒト結腸腺癌由来細胞であるCaco-2を用いて、腸の薬剤吸収をモデル化し、浸透性に基づき化合物のランク付けをすることができる。例えば、Caco-2単層における見かけの浸透速度が1X10-7cm/sec以下の範囲で測定され、ヒトにおいてほとんど吸収されない相関関係が示されている(Artursson P, K. J. 1991)。浸透性は、消化器官粘膜のモデルとして人工膜を使用して測定することもできる。例えば、合成膜をレシチンやドデカンに浸し、消化器官粘膜の浸透特性を模することができる。この膜は、コンパートメントの隔膜として使用し、一方のコンパートメントにホスホリパーゼ阻害薬を入れ、浸透速度をモニターすることができる。("Correlation between oral drug absorption in humans and apparent drug." Biochemical and Biophysical Research Communications 175(3): 880-885を参照。)また、平行人工膜透過試験(PAMPA) を行うこともできる。このようなin vitro 測定は、実際のin vivo の浸透性を妥当に示すことができる。例えばWohnsland et al. J.Med. Chem., 2001, 44:923-930; Schmidt et al., Millipore corp. Application note, 2002, no AN1725EN00, and no AN1728EN00を参照。これらの内容は参照によってここに組み込まれる。浸透係数は、常用対数LogPeとして報告される。
【0155】
いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬の浸透係数Log Pe は、Wohnsland et al. J.Med. Chem. 2001, 44. 923-930に記載されている浸透性測定実験で測定した場合、好ましくは約-4未満、または約 -4.5未満、または約 -5未満、より好ましくは約 -5.5未満、さらに好ましくは約 -6未満である。
【0156】
記載のように、ある一般的な管腔集中型の実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は前述のインドール関連化合物およびインドール化合物などのホスホリパーゼ阻害部分と、それに結合あるいは付属する非吸収性のオリゴマーまたはポリマー部分から成り、ここでこのオリゴマーまたはポリマー部分は、疎水性部分、親水性部分、あるいは荷電部分とすることができる。いくつかの好ましい実施例において、ホスホリパーゼ阻害機能部分はポリマー部分と結合している。一般に、このようなポリマー阻害剤は、例えば荷電特性や、親水性 / 疎水性のバランスや配分、分子構造などいくつかの機能の選択または組合せにより非吸収性となるような大きさに構築され、酵素阻害機能を有する。この全般的な実施例におけるオリゴマーまたはポリマーは、好ましくは水溶性であり、好ましくはコポリマー(2種類のモノマー繰り返し単位から成るポリマーや、ターポリマー、4種以上から成るポリマーを含む) であり、例えばランダムコポリマーやブロックコポリマーを含む。オリゴマーまたはポリマーには一般に、1つまたは複数の陰イオンモノマー部分など、1つまたは複数のイオン性モノマー部分を含むことができる。オリゴマーまたはポリマーには一般に、1つまたは複数の疎水性モノマー部分を含むことができる。
【0157】
この全般的な実施例において、もう1つ具体的なアプローチとして、ポリマー部分は比較的大きな分子量とし、例えば約1000 Da〜約500,000 Da、好ましくは約5000〜約200,000Da、より好ましくは、充分に大きな分子量にって、消化器官粘膜からの吸収量 (合計) を阻害または除外することができる。大きなポリマー部分にすると、例えば比較的大きな水溶性または不溶性(架橋構造など) のポリマーに複数の阻害機能部分 (図2に関連して後述) をもたせるといった体外除去アプローチに有利となり得る。
【0158】
この全般的な実施例において、もう1つ別の具体的なアプローチとして、オリゴマーまたはポリマー部分は低分子量として、例えば約5000 Da未満とし、好ましくは約3000Da、場合によっては約1000 Daとすることができる。このアプローチにおいて好ましくは、オリゴマーまたはポリマー部分は主に疎水性ポリマーのブロックから成り、これにより水・脂質界面になじむ阻害薬にすることができる。
【0159】
(文献)
下記の参照文献には、例えば上記に述べたような、本発明に関連した、この分野における既知の情報が記載されている。場合によっては、これら参照文献は、最初の2著者名および発行年を記載することによって本発明の申請文中に記載されている。これらの参照文献の内容は参照によってここに組み込まれる。
Baker, R. R.and H. Chang (2000). "A metabolic path for the degradation of lysophosphatidicacid, an inhibitor of lysophosphatidylcholine lysophospholipase, in neuronal nuclei of cerebral cortex." Biochim Biophys Acta 1483(1):58-68.Baker, R. R. and H. Y. Chang (1999). "Evidence for two distinct lysophospholipase activities that degrade lysophosphatidylcholine and lysophosphatidic acid in neuronal nuclei of cerebral cortex." Biochim Biophys Acta 1438(2): 253-63.Carriere (1993). "Secretion and contribution to Lipolysis of Gastic and Pancreatic Lipases During a Test Mealin Humans." Gastroenterology: 876-888.Carriere, F., C. Renou, et al. (2000). "The specific activities of human digestive lipases measured from the in vivo and in vitro lipolysis of test meals." Gastroenterology119(4): 949-60.Duan, R. D. and B. Borgstrom (1993). "Is there a specific lysophospholipase in human pancreatic juice?" Biochim Biophys Acta1167(3): 326-30.Dunlop, M. E., E. Muggli, et al. (1997). "Differential disposition of lysophosphatidylcholine in diabetes compared with raised glucose: implications for prostaglandin production in the diabetic kidney glomerulus in vivo." Biochim Biophys Acta 1345(3): 306-16.el Soda, M., L.Pannell, et al. (1989)."Microencapsulated enzyme systems for the acceleration of cheese ripening." J Microencapsul 6(3): 319-26.Flieger, A., S. Gong, et al. (2001). "Novel lysophospholipase A secreted by Legionell apneumophila." J Bacteriol 183(6): 2121-4.Flieger, A., B. Neumeister, etal. (2002)."Characterization of the gene encoding the major secreted lysophospholipase A of Legionella pneumophila and its role in detoxification of lysophosphatidylcholine." Infect Immun 70(11): 6094-106.Gesta, S.,M. F. Simon, et al. (2002). "Secretion of a lysophospholipase D activity by adipocytes: involvement in lysophosphatidic acid synthesis." J Lipid Res 43(6): 904-10.McMorn, P. and G. J. Hutchings (2004)."Heterogeneous enantioselective catalysts: strategies for the immobilisation of homogeneous catalysts." Chem Soc Rev 33(2):108-22.Millan, C. G., M. L. Marinero, et al. (2004). "Drug, enzyme and peptide delivery using erythrocytes as carriers." J Control Release 95(1):27-49.Muzykantov, V. R. (2001). "Delivery of antioxidant enzyme proteins to the lung." Antioxid Redox Signal 3(1): 39-62.Ross, B. M. and S.J. Kish (1994). "Characterization of lysophospholipid metabolizing enzymes in human brain." J Neurochem 63(5): 1839-48.Sakagami, H., J. Aoki,et al. (2005). "Biochemical and molecular characterization of a novel choline-specific glycerophosphodiester phosphodiesterase belonging to the nucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase (NPP) family." J Biol Chem.Shah,N. P. (2000). "Probiotic bacteria: selective enumeration and survival in dairy foods." J Dairy Sci 83(4): 894-907.Shanado, Y., M. Kometani,et al. (2004). "Lysophospholipase I identified as a ghrelin deacylationenzyme in rat stomach." Biochem Biophys Res Commun 325(4): 1487-94.Sunaga, H.,H. Sugimoto, et al. (1995)."Purification and properties of lysophospholipase isoenzymes from pig gastric mucosa." Biochem J 308 ( Pt 2): 551-7.Taniyama, Y., S.Shibata, et al. (1999). "Cloning and expression of a novel lysophospholipase which structurally resembles lecithin cholesterol acyltransferase." Biochem Biophys Res Commun 257(1): 50-6.Tokumura, A., Y.Kanaya, et al. (2002)."Increased formation of lysophosphatidic acids by lysophospholipase D in serum of hypercholesterolemic rabbits." J Lipid Res 43(2): 307-15.Tokumura, A., E.Majima, et al. (2002)."Identification of human plasma lysophospholipase D, a lysophosphatidic acid-producing enzyme, as autotaxin, a multifunctional phosphodiesterase."J Biol Chem 277(42): 39436-42.Tosti, E., L. Dahl, et al. (1999). "Endothelial degradation of extracellular lyso-phosphatidylcholine." Scand J Clin Lab Invest 59(4): 249-57.Toyoda,T., H. Sugimoto, et al. (1999)."Sequence, expression in Escherichia coli, and characterization of lysophospholipase II." Biochim Biophys Acta 1437(2): 182-93.Walde, P. and S.Ichikawa (2001). "Enzymes inside lipid vesicles: preparation, reactivity and applications." BiomolEng 18(4): 143-77.Wang, A. and E. A. Dennis (1999). "Mammalian lysophospholipases." Biochim Biophys Acta 1439(1): 1-16.Wang, A.,H. C. Yang, et al. (1999). "A specific human lysophospholipase: cDNA cloning, tissue distribution and kinetic characterization." Biochim Biophys Acta 1437(2): 157-69.Witt, W., A. Mertsching, et al. (1984). "Secretion of phospholipase B from Saccharomyces cerevisiae." Biochim Biophys Acta 795(1): 117-24.Witt, W., M.E. Schweingruber, et al. (1984)."Phospholipase B from the plasma membrane of Saccharomyces cerevisiae.Separation of two forms with different carbohydrate content." Biochim Biophys Acta 795(1): 108-16.Wright, L. C., J. Payne, et al. (2004)."Cryptococcal phospholipases: a novel lysophospholipase discovered in the pathogenic fungus Cryptococcus gattii." Biochem J 384(Pt 2):377-84.
【実施例】
【0160】
(例1: マウスモデルにおけるインスリン抵抗性の低下)
ホスホリパーゼ阻害薬 (例えばここに公開されているホスホリパーゼ阻害機能部分から成る組成) は、マウスモデルに用いて、例えば食餌による糖尿病の発症に関連し、例えば食餌によるインスリン抵抗性の抑制を示すことができる。ホスホリパーゼ阻害薬は被験動物に対し、特定の用量(例えば約1 ml/体重kg、または約25〜約50 μl/回) の餌サプリメントまたは経口胃管BIDによって投与することができる。典型的な担体の阻害薬懸濁液は、カルボキシメチルセルロースが約0.9%、PEG-400が約9%、Tween80が約0.05%、阻害薬濃度が約5〜約13 mg/mlから成る。この懸濁液を、毎日の餌のサプリメントとして食餌重量の約0.015%未満追加するか、または経口胃管BIDで1日約10mg/体重kg〜約90 mg/体重kgを投与する。
【0161】
使用するマウス用餌は、欧米型食事 (高脂肪や高コレステロール) を模した組成にすることができる。例えば、餌には食餌重量で乳脂肪約21%、コレステロール約0.15%を含めることができ、この場合、合計カロリーの42%が脂肪由来のカロリーとなる。詳しくはHarlanTeklad, diet TD88137 を参照。餌に阻害薬を混合する場合は、研究期間中毎日、その担体を、阻害薬を含む場合も含まない場合にも、餌に混合してマウスに与えることができる。
【0162】
この研究の期間は通常約6〜約8週間であり、被験動物にはこの期間中毎日、用量を投与する。投与群は通常、各群約6〜約8匹の被験動物が含まれ、投与しない比較標準群と、担体だけの比較標準群、投与量が約10mg/体重kg〜約90 mg/体重kgの範囲の用量投与群から構成することができる。
【0163】
約6〜約8週間の研究期間終了時点で、経口グルコース負荷耐性検査やインスリン感受性検査を次のように行うことができる:
(経口グルコース負荷耐性検査)
一晩絶食後、各投与量群のマウスに、生理食塩水約50 μl中、グルコースをボーラスで与える (例えば約2 g/体重kgを胃管経由で)。グルコース投与前と、投与から約15分後、約30分後、約60分後、約120分後に尾静脈から血液サンプルを採取する。各時点の血中グルコース濃度を測定する。
【0164】
(インスリン感受性検査)
約6時間の絶食後の朝、各投与量群のマウスに、例えば腹膜投与により、ウシインスリン(例えば約1 U/体重kg) を投与する。インスリン投与前と、投与から約15分後、約30分後、約60分後、約120分後に尾静脈から血液サンプルを採取する。各時点の血漿中インスリン濃度を、例えばラジオイムノアッセイにより測定する。
【0165】
非吸収性のホスホリパーゼ阻害薬 (例えばホスホリパーゼA2阻害薬など) の効果は、インスリン抵抗性の低下である。すなわち、細胞内のグルコース代謝効率が向上したことにより、欧米型食餌(高脂肪 / 高コレステロール) を摂取する投与群の被験動物の方が、比較標準群の動物に比べて、グルコース大量投与にも耐えられる力が向上している。用量の効果についても測定することができる。
【0166】
(例2: マウスモデルにおける脂肪吸収の低下)
ホスホリパーゼ阻害薬 (例えばここに公開されているホスホリパーゼ阻害機能部分から成る組成) は、マウスモデルに用いて、例えば欧米型食餌を摂取している被験動物において、脂質吸収を低下させることができる。ホスホリパーゼ阻害薬は被験動物に対し、特定の用量(例えば約1 ml/体重kg、または約25〜約50 μl/回) の餌サプリメントまたは経口胃管BIDによって投与することができる。典型的な担体の阻害薬懸濁液は、カルボキシメチルセルロースが約0.9%、PEG-400が約9%、Tween80が約0.05%、阻害薬濃度が約5〜約13 mg/mlから成る。この懸濁液を、毎日の餌のサプリメントとして食餌重量の約0.015%未満追加するか、または経口胃管BIDで1日約10mg/体重kg〜90 mg/体重kgを投与する。
【0167】
使用するマウス用餌は、欧米型食事 (高脂肪や高コレステロール) を模した組成にすることができる。例えば、餌には食餌重量で乳脂肪約21%、コレステロール約0.15%を含めることができ、この場合、合計カロリーの42%が脂肪由来のカロリーとなる。詳しくはHarlan Teklad, diet TD88137 を参照。餌に阻害薬を混合する場合は、研究期間中毎日、その担体を、阻害薬を含む場合も含まない場合にも、餌に混合してマウスに与えることができる。
【0168】
約6〜約8週間の期間中、トリグリセリド測定を行い、被験動物にはこの期間中毎日、用量を投与する。投与群は通常、各群約6〜約8匹の被験動物が含まれ、投与しない比較標準群と、担体だけの比較標準群、投与量が約10mg/体重kg〜約90 mg/体重kgの範囲の用量投与群から構成することができる。毎週、血漿サンプルを被験動物から採取し、全トリグリセリド濃度を分析することにより、循環血中に吸収された脂質の量を測定することができる。
【0169】
非吸収性のホスホリパーゼ阻害薬 (例えばホスホリパーゼA2阻害薬など) の効果は、血漿中脂質濃度の全体的な低下である。すなわち、欧米型食餌 (高脂肪 / 高コレステロール)を摂取する投与群の被験動物の方が、比較標準群の動物に比べて、脂肪吸収が減少することが示されている。用量の効果についても測定することができる。
【0170】
(例3: マウスモデルにおける、食餌による高コレステロール血症の減少)
ホスホリパーゼ阻害薬 (例えばここに公開されているホスホリパーゼ阻害機能部分から成る組成) は、マウスモデルに用いて、例えば欧米型食餌を摂取している被験動物において、食餌による高コレステロール血症を抑制することができる。ホスホリパーゼ阻害薬は被験動物に対し、餌サプリメントまたは経口胃管BID(例えば約1 ml/体重kg、または約25〜約50 μl/回) によって投与することができる。典型的な担体の阻害薬懸濁液は、カルボキシメチルセルロースが約0.9%、PEG-400が約9%、Tween80が約0.05%、阻害薬濃度が約5〜約13 mg/mlから成る。この懸濁液を、毎日の餌のサプリメントとして食餌重量の約0.015%未満追加するか、または経口胃管BIDで1日約10mg/体重kg〜約90mg/体重kgを投与する。
【0171】
使用するマウス用餌は、欧米型食事 (高脂肪や高コレステロール) を模した組成にすることができる。例えば、餌には食餌重量で乳脂肪約21%、コレステロール約0.15%を含めることができ、この場合、合計カロリーの42%が脂肪由来のカロリーとなる。詳しくはHarlan Teklad, diet TD88137 を参照。餌に阻害薬を混合する場合は、研究期間中毎日、その担体を、阻害薬を含む場合も含まない場合にも、餌に混合してマウスに与えることができる。
【0172】
約6〜約8週間の期間中、コレステロールやトリグリセリドの測定を行い、被験動物にはこの期間中毎日、用量を投与する。投与群は通常、各群約6〜約8匹の被験動物が含まれ、投与しない比較標準群と、担体だけの比較標準群、投与量が約10mg/体重kg〜約90 mg/体重kgの範囲の用量投与群から構成することができる。毎週、血漿サンプルを被験動物から採取し、全コレステロール濃度や全トリグリセリド濃度を分析することにより、循環血中に吸収されたコレステロールや脂質の量を測定することができる。マウスの血漿コレステロールの多くはHDLに関連しているため(ヒトにおいてはコレステロールの多くはLDL関連である)、HDLと非HDLの割合を区別して、非吸収ホスホリパーゼ阻害薬が血漿中の非HDL (例えばVLDL/LDL)の濃度を低下させる効果を測定するのに利用することができる。
【0173】
非吸収性のホスホリパーゼ阻害薬 (例えばホスホリパーゼA2阻害薬など) の効果は、欧米型食餌 (高脂肪 / 高コレステロール) を摂取する投与群の被験動物の方が、比較標準群の動物に比べて、高コレステロール血症が全体的に低下することである。用量の効果についても測定することができる。
【0174】
(例4:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)の合成)
この例では、ホスホリパーゼ阻害薬または阻害機能部分として使用する化合物を合成した。具体的には、図2に示す化合物2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸が合成された。この化合物はこれらの例においてILY-4001と呼ばれ、またメチルインドキサンとも称される。
【0175】
図9には、ILY-4001の合成経路全体のアウトラインを示す。図9で、各化合物の下にある番号は、下記の実験説明の各化合物化学名に付いているカッコの番号に対応している。
【0176】
2-メチル-3-メトキシアニリン(2) [04-035-11]。水和ヒドラジン (159.7 g、3.19 mol) を攪拌しながら冷やし(約5℃)、ここに10〜20℃の85% ギ酸 (172.8 g、3.19 mol) を滴下して加えた。この混合液を、メタノール中 (1000 mL) の2-メチル-3-ニトロアニソール(1) (53.34 g、0.319 mol) 溶液に亜鉛末 (104.3 g、1.595 mol) を攪拌懸濁した液に、滴下して加えた。発熱反応が生じた。加え終わったら、反応混合液をさらに2時間攪拌し(温度が61℃ から室温になるまで)、生じた沈殿を濾過し、メタノールで洗った (3×150 mL)。濾液は減圧下で濃縮し、体積を約250 mLとした。この濃縮液をEtOAc(500 ml) と飽和NaHCO3 水溶液 (500 mL) で処理した。水相は分離し、廃棄した。この有機相を水 (300 mL) で洗い、1NHCl (800 mL) で抽出した。この酸性の抽出液を、EtOAc (300 mL) で洗い、K2CO3 (90g) で塩基性化した。EtOAc (3×200 mL) で遊離塩基 2 を抽出し、抽出液を合わせてMgSO4 で乾燥させた。濾過して、濾液から溶媒を除去した後、赤い油状の生成物2 を得た。これは、さらに精製することなく、次の段階に使用した。収量:42.0 g (96%)。
【0177】
N-tert-ブチルオキシカルボニル-2-メチル-3-メトキシアニリン(3) [04-035-12]。アミン 2 (42.58 g、0.31 mol) と重炭酸ジ-tert-ブチル(65.48 g、0.30 mol) をTHF (300 mL) に攪拌して溶液とし、これを4時間還流加熱した。室温まで冷ました後、反応混合液を減圧下で濃縮し、この液をEtOAc(500 mL) に溶かした。この液を0.5 Mクエン酸 (2×100 mL) で洗い、水 (100 mL) で洗い、飽和NaHCO3 水溶液(200 mL) で洗い、塩水 (200 mL) で洗い、最後にMgSO4 で乾燥させた。濾過して、濾液から溶媒を除去した後の残留物 (赤い油状、73.6g) をヘキサン (500 mL) に溶かし、シリカゲルパッド (TLC用) で濾過した。濾液を減圧下で蒸発させ、黄色い固体のN-Boc アニリン 3 を得た。収量:68.1g (96%)。
【0178】
4-メトキシ-2-メチル-1H-インドール(5) [04-035-13]。N-Boc アニリン 3 (58.14 g、0.245 mol) を無水THF(400 mL) に溶かし攪拌冷却 (-50℃) した溶液に、1.4 M sec-BuLiのシクロヘキサン溶液 (0.491 mol、350.7 mL) を-48〜-50℃で滴下して加え、反応混合液を放置して-20℃にした。-60℃Cに冷却した後、N-メトキシ-N-メチルアセトアミド (25.30 g、0.245 mol) のTHF溶液 (25 mL) を-57〜-60℃で滴下して加えた。-60℃で1時間、反応混合液を攪拌し、1時間放置して15℃にした。-15℃まで冷ました後、反応液に2NHCl (245 mL) を加えて反応を止め、この液に2N HClを加えてpHを約7に調整した。有機相は分離し、別に保存した。水相はEtOAc (3×100mL) で抽出した。有機相溶液を減圧下で濃縮し、残った青白い油をEtOAc (300 mL) に溶かし、EtOAc抽出液と合わせた。この液を水 (2×200mL) で洗い、0.5 Mクエン酸 (100 mL) で洗い、飽和NaHCO3 水溶液 (100 mL) で洗い、塩水 (200 mL)で洗い、最後にMgSO4 で乾燥させた。濾過して、濾液から溶媒を除去した後、最初のN-Boc アニリン 3 と中間生成物ケトン 4 (モル比は約1: 1) の混合物が、青白い油 (67.05 g) として得られた。
【0179】
得られた油を無水CH2Cl2(150 mL) に溶かし、この溶液を0〜-5℃に冷却した。トリフルオロ酢酸 (65 mL) を滴下して加え、反応混合液を放置して室温にした。16時間攪拌した後、さらにトリフルオロ酢酸(35 mL) を加え、さらに16時間攪拌を継続した。この反応混合液を減圧下で濃縮し、赤い油状の液をCH2Cl2(500 mL) に溶かした。この溶液を、水 (3×200 mL) で洗い、MgSO4 で乾燥させた。シリカゲル 60のパッドで濾過し、この濾液を減圧下で蒸発させて、黄色い固体の粗製生成物5 (27.2 g) を得た。乾燥クロマトグラフィー (シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中20% EtOAc) によって精製し、白色固体のインドール 5 を得た。収量:21.1g (53%)。
【0180】
1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル]-4-メトキシ-2-メチル-1H-インドール(6) [04-035-14]。インドール 5 (16.12 g、0.10 mol) を無水DMF(100 mL) に溶かした溶液を、攪拌しながら冷やした (約15℃) 水素化ナトリウム (0.15 mol、6.0 g、ミネラルオイル中に60%、ヘキサン100mLで洗ってから反応に使用) の懸濁液 (DMF 50 mL中) の中に滴下して加えた。この反応混合液を室温で0.5時間攪拌した。反応混合液を約5℃に冷却した後、臭化2-フェニルベンジル(25.0 g、0.101 mol) を滴下して加え、この反応混合液を室温で18時間攪拌した。水 (10 mL) およびEtOAc (500 mL) を加えて、反応を止めた。この混合液を、水(2×200 mL + 3×100 mL) で洗い、塩水 (200 mL) で洗い、MgSO4 で乾燥させた。濾過して、減圧下で濾液から溶媒を除去した後の残留物(35.5 g、赤色の粘稠な油) を乾燥クロマトグラフィー (シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中CH2Cl2 5%→ 25%) で精製し、青白い油状の生成物 6 を得た。収量:23.71 g (72%)。
【0181】
1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル]-4-ヒドロキシ-2-メチル-1H-インドール(7) [04-035-15]。メトキシ誘導体 6 (23.61 g、72.1 mmol) を無水CH2Cl2(250 mL) に溶かし攪拌冷却 (10℃) した溶液に、CH2Cl2 中のBBr31M 溶液 (300 mmol、300 mL) を15〜20℃で滴下して加え、この濃い色の反応混合物を室温で5時間攪拌した。室温まで冷ました後、反応混合液を約5℃に冷却し、あらかじめ冷やしてあった (15℃) EtOAc (450 mL) に溶かした。この溶液を、水 (3×200 mL) で洗い、塩水(200 mL)で洗い、MgSO4 で乾燥させた。濾過して、減圧下で濾液から溶媒を除去した後の残留物 (26.1 g、濃い色の半固体) を乾燥クロマトグラフィー(シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中EtOAc 5% → 25%) で精製し、茶色固体の生成物 7 を得た。収量:4.30 g (19%)。
【0182】
2-{1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イル]オキシ}酢酸メチルエステル(8) [04-035-16]。水素化ナトリウム (0.549 g、13.7 mmol、ミネラルオイル中に60%)の無水DMF (15 mL) 中懸濁液を攪拌し、ここに化合物 7 (4.30 g、13.7 mmol) のDMF (30 mL) 溶液を滴下して加え、この反応混合液を室温で40分間攪拌した。メチルブロモ酢酸(2.10 g、13.7 mmol) を滴下して加え、室温でさらに21時間攪拌を継続した。この反応混合液を、EtOAc (200 mL) で希釈し、水 (4×200mL) で洗い、塩水 (200 mL) で洗い、MgSO4 で乾燥させた。濾過して、減圧下で濾液から溶媒を除去した後の残留物 (5.37g、濃い色の半固体) を乾燥クロマトグラフィー (シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中EtOAc 5% → 30%) で精製し、黄色い固体の生成物 8 を得た。収量:4.71g (89%)。
【0183】
2-{[3-(2-アミノ-1,2-ジオキソエチル)-1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イル]オキシ}酢酸メチルエステル(9) [04-035-17]。塩化オキサリル (1.55 g、12.2 mmol) の無水CH2Cl2(20 mL) 溶液を攪拌し、ここに化合物 8 のCH2Cl2 溶液 (40 mL) を滴下して加え、この反応混合液を室温で80分間攪拌した。反応混合液を約-10℃に冷却した後、NH3 のCH2Cl2 (10 mL) 飽和溶液を滴下して加え、この反応混合液に、約0℃でNH3 (気体) を飽和させた。沈殿の生成が観察された。この反応混合物を放置して室温にし、減圧下で濃縮して乾燥させた。濃い色の固形物(6.50 g) を乾燥クロマトグラフィー (シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中30% EtOAc → 100% EtOAc) によって精製し、黄色い固体の生成物9 を得た。収量:4.64 g (83%)。
【0184】
2-{[3-(2-アミノ-1,2-ジオキソエチル)-1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イル]オキシ}酢酸(ILY-4001) [04-035-18]。化合物 9 (4.61 g、10.1 mmol) をTHF(50 mL) および水 (10 mL) の混合液に溶かし、溶液を攪拌し、水酸化リチウム一水和物 (0.848 g、20.2 mmol) を水 (20 mL)に溶かした溶液を少しずつ加え、この反応混合液を室温で2時間攪拌した。水 (70 mL) を加えた後、この反応混合液を減圧下で濃縮し、体積を約100 mL とした。黄色い沈殿の生成が観察された。この黄色いスラリーに、2NHCl (20 mL) とEtOAc (200 mL) を加え、この混合液を室温で16時間攪拌した。黄緑色の沈殿を濾過し、これをEtOAc (3×20 mL)、Et2O(20 mL)、ヘキサン (20 mL) で洗った。減圧下で乾燥し、青白い固体の生成物 (2.75 g) を得た。MS:443.27 (M++ 1)。元素分析:C26H22N2O5 + H2Oの計算値:C,67.82、H, 5.25、N, 6.08。実測値:C, 68.50、H, 4.96、N, 6.01。HPLC:純度96.5%。1HNMR (DMSO-d6) δ7.80 (br s, 1H)、7.72-7.25 (m, 9H)、7.07 (t, 1H)、6.93 (d,1H)、6.57 (d, 1H)、6.43 (d, 1H)、5.39 (s, 2H)、4.68 (s, 2H)、2.38 (s, 3H)。
【0185】
この濾液の水相を分離して捨て、有機相を塩水 (100 mL) で洗い、MgSO4 で乾燥させた。濾過し、濾液の溶媒を減圧下で除去し、残った緑色の固形物をEtOAc (3×10 mL)、Et2O (10 mL)、ヘキサン (10 mL) で洗った。減圧下で乾燥し、緑色っぽい固体の生成物の追加分(1.13 g) を得た。
合計収量:2.75g + 1.13 g = 3.88 g (87%)。
【0186】
(例5:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)のPLA2-IB阻害薬としてのIn-Vivo評価と、食物関連疾患の治療)
この例は、図2に示す化合物2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸が、効果的なホスホリパーゼ-2A IB阻害薬であることを示し、遺伝的欠損のあるPLA2 (-/-) マウスの効果に近い、または匹敵する表現型効果を有することを示している。この例ではまた、この化合物(またはその誘導体部分) が、体重関連疾患やインスリン関連疾患、コレステロール関連疾患 (特に、肥満や糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症などを含む)などの治療に有効であることも示している。この例では、化合物[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] はILY-4001 (またはメチルインドキサムとも呼ぶ) と称される。
【0187】
ILY-4001(図2) は、野生型マウスおよび遺伝子欠損のあるPLA2 (-/-) マウス (PLA2ノックアウト (KO) マウスとも呼ばれる) を用いた一連の実験において、PLA2 IB阻害薬として評価された。これらの実験において、野生型マウスとPLA2 (-/-) マウスは高脂肪 / 高糖類食餌を摂取した。この詳細を下記に述べる。
【0188】
ILY-4001は、1-パルミチトイル-2-(10-ピレンデカノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール検定(PLA2 IB酵素で処理した担体からのピレン基質放出を測定) において、ヒトPLA2 IB酵素に対するIC50測定値が約0.2 uM、マウスPLA2 IB酵素に対しては0.15uMである (Singer, Ghomashchi et al. 2002)。実験研究により、IC-50値が約0.062と測定された。(例6Aを参照)。メチルインドキサムは、マウスおよびヒトの膵臓PLA2に対する活性に加え、低pHでも安定なため、胃を通過しても問題がないと予測される。Caco-2検査(例6Bを参照) および薬力学研究 (例6Cを参照) の結果から、ILY-4001は消化器官管腔による吸収が比較的低いことがわかる。
【0189】
この例5の研究では、治療群として24匹のマウスが使用された。詳細を下の表4に示す。簡単に説明すると、4つの群に分けられ、各群にはマウス6匹ずつが含まれる。このうち3つの群は、野生型PLA2(+/+) マウスが6匹ずつ属し (合計18匹)、残る1群には遺伝子欠損のあるPLA2 (-/-) マウス6匹が含められた。野生型群の1つは、野生型の比較標準群として用い、ILY-4001の投与は行わなかった。他の2つの野生型群にはILY-4001が投与された。1つの群には25mg/kg/日の低用量 (表1にはLと記載)、もう1つの群には90 mg/kg/日の高用量 (表1にはHと記載) を投与した。PLA2 (-/-) の群は、陽性比較標準群として用いた。
【0190】
【表4】
この研究に使用した実験プロトコルは次の通りである。野生型および同遺伝子型PLA2 (-/-) C57BL/Jマウスを含む、4つの群のマウスは、低脂肪 / 低炭水化物食に3日間順化させた。3日間の順化の後、一晩絶食させ、血清サンプルを採取して血漿中コレステロール値、トリグリセリド濃度、グルコース濃度のベースラインを確定し、また体重のベースラインも得た。各処置群のマウスに、高脂肪/ 高糖類の糖尿病誘発性食を与えた (Research Diets D12331)。高脂肪 / 高糖類のD12331食1000 gには、カゼイン (228g)、DL-メチオニン(2g)、マルトデキストリン10 (170g)、蔗糖 (175g)、大豆油 (25g)、水素化ココヤシ油 (333.5g)、ミネラルミックス S10001(40g)、重炭酸ナトリウム (10.5g)、クエン酸カリウム (4g)、ビタミンミックス V10001 (10g)、重酒石酸コリン (2g) 画布汲まれている。この食餌にILY-4001投与を追加し、結果として体重25gのマウスが消化する同化合物の日平均用量が次のようになるようにした:0mg/kg/日 (野生型比較標準群およびPLA2 (-/-) 比較標準群); 25 mg/kg/日 (野生型低用量投与群)、90 mg/kg/日 (野生型高用量投与群)。被験動物は10週間にわたり高脂肪/ 高糖類食を継続し、指定のILY-4001投与を受けた。
【0191】
処置開始時と、研究開始から4週後および10週後の時点で、全投与群および比較標準群の全被験動物について体重が測定された。(例5Aを参照)。また、処置開始時と研究開始から4週後および10週後の時点で血液も採取され、空腹時グルコース濃度が測定された(例5Bを参照)。コレステロールおよびトリグリセリド濃度は、処置開始時 (ベースライン) および10週後に採取された血液で測定された。(例5Cを参照)。
【0192】
(例5A:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)のPLA2-IB阻害薬としてのIn-Vivo評価における体重増加)
【0193】
例5において概要が述べられているこの研究では、処置開始時と、研究開始から4週後および10週後の時点で、全投与群および比較標準群の全被験動物について体重が測定された。高脂肪/ 高糖類の糖尿病誘発性食にILY-4001を付加した上記の処置プロトコルを使用した場合、体重増加の顕著な減少が見られた。
【0194】
図3を参照し、ILY-4001を投与されていない野生型マウス(第1群、野生型比較標準) の体重増加は、研究開始から4週まで、予測されたパターン通りかなりの体重増加が起こり、10週後には体重増加はさらに倍増した。これに対し、PLA2(-/-) マウス (PLA2 KOマウス) もILY-4001の投与は受けておらず、同じ食餌を与えられているが (第4群、PLA2 (-/-) 比較標準)、4週〜10週の間には統計的に有意な変化は見られず、研究期間全体での体重増加はごくわずか(5 g未満) であった。2つの処置群 (25 mg/kg/日および90 mg/kg/日) では、野生型比較標準群に比べ、4週後と10週後の体重増加が顕著に減少した。両処置群とも、4週後の体重増加は、PLA2(-/-) マウスでの体重増加にかなり近い値を示した。低用量処置群は、10週後の体重増加は、PLA2 (-/-) マウスでの体重増加に匹敵する値を示した。
【0195】
(例5B:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)のPLA2-IB阻害薬としてのIn-Vivo評価における空腹時血清グルコース濃度)
例5において概要が述べられているこの研究では、処置開始時と研究開始から4週後および10週後の時点で血液が採取され、空腹時グルコース濃度が測定された。高脂肪/ 高糖類の糖尿病誘発性食にILY-4001を付加した上記の処置プロトコルを使用した場合、空腹時血清グルコース濃度の顕著な減少が見られた。
【0196】
図4を参照して、野生型比較標準マウス(第1群) は高い血漿グルコース濃度を維持しており、4週後と10週後において高脂肪 / 高糖類の糖尿病誘発性食に見合った結果となった。これに対してPLA2(-/-) KOマウス (第4群) では、4週後と10週後における空腹時グルコース濃度が統計的に有意な減少を示した。これは、この糖尿病誘発性食を摂っているマウスでは通常見られないような、インスリンに対する感受性の高さを示している。高用量ILY-4001処置群(第3群) も、4週後と10週後における空腹時グルコース濃度が、同様に低下した。これは、高脂肪 / 高糖類を摂る野生型マウスに比べ、この群のインスリン感受性が向上しており、PLA2(-/-) KOマウスの表現型に近いことを示す。低用量ILY-4001処置群 (第2群) は、4週後ではある程度の効果が見られたが、10週後では有益な効果は観察されなかった。
【0197】
(例5C:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)のPLA2-IB阻害薬としてのIn-Vivo評価における血清コレステロールおよびトリグリセリド濃度)
例5において概要が述べられているこの研究では、処置開始時と研究開始から10週後の時点で血液が採取され、コレステロールおよびトリグリセリド濃度が測定された。高脂肪/ 高糖類の糖尿病誘発性食にILY-4001を付加した上記の処置プロトコルを使用した場合、血清コレステロール値と血清トリグリセリド濃度の両方において、顕著な減少が見られた。
【0198】
図5Aおよび5Bを参照して、高脂肪/ 高糖類食の開始から10週後に、野生型比較標準の被験動物 (第1群) は、研究開始時に測定したベースラインと比較して、血中コレステロール値 (図5A) とトリグリセリド濃度(図5B) の両方においてかなり顕著な増加が見られた。これに対しPLA2 (-/-) KOの被験動物 (第4群) は、これら脂質の同じような増加は示さなかった。コレステロール値およびトリグリセリド値はそれぞれ、野生型比較標準群の2分の1から3分の1であった。ILY-4001処置群は、高用量(第2群) でも低用量 (第3群) でも明らかに、血漿中コレステロール値とトリグリセリド値は顕著に低下し、PLA2 (-/-) KOマウスに匹敵する有益な効果が得られた。
【0199】
(例6: 特性研究− ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸])
この例では、ILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (ここではメチルインドキサムと呼ぶ)の特性を調べる。IC50検査によって活性を調べ (例6A)、in-vitro Caco-2検査によって細胞吸収を調べ (例6B)、in-vivo マウス研究によって生物学的利用能を調べる(例6C)。
【0200】
(例6A:IC-50研究 − ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸])
この例では、ILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (ここではメチルインドキサムと呼ぶ)のIC50活性値を評価する。
【0201】
ICを測定するには、文献に記載されているPLA2活性の連続蛍光測定法を用いた((Leslie, CC and Gelb, MH (2004) Methods in Molecular Biology "Assaying phospholipase A2 activity", 284: 229-242, Singer, AG, et al. (2002)Journal of Biological Chemistry "Interfacial kinetic and binding properties of the complete set of human and mouse groups I, II, V, X, and XII secreted phospholipases A2", 277: 48535-48549, Bezzine, S, et al. (2000)Journal of Biological Chemistry "Exogenously added human group X secreted phospholipase A(2) but not the group IB, IIA, and V enzymes efficiently releasearachidonic acid from adherent mammalian cells", 275: 3179-3191)。
【0202】
全般に、この検査には、sn-2 脂肪アシル鎖の端にピレンフルオロフォアを有するホスファチジルグリセロール (またはホスファチジルメタノール) 基質を使用した。理論に拘束されることなく、リン脂質担体にある近隣リン脂質とピレンとの近さにより、モノマーピレンの性質とは異なるスペクトル特性が現われる。ウシの血清アルブミンが水相にあり、PLA2触媒反応によりグリセロール主鎖から放出されるピレン脂肪酸を捕捉する。ただしこの検査では、強い阻害薬が、グリセロール主鎖からのピレン脂肪酸放出を阻害することがある。よって、図7Aのスキーム1に示すように、この特性により、アルブミン結合ピレン脂肪酸の蛍光をモニターすることによって、感度の高いPLA2阻害検査が可能になる。任意のホスホリパーゼに対する、任意の阻害薬の効果と阻害薬濃度を、測定することができる。
【0203】
この例では、次の試薬および機器を一般業者から入手した:
1.ブタPLA2 IB
2.1-ヘキサデカノイル-2-(1-ピレンデカノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール(PPyrPG)
3.1-ヘキサデカノイル-2-(1-ピレンデカノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホメタノール(PPyrPM)
4.ウシ血清アルブミン(BSA、無脂肪酸)
5.2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール塩酸(Tris-HCl)
6.塩化カルシウム
7.塩化カリウム
8.溶媒: DMSO、トルエン、イソプロパノール、エタノール
9.Molecular Devices SPECTRAmax マイクロプレート分光蛍光計
10.Costar 96 ウェル・黒色ウォール/ 透明ボトムプレート。
【0204】
この例では、次の試薬を調製した:
1.PPyrPG (orPPyrPM) ストック溶液 (1 mg/ml) (トルエンとイソプロパノールを1:1で混合した溶媒中)
2.阻害薬ストック溶液(10 mM) (溶媒:DMSO)
3.3% (w/v) ウシ血清アルブミン(BSA)
4.ストック緩衝溶液:50 mM Tris-HCl、pH 8.0、50 mM KCl、1 mM CaCl2。
【0205】
この例では、次の手順を実施した:
1.ストック緩衝溶液47 mlに3% BSAを3 ml加えて、検査用緩衝溶液を調製した。
2.希釈した阻害薬を順に検査用緩衝溶液に加え、溶液Aを調製した。阻害薬は8〜15 uMの範囲で、3倍に希釈した。
3.PLA2を検査用緩衝溶液に加え、溶液Bを調製した。この溶液は、酵素活性の損失を防ぐため、使用の直前に調製した。
4.PPyrPG ストック溶液30ulを、エタノール90 ulに加え、次にPPyrPG溶液120 ul全部を、約1分間かけて滴下により、検査用緩衝溶液8.82 mlに攪拌しながら連続的に加えていき、最終濃度が4.2uMのPPyrPG 担体溶液として、溶液Cを調製した。
5.TRAmax マイクロプレート分光蛍光計は37℃に設定した。
6.Costar 96 ウェル・黒色ウォール/ 透明ボトムプレートの阻害検査ウェルそれぞれに、溶液Aを100 ul加えた。
7.Costar 96 ウェル・黒色ウォール/ 透明ボトムプレートの阻害検査ウェルそれぞれに、溶液Bを100 ul加えた。
8.Costar 96 ウェル・黒色ウォール/ 透明ボトムプレートの阻害検査ウェルそれぞれに、溶液Cを100 ul加えた。
9.分光蛍光計のチャンバー内で3分間、プレートを保温した。
10.励起342 nm、放射395nmの設定を用いて、蛍光を測定した。
【0206】
この例では、Bio Data Fit1.02 (4パラメータモデル) ソフトウェアパッケージを用いてIC50を算出した。曲線を生成する式は:
【0207】
【数1】
ここで:αは上の漸近線の値、βは下の漸近線の値、κ は縮尺、γは下記の変曲点のx座標を示す係数
【0208】
【数2】
ここで α,β,κ,γ>0、β < α、β < γ < α が拘束条件となる。
【0209】
図7Bに示されている結果より、50%最大PLA2活性となるILY4001濃度は、0.062uMと算出された。
【0210】
(例6B:Caco-2吸収研究 − ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸])
この例では、Caco-2細胞を用いたin-vitro検査を用いて、ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] (ここではメチルインドキサムと呼ぶ) の小腸吸収を評価する。
【0211】
簡単に説明すれば、ヒト結腸腺癌由来細胞であるCaco-2を用いて、腸の薬剤吸収をモデル化するものである。Caco-2単層における見かけの浸透速度が1X10-7cm/sec以下の範囲で測定され、ヒトにおいて比較的ほとんど吸収されない相関関係が示されている。(Artursson,P., K. Palm, et al. (2001). "Caco-2 monolayers in experimental and theoretical predictions of drug transport." Adv Drug Deliv Rev46(1-3): 27-43)。
【0212】
化合物の浸透性を測定するには、Caco-2 細胞 (ATCC) を、6X104cells/cm2 の密度で、24ウェルのトランスウェル(Costar) に入れる。37°C、湿度95%、空気95%、CO2 5% の条件下、MEM (Mediatech) 中で単層として成長し、20%FBS、100 U/ml ペニシリン、100 ug/ml ストレプトマイシンの追加によって差別化する。この培養基は、48時間ごとに交換した。21日後、HBSSとHEPESから成る輸送緩衝溶液で細胞を洗い、各ウェルについて経上皮電気抵抗(TEER) を測定することにより、単層の完全性を評価した。TEER値が350 ohm-cm2 以上のウェルについて、検査を行った。
【0213】
ILY-4001およびプロパノロール(細胞内輸送の比較標準) を輸送緩衝溶液で希釈して50 ug/mlにし、ウェルに個別に追加した。15分、30分、45分、1時間、3時間、6時間時点で底部側方ウェルからサンプル150ulを採取してLC/MS分析にかけた。サンプルを採取した後は、採取分の量を、温めた輸送緩衝溶液で補充した。見かけの浸透速度 (cm/s) は、次の式で算出される:
Papp= (dQ/dt)X(1/C0)X(1/A)
ここでdQ/dt は、経時的にサンプル採取した量についての浸透速度、C0は初期濃度、Aは単層の表面積 (0.32 cm2) である。実験の終わりにTEER測定を再度行い、350 ohm-cm2を下回っているウェルについては、単層の完全性が損なわれているため、これらの分析は無効であることを意味する。最後に、ウェルを輸送緩衝溶液で洗い、100 uMのLucifer Yellowをウェルに追加した。15分、30分、45分時点でサンプルが採取され、LC/MS分析によって、細胞間輸送を測定した。
【0214】
ILY-4001に関するCaco-2浸透性研究の結果を図8Aに示す。ILY-4001の見かけの浸透速度(cm/s) は約1.66 x 10-7 と測定された。細胞間輸送および細胞内輸送の比較標準としてのLucifer Yellowとプロパノロールの透過性結果も測定された。この結果を図8Bに示す。測定された見かけの浸透速度(cm/s) は、プロパノロールについては約1.32 x 10-5 、Lucifer Yellowについては約2.82 x 10-7+/- 0.37x 10-7 であった。
【0215】
(例6C: 薬力学研究− ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸](メチルインドキサム))
この例では、ILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (ここではメチルインドキサムと呼ぶ)の生物学的利用能を評価する。具体的には、投与後の全身循環血中における不変ILY-4001の割合の測定を行った。
【0216】
生物学的利用能は、AUC-経口 / AUC-静脈血 (IV) の比として算出された。この比を得るために、被験動物の最初の群に一定量のILY-4001を静脈血注入(IV) し、投与後、いくつかの時点 (例えば5分後から24時間後まで) における血液中のILY-4001濃度を測定した。別の被験動物群において、経口投与で同様に行い、投与後、いくつかの時点(例えば30分後から24時間後まで) における血液中のILY-4001濃度を測定した。全身循環血中のILY-4001濃度は、一般的に行われている方法で測定された(例えばEvans, G., A Handbook of Bioanalysis and Drug Metabolism. Boca Raton, CRC Press (2004) を参照)。具体的には、液体シンチレーション/質量分析計/質量分析計 (LC/MS/MS) 分析法を用いて、経口投与および静注投与後のILY-4001の血漿中濃度を定量した。測定された薬力学パラメータは、Cmax、AUC、tmax、t1/2、F(生物学的利用能) であった。
【0217】
この手順では、ILY-4001の用量は静注投与で3mg/kg、経口投与で30 mg/kgとした。この研究結果が表5にまとめられている。経口投与では、生物学的利用能が元の投与量の28%と測定された。これは、ILY-4001が消化器官から吸収されて全身循環血には行かない量が、72%であることを示している。
【0218】
【表5】
この特許明細書中に言及されている公開情報および特許申請はすべて、個々の公開情報や特許、特許申請が具体的かつ個別に記述されるのと同様に、参照によってここに組み込まれる。
【0219】
添付の請求項の主旨あるいは範囲から外れることなく、これに対してさまざまな変更ができることは、この分野の通常の技能を有する者にとっては評価でき、このような変更は本発明の範囲内に考慮される。
【図面の簡単な説明】
【0220】
【図1】図1は、リン脂質が加水分解されて、対応するリソリン脂質となる化学反応において、ホスホリパーゼ-A2酵素(PLA2) が触媒として作用する様子を示す図解である。
【図2】図2は、[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] (ここではILY-4001およびメチルインドキサムとも呼ぶ) の化学構造である。
【図3】図3は例5Aの結果をグラフで表わしたものである。ILY-4001を低用量投与されたマウス群(4001-L) と高用量投与されたマウス群 (4001-H) の体重増加を、野生型の比較標準群 (Control) および遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) ノックアウトマウス (PLA2 KO) と比較している。
【図4】図4は例5Bの結果をグラフで表わしたものである。ILY-4001を低用量投与されたマウス群(4001-L) と高用量投与されたマウス群 (4001-H) の空腹時血清グルコース濃度を、野生型の比較標準群 (Control) および遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) ノックアウトマウス (PLA2 KO) と比較している。
【図5A】図5Aは、例5Cの結果をグラフで表わしたものである。ILY-4001を低用量投与されたマウス群(4001-L) と高用量投与されたマウス群 (4001-H) の血清コレステロール値を、野生型の比較標準群 (Control) および遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) ノックアウトマウス (PLA2 KO) と比較している。
【図5B】図5Bは、例5Cの結果をグラフで表わしたものである。ILY-4001を低用量投与されたマウス群(4001-L) と高用量投与されたマウス群 (4001-H) の血清トリグリセリド濃度を、野生型の比較標準群 (Control) および遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) ノックアウトマウス (PLA2 KO) と比較している。
【図6A】図6Aは、インドール化合物の化学構造を示したものである。
【図6B】図6Bは、インドール関連化合物の化学構造を示したものである。
【図6C】図6Cは、インドール化合物の化学構造を示したものである。
【図6D】図6Dは、インドール化合物の化学構造を示したものである。
【図7A】図7Aは、PLA2 IB酵素阻害を評価するためのin-vitro 蛍光測定分析の図解である。
【図7B】図7Bは、PLA2 IB酵素阻害を評価するためのin-vitro 蛍光測定分析によりILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] を評価した例6Aの結果をグラフで示したものである。
【図8A】図8Aは、例6Bで、ILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] についてのin-vitro Caco-2浸透性研究の結果 (図8A)である。
【図8B】図8Bは、例6Bで、ルシファーイエローおよびプロプラノロールを細胞間輸送および細胞内輸送の比較標準として用いた結果(図8B) である。
【図9】図9は、例4に記したILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] の全体的な合成経路をまとめた、化学式を含む図解である。
【技術分野】
【0001】
(関連申請)
この特許申請は、共同所有・共同申請の米国特許申請Serial No. 10/838,879 (“Phospholipase Inhibitors Localized in the Gastrointestinal Lumen”、2004年5月3日、Hui et al.により申請) に優先する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ホスホリパーゼは、膜の流動性・安定性の調節、リン脂質の消化・代謝、および炎症経路や血行調整その他の細胞プロセスに関連する細胞内メッセンジャーの生成など、さまざまな生化学的プロセスに重要な役割を果たす酵素群である。ホスホリパーゼは、選択的リン酸化、pH、細胞内カルシウム濃度などの、さまざまなメカニズムによって自己調節が行われている。ホスホリパーゼの活性を調整することによって、関連する生化学プロセスを調節するようにすることができ、この目的でこれまでに数多くのホスホリパーゼ阻害薬が開発されている。
【0003】
この分野では、数多くのホスホリパーゼ-A2 (PL A2または PL A2) 阻害薬が知られている。PL A2 阻害薬には例えば、小分子阻害薬やリン脂質類似体、遷移状態類似体化合物などがある。これら小分子阻害薬は、例えば、炎症状態に関連する適応のために開発されたものが多い。知られているホスホリパーゼ-A2としては次のような例があり、この他にもあり得る:アルキノイル安息香酸、チオフェンカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸(例:特許文献1を参照)、カルボン酸アミド誘導体 (例:特許文献2を参照)、アミノ酸エステルおよびアミド誘導体 (例:特許文献3を参照)、アミノテトラゾール(例:特許文献4を参照)、アリルオキシアシルチアゾール (例:特許文献5を参照)、アゼチジノン (例:特許文献6を参照)、ベンゼンスルホン酸誘導体 (例:特許文献7を参照)、安息香酸誘導体(例:特許文献8を参照)、ベンゾチオフェン (例:特許文献9を参照)、ベンジルアルコール (例:特許文献10を参照)、ベンジルフェニルピリミジン (例:特許文献11を参照)、ベンジルアミン(例:特許文献12を参照)、シナモン酸化合物 (例:特許文献13を参照)、シナモン酸誘導体 (例:特許文献14を参照)、シクロヘプタインドール (例:特許文献15を参照)、エタンアミンベンゼン、イミダゾリジノン、チアゾールジノン、ピロリジノン(例:特許文献16を参照)、インドールグリオキサミド (例:特許文献17を参照)、インドールグリオキサミド (例:特許文献18を参照)、インドール (例:特許文献19および 特許文献20を参照)、インドリ (例:特許文献21を参照)、インドリ含有スルホンアミド、N-シル-N-シナモニルエチレンジアミン誘導体 (例:特許文献22を参照)、ナフィルアセトアミド(例:特許文献23を参照)、N-置換グリシン (例:特許文献24を参照)、リン脂質Phosopholipid誘導体 (例:特許文献25および特許文献26を参照)、ピペラジン(例:特許文献27を参照)、ピリドンおよびピリミドン (例:特許文献28を参照)、6-カルバモイルピコリン酸誘導体 (例:特許文献29を参照)、ステロイド、およびアミノ含有側鎖をもつ、ステロイドの環状炭化水素類似体(例:特許文献30を参照)、トリフルオロブタノン (例:特許文献31および特許文献32を参照)、アビエチン酸誘導体 (例:特許文献33を参照)、ベンジルホスフィン酸エステル(例:特許文献34)。
【0004】
膵臓ホスホリパーゼA2 IB (PLA2 IB) は、リン脂質の消化・処理の役割を担っていると考えられている。例えばPLA2 IBは、ホスファチジルコリン(PC) を代謝により分解し、リソホスファチジルコリン (LPC) と遊離脂肪酸 (FFA) を反応生成物として生成する作用を有する酵素である。胆汁リン脂質が腸粘液内のコレステロール摂取を遅らせることと、PCの脂肪分解がコレステロール吸収のために必要な前準備であることが報告されている。(非特許文献1、非特許文献2)。さらに、ホスファチジルコリンがコレステロール吸収を遅らせるという事実は、ラットおよび人間に投与した研究でも明らかにされている。例えば、PLA2 IB がコレステロール・胆汁酸・トリグリセリドの混合ミセル中で行うPCの代謝は、コレステロールを腸細胞に吸収するための最初の段階であることが報告されている。(非特許文献3)。また、PLA2 IB活性は、リン脂質を含む小胞内における、膵臓リパーゼ/コリパーゼ媒介によるトリアシルグリセロール加水分解に必要であり、これも消化器官からのトリグリセリド吸収のために必要な前準備段階である。(非特許文献4)。PLA2 IB阻害薬は、ラットを用いたリンパ瘻の実験で、コレステロール吸収を低下させることが示されている。(非特許文献5)。
【0005】
また最近、遺伝子操作によりPLA2欠損 (PLA2 (-/-) マウス、またここではPLA2ノックアウトマウスとも呼ぶ) を用いた研究では、PLA2 (-/-) マウスに通常の食餌を与えたところ、そのコレステロール吸収効率と血漿中脂質濃度は野生型マウスPLA2(+/+) とほぼ同じであった。(非特許文献6)。同じ研究で、PLA2 (-/-) 群では、膵臓PLA2活性がないにもかかわらず腸内PCが完全に加水分解されていたことも示された。この研究により、ホスホリパーゼ活性を有する1つまたは複数の他の酵素が、PLA2活性を補償し、リン脂質に触媒として作用しコレステロール吸収を促進していることが示された。この観察結果より、コレステロール吸収を鈍らせるためにこれまで投与されていたPLA2阻害薬(例えばHomanらの特許文献35参照) は、おそらくPLA2に対して非選択的 (非特異性) であることが予想される。すなわち、これらの阻害薬は明らかに、PLA2以外のホスホリパーゼ(例えばホスホリパーゼB) も阻害し、これら他の酵素がPLA2活性の欠乏を補おうとするのを阻んでいる。したがって、PLA2を阻害することは、コレステロール吸収の低下に必要ではあるが、通常の食餌を与えたマウスにおいてコレステロール吸収を低下させるにはこれだけでは充分ではないと結論づけられる。
【0006】
さらに、PLA2ノックアウトマウスを用いた別の研究では、高脂肪・高コレステロール食餌を与えられたマウスにおいて、食餌による肥満と肥満によるインスリン抵抗性に対し、有益な影響があったことが報告されている。(非特許文献6). 特に、野生型マウスとPLA2 (-/-) マウスを正常な食餌で管理した場合、体重増加には差が見られなかったことは、過去の研究報告 (非特許文献7) とも合致している。しかしながら、高脂肪・高コレステロール食餌を投与した場合、野生型PLA2(+/+) マウスと比べると、PLA2 (-/-) マウスには、次のような結果が生じたことが報告されている: 16週間で体重増加が減少し、一方野生型マウスでは脂肪が増加したため、体重の差が観察された;空腹時の血漿中レプチン濃度がかなり低下した; グルコース負荷耐性が向上した; 高脂肪食餌によって起きるインスリン抵抗性に対する防御力が向上した。しかしながら、高脂肪・高コレステロール食餌を投与した野生型PLA2(+/+) マウスとPLA2 (-/-) マウスにおいて、血漿中の遊離脂肪酸、コレステロール、トリグリセリド濃度については、明らかな差は見られなかった。PLA2(-/-) マウスでは便に含まれる脂肪量が増加していることが明らかになっているが、明白な脂肪便を起こしているわけではなく、脂肪吸収がやや減少しただけであることが示されている。
【0007】
米国で糖尿病を患う人は1820万人にのぼり、人口の6%以上を占めている。糖尿病とは、インスリンの生成または適切な利用ができなくなっている疾患である。2型糖尿病(別名・非インスリン依存性糖尿病、NIDDM) は糖尿病と診断された患者の80〜90%を占め、インスリン抵抗性により起こる。2型糖尿病におけるインスリン抵抗性とは、血漿中のインスリン濃度が正常〜高値であるにもかかわらず、血中グルコース濃度を好ましい範囲に保つことができない状態である。
【0008】
肥満は、2型糖尿病の主要因のひとつであり、冠状血管心疾患、骨関節症、呼吸障害、一部の癌など、さまざまな疾患の要因にもなっている。体重増加を抑制しようとするさまざまな試みにもかかわらず、米国をはじめとする先進諸国では、肥満が常に、深刻な健康問題のひとつである。実際、米国の成人の60%以上が体重超過であると見なされ、医学的に肥満とされる人は約22%にのぼる。
【0009】
食べ物も、非HDLコレステロールなどの血漿中のコレステロール値を上げる要因となり、他の脂質関連の疾患にも寄与する。この脂質関連の疾患は、一般に脂質代謝異常と呼ばれ、高コレステロール血症や高トリグリセリド血症などさまざまな徴候を含む。非HDLコレステロールは、アテローム発生およびその続発症、すなわち動脈硬化や冠状動脈疾患、心筋梗塞、虚血性脳卒中などの心臓病を含む心臓血管疾患と密接な関係がある。これらを合わせると、先進諸国において予防可能な疾患の中で筆頭に挙げられる。実際米国では1200万人が冠状動脈疾患を有しており、高コレステロールで治療が必要な人は約3600万人にのぼると見積られている。
【0010】
高コレステロール血症患者では、LDLコレステロールを低くすることが治療の主目的となる。ヒドロキシメチルグルタリル-コエンザイムA (HMG-CoA) 還元酵素阻害薬 (スタチン)が、血清中LDLコレステロール値を下げるのに使用されていることが報告されている。しかしながら、スタチン系薬剤の使用に関しては、肝不全や横紋筋融解 (筋肉の病変) など重篤で命に関わり得る副作用が報告されている。最近では、コレステロール阻害薬として、単独投与またはスタチンとの併用で、エゼチミブが使用されるようになった。高トリグリセリド血症の患者では、血清中の高トリグリセリド濃度を下げるためにフィブレート(ジェムフィブロジルなど) が使用されている。しかし、この薬を使用した患者の一部から消化器官の副作用が報告され、またスタチンとジェムフィブロジルを併用投与された一部患者で、明らかな筋炎が生じたことが報告されている。腎不全や肝不全、腎臓・肝臓機能障害は、ジェムフィブロジル投与が相対禁忌となる。これは、同薬の約60〜90%が腎臓で処理され、残ったものが肝臓で分解されると見られているためである。特に、高トリグリセリド血症は高コレステロール血症と深くリンクしている可能性がある。トリグリセリド濃度が400〜1000mg/dlの患者は、LDLコレステロールも10〜30%増加していることがある。高トリグリセリド血症でHDLコレステロールが低い患者に対しては、血清HDLコレステロールを高め、血清トリグリセリド濃度を低くするために、ニコチン酸が使用される。この主な副作用は、一部の患者に皮膚の紅潮が起こることである。(例えば一般には、非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10を参照)。
【特許文献1】米国特許第5,086,067号明細書
【特許文献2】国際公開第91/08737号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2002/008189号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,968,963号明細書
【特許文献5】国際公開第00/034254号パンフレット
【特許文献6】国際公開第97/02242号パンフレット
【特許文献7】米国特許第5,470,882号明細書
【特許文献8】特開平8−325154号公報
【特許文献9】国際公開第02/000641号パンフレット
【特許文献10】米国特許第5,124,334号明細書
【特許文献11】国際公開第00/027824号パンフレット
【特許文献12】米国特許第5,039,706号明細書
【特許文献13】特開平7−252187号公報
【特許文献14】米国特許第5,578,639号明細書
【特許文献15】国際公開第03/016277号パンフレット
【特許文献16】国際公開第03/031414号パンフレット
【特許文献17】米国特許5,654,326号明細書
【特許文献18】国際公開第99/56752号パンフレット
【特許文献19】米国特許第6,630,496号明細書
【特許文献20】国際公開第99/43672号パンフレット
【特許文献21】国際公開第00/3048122号パンフレット
【特許文献22】国際公開第96/03371号パンフレット
【特許文献23】欧州特許第77927号明細書
【特許文献24】米国特許第5,298,652号明細書
【特許文献25】米国特許第5,144,045号明細書
【特許文献26】米国特許第6,495,596号明細書
【特許文献27】国際公開第03/048139号パンフレット
【特許文献28】国際公開第03/086400号パンフレット
【特許文献29】特開平7−224038号公報
【特許文献30】国際公開第87/02367号パンフレット
【特許文献31】米国特許第6,350,892号明細書
【特許文献32】米国特許出願第2002/068722号明細書
【特許文献33】米国特許第4,948,813号明細書
【特許文献34】米国特許第5,504,073号明細書
【特許文献35】国際公開第96/01253号パンフレット
【非特許文献1】Rampone,A.J. and L.W.Long(1977).”The effect of phosphatidylcholine and lysophosphatidylcholine on the absorption and mucosal metabolism of oleic acid and cholesterol in vitro.”Biochim Biophys Acta 486(3):500−10.
【非特許文献2】Rampone,A.J. and C.M.Machida(1981).”Mode of action of lecithin in suppressing cholesterol absorption.”J Lipid Res 22(5):744−52
【非特許文献3】Mackay,K.,J.R.Starr,et al.(1997).”Phosphatidylcholine Hydrolysis Is Required for Pancreatic Cholesterol Esterase− and Phospholipase A2−facilitated Cholesterol Uptake into Intestinal Caco−2 Cells.”Journal of Biological Chemistry 272(20):13380−13389
【非特許文献4】Young,S.C.and D.Y.Hui(1999).”Pancreatic lipase/colipase−mediated triacylglycerol hydrolysis is required for cholesterol transport from lipid emulsions to intestinal cells.” Biochem J 339(Pt 3):615−20
【非特許文献5】Homan,R.and B.R.Krause(1997).”Established and emerging strategies for inhibition of cholesterol absorption.”Current Pharmaceutical Design 3(1):29−44
【非特許文献6】Huggins,Protection against diet−induced obesity and obesity−related insulin resistance in Group 1B−PL A2−deficient mice,Am.J.Physiol.Endocrinol.Metab.283:E994−E1001(2002)
【非特許文献7】Richmond,B.L.,A.C.Boileau,et al.(2001).”Compensatory phospholipid digestion is required for cholesterol absorption in pancreatic phospholipase A(2)−deficient mice.”Gastroenterology 120(5):1193−202
【非特許文献8】Knopp,RH:Drug treatment of lipid disorders,New England Journal of Medicine 341:7(1999)498
【非特許文献9】Pasternak,RC et al:ACC/AHA/NHLBI Clinical Advisory on the use and safety of statins, Circulation 106(2002)1024
【非特許文献10】Grundy,SM et al: Implications of recent clinical trials for the National Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III Guidelines,Circulation 110(2004)227
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
糖尿病や肥満、コレステロール関連疾患 (一般的な脂質障害を含む) の罹患率が非常に高いにもかかわらず、これら疾患の治療には、副作用を減らすなどの改善アプローチが依然として必要とされている。ホスホリパーゼ阻害薬は、炎症関連適応ではさまざまなものについて数多くの評価研究が行われているが、肥満や糖尿病、コレステロール関連疾患の治療については、ホスホリパーゼA2阻害薬の効果を調べる研究はあまり行われていない。特にこの点において、ホスホリパーゼ-A2阻害薬と同程度の効果を有する特定の薬剤は、遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) 実験動物の有益な効果に近い、あるいは匹敵するような表現型効果を有するものは、これまで見出されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の概要)
本発明は、インスリン関連疾患 (糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患など、ホスホリパーゼに関連した疾患の治療に有益なホスホリパーゼ阻害薬から成る、方法、組成、薬剤、食品、キットを提示する。
【0013】
本発明の第1の面は、食事関連疾患のうち1つまたは複数の疾患を治療する方法に関連している。この食事関連疾患は、体重関連疾患、インスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、これらの組合せのうちいずれかであり、好ましくは例えば、肥満、糖尿病(2型糖尿病など)、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、これらの組合せがある。あるアプローチにおいて、この方法には、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) を効果的な用量投与することが含まれる。別のアプローチにおいて、この方法には、ホスホリパーゼ-A2 阻害薬(好ましくはホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬) の効果的な用量を被験者に投与することが含まれ、ここでこのホスホリパーゼ-A2阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物 (または薬学的に受容できるその塩) である。
【0014】
本発明の第2の面は、被験者における脂肪、グルコース、コレステロール(またはこれらの組合せ) の代謝を調製するための方法を示す。あるアプローチにおいて、この方法には、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物 (または薬学的に受容できるその塩)を効果的な用量投与することが含まれる。第2のアプローチにおいて、この方法には、ホスホリパーゼ-A2 阻害薬 (好ましくはホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬) の効果的な用量を被験者に投与することが含まれ、ここでこのホスホリパーゼ-A2 阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) である。
【0015】
本発明は、第3の面のあるアプローチにおいて、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) を薬剤として製造し、この製剤を用いて、体重関連疾患やインスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、これらの組合せ (好ましくは例えば、肥満、糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、これらの組合せなど)を治療することから成る方法に関連する。本発明のこの面の別のアプローチにおいて本発明は、ホスホリパーゼ-A2 阻害薬 (好ましくはホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬) を薬剤として製造し、この製剤を用いて、体重関連疾患やインスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、これらの組合せ (好ましくは例えば、肥満、糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、これらの組合せなど)を治療することから成る方法に関連する。ここでこのホスホリパーゼ-A2 は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物 (または薬学的に受容できるその塩)から成る。
【0016】
第4の面のあるアプローチにおいて、本発明は、食べられる食品と、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) とを含む食品製品組成に関連する。別のアプローチにおいて、本発明は、食べられる食品とホスホリパーゼ-A2阻害薬(好ましくはホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬) とを含む食品組成に関連し、ここでこのホスホリパーゼ-A2 阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物(または薬学的に受容できるその塩) である。いくつかの実施例において、この食品はビタミンサプリメントとホスホリパーゼ-A2阻害薬から成る (あるいはこれらを主成分とする)ものにすることができる。
【0017】
前述の第1〜第4の面それぞれに関する実施例を含め、本発明の各実施例において一般に、ホスホリパーゼ-A2阻害薬は、五員環と六員環を融合したものから成る置換有機化合物 (または置換有機化合物部分を含む) から成り、この五員環または六員環の環構造内、または五員環と六員環それぞれの環構造内に1つまたは複数のヘテロ原子(例えば窒素や酸素) を含むものにし、この置換基によってこの化合物 (または化合物部分) のホスホリパーゼ-A2阻害機能が生じているものにすることができる。好ましい実施例において、ホスホリパーゼ-A2阻害薬またはその阻害機能部分は、置換インドール部分などのインドール含有部分(ここではインドール、インドール化合物、インドール部分とも言及される) を有するものにすることができる。特に好ましいインドール化合物および部分が、ここで記述される。これら実施例はそれぞれ、上記および以下に述べられている他の面や実施例と、さまざまな特定の組合せや順序で使用することができる。
【0018】
本発明の実施例全般において、上記の第1〜第4の面それぞれに関する実施例も含めて、ホスホリパーゼ-A2阻害薬には管腔集中機能を持たせることができる。例えば、ホスホリパーゼ-A2阻害薬には、阻害薬に管腔集中機能をもたらすような化学的・物理的性質を持たせることができる。このような実施例において好ましくは、ホスホリパーゼ阻害薬の約80%が消化管内に留まるような化学的または物理的性質を有し、さらに好ましくは、(それぞれ、被験者に阻害薬を投与後)ホスホリパーゼ阻害薬の少なくとも約90%が消化管内に留まるような化学的または物理的性質を有する。このような化学的・物理的性質は、例えば、オリゴマー部分やポリマー部分、疎水性部分、親水性部分、荷電部分、およびこれらの組合せのうち、少なくとも1つを有する阻害薬によって実現できる。これら実施例はそれぞれ、上記および以下に述べられている他の面や実施例と、さまざまな特定の組合せや順序で使用することができる。
【0019】
本発明の実施例全般において、上記の第1〜第4の面それぞれに関する実施例も含めて、ホスホリパーゼ-A2阻害薬は、五員環と六員環を融合したものから成る置換有機化合物から成る、または主成分とするものにすることができる。いくつかの実施例においてホスホリパーゼ阻害薬は、五員環と六員環を融合したものを有する置換有機化合物部分から成り、その部分は非吸収性または吸収不能部分、好ましくは非吸収性または吸収不能のオリゴマー部分またはポリマー部分に結合している(共有結合、直接的結合、または結合部分を介した間接的結合など)。これら実施例はそれぞれ、上記および以下に述べられている他の面や実施例と、さまざまな特定の組合せや順序で使用することができる。
【0020】
本発明の実施例全般において、上記の第1〜第4の面それぞれに関する実施例も含めて、ホスホリパーゼ-A2 阻害薬は、投与または摂取の後に顕著な脂肪便を引き起こさない。これら実施例はそれぞれ、上記および以下に述べられている他の面や実施例と、さまざまな特定の組合せや順序で使用することができる。
【0021】
上記には、本発明のさまざまな面を要約してさまざまな機能が記載されているが、これらについて下記に述べる詳細は、制限なく、本発明のさまざまな面それぞれについて使用することができる。本発明の他の機能、目的、利点については、一部はこの分野の技能をもつ者には明らかであり、一部はここにおいて指摘される。簡略仕様に記載されている参照文献は、あらゆる目的について参照によってここに組み込まれる。さらに、この分野の技能をもつ者には、ここに公開または申請されている内容に関する特許文献および非特許文献として、この内容についてさらに詳しい手順説明を提供する関連文献が数多く存在する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(発明の明細)
本発明は、ホスホリパーゼ阻害薬と、そのホスホリパーゼ阻害薬を構成する組成 (製薬組成、薬剤、食品を含む)、その製剤・薬剤・食品の製造方法、およびそれらをさまざまな病状の治療薬として使用する方法を提示する。本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、詳細を下記に示すように、インスリン関連疾患(糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患、およびこれらの組合せを含む、ホスホリパーゼに関連した数多くの疾患の治療において使用することができる。
【0023】
(概要)
本発明は、ある面において、ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬の効果的な用量を被験者に投与することによって、このような疾患を治療する方法から成る。ここでこのホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物である。本発明はまた別の面において、このホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬の効果的な量を投与することによって、被験者の脂肪やグルコース、コレステロールの代謝を調節する方法を検討する。本発明にはさらに別の面として、ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬を使用した方法を含む。ここで被験者の疾患 (体重関連疾患、インスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、およびこれらの組合せ) を治療するための製剤としてこの薬剤投与が指示され、またこのホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬は五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物から成る。本発明には、さらに別の面として、食べられる食品とホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬から成る食品組成が含まれ、好ましくは、このホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬が五員環と六員環を融合したものを有する置換有機化合物から成る。
【0024】
ゆえに、本発明のさまざまな面の好ましい実施例全般において、ホスホリパーゼ阻害薬 (または阻害機能部分) は、五員環と六員環を融合した部分 (または薬学的に受容できるその塩) を有する置換有機化合物 (または置換有機化合物から派生した部分)を有する。好ましくは、この阻害薬はホスホリパーゼ-A2の阻害機能、好ましくはホスホリパーゼ-A2 IBの阻害機能をもたらしている置換基を有している。好ましくは、ホスホリパーゼ阻害薬は、1つまたは複数のヘテロ原子(例えば窒素、酸素、イオウ) を含む五員環と六員環を融合したもので、このヘテロ原子は、この五員環または六員環の環構造内、または五員環と六員環それぞれの環構造内(または薬学的に受容できる塩) にある。さらに好ましくは、この阻害薬 (または阻害機能部分) には、ホスホリパーゼ阻害機能をもたらす効果がある置換基を持たせることができる。
【0025】
例5 (関連する例5A〜5Cも含む)に示すように、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物 (またはその誘導体部分) は、効果的なホスホリパーゼ-2A IB阻害薬であり、遺伝的欠損のあるPLA2(-/-) マウスの効果に匹敵する表現型効果を有する。さらに、このような化合物 (またはその誘導体部分) は、体重関連疾患やインスリン関連疾患、コレステロール関連疾患(特に、肥満や糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症などを含む) などの治療に有効である。
【0026】
特定の化合物(2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸) についてのみが例5に記載されているin-vivo研究で評価されているが (図2)、以下に述べるように、阻害効果は構造と活性の関係によって生じると考えられるため、この研究結果は本発明をさらに幅広くサポートする。簡単に言えば、本申請書に特に記載されていない理論に拘束されることなく、五員環と六員環を融合したものから成る化合物は、置換基の配置に適切な結合距離と結合角度を有するという特長がある。例えば、図6Aに示すインドール化合物の配置3と配置4や、図6Bに示す五員環と六員環の融合を含むインドール関連化合物の-R3および -R4 配置などがこれにあたる。これらインドール化合物およびインドール関連化合物の鏡像類似体も、後述のように、本発明に関連して使用することができる。
【0027】
後述するいくつかの好ましい実施例において、ホスホリパーゼ-A2阻害薬 (または阻害機能部分) はインドール化合物またはインドール関連化合物から成る。
【0028】
また、後述するいくつかの好ましい実施例において、ホスホリパーゼ-A2阻害薬 (または阻害機能部分) は管腔集中型ホスホリパーゼ-A2阻害薬である。
【0029】
(好ましいインドール関連化合物と、PLA2阻害薬としてのインドール化合物)
好ましい実施例において、ホスホリパーゼA2の阻害機能部分は、五員環と六員環の融合した化合物 (または薬学的に受容できるその塩) から成る。この構造を下の化学式 (I) に示す:
【0030】
【化5】
ここでこのコア構造は飽和 (図示) でも不飽和 (非図示) でもよく、R1 〜R7 は次の群から独立して選択することができる: 水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。また、これらの追加または代替として、R1〜R7 のうち独立して選択される2つの隣り合う置換基間に別の環をもつことができ、この追加環は五員環、六員環、七員環のいずれかを独立に選び、また炭素環、複素環、あるいはこの組合せにすることができる。
【0031】
ここで一般に、上記のインドール関連化合物におけるR1 〜R7 について:
アミン基は第一アミン、第二アミン、第三アミンのいずれでもよい。
【0032】
ハロゲン基はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれでもよい。
【0033】
カルボニル基は、下の化学式に示すように、さらに置換基 (下記に定義) を有するカルボニル官能部分でもよい。
【0034】
【化6】
酸基は、プロトンを供給する有機基であり、水素結合することができるもので、カルボン酸、硫酸、スルホン酸、ホスホン酸、置換ホスホン酸、リン酸、置換リン酸、5-テトラゾリルなどがこれに含まれ、これらに限定されない。
【0035】
【化7】
アルキル基自体、または他の置換基の一部となるアルキル基は、置換基を有しているものでも有していないものでもよく、直鎖または分岐した炭化水素であり、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基などがある。
【0036】
アルケニル基自体、または他の基と組み合わせるアルケニル基は、置換基を有しているものでも有していないものでもよく、直鎖または分岐した、不飽和結合を有する炭化水素であり、ビニル基、プロペニル基、クロトニル基、イソペンテニル基、さまざまなブテニル異性体などがある。
【0037】
炭素環基は置換基を有しているものでも有していないものでもよく、飽和または不飽和のいずれでもよく、炭素原子のみから成る5〜14員の有機環で、例えばシクロアルキル基、シクロアルケニル基、フェニル基、スピロ[5.5] ウンデカニル基、ナフチル基、ノルボルナニル基、ビシクロヘプタジエニル基、トルリル基、キシレニル基、インデニル基、スチルベニル基、テルフェニリル基、ジフェニルエチレニル基、フェニルシクロヘキセニル基、アセナフチレニル基、アンスラセニル基、ビフェニル基、ビベンジリル基などがある。
【0038】
複素環基は、単環でも複環でもよく、飽和でも不飽和でもよく、また置換基を有しているものでも有していないものでもよく、5〜14の複素環員原子をもち、1〜3個のヘテロ原子(窒素、酸素、イオウのいずれでもよい) を有する。複素環基としては、ピロリル基、ピロロジニル基、ピペリジニル基、フラニル基、チオフェニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、フェニルイミダゾリル基、トリアゾリル基、イソキサゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ノルハルマニル基、アザインドリル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、インダゾリル基、イミダゾピリジニル基、ベンゾトリアゾリル基、アンスラニリル基、1,2-ベンズイソキサゾリル基、ベンズオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、プリニル基、ピリジニル基、ジピリジリル基、フェニルピリジニル基、ベンジルピリジニル基、ピリミジニル基、フェニルピリミジニル基、ピラジニル基、1,3,5-トリアジニル基、キノリニル基、フタルアジニル基、キナゾリニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、ホモピペラジニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、オキサカニル基、1,3-ジオキソラニル基、1,3-ジオキサニル基、1,4-ジオキサニル基、テトラヒドロチオフェニル基、ペンタメチレンスルファジル基、1,3-ジチアニル基、1,4-ジチアニル基、1,4-チオキサニル基、アゼチジニル基、ヘキサメチレンイミニウム基、ヘプタメチレンイミニウム基、ピペラジニル基、キノキサリニル基などがある。
【0039】
アシルアミノ基は、下の化学式に示すように、さらに2つの置換基 (下記に定義) を有するアシルアミノ官能部分でもよい。
【0040】
【化8】
オキシミル基は、下の化学式に示すように、さらに2つの置換基 (下記に定義) を有するオキシミル官能部分でもよい。
【0041】
【化9】
ヒドラジル基は、下の化学式に示すように、さらに3つの置換基 (下記に定義) を有するヒドラジル官能部分でもよい。
【0042】
【化10】
置換基を有する置換基とは、列記されている置換基の1つまたは複数を組み合わせたもので、好ましくは例えば、次のような部分から成る:
下記のような、−酸素−アルキル−酸部分
【0043】
【化11】
下記のような、−カルボニル−アシルアミノ−水素部分
【0044】
【化12】
下記のような、−アルキル−炭素環−アルケニル部分
【0045】
【化13】
下記のような、−カルボニル−アルキル−チオール部分
【0046】
【化14】
下記のような、−アミン−カルボニル−アミン部分
【0047】
【化15】
さらなる置換基としては、水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せの中から選択される。
【0048】
このインドール関連化合物のR1 〜R7 の特に好ましい置換基について、好ましいインドール化合物と関連して下記に述べる。
【0049】
好ましい実施例において、ホスホリパーゼ-A2阻害機能部分は、置換インドール部分などのインドール化合物 (インドール含有化合物またはインドール官能部分を有する化合物) から成る。例えばその実施例において、インドール含有化合物は化学式IIおよびIII(下図) に示すような化合物である:
【0050】
【化16】
ここでR1〜R7 は次の基の中から独立に選択される: 水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基(−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。また、これらの追加または代替として、R1〜R7 のうち独立して選択される2つの隣り合う置換基間に別の環をもつことができ、この追加環は五員環、六員環、七員環のいずれかを独立に選び、また炭素環、複素環、あるいはこの組合せにすることができる。
【0051】
追加の環を有するインドール化合物としては、例えば、化学式IVa〜IVf がある (下図の、上段左から右へ順にIVa、IVb、IVc、下段左から右へ順にIVd、IVe、IVf):
【0052】
【化17】
一般に、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基などのさまざまなタイプの置換基は、融合した五員環・六員環を有するインドール関連化合物と関連して、上記で定義できる。
【0053】
本発明の実施例それぞれにおいて、融合した五員環・六員環を有するインドール関連化合物およびインドール化合物を含めて、好ましい置換基について、下記に説明される。
【0054】
好ましいR1 は、次の中から選択される: 水素、酸素、イオウ、アミン基、ハロゲン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR1 は、次の中から選択される: 水素、ハロゲン基、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R1は特に、アルキル基、炭素環基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R1 の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0055】
【化18】
好ましいR2 は、次の中から選択される: 水素、酸素、ハロゲン基、カルボニル基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR2は、次の中から選択される: 水素、ハロゲン基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R2 は特に、ハロゲン基、アルキル基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R2の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0056】
【化19】
好ましいR3 は、次の中から選択される: 水素、酸素、イオウ、アミン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR3は、次の中から選択される: 水素、酸素、アミン基、水酸基 (−OH)、カルボニル基、アルキル基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R3は特に、カルボニル基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R3 の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0057】
【化20】
好ましいR4 およびR5 は、次の中から独立に選択される:水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、水酸基 (−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR4およびR5 は、次の中から独立に選択される: 水素、酸素、イオウ、アミン基、酸基、アルキル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R4とR5はそれぞれ独立に、酸素、水酸基 (−OH)、酸基、アルキル基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R4 およびR5の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0058】
【化21】
好ましいR6 は、次の中から選択される: 水素、酸素、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、酸基、アルキル基、炭素環基、アシルアミノ基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。 特に好ましいR6 は、次の中から選択される: 水素、酸素、アミン基、ハロゲン基、水酸基(−OH)、酸基、アルキル基、アシルアミノ基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R6 は特に、アミン基、酸基、アルキル基、置換された置換基の中から優先的に選択される。 R6 の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0059】
【化22】
好ましいR7 は、次の中から選択される: 水素、酸素、イオウ、アミン基、ハロゲン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。特に好ましいR7は、次の中から選択される: 水素、ハロゲン基、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。R7は特に、炭素環基、置換された置換基の中から優先的に選択される。R7 の置換された置換基は、特に次のような化合物または部分が好ましい:
【0060】
【化23】
上記の置換基R1〜R7それぞれについての好ましい選択は、それぞれのバリエーションおよび組合せで使用することができる。例えば特定の好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、R1〜R7 を次のように選択した置換基で構成することができる: R1 は好ましくはアルキル基、炭素環基、置換された置換基の中から選択される。R2は好ましくはハロゲン基、アルキル基、置換された置換基の中から選択される。R3 は好ましくはカルボニル基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基の中から選択される。R4 とR5 はそれぞれ独立に、好ましくは酸素、水酸基(−OH)、酸基、アルキル基、置換された置換基の中から選択される。R6 は好ましくはアミン基、酸基、アルキル基、置換された置換基の中から選択される。R7 好ましくは炭素環基、置換された置換基の中から選択される。
【0061】
いくつかの実施例において、特定のインドールグリオキサミドが、PL A2阻害機能部分として特に有用である。具体的には、図2に示す [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] (ここではILY-4001およびメチルインドキサムとも呼ぶ) が、効果的なホスホリパーゼ阻害薬または阻害機能部分であることが見出されている。 このインドール化合物の構造を、下記の化学式 (V) に示す:
【0062】
【化24】
この化合物は、in-vitro分析に基づき、さまざまなクラスのPLA2のホスホリパーゼ活性に対し、in vitro でのマウスおよびヒトのPLA2 IB酵素に対する強い阻害薬として作用する(Singer, Ghomashchi et al. 2002; Smart, Pan et al. 2004) ことが示されている。このインドール化合物は上記のように、合成され (例4を参照)、マウスモデルにおいてホスホリパーゼ-A2阻害の in-vivoでの評価が行われた。(例5 (例5A〜5Cを含む) を参照)。このインドール化合物について、阻害活性、吸収、生物学的利用能の観点で特性が調べられている。(例6(例6A〜6Cを含む) を参照)。
【0063】
他のインドール化合物も、本発明の範囲に含まれる。例えば、文献では数多くのインドール類について、構造と活性との関係を研究した報告が記述されている ((Schevitz, Bach et al. 1995; Dillard, Bach et al. 1996; Dillard, Bach etal. 1996; Draheim, Bach et al. 1996; Mihelich and Schevitz 1999)。表1は、さまざまなインドール化合物について、ヒト非膵臓PLA2(hnp PLA2)、ヒト膵臓分泌PLA2 (hps PLA2)、ブタ膵臓分泌PLA2 (pps PLA2) など異なるホスホリパーゼ酵素に対する活性データの報告をまとめたものである。
【0064】
【表1−1】
【0065】
【表1−2】
【0066】
【表1−3】
【0067】
【表1−4】
【0068】
【表1−5】
他のインドール化合物も、本発明の範囲に含めることができる。表2には、このような他のインドール化合物をいくつか挙げる。
【0069】
【表2】
他に、ヘテロ原子を少なくとも1つ有する五員環・六員環融合を有する他の化合物 (ここではインドール関連化合物と総称する) も、本発明に関連して使用することができる。表3には、このような他のインドール関連化合物がいくつか挙げられており、該当するものについては特許番号も記載されている。
【0070】
【表3−1】
【0071】
【表3−2】
【0072】
【表3−3】
【0073】
【表3−4】
図6Cと6Dに示すように、本発明のインドール化合物には一般に、「逆インドール化合物」が含まれる。これは五員環と六員環の間の融合部結合に直交して二等分する線を対称軸とし、置換基は同じ位置まま保持された、インドールのコア構造の鏡像類似体である。(図6Cと図6Dを比較のこと)。本発明のインドール化合物とインドール関連化合物には、「相反インドール化合物」と「相反インドール関連化合物」が含まれる。これは五員環と六員環の間の融合部結合に沿った線を対称軸とし、少なくとも-R3と-R4 位置のそれぞれの置換基、および-R1 と-R7 位置のそれぞれの置換基が同じ位置に保持され、-R2位置と、-R5 および-R6 位置の少なくとも一方の置換基が同じ位置に保持された、インドールのコア構造の鏡像類似体である。
【0074】
化学式 (I) 〜(V)で示されているものを含め、上記のインドール関連化合物およびインドール化合物すべての塩は、本発明の別の一面である。本発明の化合物で酸性基または塩基性基を有する場合、さまざまな塩が形成でき、これらは元の化合物より水溶性が高く、生理学的にも適していることがある。
【0075】
薬学的に許容できる塩としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどとの塩があり、これらに限定されない。塩は、溶液中で酸を塩基で処理するか、または酸をイオン交換樹脂に通すことにより、簡単に酸を含まない状態に調製される。薬学的に受容できる塩の定義に含まれるものは、比較的無毒で、無機・有機塩基を追加した本発明の化合物の塩である。この塩基には例えば、アンモニウム、第四アンモニウム、アミン陽イオン (本発明の化合物との塩を形成するのに充分な塩基性を有する窒素含有塩基から誘導される) がある (例えばS. M. Berge, et al.,"Pharmaceutical Salts,"J. Phar. Sci., 66: 1-19 (1977) を参照)。さらに、本発明の化合物の塩基性基は、適切な有機酸または無機酸と反応して、次のような塩を形成することができる:酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クラブラン酸塩、クエン酸塩、塩化物、エデト酸塩、エジシラート、エストラート、エシラート、フッ化物、フマル酸塩、グルセプタート、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、臭化物、塩化物、ヒドロキシナフトアート、ヨウ化物、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マルセアート、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル塩、硝酸メチル、硫酸メチル、ムカート、ナプシラート、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、吉草酸塩。
【0076】
この分野の技能をもつ者であれば、ここに記載されている化合物の互変体や構造異性体、幾何異性体、光学異性体の現象を示すことができる。本発明には、ここに記載されている性質を有する化合物のあらゆる互変体、構造異性体、光学異性体、幾何異性体も含み、またこれらさまざまな形態の混合物も含むことが理解されるはずである。ここに記載されている化合物のプロドラッグおよび活性代謝物も、本発明の範囲に含まれる。
【0077】
(ホスホリパーゼと、インドールおよびインドール関連化合物の使用による阻害)
本発明のさまざまな面に含まれる実施例において全般に、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼの触媒活性を改変または阻害 (鈍化させる、または低下させる) ことができる。ここで好ましくは、ホスホリパーゼは消化器官内 (胃を含む) で分泌または保持され、さらに好ましくは十二指腸や小腸内で分泌または保持される。例えばこのような酵素には、グループIB分泌ホスホリパーゼA2(PL A2 -IB) が優先的に含まれこれらに限定されない。ここでこれらは膵臓ホスホリパーゼA2 (p-PL A2)とも呼ばれ、ここではPL A2 IB またはホスホリパーゼ-A2 IBと呼ばれる。これら酵素には、グループIIAホスホリパーゼA2(PL A2 IIA) などの、他の分泌ホスホリパーゼA2も含まれる。いくつかの実施例において、特に本発明の好ましいインドール化合物および好ましいインドール関連化合物に関連し、他のホスホリパーゼ(例えばホスホリパーゼA1 (PLA1)、ホスホリパーゼB (PLB)、ホスホリパーゼC (PLC)、ホスホリパーゼD (PLD) など)も、本発明の範疇にあると見なされる。本発明の阻害薬は、好ましくは、少なくともホスホリパーゼ-A2 IB 酵素の活性を阻害する。
【0078】
いくつかの実施例において、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼA2 活性など (例えばホスホリパーゼA2 IBなどを含む) のホスホリパーゼ活性を特異的に阻害する、または顕著に特異的に阻害する。例えば、いくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、膵臓トリグリセリドリパーゼ(PTL) やカルボキシルエステルリパーゼ (CEL) といったリパーゼ類は阻害しない、または顕著には阻害しない、または基本的に阻害しない。いくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬はPLA2 を阻害し、好ましくはホスホリパーゼ-A2 IBを阻害するが、それぞれの場合において、他のホスホリパーゼは阻害しないか、または顕著には阻害しないか、または基本的には阻害しない。またいくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬はPLA2 を阻害し、好ましくはホスホリパーゼ-A2 IBを阻害するが、それぞれの場合において、PLA1は阻害しないか、または顕著には阻害しないか、または基本的には阻害しない。またいくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬はPL A2を阻害し、好ましくはホスホリパーゼ-A2 IBを阻害するが、PLBは阻害しないか、または顕著には阻害しないか、または基本的には阻害しない。いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は消化器官粘膜上では作用しない。例えば、膜に結合したホスホリパーゼを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。
【0079】
PL A2、PLA1、PLBの活性の違いは、この分野で一般によく知られている。PL A2 はリン脂質をsn-2 位置で加水分解し、1-アシルリソリン脂質と脂肪酸を遊離させる。PLA1 はリン脂質のsn-1 位置に作用して、2-アシルリソリン脂質と脂肪酸を遊離させる。ホスホリパーゼBはリン脂質のsn-1 位置とsn-2位置の両方に割れ目を入れ、グリセロールと2つの脂肪酸に分解する。例えば、Devlin, Editor, Textbook of Biochemistry with Clinical Correlations, 5th ed. Pp 1104-1110 (2002) を参照。
【0080】
消化器官内のPLA1、PL A2 (ホスホリパーゼ-A2 IBを含む)、PLBが作用するリン脂質基質は、ほとんどがホスファチジルコリンとホスファチジルコリンエタノールアミンであり、これらは食物由来のものもあれば胆汁酸由来のものもあり、また細胞膜の剥落物に由来することもある。例えば、ホスファチジルコリンの消化の場合、PLA1 はsn-1 位置に作用して2-アシルリソホスファチジルコリンと遊離脂肪酸を生成する。PL A2 はsn-2 位置に作用して1-アシルリソホスファチジルコリンと遊離脂肪酸を生成する。PLBは両方の位置に作用して、グリセロール3-ホスホリルコリンと遊離脂肪酸2つを生成する(Devlin, 2002)。
【0081】
膵臓PL A2(およびホスホリパーゼ-A2 IB) は、膵臓外分泌腺の腺房から分泌され、膵液を介して十二指腸内に放出される。PL A2(およびホスホリパーゼ-A2 IB) はプロ酵素として分泌され、ポリペプチド鎖を持っているため、この部分にプロテアーゼによって割れ目が入り、これにより酵素の触媒部位が活性化される。PLA2 イソ酵素についての構造と活性の関係 (SAR) の報告には、数多くの共通特徴がある (例えばGelb M., Chemical Reviews, 2001, 101:2613-2653; Homan, R.,Advances in Pharmacology, 1995, 12:31-66; and Jain,M. K., Intestinal Lipid Metabolism, Biology, pathology, and interfacial enzymology of pancreatic phospholipase A2, 2001, 81-104を参照。このそれぞれが、参照によってここに組み込まれる)。
【0082】
本発明の阻害薬は、ホスホリパーゼ活性、特にPL A2 活性を阻害する、この共通特徴の一部を利用することができる。PL A2 酵素の共通特徴としては、サイズが約13〜約15 kDaで、熱に安定で、6〜8個のジスルフィド架橋をもつことなどがある。.また、PLA2 酵素の共通特徴には、活性部位構造の保護や、カルシウム依存活性もある。さらに、HisとAspの残基が水分子およびカルシウム陽イオンに協調して結合し、His-カルシウム-Aspの組合せとなる触媒メカニズムも含まれる。リン脂質基質は、詳細が後述されるように、プラスに荷電している疎水性残基(リジンおよびアルギニン残基) に包まれているスロットに、極性の頭部を持つ基が入り込むことにより、この触媒部位にアクセスできる。触媒部位内では、複数配位結合したカルシウムイオンが、リン脂質基質の sn-2 位置のアシルカルボニル基を活性化させ、加水分解が起きる(Devlin, 2002)。いくつかの好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、この触媒部位と相互作用することにより、PL A2 の触媒活性を阻害する。
【0083】
PL A2 酵素は主に、消化器官管腔内にある脂質集合体の脂質・水界面において、リン脂質基質を分解する活性を有する。脂質集合体は例えば、脂肪滴や乳液滴、液胞、混合ミセル、ディスクなどがあり、これらにはトリグリセリドや脂肪酸、胆汁酸、リン脂質、ホスファチジルコリン、リソリン脂質、リソホスファチジルコリン、コレステロール、コレステロールエステル、その他の両親媒性物質、その他の食物代謝生成物などが含まれる。このような酵素は、脂質・水の界面に「留まって」いる間に、作用すると見なされる。このような脂質集合体において、上記の他の化合物と共に、リン脂質基質は通常、単一層または二層になり、これが脂質集合体の外側表面を形成する。触媒部位を保持するホスホリパーゼの表面は、リン脂質基質にアクセスするため、この界面に接触している。このようなホスホリパーゼの表面は、i面 (酵素の界面認識面) として知られる。PL A2 の i 面の構造的機能は、数多く公表されている。例えば、Jain,M.K, et al, Methods in Enzymology, vol.239, 1995, 568-614を参照し、参照によってここに組み込まれる。本発明の阻害薬は、PLA2 活性を阻害する構造的機能を利用することができる。例えば、触媒部位を形成するスロットの開口部は、i面に対して垂直であることが知られている。開口部は、疎水性残基の最初のクラウンによって囲まれており (主にロイシンとイソロイシンの残基)、これ自身が、陽イオン残基のリング内に収められている(リジンおよびアルギニン残基を含む)。
【0084】
記載のように、PL A2 酵素は、保護されている活性部位構造や、触媒メカニズム (His とAspの残基が水分子およびカルシウム陽イオンに協調して結合する)を共有している。理論に拘束されることなく、リン脂質基質は、プラスに荷電している疎水性残基に包まれているスロットに、極性の頭部を持つ基が入り込むことにより、このような酵素の触媒部位にアクセスできる。触媒部位内では、複数配位結合したカルシウムイオンが、リン脂質基質の sn-2 位置のアシルカルボニル基を活性化させ、加水分解が起きる。
【0085】
ホスホリパーゼ-A2酵素の構造・活性関係については数多くの研究があり、これに例5 (例5A〜5Cを含む) に示されている重要な実験データを考え併せれば、この分野の技能をもつ者は、ILY-4001について観察された阻害効果が、本発明の他のインドール化合物(例えば同じコア構造を有するもの) やインドール関連化合物 (五員環および六員環の融合部分から成る) の中で、特に評価すべきものであることがわかる。特に、本申請書に明示的に記載されていない理論に拘束されることなく、例えば図6Aに示すインドール構造の3、4、5位置の置換基は、酵素およびカルシウムイオンとの極性相互作用(カルシウム依存性のホスホリパーゼ活性に関連して) を効果的にするよう選択・評価することができるため、この分野の技能を有する者には有効であることがわかる。同様に、このインドール構造の1および2位置の置換基を、比較的疎水性のものに選択・評価できるため、この分野の技能を有する者には有効であることがわかる。組合せを考えると、3、4、5位置に極性基、1、2位置に比較的疎水性の基を配置すると、この阻害薬(または阻害機能部分) が疎水性の脂質と水との界面に (疎水性部分を介して) 効果的になじむことができ、また、阻害薬 (または阻害機能部分) の極性部分が酵素のポケット(極性の頭部を持つ基が、プラスに荷電している疎水性残基に包まれているスロットに通る) に効果的にはまり込むことができる。同様に、例えば図6Bに示すように、インドール関連化合物の対応する基にも同じ機能をもたせることができ、これが評価される。特に、インドール関連化合物のR3、R4、R5位置の置換基は、酵素およびカルシウムイオンとの極性相互作用を考えて効果的に選択・評価することができ、インドール関連化合物のR1 とR2位置の置換基は、比較的疎水性のものを選択・評価することができるため、この分野に技能をもつ者には評価される。
【0086】
同様に、図6Cと6Dに示すように、前述の、特定インドール化合物のコア構造の鏡像類似体である逆インドール化合物と、前述の、特定インドール化合物またはインドール関連化合物のコア構造の別種の鏡像類似体である相反インドール化合物および相反インドール関連化合物は、同じように極性基と疎水性基を配置することにより、本発明の範疇内で、別のインドール構造やインドール関連構造を提示することができる。
【0087】
さらに、この分野の技能をもつ者であれば、既知の分析・評価アプローチを用いて、本発明の範囲にある特定の阻害薬を評価することができる。例えば、本発明の阻害薬の阻害程度は、in-vitro 分析 (例えば例6Aを参照) やin-vivo 研究 (例えば例5を参照) を用いて評価することができる。さらに、ホスホリパーゼ酵素とホスホリパーゼ阻害薬との結合は、核磁気共鳴を用いて、例えばその結合作用に必要な部位、または必要でない部位を識別し、評価することができる。さらに、この分野に技能を有する者は、ホスホリパーゼ阻害薬の構造・活性関係(SAR) を活用して、構造的バリエーションが許されている位置を調べることができる。ホスホリパーゼ阻害薬候補のライブラリは、ホスホリパーゼ阻害機能部分のさまざまな結合部位がまとめられており(上記の情報に基づくか、または無作為に選択)、これにより、複数の方向にホスホリパーゼ阻害機能部分を置くことができる。候補物のホスホリパーゼ阻害活性を評価することにより、ホスホリパーゼ阻害機能部分をポリマー部分または他の非吸収性部分に適切に取り付けたホスホリパーゼ阻害薬を得ることができる。
【0088】
一般に、阻害の程度は本発明では狭い意味では重要ではないが、特定の実施例においては大きな意味をもつことがある。ゆえに、「阻害」およびこの関連用語は、酵素活性の完全な阻害を意味するものではない。例えば阻害とは、阻害薬がない場合に比較して、酵素活性を少なくとも約50%、少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約98%、さらに好ましくは少なくとも99%、低下させることを意味する。最も好ましくは、ホスホリパーゼ阻害治療を受ける患者において、治療する疾患(例えばここに公開されているもの) の少なくとも1つに対し治療または予防的なメリットを生じさせるのに充分効果的な用量で、酵素活性を低減することを意味する。また反対に、「阻害しない」およびこの関連用語は必ずしも、酵素活性への影響が全く存在しない状態を意味するものではない。例えば、阻害薬の存在下において酵素活性が約20%、約10%、約5%、好ましくは約2%、より好ましくは約1%低減した状態を意味する。最も好ましくは、明らかな効果が生じない程度の、酵素活性のごくわずかな低下を意味する。さらに、「顕著に阻害しない」およびこの関連用語は、阻害薬の存在下において酵素活性が約40%、約30%、約25%、好ましくは約20%、より好ましくは約15%低減した状態を意味する。さらに、「基本的に阻害しない」およびこの関連用語は、阻害薬の存在下において酵素活性が約30%、約25%、約20%、好ましくは約15%、より好ましくは約10%低減した状態を意味する。
【0089】
阻害薬は、ホスホリパーゼ活性を、可逆的または不可逆的に阻害するよう影響を与える。本発明のホスホリパーゼ阻害薬による可逆的阻害には、競合的 (例えば、ホスホリパーゼの触媒部位にホスホリパーゼ阻害薬が結合する場合) な場合と非競合的 (ホスホリパーゼのアロステリック部位にホスホリパーゼ阻害薬が結合し、アロステリックな変化をもたらす場合)、および競合不可(阻害薬が、ホスホリパーゼと基質の複合体に結合する場合) のものがある。阻害は不可逆反応のこともある。この場合、ホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼの特定部位に結合したまま、または顕著に結合したまま、または本質的に結合したままであり、酵素から分離せず、または顕著に分離することはなく、または本質的に分離することはない。
【0090】
(ホスホリパーゼ関連疾患の治療方法)
本発明は、ホスホリパーゼ関連疾患の治療方法を提示する。好ましい実施例において、この阻害薬は、消化器官管腔内に集中的に留まる。ここで用いられる「ホスホリパーゼ関連疾患」という語は、ホスホリパーゼの活性や再吸収の改変や、ホスホリパーゼの生成物または生成物の影響を改変することが望ましい状態を指す。好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、ホスホリパーゼの活性や再吸収を低下させ、また、ホスホリパーゼの生成物または生成物の影響を低下させる。ここで用いられる「ホスホリパーゼA2関連疾患」という語は、ホスホリパーゼA2の活性や再吸収の改変や、ホスホリパーゼA2活性の生成物または生成物の影響を改変することが望ましい状態を指す。好ましい実施例において、本発明の阻害薬は、ホスホリパーゼA2の活性や再吸収を低下させ、また、ホスホリパーゼA2の生成物または生成物の影響を低下させる。ホスホリパーゼA2関連疾患の例としては、インスリン関連疾患(糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患、これらの組合せがあり、これらに限定されない。
【0091】
本発明は、被験動物治療のための方法、製薬組成、キットを提示する。ここで「被験動物」とは、人間以外の哺乳類だけでなく、人間も含む。例えば哺乳動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ネコ、イヌ、ブタ、家禽類、ウシ、ウマ、これらの組合せの中から選ばれる。
【0092】
ここで使用される「治療」という語には、治療効果や予防的効果の達成が含まれる。治療効果とは、対象疾患の根本的治癒や状態改善を意味する。例えば、糖尿病患者における治療効果とは、糖尿病の根本的治癒または状態改善が含まれる。また治療効果は、元となっている疾患そのものはまだ残っていても、それに関連する生理学的症状を根本的に治癒または状態改善し、これにより患者の回復が見られるようにすることである。例えば、糖尿病でPL A2 活性を低下させると、インスリン抵抗性が補正されるだけでなく、疲労感や目のかすみ、手足の刺激感など糖尿病に伴うその他の症状を有する患者についても改善が見られ、治療上利益が得られる。予防的効果については、たとえ診断がついていなくとも、ホスホリパーゼ関連の疾患(糖尿病、肥満、高コレステロール血症など) の高リスク患者や、これら疾患の生理学的症状を訴える患者に対し、本発明のホスホリパーゼ阻害薬を投与することができる。
【0093】
本発明は、ホスホリパーゼ阻害薬から成る組成を提示する。いくつかの実施例において、この阻害薬は、消化器官粘膜から吸収されず、またあるいは消化器官粘膜細胞からの流出の結果として消化器官管腔内に集中して留まる。
【0094】
好ましい実施例において、本発明のホスホリパーゼ阻害薬には、ホスホリパーゼ活性を阻害することにより、1つまたは複数の疾患の治療において、予防的効果と治療的効果のいずれか、または両方がある。
【0095】
ここに記載されている、ホスホリパーゼを効果的に阻害する方法は、ホスホリパーゼ関連疾患に適用できる。すなわち、ホスホリパーゼの活性や再吸収の改変や、ホスホリパーゼの生成物または生成物の影響を改変することが望ましい状態に対して適用できる。好ましくは、このような疾患には、ホスホリパーゼA2関連疾患と、食事によって生じたホスホリパーゼA2関連疾患 (食事によってもたらされ、加速し、悪化し、または影響を受けたもの)が含まれる。ホスホリパーゼA2関連疾患には、糖尿病、体重増加、コレステロール関連疾患の他に、高脂血症、高コレステロール血症、心臓血管疾患(心臓病や脳卒中など)、高血圧、癌、睡眠時無呼吸、骨関節症、胆嚢疾患、脂肪肝、2型糖尿病、その他のインスリン関連疾患などがあり、これらに限られない。いくつかの実施例において、これら疾患の1つまたは複数は、高脂肪食または欧米型食事の摂取の結果生じることがある。またいくつかの実施例において、これら疾患の1つまたは複数は、遺伝的要因、代謝障害、環境要因、行動要因、あるいはこれらの’組合せにより生じることがある。
【0096】
(欧米型食事と欧米型関連食事)
一般に、本発明のいくつかの実施例は、高炭水化物食、高糖類食、高脂肪食、高コレステロール食のいずれか1つあるいは複数の組合せに関連している。このような食事は全般に、ここにおいて「高リスク食」と呼ばれる (これには例えば、欧米型食事が含まれ得る)。このような食事は、肥満関連の疾患やインスリン関連の疾患、コレステロール関連の疾患などを含む、1つまたは複数の疾患について、被験患者のリスク条件を高めることがある。特に、こういった高リスク食は、いくつかの実施例において、少なくとも高炭水化物食を含み、これに高糖類食、高脂肪食、高コレステロール食のいずれか1つまたは複数を伴う。高リスク食には、高糖類食に、高脂肪食と高コレステロール食のいずれか1つまたは両方を伴ったものも含まれる。高リスク食には、高脂肪食に高コレステロール食を伴ったものも含まれる。いくつかの実施例において、高リスク食には、高炭水化物食、高糖類食、高脂肪食を組み合わせたものが含まれる。また他の実施例において、高リスク食には、高炭水化物食、高糖類食、高コレステロール食が含まれる。また他の実施例において、高リスク食には、高炭水化物食、高脂肪食、高コレステロール食が含まれる。また他の実施例において、高リスク食には、高糖類食、高脂肪食、高コレステロール食が含まれる。いくつかの実施例において、高リスク食には、高炭水化物食、高糖類食、高脂肪食、高コレステロール食が含まれる。
【0097】
一般に、被験者の食事は、合計カロリーの内容 (例えば、一日の合計カロリー内容) から成る。いくつかの実施例において、被験者の食事は高脂肪食である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50%が脂肪によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が脂肪によるものである。いくつかの実施例において、高脂肪食に、高炭水化物食、高糖類食、高コレステロール食のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が脂肪によるものである。
【0098】
同様に、いくつかの実施例において、食事は高炭水化物食である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が炭水化物によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が炭水化物によるものである。いくつかの実施例において、高炭水化物食に、高脂肪食、高糖類食、高コレステロール食のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が炭水化物によるものである。
【0099】
さらに、いくつかの実施例において、食事は高糖類食である。実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が糖類によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が糖類によるものである。いくつかの実施例において、高糖類食に、高脂肪食、高炭水化物食、高コレステロール食のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が糖類によるものである。
【0100】
同様に、いくつかの実施例において、食事は高コレステロール食である。このような実施例において、食事は少なくとも約1 %のコレステロール (wt/wt、脂肪に対する割合) を含む。この他の実施例において、食事には少なくとも約0.5 %、または少なくとも約0.3%、または少なくとも約0.1 %、または少なくとも約0.07 %のコレステロール (wt/wt、脂肪に対する割合) が含まれる。いくつかの実施例において、高コレステロール食に、高脂肪食、高炭水化物食、高糖類食のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、食事には少なくとも約0.05%、または少なくとも約0.03%(wt/wt、脂肪に対する割合) のコレステロールが含まれる。
【0101】
一例として、高脂肪食には例えば、肉、乳製品、アルコールを多く含み、また加工食品や牛肉・羊肉、炭酸飲料、菓子類、精白した穀物、デザート、高脂肪乳製品などが含まれ、このとき脂肪由来のカロリーは少なくとも25%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約8%、または、脂肪由来のカロリーは少なくとも30%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約10%、または、脂肪由来のカロリーは少なくとも34%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約12%、または、脂肪由来のカロリーは少なくとも42%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約15%、または、脂肪由来のカロリーは少なくとも50%で飽和脂肪由来のカロリーは少なくとも約20%である。このような高脂肪食のひとつが「欧米型食事」であり、これは例えば、典型的なアメリカ型食事や西ヨーロッパ型食事、オーストラリア型食事、日本型食事など、先進工業国の食事を指す。欧米型食事の典型的な例としては例えば、脂肪が少なくとも約17%でコレステロールが少なくとも約0.1%(wt/wt)、または脂肪が少なくとも約21%でコレステロールが少なくとも約0.15% (wt/wt)、または脂肪が少なくとも約25%でコレステロールが少なくとも約0.2%(wt/wt) の食事が挙げられる。
【0102】
このような高リスク食には、1つまたは複数の高リスク食品が含まれていることがある。
【0103】
食品の使用される条件を検討し、一般に、本発明のいくつかの実施例は、高炭水化物食品、高糖類食品、高脂肪食品、高コレステロール食品のいずれか1つあるいは複数の組合せに関連している。このような食品は全般に、ここにおいて「高リスク食品」と呼ばれる (これには例えば、欧米型食品が含まれ得る)。このような食品は、肥満関連の疾患やインスリン関連の疾患、コレステロール関連の疾患などを含む、1つまたは複数の疾患について、被験患者のリスク条件を高めることがある。特に、こういった高リスク食品は、いくつかの実施例において、少なくとも高炭水化物食食品を含み、これに高糖類食品、高脂肪食品、高コレステロール食品のいずれか1つまたは複数を伴う。高リスク食品には、高糖類食品に、高脂肪食品と高コレステロール食品のいずれか1つまたは両方を伴ったものも含まれる。高リスク食品には、高脂肪食品に高コレステロール食品を伴ったものも含まれる。いくつかの実施例において、高リスク食品には、高炭水化物食品、高糖類食品、高脂肪食品を組み合わせたものが含まれる。また他の実施例において、高リスク食品には、高炭水化物食品、高糖類食品、高コレステロール食品が含まれる。また他の実施例において、高リスク食品には、高炭水化物食品、高脂肪食品、高コレステロール食品が含まれる。また他の実施例において、高リスク食品には、高糖類食品、高脂肪食品、高コレステロール食品が含まれる。いくつかの実施例において、高リスク食品には、高炭水化物食品、高糖類食品、高脂肪食品、高コレステロール食品が含まれる。
【0104】
ここで、食品の組成は食品の合計カロリー内容から成る。いくつかの実施例において、食品は高脂肪食品である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が脂肪によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が脂肪によるものである。いくつかの実施例において、高脂肪食品に、高炭水化物食品、高糖類食品、高コレステロール食品のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が脂肪によるものである。
【0105】
同様に、いくつかの実施例において、食品は高炭水化物食品である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が炭水化物によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が炭水化物によるものである。いくつかの実施例において、高炭水化物食品に、高脂肪食品、高糖類食品、高コレステロール食品のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が炭水化物によるものである。
【0106】
さらに、いくつかの実施例において、食品は高糖類食品である。このような実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約50% が糖類によるものである。またこの他の実施例において、合計カロリー内容の少なくとも約40%、または少なくとも約30%、または少なくとも約25%、または少なくとも約20%が糖類によるものである。いくつかの実施例において、高糖類食品に、高脂肪食品、高炭水化物食品、高コレステロール食品のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、合計カロリー内容の少なくとも約15%、または少なくとも約10%が糖類によるものである。
【0107】
同様に、いくつかの実施例において、食品は高コレステロール食品である。このような実施例において、食品は少なくとも約1 %のコレステロール (wt/wt、脂肪に対する割合) を含む。この他の実施例において、食品には少なくとも約0.5 %、または少なくとも約0.3%、または少なくとも約0.1 %、または少なくとも約0.07 %のコレステロール (wt/wt、脂肪に対する割合) が含まれる。いくつかの実施例において、高コレステロール食品に、高脂肪食品、高炭水化物食品、高糖類食品のいずれか1つまたは複数を組み合わせた場合において、食品には少なくとも約0.05%、または少なくとも約0.03%(wt/wt、脂肪に対する割合) のコレステロールが含まれる。
【0108】
上記のように、本発明の方法は、インスリン関連疾患、体重関連疾患、コレステロール関連疾患 (一般的な脂質代謝異常を含む)、これらの組合せを治療するため広く行われている他の治療例と、一緒に行うことで有益な結果が得られる。これら疾患の各側面について下記に記載する。
【0109】
(インスリン関連疾患の治療)
ここで用いられる「インスリン関連疾患」という語は、身体のインスリン生成やインスリン使用が適切でない、糖尿病などの疾患を指す。典型的には、前糖尿病状態または糖尿病の診断は、空腹時血漿グルコース検査 (FPG) や経口グルコース負荷試験 (OGTT) により行われる。FPG検査の場合、空腹時の血中グルコース濃度が約100〜125mg/dlが前糖尿病状態、空腹時の血中グルコース濃度が約126 mg/dl以上の場合が糖尿病であることを示す。OGTT試験では、患者の空腹時の血中グルコース濃度と、グルコースを多量に含んだ飲物を飲んで2時間後の血中グルコース濃度を測定する。2時間後の血液グルコース濃度が約140〜199mg/dlが前糖尿病状態、2時間後の血液グルコース濃度が約200 mg/dl以上の場合が糖尿病であることを示す。
【0110】
特定の実施例において、本発明の、管腔集中型ホスホリパーゼ阻害薬は、例えば糖尿病 (好ましくは2型糖尿病) などのインスリン関連疾患の治療に有益である。この利点としては例えば、インスリン感受性の増加とグルコース負荷耐性の改善が挙げられ、この他にもあり得る。他の利点としては、空腹時血中インスリン濃度の低下、組織内グルコース濃度の上昇、インスリン刺激によるグルコース代謝の増加などがあり得る。
【0111】
これらの利点は、特定の仮説に限定されることなく、PLA2 活性の低下によって得られる数多くの効果によってもたらされたものであり、例えば消化器官粘膜を介したリン脂質の膜輸送の減少や、1-アシルリソリン脂質(1-アシルリソホスファチジルコリンなど) の生成減少や輸送減少などがある。ここで1-アシルリソホスファチジルコリンは、糖尿病などのインスリン関連疾患における二次的経路で、シグナル分子としてはたらくことがある。
【0112】
いくつかの実施例において、管腔集中型のホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼA2を阻害するのに使用されるが、ホスホリパーゼBを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬はホスホリパーゼA2を阻害するが、他の消化器官内ホスホリパーゼは阻害しない。すなわち、ホスホリパーゼA1 を阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。また、ホスホリパーゼBを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。
【0113】
(体重関連疾患の治療)
ここで用いられる「体重関連疾患」という語は、望ましくない体重超過や肥満、高脂血症状態を指し、特に高脂肪食や欧米型食事によって生じた体重増加を指す。通常、体重超過あるいは肥満であるかどうかの判定基準には、ボディマス指数 (BMI) が使用される。例えば成人の場合、BMIが約25以上の場合に体重超過、約30以上の場合に肥満と見なされる。子供の場合は、年齢ボディマス指数表が使用され、BMIが約85パーセンタイルを超える場合は「体重超過の危険」、約95パーセンタイルを超える場合は「肥満」と見なされる。
【0114】
特定の実施例において、本発明の、管腔集中型ホスホリパーゼA2阻害薬は、望ましくない体重超過や肥満などの体重関連疾患の治療に用いることができる。特定の実施例において、管腔集中型ホスホリパーゼA2阻害薬は、典型的な欧米型食事後の脂質吸収を低下させる。特定の実施例において、管腔集中型ホスホリパーゼA2阻害薬は、典型的な欧米型食事を摂取している被験者の脂肪排泄を増加させる。特定の好ましい実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は、(典型的な)欧米型食事を摂取している被験者の体重増加を低下させる。特定の実施例において、本発明の適用により、特定の組織や器官の重量増加を優先的に減らすことができる。例えば、いくつかの実施例においてホスホリパーゼA2阻害薬は、欧米型食事を摂取している被験者の白色脂肪の重量増加を減らすことができる。
【0115】
これらの利点は、特定の仮説に限定されることなく、PLA2 活性の低下によって得られる数多くの効果によってもたらされたものである。例えば、PL A2活性の阻害により、消化器官管腔 (例えば小腸粘膜) を介したリン脂質の輸送を減少させることができ、これにより、特に高脂肪食を与えられている哺乳動物において、腸細胞でリン脂質蓄積(ホスファチジルコリンなど) の消費が起こる。このような場合、リン脂質の新たな合成は、トリグリセリドをキロミクロンとして運搬するために必要なリン脂質 (例えばホスファチジルコリン)の高い回転率を維持するには充分ではない場合があり (Tso, in Fat Absorption, 1986, chapt.6 177-195, Kuksis A., Ed. を参照)、参照によってここに組み込まれる。
【0116】
PL A2阻害によって、1-アシルリソリン脂質 (1-アシルリソホスファチジルコリンなど) の生成も抑制されることがある。この1-アシルリソリン脂質は、セクリチンなどの消化酵素やホルモンを放出するなど、脂肪吸収の上方調節経路においてシグナル分子としてはたらく可能性がある。これについてはHuggins,Protection against diet-induced obesity and obesity-related insulin resistance in Group 1B- PL A2 -deficient mice, Am. J. Physiol. Endocrinol.Metab. 283:E994-E1001 (2002) に記載されており、参照によってここに組み込まれる。
【0117】
本発明の他の一面として、体重増加による食事誘発性糖尿病の発症を低下または遅らせるための組成、キット、方法が提示される。制限のない高脂肪食により、体重増加だけでなく、糖尿病性のインスリン抵抗性も増大し得る。この抵抗性は、被験者においてインスリン濃度とレプチン濃度が低下していることによって認識されることがある。ここに公開されるホスホリパーゼ阻害薬、組成、キット、方法は、食事による糖尿病や、その他のインスリン関連疾患 (欧米型食事を摂取している被験者でのインスリン濃度やレプチン濃度の低下) の予防的治療に用いることができる。
【0118】
いくつかの実施例において、管腔集中型のホスホリパーゼ阻害薬は、ホスホリパーゼA2を阻害するのに使用されるが、ホスホリパーゼBを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬はホスホリパーゼA2を阻害するが、他の消化器官内ホスホリパーゼは阻害しない。すなわち、ホスホリパーゼA1 を阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。また、ホスホリパーゼBを阻害することはなく、または顕著に阻害することはなく、または基本的に阻害することはない。
【0119】
(コレステロール関連疾患の治療)
ここで用いられる「コレステロール関連疾患」という語は、HMG-CoAリダクターゼ活性の調節または生成の調節が望ましい状態で、またはHMG-CoAリダクターゼの生成物の影響を調節することが望ましい状態で、いずれの場合にも一般的に、脂質代謝異常を含むことがあるような状態を指す。好ましい実施例において、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、HMG-CoAリダクターゼの活性あるいは生成を低下させ、またはHMG-CoAリダクターゼの生成物の影響を低下させる。例えば、コレステロール関連疾患には、コレステロール値の上昇、特に血漿中の非HDLコレステロール値の上昇(LDLコレステロール値やVLDL/LDL値の上昇) が含まれ得る。通常、コレステロール値が高いとされる基準にはさまざまあり、例えばPearlman BL,The New Cholesterol Guidelines, Postgrad Med, 2002; 112(2):13-26 に記載されており、参照によりここに組み込まれる。ガイドラインとしては、HDL値と比較したLDL値など、血清中の脂肪プロファイルがある。
【0120】
コレステロール関連疾患の例としては、高コレステロール血症、アテローム発生およびその続発症である心臓血管疾患 (アテローム性動脈硬化を含む)、その他の血管炎症、心筋梗塞、虚血性脳卒中、閉塞性脳卒中、末梢血管疾患、その他、コレステロールの低下により利益が得られるような疾患が含まれる。
【0121】
他に特に注目されるコレステロール関連疾患として、高トリグリセリド血症などの脂質代謝異常がある。肝臓でのトリグリセリド合成は、存在する脂肪酸、貯蔵グリコーゲン、インスリン対グルカゴン比によって調節されている。高グルコース食の患者 (例えば高炭水化物食や高糖類食、およびこのような食事を通常摂取していることが知られる群の患者) は、過剰なインスリンレベルを維持するホルモンバランスが維持される傾向にあり、従ってグリコーゲン貯蔵が進む傾向にあり、これら両方によって肝臓トリグリセリド合成が進む。さらに、糖尿病患者は、体重超過であることが多く、カロリー超過状態にあるため、特にこの状態になりやすい。ゆえに、本発明は特に、ここに説明される各実施例において、高トリグリセリド血症に対する治療の観点に注目する。
【0122】
本申請書には特に記載されていない理論に拘束されることなく、本発明のホスホリパーゼA2阻害薬は、複数のメカニズム経路によって、トリグリセリドおよびコレステロールを調節することができる。例えば、本発明のホスホリパーゼA2阻害薬は消化器官からのコレステロール吸収とトリグリセリド吸収を調節することができ、また例えばリソホスファチジルコリン(PLA2触媒によるホスファチジルコリンの加水分解生成物) などのシグナル分子を介して、脂肪とグルコースの代謝を調節することができる。ここでこのシグナル分子は、直接に作用するか、またはインスリンなどの他のホルモンと共に作用する。このような代謝調節により、高脂肪/ 高二糖類食あるいは高脂肪 / 高炭水化物食を摂取する患者の血清コレステロール値および血清トリグリセリド濃度に、直接的な影響を与えることができる。VLDLは肝臓から末梢組織へと体内循環するために、肝臓によって製造されるリポタンパク質である。VLDLのコア部分にはトリグリセリド、コレステロール、ホスホリパーゼが含まれ、周辺部分にはアポリポタンパク質B100、C1、CII、CIII、Eが含まれる。VLDLの重量の半分以上はトリグリセリドであり、VLDLのサイズはトリグリセリドの量によって決まる。カロリーが過剰な状態や糖尿病、アルコール消費後は、過剰なトリグリセリドが存在するため、肝臓によって非常に大きなVLDLが分泌される。ここで、ホスホリパーゼA2活性の阻害により、例えば肝臓でのトリグリセリド合成などを含む、代謝の調節を行うことができる。トリグリセリド合成の調節(低下、あるいは少なくとも増加程度が比較的抑制) により、血清トリグリセリド濃度や血清コレステロール値の調節の基盤ができ、ひいては高トリグリセリド血症や高コレステロール血症の治療の基盤が得られる。この治療は、糖尿病患者(炭水化物の制限のため、脂肪の多い食事になることが多い) と高トリグリセリド血症患者 (脂肪の代わりに高炭水化物食を摂ることが多い) の両方に有益となる。この点について、多くの糖尿病患者や高トリグリセリド血症患者にとって、高タンパク食にするだけでは、通常、長期的に持続するのは難しい。
【0123】
さらに、血清トリグリセリド濃度の調節により、アテローム性動脈硬化などの心臓血管疾患にも有益な効果が得られる。肝臓でトリグリセリドをパッケージしたVLDLは循環血中に放出され、リポプロテインリパーゼにより加水分解されて、VLDLレムナント (=IDL) に変換される。VLDLレムナントは肝臓に戻る(大きいものは優先的にこちらになる) か、またはLDL値を上昇させる。ゆえに、循環血中のVLDLが上昇するとHDL (コレステロールの逆輸送を行うはたらきがある)が下がる。高トリグリセリド血症によりLDL値の上昇とHDL値の低下が起こるため、高トリグリセリド血症は、アテローム性動脈硬化や冠状動脈疾患 (および上記のその他の疾患も含む)のリスクファクターとなっている。従って、本発明のホスホリパーゼA2阻害薬を用いた高トリグリセリド血状態の調節は、このような心臓血管疾患の治療の基盤ともなる。
【0124】
本発明の組成・キット・方法で治療が可能なその他のコレステロール関連疾患としては、現在スタチン系薬剤で治療されている疾患や、その他、コレステロール吸収の低減によって利益が得られるような疾患が含まれる。
【0125】
特定の実施例において、本発明の、管腔集中型ホスホリパーゼ阻害薬は、コレステロール値の低下、特に血漿中非HDLコレステロール値の低下、および高トリグリセリド血症の治療に用いることができる。
【0126】
いくつかの好ましい実施例において、この組成はホスホリパーゼA2と、ホスホリパーゼA2に加えて他の消化器官内ホスホリパーゼを少なくとも1つ (好ましくはホスホリパーゼB、またはホスホリパーゼA1、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼDなど)阻害することができる。
【0127】
本発明の他の実施例において、各種ホスホリパーゼに対する活性の差を利用することによって、他のホスホリパーゼ阻害によって生じる好ましくない副作用を起こさずに、特定のホスホリパーゼ関連疾患を治療することができる。例えば、特定の実施例において、PL A2 を阻害するけれどもPLA1やPLB、PLC、PLDなどを阻害しない、または顕著に阻害することはない、または基本的に阻害しないようなホスホリパーゼ阻害薬は、インスリン関連疾患(糖尿病など) や体重関連疾患 (肥満など) の治療に使用することができ、このときにホスホリパーゼ阻害治療を受けている被験者 (被験者が高脂肪食を摂取中の場合など)のコレステロール吸収に影響を与えず、または顕著には影響を与えず、または基本的には影響を与えない。
【0128】
ここに公開されるホスホリパーゼ阻害薬、方法、キットは、ホスホリパーゼ関連疾患の治療に用いることができる。いくつかの好ましい実施例において、この治療の効果は、被験者の食事や活動に変化をもたらすことなく実現することができる。例えば、消化器官内でのPL A2 活性が阻害されることにより、欧米型食事を摂る被験者は、PL A2 阻害薬治療を受けていない被験者に比べて、脂肪吸収が低下し、あるいは体重増加が減る可能性がある。さらに好ましくは、被験者のエネルギー消費量や食物摂取に変化、あるいは顕著な変化、あるいは基本的な変化がないままに、そして被験者の体温に変化、あるいは顕著な変化、あるいは基本的な変化がないままに、この脂肪吸収・体重増加の低下が起こる。さらに、好ましい実施例において、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、非・高脂肪食の代謝に対する正常状態に影響を与えることなく、高脂肪食の特定の有害な結果を相殺するために使用することができる。
【0129】
本発明には、ホスホリパーゼ関連疾患の治療に用いることができるキットも含まれる。このホスホリパーゼ関連疾患は、好ましくはホスホリパーゼA2関連疾患や、食事によって起こるホスホリパーゼ関連疾患 (例えばインスリン関連疾患 (糖尿病、特に2型糖尿病など)や体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患などを含みこれらに限定されない)が含まれる。このキットは、本発明の組成が少なくとも1種類と、ここに記載されているさまざまな方法に従った使用説明書から成る。
【0130】
(阻害薬の調剤、投与経路、効果的な用量)
本発明に役立つホスホリパーゼ阻害薬、または薬学的に受容できるこれらの塩は、さまざまな投与経路や方法を使って患者に投与することができる。「薬学的に受容できる塩」とは、本発明の化合物の生物学的効果および特性を維持でき、生物学的あるいは他の面で不都合が生じないような塩のことである。このような塩としては、塩酸、臭素酸、リン酸、硝酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酢酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、マンデル酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸など、無機酸または有機酸との塩が含まれる。さらに、本発明の化合物にカルボキシル基などの酸基が含まれている場合は、無機塩基または有機塩基との、薬学的に受容できる塩に転換することができる。適した塩基の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどがある。
【0131】
必要や目的に応じて、ホスホリパーゼ阻害薬は、1つまたは複数の他の治療薬と組み合わせて投与することができる。本発明の組成と共に投与できる治療薬の選択は、ある程度、治療する疾患によって異なる。例えば、肥満やその他体重関連疾患の治療の場合、本発明のいくつかの実施例におけるホスホリパーゼ阻害薬は、スタチン剤やフィブレート剤、胆汁酸結合剤、エゼチミブ剤(Zetiaなど)、サポニン剤、リパーゼ阻害剤 (Orlistatなど)、食欲抑制剤といった薬剤と組み合わせて使用することができる。インスリン関連疾患 (糖尿病など)に関して、本発明のいくつかの実施例におけるホスホリパーゼ阻害薬は、ビグアニド剤 (Metforminなど)、チアゾリジンジオン、α-グルコシダーゼ阻害薬などと組み合わせて使用することができる。
【0132】
ホスホリパーゼ阻害薬 (または薬学的に受容できる塩) は、それ自体で、または製薬組成の形で投与することができる。この製薬組成においては、活性組成は、薬学的に受容できる担体や賦形剤、希釈剤を1つまたは複数使った混合物中に用いられる。本発明に従った使用の製薬組成は、従来的手法により調剤することができる。すなわち、1つまたは複数の、生理学的に受容できる担体(賦形剤と助剤から成る) を使用し、活性物質のプロセスを促進し、製薬分野で使用可能な調剤にする。適切な調剤は、選択する投与経路によって異なる。
【0133】
ホスホリパーゼ阻害薬は直接配置や経口、直腸経由で投与することができる。好ましくは、このホスホリパーゼ阻害薬またはホスホリパーゼ阻害薬から成る製薬組成は経口投与される。ホスホリパーゼ阻害薬を投与する経口剤の形態には、粉末、錠剤、カプセル、溶液、乳剤などがある。効果量を1用量で投与することもできれば、適切な時間間隔 (例えば数時間) をおいて、用量を何回かに分けて投与することもできる。
【0134】
経口投与では、この分野でよく知られている薬学的に受容できる担体活性物質と活性物質とをあらかじめ混合して調剤することができる。治療する患者に経口投与するための、本発明の組成の調剤に使用できる担体としては、錠剤、粒剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液、カシェ剤、その他類似の形態がある。いくつかの実施例において、この阻害薬は徐放薬として製剤することができる。経口用途の製薬調剤は、固体賦形剤と、得られた混合物をすり潰し (オプション)、細粒の混合物を処理し、場合によっては適切な助剤を加えて、錠剤または糖衣錠コアを得る。適切な賦形剤としては、特に糖などの増量剤(ラクトース、蔗糖、マンニトール、ソルビトールなど) と、セルロース調剤 (例えばトウモロコシでんぷん、小麦でんぷん、米でんぷん、馬鈴薯でんぷん、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP) など) がある。望ましい場合は、架橋ポリビニルピロリドンや寒天、アルギン酸またはその塩 (アルギン酸ナトリウムなど) の分解剤を追加することもできる。
【0135】
糖衣錠コアは、適切なコーティングで提供される。このためには、濃縮糖液を使用することができる。この濃縮糖液にはオプションとして、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、Carbopolゲル、ポリエチレングリコールや二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒や溶媒混合物などを含めることができる。識別のためや、活性物質用量が異なる組合せを区別するため、染料や顔料を錠剤または糖衣錠コーティングに追加することもできる。いくつかの実施例において、経口調剤には腸内用樹脂コーティングはない。
【0136】
経口投与に用いられる製薬製剤には、ゼラチン製のプッシュフィット型カプセルや、ゼラチンと可塑剤 (グリセロールやソルビトール) 製の密封型ソフトカプセルが含まれる。プッシュフィット型カプセルには、増量剤 (ラクトースなど)、結合剤(でんぷんなど)、潤滑剤 (タルクやステアリン酸マグネシウム)、安定剤 (オプション)と活性成分との混合物を中に入れることができる。ソフトカプセルについては、活性組成を適切な液体(脂肪油、液体パラフィン、液体ポリエチレングリコールなど) に溶解または懸濁させる。さらに、安定剤を追加することもできる。経口投与用の製剤はすべて、投与に適した用量でなければならない。
【0137】
経口用および非経口用の液体調剤に使用する適切な担体としては、薬学的に受容できる非水性の極性溶媒が含まれ、これには炭化水素、アルコール、アミド、油脂、エステル、エーテル、ケトン、これらの混合物があり、さらに水、生理食塩水、電解質溶液、デキストロース溶液 (DW5など)、その他の薬学的に受容できる水性の液体がある。
【0138】
薬学的に受容できる非水性の極性溶媒としては、以下のものが挙げられ、これらに限定されない:アルコール類 (脂肪族アルコールまたは芳香族アルコールで炭素数が2〜30のもの。メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t-ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ベンジルアルコール、アミレンハイドレート、グリセリン(グリセロール)、グリコール、ヘキシレングリコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、脂肪酸アルコールの脂肪酸エステル(ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールをはじめとするポリアルキレングリコールなど)、ソルビタン、コレステロール、蔗糖など); アミド類 (ジメチルアセトアミド(DMA)、ベンジルベンゾエートDMA、N,N-ジメチルアセトアミドのアミド類、2-ピロリジノン、ポリビニルピロリドン、1-メチル-2-ピロリジノンなど); エステル類(2-ピロリジノン、1-メチル-2-ピロリジノン、酢酸エステル (モノアセチン、ジアセチン、トリアセチンなど) など、脂肪族または芳香族エステル (ジメチルスルホキシド(DMSO)、オレイン酸アルキル、カプリル酸エチル、安息香酸エチル、酢酸エチル、オクタン酸エステル、安息香酸ベンジル、酢酸ベンジル、グリセリンエステル (モノグリセリル、ジグリセリル、トリグリセリルのクエン酸エステルまたは酒石酸エステルなど)、炭酸エチル、オレイン酸エチル、乳酸エチル、N-メチルピロリジノン、脂肪酸エステル(ミリスチン酸イソプロピルなど))、ソルビタンの脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリル、グリセリドエステル (モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)、脂肪酸由来PEGエステル(ヒドロキシステアリン酸PEG、ヒドロキシオレイン酸PEGなど)、プルロニック60、ポリオキシエチレンソルビトールオレイン酸ポリエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリル酸、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミチン酸)、アルキレンオキシ基置換の脂肪酸エステル(ポリオキシル40水素化ひまし油、ポリオキシエチレン化ひまし油など)、糖脂肪酸エステル (単糖類、二糖類、オリゴ糖類、またはこれらの混合物と脂肪酸 (カプリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、カプリル酸、ラウリル酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸と、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸)との縮合生成物)、ステロイドエステルなど); アルキルエーテル、アリルエーテル、環状エーテル (ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルイソソルビドなど);グリコフロール (テトラヒドロフルフリルアルコールポリエチレングリコールエーテル); ケトン類 (アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなど);脂肪族・環状脂肪族・芳香族炭化水素 (ベンゼン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、ジオキソラン、ヘキサン、n-ヘキサン、n-デカン、n-ドデカン、スルホラン、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン、トルエン、テトラメチレンスルホキシド、ジメチルスルホキシド(DMSO) など); 油脂 (鉱物油、動物性油、植物性油、精油、合成由来) (鉱物油 (精製パラフィン油、脂肪族炭化水素、蝋ベースの炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素の混合物など)、植物性油(亜麻仁油、大豆油、ひまし油、菜種油、ココヤシ油、桐油、ベニバナ油、綿実油、グラウンドナッツ油、ヤシ油、オリーブ油、コーン油、コーン胚芽油、胡麻油、桃仁油、ピーナツ油など)、グリセリド類(モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)、動物性油 (タラ肝油、ハリバ肝油、魚油、鯨油、スクアレン、スクアラン、ポリオキシエチレン化ひまし油、サメ肝油、オレイン油など));ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化アリル (塩化メチレンなど); モノエタノールアミン; トロラミン; 石油ベンジン; オメガ-3多不飽和脂肪酸 (α-リノレン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸など);12-ヒドロキシステアリン酸のポリグリコールエステル; ポリエチレングリコール; ポリオキシエチレングリセロール など。
【0139】
本発明のホスホリパーゼ阻害薬の製剤組成に使用するのに、受容できるその他の溶媒としては、例えば、直接配置用としては、この分野でよく知られている技法がある。詳しくはModern Pharmaceutics, (G. Banker et al., eds., 3d ed.)(Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., 1995), The Handbook of Pharmaceutical Excipients,(American Pharmaceutical Association, Washington, D.C.; The Pharmacological Basis of Therapeutics, (Goodman & Gilman, McGraw Hill Publishing),Remington's Pharmaceutical Sciences (A. Gennaro, ed., 19th ed.)(Mack Publishing, Easton, Pa., 1995), Pharmaceutical Dosage Forms, (H. Lieberman etal., eds.,)(Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., 1980); The United States Pharmacopeia 24, The National Formulary 19, (National Publishing, Philadelphia,Pa., 2000) を参照のこと。
【0140】
直腸投与の製剤は、ホスホリパーゼ阻害薬を消化器官内 (小腸など) に放出するため、座剤、軟膏、浣腸剤、錠剤、クリームなどの形で調製することができる。直腸座剤は、本発明のホスホリパーゼ阻害薬1つまたは複数と、薬学的に受容できるその塩、受容できる賦形剤(ココアバターなど) を混合し、融点を調節するために必要に応じて蝋を追加して調製することができる。受容できる賦形剤としては他に、グリセリン、サリチル酸塩、ポリエチレングリコールなどがある。これらは通常の保管温度では固体で、ホスホリパーゼ阻害薬を放出するのに適した体内(直腸内など) 温度では液体となる。ソフトなゼラチンタイプの直腸用製剤や座剤には、油も使用される。さまざまな分子量のポリエチレングリコールなど、水溶性の座剤ベースも使用することができる。水、生理食塩水、水性デキストロースおよび関連の糖水溶液、グリセロールを使用し、懸濁剤としてペクチンやcarbomer、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースを用い、緩衝液や保存料なども加えて、懸濁液製剤を調製することもできる。
【0141】
本発明の使用に適した製薬組成は、活性成分が効果的な分量、すなわち治療する疾患のうちすくなくとも1つについて、治療や予防のメリットを達成するのに充分な分量で存在する組成である。個々の用途に効果的な実際量は、疾患や投与経路によって異なってくる。有効量の決定は、特にここに記載される情報を踏まえれば、ゆうにこの分野の技能の範囲内である。例えば上の表1には、対応するホスホリパーゼ阻害薬部分の効果的な用量を選択するのに、通常この分野で用いられている技法のひとつを利用したガイドラインとして、IC50の値と範囲が示されている。
【0142】
ホスホリパーゼ阻害薬に関しての効果的な量とは、一般に、医療・製薬分野の規制・指導機関 (FDAやAMAなど) またはメーカーやサプライヤーが推奨または認定する、用量範囲、投与方式、製剤形態などを意味する。ホスホリパーゼ阻害薬の効果的な用量は、例えば、Physicians Desk Referenceで見つけることができる。インスリン関連疾患 (糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患などのホスホリパーゼ関連疾患の治療においてメリットを得るための効果的な量とは、一般に、医療・製薬分野の規制・指導機関(FDAやAMAなど) またはメーカーやサプライヤーが推奨または認定する、臨床結果を達成するレベルを意味する。
【0143】
この分野の通常の技法に通じた者ならば、ホスホリパーゼ阻害薬の効果的な量を決定することができる。本発明において、消化器官管腔に集中的に留まるホスホリパーゼ阻害薬の効果的な量は、このような管腔集中機能を持たない場合の投与量よりも少なくすることができる。本発明については、ホスホリパーゼ阻害薬の投与量を少しでも減少させることが有用であると見なされる。ホスホリパーゼ阻害薬の効果的な投与量を大幅に、または統計的に顕著に減少させることが、特に好ましい。本発明のいくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は、管腔集中機能を持たない阻害薬に比べて、ホスホリパーゼの活性を低下させる効果が高い。ホスホリパーゼ阻害薬の管腔集中機能により、インスリン関連疾患 (糖尿病など)、体重関連疾患 (肥満など)、コレステロール関連疾患など、ホスホリパーゼに関連した疾患の治療に必要な効果的用量を、約5%〜約95%減らすことができる。使用するホスホリパーゼ阻害薬の量は、推奨用量と同じこともあれば、より多いこともあり、また、より少ないこともある。
【0144】
いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬の推奨用量は、約0.1 mg/kg/日〜約1,000 mg/kg/日の範囲である。人間に対する有効量は、動物モデルから決定することができる。例えば、人間の用量は、動物(下記の例に記述されたマウスモデルなど) に効果が見出された循環中濃度や消化管内濃度を達成するように、処方することができる。
【0145】
この分野で通常の技能をもつ者であれば、ホスホリパーゼの生成物 (PL A2 の生成物であるリソホスファチジルコリン (LPC) など) の量を測定することにより、ホスホリパーゼの阻害程度を測定することができる。LPCの量は例えば、食後に小腸内やリンパ液、血清中の濃度を測定することによって決定できる。ホスホリパーゼ阻害の量を測定する他の技法としては、消化器官内の流動サンプルを直接採取する方法がある。この分野で通常の技能をもつ者であれば、例えば、血清中のコレステロール値やトリグリセリド濃度を調べることにより、患者における本発明のホスホリパーゼ阻害薬の効果をモニターすることもできる。他の技法は、この分野で通常の技能をもつ者にとっては明らかである。いくつかの実施例について、ホスホリパーゼ阻害の測定や、ホスホリパーゼ阻害薬の効果を検証するアプローチは、後述の例に詳しく説明される。
【0146】
(管腔集中 PLA2)
前述のように、いくつかの実施例において、本発明のPLA2阻害薬は、好ましくは管腔集中型PLA2である。このホスホリパーゼ阻害薬は、管腔集中機能と酵素阻害機能の両方を有するようにすることができる。いくつかのスキームにおいて、このような二機能性は共同作用的に(例えば、同じ構造特徴や荷電性の特徴を使用することによって) 実現することができ、また他のスキームでは、管腔集中機能は酵素阻害機能とは独立に (異なる構造や荷電性の特徴を使用することによって)実現することができる。
【0147】
図2に示す化合物2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸 (ここではILY-4001またはメチルインドキサムとも呼ぶ) は、in-vitro Caco-2 細胞検査 (例6Bを参照) およびin-vivo の生物学的利用能研究 (例えば例6Cを参照)を使用して、その吸収性が評価されている。本発明の好ましい実施例によると、例えば、荷電の改変や、インドール部分とポリマーとの間の共有結合により、この化合物の生物学的利用能が低下する代わりに管腔集中機能を向上させることができる。(例えば共同所有PCT申請番号US/2005/____________、Charmot et al. “Phospholipase Inhibitors Localized in the Gastrointestinal Lumen” (2005年5月3日) を参照。この内容は参照によってここに組み込まれる)。
【0148】
本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、好ましくは消化器官管腔内に集中して留まり、これにより、被験者に投与した場合に、ホスホリパーゼ阻害薬の多くの部分が消化器官管腔に残る。投与後、管腔集中型ホスホリパーゼ阻害薬は、消化器官 (胃、十二指腸、小腸、大腸) に留まり、自然に通り抜ける (消化器官を経由して体外に排泄されるまで)。ホスホリパーゼ阻害薬は好ましくは、少なくとも胃と十二指腸を通過する間はかなり安定(例えば、組成や、ホスホリパーゼを阻害する機能の面で) であり、さらに好ましくは、胃、十二指腸、小腸を通過する間にかなり安定であり、最も好ましくは、全消化器官を通過する間ずっと、かなり安定である。ホスホリパーゼ阻害薬は、消化器官管腔内で作用し、例えばホスホリパーゼ基質を異化するか、または、ホスホリパーゼによる消化生成物の吸収や下流の活性を改変することができる。
【0149】
ホスホリパーゼ阻害薬は、あるアプローチにおいて、消化器官管腔内に留まり、消化器官粘膜からは吸収されない。別のアプローチでは、ホスホリパーゼ阻害薬は粘膜細胞にいったん吸収され、消化器官管腔内に排出されて戻されることにより、消化器官管腔内に集中して留まることができる。
【0150】
概して、ホスホリパーゼ阻害薬に管腔集中機能をもたせる前述のような一般的アプローチの分類に拘束されることなく、本発明の好ましいホスホリパーゼ阻害薬は (本発明のさまざまな面を考慮した上で)、いくつかの全般的な管腔集中機能の実施例によって実現できる。ある全般的な管腔集中機能の実施例において、例えば、ホスホリパーゼ阻害薬は、本発明のホスホリパーゼ阻害部分(前述のインドール関連化合物およびインドール化合物) に、あるオリゴマーまたはポリマー部分が共有結合 (直接に、または結合部分を介して間接的に結合) したものである。さらに全般的な実施例において、上記のインドール関連化合物およびインドール化合物を含め、管腔集中型ホスホリパーゼ阻害薬は、それ自体の置換有機小分子とすることができる。
【0151】
本発明のさまざまな面に含まれているそれぞれの面および実施例において一般に、阻害薬は、被験者に投与した後、被験者の消化器官管腔内に留まる。ここで被験者は被験動物、好ましくは哺乳動物であり、これにはヒトや、他の哺乳動物 (マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ネコ、イヌ、ブタ、家禽類、ウシ、ウマなど) が含まれる。「消化器官管腔」という後は、ここでは単に「管腔」とも呼ばれ、動物の内臓一般も含めた消化器官の内側の空間を指す。いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は消化器官粘膜からは吸収されない。「消化器官粘膜」とは、身体の他の部分と消化器官管腔とを分ける細胞層を指し、胃粘膜や腸粘膜、例えば小腸の粘膜などが含まれる。いくつかの実施例において、管腔集中機能は、消化器官粘膜細胞によって阻害薬がいったん吸収された後、消化器官管腔内に排出されることによって達成される。「消化器官粘膜細胞」とは、消化器官粘膜のあらゆる細胞を指し、例えば、小腸の腸細胞、結腸の腸細胞、頂端部細胞などの腸の上皮細胞が含まれる。このような排出によって、全体的な「非吸収性」が実現でき、この語および類似表現が以下用いられる。
【0152】
好ましいアプローチにおいて、ホスホリパーゼ阻害薬は、消化器官管腔から消化器官粘膜細胞にはあまり吸収されない阻害薬である。ここで「吸収されない」という表現は、使用された阻害薬のかなりの部分、好ましくは統計的にかなりの部分、より好ましくはホスホリパーゼ阻害薬の実質上すべてが、消化器官管腔内に留まることを指す。例えば、ホスホリパーゼ阻害薬の少なくとも約80%が消化器官管腔内に留まり、ホスホリパーゼ阻害薬の少なくとも約85%が消化器官管腔内に留まり、ホスホリパーゼ阻害薬の少なくとも約90%が消化器官管腔内に留まり、少なくとも約95%、少なくとも約98%、好ましくは少なくとも約99%、より好ましくは少なくとも約99.5%が消化器官管腔内に留まる。その代わり、血清中生物学的利用能の点で述べたように、ホスホリパーゼ阻害薬のうち生理学的にはごくわずかの量が、被験者に投与後に被験者の血清中に吸収されている。例えば、ホスホリパーゼ阻害薬を被験者に投与後、投与したホスホリパーゼ阻害薬の約20%未満が被験者の血清中に生じ(投与後の検出可能な血清中生物学的利用能に基づく)、好ましくはホスホリパーゼ阻害薬の約15%未満、最も好ましくはホスホリパーゼ阻害薬の約10%未満が被験者の血清中に生じる。いくつかの実施例においては、約5%未満、約2%未満、約1%未満、最も好ましくは約0.5%が、被験者の血清中に生じる。いくつかの場合において、消化器官管腔集中機能では、例えば細胞間輸送および細胞内輸送の両方について、および能動的輸送や受動的輸送について、消化器官粘膜を介した移動量を減らすことができる。このような実施例のホスホリパーゼ阻害薬は、例えば小腸の頂端部細胞を介した細胞内輸送について、消化器官粘膜細胞への浸透全体が阻害される。このような実施例においてホスホリパーゼ阻害薬は、管腔内を覆う消化器官粘膜細胞間の細胞間輸送において、「タイトな接合」を通り抜ける浸透全体が阻害される。「吸収されない」という表現は、以下「非吸収性」「非吸収」などの類似表現としても同様に以下用いられる。
【0153】
いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬または阻害部分は、ホスホリパーゼ阻害薬の特に荷電やサイズ、およびその他の物理的・化学的パラメータを改変することによって、非吸収性にすることができる。例えばいくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は、消化器官粘膜からの吸収を最小限またはゼロにするような分子構造にすることができる。薬剤の吸収性については、例えば、Lipinskyルール (“the rule of five”とも呼ばれる) などの薬力学原則を適用することによって選択できる。ガイドラインとしてLipinskyは(i) 分子量、(ii) 水素結合ドナーの数、(iii) 水素結合アクセプターの数、(iv) 水/オクタノールの分配係数 (Moriguchi logP) を示し、それぞれが特定の閾値を超えれば、一般に、全身性濃度には顕著な影響は生じない。Lipinskyet al, Advanced Drug Delivery Reviews, 46, 2001 3-26を参照。この内容は参照によってここに組み込まれる。従って、非吸収性のホスホリパーゼ阻害薬は、Lipinskyの閾値の1つまたは複数、好ましくは2つ以上、3つ以上、4つ以上、またはLipinskyの閾値すべてを上回るような分子構造を構成することによって実現できる。詳しくはLipinskiet al., Experimental and computational approaches to estimate solubility and permeability in drug discovery and development settings, Adv. Drug Delivery Reviews, 46:3-26 (2001) や、Lipinski, Drug-like properties and the causes o poor solubility and poor permeability, J. Pharm. & Toxicol. Methods, 44:235-249(2000) を参照。この内容は参照によってここに組み込まれる。いくつかの好ましい実施例において、例えば、本発明のホスホリパーゼ阻害薬は、次のような特性を1つまたは複数有するように構築することができる:(i) 分子量が約500 Daより大きい、(ii) NHやOHなどの水素結合ドナーとなり得るものの数が約5より大きい、(iii)O原子やN原子などの水素結合アクセプターとなり得るものの数が約10より大きい、(iv)Moriguchi分配係数が約105 より大きい、すなわちlogPが約5より大きい。下記に述べるホスホリパーゼ阻害薬やホスホリパーゼ阻害機能部分の既知の技法はすべて、非吸収性分子構造の構築に使用することができる。
【0154】
好ましくは、この化合物の浸透性は実験によってスクリーニングされる。浸透係数はこの分野の技能を有するものに知られている方法によって測定することができ、例えばCaco-2 細胞浸透性検査などがある。ヒト結腸腺癌由来細胞であるCaco-2を用いて、腸の薬剤吸収をモデル化し、浸透性に基づき化合物のランク付けをすることができる。例えば、Caco-2単層における見かけの浸透速度が1X10-7cm/sec以下の範囲で測定され、ヒトにおいてほとんど吸収されない相関関係が示されている(Artursson P, K. J. 1991)。浸透性は、消化器官粘膜のモデルとして人工膜を使用して測定することもできる。例えば、合成膜をレシチンやドデカンに浸し、消化器官粘膜の浸透特性を模することができる。この膜は、コンパートメントの隔膜として使用し、一方のコンパートメントにホスホリパーゼ阻害薬を入れ、浸透速度をモニターすることができる。("Correlation between oral drug absorption in humans and apparent drug." Biochemical and Biophysical Research Communications 175(3): 880-885を参照。)また、平行人工膜透過試験(PAMPA) を行うこともできる。このようなin vitro 測定は、実際のin vivo の浸透性を妥当に示すことができる。例えばWohnsland et al. J.Med. Chem., 2001, 44:923-930; Schmidt et al., Millipore corp. Application note, 2002, no AN1725EN00, and no AN1728EN00を参照。これらの内容は参照によってここに組み込まれる。浸透係数は、常用対数LogPeとして報告される。
【0155】
いくつかの実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬の浸透係数Log Pe は、Wohnsland et al. J.Med. Chem. 2001, 44. 923-930に記載されている浸透性測定実験で測定した場合、好ましくは約-4未満、または約 -4.5未満、または約 -5未満、より好ましくは約 -5.5未満、さらに好ましくは約 -6未満である。
【0156】
記載のように、ある一般的な管腔集中型の実施例において、ホスホリパーゼ阻害薬は前述のインドール関連化合物およびインドール化合物などのホスホリパーゼ阻害部分と、それに結合あるいは付属する非吸収性のオリゴマーまたはポリマー部分から成り、ここでこのオリゴマーまたはポリマー部分は、疎水性部分、親水性部分、あるいは荷電部分とすることができる。いくつかの好ましい実施例において、ホスホリパーゼ阻害機能部分はポリマー部分と結合している。一般に、このようなポリマー阻害剤は、例えば荷電特性や、親水性 / 疎水性のバランスや配分、分子構造などいくつかの機能の選択または組合せにより非吸収性となるような大きさに構築され、酵素阻害機能を有する。この全般的な実施例におけるオリゴマーまたはポリマーは、好ましくは水溶性であり、好ましくはコポリマー(2種類のモノマー繰り返し単位から成るポリマーや、ターポリマー、4種以上から成るポリマーを含む) であり、例えばランダムコポリマーやブロックコポリマーを含む。オリゴマーまたはポリマーには一般に、1つまたは複数の陰イオンモノマー部分など、1つまたは複数のイオン性モノマー部分を含むことができる。オリゴマーまたはポリマーには一般に、1つまたは複数の疎水性モノマー部分を含むことができる。
【0157】
この全般的な実施例において、もう1つ具体的なアプローチとして、ポリマー部分は比較的大きな分子量とし、例えば約1000 Da〜約500,000 Da、好ましくは約5000〜約200,000Da、より好ましくは、充分に大きな分子量にって、消化器官粘膜からの吸収量 (合計) を阻害または除外することができる。大きなポリマー部分にすると、例えば比較的大きな水溶性または不溶性(架橋構造など) のポリマーに複数の阻害機能部分 (図2に関連して後述) をもたせるといった体外除去アプローチに有利となり得る。
【0158】
この全般的な実施例において、もう1つ別の具体的なアプローチとして、オリゴマーまたはポリマー部分は低分子量として、例えば約5000 Da未満とし、好ましくは約3000Da、場合によっては約1000 Daとすることができる。このアプローチにおいて好ましくは、オリゴマーまたはポリマー部分は主に疎水性ポリマーのブロックから成り、これにより水・脂質界面になじむ阻害薬にすることができる。
【0159】
(文献)
下記の参照文献には、例えば上記に述べたような、本発明に関連した、この分野における既知の情報が記載されている。場合によっては、これら参照文献は、最初の2著者名および発行年を記載することによって本発明の申請文中に記載されている。これらの参照文献の内容は参照によってここに組み込まれる。
Baker, R. R.and H. Chang (2000). "A metabolic path for the degradation of lysophosphatidicacid, an inhibitor of lysophosphatidylcholine lysophospholipase, in neuronal nuclei of cerebral cortex." Biochim Biophys Acta 1483(1):58-68.Baker, R. R. and H. Y. Chang (1999). "Evidence for two distinct lysophospholipase activities that degrade lysophosphatidylcholine and lysophosphatidic acid in neuronal nuclei of cerebral cortex." Biochim Biophys Acta 1438(2): 253-63.Carriere (1993). "Secretion and contribution to Lipolysis of Gastic and Pancreatic Lipases During a Test Mealin Humans." Gastroenterology: 876-888.Carriere, F., C. Renou, et al. (2000). "The specific activities of human digestive lipases measured from the in vivo and in vitro lipolysis of test meals." Gastroenterology119(4): 949-60.Duan, R. D. and B. Borgstrom (1993). "Is there a specific lysophospholipase in human pancreatic juice?" Biochim Biophys Acta1167(3): 326-30.Dunlop, M. E., E. Muggli, et al. (1997). "Differential disposition of lysophosphatidylcholine in diabetes compared with raised glucose: implications for prostaglandin production in the diabetic kidney glomerulus in vivo." Biochim Biophys Acta 1345(3): 306-16.el Soda, M., L.Pannell, et al. (1989)."Microencapsulated enzyme systems for the acceleration of cheese ripening." J Microencapsul 6(3): 319-26.Flieger, A., S. Gong, et al. (2001). "Novel lysophospholipase A secreted by Legionell apneumophila." J Bacteriol 183(6): 2121-4.Flieger, A., B. Neumeister, etal. (2002)."Characterization of the gene encoding the major secreted lysophospholipase A of Legionella pneumophila and its role in detoxification of lysophosphatidylcholine." Infect Immun 70(11): 6094-106.Gesta, S.,M. F. Simon, et al. (2002). "Secretion of a lysophospholipase D activity by adipocytes: involvement in lysophosphatidic acid synthesis." J Lipid Res 43(6): 904-10.McMorn, P. and G. J. Hutchings (2004)."Heterogeneous enantioselective catalysts: strategies for the immobilisation of homogeneous catalysts." Chem Soc Rev 33(2):108-22.Millan, C. G., M. L. Marinero, et al. (2004). "Drug, enzyme and peptide delivery using erythrocytes as carriers." J Control Release 95(1):27-49.Muzykantov, V. R. (2001). "Delivery of antioxidant enzyme proteins to the lung." Antioxid Redox Signal 3(1): 39-62.Ross, B. M. and S.J. Kish (1994). "Characterization of lysophospholipid metabolizing enzymes in human brain." J Neurochem 63(5): 1839-48.Sakagami, H., J. Aoki,et al. (2005). "Biochemical and molecular characterization of a novel choline-specific glycerophosphodiester phosphodiesterase belonging to the nucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase (NPP) family." J Biol Chem.Shah,N. P. (2000). "Probiotic bacteria: selective enumeration and survival in dairy foods." J Dairy Sci 83(4): 894-907.Shanado, Y., M. Kometani,et al. (2004). "Lysophospholipase I identified as a ghrelin deacylationenzyme in rat stomach." Biochem Biophys Res Commun 325(4): 1487-94.Sunaga, H.,H. Sugimoto, et al. (1995)."Purification and properties of lysophospholipase isoenzymes from pig gastric mucosa." Biochem J 308 ( Pt 2): 551-7.Taniyama, Y., S.Shibata, et al. (1999). "Cloning and expression of a novel lysophospholipase which structurally resembles lecithin cholesterol acyltransferase." Biochem Biophys Res Commun 257(1): 50-6.Tokumura, A., Y.Kanaya, et al. (2002)."Increased formation of lysophosphatidic acids by lysophospholipase D in serum of hypercholesterolemic rabbits." J Lipid Res 43(2): 307-15.Tokumura, A., E.Majima, et al. (2002)."Identification of human plasma lysophospholipase D, a lysophosphatidic acid-producing enzyme, as autotaxin, a multifunctional phosphodiesterase."J Biol Chem 277(42): 39436-42.Tosti, E., L. Dahl, et al. (1999). "Endothelial degradation of extracellular lyso-phosphatidylcholine." Scand J Clin Lab Invest 59(4): 249-57.Toyoda,T., H. Sugimoto, et al. (1999)."Sequence, expression in Escherichia coli, and characterization of lysophospholipase II." Biochim Biophys Acta 1437(2): 182-93.Walde, P. and S.Ichikawa (2001). "Enzymes inside lipid vesicles: preparation, reactivity and applications." BiomolEng 18(4): 143-77.Wang, A. and E. A. Dennis (1999). "Mammalian lysophospholipases." Biochim Biophys Acta 1439(1): 1-16.Wang, A.,H. C. Yang, et al. (1999). "A specific human lysophospholipase: cDNA cloning, tissue distribution and kinetic characterization." Biochim Biophys Acta 1437(2): 157-69.Witt, W., A. Mertsching, et al. (1984). "Secretion of phospholipase B from Saccharomyces cerevisiae." Biochim Biophys Acta 795(1): 117-24.Witt, W., M.E. Schweingruber, et al. (1984)."Phospholipase B from the plasma membrane of Saccharomyces cerevisiae.Separation of two forms with different carbohydrate content." Biochim Biophys Acta 795(1): 108-16.Wright, L. C., J. Payne, et al. (2004)."Cryptococcal phospholipases: a novel lysophospholipase discovered in the pathogenic fungus Cryptococcus gattii." Biochem J 384(Pt 2):377-84.
【実施例】
【0160】
(例1: マウスモデルにおけるインスリン抵抗性の低下)
ホスホリパーゼ阻害薬 (例えばここに公開されているホスホリパーゼ阻害機能部分から成る組成) は、マウスモデルに用いて、例えば食餌による糖尿病の発症に関連し、例えば食餌によるインスリン抵抗性の抑制を示すことができる。ホスホリパーゼ阻害薬は被験動物に対し、特定の用量(例えば約1 ml/体重kg、または約25〜約50 μl/回) の餌サプリメントまたは経口胃管BIDによって投与することができる。典型的な担体の阻害薬懸濁液は、カルボキシメチルセルロースが約0.9%、PEG-400が約9%、Tween80が約0.05%、阻害薬濃度が約5〜約13 mg/mlから成る。この懸濁液を、毎日の餌のサプリメントとして食餌重量の約0.015%未満追加するか、または経口胃管BIDで1日約10mg/体重kg〜約90 mg/体重kgを投与する。
【0161】
使用するマウス用餌は、欧米型食事 (高脂肪や高コレステロール) を模した組成にすることができる。例えば、餌には食餌重量で乳脂肪約21%、コレステロール約0.15%を含めることができ、この場合、合計カロリーの42%が脂肪由来のカロリーとなる。詳しくはHarlanTeklad, diet TD88137 を参照。餌に阻害薬を混合する場合は、研究期間中毎日、その担体を、阻害薬を含む場合も含まない場合にも、餌に混合してマウスに与えることができる。
【0162】
この研究の期間は通常約6〜約8週間であり、被験動物にはこの期間中毎日、用量を投与する。投与群は通常、各群約6〜約8匹の被験動物が含まれ、投与しない比較標準群と、担体だけの比較標準群、投与量が約10mg/体重kg〜約90 mg/体重kgの範囲の用量投与群から構成することができる。
【0163】
約6〜約8週間の研究期間終了時点で、経口グルコース負荷耐性検査やインスリン感受性検査を次のように行うことができる:
(経口グルコース負荷耐性検査)
一晩絶食後、各投与量群のマウスに、生理食塩水約50 μl中、グルコースをボーラスで与える (例えば約2 g/体重kgを胃管経由で)。グルコース投与前と、投与から約15分後、約30分後、約60分後、約120分後に尾静脈から血液サンプルを採取する。各時点の血中グルコース濃度を測定する。
【0164】
(インスリン感受性検査)
約6時間の絶食後の朝、各投与量群のマウスに、例えば腹膜投与により、ウシインスリン(例えば約1 U/体重kg) を投与する。インスリン投与前と、投与から約15分後、約30分後、約60分後、約120分後に尾静脈から血液サンプルを採取する。各時点の血漿中インスリン濃度を、例えばラジオイムノアッセイにより測定する。
【0165】
非吸収性のホスホリパーゼ阻害薬 (例えばホスホリパーゼA2阻害薬など) の効果は、インスリン抵抗性の低下である。すなわち、細胞内のグルコース代謝効率が向上したことにより、欧米型食餌(高脂肪 / 高コレステロール) を摂取する投与群の被験動物の方が、比較標準群の動物に比べて、グルコース大量投与にも耐えられる力が向上している。用量の効果についても測定することができる。
【0166】
(例2: マウスモデルにおける脂肪吸収の低下)
ホスホリパーゼ阻害薬 (例えばここに公開されているホスホリパーゼ阻害機能部分から成る組成) は、マウスモデルに用いて、例えば欧米型食餌を摂取している被験動物において、脂質吸収を低下させることができる。ホスホリパーゼ阻害薬は被験動物に対し、特定の用量(例えば約1 ml/体重kg、または約25〜約50 μl/回) の餌サプリメントまたは経口胃管BIDによって投与することができる。典型的な担体の阻害薬懸濁液は、カルボキシメチルセルロースが約0.9%、PEG-400が約9%、Tween80が約0.05%、阻害薬濃度が約5〜約13 mg/mlから成る。この懸濁液を、毎日の餌のサプリメントとして食餌重量の約0.015%未満追加するか、または経口胃管BIDで1日約10mg/体重kg〜90 mg/体重kgを投与する。
【0167】
使用するマウス用餌は、欧米型食事 (高脂肪や高コレステロール) を模した組成にすることができる。例えば、餌には食餌重量で乳脂肪約21%、コレステロール約0.15%を含めることができ、この場合、合計カロリーの42%が脂肪由来のカロリーとなる。詳しくはHarlan Teklad, diet TD88137 を参照。餌に阻害薬を混合する場合は、研究期間中毎日、その担体を、阻害薬を含む場合も含まない場合にも、餌に混合してマウスに与えることができる。
【0168】
約6〜約8週間の期間中、トリグリセリド測定を行い、被験動物にはこの期間中毎日、用量を投与する。投与群は通常、各群約6〜約8匹の被験動物が含まれ、投与しない比較標準群と、担体だけの比較標準群、投与量が約10mg/体重kg〜約90 mg/体重kgの範囲の用量投与群から構成することができる。毎週、血漿サンプルを被験動物から採取し、全トリグリセリド濃度を分析することにより、循環血中に吸収された脂質の量を測定することができる。
【0169】
非吸収性のホスホリパーゼ阻害薬 (例えばホスホリパーゼA2阻害薬など) の効果は、血漿中脂質濃度の全体的な低下である。すなわち、欧米型食餌 (高脂肪 / 高コレステロール)を摂取する投与群の被験動物の方が、比較標準群の動物に比べて、脂肪吸収が減少することが示されている。用量の効果についても測定することができる。
【0170】
(例3: マウスモデルにおける、食餌による高コレステロール血症の減少)
ホスホリパーゼ阻害薬 (例えばここに公開されているホスホリパーゼ阻害機能部分から成る組成) は、マウスモデルに用いて、例えば欧米型食餌を摂取している被験動物において、食餌による高コレステロール血症を抑制することができる。ホスホリパーゼ阻害薬は被験動物に対し、餌サプリメントまたは経口胃管BID(例えば約1 ml/体重kg、または約25〜約50 μl/回) によって投与することができる。典型的な担体の阻害薬懸濁液は、カルボキシメチルセルロースが約0.9%、PEG-400が約9%、Tween80が約0.05%、阻害薬濃度が約5〜約13 mg/mlから成る。この懸濁液を、毎日の餌のサプリメントとして食餌重量の約0.015%未満追加するか、または経口胃管BIDで1日約10mg/体重kg〜約90mg/体重kgを投与する。
【0171】
使用するマウス用餌は、欧米型食事 (高脂肪や高コレステロール) を模した組成にすることができる。例えば、餌には食餌重量で乳脂肪約21%、コレステロール約0.15%を含めることができ、この場合、合計カロリーの42%が脂肪由来のカロリーとなる。詳しくはHarlan Teklad, diet TD88137 を参照。餌に阻害薬を混合する場合は、研究期間中毎日、その担体を、阻害薬を含む場合も含まない場合にも、餌に混合してマウスに与えることができる。
【0172】
約6〜約8週間の期間中、コレステロールやトリグリセリドの測定を行い、被験動物にはこの期間中毎日、用量を投与する。投与群は通常、各群約6〜約8匹の被験動物が含まれ、投与しない比較標準群と、担体だけの比較標準群、投与量が約10mg/体重kg〜約90 mg/体重kgの範囲の用量投与群から構成することができる。毎週、血漿サンプルを被験動物から採取し、全コレステロール濃度や全トリグリセリド濃度を分析することにより、循環血中に吸収されたコレステロールや脂質の量を測定することができる。マウスの血漿コレステロールの多くはHDLに関連しているため(ヒトにおいてはコレステロールの多くはLDL関連である)、HDLと非HDLの割合を区別して、非吸収ホスホリパーゼ阻害薬が血漿中の非HDL (例えばVLDL/LDL)の濃度を低下させる効果を測定するのに利用することができる。
【0173】
非吸収性のホスホリパーゼ阻害薬 (例えばホスホリパーゼA2阻害薬など) の効果は、欧米型食餌 (高脂肪 / 高コレステロール) を摂取する投与群の被験動物の方が、比較標準群の動物に比べて、高コレステロール血症が全体的に低下することである。用量の効果についても測定することができる。
【0174】
(例4:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)の合成)
この例では、ホスホリパーゼ阻害薬または阻害機能部分として使用する化合物を合成した。具体的には、図2に示す化合物2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸が合成された。この化合物はこれらの例においてILY-4001と呼ばれ、またメチルインドキサンとも称される。
【0175】
図9には、ILY-4001の合成経路全体のアウトラインを示す。図9で、各化合物の下にある番号は、下記の実験説明の各化合物化学名に付いているカッコの番号に対応している。
【0176】
2-メチル-3-メトキシアニリン(2) [04-035-11]。水和ヒドラジン (159.7 g、3.19 mol) を攪拌しながら冷やし(約5℃)、ここに10〜20℃の85% ギ酸 (172.8 g、3.19 mol) を滴下して加えた。この混合液を、メタノール中 (1000 mL) の2-メチル-3-ニトロアニソール(1) (53.34 g、0.319 mol) 溶液に亜鉛末 (104.3 g、1.595 mol) を攪拌懸濁した液に、滴下して加えた。発熱反応が生じた。加え終わったら、反応混合液をさらに2時間攪拌し(温度が61℃ から室温になるまで)、生じた沈殿を濾過し、メタノールで洗った (3×150 mL)。濾液は減圧下で濃縮し、体積を約250 mLとした。この濃縮液をEtOAc(500 ml) と飽和NaHCO3 水溶液 (500 mL) で処理した。水相は分離し、廃棄した。この有機相を水 (300 mL) で洗い、1NHCl (800 mL) で抽出した。この酸性の抽出液を、EtOAc (300 mL) で洗い、K2CO3 (90g) で塩基性化した。EtOAc (3×200 mL) で遊離塩基 2 を抽出し、抽出液を合わせてMgSO4 で乾燥させた。濾過して、濾液から溶媒を除去した後、赤い油状の生成物2 を得た。これは、さらに精製することなく、次の段階に使用した。収量:42.0 g (96%)。
【0177】
N-tert-ブチルオキシカルボニル-2-メチル-3-メトキシアニリン(3) [04-035-12]。アミン 2 (42.58 g、0.31 mol) と重炭酸ジ-tert-ブチル(65.48 g、0.30 mol) をTHF (300 mL) に攪拌して溶液とし、これを4時間還流加熱した。室温まで冷ました後、反応混合液を減圧下で濃縮し、この液をEtOAc(500 mL) に溶かした。この液を0.5 Mクエン酸 (2×100 mL) で洗い、水 (100 mL) で洗い、飽和NaHCO3 水溶液(200 mL) で洗い、塩水 (200 mL) で洗い、最後にMgSO4 で乾燥させた。濾過して、濾液から溶媒を除去した後の残留物 (赤い油状、73.6g) をヘキサン (500 mL) に溶かし、シリカゲルパッド (TLC用) で濾過した。濾液を減圧下で蒸発させ、黄色い固体のN-Boc アニリン 3 を得た。収量:68.1g (96%)。
【0178】
4-メトキシ-2-メチル-1H-インドール(5) [04-035-13]。N-Boc アニリン 3 (58.14 g、0.245 mol) を無水THF(400 mL) に溶かし攪拌冷却 (-50℃) した溶液に、1.4 M sec-BuLiのシクロヘキサン溶液 (0.491 mol、350.7 mL) を-48〜-50℃で滴下して加え、反応混合液を放置して-20℃にした。-60℃Cに冷却した後、N-メトキシ-N-メチルアセトアミド (25.30 g、0.245 mol) のTHF溶液 (25 mL) を-57〜-60℃で滴下して加えた。-60℃で1時間、反応混合液を攪拌し、1時間放置して15℃にした。-15℃まで冷ました後、反応液に2NHCl (245 mL) を加えて反応を止め、この液に2N HClを加えてpHを約7に調整した。有機相は分離し、別に保存した。水相はEtOAc (3×100mL) で抽出した。有機相溶液を減圧下で濃縮し、残った青白い油をEtOAc (300 mL) に溶かし、EtOAc抽出液と合わせた。この液を水 (2×200mL) で洗い、0.5 Mクエン酸 (100 mL) で洗い、飽和NaHCO3 水溶液 (100 mL) で洗い、塩水 (200 mL)で洗い、最後にMgSO4 で乾燥させた。濾過して、濾液から溶媒を除去した後、最初のN-Boc アニリン 3 と中間生成物ケトン 4 (モル比は約1: 1) の混合物が、青白い油 (67.05 g) として得られた。
【0179】
得られた油を無水CH2Cl2(150 mL) に溶かし、この溶液を0〜-5℃に冷却した。トリフルオロ酢酸 (65 mL) を滴下して加え、反応混合液を放置して室温にした。16時間攪拌した後、さらにトリフルオロ酢酸(35 mL) を加え、さらに16時間攪拌を継続した。この反応混合液を減圧下で濃縮し、赤い油状の液をCH2Cl2(500 mL) に溶かした。この溶液を、水 (3×200 mL) で洗い、MgSO4 で乾燥させた。シリカゲル 60のパッドで濾過し、この濾液を減圧下で蒸発させて、黄色い固体の粗製生成物5 (27.2 g) を得た。乾燥クロマトグラフィー (シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中20% EtOAc) によって精製し、白色固体のインドール 5 を得た。収量:21.1g (53%)。
【0180】
1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル]-4-メトキシ-2-メチル-1H-インドール(6) [04-035-14]。インドール 5 (16.12 g、0.10 mol) を無水DMF(100 mL) に溶かした溶液を、攪拌しながら冷やした (約15℃) 水素化ナトリウム (0.15 mol、6.0 g、ミネラルオイル中に60%、ヘキサン100mLで洗ってから反応に使用) の懸濁液 (DMF 50 mL中) の中に滴下して加えた。この反応混合液を室温で0.5時間攪拌した。反応混合液を約5℃に冷却した後、臭化2-フェニルベンジル(25.0 g、0.101 mol) を滴下して加え、この反応混合液を室温で18時間攪拌した。水 (10 mL) およびEtOAc (500 mL) を加えて、反応を止めた。この混合液を、水(2×200 mL + 3×100 mL) で洗い、塩水 (200 mL) で洗い、MgSO4 で乾燥させた。濾過して、減圧下で濾液から溶媒を除去した後の残留物(35.5 g、赤色の粘稠な油) を乾燥クロマトグラフィー (シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中CH2Cl2 5%→ 25%) で精製し、青白い油状の生成物 6 を得た。収量:23.71 g (72%)。
【0181】
1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル]-4-ヒドロキシ-2-メチル-1H-インドール(7) [04-035-15]。メトキシ誘導体 6 (23.61 g、72.1 mmol) を無水CH2Cl2(250 mL) に溶かし攪拌冷却 (10℃) した溶液に、CH2Cl2 中のBBr31M 溶液 (300 mmol、300 mL) を15〜20℃で滴下して加え、この濃い色の反応混合物を室温で5時間攪拌した。室温まで冷ました後、反応混合液を約5℃に冷却し、あらかじめ冷やしてあった (15℃) EtOAc (450 mL) に溶かした。この溶液を、水 (3×200 mL) で洗い、塩水(200 mL)で洗い、MgSO4 で乾燥させた。濾過して、減圧下で濾液から溶媒を除去した後の残留物 (26.1 g、濃い色の半固体) を乾燥クロマトグラフィー(シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中EtOAc 5% → 25%) で精製し、茶色固体の生成物 7 を得た。収量:4.30 g (19%)。
【0182】
2-{1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イル]オキシ}酢酸メチルエステル(8) [04-035-16]。水素化ナトリウム (0.549 g、13.7 mmol、ミネラルオイル中に60%)の無水DMF (15 mL) 中懸濁液を攪拌し、ここに化合物 7 (4.30 g、13.7 mmol) のDMF (30 mL) 溶液を滴下して加え、この反応混合液を室温で40分間攪拌した。メチルブロモ酢酸(2.10 g、13.7 mmol) を滴下して加え、室温でさらに21時間攪拌を継続した。この反応混合液を、EtOAc (200 mL) で希釈し、水 (4×200mL) で洗い、塩水 (200 mL) で洗い、MgSO4 で乾燥させた。濾過して、減圧下で濾液から溶媒を除去した後の残留物 (5.37g、濃い色の半固体) を乾燥クロマトグラフィー (シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中EtOAc 5% → 30%) で精製し、黄色い固体の生成物 8 を得た。収量:4.71g (89%)。
【0183】
2-{[3-(2-アミノ-1,2-ジオキソエチル)-1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イル]オキシ}酢酸メチルエステル(9) [04-035-17]。塩化オキサリル (1.55 g、12.2 mmol) の無水CH2Cl2(20 mL) 溶液を攪拌し、ここに化合物 8 のCH2Cl2 溶液 (40 mL) を滴下して加え、この反応混合液を室温で80分間攪拌した。反応混合液を約-10℃に冷却した後、NH3 のCH2Cl2 (10 mL) 飽和溶液を滴下して加え、この反応混合液に、約0℃でNH3 (気体) を飽和させた。沈殿の生成が観察された。この反応混合物を放置して室温にし、減圧下で濃縮して乾燥させた。濃い色の固形物(6.50 g) を乾燥クロマトグラフィー (シリカゲルTLC、溶媒はヘキサン中30% EtOAc → 100% EtOAc) によって精製し、黄色い固体の生成物9 を得た。収量:4.64 g (83%)。
【0184】
2-{[3-(2-アミノ-1,2-ジオキソエチル)-1-[(1,1’-ビフェニル)-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イル]オキシ}酢酸(ILY-4001) [04-035-18]。化合物 9 (4.61 g、10.1 mmol) をTHF(50 mL) および水 (10 mL) の混合液に溶かし、溶液を攪拌し、水酸化リチウム一水和物 (0.848 g、20.2 mmol) を水 (20 mL)に溶かした溶液を少しずつ加え、この反応混合液を室温で2時間攪拌した。水 (70 mL) を加えた後、この反応混合液を減圧下で濃縮し、体積を約100 mL とした。黄色い沈殿の生成が観察された。この黄色いスラリーに、2NHCl (20 mL) とEtOAc (200 mL) を加え、この混合液を室温で16時間攪拌した。黄緑色の沈殿を濾過し、これをEtOAc (3×20 mL)、Et2O(20 mL)、ヘキサン (20 mL) で洗った。減圧下で乾燥し、青白い固体の生成物 (2.75 g) を得た。MS:443.27 (M++ 1)。元素分析:C26H22N2O5 + H2Oの計算値:C,67.82、H, 5.25、N, 6.08。実測値:C, 68.50、H, 4.96、N, 6.01。HPLC:純度96.5%。1HNMR (DMSO-d6) δ7.80 (br s, 1H)、7.72-7.25 (m, 9H)、7.07 (t, 1H)、6.93 (d,1H)、6.57 (d, 1H)、6.43 (d, 1H)、5.39 (s, 2H)、4.68 (s, 2H)、2.38 (s, 3H)。
【0185】
この濾液の水相を分離して捨て、有機相を塩水 (100 mL) で洗い、MgSO4 で乾燥させた。濾過し、濾液の溶媒を減圧下で除去し、残った緑色の固形物をEtOAc (3×10 mL)、Et2O (10 mL)、ヘキサン (10 mL) で洗った。減圧下で乾燥し、緑色っぽい固体の生成物の追加分(1.13 g) を得た。
合計収量:2.75g + 1.13 g = 3.88 g (87%)。
【0186】
(例5:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)のPLA2-IB阻害薬としてのIn-Vivo評価と、食物関連疾患の治療)
この例は、図2に示す化合物2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸が、効果的なホスホリパーゼ-2A IB阻害薬であることを示し、遺伝的欠損のあるPLA2 (-/-) マウスの効果に近い、または匹敵する表現型効果を有することを示している。この例ではまた、この化合物(またはその誘導体部分) が、体重関連疾患やインスリン関連疾患、コレステロール関連疾患 (特に、肥満や糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症などを含む)などの治療に有効であることも示している。この例では、化合物[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] はILY-4001 (またはメチルインドキサムとも呼ぶ) と称される。
【0187】
ILY-4001(図2) は、野生型マウスおよび遺伝子欠損のあるPLA2 (-/-) マウス (PLA2ノックアウト (KO) マウスとも呼ばれる) を用いた一連の実験において、PLA2 IB阻害薬として評価された。これらの実験において、野生型マウスとPLA2 (-/-) マウスは高脂肪 / 高糖類食餌を摂取した。この詳細を下記に述べる。
【0188】
ILY-4001は、1-パルミチトイル-2-(10-ピレンデカノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール検定(PLA2 IB酵素で処理した担体からのピレン基質放出を測定) において、ヒトPLA2 IB酵素に対するIC50測定値が約0.2 uM、マウスPLA2 IB酵素に対しては0.15uMである (Singer, Ghomashchi et al. 2002)。実験研究により、IC-50値が約0.062と測定された。(例6Aを参照)。メチルインドキサムは、マウスおよびヒトの膵臓PLA2に対する活性に加え、低pHでも安定なため、胃を通過しても問題がないと予測される。Caco-2検査(例6Bを参照) および薬力学研究 (例6Cを参照) の結果から、ILY-4001は消化器官管腔による吸収が比較的低いことがわかる。
【0189】
この例5の研究では、治療群として24匹のマウスが使用された。詳細を下の表4に示す。簡単に説明すると、4つの群に分けられ、各群にはマウス6匹ずつが含まれる。このうち3つの群は、野生型PLA2(+/+) マウスが6匹ずつ属し (合計18匹)、残る1群には遺伝子欠損のあるPLA2 (-/-) マウス6匹が含められた。野生型群の1つは、野生型の比較標準群として用い、ILY-4001の投与は行わなかった。他の2つの野生型群にはILY-4001が投与された。1つの群には25mg/kg/日の低用量 (表1にはLと記載)、もう1つの群には90 mg/kg/日の高用量 (表1にはHと記載) を投与した。PLA2 (-/-) の群は、陽性比較標準群として用いた。
【0190】
【表4】
この研究に使用した実験プロトコルは次の通りである。野生型および同遺伝子型PLA2 (-/-) C57BL/Jマウスを含む、4つの群のマウスは、低脂肪 / 低炭水化物食に3日間順化させた。3日間の順化の後、一晩絶食させ、血清サンプルを採取して血漿中コレステロール値、トリグリセリド濃度、グルコース濃度のベースラインを確定し、また体重のベースラインも得た。各処置群のマウスに、高脂肪/ 高糖類の糖尿病誘発性食を与えた (Research Diets D12331)。高脂肪 / 高糖類のD12331食1000 gには、カゼイン (228g)、DL-メチオニン(2g)、マルトデキストリン10 (170g)、蔗糖 (175g)、大豆油 (25g)、水素化ココヤシ油 (333.5g)、ミネラルミックス S10001(40g)、重炭酸ナトリウム (10.5g)、クエン酸カリウム (4g)、ビタミンミックス V10001 (10g)、重酒石酸コリン (2g) 画布汲まれている。この食餌にILY-4001投与を追加し、結果として体重25gのマウスが消化する同化合物の日平均用量が次のようになるようにした:0mg/kg/日 (野生型比較標準群およびPLA2 (-/-) 比較標準群); 25 mg/kg/日 (野生型低用量投与群)、90 mg/kg/日 (野生型高用量投与群)。被験動物は10週間にわたり高脂肪/ 高糖類食を継続し、指定のILY-4001投与を受けた。
【0191】
処置開始時と、研究開始から4週後および10週後の時点で、全投与群および比較標準群の全被験動物について体重が測定された。(例5Aを参照)。また、処置開始時と研究開始から4週後および10週後の時点で血液も採取され、空腹時グルコース濃度が測定された(例5Bを参照)。コレステロールおよびトリグリセリド濃度は、処置開始時 (ベースライン) および10週後に採取された血液で測定された。(例5Cを参照)。
【0192】
(例5A:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)のPLA2-IB阻害薬としてのIn-Vivo評価における体重増加)
【0193】
例5において概要が述べられているこの研究では、処置開始時と、研究開始から4週後および10週後の時点で、全投与群および比較標準群の全被験動物について体重が測定された。高脂肪/ 高糖類の糖尿病誘発性食にILY-4001を付加した上記の処置プロトコルを使用した場合、体重増加の顕著な減少が見られた。
【0194】
図3を参照し、ILY-4001を投与されていない野生型マウス(第1群、野生型比較標準) の体重増加は、研究開始から4週まで、予測されたパターン通りかなりの体重増加が起こり、10週後には体重増加はさらに倍増した。これに対し、PLA2(-/-) マウス (PLA2 KOマウス) もILY-4001の投与は受けておらず、同じ食餌を与えられているが (第4群、PLA2 (-/-) 比較標準)、4週〜10週の間には統計的に有意な変化は見られず、研究期間全体での体重増加はごくわずか(5 g未満) であった。2つの処置群 (25 mg/kg/日および90 mg/kg/日) では、野生型比較標準群に比べ、4週後と10週後の体重増加が顕著に減少した。両処置群とも、4週後の体重増加は、PLA2(-/-) マウスでの体重増加にかなり近い値を示した。低用量処置群は、10週後の体重増加は、PLA2 (-/-) マウスでの体重増加に匹敵する値を示した。
【0195】
(例5B:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)のPLA2-IB阻害薬としてのIn-Vivo評価における空腹時血清グルコース濃度)
例5において概要が述べられているこの研究では、処置開始時と研究開始から4週後および10週後の時点で血液が採取され、空腹時グルコース濃度が測定された。高脂肪/ 高糖類の糖尿病誘発性食にILY-4001を付加した上記の処置プロトコルを使用した場合、空腹時血清グルコース濃度の顕著な減少が見られた。
【0196】
図4を参照して、野生型比較標準マウス(第1群) は高い血漿グルコース濃度を維持しており、4週後と10週後において高脂肪 / 高糖類の糖尿病誘発性食に見合った結果となった。これに対してPLA2(-/-) KOマウス (第4群) では、4週後と10週後における空腹時グルコース濃度が統計的に有意な減少を示した。これは、この糖尿病誘発性食を摂っているマウスでは通常見られないような、インスリンに対する感受性の高さを示している。高用量ILY-4001処置群(第3群) も、4週後と10週後における空腹時グルコース濃度が、同様に低下した。これは、高脂肪 / 高糖類を摂る野生型マウスに比べ、この群のインスリン感受性が向上しており、PLA2(-/-) KOマウスの表現型に近いことを示す。低用量ILY-4001処置群 (第2群) は、4週後ではある程度の効果が見られたが、10週後では有益な効果は観察されなかった。
【0197】
(例5C:ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (メチルインドキサム)のPLA2-IB阻害薬としてのIn-Vivo評価における血清コレステロールおよびトリグリセリド濃度)
例5において概要が述べられているこの研究では、処置開始時と研究開始から10週後の時点で血液が採取され、コレステロールおよびトリグリセリド濃度が測定された。高脂肪/ 高糖類の糖尿病誘発性食にILY-4001を付加した上記の処置プロトコルを使用した場合、血清コレステロール値と血清トリグリセリド濃度の両方において、顕著な減少が見られた。
【0198】
図5Aおよび5Bを参照して、高脂肪/ 高糖類食の開始から10週後に、野生型比較標準の被験動物 (第1群) は、研究開始時に測定したベースラインと比較して、血中コレステロール値 (図5A) とトリグリセリド濃度(図5B) の両方においてかなり顕著な増加が見られた。これに対しPLA2 (-/-) KOの被験動物 (第4群) は、これら脂質の同じような増加は示さなかった。コレステロール値およびトリグリセリド値はそれぞれ、野生型比較標準群の2分の1から3分の1であった。ILY-4001処置群は、高用量(第2群) でも低用量 (第3群) でも明らかに、血漿中コレステロール値とトリグリセリド値は顕著に低下し、PLA2 (-/-) KOマウスに匹敵する有益な効果が得られた。
【0199】
(例6: 特性研究− ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸])
この例では、ILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (ここではメチルインドキサムと呼ぶ)の特性を調べる。IC50検査によって活性を調べ (例6A)、in-vitro Caco-2検査によって細胞吸収を調べ (例6B)、in-vivo マウス研究によって生物学的利用能を調べる(例6C)。
【0200】
(例6A:IC-50研究 − ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸])
この例では、ILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (ここではメチルインドキサムと呼ぶ)のIC50活性値を評価する。
【0201】
ICを測定するには、文献に記載されているPLA2活性の連続蛍光測定法を用いた((Leslie, CC and Gelb, MH (2004) Methods in Molecular Biology "Assaying phospholipase A2 activity", 284: 229-242, Singer, AG, et al. (2002)Journal of Biological Chemistry "Interfacial kinetic and binding properties of the complete set of human and mouse groups I, II, V, X, and XII secreted phospholipases A2", 277: 48535-48549, Bezzine, S, et al. (2000)Journal of Biological Chemistry "Exogenously added human group X secreted phospholipase A(2) but not the group IB, IIA, and V enzymes efficiently releasearachidonic acid from adherent mammalian cells", 275: 3179-3191)。
【0202】
全般に、この検査には、sn-2 脂肪アシル鎖の端にピレンフルオロフォアを有するホスファチジルグリセロール (またはホスファチジルメタノール) 基質を使用した。理論に拘束されることなく、リン脂質担体にある近隣リン脂質とピレンとの近さにより、モノマーピレンの性質とは異なるスペクトル特性が現われる。ウシの血清アルブミンが水相にあり、PLA2触媒反応によりグリセロール主鎖から放出されるピレン脂肪酸を捕捉する。ただしこの検査では、強い阻害薬が、グリセロール主鎖からのピレン脂肪酸放出を阻害することがある。よって、図7Aのスキーム1に示すように、この特性により、アルブミン結合ピレン脂肪酸の蛍光をモニターすることによって、感度の高いPLA2阻害検査が可能になる。任意のホスホリパーゼに対する、任意の阻害薬の効果と阻害薬濃度を、測定することができる。
【0203】
この例では、次の試薬および機器を一般業者から入手した:
1.ブタPLA2 IB
2.1-ヘキサデカノイル-2-(1-ピレンデカノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール(PPyrPG)
3.1-ヘキサデカノイル-2-(1-ピレンデカノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホメタノール(PPyrPM)
4.ウシ血清アルブミン(BSA、無脂肪酸)
5.2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール塩酸(Tris-HCl)
6.塩化カルシウム
7.塩化カリウム
8.溶媒: DMSO、トルエン、イソプロパノール、エタノール
9.Molecular Devices SPECTRAmax マイクロプレート分光蛍光計
10.Costar 96 ウェル・黒色ウォール/ 透明ボトムプレート。
【0204】
この例では、次の試薬を調製した:
1.PPyrPG (orPPyrPM) ストック溶液 (1 mg/ml) (トルエンとイソプロパノールを1:1で混合した溶媒中)
2.阻害薬ストック溶液(10 mM) (溶媒:DMSO)
3.3% (w/v) ウシ血清アルブミン(BSA)
4.ストック緩衝溶液:50 mM Tris-HCl、pH 8.0、50 mM KCl、1 mM CaCl2。
【0205】
この例では、次の手順を実施した:
1.ストック緩衝溶液47 mlに3% BSAを3 ml加えて、検査用緩衝溶液を調製した。
2.希釈した阻害薬を順に検査用緩衝溶液に加え、溶液Aを調製した。阻害薬は8〜15 uMの範囲で、3倍に希釈した。
3.PLA2を検査用緩衝溶液に加え、溶液Bを調製した。この溶液は、酵素活性の損失を防ぐため、使用の直前に調製した。
4.PPyrPG ストック溶液30ulを、エタノール90 ulに加え、次にPPyrPG溶液120 ul全部を、約1分間かけて滴下により、検査用緩衝溶液8.82 mlに攪拌しながら連続的に加えていき、最終濃度が4.2uMのPPyrPG 担体溶液として、溶液Cを調製した。
5.TRAmax マイクロプレート分光蛍光計は37℃に設定した。
6.Costar 96 ウェル・黒色ウォール/ 透明ボトムプレートの阻害検査ウェルそれぞれに、溶液Aを100 ul加えた。
7.Costar 96 ウェル・黒色ウォール/ 透明ボトムプレートの阻害検査ウェルそれぞれに、溶液Bを100 ul加えた。
8.Costar 96 ウェル・黒色ウォール/ 透明ボトムプレートの阻害検査ウェルそれぞれに、溶液Cを100 ul加えた。
9.分光蛍光計のチャンバー内で3分間、プレートを保温した。
10.励起342 nm、放射395nmの設定を用いて、蛍光を測定した。
【0206】
この例では、Bio Data Fit1.02 (4パラメータモデル) ソフトウェアパッケージを用いてIC50を算出した。曲線を生成する式は:
【0207】
【数1】
ここで:αは上の漸近線の値、βは下の漸近線の値、κ は縮尺、γは下記の変曲点のx座標を示す係数
【0208】
【数2】
ここで α,β,κ,γ>0、β < α、β < γ < α が拘束条件となる。
【0209】
図7Bに示されている結果より、50%最大PLA2活性となるILY4001濃度は、0.062uMと算出された。
【0210】
(例6B:Caco-2吸収研究 − ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸])
この例では、Caco-2細胞を用いたin-vitro検査を用いて、ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] (ここではメチルインドキサムと呼ぶ) の小腸吸収を評価する。
【0211】
簡単に説明すれば、ヒト結腸腺癌由来細胞であるCaco-2を用いて、腸の薬剤吸収をモデル化するものである。Caco-2単層における見かけの浸透速度が1X10-7cm/sec以下の範囲で測定され、ヒトにおいて比較的ほとんど吸収されない相関関係が示されている。(Artursson,P., K. Palm, et al. (2001). "Caco-2 monolayers in experimental and theoretical predictions of drug transport." Adv Drug Deliv Rev46(1-3): 27-43)。
【0212】
化合物の浸透性を測定するには、Caco-2 細胞 (ATCC) を、6X104cells/cm2 の密度で、24ウェルのトランスウェル(Costar) に入れる。37°C、湿度95%、空気95%、CO2 5% の条件下、MEM (Mediatech) 中で単層として成長し、20%FBS、100 U/ml ペニシリン、100 ug/ml ストレプトマイシンの追加によって差別化する。この培養基は、48時間ごとに交換した。21日後、HBSSとHEPESから成る輸送緩衝溶液で細胞を洗い、各ウェルについて経上皮電気抵抗(TEER) を測定することにより、単層の完全性を評価した。TEER値が350 ohm-cm2 以上のウェルについて、検査を行った。
【0213】
ILY-4001およびプロパノロール(細胞内輸送の比較標準) を輸送緩衝溶液で希釈して50 ug/mlにし、ウェルに個別に追加した。15分、30分、45分、1時間、3時間、6時間時点で底部側方ウェルからサンプル150ulを採取してLC/MS分析にかけた。サンプルを採取した後は、採取分の量を、温めた輸送緩衝溶液で補充した。見かけの浸透速度 (cm/s) は、次の式で算出される:
Papp= (dQ/dt)X(1/C0)X(1/A)
ここでdQ/dt は、経時的にサンプル採取した量についての浸透速度、C0は初期濃度、Aは単層の表面積 (0.32 cm2) である。実験の終わりにTEER測定を再度行い、350 ohm-cm2を下回っているウェルについては、単層の完全性が損なわれているため、これらの分析は無効であることを意味する。最後に、ウェルを輸送緩衝溶液で洗い、100 uMのLucifer Yellowをウェルに追加した。15分、30分、45分時点でサンプルが採取され、LC/MS分析によって、細胞間輸送を測定した。
【0214】
ILY-4001に関するCaco-2浸透性研究の結果を図8Aに示す。ILY-4001の見かけの浸透速度(cm/s) は約1.66 x 10-7 と測定された。細胞間輸送および細胞内輸送の比較標準としてのLucifer Yellowとプロパノロールの透過性結果も測定された。この結果を図8Bに示す。測定された見かけの浸透速度(cm/s) は、プロパノロールについては約1.32 x 10-5 、Lucifer Yellowについては約2.82 x 10-7+/- 0.37x 10-7 であった。
【0215】
(例6C: 薬力学研究− ILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸](メチルインドキサム))
この例では、ILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] (ここではメチルインドキサムと呼ぶ)の生物学的利用能を評価する。具体的には、投与後の全身循環血中における不変ILY-4001の割合の測定を行った。
【0216】
生物学的利用能は、AUC-経口 / AUC-静脈血 (IV) の比として算出された。この比を得るために、被験動物の最初の群に一定量のILY-4001を静脈血注入(IV) し、投与後、いくつかの時点 (例えば5分後から24時間後まで) における血液中のILY-4001濃度を測定した。別の被験動物群において、経口投与で同様に行い、投与後、いくつかの時点(例えば30分後から24時間後まで) における血液中のILY-4001濃度を測定した。全身循環血中のILY-4001濃度は、一般的に行われている方法で測定された(例えばEvans, G., A Handbook of Bioanalysis and Drug Metabolism. Boca Raton, CRC Press (2004) を参照)。具体的には、液体シンチレーション/質量分析計/質量分析計 (LC/MS/MS) 分析法を用いて、経口投与および静注投与後のILY-4001の血漿中濃度を定量した。測定された薬力学パラメータは、Cmax、AUC、tmax、t1/2、F(生物学的利用能) であった。
【0217】
この手順では、ILY-4001の用量は静注投与で3mg/kg、経口投与で30 mg/kgとした。この研究結果が表5にまとめられている。経口投与では、生物学的利用能が元の投与量の28%と測定された。これは、ILY-4001が消化器官から吸収されて全身循環血には行かない量が、72%であることを示している。
【0218】
【表5】
この特許明細書中に言及されている公開情報および特許申請はすべて、個々の公開情報や特許、特許申請が具体的かつ個別に記述されるのと同様に、参照によってここに組み込まれる。
【0219】
添付の請求項の主旨あるいは範囲から外れることなく、これに対してさまざまな変更ができることは、この分野の通常の技能を有する者にとっては評価でき、このような変更は本発明の範囲内に考慮される。
【図面の簡単な説明】
【0220】
【図1】図1は、リン脂質が加水分解されて、対応するリソリン脂質となる化学反応において、ホスホリパーゼ-A2酵素(PLA2) が触媒として作用する様子を示す図解である。
【図2】図2は、[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] (ここではILY-4001およびメチルインドキサムとも呼ぶ) の化学構造である。
【図3】図3は例5Aの結果をグラフで表わしたものである。ILY-4001を低用量投与されたマウス群(4001-L) と高用量投与されたマウス群 (4001-H) の体重増加を、野生型の比較標準群 (Control) および遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) ノックアウトマウス (PLA2 KO) と比較している。
【図4】図4は例5Bの結果をグラフで表わしたものである。ILY-4001を低用量投与されたマウス群(4001-L) と高用量投与されたマウス群 (4001-H) の空腹時血清グルコース濃度を、野生型の比較標準群 (Control) および遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) ノックアウトマウス (PLA2 KO) と比較している。
【図5A】図5Aは、例5Cの結果をグラフで表わしたものである。ILY-4001を低用量投与されたマウス群(4001-L) と高用量投与されたマウス群 (4001-H) の血清コレステロール値を、野生型の比較標準群 (Control) および遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) ノックアウトマウス (PLA2 KO) と比較している。
【図5B】図5Bは、例5Cの結果をグラフで表わしたものである。ILY-4001を低用量投与されたマウス群(4001-L) と高用量投与されたマウス群 (4001-H) の血清トリグリセリド濃度を、野生型の比較標準群 (Control) および遺伝子欠損のあるPLA2(-/-) ノックアウトマウス (PLA2 KO) と比較している。
【図6A】図6Aは、インドール化合物の化学構造を示したものである。
【図6B】図6Bは、インドール関連化合物の化学構造を示したものである。
【図6C】図6Cは、インドール化合物の化学構造を示したものである。
【図6D】図6Dは、インドール化合物の化学構造を示したものである。
【図7A】図7Aは、PLA2 IB酵素阻害を評価するためのin-vitro 蛍光測定分析の図解である。
【図7B】図7Bは、PLA2 IB酵素阻害を評価するためのin-vitro 蛍光測定分析によりILY-4001 [2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ)酢酸] を評価した例6Aの結果をグラフで示したものである。
【図8A】図8Aは、例6Bで、ILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] についてのin-vitro Caco-2浸透性研究の結果 (図8A)である。
【図8B】図8Bは、例6Bで、ルシファーイエローおよびプロプラノロールを細胞間輸送および細胞内輸送の比較標準として用いた結果(図8B) である。
【図9】図9は、例4に記したILY-4001[2-(3-(2-アミノ-2-オキソアセチル)-1-(ビフェニル-2-イルメチル)-2-メチル-1H-インドール-4-イロキシ) 酢酸] の全体的な合成経路をまとめた、化学式を含む図解である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体重関連疾患、インスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、およびこれらの組合せのうちいずれかを治療する方法で、この方法には、ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬の効果的な用量を被験者に投与することが含まれ、ここでこのホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物またはその塩である。
【請求項2】
被験者の脂肪やグルコース、コレステロールの代謝を調節する方法で、この方法には、ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬の効果的な用量を被験者に投与することが含まれ、ここでこのホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物またはその塩である。
【請求項3】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の使用を含む方法で、これは被験者の疾患 (体重関連疾患、インスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、およびこれらの組合せ) を治療するための製剤として使用する薬剤の製造に用いられ、またホスホリパーゼA2 IB阻害薬は五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物またはその塩から成る。
【請求項4】
食べられる食品とホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬とを含む食品組成で、このホスホリパーゼA2 IB阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物またはその塩から成る。
【請求項5】
疾患が、肥満、糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、およびこれらの組合せのうちいずれかである場合の、請求項1〜3のいずれかの発明。
【請求項6】
ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬が、1つまたは複数のヘテロ原子を含む五員環と六員環を融合したもので、このヘテロ原子は、この五員環または六員環の環構造内、または五員環と六員環それぞれの環構造内にある、請求項1〜5のいずれかの発明。
【請求項7】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、次の化学式に示される化合物、またはその塩から成る、請求項1〜6のいずれかの発明。
【化1】
ここでこの、五員環と六員環が融合したコア構造は飽和でも不飽和でもよく、R1 〜R7 は次の群から独立して選択することができる: 水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。
【請求項8】
R1 〜R7のうち独立して選択される2つの隣り合う置換基間に別の環をもつことができ、この追加環は五員環、六員環、七員環のいずれかを独立に選び、また炭素環、複素環、あるいはこの組合せにすることができる、請求項7の発明。
【請求項9】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、インドール化合物、またはその塩から成る、請求項1〜6のいずれかの発明。
【請求項10】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、インドール化合物、またはその塩から成る、請求項1〜5のいずれかの発明。
【化2】
ここで、それぞれの化学式について、R1 〜R7 は次の基の中から独立に選択される: 水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。
【請求項11】
それぞれの化学式について、R1 〜R7 のうち独立して選択される2つの隣り合う置換基間に別の環をもつことができ、この追加環は五員環、六員環、七員環のいずれかを独立に選び、また炭素環、複素環、あるいはこの組合せにすることができる、請求項10の発明。
【請求項12】
阻害薬が、次の化学式のいずれかのインドール化合物から成る、請求項11の発明。
【化3】
【請求項13】
次の条件を満たす、請求項7、8、10〜12のいずれかの発明。
R1 は水素、酸素、イオウ、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基(−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、置換された置換基の中から選択される。
R2 は水素、酸素、ハロゲン基、カルボニル基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基の中から選択される。
R3 は水素、酸素、イオウ、アミン基、水酸基 (−OH)、チオール基(−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基の中から選択される。
R4 とR5はそれぞれ独立に、水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基の中から選択される。
R6 は水素、酸素、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、酸基、アルキル基、炭素環基、アシルアミノ基、置換された置換基の中から選択される。
R7 は水素、ハロゲン基、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基の中から選択される。
【請求項14】
R1 がアルキル基、炭素環基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜13のいずれかの発明。
【請求項15】
R2 がハロゲン基、アルキル基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜14のいずれかの発明。
【請求項16】
R3 がカルボニル基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜15のいずれかの発明。
【請求項17】
R4 とR5がそれぞれ独立に、酸素、水酸基 (−OH)、酸基、アルキル基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜16のいずれかの発明。
【請求項18】
R6 がアミン基、酸基、アルキル基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜17のいずれかの発明。
【請求項19】
R7 が炭素環基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜18のいずれかの発明。
【請求項20】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、次の化学式に示される化合物である、請求項1〜5のいずれかの発明。
【化4】
【請求項21】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、投与後または飲食後に、消化器官管腔内に集中して留まる、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項22】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、消化器官粘膜からは吸収されないで、消化器官管腔内に集中して留まる、請求項21の発明。
【請求項23】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が消化器官粘膜細胞にいったん吸収され、消化器官管腔内に排出されて戻されることにより、ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が集中消化器官管腔内に集中して留まる、請求項21の発明。
【請求項24】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、消化器官管腔内にある分泌ホスホリパーゼA2 IBのカルシウム依存性の活性を阻害する、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項25】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、膵臓分泌ホスホリパーゼA2 IBの活性を阻害する、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項26】
疾患が肥満である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項27】
疾患がインスリン抵抗性である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項28】
疾患がグルコース不耐性である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項29】
疾患が高コレステロール血症である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項30】
疾患が高トリグリセリド血症である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項31】
疾患が2型糖尿病である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項32】
疾患が、肥満、インスリン抵抗性、グルコース不耐性のうち2つ以上である場合、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項33】
疾患が肥満と2型糖尿病である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項34】
疾患が代謝症候群である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項35】
治療が予防的である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項36】
治療が臨床治療的である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項37】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が十二指腸に到達できるような方法によってホスホリパーゼA2 IB阻害薬が投与される、請求項1、2およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項38】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が経口投与される場合の、請求項1、2およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項39】
製剤が、効果的な用量のホスホリパーゼA2 IB阻害薬から成る場合の、請求項3の発明。
【請求項40】
食品組成が、効果的な用量のホスホリパーゼA2 IB阻害薬から成る場合の、請求項4の発明。
【請求項41】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の少なくとも約30%を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項42】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の少なくとも約40%を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項43】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の少なくとも約50%を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項44】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の少なくとも約60%を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項45】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の約30%〜約100% を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項46】
被験動物が哺乳動物である、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項47】
被験動物が哺乳動物で、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ネコ、イヌ、家禽類、ブタ、ウシ、ウマのいずれかである、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項48】
被験動物がヒトである、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項49】
被験者において脂肪とグルコースの代謝がそれぞれ調節される場合の、請求項2の発明。
【請求項50】
被験者においてグルコースとコレステロールの代謝がそれぞれ調節される場合の、請求項2の発明。
【請求項51】
被験者において脂肪とコレステロールの代謝がそれぞれ調節される場合の、請求項2の発明。
【請求項52】
被験者において脂肪、グルコース、コレステロールの代謝がそれぞれ調節される場合の、請求項2の発明。
【請求項53】
ホスホリパーゼA2阻害薬が、リパーゼを基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項54】
ホスホリパーゼA2阻害薬が、ホスホリパーゼBを基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項55】
ホスホリパーゼ阻害薬が、ホスホリパーゼA2 の活性を阻害するけれども、リン脂質の代謝活性を有する他の消化器官ホスホリパーゼは基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項56】
ホスホリパーゼ阻害薬が、ホスホリパーゼA2 の活性を阻害するけれども、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンの代謝活性を有する他の消化器官ホスホリパーゼは基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項57】
ホスホリパーゼ阻害薬が、ホスホリパーゼA2 の活性を阻害するけれども、消化器官粘膜細胞に結合した他のホスホリパーゼは基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項58】
食品組成が、合計カロリー内容の少なくとも約25%が脂肪による合計カロリー内容を有する食品成分から成る、請求項4およびそれに依存する請求項の発明。
【請求項59】
食品組成が、合計カロリー内容の少なくとも約25%が炭水化物による合計カロリー内容を有する食品成分から成る、請求項4およびそれに依存する請求項の発明。
【請求項60】
食品組成が、合計カロリー内容の少なくとも約25%が糖類による合計カロリー内容を有する食品成分から成る、請求項4およびそれに依存する請求項の発明。
【請求項61】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、投与後または飲食後に、顕著な脂肪便を引き起こさない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項62】
ホスホリパーゼ阻害薬が、ビグアニド、チアゾリジンジオン、スタチン、フィブレート、エゼチミブ、サポニン、ニコチン酸、およびこれらの組合せのうち少なくとも1つと一緒に投与できる、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項63】
ホスホリパーゼ阻害薬が、α-グルコシダーゼ阻害薬、胆汁酸結合剤、脂肪結合剤、経口抗糖尿病薬、コレステロール輸送阻害薬、リパーゼ阻害薬、食欲抑制剤、およびこれらの組合せのうち少なくとも1つと一緒に投与できる、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項64】
ホスホリパーゼ阻害薬が、これとかなり類似した治療効果を有する、ZetiaやOrlistatなど他の化合物または薬剤と一緒に投与できる、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項1】
体重関連疾患、インスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、およびこれらの組合せのうちいずれかを治療する方法で、この方法には、ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬の効果的な用量を被験者に投与することが含まれ、ここでこのホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物またはその塩である。
【請求項2】
被験者の脂肪やグルコース、コレステロールの代謝を調節する方法で、この方法には、ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬の効果的な用量を被験者に投与することが含まれ、ここでこのホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物またはその塩である。
【請求項3】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の使用を含む方法で、これは被験者の疾患 (体重関連疾患、インスリン関連疾患、コレステロール関連疾患、およびこれらの組合せ) を治療するための製剤として使用する薬剤の製造に用いられ、またホスホリパーゼA2 IB阻害薬は五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物またはその塩から成る。
【請求項4】
食べられる食品とホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬とを含む食品組成で、このホスホリパーゼA2 IB阻害薬は、五員環と六員環を融合した部分を有する置換有機化合物またはその塩から成る。
【請求項5】
疾患が、肥満、糖尿病、インスリン抵抗性、グルコース不耐性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、およびこれらの組合せのうちいずれかである場合の、請求項1〜3のいずれかの発明。
【請求項6】
ホスホリパーゼ-A2 IB阻害薬が、1つまたは複数のヘテロ原子を含む五員環と六員環を融合したもので、このヘテロ原子は、この五員環または六員環の環構造内、または五員環と六員環それぞれの環構造内にある、請求項1〜5のいずれかの発明。
【請求項7】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、次の化学式に示される化合物、またはその塩から成る、請求項1〜6のいずれかの発明。
【化1】
ここでこの、五員環と六員環が融合したコア構造は飽和でも不飽和でもよく、R1 〜R7 は次の群から独立して選択することができる: 水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。
【請求項8】
R1 〜R7のうち独立して選択される2つの隣り合う置換基間に別の環をもつことができ、この追加環は五員環、六員環、七員環のいずれかを独立に選び、また炭素環、複素環、あるいはこの組合せにすることができる、請求項7の発明。
【請求項9】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、インドール化合物、またはその塩から成る、請求項1〜6のいずれかの発明。
【請求項10】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、インドール化合物、またはその塩から成る、請求項1〜5のいずれかの発明。
【化2】
ここで、それぞれの化学式について、R1 〜R7 は次の基の中から独立に選択される: 水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、ハロゲン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基、およびこれらの組合せ。
【請求項11】
それぞれの化学式について、R1 〜R7 のうち独立して選択される2つの隣り合う置換基間に別の環をもつことができ、この追加環は五員環、六員環、七員環のいずれかを独立に選び、また炭素環、複素環、あるいはこの組合せにすることができる、請求項10の発明。
【請求項12】
阻害薬が、次の化学式のいずれかのインドール化合物から成る、請求項11の発明。
【化3】
【請求項13】
次の条件を満たす、請求項7、8、10〜12のいずれかの発明。
R1 は水素、酸素、イオウ、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、チオール基(−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、複素環基、置換された置換基の中から選択される。
R2 は水素、酸素、ハロゲン基、カルボニル基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基の中から選択される。
R3 は水素、酸素、イオウ、アミン基、水酸基 (−OH)、チオール基(−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基の中から選択される。
R4 とR5はそれぞれ独立に、水素、酸素、イオウ、リン、アミン基、水酸基(−OH)、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、複素環基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基の中から選択される。
R6 は水素、酸素、アミン基、ハロゲン基、水酸基 (−OH)、酸基、アルキル基、炭素環基、アシルアミノ基、置換された置換基の中から選択される。
R7 は水素、ハロゲン基、チオール基 (−SH)、カルボニル基、酸基、アルキル基、アルケニル基、炭素環基、置換された置換基の中から選択される。
【請求項14】
R1 がアルキル基、炭素環基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜13のいずれかの発明。
【請求項15】
R2 がハロゲン基、アルキル基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜14のいずれかの発明。
【請求項16】
R3 がカルボニル基、アシルアミノ基、オキシミル基、ヒドラジル基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜15のいずれかの発明。
【請求項17】
R4 とR5がそれぞれ独立に、酸素、水酸基 (−OH)、酸基、アルキル基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜16のいずれかの発明。
【請求項18】
R6 がアミン基、酸基、アルキル基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜17のいずれかの発明。
【請求項19】
R7 が炭素環基、置換された置換基のいずれかである、請求項7、8、10〜18のいずれかの発明。
【請求項20】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、次の化学式に示される化合物である、請求項1〜5のいずれかの発明。
【化4】
【請求項21】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、投与後または飲食後に、消化器官管腔内に集中して留まる、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項22】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、消化器官粘膜からは吸収されないで、消化器官管腔内に集中して留まる、請求項21の発明。
【請求項23】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が消化器官粘膜細胞にいったん吸収され、消化器官管腔内に排出されて戻されることにより、ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が集中消化器官管腔内に集中して留まる、請求項21の発明。
【請求項24】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、消化器官管腔内にある分泌ホスホリパーゼA2 IBのカルシウム依存性の活性を阻害する、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項25】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、膵臓分泌ホスホリパーゼA2 IBの活性を阻害する、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項26】
疾患が肥満である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項27】
疾患がインスリン抵抗性である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項28】
疾患がグルコース不耐性である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項29】
疾患が高コレステロール血症である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項30】
疾患が高トリグリセリド血症である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項31】
疾患が2型糖尿病である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項32】
疾患が、肥満、インスリン抵抗性、グルコース不耐性のうち2つ以上である場合、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項33】
疾患が肥満と2型糖尿病である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項34】
疾患が代謝症候群である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項35】
治療が予防的である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項36】
治療が臨床治療的である場合の、請求項1、3およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項37】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が十二指腸に到達できるような方法によってホスホリパーゼA2 IB阻害薬が投与される、請求項1、2およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項38】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が経口投与される場合の、請求項1、2およびそれらに依存する請求項のいずれかの発明。
【請求項39】
製剤が、効果的な用量のホスホリパーゼA2 IB阻害薬から成る場合の、請求項3の発明。
【請求項40】
食品組成が、効果的な用量のホスホリパーゼA2 IB阻害薬から成る場合の、請求項4の発明。
【請求項41】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の少なくとも約30%を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項42】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の少なくとも約40%を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項43】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の少なくとも約50%を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項44】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の少なくとも約60%を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項45】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬の効果的な用量が、ホスホリパーゼA2 IB活性の約30%〜約100% を阻害するのに足る、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項46】
被験動物が哺乳動物である、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項47】
被験動物が哺乳動物で、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ネコ、イヌ、家禽類、ブタ、ウシ、ウマのいずれかである、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項48】
被験動物がヒトである、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項49】
被験者において脂肪とグルコースの代謝がそれぞれ調節される場合の、請求項2の発明。
【請求項50】
被験者においてグルコースとコレステロールの代謝がそれぞれ調節される場合の、請求項2の発明。
【請求項51】
被験者において脂肪とコレステロールの代謝がそれぞれ調節される場合の、請求項2の発明。
【請求項52】
被験者において脂肪、グルコース、コレステロールの代謝がそれぞれ調節される場合の、請求項2の発明。
【請求項53】
ホスホリパーゼA2阻害薬が、リパーゼを基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項54】
ホスホリパーゼA2阻害薬が、ホスホリパーゼBを基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項55】
ホスホリパーゼ阻害薬が、ホスホリパーゼA2 の活性を阻害するけれども、リン脂質の代謝活性を有する他の消化器官ホスホリパーゼは基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項56】
ホスホリパーゼ阻害薬が、ホスホリパーゼA2 の活性を阻害するけれども、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンの代謝活性を有する他の消化器官ホスホリパーゼは基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項57】
ホスホリパーゼ阻害薬が、ホスホリパーゼA2 の活性を阻害するけれども、消化器官粘膜細胞に結合した他のホスホリパーゼは基本的に阻害しない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項58】
食品組成が、合計カロリー内容の少なくとも約25%が脂肪による合計カロリー内容を有する食品成分から成る、請求項4およびそれに依存する請求項の発明。
【請求項59】
食品組成が、合計カロリー内容の少なくとも約25%が炭水化物による合計カロリー内容を有する食品成分から成る、請求項4およびそれに依存する請求項の発明。
【請求項60】
食品組成が、合計カロリー内容の少なくとも約25%が糖類による合計カロリー内容を有する食品成分から成る、請求項4およびそれに依存する請求項の発明。
【請求項61】
ホスホリパーゼA2 IB阻害薬が、投与後または飲食後に、顕著な脂肪便を引き起こさない、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項62】
ホスホリパーゼ阻害薬が、ビグアニド、チアゾリジンジオン、スタチン、フィブレート、エゼチミブ、サポニン、ニコチン酸、およびこれらの組合せのうち少なくとも1つと一緒に投与できる、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項63】
ホスホリパーゼ阻害薬が、α-グルコシダーゼ阻害薬、胆汁酸結合剤、脂肪結合剤、経口抗糖尿病薬、コレステロール輸送阻害薬、リパーゼ阻害薬、食欲抑制剤、およびこれらの組合せのうち少なくとも1つと一緒に投与できる、前述の請求項のいずれかの発明。
【請求項64】
ホスホリパーゼ阻害薬が、これとかなり類似した治療効果を有する、ZetiaやOrlistatなど他の化合物または薬剤と一緒に投与できる、前述の請求項のいずれかの発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【公表番号】特表2007−538009(P2007−538009A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511527(P2007−511527)
【出願日】平成17年5月3日(2005.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/015416
【国際公開番号】WO2005/112646
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(506151486)イリプサ, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月3日(2005.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/015416
【国際公開番号】WO2005/112646
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(506151486)イリプサ, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
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