説明

インバータにより形成された交流電流を測定する方法および該方法を実施する装置

本発明は、交流電流源に供給される、インバータにより形成された交流電流(±Ip)を測定するための方法に関する。この方法では、交流電流源のゼロ交差信号(Sig)が設定され、ゼロ交差信号(Sig)によってトリガされる、測定された交流電流(±Ip)の周期的な補償調整は、ゼロ交差信号(Sig)に対応付けられている補償調整値が設定され、該補償調整値に同様にゼロ交差信号(Sig)に対応付けられている測定値が適合されることにより行われる。この方法により動作中であっても、補償調整値を用いた、測定回路によって検出される測定信号(U0)の周期的な補償調整が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、交流電流源に供給されるインバータにより形成された交流電流を測定する方法に関する。本方法においては交流電流源のゼロ交差信号が設定される。さらに本発明は、この方法を実施するための装置に関する。
【0002】
インバータは通常の場合、直流電流源からのエネルギを交流電流に変換し、この交流電流を交流電流源に供給するか、負荷に出力するために使用される。その際に電圧経過および位相角度は電源における交流電圧に適合され、それにより直流電圧成分および位相シフトが最小にされる。このことは殊に公共の電流源においては重要である。何故ならば、そのような公共の電流源においては事業者によって、最大限に許容される直流電圧成分でもって正確な給電ガイドラインが設定されるからである。
【0003】
したがってインバータを相応に制御できるようにするためには、電源におけるゼロ交差が継続的に検出され、ゼロ交差信号として設定される。さらにインバータの出力側においては制御量として交流電流が測定される。例えば、シャント抵抗または計器用変流器を含む測定回路が使用される場合には、構造に起因して不正確性が生じる可能性がある。例えば、変流器における不所望なオフセット電圧または温度ドリフトが考えられる。したがって従来技術からは、測定回路を補償調整するための方法が公知である。
【0004】
例えば1つの方法では、各測定回路が製造後に手動で補償調整される。別の方法は、スイッチオンが行われる度に補償調整プロセスを実施するマイクロコントローラを使用する。
【0005】
電流を検出するためにシャント抵抗を使用する測定回路においては、シャント抵抗において生じる損失を考慮することができる。
【0006】
したがって従来技術によれば、高出力のインバータには、このインバータの出力側における電流を測定するために変流器が設けられている。この変流器に関しては不所望なオフセット電圧を除去するために、製造時に手動で補償調整を行う方法が使用される。しかしながら、測定回路に組み込まれたマイクロコントローラが装置のスイッチオンの度に変流器を補償調整するために使用される方法も公知である。
【0007】
しかしながらこれらの方法では温度ドリフトまたは変流器鉄心の残留磁気に起因する偏差は訂正されない。ここで、残留磁気は変流器鉄心のヒステリシスに基づいた電流の流れる方向の変化によって惹起される。動作時に発生する熱または外部の温度変化により温度ドリフトが生じる。すなわち、変流器の構成部材の温度に依存する特性に起因する変流器の不正確性が生じる。
【0008】
本発明が基礎とする課題は、従来技術に比べて改善された、冒頭で述べた形式の方法を提供することである。さらに、本方法を実施するための装置が提供されるべきである。
【0009】
この課題は、交流電流源に供給される、インバータにより形成された交流電流を測定するための方法により解決され、この方法においては、交流電流源のゼロ交差信号が設定され、このゼロ交差信号によってトリガされる測定された交流電流の周期的な補償調整はゼロ交差信号に対応付けられている補償調整値が設定され、この補償調整値に同様にゼロ交差信号に対応付けられている測定値が適合されることによって行われる。
【0010】
この方法により動作中であっても、補償調整値を用いた、測定回路によって検出される測定信号の周期的な補償調整が実現される。補償調整は交流電流源のゼロ交差信号により制御される。したがって一方では補償調整が交流電流源と同期して行われることが達成され、また他方では温度ドリフトまたは残留磁気に起因する偏差も補償調整することができる。
【0011】
本発明の有利な実施形態においては、0アンペアに等しい補償調整値が電源電流の各ゼロ交差に対応付けられ、またこの電源電流のゼロ交差時に検出される各測定値がこの補償調整値に適合される。補償調整は電源電流のゼロ交差の度に行われる。補償調整値を0アンペアに固定することにより、インバータの出力側において測定される電流は不正確性に起因する直流成分を有することなく測定される。したがってインバータの制御に正確な測定出力信号を使用することができるので、交流電流源への給電は電源電流と同期し、且つ直流成分を有することなく行われる。
【0012】
さらにゼロ交差中の補償調整はインバータにより形成される交流電流の特性を利用する。電流の流れる方向が反転する際に、電流値はスイッチング素子の切り換え過程が行われる時間にわたり一定である。この期間が測定信号を補償調整するために利用される。
【0013】
さらには、補償調整が行われる度に補償調整値および検出された測定値から補正値が求められる場合、またその補正値により訂正された測定信号が次の補償調整まで測定出力信号として出力される場合には有利である。このことは測定信号を補償調整するための簡単な方法を表し、この方法を離散的な回路により実施することができるか、マイクロコントローラを用いて実施することができる。
【0014】
位相シフトの存在しない、すなわちアイドル電流成分を有していない交流電流源に関しては、測定値をゼロ交差の時点に補償調整値を用いて補償調整することは有利である。交流電流源への給電は直流電流成分を有することなくゼロ交差信号と同期して行われる。
【0015】
インバータによって形成された電流が単独系統に給電される場合、補償調整不可能なインピーダンスに起因して通常では電源電圧と電源電流との間に位相シフトが生じている。この場合、測定値が有利には電源電流のゼロ交差の時点に補償調整値を用いて補償調整される。
【0016】
電源電流のゼロ交差の時点が電源電圧および位相シフトの検出によって決定されることは好適である。何故ならば、電源電圧の検出はいずれにせよインバータ装置内で電流供給に関する設定として必要とされるからである。
【0017】
さらに上記の課題は、本方法を実施するために構成されている装置によって解決され、この装置においては交流電流を測定するために変流器が設けられており、また変流器の入力側においてはインバータによって形成された交流電流が印加されており、また出力側には測定信号として電圧が生じており、また測定信号がゼロ交差信号に依存して周期的に補償調整値に適合されている。継続的に補償調整が行われる変流器はほぼ損失無く動作し、これによりインバータの全体の効率はシャント抵抗を有する測定回路に比べて改善されている。
【0018】
装置の有利な実施形態においては少なくとも2つの入力側を備えたマイクロコントローラが設けられており、第1の入力側には変流器によって形成された測定信号が印加され、また第2の入力側にはゼロ交差信号が印加され、さらにマイクロコントローラには0アンペアの電流値に対応付けられている変流器の電圧値が補償調整値として設定され、マイクロコントローラの出力側において補正値によって訂正された測定出力信号を取り出すことができる。マイクロコントローラを使用することにより、種々の変流器を備えた種々のインバータに容易に適合させることができる簡単な装置が実現される。
【0019】
製造すべき部品数に依存して、入力側に変流器からの測定信号およびゼロ交差信号が印加されるいわゆるサンプルホールド増幅器が設けられている場合、出力信号として補正値が存在し、この補正値が演算増幅器の正の入力側に供給されている場合、またさらに演算増幅器の負の入力側に測定信号が印加され、演算増幅器の出力側において訂正された測定出力信号が取り出される場合にも有利である。離散的な構成素子を用いて構成されているこの回路においてマイクロコントローラは必要ない。
【0020】
以下では添付の図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。概略的な図面において、
図1は、離散的な構成素子を用いて測定信号U0を補償調整するための装置を示し、
図2は、交流電流源における電流INETZの信号経過と補償調整されたゼロ交差信号Sigを示す。
【0021】
図1には、インバータにより形成された交流電流±Ipを変流器1を用いて測定するための装置が示されている。変流器1の出力側における測定信号U0はいわゆるサンプルホールド増幅器2の入力側Uinに供給される。サンプルホールド増幅器2のタイミング発生器入力側CKにはゼロ交差信号Sigが印加されている。さらにサンプルホールド増幅器2はコンデンサを介して基準電位としてのアース電位Mと接続されている。サンプルホールド増幅器2の出力側は演算増幅器3の正の入力側と接続されている。この演算増幅器3には正の電圧+Vおよび負の電圧−Vが供給される。演算増幅器3の負の入力側には変流器1から出力された測定信号M0が第1の抵抗R1を介して供給される。演算増幅器3の出力側は別の抵抗R2を介して負の入力側と接続されており、これにより差動増幅器が得られる。
【0022】
変流器1には給電電圧UCCおよびアース電位Mが供給される。大抵の場合はリング状である変流器鉄心は測定すべき交流電流が流れる線路を包囲する。交流電流が流れることによって惹起される変流器鉄心における磁束がホールセンサによって検知され、等価の電圧経過に変換される。この電圧経過が差動増幅器として接続されている演算増幅器によって増幅される。基準電圧URefは入力側における0アンペアに相当する電圧のレベルを定める。変流器の出力側にはまだ補償調整されていない測定信号U0の経過が生じる。
【0023】
離散的な構成素子を備えた図1に示されている実施形態においては、先ずサンプルホールド増幅器2において補正値ΔUが形成されることによって補償調整が行われる。このために、入力側Uinに印加される測定信号U0は、タイミング発生器入力側CKに印加されるゼロ交差信号Sigのパルスが生じる度に保持される。その際に生じるアース電位Mに対する電圧値はゼロ交差信号Sigの次のパルスが印加されるまでサンプルホールド増幅器2の出力側に補正値ΔUとして存在する。
【0024】
したがってこの補正値ΔUは演算増幅器3の正の入力側にも印加される。この場合、第1の抵抗R1を介して負の入力側に印加される測定信号U0は演算増幅器の出力側において補償調整された測定出力信号UOUTとなる。抵抗R1およびR2は、コンバータの入力側に0アンペアが生じる場合に測定信号U0は変流器の基準電圧URefに相当するように選択されるべきである。
【0025】
サンプルホールド増幅器2とその後段に接続されている演算増幅器とを備えた回路の代わりにマイクロコントローラを配置することもできる。このマイクロコントローラは少なくとも2つの入力側と1つの出力側とを有する。第1の入力側には測定信号M0が印加され、第2の入力側にはゼロ交差信号Sigが印加される。ゼロ交差信号Sigのパルスが生じる度に、マイクロコントローラは測定信号M0の瞬時値を補正値ΔUとして次のパルスが生じるまで保持する。この場合マイクロコントローラを用いて、測定信号U0から補正値ΔUが減算されることにより、補償調整された測定出力信号UOUTが算出される。補償調整された測定出力信号UOUTをマイクロコントローラの出力側において取り出すことができる。
【0026】
図2には、電源電流INETZの時間的な経過およびこの電源電流から導出されたゼロ交差信号Sigが示されている。ゼロ交差信号Sigは電源電流INETZのゼロ交差時に実質的に矩形のパルスを有する。パルスの持続時間は電流の流れる方向が反転する際にインバータ内のスイッチング素子の切り替え過程が必要とする時間の長さに対応する。このゼロ通過信号Sigは離散的な構成素子におけるサンプルホールド増幅器に供給されるか、マイクロコントローラに供給される。電流と電圧との間の位相シフトが存在しない公共の電流源では、このようなやり方で電源電流の代わりに電源電圧もゼロ交差信号を導出するために使用することができる。
【0027】
例えば、補償調整が不可能な容量性または誘導性の成分を有するインピーダンスが作用する単独系統に給電が行われる場合、電源電流は電源電圧に先行するか、電源電圧に遅れをとる。この場合、ゼロ交差信号Sigは直接的に電源電流のゼロ交差から導出される。しかしながら、電源系統への給電のために設けられているインバータにおいては電源電圧がいずれにせよ継続的に検出されるので、ゼロ交差信号Sigを位相シフトについて補正された電源電圧のゼロ交差から形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】離散的な構成素子を用いて測定信号U0を補償調整するための装置を示す。
【図2】交流電流源における電流INETZの信号経過と補償調整されたゼロ交差信号Sigを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流源に供給される、インバータにより形成された交流電流(±Ip)を測定するための方法であって、
前記交流電流源のゼロ交差信号(Sig)が設定される方法において、
前記ゼロ交差信号(Sig)によってトリガされる、測定された前記交流電流(±Ip)の周期的な補償調整を、前記ゼロ交差信号(Sig)に対応付けられている補償調整値を設定し、該補償調整値に同様に前記ゼロ交差信号(Sig)に対応付けられている測定値を適合させることにより行うことを特徴とする、方法。
【請求項2】
0アンペアに等しい補償調整値を電源電流(INETZ)の各ゼロ交差に対応付け、前記電源電流(INETZ)の前記ゼロ交差時に検出される各測定値を前記補償調整値に適合させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記補償調整を行なう度に前記補償調整値および検出された前記測定値から補正値(ΔU)を求め、該補正値(ΔU)により訂正された測定信号(U0)を次の補償調整まで測定出力信号(UOUT)として出力する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
位相シフトを有していない交流電流源においては、前記測定値を前記ゼロ交差の時点に前記補償調整値を用いて補償調整する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
位相シフトを有する単独系統においては、前記測定値を電源電流の前記ゼロ交差の時点に前記補償調整値を用いて補償調整する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記電源電流(INETZ)の前記ゼロ交差の時点を、電源電圧および位相シフトの検出によって決定する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法を実施する装置において、
交流電流(±Ip)を測定するために変流器(1)が設けられており、該変流器(1)の入力側にはインバータによって形成された前記交流電流(±Ip)が印加されており、該変流器(1)の出力側には測定信号(U0)としての電圧が生じており、該測定信号(U0)はゼロ交差信号(Sig)に依存して周期的に補償調整値に適合されていることを特徴とする、装置。
【請求項8】
少なくとも2つの入力側を備えたマイクロコントローラが設けられており、第1の入力側には前記変流器(1)によって形成される測定信号(U0)が印加されており、第2の入力側には前記ゼロ交差信号(Sig)が印加されており、さらに前記マイクロコントローラには0アンペアの電流値に対応付けられている前記変流器(1)の電圧値(URef)が補償調整値として設定され、前記マイクロコントローラの出力側において補正値(ΔU)によって訂正された測定出力信号が取り出される、請求項7記載の装置。
【請求項9】
入力側(Uin,CK)に前記変流器(1)からの測定信号(U0)および前記ゼロ交差信号(Sig)が印加されるいわゆるサンプルホールド増幅器(2)が設けられており、出力信号として補正値(ΔU)が生じており、該補正値(ΔU)が演算増幅器(3)の正の入力側に供給されており、さらに前記演算増幅器(3)の負の入力側に前記測定信号(U0)が印加されており、前記演算増幅器(3)の出力側において訂正された測定出力信号(UOUT)が取り出される、請求項7記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−534008(P2009−534008A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504682(P2009−504682)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053019
【国際公開番号】WO2007/118779
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(506407361)シーメンス アクチエンゲゼルシャフト エスターライヒ (16)
【氏名又は名称原語表記】Siemens AG Oesterreich
【住所又は居所原語表記】Siemensstrasse 92, A−1210 Wien, Austria
【Fターム(参考)】