インビボにおける神経系由来生体分子の代謝測定方法
本発明は、アルツハイマー病といった神経性及び神経変性疾患又は障害の臨床疾患進行の初期又は脳障害及び臨床症状の発症前における診断、観察、及び治療効果の評価の方法に関する。被験者の中枢神経系(CNS)内で産生される生体分子のインビボでの代謝の測定方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経系及び神経変性の疾患、障害及びこれに関連した経過の診断及び治療の方法に関する。本発明は、また、中枢神経系由来の生体分子の被験者のインビボにおける代謝測定方法に関する。
【0002】
連邦研究助成金への謝辞
本発明は、少なくとも一部は、国立衛生研究所からの財政的援助(NIH科研費P50-AG05681、M01 RR00036、NIH RR000954、及びNIH DK056341)により完成した。従って、本発明について、合衆国政府は一定の権利を持ちうる。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病
アルツハイマー病(AD)は、最も一般的な痴呆の原因であり、増加している公衆衛生問題である。現時点において、合衆国内で500万人がこの病気により苦しんでいると推定され、2050年までに1300万人への増大が推定されている(Herbert et al 2001, Alzheimer Dis. Assoc. Disord. 15(4): 169-173)。ADは、他の中枢神経系(CNS)の変性疾患と同様に、タンパク質の生産、蓄積、及びクリアランスの障害に特徴付けられる。ADでは、アミロイド‐β(Aβ)というタンパク質代謝の調節異常が、疾患を伴う人々の脳内における該タンパク質の塊状の蓄積による兆候として示される。ADでは、記憶、認知機能、及び最終的には自立性が喪失される。それは、患者及びその家族に過酷な人的及び経済的打撃を与えるものである。この病気の過酷さ及び人口内での有病率の増加により、より良い治療法の開発は急を要する。
【0004】
現状において、症状を緩和する薬剤はいくつか存在するが、しかしながら、疾患を軽減させる治療法は存在しない。疾患を軽減させる治療法は、永続的な脳障害の発症前に与えられるのであれば、最も効果的であると見込まれる。しかしながら、ADの臨床診断が行なわれる時点には、既に大量の神経喪失が生じている(Price et al. 2001, Archiv. Neurol. 58(9): 1395-1402)。従って、ADが発病するリスクにある人々を特定する方法があれば、AD発症の予防又は遅延に最も有益であろう。現状において、ADで臨床症状の発症前に生じる病態生理学的変化を同定したり、又は該疾患の発症の予防若しくは進行の遅延を可能とする治療の効果を効果的に測定する手段は存在しない。
【0005】
従って、高感度で、正確で、かつ再現性のある、CNS内の生体分子のインビボ代謝を測定する方法に対する需要が存在する。特に、神経変性疾患に関連するタンパク質のインビボ分画(フラクショナル)合成率及びクリアランス率、例えば、ADにおけるAβの代謝を測定する方法が必要とされる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本発明の一態様は、脳障害及び臨床症状の発生に先立ち、ADのような神経系疾患及び神経変性疾患の出現及び進行を診断し、モニターする手段の提供にある。また、本発明の別の態様は、ADのような神経系疾患及び神経変性疾患の治療の効果をモニターする手段を提供する。
【0007】
本発明の更なる態様は、神経系に由来する生体分子のインビボ代謝(例えば、合成の速度、クリアランスの速度)を測定する方法を提供する。
【0008】
本発明の追加的な態様は、それにより該タンパク質の代謝率を神経系疾患又は神経変性疾患の予測値、該疾患の進行のモニター、又は該疾患の治療の効果の指標として用いることを可能とする、被験者の神経系由来タンパク質のインビボ代謝を測定するキットを包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、対象の神経性及び神経変性の疾患、障害及び経過の早期診断及び評価の方法に関する。特に、本発明は、CNS由来生体分子の合成及びクリアランス速度を測定することにより、神経系の損傷と関連した臨床症状の発症前の診断方法を提供する。初期診断が初期治療の機会を提供し、場合によっては、これに苦しむ者の神経の深刻な損傷を防ぐといった本発明の有用性は、当業者にとって明らかである。また、本発明は、疾患を緩和する治療法の開発段階をモニターする方法又はヒトに直接的に重大な作用を及ぼすと考えられる治療法をスクリーニングする方法を提供する。例えば、ある治療法がCNS由来の生体分子の合成及びクリアランス速度を変えるものかどうかを判断することができる。最終的に、この方法は、神経性及び神経変性疾患の発病を予想する検査及びこのような疾患の進行をモニターする手法を提供する。
【0010】
I. 神経系由来生体分子のインビボにおける代謝をモニターする方法
本発明は、神経系由来生体分子のインビボにおける代謝を測定する方法を提供する。この方法を用いることにより、当業者は、特定の病状と関連する神経系由来生体分子の代謝(合成及びクリアランス)の変化を調査することが可能となる。加えて、本発明は、被験者内での疾患を緩和する治療法の薬力学的作用の測定を可能とする。
【0011】
特に、本発明は、生体分子を、中枢神経系で合成される際にインビボで標識する方法;標識又は非標識生体分子を含む生物学的サンプルを採取する方法;及び該生体分子の標識を経時的に測定する方法を提供する。これら測定方法は、合成及びクリアランス速度や、その他の代謝指標の計算に用いることが可能である。
【0012】
(a) 変性疾患
アルツハイマー病(AD)は、アミロイド-β(Aβ)タンパク質の産生の増加、クリアランスの減少又はこれらの両方の結果として生じる中枢神経系(CNS)におけるアミロイド班により特徴づけられる衰弱性の疾患である。本願発明者らは、脳脊髄液(CSF)又は血漿中のインビボのAβ合成及びクリアランス速度を測定することによりヒトのインビボでのAβ代謝を測定する方法を開発した。該インビボAβ合成及びクリアランス速度は、被験者が、コントロール群との比較においてAβの合成及びクリアランスに異変を生じていないかどうかを評価することに用いることができる。このような比較はADの経過の初期、即ち、臨床症状の発症及び重大な神経の損傷前での診断を可能とする。更に、本発明は、アポリポ蛋白E(ApoE)がAβ代謝に変化を生じさせるか否かを決定する手段を提供する。この決定により、なぜ特定のApoE遺伝子型がADの危険因子であるのかということに対する新たな洞察を提供できるであろう。
【0013】
当業者であれば、ADは本発明により診断又は観察可能な例示的な疾患であるが、本発明がADに限定されないことを認識するであろう。本発明の方法は、パーキンソン病、脳卒中、前頭側頭型痴呆(FTDs)、ハンチントン病、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、老化関連疾患及び痴呆、多発性硬化症、プリオン病(例えば、クロイツフェルト・ヤコブ病、ウシ海綿状脳症又は狂牛病、スクレイピー)、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS又はルー・ゲーリック病)を含むいくつかの神経性及び神経変性疾患、障害又は経過の診断及び治療に用いることができることが想像されるが、これら疾患に限定されるものではない。また、本発明の方法は、CNSの正常な生理、代謝及び機能の研究に用いることができることが想像される。
【0014】
神経性及び神経変性疾患は、主に高齢の被験者に見られる。例えば、65歳以上の10%の人々がADであり、85歳以上の45%の人々がADに苦しんでいる。高齢者化する人口における神経性及び神経変性疾患の有病率及びこれら疾患に伴う保健医療費により、生体分子のインビボでの代謝が、ヒトである被験者、特に、高齢のヒトである被験者の体内で測定されるようになることが想像される。また、一方で、生体分子のインビボでの代謝は、他の哺乳動物である被験者内でも測定可能である。別の実施形態では、該被験者は、イヌやネコといったペット動物である。また別の異なる実施形態では、該被験者は、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ又はヤギなどの家畜動物である。さらにまた別の異なる実施形態では、該被験者は動物園の動物である。また別の実施形態では、該被験者はヒト以外の霊長類やげっ歯類などの研究用動物である。
【0015】
(b) 生体分子
本発明は、インビボでの神経系由来生体分子の代謝の測定方法を提供する。該生体分子は、タンパク質、脂質、核酸、又は炭水化物であってもよい。該可能性のある生体分子は、インビボでの合成中に標識でき、その代謝が測定されるサンプルを回収できるという能力によってのみ限定される。好ましい実施形態では、該生体分子はCNSで合成されるタンパク質である。例えば、測定される該タンパク質は、以下に限定されるものではないが、アミロイド-β(Aβ)及びその変異体、可溶性アミロイド前駆体タンパク質(APP)、アポリポ蛋白E(アイソフォーム2、3、又は4)、アポリポ蛋白J、タウ(ADに関連する別のタンパク質)、グリア線維酸性蛋白、α-2マクログロブリン、シヌクレイン、S100B、ミエリン塩基性タンパク質(多発性硬化症と関係する)、プリオン、インターロイキン、及び腫瘍壊死因子(TNF)でもよい。標的と成り得る更なる生体分子には、GABA作動性ニューロン、ノルアドレナリン作動性ニューロン、ヒスタミン作動性ニューロン、セロトニン作動性ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン、コリン作動性ニューロン、及びグルタミン作動性ニューロンの産物、又はそれらニューロンと相互作用するタンパク質又はペプチドが含まれる。
【0016】
例示的な実施形態では、そのインビボにおける代謝が測定されるタンパク質は、アミロイド-β(Aβ)タンパク質でもよい。更なる実施形態では、Aβの他の変異体(例えば、40、42、38その他)も測定可能である。また更なる実施形態では、Aβの消化産物(例えばAβ6-16、Aβ17-28)も測定可能である。
【0017】
(c) 標識部分
目的の生体分子の標識には、種々の異なる部分を用いることができる。一般的に、本発明の方法で代表的に用いられる二種類の標識部分は、放射性同位体及び非放射性(安定)同位体である。好ましい実施形態では、非放射性同位体を用いて質量分析計により測定することができる。好ましい安定同位体には、重水素2H、13C、15N、17又ハ18O、33、34、又ハ36S、が含まれるが、主な天然型よりも多い又は少ない中性子により原子の質量を変化させるその他多くの安定同位体でも効果があることが理解される。一般的に、適切な標識は、研究対象である生体分子の質量を、質量分析計により検出可能なように変化させる。1つの実施形態において、該測定される生体分子はタンパク質であり、該標識部分は非放射性同位体(例えば、13C)を含むアミノ酸である。別の実施形態では、該測定される生体分子は核酸であり、該標識部分は非放射性同位体(例えば、15N)を含むヌクレオシド三リン酸である。また、代わりに、放射性同位体を用いることもでき、該標識された生体分子は、質量分析計ではなくシンチレーション計数器により測定できる。1つ以上の標識部分を同時に又は順に使用することができる。
【0018】
好ましい実施形態では、前記方法がタンパク質代謝の測定に用いられる場合には、該標識部分は典型的にはアミノ酸となる。当業者であれば、いくつかのアミノ酸を生体分子の標識の提供に使用できることを理解するであろう。一般的に、アミノ酸の選択は、以下のような種々の要素に基く:(1)該アミノ酸は、概して目的のタンパク質又はペプチドの少なくとも1つの残基に存在する。(2)該アミノ酸は、概して迅速にタンパク質合成部位に到達し、迅速に血液脳関門を横断して平衡に達することが可能である。実施例1及び2に示されるように、CNSで合成されるタンパク質を標識するには、ロイシンが好ましい。(3)該アミノ酸は、理想的には、高い標識率を達成できるように必須アミノ酸でありうる(生体内で産生されない)。非必須アミノ酸を用いることもできる:しかしながら、恐らく、測定の正確性は低下するであろう。(4)該アミノ酸の標識は、概して目的のタンパク質の代謝に影響しない(例えば、非常に大量のロイシンであれば筋肉代謝に影響するかもしれない)。そして(5)該必要なアミノ酸の入手可能性である(即ち、特定のアミノ酸は他のアミノ酸よりも非常に高価であるか、又は製造が困難である)。1つの実施形態においては、神経系由来タンパク質の標識に6個の13C 原子を含む13C6-フェニルアラニンが使用される。好ましい実施形態においては、神経系由来タンパク質の標識に13C6-ロイシンが使用される。例示的な実施形態においては、アミロイド-βの標識に13C6-ロイシンが使用される。
【0019】
非放射性同位体及び放射性同位体の両方について、標識されたアミノ酸の多数の発売元が存在する。一般的に、標識アミノ酸は生物学的又は合成的に製造することができる。生物学的に製造されたアミノ酸は、その生物がタンパク質を産生するのに伴ってアミノ酸に取り込まれる13C、15N、又は他の同位体が強化された混合物中で増殖した生物(例えば、ケルプ/海草)から得ることができる。該アミノ酸は、その後分離され精製される。あるいは、アミノ酸は公知の合成化学的プロセスにより作り出すこともできる。
【0020】
(d) 標識部分の投与
標識部分は、いくつかの方法により対象に投与できる。適切な投与方法には、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、又は経口投与が含まれる。好ましい実施形態においては、該標識部位は標識アミノ酸であり、該標識アミノ酸は静脈内点滴される。別の実施形態においては、標識アミノ酸は経口摂取することができる。
【0021】
前記標識部分は、選択される解析の種類(例えば定常状態又はボーラス/追跡)によって、経時的にゆっくりと投与したり、又は大量に一度に投与することができる。標識生体分子濃度の定常状態を達成するためには、標識の時間は、該標識生体分子を確実に定量可能なように十分な長さとなるべきである。1つの実施形態において、該標識部分は標識ロイシンであり、該標識ロイシンは9時間かけて静脈内投与される。別の実施例では、該標識ロイシンは12時間かけて静脈内投与される。
【0022】
当業者であれば、該標識部分の量(又は投与量)は、変化可能であり、変化するであろうことを理解するであろう。一般的に、量は以下の要因に依存する(及び以下の要因により見積もられる)。(1)希望する解析の種類。例えば、血漿中で約15%の標識ロイシンの定常状態を達成させるには、2 mg/kgで10分間の初期の大量ボーラスの後に約2 mg/kg/hrで9時間を要する。反対に、定常状態が求められない場合には、最初に標識ロイシンを大量にボーラス(例えば、1又は5グラムの標識ロイシン)をすることができる。(2)解析対象のタンパク質。例えば、タンパク質が急速に産生されている場合には、必要な標識時間は短くなり、必要な標識は少なくなるであろう‐恐らく、僅か0.5 mg/kgで1時間であろう。しかしながら、殆どのタンパク質は、数時間〜数日間の半減期を有するので、むしろ、4、9又は12時間の持続点滴を0.5 mg/kg〜4 mg/kgで用いてもよい。そして(3)該標識の検出感度。例えば、標識検出感度の向上に伴い、必要となる標識量は少なくなる。
【0023】
当業者であれば、1の被験者について複数の標識を使用できることを理解するであろう。これにより、同一の生体分子について多数の標識が可能となり、その生体分子の産生及びクリアランスについて、その時々の情報を提供できるであろう。例えば、第一の標識を開始時点にて被験者に与え、その後、薬理学的な物質(薬剤)を、さらにその後、第二の標識を投与することができる。一般的に、このような被験者から得られるサンプルの解析は、同一の被験者内における該薬剤の薬力学的作用を直接的に測定して、薬剤投与の前後における代謝の測定法を提供するであろう。
【0024】
またこれに代わり、複数標識を同時に用いて、より広い範囲の生体分子の標識を得ると共に生体物質の標識を増加させることも可能である。
【0025】
(e) 生物学的サンプル
本発明の方法は、生物学的サンプルが、標識された生体分子のインビボでの代謝を測定可能なように被験者から採取されることを可能とする。適切な生物学的サンプルには、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿、唾液、汗、及び涙が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の1つの実施形態において、生物学的サンプルはCSFから採取される。また別の実施形態では、生物学的サンプルは尿から採取される。好ましい実施形態では、生物学的サンプルは血液から採取される。
【0026】
脳脊髄液は、カテーテルを用いる又は用いない腰椎穿刺により採取できる(複数回の採取が行なわれる場合にはカテーテルが好ましい)。血液は、カテーテルを用いる又は用いない静脈穿刺により採取できる。尿は単純な尿採取により採取でき、又はカテーテルを用いてより正確に採取できる。唾液及び涙は、医薬品の製造および品質管理に関する基準(GMP)の標準的な方法を用いた直接採取により採取できる。
【0027】
一般的に、研究対象である生体分子がタンパク質である場合、本発明は、第一の生物学的サンプルを標識の投与前に被験者から採取して該被験者のベースラインを提供することを可能とする。標識されたアミノ酸又はタンパク質の投与後は、一般的に1以上のサンプルが被験者から採取されるであろう。当業者には理解されるように、サンプルの数及びそれらをいつ採取するかは、以下のような多数の要因に依存する:解析の種類、投与法の種類、目的のタンパク質、代謝速度、検出法の種類等。
【0028】
1つの実施態様では、前記生体分子はタンパク質であり、血液とCSFのサンプルは36時間のあいだ、1時間毎に採取される。また、この代わりに、サンプルは2時間毎、又は更に低頻度で採取することもできる。一般的に、サンプリングの最初の12時間(即ち、標識開始後12時間)に採取された生物学的サンプルは、前記タンパク質の合成速度の測定に用いることができ、サンプリングの最後の12時間(即ち、標識開始後24‐36時間)に採取された生物学的サンプルは、該タンパク質のクリアランス速度の測定に用いることができる。また、別の代わりの実施形態では、12時間など一定時間の標識の後に1つのサンプルを採取して合成速度を評価することができるが、しかし、これは複数のサンプルに比べて正確性に劣るであろう。更に代わりの実施形態では、サンプルは、該タンパク質の合成及びクリアランス速度に応じて、数時間〜数日間、又は数週間空けて採取されてもよい。
【0029】
(f) 検出
本発明は、生物学的サンプル中の標識生体分子の量及び非標識生体分子の量の検出を用いて非標識生体分子に対する標識生体分子の比率を測定することを可能とする。一般的に、非標識生体分子に対する標識生体分子の比率は、該生体分子の代謝に正比例している。標識及び非標識生体分子の検出に適した方法は、研究対象となる生体分子及びこれを標識するために用いる標識部分の種類によって変化可能であり、また、変化するであろう。該目的の生体分子がタンパク質であり、該標識部分が非放射性標識アミノ酸である場合、検出方法は、該非標識タンパク質に対する該標識タンパク質の質量変化を検出できるほど高感度であるべきである。好ましい実施形態では、標識及び非標識タンパク質の質量の差の検出に質量分析計が用いられる。1つの実施形態では、ガスクロマトグラフィー質量分析計が用いられる。また、代わりの実施形態では、MALDI-TOF質量分析計が用いられる。好ましい実施形態では、高分解能タンデム質量分析計が用いられる。
【0030】
更なる技術を用いることで生物学的サンプル中の他のタンパク質および生体分子から目的のタンパク質を分離することもできる。例として、免疫沈降法を用いることで、質量分析計による解析前に目的のタンパク質を単離して精製することができる。又は、クロマトグラフィー装置を有する質量分析計を用いて、免疫沈降することなしにタンパク質を単離して、該目的のタンパク質を直接測定することができる。例示的な実施形態では、該目的のタンパク質は免疫沈降され、その後エレクトロスプレーイオン化源を装備したタンデムMS一式と連結した液体クロマトグラフィー装置(LC-ESI-タンデム MS)により解析される。
【0031】
また、本発明は、同一の生物学的サンプル中にある複数のタンパク質又はペプチドを同時に測定することを可能とする。即ち、複数のたんぱく質について、非標識及び標識タンパク質(及び/又はペプチド)の両方の量を、別々に又は同時に検出し測定することができる。この様であるから、本発明はタンパク質の合成及びクリアランスの変化を大規模(即ち、プロテオミクス/メタボロミクス)にスクリーニングする有用な方法を提供し、根本的な病態生理に関連するタンパク質を高感度に検出し測定する手法を提供する。あるいは、本発明は、複数種類の生体分子を測定する手法を提供する。これに関しては、例えば、タンパク質及び炭水化物を同時に又は順に測定することができる。
【0032】
(g) 代謝解析
生物学的サンプル中の標識及び非標識生体分子の量が検出されたならば、標識生体分子の比率又は百分率を決定できる。目的の生体分子がタンパク質で、生物学的サンプル中の標識及び非標識タンパク質量が測定された場合には、非標識タンパク質に対する標識タンパク質の比率を計算できる。タンパク質代謝(合成速度、クリアランス速度、遅延時間、半減期等)は、非標識タンパク質に対する標識タンパク質の経時的な比率から計算することができる。これら指標の計算には多くの適切な方法が存在する。本願発明では、標識及び非標識タンパク質(又はペプチド)を同時に測定することを可能であり、他の計算と共に非標識タンパク質に対する標識タンパク質の比率を得ることができる。当業者であれば、本発明の方法と共に使用できる標識の1次動態モデルに精通するであろう。例えば、分画合成速度(FSR)を計算することができる。該FSRは、初期における非標識タンパク質に対する標識タンパク質の増加率を前駆体濃縮度(Precursor Enrichment)で割ったものに等しい。同様にして、分画クリアランス速度(FCR)も計算できる。更に、遅延時間、同位体トレーサー定常状態といった他の指標についても決定でき、該タンパク質の代謝及び生理機能の測定値として用いることができる。また、データを複数のコンパートメントモデルに適合させて区画間の輸送を評価するモデリングを行なうこともできる。無論、選択される数学的モデリングの種類は、個々のタンパク質合成及びクリアランス指標に依存する(例えば、1‐プール、複数プール、定常状態、非定常状態、コンパートメントモデリング、等)。
【0033】
本発明は、タンパク質の合成が、概して、標識/非標識タンパク質の比率の経時的な増加率に基くことを提示する(即ち、勾配、適合指数曲線、又はコンパートメントモデルの適合がタンパク質合成速度を決定する)。これらの計算には、概して最低1つのサンプルが必要とされるが(標識のベースラインを評価できる)、2サンプルが好ましく、タンパク質への標識取り込み(即ち、合成速度)の正確な曲線を計算するには複数のサンプルがより好ましい。
【0034】
反対に、標識アミノ酸投与が終了した後は、非標識タンパク質に対する標識タンパク質の比率の低下率は、典型的にそのタンパク質のクリアランス速度を反映する。 これらの計算には、概して最低1つのサンプルが必要とされるが(標識のベースラインを評価できる)、2サンプルが好ましく、タンパク質からの標識の経時的な減少(即ち、クリアランス速度)の正確な曲線を計算するには複数のサンプルがより好ましい。任意の時点における生物学的サンプル中の標識タンパク質量は、合成速度(即ち、生産)又はクリアランス速度(即ち、除去又は分解)を反映し、通常は、被験者内のタンパク質のパーセント毎時、又は質量/時間(例えば、mg/hr)で表される。
【0035】
例示的な実施形態では、実施例に例示されるように、被験者に標識ロイシンを9時間に亘って投与し、36時間に亘り一定の間隔をあけて生物学的サンプルを採取することで生体中のアミロイド‐β(Aβ)の代謝を測定する。該生物学的サンプルは、血漿又はCSFから採取できる。該生物学的サンプル中の標識及び非標識Aβの量は、典型的には免疫沈降及びその後のLC-ESI-タンデムMSにより測定される。これらの測定値から、非標識Aβに対する標識Aβの比率が決定でき、該比率により、Aβの合成速度及びクリアランス速度といった代謝指標の決定が可能となる。
【0036】
II. 神経性及び神経変性疾患の診断、又はその経過観察、又は治療用のキット
本発明は、被験者の中枢神経系由来タンパク質のインビボでの代謝を測定することによる神経性及び神経変性疾患の診断、又はその経過観察、又は治療用のキットを提供する。一般的に、キットには標識アミノ酸、該標識アミノ酸を投与する手段、生物学的サンプルを経時的に採取する手段、及び代謝指数が計算できるように非標識タンパク質に対する標識タンパク質の比率を検出し測定するための使用説明書が含まれる。該代謝指数は、正常、健康な個体の代謝指数と比較することができ、又は同一の被験者から先の時点で得られた代謝指数と比較することができる。これらの比較により、従事者は、神経性又は神経変性疾患の発病の予測、神経性又は神経変性疾患の発症の診断、神経性又は神経変性疾患の経過観察、又は神経性又は神経変性疾患の治療法の効果の確認をすることが可能となる。好ましい実施形態では、該キットは、13C6‐ロイシン又は13C6‐フェニルアラニンを含み、標識されるタンパク質はAβであり、評価される疾患はADである。
【0037】
定義
他に定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者により通常理解される意味を有する。以下の参考文献は、当業者に本発明で使用される種々の用語の一般的定義を与える:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (第2版. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker編集, 1988); The Glossary of Genetics, 第5版., R. Rieger et al. (編集), Springer Verlag (1991); 及び Hale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で用いられるように、以下の用語については、他に明示されない限り、それそのものに基く意味を有する。
【0038】
「クリアランス速度(clearance rate)」とは、目的の生体分子が取り除かれる速度を指して言う。
【0039】
「分画クリアランス速度」又はFCRは、特定の時間に亘る標識生体分子の比率の自然対数として計算される。
【0040】
「分画合成速度」又はFSRは、特定の時間に亘る標識生体分子の増加率の勾配を、予想される標識前駆体の定常状態の値で割った値として計算される。
【0041】
「同位体」とは、原子核が同一の原子番号を有するが、異なる数の中性子を含むために異なる質量を有している任意の元素の全ての形態を指して言う。非限定的な例としては、12C及び13Cは両方とも、炭素の安定同位体である。
【0042】
「遅延時間」とは、一般的に、生体分子が最初に標識されてから、標識された生体分子が検出されるまでの時間の遅延を指す。
【0043】
「代謝」とは、生体分子の合成、輸送、分解、修飾、又はクリアランスの速度のあらゆる組み合わせをも指す。
【0044】
「代謝指数」とは、目的の生体分子の分画合成速度(FSR)及び分画クリアランス速度(FCR)を含む測定値を指して言う。正常及び病気の個体の代謝指標の比較は、神経性及び神経変性疾患の診断及び観察に役立てられる。
【0045】
「神経由来細胞」とは、ニューロン、星状細胞、小グリア細胞、脈絡叢細胞、脳室上衣細胞、その他のグリア細胞等を含む、血液脳関門内にある全ての細胞を指して言う。
【0046】
「定常状態」とは、特定の時間に亘り、測定される指標に有意でない変化が見られる状態を指す。
【0047】
「合成速度」とは、目的の生体分子が合成される速度を指す。
【0048】
代謝トレーサーの研究における「安定同位体」とは、最も豊富な天然同位体よりも存在率の低い非放射性同位体である。
【0049】
「被験者」とは、本明細書で用いられるように、中枢神経系を有する生物を意味する。具体的には、該被験者とは哺乳動物である。適切な対象には、研究用動物、ペット用動物、家畜動物、及び動物園の動物が含まれる。好ましい被験者は、ヒトである。
実施例
【0050】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。当業者であれば、以下の実施例に開示される技術は、本願発明者により見出された技術が本願発明の実施において十分に機能することを示すものであることをよく理解するはずであり、従って、本発明の実施の好ましい態様を構成するものとみなすことができる。しかしながら、当業者は、本願の開示に照らし、開示された特定の実施形態には種々の変更を施すことが可能であり、それでも本発明の特質及び範囲から逸脱することなく同一又は類似の結果を得られることを理解する。
【0051】
実施例1. インビトロでのアミロイド‐βの代謝測定
原理
生化学的証拠、遺伝的証拠及び動物モデルによる証拠は、Aβ(図1)がADの病原ペプチドであることを示している。インビボでの標識でAβを測定する方法を開発するため、以下の4段階の基本工程を用いたインビトロ系が設計された:1)培養内でインビトロにAβを標識し、2)他の標識されたタンパク質からAβを単離し、3)Aβを該標識の解析が可能な断片へと特異的に切断し、そして4)標識及び非標識断片を定量する。
【0052】
アミロイド‐βの免疫沈降及び切断
第一に、生体液から非標識型Aβを単離して測定する方法が開発された。Aβは、分子の中央ドメイン(13‐28番目の残基)を認識する特異性の高いモノクローナル抗体(m266)を用いて、脳脊髄液又は細胞培養用培地のサンプルから免疫沈降された。抗体ビーズは、製造業者のプロトコル通りに10mg/mlのm266抗体の濃度でm266抗体(Eli Lilly より寛大にも提供された)をCNBrセファローズビーズに共有結合させることで調整された。該抗体ビーズは、50%PBS及び0.02%アジドのスラリー中で4℃にて保存された。免疫沈降混合物は、250μlの5xRIPA、12.5μlの100xプロテアーゼ阻害剤、及び30μlの抗体ビーズスラリーでエッペンドルフチューブに入っていた。これに対し、1mlの生体サンプルが加えられ、チューブは4℃にてオーバーナイトでローテーションされた。前記ビーズは1xRIPAで1回、25mMの重炭酸アンモニウムで2回洗浄された。前記最終洗浄の後、ビーズは吸引乾燥され、Aβは、30μlの純蟻酸を用いて抗体‐ビーズ複合体から溶出された。質量分析により、Aβは直接的に特徴(分子量及びアミノ酸配列)が明らかにされた。図2に示すように、結果は以前発表された知見(Wang et al. 1996, J Biol. Chem. 271(50):31894-31902)に類似するものであった。
【0053】
アミロイド‐βは、トリプシンを用いた酵素消化により、より小さな断片へと切断することができる。トリプシンによるAβの切断により、図1に示すように、Aβ1‐5、Aβ6‐16、Aβ17‐28、及びAβ29‐40/42の断片が生じる。
【0054】
アミロイド‐βの標識
第二に、新たに合成されたAβを標識する方法が開発された。13C6‐ロイシンは、能動輸送により迅速に血液脳関門を横断して平衡化し (Smith et al. 1987, J Neurochem 49(5): 1651-1658)、必須アミノ酸であり、Aβの特性を変化させず、更に安全で非放射性であるから、代謝標識として用いられた。13C安定同位体は、アミノ酸又はタンパク質の化学的又は生物学的特質を変化させない:各13C標識ごとに質量が1ダルトン分増加するだけである。実際のところ、完全な生命体を純粋に13Cで育成しても何ら有害な影響はなかった。標識されたロイシンは、Aβのアミノ酸配列の第17番目及び第34番目に取り込まれる(図1参照)。
【0055】
自然界に存在する同位体の13C(全炭素の1.1%)及び15Nは、タンパク質を含む、大分子の質量の自然分布を生じる。Aβの大きさ及びこれら天然の同位体の存在により、該ペプチドは標識の直接的な測定のためにより小さなペプチドへと分解することができる。あるいは、未消化の完全なAβを用いた分離も可能である。
【0056】
液体クロマトグラフィー/質量分析
第三に、正確に標識型及び非標識型のAβを定量する方法が開発された。このために、自動注入装置を備えたウォーターズ製(ミルフォード、マサチューセッツ州)のキャピラリー液体クロマトグラフィーシステムが、エレクトロスプレーイオン化源を備えたサーモフィニガン製(サンノゼ、カリフォルニア州)LCQ-DECAに接続された(LC-ESI-タンデムMS)。各サンプルの5μl分量がヴィダック(Vydac)C-18キャピラリーカラム(0.3 x 150 mm MS 5μmカラム)に注入された。Aβ17‐28断片は、ロイシン残基を1残基含んでおり、13C6‐ロイシンの取り込みにより該断片の分子量は6ダルトン分シフトする。陽イオン走査モードにおいては、トリプシン消化された合成Aβ及び免疫沈降されたAβのLC-ESI-MS解析は、Aβ17‐28では1325.2に、13C6‐ロイシン標識されたAβ17‐28では1331.2の質量に予想される親イオンを得た(図3A及び3B)。標識Aβ(Aβ*)の割合は、標識Aβ17‐28からの全標識MS/MSイオンを、非標識Aβ17‐28からの全非標識MS/MSイオンで割った割合として計算された。マクロを備えたカスタム化されたマイクロソフト・エクセル表計算ソフトを用いて、以下の式に従い、Aβ17‐28のトレイサー/トレイシー比(tracer to tracee ratio)(TTR)を計算した:
【0057】
【数1】
この方法は、標識型及び非標識型の両方のAβの量を定量すると同時にアミノ酸配列を決定したので、標識型及び非標識型の両方のAβについて高い特異性を有する「フィンガープリント」を提供したものと結論付けられた。この方法により、優れた分離及び非標識Aβペプチドに対する標識Aβの特異性が達成された。標識及び非標識培養培地の段階希釈液から検量線を作成して正確性及び精度が試験された(図4)。標識Aβの段階希釈の検量線の0%〜80%の範囲の直線適合は、0.98のR2及び0.92の勾配を示した。他に評価された測定技術には、選択イオンモードのみでの親イオンの直接的な測定、及びそれにさらにMALDI-TOF質量分析計を使用したものも含まれる。しかしながら、これらの方法は、定量性タンデム質量スペクトル分析を用いたLC-ESIが達成した感度と特異性を提供できなかった。
【0058】
インビトロにおけるアミロイド‐βの標識
Aβを産生するヒト神経膠腫細胞(Murphy et al. 2000, J Biol.Chem. 275(34): 26277-26284)を13C6‐標識ロイシン(ケンブリッジアイソトープラボラトリーズ、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)又は非標識ロイシンの存在下で増殖させた。Aβは、m266抗体を用いた免疫沈降法により培養液から単離された(上記参照)。溶出されたAβは、トリプシンにより37℃にて4時間消化され、その断片はLC-ESI MSにより分析された。予想される通り、非標識ロイシンの存在下で培養された細胞から単離されたAβのAβ17‐28断片は、1325.2の分子量を有し、13C6‐標識ロイシンと培養された細胞から単離されたAβのAβ17‐28断片は、1331.2の分子量を有していた(図3B)。上記知見は、該細胞が13C6‐ロイシンをAβに取り込んでおり、13C6‐ロイシンの存在下で合成されたAβは、該標識されたアミノ酸を取り込んでいることが確認され、該ロイシンを含有するペプチドにおける6ダルトン分の分子量のシフトは、質量分析により識別可能であることを意味している。
【0059】
4時間及び24時間の13C6‐ロイシン標識を施した細胞培養液を分析し、時間の関数として生じる標識相対量を決定した。前記4時間の標識実験では、約70%の標識が判明し、これに対し、24時間の標識実験では95%を超える標識が判明した。上記の知見は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)が、標識と接触後数時間以内に該標識アミノ酸を取り込んだこと、及び標識Aβは標識APPから切断されて細胞外間隙へと放出されたことを意味している。
【0060】
実施例2. インビボにおけるアミロイド‐β代謝の測定
原理
タンパク質の産生及びクリアランスは、厳密に制御され、疾患状態及び正常な生理機能を反映する重要なパラメターである。ヒトのタンパク質代謝についての先の研究は、中枢神経系(CNS)で生産されるタンパク質ではなく、全身又は周辺体のタンパク質に焦点が合せられていた。従前では、ヒトのCNSにおけるタンパク質の産生及びクリアランスの速度を定量可能な方法が存在しなかった。そのような方法は、ヒトのAβ合成及びクリアランス速度だけでなく、CNSの疾患に関連するその他の種々のタンパク質の代謝を評価するのにも有益であろう。ADの根源的な病理発生及びAβ代謝に関する決定的な問題に取り組むため、ヒトのCNSにおけるインビボでのAβ分画合成速度(FSR)及び分画クリアランス速度(FCR)の定量方法が開発された。
【0061】
参加者及びサンプリング
全ての人体調査は、ワシントン大学人体研究委員会及び総合臨床研究センター(GCRC)諮問委員会に承認されている。また、全ての参加者からインフォームドコンセントを得ている。全ての参加者が、一般的に良好な健康状態にあり神経系疾患を有していないようにふるいにかけられた。7名の男性及び3名の女性(23‐45歳)が参加した。各研究参加者は、前夜午後8時からの一晩の絶食の後、午前7:00にGCRCに入院させられた。GCRC研究調理室は午前9時、午後1時及び午後6時に食事(60%の炭水化物、20%の脂肪、20%のタンパク質、標識ロイシンの点滴期間中は低ロイシン食物)を提供し、参加者は水分については自由に摂取した。入院期間中は、全ての食料及び水分消費が看護士及びGCRC調理室により記録された。1つの静脈内カテーテルは、肘正中静脈に設置され、安定同位体で標識されたロイシンの溶液の投与に用いられた。第二の静脈内カテーテルは、血液サンプルを得るために対側性肘正中静脈(contra-lateral antecubital vein)に設置された。複数回の腰椎穿刺を行なうことなくCSFを採取できるよう、くも膜下カテーテルが、トーイー針(Touhy needle)を介してL3-L4間空に挿入された(Williams, 2002, Neurology 58: 1859-1860)。静脈内カテーテルは熟練した公認看護士により設置され、腰椎カテーテルは、豊富な腰椎穿刺経験を有する熟練した内科医により設置された。血液サンプルは、調査が36時間の場合には、最初の16時間では1時間毎に採取され、その後は2時間毎に採取され、それ以外の場合には、1時間毎に採取された。CSFサンプルについては、全調査期間に渡り、1時間毎に採取された。図5に表されるインビボでの実験プロトコルの図を参照していただきたい。参加者は、手洗所の使用以外は寝台にいるように促された。
【0062】
13C6‐ロイシン(ケンブリッジアイソトープラボラトリーズ)は、医薬品グレードの生理食塩水に溶解され、各調査の前日に0.22ミクロンのフィルターで濾過された。標識ロイシンは、医療用ポンプIVを用いて、1.8〜2.5 mg/kg/hrの速度で静脈内点滴された。
【0063】
一参加者のインビボでのAβの標識及び定量
ヒトにおいて標識Aβをインビボで産生及び検出可能かどうかを判断するため、参加者のうち1名について、標識ロイシンの24時間点滴を行なった後に腰椎穿刺によりCSFを採取した。13C6‐標識ロイシンは、一台のIVで1.8 mg/kg/hrの速度で点滴された。1時間毎に、他方のIVを通して10mlの血漿が採取された。連続点滴の24時間後、腰椎穿刺が1回行なわれ、30mlのCSFが採取された。Aβは、前記CSFサンプルから免疫沈降され、トリプシンで消化され、更に、各サンプルの5μl分量がヴィダック(Vydac)C-18キャピラリーカラム(0.3 x 150 mm MS 5μm)に注入された。陽イオン走査モードにおいては、トリプシン消化された合成Aβ及び免疫沈降されたAβのLC-ESI-MS解析で、Aβ17‐28では1325.2に、13C6‐ロイシン標識されたAβ17‐28では1331.2の質量に予想される親イオンを得た。アミノ酸配列と存在割合のデータを得るため、これらの親イオンは、衝突誘起解離され(CID 28%)、その2価荷電種([M + 2H]+2; m/z 663.6及び666.6)のタンデムMS分析は、選択反応監視モード(SRM)で走査され、従って、生じたy-及びb-シリーズイオンが同位体比定量に用いられた(図6)。加えて、血漿中及びCSF中の13C6‐ロイシンが測定され、13C6‐ロイシンAβの予想される最大量が決定された。結果から、非標識Aβ17‐28及び13C6‐標識Aβ17‐28は、ヒトのCSF中にて検出及び測定可能であることが証明された。
【0064】
前記第一のヒトの参加者による結果は、以下の3つの重要な発見を示していた:1) 1.8 mg/kg/時のIV点滴速度では、血漿13C6‐ロイシンは、総血漿ロイシンの12%を平均としたこと;2) CSF中に測定されたCSF13C6‐ロイシンは、24時間での血漿と同様の濃度(11.9%)を示したこと;及び3) ヒトCSF中、24時間での総Aβ量の約8%のAβが13C6‐ロイシンで標識されたことである。
【0065】
ヒトCSF中のインビボ標識Aβの測定方法の正確さ及び精度を定量化するため、標識及び非標識ヒトCSFの段階希釈液から検量線が作成された(図7)。該測定方法は、インビトロにおける検量線(図4)の場合と同一であった。タンデム質量分析計レコーディングMS-2イオンと共に、LC-ESI MSを用いて、選択イオンモニタリングモードにて標識及び非標識Aβ17‐28量を定量した。標識Aβの段階希釈液の検量線の0%〜8%の範囲の直線適合は、0.98のR2及び0.81の勾配を示した。これらのデータから、ヒトの参加者からのインビボサンプルは、恐らく1〜10%の標識の範囲にあることが予測された。非標識CSFでは(0%が予測されたが)Y軸方向に1%が測定値であった。検出系のベースラインのノイズのため、この検出系では1%未満の標識を測定することが不可能であった。Aβは、ヒトにおいてインビボで標識可能であり、LC‐ESI 質量分析計を用いて良好な正確さと精度をもって測定可能であることが結論付けられた。
【0066】
インビボ標識の薬物動態
Aβの合成及びクリアランス速度の計算に定常状態の方程式を使用できるように検出可能なAβの13C6‐ロイシン標識が達せられて適切な期間維持されることを確認するため、標識及びサンプリングの最適な時間が測定された。13C6‐ロイシンの静脈内点滴投与量の範囲(1.8〜2.5 mg/kg/hr)、期間(6、9、又は12時間)及びCSF/血液サンプリング時間(12〜36時間の期間)について試験された(表1参照)。
【表1】
【0067】
3名の参加者のAβの代謝標識曲線が図8に表されている。13C6‐標識ロイシンは、1のIVを通して、1.9(円形)、2.5(三角形)、又は2.5(正方形)mg/kg/hrの速度で、12(円形、三角形)又は9(正方形)時間点滴された。また、別のIV及び腰椎カテーテルを通じ、それぞれ10mlの血漿と6mlのCSFが一時間毎に採取された。標識Aβの有意な増大前に5時間の遅延時間があった。これに続き、9(正方形)及び12(三角形又は円形)時間にわたる標識Aβの増大が起こり、更に5時間プラトーとなった。9時間の標識(正方形)では、最後の3時間において標識Aβの濃度が減少したが、12時間の標識(三角形又は円形)では、標識Aβの減少は見られなかった。
【0068】
更なる調査により、標識点滴の9又は12時間後であれば、信頼性をもって標識Aβを定量可能であるが、標識点滴の6時間後では不可能であることが判明した。標識曲線の合成部分は最初の12時間のサンプリングで決定できる;しかし、標識曲線のクリアランス部分は、36時間のサンプリングでのみ決定できる。これらの事実に基き、Aβの最適な標識の指標は、9時間の標識のIV点滴及び36時間のサンプル採取に定められた。これらの指標は、標識曲線の分画合成速度(FSR)及び分画クリアランス速度(FCR)部分の両方の評価を可能とする。
【0069】
インビボ標識のプロトコル
最後の3名の参加者においては、13C6‐標識ロイシンは、最初に2mg/kgで10分間かけてボーラスして標識ロイシンの定常状態に達し、その後、2 mg/kg/hrの速度で9時間の連続静脈内点滴を行なった。該最後の3名の参加者については、血液及びCSFは36時間サンプリングされた。1又は2時間の間隔をあけて、12ml血液及び6mlCSFの一連のサンプルが採取された。CSFは、通常の大きさの成人で1時間に〜20mlの産生速度を有し(Fishman RA, 1992, Cerebrospinal fluid in diseases of the nervous system, Saunders, Philadelphia)、手続の間ずっと自らを補充し続けている。36時間に亘る調査において、採取された総血液量は312mlであり、採取された総CSF量は216mlであった。
【0070】
本調査では全員で10名の参加者が登録され、8名が所定のプロトコルを完了し、2名については本調査に関する腰椎穿刺後の頭痛が原因で調査を完了前に中止している(表1を参照)。調査を完了した8名のうち、2名は6時間の標識ロイシン点滴を受けており、彼ら2参加者体内の標識Aβの濃度は、正確に測定するには低すぎたので解析には用いていない。従って、残る6名の調査からの結果を下記に報告する。
【0071】
標識ロイシンの定量
血漿及びCSFのサンプルは、解析されて各液体に存在する標識ロイシンの量が測定された(図9)。血漿及びCSF13C6‐ロイシンについての非標識ロイシンに対する標識ロイシンの比率は、LC-ESI-MSよりも低質量のアミノ酸解析に適した、キャピラリーガスクロマトグラフィー‐質量分析計(CG-MS)を用いて定量された(Yarasheski et al. 2005, Am J Physiol. Endocrinol. Metab. 288: E278-284; Yarasheski et al. 1998 Am J Physiol. 275:E577-583)。血漿及びCSFの両方において、13C6‐ロイシンは1時間以内にそれぞれ14%及び10%の定常状態の濃度に達した。これにより、ロイシンは、既知の中性アミノ酸輸送系により、迅速に血液脳関門を横断して輸送されることが確認された(Smith et al. 1987 J Neurochem. 49(5): 1651-1658)。
【0072】
標識Aβの動態
1時間毎に採取されたCSFサンプルについて、上記の通り、免疫沈降‐MS/MSにより非標識Aβに対する標識Aβの比率が測定された。13C‐標識Aβ17‐28からのMS/MSイオンを非標識Aβ17‐28からのMS/MSイオンで割って、非標識Aβに対する標識Aβの比率を示した(上記TTRの式を参照)。各時点における標識Aβの比率の平均値及び標準誤差(n = 6)が図10に示されている。最初の4時間、測定可能な標識Aβはなかったが、これに続いて5時間目から13時間目にかけて増大した。13時間目から24時間目にかけて有意な変化はなかった。標識Aβは24時間目から36時間目にかけて減少した。
【0073】
FSR及びFCRの計算
分画合成速度(FSR)は、下記に表す標準式を用いて計算された:
【数2】
(Et2-Et1)Aβ/(t2-t1)は、標識期間中の標識されたAβの勾配として定義され、前駆体Eは標識ロイシンの比率である。FSRは、パーセント毎時として、点滴時のCSF13C6‐標識ロイシン濃度の平均値で割算された6時間目から15時間目における線形回帰の勾配として演算上定義された(図11A‐Cを参照)。例えば、7.6%毎時のFSRとは、1時間毎に全Aβの7.6%が産生されていたことを意味する。
【0074】
分画クリアランス速度(FCR)は、標識Aβ曲線のクリアランス部分における自然対数の勾配を、下記の式に従って適合させて計算された:
【数3】
FCRは、24〜36時間目における標識Aβの自然対数として演算上定義された(図11D‐F)。例えば、8.3%毎時のFCRは、1時間毎に全Aβの8.3%が除去されたことを意味する。上記健康で若い参加者6名では、AβのFSR平均値は7.6%/hrであり、FCRの平均値は8.3%/hrであった(図12)。これらの値について、各数値間で統計的な差異はみられなかった。
【0075】
実施例3. 血漿中の標識Aβの割合を測定する方法
原理
血漿Aβの代謝については、恐らくCSFと比べて別の区画で異なる代謝速度で起こっている。ADのマウスモデルでは、血漿中で抗体により捕らえられるAβの量は、ADによる病状を定義づける特徴でありうる。従って、血漿中のAβの代謝速度は、ADの病理を定義づける特徴でありうる。更に、血漿Aβの代謝は、CSFと比較しても同等に効果的なヒトのAβ代謝の測定方法でありうる。仮に、痴呆を診断又は予測するものであることが証明されれば、ADの前臨床又は臨床的な診断試験法としてより高い可能性を有するであろう。
【0076】
実験計画
先の実施例でCSFについて行なわれたように、血漿中の標識及び非標識Aβを測定する方法が開発され得る。CSFとの比較において、血漿からAβを採取するには以下の2つの主な相違点がある:1)血漿には100分の1未満のAβしか存在せず、2)非Aβタンパク質の濃度が約200倍高い。免疫沈降の効率性及び特異性については、当業者に公知の方法を用いて最適化される必要があろう。免疫沈降については、リニアトラップクアドラポール(LTQ)質量分析計を用いた解析により夾雑タンパク質の数及び比較量を同定することで検査可能である。LC-ESIに対し、LTQは200倍までの感度の向上を示す。予備的結果から、1mlのヒトCSFからのAβ断片の50倍希釈において、良好なS/N比を有することが示された。
【0077】
前記最適化された方法の試験は、5‐10mlの血漿を用いて行なうことが可能である。標識及び非標識Aβを免疫沈降し、トリプシンで消化し、質量分析計で解析することが可能である。被験者からの標識された血漿サンプルを用いて血漿標識の検量線を検出し作出することが可能である。最もよく標識されたサンプルを用いて段階希釈により5つのサンプルを作り出すことが可能である。標識Aβは、親イオン及びタンデム質量分析イオンにおいてLTQにより定量可能であり、該結果により検量線を作り出すことが可能である。該検量線から、線形性及びばらつきについても直線適合モデルにより決定することができる。この検量線は、ヒトCSFのAβの標識から作り出された検量線と比較可能である。標識された血漿Aβの検量線を、コントロール対AD個体からの標識CSFの検量線と比較して、血漿のAβ濃度がADを検出又は予想できるかどうかを決定することも可能である。
【0078】
結果
CSFのデータと同様に(実施例1及び2参照)、ヒト血漿からの標識及び非標識Aβを再現性のある定量的測定を提供可能な技術が開発できることが期待されている。前記検量線については、直線に近く、ばらつきが少ないことが期待される。ヒトのインビボ調査から得た血漿の標識Aβの検量線は、CNS/CSFの標識Aβの検量線を正確に反映することが期待される。参加者からの血漿AβのFSR及びFCRを得ることも可能である。血漿へのAβの点滴後における動物モデルで示されているように、血漿中のAβのクリアランス速度は、CSFの場合よりも十分に速くなるであろうことが予想される。
【0079】
その他の方法
標識及び非標識血漿Aβが上に詳細に述べるように正確に測定できない場合、時点数は少なくかつ各時点におけるサンプルは多くして、用いることが出来る(1時間毎に10mlに対して2時間毎に20ml)。これにより測定の時間的分解能は低減するが、しかし、それでもFSR及びFCRを得るには十分であろう。もし、血漿に関してタンパク質のコンタミネーションが依然問題となるのであれば、HPLC、タンパク質二次元電気泳動、又は当業者にとって馴染みのあるよりストリンジェントな洗浄工程による精製が必要であろう。
【0080】
前記LTQは市販されるもののうち、最も高感度な質量分析計であり、アトモル量に基づく測定を作り出す最高の条件を提供する。現時点において、この質量分析計よりも優れた代替物は存在しない;しかしながら、技術の進歩に伴い、質量分析計の感度も常に向上している。当業者であれば、質量分析におけるこのような改良を用いることは、本発明の範囲および精神の範囲内にあることを理解するであろう。
【0081】
実施例4. CSFのAβ代謝に対するApoE遺伝子型による影響の決定
原理
ApoE遺伝子型は、ADについて十分な実証を得た遺伝子の危険因子である。ADにおいては、ApoEが、細胞外アミロイド沈着と共局在していることが免疫組織学により明らかとなった。更に、ヒトの個体群においては、ApoE ε4遺伝子型がADの危険因子であることが分かった。ApoE ε2対立遺伝子は、ADのリスクの面で保護的であることが示されている。また、ApoE遺伝子型は、いくつかのADマウスモデルにおいて、ADの病態変化に劇的に影響することが示されている(Games et al. 1995 Nature 373(6514): 523-527)。
【0082】
ApoEε4は、AD及び脳のアミロイドアンギオパチー(CAA)においてAβ沈着の密度を容量依存的に上昇させる。ApoEは、CSF、血漿並びに正常及びADの脳内の可溶性Aβと関連している。恐らく、ApoE4は、他の種々の経路に関わっていると示されていはいるものの、Aβ代謝の共通する機構を通じてAD及びCAAと関連しているものと思われる。
【0083】
ADのマウスモデルでは、ApoEアイソフォームが、その容量及び対立遺伝子に依存してAβ沈着の発症時期及びAβ沈着の分布を変化させることが示されている(Holtzman et al., 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. 97: 2892-2897; DeMattos et al. 2004, Neuron 41(2): 193-202)。ヒトApoE3については、容量依存的にAβ沈着の減少を生じさせることが示されている。更に、クリアランスの研究では、CNSから血漿へのAβ輸送は、30分未満のt1/2を有し、この値はApoE無しでは減少することが示された。以上を総合すると、ApoEがCNSのAβに対してAβの結合及びクリアランス作用を有することが示唆される。
【0084】
実験計画及び解析
各参加者についてApoE遺伝子型を決定可能である。遠心分離された血漿からのバフィコート(白血球層)は、当業者にとって公知の標準的な手法を用いて回収し、迅速に−80℃で凍結可能である。サンプルのApoE遺伝子型は、PCR解析により決定される(Talbot et al. 1994, Lancet 343(8910): 1432-1433)。ApoE2の遺伝子量(0、1、又は2コピー)及びApoE4の遺伝子量(0、1、又は2コピー)による影響は、CSF又は血漿におけるAβ代謝のFSR又はFCRの連続変数を用いて解析することが可能である。
【0085】
統計解析の方法は、当業者に公知の標準的手法により作製できる。例えば、AβのFSR及びFCRについては、対照群及びAD群においてヒトのApoEアイソフォーム及び年齢を因数として、二元配置又は三元配置分散分析を行なうことができる。データが正規分布していない場合には、変換を用いてガウス分布についての必要な統計的仮説に適合させることが可能である。
【0086】
結果
ApoE3との比較において、ApoE4はAβのクリアランスを減少できることが予想される。反対に、ApoE2は、ApoE3と比較して、Aβのクリアランスを増大させることが予想される。ApoE遺伝子型に基くAβの合成速度の変化は予想されない。Aβ代謝の変化が検出された場合には、ヒトのインビボでのAβ代謝に対するApoE状態による影響の証拠となるであろう。
【0087】
実施例5. ヒト血漿AβFSR及びFCR代謝に対するApoE遺伝子型の比較
原理
ADのマウスモデルで示されたように、CNSから血漿へのAβの輸送は、ApoE遺伝子型により影響を受けうる。ヒトにおけるこの影響の測定は、ApoEによる輸送の変化を明らかにするであろう。
【0088】
インビボ動物データは、血漿対CSF対脳の間でAβのクリアランス速度が異なっていることを示した。これらの違いの原因及び相関性はよく理解されていない。恐らく、ApoE遺伝子型の発現は、AβのCNSからCSF及び血漿への輸送及びクリアランスにおいて重要な役割を持つのであろう。CNSにおいては、ApoEは主として星状細胞により産生され、シアル酸が付加されており、血漿Aβと比較すると構造が異なっている。ApoE遺伝子型の関数としてのこれら区画間の相関性をよりよく理解するために、実施例3の手法を用いて血漿中のAβの代謝を測定することが可能である。
【0089】
実験計画及び解析
各参加者についてApoE遺伝子型を決定可能である。遠心分離された血漿からのバフィコート(白血球層)は、当業者にとって公知の標準的な手法を用いて回収し、迅速に−80℃にて凍結可能である。サンプルは、実施例4で用いられた手法を用いて解析可能である。ApoE2の遺伝子量(0、1、又は2コピー)及びApoE4の遺伝子量(0、1、又は2コピー)による影響は、血漿Aβ代謝のFSR又はFCRの連続変数に対して解析することが可能である。統計解析の方法は、上記実施例4に記載されるように当業者に公知の標準的手法により作製できる。
【0090】
結果
ApoE4は、ApoE3と比較して、血漿Aβのクリアランスを減少でき、ApoE2は、ApoE3と比較して、血漿からのAβのクリアランスを増大させることが予想される。ApoE遺伝子型に基くAβの合成速度の変化が観察されるとは予想されない。しかしながら、血漿Aβ代謝の変化が検出された場合には、ヒト中のAβ代謝に対するApoE状態による影響の最初の評価となるであろう。
【0091】
その他の方法
Aβ代謝についての血漿、CSF及びCNS区画の相関性はよく理解されていない。各区画におけるAβの割合についてはADの有無に依存した変化がある。このことは、これらの区画の間で、Aβ代謝障害が異なる影響を及ぼすことを示している。周辺の血漿Aβ代謝をCSFのAβ代謝と比較した関係は、単なるApoE遺伝子型の依存性よりも複雑なものであろう。恐らく、ADの状態だけではなく、他の要因も上記関係に作用して影響するであろう。従って、Aβ代謝の変化の明確なパターンは、ApoE遺伝子型に依存しない可能性もある。
【0092】
本明細書に開示及びクレームされる組成物及び方法は全て、本開示内容に照らして過度の実験無しに作製し、実行することが可能である。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施態様で記載されてはいるが、本明細書に記載される組成物及び方法及び該方法の工程又は一連の工程に、本発明の概念、精神及び範囲を逸脱することなく変更が適用可能なことは当業者にとって明らかである。より具体的には、化学的及び生理学的に関連した薬剤によって本明細書に記載する薬剤を置き換えることが可能であり、その場合でも、同一又は類似した結果が得られるであろうことが明らかであろう。当業者にとって明らかな、このような類似する代替物及び変更の全ては、請求項に定義される本発明の趣旨、精神及び概念の範疇にあるものとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1には、細胞内でのアミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイド‐β(Aβ)へのプロセシングの図式例が描かれている。標識可能な部位であるロイシン(L)は、黒色で示されている。Aβのアミノ酸配列が、質量分析法により解析された断片を表すために示されたトリプシン消化部位と共に図の底部に示されている。
【図2】図2には、アミロイド‐βペプチドの分離を表す質量分析プロットが描かれている。Aβペプチドは、中央ドメインの抗Aβ抗体、m266を用いてヒト脳脊髄液から免疫沈降され、該溶出されたAβは質量分析された。質量スペクトルのピークは、以下の対応するペプチド変異体で標識される;Aβ38、Aβ39、Aβ40、及びAβ42。
【図3A】図3は、13C‐標識Aβ17‐28断片の分子量のシフトを示す質量分析のプロットを表す。図3Aでは、インビトロでAβを生産するヒト神経膠腫細胞の細胞株からの非標識培地が回収され、免疫沈降されている。その後、アミロイド‐βペプチドはトリプシンにより第5、16及び28番目の部位(図1を参照)で切断され、質量1325及び1336に示される2種類の断片範囲が生じた。Aβ断片の2つの質量範囲であるAβ17‐28(1325)及びAβ6‐16(1336)は、非標識Aβにおける天然同位体の統計的分布を示していることに注意すべきである。また、標識のシグナルがみられるはずの質量1331にシグナルが存在しないことにも注意すべきである。
【図3B】図3は、13C‐標識Aβ17‐28断片の分子量のシフトを示す質量分析のプロットを表す。図3Bでは、13C6‐ロイシン存在下で24時間培養したヒト神経膠腫細胞からの培地が回収され、Aβは免疫沈降され、トリプシンにより切断されて1325、1331及び1336の質量に示される断片範囲を生じた。13C6‐ロイシン標識(Aβ*17‐28)を示す1325から1331へのAβ17‐28の質量のシフト(矢印)に注目すべきである。Aβ6‐16はロイシンを含んでおらず、従って標識もされず質量シフトも無い。微量のAβ17‐28が標識されないままであった。
【図4】図4には、インビトロでのAβの標識の検量線を示すグラフが描かれている。標識された培養用培地のサンプルは段階希釈され、測定技術の線形性及びばらつきを検定する検量線が作られた。Aβは、該培地から沈降され、トリプシン消化され、該断片は液体クロマトグラフィーエレクトロスプレー注入(LC-ESI)質量分析計により分析され、タンデム質量分析イオンは特注のソフトウェアにより定量化された。該ソフトウェアは、標識タンデムイオン及び非標識タンデムイオンの両方を合計し、総Aβに対する標識Aβの比率を計算した。予想される値に対する標識Aβの割合は線形回帰曲線として示されている。少ないばらつきに加え、良好な直線適合性に注目すべきである。
【図5】図5には、インビボ標識のプロトコルを示す図が描かれている。図に示されるものは、いずれかの肘正中静脈内に静脈内カテーテルが付けられ、L3-4のクモ膜下腔間内に腰椎カテーテルが付けられた参加者の図解である。一のIVを通して13C6‐標識ロイシンが、最初の2 mg/kgのボーラス(一括投与)の後に、1.8〜2.5 mg/kg/hrで9〜12時間点滴された。他方のIVを通して12mlの血漿が最初の16時間では1時間毎に採取され、その後は記載されるように2時間毎に採取された。前記腰椎カテーテルを通じて6mlのCSFが1時間毎に採取された。各サンプルは、Aβの免疫沈降、トリプシン消化、及び各時点の標識Aβの割合を測定するLC-ESI-MSにより処理された。
【図6A】図6には、標識及び非標識アミロイド‐βのMS/MSイオンを示す質量分析計のプロットが描かれている。13C6‐ロイシンの静脈内点滴の後、ヒトCSFが採取された。非標識(a)及び標識(b) Aβ17‐28(LVFFAEDVGSNK)の代表的なスペクトルを示す。該スペクトルは、m/z666.3における非標識親イオンAβ17‐28又はm/z666.3における標識親イオンAβ17‐28のMS/MS解析を用いて得られた。13C‐ロイシン(Aβ17)を含んだMS/MSイオンは、標識ロイシンを示す6ダルトン分の質量シフトが生じたことに注意すべきである。第17番目の位置にロイシンを持たないAβイオンについては、標識されず、6ダルトン分の質量シフトも生じていない。
【図6B】図6には、標識及び非標識アミロイド‐βのMS/MSイオンを示す質量分析計のプロットが描かれている。13C6‐ロイシンの静脈内点滴の後、ヒトCSFが採取された。非標識(a)及び標識(b) Aβ17‐28(LVFFAEDVGSNK)の代表的なスペクトルを示す。該スペクトルは、m/z666.3における非標識親イオンAβ17‐28又はm/z666.3における標識親イオンAβ17‐28のMS/MS解析を用いて得られた。13C‐ロイシン(Aβ17)を含んだMS/MSイオンは、標識ロイシンを示す6ダルトン分の質量シフトが生じたことに注意すべきである。第17番目の位置にロイシンを持たないAβイオンについては、標識されず、6ダルトン分の質量シフトも生じていない。
【図7】図7には、インビボでのAβの標識の検量線を示すグラフが描かれている。標識されたヒトCSFのサンプルは、非標識ヒトCSFで段階希釈され、ヒトCSF中のインビボ標識されたAβの測定技術の正確さ及び精度を定量する検量線が作られた。該Aβは、CSFから沈降され、トリプシン消化され、該Aβ断片はLC-ESI質量分析計で分析され、タンデム質量分析イオンは特注のソフトウェアを用いて定量された。該ソフトウェアは標識及び非標識タンデムイオンの両方を合計し、総Aβに対する標識Aβの比率を計算した。測定値に対する予想される標識Aβの割合は線形回帰曲線として示されている。良好な直線適合性に注目すべきである。
【図8】図8には、3名の参加者のAβ代謝曲線を示すグラフが描かれている。各参加者は標識ロイシン点滴を時刻ゼロから開始し、9時間目(正方形)又は12時間目(三角形及び円形)まで継続した。1時間毎に腰椎カテーテルを通じてCSFのサンプルが採取された。Aβは免疫沈降され、トリプシン消化された。上述のようにLC-ESI質量分析計で標識及び非標識タンデム質量分析イオンを測定することで標識Aβの割合が求められた。
【図9】図9には、36時間の調査での参加者からのCSF及び血液中の標識ロイシンの比率を示すグラフが描かれている。該CSF及び血漿の標識ロイシン濃度は、最初の2 mg/kgのボーラスから1時間以内にほぼ定常状態に達した。血流への標識ロイシンの点滴を9時間目に止めた後に、標識ロイシン濃度の指数関数的な減衰が生じた。点滴の間、標識ロイシンの血漿濃度は、CSFの標識ロイシン濃度よりも約4%高かった。
【図10】図10には、6名の参加者からの36時間に亘るCSF中の非標識Aβに対する標識Aβの比率の平均値を示すグラフが描かれている。非標識Aβに対する標識Aβの代謝曲線は、平均化され、各時点における平均値は+/-標準誤差で表されている。各参加者は、9又は12時間標識され、0時間目から12、24、又は36時間目まで1時間毎にサンプリングされた。最初の4時間では標識の取り込み量は検出できず、その後、標識Aβの割合の増大が起こり、本調査の終盤12時間で減少する前に、標識ロイシン濃度の定常状態に近いプラトー(〜10%)に達した。
【図11A】図11には、9時間の標識点滴及び36時間のサンプリングを行なった3名の参加者からのAβ代謝曲線を示すグラフが描かれている。図11Aには、増加する標識Aβ値を予想される定常状態の値で割った勾配から計算された分画合成速度(FSR)の計算値が描かれている。該予想定常状態の値は、標識中に測定されたCSF標識ロイシンの平均値であるものと評価された。前記勾配は、標識Aβの増加のない4時間の遅延時間の後に開始し、その9時間後に終了することが定義された(べた塗りの菱形)。
【図11B】図11には、9時間の標識点滴及び36時間のサンプリングを行なった3名の参加者からのAβ代謝曲線を示すグラフが描かれている。図11Bには、増加する標識Aβ値を予想される定常状態の値で割った勾配から計算された分画合成速度(FSR)の計算値が描かれている。該予想定常状態の値は、標識中に測定されたCSF標識ロイシンの平均値であるものと評価された。前記勾配は、標識Aβの増加のない4時間の遅延時間の後に開始し、その9時間後に終了することが定義された(べた塗りの菱形)。
【図11C】図11には、9時間の標識点滴及び36時間のサンプリングを行なった3名の参加者からのAβ代謝曲線を示すグラフが描かれている。図11Cには、増加する標識Aβ値を予想される定常状態の値で割った勾配から計算された分画合成速度(FSR)の計算値が描かれている。該予想定常状態の値は、標識中に測定されたCSF標識ロイシンの平均値であるものと評価された。前記勾配は、標識Aβの増加のない4時間の遅延時間の後に開始し、その9時間後に終了することが定義された(べた塗りの菱形)。
【図11D】図11Dは、24時間目から36時間目にかけての標識Aβの割合の自然対数の勾配から計算された、分画クリアランス速度(FCR)の計算値を示す(べた塗りの菱形)。
【図11E】図11Eは、24時間目から36時間目にかけての標識Aβの割合の自然対数の勾配から計算された、分画クリアランス速度(FCR)の計算値を示す(べた塗りの菱形)。
【図11F】図11Fは、24時間目から36時間目にかけての標識Aβの割合の自然対数の勾配から計算された、分画クリアランス速度(FCR)の計算値を示す(べた塗りの菱形)。
【図12】図12には、FSR及びFCRの平均値を示すグラフが描かれている。6名の参加者のAβのFSRの平均値及び3名の参加者のAβのFCRの平均値が、標準偏差と共に示されている。
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経系及び神経変性の疾患、障害及びこれに関連した経過の診断及び治療の方法に関する。本発明は、また、中枢神経系由来の生体分子の被験者のインビボにおける代謝測定方法に関する。
【0002】
連邦研究助成金への謝辞
本発明は、少なくとも一部は、国立衛生研究所からの財政的援助(NIH科研費P50-AG05681、M01 RR00036、NIH RR000954、及びNIH DK056341)により完成した。従って、本発明について、合衆国政府は一定の権利を持ちうる。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病
アルツハイマー病(AD)は、最も一般的な痴呆の原因であり、増加している公衆衛生問題である。現時点において、合衆国内で500万人がこの病気により苦しんでいると推定され、2050年までに1300万人への増大が推定されている(Herbert et al 2001, Alzheimer Dis. Assoc. Disord. 15(4): 169-173)。ADは、他の中枢神経系(CNS)の変性疾患と同様に、タンパク質の生産、蓄積、及びクリアランスの障害に特徴付けられる。ADでは、アミロイド‐β(Aβ)というタンパク質代謝の調節異常が、疾患を伴う人々の脳内における該タンパク質の塊状の蓄積による兆候として示される。ADでは、記憶、認知機能、及び最終的には自立性が喪失される。それは、患者及びその家族に過酷な人的及び経済的打撃を与えるものである。この病気の過酷さ及び人口内での有病率の増加により、より良い治療法の開発は急を要する。
【0004】
現状において、症状を緩和する薬剤はいくつか存在するが、しかしながら、疾患を軽減させる治療法は存在しない。疾患を軽減させる治療法は、永続的な脳障害の発症前に与えられるのであれば、最も効果的であると見込まれる。しかしながら、ADの臨床診断が行なわれる時点には、既に大量の神経喪失が生じている(Price et al. 2001, Archiv. Neurol. 58(9): 1395-1402)。従って、ADが発病するリスクにある人々を特定する方法があれば、AD発症の予防又は遅延に最も有益であろう。現状において、ADで臨床症状の発症前に生じる病態生理学的変化を同定したり、又は該疾患の発症の予防若しくは進行の遅延を可能とする治療の効果を効果的に測定する手段は存在しない。
【0005】
従って、高感度で、正確で、かつ再現性のある、CNS内の生体分子のインビボ代謝を測定する方法に対する需要が存在する。特に、神経変性疾患に関連するタンパク質のインビボ分画(フラクショナル)合成率及びクリアランス率、例えば、ADにおけるAβの代謝を測定する方法が必要とされる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本発明の一態様は、脳障害及び臨床症状の発生に先立ち、ADのような神経系疾患及び神経変性疾患の出現及び進行を診断し、モニターする手段の提供にある。また、本発明の別の態様は、ADのような神経系疾患及び神経変性疾患の治療の効果をモニターする手段を提供する。
【0007】
本発明の更なる態様は、神経系に由来する生体分子のインビボ代謝(例えば、合成の速度、クリアランスの速度)を測定する方法を提供する。
【0008】
本発明の追加的な態様は、それにより該タンパク質の代謝率を神経系疾患又は神経変性疾患の予測値、該疾患の進行のモニター、又は該疾患の治療の効果の指標として用いることを可能とする、被験者の神経系由来タンパク質のインビボ代謝を測定するキットを包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、対象の神経性及び神経変性の疾患、障害及び経過の早期診断及び評価の方法に関する。特に、本発明は、CNS由来生体分子の合成及びクリアランス速度を測定することにより、神経系の損傷と関連した臨床症状の発症前の診断方法を提供する。初期診断が初期治療の機会を提供し、場合によっては、これに苦しむ者の神経の深刻な損傷を防ぐといった本発明の有用性は、当業者にとって明らかである。また、本発明は、疾患を緩和する治療法の開発段階をモニターする方法又はヒトに直接的に重大な作用を及ぼすと考えられる治療法をスクリーニングする方法を提供する。例えば、ある治療法がCNS由来の生体分子の合成及びクリアランス速度を変えるものかどうかを判断することができる。最終的に、この方法は、神経性及び神経変性疾患の発病を予想する検査及びこのような疾患の進行をモニターする手法を提供する。
【0010】
I. 神経系由来生体分子のインビボにおける代謝をモニターする方法
本発明は、神経系由来生体分子のインビボにおける代謝を測定する方法を提供する。この方法を用いることにより、当業者は、特定の病状と関連する神経系由来生体分子の代謝(合成及びクリアランス)の変化を調査することが可能となる。加えて、本発明は、被験者内での疾患を緩和する治療法の薬力学的作用の測定を可能とする。
【0011】
特に、本発明は、生体分子を、中枢神経系で合成される際にインビボで標識する方法;標識又は非標識生体分子を含む生物学的サンプルを採取する方法;及び該生体分子の標識を経時的に測定する方法を提供する。これら測定方法は、合成及びクリアランス速度や、その他の代謝指標の計算に用いることが可能である。
【0012】
(a) 変性疾患
アルツハイマー病(AD)は、アミロイド-β(Aβ)タンパク質の産生の増加、クリアランスの減少又はこれらの両方の結果として生じる中枢神経系(CNS)におけるアミロイド班により特徴づけられる衰弱性の疾患である。本願発明者らは、脳脊髄液(CSF)又は血漿中のインビボのAβ合成及びクリアランス速度を測定することによりヒトのインビボでのAβ代謝を測定する方法を開発した。該インビボAβ合成及びクリアランス速度は、被験者が、コントロール群との比較においてAβの合成及びクリアランスに異変を生じていないかどうかを評価することに用いることができる。このような比較はADの経過の初期、即ち、臨床症状の発症及び重大な神経の損傷前での診断を可能とする。更に、本発明は、アポリポ蛋白E(ApoE)がAβ代謝に変化を生じさせるか否かを決定する手段を提供する。この決定により、なぜ特定のApoE遺伝子型がADの危険因子であるのかということに対する新たな洞察を提供できるであろう。
【0013】
当業者であれば、ADは本発明により診断又は観察可能な例示的な疾患であるが、本発明がADに限定されないことを認識するであろう。本発明の方法は、パーキンソン病、脳卒中、前頭側頭型痴呆(FTDs)、ハンチントン病、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、老化関連疾患及び痴呆、多発性硬化症、プリオン病(例えば、クロイツフェルト・ヤコブ病、ウシ海綿状脳症又は狂牛病、スクレイピー)、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS又はルー・ゲーリック病)を含むいくつかの神経性及び神経変性疾患、障害又は経過の診断及び治療に用いることができることが想像されるが、これら疾患に限定されるものではない。また、本発明の方法は、CNSの正常な生理、代謝及び機能の研究に用いることができることが想像される。
【0014】
神経性及び神経変性疾患は、主に高齢の被験者に見られる。例えば、65歳以上の10%の人々がADであり、85歳以上の45%の人々がADに苦しんでいる。高齢者化する人口における神経性及び神経変性疾患の有病率及びこれら疾患に伴う保健医療費により、生体分子のインビボでの代謝が、ヒトである被験者、特に、高齢のヒトである被験者の体内で測定されるようになることが想像される。また、一方で、生体分子のインビボでの代謝は、他の哺乳動物である被験者内でも測定可能である。別の実施形態では、該被験者は、イヌやネコといったペット動物である。また別の異なる実施形態では、該被験者は、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ又はヤギなどの家畜動物である。さらにまた別の異なる実施形態では、該被験者は動物園の動物である。また別の実施形態では、該被験者はヒト以外の霊長類やげっ歯類などの研究用動物である。
【0015】
(b) 生体分子
本発明は、インビボでの神経系由来生体分子の代謝の測定方法を提供する。該生体分子は、タンパク質、脂質、核酸、又は炭水化物であってもよい。該可能性のある生体分子は、インビボでの合成中に標識でき、その代謝が測定されるサンプルを回収できるという能力によってのみ限定される。好ましい実施形態では、該生体分子はCNSで合成されるタンパク質である。例えば、測定される該タンパク質は、以下に限定されるものではないが、アミロイド-β(Aβ)及びその変異体、可溶性アミロイド前駆体タンパク質(APP)、アポリポ蛋白E(アイソフォーム2、3、又は4)、アポリポ蛋白J、タウ(ADに関連する別のタンパク質)、グリア線維酸性蛋白、α-2マクログロブリン、シヌクレイン、S100B、ミエリン塩基性タンパク質(多発性硬化症と関係する)、プリオン、インターロイキン、及び腫瘍壊死因子(TNF)でもよい。標的と成り得る更なる生体分子には、GABA作動性ニューロン、ノルアドレナリン作動性ニューロン、ヒスタミン作動性ニューロン、セロトニン作動性ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン、コリン作動性ニューロン、及びグルタミン作動性ニューロンの産物、又はそれらニューロンと相互作用するタンパク質又はペプチドが含まれる。
【0016】
例示的な実施形態では、そのインビボにおける代謝が測定されるタンパク質は、アミロイド-β(Aβ)タンパク質でもよい。更なる実施形態では、Aβの他の変異体(例えば、40、42、38その他)も測定可能である。また更なる実施形態では、Aβの消化産物(例えばAβ6-16、Aβ17-28)も測定可能である。
【0017】
(c) 標識部分
目的の生体分子の標識には、種々の異なる部分を用いることができる。一般的に、本発明の方法で代表的に用いられる二種類の標識部分は、放射性同位体及び非放射性(安定)同位体である。好ましい実施形態では、非放射性同位体を用いて質量分析計により測定することができる。好ましい安定同位体には、重水素2H、13C、15N、17又ハ18O、33、34、又ハ36S、が含まれるが、主な天然型よりも多い又は少ない中性子により原子の質量を変化させるその他多くの安定同位体でも効果があることが理解される。一般的に、適切な標識は、研究対象である生体分子の質量を、質量分析計により検出可能なように変化させる。1つの実施形態において、該測定される生体分子はタンパク質であり、該標識部分は非放射性同位体(例えば、13C)を含むアミノ酸である。別の実施形態では、該測定される生体分子は核酸であり、該標識部分は非放射性同位体(例えば、15N)を含むヌクレオシド三リン酸である。また、代わりに、放射性同位体を用いることもでき、該標識された生体分子は、質量分析計ではなくシンチレーション計数器により測定できる。1つ以上の標識部分を同時に又は順に使用することができる。
【0018】
好ましい実施形態では、前記方法がタンパク質代謝の測定に用いられる場合には、該標識部分は典型的にはアミノ酸となる。当業者であれば、いくつかのアミノ酸を生体分子の標識の提供に使用できることを理解するであろう。一般的に、アミノ酸の選択は、以下のような種々の要素に基く:(1)該アミノ酸は、概して目的のタンパク質又はペプチドの少なくとも1つの残基に存在する。(2)該アミノ酸は、概して迅速にタンパク質合成部位に到達し、迅速に血液脳関門を横断して平衡に達することが可能である。実施例1及び2に示されるように、CNSで合成されるタンパク質を標識するには、ロイシンが好ましい。(3)該アミノ酸は、理想的には、高い標識率を達成できるように必須アミノ酸でありうる(生体内で産生されない)。非必須アミノ酸を用いることもできる:しかしながら、恐らく、測定の正確性は低下するであろう。(4)該アミノ酸の標識は、概して目的のタンパク質の代謝に影響しない(例えば、非常に大量のロイシンであれば筋肉代謝に影響するかもしれない)。そして(5)該必要なアミノ酸の入手可能性である(即ち、特定のアミノ酸は他のアミノ酸よりも非常に高価であるか、又は製造が困難である)。1つの実施形態においては、神経系由来タンパク質の標識に6個の13C 原子を含む13C6-フェニルアラニンが使用される。好ましい実施形態においては、神経系由来タンパク質の標識に13C6-ロイシンが使用される。例示的な実施形態においては、アミロイド-βの標識に13C6-ロイシンが使用される。
【0019】
非放射性同位体及び放射性同位体の両方について、標識されたアミノ酸の多数の発売元が存在する。一般的に、標識アミノ酸は生物学的又は合成的に製造することができる。生物学的に製造されたアミノ酸は、その生物がタンパク質を産生するのに伴ってアミノ酸に取り込まれる13C、15N、又は他の同位体が強化された混合物中で増殖した生物(例えば、ケルプ/海草)から得ることができる。該アミノ酸は、その後分離され精製される。あるいは、アミノ酸は公知の合成化学的プロセスにより作り出すこともできる。
【0020】
(d) 標識部分の投与
標識部分は、いくつかの方法により対象に投与できる。適切な投与方法には、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、又は経口投与が含まれる。好ましい実施形態においては、該標識部位は標識アミノ酸であり、該標識アミノ酸は静脈内点滴される。別の実施形態においては、標識アミノ酸は経口摂取することができる。
【0021】
前記標識部分は、選択される解析の種類(例えば定常状態又はボーラス/追跡)によって、経時的にゆっくりと投与したり、又は大量に一度に投与することができる。標識生体分子濃度の定常状態を達成するためには、標識の時間は、該標識生体分子を確実に定量可能なように十分な長さとなるべきである。1つの実施形態において、該標識部分は標識ロイシンであり、該標識ロイシンは9時間かけて静脈内投与される。別の実施例では、該標識ロイシンは12時間かけて静脈内投与される。
【0022】
当業者であれば、該標識部分の量(又は投与量)は、変化可能であり、変化するであろうことを理解するであろう。一般的に、量は以下の要因に依存する(及び以下の要因により見積もられる)。(1)希望する解析の種類。例えば、血漿中で約15%の標識ロイシンの定常状態を達成させるには、2 mg/kgで10分間の初期の大量ボーラスの後に約2 mg/kg/hrで9時間を要する。反対に、定常状態が求められない場合には、最初に標識ロイシンを大量にボーラス(例えば、1又は5グラムの標識ロイシン)をすることができる。(2)解析対象のタンパク質。例えば、タンパク質が急速に産生されている場合には、必要な標識時間は短くなり、必要な標識は少なくなるであろう‐恐らく、僅か0.5 mg/kgで1時間であろう。しかしながら、殆どのタンパク質は、数時間〜数日間の半減期を有するので、むしろ、4、9又は12時間の持続点滴を0.5 mg/kg〜4 mg/kgで用いてもよい。そして(3)該標識の検出感度。例えば、標識検出感度の向上に伴い、必要となる標識量は少なくなる。
【0023】
当業者であれば、1の被験者について複数の標識を使用できることを理解するであろう。これにより、同一の生体分子について多数の標識が可能となり、その生体分子の産生及びクリアランスについて、その時々の情報を提供できるであろう。例えば、第一の標識を開始時点にて被験者に与え、その後、薬理学的な物質(薬剤)を、さらにその後、第二の標識を投与することができる。一般的に、このような被験者から得られるサンプルの解析は、同一の被験者内における該薬剤の薬力学的作用を直接的に測定して、薬剤投与の前後における代謝の測定法を提供するであろう。
【0024】
またこれに代わり、複数標識を同時に用いて、より広い範囲の生体分子の標識を得ると共に生体物質の標識を増加させることも可能である。
【0025】
(e) 生物学的サンプル
本発明の方法は、生物学的サンプルが、標識された生体分子のインビボでの代謝を測定可能なように被験者から採取されることを可能とする。適切な生物学的サンプルには、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、尿、唾液、汗、及び涙が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の1つの実施形態において、生物学的サンプルはCSFから採取される。また別の実施形態では、生物学的サンプルは尿から採取される。好ましい実施形態では、生物学的サンプルは血液から採取される。
【0026】
脳脊髄液は、カテーテルを用いる又は用いない腰椎穿刺により採取できる(複数回の採取が行なわれる場合にはカテーテルが好ましい)。血液は、カテーテルを用いる又は用いない静脈穿刺により採取できる。尿は単純な尿採取により採取でき、又はカテーテルを用いてより正確に採取できる。唾液及び涙は、医薬品の製造および品質管理に関する基準(GMP)の標準的な方法を用いた直接採取により採取できる。
【0027】
一般的に、研究対象である生体分子がタンパク質である場合、本発明は、第一の生物学的サンプルを標識の投与前に被験者から採取して該被験者のベースラインを提供することを可能とする。標識されたアミノ酸又はタンパク質の投与後は、一般的に1以上のサンプルが被験者から採取されるであろう。当業者には理解されるように、サンプルの数及びそれらをいつ採取するかは、以下のような多数の要因に依存する:解析の種類、投与法の種類、目的のタンパク質、代謝速度、検出法の種類等。
【0028】
1つの実施態様では、前記生体分子はタンパク質であり、血液とCSFのサンプルは36時間のあいだ、1時間毎に採取される。また、この代わりに、サンプルは2時間毎、又は更に低頻度で採取することもできる。一般的に、サンプリングの最初の12時間(即ち、標識開始後12時間)に採取された生物学的サンプルは、前記タンパク質の合成速度の測定に用いることができ、サンプリングの最後の12時間(即ち、標識開始後24‐36時間)に採取された生物学的サンプルは、該タンパク質のクリアランス速度の測定に用いることができる。また、別の代わりの実施形態では、12時間など一定時間の標識の後に1つのサンプルを採取して合成速度を評価することができるが、しかし、これは複数のサンプルに比べて正確性に劣るであろう。更に代わりの実施形態では、サンプルは、該タンパク質の合成及びクリアランス速度に応じて、数時間〜数日間、又は数週間空けて採取されてもよい。
【0029】
(f) 検出
本発明は、生物学的サンプル中の標識生体分子の量及び非標識生体分子の量の検出を用いて非標識生体分子に対する標識生体分子の比率を測定することを可能とする。一般的に、非標識生体分子に対する標識生体分子の比率は、該生体分子の代謝に正比例している。標識及び非標識生体分子の検出に適した方法は、研究対象となる生体分子及びこれを標識するために用いる標識部分の種類によって変化可能であり、また、変化するであろう。該目的の生体分子がタンパク質であり、該標識部分が非放射性標識アミノ酸である場合、検出方法は、該非標識タンパク質に対する該標識タンパク質の質量変化を検出できるほど高感度であるべきである。好ましい実施形態では、標識及び非標識タンパク質の質量の差の検出に質量分析計が用いられる。1つの実施形態では、ガスクロマトグラフィー質量分析計が用いられる。また、代わりの実施形態では、MALDI-TOF質量分析計が用いられる。好ましい実施形態では、高分解能タンデム質量分析計が用いられる。
【0030】
更なる技術を用いることで生物学的サンプル中の他のタンパク質および生体分子から目的のタンパク質を分離することもできる。例として、免疫沈降法を用いることで、質量分析計による解析前に目的のタンパク質を単離して精製することができる。又は、クロマトグラフィー装置を有する質量分析計を用いて、免疫沈降することなしにタンパク質を単離して、該目的のタンパク質を直接測定することができる。例示的な実施形態では、該目的のタンパク質は免疫沈降され、その後エレクトロスプレーイオン化源を装備したタンデムMS一式と連結した液体クロマトグラフィー装置(LC-ESI-タンデム MS)により解析される。
【0031】
また、本発明は、同一の生物学的サンプル中にある複数のタンパク質又はペプチドを同時に測定することを可能とする。即ち、複数のたんぱく質について、非標識及び標識タンパク質(及び/又はペプチド)の両方の量を、別々に又は同時に検出し測定することができる。この様であるから、本発明はタンパク質の合成及びクリアランスの変化を大規模(即ち、プロテオミクス/メタボロミクス)にスクリーニングする有用な方法を提供し、根本的な病態生理に関連するタンパク質を高感度に検出し測定する手法を提供する。あるいは、本発明は、複数種類の生体分子を測定する手法を提供する。これに関しては、例えば、タンパク質及び炭水化物を同時に又は順に測定することができる。
【0032】
(g) 代謝解析
生物学的サンプル中の標識及び非標識生体分子の量が検出されたならば、標識生体分子の比率又は百分率を決定できる。目的の生体分子がタンパク質で、生物学的サンプル中の標識及び非標識タンパク質量が測定された場合には、非標識タンパク質に対する標識タンパク質の比率を計算できる。タンパク質代謝(合成速度、クリアランス速度、遅延時間、半減期等)は、非標識タンパク質に対する標識タンパク質の経時的な比率から計算することができる。これら指標の計算には多くの適切な方法が存在する。本願発明では、標識及び非標識タンパク質(又はペプチド)を同時に測定することを可能であり、他の計算と共に非標識タンパク質に対する標識タンパク質の比率を得ることができる。当業者であれば、本発明の方法と共に使用できる標識の1次動態モデルに精通するであろう。例えば、分画合成速度(FSR)を計算することができる。該FSRは、初期における非標識タンパク質に対する標識タンパク質の増加率を前駆体濃縮度(Precursor Enrichment)で割ったものに等しい。同様にして、分画クリアランス速度(FCR)も計算できる。更に、遅延時間、同位体トレーサー定常状態といった他の指標についても決定でき、該タンパク質の代謝及び生理機能の測定値として用いることができる。また、データを複数のコンパートメントモデルに適合させて区画間の輸送を評価するモデリングを行なうこともできる。無論、選択される数学的モデリングの種類は、個々のタンパク質合成及びクリアランス指標に依存する(例えば、1‐プール、複数プール、定常状態、非定常状態、コンパートメントモデリング、等)。
【0033】
本発明は、タンパク質の合成が、概して、標識/非標識タンパク質の比率の経時的な増加率に基くことを提示する(即ち、勾配、適合指数曲線、又はコンパートメントモデルの適合がタンパク質合成速度を決定する)。これらの計算には、概して最低1つのサンプルが必要とされるが(標識のベースラインを評価できる)、2サンプルが好ましく、タンパク質への標識取り込み(即ち、合成速度)の正確な曲線を計算するには複数のサンプルがより好ましい。
【0034】
反対に、標識アミノ酸投与が終了した後は、非標識タンパク質に対する標識タンパク質の比率の低下率は、典型的にそのタンパク質のクリアランス速度を反映する。 これらの計算には、概して最低1つのサンプルが必要とされるが(標識のベースラインを評価できる)、2サンプルが好ましく、タンパク質からの標識の経時的な減少(即ち、クリアランス速度)の正確な曲線を計算するには複数のサンプルがより好ましい。任意の時点における生物学的サンプル中の標識タンパク質量は、合成速度(即ち、生産)又はクリアランス速度(即ち、除去又は分解)を反映し、通常は、被験者内のタンパク質のパーセント毎時、又は質量/時間(例えば、mg/hr)で表される。
【0035】
例示的な実施形態では、実施例に例示されるように、被験者に標識ロイシンを9時間に亘って投与し、36時間に亘り一定の間隔をあけて生物学的サンプルを採取することで生体中のアミロイド‐β(Aβ)の代謝を測定する。該生物学的サンプルは、血漿又はCSFから採取できる。該生物学的サンプル中の標識及び非標識Aβの量は、典型的には免疫沈降及びその後のLC-ESI-タンデムMSにより測定される。これらの測定値から、非標識Aβに対する標識Aβの比率が決定でき、該比率により、Aβの合成速度及びクリアランス速度といった代謝指標の決定が可能となる。
【0036】
II. 神経性及び神経変性疾患の診断、又はその経過観察、又は治療用のキット
本発明は、被験者の中枢神経系由来タンパク質のインビボでの代謝を測定することによる神経性及び神経変性疾患の診断、又はその経過観察、又は治療用のキットを提供する。一般的に、キットには標識アミノ酸、該標識アミノ酸を投与する手段、生物学的サンプルを経時的に採取する手段、及び代謝指数が計算できるように非標識タンパク質に対する標識タンパク質の比率を検出し測定するための使用説明書が含まれる。該代謝指数は、正常、健康な個体の代謝指数と比較することができ、又は同一の被験者から先の時点で得られた代謝指数と比較することができる。これらの比較により、従事者は、神経性又は神経変性疾患の発病の予測、神経性又は神経変性疾患の発症の診断、神経性又は神経変性疾患の経過観察、又は神経性又は神経変性疾患の治療法の効果の確認をすることが可能となる。好ましい実施形態では、該キットは、13C6‐ロイシン又は13C6‐フェニルアラニンを含み、標識されるタンパク質はAβであり、評価される疾患はADである。
【0037】
定義
他に定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者により通常理解される意味を有する。以下の参考文献は、当業者に本発明で使用される種々の用語の一般的定義を与える:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (第2版. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker編集, 1988); The Glossary of Genetics, 第5版., R. Rieger et al. (編集), Springer Verlag (1991); 及び Hale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で用いられるように、以下の用語については、他に明示されない限り、それそのものに基く意味を有する。
【0038】
「クリアランス速度(clearance rate)」とは、目的の生体分子が取り除かれる速度を指して言う。
【0039】
「分画クリアランス速度」又はFCRは、特定の時間に亘る標識生体分子の比率の自然対数として計算される。
【0040】
「分画合成速度」又はFSRは、特定の時間に亘る標識生体分子の増加率の勾配を、予想される標識前駆体の定常状態の値で割った値として計算される。
【0041】
「同位体」とは、原子核が同一の原子番号を有するが、異なる数の中性子を含むために異なる質量を有している任意の元素の全ての形態を指して言う。非限定的な例としては、12C及び13Cは両方とも、炭素の安定同位体である。
【0042】
「遅延時間」とは、一般的に、生体分子が最初に標識されてから、標識された生体分子が検出されるまでの時間の遅延を指す。
【0043】
「代謝」とは、生体分子の合成、輸送、分解、修飾、又はクリアランスの速度のあらゆる組み合わせをも指す。
【0044】
「代謝指数」とは、目的の生体分子の分画合成速度(FSR)及び分画クリアランス速度(FCR)を含む測定値を指して言う。正常及び病気の個体の代謝指標の比較は、神経性及び神経変性疾患の診断及び観察に役立てられる。
【0045】
「神経由来細胞」とは、ニューロン、星状細胞、小グリア細胞、脈絡叢細胞、脳室上衣細胞、その他のグリア細胞等を含む、血液脳関門内にある全ての細胞を指して言う。
【0046】
「定常状態」とは、特定の時間に亘り、測定される指標に有意でない変化が見られる状態を指す。
【0047】
「合成速度」とは、目的の生体分子が合成される速度を指す。
【0048】
代謝トレーサーの研究における「安定同位体」とは、最も豊富な天然同位体よりも存在率の低い非放射性同位体である。
【0049】
「被験者」とは、本明細書で用いられるように、中枢神経系を有する生物を意味する。具体的には、該被験者とは哺乳動物である。適切な対象には、研究用動物、ペット用動物、家畜動物、及び動物園の動物が含まれる。好ましい被験者は、ヒトである。
実施例
【0050】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。当業者であれば、以下の実施例に開示される技術は、本願発明者により見出された技術が本願発明の実施において十分に機能することを示すものであることをよく理解するはずであり、従って、本発明の実施の好ましい態様を構成するものとみなすことができる。しかしながら、当業者は、本願の開示に照らし、開示された特定の実施形態には種々の変更を施すことが可能であり、それでも本発明の特質及び範囲から逸脱することなく同一又は類似の結果を得られることを理解する。
【0051】
実施例1. インビトロでのアミロイド‐βの代謝測定
原理
生化学的証拠、遺伝的証拠及び動物モデルによる証拠は、Aβ(図1)がADの病原ペプチドであることを示している。インビボでの標識でAβを測定する方法を開発するため、以下の4段階の基本工程を用いたインビトロ系が設計された:1)培養内でインビトロにAβを標識し、2)他の標識されたタンパク質からAβを単離し、3)Aβを該標識の解析が可能な断片へと特異的に切断し、そして4)標識及び非標識断片を定量する。
【0052】
アミロイド‐βの免疫沈降及び切断
第一に、生体液から非標識型Aβを単離して測定する方法が開発された。Aβは、分子の中央ドメイン(13‐28番目の残基)を認識する特異性の高いモノクローナル抗体(m266)を用いて、脳脊髄液又は細胞培養用培地のサンプルから免疫沈降された。抗体ビーズは、製造業者のプロトコル通りに10mg/mlのm266抗体の濃度でm266抗体(Eli Lilly より寛大にも提供された)をCNBrセファローズビーズに共有結合させることで調整された。該抗体ビーズは、50%PBS及び0.02%アジドのスラリー中で4℃にて保存された。免疫沈降混合物は、250μlの5xRIPA、12.5μlの100xプロテアーゼ阻害剤、及び30μlの抗体ビーズスラリーでエッペンドルフチューブに入っていた。これに対し、1mlの生体サンプルが加えられ、チューブは4℃にてオーバーナイトでローテーションされた。前記ビーズは1xRIPAで1回、25mMの重炭酸アンモニウムで2回洗浄された。前記最終洗浄の後、ビーズは吸引乾燥され、Aβは、30μlの純蟻酸を用いて抗体‐ビーズ複合体から溶出された。質量分析により、Aβは直接的に特徴(分子量及びアミノ酸配列)が明らかにされた。図2に示すように、結果は以前発表された知見(Wang et al. 1996, J Biol. Chem. 271(50):31894-31902)に類似するものであった。
【0053】
アミロイド‐βは、トリプシンを用いた酵素消化により、より小さな断片へと切断することができる。トリプシンによるAβの切断により、図1に示すように、Aβ1‐5、Aβ6‐16、Aβ17‐28、及びAβ29‐40/42の断片が生じる。
【0054】
アミロイド‐βの標識
第二に、新たに合成されたAβを標識する方法が開発された。13C6‐ロイシンは、能動輸送により迅速に血液脳関門を横断して平衡化し (Smith et al. 1987, J Neurochem 49(5): 1651-1658)、必須アミノ酸であり、Aβの特性を変化させず、更に安全で非放射性であるから、代謝標識として用いられた。13C安定同位体は、アミノ酸又はタンパク質の化学的又は生物学的特質を変化させない:各13C標識ごとに質量が1ダルトン分増加するだけである。実際のところ、完全な生命体を純粋に13Cで育成しても何ら有害な影響はなかった。標識されたロイシンは、Aβのアミノ酸配列の第17番目及び第34番目に取り込まれる(図1参照)。
【0055】
自然界に存在する同位体の13C(全炭素の1.1%)及び15Nは、タンパク質を含む、大分子の質量の自然分布を生じる。Aβの大きさ及びこれら天然の同位体の存在により、該ペプチドは標識の直接的な測定のためにより小さなペプチドへと分解することができる。あるいは、未消化の完全なAβを用いた分離も可能である。
【0056】
液体クロマトグラフィー/質量分析
第三に、正確に標識型及び非標識型のAβを定量する方法が開発された。このために、自動注入装置を備えたウォーターズ製(ミルフォード、マサチューセッツ州)のキャピラリー液体クロマトグラフィーシステムが、エレクトロスプレーイオン化源を備えたサーモフィニガン製(サンノゼ、カリフォルニア州)LCQ-DECAに接続された(LC-ESI-タンデムMS)。各サンプルの5μl分量がヴィダック(Vydac)C-18キャピラリーカラム(0.3 x 150 mm MS 5μmカラム)に注入された。Aβ17‐28断片は、ロイシン残基を1残基含んでおり、13C6‐ロイシンの取り込みにより該断片の分子量は6ダルトン分シフトする。陽イオン走査モードにおいては、トリプシン消化された合成Aβ及び免疫沈降されたAβのLC-ESI-MS解析は、Aβ17‐28では1325.2に、13C6‐ロイシン標識されたAβ17‐28では1331.2の質量に予想される親イオンを得た(図3A及び3B)。標識Aβ(Aβ*)の割合は、標識Aβ17‐28からの全標識MS/MSイオンを、非標識Aβ17‐28からの全非標識MS/MSイオンで割った割合として計算された。マクロを備えたカスタム化されたマイクロソフト・エクセル表計算ソフトを用いて、以下の式に従い、Aβ17‐28のトレイサー/トレイシー比(tracer to tracee ratio)(TTR)を計算した:
【0057】
【数1】
この方法は、標識型及び非標識型の両方のAβの量を定量すると同時にアミノ酸配列を決定したので、標識型及び非標識型の両方のAβについて高い特異性を有する「フィンガープリント」を提供したものと結論付けられた。この方法により、優れた分離及び非標識Aβペプチドに対する標識Aβの特異性が達成された。標識及び非標識培養培地の段階希釈液から検量線を作成して正確性及び精度が試験された(図4)。標識Aβの段階希釈の検量線の0%〜80%の範囲の直線適合は、0.98のR2及び0.92の勾配を示した。他に評価された測定技術には、選択イオンモードのみでの親イオンの直接的な測定、及びそれにさらにMALDI-TOF質量分析計を使用したものも含まれる。しかしながら、これらの方法は、定量性タンデム質量スペクトル分析を用いたLC-ESIが達成した感度と特異性を提供できなかった。
【0058】
インビトロにおけるアミロイド‐βの標識
Aβを産生するヒト神経膠腫細胞(Murphy et al. 2000, J Biol.Chem. 275(34): 26277-26284)を13C6‐標識ロイシン(ケンブリッジアイソトープラボラトリーズ、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)又は非標識ロイシンの存在下で増殖させた。Aβは、m266抗体を用いた免疫沈降法により培養液から単離された(上記参照)。溶出されたAβは、トリプシンにより37℃にて4時間消化され、その断片はLC-ESI MSにより分析された。予想される通り、非標識ロイシンの存在下で培養された細胞から単離されたAβのAβ17‐28断片は、1325.2の分子量を有し、13C6‐標識ロイシンと培養された細胞から単離されたAβのAβ17‐28断片は、1331.2の分子量を有していた(図3B)。上記知見は、該細胞が13C6‐ロイシンをAβに取り込んでおり、13C6‐ロイシンの存在下で合成されたAβは、該標識されたアミノ酸を取り込んでいることが確認され、該ロイシンを含有するペプチドにおける6ダルトン分の分子量のシフトは、質量分析により識別可能であることを意味している。
【0059】
4時間及び24時間の13C6‐ロイシン標識を施した細胞培養液を分析し、時間の関数として生じる標識相対量を決定した。前記4時間の標識実験では、約70%の標識が判明し、これに対し、24時間の標識実験では95%を超える標識が判明した。上記の知見は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)が、標識と接触後数時間以内に該標識アミノ酸を取り込んだこと、及び標識Aβは標識APPから切断されて細胞外間隙へと放出されたことを意味している。
【0060】
実施例2. インビボにおけるアミロイド‐β代謝の測定
原理
タンパク質の産生及びクリアランスは、厳密に制御され、疾患状態及び正常な生理機能を反映する重要なパラメターである。ヒトのタンパク質代謝についての先の研究は、中枢神経系(CNS)で生産されるタンパク質ではなく、全身又は周辺体のタンパク質に焦点が合せられていた。従前では、ヒトのCNSにおけるタンパク質の産生及びクリアランスの速度を定量可能な方法が存在しなかった。そのような方法は、ヒトのAβ合成及びクリアランス速度だけでなく、CNSの疾患に関連するその他の種々のタンパク質の代謝を評価するのにも有益であろう。ADの根源的な病理発生及びAβ代謝に関する決定的な問題に取り組むため、ヒトのCNSにおけるインビボでのAβ分画合成速度(FSR)及び分画クリアランス速度(FCR)の定量方法が開発された。
【0061】
参加者及びサンプリング
全ての人体調査は、ワシントン大学人体研究委員会及び総合臨床研究センター(GCRC)諮問委員会に承認されている。また、全ての参加者からインフォームドコンセントを得ている。全ての参加者が、一般的に良好な健康状態にあり神経系疾患を有していないようにふるいにかけられた。7名の男性及び3名の女性(23‐45歳)が参加した。各研究参加者は、前夜午後8時からの一晩の絶食の後、午前7:00にGCRCに入院させられた。GCRC研究調理室は午前9時、午後1時及び午後6時に食事(60%の炭水化物、20%の脂肪、20%のタンパク質、標識ロイシンの点滴期間中は低ロイシン食物)を提供し、参加者は水分については自由に摂取した。入院期間中は、全ての食料及び水分消費が看護士及びGCRC調理室により記録された。1つの静脈内カテーテルは、肘正中静脈に設置され、安定同位体で標識されたロイシンの溶液の投与に用いられた。第二の静脈内カテーテルは、血液サンプルを得るために対側性肘正中静脈(contra-lateral antecubital vein)に設置された。複数回の腰椎穿刺を行なうことなくCSFを採取できるよう、くも膜下カテーテルが、トーイー針(Touhy needle)を介してL3-L4間空に挿入された(Williams, 2002, Neurology 58: 1859-1860)。静脈内カテーテルは熟練した公認看護士により設置され、腰椎カテーテルは、豊富な腰椎穿刺経験を有する熟練した内科医により設置された。血液サンプルは、調査が36時間の場合には、最初の16時間では1時間毎に採取され、その後は2時間毎に採取され、それ以外の場合には、1時間毎に採取された。CSFサンプルについては、全調査期間に渡り、1時間毎に採取された。図5に表されるインビボでの実験プロトコルの図を参照していただきたい。参加者は、手洗所の使用以外は寝台にいるように促された。
【0062】
13C6‐ロイシン(ケンブリッジアイソトープラボラトリーズ)は、医薬品グレードの生理食塩水に溶解され、各調査の前日に0.22ミクロンのフィルターで濾過された。標識ロイシンは、医療用ポンプIVを用いて、1.8〜2.5 mg/kg/hrの速度で静脈内点滴された。
【0063】
一参加者のインビボでのAβの標識及び定量
ヒトにおいて標識Aβをインビボで産生及び検出可能かどうかを判断するため、参加者のうち1名について、標識ロイシンの24時間点滴を行なった後に腰椎穿刺によりCSFを採取した。13C6‐標識ロイシンは、一台のIVで1.8 mg/kg/hrの速度で点滴された。1時間毎に、他方のIVを通して10mlの血漿が採取された。連続点滴の24時間後、腰椎穿刺が1回行なわれ、30mlのCSFが採取された。Aβは、前記CSFサンプルから免疫沈降され、トリプシンで消化され、更に、各サンプルの5μl分量がヴィダック(Vydac)C-18キャピラリーカラム(0.3 x 150 mm MS 5μm)に注入された。陽イオン走査モードにおいては、トリプシン消化された合成Aβ及び免疫沈降されたAβのLC-ESI-MS解析で、Aβ17‐28では1325.2に、13C6‐ロイシン標識されたAβ17‐28では1331.2の質量に予想される親イオンを得た。アミノ酸配列と存在割合のデータを得るため、これらの親イオンは、衝突誘起解離され(CID 28%)、その2価荷電種([M + 2H]+2; m/z 663.6及び666.6)のタンデムMS分析は、選択反応監視モード(SRM)で走査され、従って、生じたy-及びb-シリーズイオンが同位体比定量に用いられた(図6)。加えて、血漿中及びCSF中の13C6‐ロイシンが測定され、13C6‐ロイシンAβの予想される最大量が決定された。結果から、非標識Aβ17‐28及び13C6‐標識Aβ17‐28は、ヒトのCSF中にて検出及び測定可能であることが証明された。
【0064】
前記第一のヒトの参加者による結果は、以下の3つの重要な発見を示していた:1) 1.8 mg/kg/時のIV点滴速度では、血漿13C6‐ロイシンは、総血漿ロイシンの12%を平均としたこと;2) CSF中に測定されたCSF13C6‐ロイシンは、24時間での血漿と同様の濃度(11.9%)を示したこと;及び3) ヒトCSF中、24時間での総Aβ量の約8%のAβが13C6‐ロイシンで標識されたことである。
【0065】
ヒトCSF中のインビボ標識Aβの測定方法の正確さ及び精度を定量化するため、標識及び非標識ヒトCSFの段階希釈液から検量線が作成された(図7)。該測定方法は、インビトロにおける検量線(図4)の場合と同一であった。タンデム質量分析計レコーディングMS-2イオンと共に、LC-ESI MSを用いて、選択イオンモニタリングモードにて標識及び非標識Aβ17‐28量を定量した。標識Aβの段階希釈液の検量線の0%〜8%の範囲の直線適合は、0.98のR2及び0.81の勾配を示した。これらのデータから、ヒトの参加者からのインビボサンプルは、恐らく1〜10%の標識の範囲にあることが予測された。非標識CSFでは(0%が予測されたが)Y軸方向に1%が測定値であった。検出系のベースラインのノイズのため、この検出系では1%未満の標識を測定することが不可能であった。Aβは、ヒトにおいてインビボで標識可能であり、LC‐ESI 質量分析計を用いて良好な正確さと精度をもって測定可能であることが結論付けられた。
【0066】
インビボ標識の薬物動態
Aβの合成及びクリアランス速度の計算に定常状態の方程式を使用できるように検出可能なAβの13C6‐ロイシン標識が達せられて適切な期間維持されることを確認するため、標識及びサンプリングの最適な時間が測定された。13C6‐ロイシンの静脈内点滴投与量の範囲(1.8〜2.5 mg/kg/hr)、期間(6、9、又は12時間)及びCSF/血液サンプリング時間(12〜36時間の期間)について試験された(表1参照)。
【表1】
【0067】
3名の参加者のAβの代謝標識曲線が図8に表されている。13C6‐標識ロイシンは、1のIVを通して、1.9(円形)、2.5(三角形)、又は2.5(正方形)mg/kg/hrの速度で、12(円形、三角形)又は9(正方形)時間点滴された。また、別のIV及び腰椎カテーテルを通じ、それぞれ10mlの血漿と6mlのCSFが一時間毎に採取された。標識Aβの有意な増大前に5時間の遅延時間があった。これに続き、9(正方形)及び12(三角形又は円形)時間にわたる標識Aβの増大が起こり、更に5時間プラトーとなった。9時間の標識(正方形)では、最後の3時間において標識Aβの濃度が減少したが、12時間の標識(三角形又は円形)では、標識Aβの減少は見られなかった。
【0068】
更なる調査により、標識点滴の9又は12時間後であれば、信頼性をもって標識Aβを定量可能であるが、標識点滴の6時間後では不可能であることが判明した。標識曲線の合成部分は最初の12時間のサンプリングで決定できる;しかし、標識曲線のクリアランス部分は、36時間のサンプリングでのみ決定できる。これらの事実に基き、Aβの最適な標識の指標は、9時間の標識のIV点滴及び36時間のサンプル採取に定められた。これらの指標は、標識曲線の分画合成速度(FSR)及び分画クリアランス速度(FCR)部分の両方の評価を可能とする。
【0069】
インビボ標識のプロトコル
最後の3名の参加者においては、13C6‐標識ロイシンは、最初に2mg/kgで10分間かけてボーラスして標識ロイシンの定常状態に達し、その後、2 mg/kg/hrの速度で9時間の連続静脈内点滴を行なった。該最後の3名の参加者については、血液及びCSFは36時間サンプリングされた。1又は2時間の間隔をあけて、12ml血液及び6mlCSFの一連のサンプルが採取された。CSFは、通常の大きさの成人で1時間に〜20mlの産生速度を有し(Fishman RA, 1992, Cerebrospinal fluid in diseases of the nervous system, Saunders, Philadelphia)、手続の間ずっと自らを補充し続けている。36時間に亘る調査において、採取された総血液量は312mlであり、採取された総CSF量は216mlであった。
【0070】
本調査では全員で10名の参加者が登録され、8名が所定のプロトコルを完了し、2名については本調査に関する腰椎穿刺後の頭痛が原因で調査を完了前に中止している(表1を参照)。調査を完了した8名のうち、2名は6時間の標識ロイシン点滴を受けており、彼ら2参加者体内の標識Aβの濃度は、正確に測定するには低すぎたので解析には用いていない。従って、残る6名の調査からの結果を下記に報告する。
【0071】
標識ロイシンの定量
血漿及びCSFのサンプルは、解析されて各液体に存在する標識ロイシンの量が測定された(図9)。血漿及びCSF13C6‐ロイシンについての非標識ロイシンに対する標識ロイシンの比率は、LC-ESI-MSよりも低質量のアミノ酸解析に適した、キャピラリーガスクロマトグラフィー‐質量分析計(CG-MS)を用いて定量された(Yarasheski et al. 2005, Am J Physiol. Endocrinol. Metab. 288: E278-284; Yarasheski et al. 1998 Am J Physiol. 275:E577-583)。血漿及びCSFの両方において、13C6‐ロイシンは1時間以内にそれぞれ14%及び10%の定常状態の濃度に達した。これにより、ロイシンは、既知の中性アミノ酸輸送系により、迅速に血液脳関門を横断して輸送されることが確認された(Smith et al. 1987 J Neurochem. 49(5): 1651-1658)。
【0072】
標識Aβの動態
1時間毎に採取されたCSFサンプルについて、上記の通り、免疫沈降‐MS/MSにより非標識Aβに対する標識Aβの比率が測定された。13C‐標識Aβ17‐28からのMS/MSイオンを非標識Aβ17‐28からのMS/MSイオンで割って、非標識Aβに対する標識Aβの比率を示した(上記TTRの式を参照)。各時点における標識Aβの比率の平均値及び標準誤差(n = 6)が図10に示されている。最初の4時間、測定可能な標識Aβはなかったが、これに続いて5時間目から13時間目にかけて増大した。13時間目から24時間目にかけて有意な変化はなかった。標識Aβは24時間目から36時間目にかけて減少した。
【0073】
FSR及びFCRの計算
分画合成速度(FSR)は、下記に表す標準式を用いて計算された:
【数2】
(Et2-Et1)Aβ/(t2-t1)は、標識期間中の標識されたAβの勾配として定義され、前駆体Eは標識ロイシンの比率である。FSRは、パーセント毎時として、点滴時のCSF13C6‐標識ロイシン濃度の平均値で割算された6時間目から15時間目における線形回帰の勾配として演算上定義された(図11A‐Cを参照)。例えば、7.6%毎時のFSRとは、1時間毎に全Aβの7.6%が産生されていたことを意味する。
【0074】
分画クリアランス速度(FCR)は、標識Aβ曲線のクリアランス部分における自然対数の勾配を、下記の式に従って適合させて計算された:
【数3】
FCRは、24〜36時間目における標識Aβの自然対数として演算上定義された(図11D‐F)。例えば、8.3%毎時のFCRは、1時間毎に全Aβの8.3%が除去されたことを意味する。上記健康で若い参加者6名では、AβのFSR平均値は7.6%/hrであり、FCRの平均値は8.3%/hrであった(図12)。これらの値について、各数値間で統計的な差異はみられなかった。
【0075】
実施例3. 血漿中の標識Aβの割合を測定する方法
原理
血漿Aβの代謝については、恐らくCSFと比べて別の区画で異なる代謝速度で起こっている。ADのマウスモデルでは、血漿中で抗体により捕らえられるAβの量は、ADによる病状を定義づける特徴でありうる。従って、血漿中のAβの代謝速度は、ADの病理を定義づける特徴でありうる。更に、血漿Aβの代謝は、CSFと比較しても同等に効果的なヒトのAβ代謝の測定方法でありうる。仮に、痴呆を診断又は予測するものであることが証明されれば、ADの前臨床又は臨床的な診断試験法としてより高い可能性を有するであろう。
【0076】
実験計画
先の実施例でCSFについて行なわれたように、血漿中の標識及び非標識Aβを測定する方法が開発され得る。CSFとの比較において、血漿からAβを採取するには以下の2つの主な相違点がある:1)血漿には100分の1未満のAβしか存在せず、2)非Aβタンパク質の濃度が約200倍高い。免疫沈降の効率性及び特異性については、当業者に公知の方法を用いて最適化される必要があろう。免疫沈降については、リニアトラップクアドラポール(LTQ)質量分析計を用いた解析により夾雑タンパク質の数及び比較量を同定することで検査可能である。LC-ESIに対し、LTQは200倍までの感度の向上を示す。予備的結果から、1mlのヒトCSFからのAβ断片の50倍希釈において、良好なS/N比を有することが示された。
【0077】
前記最適化された方法の試験は、5‐10mlの血漿を用いて行なうことが可能である。標識及び非標識Aβを免疫沈降し、トリプシンで消化し、質量分析計で解析することが可能である。被験者からの標識された血漿サンプルを用いて血漿標識の検量線を検出し作出することが可能である。最もよく標識されたサンプルを用いて段階希釈により5つのサンプルを作り出すことが可能である。標識Aβは、親イオン及びタンデム質量分析イオンにおいてLTQにより定量可能であり、該結果により検量線を作り出すことが可能である。該検量線から、線形性及びばらつきについても直線適合モデルにより決定することができる。この検量線は、ヒトCSFのAβの標識から作り出された検量線と比較可能である。標識された血漿Aβの検量線を、コントロール対AD個体からの標識CSFの検量線と比較して、血漿のAβ濃度がADを検出又は予想できるかどうかを決定することも可能である。
【0078】
結果
CSFのデータと同様に(実施例1及び2参照)、ヒト血漿からの標識及び非標識Aβを再現性のある定量的測定を提供可能な技術が開発できることが期待されている。前記検量線については、直線に近く、ばらつきが少ないことが期待される。ヒトのインビボ調査から得た血漿の標識Aβの検量線は、CNS/CSFの標識Aβの検量線を正確に反映することが期待される。参加者からの血漿AβのFSR及びFCRを得ることも可能である。血漿へのAβの点滴後における動物モデルで示されているように、血漿中のAβのクリアランス速度は、CSFの場合よりも十分に速くなるであろうことが予想される。
【0079】
その他の方法
標識及び非標識血漿Aβが上に詳細に述べるように正確に測定できない場合、時点数は少なくかつ各時点におけるサンプルは多くして、用いることが出来る(1時間毎に10mlに対して2時間毎に20ml)。これにより測定の時間的分解能は低減するが、しかし、それでもFSR及びFCRを得るには十分であろう。もし、血漿に関してタンパク質のコンタミネーションが依然問題となるのであれば、HPLC、タンパク質二次元電気泳動、又は当業者にとって馴染みのあるよりストリンジェントな洗浄工程による精製が必要であろう。
【0080】
前記LTQは市販されるもののうち、最も高感度な質量分析計であり、アトモル量に基づく測定を作り出す最高の条件を提供する。現時点において、この質量分析計よりも優れた代替物は存在しない;しかしながら、技術の進歩に伴い、質量分析計の感度も常に向上している。当業者であれば、質量分析におけるこのような改良を用いることは、本発明の範囲および精神の範囲内にあることを理解するであろう。
【0081】
実施例4. CSFのAβ代謝に対するApoE遺伝子型による影響の決定
原理
ApoE遺伝子型は、ADについて十分な実証を得た遺伝子の危険因子である。ADにおいては、ApoEが、細胞外アミロイド沈着と共局在していることが免疫組織学により明らかとなった。更に、ヒトの個体群においては、ApoE ε4遺伝子型がADの危険因子であることが分かった。ApoE ε2対立遺伝子は、ADのリスクの面で保護的であることが示されている。また、ApoE遺伝子型は、いくつかのADマウスモデルにおいて、ADの病態変化に劇的に影響することが示されている(Games et al. 1995 Nature 373(6514): 523-527)。
【0082】
ApoEε4は、AD及び脳のアミロイドアンギオパチー(CAA)においてAβ沈着の密度を容量依存的に上昇させる。ApoEは、CSF、血漿並びに正常及びADの脳内の可溶性Aβと関連している。恐らく、ApoE4は、他の種々の経路に関わっていると示されていはいるものの、Aβ代謝の共通する機構を通じてAD及びCAAと関連しているものと思われる。
【0083】
ADのマウスモデルでは、ApoEアイソフォームが、その容量及び対立遺伝子に依存してAβ沈着の発症時期及びAβ沈着の分布を変化させることが示されている(Holtzman et al., 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. 97: 2892-2897; DeMattos et al. 2004, Neuron 41(2): 193-202)。ヒトApoE3については、容量依存的にAβ沈着の減少を生じさせることが示されている。更に、クリアランスの研究では、CNSから血漿へのAβ輸送は、30分未満のt1/2を有し、この値はApoE無しでは減少することが示された。以上を総合すると、ApoEがCNSのAβに対してAβの結合及びクリアランス作用を有することが示唆される。
【0084】
実験計画及び解析
各参加者についてApoE遺伝子型を決定可能である。遠心分離された血漿からのバフィコート(白血球層)は、当業者にとって公知の標準的な手法を用いて回収し、迅速に−80℃で凍結可能である。サンプルのApoE遺伝子型は、PCR解析により決定される(Talbot et al. 1994, Lancet 343(8910): 1432-1433)。ApoE2の遺伝子量(0、1、又は2コピー)及びApoE4の遺伝子量(0、1、又は2コピー)による影響は、CSF又は血漿におけるAβ代謝のFSR又はFCRの連続変数を用いて解析することが可能である。
【0085】
統計解析の方法は、当業者に公知の標準的手法により作製できる。例えば、AβのFSR及びFCRについては、対照群及びAD群においてヒトのApoEアイソフォーム及び年齢を因数として、二元配置又は三元配置分散分析を行なうことができる。データが正規分布していない場合には、変換を用いてガウス分布についての必要な統計的仮説に適合させることが可能である。
【0086】
結果
ApoE3との比較において、ApoE4はAβのクリアランスを減少できることが予想される。反対に、ApoE2は、ApoE3と比較して、Aβのクリアランスを増大させることが予想される。ApoE遺伝子型に基くAβの合成速度の変化は予想されない。Aβ代謝の変化が検出された場合には、ヒトのインビボでのAβ代謝に対するApoE状態による影響の証拠となるであろう。
【0087】
実施例5. ヒト血漿AβFSR及びFCR代謝に対するApoE遺伝子型の比較
原理
ADのマウスモデルで示されたように、CNSから血漿へのAβの輸送は、ApoE遺伝子型により影響を受けうる。ヒトにおけるこの影響の測定は、ApoEによる輸送の変化を明らかにするであろう。
【0088】
インビボ動物データは、血漿対CSF対脳の間でAβのクリアランス速度が異なっていることを示した。これらの違いの原因及び相関性はよく理解されていない。恐らく、ApoE遺伝子型の発現は、AβのCNSからCSF及び血漿への輸送及びクリアランスにおいて重要な役割を持つのであろう。CNSにおいては、ApoEは主として星状細胞により産生され、シアル酸が付加されており、血漿Aβと比較すると構造が異なっている。ApoE遺伝子型の関数としてのこれら区画間の相関性をよりよく理解するために、実施例3の手法を用いて血漿中のAβの代謝を測定することが可能である。
【0089】
実験計画及び解析
各参加者についてApoE遺伝子型を決定可能である。遠心分離された血漿からのバフィコート(白血球層)は、当業者にとって公知の標準的な手法を用いて回収し、迅速に−80℃にて凍結可能である。サンプルは、実施例4で用いられた手法を用いて解析可能である。ApoE2の遺伝子量(0、1、又は2コピー)及びApoE4の遺伝子量(0、1、又は2コピー)による影響は、血漿Aβ代謝のFSR又はFCRの連続変数に対して解析することが可能である。統計解析の方法は、上記実施例4に記載されるように当業者に公知の標準的手法により作製できる。
【0090】
結果
ApoE4は、ApoE3と比較して、血漿Aβのクリアランスを減少でき、ApoE2は、ApoE3と比較して、血漿からのAβのクリアランスを増大させることが予想される。ApoE遺伝子型に基くAβの合成速度の変化が観察されるとは予想されない。しかしながら、血漿Aβ代謝の変化が検出された場合には、ヒト中のAβ代謝に対するApoE状態による影響の最初の評価となるであろう。
【0091】
その他の方法
Aβ代謝についての血漿、CSF及びCNS区画の相関性はよく理解されていない。各区画におけるAβの割合についてはADの有無に依存した変化がある。このことは、これらの区画の間で、Aβ代謝障害が異なる影響を及ぼすことを示している。周辺の血漿Aβ代謝をCSFのAβ代謝と比較した関係は、単なるApoE遺伝子型の依存性よりも複雑なものであろう。恐らく、ADの状態だけではなく、他の要因も上記関係に作用して影響するであろう。従って、Aβ代謝の変化の明確なパターンは、ApoE遺伝子型に依存しない可能性もある。
【0092】
本明細書に開示及びクレームされる組成物及び方法は全て、本開示内容に照らして過度の実験無しに作製し、実行することが可能である。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施態様で記載されてはいるが、本明細書に記載される組成物及び方法及び該方法の工程又は一連の工程に、本発明の概念、精神及び範囲を逸脱することなく変更が適用可能なことは当業者にとって明らかである。より具体的には、化学的及び生理学的に関連した薬剤によって本明細書に記載する薬剤を置き換えることが可能であり、その場合でも、同一又は類似した結果が得られるであろうことが明らかであろう。当業者にとって明らかな、このような類似する代替物及び変更の全ては、請求項に定義される本発明の趣旨、精神及び概念の範疇にあるものとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1には、細胞内でのアミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイド‐β(Aβ)へのプロセシングの図式例が描かれている。標識可能な部位であるロイシン(L)は、黒色で示されている。Aβのアミノ酸配列が、質量分析法により解析された断片を表すために示されたトリプシン消化部位と共に図の底部に示されている。
【図2】図2には、アミロイド‐βペプチドの分離を表す質量分析プロットが描かれている。Aβペプチドは、中央ドメインの抗Aβ抗体、m266を用いてヒト脳脊髄液から免疫沈降され、該溶出されたAβは質量分析された。質量スペクトルのピークは、以下の対応するペプチド変異体で標識される;Aβ38、Aβ39、Aβ40、及びAβ42。
【図3A】図3は、13C‐標識Aβ17‐28断片の分子量のシフトを示す質量分析のプロットを表す。図3Aでは、インビトロでAβを生産するヒト神経膠腫細胞の細胞株からの非標識培地が回収され、免疫沈降されている。その後、アミロイド‐βペプチドはトリプシンにより第5、16及び28番目の部位(図1を参照)で切断され、質量1325及び1336に示される2種類の断片範囲が生じた。Aβ断片の2つの質量範囲であるAβ17‐28(1325)及びAβ6‐16(1336)は、非標識Aβにおける天然同位体の統計的分布を示していることに注意すべきである。また、標識のシグナルがみられるはずの質量1331にシグナルが存在しないことにも注意すべきである。
【図3B】図3は、13C‐標識Aβ17‐28断片の分子量のシフトを示す質量分析のプロットを表す。図3Bでは、13C6‐ロイシン存在下で24時間培養したヒト神経膠腫細胞からの培地が回収され、Aβは免疫沈降され、トリプシンにより切断されて1325、1331及び1336の質量に示される断片範囲を生じた。13C6‐ロイシン標識(Aβ*17‐28)を示す1325から1331へのAβ17‐28の質量のシフト(矢印)に注目すべきである。Aβ6‐16はロイシンを含んでおらず、従って標識もされず質量シフトも無い。微量のAβ17‐28が標識されないままであった。
【図4】図4には、インビトロでのAβの標識の検量線を示すグラフが描かれている。標識された培養用培地のサンプルは段階希釈され、測定技術の線形性及びばらつきを検定する検量線が作られた。Aβは、該培地から沈降され、トリプシン消化され、該断片は液体クロマトグラフィーエレクトロスプレー注入(LC-ESI)質量分析計により分析され、タンデム質量分析イオンは特注のソフトウェアにより定量化された。該ソフトウェアは、標識タンデムイオン及び非標識タンデムイオンの両方を合計し、総Aβに対する標識Aβの比率を計算した。予想される値に対する標識Aβの割合は線形回帰曲線として示されている。少ないばらつきに加え、良好な直線適合性に注目すべきである。
【図5】図5には、インビボ標識のプロトコルを示す図が描かれている。図に示されるものは、いずれかの肘正中静脈内に静脈内カテーテルが付けられ、L3-4のクモ膜下腔間内に腰椎カテーテルが付けられた参加者の図解である。一のIVを通して13C6‐標識ロイシンが、最初の2 mg/kgのボーラス(一括投与)の後に、1.8〜2.5 mg/kg/hrで9〜12時間点滴された。他方のIVを通して12mlの血漿が最初の16時間では1時間毎に採取され、その後は記載されるように2時間毎に採取された。前記腰椎カテーテルを通じて6mlのCSFが1時間毎に採取された。各サンプルは、Aβの免疫沈降、トリプシン消化、及び各時点の標識Aβの割合を測定するLC-ESI-MSにより処理された。
【図6A】図6には、標識及び非標識アミロイド‐βのMS/MSイオンを示す質量分析計のプロットが描かれている。13C6‐ロイシンの静脈内点滴の後、ヒトCSFが採取された。非標識(a)及び標識(b) Aβ17‐28(LVFFAEDVGSNK)の代表的なスペクトルを示す。該スペクトルは、m/z666.3における非標識親イオンAβ17‐28又はm/z666.3における標識親イオンAβ17‐28のMS/MS解析を用いて得られた。13C‐ロイシン(Aβ17)を含んだMS/MSイオンは、標識ロイシンを示す6ダルトン分の質量シフトが生じたことに注意すべきである。第17番目の位置にロイシンを持たないAβイオンについては、標識されず、6ダルトン分の質量シフトも生じていない。
【図6B】図6には、標識及び非標識アミロイド‐βのMS/MSイオンを示す質量分析計のプロットが描かれている。13C6‐ロイシンの静脈内点滴の後、ヒトCSFが採取された。非標識(a)及び標識(b) Aβ17‐28(LVFFAEDVGSNK)の代表的なスペクトルを示す。該スペクトルは、m/z666.3における非標識親イオンAβ17‐28又はm/z666.3における標識親イオンAβ17‐28のMS/MS解析を用いて得られた。13C‐ロイシン(Aβ17)を含んだMS/MSイオンは、標識ロイシンを示す6ダルトン分の質量シフトが生じたことに注意すべきである。第17番目の位置にロイシンを持たないAβイオンについては、標識されず、6ダルトン分の質量シフトも生じていない。
【図7】図7には、インビボでのAβの標識の検量線を示すグラフが描かれている。標識されたヒトCSFのサンプルは、非標識ヒトCSFで段階希釈され、ヒトCSF中のインビボ標識されたAβの測定技術の正確さ及び精度を定量する検量線が作られた。該Aβは、CSFから沈降され、トリプシン消化され、該Aβ断片はLC-ESI質量分析計で分析され、タンデム質量分析イオンは特注のソフトウェアを用いて定量された。該ソフトウェアは標識及び非標識タンデムイオンの両方を合計し、総Aβに対する標識Aβの比率を計算した。測定値に対する予想される標識Aβの割合は線形回帰曲線として示されている。良好な直線適合性に注目すべきである。
【図8】図8には、3名の参加者のAβ代謝曲線を示すグラフが描かれている。各参加者は標識ロイシン点滴を時刻ゼロから開始し、9時間目(正方形)又は12時間目(三角形及び円形)まで継続した。1時間毎に腰椎カテーテルを通じてCSFのサンプルが採取された。Aβは免疫沈降され、トリプシン消化された。上述のようにLC-ESI質量分析計で標識及び非標識タンデム質量分析イオンを測定することで標識Aβの割合が求められた。
【図9】図9には、36時間の調査での参加者からのCSF及び血液中の標識ロイシンの比率を示すグラフが描かれている。該CSF及び血漿の標識ロイシン濃度は、最初の2 mg/kgのボーラスから1時間以内にほぼ定常状態に達した。血流への標識ロイシンの点滴を9時間目に止めた後に、標識ロイシン濃度の指数関数的な減衰が生じた。点滴の間、標識ロイシンの血漿濃度は、CSFの標識ロイシン濃度よりも約4%高かった。
【図10】図10には、6名の参加者からの36時間に亘るCSF中の非標識Aβに対する標識Aβの比率の平均値を示すグラフが描かれている。非標識Aβに対する標識Aβの代謝曲線は、平均化され、各時点における平均値は+/-標準誤差で表されている。各参加者は、9又は12時間標識され、0時間目から12、24、又は36時間目まで1時間毎にサンプリングされた。最初の4時間では標識の取り込み量は検出できず、その後、標識Aβの割合の増大が起こり、本調査の終盤12時間で減少する前に、標識ロイシン濃度の定常状態に近いプラトー(〜10%)に達した。
【図11A】図11には、9時間の標識点滴及び36時間のサンプリングを行なった3名の参加者からのAβ代謝曲線を示すグラフが描かれている。図11Aには、増加する標識Aβ値を予想される定常状態の値で割った勾配から計算された分画合成速度(FSR)の計算値が描かれている。該予想定常状態の値は、標識中に測定されたCSF標識ロイシンの平均値であるものと評価された。前記勾配は、標識Aβの増加のない4時間の遅延時間の後に開始し、その9時間後に終了することが定義された(べた塗りの菱形)。
【図11B】図11には、9時間の標識点滴及び36時間のサンプリングを行なった3名の参加者からのAβ代謝曲線を示すグラフが描かれている。図11Bには、増加する標識Aβ値を予想される定常状態の値で割った勾配から計算された分画合成速度(FSR)の計算値が描かれている。該予想定常状態の値は、標識中に測定されたCSF標識ロイシンの平均値であるものと評価された。前記勾配は、標識Aβの増加のない4時間の遅延時間の後に開始し、その9時間後に終了することが定義された(べた塗りの菱形)。
【図11C】図11には、9時間の標識点滴及び36時間のサンプリングを行なった3名の参加者からのAβ代謝曲線を示すグラフが描かれている。図11Cには、増加する標識Aβ値を予想される定常状態の値で割った勾配から計算された分画合成速度(FSR)の計算値が描かれている。該予想定常状態の値は、標識中に測定されたCSF標識ロイシンの平均値であるものと評価された。前記勾配は、標識Aβの増加のない4時間の遅延時間の後に開始し、その9時間後に終了することが定義された(べた塗りの菱形)。
【図11D】図11Dは、24時間目から36時間目にかけての標識Aβの割合の自然対数の勾配から計算された、分画クリアランス速度(FCR)の計算値を示す(べた塗りの菱形)。
【図11E】図11Eは、24時間目から36時間目にかけての標識Aβの割合の自然対数の勾配から計算された、分画クリアランス速度(FCR)の計算値を示す(べた塗りの菱形)。
【図11F】図11Fは、24時間目から36時間目にかけての標識Aβの割合の自然対数の勾配から計算された、分画クリアランス速度(FCR)の計算値を示す(べた塗りの菱形)。
【図12】図12には、FSR及びFCRの平均値を示すグラフが描かれている。6名の参加者のAβのFSRの平均値及び3名の参加者のAβのFCRの平均値が、標準偏差と共に示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経系で合成される生体分子の被検者のインビボでの代謝の測定方法であって、該測定方法が、
(a)被検者の中枢神経系で生体分子が合成されるに伴い該生体分子に取り込まれることが可能であり血液脳関門を横断可能な標識部分を前記被検者に投与すること;
(b)前記部分により標識された生体分子画分と、該部分により標識されていない生体分子画分とを含む生物学的サンプルを前記被検者から採取すること;及び
(c)標識された生体分子量及び標識されていない生体分子量を検出することであって、標識されていない生体分子に対する標識された生体分子の比率が、前記被検者の前記生体分子の代謝に正比例していること、
を含む前記測定方法。
【請求項2】
前記生体分子が、タンパク質、脂質、核酸及び炭水化物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標識部分が、原子、又は標識された原子を有する分子である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記原子が、放射性同位体である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記原子が、非放射性同位体である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記非放射性同位体が、2H、13C、15N、17O、18O 33S、34S、及び36Sからなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記標識部分が、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、又は経口投与により前記被験者に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生物学的サンプルが、脳脊髄液、血液、尿、唾液、及び涙からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生物学的サンプルから前記標識された生体分子画分及び前記標識されていない生体分子画分を分離することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
標識された生体分子量及び標識されていない生体分子量が質量分析により検出される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被験者が哺乳動物である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物がヒトである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
中枢神経系で合成されるタンパク質の被検者のインビボでの代謝の測定方法であって、該測定方法が、
(a) 被検者の中枢神経系でタンパク質が合成されるに伴い該タンパク質に取り込まれることが可能であり血液脳関門を横断可能な標識部分を前記被検者に投与すること;
(b) 前記部分により標識されたタンパク質画分と、該部分により標識されていないタンパク質画分とを含む生物学的サンプルを前記被検者から採取すること;及び
(c) 標識されたタンパク質量及び標識されていないタンパク質量を検出することであって、標識されていないタンパク質に対する標識されたタンパク質の比率が、前記被検者の前記タンパク質の代謝に正比例していること、
を含む前記測定方法。
【請求項14】
前記合成されたタンパク質が、神経細胞、グリア細胞、又は中枢神経系のその他の細胞に由来する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質が、アミロイド-β、アポリポ蛋白E、アポリポ蛋白J、シヌクレイン、可溶性アミロイド前駆体タンパク質、タウ、α-2マクログロブリン、S100B、ミエリン塩基性タンパク質、インターロイキン、及びTNFからなる群から選択される請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記標識部分が、原子、又は標識された原子を有する分子である請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記原子が、放射性同位体である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記原子が、非放射性同位体である請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記非放射性同位体が、2H、13C、15N、17O、18O、 33S、34S、及び36Sからなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記非放射性同位体が、アミノ酸の構成要素であるか又はアミノ酸に付着している請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アミノ酸がロイシンであり、前記非放射性同位体が13Cであり、かつ前記タンパク質がアミロイド‐βである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記標識部分が、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、又は経口投与により前記被験者に投与される請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記生物学的サンプルが、脳脊髄液、血液、尿、唾液、及び涙からなる群から選択される請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記生物学的サンプルから前記標識されたタンパク質画分及び前記標識されていないタンパク質画分を分離することを更に含む請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記タンパク質が免疫沈降により分離される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
標識された生体分子量及び標識されていない生体分子量が質量分析により検出される請求項13に記載の方法。
【請求項27】
前記被験者が哺乳動物である請求項13に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物がヒトである請求項27に記載の方法。
【請求項29】
被験者の神経性又は神経変性疾患の診断又は経過観察又は治療用のキットであって、
(a) 標識されたアミノ酸;
(b) 前記標識されたアミノ酸を該被検者に投与する手段であって、これにより前記標識されたアミノ酸は血液脳関門を横断可能であり、前記被検者の中枢神経系でタンパク質が合成されるに伴い該タンパク質に取り込まれることが可能であり、該タンパク質を標識することが可能である、前記手段;
(c) 標識されたタンパク質画分及び標識されていないタンパク質画分を含む生物学的サンプルを、前記被験者から定期的な間隔で採取する手段;及び
(d) 代謝指数が計算できるように標識されていないタンパク質に対する標識されたタンパク質の比率を経時的に検出し測定するための指示であって、該代謝指数は正常で健康な個体の代謝指数と比較又は同一の被験者から先の時点で得られた代謝指数と比較され得る、前記指示、
を含む前記キット。
【請求項30】
前記神経性又は神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、前頭側頭型痴呆(FTDs)、ハンチントン病、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、老化関連疾患及び痴呆、多発性硬化症、プリオン病、レビー小体病、及び筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記合成されたタンパク質が、神経細胞、グリア細胞、又は中枢神経系のその他の細胞に由来する請求項29に記載のキット。
【請求項32】
前記タンパク質が、アミロイド-β、アポリポ蛋白E、アポリポ蛋白J、シヌクレイン、可溶性アミロイド前駆体タンパク質、タウ、α-2マクログロブリン、S100B、ミエリン塩基性タンパク質、インターロイキン、及びTNFからなる群から選択される請求項29に記載のキット。
【請求項33】
前記標識されたアミノ酸が、放射性原子又は非放射性原子を有する請求項29に記載のキット。
【請求項34】
前記非放射性原子が、2H、13C、15N、17O、18O、 33S、34S、及び36Sからなる群から選択される請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記アミノ酸がロイシンであり、前記非放射性原子が13Cであり、かつ前記タンパク質がアミロイド‐βである請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記標識されたアミノ酸が、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、又は経口投与により前記被験者に投与される請求項29に記載のキット。
【請求項37】
前記生物学的サンプルが、脳脊髄液、血液、尿、唾液、及び涙からなる群から選択される請求項29に記載のキット。
【請求項38】
標識されていないタンパク質に対する標識されたタンパク質の比率が、質量分析により検出された標識されたタンパク質及び標識されていないタンパク質の量から求められる請求項29に記載のキット。
【請求項39】
前記代謝指数が、分画合成速度(FSR)及び分画クリアランス速度(FCR)を含む請求項29に記載のキット。
【請求項40】
前記被験者が哺乳動物である請求項29に記載のキット。
【請求項41】
前記哺乳動物がヒトである請求項40に記載のキット。
【請求項1】
中枢神経系で合成される生体分子の被検者のインビボでの代謝の測定方法であって、該測定方法が、
(a)被検者の中枢神経系で生体分子が合成されるに伴い該生体分子に取り込まれることが可能であり血液脳関門を横断可能な標識部分を前記被検者に投与すること;
(b)前記部分により標識された生体分子画分と、該部分により標識されていない生体分子画分とを含む生物学的サンプルを前記被検者から採取すること;及び
(c)標識された生体分子量及び標識されていない生体分子量を検出することであって、標識されていない生体分子に対する標識された生体分子の比率が、前記被検者の前記生体分子の代謝に正比例していること、
を含む前記測定方法。
【請求項2】
前記生体分子が、タンパク質、脂質、核酸及び炭水化物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標識部分が、原子、又は標識された原子を有する分子である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記原子が、放射性同位体である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記原子が、非放射性同位体である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記非放射性同位体が、2H、13C、15N、17O、18O 33S、34S、及び36Sからなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記標識部分が、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、又は経口投与により前記被験者に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生物学的サンプルが、脳脊髄液、血液、尿、唾液、及び涙からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生物学的サンプルから前記標識された生体分子画分及び前記標識されていない生体分子画分を分離することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
標識された生体分子量及び標識されていない生体分子量が質量分析により検出される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被験者が哺乳動物である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物がヒトである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
中枢神経系で合成されるタンパク質の被検者のインビボでの代謝の測定方法であって、該測定方法が、
(a) 被検者の中枢神経系でタンパク質が合成されるに伴い該タンパク質に取り込まれることが可能であり血液脳関門を横断可能な標識部分を前記被検者に投与すること;
(b) 前記部分により標識されたタンパク質画分と、該部分により標識されていないタンパク質画分とを含む生物学的サンプルを前記被検者から採取すること;及び
(c) 標識されたタンパク質量及び標識されていないタンパク質量を検出することであって、標識されていないタンパク質に対する標識されたタンパク質の比率が、前記被検者の前記タンパク質の代謝に正比例していること、
を含む前記測定方法。
【請求項14】
前記合成されたタンパク質が、神経細胞、グリア細胞、又は中枢神経系のその他の細胞に由来する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質が、アミロイド-β、アポリポ蛋白E、アポリポ蛋白J、シヌクレイン、可溶性アミロイド前駆体タンパク質、タウ、α-2マクログロブリン、S100B、ミエリン塩基性タンパク質、インターロイキン、及びTNFからなる群から選択される請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記標識部分が、原子、又は標識された原子を有する分子である請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記原子が、放射性同位体である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記原子が、非放射性同位体である請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記非放射性同位体が、2H、13C、15N、17O、18O、 33S、34S、及び36Sからなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記非放射性同位体が、アミノ酸の構成要素であるか又はアミノ酸に付着している請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アミノ酸がロイシンであり、前記非放射性同位体が13Cであり、かつ前記タンパク質がアミロイド‐βである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記標識部分が、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、又は経口投与により前記被験者に投与される請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記生物学的サンプルが、脳脊髄液、血液、尿、唾液、及び涙からなる群から選択される請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記生物学的サンプルから前記標識されたタンパク質画分及び前記標識されていないタンパク質画分を分離することを更に含む請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記タンパク質が免疫沈降により分離される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
標識された生体分子量及び標識されていない生体分子量が質量分析により検出される請求項13に記載の方法。
【請求項27】
前記被験者が哺乳動物である請求項13に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物がヒトである請求項27に記載の方法。
【請求項29】
被験者の神経性又は神経変性疾患の診断又は経過観察又は治療用のキットであって、
(a) 標識されたアミノ酸;
(b) 前記標識されたアミノ酸を該被検者に投与する手段であって、これにより前記標識されたアミノ酸は血液脳関門を横断可能であり、前記被検者の中枢神経系でタンパク質が合成されるに伴い該タンパク質に取り込まれることが可能であり、該タンパク質を標識することが可能である、前記手段;
(c) 標識されたタンパク質画分及び標識されていないタンパク質画分を含む生物学的サンプルを、前記被験者から定期的な間隔で採取する手段;及び
(d) 代謝指数が計算できるように標識されていないタンパク質に対する標識されたタンパク質の比率を経時的に検出し測定するための指示であって、該代謝指数は正常で健康な個体の代謝指数と比較又は同一の被験者から先の時点で得られた代謝指数と比較され得る、前記指示、
を含む前記キット。
【請求項30】
前記神経性又は神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、前頭側頭型痴呆(FTDs)、ハンチントン病、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、老化関連疾患及び痴呆、多発性硬化症、プリオン病、レビー小体病、及び筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記合成されたタンパク質が、神経細胞、グリア細胞、又は中枢神経系のその他の細胞に由来する請求項29に記載のキット。
【請求項32】
前記タンパク質が、アミロイド-β、アポリポ蛋白E、アポリポ蛋白J、シヌクレイン、可溶性アミロイド前駆体タンパク質、タウ、α-2マクログロブリン、S100B、ミエリン塩基性タンパク質、インターロイキン、及びTNFからなる群から選択される請求項29に記載のキット。
【請求項33】
前記標識されたアミノ酸が、放射性原子又は非放射性原子を有する請求項29に記載のキット。
【請求項34】
前記非放射性原子が、2H、13C、15N、17O、18O、 33S、34S、及び36Sからなる群から選択される請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記アミノ酸がロイシンであり、前記非放射性原子が13Cであり、かつ前記タンパク質がアミロイド‐βである請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記標識されたアミノ酸が、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、又は経口投与により前記被験者に投与される請求項29に記載のキット。
【請求項37】
前記生物学的サンプルが、脳脊髄液、血液、尿、唾液、及び涙からなる群から選択される請求項29に記載のキット。
【請求項38】
標識されていないタンパク質に対する標識されたタンパク質の比率が、質量分析により検出された標識されたタンパク質及び標識されていないタンパク質の量から求められる請求項29に記載のキット。
【請求項39】
前記代謝指数が、分画合成速度(FSR)及び分画クリアランス速度(FCR)を含む請求項29に記載のキット。
【請求項40】
前記被験者が哺乳動物である請求項29に記載のキット。
【請求項41】
前記哺乳動物がヒトである請求項40に記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図12】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図12】
【公表番号】特表2008−538811(P2008−538811A)
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−505406(P2008−505406)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【国際出願番号】PCT/US2006/012200
【国際公開番号】WO2006/107814
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(507334358)ワシントン ユニバーシティ イン セント ルイス (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【国際出願番号】PCT/US2006/012200
【国際公開番号】WO2006/107814
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(507334358)ワシントン ユニバーシティ イン セント ルイス (2)
【Fターム(参考)】
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