説明

インビボ造血刺激剤としてのTAT−HOXB4H組換えタンパク質の製造方法

【課題】収率を増加させ安定性を増幅するTAT−HOXB4H組換えタンパク質の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)TAT−HOXB4H組換えタンパク質コードを有するキャリアを含む宿主細胞を提供する段階と、(b)前記宿主細胞内に前記タンパク質を発現させる段階と、(c)前記発現したタンパク質の不純溶液を採取する段階と、(d)前記溶液から前記タンパク質を精製する段階と、(e)疎水性化合物を用いて溶離した変性タンパク質を新たに折り畳む段階と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規的でかつ非自明性のC−末端にヒスチジンタグを含むHOXB4組換えタンパク質(TAT−HOXB4H)(C末端に6個のヒスチジン残基(residue)を含む)の製造方法に関する。この製造方法は収率増加および安定性増幅という予期せぬ利点を有し、前記タンパク質(およびTAT−HOXB4H有効成分を含有する医療用組成物)をインビボ(in vivo)投与することができる。
【背景技術】
【0002】
再生医学の発展が目覚しい今日において、器官の特異性幹細胞或いは自己再生(self−renewing)細胞を見つけ出す各種研究が盛んに行われている。前記自己再生細胞のうち最も研究が盛んなものは造血幹細胞であるが、それは癌、新陳代謝疾病から免疫不全に至るまで、造血幹細胞が何れも新しい治療の選択肢であることによる。
【0003】
「造血」とは、血液細胞の生成過程において、骨髄中の造血幹細胞の分裂により赤血球および白血球が置換されることをいう。造血幹細胞(HSCs)は、自己再生能力および全ての血球または免疫細胞に分化する能力を有する細胞である。しかし、造血幹細胞の自己再生および分化を制御する遺伝子メカニズムについては多くがまだ解明されていない。
【0004】
現時点で、ヒト骨髄、動員された末梢血液および臍帯血から移植されるヒト造血幹細胞は、すでに臨床で血液癌(白血病およびリンパ腫)の治療や、血液癌以外の高用量の化学療法から免疫系統の回復をサポートするために用いられている。しかし、有効な移植には大量の出所の異なる造血幹細胞が必要であり、また幹細胞増殖(expansion)を要する場合もある。
【0005】
造血幹細胞は骨髄、末梢血液および臍帯血から採取される。骨髄細胞の採取には手術やかなりの苦痛を伴う過程を要し、歓迎されない手段となっている。末梢血液細胞を使用する場合も、造血機能が損なわれる疾病や化学療法を受けている患者から、適合する十分な量の造血幹細胞を採取することは非常に困難であるという課題が存在する。臍帯血は比較的容易に採取でき、造血幹細胞の質も良いが、この方法で採取できる造血幹細胞の量には限界があり、1回に採取できる細胞の量は小児用には十分であるが、成人用としては足りない可能性がある。潜在する課題を克服するためには、幹細胞の自己再生過程に干渉して造血幹細胞のインビトロ(in vitro)増殖を加速させる必要がある。
【0006】
最近になって、転写調節因子が幹細胞の遺伝子発現の調節、および幹細胞の発育過程で重要な役割を担うことが証明されている(Orkin.S.H. Nat.Rev.Genet 1,57−64,2000)。転写調節因子は、標的遺伝子との結合の有無、或いはその濃度により複雑な細胞生理調節メカニズムを構成する。DNA binding homebox(HOX)と呼ばれる転写因子が、胚胎の発育で重要な役割を担うことがわかっており、また近年にはHOX転写因子ファミリーが、造血幹細胞の発育の上で重要な作用を及ぼすこともわかってきた(Buske.C. et.al. J.Hematol. 71,301−308,2000)。
【0007】
モントリオール大学(University of Montreal)のGuy Sauvageau博士は、骨髄中の造血幹細胞のHOX転写因子が造血幹細胞の再生を制御する現象について模索し、その研究の中で、ホメオボックス遺伝子(homeobox gene)HOXB4が、造血幹細胞の自己再生を制御する上で非常に重要であり、造血幹細胞の骨髄中における群集サイズを維持できることを示した。早期において、HOX遺伝子が血球細胞で発現することは、ヒトとラットの細胞株(cell line)を用いて実証された。
【0008】
HOX遺伝子の中には異なる細胞形態においてはっきりと広範な発現を示すものがあるが、一部のHOX遺伝子は特定の細胞内でのみ活発に発現する。例えば、ヒトのHOXB群中の8個のメンバーは赤血球細胞の発育初期において発現し、一部のHOXB遺伝子はHOXB4およびHOXB7を含み、T細胞およびB細胞でのみ発現する。Sauvageau他は9個のHOXA遺伝子、8個のHOXB遺伝子および4個のHOXC遺伝子が、CD34+骨髄細胞内で発現することを実証し、このうちHOXB2、HOXB9およびHOXA10は、CD34+の細胞族群における赤血球の元細胞の発現が最多であるとした。また実験結果は、CD34-の細胞群中にHOX遺伝子の発現がないことを証明している。
【0009】
こうして「HOXB4」タンパク質は造血幹細胞(HSC)をインビトロ増幅する有効な刺激剤として最も常用されるようになった。近年では、ヒトにおいて「HOXB4」遺伝子がウイルスまたは組換えタンパク質の形で造血幹細胞を効果的に増殖できることが実証されている。TAT−HOXB4H組換えタンパク質は、実験室レベルで幹細胞増殖用として、逆転写されたウイルスの挿入リスクや骨髄基質細胞と共培養するリスクのないものとして用いられている(Krosl.J. et al. Nature Medicine 9, 1428−1432,2003参照)。このように「HOXB4」タンパク質は造血幹細胞のインビトロ増殖を促す刺激剤として常用される。
【0010】
最近では、HOXB4のN末端にTATタンパク質配列が加わると、外部由来のHOXB4が細胞内に送り込まれることが実証されている。このTAT配列は、細胞外部から細胞内部へのHOXB4の送り込みを導くことができる。細胞質に一旦進入すると、HOXB4はシャペロンタンパク質(Chaperon)HSP90の助けを借りて再び折り畳まれて原始構造になる。TAT−HOXB4は造血幹細胞の増殖を2〜6倍に促進できる(Amsellem.S他,Nature Medicine 9,1423−1427,2003、およびKrosl.J.他,Nature Medicine9,1428−1432,2003)。しかし、このTAT−HOXB4組換えタンパク質は大腸菌宿主からの精製回收率が低い。
【0011】
当該TAT−HOXB4組換えタンパク質の収率を向上させるため、C−末端に別途6個のヒスチジン残基(His−6)タグを付加したTAT−HOXB4H組換えタンパク質の製造方法が開発され、その収率は元のタンパク質の精製率よりも3〜5倍高くなった。この製造方法はPCT/CN2006/000646に詳述されている。
【0012】
前記TAT−HOXB4H組換えタンパク質は、ヒトの末梢血液または臍帯血の幹細胞増殖に用いることができ、増殖された幹細胞はその多能性(pluripotency)を維持している。また、前記TAT−HOXB4H組換えタンパク質で処理した幹細胞を、インシュリン依存型糖尿病に重症複合免疫不全症を合併したマウス(NOD/SCID)の骨髄内に注入すると、その末梢白血球中にヒト白血球が発見されることから、マウスの免疫および造血機能が再生されたことがわかる。
【0013】
しかし、TAT−HOXB4H組換えタンパク質は、インビボ造血の刺激剤として使用されたことがなく、特に、造血機能の再構築、増幅、骨髄再生(re−population)および末梢循環幹細胞数の増幅に用いられたことがなく、とりわけ化学療法や放射線治療後において用いられたことがない。Krosl他(2003)およびAmsellem他(2003)は、造血幹細胞を増幅させる臨床研究所が所望する大量で高純度、かつ高度に安定したHOXB4タンパク質を得ることができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、新規的でかつ非自明性の、収率を増加させ安定性を増幅するTAT−HOXB4H組換えタンパク質の製造方法を提供することにある。
本発明は、TAT−HOXB4H組換えタンパク質を必要とする使用者に投与した場合、骨髄内および末梢血液内の造血幹細胞の数が増加するという研究結果に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、TAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法に関し、以下の(a)から(e)工程を含む。まず、(a)前記タンパク質コードを有するキャリアを含む宿主細胞を提供する。次に、(b)前記宿主細胞内に前記タンパク質を発現させる。次に、(c)前記発現したタンパク質の不純溶液を採取する。次に、(d)下記(i)から(vi)に示す手順で前記溶液から前記タンパク質を精製する、(i)前記溶液をHisTrapカラムに通入する、(ii)前記HisTrapカラムを洗浄する、(iii)前記一部が精製されたタンパク質を前記HisTrapカラムから溶離させ、一部が精製されたタンパク質溶液を生成する、(iv)前記一部が精製されたタンパク質溶液をMonoSPカラムに通入する、(v)前記MonoSPカラムを洗浄する、(vi)精製されたタンパク質を変性形態にて前記MonoSPカラムから溶離する。
【0016】
さらに、(e)疎水性化合物を用いて溶離した変性タンパク質を下記(i)から(iii)に示す手順で新たに折り畳む、(i)前記溶離した変性タンパク質と疏水性化合物溶液を混合させてタンパク質−疏水性化合物溶液を生成する、(ii)前記タンパク質−疏水性化合物溶液を脱塩してタンパク質−疏水性化合物脱塩溶液を得る、(iii)超ろ過工程で前記疏水性化合物を前記タンパク質−疏水性化合物脱塩溶液から除去する。
【0017】
本発明の一態様は、造血幹細胞を骨髄から末梢血液まで動員することを促す方法に関する。この方法は下記a)およびb)の手順を含む、a)必要な使用者に有効量の前記方法で製造したTAT−HOXB4H組換えタンパク質を投与する、およびb)前記TAT−HOXB4H組換えタンパク質が前記使用者の骨髄内の造血幹細胞の絶対数を増幅させることを許容し、これにより造血幹細胞が前記使用者の末梢血液へ動員されることを促す。
【0018】
本発明の一態様は、造血幹細胞の移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法に関する。この方法は下記a)およびb)の手順を含む、a)必要な使用者に有効量の前記方法で製造されたTAT−HOXB4H組換えタンパク質を投与する、およびb)前記TAT−HOXB4H組換えタンパク質が前記使用者の骨髄内の造血幹細胞の絶対数を増幅させることを許容する。
【0019】
本発明の一態様は、必要な使用者の骨髄から末梢血液へ造血幹細胞が動員されることを促す医療用組成物に関する。本発明の医療用組成物は、有効量の前記方法で製造されたTAT−HOXB4H組換えタンパク質を含み、前記使用者の骨髄内の造血幹細胞の絶対数を増幅させ、これにより造血幹細胞が前記使用者の末梢血液へ動員されることを促す。
【0020】
本発明の医療用組成物は、造血幹細胞の自己移植を行う患者に投与でき、造血幹細胞移植後の回復時間を改善するために用いられる。
本発明の医療用組成物は、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の代替物として、G−CSFに反応しない患者に投与でき、造血幹細胞を末梢血液へ動員するために用いられる。
本発明の医療用組成物は、造血幹細胞のドナーに投与でき、ドナーの末梢血液から比較的非侵襲性の方法を用いて十分な量の造血幹細胞を採取して移植することができ、骨髄からの採取が不要になる。
【0021】
本発明の一態様は、先天性の造血幹細胞欠乏が引き起こす疾病の治療に関し、全身的投与にて、前記疾病患者に有効量の前記方法で製造されたTAT−HOXB4H組換えタンパク質またはその医療用組成物を投与する。投与されたTAT−HOXB4H組換えタンパク質は、前記使用者の骨髄内の造血幹細胞の絶対数を増幅させる。
【0022】
本発明のもう一つの一態様は、造血幹細胞移植患者の回復時間を改善する方法に関し、全身的投与にて、必要な使用者に有効量の前記方法で製造されたTAT−HOXB4H組換えタンパク質またはその医療用組成物を投与する。
本発明の更にもう一つの一態様は、放射線治療患者または化学療法患者の造血幹細胞の回復を改善する方法に関し、全身的投与にて、必要な使用者に有効量の前記方法で製造されたTAT−HOXB4H組換えタンパク質またはその医療用組成物を投与する。
【0023】
(効果)
本発明で1Lの培養液を精製して得られるTAT−HOXB4H組換えタンパク質の全体量は約6〜10mgに達するが、従来技術を用いて1Lの培養液を精製して得られるTAT−HOXB4H組換えタンパク質の全体量は約1〜2mgである。従来技術を用いる方法で発現するTAT−HOXB4Hタンパク質のpTAT−HA−HOXB4プラスチドは、カナダのモントリオール大学(University of Montreal)のGuy Sauvageau博士より寄贈を受けたものである。
【0024】
本発明のTAT−HOXB4Hタンパク質の精製方法は、タンパク質のインビボ投与に要する収率の向上を含む。かつてKrosl他(2003)もレポートの中で、血清を4時間培養した後、精製したTAT−HOXB4Hタンパク質が大部分失われたと述べている。本発明のTAT−HOXB4Hタンパク質は、血清を4週間培養した後でも、好ましい安定性がはっきりと示されており、このことがTAT−HOXB4Hタンパク質を臨床研究に用いるためのカギとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(I.TAT−HOXB4Hタンパク質)
本実施形態は新規的でかつ非自明性のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法に関し、収率の増加および安定性の増幅という予期せぬ利点を提供し、前記タンパク質をインビボ投与させる。このTAT−HOXB4Hタンパク質は3個の遺伝子要素(element)(TAT、HOXB4およびヒスチジンタグ)を含む構成体(construct)である。HOXB4は転写調節因子HOXファミリーの一員であり、造血幹細胞の増殖を促すことができる。
【0026】
TATはHOXB4部分を細胞核内に送り込ませる。ヒスチジンタグは組換え発現源の初期精製収率を増加させ、本実施形態の製造方法はタンパク質の収率をさらに向上させる。pTAT−HOXB4Hは図2のように構築され、DNA配列は図3に示した通りである。図3において、pTAT−HOXB4H N−末端およびC−末端の過剰な6個のヒスチジン残基を下線で示しかつTATと記している。
TAT−HOXB4H組換えタンパク質とは、C末端に6個のヒスチジン残基(residue)タグを含む(図4参照)TAT−HOXB4融合タンパク質を指す。
【0027】
特に明記しない限り、タンパク質のアミノ酸配列(即ちその「一次構造」または「一次配列」)は、アミノ基末端からカルボキシル基末端までである。非生物系統(固相合成法等)においては、タンパク質(ジスルフィド(システイン)結合位置を含む)の一次構造は使用者が定めるものとする。
【0028】
「削除(deletion)」とは、アミノ酸(またはヌクレオチド)配列が1個以上のアミノ酸残基(またはヌクレオチド)を欠失したために起こる変化を指す。「挿入(insertion)または増加」とは、アミノ酸(またはヌクレオチド)配列の変化が一分子またはその発現物で起こり、リファレンス配列(自然存在分子に見られる配列等)と比べて、1個以上のアミノ酸残基(またはヌクレオチド)が増加することを指す。「置換」とは、1個以上のアミノ酸(またはヌクレオチド)が異なるアミノ酸(またはヌクレオチド)で置換されることを指す。
【0029】
本実施形態の配列と類似または同質(配列が70%同一等)の配列も、本実施形態の一部を構成する。実施例の幾つかにおいて、配列の同一度(%)は90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上となり得る。さらに実質的に同一なものも、核酸フラグメントがその相補株と交雑する場合(高度に厳格な条件下等)に存在する。核酸は全細胞において、細胞溶解物または半精製や精製された形式で出現する。
【0030】
2配列間の「同質性」または「配列同一性」(ここでは交換使用が可能である)の算出は下記に示した通りである。先ず、配列を比較に最適な方法でアライメントする(例えば第1または第2アミノ酸(または核酸)配列にギャップ(gap)を付加して比較に最適にし、かつ比較時に非同質のフラグメントを除去する)。好ましい実施例では、リファレンス配列をアライメント比較に用いる際の長さは、リファレンス配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、さらに少なくとも70%、80%、90%、100%であることが好ましい。
【0031】
その後、対応位置上のアミノ酸残基(またはヌクレオチド)を比較する。第1配列および第2配列の対応位置が、同一のアミノ酸残基(またはヌクレオチド)である時、即ちこの位置のものは同一である(ここではアミノ酸(または核酸)の「同一」は、アミノ酸(または核酸)の「同質」と同等である)。2配列間の同一度(%)は、2配列間が共有する同一位置の数の関数であり、最適にアライメントするために付加するギャップの数と各ギャップの長さを考慮に入れる必要がある。
【0032】
2配列間の配列比較と同一度(%)は、数学の演算法で達成できる。好ましい実施例において、2つのアミノ酸配列間の同一度(%)は、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.com)GAPプログラムに取り入れられたNeedleman and Wunsch(1970)(J.Mol.Biol.48:444−453)演算法で決定でき、Blossum 62 matrixまたはPAM 250 matrixおよび16、14、12、10、8、6または4のギャップ加重と1、2、3、4、5または6の長さ加重を使用する。
【0033】
別の好ましい実施例において、2つのアミノ酸配列間の同一度(%)は、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.com)で決定でき、NWSgapdna.CMP matrixおよび40、50、60、70または80のギャップ加重と1、2、3、4、5または6の長さ加重を使用する。一組の特に優れたパラメータ群(一分子が本実施形態と同一または同質の配列であるかを決定するのに何れのパラメータを用いてよいかを決められない場合は、このパラメータを使用できる)は、Blossum 62 scoring matrixおよび12のギャップペナルティ(penalty)、4のギャップ延長ペナルティと5のフレームシフト(frame shift)ギャップペナルティを使用している。
【0034】
2つのアミノ酸(またはヌクレオチド)配列間の同一度(%)にも、ALIGNプログラム(Ver.2.0)に取り入れられたE.Meyers and W.Miller((1989)CABIOS,4:11−17)演算法を用いて決定でき、PAM120 weight residue tableおよび12のギャップ長ペナルティと4のギャップペナルティを使用する。
【0035】
II.TAT−HOXB4H組換えタンパク質の製造方法)
A.クローンおよび発現
各種宿主細胞におけるタンパク質のクローンと発現に用いられる系統は、本分野では周知のものである。タンパク質の製造に適用される細胞は、例えばFernandez et al.(1999)Gene Expression Systemsに記載されている。
【0036】
簡単に言えば、適合する宿主細胞には、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞および原核細胞(E.coli等)が含まれる。本分野で異種タンパク質の発現に用いられる哺乳動物細胞には、リンパ細胞株(NSO等)、HEK293 cells、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、COS cells、HeLa cells、ベビーハムスター腎臓細胞、卵母細胞および遺伝子導入動物由来の細胞(乳腺上皮細胞等)が含まれる。
【0037】
適合するキャリアは適切な調節配列を含有して構築され、これにはプロモーター配列、因子終了配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、標識遺伝子および他の配列が含まれる。キャリアはプラスチドまたはウイルスフレームを含んでいてもよい。詳細はSambrook et al.:Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)を参照されたい。キャリアの関連技術の多くは、操作、製造、変異形成、配列解読およびDNAトランスフェクション(transfection)を含んでおり、Current Protocols in Molecular Biology,Second Edition,Ausubel et al.eds.,John Wiley & Sons (1992)に記載がある。
【0038】
本実施形態はさらに、ヌクレオチドを宿主細胞に送り込む方法を提供する。原核細胞に対して、適合するトランスフェクション技術には、リン酸カルシウム、DEAE−Dextran、電気穿孔、リポゾーム仲介トランスフェクションおよび逆転写ウイルスまたは他のウイルス(ワクシニアウイルス(vaccinia)やバキュロウイルス(baculovirus))の利用が含まれる。細菌細胞に対して適合する技術には、塩化カルシウム転化(transformation)、電気穿孔およびリポゾーム仲介トランスフェクションの利用およびバクテリオファージトランスフェクションの利用が含まれる。DNAを送り込んだ後、次いで方法(薬剤耐性等)を選んでヌクレオチドを含む細胞を選択する。
【0039】
B.精製および折り畳み
TAT−HOXB4Hタンパク質は、本分野で既知の適切な手段を用いて組換え宿主細胞から単離することができる。例えばタンパク質が分泌され得るとすれば、細胞上清液から分離できる。或いはタンパク質は細胞溶解物中から分離できる。
【0040】
TAT−HOXB4Hタンパク質は下記のようなクロマトグラフィ法で精製できる。(a)細胞溶解物または細胞上清液(タンパク質が分泌され得る場合)をHisTrapカラムに通入する、(b)緩衝溶液で前記HisTrapカラムを洗浄する、(c)前記一部が精製されたタンパク質を前記HisTrapカラムから溶離する、(d)HisTrapカラムからの一部が精製されたタンパク質をMonoSPカラムに通入する、(e)緩衝溶液で前記MonoSPカラムを洗浄する、(f)精製したタンパク質をMonoSPカラムから溶離する。
【0041】
細胞溶解物または細胞上清液(タンパク質が分泌され得る場合)は、4℃において20,000xgで30分遠心分離して清澄する。上清液を10mMイミダゾールに調節し、HisTrapキレートカラム(Amersham Pharmacia)に加える。8M尿素、20mM HEPES、0.5mM DTT、100mM NaCl、pH8.0緩衝溶液および10mMイミダゾールでカラムを洗浄し、未結合のタンパク質を除去する。一部が精製されたタンパク質は、高濃度のイミダゾールおよび塩で前記HisTrapカラムから溶離できる。
【0042】
さらなる精製は、HisTrapカラムからの一部が精製されたタンパク質をMonoSPカラム(Amersham Pharmacia)に通入する。4M尿素、20mM HEPES、50mM NaCl、pH6.5緩衝溶液でカラムを洗浄し、未結合のタンパク質を除去する。結合したTAT−HOXB4Hは、高濃度の塩を用いて溶離できる。この精製手順で得られたTAT−HOXB4Hタンパク質は変性形態を呈する。
【0043】
次いで、疏水性化合物でHisTrapカラムから溶離した変性形態のTAT−HOXB4Hタンパク質を下記手順で新たに折り畳む。(i)前記溶離した変性タンパク質と疏水性化合物溶液とを混合してタンパク質−疏水性化合物溶液を生成する、(ii)前記タンパク質と疏水性化合物溶液を脱塩してタンパク質−疏水性化合物脱塩溶液を得る、(iii)超ろ過工程により前記疏水性化合物を前記タンパク質−疏水性化合物脱塩溶液から除去する。
【0044】
本実施形態において「疏水性化合物」とは、変性脱塩手順においてタンパク質を保護し不溶性沈殿を発生させないあらゆる疏水性化合物を指す。本実施形態に適用される疏水性化合物は、Oganesyan et al.,Pharmagenomics(2004)71,22−26に記載がある。適合する疏水性化合物には、これに限らないが、Triton X−100、tween−20または多ベンゼン環化合物が含まれる。前記超ろ過工程または緩衝溶液転化は、タンパク質濃縮カラム(centricon tube)またはタンパク質超ろ膜(stir cell)により実施できる。前記超ろ過工程または緩衝溶液転化の条件はタンパク質の種類に応じて定める。
【0045】
本発明の一実施例において、HOXB4Hタンパク質を含む脱塩溶液中の疏水性化合物は、5〜10回の緩衝溶液転化(毎回1000〜2500xgで10分間遠心分離する)により除去され、前記緩衝溶液転化は、低濃度から高濃度まで各種の巨大分子疏水性物質(シクロデキストリン(cyclodextrin)等)溶液で実施され、これにより変性されたHOXB4Hタンパク質を折り畳んで自然な形(native form)に復元する。
【0046】
一実施例において、精製されたTAT−HOXB4Hタンパク質はIMDM(HyClone)培養基(保存緩衝溶液1)に4℃または−20℃において保存される。
別の一実施例において、精製されたTAT−HOXB4Hタンパク質はDMEM(HyClone)培養基(保存緩衝溶液2)に4℃または−20℃において保存される。
【0047】
一実施例において、TAT−HOXB4Hタンパク質のC末端のヒスチジンタグは、インビボ投与を行う前に除去できる。
別の一実施例において、TAT−HOXB4Hタンパク質のN末端のヒスチジンタグは、インビボ投与を行う前に除去できる。
さらに一実施例において、TAT−HOXB4Hタンパク質のN末端およびC末端のヒスチジンタグは、インビボ投与を行う前に除去できる。
【0048】
C.医療用組成物の製造
TAT−HOXB4Hは薬学的に許容されうるキャリア剤と結合するとき、医療用組成物として使用できる。この医療用組成物はTAT−HOXB4Hタンパク質とキャリア剤のほか、様々な希釈剤、充填剤、塩類、緩衝剤、安定剤、助溶剤および本分野で既知の他の材料を含んでいてもよい。「薬学的に許容されうる」とは、活性剤の生物活性の有効性に干渉することのない無毒の材料を指す。キャリア剤の特性は、投与方法に応じて定める。
【0049】
用量の均一性および服用の利便性から、組成物を用量ユニット形式に調製することが有利である。ここでの用量ユニット形式とは、治療を受ける対象のユニット用量に用いる物理的に分けることの可能なユニットを指す。各ユニットには所定量の活性剤を含み、必要とする医薬キャリアと結合させて、所望する治療効果を生むために用いられる。本実施形態の用量ユニット形式の規格は、活性剤の独特な性質、達成を望む特定の治療効果に応じて定める。
【0050】
典型的な投与経路には、これに限らないが、内服、外用、腸管外(舌下または口含等)、舌下、直腸、陰道および鼻腔内を含む。「腸管外(parenteral)」には、ここではこれに限らないが、皮下の(subcutaneous)、皮内の(intracutaneous)、静脈内の(intravenous)、筋肉注射(intramuscular)、胸骨内の(intrasternal)、陰茎海綿体内部注射、鞘内{しょうない}の(intrathecal)、耳道内(intrameata)、尿道内(intraurethral)注射およびあらゆる適切な注入技術を含む。
【0051】
医療用組成物は、含有される活性剤を患者に投与する際に生物利用可能性を有し得るように調製する。医療用組成物は1個または1個以上の用量ユニットで患者に投与できる。例えば1個の錠剤は単一の用量ユニットであってもよく、または噴霧剤形式の容器に複数個の用量ユニットが含有されていてもよい。
【0052】
内服で治療有効量のTAT−HOXB4Hタンパク質を投与する場合、結合剤は錠剤、カプセル、粉末、溶液またはエリキシル剤(elixir)の形式にしてもよい。錠剤形式で投与する場合、本実施形態の医療用組成物はさらに、固体キャリア剤、例えばゼラチンまたは佐剤を含んでいてもよい。錠剤、カプセル、粉末は、5〜95%の結合剤(binding agent)を含有でき、好ましくは25〜90%の結合剤を含有する。
【0053】
さらに顕色剤や矯味剤を添加してもよく、コーティングを使用することもできる。液体形式で投与する場合、例えば水、石油(petroleum)、動物油や植物油(落花生油、鉱物油、大豆油、ゴマ油等)または合成油等の液体キャリア剤を添加してもよい。液体形式の医療用組成物はさらに、生理食塩水、ブドウ糖や他の糖類溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のジオールを含有していてもよい。液体形式で投与する場合、医療用組成物は0.5〜90%の結合剤を含有していてもよく、好ましくは1〜50%を含有する。
【0054】
静脈、皮膚または皮下注射で治療有効量のTAT−HOXB4Hタンパク質を投与する場合、発熱物質となり得ない腸管外(parenterally)の許容されうる水溶液の態様としてもよい。適切なpH値、等張性、安定性を有する腸管外の許容されうるタンパク質溶液の製造は、当該技術分野の周知技術に属する。一実施例において、静脈、皮膚または皮下注射に用いる医療用組成物には、例えば塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、ブドウ糖注射液、ブドウ糖および塩化ナトリウム注射液、乳酸リンゲル注射液または本技術で周知の他のキャリアなどの等張性キャリアを含有していてもよい。本実施形態の医療用組成物はさらに、安定剤、防腐剤、緩衝剤、抗酸化剤または本技術で周知の他の添加剤を含有していてもよい。
【0055】
本実施形態の治療方法を実施するまたは本実施形態を使用する場合、治療有効量のTAT−HOXB4Hタンパク質を、哺乳類動物(例えばヒト)等の使用者に投与する。「治療有効量」とは、ここでは当該医療用組成物中の活性剤の全体量が、患者にとって有意なベネフィット、例えば症状の軽減、治癒、治癒率向上等を発生させるに足るものをいう。単一活性剤に用いられかつ単独で投与される場合、「治療有効量」とは単に当該活性剤を指す。組み合わせて用いられる場合、「治療有効量」とは全活性剤の、治療効果を発生させるに足る全体量を指し、当該活性剤が系列的な組合せで投与されるか同時的に投与されるかを問わない。
【0056】
TAT−HOXB4Hタンパク質の本実施形態における医療用組成物中の含有量は、治療する症状の重篤性と本質、患者がこれまで受けていた治療の本質および患者の年齡や性別に応じて定め、最後に主治医が個々の患者の活性剤投与量を決定する。初めのうちは、主治医は低用量の活性剤を与え、患者の反応を観察してもよい。患者が適度な治療効果を得るまで大用量の活性剤を投与する場合は、通常は用量をさらに増やすことはしない。
【0057】
本実施形態の方法を実施するための医療用組成物には、体重1キロ当たり約1μg〜約1mgのTAT−HOXB4Hタンパク質を含有することができる。使用者に投与する用量の範囲は、1μg/kg〜1mg/kg、1μg/kg〜0.5mg/kg、1μg/kg〜0.1mg/kg、10μg/kg〜0.5mg/kg、10μg/kg〜0.1mg/kg、100μg〜0.5mg/kg、250μg/kg〜0.5mg/kgから選択できる。
【0058】
さらに、用量の範囲は、50μg〜100mg、100μg〜50mg、500μg〜50mg、1mg〜50mgから選択できる。本実施形態の医療用組成物を使用する静脈注射の時間は、治療する疾病の重篤性および個々の患者の特異反応に応じて定める。一実施例において、本実施形態のTAT−HOXB4Hタンパク質を施す時間は、12〜24時間の連続静脈注射であってもよい。別の一実施例において、本実施形態のTAT−HOXB4Hタンパク質は、患者が化学療法または放射線治療を継続中であれば、持続的に使用してもよい。
【0059】
TAT−HOXB4Hタンパク質は、10〜100μg/kgを1日2回、4.5〜5日間静脈注射することができる。1回の治療サイクルで、インビボにおける造血幹細胞増進が足りるはずである。最後に主治医が本実施形態の医療用組成物を使用する適切な静脈注射の時間を決定する。
【0060】
化合物の毒性および治療力価は、例えばLD50(50%致死用量)およびED50(50%有効治療用量)等の、標準的な薬剤学プログラムに基づき細胞培養または実験動物で決定する。毒性および治療期間の用量の比率が治療指数であり、LD50/ED50で示すことができる。細胞培養と実験動物のデータは、ヒトに用いる用量の範囲を評価するために用いられる。化合物の用量は、ED50を有しかつ毒性の小さいまたは無毒である循環濃度の範囲内とすることができる。
【0061】
使用する剤形と投与方法に応じて、用量は前記範囲内で変更できる。TAT−HOXB4Hの有効治療用量は、細胞培養試験により初歩的に予測することができる。動物モデルにおいて、用量はIC50(即ちタンパク質が症状を最大限抑制したその半分の濃度を測定する)を含む循環血漿中濃度に達する範囲とすることができ、細胞培養の決定方法と同じである。血漿中濃度は高効果液相クロマトグラフィで測定できる。特定用量の効果はすべて、適切な生物検定法(Bioassay)でモニタリングできる。
【0062】
適合する生物検定法には、これに限らないが、タグに蛍光プローブ(FITC等)を有するCD34+幹細胞抗体を用いて単核細胞内のCD34+幹細胞を測定し、およびフローサイトメトリーで末梢血液または骨髄の造血幹細胞中のLY5細胞比率を測定する。本実施形態のポリヌクレオチドとタンパク質は、下記の1個または1個以上の用途または生体活性を表すことが予想される。
【0063】
本実施形態のタンパク質の用途または活性は、このタンパク質を投与または使用する形式で提供でき、或いはこのタンパク質のポリヌクレオチドを投与またはコードする形式(例えば遺伝子療法またはDNAを送り込むキャリアに用いる等)で提供できる。
【0064】
(III.インビボ造血刺激方法)
A.治療を要する患者
本実施形態の医療用組成物は、これに限らないが、自己免疫疾病、免疫不全症および血液疾病を含む治療に用いることができる。さらに、本実施形態の医療用組成物は造血幹細胞移植後の回復時間を改善するために用いることができる。また本実施形態の医療用組成物は、これに限らないが、リンパ腫、白血病、ホジキン病および骨髄増殖性疾病の罹患患者を含む治療に用いることができる。さらに、造血幹細胞欠乏が引き起こす先天性の疾病および再生不良貧血も本実施形態の医療用組成物で治療できる。
【0065】
この他、本実施形態の医療用組成物は、造血幹細胞のドナーおよび顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)に反応しない患者にも適用できる。
本発明の一実施例において、TAT−HOXB4Hは造血幹細胞を動員する唯一の活性剤として用いられ、かつ前処理でも複合治療レジメンとしても、フルオロウラシル(5−FU)はドナーに投与しない。
【0066】
本実施形態の医療用組成物を用いて治療できる特別な疾病または細胞生存の増進に関する症状には、これに限らないが、悪性腫瘍および疾病に係る進行および/または転移がある。例えば、前骨髄球性白血病(急性白血病(急性リンパ球性白血病、急性骨髄球性白血病(骨髄球、前骨髄球、顆粒球、単球、赤白血病を含む)を含む)および慢性白血病(慢性顆粒球(顆粒細胞)白血病および慢性リンパ球性白血病等)を含む)、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndr・me)、真性赤血球増加症(polycythemia vera)、リンパ腫(ホジキン病および非ホジキン病等)、多発性骨髄腫、Waldenstromマクログロブリン血症、および充実性腫瘍が含まれ、これに限らないが、肉腫および癌腫(繊維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、脾臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平細胞癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、骨髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝臓癌、胆道癌、絨毛癌、精母細胞腫、胎生期癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、睾丸腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、骨髄芽球腫、頭蓋咽頭管腫、上衣腫、松果腺腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、神経膠腫、menangioma、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫等)を含む。
【0067】
本実施形態は特定の方法、実験計画、細胞株、動物の種類や属性または下記試剤に限定されない。特定の実施例を表すために用いる用語は、本発明の範囲を限定するためのものではなく、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。ここで使用する単数形の「一」および「前記」は、特に注記する場合を除き複数を含む。例を挙げれば、「一細胞」とは、1個または複数個の細胞を指し、かつ本技術分野で既知の均等物を含む。
【0068】
別途定義する場合を除き、技術および科学で用いられる全語彙は、本実施形態が属する技術分野においてこの技術を熟知した者の理解と同一の意味を有する。ここで記載されたものと類似するまたは等しい全ての方法、要素および材料は、いずれも本実施形態を実践または試験するために用いることができる。好ましい方法、要素および材料についてはここで記載する。ここに記載された刊行物および特許は全て、説明および開示のために編入されたものであり、例を挙げれば、刊行物に記載された構造および方法は、現在記載される発明と結合している。以前におよび本文中で検討した刊行物は、本件の有効期日より以前の開示として挙げただけである。何れも発明者が従来の発明によらなければこの開示を予見できないことを認めたと解釈してはならない。
【0069】
(定義)
「幹細胞」とは多能細胞または潜在的な多能細胞であり、自己再生能を有して、未分化を維持し、および分化となる。幹細胞は、少なくとも動物が自然に存在する一生において無限に分裂する。幹細胞は末期分化ではなく、即ち分化ルートの末端ではない。幹細胞が分裂するとき、子細胞の各々は依然として一幹細胞であることができ、または末期分化へと繋がる道へ進むことができる。「キメラ」幹細胞とは幹細胞の一部のDNAが異種生物体に属することをいう。
【0070】
「造血」細胞とは、造血過程(即ち、前駆体細胞が成熟した血液細胞を形成する過程)に関係する細胞を指す。成人では造血は骨髄で起こる。発育初期においては、様々な発育階段で造血は異なる場所で起こる。原始血液細胞は卵黄嚢で出現し、後に、血液細胞は肝臓、脾臓および骨髄で形成される。造血は、ホルモン(例えばエリスロポエチン、生長因子(例えばコロニー形成刺激因子および細胞因子(インターロイキン等)))を含む複雑な調節を有する。
【0071】
ここで使用する「キャリア」とは他の核酸を輸送できる核酸分子を指し、この他の核酸は当該核酸分子に連結される。さらに別のキャリアは「プラスチド」であり、円形の二株のDNA環を指し、過剰のDNAフラグメントはその中に接合される。別のタイプのキャリアはウイルスキャリアであり、過剰のDNAフラグメントは、ウイルス遺伝子体に接合される。キャリアの中には送り込まれた宿主細胞中で自己複製能を有するものがある(細菌複製由来の細菌キャリアやエピソームプラスミド(episomal)哺乳動物キャリア等)。
【0072】
その他のキャリア(非エピソームプラスミド哺乳動物キャリア等)は、宿主細胞に送り込まれるときに宿主細胞の遺伝子体中へ整合し、宿主遺伝子体にしたがって複製することができる。この他、キャリアの中には連結した遺伝子の発現を指揮する能力を有するものがある。これらのキャリアをここでは「組換え発現キャリア」(または単に「発現キャリア」)と称する。一般に、DNA組換え技術に用いられる発現キャリアは、通常プラスチドの形態をとる。
【0073】
プラスチドは最も常用されるキャリア形式であるため、本実施形態では「プラスチド」と「キャリア」は互換使用される。但し、本実施形態は同等機能を有する他の形式の発現キャリア、例えばウイルスキャリア(欠陥を複製する逆転写ウイルス、腺ウイルスおよび腺関連ウイルス等)等も包含する。
【0074】
ここで使用する「転化」とは、外部由来のポリヌクレオチドを宿主細胞に送り込むことを指し、如何なる方法で送り込むかは問わない。例を挙げれば、直接吸收転化、トランスフェクションおよび感染等である。所定のトランスフェクション法は下記を参照されたい。外部由来のポリヌクレオチドは、キャリア未挿入の形態(プラスミド等)であるか、または宿主遺伝子体内へ整合されることができる。
【0075】
一般に「タンパク質」とは、2個以上の単独アミノ酸がペプチド結合(peptide bond)により接合した重合体を指す(自然発生か否かを問わない)。当該ペプチド結合とは、アミノ酸(またはアミノ酸残基)のα炭素に結合したカルボン酸基のカルボキシル炭素原子と、隣接アミノ酸(またはアミノ酸残基)のα炭素に結合したアミノ基のアミノ窒素原子とが形成する共有結合である。前記ペプチド結合の連結およびそれが含む原子(即ちα炭素原子、カルボキシル炭素原子(およびその酸素原子置換基)およびアミノ窒素原子(およびその水素原子置換基))はタンパク質の「ポリペプチドフレーム」を形成する。
【0076】
さらに、ここで使用する「タンパク質」は、「ポリペプチド」および「ペプチド」を含むと理解してよい(交互使用する場合もある)。同様に、タンパク質フラグメント、類似物、誘導体および変異物はここでは「proteins」と呼び、特に説明のない場合、「タンパク質」であると見なされるべきである。タンパク質「フラグメント」とは、1タンパク質の全アミノ酸残基よりも少ないポリペプチドを含むものを指す。タンパク質「フラグメント」は、N末端、C末端または内部で(例えば自然的スプライシング(splicing)によって)切断されたタンパク質であると理解でき、変異物および/または誘導体であってもよい。タンパク質「機能ドメイン(domain)」も1つのフラグメントであり、タンパク質の生化学活性の付与に必要な、自然に存在するタンパク質に対応するアミノ酸残基を含む。
【0077】
「組換え」とは、ここでは核酸分子、遺伝子群、遺伝子、ウイルス、半合成または合成した、その一部または全部のポリヌクレオチドが自然のものではないことを指す。「組換え」はタンパク質またはポリペプチドにとっては、ポリヌクレオチド組換え発現で生成されたポリペプチドを指す。
【0078】
「単離した」、「精製した」、「実質的に単離した」または「実質的に精製した」分子(ポリペプチドまたはヌクレオチドのような)とは、人為的操作により自然状態よりも高い濃度を持つものを指す。例を挙げると、標的タンパク質が単離、精製、実質的に単離または実質的に精製されるとき、少なくとも50%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の自然に存在する非標的タンパク質物質が除去されたことを指す。ここで使用する「単離した」、「精製した」、「実質的に単離した」または「実質的に精製した」分子には組換え分子を含む。
【0079】
SCID「マウス」とは、重症複合免疫不全症(SCID)のマウスモデルを指し、SCIDは免疫系統の発育に重大な欠陥をもたらす。Tリンパ球もBリンパ球も、これらのマウスは何れも不足または完全に欠乏している。当該SCIDの変異は抗原受容体遺伝子の組換えを損傷するようであり、機能性に欠けるTリンパ球およびBリンパ球をもたらす。他の造血細胞のタイプは正常な発展と運用ができる。SCIDマウスは随時正常なリンパ球の分化をサポートし、かつ同じ遺伝子または異なる遺伝子由来のマウスの正常なリンパ球と組換えでき、またはヒトリンパ球と組換えできる。これらのマウスは異なる遺伝子および異種遺伝子腫瘍の生長を助ける。したがって、SCIDマウスはヒト腫瘍、特に血液系統疾病および悪性黒色腫の拡散増長を許容するので、悪性腫瘍の研究に使用できる。
【0080】
「使用者」、「個人」、「宿主」および「患者」はここでは互換使用され、ヒトおよびヒト以外の動物を含む活きた動物を指すのに用いる。使用者とは、例を挙げると、免疫細胞を有する有機体であり、前記免疫細胞は抗原刺激に対して反応を発生させ、かつ細胞表面の受容体結合により伝達される刺激および抑制信号に対して反応を発生させる。使用者は哺乳類動物であってもよく、例えばヒトまたはヒト以外の哺乳動物(イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラットおよびマウス等)を含む。「使用者」は、疾病や各方面に対して完全に正常な個人を排除しないものとする。
【0081】
「治療」とは治療性または予防性の措置を指す。治療は医療疾病を有する使用者または最終的に疾病を有する者に施すことができ、予防、治療、遅延、重篤性の軽減または1個または1個以上の疾病または反復発生する疾病の症状の改善、或いは使用者の生存期間を延長し治療しない場合に予想される生存期間を超えるようにすることを指す。
【0082】
「治療有効量」とは、主化合物が引き起こすことのできる予期した反応(例えば研究員、獣医、医者または他の臨床医が認定する組織、制度、動物、動物またはヒトの生物または医学反応)の量を指す。
【0083】
(実施例)
下記に示した具体例は説明のためのものであり、如何なる状況にあっても本件で開示する他の部分を限定するものではない。詳細な説明がない場合は、本技術において通常の技術を有する者は、ここでの説明により本発明を十分に利用できるものと確信する。
【0084】
実施例1)
pET21b−His−TAT−HOXB4−Hisプラスチドの構築
(a)N−末端およびC−末端にヒスチジンタグおよびTAT信号ペプチドを含有するpET21bプラスチドの修正
N−末端にヒスチジンタグおよびTAT信号ペプチドを含有するpET21b発現キャリアは、pET21bプラスチドに下記オリゴヌクレオチドを挿入して得られる。
5’−TATGCACCACCACCACCACCACTACGGCCGCAAGAAACGCCGCCAGCGCCGCCGGCG−3’(配列番号1)(センス(sense))および
5’−CTAGCGGCGCTGGCGGCGTTTCTTGCGGCCGTAGTGGTGGTGGTGGTGGTGCA−3’(配列番号2)(アンチセンス(antisense))。C−末端ヒスチジンタグは、pET21bプラスチド中に元から存在する。
【0085】
(b)HOXB4を修正後のpET21b発現プラスチドにクローンする
HOXB4オープンリーディングフレーム(ORF)および過剰の6組のヒスチジンコード配列を含有するDNAフラグメントは、MGC54130プラスチド(GeneDiscovery,Taipei,Taiwan.Cat.No.5533346)をテンプレートとし、重合酵素連鎖反応(PCR)を用いて増幅して得られ、PCRで得られたHOXB4 cDNAフラグメントを修正後のpET21b発現プラスチドへサブクローン(subclone)する。構築したプラスチドおよび核酸配列を図2および図3(配列番号3)に示した。
【0086】
実施例2)
大腸菌にてTAT−HOXB4H組換えタンパク質を発現する
pET21b−His−TAT−HOXB4−His発現プラスチドをBL21(DE3)pLysS(Novagen)大腸菌株に転化する。転化した細胞を37℃において1晩生長させる。翌日に培養物を希釈し初期OD600値を0.05とし、37℃においてOD600値が0.5になるまで生長させ、次いで1mMイソプロピルチオ−β−D−ガラクトース(IPTG)で37℃において3時間発現を誘導し、その間、激しく揺動させた。
【0087】
実施例3)
TAT−HOXB4H組換えタンパク質の精製
誘導作用後、細胞を遠心分離して収集し、緩衝液A(8M尿素、20mM HEPES、0.5mM DTTおよび100mM NaCl、pH8.0)中に懸濁させる。細胞懸濁液をFrench Pressに3回通し、細胞溶解物を20,000gにて4℃において30分遠心分離して清澄する。上清液を10mMイミダゾールへと調節しHisTrapキレートカラム(Amersham Pharmacia)にサンプル添加する。結合したタンパク質を50、100および250mMの緩衝液A中に配合したイミダゾールで溶離させる。TAT−HOXB4Hを含有する留分(fraction)を緩衝液B(4M尿素、20mM HEPESおよび50mM NaCl pH6.5)が存在するMonoSPカラムにサンプル添加し、1.5M NaClおよび20mM HEPES(pH8.0)で溶離した。
【0088】
実施例4)
TAT−HOXB4H組換えタンパク質の復元(renaturation)
溶離留分中のTAT−HOXB4Hタンパク質を溶解させ、変性塩類(グアニジン塩酸塩(guanidine hydrochloride)等)を含有する溶液にて変性し、次いでD−PBS−T緩衝溶液(0.1%Triton X−100を含有する2倍リン酸塩緩衝溶液)と混合する。TAT−HOXB4Hタンパク質溶液とD−PBS−T緩衝溶液との比率を1:4とした。生成された混合液を水(10mlまたは3ml)で前処理した10Kタンパク質濃縮カラム(centricon tube)(50mlまたは15ml)に加え、3000rpmで10分間遠心分離する。この工程において、変性塩類はD−PBS−T緩衝液で置換され、D−PBS−T緩衝液中のTriton X−100はHOXB4Hタンパク質の疏水性(Hydrophobic)領域と結合できる。
【0089】
次いで10Kタンパク質濃縮カラム(centricon tube)で超ろ過するかまたは緩衝溶液置換工程を10回行い、1000〜2500g/minの分離速度で、緩衝液を1mM、2mM、3mM、4mMおよび5mMのβ−シクロデキストリン(beta−cyclodextrin)を含むIMDM保存緩衝液に順次置換する。ここでは各遠心分離速度下において各種濃度で2回ずつ置換分離する。濃縮カラムに残ったサンプルを収集し、−20℃の冷蔵庫で保存する。
【0090】
精製したTAT−HOXB4Hタンパク質の均一性は、SDS−polyacrylamideゲルおよびcoomassie染色で分析する。図5は、10%SDS−polyacrylamideゲル(1.5mm)でTAT−HOXB4Hタンパク質の精製を実証し、coomassie blue染色で分析してpTAT−HOXB4Hのタンパク質配列を示した図である。
【0091】
図5において、Lane1:分子量タグ(M)、0.3μg、lane2:未誘導のBL21(DE3)pLysS TAT−HOXB4Hタンパク質発現細胞由来の細胞溶解物、1μgタンパク質、lane3:誘導したBL21(DE3)pLysS TAT−HOXB4Hタンパク質発現細胞由来の細胞溶解物、1μgタンパク質、lane4:精製したTAT−HOXB4H、0.7μgタンパク質、lane5:精製したTAT−HOXB4(0.2μgタンパク質)、である。
【0092】
図5に示したように、HisTrapとMonoSPで精製したTAT−HOXB4Hは、元のTAT−HOXB4タンパク質に比べて収率が約3〜5倍増加した。pTAT−HA−HOXB4プラスチドは、カナダのモントリオール大学(University of Montreal)のGuy Sauvageau博士より寄贈を受けた。lane4およびlane5は同一体積のMonoSPカラムで收集した留分(fraction)を加えた。pTAT−HA−HOXB4プラスチドは、BL21(DE3)pLysS(Novagen)に転化した。TAT−HOXB4タンパク質の精製は、Krosl他(2003)の記載がある。
【0093】
実施例5)
TAT−HOXB4H組換えタンパク質の安定性
TAT−HOXB4Hの安定性は、SDS−polyacrylamideゲルで分析する。保存時に、全長のTAT−HOXB4Hは30kDおよび10kDのフラグメントに分解されるはずである。図6に示したように、本実施例のTAT−HOXB4Hタンパク質はPBS、−4℃において16時間保存しても尚安定している。ここで、図6において、Mは分子量タグを、0は4℃において0時間を、16は4℃において16時間を表す。
【0094】
さらに、−4℃および−20℃において、PBSおよびIMDM緩衝液で保存されたTAT−HOXB4Hを、10%SDS−polyacrylamideゲル電気泳動およびcoomassie染色で分析する。図7に示したように、IMDM保存緩衝液中で保存したとき、本実施例のTAT−HOXB4Hタンパク質は4週間維持された。なお、図7において矢印は、TAT−HOXB4Hタンパク質bandを示す。
【0095】
実施例6)
TAT−HOXB4H組換えタンパク質のBalb/cマウスの造血に対する影響
TAT−HOXB4H組換えタンパク質の、造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員に対する可能的影響は、Balb/Cマウスを用いて研究できる。TAT−HOXB4H組換えタンパク質(PBS中)を1日4回、4日間マウスに皮下注射した。用量の反応性を解明するため、試験グループ(N=21)の用量を、1μg、5μg、10μg、15μg……〜100μg/kg体重とする。比較グループにはPBSのみを施し、別の比較グループには、5μg/kg体重のG−CSFを1日2回、4日間皮下注射した。
【0096】
各グループの末梢血液を採取し、フローサイトメトリーで分析すると、CD34+幹細胞の単核細胞(MNC)中の比率が得られる。結果を平均値±標準偏差の形で表1に示した。
【0097】
【表1】

【0098】
末梢血液内CD34+/MNCの比率は表1に示した通りである。TAT−HOXB4Hを取り入れた第3−21実験グループ(用量は少なくとも10μg/kg体重以上)はG−CSFを注射した比較グループの動員効果に類似していることがわかる。
【0099】
実験グループ3(TAT−HOXB4H用量10μg/kg体重)のマウスの骨髄と、G−CSFおよびPBSを注射した比較グループのマウスの骨髄を採取し、CD34+FITC−conjugated抗体(Becton Dickinson)で型を表し、かつフローサイトメトリーにて分析した。TAT−HOXB4Hを注射したマウスの骨髄(図5C)のCD34+幹細胞は、G−CSFおよびPBSを注射したマウスの骨髄よりも多かった。これらの結果より、TAT−HOXB4H組換えタンパク質を注射した場合、マウスの骨髄中および末梢血液中の造血幹細胞を同時に増加できることがわかる。
【0100】
実施例7)
TAT−HOXB4H組換えタンパク質のアカゲザルの造血に対する影響
TAT−HOXB4H組換えタンパク質のサル類における効力を、成年の雄アカゲザルを用いて研究した。試験グループI(n=5)は、TAT−HOXB4H組換えタンパク質(用量10μg/kg体重)を1日4回、4日間静脈注射した。試験グループII(n=5)は、TAT−HOXB4H組換えタンパク質(用量10μg/kg体重)および皮下注射G−CSF(用量5μg/kg体重)を1日4回、4日間静脈注射した。比較グループIにはPBSのみを施し、比較グループIIにはG−CSF(用量5μg/kg体重)を1日2回、4日間皮下注射した。全サルの末梢血液を採取し、フローサイトメトリーで分析して、CD34+幹細胞の単核細胞(MNC)中の比率を出し、結果を表2に示した。
【0101】
【表2】

【0102】
表2に示したように、TAT−HOXB4Hのみを注射したサル(実験グループI)は、G−CSFを注射したサル(比較グループII)よりも優れた動員効果が見られた。TAT−HOXB4HとG−CSFを同時に注射したサル(実験グループII)は、G−CSFを注射したサル(比較グループII)よりも動員効果はやや優れていた。
【0103】
TAT−HOXB4H、G−CSFおよびPBSを注射したサルの骨髄サンプルを採取し、CD34+FITC−conjugated抗体(Becton Dickinson)で型を表し、かつフローサイトメトリーで分析した。TAT−HOXB4Hを注射したサルの骨髄(図6C)は、そのCD34+幹細胞が、G−CSFを注射したサルの骨髄(図6A)、TAT−HOXB4H+G−CSFを注射したサルの骨髄(図6B)およびPBSを注射したサルの骨髄(図6D)中のCD34+幹細胞よりもはるかに多かった。
【0104】
(実施例8)
TAT−HOXB4H組換えタンパク質のNOD−SCIDマウスの造血回復に対する影響
104LiN-/CD34+細胞および放射線照射した105CD34-補助細胞をNOD−LtSz−scid/scid(NOD−SCID)マウス(放射線2.5Gyを照射)に注射した。上記マウスはランダムに2組に分け、1組(n=28)は1日2回、TAT−HOXB4Hタンパク質(用量10μg/kg体重)を静脈注射し、別の1組(n=28)は、PBSを1日2回注射した。植立後、ヒトCD45+細胞がマウス類末梢血液中に存在する比率が0.1%以上のマウスの数により造血回復を評価した。図7に示したように、TAT−HOXB4H組換えタンパク質を注射したマウスは比較的好ましい造血回復が観察された。
【0105】
実施例9)
TAT−HOXB4H組換えタンパク質の、Cisplatin化学療法後のBalb/cマウスの造血回復に対する影響
cisplatin静脈注射を5週間、その末梢血液中のLy5(murine CD45)細胞数が元の数の10%になるまで、Balb/cマウスに繰り返した。cisplatinを注射したマウスをランダムに2組に分け、1組(n=28)は1日2回、TAT−HOXB4Hタンパク質(用量10μg/kg体重)を静脈注射し、別の1組(n=28)はPBSを1日2回注射した。フローサイトメトリーで、周期的に全マウスの末梢血液中に存在するLy5細胞を測定分析した。造血回復率は、末梢血液中のLy5細胞数の、元の数に対する比率で評価した。図8に示したように、TAT−HOXB4H組換えタンパク質を注射したマウスは、好ましい造血回復が観察された。
【0106】
これらの実験で使用した動物モデルは、本技術分野ではヒト患者の結果予測に使用できると確認されているものである(Broxmeyer他(2005)The Journal of Experimental Medicine,201,1307−1318、Larochelle他(2006)Blood 107,3772−3778等)。
本発明では前記実施例を開示したが、各種の追加、修正および置換えは、本発明の実施例に使用可能であり、特許請求の範囲が定める本発明の原理の主旨および範囲を逸脱しないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】造血幹細胞がインビボ増幅により末梢血液(PB)に動員されることを示す説明図。
【図2】修正したpET21bプラスチド内におけるpTAT−HOXB4Hのクローンと構築を示す説明図。
【図3】pTAT−HOXB4HのDNA配列を示す図。
【図4】pTAT−HOXB4Hのタンパク質配列を示す図。
【図5】10%SDS−polyacrylamideゲル(1.5mm)でTAT−HOXB4Hタンパク質の精製を実証し、coomassie blue染色で分析してpTAT−HOXB4Hのタンパク質配列を示した図。
【図6】SDS−polyacrylamideゲルで、精製したTAT−HOXB4Hタンパク質の安定性を分析し、PBSに4℃において0時間(A)および16時間(B)保存したときの特性図。
【図7】SDS−polyacrylamideゲルおよびcoomassie染色でTAT−HOXB4Hタンパク質を分析し、−4℃および−20℃において保存し、PBSおよびIMDM緩衝液の安定性を分析した特性図。
【図8A】フローサイトメトリーで、G−CSFのマウス骨髄中のCD34+幹細胞数に対する刺激効果を分析した特性図。
【図8B】フローサイトメトリーで、PBSのマウス骨髄中のCD34+幹細胞数に対する刺激効果を分析した特性図。
【図8C】フローサイトメトリーで、TAT−HOXB4Hタンパク質のマウス骨髄中のCD34+幹細胞数に対する刺激効果を分析した特性図。
【図9A】フローサイトメトリーで、G−CSFのアカゲザル骨髄中のCD34+幹細胞数に対する刺激効果を分析した特性図。
【図9B】フローサイトメトリーで、TAT−HOXB4Hタンパク質に加えてG−CSFのアカゲザル骨髄中のCD34+幹細胞数に対する刺激効果を分析した特性図。
【図9C】フローサイトメトリーで、TAT−HOXB4Hタンパク質のアカゲザル骨髄中のCD34+幹細胞数に対する刺激効果を分析した特性図。
【図9D】フローサイトメトリーで、PBSのアカゲザル骨髄中のCD34+幹細胞数に対する刺激効果を分析した特性図。
【図10】TAT−HOXB4Hタンパク質の、NOD−SCIDマウスの造血回復に対する影響を示した特性図。
【図11】TAT−HOXB4Hタンパク質の、Cisplatin化学療法を受けた後のBalb/cマウスの造血回復に対する影響を示した特性図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法であって、
(a)前記タンパク質コードを有するキャリアを含む宿主細胞を提供する工程と、
(b)前記宿主細胞内に前記タンパク質を発現する工程と、
(c)前記発現タンパク質の不純溶液を得る工程と、
(d)前記溶液から前記タンパク質を精製する工程であって、
(i)前記溶液をHisTrapカラムに通し、
(ii)前記HisTrapカラムを洗浄し、
(iii)前記一部が精製されたタンパク質を前記HisTrapカラムから溶離し、一部が精製されたタンパク質溶液を生成し、
(iv)前記一部が精製されたタンパク質溶液をMonoSPカラムに通し、
(v)前記MonoSPカラムを洗浄し、
(vi)精製されたタンパク質を変性形態にて前記MonoSPカラムから溶離する、上記(i)から(vi)の手順で前記溶液から前記タンパク質を精製する工程と、
(e)疏水性化合物を用いて溶離した変性タンパク質を新たに折り畳む工程であって、
(i)前記溶離した変性タンパク質と疏水性化合物溶液とを混合してタンパク質−疏水性化合物溶液を生成し、
(ii)前記タンパク質−疏水性化合物溶液を脱塩してタンパク質−疏水性化合物脱塩溶液を得て、
(iii)超ろ過工程で、前記疏水性化合物を前記タンパク質−疏水性化合物脱塩溶液中から除去する、上記(i)から(iii)の手順で疏水性化合物を用いて溶離した変性タンパク質を新たに折り畳む工程と、
を含むことを特徴とするTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法
【請求項2】
前記HisTrapカラム洗浄液は、8M尿素、20mM HEPES、0.5mM DTT、100mM NaCl、pH8.0の緩衝溶液および10mMイミダゾールを含むことを特徴とする請求項1に記載のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法。
【請求項3】
前記一部が精製されたタンパク質を前記HisTrapカラムから溶離する溶離緩衝溶液は、少なくとも50mMイミダゾールおよび8M尿素、20mM HEPES、0.5mM DTT、100mM NaCl、pH8.0の緩衝溶液を含むことを特徴とする請求項1に記載のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法。
【請求項4】
前記一部が精製されたタンパク質を前記HisTrapカラムから溶離する溶離緩衝溶液は、50〜100mMのイミダゾールを含むことを特徴とする請求項1に記載のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法。
【請求項5】
前記一部が精製されたタンパク質を前記HisTrapカラムから溶離する溶離緩衝溶液は、100〜250mMのイミダゾールを含むことを特徴とする請求項1に記載のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法。
【請求項6】
前記MonoSPカラム洗浄液は、4M尿素、20mM HEPES、50mM NaCl、pH6.5の緩衝溶液を含むことを特徴とする請求項1に記載のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法。
【請求項7】
前記精製されたタンパク質をMonoSPカラムから溶離する溶離緩衝溶液は、1.5M NaClおよび20mM HEPES、pH8.0を含むことを特徴とする請求項1に記載のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法。
【請求項8】
前記疏水性化合物は、Triton X−100、tween−20または多ベンゼン環化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法。
【請求項9】
前記超ろ過工程は、タンパク質濃縮カラムまたはタンパク質超ろ膜により行われることを特徴とする請求項1に記載のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法。
【請求項10】
前記精製されたタンパク質は、IMDM培養基またはDMEM培養基中で保存されることを特徴とする請求項1に記載のTAT−HOXB4Hタンパク質の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法で製造されたTAT−HOXB4Hタンパク質。
【請求項12】
造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員を促す方法であって、少なくとも
(a)必要な使用者に有効量の請求項1に記載の方法で製造されたTAT−HOXB4H組換えタンパク質を投与する工程、および
(b)前記TAT−HOXB4H組換えタンパク質が前記使用者の骨髄内の造血幹細胞の絶対数を増幅することを許容し、これにより造血幹細胞が前記使用者の末梢血液へ動員されることを促す工程を含む、造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員を促す方法。
【請求項13】
前記必要な使用者は、造血幹細胞のドナーであることを特徴とする請求項12に記載の造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員を促す方法。
【請求項14】
前記必要な使用者は、自己造血幹細胞移植を行う患者であることを特徴とする請求項12に記載の造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員を促す方法。
【請求項15】
前記必要な使用者は、顆粒球コロニー刺激因子に反応しない患者であることを特徴とする請求項12に記載の造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員を促す方法。
【請求項16】
前記使用者は、先天性の造血幹細胞欠乏が引き起こす疾病を罹患していることを特徴とする請求項15に記載の造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員を促す方法。
【請求項17】
前記使用者は、先天性の再生不良貧血を罹患している請求項16に記載の造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員を促す方法。
【請求項18】
前記使用者は、血液疾病、充実性腫瘍または免疫疾病を罹患していることを特徴とする請求項12に記載の造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員を促す方法。
【請求項19】
前記血液疾病は、リンパ腫、白血病、ホジキン病および骨髄増幅性疾病のいずれか一つであることを特徴とする請求項18に記載の造血幹細胞の骨髄から末梢血液への動員を促す方法。
【請求項20】
造血幹細胞移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法であって、少なくとも
(a)必要な使用者に有効量の請求項1に記載の方法で製造されたTAT−HOXB4H組換えタンパク質を投与する工程、および
(b)前記TAT−HOXB4H組換えタンパク質が前記使用者の骨髄内の造血幹細胞の絶対数を増幅することを許容する工程、を含むことを特徴とする、造血幹細胞移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法。
【請求項21】
前記必要な使用者は、造血幹細胞のドナーであることを特徴とする請求項20に記載の造血幹細胞移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法。
【請求項22】
前記必要な使用者は、自己造血幹細胞移植を行う患者であることを特徴とする請求項20に記載の造血幹細胞移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法。
【請求項23】
前記必要な使用者は、顆粒球コロニー刺激因子に反応しない患者であることを特徴とする請求項20に記載の造血幹細胞移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法。
【請求項24】
前記使用者は、先天性の造血幹細胞欠乏が引き起こす疾病を罹患していることを特徴とする請求項23に記載の造血幹細胞移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法。
【請求項25】
前記使用者は、先天性の再生不良貧血を罹患していることを特徴とする請求項24に記載の造血幹細胞移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法。
【請求項26】
前記使用者は、血液疾病、充実性腫瘍または免疫疾病を罹患していることを特徴とする請求項20に記載の造血幹細胞移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法。
【請求項27】
前記血液疾病は、リンパ腫、白血病、ホジキン病および骨髄増幅性疾病のいずれか一つであることを特徴とする請求項26に記載の造血幹細胞移植患者、放射線治療患者または化学療法患者の回復時間を改善するための方法。

【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−207482(P2009−207482A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167504(P2008−167504)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(508193482)タイワン アドバンス バイオ―ファーム インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】