説明

インピーダンス計測センサ、インピーダンス計測装置およびインピーダンス計測方法

【課題】局所的な液体の存在量を高精度の空間分布で計測するとともに、液体が薄い液膜の場合でも適切に高精度に計測することができるインピーダンス計測センサを提供する。
【解決手段】一方の電極である励起電極21及び他方の電極である計測電極22からなる電極対25の複数個と、励起電極21の基準電位と同じ電位に保持したグランド領域23と、励起電極21、計測電極22及びグランド領域23間を電気的に絶縁する絶縁部24とを有するインピーダンス計測センサであって、絶縁部24は、周囲をグランド領域23に囲まれてそれぞれ独立した絶縁領域を形成しており、各電極対25のうち同一電極対における励起電極21と計測電極22との間には絶縁領域のみが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインピーダンス計測センサ、インピーダンス計測装置およびインピーダンス計測方法に関し、例えば原子炉内の燃料被覆管の表面に形成される液膜厚を高い時間および空間分解能で計測する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気発生器や復水器などの熱交換器では、伝熱量を定める上で、伝熱面に形成される液膜厚さを把握することが重要である。従来は一点や線分における液膜厚さ変動が計測されてきたが、気相からの剪断を受ける液膜は多次元流動であるため、対象面の液膜厚さ分布を時系列で捉えることが望ましい。これらの構造体の表面に付着している導電性の液膜厚さの時間分布および空間分布を計測する手法として、一対の電極間における導電性流体のインピーダンス変化に基づき液膜厚を計測する液膜厚計測方法が知られている。かかる液膜厚計測を実現するため、電極対を多数形成した多点電極方式の液膜厚計測センサが提案されている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
図5は従来技術に係る多点電極センサ方式の液膜厚計測センサの一部を抽出して示す模式図である。同図に示すように、当該液膜厚計測センサは励起電極1、計測電極2、グランド領域3および絶縁部4を有している。励起電極1および計測電極2は、絶縁基板で形成した絶縁部4で相互の間を絶縁されて図の左右方向に交互に並べて一つの列を形成するとともに、かかる列が図中の上下方向に複数段(図では2段)形成されるように2次元的な面の広がりの中で多数配設されている。ここで、励起電極1および計測電極2は、列方向で隣接する励起電極1および計測電極2間の距離が等しくなるように配設してある。グランド領域3は絶縁部4を形成するための前記絶縁基板の表面に配設された導電性の部材で、励起電極1ならびに計測電極2の基準となる電位と等しい。また、図5に示す場合は、励起電極1および計測電極2の周囲をグランド領域3が取り囲むとともに、列の両側で僅かな間隔を介してグランド領域3が相対向するように構成してある。かくして、絶縁部4(図中の連続する白抜き領域)が励起電極1、計測電極2及びグランド領域3間を電気的に絶縁している。
【0004】
図6は図5に示す液膜厚計測センサを備えた液膜厚計測装置を示す模式図である。同図に示すように、一対の励起電極1および計測電極2で形成される多数の電極対5が図中の垂直方向に伸びる入力線6(右側の数字は各列に対応する番号である。)と図中の水平方向に伸びる出力線7(上側の数字は各行に対応する番号である。)とが交差する部分に配設してある。ここで、各励起電極1が入力線6に、また各計測電極2が出力線7にそれぞれ接続されている。
【0005】
かくして、当該液膜厚計測センサの表面に導電性の液体(例えば水)の液膜が形成された状態で、スイッチS1,S2,S3,S4により一列目から順次入力線6の何れかが選択されると、選択された列に接続されている励起電極1に対して電源8から励起信号が供給される。
【0006】
この結果、計測電極2との間の状態に応じた計測信号が各行の出力線7から得られ、各A/D変換器9を介してパソコン10に供給される。ここで、計測電極2との間の状態とは、当該液膜厚計測センサの表面に形成された液膜の状態であり、この状態は液膜厚で変化する。すなわち、液膜厚でインピーダンスが変化するので、これに基づき膜厚情報を得ることができる。パソコン10では計測信号に対する所定の処理により各部の膜厚を検出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Novel fluid dynamic instrumentation for mixing studies developed at ETH Zurich and PSI(The 13thInternational Topical Meeting on Nuclear Reactor Thermal Hydraulics Kanazawa City Isikawa Prefecture, Japan, September 27 October 2. 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の如き従来技術に係る液膜厚計測センサでは、励起電極1および計測電極2が交互に並べて形成されるとともに、かかる列が上下方向に複数段形成されるように2次元的な面の広がりの中で多数配設されており、しかも励起電極1および計測電極2が列方向で隣接する励起電極1および計測電極2間の距離が等しくなるように配設してある。この結果、図6に示す液膜厚計測装置においては、一つの計測電極2に対し同一電極対5で対応する励起電極1から出力された計測信号のみならず、周囲の励起電極1からの励起信号も計測される。すなわち、両隣等、複数の励起電極1から出力される計測信号を拾って、局所の点ではあるが、他の複数の点からの計測信号の影響も含んだものとなる。したがって,この場合の出力信号に基づいて得られる膜厚情報は、特定の点およびその周辺の膜厚が平均された情報となる。すなわち、液膜の平均的な分布状態を表す情報となる。
【0009】
この結果、周囲の状態の影響を排除した局所の点の膜厚情報を得たい場合には問題が残るものとなる。換言すれば、局所の膜厚情報に関しては空間的な分解能が充分でない。
【0010】
また、上述の如き従来技術に係る液膜厚計測センサでは、隣接する励起電極1と計測電極2との間にはグランド領域3が存在するので、励起電極1の表面近傍から出た電気力線はグランド領域3によって歪んでしまう。すなわち、励起電極1の表面から当該液膜厚計測センサの表面を這うような電気力線を形成させることができず、励起電極1から一旦斜め上方に向かいその後斜め下方に向かうことにより計測電極2に入るような膨らみのある立体的な電気力線になってしまう。このため、当該液膜厚計測センサの表面を這うような薄い液膜の膜厚は計測することができないという問題も有する。
【0011】
ちなみに、例えば、原子炉燃料棒表面に対する液滴付着率を向上させるために改良された旋回板スペーサ構造が被覆管表面の液膜流量を増大させる効果を定量的に評価するためには、液膜流の時空間分布を高い分解能で把握できることが望ましい。
【0012】
また、沸騰水型原子炉では、出力上限を定める現象として燃料被覆管の表面の液膜が乾燥する沸騰遷移がある。かかる沸騰遷移に対処するための適正な原子炉設計を行うためには、燃料被覆管の表面が乾燥する直前の薄い液膜を計測する必要がある。したがって、上述の如き従来技術では,かかる用途には適切に対応できない。
【0013】
本発明は、上記従来技術に鑑み、インピーダンス法に基づき局所的な液膜厚など、被測定対象表面の液体の存在量を高精度の空間分布で計測するとともに、その液体が薄い液膜である場合でも適切に高精度に計測することができるインピーダンス計測センサ、インピーダンス計測装置およびインピーダンス計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、一方の電極である励起電極及び他方の電極である計測電極からなる電極対の複数個と、励起電極の基準電位と同じ電位に保持されたグランド領域と、前記励起電極、計測電極及び前記グランド領域間を電気的に絶縁する絶縁部とを有するインピーダンス計測センサであって、前記絶縁部は、周囲を前記グランド領域に囲まれてそれぞれ独立した絶縁領域を形成しており、前記各電極対のうち同一電極対における励起電極と計測電極との間には前記絶縁領域のみが形成されていることを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0015】
本態様によれば、各励起電極および計測電極はそれぞれの周囲をグランド領域に囲まれることにより独立させた絶縁領域内で電極対を形成しており、しかも各励起電極および計測電極の間にはグランド領域が存在しないので、他の電極対の励起電極からの影響を排除して各電極対毎に固有の独立した電気力線が励起電極から計測電極へ向けて形成される。すなわち、各電極対の感度はどの電極対でも同じであり、隣接する電極対の影響を受けないようにすることができる。
【0016】
この結果、周囲の影響を可及的に除去した局所的な液体の存在量を高精度に得ることができ、局所的な空間分解能の向上を良好に実現したインピーダンス計測装置の構築に資することができる。
【0017】
また、本態様において励起電極ならびに計測電極の間に形成される電気力線は、当該インピーダンス計測センサ表面の極く近傍でも良好な電気力線が形成される。
【0018】
この結果、被測定対象表面に極く薄い液膜が形成する場合でも液膜厚さとして良好に計測することができるインピーダンス計測装置の構築にも資することもできる。
【0019】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記各電極対のうち隣接する電極対間における励起電極と計測電極との間の距離、または計測電極と励起電極との間の距離が、同一電極対における励起電極と計測電極との間の距離よりも長くなるように形成されていることを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0020】
本態様によれば、より確実に周囲の電極対の影響を除去することができる。
【0021】
本発明の第3の態様は、被測定対象の表面の各計測位置に配設される請求項1に記載するインピーダンス計測センサと、前記表面に存在する液体に基づく前記各電極対における励起電極及び計測電極間のインピーダンスに基づき前記各液体の存在量を演算する演算処理部とを有することを特徴とするインピーダンス計測装置にある。
【0022】
本態様によれば、周囲の影響を可及的に除去した局所的な液体の存在量に関する情報を高精度に得ることができ、局所的な空間分解能の向上を良好に実現することができる。また、被測定対象表面に極く薄い液膜が形成する場合でも液膜厚さとして良好に計測することができる。
【0023】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載するインピーダンス計測装置において、前記存在量は、液膜の膜厚であることを特徴とするインピーダンス計測装置にある。
【0024】
本態様によれば、液膜厚に関する情報を高精度且つ高空間分解能で得ることができる。
【0025】
本発明の第5の態様は、第3の態様に記載するインピーダンス計測装置において、前記存在量は、前記各電極対の位置における複数種類の液体の存在率であることを特徴とするインピーダンス計測装置にある。
【0026】
本態様によれば、インピーダンスが異なる複数種類の液体の存在率、すなわち分布を高精度に計測することができる。
【0027】
本発明の第6の態様は、第3の態様乃至第5の態様に記載する何れか一つのインピーダンス計測装置において、前記グランド領域を通電により発熱させるための電圧供給手段を有することを特徴とするインピーダンス計測装置にある。
【0028】
本態様によれば、被測定対象が発熱体である場合に、その発熱状態を容易に再現し、かかる発熱状態での液体の存在量に関する情報を得ることができる。
【0029】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載するインピーダンス計測装置において、前記液体の存在量を計測する計測モードと、前記グランド領域を通電する通電モードとの何れか一方が選択されるように制御する制御手段を有することを特徴とするインピーダンス計測装置にある。
【0030】
本態様によれば、通電によりグランド領域に形成される電位傾度の影響を受けることなく所定の液体の存在量に関する情報を得ることができる。
【0031】
本発明の第8の態様は、被測定対象の表面の複数の液体の存在量の計測位置に、第1の態様に記載するインピーダンス計測センサの各電極対を配設するとともに、前記表面に形成される液膜に基づく前記各電極対における励起電極及び計測電極間のインピーダンスに基づき前記各計測位置の液体の存在量を計測することを特徴とするインピーダンス計測方法にある。
【0032】
本態様によれば、周囲の影響を可及的に除去した局所的な膜厚情報を高精度に得ることができ、局所的な空間分解能の向上を良好に実現することができる。また、被測定対象である液膜の膜厚が極く薄い場合でも、液体の存在量から所定の膜厚を正確に計測することができる。
【0033】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載するインピーダンス計測方法において、前記存在量は、液膜の膜厚であることを特徴とするインピーダンス計測方法にある。
【0034】
本態様によれば、液膜厚に関する情報を高精度且つ高空間分解能で得ることができる。
【0035】
本発明の第10の態様は、第8の態様に記載するインピーダンス計測方法において、前記存在量は、前記各電極対の位置における複数の液体の存在率であることを特徴とするインピーダンス計測方法にある。
【0036】
本態様によれば、インピーダンスが異なる複数種類の液体の存在率、すなわち分布を高精度に計測することができる。
【0037】
本発明の第11の態様は、第8乃至第10の態様の何れか一つに記載するインピーダンス計測方法において、インピーダンス計測センサの各電極対は被測定対象の表面の離散した任意の位置に電極対単位で分布させて配設したことを特徴とするインピーダンス計測方法にある。
【0038】
本態様によれば、計測点が離散した位置に分散している場合でも、所定の高空間分解能で所定の計測を行うことができる。すなわち、独立した一対の電極で測定点を構成しているため、測定点を離散的に配置しても感度の変化が小さいことから、任意の位置の液体の存在量の情報を的確に得ることができる。
【0039】
本発明の第12の態様は、第8乃至第11の態様の何れか一つに記載するインピーダンス計測方法において、前記被測定対象には少なくとも原子炉の燃料被覆管、ボイラ,熱交換器,復水器の伝熱管、またはコロナ放電の評価に必要とされる電線を含み、前記存在量の計測位置は前記被測定対象の表面の所定位置であることを特徴とするインピーダンス計測方法にある。
【0040】
本態様によれば、表面の乾きが問題となるため、薄膜であっても液膜を高精度に計測する必要がある用途における液膜厚さの情報を適切に計測し得る。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、グランド領域がない局所的な領域の液体の存在量の情報を得ることができる。これは、ある特定の電極対の位置に対応する局所的な情報である。また、薄い液膜が形成される場合でも液膜厚さの情報が得られるため、特に有用なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係る液膜厚計測センサの一部を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る液膜厚計測センサの一部を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る液膜厚計測装置を示す模式図である。
【図4】図3の各部の波形を示す波形図である。
【図5】従来技術に係る液膜厚計測センサの一例の一部を示す模式図である。
【図6】従来技術に係る液膜厚計測装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0044】
図1は本発明の実施の形態に係るインピーダンス計測センサの一種である液膜厚計測センサの一部を示す斜視図、図2は平面的に見たその模式図である。両図に示すように、当該液膜厚計測センサは励起電極21、計測電極22、グランド領域23および絶縁部24を有している。ここで、絶縁部24は板状の絶縁基板26の表面をグランド領域23で覆った場合に表面に臨む楕円形の領域である。すなわち、絶縁部24は周囲をグランド領域23に囲まれてそれぞれ独立した絶縁領域を形成している。グランド領域23は絶縁部24を形成するための絶縁基板26の表面に配設された平板状の導電性の部材で、励起電極21の基準電位に保持される。
【0045】
一対の励起電極21および計測電極22からなる電極対25は絶縁部24に形成されている。したがって、励起電極21および計測電極22は絶縁部24において当該液膜厚計測センサの表面に臨んでいる。また、同一電極対25における励起電極21および計測電極22の間には絶縁領域のみが形成されている。すなわち、グランド領域23は形成されていない。かくして、各電極対25は隣接する電極対25から電気的に独立した状態で各一対ずつの励起電極21および計測電極22で形成されており、図1に示す電極対25を一単位とする電極対25が図2(a)に示すように縦横に多数並べて配設してある。ここで、図2(b)には図2(a)の四角で囲んだ部分(2個の電極対25)を抽出・拡大して示している。
【0046】
本形態においては、各電極対25のうち隣接する電極対25間における励起電極21と計測電極22との間の距離、または計測電極22と励起電極21との間の距離は、同一電極対25における励起電極21と計測電極22との間の距離よりも長くなるように形成されているのが望ましい。このことにより、より確実に各電極対25の隣接する電極対25からの独立性が確保されるからである。
【0047】
本形態に係る液膜厚保計測センサの各部の寸法を図1中にα、β、γの符号で示す。αは励起電極21(計測電極22)の径、βは励起電極21と計測電極22間の距離、γは隣接する電極対25における励起電極21同士(計測電極22同士)の距離であり、本形態の場合は、α=0.3mm、β=0.2mm、γ=1.8mmとして形成してある。勿論この寸法に限定するものではない。
【0048】
図3は図1および図2に示す液膜厚計測センサを備えた本発明の実施形態に係る液膜厚計測装置を示す模式図、図4は図3の各部の波形を示す波形図である。
【0049】
本形態に係る液膜厚計測装置は、図3に示すように、液膜厚計測センサの構成が異なるが、回路構成の多くは図6に示す従来技術に係る液膜厚計測装置と同様である。そこで、図6と同一部分には同一番号を付している。
【0050】
図3に示すように、一対の励起電極21および計測電極22で形成される多数の電極対25は図中の垂直方向に伸びる入力線6(右側の数字は各列に対応する番号である。)と図中の水平方向に伸びる出力線7(上側の数字は各行に対応する番号である。)とが交差する部分に配設してある。ここで、各励起電極21が入力線6に、また各計測電極22が出力線7にそれぞれ接続されている。
【0051】
かくして、当該液膜厚計測センサの表面に導電性の液体(例えば水)の液膜が形成された状態で、図4に示すパルス信号でオン・オフされるスイッチS1,S2,S3,S4により一列目から順次入力線6の何れかが選択されると、選択された列に接続されている励起電極21に、電源8から所定の励起信号SIが供給される。この励起信号SIは本形態の場合、スイッチSPの切換で極性が反転するバイポーラパルス信号である。
【0052】
パルス信号で選択された列に励起信号SIが供給された場合、計測電極22との間の状態に応じた計測信号SOが各行の出力線7から得られ、各A/D変換器9を介して演算処理部として機能するパーソナルコンピュータ(パソコン;以下同じ)10に供給される。ここで、計測電極2との間の状態とは、当該液膜厚計測センサの表面に形成された液膜の状態であり、この状態は液膜厚で変化する。すなわち、液膜厚でインピーダンスが変化するので、これに基づき膜厚情報を得ることができる。パソコン10では計測信号に対して所定の処理を行うことにより各部の膜厚として検出している。本形態では、図4に示す計測値Mに基づき液膜厚を検出している。
【0053】
さらに、本形態においては、スイッチ27の投入により、グランド領域23の両端部に電圧供給手段である電源28の出力電圧が印加される。かかる出力電圧の印加に伴う通電により、グランド領域23にはその電気抵抗に起因するジュール熱が発生する。かくして、グランド領域23が発熱され、グランド領域23に接する液膜が加熱される。かかる加熱により当該液膜厚計測センサが装着される被測定対象が発熱部である場合の発熱状態を再現することができる。したがって、被測定対象が発熱した状態での液膜が良好に再現され、かかる状態での液膜厚を正確に計測し得る。このように、グランド領域23に通電する通電モードと液膜厚の計測を行う計測モードは、時分割方式で交互に切替えられる。これは、通電モードまたは計測モードの切換を制御する制御手段としても機能させるパソコン10でスイッチ27を切替えることにより好適に実現される。このように、通電モードと計測モードとを交互に切替えるように構成することは必須ではないが、両モードの切替えを行うことで、通電によりグランド領域に形成される電位傾度の液膜厚の計測に対する影響を除去し得る。
【0054】
かかる本形態においては、各励起電極21および計測電極22はそれぞれの周囲をグランド領域23に囲まれることにより独立させた絶縁領域内で電極対25を形成しており、しかも各励起電極21および計測電極22の間にはグランド領域23が存在しない。
【0055】
この結果、他の電極対25の励起電極21における電位変動は、同一電極対25における計測電極22に作用することを除き、特定の電極対25の周囲のグランド領域23によって吸収させることができ、特定の電極対25の計測電極22に入ることはない。かくして、特定の電極対25の局所的な位置だけに固有の膜厚情報を周囲の電極対25からの影響を排除した状態で得ることができる。このようにして得る本形態における膜厚情報は高い空間分解能を持つものとなる。
【0056】
また、本形態における電極対25は周囲から完全に独立させてあり、しかも同一電極対25の励起電極21から計測電極22に向けては当該液膜厚計測センサの表面の極く近傍でも良好な電気力線が形成される。
【0057】
この結果、被測定対象である液膜の膜厚が極く薄い場合でも良好に所定の液膜厚を計測することができる。
【0058】
なお、上記実施の形態では、被測定対象物の表面に形成される液膜の膜厚を計測する液膜厚計測装置の場合について説明したが、必ずしもこれに限るものではない。図1乃至図2に示す電極対25間に形成される液膜に関する情報を得るセンサを具備する装置であればそれ以上の制限はない。例えば、液体の存在量に関する他の情報である各電極対25の位置における複数種類(例えば2種類)の液体の存在率を計測するように装置として構成することもできる。この場合には、パソコン10で処理する液膜情報の処理方法を変更すれば良い。すなわち、各電極対25で計測される液膜のインピーダンスを計測することで、例えば電気伝導率が異なる二種類の流体のそれぞれがどの程度の割合で分布するかという情報を得る装置を構築することも容易に可能となる。ここで、電極対25に接しているのが気相であっても、また絶縁性の液体であっても構わない。各電極対25が周囲の電極対25の状態の影響を受けず独立して自己の電極対25に対応する液体の存在量の情報のみを電極間のインピーダンスに基づき計測する構造となっているからである。
【0059】
また、上述の如き実施の形態における電極対25は一個一個が独立しているので、図3に示すような正方格子の交点等、規則的な計測点だけでなく、被測定対象物の表面の離散した任意位置における液膜厚の計測にも適用し得る。これは、計測したい位置の電極対25のみを電気的に選択して動作させるように構成することでも、また電極対25の物理的な配列を計測位置に適合させることでも容易に実現できる。
【0060】
さらに、本発明に係るインピーダンス計測センサは図2に示すように、多数の電極対25を二次元の平面に配設した平板構造となっているので、被測定対象が曲面を有する場合でも、かかる平板構造のセンサをその表面形状乃至内周面形状に沿わせて良好に装着することができる。
【0061】
したがって、上述の如き実施の形態に係るインピーダンス計測装置により液膜厚さ情報を計測する好適な用途としては被測定対象を原子炉の燃料被覆管とする場合が考えられる。原子炉の運転では燃料被覆管表面の液膜が乾燥する沸騰遷移現象の発生を防止することが肝要である。このためには燃料被覆管表面任意の局所的な位置の液膜情報を高空間分解能で検出する必要がある。上記実施の形態によればこのための適切な液膜情報を容易に収集することができる。周囲の電極対25の存在の影響を排除して所定の計測位置に限定された固有の液膜厚情報を、その液膜の有無も含め、膜厚が薄くても良好に得ることができるからである。
【0062】
他にもボイラ、熱交換器、復水器の伝熱管等、コロナ放電の評価に必要とされる電線表面上の液膜厚さ分布が構造物の構造設計乃至熱設計の重要な要素となっている場合には、有効に適用し得る。ちなみに、復水器の伝熱管に形成される液膜は伝熱効率の点からより薄い方が好ましいが、この場合のように液膜を薄膜とするための条件を検討する場合等の基礎データの収集の際に、特に有効に適用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、構造体の表面に付着している導電性の液膜厚さの時間分布および空間分布を計測する産業分野、例えば原子力産業の分野で良好に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 パソコン
21 励起電極
22 計測電極
23 グランド領域
24 絶縁部
25 電極対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の電極である励起電極及び他方の電極である計測電極からなる電極対の複数個と、励起電極の基準電位と同じ電位に保持されたグランド領域と、前記励起電極、計測電極及び前記グランド領域間を電気的に絶縁する絶縁部とを有するインピーダンス計測センサであって、
前記絶縁部は、周囲を前記グランド領域に囲まれてそれぞれ独立した絶縁領域を形成しており、
前記各電極対のうち同一電極対における励起電極と計測電極との間には前記絶縁領域のみが形成されていることを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項2】
請求項1に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記各電極対のうち隣接する電極対間における励起電極と計測電極との間の距離、または計測電極と励起電極との間の距離が、同一電極対における励起電極と計測電極との間の距離よりも長くなるように形成されていることを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項3】
被測定対象の表面の各計測位置に配設される請求項1に記載するインピーダンス計測センサと、
前記表面に存在する液体に基づく前記各電極対における励起電極及び計測電極間のインピーダンスに基づき前記各液体の存在量を演算する演算処理部とを有することを特徴とするインピーダンス計測装置。
【請求項4】
請求項3に記載するインピーダンス計測装置において、
前記存在量は、液膜の膜厚であることを特徴とするインピーダンス計測装置。
【請求項5】
請求項3に記載するインピーダンス計測装置において、
前記存在量は、前記各電極対の位置における複数種類の液体の存在率であることを特徴とするインピーダンス計測装置。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5に記載する何れか一つのインピーダンス計測装置において、
前記グランド領域を通電により発熱させるための電圧供給手段を有することを特徴とするインピーダンス計測装置。
【請求項7】
請求項6に記載するインピーダンス計測装置において、
前記液体の存在量を計測する計測モードと、前記グランド領域を通電する通電モードとの何れか一方が選択されるように制御する制御手段を有することを特徴とするインピーダンス計測装置。
【請求項8】
被測定対象の表面の複数の液体の存在量の計測位置に、請求項1に記載するインピーダンス計測センサの各電極対を配設するとともに、前記表面に形成される液膜に基づく前記各電極対における励起電極及び計測電極間のインピーダンスに基づき前記各計測位置の液体の存在量を計測することを特徴とするインピーダンス計測方法。
【請求項9】
請求項8に記載するインピーダンス計測方法において、
前記存在量は、液膜の膜厚であることを特徴とするインピーダンス計測方法。
【請求項10】
請求項8に記載するインピーダンス計測方法において、
前記存在量は、前記各電極対の位置における複数の液体の存在率であることを特徴とするインピーダンス計測方法。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10の何れか一つに記載するインピーダンス計測方法において、
インピーダンス計測センサの各電極対は被測定対象の表面の離散した任意の位置に電極対単位で分布させて配設したことを特徴とするインピーダンス計測方法。
【請求項12】
請求項8乃至請求項11の何れか一つに記載するインピーダンス計測方法において、
前記被測定対象には少なくとも原子炉の燃料被覆管、ボイラ,熱交換器,復水器の伝熱管、またはコロナ放電の評価に必要とされる電線を含み、前記存在量の計測位置は前記被測定対象の表面の所定位置であることを特徴とするインピーダンス計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−237273(P2011−237273A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108770(P2010−108770)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本原子力学会、2010年春の年会 予稿集、平成22年3月9日
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】