説明

インプラントおよびその製造方法とインプラントシステム

本発明は、インプラントを生体組織または別のインプラントに生体内で固着させるためのコーティングインプラントに関するものであり、このコーティングインプラントは予備処理した表面と、該予備処理済表面上に化学的および/または機械的に結合させた、セラミック材から成る1つ以上の層を有する。本発明はさらに該コーティングインプラントを製造する方法と、該コーティングインプラントと、カルシウム系バインダーを含むセラミックペーストから構成されるインプラント一式に関するものである。本発明は歯科および整形外科用のインプラントに特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラントを生体組織または別のインプラントに生体内で固着させるためのコーティングインプラントに関するものであり、このコーティングインプラントは予備処理した表面と、該予備処理済表面上に化学的および/または機械的に結合させた、セラミック材から成る1つ以上の層を有する。本発明はさらに該コーティングインプラントを製造する方法と、該コーティングインプラントと、カルシウム系バインダーを含むセラミックペーストから構成されるインプラント一式に関するものである。本発明は歯科および整形外科用のインプラントに特に適している。
【最先端技術とその問題点】
【0002】
人体インプラントと関わるインプラントにとって、その材料がインプラントを骨等の生体組織に最適に固定・固着できる生体適合性を有することは重要である。小さな隙間の存在でさえもがインプラントと組織との間に小さな動きや微動を生み出し、例えばインプラントと組織との接合部に線維組織の領域が形成されてしまう結果、インプラントが緩む可能性が高くなる。また、組織表面の多孔性つまり孔(液胞)の存在もインプラントの固定度を低下させてしまう。インプラントの早期荷重を可能とし、かつインプラントの緩みを長期間にわたって防ぐには、質の高い早期固定性が重要となる。

また、コーティングインプラントの場合、コーティングのインプラント表面への固着度がインプラントシステムにおける弱点となる場合がある。

本発明で使用する化学システムはアルミン酸塩、ケイ酸塩、および/またはリン酸エステル塩系の化学結合セラミック(CBC)に基づいたものであり、SE 463,493,、SE 502,987、WO 00/21489、WO 01/76534、WO 01/76535、PCT/SE02/01480、PCT/SE02/01481に以前記載された生体材料用のものである。有機(高分子)成分をCBC材料、特に同時係属出願であるSE-A0-0302844-6に記載されるようにペースト状の材料に添加してもよい。予備水和処理段階においてコーティングとして使用するCBC材料もまた、SE521973、SE522749、SE0203223−3に記載されている。
【発明の概要】
【0003】
生体組織と接触させて使用するインプラント、特に骨に固着させるインプラントにおいては、十分な強度とそれに伴う耐荷重能力を後々だけではなく適用直後から発揮し、さらには骨の再成長を促すインプラントとインプラント固着技術が従来より求められてきた。

こういった需要を満たすため、本発明は化学結合セラミックを主相として有し、生体内で硬化させると十分な強度を発揮するインプラントシステムを提供するものである。この強度の高さは、セラミック材と任意のセラミックペーストとでコーティングしたインプラントを挿入した直後から得られる。

第一の態様は、生体組織またはその他のインプラントに生体内で固着させるためのコーティングインプラントを提供するものであり、請求項1で定義される。

第二の態様は、該コーティングインプラントの製造方法を提供するものであり、請求項21で定義される。

第四の態様は、インプラントの生体内での固着を強化するためのセラミックペーストを提供するものであり、請求項31で定義される。

第三の態様は、インプラントを生体組織またはその他のインプラントに生体内で固着させるためのインプラント一式を提供するものであり、該コーティングインプラントと該セラミックペーストから構成され、請求項35で定義される。

本発明の主な利点は生体内で形成されるコーティングが早期から発揮する強度の高さであり、この強度はコーティングとインプラント表面との高い接着性と、目的とする組織におけるコーティングインプラントの固着度の高さに由来するものである。コーティングの強度は選択した化学結合セラミック材、その粒子径、インプラント表面の予備処理に左右される。コーティングインプラントの組織内での急速な固着は、このコーティングが未水和の結合相、例えばアルミン酸カルシウムを含んでおり、水和させることで水分を吸収し、コーティングと組織とが接触する部分の体積(または質量)が増大することによるものである。この結果、インプラントとその周囲を取り巻く組織との接触面積が早い段階で広くなり、固着の長期安定化が起こる前のインプラントへの早期荷重が可能となるが、これは新生骨がインプラントに対して成長するからである。

本発明のコーティングインプラント、セラミックペースト、およびインプラント一式は特に整形外科および歯科での応用に適している。
【本発明の詳細な説明】
【0004】
本発明の目的は、骨等の生体組織にインプラントを生体内で固着させるための、化学結合セラミック材(CBC材)から成る層でコーティングしたインプラントを提供することである。インプラントはセラミック、高分子、または金属製である。このシステムは:
a)予備処理したインプラント表面への水和反応によるCBC材の固着と化学的および/または機械的処理による強化と、
b)CBC材から成る個々の副層の(液体輸送および相互水和による)相互固着と、
c)(表面処理および相互水和による)CBC材のCBCペーストへの固着と、
d)CBCペースト(および層状のCBC材)の(溶解−析出と体積増大による)生体組織への固着、
とを特徴とする。

また、コーティングインプラント、セラミックペースト、およびインプラント一式は、インプラントに対する内層の剪断強度高さや、層が複数になることで問題が起こらないように個々の層を薄くする等の、機械的性質を最適化するのに望ましい多孔性や薄さといった、インプラントシステムやその材料に求められる要件を満たさなくてはならない。

本発明の請求はこのようなコーティングインプラントを提供するものであり、該コーティングインプラントは生体組織または別のインプラントにインプラントを生体内固着するのに適している。コーティングインプラントは、予備処理した表面を有するインプラントと、液体で濡らすことにより化学結合セラミック材を形成可能な相を有する材料から成る1つ以上の層から構成される。該1つ以上の層を形成する材料は前述した生体内固着に先立っては概して未水和であり、該1つ以上の層は該インプラントに化学的および/または機械的に結合させることができる。また、該1つ以上の層は、液体で濡らすことにより反応して化学結合セラミック材を形成可能なカルシウム系結合相を有する粉末材料のペーストに任意で化学的および/または機械的に結合させることができる。

本発明において、1つ以上の層、好ましくは少なくとも最外層が概して未水和の状態である。生体内にコーティングインプラントを挿入すると、この/これらの層は体液および/または別途塗布した水和液と反応して水和する。この水和液としては、例えば、最外層および/または生体組織上に塗布するCBC材のペーストが挙げられる。

本発明の一態様においては、インプラント表面を処理して特定の表面粗さにする。この表面処理は、例えばサンドブラストや研削といった機械的なものでも可能だが化学的処理であってもよく、その例としては塩溶融を含むエッチング、オゾン等の種を用いた低温酸化を含む酸化、表面拡散と水和反応によるカルシウム強化が挙げられる。インプラントをカルシウムの存在下で加熱処理することにより化学的に活性な表面層が形成され、結合度を促進する。加熱処理は1000℃より高い温度で行うのが好ましく、より好ましくは1300℃より高い温度である。

本発明の別の態様においては、インプラントの予備処理済表面の表面粗さのRa値は10μmより低く、好ましくは5μmより低く、さらに好ましくは1μmより低いが、実用上、Ra=0.5μmよりは高い。このような表面粗さが、熱溶射、フレーム溶射、電着溶射(EDS)、プラズマ溶射、浸漬、スピンコーティングから成る群の手法で形成した、CBC材の最内層の固着に特に良く適合するものであることが報告されている。

本発明の別の態様においては、インプラントの予備処理済表面の表面粗さのRa値は1μmより低く、好ましくは0.5μmより低く、より好ましくは0.1μmより低いが、実用上、Ra=0.05μmよりは高い。このような表面粗さが、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、レーザークラッディングを含むレーザー法、電解析出(ED)、ゾル−ゲル法から成る群の手法で形成した、CBC材の最内層の固着に特に良く適合するものであることが報告されている。CVD、PVD、ゾル−ゲル法が特に好ましい。最内層の機械的ストレスを最小限にするためには、CBC材の最内層を相対的に薄く、つまり他のいずれの層よりも薄くしなくてはならない。ナノメーターレベル〜10μmを超えない薄さが望ましく、好ましくは2.0μmより薄い。

1つ以上の層を蒸着させた後、ある種の薄層化工程を特に最内層に行うのが良いが、最内層に限定されるものではない。薄層化工程には研削、サンドブラストやドライエッチング等が含まれるが、好ましくは溶解を含む化学処理である。この薄層化に関連して、ゾル−ゲル法を含む粒子の乾燥と析出によって層の部分緻密化を行ってもよい。
水和物のサブミクロン(ナノメーター)サイズの晶子をインプラント表面に析出させることで、第一層をインプラントに機械的に固着させることができる。晶子は好ましくは100nmより小さく、より好ましくは50nmより小さい。本発明のインプラント製造方法を採用する場合、晶子のサイズは通常20〜70nmである。このような晶子の表面積の広さとそれに伴う非常に高い表面エネルギーが、層のインプラントへの固着を促進している。

好ましくは、インプラント表面を予備処理してCBC材の最内層を該表面に化学的に結合させることもでき、そうすることによりインプラント表面本来の金属またはセラミック質が、酸化、焼成、イオン衝撃または熱予備処理を伴う処理によってチタン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩の酸化物、好ましくは複酸化物に化学変化する。この予備処理と関連して、CBC材の内層をこのように形成してもよい。

本発明のある態様において、CBC材から成る層の数は1〜8であり、好ましくは1〜5、さらに好ましくは2〜5である。最内層の外をとりまく層はそれぞれ独立して50μmより薄く、好ましくは30μmより薄いが、5μmよりは厚い。水和させる前の層は多孔性という観点からみると比較的緻密でなくてはならず、その多孔性は好ましくは50%より低く、さらに好ましくは20%より低い。水和中、層の多孔性は10%を下回り、好ましくは5%より低くなるが、熱蒸着法でない例えばスピンコーティングや浸漬法の場合、通常、多孔性は50%を超える。

さらに、最内層を含む各層は独立して結合相を有しており、アルミン酸塩、ケイ酸塩、リン酸エステル塩、硫酸塩、およびその組み合わせから成る群から選択したものであり、好ましくはCa、Sr、Baから成る群の陽イオンを有しており、好ましくはカルシウム系結合相であり、アルミン酸カルシウムが最も好ましい。また、好ましくは3CaO・Al、12CaO・7Al、CaO・Al、CaO・2Al、CaO・6Alのうち1つ以上の相を含む組成を有しており、最も好ましい相は12CaO・7Alである。材料は結晶性でも非晶質であってもよい。好ましくは、粉末材料の粒径は0.1〜20μmであり、より好ましくは1〜10μm、最も好ましくは1〜5μmである。

従って、コーティングを構成する層はそれぞれ異なるまたは同じCBC材から形成されていてもよく、同程度または異なる程度に水和させてもよいが、インプラント前に完全に水和させる層はないのが好ましい。水和反応はインプラント後、体液および/または別途に塗布した水和液と反応して起こり、水和液の例としては最外層および/または生体組織上に塗布したCBC材のペーストが挙げられる。ペーストの塗布およびインプラントに先立ち、任意で、コーティングインプラントをさらに別の水和液に/で浸漬、溶射、スピンコーティング、またはテープキャスティング等して、インプラントのコーティング層にさらに別の水和液を塗布してペーストと併用してもよい。

本発明の別の態様において、システムは、アルミン酸塩および/またはケイ酸塩のカルシウム系結合相を有する粉末材料のセラミックペーストも含んでおり、液体で濡らすと結合相と反応して水和し、上記記載のいずれかのタイプの化学結合セラミックを形成可能である。粉末材料は該液体中でスラリーとなり、結合相と液体が反応して前述のペーストとなり、該最外層と該生体組織との間に生体内形成型の接合部を形成することができる。該粉末材料と該液体とを混合・塗布した直後の初期粘度は好ましくは100,000cPより低く、好ましくは10,000cPより低い。

ある態様においては、有機(高分子)添加剤、好ましくは親水性ポリアクリル系および/またはポリカルボン酸塩系化合物を化学結合セラミック材と特にペーストに添加する。この有機添加剤は適切なレオロジー特性と低い水/セメント比を得るために使用され、また補足的な結合システムとして機能する。また、同時係属出願であるSE-A0-0302844−6に記載されるように、この有機添加剤により強度の向上に加えセラミック材料にさらなる粘弾性が加わる。

最も有益には、ペーストの粉末材料は好ましくは1mmより小さく、より好ましくは0.5mmより小さく、最も好ましくは0.4mmより小さい顆粒状であり、顆粒圧縮密度は35%より高く、好ましくは50%より高く、さらに好ましくは60%より高い。

顆粒を使用することによって、ルースパウダーの場合よりもw/c比(水/セラミック比)を低くすることができる。材料の流動性は顆粒化することで向上する。高圧縮した小顆粒を使用することで、次の工程で加工性に制限なくペーストを成形することができ、混練工程、超音波工程といった次の工程での成形が容易になり、その一方でペーストにおける流動性も維持することができる。ペーストの最終圧縮度は高く35%を超えており、好ましくは50%を超え、さらに好ましくは60%を超えている。

ある態様において、ペーストの顆粒の圧縮度は好ましくは60%より高く、さらに好ましくは65%より高く、最も好ましくは70%より高い。好ましくは、顆粒の平均粒径は少なくとも30μmであり、好ましくは少なくとも50μm、さらに好ましくは少なくとも70μmであるが、最大でも250μm、好ましくは最大200μm、さらに好ましくは最大150μmである。また、顆粒中の粉体粒子の最大粒径は20μmより小さく、好ましくは10μmより小さい。粉体粒子の中でも最大粒径を有する粉体粒子の割合は非常に低いものにすぎないことは重要である。粒径はレーザー回折で測定する。高圧縮顆粒は、粉体材料を冷間静水圧プレス、薄層のタブレットプレス、ハイドロパルス法や爆発圧縮によって特定の圧縮率まで圧縮し、このようにして圧縮した材料を例えば粉砕・割断して特定の粒径にすることで製造される。

本発明の固着システムにおいて、セラミックペーストにはインプラントと生体組織との隙間、骨細胞表面の液胞または孔を埋めるという有益な機能がある。また、その生体適合性や生物活性により、骨組織およびコーティングの最外層への固着を向上させる。最外層はペーストへの固着と硬化したペーストへの結合を向上させるために表面処理されている。最外層表面のRa値は20μmより低いのが適当であり、より好ましくは10μmより低い。しかし、一層しか形成しない態様の場合は特に、この層をPVD法で形成するのが最も好ましく、その表面粗さは好ましくはRa<1μm、さらに好ましくはRa<0.5μm、最も好ましくはRa<0.1μmであるが、0.05μmよりは高い。しかしながら、そういった最外層の表面粗さを、複数の層を形成する場合に適用することも考えられうる。

この固着システムはアパタイトをその場で形成することもできる。アパタイトをその場で形成できるということは、システムが異なる種類のアパタイト、ヒドロキシアパタイト、フッ化アパタイト((Ca(POOHおよびCa(POF)と、任意でその他の生体的に好適な相を形成するに必要な成分を含んでおり、水和反応の最中および/または後にそういった相を形成することができることを意味している。体液は水素とリン酸二水素、炭酸水素イオンを含んでおり、バイオミネラルであるアパタイトや炭酸塩の形成の際、コーティングの未水和または部分水和材料と反応する。ここで有利な点としては、アパタイトを別途に添加する必要がないということである。インプラントのコーティングを形成するセラミック材は、水溶性リン酸エステル塩または水溶性リン酸エステル塩を形成可能な相(リン酸塩等)をさらに含有していてもよい。このようにして形成された材料は化学結合セラミック複合材料であり、インプラント材のコーティング層としての利点を多く有する。材料におけるアパタイトの形成は、材料が生体活性しており人体と相互作用している証拠である。また、生体材料と接触する領域を含め、アパタイトは材料中に均一に分散している。そういった接触領域におけるアパタイトの形成は、固着工程にとって特に好ましいことである。アパタイト形成のもう1つの利点は、環境が塩基性であるということである。アパタイトは内因性物質であることから、インプラント材と生体組織とが強力に結合し、固着システムの固着性が非常に優れたものとなる。

驚くべきことに、水溶性のリン酸エステル塩または生体組織とインプラント材との境界面や間隙で水溶性リン酸エステル塩を形成することが出来る相(例えばリン酸塩)を含むカルシウム系セメントシステムが、アパタイトを含む化学結合セラミック複合材料を形成するだけでなく、骨の治癒を促進することが報告されている。化学的、生物的な融合が起こることによりさらに表面が成長し、生体組織とインプラント材との隙間が減少する。また、アパタイトの存在により、生体が隙間を埋めてゆく速度が早くなる。骨の治癒または成長は、早期の固定と(微動が少なければ線維組織の形成も少ない)、セメント−体液システムからのカルシウム、リン酸エステル塩、炭酸塩の供給に負うものである。カルシウム系システムの溶解・析出により(ミリメーターサイズの)大きな隙間を塞ぐことができ、また水和物の形成による体積(質量)の増大により、生体組織との接点の体積が増大し、より早く固定することができる。

したがって、カルシウムはアルミン酸カルシウム等のカルシウム系セメントシステムから得られる。形成されたアパタイトの表層下のカルシウム量はそれによってある程度減少し、得られたセラミック材におけるギブサイト相の形成が促進される。このギブサイト相の形成は、接触領域におけるカルシウム量とリン酸エステル塩の添加を制御することで調整することができる。

ヒドロキシアパタイト形成(HAP形成)の別の特徴としては、溶解と析出とを伴う硬化における一般的なメカニズムに関連し、このシステムは損傷を受けた骨細胞の治癒に適しているであろうという点であり、その硬質材料(生体で形成されたアパタイト)を失った生体材料は、アルミン酸カルシウムが体液と反応してアパタイトを含む水和物を形成することによって再石化される。材料は溶解し、カルシウム、アルミン酸塩、リン酸エステル塩、水酸基および任意の添加物であるフッ化物等のイオン溶液となり、既存の骨の劣化によるものも含めた孔隙全てを水和物となって埋める。また、その他の骨材料を同様に、例えば骨粗しょう症等の治療に使用することもできる。

前述のインプラントは医療用、整形外科用、または歯科用のいずれであってもよく、その例としては人工整形外科器具、脊椎インプラント、関節インプラント、連結部品、骨釘、骨ねじ、骨強化板が挙げられる。

上述のインプラントはセラミック、金属、または高分子材料から製造することができ、好ましくはチタン、ステンレススチール、アルミナ、ジルコニア、および医療グレードのプラスチックから成る群から選択される。

図において、参照番号1は金属、セラミック、または高分子材製のインプラントを表し、図1はCBC材から成るコーティング層2がどのように形成され任意で水和されるかを表している。

図2は別途の最外層3がどのようにコーティング層2上に形成されるかを示している。コーティング層2の厚さは2μmより薄いのが適当である。外層3は(図からはわかりにくいが)コーティング層2より厚いが、20μmよりは薄いのが適当である。外層3は未水和CA(水和液を全く含まない)から構成されており、未水和CAは好ましくはリン酸エステル塩を含む。また、図2はインプラント手術直前の、CBC材のペースト5を外層3上に形成した状態を示している。

図3はインプラント1とコーティング層2、外層3とペースト5とが患者の既存の硬組織、通常骨組織4における生物壁に対してどのようにインプラントされているかを示している。インプラント直後には、インプラントの外層3の外表面と硬組織との間には平均して約10μmの間隙xがあり、この間隙はたとえインプラントを硬組織に完全に密着させても必ず生じるものであり、点で接触しているにすぎない。しかし、点接触において(図には表されていないが)、最外層は水和すると体積/質量が増大し、その接触表面積が拡大する。また、硬組織には液胞6がある場合があり、硬組織が損傷を受けて再石化の可能性がないことがある。図3はペースト5を含む本発明のインプラントシステムがどのように上手く間隙Xと液胞6とを埋めるかを示している。

図4は未反応の外層3がどのように水和して水和層3´になるかを示しており、通常、外層3と3´は化学質量増大により表層が1〜3μm増大する。この質量増大は水、体液、または水和液が未水和層3に吸収されることで起こる。また、ペースト5は水和して水和層5´となり、液胞6を充填して成る部分6´も含む。

図5は、コーティングインプラント1がどのように硬細胞4と一体化しているかを示すものであり、4´は治癒後の硬細胞である。コーティングインプラントまたはインプラントシステムと生体組織との間の領域にカルシウムイオンおよび任意でリン酸エステル塩/アパタイトをコーティング2、外層3、および/またはペースト5を介して供給した場合、治癒と一体化はさらに早くなる。生物的な成長促進により新生した骨組織4´は外成長層3´および水和ペースト5´と一体化する。ペーストおよび/またはコーティングが例えばケイ酸カルシウム等の徐々に吸収するタイプのシステムの場合、早い時期での固定が可能だが、水和した材料は後に新生した細胞に吸収・置き換えられる。ヒドロキシアパタイトは生体の成長に好影響を与える。上記記載によると、間隙xの大きさは層3´と5´が化学作用によって増大することで小さくなっており、これが新生骨細胞4´の成長による隙間の充填を促進する。この場合、液胞6における新生骨細胞の成長はみられなかった。これは古い骨細胞が損傷を受けており再石化が不可能であったからであるが、液胞が新生骨細胞4´を発達させる可能性がある場合もあることを理解すべきである。

実施例1
ウサギの成体の脛骨顆部に直径3.70mm、ねじ長5mmのチタン製の歯科用スクリューインプラントをインプラントした。これらのスクリューは軽くサンドブラストされており、基準スクリュー(以下、Dシリーズ)として使用した。穿孔はインプラントよりも大きな直径の器具を用いた2段階の穿孔過程を伴う歯科インプラントの手順に従って行われ、続いてネジ穴を形成し、そこに全てのインプラントを同じ深さまで取り付けた。

(軽くサンドブラスト処理した)基準スクリューと同じタイプのその他のインプラントスクリューにアルミン酸カルシウムCaO・Al2O(Aシリーズ)およびケイ酸カルシウムCaO・SiO(Bシリーズ)をプラズマ溶射した。両シリーズはネジ部表面のコーティングが約30ミクロンの厚さになるように溶射された。第3のシリーズCは薄いCAコーティング(約0.2μm。薄い水性アルミン酸カルシウムペースト(シリーズAと同じ組成を有する)でコーティングされている)でインプラント直前にRFスパッター処理されている。CAペーストは、アルミン酸カルシウムの硬化を促進するために1リットルあたり6.5gのLiClを含有する水溶液であった。インプラントは24時間後に取り外され、最大除去トルクをNcmで測定した。

アルミン酸カルシウムでコーティングしたインプラントの骨への固着が、コーティングしていないサンドブラストのチタンスクリューの場合よりも早いことが表1に記載の結果からわかる。24時間後の値は、基準サンプルの値より約100%高い。

表1:ウサギのケースにおける時間別除去トルク値(カッコ内は標準偏差)

【0005】

シリーズCのコーティングの高解像度TEM写真から、チタン表面と非常に緊密に接触しており、600.000倍に拡大すると、原子およびナノスケールであることがわかる。(図6を参照のこと)。

実施例2
水和したCaOAl23のプラズマ溶射コーティングの水和物粒度を透過電子顕微鏡(TEM)で測定した。

ウサギの大腿部に金属製のインプラントを24時間挿入し、続いてウサギを殺してインプラントを固定、埋入させた。集束イオンビーム顕微鏡(FIB)を使用して、水和したコーティングのTEMサンプルを得た。ダイヤモンドソーで切断し、クロスとダイヤモンドペーストを使用して0.25ミクロンまで研磨することで、金属とコーティングとの接合面の断面を得た。FIBを使用して、5x5ミクロンのTEMサンプルを断面から得た。続いて、サンプルを環状暗視野STEMで200keV FEG TEM(Joel)を用いて画像化した。

水和物はプレート状または針状で、粒径は100nmを超えなかった。図7を参照のこと。

実施例3
CaOAl2O3層をアルミナ表面に押し付けて1100℃で6時間熱処理することで、不活性なアルミナ製インプラントに化学的に活性な表面を形成した。熱処理後の表面の組成を、X線回折で分析したところ、表面には結晶状のCaOAl2O3しか存在しなかった。スクラッチテストで試験したところ、CaOAl2O3層とインプラントとの接着性は非常に高く、コーティングの剥離は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0006】
以下に、インプラントの構造を好適な態様を用いてより詳細に説明する。

【図1】は、本発明のコーティングインプラントの外側部分の断面図である。
【図2】は、図1の部分の断面図であり、さらに最外層と本発明のセラミックペーストを施したものである。
【図3】は、生体壁に対して配置(インプラント)した直後の、セラミックペーストを含む図2のコーティングインプラントの断面図である。
【図4】は、図3のインプラントとペーストの約1時間後の断面図である。
【図5】は、治療後の図3〜4のインプラントとペーストの断面図である。
【図6】は、本発明のコーティングとTiインプラント表面との接触領域の高解像度TEM写真(600000倍)である。
【図7】は、本発明のコーティングインプラントを使用した場合の、24時間後にウサギの大腿部に形成された水和物の画像の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織または別のインプラントに生体内で固着させるためのコーティングインプラントであり、予備処理した表面と、該予備処理済表面上に形成される概して未水和の化学結合セラミック材からなる1つ以上の層から構成され、該セラミック材の各層がそれぞれアルミン酸塩、ケイ酸塩、リン酸エステル塩、硫酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択された第一結合相を含み、該セラミック材が該インプラントに化学的および/または機械的に結合されていることを特徴とする。
【請求項2】
第一結合相がCa、Sr、Baからなる群から選択される陽イオンを含むことを特徴とする、請求項1に記載のコーティングインプラント。
【請求項3】
陽イオンがCa陽イオンであることを特徴とする、請求項2に記載のコーティングインプラント。
【請求項4】
第一結合相がアルミン酸カルシウムを含むことを特徴とする、請求項3に記載のコーティングインプラント。
【請求項5】
第一結合相が3CaO・Al、12CaO・7Al、CaO・Al、CaO・2Al、CaO・6Alから成る相を1つ以上含むことを特徴とする、請求項4に記載のコーティングインプラント。
【請求項6】
セラミック材がさらに水溶性リン酸エステル塩または水溶性リン酸エステル塩を形成可能な相(リン酸塩等)を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のコーティングインプラント
【請求項7】
該1つ以上の未水和層の多孔性が50%より低いことを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項8】
インプラントの予備処理した表面の表面粗さのRa値が10μmより低く、0.5μmよりは高いことを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項9】
コーティングの層数が1〜5であることを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項10】
最内層がナノメーターレベル〜10μmを越えない薄さであることを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項11】
最外層が表面処理されており、表面粗さのRa値は<20μmであるが0.5μmよりは高いことを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項12】
少なくとも2つの層を有しており、最内層の外側の層がそれぞれ独立して50μmより薄く、5μmよりは厚いことを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項13】
該インプラントが人工整形外科器具、脊椎インプラント、関節インプラント、連結部品、骨釘、骨ねじ、骨強化板等の医療用、整形外科用、または歯科用インプラントであることを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項14】
該インプラントがセラミック、金属、または高分子材料から成ることを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項15】
該インプラント材をチタン、ステンレススチール、アルミナ、ジルコニア、医療グレードのプラスチックから選択することを特徴とする、請求項14に記載のコーティングインプラント。
【請求項16】
インプラント表面を酸化させることを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項17】
該酸化物がチタン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩系の複酸化物であることを特徴とする、請求項16に記載のコーティングインプラント。
【請求項18】
インプラントへの機械的結合が、該インプラントの表面に析出した水和物のサブミクロンサイズの晶子によってなされることを特徴とする、先行のいずれかの請求項に記載のコーティングインプラント。
【請求項19】
晶子のサイズが100nmより小さいことを特徴とする、請求項18に記載のコーティングインプラント。
【請求項20】
粉末状の概して未水和であるセラミック材の粒径が0.1〜20μmであることを特徴とする、請求項1〜19のいずれかに記載のコーティングインプラント。
【請求項21】
請求項1〜20に記載のコーティングインプラントの製造方法であり:
−インプラントの表面を予備処理する工程と、
−概して粉末状の未水和セラミック材から成る1つ以上の層を該予備処理済表面上に形成し、各層がそれぞれアルミン酸塩、ケイ酸塩、リン酸エステル塩、硫酸塩、およびその組み合わせから成る群から選択した第一結合相を含む工程と、
−硬化液または体液と接触させることで該セラミック材を任意で予備水和反応させて、化学的および/または機械的結合をセラミック材と該インプラントとの間に形成する工程から構成されることを特徴とする。
【請求項22】
該予備処理が、低温酸化を含む酸化、固体拡散とイオン衝撃を含む熱処理、塩溶融、焼成、サンドブラスト、研削を含むエッチングから成る群から選択されることを特徴とする、請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
予備処理後のインプラントの表面粗さのRa値が10μmより低く、0.5μmよりは高いことを特徴とする、請求項21〜22のいずれかに記載の製造方法。
【請求項24】
コーティングの最内層を、熱溶射、フレーム溶射、電着溶射(EDS)、プラズマ溶射、浸漬、スピンコーティングのいずれかの手法でインプラント表面に形成することを特徴とする、請求項23に記載の製造方法。
【請求項25】
インプラントの表面粗さのRa値が1μmより低く0.05μmより高い場合、コーティングの最内層がインプラント表面に化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、レーザークラッディングを含むレーザー法、電解析出(ED)、ゾル−ゲル法のいずれかの手法で形成されることを特徴とする、請求項23に記載の製造方法。
【請求項26】
コーティングが1つの層のみから構成される場合、該層は物理蒸着(PVD)によって形成されることを特徴とする、請求項25に記載の製造方法。
【請求項27】
コーティングの該1つ以上の層を、好ましくは研削、サンドブラスト、ドライエッチング、溶解を含む化学処理から成る群から選択した方法によって薄層化することを特徴とする、請求項21〜26のいずれかに記載の製造方法。
【請求項28】
該薄層化に関し、好ましくはゾル−ゲル法を含む粒子の乾燥と析出により該1つ以上の層の部分緻密化を行うことを特徴とする、請求項27に記載の製造方法。
【請求項29】
コーティングインプラントをそのような別の水和液に/で浸漬、溶射、スピンコーティング、またはテープキャスティングすることで予備水和反応させることを特徴とする、請求項21〜28のいずれかに記載の製造方法。
【請求項30】
粉末状の概して未水和であるセラミック材の粒径が0.1〜20μmであることを特徴とする、請求項21〜29のいずれかに記載の製造方法。
【請求項31】
アルミン酸塩および/またはケイ酸塩の粉末状のカルシウム系バインダーと水和液から構成されることを特徴とするセラミックペースト。
【請求項32】
1mmより小さい顆粒状であり、顆粒の圧縮密度が35%を超えることを特徴とする、請求項31に記載のセラミックペースト。
【請求項33】
顆粒の平均粒径が少なくとも30μm、最大で250μmであることを特徴とする、請求項32に記載のセラミックペースト。
【請求項34】
有機添加物、好ましくは親水性ポリアクリル系および/またはポリカルボン酸塩系化合物を含むことを特徴とする、請求項31〜33のいずれかに記載のセラミックペースト。
【請求項35】
インプラントを生体組織またはその他のインプラントに生体内で固着させるためのインプラント一式であり、請求項1〜20のいずれかに記載のコーティングインプラントと、コーティングインプラントの結合相を水和することが可能な任意の硬化液と、請求項31〜34のいずれかに記載のペーストから構成され、ペーストのセラミックパウダーと水和液とが別々に保持されることを特徴とする。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−512082(P2007−512082A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541100(P2006−541100)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001745
【国際公開番号】WO2005/053764
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(502370421)ドクサ アクティボラグ (8)
【Fターム(参考)】