説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】インホイールモータ駆動装置における潤滑油が封入された減速部ハウジングと車輪ハブ軸受部とを、締め付けボルトによって締結する場合に、減速部ハウジング自体にねじ穴を形成することなく、ボルト部分からの潤滑油の漏洩を防止することを課題とする。
【解決手段】減速部ハウジング22bと車輪ハブ軸受部33とを車輪ハブ軸受部33側から締め付けボルト61を挿し込んで固定するインホイールモータ駆動装置において、減速部ハウジング22b内に挿通された締め付けボルト61の先端が螺合する袋ナット66を減速部ハウジング内22b内に設置し、袋ナット66と減速部ハウジング22との間にOリング68等の油漏れ防止機構を設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの出力軸と車輪のハブとを減速機を介して連結したインホイールモータ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインホイールモータ駆動装置101は、例えば、特開2009−216190号公報(特許文献1)に記載されている。
インホイールモータ駆動装置101は、図12に示すように、車体に取り付けられるハウジング102の内部に駆動力を発生させるモータ部103と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部104と、モータ部103の回転を減速して車輪ハブ軸受部104に伝達する減速部105とを備える。
【0003】
上記構成のインホイールモータ駆動装置101において、装置のコンパクト化の観点からモータ部103には低トルクで高回転のモータが採用される。一方、車輪ハブ軸受部104には、車輪を駆動するために大きなトルクが必要となる。このため、減速部105には、コンパクトで高い減速比が得られるサイクロイド減速機を採用することが多い。
【0004】
サイクロイド減速機を適用した減速部105は、偏心部106a、106bを有するモータ側回転部材106と、偏心部106a、106bに配置される曲線板107a,107bと、曲線板107a、107bをモータ側回転部材106に対して回転自在に支持する転がり軸受106cと、曲線板107a、107bの外周面に係合して曲線板107a、107bに自転運動を生じさせる複数の外ピン108と、曲線板107a、107bの自転運動を車輪側回転部材110に伝達する複数の内ピン109とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−216190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記構成のインホイールモータ駆動装置101において、減速部105の内部には潤滑油が封入されており、曲線板107a、107bと外ピン108および内ピン109との接触部分や転がり軸受111の軌道面等に供給されている。
【0007】
上記潤滑油が封入された減速部105のハウジング102aは、図13に示すように、車輪ハブ軸受部104の外方部材104aのフランジ104bに、ボルト111によって固定されている。
【0008】
そして、減速部105に封入された潤滑油が外部に漏洩しないように、ハウジング102aと外方部材104aのフランジ104bとの固定面は、Oリング112によってシールされている。
【0009】
ところが、上記のように、ハウジング102aと外方部材104aのフランジ104bとの固定は、ハウジング102aにねじ穴102bを切り、このねじ穴102bにボルト111をねじ込むことによって行っているので、ハウジング102aと外方部材104aのフランジ104bとの固定面をOリング112によってシールしても、図13の拡大図に矢印Xで模式的に表したように、ハウジング102aのねじ穴102bとボルト111のねじ山との間に不可避的に生じる微小な隙間から潤滑油が外部に浸み出す恐れがある。
【0010】
また、減速部105のハウジング102aは、軽量化のために、通常、アルミ合金によって形成されている。このアルミ合金製のハウジング102aに、ボルト111を締結するためのねじ穴102bを形成する場合には、強度の点から鋼材製の場合に比し、長く設定しなければならないので、それだけハウジング102aの肉厚を厚くしなければならず、重量アップになるという問題があった。
【0011】
また、ねじ穴102bからの潤滑油の漏洩を防止するために、ハウジング102aに形成するねじ穴102bを袋ねじ穴にすると、ハウジング102aの軸方向長さが長くなり、やはり重量アップになるという問題がある。
また、車輪ハブ軸受部104は、頻度は少ないものの交換するパーツであるため、交換の際にボルト111を何回か締め直す必要があり、アルミ合金製のハウジング102aに形成されたねじ穴102bは耐久性の点でも問題がある。
【0012】
そこで、この発明は、潤滑油が封入された減速部105のハウジング102aと車輪ハブ軸受部104とを、ボルト111によって締結する場合に、ハウジング102a自体にねじ穴102bを形成することなく、ボルト部分からの潤滑油の漏洩を防止することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するために、この発明は、車体に取り付けられるハウジングの内部に駆動力を発生させるモータ部と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部と、モータ部の回転を減速して車輪ハブ軸受部に伝達する減速部とを備え、減速部を収容す減速部ハウジングと車輪ハブ軸受部とを車輪ハブ軸受部の外面側から減速部ハウジングに対し、締め付けボルトを挿し込んで車輪ハブ軸受部と減速部ハウジングとを固定するインホイールモータ駆動装置において、減速部ハウジング内に挿通された締め付けボルトの先端が螺合する袋ねじ穴を有する締結部材を減速部ハウジング内に設置し、締結部材と減速部ハウジングとの間に油漏れ防止機構を設けたことを特徴とする。
【0014】
袋ねじ穴を有する締結部材は、袋ナットによって構成することができる。
【0015】
袋ねじ穴を有する締結部材は、減速部ハウジング内に回り止めすることにより、締め付けボルトの締結作業が容易に行える。
【0016】
締結部材の回り止めは、袋ねじ穴を有する締結部材を収容する凹所を減速部ハウジング内に設け、この凹所に締結部材を収容して回り止めすることができる。
【0017】
また、減速部ハウジング内に設けた凹所に、締結部材を圧入することにより、締め付け作業時に、締結部材の回り止めと、減速部ハウジング内への落下を防止することができる。
【0018】
締結部材と減速部ハウジングとの間の油漏れ防止機構は、締結部材と減速部ハウジングとの間の対向面に設けたシール部材によって構成することができる。
【0019】
前記シール部材としては、Oリングを使用することができる。
【0020】
前記Oリングは、減速部ハウジングの内面と対向する締結部材の外形部と袋ねじ穴の内径との間の中間位置に配置することができる。
【0021】
また、前記Oリングは、減速部ハウジングの内面と対向する締結部材の外形部に配置してもよく、外形部に配置することにより、組立て性が向上する。
【0022】
前記シール部材としては、銅、紙、樹脂等の材料で形成されたガスケットを使用することができる。
【0023】
前記減速部としては、減速比の高いサイクロイド減速機を使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明は、以上のように、減速部ハウジング内に挿通された締め付けボルトの先端が螺合する袋ねじ穴を有する締結部材を、減速部ハウジング内に設置し、締結部材と減速部ハウジングとの間に油漏れ防止機構を設けることにより、締め付けボルトの周囲からの油漏れを防止することができる。
また、締め付けボルトのねじ穴を減速部ハウジング自体に設ける必要がないため、減速部ハウジングの厚みを薄くすることができ、軽量化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【図2】図1のモータ部の拡大図である。
【図3】図1の減速部の拡大図である。
【図4】図1の車輪ハブ軸受部の拡大図である。
【図5】図1のV−V線の断面図である。
【図6】図1のVI−VI線の断面図である。
【図7】この発明の一実施形態に係る減速部ハウジングと車輪ハブ軸受部との固定部分の拡大図である。
【図8】この発明の他の実施形態に係る減速部ハウジングと車輪ハブ軸受部との固定部分の拡大図である。
【図9】この発明の他の実施形態に係る減速部ハウジングと車輪ハブ軸受部との締結部分の拡大図である。
【図10】図1のインホイールモータ駆動装置を有する電気自動車の概略平面図である。
【図11】図10の電気自動車後方から見た図である。
【図12】従来のインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【図13】図12のインホイールモータ駆動装置における減速部ハウジングと車輪ハブ軸受部との固定部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置を備えた電気自動車11は、図10に示すように、シャーシ12と、操舵輪としての前輪13と、駆動輪としての後輪14と、左右の後輪14それぞれに駆動力を伝達するインホイールモータ駆動装置21とを備える。後輪14は、図11に示すように、シャーシ12のホイールハウジング12aの内部に収容され、懸架装置(サスペンション)12bを介してシャーシ12の下部に固定されている。
【0027】
懸架装置12bは、左右に伸びるサスペンションアームによって後輪14を支持すると共に、コイルスプリングとショックアブソーバとを含むストラットによって、後輪14が地面から受ける振動を吸収してシャーシ12の振動を抑制する。さらに、左右のサスペンションアームの連結部分には、旋回時等に車体の傾きを抑制するスタビライザーが設けられる。なお、懸架装置12bは、路面の凹凸に対する追従性を向上し、駆動輪の駆動力を効率良く路面に伝達するために、左右の車輪を独立して上下させることができる独立懸架式とするのが望ましい。
【0028】
この電気自動車11は、ホイールハウジング12a内部に、左右の後輪14それぞれを駆動するインホイールモータ駆動装置21を設けることによって、シャーシ12上にモータ、ドライブシャフト、およびデファレンシャルギヤ機構等を設ける必要がなくなるので、客室スペースを広く確保でき、かつ、左右の駆動輪の回転をそれぞれ制御することができるという利点を備えている。
【0029】
一方、この電気自動車11の走行安定性を向上するために、ばね下重量を抑える必要がある。また、さらに広い客室スペースを確保するために、インホイールモータ駆動装置21の小型・軽量化が求められる。
【0030】
インホイールモータ駆動装置21は、図1に示すように、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力を駆動輪14に伝える車輪ハブ軸受部Cとを備え、モータ部Aと減速部Bとは、モータ部ハウジング22aと減速部ハウジング22bに収納されて、図11に示すように電気自動車11のホイールハウジング12a内に取り付けられる。
【0031】
モータ部Aは、図2に示すように、モータ部ハウジング22aに固定されるステータ23と、ステータ23の内側に径方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータ24と、ロータ24の内側に固定連結されてロータ24と一体回転するモータ側回転部材25とを備えるラジアルギャップモータである。ロータ24は、フランジ形状のロータ部24aと円筒形状の中空部24bとを有し、転がり軸受36a、36bによってモータ部ハウジング22aに対して回転自在に支持されている。
【0032】
モータ側回転部材25は、モータ部Aの駆動力を減速部Bに伝達するためにモータ部Aから減速部Bにかけて配置され、減速部B内に偏心部25a、25bを有する。このモータ側回転部材25は、ロータ24の中空部24bに嵌合固定されて、ロータ24と一体回転する。さらに、2つの偏心部25a、25bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うために、180°位相を変えて設けられている。
【0033】
減速部Bは、図3に示すように、偏心部25a、25bに回転自在に保持される公転部材としての曲線板26a、26bと、減速部ハウジング22b上の固定位置に保持され、曲線板26a、26bの外周部に係合する外周係合部材としての複数の外ピン27と、曲線板26a、26bの自転運動を車輪側回転部材28に伝達する運動変換機構と、偏心部25a、25bに隣接する位置にカウンタウェイト29とを備える。また、減速部Bには、減速部Bに潤滑油を供給する減速部潤滑機構が設けられている。
車輪側回転部材28は、フランジ部28aと軸部28bとを有する。フランジ部28aの端面には、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周上の等間隔に内ピン31を固定する穴が形成されている。また、軸部28bは車輪ハブ32に嵌合固定され、減速部Bの出力を車輪14に伝達する。車輪側回転部材28のフランジ部28aとモータ側回転部材25とは、転がり軸受36cによって回転自在に支持されている。
【0034】
曲線板26a、26bは、図6に示すように、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、一方側端面から他方側端面に貫通する複数の貫通孔30aを有する。貫通孔30aは、曲線板26a、26bの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、後述する内ピン31を受入れる。また、貫通孔30bは、曲線板26a、26bの中心に設けられており、偏心部25a、25bに嵌合する。
【0035】
曲線板26a、26bは、転がり軸受41によって偏心部25a、25bに対して回転自在に支持されている。この転がり軸受41は、偏心部25a、25bの外径面に嵌合し、その外径面に内側軌道面を有する内輪部材と、曲線板26a、26bの貫通孔30bの内径面に直接形成された外側軌道面と、内側軌道面および外側軌道面の間に配置される複数の円筒ころ44と、隣接する円筒ころ44の間隔を保持する保持器(図示省略)とを備える円筒ころ軸受である。
【0036】
外ピン27は、モータ側回転部材25の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられる。曲線板26a、26bが公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン27とが係合して、曲線板26a、26bに自転運動を生じさせる。ここで、外ピン27は、針状ころ軸受によって減速部ハウジング22bに対して回転自在に支持されている。これにより、曲線板26a、26bとの間の接触抵抗を低減することができる。
【0037】
カウンタウェイト29は、円板状で、中心から外れた位置にモータ側回転部材25と嵌合する貫通孔を有し、曲線板26a、26bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を打ち消すために、各偏心部25a、25bに隣接する位置に偏心部と180°位相を変えて配置される。
【0038】
運動変換機構は、車輪側回転部材28に保持された複数の内ピン31と、曲線板26a、26bに設けられた貫通孔30aとで構成される。内ピン31は、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられており、その軸方向一方側端部が車輪側回転部材28に固定されている。また、曲線板26a、26bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板26a、26bの貫通孔30aの内壁面に当接する位置に針状ころ軸受が設けられている。
【0039】
貫通孔30aは、複数の内ピン31それぞれに対応する位置に設けられ、貫通孔30aの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(「針状ころ軸受を含む最大外径」を指す。以下同じ。)より所定分大きく設定されている。
【0040】
減速部潤滑機構は、減速部Bに潤滑油を供給するものであって、潤滑油路26cと、潤滑油給油口25dと、潤滑油排出口22cと、潤滑油貯留部22dと、回転ポンプ51と、循環油路22gとを備える。
【0041】
潤滑油路25cは、モータ側回転部材25の内部を軸線方向に沿って延びている。また、潤滑油供給口25dは、潤滑油路25cからモータ側回転部材25の外径面に向かって延びている。なお、この実施形態において、潤滑油供給口25dは、偏心部25a、25bに設けられている。
【0042】
また、減速部Bの位置における減速部ハウジング22bの少なくとも1箇所には、減速部B内部の潤滑油を排出する潤滑油排出口22cが設けられている。また、潤滑油排出口22cと潤滑油路25cとを接続する循環油路22gがモータ部ハウジング22aの内部に設けられている。そして、潤滑油排出口22cから排出された潤滑油は、循環油路22gを経由して潤滑油路25cに還流する。
【0043】
さらに、減速部潤滑機構は、循環油路22gを通過する潤滑油を冷却する冷却手段をさらに有する。この実施形態における冷却手段は、モータ部ハウジング22bに設けられた冷却水路22eを備え、冷却手段は、潤滑油のみならず、モータ部Aの冷却にも寄与する。
【0044】
車輪ハブ軸受部Cは、図4に示すように、車輪側回転部材28に固定連結された車輪ハブ32と、車輪ハブ32を減速部ハウジング22bに対して回転自在に保持する車輪ハブ軸受33とを備える。車輪ハブ32は、円筒形状の中空部32aとフランジ部32bとを有する。フランジ部32bにはボルト32cによって駆動輪14が固定連結される。また、車輪側回転部材28の軸部28bの外径面にはスプラインおよび雄ねじが形成されている。また、車輪ハブ32の中空部32aの内径面にはスプライン穴が形成されている。そして、車輪ハブ32の内径面に車輪側回転部材28を螺合し、先端をナット32dでとめることによって、両者を締結している。
【0045】
車輪ハブ軸受33は、車輪ハブ32の中空部32aの車両アウター側の外径面に一体形成されたアウター側軌道面と車輪ハブ32の中空部32aの車両インナー側の外径面に嵌合された外面にインナー側軌道面を有する内輪33bとからなる内方部材33aと、この内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に配置される複列の玉33cと、内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に対向するアウター側軌道面とインナー側軌道面を内周面に有する外方部材33dと、隣接する玉33cの間隔を保持する保持器33eと、車輪ハブ軸受33の軸方向両端部を密封する密封部材33f、33gとを備える複列アンギュラ玉軸受である。
【0046】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dは、減速部ハウジング22bに対して締結ボルト61によって固定される。
【0047】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dには、外径部にフランジ部33hが設けられ、減速部B側に円筒部33iが設けられている。
【0048】
減速部ハウジング22bの車輪ハブ軸受部C側の端面には、車輪ハブ軸受32の外方部材33dのフランジ部33hに面接触し、外方部材33dの円筒部33iに嵌合する環状部22fが設けられている。
【0049】
減速部ハウジング22bの環状部22fの外径よりの端面には、車輪ハブ軸受32の外方部材33dのフランジ部33hとの間を密封するために、Oリング62を嵌める環状溝63が形成されている。
【0050】
車輪ハブ軸受32の外方部材33dのフランジ部33hには、締結ボルト61を挿通するための、ボルト挿通孔64が周方向に複数設けられている。
【0051】
また、減速部ハウジング22bの環状部22fには、外方部材33dのフランジ部33hのボルト挿通孔64に対応する位置に、ボルト挿通孔65が設けられている。
【0052】
締結ボルト61は、車輪ハブ軸受32側から外方部材33dのフランジ部33hのボルト挿通孔64に挿通して、締結ボルト61の先端を減速部ハウジング22bの環状部22fのボルト挿通孔65から減速部ハウジング22の内面側に突き出させ、この突き出した締結ボルト61の先端を、減速部ハウジング22bの内面に設けた袋ナット66にねじ込んで、外方部材33dのフランジ部33hと減速部ハウジング22bの端面の環状部22fとを密着させている。
【0053】
減速部ハウジング22bの端面の環状部22fの内面側には、袋ナット66を収容する凹所67が設けられている。
【0054】
凹所67の形状は、袋ナット66の外形形状と同一にしてもよいし、同一でなくても、図5に示すように、袋ナット66の外形の平行な2面が嵌まる平行部を有する形状、即ち、袋ナット66を収容した状態で、袋ナット66の回り止めができる形状であればよい。
【0055】
袋ナット66は、凹所67に対して圧入することが好ましい。袋ナット66を凹所67に圧入することにより、袋ナット66の減速部ハウジング22bにおける位置が決まり、締結ボルト61を外方部材33dのフランジ部33h側から挿し込んだ際に、袋ナット66が減速部ハウジング22b側への抜け出しを防止できる。
【0056】
上記凹所67の底面と対向する袋ナット66の端面との間には、図7〜図9示すように、減速部ハウジング22b内の潤滑油が締結ボルト61のねじ山と、減速部ハウジング22bのボルト挿通孔67、外方部材33dのフランジ部33hのボルト挿通孔64との間から潤滑油が漏れ出さないようにするために、シール部材が配置されている。
【0057】
このシール部材は、図7及び図8の実施形態では、Oリング68を使用し、図9の実施形態では、銅、紙、樹脂等の材料で形成されたガスケット69を使用している。
【0058】
図7の実施形態では、Oリング68を袋ナット66の外形部と袋ねじ穴の内径との間の中間位置に配置している。
【0059】
また、図8の実施形態では、Oリング68を袋ナット66の外形部に配置している。図8の実施形態のように、Oリング68を袋ナット66の外形部に配置すると、Oリング68の取り付けが容易であり、組立て性がよい。
【0060】
上記の実施形態では袋ナット66を使用したが、減速部ハウジング22b内に挿通された締め付けボルト61の先端が螺合する袋ねじ穴を有する締結部材であれば、袋ナット以外でもよい。
【0061】
この発明は、前記のように、減速部ハウジング22b内に挿通された締め付けボルト61の先端を、減速部ハウジング22b内に配置された袋ねじ穴を有する締結部材に螺合することにより、減速部ハウジング22bと車輪ハブ軸受32とを固定している。したがって、減速部ハウジング22b自体にねじ穴を形成することなく、車輪ハブ軸受32を固定することができるので、減速部ハウジング22bの肉厚を薄くすることができ、それにより軽量化が図れる。
【0062】
また、袋ねじ穴を有する締結部材の端面を、減速部ハウジング22bの内面にシール部材を介して密着させることにより、締め付けボルト61の回りからの潤滑油の漏洩を防止することができる。
【0063】
以下、インホイールモータ駆動装置21の作動原理について説明する。
モータ部Aは、例えば、ステータ23のコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石または磁性体によって構成されるロータ24が回転する。これにより、ロータ24に接続されたモータ側回転部材25が回転すると、曲線板26a、26bはモータ側回転部材25の回転軸心を中心として公転運動する。このとき、外ピン27が、曲線板26a、26bの曲線形状の波形と係合して、曲線板26a、26bをモータ側回転部材25の回転とは逆向きに自転運動させる。
【0064】
貫通孔30aに挿通する内ピン31は、曲線板26a、26bの自転運動に伴って貫通孔30aの内壁面と当接する。これにより、曲線板26a、26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a、26bの自転運動のみが車輪側回転部材28を介して車輪ハブ軸受部Cに伝達される。
【0065】
このとき、モータ側回転部材25の回転が減速部Bによって減速されて車輪側回転部材28に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、駆動輪14に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0066】
なお、上記構成の減速部Bの減速比は、外ピン27の数をZA、曲線板26a、26bの波形の数をZBとすると、(ZA−ZB)/ZBで算出される。図6に示す実施形態では、ZA=12、ZB=11であるので、減速比は1/11と、非常に大きな減速比を得ることができる。
【0067】
このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。また、外ピン27および内ピン31に針状ころ軸受を設けたことにより、曲線板26a、26bとの間の摩擦抵抗が低減されるので、減速部Bの伝達効率が向上する。
【0068】
上記の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21を電気自動車11に採用することにより、ばね下重量を抑えることができる。その結果、走行安定性に優れた電気自動車11を得ることができる。
【0069】
また、上記の実施形態においては、潤滑油供給口25dを偏心部25a、25bに設けた例を示したが、これに限ることなく、モータ側回転部材25の任意の位置に設けることができる。ただし、転がり軸受41に安定して潤滑油を供給する観点からは、潤滑油供給口25dは偏心部25a、25bに設けるのが望ましい。
【0070】
また、上記の実施形態においては、減速部Bの曲線板26a、26bを180°位相を変えて2枚設けたが、この曲線板の枚数は任意に設定することができ、例えば、曲線板を3枚設ける場合は、120°位相を変えて設けるとよい。
【0071】
また、上記の実施形態における運動変換機構は、車輪側回転部材28に固定された内ピン31と、曲線板26a、26bに設けられた貫通孔30aとで構成される例を示したが、これに限ることなく、減速部Bの回転を車輪ハブ32に伝達可能な任意の構成とすることができる。例えば、曲線板に固定された内ピンと、車輪側回転部材に形成された穴とで構成される運動変換機構であってもよい。
【0072】
なお、上記の実施形態における作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから駆動輪に伝達される。したがって、上述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。
【0073】
また、上記の実施形態における作動の説明では、モータ部Aに電力を供給してモータ部Aを駆動させ、モータ部Aからの動力を駆動輪14に伝達させたが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、駆動輪14側からの動力を減速部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電しても良い。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、後でモータ部Aを駆動させたり、車両に備えられた他の電動機器等の作動に用いたりしてもよい。
【0074】
さらに、上記の実施形態の構成にブレーキを加えることもできる。例えば、図1の構成において、ケーシング22を軸方向に延長してロータ24の図中右側に空間を形成し、ロータ24と一体的に回転する回転部材と、ケーシング22に回転不能にかつ軸方向に移動可能なピストンと、このピストンを作動させるシリンダとを配置して、車両停止時にピストンと回転部材とを嵌合させてロータ24をロックするパーキングブレーキであってもよい。
【0075】
または、ロータ24と一体的に回転する回転部材の一部に形成されたフランジおよびケーシング22側に設置された摩擦板をケーシング22側に設置されたシリンダで挟むディスクブレーキであってもよい。さらに、この回転部材の一部にドラムを形成すると共に、ケーシング22側にブレーキシューを固定し、摩擦係合およびセルフエンゲージ作用で回転部材をロックするドラムブレーキを用いることができる。
【0076】
また、上記の実施形態において、曲線板26a、26bを支持する軸受として円筒ころ軸受の例を示したが、これに限ることなく、例えば、すべり軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、4点接触玉軸受等、すべり軸受であるか転がり軸受であるかを問わず、転動体がころであるか玉であるかを問わず、さらには複列か単列かを問わず、あらゆる軸受を適用することができる。また、その他の場所に配置される軸受についても、同様に任意の形態の軸受を採用することができる。
【0077】
ただし、深溝玉軸受は、円筒ころ軸受と比較して許容限界回転数は高い反面、負荷容量が低い。そのため、必要な負荷容量を得るためには、大型の深溝玉軸受を採用しなければならない。したがって、インホイールモータ駆動装置21のコンパクト化の観点からは、転がり軸受41には円筒ころ軸受が好適である。
【0078】
また、上記の各実施形態においては、モータ部Aにラジアルギャップモータを採用した例を示したが、これに限ることなく、任意の構成のモータを適用可能である。例えばケーシングに固定されるステータと、ステータの内側に軸方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータとを備えるアキシアルギャップモータであってもよい。
【0079】
また、上記の各実施形態においては、減速部Bにサイクロイド減速機構を採用したインホイールモータ駆動装置21の例を示したが、これに限ることなく、任意の減速機構を採用することができる。例えば、遊星歯車減速機構や平行軸歯車減速機構等が該当する。
【0080】
さらに、図10に示した電気自動車11は、後輪14を駆動輪とした例を示したが、これに限ることなく、前輪13を駆動輪としてもよく、4輪駆動車であってもよい。なお、本明細書中で「電気自動車」とは、電力から駆動力を得る全ての自動車を含む概念であり、例えば、ハイブリッドカー等をも含むものとして理解すべきである。
【0081】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0082】
11 電気自動車
12 シャーシ
12a ホイールハウジング
12b 懸架装置
13 前輪
14 後輪
22a ハウジング
22b 減速部ハウジング
61 締め付けボルト
66 袋ナット
67 凹所
68 Oリング
69 ガスケット
A モータ部
B 減速部
C 車輪ハブ軸受部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付けられるハウジングの内部に駆動力を発生させるモータ部と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部と、モータ部の回転を減速して車輪ハブ軸受部に伝達する減速部とを備え、減速部を収容する減速部ハウジングと車輪ハブ軸受部とを車輪ハブ軸受部の外面側から減速部ハウジングに対し、締め付けボルトを挿し込んで車輪ハブ軸受部と減速部ハウジングとを固定するインホイールモータ駆動装置において、減速部ハウジング内に挿通された締め付けボルトの先端が螺合する袋ねじ穴を有する締結部材を減速部ハウジング内に設置し、締結部材と減速部ハウジングとの間に油漏れ防止機構を設けたことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
袋ねじ穴を有する締結部材が、袋ナットによって構成されている請求項1記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
袋ねじ穴を有する締結部材が、減速部ハウジング内に回り止めされている請求項1又は2記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
袋ねじ穴を有する締結部材を収容する凹所を減速部ハウジング内に設け、この減速部ハウジングの凹所に締結部材を収容した状態で締結部材が回り止めされる請求項3記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
減速部ハウジング内に設けた凹所に、締結部材が圧入されている請求項3又は4記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
締結部材と減速部ハウジングとの間に油漏れ防止機構が、締結部材と減速部のハウジングとの間の対向面に設けたシール部材によって構成されている請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記シール部材がOリングである請求項6記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記Oリングが、減速部ハウジングの内面と対向する締結部材の外形部と袋ねじ穴の内径との間の中間位置に配置した請求項7記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
前記Oリングが、減速部ハウジングの内面と対向する締結部材の外形部に配置した請求項7記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項10】
前記シール部材がガスケットである請求項6記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項11】
前記減速部がサイクロイド減速機である請求項1〜10記載のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項12】
前記モータ部がラジアルギャップモータである請求項1〜11記載のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−185286(P2011−185286A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47840(P2010−47840)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】