説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】減速機構およびロータ軸を支持する軸受を確実にオイル潤滑できるようにしたインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】モータケース10内にモータ収容室17を設け、そのモータ収容室17の一側に隔離して減速部収容室18を設ける。モータ収容室17に電動モータ30を組込み、減速部収容室18には、その電動モータ30の回転を減速してハブ輪65に出力する遊星歯車式減速機構40を組込み、その減速機構40を減速部収容室18に収容した潤滑オイルで潤滑する。モータ収容室17と減速部収容室18間の隔壁16には、減速部収容室18と対向する内面中央部にテーパ状にオイル案内面21を設け、遊星歯車44の回転で掻き上げられて、その隔壁内面に伝って流れ落ちる潤滑オイルを、そのオイル案内面21から電動モータ30のロータ軸34上に導いて、そのロータ軸34上に設けられた軸受47をオイル潤滑する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の駆動車輪を駆動するインホイールモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、インホイール式電気自動車の概略を示す。この電気自動車においては、駆動車輪としての左右一対の後輪1のそれぞれ内側に電動モータを駆動源とするモータ駆動装置Aを収容し、そのモータ駆動装置Aによって一対の後輪1のそれぞれを単独に駆動するようにしている。
【0003】
上記のようなインホイール式電気自動車に採用されるモータ駆動装置Aは、電動モータと、その電動モータのロータ軸の回転を減速する減速機構と、その減速機構からの出力により回転駆動される駆動車軸とを有し、上記駆動車軸の回転を、その駆動車軸に支持されたハブ輪から後輪に伝達するようにしている。
【0004】
上記モータ駆動装置Aにおいては、後輪の内側に収容する関係から、軸方向長さのコンパクト化が要求される。特許文献1に記載されたモータ駆動装置においては、電動モータのロータの内側に遊星歯車式の減速機構を配置して、モータ駆動装置の軸方向長さのコンパクト化を図るようにしている。
【0005】
遊星歯車式の減速機構においては、歯車の摩耗による耐久性の低下を抑制し、かつ、噛み合いによる異音の発生を抑制するため、潤滑する必要がある。さらに、ロータ軸を回転自在に支持する軸受は、その焼き付きを防止するため、オイル潤滑する必要がある。
【0006】
そのため、上記特許文献1に記載されたモータ駆動装置においては、電動モータを収容するモータケース内にオイルを収容し、そのオイルによって電動モータを冷却し、かつ、遊星歯車式の減速機構を潤滑するようにしている。また、電動モータを収容する収容室の壁に、電動モータのロータで掻き上げられたオイルを貯留するオイルリザーバを設け、そのオイルリザーバに貯留するオイルでもってロータ軸を支持する一対の軸受のそれぞれを潤滑するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−173762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載されたモータ駆動装置においては、上記のように、モータケース内に収容された一種のオイルによって電動モータの冷却と減速機構の潤滑とを行なうようにしているため、オイルはロータの外周下部が浸かる程度、つまり、ロータで掻き上げられるだけのオイル量を必要とする。このとき、減速機構の潤滑用には、粘性の高いオイルが採用されるため、そのオイルの粘性抵抗によって、電動モータの効率低下が懸念される。
【0009】
また、減速機構における歯車の摩耗による金属粉がオイルに混入し、その金属粉の混入オイルにより電動モータが冷却されるため、電動モータ内に金属粉が侵入して電動モータに悪影響を与える可能性がある。
【0010】
この発明の課題は、減速機構およびロータ軸を支持する軸受を確実にオイル潤滑することができるようにしたインホイールモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、車体に支持されるモータケースと、そのモータケース内に固定されたステータおよびそのステータ内に組み込まれたロータを有し、そのロータの中心軸上にロータ軸が設けられた電動モータと、その電動モータのロータ軸の回転を減速して出力する減速機構と、その減速機構から出力される回転を駆動車輪に伝達するハブ輪とを有し、前記減速機構が、前記ロータ軸と同軸上に配置された出力軸の軸端部にキャリヤ部を設け、そのキャリヤ部に回転自在に支持された遊星歯車を前記ロータ軸に設けられた太陽歯車と前記モータケースの端板に形成された円筒部の内周に嵌合固定された内歯歯車のそれぞれに噛合させて、太陽歯車の回転により遊星歯車を自転させつつ公転させて、出力軸を減速回転させるようした遊星歯車式のものからなるインホイールモータ駆動装置において、前記モータケースの内部に設けられたモータ収容室の外側方に、そのモータ収容室に隔離して前記減速機構を収容する減速部収容室を設け、その減速部収容室内に減速機構を潤滑する潤滑オイルを貯留し、前記モータ収容室と減速部収容室間の隔壁中央部に、自転しつつ公転する遊星歯車により掻き上げられてその隔壁内面に沿って流れ落ちる潤滑オイルを、前記ロータ軸と前記出力軸とを相対的に回転自在に支持する軸受に向けて誘導するテーパ状のオイル案内面を設けた構成を採用したのである。
【0012】
上記の構成からなるインホイールモータ駆動装置において、電動モータを駆動すると、ロータ軸が回転し、そのロータ軸に設けられた太陽歯車の回転がこれに噛合する遊星歯車に伝達される。このため、遊星歯車は自転しつつ公転し、ロータ軸の回転は減速されて、出力軸から出力され、その出力軸に設けられたハブ輪から駆動車輪に伝達される。
【0013】
上記のような駆動車輪の駆動状態において、遊星ローラの自転および公転により、減速部収容室内に貯留された潤滑オイルが掻き上げられ、その潤滑オイルによって遊星歯車式減速機構が潤滑される。
【0014】
また、掻き上げられた潤滑オイルの一部はモータ収容室と減速部収容室間の隔壁内面に沿って流れ落ち、その隔壁内面の中央部に設けられたオイル案内面に案内されてロータ軸と出力軸とを相対的に回転自在に支持する軸受に向けて流れて、その軸受を潤滑する。
【0015】
このとき、減速部収容室は電動モータを収容するモータ収容室に対して隔離されているため、減速部収容室内の潤滑オイルは電動モータの回転に影響を与えることはない。
【0016】
このため、電動モータの効率を低下させることなく軸受を確実にオイル潤滑することができる。
【0017】
ここで、隔壁の内面に複数のリブを放射状に設けておくと、隔壁の強度を高めて、耐久性の向上を図ることができると共に、隔壁の内面に沿って流れ落ちる潤滑オイルを隔壁の中央部に形成されたオイル案内面に集めることができるため、軸受を効率よくオイル潤滑することができる。
【0018】
また、キャリヤ部に遊星歯車を収容可能とする間隔をおいて対向一対の円板部を設け、隔壁と対向する一方の円板部の内周部に、オイル案内面に沿って流れる潤滑オイルの一部を、遊星歯車を回転自在に支持する軸受に誘導するオイル誘導路を設けることによって、遊星歯車支持用の軸受も同時に潤滑することができる。
【0019】
このとき、オイル誘導路を、一方の円板部の前記隔壁と対向する外表面の内周部に形成された断面L字状の環状溝と、その環状溝の外径側端部に一端部が連通して、上記軸受の端面に向けて延びる貫通孔とからなる構成とすると、上記環状溝がオイル溜りとしての機能を発揮する。キャリヤはロータ軸を中心に自転しているため、環状溝内の潤滑オイルは、遠心力により、遊星歯車支持用の軸受に向けて流れることになり、遊星歯車支持用の軸受をより効果的に潤滑することができる。
【0020】
オイル案内面の小径端部を環状溝内に位置させると、オイル案内面に沿って流れる潤滑オイルを環状溝内に確実に取り込むことができる。
【0021】
この発明に係るインホイールモータ駆動装置において、遊星歯車と対向一対の円板部の対向面間のそれぞれに環状のスペーサを組み込んでおくと、そのスペーサで遊星歯車のアキシャル荷重を支持することができるため、遊星歯車を円滑に回転させることができ、トルクロスの低減を図ることができる。
【0022】
この場合、スペーサのギヤ軸が挿入される軸挿入孔の内周に複数の切欠部を周方向に間隔をおいて形成しておくことにより、オイル誘導路内に流れ込んだ潤滑オイルを上記切欠部から遊星歯車の内径面内に流入させることができ、その内径面内に組み込まれて、遊星歯車を回転自在に支持する軸受を確実にオイル潤滑することができる。
【0023】
また、対向一対の円板部の他方と遊星歯車の対向面間に組み込まれたスペーサの、上記遊星歯車と対向する面に切欠部と同数の溝を、切欠部のそれぞれに連通するようにして放射状に形成しておくと、遊星歯車支持用の軸受を潤滑した潤滑後の潤滑オイルはスペーサに形成された上記溝に沿って流れてロータ軸の軸端部上に流れるため、ロータ軸に軸端部を支持する軸受も効果的にオイル潤滑することができる。
【0024】
ここで、スペーサは、遊星歯車に固定してもよく、遊星ローラに対して相対的に回転自在に支持してもよい。相対的に回転自在の支持とする場合において、スペーサの軸挿入孔を、スペーサ外径面の中心に対する偏心位置に形成しておくと、スペーサは回転時の遠心力によって、大径部が径方向外方に向く姿勢をとり、軸挿入孔の内周に形成された切欠部の一つがオイル誘導路に一致し易くなり、上記切欠部に潤滑オイルを確実に流入させることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明に係る減速装置においては、上記のように、モータケースの内部に設けられたモータ収容室の外側方に、そのモータ収容室に隔離して減速部収容室を設け、その減速部収容室内に減速機構を潤滑する潤滑オイルを貯留し、モータ収容室と減速部収容室間の隔壁中央部には、自転しつつ公転する遊星歯車により掻き上げられてその隔壁内面に沿って流れ落ちる潤滑オイルを、ロータ軸と前記出力軸とを相対的に回転自在に支持する軸受に向けて誘導するテーパ状のオイル案内面を設けたことにより、減速機構と軸受のそれぞれを、電動モータの効率を低下させることなくオイル潤滑することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】インホイール式電動車両の概略図
【図2】この発明に係るインホイールモータ駆動装置の実施の形態を示す正面図
【図3】図2に示すインホイールモータ駆動装置の縦断面図
【図4】図3の電動モータおよび減速機構部を示す断面図
【図5】図3の車輪軸受部を示す断面図
【図6】図4の遊星歯車式減速機構の一部を拡大して示す断面図
【図7】図6のVII−VII線に沿った断面図
【図8】図6のVIII−VIII線に沿った断面図
【図9】遊星歯車式減速機構の他の例を示す断面図
【図10】図9のX−X線に沿った断面図
【図11】図9のXI−XI線に沿った断面図
【図12】モータケースに設けられた隔壁の断面図
【図13】図12の左側面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図2に示すように、駆動車輪1におけるホイール2の内側には、この発明に係るインホイールモータ駆動装置Aが設けられている。
【0028】
図3に示すように、インホイールモータ駆動装置Aは、モータケース10と、そのモータケース10内に収容された電動モータ30と、その電動モータ30の回転を減速して出力する減速機構40と、その減速機構40の出力軸41を回転自在に支持する車輪軸受60を有している。
【0029】
図3および図4に示すように、モータケース10は、円筒状のケース本体11と、そのケース本体11の一端開口を閉塞するカバー12とからなり、上記カバー12には、ケース本体11の開口端部内に嵌合される円筒部12aが形成され、その円筒部12aとケース本体11の嵌合面間はシールリング13の組込みによってシールされている。
【0030】
ケース本体11の他端には環状の端板14が設けられ、その端板14の内周に設けられた円筒部15のインナ側開口は隔壁16により閉塞され、その隔壁16によりモータケース10内が2室に区画され、ケース本体11内がモータ収容室17とされ、円筒部15内が減速部収容室18とされている。
【0031】
図12および図13に示すように、隔壁16は、端板16aの外周に外筒部16bが設けられ、その外筒部16bの開口端に外向きのフランジ16cが形成されてハット状をなし、上記フランジ16cが、図4に示すように、円筒部15のインナ側端面に衝合されてねじ止めされている。
【0032】
端板16aは、その内面に形成された放射状配置の複数のリブ19によって補強されている。また、端板16aの内面中央には内筒部20が形成され、その内筒部20の外周にテーパ状のオイル案内面21が設けられている。図6に示すように、このオイル案内面21は、減速部収容室18内に組み込まれる減速機構40の回転によって掻き上げられた潤滑オイルが端板16aの内面を伝って流れ落ちる際に、その潤滑オイルを減速部収容室18の中心部に向けて誘導するようになっている。
【0033】
図4に示すように、電動モータ30は、モータケース10に固定されたステータ31と、そのステータ31に対する通電によってステータ31の内側で回転するロータ32とを有し、上記ロータ32の中央にはボス部33が形成され、そのボス部33内にロータ軸34が挿通されている。ロータ軸34はキー35によりロータ32に回り止めされて、ロータ32と共に回転するようになっている。
【0034】
ロータ32のボス部33は、隔壁16に設けられた内筒部20内に挿入され、その挿入部間はシール部材22の組込みによってシールされている。
【0035】
電動モータ30のロータ軸34の回転を減速する減速機構40は、隔壁16によってモータ収容室17と隔離された減速部収容室18内に組み込まれている。
【0036】
減速機構40は、ロータ軸34の軸端部に設けられた太陽歯車42と、円筒部15の内径面に嵌合固定された内歯歯車43と、その内歯歯車43の内周の内歯と太陽歯車42の外周の外歯のそれぞれに噛合する遊星歯車44とからなる遊星歯車式のものからなり、上記遊星歯車44が、出力軸41のインナ側端部に設けられたキャリヤ部45で回転自在に支持されている。
【0037】
図4に示すように、出力軸41は、ロータ軸34と同軸上の配置とされ、その軸端部に設けられたキャリヤ部45の軸心上に軸挿入孔46が形成されている。軸挿入孔46の内側には一対の軸受47が組み込まれ、その一対の軸受47によってロータ軸34の軸端部が回転自在に支持されている。
【0038】
図6に示すように、キャリヤ部45は、遊星歯車44を収容可能とする間隔をおいて配置された対向一対の円板部45a、45bを有し、その一対の円板部45a、45bによって両端部が支持されたギヤ軸48上に針状ころ軸受からなる軸受49が設けられ、その軸受49によって遊星歯車44が回転自在に支持されている。
【0039】
対向一対の円板部45a、45bのうち、隔壁16と対向する一方の円板部45aには、隔壁16のオイル案内面21に沿って減速部収容室18の中心部に向けて流れ落ちる潤滑オイルの一部を軸受49の端部に誘導するオイル誘導路50が設けられている。
【0040】
オイル誘導路50は、一方の円板部45aの隔壁16と対向する外表面の内周部に形成された環状溝51と、その環状溝51に一端部が連通して、上記軸受49の端面に向けて延びる傾斜状の貫通孔52とからなり、上記環状溝51は、断面L字状とされてオイル溜りとしての機能を有している。
【0041】
遊星歯車44と対向一対の円板部45a、45bの対向面間のそれぞれには、一対のスペーサ53、54が組み込まれている。スペーサ53、54は環状をなし、上記ギヤ軸48に嵌合する組込みとされて、遊星歯車44のアキシャル荷重を支持するようになっている。
【0042】
図6乃至図8に示すように、スペーサ53、54のそれぞれに形成された軸挿入孔57の内周には複数の切欠部55が周方向に間隔をおいて形成されている。また、遊星歯車44と他方の円板部45b間に組み込まれたスペーサ54には、遊星歯車44と対向する面には切欠部55と同数の溝56が、切欠部55のそれぞれに連通するようにして放射状に形成されている。
【0043】
図3に示すように、減速部収容室18は、隔壁16と内筒部20のアウタ側端部の開口を覆うようにして設けられる車輪軸受60によって密閉状態とされ、その減速部収容室18内に潤滑オイルが収容されている。
【0044】
潤滑オイルは、遊星歯車44の自転と公転とによって掻き上げられて歯車の噛み合い部を潤滑する。また、掻き上げられた潤滑オイルの一部は隔壁16の内面を伝って流れ落ちるようになっている。
【0045】
図5に示すように、車輪軸受60は、軸受外輪61と、その内側に組み込まれた内方部材62を有している。軸受外輪61の外径面には車体取付フランジ63が形成され、その車体取付フランジ63はモータケース10の端板14に設けられた円筒部15のアウタ側端面に衝合され、その端面にねじ込まれるボルト64の締付けによりモータケース10に取付けられている。
【0046】
内方部材62は、ハブ輪65と、そのハブ65のインナ側端部上に設けられた軸受内輪66とからなり、軸受内輪66はハブ輪65のインナ側端部に形成された小径軸部65aに嵌合されている。ハブ輪65および軸受内輪66のそれぞれは軸受外輪61との間に組み込まれた転動体67により回転自在に支持され、その転動体67のそれぞれ外側方に組み込まれたシール部材68は、軸受外輪66と内方部材62の対向端部に形成された軸受空間の両端開口を閉塞している。
【0047】
ハブ輪65には、軸受外輪61のアウタ側端面から外側に位置する端部外周に車輪取付フランジ69が設けられ、その車輪取付フランジ69に設けられた複数のボルト70のそれぞれにナット71がねじ係合され、そのナット71の締付けにより、車輪取付フランジ69にブレーキロータ72と駆動車輪1のホイール2が取付けられている。
【0048】
ハブ輪65は、出力軸41の端部にスプライン嵌合されて、出力軸41と一体に回転するようになっている。
【0049】
上記の構成からなるインホイールモータ駆動装置Aにおいて、ステータ31に対する通電によってロータ32を回転駆動すると、そのロータ32と共にロータ軸34が回転する。
【0050】
ロータ軸34には太陽歯車42が設けられ、その太陽歯車42とモータケース10に固定された内歯歯車43に遊星歯車44が噛合しているため、ロータ軸34が回転すると、遊星歯車44が自転しつつ公転し、ロータ軸34の回転は減速されて出力軸41に伝達される。また、出力軸41にはセレーション嵌合によってハブ輪65が取付けられているため、出力軸41の回転はハブ輪65から駆動車輪1に伝達されて、駆動車輪1が回転駆動される。
【0051】
ここで、遊星歯車式減速機構40の遊星歯車44が自転しつつ公転するとき、減速部収容室18内に収容されている潤滑オイルは、その遊星歯車44に回転により掻き上げられ、その掻き上げられた潤滑オイルによって歯車の噛合部が潤滑される。
【0052】
また、遊星歯車44の回転によって掻き上げられた潤滑オイルの一部は、図6の矢印で示すように、隔壁16の内面を伝って流れ落ち、その隔壁16の内筒部20に形成されたテーパ状のオイル案内面21の先端とキャリヤ部45の円板部45a間に形成された隙間に流れ落ちて、ロータ軸34を回転自在に支持する一対の軸受47の一方をオイル潤滑する。
【0053】
さらに、オイル案内面21の先端から流れ落ちる潤滑オイルの一部は、一方の円板部45aに形成されたオイル誘導路50の環状溝51内に流れ込み、その環状溝51に連通する傾斜状の貫通孔52がロータ軸34を中心に回転しているため、遠心力により、その貫通孔52の傾斜に沿って流れて、一方のスペーサ53の内周の切欠部55から遊星歯車44の中心孔内に流入して軸受49を潤滑する。
【0054】
また、遊星歯車44の中心孔内に流入した潤滑オイルは、中心孔の他端から他方の円板部54の切欠部55内に流入する。このとき、切欠部55には放射状の溝56が連通しているため、切欠部55内に流入した潤滑オイルは、ギヤ軸48を中心とする遊星歯車44の自転による遠心力によってロータ軸34の外径面上に流れ落ちて、そのロータ軸34の軸端部を支持する軸受47を潤滑する。
【0055】
このように、遊星歯車44により掻き上げられて隔壁16内面に沿って流れ落ちる潤滑オイルは、その隔壁16の内面中央部に設けられたテーパ状のオイル案内面21によってロータ軸34と出力軸41とを相対的に回転自在に支持する一対の軸受47に向けて誘導されるため、減速機構40および軸受47のそれぞれをオイル潤滑することができ、しかも、その潤滑オイルを収容する減速部収容室18はモータ収容室17に隔離されたものであるため、電動モータ30の効率を低下させることなく、減速機構40および軸受47のそれぞれをオイル潤滑することができる。
【0056】
図6に示す実施の形態においては、スペーサ53、54のそれぞれを遊星歯車44に対して相対的に回転自在としているが、上記スペーサ53、54のそれぞれを遊星歯車44に固定してもよい。
【0057】
図7および図8では、スペーサ53、54の外径面に対する中心軸上にギヤ軸48が挿入される軸挿入孔57を形成するようにしたが、図10および図11に示すように、外径面の中心に対する偏心位置に軸挿入孔57を形成するようにしてもよい。
【0058】
図9は、図10および図11に示すスペーサ53、54を遊星歯車44の両側位置に組み込んだ状態を示している。この場合、スペーサ53、54のそれぞれは、遊星歯車44に対して相対的に回転可能な組込みとする。
【0059】
図10および図11に示すように、スペーサ53、54の軸挿入孔57を、スペーサ外径面の中心に対する偏心位置に形成しておくと、スペーサ53、54は回転時の遠心力によって、大径部が径方向外方に向く姿勢をとり、軸挿入孔57の内周に形成された切欠部55の一つがオイル誘導路50に一致することになり、切欠部55に潤滑オイルを確実に流入させることができる。
【0060】
図9に示すように、オイル案内面21の小径端をオイル誘導路50の環状溝51内に位置させると、オイル案内面21の小径端から流れ落ちる潤滑オイルを環状溝51内に確実に導くことができ、軸受49やロータ軸34の軸端部を支持する軸受47をより確実にオイル潤滑することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 駆動車輪
10 モータケース
14 端板
15 円筒部
16 隔壁
17 モータ収容室
18 減速部収容室
19 リブ
21 オイル案内面
30 電動モータ
31 ステータ
32 ロータ
34 ロータ軸
40 減速機構
41 出力軸
42 太陽歯車
43 内歯歯車
44 遊星歯車
45 キャリヤ部
45a 端板(円板部)
45b 端板(円板部)
47 軸受
48 ギヤ軸
49 軸受
50 オイル誘導路
51 環状溝
52 貫通孔
53 スペーサ
54 スペーサ
55 切欠部
56 溝
57 軸挿入孔
65 ハブ輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に支持されるモータケースと、そのモータケース内に固定されたステータおよびそのステータ内に組み込まれたロータを有し、そのロータの中心軸上にロータ軸が設けられた電動モータと、その電動モータのロータ軸の回転を減速して出力する減速機構と、その減速機構から出力される回転を駆動車輪に伝達するハブ輪とを有し、前記減速機構が、前記ロータ軸と同軸上に配置された出力軸の軸端部にキャリヤ部を設け、そのキャリヤ部に回転自在に支持された遊星歯車を前記ロータ軸に設けられた太陽歯車と前記モータケースの端板に形成された円筒部の内周に嵌合固定された内歯歯車のそれぞれに噛合させて、太陽歯車の回転により遊星歯車を自転させつつ公転させて、出力軸を減速回転させるようした遊星歯車式のものからなるインホイールモータ駆動装置において、
前記モータケースの内部に設けられたモータ収容室の外側方に、そのモータ収容室に隔離して前記減速機構を収容する減速部収容室を設け、その減速部収容室内に減速機構を潤滑する潤滑オイルを貯留し、前記モータ収容室と減速部収容室間の隔壁中央部に、自転しつつ公転する遊星歯車により掻き上げられてその隔壁内面に沿って流れ落ちる潤滑オイルを、前記ロータ軸と前記出力軸とを相対的に回転自在に支持する軸受に向けて誘導するテーパ状のオイル案内面を設けたことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記隔壁が、放射状のリブを内面に有してなる請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記キャリヤ部が、前記遊星歯車を収容可能とする間隔をおいて配置された対向一対の円板部を有し、前記隔壁と対向する一方の円板部の内周部に、前記オイル案内面に沿って流れる潤滑オイルの一部を、前記遊星歯車を回転自在に支持する軸受に誘導するオイル誘導路を設けた請求項1又は2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記オイル誘導路が、一方の円板部の前記隔壁と対向する外表面の内周部に形成された断面L字状の環状溝と、その環状溝の外径側端部に一端部が連通して、前記軸受の端面に向けて延びる貫通孔とからなる請求項3に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記オイル案内面の小径端部を前記環状溝内に位置させた請求項4に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記遊星歯車と対向一対の円板部の対向面間のそれぞれに、遊星歯車のアキシャル荷重を支持する一対の環状のスペーサを組み込んだ請求項1乃至5のいずれかの項に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記スペーサのギヤ軸が挿入される軸挿入孔の内周に複数の切欠部を周方向に間隔をおいて設けた請求項6に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記対向一対の円板部の他方と前記遊星歯車の対向面間に組み込まれたスペーサの前記遊星歯車と対向する面に前記切欠部と同数の溝を、切欠部のそれぞれに連通するようにして放射状に形成した請求項6又は7に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
前記スペーサが、前記遊星歯車に固定された請求項6乃至8のいずれかの項に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項10】
前記スペーサの軸挿入孔を、スペーサ外径面の中心に対する偏心位置に形成した請求項6乃至8のいずれかの項に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項11】
前記スペーサが、銅、黄銅、樹脂の一種からなる請求項6乃至9のいずれかの項に記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−72458(P2013−72458A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210486(P2011−210486)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】