説明

インライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備

【課題】耐摩耗性及び耐食性に優れ、低コストで、実用的なコンベヤチェーンを用いたインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備の提供。
【解決手段】溶融ソルト槽31内におけるルーズコイルのパスラインに沿ってコンベヤチェーン1を配置し、ルーズコイルをコンベヤチェーン1に載置して、溶融ソルト30に浸漬させながら搬送する構成を有し、溶融ソルトは、硝酸又は亜硝酸のアルカリ金属塩から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせからなり、コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する何れか一方又は両方の部位の材質は、(A)Ni:0.60%以下、Cr:11〜18%、C:1.2%以下、Si:1.0%以下である熱処理されたマルテンサイト系ステンレス鋼、(B)Cr:11〜20%、C:0.12%以下、Si:1.0%以下である熱処理されたフェライト系ステンレス鋼又は(C)コバルト基合金から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルーズコイルを搬送しながら高温の溶融ソルト内に浸漬させて冷却するインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備に関する。
【背景技術】
【0002】
中・高炭素鋼の線材を製造する際に、線材に強度を付与することを目的として、線材を熱間圧延してオーステナイト状態にしてから500℃前後の温度まで急冷して微細パーライトに変態させるパテンティングと呼ばれる熱処理技術が知られている。特に、熱間圧延された直後のルーズコイルの顕熱を利用するように、上述したパテンティングを、圧延ラインに続けてインラインで直接的に行う直接熱処理技術は、直接パテンティングと呼ばれる。
【0003】
特許文献1には、インライン熱処理用の搬送設備として、フラットローラを用いる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−239069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、駆動源に連結されたフラットローラについても開示しており、その駆動源によりフラットローラが回動すると、その上に載置しているルーズコイルは、原則として、その回転に応じて搬送される。しかし、実際には、溶融ソルト槽内にルーズコイルを浸漬させるには、フラットローラの搬送面を下方傾斜させたり、上方傾斜させたりする必要があるため、その傾斜部分では、フラットローラとルーズコイルとの間に滑りが発生する可能性があり、特に上方傾斜部ではフラットローラに突起をつけて摩擦力をアップする必要がある。
【0006】
このようにフラットローラ搬送では、搬送速度が安定せず、搬送速度を上げようとすると、更に不安定になる課題を抱えており、解決すべき課題も残されている。
【0007】
本発明者らは、溶融ソルト槽内におけるルーズコイルの搬送設備として、搬送速度を上昇させても安定して搬送できる技術としてコンベヤチェーンの使用を試みた。
【0008】
搬送設備として、コンベヤチェーンを使用すること自体は、他の技術分野では行われていることであるが、本発明のような、400℃〜600℃の溶融ソルト中という過酷条件下で、使用を試みたことはなく、その実績もない。
【0009】
本発明に用いられる溶融ソルトは、亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムというような硝酸又は亜硝酸のアルカリ金属塩で、それらの物性は、一般的な知見では、酸化力に優れるという程度である(J.D.Lee;「無機化学」など)。
【0010】
金属の材質の検討では、腐食性がまず検討されるが、腐食性の技術的な検討は一般には塩酸や希硫酸のような酸(pHが低い)による腐食が中心で、これらは電気化学的な反応が中心で、酸化還元電位(エネルギー)による電子の移動が問題となる。硝酸の場合には、低pHであるが、金属側に酸化被膜(不動態)を形成するので、電子の移動が阻止されるので、電気化学的な腐食が進行しないことも知られている。このような不動態を利用して、従来は、表面に不動態皮膜(Cr等)を形成させ、且つ該不動態被膜を、Niにより広範囲な酸化性環境において形成させ且つ安定化させるようにするために、Ni及びCrの含量が共に高いステンレス鋼(例えばSUS304、SUS316)が耐食材として用いられている。
【0011】
しかし、このようなステンレス鋼であっても、高温の溶融ソルトという特殊な液の条件下で、耐食性などを含めどのような挙動を示すかは定かでなかった。
【0012】
本発明で用いるソルトである硝酸のアルカリ金属塩は、強酸である硝酸と強塩基であるアルカリ金属からなるので、酸アルカリの分類で言えば中性と言えるものである。一般に中性の物質が電気化学的な腐食を起こすことは考えにくい。
【0013】
一方、酸化力に優れる物質が腐食を起こすこともあることは、塩素による腐食で知られているが、溶融ソルトのような硝酸のアルカリ金属塩が、400℃〜600℃で、高温下でどのような挙動を示し、腐食を起こすかは全く不明であり、チェーンメーカの技術者(当業者)であっても、予想がつかない状況にあった。
【0014】
さらに他方では、コンベヤチェーンでは、回転部分や摺動部分での摩耗対策は基本的な課題であるが、400〜600℃の溶融ソルトという条件下では、予想もつかない状況にあった。
【0015】
このように、400〜600℃の溶融ソルト中におけるコンベヤチェーンの材質の選定は、極めて困難な状況にあり、しかも実用的な水準でなければ、不測の損害を生じさせかねない。また設備的にコスト増を招けば実用面で採用されないという大きな問題もあった。
【0016】
そこで、本発明者は、400〜600℃の溶融ソルト中を駆動するコンベヤチェーンにおいて、実際に種々の材質について検討し、各種の試験を行い、実用に適う材質を鋭意探索した結果、本発明を完成させるに至った。
【0017】
本発明の課題は、400℃〜600℃の溶融ソルト内において、耐摩耗性及び耐食性に優れ、低コストで、実用的なコンベヤチェーンを用いたインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備を提供することにある。
【0018】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0020】
(請求項1)
ルーズコイルを搬送しながら400℃〜600℃の溶融ソルトを入れた溶融ソルト槽内で冷却するルーズコイルのインライン熱処理設備に用いる溶融ソルト槽内搬送設備において、
前記溶融ソルト槽内におけるルーズコイルのパスラインに沿ってコンベヤチェーンを配置し、
前記ルーズコイルを前記コンベヤチェーンに載置して、溶融ソルトに浸漬させながら搬送する構成を有し、
前記溶融ソルトは、硝酸または亜硝酸のアルカリ金属塩から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせからなり、
コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する何れか一方又は両方の部位の材質は、下記(A)、(B)又は(C)から選ばれることを特徴とするインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備。
(A)Ni:0.60%以下、Cr:11〜18%、C:1.2%以下、Si:1.0%以下である熱処理されたマルテンサイト系ステンレス鋼
(B)Cr:11〜20%、C:0.12%以下、Si:1.0%以下である熱処理されたフェライト系ステンレス鋼
(C)コバルト基合金
【0021】
(請求項2)
前記コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する何れか一方又は両方の部位に、硬化肉盛を有することを特徴とする請求項1記載のインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備。
【0022】
(請求項3)
前記溶融ソルトは、硝酸ナトリウム:硝酸カリウム=30〜60:70〜40(重量比)の組成から成ることを特徴とする請求項1又は2記載のインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備。
【0023】
(請求項4)
前記コンベヤチェーンの搬送速度が、5m/min以上50m/min以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、400℃〜600℃の溶融ソルト内において、耐摩耗性及び耐食性に優れ、低コストで、実用的なコンベヤチェーンを用いたインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に用いるコンベヤチェーンの一例を示す要部概略平面図
【図2】図1の概略側面図
【図3】図2のIII−III線断面図
【図4】本発明の実施の形態に係るインライン熱処理設備が備える溶融ソルト槽の一例を示す側面図
【図5】試験装置の概略断面図
【図6】実施例の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明において、溶融ソルト槽とは、溶融ソルトを入れた槽であり、該溶融ソルト槽に入れられる溶融ソルトは、硝酸または亜硝酸のアルカリ金属塩から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせからなり、好ましくは、亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも何れか1種からなることであり、より好ましくは、硝酸ナトリウム:硝酸カリウム=30〜60:70〜40(重量比)の組成からなることである。
【0027】
また、溶融ソルト槽における、溶融ソルトの温度は、400℃〜600℃の範囲である。
【0028】
本発明において、溶融ソルトは、大気中において、固化すると、かなりの高い硬度を示すので、固化析出したソルト固形物の除去は容易でないので、コンベヤチェーンの設計においては、ソルト固形物の除去がし易い構造にしたり、ソルト固形物を再溶融するための加熱処理などが施されてもよい。また摺動部分での固形分析出が起こると、摩耗の問題が起こるので、材質的な面だけでなく、さらに摩耗シロを設けるなどの工夫も可能である。
【0029】
本発明において、溶融ソルト槽のようなインライン熱処理設備にルーズコイルが導入される前工程には、ルーズコイルの製造ラインが設けられ、例えば、鋼のビレットを、連続する非同心リング状態のルーズコイルに熱間圧延する圧延ラインを備えている。
【0030】
その圧延ラインの下流には、ルーズコイルを直接パテンティングする熱処理ラインを備え、該熱処理ラインは、上流の圧延ラインから搬送されたルーズコイルを、直接熱処理(直接パテンティング)するインライン熱処理設備と、直接熱処理したルーズコイルをコイルに成形する収束装置とが、搬送方向に沿って順に配置された構成を有するものを例示できる。
【0031】
前記インライン熱処理設備は、圧延ラインから搬送されたルーズコイルを溶融ソルトで400〜600℃の温度まで冷却する冷却槽、冷却されたルーズコイルを溶融ソルトで400〜600℃の温度に所定時間保持する恒温槽、及びルーズコイルを洗浄し、付着した溶融ソルトを回収する洗浄装置を、搬送方向に沿って順に配置した構成を有するものを例示できる。
【0032】
本明細書において、溶融ソルト槽は、例えば、前記冷却槽や、前記恒温槽である。
【0033】
また、本発明のインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備は、溶融ソルト槽が冷却槽である場合に効果的であるが、さらに冷却槽とこれに続く恒温槽の両方にも適用できる。
【0034】
本発明において、上記溶融ソルト槽内におけるルーズコイル搬送手段には、コンベヤチェーンが用いられる。
【0035】
図1は、本発明に用いるコンベヤチェーンの一例を示す要部切断概略平面図であり、図2は、図1の切断概略側面図であり、更に、図3は、図2のIII−III線断面図である。
【0036】
コンベヤチェーン1において、一対の外リンクプレート3の両端部同士をピン4で連結してなる外リンク2と、一対の内リンクプレート6の両端部同士をセンターブッシュ7で連結してなる内リンク5とを、前記センターブッシュ7の内側に前記ピン4を回転可能に挿通させて長さ方向に連結してある。更に、前記外リンク2の両外側に突出する前記ピン4の外周に、サイドローラ8を回転可能に設けた構成としてもよい。
【0037】
以上の構成としてあるコンベヤチェーン1は、外リンクプレート3及び内リンクプレート6の上端面にルーズコイルを載置して搬送する。
【0038】
載置されている状態で、ルーズコイルは摩擦によって滑りが防止され、従来のようなフラットローラと比べ、転がり落ちることはない。
【0039】
コンベヤチェーンの所要個所には、9で示される係止爪を、直接、あるいは、所要形状の取付部材を介して適宜取り付けることができる。図示の例では、係止爪9を、内側リンクプレート6に設けている。係止爪9はルーズコイルを引っかけて係止する作用を有し、後述する傾斜搬送時等において、載置したルーズコイルのずれを確実に防止する。
【0040】
また、上記各サイドローラ8の少なくとも一部を、図示しないガイドレール上に載置させるように配置しておく。これにより、上記コンベヤチェーン1を循環駆動する際には、上記コンベヤの搬送部材の自重や被搬送物の重量を、上記各サイドローラ8を介して上記図示しないガイドレールに支承させると共に、上記各サイドローラ8がピン4の周りで回転して上記ガイドレールに沿って走行させることで、被搬送物の円滑な搬送を行わせることができる。
【0041】
図4は、本発明の実施の形態に係るインライン熱処理設備が備える溶融ソルト槽の一例を示す側面図である。
【0042】
圧延ラインから、連続する非同心リング状態で搬送されたルーズコイルを溶融ソルト槽に搬送する。本実施の形態では、溶融ソルト槽内に搬送されるルーズコイルは、溶融ソルト槽の搬送方向の入側Iの搬送ロール20側からコンベヤチェーン1に進入し、その後、溶融ソルト30に浸漬させながら搬送される。
【0043】
上述のように、コンベヤチェーン1は、ルーズコイルのパスラインに沿うように溶融ソルト槽内に固定されたガイドレール11に沿って移動するように構成してもよい。
【0044】
また、12はコンベヤチェーン1を軸支し、自身の回転によりコンベヤチェーン1を駆動させる駆動軸であり、13はコンベヤチェーンを軸支し、コンベヤチェーン12の駆動に合わせて従動回転を行う従動軸である。駆動軸12及び従動軸13の外周には、それぞれコンベヤチェーンに係合するスプロケット14、15が設けられている。
【0045】
このようにして、コンベヤチェーン上に搭載されたルーズコイルWを搬送し、冷却、又は、特定の温度に保持することが可能である。
【0046】
本実施の形態では、ルーズコイルWを完全に浸漬させながら搬送できるように、コンベヤチェーン1をガイドするガイドレール11の各位置は、ルーズコイルWの搬送方向に沿って溶融ソルト槽31内で、入側Iから溶融ソルト槽31の中央部に向かって徐々に低くなっている。中央部ではガイドレール11の各位置は液中に没する一定の高さに設定されており、搬送方向下流側では、中央部から出側Oに向かって徐々に高くなっている。即ち、図4に示すように、コンベヤチェーン1によって溶融ソルト槽31内に形成されるルーズコイルの搬送経路面は、搬送方向に直交する幅方向に視て下に凸形状になっている。
【0047】
これにより、溶融ソルト槽31の入側Iから進行させたルーズコイルは、徐々に溶融ソルト30の液中に下降し、溶融ソルト30の液中に完全に浸漬した位置に到達してから、しばらくこの高さで進行した後、溶融ソルト槽31の出側近くで進行させながら徐々に上昇する溶融ソルト槽内搬送が可能となる。
【0048】
なお、図4において、符号200は溶融ソルト槽31の上方を被覆する天蓋部であり、溶融ソルト30の上方の空間を所定の高温状態に維持できるようにしている。これにより、駆動時、コンベヤチェーン1がスプロケット14、15の部位において溶融ソルト30の液面上に露出した際、コンベヤチェーン1に付着した溶融ソルトが冷却されて固化してしまうことを防止する。
【0049】
本発明の溶融ソルト槽内搬送設備において、コンベヤチェーンの、特に、溶融ソルトに浸漬し、且つ摺動する部位では、腐食及び摩耗の進行が著しい。
【0050】
そのため、コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ摺動する部位の材質は、耐食性及び耐摩耗性に優れたものであることが好ましい。
【0051】
本発明の溶融ソルト槽内搬送設備において、コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する何れか一方又は両方の部位の材質が、下記(A)、(B)又は(C)から選ばれる。
(A)Ni:0.60%以下、Cr:11〜18%、C:1.2%以下、Si:1.0%以下である熱処理されたマルテンサイト系ステンレス鋼
(B)Cr:11〜20%、C:0.12%以下、Si:1.0%以下である熱処理されたフェライト系ステンレス鋼
(C)コバルト基合金
【0052】
上記(A)及び(B)における、該熱処理としては、浸炭焼入れ・焼もどし等の処理が例示できる。
【0053】
また、(A)に該当するステンレス鋼としては、SUS403T、SUS420J1、SUS420J2、SUS431、SUS440C等を好ましく例示できる。
【0054】
さらに、(B)に該当するステンレス鋼としては、SUS430等を好ましく例示できる。
【0055】
さらにまた、(C)に該当するコバルト基合金としては、Cr:28.0%、C:1.1%、W:4.0%、Co:Bal.を含むコバルト基合金(例えば商品名:Stellite 6)、又は、Cr:8.5%、C:0.08%以下、Mo:28.5%、Si:2.6%、Co:Bal.、Ni+Fe:3.0%以下を含むコバルト基合金(例えば商品名:Tribaloy T−400)等を好ましく例示できる。なお前記Bal.は、合計を100%にするための数値である。
【0056】
コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する何れか一方又は両方の部位の材質が上記(A)、(B)又は(C)であれば、ルーズコイルをコンベヤチェーンに載置して400℃〜600℃の溶融ソルトに浸漬させて搬送しながら冷却するインライン熱処理を実際に行っても、溶融ソルトに浸漬する部位の腐食の問題は発生せず、且つ摺動部分においても摩耗の発生を抑制できる。また18−8Ni−Cr鋼のようなステンレス鋼のように高価でないので、コスト低減に寄与する。従って実用性に優れる。
【0057】
本発明において、コンベヤチェーンを構成する部品全体を上記(A)、(B)又は(C)で形成してもよいし、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する部位のみを上記(A)、(B)又は(C)で形成してもよい。
【0058】
コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する部位の一方の材質と他方の材質とは、上記(A)、(B)又は(C)から選ばれ、互いに異なる材質によって形成されてもよい。
【0059】
また、本発明においては、コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する部位の両方の材質は、同じ硬度を有する材質であることが好ましいが、互いに異なる硬度を有する材質であってもよい。
【0060】
上述した、コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する部位としては、例えば、サイドローラとピンとの間の摺動部、コンベヤチェーンのピンとセンターブッシュとの摺動部を例示できる。
【0061】
また、チェーン駆動軸及び/又はチェーン従動軸を、溶融ソルト内に浸漬させて用いる場合は、これらとコンベヤチェーンとの摺動部を、上記(A)、(B)又は(C)で形成してもよい。
【0062】
さらにまた、コンベヤチェーンの搬送経路をガイドレールによってガイドする場合は、コンベヤチェーンとガイドレールの摺動部を、上記(A)、(B)又は(C)で形成してもよい。
【0063】
更に、溶融ソルトが付着する部位、及び、溶融ソルト槽に近接する部位を、上記(A)、(B)又は(C)で形成してもよい。
【0064】
また、コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する何れか一方又は両方の部位は、硬化肉盛を有してもよい。
【0065】
硬化肉盛が施される母材の材質は、何れの材質でもよいが、上記(A)、(B)又は(C)の何れかで形成されることが好ましく、より好ましくは上記(A)又は(B)で形成されることである。
【0066】
前記硬化肉盛は、前記母材の硬度を向上する材質からなることが好ましく、上記(C)の材質からなることがより好ましい。
【0067】
本発明においては、溶融ソルト槽において、ルーズコイルを溶融ソルトに浸漬させながら搬送する際に、コンベヤチェーンを用いて搬送するようにしたことによって、最大50m/minまでの搬送速度が適用可能となる。
【0068】
従来の高温用コンベヤチェーンの場合は、チェーンに潤滑を与えられないため、搬送速度を3m/min以下にせざるを得なかったが、これと比べると、各段に搬送速度が上昇し、生産性が向上し、実用性に優れる。
【0069】
本発明では、溶融ソルトに浸漬し、且つ摺動する部位の材質に、上記(A)、(B)又は(C)を適用しているため、上記のような高速搬送を行っても、摩耗の進行を抑えることができる。
【0070】
以上の利点により、線材の製造ラインを高速化及び安定化させることができる。
【0071】
また、コンベヤチェーンを用いれば、コンベヤチェーン上にルーズコイルを載置するだけでよいので、コンベヤチェーンとルーズコイルとの間に摺動が起こらない。そのため、摩擦によりルーズコイルが損傷することがない。
【0072】
更に、ルーズコイルを溶融ソルトに浸漬させながら搬送する搬送経路が上り坂を含んでいる場合であっても、ルーズコイルの搬送方向における先端部、中央部及び後端部の搬送速度を概ね一定に保持し、概ね同じ冷却時間にすることができるため、搬送方向に関しても従来よりも均一な線材を製造することができる。この効果は、コンベヤチェーンに、上述した係止爪9を設けることで、より顕著になる。
【0073】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。
【0074】
上述した実施形態においては、コンベヤチェーン1によって冷却槽内31に形成されるルーズコイルの搬送経路面が下に凸形状になるようにガイドレール11が配置されている場合について説明したが、コンベヤチェーン1によって冷却槽31内に形成されるルーズコイルの搬送経路面は、その他の形状であってもよい。
【0075】
上述した実施形態においては、溶融ソルト槽内におけるルーズコイルのパスライン形成において、サイドローラ8及びガイドレール11を用いる場合について説明したが、これらは本発明の実施に必ずしも必要でなく、例えば、コンベヤチェーン及びルーズコイル自身の重量によって、例えば、下に凸形状になるように、パスラインを形成してもよい。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0077】
実施例1(ソルト浴中における腐食試験)
下記の試験条件下で、下記の試験片を、溶融ソルト中に浸漬させ、外観及び重量の変化について試験した。
【0078】
(試験条件)
浸漬箇所:溶融ソルト槽
溶融ソルト組成:50%NaNO及び50%KNO
溶融ソルト温度:500〜550℃
期間:6ヶ月間、12〜15日/月
【0079】
(試験片)
1.形状 30mmW×200mmL×5mmH
2.材質
試験片1:セラミック;窒化ケイ素(比較)
試験片2:セラミック;炭化ケイ素(比較)
試験片3:Ni:8.00〜10.00%、Cr:18.00〜20.00%を含むオーステナイト系ステンレス鋼(比較)
試験片4:Ni:10.00〜14.00%、Cr:16.00〜18.00%を含むオーステナイト系ステンレス鋼(比較)
試験片5:Cr:28.0、C:1.1、W:4.0、Co:Bal.を含むコバルト基合金(本発明)
【0080】
(結果)
結果を表1に示した。
【0081】
【表1】

【0082】
表1より、外観の変化については、試験片1、2、5では変化がなく、試験片3、4で錆状の変色を発生していることがわかる。
【0083】
また、表1より、重量の変化については、試験片1、2は重量が減少したが、それ以外は重量が変化しないことがわかる。
【0084】
試験片5は、ソルト浸漬前後で重量及び外観ともに変化がなかった。
【0085】
実施例2(ソルト浴中における耐摩耗試験)
下記の試験装置を用い、下記の試験条件下で、下記の試験片を、溶融ソルト中で摩擦試験した。試験片表面に生じた摩耗キズの深さ・幅等から、試験片表面の比摩耗性を評価した。
【0086】
(試験装置)
本試験に用いた試験装置の概略断面図を図5に示す。
【0087】
図5において、40は溶融ソルトであり、電気炉41中において、約500℃に維持されている。試験片(軸)51は、筒状に形成され、筒の内部には61に示されるモータに接続された回転軸62が差し込まれ、回転している。該試験片(軸)51は、両側から平板状の試験片(軸受)52に挟持されている。63に示されるエアーシリンダーから発生した圧力が、64に示す圧力管を介して、一方の試験片(軸受)52を、回転する試験片(軸)に押圧すると共に、対向側の試験片(軸受)は、該圧力の反作用により、反対方向の等しい圧力で回転する試験片(軸)51を押圧する。
【0088】
(試験条件)
浸漬箇所:溶融ソルト槽
溶融ソルト組成:50%NaNO及び50%KNO
溶融ソルト温度:約500℃
転動:荷重100kg
速度200rpm(23.25m/min)
【0089】
(試験片)
1.形状:軸φ37×45mm
軸受60〜70mmW×及び60〜70mmL×10mm(H)
2.材質
試験片1:セラミック;窒化ケイ素(比較)
試験片2:セラミック;炭化ケイ素(比較)
試験片4:Ni:10.00〜14.00%、Cr:16.00〜18.00%を含むオーステナイト系ステンレス鋼(比較)
試験片5:Cr:28.0%、C:1.1%、W:4.0%、Co:Bal.を含むコバルト基合金(本発明)
試験片6:Cr:8.5%、C:0.08%以下、Mo:28.5%、Si:2.6%、Co:Bal.、Ni+Fe:3.0%以下を含むコバルト基合金(本発明)
【0090】
(結果)
結果を表2に示した。
【0091】
【表2】

【0092】
表2より、試験片5及び6の各同材質同士の組み合わせにおいて、耐摩耗性が良好であることがわかる。なお、試験片4は、試験片5及び6との組み合わせにおいて、耐摩耗性を示すが、試験片4同士の組み合わせにおいては耐摩耗性が低かった。
【0093】
実施例3(コンベヤチェーン試験機の耐久試験)
図1〜図3に示すコンベヤチェーンにおいて、センターブッシュの外周に、スプロケットと係合するためのセンターローラを設けた試験機を、下記の材質から形成した。該試験機を、下記の試験条件下で、インライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備に用い、6週間、実際に直接パテンティングを行った後、摺動部の摩耗量、及び、ピッチ伸び率等について測定した。
【0094】
また、試験結果より、各試験機での摩耗寿命を算出した。
【0095】
(試験条件)
浸漬箇所:溶融ソルト槽
溶融ソルト組成:50%NaNO及び50%KNO
溶融ソルト温度:450〜550℃
使用機械:直接パテンティング試験装置
搬送速度:50m/min
給油脂:なし(ソルト潤滑状態)
期間:6週間
【0096】
(試験機)
1.形状:図1〜図3に示すコンベヤチェーンにおいて、センターブッシュの外周にセンターローラを設けた試験機
2.材質
試験機1:Ni:8.00〜10.00%、Cr:18.00〜20.00%を含むオーステナイト系ステンレス鋼(比較)
試験機2:Ni:10.00〜14.00%、Cr:16.00〜18.00%を含むオーステナイト系ステンレス鋼(比較)
試験機3:Ni:0.60%以下、Cr:11〜13%を含む熱処理したマルテンサイト系ステンレス鋼(本発明)
【0097】
(結果)
各試験機における各摺動部の平均摩耗量、及び、ピッチ伸び率を表3に示した。
【0098】
【表3】

【0099】
さらに、摩耗量、及び、ピッチ伸び率の許容値をもとに、試験期間(6週間)に対する各試験機の期待寿命を算出し、表4に示した。なお、センターブシュ肉厚の摩耗許容値は、初期肉厚の60%に達する外径摩耗量とし、ローラ肉厚の摩耗許容値は、初期肉厚の60%に達する内外径摩耗量とした。
【0100】
【表4】

【0101】
コンベヤチェーンの期待寿命(寿命到達時点)は、最短寿命を示すピッチ伸びから決まり、今回の試験期間(6週間)に対して以下のようになる。
試験機1:5.3倍
試験機2:7.1倍
試験機3:7.7倍
【0102】
試験機3では、摩耗量及びピッチ伸び率が他の試験機よりも小さく、コンベヤチェーンとしての期待寿命が長い。
【0103】
さらに、図6に、試験後の各試験機におけるブシュの写真を示した。
【0104】
試験機1及び2のブシュにおいて、引掻き摩耗の発生が確認できる。さらに、試験機1のブシュは、ローラからの負荷によるものと考えられるヘタリ(変形)が生じていることが分かる。これに対して、試験機3のブシュにおいては、著しい変化は確認されなかった。
【符号の説明】
【0105】
1:コンベヤチェーン
2:外側リンク
3:外側リンクプレート
4:ピン
5:内側リンク
6:内側リンクプレート
7:センターブシュ
8:サイドローラ
9:係止爪
11:ガイドレール
12:駆動軸
13:従動軸
14:スプロケット
15:スプロケット
20:搬送ロール
30:溶融ソルト
31:溶融ソルト槽
40:溶融ソルト
41:電気炉
51:試験片(軸)
52:試験片(軸受)
61:モータ
62:回転軸
63:エアーシリンダー
64:圧力管
200:天蓋
W:ルーズコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーズコイルを搬送しながら400℃〜600℃の溶融ソルトを入れた溶融ソルト槽内で冷却するルーズコイルのインライン熱処理設備に用いる溶融ソルト槽内搬送設備において、
前記溶融ソルト槽内におけるルーズコイルのパスラインに沿ってコンベヤチェーンを配置し、
前記ルーズコイルを前記コンベヤチェーンに載置して、溶融ソルトに浸漬させながら搬送する構成を有し、
前記溶融ソルトは、硝酸または亜硝酸のアルカリ金属塩から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせからなり、
コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する何れか一方又は両方の部位の材質は、下記(A)、(B)又は(C)から選ばれることを特徴とするインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備。
(A)Ni:0.60%以下、Cr:11〜18%、C:1.2%以下、Si:1.0%以下である熱処理されたマルテンサイト系ステンレス鋼
(B)Cr:11〜20%、C:0.12%以下、Si:1.0%以下である熱処理されたフェライト系ステンレス鋼
(C)コバルト基合金
【請求項2】
前記コンベヤチェーンを構成する部品のうち、溶融ソルトに浸漬し、且つ互いに摺動する何れか一方又は両方の部位に、硬化肉盛を有することを特徴とする請求項1記載のインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備。
【請求項3】
前記溶融ソルトは、硝酸ナトリウム:硝酸カリウム=30〜60:70〜40(重量比)の組成から成ることを特徴とする請求項1又は2記載のインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備。
【請求項4】
前記コンベヤチェーンの搬送速度が、5m/min以上50m/min以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のインライン熱処理用の溶融ソルト槽内搬送設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−47022(P2011−47022A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198821(P2009−198821)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】