説明

インライン蒸着装置、有機EL装置の製造装置、有機EL装置の製造方法

【課題】真空蒸着法を採用し、安定した膜厚分布が得られるインライン蒸着装置、有機EL装置の製造装置、有機EL装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】本適用例のインライン蒸着装置としての有機蒸着部は、減圧可能なチャンバーとしての有機蒸着室125と、有機蒸着室125内において基板Wを所定の搬送方向に搬送する基板搬送経路125a,125b,125cと、基板Wの搬送方向に複数の蒸着室125eとを有し、それぞれの蒸着室125eにおいて、基板搬送経路125a,125b,125cの数を3本とするとき、3+1個の蒸着源110を搬送方向に直交する方向において、基板搬送経路125a,125b,125cの直下を避けた位置に等間隔に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の形成に用いられるインライン蒸着装置、有機EL装置の製造装置、有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminsence;エレクトロルミネセンス)装置は、有機発光材料からなる発光層を含む機能層と、機能層を挟んで設けられた一対の電極とを有し、一対の電極間に電流を流すことにより発光層において発光が得られる有機EL素子を備えている。
【0003】
このような有機EL素子を構成する機能層などの薄膜を均一に成膜する製造装置として、一般的に蒸着装置が用いられている。図15は、従来の蒸着装置の1例を示す概略図である。図15に示すように、従来の蒸着装置200は、真空チャンバー212内に、蒸着マスク213と重ね合わされた基板Wを保持する基板保持部と、基板Wに蒸着を行う膜形成材料を入れた蒸着源210とを有し、蒸着源210の蒸着速度を測定する膜厚測定手段としての水晶振動子211が蒸着源210の上方に配設された構造をとっている。また、膜厚分布を最小にするために、基板Wと蒸着源210との距離を大きくとってあり、基板保持部は蒸着中に基板Wを回転させている。
【0004】
一方、基板Wと蒸着源210との距離が大きくなると、蒸着効率が低下する。ここで蒸着効率とは膜形成材料の全蒸発量に対する基板W上に蒸着された量との比率である。上記蒸着装置200では、基板Wと蒸着源210との距離が長いため、蒸着効率は数%以下となると考えられる。このような蒸着装置200を有機EL装置の製造に用いた場合、蒸着効率の低さは生産コスト増加の原因の1つとなる。他にも1枚の基板Wの蒸着が終了するまで次の基板Wの蒸着が開始できず、時間がかかるなどの課題も抱えている。したがって、この蒸着装置200は生産性が低く、量産装置としての使用は不適当である。
【0005】
量産用の有機EL装置の製造装置として、インライン型の製造装置が用いられている。図16は従来のインライン型の製造装置の模式図であり、同図(a)が平面図、同図(b)が側面図である。この製造装置300は、真空チャンバー312内において、基板搬送機構315によって蒸着マスク43と重り44とに挟まれた基板Wを搬送する基板搬送経路314と、基板Wの搬送方向に対して直交する方向に配設された複数の蒸着源310を有し、一定の速度で基板Wを搬送し、有機膜の蒸着を行う。基板搬送経路314は複数の基板Wを搬送して蒸着することが可能なため、高い生産性が得られる。また蒸着源310を1つから複数に増やしたことで、膜厚分布を一定に保つのに必要な基板Wと蒸着源310との距離を上記蒸着装置200の時よりも短くすることが可能であり、蒸着効率を向上させることができる。搬送方向に対して直交する方向に配設された蒸着源310が2つのときの蒸着効率は最大で約25%まで高めることが可能であるとしている。
【0006】
上記製造装置300に見られるように、真空チャンバー312内に複数の蒸着源を配した有機EL装置の製造装置としては、特許文献1のEL材料成膜装置や特許文献2の有機EL素子の製造方法における気相堆積装置が挙げられる。
【0007】
【特許文献1】特許第3833066号公報
【特許文献2】特開2007−59188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の上記製造装置300の蒸着効率が25%であったとしても、残りの75%は無駄になっていると言える。したがって、上記製造装置300を用いて有機EL装置を製造しても、機能層を構成する膜形成材料が現状では極めて高価であることから、生産コストは高く、更なる生産性の向上が求められている。
【0009】
また、上記製造装置300並びに特許文献1のEL材料成膜装置や特許文献2の気相堆積装置のように、蒸着源と基板との距離を近づけて蒸着効率を高める方法では、蒸着源からの輻射熱の影響による有機膜の劣化や、蒸着マスク43の熱による変形などの新たな問題を有し、問題を解決しつつ生産性を改善する必要があるという課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]本適用例のインライン蒸着装置は、減圧可能なチャンバーと、前記チャンバー内において基板を所定の搬送方向に搬送する基板搬送経路と、蒸着源とを有するインライン蒸着装置であって、前記基板搬送経路の数をm本とするとき、m+1個の前記蒸着源が前記搬送方向に直交する方向において、前記基板搬送経路の直下を避けた位置に設けられていることを特徴とするインライン蒸着装置。
【0012】
この構成によれば、基板搬送経路によって搬送される基板の直下に蒸着源が配置されていないため、基板に対する蒸着源からの輻射熱の影響を低減し、且つ基板搬送経路の数よりも多い蒸着源から膜形成材料を蒸発させて効率的に成膜が可能なインライン蒸着装置を提供することができる。
【0013】
[適用例2]上記適用例のインライン蒸着装置において、複数本の前記基板搬送経路を有し、前記蒸着源が複数本の前記基板搬送経路の直下を避けた位置に等間隔に設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、蒸着源は、搬送される基板の直下には配置されておらず、基板の搬送方向に直交する方向において等間隔に配置されている。したがって、搬送方向から見ると基板の表面に垂直な法線に対して線対称な位置に蒸着源が配置されており、搬送方向に直交する方向において、成膜後の膜厚を均一にすることができる。さらには、基板搬送経路を複数備えることにより、高い生産性を有するインライン蒸着装置を提供することができる。
【0014】
[適用例3]上記適用例のインライン蒸着装置において、前記蒸着源の間隔をxとし、搬送される前記基板の表面に対して垂直な方向における前記基板と前記蒸着源との距離をyとするとき、xとyとの関係は、
y≧−2.40×10-32+7.39×10-1x+1.49×102
の数式を満たすことを特徴とする。
この構成によれば、蒸着源からの輻射熱の影響を低減しつつ、均一な膜厚分布が得られるように、基板と蒸着源との距離yが蒸着源の間隔xとの関係において最適化される。
【0015】
[適用例4]上記適用例のインライン蒸着装置において、前記蒸着源の直上に蒸着量計測手段が設けられていることが好ましい。
この構成によれば、蒸着源の直上には、搬送される基板はなく、蒸着量計測手段が配置され、基板に対する蒸着の進行を妨げずに、精度よく蒸着量を計測することができる。すなわち、蒸着量を時間管理すれば蒸着レートを精度よく求めることができる。
また、蒸着源の真上に蒸着量計測手段が設置されているため、設定蒸着速度がいくつであっても蒸着量計測手段により求められる蒸着速度と実際の蒸着速度との差が同じになる。したがって、設定蒸着速度を変更した場合でも速やかに有機EL装置の製造を開始することが可能になる。
【0016】
[適用例5]本適用例の有機EL装置の製造装置は、基板上に設けられた第1電極に、少なくとも発光層を含む機能層と、第2電極とが順に積層された有機EL素子を具備する有機EL装置の製造装置であって、上記適用例のインライン蒸着装置の前記蒸着源に前記機能層を構成する膜形成材料を充填して蒸発させ、前記機能層を成膜することを特徴とする。
この構成によれば、蒸着源からの輻射熱の影響を低減し、膜形成材料を効率的に使用して、発光層を含む機能層を成膜することが可能な有機EL装置の製造装置を提供することができる。
【0017】
[適用例6]上記適用例の有機EL装置の製造装置において、前記チャンバーは、前記搬送方向において、前記機能層を構成する前記膜形成材料の種類に対応して、前記チャンバー内を仕切ることにより構成された複数の蒸着室を有し、前記蒸着室ごとに前記蒸着源が配置されていることを特徴とする。
この構成によれば、基板搬送経路により基板を搬送する間に、各蒸着室において互いに異なる膜形成材料を用いて蒸着を行い、機能層を成膜することができる。チャンバー内において蒸着室は仕切られているので膜形成材料ごとに安定した膜厚分布を有する機能層を形成することができる。
【0018】
[適用例7]上記適用例の有機EL装置の製造装置において、前記基板搬送経路は、前記機能層を区画形成するための蒸着マスクが前記基板の成膜面に重ねられた状態で前記基板と前記蒸着マスクとを搬送し、使用後の前記蒸着マスクを前記基板搬送経路の上流側に回送するマスク搬送経路が、前記基板搬送経路に沿って設けられているとしてもよい。
この構成によれば、蒸着マスクを用いて機能層を基板上において所定の領域に区画形成することができると共に、マスク搬送経路を設けることにより、蒸着マスクを効率よく用いて、連続的に機能層の成膜が可能な有機EL装置の製造装置を提供できる。
【0019】
[適用例8]本適用例の有機EL装置の製造方法は、基板上に設けられた第1電極に、少なくとも発光層を含む機能層と、第2電極とが順に積層された有機EL素子を具備する有機EL装置の製造方法であって、上記適用例の有機EL装置の製造装置を用い、前記蒸着源から前記機能層を構成する膜形成材料を蒸発させ、前記機能層を成膜する機能層形成工程を備えることを特徴とする。
この方法によれば、蒸着源からの輻射熱の影響を低減し、膜形成材料を効率的に使用して、均一な膜厚分布を有する機能層を成膜することが可能な有機EL装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0021】
本実施形態は、有機EL素子を備えた有機EL装置の製造装置として適用されたインライン蒸着装置を例に説明する。
まず、有機EL装置について、図1〜図3を参照して説明する。図1は有機EL装置を示す概略正面図、図2は有機EL装置の要部構造を示す概略断面図、図3は機能層の構成を示す模式図である。
【0022】
図1および図2に示すように、有機EL装置10は、それぞれの表示画素7に対応して有機EL素子12(図2参照)が設けられた素子基板1と、複数の有機EL素子12を封着する封着層35(図2参照)を介して素子基板1を封止する封止基板2とを備えている。
【0023】
素子基板1は、有機EL素子12を駆動する駆動素子を備えた回路部11(図2参照)を有している。そして、表示領域6において赤(R)、緑(G)、青(B)のうち同一の発光色が得られる表示画素7が、同一方向に配列する所謂ストライプ方式の構成となっている。なお、表示画素7は、実際には非常に微細なものであり、図示の都合上拡大している。
【0024】
素子基板1は、封止基板2よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、駆動素子であるTFT(Thin Film Transistor)素子8(図2参照)を駆動する2つの走査線駆動回路部3と1つのデータ線駆動回路部4が設けられている。素子基板1の端子部1aには、これらの駆動回路部3,4と外部駆動回路とを接続するためのフレキシブルな中継基板5が実装されている。
【0025】
図2に示すように、有機EL装置10において、有機EL素子12は、第1電極(あるいは画素電極)としての陽極31と、陽極31を区画する隔壁部33と、陽極31上に積層形成された有機膜からなる発光層を含む機能層32とを有している。また、機能層32を介して陽極31と対向するように形成された第2電極(あるいは共通電極)としての陰極34を有している。
【0026】
隔壁部33は、フェノールまたはポリイミドなどの絶縁性を有する感光性樹脂からなり、表示画素7を構成する陽極31の周囲を一部覆って、複数の陽極31をそれぞれ区画するように設けられている。
【0027】
陽極31は、素子基板1上に形成されたTFT素子8の3端子のうちの1つに接続しており、例えば、透明電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)を厚さ100nm程度に成膜した電極である。なお、図示省略したが、陽極31の下層(平坦化層28側)に、絶縁層を介してAlからなる反射層が設けられている。当該反射層は、機能層32における発光を封止基板2側に反射するものである。また、当該反射層はAlに限定されず、発光を反射する機能(反射面)を有していればよい。例えば、絶縁性の有機材料あるいは無機材料を用いて凹凸を有する反射面を形成する方法、陽極31自体を反射機能を有する導電材料で構成し、表面層にITO膜を形成する方法などが挙げられる。
【0028】
陰極34は、同じく、ITOなどの透明電極材料により形成されている。
【0029】
封止基板2は、透明なガラス等からなる基板を用いている。有機EL素子12に面する側には、表示画素7の配置に対応した赤(R)、緑(G)、青(B)、3色のフィルタエレメント36R,36G,36Bとこれを区画する遮光部37が設けられている。
【0030】
有機EL装置10は、いわゆるトップエミッション型の構造となっており、陽極31と陰極34との間に駆動電流を流して機能層32で発光した白色光を上記反射層で反射させ、フィルタエレメント36R,36G,36Bを介して封止基板2側から取り出す構成となっている。トップエミッション型の構造であるため、素子基板1は、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0031】
素子基板1には、有機EL素子12を駆動する回路部11が設けられている。すなわち、素子基板1の表面にはSiO2を主体とする下地保護層21が下地として形成され、その上にはシリコン層22が形成されている。このシリコン層22の表面には、SiO2および/またはSiNを主体とするゲート絶縁層23が形成されている。
【0032】
また、シリコン層22のうち、ゲート絶縁層23を挟んでゲート電極26と重なる領域がチャネル領域22aとされている。なお、このゲート電極26は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層22を覆い、ゲート電極26を形成したゲート絶縁層23の表面には、SiO2を主体とする第1層間絶縁層27が形成されている。
【0033】
また、シリコン層22のうち、チャネル領域22aのソース側には、低濃度ソース領域および高濃度ソース領域22cが設けられる一方、チャネル領域22aのドレイン側には低濃度ドレイン領域および高濃度ドレイン領域22bが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域22cは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール25aを介して、ソース電極25に接続されている。このソース電極25は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域22bは、ゲート絶縁層23と第1層間絶縁層27とにわたって開孔するコンタクトホール24aを介して、ソース電極25と同一層からなるドレイン電極24に接続されている。
【0034】
ソース電極25およびドレイン電極24が形成された第1層間絶縁層27の上層には、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする平坦化層28が形成されている。この平坦化層28は、アクリル系やポリイミド系等の、耐熱性絶縁性樹脂などによって形成されたもので、TFT素子8やソース電極25、ドレイン電極24などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0035】
そして、陽極31が、この平坦化層28の表面上に形成されると共に、該平坦化層28に設けられたコンタクトホール28aを介してドレイン電極24に接続されている。すなわち、陽極31は、ドレイン電極24を介して、シリコン層22の高濃度ドレイン領域22bに接続されている。陰極34は、GNDに接続されている。したがって、スイッチング素子としてのTFT素子8により、上記電源線から陽極31に供給され陰極34との間で流れる駆動電流を制御する。これにより、回路部11は、所望の有機EL素子12を発光させカラー表示を可能としている。
【0036】
なお、有機EL素子12を駆動する回路部11の構成は、これに限定されるものではない。
【0037】
図3に示すように、有機EL素子12は、陽極31と陰極34とに挟まれた機能層32を有する。機能層32は、例えば、正孔輸送層(HTL)32h、各色の発光層32LR,32LB,32LG、電子輸送層(ETL)32eと呼ばれる複数の薄膜層からなり、素子基板1上の陽極31側からこの順で積層されている。
【0038】
正孔輸送層(HTL)32hとしては、例えば、トリフェニルアミン誘導体(TPD)、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等が挙げられる。
【0039】
発光層32LR,32LB,32LGの形成材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。例えば、発光層32LRを形成する材料としては、Alq3(トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム)をホストとしてアシストドーパントであるルブレンと赤色ドーパントであるDCM2(ジアノメチレンピラン誘導体)とを含む発光材料が挙げられる。発光層32LBを形成する材料としては、BH215をホストとして青色ドーパントであるBD102を含む発光材料が挙げられる。発光層32LGを形成する材料としては、BH215をホストとして緑色ドーパントであるGD206を含む発光材料が挙げられる。本構成は、いわゆる「ドーパント法」に基づく3色の発光層を備え、白色発光を可能としている。ホストであるBH215、ドーパントであるBD102、GD206は、いずれも出光興産製の公知材料である。
【0040】
電子輸送層(ETL)32eの形成材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンおよびその誘導体、ベンゾキノンおよびその誘導体、ナフトキノンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンおよびその誘導体、フルオレン誘導体、8−ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体等が挙げられる。
【0041】
これらの正孔輸送層(HTL)32h、発光層32LR,32LB,32LG、電子輸送層(ETL)32eの形成材料は所謂低分子系材料であり、真空蒸着法により成膜することができる。
【0042】
このような有機EL素子12を有する素子基板1は、透明な熱硬化型エポキシ樹脂等を封着部材として用いた封着層35を介して透明な封止基板2と隙間なくベタ封止されている。
【0043】
有機EL装置10は、後述する本実施形態の有機EL装置の製造装置を用いて製造されており、発光層を含む機能層32が所望の膜厚に対して膜厚ばらつきが少ない状態で成膜されている。それゆえに機能層32における発光特性が安定し、所望の輝度特性が得られる。
【0044】
なお、有機EL装置10は、トップエミッション型に限定されず、陰極34を反射機能を有する不透明なAl等の導電材料を用いて成膜し、有機EL素子12の発光を陰極34で反射させて、素子基板1側から取り出すボトムエミッション型の構造としてもよい。
【0045】
<有機EL装置の製造装置>
次に、本実施形態の有機EL装置の製造装置について、図4〜図10を参照して説明する。
【0046】
図4は、有機EL装置の製造装置の構成を模式的に示した上面図である。図4に示すように、本実施形態の有機EL装置10の製造装置100は、有機EL素子12の陽極31と陽極31を区画する隔壁部33が形成された基板Wに前処理を施した後、有機膜、無機膜を蒸着する装置で構成されており、それぞれ前処理部132、有機蒸着部133、無機蒸着部134の3つのブロックから構成されている。以下に各ブロックの詳細を説明する。
【0047】
前処理部132は、基板Wの搬送を行う基板搬送ロボット123aを内部に有する基板搬送室128aを中心に、仕込室120、加熱室121、前処理室122から構成されている。仕込室120は、表面の汚れや異物等を除去する洗浄(例えば、純水洗浄などの湿式洗浄やUV照射などの乾式洗浄)を終えた基板Wが投入された後、真空ポンプを用いて減圧される。これ以降の工程はすべて所定の減圧状態に保たれて基板Wの搬送が行われる。基板Wは、減圧された仕込室120から基板搬送室128a内の基板搬送ロボット123aのアームにより加熱室121に運ばれ、洗浄時などに付着した水分の除去を目的として加熱処理が行われる。その後前処理室122に運ばれ、酸素プラズマによる表面処理(プラズマ処理)が行われる。これは酸素プラズマによって陽極31のHOMOレベルを有機膜のHOMOレベルに近づけることで、陽極31から注入される正孔に対する有機膜の障壁を相対的に低くして、有機EL素子12の発光性能を高めるためである。前処理室122での表面処理が終了した基板Wは基板搬送室128aを通って、有機蒸着部133に運ばれる。
【0048】
有機蒸着部133は、本実施形態のインライン蒸着装置を適用したものであって、マスク組込室124、インライン構造を持つ減圧可能なチャンバーとしての有機蒸着室125、マスク解体室126、マスク還流室127からなり、マスク組込室124は前処理部132の基板搬送室128aと、マスク解体室126は無機蒸着部134の基板搬送室128bとそれぞれつながっている。
【0049】
有機蒸着室125には、複数(3本)の基板搬送経路125a,125b,125cが設けられている。
【0050】
図5は有機蒸着部の構造を図示す概略図であり、同図(a)が搬送方向から見た断面図、同図(b)が搬送方向に沿った側面図、図6(a)〜(d)はマスク組込室におけるマスク組み込み動作を示す概略図である。
【0051】
図5(a)および(b)に示すように、基板搬送室128aから運ばれてきた基板Wは、マスク組込室124に運ばれ、蒸着マスク43と重ねられる。蒸着マスク43は機能層32の形成パターンに対応した開口部45を有する。蒸着マスク43と基板Wとを重ねたときの密着を向上させる目的で、基板Wの成膜面と反対側の表面に重り44が載置される。
【0052】
詳しくは、図6(a)に示すように、蒸着マスク43と重り44とは、マスク組込室124の上方でそれぞれ保持され、待機状態となっている。次に同図(b)に示すように、先に蒸着マスク43が下降して、蒸着マスク43と重り44との間に基板Wが進入する。そして、基板Wが降下して蒸着マスク43と所定の位置で重ね合わされる。その後、同図(c)に示すように、重り44が下降して基板Wの背面(成膜面と反対側の表面)に載置される。重り44により基板Wが蒸着マスク43側に押圧され、基板Wと蒸着マスク43とが密着する。同図(d)に示すように、蒸着マスク43と重ね合わされた基板Wは、有機蒸着室125に送り込まれる。
【0053】
図7は蒸着マスクの詳細を示す概略平面図である。図7に示すように、蒸着マスク43は、例えばシリコンなどの金属材料やセラミックス等からなり、エッチング等により所定のパターンで開口された開口部45とアライメントマーク46とを持つ構造となっている。
基板Wは、所謂マザー基板であって、1つの有機EL装置10に対応する素子基板1がマトリクス状に面付けされた状態で機能層32が成膜される。それゆえに、蒸着マスク43は、基板Wにおける素子基板1の面付け状態に対応した複数の開口部45を有する。
図7では、開口部45が斜線によりハッチングされているが、実際には、隔壁部33により区画された膜形成領域に対応して設けられている。具体的には、図1に示したように、有機EL装置10において、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の発光のうち、同色の発光が得られる表示画素7がストライプ状に配列しているため、同色の表示画素7の配置に対応した複数の開口部45またはストライプ状に配列した同色の複数の表示画素7に対応したスリット状の複数の開口部45が所定の配置ピッチで蒸着マスク43に設けられている。
マスク組込室124では、有機蒸着室125にて機能層32が成膜される膜形成領域と開口部45とが合致するように基板Wと蒸着マスク43とが位置決めされ重ね合わされる。これにより、成膜後に機能層32が区画形成される。
アライメントマーク46は、例えば所定の大きさで開口された開口部であり、蒸着マスク43の対角における空きスペースに一対設けられている。蒸着マスク43と基板Wとが所定の位置からずれて重ね合わされると非発光画素ができるなど品質に問題をきたす為、マスク組込室124には、一対のアライメントマーク46を認識して基板Wと蒸着マスク43とを所定の位置で重ね合わせるためのアライメント機構(図示省略)が設けられている。
【0054】
図5(a)に示すように、有機蒸着室125は、基板Wを所定の搬送方向に搬送する3本の基板搬送経路125a,125b,125cと、搬送方向に直交する方向において、基板搬送経路125a,125b,125cの直下を避けた位置で底面側に設けられた複数(図中では4個)の蒸着源110とを有する。言い換えれば、基板搬送経路の数をm(自然数)とするとき、蒸着源110は搬送方向と直交する方向において、m+1個が基板搬送経路の直下を避けた位置に設けられている。具体的には、搬送方向から見ると4個の蒸着源110のうち2個が基板搬送経路125a,125b,125cの両側に、残りの2個が基板搬送経路125a,125b,125cの間に設けられている。
【0055】
また、有機蒸着室125において、蒸着速度(蒸着レート)を測定するための蒸着量計測手段としての水晶振動子151が、各蒸着源110の真上に1つずつ設置されている。
水晶振動子151は、蒸着が進行することにより水晶振動子151に膜形成材料が付着して発振周波数が変化する。つまり、水晶振動子151の実際の発振周波数と初期の発振周波数とを比較することにより、測定時の付着量すなわち蒸着量を求めることができる。さらに単位時間当たりの蒸着量を求めることにより蒸着速度を求めることができる。
【0056】
蒸着源110から等しい距離を置いた位置での蒸着速度は、蒸着源110の真上での蒸着速度が最も速くなり、蒸着源110との垂直方向の角度(蒸着方向の角度)が大きくなるほど蒸着速度が遅くなる。蒸着源110の真上での蒸着速度をv0とすると、真上からの角度αの位置での蒸着速度vは以下の数式(1)で表される。
v=v0cosnα・・・・(1)
ここでnは蒸着源110の形状と設定蒸着速度によって変化する値である。nは一般に0.1〜6までの値をとるが、設定蒸着速度により変化するため、実際に膜厚を測定することでしかnを求めることはできない。そのため従来の製造装置300では、新たに設定蒸着速度を設定すると、ツーリングファクターを再度設定する必要があった。ここで、ツーリングファクターとは、水晶振動子151により計測される蒸着速度に対して、実際の蒸着速度が何倍あるかを表す倍率である。
【0057】
本実施形態では、水晶振動子151は蒸着源110の真上にあるため、常に角度α=0となる。そのため、上記数式(1)では常にv=v0となるためnの影響を受けることがない。このため設定蒸着速度を変更しても、ツーリングファクターをもう一度見直しする必要がなく、速やかに有機EL装置10の製造を開始することが可能になる。
また、蒸着源110ごとに水晶振動子151が設けられているので、蒸着源110ごとの蒸着速度を把握することができ、その結果を基に蒸着源110における膜形成材料の加熱状態を調整して、ほぼ一定の蒸着速度が得られるように制御することができる構成となっている。
【0058】
本実施形態では、各基板搬送経路125a,125b,125cにより基板Wが搬送される間に、それぞれの基板Wに対して機能層32が成膜される。言い換えれば、一定の時間内に3枚の基板Wの成膜が可能な構成となっている。
【0059】
具体的には、図5(b)に示すように、マスク組込室124で蒸着マスク43が装着された基板Wは、例えば有機蒸着室125の基板搬送経路125aに順次運ばれる。基板搬送経路125aは、蒸着マスク43が装着された基板Wを所定の搬送方向に搬送するための搬送機構115を備えている。搬送機構115は、例えば搬送方向に配設された回転する複数のローラーからなり、ローラーは、基板Wが載置された蒸着マスク43の両端を支持しながら搬送する。
【0060】
基板Wは、基板搬送経路125a上を運ばれる間に、正孔輸送層(HTL)32h、R,B,Gの各発光層32LR,32LB,32LG、電子輸送層(ETL)32eの5層の有機膜が順次蒸着され、機能層32が形成される。
したがって、有機蒸着室125は、5種の有機膜の蒸着に対応した5つの蒸着室125eを有し、搬送方向において蒸着室125eをそれぞれ仕切る壁面125dを有する。
各蒸着室125eにおける有機膜の蒸着は、基板Wの搬送方向と直交する方向に等間隔に並んだ蒸着源110に充填された前述の有機材料を加熱することにより行われる。すなわち、1つの蒸着室125eには、同種の蒸着源110が搬送方向と直交する方向に等間隔で4つ配設されている。
【0061】
なお、図5(a)および(b)は、模式的に示されており、実際の基板Wの搬送は、基板Wの長手方向に沿って行なわれる。すなわち、基板Wの短手方向に蒸着源110を等間隔で配設する方が膜厚分布を均一にする点で有効である。
また、蒸着室125eを仕切る壁面125dは必須ではない。例えば、搬送方向において蒸着源110の配置間隔を空ければよい。
さらには、基板Wの蒸着室125eへの入退出に対応して蒸着源110からの有機材料の蒸発を開始または停止するシャッターを蒸着源110の上方に設けてもよい。これにより、有機材料がむやみに蒸発することを避けることができる。
【0062】
蒸着の終了した基板Wはマスク解体室126に運ばれる。マスク解体室126では、蒸着マスク43と基板Wと重り44とに分けられる。その後、基板Wは、無機蒸着部134の基板搬送室128bに運ばれる。また蒸着マスク43と重り44はマスク還流室127で一体となり、マスク搬送経路127cを経由してマスク組込室124に回送され、再び別の基板Wと重ね合わされる。
【0063】
他の基板搬送経路125b,125cおよびマスク搬送経路127b,127cにおいても同様な動作となる。
【0064】
本実施形態では、少なくとも蒸着マスク43および重り44を有機蒸着室125の上流側に回送するマスク搬送経路127a,127b,127c(図5(a)参照)を備えたマスク還流室127が有機蒸着室125に重畳されて設けられている。したがって、マスク搬送経路127a,127b,127cを別に設ける場合に比べて、製造装置100の設置面積が増えない。また、蒸着マスク43や重り44を効率よく使用することができる。なお、マスク搬送経路127a,127b,127cにも搬送機構115が設けられている。
【0065】
図4に示すように、無機蒸着部134は基板搬送室128b、陰極34の蒸着を行う金属蒸着室129a,129b、基板搬送室128cから構成されている。有機蒸着部133での蒸着を終えた基板Wは、基板搬送室128bの基板搬送ロボット123bによって、2つの金属蒸着室129a,129bのいずれかに運ばれる。金属蒸着室129a,129bでは、陰極34が蒸着される。陰極34が蒸着された基板Wは基板搬送ロボット123bによって基板搬送室128cに運ばれ、封止工程を行う装置側に搬出される。金属蒸着室129a,129bは陰極34の構成並びに有機蒸着室125における機能層32の成膜速度との調和を考慮して、蒸着源の構成を決定すればよい。
【0066】
金属蒸着室129a,129bの内部構造は図15に示した従来の蒸着装置200と同じものである。蒸着装置200は、図16に示したインライン型の製造装置300に対して、基板Wと蒸着源210との距離を大きくしなければ一定値以下の膜厚分布が出せないという欠点があるが、無機材料は有機材料に比べて蒸着時に膜形成材料を高温で加熱する必要があり、蒸着源210からの輻射熱の影響が有機材料の時よりも大きくなる。そのため陰極34の蒸着には基板Wと蒸着源との距離を大きくとる必要があり、従来の蒸着装置200のようなバッチ型の装置が適している。
【0067】
有機EL装置10の製造装置100において、無機蒸着部134における成膜の生産性が有機蒸着部133における成膜の生産性に対して劣る場合には、図15において、真空チャンバー212内に複数の蒸着源210を配置し、例えば陰極34の無機材料をそれぞれに充填して、1つの金属蒸着室内で成膜する構成としてもよい。
また、陰極34としては、ITOとCa、Ba、Al等の金属やLiF等のフッ化物とを組み合わせて用いるのが好ましい。特に機能層32に近い側に仕事関数が小さいCa、Ba、LiFの膜を形成し、遠い側に仕事関数が大きいITOを形成するのが好ましい。したがって、金属蒸着室129aと金属蒸着室129bとで成膜する薄膜の種類を変えてもよいし、同一金属蒸着室内に前述したように複数の蒸着源を備え、それぞれに異なる膜形成材料を充填して蒸着を行ってもよい。
【0068】
本実施形態では、インライン蒸着装置を有機蒸着部133に適用した例を説明したが、輻射熱による有機材料劣化の問題が解決されれば、無機蒸着部134に適用してもよい。
【0069】
本実施形態の有機EL装置10の製造装置100では、有機蒸着部133において3本の基板搬送経路125a,125b,125cの搬送方向に直交する方向の両端に位置する2個を除いた残り2個の蒸着源110は、それぞれ二つの基板搬送経路上の基板Wに対して蒸着を行うことが可能になる。そのため、従来のインライン型の製造装置300の蒸着効率が最大約25%であったのに対して、本実施形態のインライン蒸着装置を適用した有機蒸着部133では、図8のグラフに示すように、理論的には搬送方向に直交する方向に配置される蒸着源の数nを増やすほど蒸着効率は上昇する。具体的には、n=2の時は33%、n=5の時は42%の蒸着効率となり、nを増やすことにより最大50%の蒸着効率を得ることが可能である。
【0070】
次に基板Wにおける有機膜の膜厚分布について説明する。図9は有機蒸着室における基板と蒸着源との位置関係を示す概略図である。図9に示すように、基板Wの搬送方向と直交する方向における蒸着源110の間隔をx、蒸着源110と基板搬送経路との垂直方向の距離(以下、TS間距離と呼ぶ)をy、基板Wの大きさ(搬送方向に直交する方向の長さ)をtとすると、基板Wの端から距離a(a<t)の点に蒸着される薄膜の膜厚dは以下の数式で表される。
d=k(cosθ+cosφ)・・・・(2)
kは蒸着速度などツーリングファクターに纏わる定数である。
ここでθとφは以下の関係を満たす。
tanθ={(x−t)/2+a}/y・・・・(3)
tanφ={(x+t)/2−a}/y・・・・(4)
膜厚の分布Unifは基板W上の点の膜厚dの最大値と最小値をMax、Minとすると以下の式で表される。
Unif=100*(Max−Min)/(Max+Min)・・・・(5)
【0071】
図10(a)は蒸着源の間隔とTS間距離を変化させたときの基板上での膜厚分布を示すグラフである。このグラフは、上記数式(2)〜(5)において、x、yおよびtの条件を決めて求めたものである。具体的には、基板Wの大きさを400mm×500mmと仮定し、t=400とした。基板Wの搬送方向と直交する方向における蒸着源110の間隔xは、440mm、540mm、640mm、740mm、840mm、940mmの6つの条件を選定し、そのときのTS間距離yと膜厚分布との関係を求めた。
【0072】
図10(b)は膜厚分布5%以内となるときに必要なTS間距離yを示すグラフである。図10(a)の蒸着源110の間隔xごとに求められた必要なTS間距離yの関係から、近似されたものが、図10(b)の曲線である。この曲線よりもTS間距離yが大きければ膜厚分布±5%以下を満たす。すなわち、発明者らは、膜厚分布がねらいの膜厚に対して±5%以下となることを条件とすると、蒸着源110の間隔xとTS間距離yは以下の数式(6)を常に満たすことを見出した。
y≧−2.40×10-32+7.39×10-1x+1.49×102・・・・(6)
言い換えれば、この数式(6)を満たすように、基板Wの大きさtに応じてTS間距離yや蒸着源110の間隔xを決めることで、常に膜厚分布をねらいの膜厚に対して±5%以内にすることができる。
【0073】
<有機EL装置の製造方法>
次に、本実施形態の有機EL装置10の製造方法について、図11〜図14を参照して説明する。図11は有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図12(a)〜(g)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図、図13(a)は従来の蒸着装置における基板と蒸着源との位置関係を示す模式図、同図(b)は本実施形態の蒸着装置における基板と蒸着源との位置関係を示す模式図、図14(a)〜(c)は従来の蒸着装置を用いた場合の成膜状態を示す概略断面図である。
【0074】
図11に示すように、本実施形態の有機EL装置10の製造方法は、基板Wに表面処理を施すプラズマ処理工程(ステップS1)と、正孔輸送層形成工程(ステップS2)と、R,B,Gの発光色が得られる発光層32LR,32LB,32LGをそれぞれ成膜する発光層形成工程(ステップS3〜ステップS5)と、電子輸送層形成工程(ステップS6)と、陰極形成工程(ステップS7)とを備えている。なお、以降、素子基板1における有機EL素子12の形成方法を説明するが、実際には、前述したとおりマザー基板である基板Wに対して有機EL素子12の各構成を形成するものである。
【0075】
図11のステップS1は、プラズマ処理工程である。ステップS1では、陽極31と隔壁部33とが形成された素子基板1を上記実施形態の製造装置100の前処理部132(図4参照)に投入する。素子基板1は、加熱室121にて加熱処理されて水分が除去され、図12(a)に示すように、前処理室122にて酸素を処理ガスとして陽極31の表面をプラズマ処理する。そして、ステップS2へ進む。
【0076】
図11のステップS2は、正孔輸送層形成工程である。ステップS2では、プラズマ処理された素子基板1をマスク組込室124に送る。そして、図12(b)に示すように、蒸着マスク43の開口部45と、隔壁部33によって区画された陽極31を有する膜形成領域Eとが合致するように素子基板1と蒸着マスク43とを位置決めして密着させる。そして、蒸着マスク43が成膜面に重ね合わされた素子基板1を有機蒸着室125へ送る。有機蒸着室125では、例えば基板搬送経路125aによって素子基板1は搬送され、蒸着源110が配置された最初の蒸着室125eを通過することにより、蒸着源110から正孔輸送層形成材料が蒸発して、膜形成領域Eごとに正孔輸送層32hが成膜される。そして、ステップS3〜ステップS5へ順次進む。
【0077】
図11のステップS3〜ステップS5は、発光層形成工程である。ステップS3〜ステップS5では、図12(c)〜(e)に示すように、例えば基板搬送経路125aによって蒸着マスク43と重ね合わされた素子基板1は、順次3つの蒸着室125eを通過し、各蒸着室125eに設けられた蒸着源110から発光層形成材料が蒸発して、膜形成領域Eごとに発光層32LR,32LB,32LGが順に成膜される。そして、ステップS6へ進む。
【0078】
図11のステップS6は、電子輸送層形成工程である。ステップS6では、図12(f)に示すように、例えば基板搬送経路125aによって蒸着マスク43と重ね合わされた素子基板1は、最後の蒸着室125eを通過することにより、蒸着源110から電子輸送層形成材料が蒸発して、膜形成領域Eごとに電子輸送層32eが成膜される。
以上のステップS2〜ステップS6が機能層形成工程に相当する。機能層形成工程では、素子基板1と蒸着マスク43とが隔壁部33を介して密着するので、プラズマ処理された陽極31や成膜後の各種有機膜の表面に蒸着マスク43が直接に触れない。したがって、蒸着マスク43の接触による不具合が回避されている。そして、ステップS7へ進む。
【0079】
図11のステップS7は、陰極形成工程である。ステップS7では、機能層32が形成された素子基板1を無機蒸着部134へ送る。無機蒸着部134では、前述したように、2つの金属蒸着室129a,129bのいずれかに素子基板1が送られて、真空蒸着法により機能層32と隔壁部33とを覆うように陰極34が成膜される。陰極34はITOであり、膜厚は、100〜200nmである。これにより、陽極31と陰極34との間に機能層32を有する有機EL素子12が形成される。
【0080】
なお、有機EL素子12が形成された素子基板1は、封着層35を介して封止基板2と接着され有機EL装置10を構成する(図2参照)。このようなベタ封止構造は、侵入する水分や気体から有機EL素子12を保護して、所定の発光寿命を確保するものである。ステップS7において、陰極34を形成した後に、ガスバリア性を有する透明なSiO2またはSiN、あるいはこれらの混合物からなる膜をさらに積層してもよい。これにより、より長い発光寿命を実現することができる。
【0081】
以上に述べた有機EL装置10の製造方法によれば、上記有機EL装置10の製造装置100を用いて、機能層32が成膜される。したがって、蒸着源110と基板W(素子基板1)との位置関係が最適化され、蒸着される各種の有機膜の膜厚分布がねらいの膜厚に対して±5%以内に収まる。加えて、成膜後の機能層32を構成する有機膜への蒸着源110からの輻射熱の影響が低減されるので、安定した発光特性を有する有機EL装置10を製造することができる。さらには、次のような歩留り上の効果を奏する。
【0082】
図13(a)は従来の製造装置300での基板Wと蒸着源310との位置関係を示す模式図、同図(b)は本実施形態の有機蒸着室125での基板Wと蒸着源110との位置関係を示す模式図である。図13(a)では蒸着源310が基板Wの真下にあるのに対して、図13(b)では蒸着源110は基板Wの真下から少しずれた部分に設置されている。
【0083】
基板W上に異物が付着していた場合、有機膜は異物を包み込む形で蒸着される。図14(a)、(b)、(c)はそれぞれ図13(a)で、基板W上の成膜面における点A,B,Cに、異物61が陽極31上に付着していた際の、機能層32と陰極34までを蒸着し終えた時の基板Wの状態を図示したものである。
図14(a)では、矢印で示した蒸着方向に対して異物61が影となり、異物61の左側に機能層32が蒸着されない。この状態のまま陰極34を蒸着すると、陽極31と陰極34とが接触することになる。したがって、陽極31と陰極34との間に電流を流しても、電気的な短絡(ショート)が発生し、機能層32に適正に電流が流れないので暗点とよばれる非発光状態になる。
図14(b)に示すように、基板Wのほぼ中央に異物61が付着した場合は、蒸着方向に対して異物61が影になり難いが機能層32の膜厚ムラを生じ、その結果輝度ムラになり易い。
図14(c)でも図14(a)の場合と同様に、異物61が蒸着方向に対して影となり、暗点が発生する。暗点は不良であって、歩留まりの低下につながる。
【0084】
これに対し、図13(b)の本実施形態の有機EL装置10の製造装置100および製造方法では、基板Wの成膜面の点A',B',C'のいずれに異物61が付着している状態で機能層32が成膜されても、蒸着源110が基板Wの直下をはずれた位置に配置されているため、蒸着方向に対して異物61が影になり難い。したがって、機能層32が蒸着されない部分の発生が抑制され、陽極31と陰極34との接触が低減されるので、暗点が発生し難い。ゆえに、歩留まりを向上させることができる。
【0085】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0086】
(変形例1)上記実施形態における有機EL装置10の構成は、これに限定されない。例えば、有機EL装置10において有機EL素子12を白色だけでなく、他の赤色などの単色発光可能な構成としてもよい。よって、機能層32の構成は、これに限定されず、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の3層構造でもよい。また、これらの基本構成に加えて、正孔注入層(HIL)や中間層を設ける構成も考えられる。
【0087】
(変形例2)有機EL装置10の製造装置100の構成は、これに限定されない。例えば、有機蒸着室125における基板搬送経路の数は、3本に限定されない。また、蒸着室125eの数は5つに限定されず、上記変形例1から想起されるように、機能層32を構成する有機膜の数に応じて蒸着室125eの数を決めて設置すればよい。無機蒸着部134における金属蒸着室129a,129bの数も同様に陰極34の構成や生産性を鑑みて決定すればよい。
【0088】
(変形例3)上記実施形態における有機EL装置10の製造装置100および製造方法を適用可能なデバイスは、有機EL装置10に限定されない。例えば、有機EL照明や、有機EL太陽電池等、蒸着により製造可能な生産物であれば適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】有機EL装置を示す概略正面図。
【図2】有機EL装置の要部構造を示す概略断面図。
【図3】有機EL素子の構成を示す模式図。
【図4】有機EL装置の製造装置の構成を模式的に示した上面図。
【図5】有機蒸着部の構造を図示す概略図であり、(a)が搬送方向から見た断面図、(b)が搬送方向に沿った側面図。
【図6】(a)〜(d)はマスク組込室におけるマスク組み込み動作を示す概略図。
【図7】蒸着マスクの詳細を示す概略平面図。
【図8】蒸着源の数と蒸着効率との関係を示すグラフ。
【図9】有機蒸着室における基板と蒸着源との位置関係を示す概略図。
【図10】(a)は蒸着源の間隔とTS間距離を変化させたときの基板上での膜厚分布を示すグラフ、(b)は膜厚分布5%以内となるときに必要なTS間距離yを示すグラフ。
【図11】有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図12】(a)〜(g)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図13】(a)は従来の蒸着装置における基板と蒸着源との位置関係を示す模式図、(b)は本実施形態の蒸着装置における基板と蒸着源との位置関係を示す模式図。
【図14】(a)〜(c)は従来の蒸着装置を用いた場合の成膜状態を示す概略断面図。
【図15】従来の蒸着装置の1例を示す概略図。
【図16】従来のインライン型の製造装置の模式図であり、(a)が平面図、(b)が側面図。
【符号の説明】
【0090】
1…基板としての素子基板、10…有機EL装置、12…有機EL素子、31…第1電極としての陽極、32…機能層、34…第2電極としての陰極、43…蒸着マスク、100…有機EL装置の製造装置、110…蒸着源、125…減圧可能なチャンバーとしての有機蒸着室、125a,125b,125c…基板搬送経路、127a,127b,127c…マスク搬送経路、133…インライン蒸着装置としての有機蒸着部、151…蒸着量計測手段としての水晶振動子、200…従来の蒸着装置、300…従来のインライン型の製造装置、W…基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧可能なチャンバーと、前記チャンバー内において基板を所定の搬送方向に搬送する基板搬送経路と、蒸着源とを有するインライン蒸着装置であって、
前記基板搬送経路の数をm本とするとき、m+1個の前記蒸着源が前記搬送方向に直交する方向において、前記基板搬送経路の直下を避けた位置に設けられていることを特徴とするインライン蒸着装置。
【請求項2】
複数本の前記基板搬送経路を有し、前記蒸着源が複数本の前記基板搬送経路の直下を避けた位置に等間隔に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインライン蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸着源の間隔をxとし、搬送される前記基板の表面に対して垂直な方向における前記基板と前記蒸着源との距離をyとするとき、
xとyとの関係は、
y≧−2.40×10-32+7.39×10-1x+1.49×102
の数式を満たすことを特徴とする請求項2に記載のインライン蒸着装置。
【請求項4】
前記蒸着源の直上に蒸着量計測手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインライン蒸着装置。
【請求項5】
基板上に設けられた第1電極に、少なくとも発光層を含む機能層と、第2電極とが順に積層された有機EL素子を具備する有機EL装置の製造装置であって、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインライン蒸着装置の前記蒸着源に前記機能層を構成する膜形成材料を充填して蒸発させ、前記機能層を成膜することを特徴とする有機EL装置の製造装置。
【請求項6】
前記チャンバーは、前記搬送方向において、前記機能層を構成する前記膜形成材料の種類に対応して、前記チャンバー内を仕切ることにより構成された複数の蒸着室を有し、
前記蒸着室ごとに前記蒸着源が配置されていることを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造装置。
【請求項7】
前記基板搬送経路は、前記機能層を区画形成するための蒸着マスクが前記基板の成膜面に重ねられた状態で前記基板と前記蒸着マスクとを搬送し、
使用後の前記蒸着マスクを前記基板搬送経路の上流側に回送するマスク搬送経路が、前記基板搬送経路に沿って設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載の有機EL装置の製造装置。
【請求項8】
基板上に設けられた第1電極に、少なくとも発光層を含む機能層と、第2電極とが順に積層された有機EL素子を具備する有機EL装置の製造方法であって、
請求項5乃至7のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造装置を用い、前記蒸着源から前記機能層を構成する膜形成材料を蒸発させ、前記機能層を成膜する機能層形成工程を備えることを特徴とする有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−132978(P2010−132978A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310581(P2008−310581)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】