説明

ウィルス感染を治療するための脂質アナログ

【課題】 ウィルス感染、特に HIV−1、肝炎B型ウィルス、及びヘルペスウィルスを治療する方法の提供。
【解決手段】 治療の必要な患者に、感染と戦う量のリン脂質又はリン脂質誘導体を投与することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くウィルス感染の治療に関し、更に詳しくは、リン脂質及びリン脂質誘導体でのウィルス感染の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウィルスタイプ1(HIV−1)感染と戦うための現在の治療は、ヌクレオシドアナログ3’−アジド−3’−デオキシチミジン(AZT)の苦しんでいる患者への投与である。例えばRideout et al.への米国特許第 4,724,232号を参照のこと。 HIV−1感染治療方法は、感染した細胞内でウィルスの複製を阻害するために有効な量におけるエーテル脂質化合物(例えばKucera et al., AIDS Research and Human Retroviruses 6:491 (1990)) 、並びにAZT と接合されたエーテル脂質及び抗ウィルスヌクレオシドアナログの投与も含んでいる。(1991年12月26日に公開された)PCT出願US91/04289を参照のこと。これらの化合物は、CD4+ 細胞内への HIV−1のエンドサイトーシスの過程及びウィルス・アセンブリーの過程、細胞融合並びに病原をブロックするために形質膜において作用するようである。それらはプロテインキナーゼCの活性も阻害することができる。 HIV−1感染の深刻さが世界中に及ぶにつれ、 HIV−1感染と戦う新しい方法のための必要性が次第に高まっている。
【0003】
深刻な心配のある他のウィルス、肝炎B型ウィルス(HBV)は、肝臓癌を含む激しい慢性の肝臓病を引きおこすヘパドナウィルスの科の1つである。感染したヒトの体液中に見い出されるHBV は、肝細胞中での増殖の間、3つの抗原性蛋白質:肝炎B表面抗原(HBsAg)、肝炎Be抗原(HBeAg)及び肝炎Bコア抗原(HBcAg)を作る。これら3つの抗原性蛋白質は、ウィルス感染に対する抗体が血液中でこれらウィルス蛋白質に応答して作られるためウィルス感染を決定するためのマーカーとして重要である。HBV ワクチンは、感染を防ぐために利用でき、高度免疫ガンマグロブリンは危険のあるヒトにおいてHBV 感染を進行させることに対する一時的予防のために利用できる。明らかに、特異的抗ウィルス剤がヒトにおけるHBV 感染の治療及び制御のために必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第 4,724,232号
【特許文献2】PCT出願US91/04289
【非特許文献1】Kucera et al., AIDS Research and Human Retroviruses 6:491 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先の記載に基づいて、本発見の目的は、 HIV−1の効果と戦うための新しい治療方法を提供することである。
【0006】
本発明の更なる目的は、 HIV−1治療方法を行うための化合物及び医薬組成物を提供することである。
【0007】
本発明の目的は、HBV の効果と戦うための新しい治療方法を提供することでもある。
【0008】
本発明の第2の目的は、HBV 治療方法を行なうための化合物及び医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これら及び他の目的は、ウィルスの感染と戦う方法を提供する本発明により果たされる。第1の態様として、本発明は、このような治療の必要な被検体においてウィルス感染と戦う方法であって、式I:
【化1】

の化合物又はその医薬としての塩の有効に感染と戦う量を被検体に投与することを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0010】
式Iの化合物において、R1 は、−OH,−COOH、オキソ、アミン、又は置換もしくは未置換芳香族で1〜5回任意に置換された分枝又は未分枝の飽和又は不飽和のC6 〜C18アルキル基であり;Xは、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;R2 は、−OH,−COOH、オキソ、アミン、又は置換もしくは未置換の芳香族で1〜5回任意に置換された分枝又は未分枝の飽和又は不飽和のC6 〜C14アルキル基であり;Yは、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;R6 は分枝又は未分枝のC2 〜C6 アルキル基であり;そしてR3 ,R4 、及びR5 は独立してメチルもしくはエチルであり、又はR3 及びR4 は5もしくは6員環の脂肪質環もしくはヘテロ環を共に形成しR5 はメチルもしくはエチルである。好ましい化合物は、1−ドデカンアミド−2−デシルオキシプロピル−3−ホスホコリン、1−ドデカンアミド−2−オクチルオキシプロピル−3−ホスホコリン、及び1−ドデカンアミド−2−ドデシルオキシプロピル−3−ホスホコリンを含む。本方法は、 HIV−1,HBV 、及び単純ヘルペスウィルスにより引きおこされるウィルス感染と戦うための治療として特に好ましい。本発明は、式Iの化合物及び適切な医薬としての担体を含む医薬組成物も含む。
【0011】
第2の態様として、本発明は、このような治療の必要な被検体においてウィルス感染と戦う方法であって、式II:
【化2】

の化合物又はその医薬としての塩を有効に感染と戦う量においてこのような被検体に投与することを含むことを特徴とする方法を含む。
【0012】
式IIにおいて、その環構造は、C1 〜C3 アルキルで1〜3回任意に置換され;R1 は、未分枝又は分枝した飽和又は不飽和C6 〜C20アルキル基であり;R2 ,R3 、及びR4 は独立してメチルもしくはエチルであり、又はR2 及びR3 は5もしくは6員環の脂肪族環もしくはヘテロ環を共に形成しR4 はメチルもしくはエチルであり;XはNHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;R5 は分枝又は未分枝のC2 〜C6 アルキル基であり;mは1〜3であり、そしてnは0〜2である。式IIの好ましい化合物は3−ヘキサデカンアミド−シクロヘキシルホスホコリン及び3−ヘキサデシルチオ−シクロヘキシルホスホコリンである。式IIの化合物の投与は、 HIV−1,HBV 、及びヘルペスウィルスにより引きおこされるウィルス感染に特に役立つ。本発明は、式IIの化合物及び適切な医薬としての担体を含む医薬組成物も含む。
【0013】
本発明の第3の態様は、ウィルス感染を治療する方法であって、式III :
【化3】

の化合物の効果的に感染を阻害する量をこのような治療の必要な被検体に投与することを含むことを特徴とする方法である。
【0014】
式III の化合物において、R1 は、−OH,−COOH、オキソ、アミン、又は置換もしくは未置換の芳香族で1〜5回任意に置換された分枝又は未分枝の飽和又は不飽和のC6 〜C18アルキル基であり;Xは、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;R2 は、−OH,−COOH、オキソ、アミン、又は置換もしくは未置換の芳香族で1〜5回任意に置換された分枝又は未分枝の飽和又は不飽和のC6 〜C14アルキル基であり;Yは、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;そしてZは式V:
【化4】

(ここで、VはH又はN3 であり;
WはH又はFであり;又は
V及びWは共に共有結合であり;そして
Bは、位置2において=O,−OH,−SH,−NH2 、もしくはハロゲンで、位置4においてNH2 又は=Oで、位置6においてCl,−NH2 ,−OH、もしくはC1 〜C3 アルキル、そして位置8においてBrもしくはIで任意に置換された式VI:
【化5】

のプリン成分であり;又は
Bは、位置4において=O又はNH2 で置換され、位置5においてハロゲン又はハロゲンで1〜3回任意に置換されたC1 〜C3 飽和もしくは不飽和アルキルで任意に置換された式VII :
【化6】

のピリミジン成分である)
の成分である。
【0015】
これらの化合物及び医薬としての担体を含む医薬組成物も本発明に含まれる。
【0016】
本発明の第4の態様は、ウィルス感染を阻害する方法であって、式IV:
【化7】

の化合物の有効な感染を阻害する量をこのような治療の必要な被検体に投与することを含むことを特徴とする方法である。
【0017】
式IVの化合物において、その環構造はC1 〜C3 アルキルで1〜3回任意に置換され;R1 は未分枝又は分枝した飽和又は不飽和C6 〜C20アルキル基であり;XはNHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;そしてZは式V:
【化8】

(ここで、VはH又はN3 であり;
WはH又はFであり;又は
V及びWは共に共有結合であり;そして
Bは、位置2において=O,−OH,−SH,−NH2 、もしくはハロゲンで、位置4においてNH2 もしくは=Oで、位置6においてCl,−NH2 ,−OH、もしくはC1 〜C3 アルキルで、そして位置8においてBrもしくはIで任意に置換された式VI:
【化9】

のプリン成分であり;又は
Bは、位置4において=O又はNH2 で置換され、そして位置5においてハロゲン又はハロゲンで1〜3回任意に置換されたC1 〜C3 飽和もしくは不飽和アルキルで任意に置換された式VII :
【化10】

のピリミジン成分である)
の成分である。
【0018】
本発明は、式IVの化合物及び適切な医薬としての担体を含む医薬組成物も含む。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で用いられるものとして、“アルキル”という言葉は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、ヘキシル及びオクチルのような炭素原子を含む未分枝又は分枝したアルキル基をいう。“医薬としての塩”という言葉は、親化合物の要求される生物学的活性を保持し、それに要求されない毒物学的効果を与えない塩をいう。このような塩の例は、(a)スペルミン、及びスペルミジン等のようなナトリウム、カリウム、NH4 + 、マグネシウム、カルシウムポリアミンのようなカチオンと共に形成された塩;(b)無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、及び硝酸等で形成された酸付加塩;(c)例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パルミチン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、及びポリガラクツロン酸等のような有機酸で形成された塩;並びに(d)塩素、臭素、及びヨウ素のようなアニオン要素から形成された塩である。
【0020】
本発明の第1の態様は、ウィルス感染と戦う方法であって、式I(ここでR1 ,R2 ,R3 ,R4 ,R5 ,R6 ,X及びYは先に定義される)の化合物、又はその医薬としての塩を投与することを含むことを特徴とする方法である。一般的にホスファチジルコリンのアナログである式Iの両親媒性化合物は、(他の官能基がそれに結合されている3の炭素原子の鎖により表される)グリセロール骨格、ホスホリパーゼデグラデーションに一般に耐性がある(X及びYにより表される)官能基を通して前記グリセロール骨格の位置1及び2に結合される(R1 及びR2 により表される)親油性成分、並びに前記グリセロール骨格の位置3に結合された(短鎖アルキル基を通して互いに結合された)極性リン酸及び第4アミン基を含む。式Iの化合物のこれらの構成物の各々は以下に別個に記載される。
【0021】
式Iにおいて、先に記載のように、R1 は親油成分であり;R1 の親油性は、式Iの化合物がレトロウィルスに感染した細胞の細胞膜と結合するのを許容してそれへのアンカーを供する。R1 は、未分枝又は分枝した飽和又は不飽和のC6 〜C18アルキル基であり得る。好ましくは、R1 は未分枝の飽和又は不飽和C8 〜C12アルキル基であり、更に好ましくは、R1 は未分枝の飽和C10又はC12アルキル基である。
【0022】
式Iの化合物において、Xは、親油性成分R1 及び前記化合物のグリセロール骨格に結合する官能基である。Xは、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され、これらの官能基は、(ホスファチジルコリン中に存在するような)位置1におけるエステル結合に特異的である細胞のリパーゼ、特にホスホリパーゼAの加水分解活性に耐性がある。好ましくは、XはS又はNHCOであるNHCOが最も好ましい。
【0023】
式Iにおいて、R2 は、R1 で真実であるように、式Iの化合物が感染した細胞の細胞膜に結合するのを可能にする親油性成分である、R2 は、未分枝又は分枝した飽和又は不飽和のC6 〜C14アルキル基であり得る。好ましくは、R2 は未分枝の飽和又は不飽和のC8 〜C12アルキル基であり、更に好ましくは、R2 は未分枝の飽和C8 又はC10アルキル基である。R1 及びR2 は共に、18〜22の間の炭素原子を含むことも好ましい。
【0024】
2 は、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択される官能基Yを通してグリセロール骨格の位置2に結合される。Xのように、Yは、細胞のリパーゼ、特にホスホリパーゼBの加水分解活性に耐性のある成分であるべきである。というのは、この酵素は位置2におけるエステル結合に特異的であるからである。好ましくは、XはS又はOであり、Oが最も好ましい。
【0025】
膜相互作用において役割を果たし得る式Iの両親媒性化合物の極性親水性端は、ホスフェート成分が負電荷を有し、第4アミン成分が正電荷を有する両性ホスホアルキル第4アミン基を含む。この基において、分枝又は未分枝の飽和又は不飽和のC2 〜C6 アルキル基であるR6 は好ましくは飽和C2 である。R3 ,R4 、及びR5 はメチル及びエチルからなる群から独立して選択され、ここでメチルが好ましく、R3 ,R4 、及びR5 各々がメチルであることが更に好ましく、又はR3 及びR4 は5又は6員環である脂肪族又はヘテロ環を共に形成してR5 はメチル又はエチルである。
【0026】
式Iの典型的化合物は、1−ドデカンアミド−2−デシルオキシプロピル−3−ホスホクロリン(CP−128)、1−ドデカンアミド−2−オクチルオキシプロピル−3−ホスホコリン(CP−130)、1−ドデカンアミド−2−ドデシルオキシプロピル−3−ホスホコリン(CP−131)、及び1−ドデシルオキシ−2−デシルオキシプロピル−3−ホスホコリン(CP−129)を含む。式Iのこれらの化合物は、以下の実施例1及び2に記載される手順に従って合成され得る。式Iの他の化合物は、列記されたものに置換された適切な試薬で同方法を用いて合成され得る。
【0027】
本発明の他の態様は、式II(ここでR1 ,R2 ,R3 ,R4 ,R5 ,X,m、及びnは先に定義される)の化合物又はその医薬としての塩を投与することによりウィルス感染と戦う方法である。式IIの化合物は、(C1 〜C3 アルキルで1〜3回任意に置換された)5又は6員環構造に結合された(R1 により表される)親油性成分、及びホスフェート基を通して環構造に結合された短鎖アルキル基により結合されたホスフェート及び第4アミン基を含む親水性成分を有する両親媒性成分である。親水基は位置1において環に結合し、親油基は位置2,3、又は4において環に結合する。式Iの化合物のように、式IIの化合物は、ホスファチジルコリンのアナログである。しかしながら、環構造は、環構造を欠く化合物よりその化合物についてより構造的に制限された骨組を供し;この制限された骨組は、その細胞膜とより好ましい相互作用を有する化合物を供し得、これによりその効能を増加させる。
【0028】
式IIの化合物において、R1 は、未分枝又は分枝した飽和又は不飽和C6 〜C20アルキル基であり得る。式IIの化合物において、R1 はそれにアンカーを共するための感染した細胞の細胞膜と結合する親油性成分である。好ましくは、R1 は未分枝の飽和又は不飽和C10〜C18アルキル基である。更に好ましくは、R1 は未分枝の飽和又は不飽和C16〜C18アルキルである。
【0029】
式IIの化合物において、Xは、環構造の位置1に親油性成分R1 を結合する官能基である。Xは、細胞のリパーゼの加水分解活性に耐えることができるNHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, NH, NCH3,S,SO, SO2 、又はOのような官能基であるべきである。
【0030】
先に記載のように、式IIの両親媒性化合物の極性親水性端は、環構造に結合されたホスフェート基、その一端に結合された短鎖アルキル基R5 、及び該短鎖アルキル基の反対側の端に結合された第4アミン基を含む。R5 は、飽和又は不飽和の分枝又は未分枝のC2 〜C6 アルキル基であり、更に好ましくはC2 である。R2 ,R3 、及びR4 はメチル及びエチルからなる群から独立して選択され、ここでメチルが好ましく、又はR2 及びR3 は共に脂肪族もしくはヘテロ環式5もしくは6員環構造を形成しR4 はメチルもしくはエチルである。R2 ,R3 、及びR4 が各々メチルであることが更に好ましい。
【0031】
式IIの化合物において、mは、1,2、又は3であり得、nは0,1、又は2であり得る。好ましくは、環構造は5又は6員環であり;これにより好ましくは、nが0の場合、nは2又は3であり、nが1である場合、mは1又は2であり、nが2である場合mは1である。先に記載のように、環構造は化合物に構造的剛性を供する。
【0032】
式IIの典型的な化合物は、3−ヘキサデシルチオ−シクロヘキシルホスホコリン(INK−1)、3−ヘキサデカンアミド−シクロヘキシルホスホコリン、3−ヘキサデカンアミド−シクロペンチルホスホコリン、及び3−ヘキサデシルチオ−シクロペンチルホスホコリンを含む。式IIのこれらの化合物は、当業者に周知である手順と組み合わせて以下の実施例3の教授に従うことにより合成され得る。
【0033】
本発明の更なる態様は、式III 及びIVの化合物でウィルス感染と戦う方法である。これらの化合物は、成分Zを式I及びIIの化合物のアルキル−第4アミンに代える。ここで、Zは先に定義される。Zはそれ自体により抗ウィルス活性を示す成分であり;これにより式III 及びIVの化合物の残りへのZの結合は、ウィルス阻害のための多重活性部位を潜在的に含む化合物を供する。
【0034】
式III の化合物において、R1 ,R2 、X及びYは先に定義される。R1 は親油性成分であり;R1 の親油性は、式Iの化合物がレトロウィルスに感染した細胞の細胞膜に結合してそのアンカーを供することを許容する。R1 は、未分枝又は分枝した飽和又は不飽和C6 〜C18アルキル基であり得る。好ましくは、R1 は未分枝の飽和又は不飽和C8 〜C12アルキル基であり、更に好ましくは、R1 は未分枝の飽和C10又はC12アルキル基である。
【0035】
式III の化合物においては、Xは親油性成分R1 及び前記化合物のグリセロール骨格に結合する官能基である。Xは、NHCO, CH3NCO,CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択される;これらの官能基は、(ホスファチジルコリン中に存在するような)位置1におけるエステル結合に特異的である細胞のリパーゼ、特にホスホリパーゼAの加水分解活性に耐性がある。好ましくは、XはS又はNHCOであり、NHCOが最も好ましい。
【0036】
式III において、R2 は、R1 について真実であるように、式III の化合物が感染した細胞の細胞膜に結合することを可能にする親油性成分である。R2 は、未分枝又は分枝した飽和又は不飽和C6 〜C14アルキル基であり得る。好ましくは、R2 は、未分枝の飽和又は不飽和C8 〜C12アルキル基であり、更に好ましくは、R2 は未分枝の飽和C8 又はC10アルキル基である。R1 及びR2 が共に、18〜22の間の炭素原子を含むことも好ましい。
【0037】
2 は、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択される官能基Yを通してグリセロール骨格の位置2に結合される。Xのように、Yは細胞のリパーゼ、特にホスホリパーゼBの加水分解活性に耐性がある成分であるべきである。なぜなら、この酵素は位置2におけるエステル結合に特異的であるからである。好ましくは、XはS又はOであり、Oが最も好ましい。
【0038】
式III の化合物において、Bは式VIのプリン成分又は式VII のピリミジン成分であり、ここでその各々は先の記載のように置換される。本明細書に用いられる場合、プリン成分は式VIに示される分子構造を有する6及び5員芳香環を含む。当業者は、式VIに示される二重結合がプリン成分が芳香族の特徴を有することを示すために存在し、これらの二重結合がその成分の芳香族の特徴を保持するために特定の置換基の存在のために特定の化合物においてそれらの位置をシフトすることができることを認めるだろう;特にアデニン、グアニン、キサンチン、及びヒポキサンチンのような位置2及び4において=O又はNH2 置換基を有するこれらの成分は、式VIに示される位置からシフトした二重結合を有するとして一般に示される。同様に、本明細書に用いる場合、ピリミジン成分は式VII に示される分子構造を有する6員芳香環を含む。当業者は、式VII に示される二重結合が、式VII の成分が芳香族の特徴を有することを示すためにその中に含まれ、これらの二重結合がその芳香族の特徴を保持するための成分のために、特定の置換基、特に位置2及び4における=O及びNH2 のためにシフトし得ることを認めるだろう。好ましくは、Bは、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、ヒポキサンチン、ウラシル、5−フルオロウラシル、2−フルオロ−アデニン、2−クロロ−アデニン、2−ブロモ−アデニン、及び2−アミノ−アデニンからなる群から選択される。
【0039】
好ましくは、Zは3’−アジド−3’−デオキシチミジン、ジデオキシイノシン、ジデオキシシチジン、又は2’,3’−ジデヒドロ−3’−デオキシチミジンである。式III の典型的に好ましい化合物は、3’−アジド−3’−デオキシ−5’−(3−ドデカンアミド−2−デシルオキシプロピル)−ホスホチミジンである。
【0040】
本発明の更なる態様は、ウィルス感染を阻害する方法であって、有効に感染を阻害する量の式IV(ここでR1 ,R2 ,X,m,n、及びZは先に定義される)の化合物を被検体に投与することを含むことを特徴とする方法である。式IVの化合物において、R1 は未分枝又は分枝した飽和又は不飽和のC6 〜C20アルキル基であり得る。式IIの化合物において、R1 は感染した細胞の細胞膜に結合してそれにアンカーを供する親油性成分である。好ましくは、R1 は未分枝の飽和又は不飽和C10〜C18アルキルである。更に好ましくは、R1 は未分枝の飽和又は不飽和C16〜C18アルキルである。
【0041】
式IVの化合物において、Xは環構造の位置1に親油性成分R1 を結合する官能基である。Xは、細胞のリパーゼの加水分解活性に耐えることができるNHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, NH,NCH3,S,SO, SO2 、又はOのような官能基であるべきである。好ましくは、XはS又はNHCOである。
【0042】
先に記載のように、式IVの両親媒性化合物の極性親水性端は環構造及び式Vに定義されるような成分Zに結合したホスフェート基を含む。式Vの成分において、VはHもしくはN3 であり、又はV及びWは共に共有結合を形成し、H及びN3 が好ましい。WはH又はFでありHが好ましい。
【0043】
式IVの化合物において、Bは、その各々が先に記載のように置換される式VIのプリン成分又は式VII のピリミジン成分である。本明細書に用いる場合、プリン成分は式VIに示される分子構造を有する6及び5員芳香環を含む。当業者は、式VIに示される二重結合がプリン成分が芳香族の特徴を有することを示すために存在し、これらの二重結合はその成分の芳香族の特徴を保持するために特定の置換基の存在のために特定の化合物においてそれらの位置をシフトし得ることを認めるだろう;特に、アデニン、グアニン、キサンチン、及びヒポキサンチンのような位置2及び4において=O又はNH2 置換基を有するこれらの成分は、式VIに示される位置からシフトされた二重結合を有するとして一般に示される。同様に、本明細書に用いる場合、ピリシジン成分は式VII に示される分子構造を有する6員芳香環を含む。当業者は、式VII に示される二重結合が式VII の成分が芳香族の特徴を有することを示すためにその中に含まれており、これらの二重結合は、その芳香族の特徴を保持するためにその成分のために位置2及び4において特定の置換基、特に=O及びNH2 についてシフトし得ることを認めるだろう。好ましくは、Bはアデニン、チミン、シトシン、グアニン、ヒポキサンチン、ウラシル、5−フルオロウラシル、2−フルオロ−アデニン、2−クロロ−アデニン、2−ブロモ−アデニン、及び2−アミノ−アデニンからなる群から選択される。
【0044】
好ましくは、Zは3’−アジド−3’−デオキシチミジン、ジデオキシイノシン、ジデオキシシチジン、及び2'',3’−ジデヒドロ−3’−デオキシチミジンからなる群から選択される。
【0045】
式IVの化合物において、mは1,2、又は3であり得、nは0,1、又は2であり得る。好ましくは、環構造は5又は6員環であり;これによりnが0である場合、mは2又は3であり、nが1である場合、mは1又は2であり、nが2である場合、mが1である。
環構造は化合物に構造的剛性を供する。
【0046】
式IVの典型的化合物は、3’−アジド−3’−デオキシ−5’−(3−ヘキサデシルチオシクロヘキシル)−ホスホチミジンである。
【0047】
実験は、ウィルス感染と戦うことにおいて、式I,II,III 及びIVの化合物の効能を証明した。例えば、ナノモーラー濃度における化合物CP−128 ,CP−129 ,CP−130 ,CP−131 、及び INK−1は CEM−SS細胞における HIV−1活性を阻害する。更に、これらの化合物は非細胞毒性レベルにおいてそうであり、これにより、ウィルス感染の治療のための治療剤として約束される。式I,II,III 及びIVの化合物は細胞膜に付着し、これによりこれらのウィルスが増殖するための細胞膜へのアクセスを典型的に必要とし、新しいウィルス粒子の製造を通してアセンブルする場合、膜含有又はエンベロープ含有ウィルスにより引きおこされる感染に対して特に有効であると信じられる。例えば、式I,II,III 及びIVの化合物はウィルスのアセンブリーの前に感染した細胞の細胞膜において HIV−1主要糖蛋白質の輸送及び/又は組込みを阻害することができる。このような阻害は、隣接する細胞内への感染性 HIV−1の透過をブロックし得る。更に、式I,II,III 及びIVの化合物は、その両方が新しいウィルス粒子のアセンブリー及びHBV 感染の広がりに寄与するHBV コア及び“e”抗原の産生を阻害することができる。式I,II,III 及びIVの化合物が効きめがある他の感染は、他の膜含有又はエンベロープ含有ヘルペスウィルス、インフルエンザ、吸収性シンシチウムウィルス、おたふくかぜ、麻疹、及びパラインフルエンザウィルスにより引きおこされるものを含む。
【0048】
実験は、式I,II,III 及びIVの化合物が潜在的な抗腫瘍活性を有することも示した。特に、これらの化合物のいくつかはKB細胞系に対して約 1.2μMのIC50値を有する。
【0049】
以後“製剤”として言及される本発明に従う薬物の製造において、式I,II,III 及びIVの化合物は他のものに混ざって許容される担体と典型的に混合される。その担体はもちろん、製剤中のいずれの他の成分とも適合する程度まで許容され得なければならず、被検体の心身に有害であってはならない。担体は固体もしくは液体、又は両方であり得、好ましくは単位投与製剤、例えば活性成分 0.5重量%〜95重量%を含み得る錠剤として化合物と共に製剤化される。化合物を混合することから本質的になる薬剤術の公知の技術のいずれかにより調製され得る本発明製剤内に1以上の活性化合物が組み込まれ得る。
【0050】
本発明の製剤は、経口、直腸、局所的、鞘内、頬(例えば舌下)、非経口(例えば皮下、筋内、皮内、又は静脈内)及び経皮的投与に適したものを含む。しかしながら、いずれかの与えられた場合における最も適切な経路は、治療されるべき状態の性質及び激しさ、並びに用いられるべき特定の活性化合物の性質によるだろう。
【0051】
経口投与に適した製剤は、カプセル、カシュ剤、ロゼンジ、又は錠剤のような分離した単位において供され得、これら各々は、粉体もしくは粒状体として;水性もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液として;又は水中油型、もしくは油中水型エマルションとして;主要量の活性化合物を含む。このような製剤は、活性化合物及び(先に記載のような1以上の付属成分を含み得る)適切な担体を組み合わせるステップを含むいずれかの適した製剤方法により調製され得る。
【0052】
固体経口医薬投与単位に適した固体希釈剤又は担体は、液体、炭水化物、蛋白質及び無機質固体、例えばデンプンスクロース、ラクトース、カオリン、リン酸二カルシウム、ゼラチン、アカシア、コーンシロップ、コーンスターチ及びタルク等からなる群から選択される。
【0053】
硬質及び軟質カプセルは、適切な希釈剤及び賦形済、例えば食用油、タルク、及び炭酸カルシウム等、並びにステアリン酸カルシウムと組み合わせたこれらの活性成分の組成物で充填される。
【0054】
一般に、本発明の製剤は、活性化合物を液体もしくは細かく分けられた固体担体、又は両方と均一かつ完全に混合した後、必要に応じてその結果として生じた混合物を成形することにより調製される。例えば、錠剤は、任意に1以上の付属成分と共に活性成分を含む粉体又は粒状体を加圧又は成形することにより調製され得る。加圧された錠剤は、適切な機械において、任意にバインダー、潤滑剤、不活性希釈剤、及び/又は表面活性/分散剤と混合された粉体又は粒状体のような非流動性形態における化合物を加圧することにより調製され得る。成形された錠剤は、適切な機械において不活性液体バインダーで湿らされた粉末状化合物を成形することにより作られ得る。
【0055】
経口投与のための液体調製物は、有利には懸濁剤を含む水又は水性ビヒクル、例えばメチルセルロース、アカシア、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルアルコール等中に調製される。
【0056】
頬(舌下)投与に適した製剤は、芳香ベース、通常スクロース及びアカシア又はトラガカントゴム中に活性化合物を含むロゼンジ;並びにゼラチン、グリセリン、スクロース、もしくはアカシアのような不活性ベース中に化合物を含む香錠を含む。
【0057】
非経口投与に適した本発明の製剤は、便利には、活性化合物の滅菌水性調製物を含み、その調製物は意図された受容者の血液と好ましくは等張である。これらの調製物は、好ましくは静脈内に投与されるが、投与は皮下、筋内、鞘内、又は皮内注入の手段によっても行われ得る。製剤は容易な非経口投与のために十分な流体であるべきである。このような調製物は、便利には、化合物を水又はグリシン緩衝液と混合し、その結果として生ずる溶液を滅菌及び血液と等張化することにより調製され得る。このような調製物は製造及び保存の条件下で安定であるべきであり、通常、基本的溶媒又は懸濁液に加えて、静菌及び静真菌剤の性質を有する防腐剤、例えばパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェノール、及びチメロサル等を含む。多くの場合、浸透活性剤、例えば糖又は塩化ナトリウムを等張温度において含むことが好ましい。本発明に従う注入可能な製剤は、一般に、 0.1〜5%(w/v)の活性剤を含み、 0.1mL/分/kgの速度で投与される。
【0058】
直腸投与に適した製剤は、単位投与坐剤として好ましくは供される。これらは、活性化合物を1以上の慣用的固体担体、例えばココアバターと混合し、その後結果として生ずる混合物を成形することにより調製され得る。
【0059】
皮膚への局所的適用に適した製剤は、好ましくは軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾル、又は油の形態をとる。用いられ得る担体は、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール及びそれらの2以上の組合せを含む。活性化合物は、 0.1〜15%(w/w)、例えば 0.5〜2(w/w)の濃度で一般に存在する。
【0060】
経皮的投与に適した製剤は、長期間の受容体の表皮との密接な接触を維持するのに適合した別個のパッチとして共され得る。このようなパッチは、例えば前記活性化合物に関して 0.1〜0.2 M濃度の任意に緩衝された水溶液として活性化合物を適切には含む。
【0061】
経皮的投与に適した製剤は、イオン導入法(例えばPharmaceutical Research (6),318 (1986)を参照のこと)によっても送り出され得、典型的には、活性化合物の任意に緩衝された水溶液の形態をとる。適切な製剤はクエン酸又はビス/トリス緩衝液(pH6)又はエタノール/水を含み、 0.1〜0.2 Mの活性成分を含む。
【0062】
式I,II,III 及びIVの化合物は、ウィルス感染と戦うのに十分な量で投与される。その投与は、投与のために選択された化合物、被検体、投与の経路、及び他の因子により種々であり得る。好ましくは、化合物は少くとも 0.1ng/kg,1ng/kg, 0.001μg/kg以上の量で投与され、 0.1g/kg,0.01g/kg,1mg/kg以下の量で投与される。
【0063】
本発明は以下の非限定的実施例により詳細に記載される。実施例において、“g”はグラムを意味し、“mg”はミリグラムを意味し、“μg”はマイクログラムを意味し、“μM”はマイクロモーラーを意味し、“mL”はミリリッターを意味し、“℃”はセルシウス温度を意味し、“THF ”はテトラヒドロフランを意味し、“DMF ”はジメチルホルムアミドを意味し、“mol ”はモルを意味し“mmol”はミリモルを意味し、そして“psi ”は平方インチ当りのポンドを意味する。
【実施例】
【0064】
実施例1
アミドアルキル誘導体の調製
以下に記載の手順を用いて以下の化合物を調製した:
(a)1−ドデカンアミド−2−デシルオキシプロピル−3−ホスホコリン(CP−128)
(b)1−ドデカンアミド−2−オクチルオキシプロピル−3−ホスホコリン(CP−130)
(c)1−ドデカンアミド−2−ドデシルオキシプロピル−3−ホスホコリン(CP−131)
【0065】
3−アミノ−1,2−プロパンジオールをピリジン及びジメチルホルムアミド中で室温で塩化ラウロイルと反応させた。結果として生ずるドデカンアミドプロパンジオールをクロロホルムから再結晶化した後、トリフェニルメチルクロライドと反応させた。そのトリチル化産物をヘキンサから再結晶化した。C−2ヒドロキシルを水素化ナトリウム及びC−2におけるエーテル結合の形成のためのテトラヒドロフラン中の適切なアルキルブロミド(CP−128 のための1−ブロモデカン;CP−130 のための1−ブロモオクタン;CP−131 のための1−ブロモドデカン)との反応によりアルキル化した。ヘキサン:酢酸エチル(95:5〜80:20)の不連続勾配でのシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィーにより要求される1−ドデカンアミド−2−アルコキシ−3−トリチルオキシプロパンを生成した。5:1メチレンクロライド:メタノール中のp−トルエンスルホン酸での脱トリチル化により、カラムクロマトグラフィー(エキサン:酢酸エチル95:5〜0:100)後に遊離第1ヒドロキシルを有する産物を得た。ジエチルエーテル及びピリジン中での2−ブロモメチルホスホジクロリデートとの反応によりリン酸エステルを作り、それをクロロホルム:メタノール(100:0〜2:1)でシリカゲル上で精製した。クロロホルム:イソプロパノール:ジメチルホルムアミド(3:5:5)中でのトリメチルアミン水溶液でのブロミドn置換によりクロロホルム:メタノール:水酸化アンモニウム(70:35:1〜70:35:7)後に最終的なホスホクロリン産物を得た。
【0066】
実施例2
1−ドデシルオキシ−2−デシルオキシプロピル−3−ホスホコリン(CP−129)の調製
イソプロピリデングリコールを、トルエン中の水酸化カリウム及び1−ブロモドデカンを用いてアルキル化した。その結果として生ずるケタールをメタノール中の塩酸で加水分解して、それにより形成されたジオールをメタノールから再結晶化した。残りの反応ステップ(トリチル化、アルキル化、脱トリチル化、リン酸化、アミン化)は、アルキルアミド誘導体について実施例1に先に記載される手従に従った。
【0067】
実施例3
シス及びトランス−3−ヘキサデシルチオ−シクロヘキシルホスホコリン(INK−1)
2−シクロヘキセノン(0.14mol, 13.4mL)を10%水酸化ナトリウム10mL及びTHF 50mL中に溶かした。等モル量のヘキサデシルメルカプタン(0.14mol, 42.9mL)を不飽和ケトンに加え、その混合物を還流して3−ヘキサデシルチオシクロヘキサノン(70%収率)を作った。この産物(5.23mmol, 1.851g)をメタノール中に溶かして水素化ホウ素ナトリウム(5.23mmol, 0.199g)で還元して3−ヘキサデシルチオシクロヘキサノールのラセミ混合物(収率62%;シス:トランス比 421) を得た。2−ブロモエチルジクロロホスフェート(収率53%)を生成するために25mlのトリクロロエチレン中でオキシ塩素化亜リン酸(0.65mol, 60.8mL)及び2−ブロモエタノール(0.38mol, 27.0mL)を還流させることによりリン酸化剤を調製した。3−ヘキサデシルチオシクロヘキサノール(0.56mmol, 0.200g)をジエチルエーテル:THF(2:1)中に溶かして2−ブロモエチルジクロロホスフェート(222mmol, 0.3mL) と共に還流して3−ヘキサデシルチオシクロヘキシルホスホエチルブロミド(収率54%)を得たる後者(0.276mmol, 0.150g)をイソプロピルアルコール:クロロホルム:DMF(5:3:5)中に溶かしてトリメチルアミン(0.042mol, 2mL) と共に65℃に加熱して要求される産物、3−ヘキサデシルチオシクロヘキシル−ホスホコリン(収率38%)。
【0068】
この手順は、2−シクロペンテノンを置換することにより3−アルキルチオ−シクロペンチル誘導体を調製するのにも用いられ得る。
【0069】
実施例4
シス及びトランス−3−ヘキサデカンアミド−シクロヘキシルホスホコリンの調製
2−シクロヘキサノンをベンジルアミンと反応させて3−ベンジルアミノシクロヘキサノンを供する。その後のベンジルアミノ基の水素化分解により3−アミノシクロヘキサノンを供する。ヘキサデカノイルクロライドとの反応により3−ヘキサデカンアミドシクロヘキサノンを供し、その後それを水素化ホウ素ナトリウムで還元して3−ヘキサデカンアミドシクロヘキサノールのシス/トランス混合物を生成する。その後のカラムクロマトグラフィーによる分離により純粋な異性体を供する。ブロモエチルホスホジクロリデート、次にトリメチルアミンとの反応により3−ヘキサデカンアミド−シクロヘキシルホスホコリンを生成するだろう。
【0070】
2−及び4−アルキルアミド誘導体の合成は、適切な開始材料に置換した本質的に同様の手順に従って行われ得る。
【0071】
実施例5
3’−アジド−3’−デオキシ−5’−(ドデカンアミド−2−デコキシプロピル)−ホスホチミジン
3−ドデカンアミド−2−デコキシ−プロパノールを、Morris−Natschke et al., C. I. Med. Chem. 29 : 2114 (1986)に記載されるスキームにより合成した。このアルコールをピリジン中のジフェニルクロロホスフェートでリン酸化して対応するリン酸エステルを供した。その後フェニル基をPtO2での水素化分解により除去した。その後ホスファチジル酸誘導体をAZT の5’−ヒドロキシルに接合した(DCC縮合)。
【0072】
実施例6
3’−アジド−3’−デオキシ−5’−(ドデシオキシ−2−デシロキシプロピル)−ホスホチミジン
A.3−ドデシロキシ−1,2−プロパンジオール
トルエン60mL中のイソプロピリデングリセロール(ソルケタール、26.4g,0.20mol)を 150mlトルエン中の粉体状KOH(22.4g,0.04mol)の溶液に滴下して加えた。その結果として生ずる混合物を4時間、還流した。その後、トルエン40ml中の1−ブロモドデカン(50g,0.20mol)を滴下して加え、その溶液を10時間、還流した。冷却した後、その反応混合物を 200mLの氷水で希釈してジエチルエーテル(3×100mL)で抽出した。そのエーテル層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、その溶媒を真空中で除去した。その残物を60mLジエチルエーテル及び 260mLのMeOH中に溶かした。濃HCl (60mL)を加え、その溶液を16時間、還流した。冷却した後氷水(150ml)を加えて、その層を分離した。その水性層をジエチルエーテル(2×75mL)で抽出した。その後、その組み合わされた有機画分を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、真空中で濃縮した。その固体残物をMeOHから再結晶化して37g(0.14mol, 71%)の白色固体を供した。
【0073】
B.3−ドデシルオキシ−1−トリフェニルメチロキシ−2−プロパノール
セクションAで合成されたジオールをピリジン(200ml)中でトリチルクロライド(59g,0.21mol)で70℃で5時間、次に室温で一晩、トリチル化しピリジンを真空下で除去し、その固体残物を水及びCHCl3 と間に分画した。そのCHCl3 層を5% HCl及び氷で洗浄して、次に硫酸マグネシウム上で乾燥させた。溶媒を除去した後、その産物をヘキサン:酢酸エチル(10:1)から再結晶化して19gの純粋な産物を供した。
【0074】
C.3−ドデシルオキシ−2−デシルオキシ−1−トリフェニルメトキシプロパン
セクションB(13.5g,0.027mol) のトリチルエーテルを窒素下においてテトラヒドロフラン 150ml中の水素化ナトリウム(80%, 1.6g,0.054mol) の氷冷懸濁液に滴下して加えた。室温で2時間、撹拌した後、熱を加えた(55℃)。1−ブロモデカン(6g,0.027mol) を滴下して加え;6時間、加熱を続けた。3時間、冷やした後、水をゆっくりと加えた。ジエチルエーテル(2×100nL)を加え、その溶液を15%チオ亜硫酸ナトリウム、水、ブラインで洗浄した。硫酸ナトリウム上で乾燥させた後、エーテルを除去してその残物をヘキサン:酢酸エチル(100:0〜20:1)の勾配でクロマトグラフィーにかけて9g(52%)の透明な液体を供した。
【0075】
D.3−ドデシルオキシ−2−デシルオキシ−1−プロパノール
セクションCの産物の脱トリチル化を、CHCl3 :MeOH(72mL:36mL)中のp−トルエンスルホン酸(0.9g)を用いて行った(48時間、室温で撹拌し、10%重炭酸ナトリウムを加え、CHCl3 で抽出し、硫酸マグネシウム上で乾燥させて濃縮した)。その残物をヘキサン:酢酸エチル(20:1〜5:1)の勾配を用いるカラムクロマトグラフィーにより精製して 3.5g(63%)純粋な3−ドデシルオキシ−2−デシルオキシ−1−プロパノールを供
した。
【0076】
E.3−ドデシルオキシ−2−デシルオキシプロピルジフェニルホスフェート
ジエチルエーテル10mL中のジフェニルクロロホスフェート(0.7mL,3.4mmol)を窒素下で4℃に冷却した。ピリジン15ml(及びジエチルエーテル5mL中の3−ドデシルオキシ−2−デシルオキシ−1−プロパノール(1.0g,2.6mmol)を加えた。その溶液を室温まで温めた後、約52℃に3時間、加熱した。その後、それを室温まで冷やし、50mLのジエチルエーテルで希釈して、水(2×25mL), 0.5N HCl(25mL) 、そして次に水(25ml)で洗浄した。その有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させて真空中で濃縮して油とした。ヘキサン:酢酸エチル(10:1〜1:1)の勾配でのクロマトグラフィーにより 980mg(1.5mmol, 60%)の純粋な産物を作った。
【0077】
F.3−ドデシルオキシ−2−デシルオキシプロピルホスフェート
PtO2(69mg)をParr水素化ボトル内に入れた。EtOH 100mL中のセクションE(500mg)のジフェニルホスフェートをその後加えた。その反応混合物を水素の取り込みが終わるまで 1.5時間、15psi で水素化した。その後、その反応混合物をCeliteを通してろ過し、EtOHを真空で除去した。油を25mlのピリジン中に溶かし、真空で濃縮し、高真空下で乾燥させて 350mgの純粋な固体ホスファチジン酸を供した。
【0078】
G.3’−アジド−3’−デオキシ−5’−(3’−ドデシルオキシ−2−デシルオキシプロピル)−ホスホチミジン
AZT(43mg,0.16mmol) 及びセクションFのホスファチジン酸(105mg, 0.22mmol)を真空除去によりピリジン(3×3ml)で共沸乾燥させた。ジシクロヘキシルカルボジイミド(220mg, 1.07mmol)を加えて、乾燥を4回繰り返した。ピリジンの最終的な3ml部を加え、その反応混合物を4日間、デシケーター内で室温で撹拌した。水(1g)を加え、その混合物を4時間、撹拌した。その溶媒を真空で除去し、その粗材料をCHCl3 :MeOH(15:1〜2:1)の勾配を用いて2gのシリカゲル上でクロマトグラフィーにかけた。その産物を11mlのCHCl3 :MeOH:H2O(4:6:1)中に溶かして 1.5gの真空濃縮されたWhatman プレ膨張微粒カチオン(Na+ )交換体と共に撹拌して37mgの産物(22%)を供した。FAB msは、752.4350における〔MH+Na〕イオン(C35H64N5O9PNa, 1.4ppm)及び774.4179における〔M+2Na〕+ イオン(C35H63N5O9PNa2, 2.0ppm) を示した。
【0079】
実施例7
抗 HIV−1活性を測定するための手順
細胞内でのヒト免疫不全ウィルスタイプ1(HIV−1)の複製への合成リン脂質化合物の阻害効果を、 L. Kucera et al., Aids Research and Human Retroviruses 6,491 (1990)のプラークアッセイ手順により検査した。要約すると、 CEM−SS細胞単層に HIV−1を感染させた。感染した細胞に、異なる濃度のインヒビターが供給されたRPMI−1640培地+10%胎児ウシ血清(FBS)を積層した。感染後5日目にプラークを数えた。このアッセイにおいて、HIV シンシチウムのプラークは、茶色の粒状物又は透明のいずれかに見える大きな多細胞増殖単として見られる。 HIV−1シンシチウムのプラークの数は、 HIV−1に感染した細胞の積層流体中の逆転写酵素(RT)及びp24コア抗原活性と相関関係があるので、シンチシウムプラークアッセイは、感染性ウィルスの量を定量するのに用いられ得る。逆転写酵素活性は、記載される手順(B. J. Poeisz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (U. S. A.) 77, 7415 (1980)) に従ってアッセイした。 CEM−SS細胞の HIV−1感染により誘導されるp24コア抗原の活性は、市販のCoulter EIA を用いて分光光学的に測定した。
【0080】
実施例8
抗 HIV−1活性の測定の結果
結果(表1)は、テストされた脂質化合物の全てが0.11〜0.64μMの範囲で HIV−1シンチシウムプラーク形成に対するIC50を有することを示した。細胞毒性のための化合物のIC50は 11.85〜75.7μMの範囲であった。抗HIV 活性に対する細胞毒性の比率である最も高い特異な選択性(611.7)は化合物CP−130 で得られた。
【0081】
【表1】

【0082】
細胞毒性は連続的濃度の化合物の存在下での全DNA 内への TdR−H3 の取り込みにより測定した。
【0083】
抗 HIV−1活性は、 CEM−SS細胞単層を用いる標準的プラークアッセイにより測定した。
【0084】
特異選択性は、細胞毒性のためのIC50を抗 HIV−1活性のためのIC50により割ることにより決定した。
【0085】
実施例9
HBV 活性阻害の測定
ヒト肝芽腫(Hep G2) 細胞にHBV ゲノムのプラスミドDNA 含有縦列コピーを移入した。これらの細胞は本質的にHBV 粒子を複製する。Hep G2細胞を、中性赤色染料の取り込みにより毒性細胞濃度(TC50)を測定するために、種々の濃度のCP−128 で処理した。更に、HBV 複製のためのCP−128 の阻害濃度(IC50)をELISA により測定した。
【0086】
CP−128 細胞毒性(TC50)は61.7μMであり、抗 HIV−1活性(IC50)は15.6μMであることを決定した(表1)。これらのデータは、CP−128 が選択的抗HBV 活性を有することを示す。メカニズムの研究は、CP−128 がHBV 誘導性DNA 、コア抗原(HBcAg)及び“e”抗原(HBeAg)の細胞の産生に対する阻害効果を有し得ることを示す。結果として、CP−128 及び本発明の他の化合物がHBV ヌクレオキャプシドのアセンブリー及びウィルスプレゲノムDNA のパッキングを同様に阻害することが仮定される。
【0087】
先の実施例は、本発明を詳細に示すものであり、それを限定するものとして解釈されない。本発明は以下の請求の範囲により規定され、請求の範囲の均等物もその中に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療の必要な被検体において、腫瘍と戦うための医薬製剤であって、式II:
【化11】

(ここで、式IIの環構造はC1 〜C3 アルキルで1〜3回、任意に置換され、
1 は非分枝又は分枝した飽和又は不飽和C6 〜C20アルキル基であり;
2 ,R3 及びR4 は独立してメチル又はエチルであるか、又はR2 及びR3 は5もしくは6員環の脂肪族もしくはヘテロ環を共に形成してR4 はメチルもしくはエチルであり;
Xは、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;
5 は非分枝又は分枝したC2 〜C6 アルキル基であり;
mは1〜3であり;そして
nは0〜2である)
の化合物又はその医薬としての塩を含んで成る製剤。
【請求項2】
治療の必要な被検体において、腫瘍と戦うための医薬製剤であって、式III :
【化12】

〔ここで、R1 は、−OH,−COOH、オキソ、アミン、又は置換もしくは未置換の芳香族で1〜5回任意に置換された分枝又は非分枝の飽和又は不飽和C6 〜C18アルキル基であり;
Xは、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;
2 は、−OH,−COOH、オキソ、アミン、又は置換もしくは未置換の芳香族で1〜5回任意に置換された分枝又は非分枝の飽和又は不飽和C6 〜C14アルキル基であり;
Yは、NHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;そして
Zは、式V:
【化13】

(ここで、VはH又はN3 であり;
WはH又はFであり;又は
V及びWは共に共有結合であり;そして
Bは、位置2において=O,−OH,−SH,−NH2 、又はハロゲンで、位置4においてNH2 又は=Oで、位置6においてCl,−NH2 ,−OH、又はC1 〜C3 アルキルで、そして位置8においてBr又はIで任意に置換された式VI:
【化14】

のプリン成分であり;又は
Bは、位置4において=O又はNH2 で置換され、位置5においてハロゲン又はハロゲンで1〜3回任意に置換されたC1 〜C3 の飽和もしくは不飽和アルキルで任意に置換された式VII :
【化15】

のピリミジン成分である)の成分である〕
の化合物又はその医薬としての塩を含んで成る製剤。
【請求項3】
治療の必要な被検体において、腫瘍と戦うための医薬製剤であって、式IV:
【化16】

〔ここで、式IVの環構造はC1 〜C3 アルキルで1〜3回任意に置換され;
1 は非分枝又は分枝した飽和又は不飽和C6 〜C20アルキル基であり;
XはNHCO, CH3NCO, CONH, CONCH3, S,SO, SO2 ,O,NH、及びNCH3からなる群から選択され;
mは1〜3であり;
nは0〜2であり;そして
Zは式V:
【化17】

(ここで、VはH又はN3 であり;
WはH又はFであり;又は
V及びWは共に共有結合であり;そして
Bは、位置2において=O,−OH,−SH,−NH2 、又はハロゲンで、位置4においてNH2 又は=Oで、位置6においてCl,−NH2 ,−OH、又はC1 〜C3 アルキルで、そして位置8においてBr又はIで任意に置換された式VI:
【化18】

のプリン成分であり;又は
Bは、位置4において=O又はNH2 で置換され、位置5においてハロゲン又はハロゲンで1〜3回任意に置換されたC1 〜C3 飽和もしくは不飽和アルキルで任意に置換された式VII :
【化19】

のピリミジン成分である)
の成分である〕
の化合物又はその医薬としての塩を含んで成る製剤。

【公開番号】特開2011−51996(P2011−51996A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233427(P2010−233427)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【分割の表示】特願2006−278049(P2006−278049)の分割
【原出願日】平成7年8月7日(1995.8.7)
【出願人】(594141749)ウェイク フォレスト ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】Wake Forest University
【出願人】(506342501)ザ ユニバーシティ オブ ノースカロライナ アット チャペル ヒル (2)
【Fターム(参考)】