説明

ウェット処理装置

【課題】 設備費用、環境負荷などを低減することができ、被洗浄物の電気的特性が限定されず、被洗浄物に付着する汚染物を剥離除去する能力の高いウェット処理装置を提供する。
【解決手段】 基板4の上方に、基板4の被洗浄面4aを臨むように配置され、被洗浄面4aに洗浄液5を供給するノズル2と、基板4を載置して搬送する基板搬送手段とを含むウェット処理装置において、ノズル2がノズル容器10とノズル壁体11とからなり、スリット状開口部13を有し、スリット状開口部13に隣接するノズル容器内壁10aには電極16が配置され、電極16に電源20から電圧を印加することによって純水を電気分解してラジカルなどの活性種を発生させ、該活性種を含む純水を洗浄液5として被洗浄面4aに吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェット処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの洗浄には、RCA洗浄法が採用される。RCA洗浄法は、ベースになる、過酸化水素の高濃度水溶液中に、さらに硫酸、塩酸などの酸またはアンモニアなどのアルカリを高濃度で添加溶解し、高温に加熱した濃厚薬液に基板を浸漬することにより、基板に付着するパーティクル、有機物、金属、酸化膜などの汚染物を除去する方法である。この方法では、汚染物の除去後に、基板に付着する薬液を洗い流すために用いるリンス水の排水が発生する。この排水の中には、薬液中に含まれる酸、アルカリ、基板表面から除去される汚染物などが含まれる。また、RCA洗浄法を実行する洗浄装置中では、揮発成分、酸性ガスなどが発生する。これらはそのまま外部環境に廃棄できないので、これらを処理するための処理設備が必要になる。さらに、リンス水の排水は大量に発生するので、処理設備は大規模なものになる。このような設備は、排水などの処理および保守点検に費用を要する。
【0003】
最近では、半導体ウェハおよび液晶パネルのマザー基板の大型化が進み、それにともなってリンス水の排水の発生量が著しく増加し、これに関わる処理費用の高騰および環境負荷の増大が問題となっている。その一方で、半導体および液晶における回路のデザインルールは微細化の一途をたどり、半導体においては0.1μm以下のレベル、液晶においてもサブミクロンレベルまで実用化がなされている。回路のデザインルールが微細化されている半導体および液晶において、その歩留りを向上させるには、洗浄工程における洗浄力の向上が必要とされる。
【0004】
さらに、高圧の水を基板の被洗浄面に吐出し、物理的な力によって被洗浄面に付着する種々の汚染物を除去することも実施される。しかしながら、その洗浄力は充分満足できるものではなく、さらなる向上が望まれる。
【0005】
このような従来技術の問題点に鑑み、水を構成する原子である酸素原子および/または水素原子から導かれるラジカル種を用いる方法が挙げられる。この方法は、洗浄水中でラジカル種を発生させ、ラジカル種を含む洗浄水を基板の被洗浄面に吐出して、基板の洗浄を実施するものである。酸素原子および/または水素原子から導かれるラジカル種としては、水素ラジカル、酸素ラジカル(原子状酸素)、水酸基ラジカル、スーパーオキサイドラジカルなどが挙げられる。これらのラジカルの特徴は、反応性が非常に高く、反応可能なラジカル同士が瞬時に反応し、水、水素、酸素などに変化するため、環境への負荷がほとんどない。また、反応性が非常に高いことから、10ppm程度の濃度でも充分な洗浄力を有する。さらに、このようなラジカルは、主に、水を電気分解することによって得られるので、薬液を使用する必要がなく、特別な処理を要する排水および有害ガスが発生せず、これらを処理する設備を要しない。したがって、ラジカル種を用いる方法は、全般的に、クリーンでかつコストが低いという利点を有する。
【0006】
酸素原子および/または水素原子から導かれるラジカル種を利用する洗浄技術は、種々提案されている(たとえば、特許文献1参照)。図7は、特許文献1の基板洗浄装置100の構成を概略的に示す断面図である。洗浄装置100は、円筒体101と、円筒体101の内部に設けられる電解イオン発生部102および超音波印加手段103と、洗浄液吐出手段104とを含んで構成される。電解イオン発生部102は、純水中にラジカルおよび/またはイオンを含む洗浄水を生成させるものであり、電解イオン発生部102を2つの区画、すなわち第1空間106と第2空間107とに2分するHイオン交換膜105と、純水を貯留する第1、第2空間106,107と、Hイオン交換膜105の第1空間106側の面に密着するように設けられる第1電極108と、Hイオン交換膜105の第2空間107側の面に密着するように設けられる第2電極109と、円筒体101の外部から円筒体101の上部101aを貫いて第1、第2空間106,107に接続され、純水を供給する送液管110と、円筒体101の外部から円筒体101の側部101bを貫いて第1空間106に接続され、電気分解後の純水を円筒体101の外部に排出する排液管111と、第1電極108に電気的に接続され、正の電圧を印加するプラス電極112と、第2電極109に電気的に接続され、負の電圧を印加するマイナス電極113とを含んで形成される。超音波印加手段103は、電解イオン発生部102において得られる、ラジカルおよび/またはイオンを含む洗浄水に超音波を印加してラジカル濃度を増加させる超音波発生手段103と、円筒体101の外部から超音波発生手段103に電気的に接続され、超音波発生手段103に電圧を印加する給電ケーブル115とを含んで構成される。洗浄液吐出手段104は、円筒体101の内部から外方に向けて突出するように形成され、洗浄液116を外方へ向けて吐出するノズル117を含んで構成される。
【0007】
洗浄装置100によれば、まず、送液管110から第1、第2空間106,107に純水が供給され、それとともに、第1電極108にはプラス電極112から正の電圧が、第2電極109にはマイナス電極113から負の電圧がそれぞれ印加され、第1、第2空間106,107において電気分解が起こる。第1空間106では不図示の水酸基ラジカルが発生し、第2空間107では不図示の水素ラジカルが発生する。水素ラジカルは非常に反応性に富み、純水中で他の水素ラジカルと反応して安定な水素ガスとなって純水中に溶存するので、水素水が得られる。第2空間107で生成する水素水は矢符118の方向に流過し、超音波印加手段103から超音波の印加を受ける。水素水中の水素は超音波の印加により再び水素ラジカルとなり、ノズル117から吐出される。その一方で、第1空間106で生成する、水酸基ラジカルを含む純水は排液管111から外部に排出される。
【0008】
しかしながら、超音波により水素ラジカルに変換されるのは、水素水の水素濃度が1.2ppmである場合、水素濃度の1/10程度に過ぎない。この水素ラジカル濃度では、充分な洗浄能力を有しているとは言えない。さらに、大気圧下での水に対する水素の飽和溶解濃度は1.6ppm程度であること、水素水中の水素濃度を高くすると、超音波の伝播効率が悪くなり、水素ラジカル濃度が低下することなどを加味すると、水素水に超音波を印加して用いる洗浄方法では、洗浄能力に限界がある。
【0009】
さらに、特許文献1においては、基板洗浄装置100を、そのノズル117が基板の被洗浄面に対して鉛直方向の真上から洗浄液を吐出するように配置する。その結果、吐出される洗浄液は被洗浄面に滞留し、被洗浄面から除去できないので、新たに供給される、水素ラジカルを多く含む洗浄液が被洗浄面に付着する汚染物に直に接する割合が減少し、洗浄効率が低下する。
【0010】
また、純水から水素および酸素を発生させる水電解セルにおいて、陰極側給電体にシリコン基板を用い、純水の電気分解の際に発生する水素ラジカルにより基板の被洗浄面を水素終端化(不活性化)し、被洗浄面に自然酸化膜が形成されるのを防止する方法が提案される(たとえば、特許文献2参照)。図8は、特許文献2において用いる水電解セル120の構成を概略的に示す側面図である。水電解セル120は、水電解セル120を陽極122と陰極123とに分離する隔膜である固体電解質膜121と、固体電解質膜121の一方の面に接するように設けられる陽極側電極124、陽極側電極124に接するように設けられる陽極側給電体125および純水の供給を受ける陽極室126からなる陽極122と、固体電解質膜121の他方の面に接するように設けられる陰極側電極127、陰極側電極127に接するように設けられる陰極側給電体であるシリコン基板128および陰極室129からなる陰極123とを含んで構成される。このうち、固体電解質膜121、陽極側電極124および陰極側電極127はいずれも通水性材料によって構成される。この3部材は、純水のイオン解離を促進する通水性の触媒部材130として作用する。また、陽極側給電体125およびシリコン基板128は電気的に接続され、それぞれ、正の電圧および負の電圧が印加される。この水電解セル120では、陽極室126に純水を供給しながら、陽極側給電体125およびシリコン基板128に正および負の電圧を印加すると、触媒部材130内に純水の流れが生じ、陽極側電極124の表面では酸素と水素イオンとが発生し、水素イオンは触媒部材130内を流過して陰極側電極127とシリコン基板128との界面に達して電子の授受をうけ、陰極側電極127とシリコン基板128との隙間127aから水素ガスが発生する。そして、水素イオンが電子を与えられる際に、水素ガスとともに水素ラジカルが生成し、この水素ラジカルの作用により、シリコン基板128の表面が終端化される。
【0011】
この方法は、シリコン基板128表面を不活性化することを目的とするものであり、各種基板の洗浄を行おうとするものではないけれども、基板の洗浄に用いると仮定すると、特許文献1の方法に比べて100倍以上の洗浄能力を有すると考えられる。なぜならば、この方法では、水中での溶解性が水素よりも100倍以上高い水素イオンを原料として水素ラジカルを発生させるので、特許文献1の方法のように水素水から水素ラジカルを発生させる場合に比べて、理論上、水素ラジカルを100倍以上の濃度で生成させることができるからである。しかしながら、この方法においては、給電体の一方が被洗浄物で構成されるため、被洗浄物が金属の場合には有用であるけれども、被洗浄物が半導体基板、液晶パネルなどの場合には、被洗浄物が電気的に破壊されてしまうといった問題がある。
【0012】
また、この方法では、被洗浄物が導電体かまたは半導体であることが必要であるけれども、基板の被洗浄面に付着するパーティクル、レジスト残渣などの有機物の中には非導電性のものがあり、半導体および液晶パネルの製造工程における基板は必ずしも導電体または半導体ではなく、さらには、半導体基板の電極部分には、フォトリソグラフィーにより金属、半導体、絶縁体などが複雑に入り混じったパターンが形成されるので、これらを洗浄するのは困難である。
【0013】
さらに、気相中で生成させるラジカルなどの活性種を、基板などの被洗浄面に供給して被洗浄面のエッチング、被洗浄面に付着する有機物除去などを行うエッチング装置が開示される(たとえば、特許文献3参照)。この装置は、気相として酸素、窒素、ヘリウム、ネオンなどのエッチングガスを使用し、エッチングガスをプラズマ室に充填し、これに直流、交流またはパルス状電界を印加してアーク放電、グロー放電などを起こし、プラズマ状態を現出させ、プラズマ状態のエッチングガス中での電子と原子の衝突などにより発生するラジカル化またはイオン化した活性な原子を用いて、金属膜、絶縁膜などのエッチング、これらの膜の表面に付着する有機物の除去などを行うものである。しかしながら、ラジカルなどの活性種の発生過程が、特許文献1および2の電気化学反応とは大きく異なるので、活性種の挙動にも大きな違いがあり、同様の作用を示すわけではない。
【0014】
また、エッチングを行うと、レジストと反応して不揮発油分が生成し、レジスト剥離、アッシングなどを行うと不揮発油分が残留する。このため、半導体基板の洗浄工程として許容される水準まで洗浄を行うには、別途、洗浄液を用いるウェット処理を行う必要がある。また、この装置では、活性種を含むエッチングガスを被洗浄物に吹き付けることによりエッチングなどを行うけれども、このようなエッチングガスの密度は液体に比べて著しく低いため、直径100μm以下の比較的小さな微粒子を除去できない。したがって、この装置を用いてプラズマエッチングまたはプラズマ洗浄を行う場合は、ウェット処理による洗浄、剥離工程などが必要である。一方、純水をプラズマ媒体とする場合には、純水に数百ボルト以上の高電圧を印加しなければ電気化学反応は起こらない。加えて、この装置のように、気相中でプラズマを生成させる装置では、電界を印加するためのノズルの電極表面に絶縁処理を施されるので、印加電圧を高めても電気化学反応が起こらない。
【0015】
【特許文献1】特開平10−128249号公報
【特許文献2】特開平9−186133号公報
【特許文献3】特開昭59−151428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、設備費用、環境負荷などを低減することができ、被洗浄物の電気的特性が限定されず、被洗浄物に付着する汚染物を剥離除去する能力の高いウェット処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、被洗浄物の上方に、該被洗浄物の被洗浄面を臨むように配置されるノズルを含み、該ノズルから供給される洗浄液により、被洗浄物の被洗浄面を洗浄するウェット処理装置において、
該ノズルが、
洗浄液を被洗浄物の被洗浄面に供給するスリット状開口部を有し、
スリット状開口部内の洗浄液流路の一方の内壁面に、一対の陽極と陰極とからなる電極が少なくとも1つ配置されてなることを特徴とするウェット処理装置である。
【0018】
さらに本発明のウェット処理装置は、被洗浄物の上方に配置されるノズルのスリット状開口部における洗浄液流路の延長線と、被洗浄物の被洗浄面とが成す角の角度が90°未満であることを特徴とする。
【0019】
さらに本発明のウェット処理装置は、被洗浄物を移動させる移動手段を含むことを特徴とする。
【0020】
さらに本発明のウェット処理装置は、洗浄液が純水であり、電極における陽極と陰極との間に、水の電離を促進する触媒を挟持させることを特徴とする。
【0021】
さらに本発明のウェット処理装置は、触媒が、酸性カチオン交換能または塩基性アニオン交換能を有するイオン交換物質であることを特徴とする。
【0022】
さらに本発明のウェット処理装置は、陰極および陽極が、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、被洗浄物の被洗浄面に洗浄水を吐出供給するスリット状開口部を有するノズルにおいて、スリット状開口部内部の一方の洗浄液流路内壁面に、一対の陽極と陰極とからなる電極をすくなくとも1つ設けることによって、水素ラジカル、水酸基ラジカルなどの純水由来の活性種をノズル内部で発生させることができる。ラジカルなどの活性種は反応性に富み、消失し易いけれども、高速の水流が流過するノズル内部でラジカルなどの活性種を発生させ、しかもスリット状開口部はノズルの部位の中でも最も被洗浄物の近傍に位置するので、ラジカルなどの活性種は発生後直ちに被洗浄物の被洗浄面に供給され、消失量が少なくなる。また電極を一方の壁面に設けることにより、スリット状開口部からの水流を阻害することが無いので、スリット状開口部から高速の水流を得ることができる。その結果、ラジカルなどの活性種を高濃度で含有する洗浄水を被洗浄面に供給できる。
【0024】
したがって、前述のノズルを含む本発明のウェット処理装置は、洗浄能力が高く、被洗浄面に付着する微粒子由来のパーティクル、レジスト残渣などの有機物といった汚染物を容易に除去することができる。
【0025】
また本発明のウェット処理装置は、純水を電気分解して活性種を含む洗浄液を調製する方式を採るので、特別な薬液を使用する必要がない。したがって、薬液に掛かるコスト、生成する排液、毒性ガスなどを処理するための設備を必要とせず、環境負荷も非常に小さい。
【0026】
また本発明のウェット処理装置は、被洗浄物が導電性物であるか、半導体であるかまたは絶縁物であるかといった電気的特性に関係なく、被洗浄物を洗浄することができ、しかも被洗浄物を電気的に破壊することがない。
【0027】
本発明によれば、被洗浄物の上方に配置されるノズルのスリット状開口部において、その内部の洗浄液流路の延長線と被洗浄物の被洗浄面とがなす角θ1の角度を90°未満とすることによって、ノズルから吐出供給される洗浄液が被洗浄面に滞留するのが防止される。したがって、汚染物との反応によってラジカルなどの活性種が消失した洗浄液は、被洗浄面に滞留することなく、被洗浄面から外に排出されるので、洗浄効率がさらに向上する。なお、角θ1は、被洗浄物の搬送方向の下流側から上流側に向かって伸びる洗浄液流路の延長線と、被洗浄物の被洗浄面とがなす角であることが好ましい。
【0028】
本発明によれば、本発明のウェット処理装置において、さらに被洗浄物を移動させる移動手段を設けることによって、被洗浄物を連続的に洗浄することができ、被洗浄物が、たとえば1辺1m程度の大型物であっても、速やかに洗浄を実施することができる。
【0029】
本発明によれば、電極における陽極と陰極との間に、水の電離を促進し、イオン濃度を増加させる触媒(好ましくは酸性カチオン交換能または塩基性アニオン交換能を有するイオン交換物質)を挟持させ、この電極に電界を印加して電気分解を行うことによって、ラジカルなどの活性種の生成量をさらに増加させ、洗浄能力を一層向上させることができる。
【0030】
本発明によれば、陰極および陽極を、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料で構成することによって、純水の電気分解効率がさらに向上し、ラジカルなどの活性種の生成量が一層増加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1(a)は、本発明の実施の第1形態であるウェット処理装置1の構成を模式的に示す側面図である。図1(b)は、図1(a)に示すウェット処理装置1の構成を模式的に示す上面図である。
【0032】
ウェット処理装置1は枚葉方式で基板4を洗浄する装置であり、基板4の上方に、基板4の被洗浄面4aを臨み、被洗浄面4aに基板4の搬送方向である矢符7方向の下流側から上流側に向けて矢符6の方向に洗浄液5を供給するノズル2と、基板4を載置し、矢符7の方向に搬送する基板搬送手段3とを含んで構成される。
【0033】
ウェット処理装置1は、ノズル2内において、図示しないラジカル発生手段により純水中にラジカルなどの活性種を発生させ、このラジカルなどの活性種を含む純水である洗浄液を、基板4の被洗浄面4aに吐出し、被洗浄面4aに付着する除去対処物にラジカルなどの活性種を接触させて洗浄する洗浄流体供給手段である。
【0034】
本発明では、特許文献2のように被洗浄物を給電体として用いる技術ではなし得ない、非導電体の洗浄をも行うことができ、しかも洗浄中に被洗浄物が液晶用ガラス基板などの非導電体であっても電気的破壊を生じることなく、効率的かつ安定に洗浄を実施することができる。
【0035】
基板4の表面の一部または全面には、除去対象物質が付着、固着または堆積する。除去対象物質には有機物および無機物がある。有機物および無機物は特に制限はなく、従来からこの分野で除去対象になる物質であって、純水中に生成するラジカルなどの活性種によって除去または剥離あるいは溶解または分解され得る物質であれば特に制限されない。また、除去対象物質は、液体、ゲル状物、粘着物、固形物などの、いずれの形態のものでもよい。無機物の具体例としては、金属、金属酸化物、その他無機物を主成分とする微粒子(パーティクル)などが挙げられる。有機物の具体例としては、たとえば、レジスト残渣、その他有機物由来の付着汚染物などが挙げられる。
【0036】
ラジカル発生手段は、ラジカルを発生または生成する単一の物体またはその複合体の全てを含む。
【0037】
洗浄とは、洗浄液などの流体中において、基板4の被洗浄面4aに存在する汚染対象物を除去または溶解あるいは剥離または分解し、被洗浄面4aを清浄化することである。また、流体中において被洗浄面4a上のパーティクルを除去することをも包含する。
【0038】
図2は、ノズル2の構成を概略的に示す断面図である。図3は、ノズル2の要部を拡大して示す断面図である。ノズル2は、ノズル容器10と、ノズル壁体11とを含んで構成され、ノズル容器10とノズル壁体11とが装着される。ノズル容器10のノズル壁体11に対する装着面側に凹所が形成され、ノズル容器10とノズル壁体11とが装着されるとき、該凹所が圧力空間12を形成する。
【0039】
この圧力空間12は、搬送される基板4を臨み外部空間に連通するスリット状開口部13を有し、ノズル容器10の圧力空間12に臨む内壁面10aと、ノズル壁体11の圧力空間12に臨む内壁面11aとによって形成される間隙は、圧力空間12の中央部からスリット状開口部13へ近接するのに伴って狭くなるように構成され、スリット状開口部13においては数十〜数百μmである。
【0040】
また、ノズル容器10には、ノズル容器10を貫通し、圧力空間12に連通するように純水供給路14が設けられる。純水供給路14は、図示しない純水供給管を介して図示しない純水貯留槽に接続され、たとえば、純水供給管と純水貯留槽との間に設けられる加圧ポンプの作用によって加圧状態にある純水または超純水を、ノズル2の外部から矢符15の方向で圧力空間12内に供給する。このとき、純水および超純水は、好ましくは数MPa〜10MPa程度に加圧される。圧力空間12に供給される純水または超純水は、スリット状開口部13から基板4の被洗浄面4aに向けて矢符6方向に吐出される。このとき、吐出速度は10〜100m/秒程度になる。本発明で使用する純水および超純水は、通常の紫外線照射で微生物類を滅菌し、メンブランフィルタで溶解有機物およびイオン無機物を極限まで除去することによって得られる精製水であり、比抵抗値が10MΩ・m以下の精製水を純水、比抵抗値が10MΩ・mを超え、18.3MΩ・mまでの精製水を超純水という。純水または超純水を用いることにより、液晶パネル、半導体の製造工程などの、清浄な環境を必要とする精密洗浄分野において、特に効果を発揮する。なお、純水純度が低下すると、ラジカルなどの活性種の生成効率が低下するので、純水の純度の指標である比抵抗値は1MΩ・cm以上であることが好ましい。
【0041】
また、ノズル容器10の内壁面10aの、スリット状開口部13に隣接する部分に、内側電極17と、絶縁皮膜17aと、触媒層18と、絶縁皮膜19aと外側電極19とを矢符6の方向に順次積層してなる電極16が設けられる。
【0042】
内側電極17および外側電極19は、ノズル2の外部にある電源20に電気的に接続される。内側電極17および外側電極19は、電圧印加時に、常時反応性の高いラジカルなどの活性種に晒されるため、化学的酸化および還元に対して高い耐性を持つ電気伝導性材料が好ましい。このような導電性材料の中でも、化学反応に耐性が高く、かつ電気伝導性の高い材料、具体的には、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上を含むものが好ましい。また、ノズル2全体としての耐性を高めることを考慮すると、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる材料を含む複合材料、たとえば、ニッケルまたはタングステンを5重量%程度ドープしてなる白金などがさらに好ましい。また、ステンレス鋼を母材とし、これに金、白金などをめっきしたものを用いることができる。
【0043】
触媒層18は、純水中でのイオン交換反応を促進し、純水のイオン積を増大させる機能を有しており、それ自体は反応前後において同じ状態で存在し得る物質、好ましくはイオン交換樹脂を含んで構成される。イオン交換樹脂は、イオン交換できる酸性基または塩基性基をもつ不溶性の合成樹脂である。イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂および両性交換樹脂の3種に大別される。このようなイオン交換樹脂の中でも、純水のイオン積を増大させる機能を有する酸性カチオン基または塩基性アニオン基を導入してなる樹脂が好ましく、スルホン酸基を導入してなる樹脂、四級アンモニウム基を導入してなる樹脂などがさらに好ましく、流体のイオン積Kwを14≧−logKwの範囲で増大させるイオン交換樹脂などが特に好ましい。ここで、流体とは、液状であるものを意味する。また、気体と液体とが共存する形態のものであってもよい。本発明で使用する流体は、それ自体がラジカルなどの活性種であるかまたはラジカルなどの活性種を含む。本発明では、流体としては、純水が好ましく、超純水が特に好ましい。
【0044】
内側電極17と外側電極19に電圧を印加するときに流れる電流値は、実際に生成するラジカルなどの活性種濃度に影響を及ぼす。ノズル2から内側電極17および外側電極19に供給される純水流量をQ(リットル/分)、内側電極17と外側電極19とを介して流れる電流値をI(A)とすると、生成する洗浄液中の水素ラジカルと水酸基ラジカルとの合計濃度C(mol/リットル)は、下記式で表される。
C=60I/96500Q
【0045】
たとえば、純水流量36リットル/分、電流値8Aとすると、洗浄液5内に含まれる水素ラジカルの濃度は138μmol/リットルとなる。この洗浄液5を幅400mm、間隔15μmのスリット状開口部13を持つノズル2から吐出すると、吐出流速は100m/秒となり、被洗浄面4a上での水素ラジカル濃度は4μmol/リットルになる。すなわち、水素水に超音波を印加する従来法よりも100倍以上の高濃度で、ラジカルなどの活性種を基板4の被洗浄面4aに供給できる。既に述べてきたように、ラジカルなどの活性種は反応性が非常に高いため、寿命が数100μ秒以下と短い。したがって、生成するラジカルなどの活性種を速やかに被洗浄面4a上に供給する必要がある。本発明の構成では、スリット状開口部13内部における洗浄液流路の一方の壁面に電極16を設置してラジカルなどの活性種の生成を行うことにより、スリット状開口部13からの100m/秒という高速の水流にのって、ラジカルなどの活性種を被洗浄面4aに高速で供給でき、かつ、ノズル2のうちで、スリット状開口部13という被洗浄面4aに最も近接する部位にラジカルなどの活性種発生手段である電極16を設けるので、高濃度のラジカルなどの活性種を被洗浄面4aに供給できる。
【0046】
触媒層18は、好ましくは、多孔質状、網目状、繊維状、粒子状または不織布状の基体にイオン交換能を付与したものである。その中でも、イオン交換能を付与してなる不織布は、ノズル組み立て時の扱い易さ、使用中の安定性などから最も好ましい。このような触媒層18は、たとえば、放射線グラフト重合法により製造できる。さらに具体的には、たとえば、適当な空隙率を有する基体に、イオン交換基およびγ線の照射によりグラフト重合可能な基を有するイオン交換樹脂を含む溶液を塗布し、これにγ線を照射してグラフト重合を行えばよい。また、イオン交換樹脂を射出成形などの一般的な成形手段により前記のような形状または形態を有する基体に成形してもよい。ここで、イオン交換基の種類または量を適宜変更することによって、ラジカルなどの活性種の生成濃度を制御できる。
【0047】
触媒層18を設け、たとえば、18.2MΩ・cmの比抵抗値を有する純水中で50Vの電圧を印加すると、水酸基イオンおよび水素イオンのイオン濃度が明らかに増加し、10A/cm程度の電流が得られる。これに対し、触媒層18を設けないこと以外は同じ条件の場合には、10−2mA/cm程度の電流値しか観測されない。したがって、触媒層18を設けることによって、触媒層18を設けない場合に比べて、10倍の電流値が得られる。さらに、この電流値は、純水中におけるラジカルなどの活性種の生成量に直接影響するため、純水を単に電気分解する場合に比べて、10倍のラジカルなどの活性種濃度を有する洗浄液5を得ることができ、高い洗浄性能を得ることができる。
【0048】
触媒層18の具体例としては、たとえば、フッ素樹脂からなる直径0.1mmの繊維を作成し、これにスルホン酸基を導入した強酸性カチオン交換樹脂からなる繊維を不織布状に形成した厚さ0.5〜1.0mmのシートが挙げられる。このシートは0.1〜1.0mmの空孔径の網目状構造を有し、純水を容易に透過することができる。
【0049】
絶縁皮膜17a,19aは、内側電極17および外側電極19と触媒層18との接触面において、スリット状開口部13の近傍部分を除く部分に形成される。前記近傍部分において発生するラジカルなどの活性種は、スリット状開口部13での純水の流れに載せてノズル2の外方へ吐出させることができる。しかしながら、前記近傍部分以外でラジカルなどの活性種が生成しても、スリット状開口部13での純水の流れに載せることができず、または載せる前に失活することが多い。したがって、絶縁皮膜17a,19aを形成することによって、汚染物除去に使用できない余計なラジカルなどの活性種の生成を防止し、副生するガス量を減らし、消費電力を低下させることができる。
【0050】
絶縁皮膜17a,19aを構成する材料は、絶縁皮膜17a,19aが電圧印加時に反応性の高いラジカルなどの活性種に常時晒されることから、化学的酸化および還元に対して高い耐性を持つ材料が好ましい。このような材料の具体例としては、たとえば、テフロン(商標名、デュポン社製)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、バイトン(商標名、デュポン社製)などのフッ素樹脂が挙げられる。
【0051】
図4は、電極16近傍においてイオンが生成する機構を示す断面図である。本図では、内側電極17を陽極、外側電極19を陰極とする。洗浄液5の溶媒である純水に浸漬する触媒18は、電源20から内側電極17および外側電極19に2〜50V程度の直流電圧を印加し、それにより形成される電界によって生起する純水の電気分解反応を促進し、純水中の水素イオン22および水酸基イオン23の濃度積を増大させる。これにより生成する水素イオン22および水酸基イオン23は、電極16により形成される電界によって、水素イオン22は外側電極19に、水酸基イオン23は内側電極17に引き寄せられ、各電極17,19の近傍に移動する。次に各電極17,19上にて、電気化学的反応によりラジカルなどの活性種が生成する。
【0052】
図5(a)は、外側電極(陰極)19上において水素ラジカル(・H)が生成する機構を示す断面図である。図5(b)は、内側電極(陽極)17上において水酸基ラジカル(・OH)が生成する機構を示す断面図である。これにより、主要なラジカルなどの活性種の生成機構を説明する。図5(a)に示すように、純水の電気分解により生成する水素イオン22が、電界により外側電極19近傍へ引き寄せられる。さらにこの水素イオン22は、外側電極19から電子24を受け取って還元され、水素ラジカル25が生成する。この水素ラジカル25を含む純水が洗浄液5として被洗浄面4a上に供給されることにより、水素ラジカル25が被洗浄面4aに供給される。図5(b)に示すように、純水の電気分解反応により生成する水酸基イオン23が、電界により内側電極17近傍へ引き寄せられる。さらに内側電極17により電子24を奪われて酸化され、水酸基ラジカル(・OH)26が生成する。この水酸基ラジカル26を含む純水が洗浄液5として被洗浄面4a上に供給されることにより、水酸基ラジカル26が被洗浄面4aに供給される。
【0053】
内側電極17および外側電極19で、それぞれ水素ラジカル25および水酸基ラジカル26が生成するけれども、水素ラジカル25の方が水酸基ラジカル26よりも反応性が高く、寿命が短いため、被洗浄面4aに最も近接する部分に位置する外側電極19を陰極とし、外側電極19で水素ラジカル25を生成するように構成するのが好ましい。
【0054】
下記化1は、図4において生成するラジカルなどの活性種、この活性種と純水との反応により派生する、純水由来の活性種の生成機構を示す化学反応式である。反応式(1)〜(3)は、ラジカルなどの活性種の生成機構を示す。詳しくは、反応式(1)は、ラジカル生成機構の第1段階である水素イオン22および水酸基イオン23の生成機構を示す。反応式(2)は、電極酸化における水酸基ラジカル26の生成機構を示す。反応式(3)は電極還元における水素ラジカル25の生成機構を示す。反応式(4)から(8)は、ラジカルなどの活性種と純水との反応により派生する、純水由来の活性種の生成機構を示す。生成するラジカルが純水またはラジカル同士での反応により消滅または変化する反応である。純水由来の活性種としては、水素ラジカル25、水酸基ラジカル26以外に、酸素ラジカル、スーパーオキサイドアニオンラジカル、HOラジカル、HOラジカル、オゾン、過酸化水素などがある。また、酸素、水素、窒素、二酸化炭素などの水に含まれるガスにより、その他の活性種を生成させることも可能であり、本発明の活性種生成手段はここに記載する活性種の生成のみに限定されない。
O ⇔OH+H …(1)
OH ⇔・OH+e …(2)
+e ⇔・H …(3)
・OH+・OH ⇔H …(4)
O+・OH ⇔OH+H …(5)
O+・H ⇔H+・OH …(6)
・H+・H ⇒H …(7)
・OH+・H ⇒H …(8)
【0055】
純水から生成する活性種は、反応性が高いため、たとえば、微粒子表面とシリコン基板またはガラス基板の表面との間に形成されるシラノール結合を切断すること、シリコン基板上などの微粒子結合活性サイトである、ダングリングボンドを不活性化することにより、微粒子と基板との付着力を低減し、微粒子の除去力を向上させることなどが可能である。また、レジスト残渣、工程内由来の有機成分などによる汚染の除去に対しても効果的であり、この場合、有機物中の炭素−炭素、炭素−水素などの共有結合などの強い結合を切断して酸化することにより、低分子の有機分子または二酸化炭素と水とに分解され、除去される。
【0056】
図3に戻り、ノズル壁体11には、生成するラジカルなどの活性種によって腐蝕などを生起しないように、電極16に対向する表面部分およびその近傍に、保護膜11bを形成する。保護膜11bには、電極16の触媒層18に対向する位置に、触媒層18に向けて突出するように突起部11cが形成される。突起部11cによって、圧力空間12からスリット状開口部13への液流のうち、ノズル壁体11の表面および保護膜11aに沿う流れは、触媒層18に向かう流れに変換される。その結果、液流によって触媒層18の触媒が吸い出されるのが防止される。さらに、突起部11cによって、内側電極17および外側電極18の圧力空間12への露出面近傍の液流の流速が大きくなり、生成するラジカルなどの活性種がその液流にのってスリット状開口部13から吐出されるので、ラジカルなどの活性種の被洗浄面4aへの到達が速くなる。保護膜11bおよび突起部11cには、絶縁皮膜17a,19aを構成する材料と同様のものを使用できる。
【0057】
前述のような構成を有するノズル2において、特に好ましい形態として、たとえば、ノズル2に供給される純水は比抵抗が10〜18.3MΩ・cmの純度であり、内側電極17および外側電極19はステンレス鋼(SUS316L)を母材とし、これに厚さ2μmの白金めっきを施したものを用い、絶縁皮膜17a、19aおよび保護皮膜11bには、フッ素樹脂とポリイミドの共重合体とを含む熱硬化樹脂組成物からなる厚さ10μmの樹脂膜を用いる。さらに、ノズル2のスリット状開口部13の間隔は15μmに形成する。内側電極17と外側電極19との間隔を0.5mmとし、その間に、触媒層18を挿入する。触媒層18は、フッ素樹脂からなる直径0.1mmの繊維を作成し、これにスルホン酸基を導入した強酸性カチオン交換樹脂からなる繊維を不織布状に形成した厚さ0.5mmのシートを用いる。
【0058】
ノズル2においては、ラジカルなどの活性種を生成するための電極16がノズル容器10の内壁面10aに嵌め込まれるように形成されるので、ノズル壁体11を単純で剛性の高い構造に形成できる。このため、ノズル2を基板4の被処理面4aの上方に配置する際に、ノズル2をノズル壁体11側に傾斜させ、被処理面4aに近接させ、好ましくはラジカル供給が可能な位置まで近接させて配置できる。ここで、ラジカル供給が可能な位置とは、洗浄を実施するのに有効な量および速度で、ノズル2内におけるラジカルなどの活性種の発生位置から基板4の被洗浄面4aにラジカルなどの活性種の供給または送達が可能となる、ノズル2内のラジカル発生手段および基板4の位置を意味する。また、ノズル2の傾斜角度は特に制限されないけれども、スリット状開口部13を形成するノズル壁体11の内壁面11aの延長線21と被処理面4a(好ましくは、被洗浄物の搬送方向の下流側から上流側に向かって伸びる洗浄液流路の延長線21と、被洗浄物の被洗浄面4a)とがなす角θ1の角度が90°未満、さらに好ましくは15°を超え60°未満になるようにノズル2を配置すればよい。このように、ノズル2を被処理面4aに近接させ、好ましくはラジカル供給が可能な位置まで近接させて配置することは、ラジカルなどの活性種を高濃度で含む洗浄液5を被処理面4aに供給する上でも有利である。すなわち、ノズル2内で生成する活性種は反応性が高い反面、その寿命も非常に短く、一般に数100μ秒以下である。このため、被洗浄面4aとスリット状開口部13の先端との距離を可能な限り短くする必要がある。したがって、前述のノズル2の構造的な特徴を利用して、ノズル2を被処理面4aに対して近接配置することによって、洗浄液5中における活性種の濃度低下を抑制することができる。被洗浄面4aとスリット状開口部13の先端との距離は、基板4の反り、歪み、ノズル2に純水を供給するポンプのユーティリティなどを考慮すると、5〜10mm程度の範囲から選択するのが実用上好ましい。なお、洗浄液5中の活性種濃度の低下を抑制するためには、ノズル2からの洗浄液5の吐出速度を一層早くすることも重要である。洗浄液5の吐出速度は、好ましくは10〜100m/秒程度の範囲で設定される。洗浄液5が前記のような吐出速度で吐出されることによって、被洗浄面4aにおいて洗浄液5の平行な液流が発生し、被洗浄面4a上に付着する除去対象物質に洗浄液5の液流による物理的なせん断力を付与することができる。その結果、除去対象物を一層効率的に除去できる。
【0059】
前述のような構成を有するノズル2を、基板4の被処理面4aに対して近接させることにより、高濃度の活性種を被処理面4aの全面にわたり均一に供給でき、被処理面4aのウェット処理(洗浄)を行うことができる。ノズル2においては、まず、矢符15の方向から純水の供給を受け、供給される純水は圧力空間12を満たした後、スリット状開口部13から矢符6の方向に吐出される。このとき電源20により内側電極17と外側電極19とに電圧を印加すると、純水と触媒層18とに電界が印加される。その結果、ラジカルなどの活性種が純水中に生成し、これを洗浄液5として、基板4の被洗浄面4aに供給する。
【0060】
図1に戻り、基板搬送手段3は、図示しない駆動手段により、軸線回り(時計回り)に回転駆動可能に設けられる複数の搬送ローラを含んで構成される。複数の搬送ローラは、その軸線が同一平面上に位置するように、一列に配列される。また、複数の搬送ローラの一部は、駆動手段を持たない従動ローラであってもよい。搬送ローラの回転駆動により、搬送ローラ上に載置される基板4は、矢符7の方向に搬送される。これにより、枚葉方式の洗浄が可能になる。基板4は、基板搬送手段3によって矢符7の方向に搬送されながら、洗浄液5が供給されるので、被洗浄面4aの全面が均一に洗浄される。
【0061】
ここで、ノズル2から洗浄液5を吐出する方向6は、基板4の被洗浄面4aに垂直な方向に対して傾斜し、基板4の搬送方向である矢符7の方向に関して下流側から上流側に向かう方向になる。この構成は、被洗浄面4aの洗浄終了部分を清浄に保つ効果がある。洗浄に使用された後の洗浄液5中には、たとえば、微粒子(パーティクル)、有機物残渣などの除去対象物質が含まれる。これらの除去対象物質を含有する洗浄液5が、被洗浄面4aの洗浄終了部分に滞留するのを防止できる。さらに、吐出方向6が被洗浄面4aに垂直な方向に対して傾斜するので、ノズル2からの洗浄液5の吐出速度が被洗浄面4aに平行方向に作用し、被洗浄面4a上の除去対象物質に洗浄液5の液流による物理的なせん断力を効果的に作用させることができ、除去対象物質を被洗浄面4aから効率的に除去できる。
【0062】
ウェット処理装置1によれば、まず、ノズル2に加圧状態にある純水が供給される。そして、ノズル2内に配置される電極16によりラジカルなどの活性種を生成させ、該活性種を含む純水すなわち洗浄液5を、基板搬送手段3によって矢符7の方向に搬送されつつある基板4の被洗浄面4a上に矢符6の方向から供給する。その結果、被洗浄面4a上の除去対象物質が除去、分離、剥離または分解され、被洗浄面4aが洗浄される。
【0063】
図6(a)は、本発明の実施の第2形態であるウェット処理装置30の構成を模式的に示す側面図である。図6(b)は、図6(a)に示すウェット処理装置30の構成を模式的に示す正面図である。ウェット処理装置30は、ウェット処理装置1に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0064】
ウェット処理装置30は、基板4が水平面32に対して角度θ3の傾斜を有して、搬送、洗浄されることを特徴とする。
【0065】
ウェット処理装置30も、基板4の被処理面4aに洗浄液5を供給するノズル2と、ウェット処理装置1と同様に、枚葉方式で基板4を洗浄する装置であり、載置される基板4を矢符7の方向に搬送する基板搬送手段3aと、基板4を下端部で保持し、基板4が落下するのを防止する基板保持手段31とを含んで構成される。
【0066】
ノズル2は、基板4の上方に、図示しないスリット状開口部が被洗浄面4aを臨み、被洗浄面4aに対して平行に配置される。これによって、被洗浄面4aの全面にわたって均一に洗浄を実施できる。さらに、ノズル2は、基板4の搬送方向である矢符7の方向に対して角度θ2を有し、水平方向32に対して角度θ3の角をなすように配置される。すなわち、ノズル2は、傾斜して搬送される基板4に対して平行に配置される。角度θ2の大きさは特に制限されないけれども、15°を超え、80°以下の範囲が好ましい。これによって、ノズル2の幅方向において、被洗浄面4aの上部に吐出される洗浄液5が被洗浄面4aを流過して下部に到達し、その際に前記下部に吐出される洗浄液5の障害物になって、下部に吐出される洗浄液5が減速するのを抑制できる。このように、洗浄液5が減速されることなく被洗浄面4aに到達するので、洗浄液5中に含まれる活性種の反応による消失量が減り、活性種を高濃度で含有する洗浄液5を被洗浄面4aに供給できる。さらに、この構成を採ることによって、被洗浄面4aの洗浄終了部分に他の部分で除去される除去対象物質が再付着するのを防止し、洗浄終了部分の清浄性を保つことができる。すなわち、洗浄に用いられた後の洗浄液5の排水中には、たとえば、微粒子、有機物残渣などの除去対象物質が含まれる。このような排水が洗浄終了部分を流過するのを防止できる。したがって、角度θ2が15°未満では、特に大型基板を洗浄する場合に、ノズル2の幅が大きくなりすぎ、洗浄作業の効率を低下させる。80°を超えると、洗浄終了部分を清浄に保持できないおそれがある。
【0067】
基板搬送手段3aは、複数の搬送ローラの軸線が同一平面内に位置するように一列に配置され、前記平面と水平面32とがなす角の角度θ3が30°を超え、90°以下になるように設けられる。この結果、搬送ローラ上に載置される基板4も、上記のように、水平面32に対して角度θ3すなわち30°を超え、90°以下で傾斜保持される。したがって、基板4は、傾斜保持された状態で矢符7の方向に搬送される。これによって、基板4が水平状態で搬送される場合に比べて、被洗浄面4a上での洗浄液5の滞留を防ぐことができる。洗浄液5の置換効率、ラジカルなどの活性種の被洗浄面4aへの供給速度、洗浄液5の液流による物理的洗浄力の伝達効率などが向上する。特に置換効率の向上が顕著である。置換効率は、洗浄工程において、清浄度を得るための重要な要素である。すなわち、本発明では、寿命の短いラジカルなどの活性種を洗浄に用いるため、ノズル2内で生成する活性種を速やかに基板4の被洗浄面4aに供給する必要がある。基板4を水平面に対して傾斜保持することにより、被洗浄面4a上で洗浄液5が滞留し、洗浄液溜りの発生を抑制する。洗浄液溜りは、被洗浄面4aに引き続き供給される洗浄液5の流速を低下させ、洗浄液5中に含まれる活性種の被洗浄面4aへの到達時間を遅延させる。したがって、洗浄液溜りの発生を抑制することによって、活性種の被洗浄面4a上への到達時間が短くなり、活性種濃度の高い洗浄液5を被洗浄面4aに供給できる。これによって、洗浄能力を向上させることができる。
【0068】
ウェット処理装置30によれば、ノズル2内に供給される純水は、ノズル2内で活性種を含む純水である洗浄液5に変換され、ノズル2から傾斜保持される基板4の被洗浄面4aに吐出され、被洗浄面4aに付着する除去対象物質は洗浄液5に含まれる活性種により除去される。洗浄終了後の基板4は、矢符7の方向に搬送され、次の工程に供される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1(a)は本発明の実施の第1形態であるウェット処理装置の構成を模式的に示す側面図である。図1(b)は、図1(a)に示すウェット処理装置1の構成を模式的に示す正面図である。
【図2】ノズルの構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示すノズルの要部を拡大して示す断面図である。
【図4】電極近傍におけるイオンの生成機構を示す断面図である。
【図5】図5(a)は、外側電極における水素ラジカルの生成機構を示す断面図である。図5(b)は、内側電極における水酸基ラジカルの生成機構を示す断面図である。
【図6】図6(a)は本発明の実施の第2形態であるウェット処理装置の構成を模式的に示す側面図である。図6(b)は図6(a)に示すウェット処理装置の構成を模式的に示す上面図である。
【図7】従来技術の基板洗浄装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図8】従来技術の水電解セルの構成を概略的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0070】
1,30 ウェット処理装置
2 ノズル
3,3a 基板搬送手段
4 基板
4a 被洗浄面
5 洗浄液
6,7,15 矢符
10 ノズル容器
10a ノズル容器内壁面
11 ノズル壁体
11a ノズル壁体内壁面
12 圧力空間
13 スリット状開口部
14 純水供給路
16 電極
17 内側電極
17a,19a 絶縁皮膜
18 触媒層
19 外側電極
20 電源
21 延長線
22 水素イオン
23 水酸基イオン
24 電子
25 水素ラジカル
26 水酸基ラジカル
31 基板保持手段
32 水平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物の上方に、該被洗浄物の被洗浄面を臨むように配置されるノズルを含み、該ノズルから供給される洗浄液により、被洗浄物の被洗浄面を洗浄するウェット処理装置において、
該ノズルが、
洗浄液を被洗浄物の被洗浄面に供給するスリット状開口部を有し、
スリット状開口部内の洗浄液流路の一方の内壁面に、一対の陽極と陰極とからなる電極が少なくとも1つ配置されてなることを特徴とするウェット処理装置。
【請求項2】
被洗浄物の上方に配置されるノズルのスリット状開口部における洗浄液流路の延長線と、被洗浄物の被洗浄面とが成す角の角度が90°未満であることを特徴とする請求項1記載のウェット処理装置。
【請求項3】
さらに、被洗浄物を移動させる移動手段を含むことを特徴とする請求項1または2記載のウェット処理装置。
【請求項4】
洗浄液が純水であり、電極における陽極と陰極との間に、水の電離を促進する触媒を挟持させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項5】
触媒が、酸性カチオン交換能または塩基性アニオン交換能を有するイオン交換物質であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項6】
陰極および陽極が、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料を含むことを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載のウェット処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−192359(P2006−192359A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5634(P2005−5634)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596041995)
【Fターム(参考)】