説明

ウォータジャケットスペーサ

【課題】構造が簡単で、冷却水によるシリンダボア壁の冷却が適正になされると共に、断熱機能及び遮音機能も奏するウォータジャケットスペーサを提供する。
【解決手段】シリンダブロック2のウォータジャケット3内に挿入して組み付けられ、該ウォータジャケット3内を流通する冷却水の流量を調整するためのウォータジャケットスペーサ1であって、前記ウォータジャケット3の形状に沿うよう形成されたスペーサ基体10を含み、該スペーサ基体10は、その比重が前記冷却水の比重より小とされ、且つ、少なくとも一部が合成樹脂の発泡体からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用水冷式エンジンのシリンダブロックに形成されるウォータジャケットに挿入され、該ウォータジャケット内を流通する冷却水の流量を規制するウォータジャケットスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
前記のようなシリンダブロックには、シリンダボア壁まわりにウォータジャケットが形成され、このウォータジャケットに冷却水(不凍液が混合された冷却水も含む)が流通され、加熱されるシリンダボア壁の冷却がなされる(特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1では、冷却水入口部及び冷却水出口部でのボア壁の冷却効率の相違をなくし、更には、隣接するボア孔間部分及びその他の部分でのボア壁の冷却効率の相違をなくし、ボア孔が不均一に変形を防止するための種々のウォータジャケットスペーサの形状について提案されている。また、特許文献2では、暖機運転が完了するまでの時間の短縮を図ることを目的として改良された種々の形状のウォータジャケットスペーサが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3596438号公報
【特許文献2】特開2006−90195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時、自動車用レシプロエンジンとして、直列型やV型のようにピストンが縦方向に動作するエンジン(以下、縦型エンジンと称す)や、ピストンが水平方向に動作するエンジン(以下、水平型エンジンと称す)が用いられている。特許文献1及び特許文献2に示されるエンジンはいずれも縦型エンジンである。縦型エンジンの場合、ウォータジャケットの上部が燃焼室に近く、ウォータジャケット内を流通する冷却水の上部と下部との温度差が大きくなり易くなる。特許文献1では、基本的にはウォータジャケットスペーサをウォータジャケットの底壁側に位置するようにし、上部側の冷却水の流通量が多くなるようにしている。そのため、暖機運転時には冷却水の冷却効果が過剰となって、所期の暖機運転が円滑になされなくことが予想される。また、特許文献2では、暖機運転が完了するまでの時間の短縮を図るために、ウォータジャケットスペーサ自体の構造に工夫がなされているが、構造が複雑でコストが嵩むことが予想される。
【0005】
一方、水平型エンジンの場合、シリンダの軸線が水平状態とされ、燃焼室側と反燃焼室側(クランクシャフト側)とは水平方向に位置するから、ウォータジャケット内を流通する冷却水は、この両者間で縦型エンジンの上部及び下部間程温度差を生じない。このような水平型エンジンの場合、冷却水の入口部(給水口)は、ウォータジャケットの下側の外側壁に、出口部(排水口)は上側の外側壁に、それぞれ設けられ、給水口からウォータジャケット内に流入した冷却水はウォータジャケットの下部から上部にかけてシリンダボア壁回りを循環して排水口から排水される。このような水平型エンジンにおいては、ウォータジャケットスペーサの比重が冷却水の比重より大きい場合、給水口付近では、当該ウォータジャケットスペーサが、ウォータジャケットの下側の外側壁に近接するよう沈み、下側のシリンダボア壁との間隔が広がるようになる。そのため、給水口より流入した温度の低い冷却水は、当該広がった間隔部分に回り込み易くなる。この部分に温度の低い冷却水が多量に回り込むことによって、下側のシリンダボア壁が過冷却状態となり、円滑な暖機運転がなし得ないことがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みなされたもので、構造が簡単で、冷却水によるシリンダボア壁の冷却が適正になされると共に、断熱機能及び遮音機能も奏するウォータジャケットスペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るウォータジャケットスペーサは、シリンダブロックのウォータジャケット内に挿入して組み付けられ、該ウォータジャケット内を流通する冷却水の流量を調整するためのウォータジャケットスペーサであって、前記ウォータジャケットの形状に沿うよう形成されたスペーサ基体を含み、該スペーサ基体は、その比重が前記冷却水の比重より小とされ、且つ、少なくとも一部が合成樹脂の発泡体からなることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るウォータジャケットスペーサは、シリンダブロックのウォータジャケット内に挿入して組み付けられる。これによって、ウォータジャケット内に流通される冷却水の容量が調整される。また、当該ウォータジャケットスペーサの主体であるスペーサ基体は、その比重が前記冷却水の比重より小とされているから、ウォータジャケット内では、冷却水に対して浮上し、ウォータジャケットを取り囲むいずれかの内壁であって、前記浮上方向(鉛直方向)に位置する内壁に一部が当接ないし近接する。これによって、ウォータジャケット内でのウォータジャケットスペーサの位置が定まって冷却水の流通状態が安定し、所期の冷却水の冷却機能が発揮される。更に、スペーサ基体は、少なくとも一部が合成樹脂の発泡体からなるから、安価且つ簡易に製することができると共に、断熱性、或いは、吸音特性によって、シリンダブロック外部の温度上昇、或いは騒音の発生を抑えることができる。
【0009】
本発明において、前記ウォータジャケット内に組み付けられた前記スペーサ基体は、当該ウォータジャケット内の冷却水に対して浮上し、該スペーサ基体と前記ウォータジャケットの内壁との間の隙間が広がるようにしても良い。このように、スペーサ基体とウォータジャケットの内壁との間の隙間が広がることにより、冷却水の流通域が確保され、前記冷却水の流通状態が安定する。
【0010】
本発明において、前記シリンダブロックが、水平型エンジンを構成するものであり、前記スペーサ基体の浮上は、ペーサ基体と前記ウォータジャケットの下側の外側壁との隙間が広がり、上側の外側壁との隙間が狭められるようになされるものとしても良い。この場合、前記シリンダブロックは、その下部に冷却水の給水口が設けられ、上部に排水口が設けられているものであることが望ましい。これによれば、温度の低い冷却水が導入されるウォータジャケットの下側部では、スペーサ基体と前記下側の外側壁との隙間が広がるから、スペーサ基体とシリンダボア壁との間の隙間が狭められ、シリンダボア壁とスペーサ基体との間に回りこむ冷却水の量が抑制され、シリンダボア壁温度の過冷却が防止される。一方、ウォータジャケットの上側部では、スペーサ基体と上側の外側壁との隙間が狭められ、即ち、スペーサ基体と上側のシリンダボア壁との隙間が広がり、ウォータジャケット内での循環によって温度が上昇した冷却水がこの広がった隙間に滞留してこの部分のシリンダボア壁を保温する。このような冷却水の流通状態は、この種の水平型エンジンにおいては、燃費の向上に寄与する。
【0011】
本発明において、前記シリンダブロックが、縦型エンジンを構成するものであり、前記スペーサ基体の浮上は、ペーサ基体と前記ウォータジャケットの底壁との隙間が広がり、前記シリンダブロックの上端に締結されるシリンダヘッドとの間に介在されるシリンダヘッドガスケットに当接するようになされるものとしても良い。これによれば、スペーサ基体が、冷却水によって浮上してウォータジャケットの内壁の一部を構成するシリンダヘッドガスケットに当接するから、底壁との間の隙間が広がった状態で安定的に維持される。これによって、スペーサ基体の位置決めがなされ、ウォータジャケット内での意図した熱伝達率の分布状態の維持が的確になされる。
【0012】
本発明において、シリンダブロックが縦型エンジンを構成するものである場合、前記スペーサ基体の下部が、前記スペーサ基体の上部より比重が大となるように構成されているものとしても良い。これによれば、スペーサ基体のウォータジャケット内での前記浮上姿勢がより安定化される。
【0013】
本発明において、前記のように、スペーサ基体の下部と上部とで比重差がある場合の構成態様として、以下の態様を採用しても良い。
a)前記スペーサ基体の全体が、合成樹脂の発泡体からなり、前記スペーサ基体の前記上部の発泡倍率が、前記下部の発泡倍率より高い。
b)前記スペーサ基体の前記上部が合成樹脂の発泡体からなり、前記下部が合成樹脂の非発泡体からなる。
また、a),b)のいずれかにおいて、前記スペーサ基体の前記上部と前記下部とを個別に形成し、後に一体としたものとしても良い。
これらはいずれも合成樹脂の発泡体を主体とするから、原材料の使用量が少なく且つ軽量であり、また、成型も簡易になし得、安価に供給することができると共にエンジンの燃費向上にも寄与する。そして、断熱性及び遮音性にも優れ、シリンダブロック外部の温度上昇、或いは騒音の発生を、より効果的に抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るウォータジャケットスペーサによれば、構造が簡単で、冷却水によるシリンダボア壁の冷却が的確になされると共に、断熱機能及び遮音機能も備え、自動車用エンジンの構成部材としての適正が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のウォータジャケットスペーサの第1の実施形態の全体形状を示す概略的斜視図である。
【図2】同実施形態のウォータジャケットスペーサが組み付けられる水平型エンジンのシリンダブロックの一例を示し、ピストン軸に直交する切断面における断面図である。
【図3】図2のX−X線矢視断面図である。
【図4】本発明のウォータジャケットスペーサの第2の実施形態の全体形状を示す概略的斜視図である。
【図5】同実施形態のウォータジャケットスペーサが組み付けられる縦型エンジンのシリンダブロックの一例を示し、ピストン軸に直交する切断面における断面図である。
【図6】図5のY−Y線矢視断面図である。
【図7】同実施形態の変形例を示す図6と同様図である。
【図8】同実施形態の他の変形例を示す図6と同様図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るウォータジャケットスペーサの第1の実施形態を示している。このウォータジャケットスペーサ1は、図2に示すようなシリンダブロック2のウォータジャケット3内に挿入され組み付けられる。図例のシリンダブロック2は、オープンデッキタイプの2気筒水平型(水平対向)エンジンを構成するものであり、直列的に配置された2個のシリンダボア4を備えている。そして、この2個のシリンダボア4のシリンダボア壁4aの周囲に一連のウォータジャケット3が側面視して環状に形成されている。各シリンダボア壁4aの内周部には、シリンダライナー4bが内張りされている(図3参照、図2では図示を省略)。シリンダボア壁4aは、ウォータジャケット3の内側壁を構成する。シリンダブロック2の下側部には、ウォータジャケット3に連通する冷却水の給水口3aが、上側部には排水口3bが形成され、給水口3aから給水される冷却水は、矢印aのようにウォータジャケット3内を循環しながら流通し、一部が排水口3bより逐次排出されるように構成されている。図例では、給水口3a及び排水口3bが、それぞれ2個ずつ形成されているが、シリンダボア4,4間に1個ずつ形成されていても良い。
【0017】
図3に示すように、シリンダブロック2の側部には、シリンダヘッド5が不図示のシリンダヘッドガスケット6を介して締結され、この締結状態では、シリンダブロック2とシリンダヘッド5との合体面がシリンダヘッドガスケット6によってシールされる。また、ウォータジャケット3の開口端部は、シリンダヘッドガスケット6によって水密的に閉塞され、シリンダヘッドガスケット6がウォータジャケット3の内壁の一部を構成する。2a…は、シリンダヘッド5をシリンダブロック2に締結させるためのボルト(不図示)用の雌ねじ穴である。シリンダブロック2は、例えば、アルミ合金等の鋳造によって製造され、前記シリンダボア4及びウォータジャケット3は、鋳型の雄型部分によって形成される。特に、ウォータジャケット3に対応する雄型部分は、鋳型の強度を確保するためにある程度の厚みを必要とし、そのため、形成されるウォータジャケット3の溝幅は、必要以上に大となることがある。そこで、ウォータジャケットスペーサ1を、ウォータジャケット3内に挿入して、ウォータジャケット3内を流通する冷却水の実質的な容量の調整がなされる。
【0018】
本実施形態のウォータジャケットスペーサ1は、全体形状が前記ウォータジャケット3内に遊挿し得る筒形状で、合成樹脂の独立発泡体による成型体からなるスペーサ基体10を有している。図例のウォータジャケットスペーサ1は、当該スペーサ基体10のみから構成されており、このスペーサ基体10の比重は冷却水より小さくなるように設定される。スペーサ基体10の周面に、冷却水の流通を規制する突起等を備えたものであっても良く、このような突起等を備えている場合も、全体の比重は冷却水より小とされる。スペーサ基体10を構成する合成樹脂の発泡体としては、ポリアミド樹脂(PA66,PPA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリプロピレン樹脂(PP)等の合成樹脂による発泡体が望ましく採用される。例えば、ポリアミド樹脂(PPA)の場合、そのソリッドの比重は1.47であり、このソリッド332gに発泡剤1gを、276gに発泡剤2gを、それぞれ添加して発泡させながら所定形状に成型すると、比重が1.04及び0.86の発泡体が得られる。自動車用エンジンの冷却水として不凍液が混合された冷却水(LLC)が用いられ、LLCの仕様によって比重は変動するが、概ね1.075程度に配合調整される。従って、前記発泡体は、比重が1.075より小さくなるように、前記発泡剤の量が調整される。
【0019】
前記のように構成されたスペーサ基体10は、図2及び図3に示すように、ウォータジャケット3内にその開口端部より挿入される。図3は、スペーサ基体10がウォータジャケット3に挿入され、前記シリンダブロック2に、シリンダヘッド5がシリンダヘッドガスケット6を介して締結された状態を示している。そして、ウォータジャケット3内に、冷却水が給水口3aより給水されて、ウォータジャケット3内が冷却水で満たされる。このように冷却水がウォータジャケット3内に満たされた状態では、スペーサ基体10と冷却水との比重差により、スペーサ基体10が冷却水に対して浮上する(図3の太矢印参照)。この浮上は、前記スペーサ基体10と前記ウォータジャケット3の下側の外側壁(内壁)30との隙間d1が広がり、上側の外側壁(内壁)31との隙間d3が狭められるようになされる。これによって、ウォータジャケット3の下側部におけるシリンダボア壁(内壁)4aと、スペーサ基体10との隙間d2が狭まり、給水口3aからウォータジャケット3内に流入した温度の低い冷却水のこの隙間d2部分への回り込みが抑制されシリンダボア壁4aの過冷却が防止される。また、ウォータジャケット3の上側部における外側壁31とスペーサ基体10との隙間d3が狭まり、これによって、ウォータジャケット3の上側部におけるシリンダボア壁(内壁)4aと、スペーサ基体10との隙間d4が広がる。ウォータジャケット3内を循環して温度が上昇した冷却水は、この広がった隙間d4部分に滞留する時間が長くなり、この部分のシリンダボア壁4aを保温する。従って、シリンダボア壁4aの適度な温度維持が可能となり、暖機運転が効率的になされ、自動車用エンジンの燃費向上に寄与する。また、シリンダボア4とシリンダブロック2の外部との間には、ウォータジャケット3内の冷却水及び合成樹脂の発泡体からなるスペーサ基体10が存在するから、シリンダボア4で発生する熱及び音の外部への漏出が抑制される。特に、独立発泡体は、吸音特性に優れ、騒音発生の防止に有効である。
【0020】
図4は、本発明のウォータジャケットスペーサの第2の実施形態の全体形状を示している。図5は同実施形態のウォータジャケットスペーサが組み付けられる縦型(直列型、V型)エンジンのシリンダブロックの一例を示し、図6は図5のY−Y線矢視断面図を示している。このウォータジャケットスペーサ1Aは、図5に示すようなシリンダブロック2Aのウォータジャケット3内に挿入され組み付けられる。図例のシリンダブロック2Aは、オープンデッキタイプの3気筒エンジン(V型の場合、6気筒エンジンの片側に相当する)を構成するものであり、直列的に配置された3個のシリンダボア4を備えている。そして、この3個のシリンダボア4のシリンダボア壁4aの周囲に一連のウォータジャケット3が平面視して環状に形成されている。シリンダブロック2Aの一側部には、ウォータジャケット3に連通する冷却水の給水口3aと、排水口3bとが形成され、給水口3aから給水される冷却水は、矢印bのようにウォータジャケット3内を循環しながら流通し、一部が排水口3bより逐次排出されるように構成されている。シリンダブロック2Aの上面には、図6に示すようにシリンダヘッド5Aがシリンダヘッドガスケット6Aを介して締結され、この締結状態では、シリンダブロック2Aとシリンダヘッド5Aとの合体面がシリンダヘッドガスケット6Aによってシールされる。また、ウォータジャケット3の開口端部は、シリンダヘッドガスケット6Aによって水密的に閉塞され、シリンダヘッドガスケット6Aがウォータジャケット3の内壁の一部を構成する。
なお、シリンダブロック2Aに係わるその他の構成は、図2及び図3に示す例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
本実施形態のウォータジャケットスペーサ1Aは、全体形状が前記ウォータジャケット3内に遊挿し得る筒形状で、合成樹脂による独立発泡体の成型体からなるスペーサ基体10を有している。図例のウォータジャケットスペーサ1Aも、前記と同様に当該スペーサ基体10のみから構成されているが、スペーサ基体10の周面に、冷却水の流通を規制する突起等を備えたものであっても良い。このスペーサ基体10を構成する合成樹脂発泡体も、前記と同様に比重が冷却水より小さい合成樹脂発泡体が用いられる。更に、本実施形態のウォータジャケットスペーサ1Aのスペーサ基体10は、全体に亘って同発泡倍率の前記合成樹脂の発泡体からなり、スペーサ基体10の下部10aが、上部10bより厚肉に形成されている。
【0022】
前記のように構成されたスペーサ基体10は、図5及び図6に示すように、シリンダブロック2Aに形成されたウォータジャケット3内にその開口端部より挿入される。図6は、スペーサ基体10がウォータジャケット3に挿入された前記シリンダブロック2に、シリンダヘッド5Aがシリンダヘッドガスケット6Aを介して締結された状態を示している。そして、ウォータジャケット3内に、冷却水が給水口3aより給水されて、ウォータジャケット3内が冷却水で満たされる。このように冷却水がウォータジャケット3内に満たされた状態では、スペーサ基体10と冷却水との比重差により、スペーサ基体10が冷却水に対して浮上する(図6の太矢印参照)。この浮上は、前記スペーサ基体10と前記ウォータジャケット3の底壁(内壁)32との隙間d5が広がり、上端が前記シリンダヘッドガスケット6Aに当接するようになされる。この当接によって、スペーサ基体10のウォータジャケット3内での上下方向の位置決めがなされ、意図した冷却水による冷却効果が的確に発揮される。また、隙間d5が広がることにより、冷却水の流路が確保される。そして、スペーサ基体10が独立気泡の合成樹脂発泡体からなることにより、前記と同様に断熱及び遮音効果も発揮される。加えて、本実施形態では、スペーサ基体10の下部10aが、上部10bより厚肉に形成されているから、スペーサ基体10の上部10bと、シリンダボア壁4aとの間隔が広く確保され、この部分で冷却水の流量が多くなり、燃焼室に近いこの部分の冷却が効果的になされる。
【0023】
図7は、第2の実施形態の変形例を示している。この例のウォータジャケットスペーサ1Aにおいては、スペーサ基体10が、図6の例と同様に全体が合成樹脂の発泡体からなるが、その上部10bの発泡倍率が、下部10aの発泡倍率より高くされている。これによって、下部10aが、上部10bより比重が大となるように設定され、スペーサ基体10の全体としては、前記と同様に冷却水より比重が小とされている。スペーサ基体10は、上部10b及び下部10aを同時成型して一体に形成することも可能であるが、上部10b及び下部10aをそれぞれ個別に成型し、これらを接着剤等によって一体に固着させて形成することも可能である。この例のスペーサ基体10も、縦型のシリンダブロック2Aに形成されたウォータジャケット3内に挿入され、該シリンダブロック2Aの上端部に、シリンダヘッド5Aがシリンダヘッドガスケット6Aを介して締結される。そして、ウォータジャケット3内が冷却水で満たされると、スペーサ基体10と冷却水との比重差により、スペーサ基体10が冷却水に対して浮上する(図7の太矢印参照)。この浮上も、前記スペーサ基体10と前記ウォータジャケット3の底壁(内壁)32との隙間d5が広がり、上端が前記シリンダヘッドガスケット6Aに当接するようになされる。この当接によって、スペーサ基体10のウォータジャケット3内の上下方向の位置決めがなされると共に、隙間d5の広がりによって冷却水の流路が確保され、意図した冷却水による冷却効果が的確に発揮される。また、スペーサ基体10は、その下部10aが上部10bより比重が大となるよう設定されているから、シリンダヘッドガスケット6Aに当接した浮上姿勢が安定化され、前記の意図した冷却効果がより的確に発揮される。
なお、その他の構成は、図6に示す例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0024】
図8は、第2の実施例の別の変形例を示している。この例のウォータジャケットスペーサ1Aにおいては、スペーサ基体10の上部10bが合成樹脂の発泡体からなり、下部10aが合成樹脂の非発泡体からなる。これによって、下部10aが、上部10bより比重が大となるように設定されているが、スペーサ基体10の全体としては、前記と同様に冷却水より比重が小とされている。スペーサ基体10は、上部10b及び下部10aを同時成型して一体に形成することも可能であるが、上部10b及び下部10aをそれぞれ個別に成型し、これらを接着剤等によって一体に固着させて形成することも可能である。この例のスペーサ基体10も、縦型のシリンダブロック2Aに形成されたウォータジャケット3内に挿入され、該シリンダブロック2Aの上端部に、シリンダヘッド5Aがシリンダヘッドガスケット6Aを介して締結される。そして、ウォータジャケット3内が冷却水で満たされると、スペーサ基体10と冷却水との比重差により、スペーサ基体10が冷却水に対して浮上する(図8の太矢印参照)。この浮上も、前記スペーサ基体10と前記ウォータジャケット3の底壁(内壁)32との隙間d5が広がり、上端が前記シリンダヘッドガスケット6Aに当接するようになされる。この当接によって、スペーサ基体10のウォータジャケット3内の上下方向の位置決めがなされ、意図した冷却水による冷却効果が的確に発揮される。また、スペーサ基体10は、その下部10aが上部10bより比重が大となるよう設定されているから、シリンダヘッドガスケット6Aに当接した浮上姿勢が安定化され、前記の意図した冷却効果の発揮がより的確になされる。
なお、その他の構成は、図6及び図7に示す例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0025】
なお、図例のスペーサ基体10の断面形状は、いずれも模式的に示しており、これらに限定されるものではない。また、図4〜図6に示す例においても、スペーサ基体10の上部10bと下部10aを別体に形成し、後に接着剤等によって一体としてスペーサ基体10を構成するようにしても良い。更に、図4〜図6に示す例において、上部10b及び下部10aの肉厚を異ならせているが、全体の断面形状を図3に示すようなスペーサ基体10と同様のものとしても良い。そして、本発明のウォータジャケットスペーサが適用されるエンジンとして、2気筒の水平型エンジンと、3気筒の縦型エンジン(V型の場合、6気筒)とを例示したが、他の気筒数のエンジンにも適用可能である。従って、当該ウォータジャケットスペーサの全体形状は、エンジンの仕様に応じて適宜変更されることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0026】
1,1A ウォータジャケットスペーサ
10 スペーサ基体
10a 下部
10b 上部
2,2A シリンダブロック
3 ウォータジャケット
3a 給水口
3b 排水口
30 下側の外側壁(内壁)
31 上側の外側壁(内壁)
32 底壁(内壁)
5,5A シリンダヘッド
6,6A シリンダヘッドガスケット
d1〜d5 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックのウォータジャケット内に挿入して組み付けられ、該ウォータジャケット内を流通する冷却水の流量を調整するためのウォータジャケットスペーサであって、
前記ウォータジャケットの形状に沿うよう形成されたスペーサ基体を含み、該スペーサ基体は、その比重が前記冷却水の比重より小とされ、且つ、少なくとも一部が合成樹脂の発泡体からなることを特徴とするウォータジャケットスペーサ。
【請求項2】
請求項1に記載のウォータジャケットスペーサにおいて、
前記ウォータジャケット内に組み付けられた前記スペーサ基体は、当該ウォータジャケット内の冷却水に対して浮上し、該スペーサ基体と前記ウォータジャケットの内壁との間の隙間が広がることを特徴とするウォータジャケットスペーサ。
【請求項3】
請求項2に記載のウォータジャケットスペーサにおいて、
前記シリンダブロックが、水平型エンジンを構成するものであり、前記スペーサ基体の浮上は、前記スペーサ基体と前記ウォータジャケットの下側の外側壁との隙間が広がり、上側の外側壁との隙間が狭められるようになされることを特徴とするウォータジャケットスペーサ。
【請求項4】
請求項3に記載のウォータジャケットスペーサにおいて、
前記シリンダブロックの下部に冷却水の給水口が設けられ、上部に排水口が設けられていることを特徴とするウォータジャケットスペーサ。
【請求項5】
請求項2に記載のウォータジャケットスペーサにおいて、
前記シリンダブロックが、縦型エンジンを構成するものであり、前記スペーサ基体の浮上は、前記スペーサ基体と前記ウォータジャケットの底壁との隙間が広がり、前記シリンダブロックの上端に締結されるシリンダヘッドとの間に介在されるシリンダヘッドガスケットに当接するようになされることを特徴とするウォータジャケットスペーサ。
【請求項6】
請求項5に記載のウォータジャケットスペーサにおいて、
前記スペーサ基体の下部が、前記スペーサ基体の上部より比重が大となるように構成されていることを特徴とするウォータジャケットスペーサ。
【請求項7】
請求項6に記載のウォータジャケットスペーサにおいて、
前記スペーサ基体の全体が、合成樹脂の発泡体からなり、
前記スペーサ基体の前記上部の発泡倍率が、前記下部の発泡倍率より高いことを特徴とするウォータジャケットスペーサ。
【請求項8】
請求項6に記載のウォータジャケットスペーサにおいて、
前記スペーサ基体の前記上部が合成樹脂の発泡体からなり、前記下部が合成樹脂の非発泡体からなることを特徴とするウォータジャケットスペーサ。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載のウォータジャケットスペーサにおいて、
前記スペーサ基体の前記上部と前記下部とを個別に形成し、後に一体としたことを特徴とするウォータジャケットスペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−79605(P2013−79605A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220112(P2011−220112)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】