説明

ウルツ鉱型結晶膜およびその製造方法

【課題】圧電体膜等に応用することができるように、高い電気抵抗率を維持しつつ極性分布割合を容易に制御可能であって、低コストで大面積の基材上に成膜されたウルツ鉱型結晶膜、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材面に対して垂直方向に二つ以上の粒子が充填および堆積し、上記粒子が互いに結合してなる結合層を含む膜構造を有するウルツ鉱型結晶膜であって、上記粒子は、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの少なくとも一つの元素がドープされているウルツ鉱型結晶構造を有する化合物を含んでいる。ウルツ鉱型結晶膜の製造方法は、ウルツ鉱型結晶を構成する元素種およびドープする金属種を含有する化学溶液を基材上に塗布する工程を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルツ鉱型結晶膜およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、特定の金属をドープすることにより極性分布割合を制御したナノ粒子構造を含むウルツ鉱型結晶構造を有する化合物からなる結晶膜、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)系、窒化アルミニウム(AlN)系、窒化ガリウム(GaN)系化合物等は、例えば図1に示すように、六方晶系ウルツ鉱型結晶構造を取り、これらの化合物を膜状にしたウルツ鉱型結晶膜は、様々な分野で応用されると同時にその活発な研究開発により新たな応用が提案されている。
【0003】
ウルツ鉱型結晶は、c軸に沿った[0001]および[000-1]の2つの極性方向を有する。例えば、図1に示すように、ZnOウルツ鉱型結晶には、[0001](Zn極性)方向および[000-1](O極性)方向が存在する。そのため、ZnOウルツ鉱型結晶膜において、基材面から垂直方向に(0001)面が配向した場合はZn極性、(000-1)面が配向した場合はO極性に対応する。
【0004】
この2つの極性分布割合を制御することは、ウルツ鉱型結晶膜の特性を制御するための、または、様々な特性を向上させるための、重要な要素であることが知られている。例えば、極性分布割合に依存した特性として、圧電特性(非特許文献1を参照)、電気特性(非特許文献2を参照)、発光特性(非特許文献2,3を参照)、化学的安定性(非特許文献4,5を参照)等が挙げられる。AlN膜の圧電応答は、Al極性もしくはN極性分布割合に直線的に依存する(非特許文献1を参照)。
【0005】
ZnO結晶(ウルツ鉱型結晶)構造におけるO極性面は、Zn極性面や(10-10)面、(11-20)面等の他の面と比較して原子状水素に対して安定であることが報告されており(非特許文献5を参照)、[000-1]方向への極性分布割合(O極性分布割合)を向上させることにより、原子状水素に対して高い安定性を有するウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0006】
上記化合物は、これらの特性を有しているため、例えば、ZnO系化合物からなる結晶膜は、圧電体膜として、例えば表面弾性波(SAW)素子として実用化され、またエンジン用燃焼圧センサへの応用が提案されている(非特許文献6を参照)。また、AlN系化合物からなる結晶膜は、圧電体膜として、例えばバルク弾性波(BAW)フィルタとして実用化されている。さらに、GaN系化合物からなる結晶膜は、発光膜として、例えば発光ダイオードへの使用が急速に進んでいる。また、ZnO系化合物に対してGaやAl等の第13族金属をドープして得られる結晶膜は、スズ(Sn)をドープした酸化インジム(ITO)を代替する透明導電膜として注目され、研究開発が行われている。
【0007】
一方、上記ウルツ鉱型結晶膜の製造方法としては、これまで、スパッタ法、PLD(Pulsed Laser Deposition) 法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、CVD(Chemical Vapor Deposition) 法等があり、実用化や研究開発が行われてきた。たとえば、c面(0001)サファイア基板上にMBE法により成長させたZnOからなるエピタキシャル膜(ウルツ鉱型結晶膜)は、O極性を示すことが知られている(非特許文献7を参照)。
【0008】
さらに、MBE法を用いて、c面(0001)サファイア基板との間に、Cr化合物の中間層を形成することにより、例えば、Cr層上ではO極性を有するZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)が、CrN層上ではZn極性を有するZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)が得られていることが知られている(非特許文献8を参照)。
【0009】
しかしながら、これらスパッタ法等の製造方法では、真空チャンバー若しくは一般的なチャンバーを必要とするため、大面積の基材上に成膜をすることが難しく、またコストも掛かるため、上記の製造方法で得られるウルツ鉱型結晶膜は一般的に高価であるという問題点を有している。さらに、製造工程において、極性分布割合を制御するには、条件の細かい調整や管理が必要となることから、信頼度や再現性が高い結晶膜を製造することや、小規模生産、多品種生産を行うことが難しいという問題点も有している。
【0010】
特に、スパッタ法を用いた製造方法では、どちらかの極性を100%の分布割合で有する結晶膜を得るためには、スパッタ出力等の最適化によって厳しく限定された合成条件の設定が必要である(非特許文献1を参照)。
【0011】
それゆえ、極性分布割合を制御可能であり、大面積の薄膜を成膜することが可能で、特別な装置を必要としない、コストが低減された(低コストの)、新たなウルツ鉱型結晶膜の製造方法が強く求められている。
【0012】
当該製造方法(成膜法)として、近年、化学溶液堆積法あるいはゾル−ゲル法と称される手法が注目され、種々のウルツ鉱型結晶膜に対する研究が活発に行われている。例えば、ウルツ鉱型ZnO結晶膜に関しては、その発光特性や電気特性に着目した研究がなされている。化学溶液堆積法を用いてLiをドープしたZnO膜を成膜し、強誘電体特性を示すことが報告されている(非特許文献12を参照)。しかしながら、圧電体膜のように極性分布割合の制御を必要とするウルツ鉱型結晶膜の研究はこれまで殆どなされておらず、化学溶液堆積法を用いたアンドープZnO圧電体膜の合成に関する研究報告が二報のみである(非特許文献10,11を参照)。
【0013】
特に、化学溶液堆積法を用いて製造されたウルツ鉱型結晶膜に関して、極性分布割合を検討した研究報告は行われておらず、極性に関する観点で研究がなされてこなかった。その主要因の一つとして、ウルツ鉱型結晶膜の極性を判定する従来法が、単結晶膜のみに適応可能で、化学溶液堆積法を用いて得られる多結晶膜には適応できなかったことが挙げられる。MBE法によりサファイア等の単結晶基板を用いて製造されたウルツ鉱型結晶膜は、単結晶基板上にエピタキシャル成長した高品位な単結晶膜である。このような単結晶膜に対しては、従来、極性を同定するために用いられてきた、CAICISS(Coaxial Impact-Collision Ion Scattering Spectroscopy(イオン散乱分光))法やCBED(Convergent-Beam Electron-Diffraction(収束電子回析))法を用いて、極性判定が可能である。それに対し、上記化学溶液堆積法を用いて製造されたウルツ鉱型結晶膜は、比較的丸い結晶粒子が堆積充填した構造を形成していることが知られている(非特許文献9,10を参照)。例えば、化学溶液堆積法で成膜されたZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)は、粒子径40〜75nmの丸いZnO結晶粒子が疎に充填した構造であることが報告されている(非特許文献9を参照)。全ての粒子が同じ極性を有するとは限らないため、そのような粒子が充填堆積した構造を有する多結晶膜には、従来の極性判定法は適応できない。
【0014】
近年になって、PFM(Piezoresponse Force Microscopy(圧電応答顕微鏡))法と呼ばれる測定法が開発された。PFMは、交流電場を掛けながらコンタクトモードで操作する走査型フォース顕微鏡であり、非破壊で高分解能に極性を判定できるという利点がある。そのPFMを用いて、スパッタ法で成膜されたAlN膜はc軸配向した柱状結晶から構成される多結晶膜であるが、粒子ごとにAl極性かまたはN極性かを判定でき、観察領域での極性分布割合を算出し報告されている(非特許文献1を参照)。
【0015】
さらに、化学溶液堆積法を用いて製造されたウルツ鉱型結晶膜に関して、極性に関する観点で研究がなされてこなかったもう一つの主要因として、化学溶液堆積法におけるプロセスにおける粒成長を伴う結晶成長過程が挙げられる。その結晶成長を述べる前に、圧電膜など極性を制御された膜を成膜するために広く用いられているスパッタ法での、結晶成長過程について考察する。スパッタ法で得られたc軸配向膜は、一般的に、基材上から膜表面にまで至るナノ柱状結晶により構成される。この膜構造は、ナノ柱状結晶が基材表面から一次元的な結晶成長をしたことを示唆する。そのため、基板界面付近で生成した結晶核の極性は、引き続き柱状晶の成長過程でも容易に保持されると考えられる。それに対して、化学溶液堆積法を用いて得られた典型的な膜の形態は、基材面に対して垂直方向に二つ以上の球状の粒子が充填および堆積した構造である(非特許文献9,10を参照)。この膜構造は、基材に直接接する粒子だけでなく、上層に堆積した粒子でも新たに結晶核が生成し、引き続き三次元的に結晶粒子が成長することを示唆する。そのため、上層に成長した結晶粒子が、下層粒子の極性と同じである保証はない。しかしながら、発明者らは、化学溶液堆積法を用いて、乾燥温度を300℃ではなく200℃にすることにより、高いc軸配向性を示すZnO膜を得られることを見出している(非特許文献13を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Applied Physics Letters, 92 (2008) 093506
【非特許文献2】Applied Physics Letters, 90 (2007) 062104
【非特許文献3】Applied Physics Letters, 89 (2006) 182111
【非特許文献4】Applied Physics Letters, 86 (2005) 091901
【非特許文献5】Advanced Materials, 21 (2009) pp.1700-1706
【非特許文献6】電気学会論文誌A,第128巻,740〜741ページ,2008年
【非特許文献7】Applied Physics Letters, 72 (1998) pp.824-826
【非特許文献8】Applied Physics Letters, 90 (2007) 201907
【非特許文献9】Japanese Journal of Applied Physics, 39 (2000) pp.L713-L715
【非特許文献10】Chinese Journal of Chemical Physics, 20 (2007) pp.721-726
【非特許文献11】Integrated Ferroelectrics, 17 (1997) pp.339-347
【非特許文献12】Solid State Commn. 148 (2008) pp.448-451
【非特許文献13】Thin Solid Films, 357 (1999) pp.151-158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
これまで、第13族元素であるアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)をZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)にドープする方法によって、ZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)の極性を変化させる方法が知られている。例えば、PLD法を用いた製造方法がThin Solid Films, 519 (2011) pp.5875-5881に記載されており、1モル%の濃度でアルミニウム(Al)をドープすることにより、Zn極性のZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)が得られ、一方、その他のドープ条件では、O極性のZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)が得られることが知られている。
【0018】
しかしながら、この方法でドープしたZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)は、3価の陽イオンの形態を採り得るため、電子ドナーの機能を有することになる。その結果、結晶膜の電気抵抗率を引き下げてしまうことになり、圧電体膜のように絶縁性を必要とするウルツ鉱型結晶膜に対して適用することができないという問題点を有している。
【0019】
また、これまで、ZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)に第1族元素であるLiをドープすることは行われているものの、当該ドープは、圧電体膜としての絶縁性向上および強誘電体開発の目的のために行われている。
【0020】
すなわち、ZnO膜の極性分布割合へのLiドープによる影響は、これまで検討されていない。また、ZnO膜における圧電応答性と極性分布割合との相関性についても研究が行われていない。
【0021】
ウルツ鉱型結晶膜の圧電特性、電気特性、発光特性、化学的安定性、エッチング特性等は、極性分布割合に依存する。それゆえ、特に、圧電体膜等への応用のためには、ウルツ鉱型結晶膜の絶縁性を確保しつつ、特性を効率的に利用できるように、極性分布割合を制御可能な、新たな技術が必要である。さらに、近年、圧力センサや発光素子の発光体膜等を開発するために、極性制御されたウルツ鉱型結晶膜を低コストかつ広面積な膜として製造する技術が求められている。
【0022】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物に他元素をドープすることによって、その極性分布割合を制御し、その結果、圧電特性、電気特性、発光特性、化学的安定性、エッチング特性等の各種特性が向上されたウルツ鉱型結晶膜、およびその製造方法を提供することにある。
【0023】
さらに、他の目的は、圧電体膜等にも応用できるように、高い電気抵抗率(絶縁性)を確保しつつ、極性分布割合を容易に制御可能であって、低コストで大面積の基材上に均一に成膜されたウルツ鉱型結晶膜、とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者は、PFM法が、化学溶液堆積法により得られた多結晶膜にも適用可能で、当該多結晶膜の極性分布割合を測定可能であることを見出し、また、ウルツ鉱型結晶膜において、ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物に、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの少なくとも一つの元素を一定濃度でドープすることにより、極性分布割合を容易に制御することができることを見出した。
【0025】
このウルツ鉱型結晶膜は、化学溶液を基材上に塗布する工程を含む方法を用いて製造することができることを見出した。さらに、本発明者らは、極性分布割合と圧電応答性等との間に相関関係が存在することを見出した。
【0026】
さらに、図1から理解できるように、c軸配向性は、極性を有するための必要前提条件である。化学溶液堆積法を用いて、ウルツ鉱型結晶膜の極性が揃うような極性制御は困難であると予測されたが、これまでの研究蓄積を踏まえて上記課題に鋭意取り組み、本発明を完成させるに至った。
【0027】
すなわち、本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、上記課題を解決するために、基材上に形成されたウルツ鉱型結晶膜であり、上記基材面に対して垂直方向に二つ以上の粒子が充填および堆積し、上記粒子が互いに結合してなる結合層を含む膜構造を有するウルツ鉱型結晶膜であって、上記粒子は、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの少なくとも一つの元素がドープされているウルツ鉱型結晶構造を有する化合物を含み、上記ウルツ鉱型結晶構造が上記基材面に対して垂直方向に[000-1]方向又は[0001]方向へ配向し、[000-1]方向又は[0001]方向への極性分布割合が72%以上であることを特徴としている。
【0028】
上記の構成によれば、高い電気抵抗率を維持しつつ、極性分布割合を一定に制御したウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0029】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、上記アルカリ金属元素が、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)であり、上記アルカリ土類金属元素が、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)であることがより好ましい。上記の構成によれば、上記元素がドープされているため、その極性分布割合をより好適に変化させることができ、圧電特性、発光特性、化学的安定性等をより向上させたウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0030】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、上記ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物は、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、AlN、GaN、InN、InPのうちの少なくとも一つの化合物を含むことがより好ましい。上記の構成によれば、上記化合物を含むことにより、より高い圧電特性、電気特性、発光特性、化学的安定性等を有するウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0031】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、上記元素は、リチウム(Li)からなり、Liが2〜7.5at.%の範囲内の濃度でドープされていることがより好ましい。上記の構成によれば、より高い極性分布割合を示すため、より高い圧電特性、電気特性、発光特性、化学的安定性等を有するウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0032】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、上記ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物は、ZnOであって、[000-1]方向への極性分布割合(O極性分布割合)が73%以上であることがより好ましい。上記の構成によれば、より高い圧電特性、電気特性、発光特性、化学的安定性等を有するウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0033】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、圧電特性を有することがより好ましい。
【0034】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、上記結合層に含まれる粒子の平均粒子径が5〜1000nmの範囲内であることがより好ましい。上記の構成によれば、さらに一定の極性分布割合を有する、より信頼性の高い良質なウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0035】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、金属、合金、ガラス、半導体基板、セラミックス、および無機単結晶からなる群のうちの少なくとも一つの基材上に形成されていることがより好ましい。上記の構成によれば、より広い面積の基材上に均一な膜厚で成膜された、より信頼性が高く、より実用的なウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0036】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜の製造方法は、上記課題を解決するために、ウルツ鉱型結晶膜となる金属種とドープする元素とを含有する化学溶液を、基材に塗布する塗布工程、塗布工程で得られた塗布膜を乾燥する乾燥工程、および、乾燥した膜を焼成する焼成工程、を備えることを特徴としている。
【0037】
上記の方法によれば、経済的であり、より広い面積の基材上に均一な膜厚で成膜することが可能であり、極性分布割合を制御することにより、信頼性の高い良質な圧電体膜等に好適なウルツ鉱型結晶膜の製造方法を提供することができる。また、ドープする上記元素の添加割合の制御も容易であり、極性分布割合の制御を容易に行うことができる。
【0038】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜の製造方法は、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、シルクスクリーン印刷法、またはインクジェット印刷法を用いて上記塗布工程を行うことがより好ましい。上記の方法によれば、より均質でかつ、信頼性の高いウルツ鉱型結晶膜の製造方法を提供することができる。
【0039】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜の製造方法は、上記塗布工程、上記乾燥工程および上記焼成工程を1セットとして複数回繰り返すことがより好ましい。上記の方法によれば、より良質なウルツ鉱型結晶膜の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜によれば、優れた圧電特性、電気特性、蛍光発光特性、化学的安定性を備えた安価なウルツ鉱型結晶膜を提供することができるという効果を奏する。
【0041】
また、本発明に係るウルツ鉱型結晶膜の製造方法によれば、大面積の薄膜を成膜することが可能であり、特別な装置を必要としないため低コストで、安価なウルツ鉱型結晶膜の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物である酸化亜鉛のウルツ鉱型結晶構造単位を模式的に示す斜視図である。
【図2】実施例2におけるウルツ鉱型結晶膜の膜断面をフィールドエミッション走査型電子顕微鏡で観察した観察画像である。
【図3】実施例および比較例で成膜されたウルツ鉱型結晶膜のLi濃度とO極性分布割合との関係を示したグラフである。
【図4】実施例および比較例で成膜されたウルツ鉱型結晶膜のLi濃度と圧電応答性との関係を示したグラフである。
【図5】実施例および比較例で成膜されたウルツ鉱型結晶膜のO極性分布割合と圧電応答性との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、例えば、化学溶液堆積法等により製造されたウルツ鉱型結晶膜であって、基材上に形成されたウルツ鉱型結晶膜であり、上記基材面に対して垂直方向に二つ以上の粒子が充填および堆積し、上記粒子が互いに結合してなる結合層を含む膜構造を有するウルツ鉱型結晶膜であり、上記粒子は、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの少なくとも一つの元素がドープされているウルツ鉱型結晶構造を有する化合物を含み、上記ウルツ鉱型結晶構造が上記基材面に対して垂直方向に[000-1]方向又は[0001]方向へ配向し、[000-1]方向又は[0001]方向への極性分布割合が72%以上であることを特徴としている。
【0044】
本発明における膜構造(粒子構造)の形態としては、基材面に対して垂直方向に二つ以上の粒子が充填および堆積し、上記粒子が互いに結合してなる結合層を含む膜構造であり、より具体的には、例えば、基材上に形成されたウルツ鉱型結晶膜において、膜の最上層は充填した粒子が互いに結合し、粒子の粒界が認められる結合層であり、基材に接する下層(基材面側)は粒子の粒界が認められない緻密層を有する構造の形態が挙げられる。
【0045】
一方、極性制御された膜の既往の成膜法であるスパッタ法やPLD法で得られた膜も、ナノ柱状晶から構成され、広義ではナノ粒子膜の一つであるが、基材上から垂直方向での粒子の充填状態が大きく異なる。スパッタ法もしくはPLD法により得られた膜では、一般的に、基材上から膜表面に至るまで成長したナノ柱状結晶により構成される。それに対して、化学溶液堆積法を用いて得られた膜では、基材面に対して垂直方向に二つ以上の球状の粒子が充填および堆積した構造である(非特許文献9,10を参照)。この点で、化学溶液堆積法を用いて得られた膜は、特有の膜構造を有する。
【0046】
以下、本発明の実施の一形態について、ウルツ鉱型結晶膜、ウルツ鉱型結晶膜の製造方法の順に詳細に説明する。
【0047】
<ウルツ鉱型結晶膜>
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、ウルツ鉱型結晶粒子が充填および堆積し、その粒子が互いに結合してなる結合層を含む膜構造を有する結晶膜である。
【0048】
上記ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物としては、従来公知の各種酸化物、並びに、硫化物、セレン化物、テルル化物、窒化物等が挙げられる。これら化合物は、一種類のみでウルツ鉱型結晶を構成していてもよい。また、二種類以上でウルツ鉱型結晶を有する化合物が、混晶を構成してもよいし、化合物ごとに個別の粒子として混在していてもよい。
【0049】
また、上記ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物としては、具体的には、例えば、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、AlN、GaN、InN、InP等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
本発明においては、上記ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物を主成分とすることがより好ましい。さらに、本発明における上記ウルツ鉱型結晶を有する化合物は、ZnOを主成分とすることがより好ましく、ZnOであることがさらに好ましい。ここで、本発明において「主成分」とは、ウルツ鉱型結晶に当該成分が50重量%以上含まれていることを指す。
【0051】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜には、極性分布割合を制御、または、O極性分布割合を向上させるために、上記化合物に対して、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの少なくとも一つの元素が一定の割合でドープされている。上記アルカリ金属元素としては、具体的には、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等が挙げられる。また、上記アルカリ土類金属元素としては、具体的には、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等が挙げられる。
【0052】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜は、膜厚が100〜10000nmの範囲内であることが好ましく、200〜5000nmの範囲内であることがより好ましい。本発明は、基材面に対して垂直方向に二つ以上の粒子が充填および堆積し、その粒子が互いに結合してなる結合層を含む膜構造を有するウルツ鉱型結晶膜において、有効である。ウルツ鉱型結晶膜に含まれるその結晶粒子(結合層に含まれる粒子)の形状は、特に限定されないものの、より緻密に充填することができる形状であればよい。そして、上記結晶粒子(結合層に含まれる粒子)の平均粒子径は、5〜1000nmの範囲内であることが好ましく、10〜500nmの範囲内であることがより好ましい。
【0053】
また、ウルツ鉱型結晶膜は、粒子の粒界が認められない緻密層を含んでいてもよい。そのような膜構造として、例えば、膜の最上層は充填および堆積した粒子が互いに結合してなる結合層であり、基材に接する下層は緻密層である膜構造が挙げられる。なお、本発明において「粒子の粒界が認められない」とは、下記実施例に記載の観察条件で、膜断面をフィールドエミッション走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察しても、粒子の粒界が認められないことを指す。
【0054】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜において、ドープされるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素濃度は、ウルツ鉱型結晶化合物と添加される元素との関係、目的とする応用物性に応じて設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、ZnOにLiをドープする場合には、ZnとLiの原子濃度の和に対して、2〜7.5at.%の範囲内の濃度でLiドープされていることが好ましく、3.0〜6.0at.%の範囲内の濃度でドープされていることがより好ましい。上記範囲内で他元素をドープすることにより、O極性分布割合を向上させることができ、より高い圧電応答性を有するウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0055】
また、本発明に係るウルツ鉱型結晶膜をPFM(Piezoresponse Force Microscopy(圧電応答顕微鏡))法を用いて評価した極性分布割合は、基板面に対して垂直方向に、[000-1]方向もしくは[0001]方向に配向し、そのどちらかの極性分布割合が72%以上である。例えば、LiがドープされているZnOからなるウルツ鉱型結晶膜では、[000-1]方向への極性分布割合(O極性分布割合)は、72%以上であることが好ましく、73%以上であることがより好ましく、74%以上であることがさらに好ましい。上記の範囲内であることにより、より優れた圧電特性、電気特性、発光特性、化学的安定性およびエッチング特性を示すウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0056】
本発明でのPFM測定条件は、1μm×1μm(256×256測定点)の観察領域で、周波数10kHz、電圧10Vppの交流電場をステージに掛け、その交流電場により生じる圧電試料の高さの変位をロックインアンプにより検出した。なお、PFM信号に含まれるバックグラウンド補正を行うため、圧電応答を示さない試料、例えば、インコネル基板を用いて同様に測定し、観察領域での平均の変位量の値を除去した。測定点ごとに、補正された変位量の符号から[000-1]方向または[0001]方向への極性かを判定し、観察領域におけるそれらの分布数から極性分布割合を求めた。PFMの変位量は、補正された変位量の絶対値を測定領域ごとに平均値を算出し求めた。試料の極性分布割合およびPFM変位量は、一試料に対して少なくとも異なる5箇所以上の観察領域でそれぞれ評価し、それらの平均値とする。
【0057】
また、本発明に係るウルツ鉱型結晶膜の電気抵抗率は、1×10Ωcm以上であることが好ましく、1×10Ωcm以上であることがより好ましい。上記の範囲内であることにより、高い圧電特性を有し、圧電体膜等に応用可能なウルツ鉱型結晶膜を提供することができる。
【0058】
ウルツ鉱型結晶膜が形成される基材としては、慣用の従来公知の各種基材が挙げられ、そのうち、後述する焼成工程を行うことができるように、耐熱性に優れている基材がより好ましく、ウルツ鉱型結晶膜を圧電素子等の各種機能性薄膜に応用することができるように、電気導電性を示す基板(基材)がさらに好ましい。
【0059】
上記基板としては、具体的には、例えば、シリコン(Si)やGaAs等の半導体基板、Alやインコネル(Inconel :登録商標)、ステンレス等の金属および合金基板、石英ガラスや耐熱ガラス(例えばパイレックスガラス:登録商標)等のガラス基板、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ等のセラミックス基板、サファイア等の無機単結晶基板が挙げられる。
【0060】
また、上記基板上に白金(Pt)等の金属膜を積層した基板、当該金属膜と基板との密着性を向上させるためにチタン(Ti)等のバッファー層を上記基板上に成膜した上に金属膜を積層した基板、および、上記基板上にITOやZnO系の透明導電膜を積層した基板を用いてもよい。
【0061】
また、基板は、無機結晶膜を圧電素子等の各種機能性薄膜に応用することができるように、可撓性を備えていることが好ましい。従って、基板の厚さは、特に限定されないものの、その機能が損なわれない範囲においてより薄い方が好ましい。
【0062】
<ウルツ鉱型結晶膜の製造方法>
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜の製造方法は、上記ウルツ鉱型結晶膜の製造方法であって、ウルツ鉱型結晶膜となる金属種とドープする元素(アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの少なくとも一つの元素)とを含有する化学溶液を、基材に塗布する塗布工程、塗布工程で得られた塗布膜を乾燥する乾燥工程、および、乾燥した膜を焼成する焼成工程、を備えている。そして、上記製造方法においては、膜厚を厚くするために、上記塗布工程、上記乾燥工程および上記焼成工程を1セットとして複数回繰り返すことがより好ましい。また、塗布工程を行う前に、化学溶液を調製する化学溶液調製工程を行うことがより好ましい。以下、各工程について説明する。
【0063】
(化学溶液調製工程)
ウルツ鉱型結晶膜となる金属種とドープする元素とを含有する化学溶液であるコート液は、上記ウルツ鉱型結晶膜となる金属種を含有する金属化合物、および、ドープする元素であるアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの少なくとも一つの元素を含有する化合物(アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物)を、溶剤に特定の割合で溶解させることにより、容易に調製することができる。また、上記金属化合物を安定的に溶解させることを目的として、溶剤に安定化剤等を加えておくことがより好ましい。
【0064】
本発明で用いることができる上記金属化合物としては、本発明に係る製造方法によってウルツ鉱型結晶に変換される金属化合物であればよく、具体的には、上記金属化合物を含有する化学溶液を調製することができる、溶剤に可溶な金属化合物であればよい。より具体的には、金属がZnである場合には、酢酸亜鉛二水和物、酸化亜鉛微粒子、アセチルアセトナート亜鉛水和物、硫酸亜鉛水和物、安息香酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、リン酸亜鉛水和物等が挙げられる。
【0065】
また、本発明で用いることができる上記アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物としては、具体的には、例えば、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸カリウム、硝酸カリウム、塩化カリウム、酢酸マグネシウム四水和物、硝酸マグネシウム六水和物、酢酸カルシウム水和物、酢酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、酢酸バリウム等が挙げられる。
【0066】
本発明で用いることができる上記溶剤としては、金属化合物、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を溶解させることができる溶剤であればよく、特に限定されないものの、具体的には、例えば、2−メトキシエタノール、2−プロパノール、エタノール、1−ブタノール、トリオクチルフォスフィン、水等が挙げられる。
【0067】
本発明で必要に応じて用いることができる上記安定化剤としては、具体的には、例えば、2−アミノエタノール、N−ブチルエタノールアミン等が挙げられる。
【0068】
そして、化学溶液における上記金属化合物、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の合計の濃度としては、具体的には、0.1〜10モル/Lの範囲内がより好ましく、0.2〜1.0モル/Lの範囲内がさらに好ましい。濃度が低すぎると、ウルツ鉱型結晶膜の膜厚を効率的に稼ぐことができないおそれがある。また、濃度が高すぎると、良質なウルツ鉱型結晶膜を得ることができないおそれがある。
【0069】
また、上記安定化剤の使用量は、特に限定されないものの、金属化合物と当モル程度であることが好ましい。
【0070】
なお、化学溶液を調製する工程は、最初の塗布工程の前に一度行われていればよい。つまり、成膜プロセスの最初に、繰り返して行う成膜プロセスで必要とされる化学溶液量を確保するように化学溶液を調製しておき、その後の繰り返し行う塗布工程では保存していた化学溶液を使用してもよい。
【0071】
(塗布工程)
化学溶液を基材に塗布する方法としては、基材上に化学溶液を均一に塗布することができる塗布方法であればよく、特に限定されないものの、公知のスピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、シルクスクリーン印刷法、またはインクジェット印刷法が簡便であるので好適である。
【0072】
これら塗布方法は、大面積の基材上に均一な膜厚の塗布膜を形成することができる。つまり、これら塗布方法を行うことにより、局所的な欠損部分を有しない、均一な膜厚の塗布膜が得られる。塗布条件は、化学溶液の組成(溶剤の種類、金属化合物の濃度等)に応じて設定すればよいが、一回の塗布工程で成膜される塗布膜は、より厚い方が効率的であるので好ましい。塗布は空気中で行えばよいが、塗布雰囲気は特に限定されない。
【0073】
(乾燥工程)
塗布工程で得られた塗布膜を乾燥する乾燥条件は、化学溶液の組成(溶剤の種類等)に応じて設定すればよいが、乾燥温度は70℃〜300℃の範囲内が好ましい。乾燥時間は乾燥温度に応じて設定すればよいが、3分〜30分の範囲内が好ましい。また、乾燥は空気中で行えばよいが、乾燥雰囲気は特に限定されない。但し、蒸発した溶剤が大気中に放出されないように、ドラフト等で溶剤を回収することが望ましい。
【0074】
ウルツ鉱型結晶膜となる金属種は化学溶液中ではイオン状態で存在し、塗布工程後、乾燥させると析出および凝集して、通常、平均粒子径が1〜500nmの範囲内の大きさの粒子(以下、微粒子とも称する)になる。つまり、塗布工程および乾燥工程を行うことによって得られる膜(乾燥した膜)は、微粒子が充填された集合体である。
【0075】
塗布工程および乾燥工程を一回行うことによって得られる膜(乾燥した膜)の膜厚は、5〜100nmの範囲内である。従って、膜厚をこれよりも厚くするには、塗布工程および乾燥工程を1セットとして複数回繰り返せばよい。焼成工程に至るまでに繰り返す回数は、特に限定されないものの、1〜20回程度が好ましく、2〜10回程度がより好ましい。
【0076】
尚、塗布工程および乾燥工程を1セットとして複数回繰り返す場合において、それぞれの工程の条件(塗布条件、乾燥条件)同士は、互いに異なっていてもよいが、均一なウルツ鉱型結晶膜を形成するには互いに同一条件であることが好ましい。
【0077】
(焼成工程)
上記塗布工程および乾燥工程を1セットとして少なくとも一回、好ましくは複数回繰り返した後、焼成工程を行って乾燥した膜を焼成する。これにより、基材上にウルツ鉱型結晶膜を形成する。
【0078】
焼成条件は、膜(乾燥した膜)の組成(金属種の種類等)に応じて設定すればよいが、焼成温度は450℃〜800℃の範囲内が好ましく、550℃〜700℃の範囲内がより好ましい。具体的には、例えば基材がインコネル基板である場合には650℃程度が好ましい。焼成時間は焼成温度に応じて設定すればよいが、5分〜60分の範囲内が好ましく、10分〜30分の範囲内がより好ましい。また、焼成は、大気中の他に、アルゴン雰囲気や窒素雰囲気等の不活性ガス中、あるいは酸素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気中で行えばよいが、焼成雰囲気は特に限定されない。
【0079】
乾燥工程で得られた膜を焼成することにより、充填した集合体となっている微粒子は互いに焼結する。つまり、充填した微粒子が互いに結合してなる多孔体である結合層を形成する。当該結合層は、微粒子が無秩序に(構造上においては規則性無く)充填された構造である。
【0080】
次いで、上記結合層が形成された基材を用いて上記塗布工程および乾燥工程を繰り返すと、新たに塗布された化学溶液が多孔体の間隙に入り込むので、当該結合層の間隙は乾燥工程で形成された微粒子によって埋められ、焼成(焼結)することによって粒子がより緻密に充填された構造となっていく。
【0081】
つまり、その詳細な生成過程については不明であるものの、微粒子である微細な結晶粒子は、周囲の大きな結晶粒子に取り込まれながら成長すると推測され、基材上に先に形成されていた結合層は上記塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして繰り返すことにより緻密な膜構造へと変化していき、この緻密な膜構造の上に、新たな結合層が形成されることになる。
【0082】
塗布工程、乾燥工程および焼成工程を一回行うことによって得られる膜(ウルツ鉱型結晶膜)の膜厚は、10〜1000nmの範囲内である。従って、膜厚をこれよりも厚くするには、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返せばよい。繰り返す回数は、特に限定されないものの、ウルツ鉱型結晶膜を機能性薄膜として用いる場合の膜厚が通常、100〜10000nmの範囲内であることを考慮すれば、1〜20回程度が好ましく、2〜10回程度がより好ましい。
【0083】
なお、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返す場合において、それぞれの工程の条件(塗布条件、乾燥条件、焼成条件)同士は、互いに異なっていてもよいが、均一なウルツ鉱型結晶膜を形成するには互いに同一条件であることが好ましい。
【0084】
本発明に係る製造方法によれば、大面積の基材上に均一な膜厚で成膜する(大面積の薄膜を成膜する)ことが可能であり、特別な装置を必要としない。従って、コストが低減された(低コストの)ウルツ鉱型結晶膜の製造方法、すなわち、他種の膜を積層して素子化しても性能や信頼性の低下を招くことなく利用することができる膜構造を有するウルツ鉱型結晶膜の製造方法を提供することができる。
【0085】
また、化学溶液堆積法を用いた本発明に係る製造方法によれば、ウルツ鉱型結晶構造におけるC軸を膜厚方向に揃えることができる。すなわち、ウルツ鉱型結晶の結晶構造の極性を揃えることができる(O極性分布割合を向上させることができる)。それゆえ、得られるウルツ鉱型結晶膜は良好な圧電応答性を示す。
【0086】
上記製造方法によって成膜することによって最終的に得られる一方の外層(基材に接している側の外層)は、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返すことによって形成されているので、粒子の粒界が認められない緻密層となっている。これに対して、最終的に得られる他方の外層(基材に接していない側の外層)は、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして一回繰り返すことによって形成されているので、充填した粒子が互いに結合してなる多孔体である結合層となっている。
【実施例】
【0087】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0088】
〔実施例1:Zn0.97Li0.03O膜の作成とその特性試験〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.582モル/Lの濃度で、酢酸リチウム二水和物を0.018モル/Lの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した。
【0089】
得られたコート液を、インコネル(登録商標)600で形成された基板(大きさ:20mm角、厚さ:0.5mm)上にスピンコート法で塗布した(成膜工程)。その後、得られた塗布膜を、ホットプレート上で200℃、5〜30分間乾燥した(乾燥工程)。
【0090】
そして、上記塗布工程および乾燥工程を1セットとして6回繰り返して成膜した後、得られた膜を、アルゴン雰囲気中、電気炉内(昇温速度10℃/分)で650℃、20分間焼成した(焼成工程)。さらに、上記塗布工程(6回)、乾燥工程(6回)および焼成工程(1回)を1セットとして3回繰り返すことにより、膜厚が凡そ700nmの、LiでドープされたZnO薄膜を作製した(ZnO薄膜の組成はZn0.97Li0.03O)。このZnO膜に対して、X線回析(XRD)(Cu Kα 線照射)分析を行った結果、得られたXRDパターン図はウルツ鉱型ZnO結晶の(002)および(004)回折ピークのみを示した。この結果は、得られた膜がウルツ鉱型ZnO結晶構造を有し、基板面に対して垂直方向に高くc軸配向していることを示す。
【0091】
上記構造のZnO薄膜(ウルツ鉱型結晶膜)の膜表面に、Ptからなる直径2mmの上部電極を6箇所形成し、基材を下部電極として圧電素子を作製し、それぞれの上部電極に関して電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所とも短絡が認められず、その平均の抵抗値は5×10Ω・cmであった。d33メータを用いて上記圧電素子の圧電応答性を測定した結果、6箇所とも良好なO極性の圧電応答性を示し、その平均値は5.6pC/Nであった。PFMを用いて、上記Zn0.97Li0.03O膜の極性分布割合を評価した結果、O極性分布割合([000-1]方向への極性分布割合)は76%であった。
【0092】
〔実施例2:Zn0.94Li0.06O膜の作製とその特性試験〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.564モル/Lの濃度で、酢酸リチウム二水和物を0.036モル/Lの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した以外は、実施例1と同様の方法を行うことにより、LiでドープされたZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)を作製した(ZnO薄膜の組成はZn0.94Li0.06O)。このZnO膜に対して、X線回析(XRD)(Cu Kα 線照射)分析を行った結果、得られたXRDパターン図はウルツ鉱型ZnO結晶の(002)および(004)回折ピークのみを示した。この結果は、得られた膜がウルツ鉱型ZnO結晶構造を有し、基板面に対して垂直方向に高くc軸配向していることを示す。
【0093】
得られたZnO薄膜を基材ごと曲げることによって破断して、生じた膜断面をフィールドエミッション走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した。観察条件は、加速電圧5.0kV、倍率5万倍とした。観察画像を図3に示す。当該観察画像においては、基材が下側、膜表面が上側になっている。観察画像から、以下のことが判った。
【0094】
即ち、ZnO薄膜は、上層のうち膜表面から凡そ300nmの厚さ(深さ)までは、粒子径100nm程度の丸い粒子が無秩序に充填して互いに結合した構造を有する層となっていた。この層は、3回目に行った塗布工程、乾燥工程および焼成工程によって堆積された層に対応しており、当該構造は、非特許文献1において1回の焼成工程で作成された膜の膜構造と類似していた。一方、基材(膜裏面)から凡そ200nmの厚さ(高さ)までの下層(基材に接する下層に相当)では、均質な緻密層が形成されており、粒子の粒界は認められなかった。この下層は、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を3回繰り返すことによって堆積された層に対応する。
【0095】
上記構造のZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)を用いて、実施例1と同様の方法で圧電素子を作製し、電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所とも短絡が認められず、その平均の抵抗値は7×10Ω・cmであった。d33メータを用いて上記圧電素子の圧電応答性を測定した結果、6箇所とも良好なO極性の圧電応答性を示し、その平均値は5.8pC/Nであった。
【0096】
実施例1と同様にしてPFM評価により求めたZn0.94Li0.06O膜のO極性分布割合は74%であった。
【0097】
〔比較例1:ZnO膜の作成とその特性試験〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.600モル/Lの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した以外は、実施例1と同様の方法を行うことにより、アンドープZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)を作製した(ZnO薄膜の組成はZnO)。このZnO膜に対して、X線回析(XRD)(Cu Kα 線照射)分析を行った結果、得られたXRDパターン図はウルツ鉱型ZnO結晶の(002)および(004)回折ピークのみを示した。この結果は、得られた膜がウルツ鉱型ZnO結晶構造を有し、基板面に対して垂直方向に高くc軸配向していることを示す。
【0098】
上記構造のアンドープZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)を用いて、実施例1と同様の方法で圧電素子を作製し、電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所のうち5箇所で短絡が認められず、その平均の抵抗値は3×10Ω・cmであった。d33メータを用いて測定した上記圧電素子の圧電応答性を測定した結果、6箇所のうち5箇所でO極性の圧電応答性を示し、その平均値は3.9pC/Nであった。しかしながら、実施例1と同様にしてPFM評価により求めたZnO膜のO極性分布割合は71%と低かった。
【0099】
〔比較例2:Zn0.90Li0.10O膜の作製とその特性試験〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.540モル/Lの濃度で、酢酸リチウム二水和物を0.060モル/Lの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した以外は、実施例1と同様の方法を行うことにより、LiでドープされたZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)を作製した(ZnO膜の組成はZn0.90Li0.10O)。このZnO膜に対して、X線回析(XRD)(Cu Kα 線照射)分析を行った結果、得られたXRDパターン図はZウルツ鉱型ZnO結晶の(002)および(004)回折ピークが主なピークであることから、得られた膜がウルツ鉱型ZnO結晶構造を有し、基板面に対して垂直方向にc軸配向していることを示す。ただし、ウルツ鉱型ZnO結晶の(103)回折ピークが強度はかなり弱いながらも認められ、実施例1および実施例2で得られたZnO膜と比較すると、わずかにc軸配向性が劣っていることを示唆する。
【0100】
上記構造のZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)を用いて、実施例1と同様の方法で圧電素子を作製し、電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所とも短絡が認められず、その平均の抵抗値は1×10Ω・cmであった。d33メータを用いて上記圧電素子の圧電応答性を測定した結果、6箇所ともO極性の圧電応答性を示し、その平均値は3.0pC/Nであった。しかしながら、実施例1と同様にしてPFM評価により求めたZn0.90Li0.10O膜のO極性分布割合は62%と低かった。
【0101】
〔比較例3:Zn0.80Li0.20O薄膜の作製とその特性試験〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.480モル/Lの濃度で、酢酸リチウム二水和物を0.120モル/Lの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した以外は、実施例1と同様の方法を行うことにより、LiでドープされたZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)を作製した(ZnO膜の組成はZn0.80Li0.20O)。このZnO膜に対して、X線回析(XRD)(Cu Kα 線照射)分析を行った結果、得られたXRDパターン図はZウルツ鉱型ZnO結晶の(002)および(004)回折ピークが主なピークであることから、得られた膜がウルツ鉱型ZnO結晶構造を有し、基板面に対して垂直方向にc軸配向していることを示す。ただし、ウルツ鉱型ZnO結晶の(100)、(101)、(102)、および(103)回折ピークが強度はかなり弱いながらも認められ、実施例1および実施例2で得られたZnO膜と比較すると、c軸配向性が劣っていることを示唆する。
【0102】
上記構造のZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)を用いて、実施例1と同様の方法で圧電素子を作製し、電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所とも短絡が認められず、その平均の抵抗値は1×10Ω・cmであった。d33メータを用いて上記圧電素子の圧電応答性を測定した結果、6箇所ともO極性の圧電応答性を示し、その平均値は1.8pC/Nであった。しかしながら、実施例1と同様にしてPFM評価により求めたZn0.80Li0.20O膜のO極性分布割合は57%と低かった。
【0103】
〔考察〕
実施例1,2および比較例1〜3において製造されたウルツ鉱型結晶膜のLi濃度とO極性分布割合との関係を示すグラフを、図3に示す。図3に示すように、PFM測定の結果から求めたZn1−xLiO膜のO極性分布割合は、Li濃度依存性を示すことが判った。アンドープZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)のO極性分布割合が71%であるのに対し、Liを3at.%および6at.%の濃度でドープしてなるZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)のO極性分布割合は、76%および74%に向上した。しかし、Liを10at.%以上の濃度でドープしてなるZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)のO極性分布割合は大きく低下することが判った。
【0104】
一方、各Zn1−xLiO膜に対するPFM測定における変位振幅(A)を、観察領域における変位量の絶対値平均から評価すると、相対的な違いは±5%の範囲内であった。すなわち、Li濃度が異なる何れのZn1−xLiO膜でも、変位振幅Aはほぼ一定であった。
【0105】
33メータを用いて各Zn1−xLiO膜の圧電応答性を評価すると、何れの膜もO極性を有する圧電応答性を示した。その圧電応答性とLi濃度との関係を示すグラフを、図4に示す。図4に示すように、アンドープZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)の圧電応答性は3.9pC/Nであるのに対して、Liを3at.%および6at.%の濃度でドープすることにより、圧電応答性はそれぞれ5.8pC/Nおよび5.6pC/Nへと向上した。しかし、Liを10at.%以上の濃度でドープした場合では、圧電応答性の値は逆に低下した。
【0106】
ウルツ鉱型圧電体膜の単純なモデルとして、柱状構造膜のような基板に対して垂直方向に同一の極性を有する膜構造を仮定すると、d33メータを用いて評価されたZn1−xLiO膜全体の圧電応答性(Pr)と、PFM評価によるO極性分布割合(ROP)と変位振幅(A)との関係は、式「Pr∝(2ROP−100)A」で表すことができる。変位振幅(A)は、Li濃度が異なる何れのZn1−xLiO膜でも一定である。他方、ウルツ鉱型Zn1−xLiO結晶膜のO極性分布割合と圧電応答性との関係を示すグラフを、図5に示す。図5が示すように、O極性分布割合と圧電応答性との間には、傾きが正の比例関係が存在し、上記の関係式を満足する。この結果は、得られたZn1−xLiO膜は、仮定した圧電体膜の単純なモデルと同様に、基板に対して垂直方向に配列した粒子同士では、同一の極性を有することを示唆する。
【0107】
また、図5に示された外挿線が示すように、Zn1−xLiO膜のO極性分布割合が100%であれば、圧電応答性が凡そ11pC/Nとなることが判る。この値は、ZnOバルク結晶に関する既往研究(Proc. IEEE, 56 (1968) pp.225-226を参照)で報告された代表的な圧電定数d33の値(12.4pC/N)に匹敵する。このようなO極性分布割合と圧電応答性との間の比例関係は、本発明の実施例および比較例で作製されたZnO膜の圧電応答性を決定する主要因は、極性分布割合であることを帰結する。
【0108】
〔まとめ〕
本実施例によって、LiをドープすることによりZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)のO極性分布割合を制御できることが判った。特に、化学溶液堆積法を用いて適当な濃度でLiドープされたZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)は、アンドープZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)と比べて最大1.5倍に圧電応答性が向上した。
【0109】
また、LiドープされたZnO膜(ウルツ鉱型結晶膜)は、最大で凡そ6pC/Nの圧電応答性を示し、この値は広く応用されている水晶圧電体の圧電応答性(2pC/N)と比べて凡そ3倍であるという結果であった。
【0110】
このように、他元素をドープすることによりO極性分布割合を制御できることは、極性分布制御を必要とするウルツ鉱型結晶膜に対して、化学溶液堆積法を用いた手法の適用を促進する。その結果、今後は極性が制御された、より安価なウルツ鉱型結晶膜からなる機能性膜を提供することができることが期待される。さらに、大面積を有するシート状の圧電体膜が必要とされる発電床シートのような新たな製品の実用化が期待される。
【0111】
さらに、本発明に係る製造方法に基づく他元素のドープにより、最適な製造条件の範囲を広げることができ、信頼性の高い製品およびその製造方法の提供に繋がると期待される。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明に係るウルツ鉱型結晶膜およびその製造方法は、例えば、圧力センサ、機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する圧電発電装置に組み込まれる圧電体膜、タッチパネル装置に組み込まれる圧電体膜、強誘電体メモリに組み込まれる強誘電体膜、発光素子の発光体膜、化学センサや紫外線センサへ応用できるウルツ鉱型結晶膜およびその製造方法として、利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成されたウルツ鉱型結晶膜であり、
上記基材面に対して垂直方向に二つ以上の粒子が充填および堆積し、上記粒子が互いに結合してなる結合層を含む膜構造を有するウルツ鉱型結晶膜であって、
上記粒子は、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素からなる元素群のうちの少なくとも一つの元素がドープされているウルツ鉱型結晶構造を有する化合物を含み、
上記ウルツ鉱型結晶構造が上記基材面に対して垂直方向に[000-1]方向又は[0001]方向へ配向し、
[000-1]方向又は[0001]方向への極性分布割合が72%以上であることを特徴とするウルツ鉱型結晶膜。
【請求項2】
上記アルカリ金属元素が、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)であり、上記アルカリ土類金属元素が、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)であることを特徴とする請求項1に記載のウルツ鉱型結晶膜。
【請求項3】
上記ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物は、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、AlN、GaN、InN、InPのうちの少なくとも一つの化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のウルツ鉱型結晶膜。
【請求項4】
上記元素は、リチウム(Li)からなり、
Liが2〜7.5at.%の範囲内の濃度でドープされていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のウルツ鉱型結晶膜。
【請求項5】
上記ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物は、ZnOであって、
[000-1]方向への極性分布割合(O極性分布割合)が73%以上であることを特徴とする請求項4に記載のウルツ鉱型結晶膜。
【請求項6】
圧電特性を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のウルツ鉱型結晶膜。
【請求項7】
上記結合層に含まれる粒子の平均粒子径が5〜1000nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のウルツ鉱型結晶膜。
【請求項8】
金属、合金、ガラス、半導体基板、セラミックス、および無機単結晶からなる群のうちの少なくとも一つの基材上に形成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のウルツ鉱型結晶膜。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載のウルツ鉱型結晶膜の製造方法であって、
ウルツ鉱型結晶膜となる金属種とドープする元素とを含有する化学溶液を、基材に塗布する塗布工程、
塗布工程で得られた塗布膜を乾燥する乾燥工程、および、
乾燥した膜を焼成する焼成工程、
を備えることを特徴とするウルツ鉱型結晶膜の製造方法。
【請求項10】
スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、シルクスクリーン印刷法、またはインクジェット印刷法を用いて上記塗布工程を行うことを特徴とする請求項9に記載のウルツ鉱型結晶膜の製造方法。
【請求項11】
上記塗布工程、上記乾燥工程および上記焼成工程を1セットとして複数回繰り返すことを特徴とする請求項9または10に記載のウルツ鉱型結晶膜の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−107782(P2013−107782A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251901(P2011−251901)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】