説明

ウレタン・シリコーン相溶化剤、ウレタンエマルションおよびシリコーン内包量の相対量を測定する方法

【課題】水系塗料において、シリコーン固有の性質を減殺することなく、塗膜乾燥後摺動摩耗等によりシリコーンを徐放する塗膜を構成する塗料類の素材を提供する。
【解決手段】イソシアネートと末端官能基変性シリコーンとの反応を用いることにより、ウレタン中にシリコーンが均一に分散したシリコーン分散ウレタンを調製し、これをさらに水中にエマルション化させることによりシリコーンの特性を保持ながらシリコーンを内包させたウレタンエマルションを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の蒸発により皮膜を形成する水系塗料等に用いられるウレタンエマルションの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
水系滑性塗料を構成する場合、通常はウレタンエマルションとシリコーン類のエマルションを個別に調製したものを混合して用いられている。ここでシリコーンは滑性剤、あるいは撥水剤等として用いられる。一方で、シリコーンセグメントを有するポリウレタン系樹脂の有機溶剤中に水を乳化させてポリウレタン乳濁液を製造する試みも多孔性シートを作る過程でなされている(特公平7−91354)。
【特許文献1】特公平7−91354
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしこの通常の水系滑性塗料の場合、塗布、硬化させた時点でシリコーンが表面にすでに沁み出る事が多く、シリコーン固有の撥水性、潤滑性、光沢付与性を長期間に渡り塗装面に付与することは難しい。また、特許文献1のように完全にシリコーンとウレタンを反応させた場合にはシリコーン本来の性質を失う。本発明の課題は水系塗料において、シリコーン固有の性質を減殺することなく、摺動摩耗等によりシリコーンを徐放する塗膜を構成する塗料類の素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明のウレタンエマルションはシリコーンを、相溶化剤を用いて内包させたことを特徴とするものである。または両末端アミノ基変性シリコーンをポリイソシアネート中に滴下してそれと反応させた後、水中に乳化させて得られるものである。さらに本発明のシリコーン内包量の相対量を測定する方法は、蛍光物質でラベルしたシリコーン・ウレタン相溶化剤を用いて、シリコーン仕込み量の異なるエマルションを調製し、そのエマルション懸濁液を遠心分離して、内包されないシリコーン層とシリコーン内包エマルション層の二相分離を行い、シリコーン内包エマルション層の溶液の蛍光強度を測定することにより、シリコーン仕込量に対するシリコーン内包量の相対量を測定するものであり、相対内包量の評価法によって最適なシリコーン仕込み濃度が導出できるなど、本発明のウレタンエマルションの製造・評価に有効ものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明のウレタンエマルションおよびウレタン・シリコーン相溶化剤は、シリコーン徐放性を具備した水系塗料を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
通常、エマルションの原料となる(a)ポリウレタン類と(b)シリコーンは均一には混ざりあわない。本発明は、イソシアネート類と末端官能基変性シリコーン類を反応させたシリコーン・ウレタン相溶化剤を用いることにより、(a)ポリウレタン類の中に(b)シリコーンを分散させたシリコーン分散ウレタンを調製し、これをさらに水中にエマルション化させることによりシリコーンを内包させたウレタンエマルションを得るものである。この場合内包させるシリコーンはポリウレタン類と直接的に反応させないで用いるためシリコーン本来の特性を失いにくい特徴を有する。なお、内包するシリコーンが反応性基(アミノ基など)を持つ場合は、相溶化剤なしでシリコーン内包ウレタンエマルションを得ることができる。
【0007】
本発明において、シリコーン・ウレタン相溶化剤は、NCO基を1個以上持つイソシアネート類と、片末端もしくは両末端がアミノ基あるいはカルビノール基、カルボキシル基、フェノール基、メルカプト基に変性された反応性シリコーンオイルとを反応させて得られる。たとえば、化1に示す化合式で表せるシリコーン・ウレタン相溶化剤を使用することができる。ここで、Rはアルキル基を示す。
【化1】

【0008】
内包させる(b)シリコーンに関しては最終生成品の用途に応じて適切なシリコーンオイルを用いれば良く、分子量に関して特に制限を受けるものではない。
【0009】
(a)のウレタンの内容構成に関しても、目的の最終生成品の用途に応じて、イソシアネート類、活性水素化合物、内部乳化剤等を反応させて得た適切なポリウレタンを用いればよく、製造方法、構成等に関して制限はなく、場合によっては溶剤等を含んでいても良い。
【実施例1】
【0010】
撹拌機(商品名:AS ONE HIGH-POWER MIXER PM-202)、温度計、窒素導入管、及び冷却器を備えたガラス製4つ口フラスコに、ポリテトラメチレングリコール85g、ジメチロールプロピオン酸7.5g、N−メチルピロリドン15gを入れ、窒素気流下で撹拌しながらマントルヒーターで加温し、ジメチロールプロピオン酸を溶解させた。その後イソホロンジイソシアネート37.6gを滴下し、さらに触媒としてジブチルチンジラウレートのN−メチルピロリドン溶液(12mg/ml)を1ml加え、90〜100℃で反応させた。反応が進行するに従い粘度が上昇するのでメチルエチルケトン70gを加えた。7時間後、温度を70℃に下げてトリエチルアミン5.6gを中和剤として加え、ウレタン溶液を得た。
【0011】
両末端アミノ基変性シリコーン(信越化学工業製KF-8008) 56gとトルエン56gとをビーカーに入れ撹拌して溶解させた後、撹拌を続けながらイソホロンジイソシアネート 0.555gを滴下してシリコーン・ウレタン相溶化剤を得た。
【0012】
図1は本実施例の二段階乳化の様子を示した説明図である。上記の様にして得たウレタン溶液20gをビーカーに入れ、撹拌しながらその中へシリコーン・ウレタン相溶化剤2gを加え、更に撹拌を続けたままシリコーン(東レダウコーニングシリコーン製SH-200-100cst)5gを加えてシリコーン分散ウレタンを調製した。(図1a)
【0013】
水30gを入れたビーカーへ、このシリコーン分散ウレタン13.6gを撹拌しながら加え、10分後、架橋剤としてイソホロンジアミン1mlを加え、更に5分撹拌して、シリコーン内包ウレタンエマルションを調製した。(図1b)
【0014】
このウレタンエマルション中にシリコーンが内包されていることは、添加するシリコーン・ウレタン相溶化剤中に蛍光試薬フルオレセインイソチオシアネートでラベルしたシリコーン・ウレタン相溶化剤を予め加えておくことで、エマルション調製後蛍光顕微鏡で観察することにより確認された。
【0015】
また、ウレタン溶液20g、水30g、および蛍光試薬フルオレセインイソチオシアネートでラベルしたシリコーン・ウレタン相溶化剤2gをそれぞれ使用した。その条件下でシリコーンの量を変化させてシリコーン内包ウレタンエマルションを調製し、スウィングロータの遠心機(3000rpm、20min)を用いて内包されていないシリコーン層の分離を行った。残ったシリコーン内包ウレタンエマルションの蛍光強度を分光蛍光光度計で測定した。シリコーン0gのときの蛍光強度をI0として相対蛍光強度I/I0を求めてシリコーンの内包率を評価した。これは、内包されていないシリコーンに溶けたシリコーン・ウレタン相溶化剤が、上記のような緩やかな遠心で分離され、その分だけ蛍光強度が仕込みの蛍光強度よりも小さくなる事を利用した評価法である。
この結果を図2に示した。例えば図2でシリコーン仕込み量が約3g付近でI/I0が1より小さくなり始める。これは上記のようにウレタンに内包されないシリコーン層が漏出し始めたからである。これによりシリコーン・ウレタン相溶化剤2gの条件下では、シリコーンの最大内包量は3g (I/I0が1から低下し始める限界値)である。
【実施例2】
【0016】
上記実施例1と同様にして得たウレタン溶液20gをビーカーに入れ、撹拌しながらその中へ、両末端アミノ基変性シリコーン(信越化学工業製KF-8008) 4.9gを加えてシリコーン分散ウレタンを調製した。水30gを入れたビーカーへ、このシリコーン分散ウレタン16.2gを撹拌しながら加え、10分後、架橋剤としてイソホロンジアミン1mlを加え、更に5分撹拌して、シリコーン内包ウレタンエマルションを調製した。シリコーンが内包されていることは添加する両末端アミノ基変性シリコーン中に蛍光試薬フルオレセインイソチオシアネートでラベルした両末端アミノ基変性シリコーンを予め加えておくことで、エマルション調製後蛍光顕微鏡で観察することにより確認できた。
【実施例3】
【0017】
両末端アミノ基変性シリコーン(信越化学工業製KF-8008) 56gとトルエン56gとをビーカーに入れ撹拌して溶解させた後、撹拌を続けながらイソホロンジイソシアネート 0.555gを滴下して、更に撹拌を続けながら塩化ベンゾイル0.703gを滴下し、アミンブロック・シリコーン・ウレタン相溶化剤を得た。
【0018】
上記実施例1と同様にして得たウレタン溶液20gをビーカーに入れ、撹拌しながらその中へアミンブロック・シリコーン・ウレタン相溶化剤2gを加え、更に撹拌を続けたままシリコーン(東レダウコーニングシリコーン製SH-200-100cst)2.5gを加えてシリコーン分散ウレタンを調製した。
【0019】
水30gを入れたビーカーへ、このシリコーン分散ウレタン15.6gを撹拌しながら加え、10分後、架橋剤としてイソホロンジアミン1mlを加え、更に5分撹拌して、シリコーン内包ウレタンエマルションを調製した。
【0020】
実施例1の場合、相溶化剤のアミノ基とウレタンのNCO基は結合しているが、実施例3の場合は、相溶化剤のウレタン相溶性とシリコーン相溶性のみによる内包である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明により、例えばシリコーンの特性を生かしたシリコーン徐放性塗料等が実現されるが、本発明の応用は塗料に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一の実施例における二段階乳化を示した説明図である。
【図2】シリコーン仕込み量とエマルションの相対濃度の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0023】
1 撹拌機
2 ビーカー
3 ウレタン
4 水
5 シリコーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート類と、片側もしくは両側末端反応性シリコーンとを
反応させて得られるウレタン・シリコーン相溶化剤。
【請求項2】
化1の化学式で示されるウレタン・シリコーン相溶化剤。(Rはアルキル基を示す)
【化1】

【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のウレタン・シリコーン相溶化剤を用いてシリコーンを内包させたことを特徴とするウレタンエマルション。
【請求項4】
イソシアネートとの反応性を有するシリコーンを、ポリイソシアネート中に滴下し反応させた後、水中に乳化して得られるウレタンエマルション。
【請求項5】
蛍光物質でラベルしたシリコーン・ウレタン相溶化剤を用いて、シリコーン仕込み量の異なるエマルションを調製し、そのエマルション懸濁液を遠心分離して、内包されないシリコーン層とシリコーン内包エマルション層の二相分離を行い、シリコーン内包エマルション層の溶液の蛍光強度を測定することにより、シリコーン仕込量に対するシリコーン内包量の相対量を測定する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−36996(P2006−36996A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221224(P2004−221224)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月1日 愛媛大学主催の「愛媛大学工学部応用化学科卒業論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(591099500)坂井化学工業株式会社 (3)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】