説明

ウレタン発泡成形体およびその製造方法

【課題】 物性をできるだけ変化させずに、熱伝導性が高いウレタン発泡成形体を提供する。また、その製造方法を提供する。
【解決手段】 ウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配合され互いに連接して配向している熱伝導性フィラーと、を有する。熱伝導性フィラーは、非磁性体からなる熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面に付着された磁性粒子と、を有する複合粒子からなる。また、ウレタン発泡成形体の製造方法を、発泡ウレタン樹脂原料と、該熱伝導性フィラーと、を混合して混合原料とする原料混合工程と、該混合原料を発泡型のキャビティ内に注入し、該キャビティ内の磁束密度が略均一になるように磁場をかけながら発泡成形する発泡成形工程と、を有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば吸音材や振動吸収材等として用いられるウレタン発泡成形体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン発泡成形体は、吸音材、振動吸収材等として、自動車等の様々な分野で用いられている(例えば特許文献1参照)。ウレタン発泡成形体は、内部に多数のセル(気泡)を有する。このため、ウレタン発泡成形体の熱伝導率は小さい。したがって、発熱を伴うエンジン、モーター等の周囲に配置した場合、ウレタン発泡成形体に熱が蓄積され、エンジン、モーター等の温度上昇を招くおそれがある。このような問題を解消するためには、ウレタン発泡成形体の放熱性を向上させる必要がある。例えば、特許文献2、3には、配向した磁性粒子を有するウレタン発泡成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−97645号公報
【特許文献2】特開2007−230544号公報
【特許文献3】特開2009−51148号公報
【特許文献4】特開2006−219562号公報
【特許文献5】特開2007−44919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2、3に開示されているウレタン発泡成形体のように、ポリウレタンフォーム中に、磁性粒子を互いに連接した状態で配向させると、磁性粒子の配向方向に熱の伝達経路が形成される。これにより、ウレタン発泡成形体の放熱性を、向上させることができる。特許文献2、3のウレタン発泡成形体においては、磁場中における磁性粒子の配向を利用する。このため、磁性粒子には、磁化特性に優れた鉄、ステンレス鋼等が用いられる。しかし、鉄やステンレス鋼の熱伝導率は小さい。このため、これら磁性粒子を配向させても、放熱性の向上効果は小さい。
【0005】
一方、熱伝導性の向上を図るという観点から、ウレタン発泡成形体中に、熱伝導率の大きなフィラーを含有させることもできる。熱伝導率の大きなフィラーとしては、例えば、炭素繊維が挙げられる。しかし、単に炭素繊維を配合しただけでは、互いを連接させて、熱の伝達経路を形成することは難しい。例えば、熱の伝達経路の形成のために、炭素繊維を多量に配合すると、発泡成形に影響を及ぼしたり、吸音特性等の物性が低下するおそれがある。また、ウレタン発泡成形体の質量が増加する、コストがかさむといった問題も生じる。また、炭素繊維は非磁性体である。したがって、磁性粒子を配向させたように、磁場中で発泡成形を行ったとしても、炭素繊維を配向させることはできない。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、物性をできるだけ変化させずに、熱伝導性が高いウレタン発泡成形体を提供することを課題とする。また、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するため、本発明のウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配合され互いに連接して配向している熱伝導性フィラーと、を有し、該熱伝導性フィラーは、非磁性体からなる熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面に付着された磁性粒子と、を有する複合粒子からなることを特徴とする。
【0008】
熱伝導性フィラーは、熱伝導性粒子と磁性粒子とを有する複合粒子からなる。複合粒子のコアをなす熱伝導性粒子は、大きな熱伝導率を有するが、非磁性体からなる。しかし、熱伝導性粒子の表面には、磁性粒子が付着している。このため、発泡成形時に磁場を作用させると、磁性粒子は磁力線に沿って配向しようとする。これにより、複合粒子が、磁力線に沿って配向する。すなわち、表面に付着した磁性粒子の磁場配向を利用して、熱伝導性粒子を配向させることができる。
【0009】
その結果、複合粒子(熱伝導性フィラー)は、互いに連接した状態で、基材中に配置される。これにより、基材中に熱の伝達経路が形成される。すなわち、本発明のウレタン発泡成形体の一端に加わった熱は、熱伝導性フィラーを介して配向方向の他端に伝達され、他端から速やかに放出される。このように、本発明のウレタン発泡成形体は、熱伝導性に優れる。したがって、本発明のウレタン発泡成形体によると、発熱源となる吸音対象物の温度上昇を、効果的に抑制することができる。
【0010】
例えば、発泡を伴わない樹脂やゴム中で磁性粒子を配向させると、成形時における樹脂やゴムの熱収縮や、熱硬化時の樹脂やゴムの熱揺らぎにより、所望の配向状態を実現しにくい。この点、本発明のウレタン発泡成形体によると、製造過程において、液状の発泡ウレタン樹脂原料が発泡により成長する。したがって、発泡ウレタン樹脂原料が成長する方向に、熱伝導性フィラーを配向させると、発泡ウレタン樹脂原料の成長と共に熱伝導性フィラーの移動が促され、所望の配向状態を実現しやすい。
【0011】
また、熱伝導性フィラーを配向させても、ポリウレタンフォームの骨格形成に対する影響は小さい。つまり、ウレタン発泡成形体において、セル構造が変化しにくい。さらに、熱伝導率の小さな磁性粒子を配向させた場合と比較して、より少量のフィラーにより、熱伝導性を向上させることができる。したがって、ウレタン発泡成形体における引張り強さ、伸び、吸音特性等の物性が変化しにくい。また、フィラーの配合量が低減されることにより、ウレタン発泡成形体の軽量化や、コスト削減が可能になる。
【0012】
なお、本発明のウレタン発泡成形体において、基材中の熱伝導性フィラーは、ある規則性を持って所定の方向に配置されていればよい。例えば、ウレタン発泡成形体の一端と他端(一端に対して180°対向した端部でなくてもよい)との間に直線状に配置されていても、曲線状に配置されていてもよい。また、中心から外周に向かって放射状に配置されていてもよい。
【0013】
(2)本発明のウレタン発泡成形体の製造方法は、上記(1)の構成のウレタン発泡成形体の製造方法であって、発泡ウレタン樹脂原料と、前記熱伝導性フィラーと、を混合して混合原料とする原料混合工程と、該混合原料を発泡型のキャビティ内に注入し、該キャビティ内の磁束密度が略均一になるように磁場をかけながら発泡成形する発泡成形工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の製造方法によると、熱伝導性フィラーを磁場配向させて、ウレタン発泡成形体を製造する。発泡成形工程において、キャビティ内の磁束密度が略均一な磁場中で発泡成形を行う。これにより、磁束密度の違いによる熱伝導性フィラーの偏在を抑制することができ、所望の配向状態を得ることができる。また、熱伝導性フィラーの配合量が比較的少量でも、熱伝導性フィラーを略均一に分散させた状態で配向させることができる。したがって、本発明の製造方法によると、熱伝導性フィラーの配合量が比較的少量でも、熱伝導性の高い上記本発明のウレタン発泡成形体を、簡便に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、ウレタン発泡成形体本来の物性が損なわれることなく、熱伝導性が向上したウレタン発泡成形体を提供することができる。また、その簡便な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の複合粒子のSEM写真である(倍率200倍)。
【図2】実施例2の複合粒子のSEM写真である(倍率200倍)。
【図3】実施例において、ウレタン発泡成形体の製造に使用した第一磁気誘導発泡成形装置の斜視図である。
【図4】同装置の断面図である。
【図5】実施例1、2および比較例のウレタン発泡成形体の熱伝導率の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例において、ウレタン発泡成形体の製造に使用した第二磁気誘導発泡成形装置の斜視図である。
【図7】同装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のウレタン発泡成形体およびその製造方法の実施形態について説明する。なお、本発明のウレタン発泡成形体およびその製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0018】
<ウレタン発泡成形体>
本発明のウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配合され互いに連接して配向している熱伝導性フィラーと、を有する。
【0019】
ポリウレタンフォームは、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分等の発泡ウレタン樹脂原料から製造される。詳細は、後述する本発明のウレタン発泡成形体の製造方法において説明する。
【0020】
熱伝導性フィラーは、非磁性体からなる熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面に付着された磁性粒子と、を有する複合粒子からなる。
【0021】
熱伝導性粒子は、非磁性体であって、熱伝導率が大きいものであればよい。本明細書では、強磁性体および反強磁性体以外の、反磁性体および常磁性体を、非磁性体と称す。例えば、熱伝導性粒子の熱伝導率は、200W/m・K以上であることが望ましい。熱伝導性粒子の材質としては、例えば、黒鉛、炭素繊維等の炭素材料が好適である。また、アルミニウム、金、銀、銅、およびこれらを母材とする合金等であってもよい。熱伝導性粒子としては、一種類の粒子を用いても、二種類以上の粒子を併用してもよい。
【0022】
熱伝導性粒子の形状は、磁性粒子と複合化できれば、特に限定されるものではない。例えば、薄片状、繊維状、柱状、球状、楕円球状、長円球状(一対の対向する半球を円柱で連結した形状)等の種々の形状を採用することができる。後述する磁性粒子の形状にもよるが、熱伝導性粒子が球以外の形状をなす場合には、複合粒子(熱伝導性フィラー)同士の接触面積が大きくなる。これにより、熱の伝達経路が確保されやすくなると共に、伝達される熱量も大きくなる。なお、通常、アルミニウム、金、銅等の金属粒子の形状は、球状である。このため、アスペクト比を大きくしようとすると、加工費が高くなる。これに対して、黒鉛は、アスペクト比が大きい形状のものでも、比較的安価に入手できる。このような観点から、熱伝導性粒子の材質としては、黒鉛が好適である。
【0023】
黒鉛としては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛や、人造黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛は、鱗片状になりにくい。このため、鱗片状であり、熱伝導率の向上効果が高いという理由から、天然黒鉛が好適である。また、黒鉛として、鱗片状の黒鉛の層間に、加熱によりガスを発生する物質が挿入された膨張黒鉛を用いてもよい。膨張黒鉛は、例えば、特許文献4、5に開示されているように、難燃剤として用いられる。膨張黒鉛に熱が加わると、発生したガスにより、層間が広がると共に、熱や化学品に対して安定した層が形成される。形成された層が断熱層となり、熱の移動を妨げることにより、難燃効果がもたらされる。
【0024】
通常、難燃性が付与されているウレタン発泡成形体は、炎に晒されても火種を落下させて延焼を抑制するドロッピング作用を有する。しかし、磁性粒子を含有する場合には、ドロッピング作用が損なわれ、ウレタン発泡成形体の自己消化性が低下するおそれがある。本発明のウレタン発泡成形体において、複合粒子(熱伝導性フィラー)は配向されている。このため、ウレタン発泡成形体に加わった熱は、熱伝導性粒子に伝達されやすい。よって、熱伝導性粒子が膨張黒鉛からなる場合、膨張黒鉛が、膨張開始温度に早く到達する。これにより、膨張黒鉛による難燃効果が、速やかに発揮される。したがって、熱伝導性粒子として膨張黒鉛を用いることにより、ウレタン発泡成形体の自己消化性の低下を抑制し、難燃性を維持することができる。
【0025】
熱伝導性粒子として膨張黒鉛を用いる場合、公知の膨張黒鉛粉末の中から、膨張開始温度や膨張率等を考慮して、好適なものを選択すればよい。例えば、膨張黒鉛の膨張開始温度は、ウレタン発泡成形体の成形時の発熱温度よりも、高くなければならない。具体的には、膨張開始温度が150℃以上の膨張黒鉛が好適である。
【0026】
熱伝導性粒子として、膨張黒鉛のみを用いる場合、ウレタン発泡成形体の難燃性を向上させることができる。例えば、膨張黒鉛の含有量を、ウレタン発泡成形体全体の質量を100質量%とした場合の5質量%以上とすることが望ましい。
【0027】
一方、ウレタン発泡成形体において、膨張黒鉛の含有量が多くなると、膨張黒鉛の層間の酸成分により、ウレタンの硬化反応が阻害されるおそれがある。膨張黒鉛の含有量の増加に伴う成形性の低下については、配合する触媒の配合量を増加することにより、抑制することも可能である。しかし、ウレタン発泡成形体の成形性を考慮して、熱伝導性粒子として膨張黒鉛を用いる場合には、膨張黒鉛以外の黒鉛等、他の非磁性体材料を併用することが望ましい。すなわち、複合粒子として、膨張黒鉛粒子の表面に磁性粒子を付着させた複合粒子と、膨張黒鉛以外の非磁性体材料からなる粒子の表面に磁性粒子を付着させた複合粒子と、の両方を含む態様が望ましい。各々の複合粒子の配合比率は、難燃性、成形性等を考慮して適宜決定すればよい。
【0028】
また、熱伝導性粒子の大きさは、分散性や、発泡成形に使用する装置等を考慮して決定すればよい。例えば、熱伝導性粒子の平均粒子径を、500μm以下とすることが望ましい。250μm以下がより好適である。なお、本明細書においては、熱伝導性粒子の最大長さを、粒子径として採用する。また、後に詳しく説明するが、ウレタン発泡成形体の製造方法において、衝突攪拌法を採用する場合には、熱伝導性粒子として、最大長さが500μm以下のものを使用することが望ましい。
【0029】
磁性粒子は、磁化特性に優れたものであればよく、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ガドリニウム、ステンレス鋼、マグネタイト、マグヘマイト、マンガン亜鉛フェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の強磁性体、MnO、Cr、FeCl、MnAs等の反強磁性体、およびこれらを用いた合金類の粒子が好適である。なかでも、微細な粒子として入手しやすく、飽和磁化が高いという観点から、鉄、ニッケル、コバルト、およびこれらの鉄系合金(ステンレス鋼を含む)の粉末が好適である。
【0030】
磁性粒子は、熱伝導性粒子の表面に付着されており、複合粒子(熱伝導性フィラー)を配向させる役割を果たす。磁性粒子は、熱伝導性粒子の表面の一部のみに付着していてもよく、表面全体を被覆するように付着していてもよい。また、磁性粒子の大きさは、熱伝導性粒子の大きさ、複合粒子の配向性、および複合粒子間の熱伝導性等を考慮して、適宜決定すればよい。例えば、磁性粒子の大きさが小さくなると、磁性粒子の飽和磁化が低下する傾向がある。したがって、より少量の磁性粒子により、複合粒子を配向させるためには、磁性粒子の平均粒子径を、100nm以上とする必要がある。1μm以上、さらには5μm以上とするとより好適である。なお、本明細書においては、磁性粒子の最大長さを、粒子径として採用する。
【0031】
磁性粒子の形状は、特に限定されるものではない。例えば、磁性粒子の形状が扁平の場合には、隣接する熱伝導性粒子間の距離が短くなる。これにより、隣接する複合粒子間における熱伝導性が向上する。その結果、ウレタン発泡成形体の熱伝導率が向上する。また、磁性粒子の形状が扁平の場合には、磁性粒子と熱伝導性粒子とが面で接触する。つまり、両者の接触面積が大きくなる。これにより、磁性粒子と熱伝導性粒子との接着力が向上する。よって、磁性粒子が剥離しにくくなる。加えて、磁性粒子と熱伝導性粒子との間の熱伝導性も向上する。このような理由から、磁性粒子としては、薄片状の粒子を採用することが望ましい。
【0032】
熱伝導性粒子として、黒鉛を採用した場合、複合粒子の配向性と、熱伝導性の向上効果と、を考慮すると、複合粒子における黒鉛と磁性粒子との体積割合は、7:3〜5:5であることが望ましい。磁性粒子の体積割合が3割未満の場合には、配向に必要な磁性が不足するおそれがある。また、黒鉛の体積割合が5割未満の場合には、熱伝導性の向上効果が小さくなる。
【0033】
複合粒子は、湿式での静電吸着法や、乾式での粉砕混合法、攪拌造粒法、メカノケミカル法等により製造することができる。例えば、攪拌造粒法においては、熱伝導性粒子の粉末、磁性粒子の粉末、および両者を接着するためのバインダーを含む原料を、高速攪拌して造粒する。攪拌造粒法によると、熱伝導性粒子と磁性粒子とを、バインダーによりソフトに接着させることができる。このため、熱伝導性粒子が、熱伝導性が高い形状(アスペクト比が大きな形状)を有する場合でも、その形状を崩すことなく、磁性粒子と複合化することができる。バインダーの種類は、熱伝導性粒子および磁性粒子の種類、発泡成形への影響等を考慮して、適宜選択すればよい。複合粒子の製造時には、高速攪拌により摩擦熱が生じる。このため、バインダーとしては、揮発性の無いものが望ましい。また、環境面を考慮すると、水系のバインダーが好適である。水系のバインダーとしては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0034】
電子部品の放熱用途等、本発明のウレタン発泡成形体に絶縁性が要求される場合がある。このような要求に対して、複合粒子が導電性を有する場合には、熱伝導性フィラーとして、表面が絶縁層で被覆された複合粒子を用いることが望ましい。複合粒子の表面、すなわち熱伝導性粒子および磁性粒子の表面を、絶縁層で被覆することにより、磁場配向性を損なうことなく、複合粒子に絶縁性を付与することができる。
【0035】
絶縁層の材質としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、絶縁層の形成方法としては、樹脂を溶剤、水等の溶媒に溶解した樹脂溶液に複合粒子を浸漬する方法、樹脂溶液を複合粒子にスプレー噴霧する方法等が挙げられる。また、熱伝導性を損なわずに、絶縁性を付与するという観点から、絶縁層の厚さは、1μm以下であることが望ましい。
【0036】
複合粒子の表面を絶縁層で被覆すると、磁性粒子と熱伝導性粒子との結合力が大きくなる。よって、機械的な攪拌、高圧噴射による原料の混合工程や、高圧発泡工程等において、熱伝導性粒子と磁性粒子との分離が抑制される。また、絶縁層がエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の水酸基を有する樹脂からなる場合には、基材のポリウレタンフォームと複合粒子との接着性が向上する。よって、基材から複合粒子(熱伝導性フィラー)が脱落しにくく、良好な配向状態を維持することができる。また、基材と複合粒子との接着性が向上することにより、ウレタン発泡成形体の引張り強さ、伸び等の物性が向上する効果も期待できる。
【0037】
ウレタン発泡成形体中の熱伝導性フィラー(複合粒子)の配合量は、発泡反応に対する影響、熱伝導性の向上効果等を考慮して、決定すればよい。例えば、発泡反応を阻害せず、所望の物性を有するウレタン発泡成形体を得るためには、熱伝導性フィラーの配合量を、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の、10体積%以下とすることが望ましい。5体積%以下とするとより好適である。一方、熱伝導性の向上効果を得るためには、熱伝導性フィラーの配合量を、0.5体積%以上とすることが望ましい。1体積%以上とするとより好適である。
【0038】
<ウレタン発泡成形体の製造方法>
本発明のウレタン発泡成形体の製造方法は、原料混合工程と発泡成形工程とを有する。以下、各工程について説明する。
【0039】
(1)原料混合工程
本工程は、発泡ウレタン樹脂原料と、熱伝導性フィラーと、を混合して混合原料とする工程である。
【0040】
発泡ウレタン樹脂原料は、ポリオール、ポリイソシアネート等の既に公知の原料から調製すればよい。ポリオールとしては、多価ヒドロキシ化合物、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリマーポリオール類、ポリエーテルポリアミン類、ポリエステルポリアミン類、アルキレンポリオール類、ウレア分散ポリオール類、メラミン変性ポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、アクリルポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、フェノール変性ポリオール類等の中から適宜選択すればよい。また、ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、およびこれらの誘導体(例えばポリオール類との反応により得られるプレポリマー類、変成ポリイソシアネート類等)等の中から適宜選択すればよい。
【0041】
発泡ウレタン樹脂原料には、さらに、触媒、発泡剤、整泡剤、可塑剤、架橋剤、難燃剤、帯電防止剤、減粘剤、安定剤、充填剤、着色剤等を適宜配合してもよい。例えば、触媒としては、テトラエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン系触媒や、ラウリン酸錫、オクタン酸錫等の有機金属系触媒が挙げられる。また、発泡剤としては水が好適である。水以外には、塩化メチレン、フロン類、COガス等が挙げられる。また、整泡剤としてはシリコーン系整泡剤が、架橋剤としてはトリエタノールアミン、ジエタノールアミン等が好適である。
【0042】
熱伝導性フィラーの構成、配合量については、上記本発明の発泡ウレタン成形体の説明において述べた通りである。よって、ここでは説明を省略する。
【0043】
混合原料は、例えば、発泡ウレタン樹脂原料および熱伝導性フィラーを、プロペラ等を用いて機械的に攪拌して製造することができる。また、発泡ウレタン樹脂原料の二つの成分(ポリオール原料、ポリイソシアネート原料)の少なくとも一方に、熱伝導性フィラーを添加して、二種類の原料を調製した後、両原料を混合して製造してもよい。後者の場合、例えば、本工程を、発泡ウレタン樹脂原料として、ポリオール、触媒、および発泡剤を含むポリオール原料と、ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート原料と、を調製し、該ポリオール原料および該ポリイソシアネート原料の少なくとも一方に、熱伝導性フィラーを配合する原料調製工程と、該ポリオール原料と該ポリイソシアネート原料とを各々圧送してミキシングヘッドへ供給し、両原料を該ミキシングヘッド内で混合して混合原料とする混合工程と、により構成することができる。
【0044】
本構成によると、ミキシングヘッド内において、ポリオール原料とポリイソシアネート原料とを、各々高圧で噴射して衝突させることにより混合する衝突攪拌法を採用することができる。衝突攪拌法によると、連続生産が可能になる。よって、衝突攪拌法は、大量生産に好適である。また、衝突攪拌法によると、機械的に攪拌する方法と比較して、混合するごとに必要であった容器の洗浄工程が不要となり、歩留まりも向上する。よって、製造コストを低減することができる。
【0045】
衝突攪拌法では、熱伝導性フィラーが予め配合されたポリオール原料、ポリイソシアネート原料を、各々、高圧発泡装置のミキシングヘッドに設けられた噴射孔から高圧で噴射させて衝突させる。仮に、熱伝導性フィラーの大きさが、噴射孔の孔径よりも大きいと、熱伝導性フィラーの接触により、噴射孔に傷が付きやすい。これにより、ミキシングヘッドの耐久性が低下するおそれがある。また、熱伝導性フィラーの大きさが大きい程、熱伝導性フィラーが、ポリオール原料等において沈降しやすくなる。このため、均一な混合が難しい。よって、衝突攪拌法を採用する場合には、熱伝導性フィラーの最大長さは、ポリオール原料およびポリイソシアネート原料が噴射される噴射孔の孔径よりも、小さいことが望ましい。こうすることで、ミキシングヘッドに対する負荷を低減し、高圧発泡装置の高寿命化を図ることができる。また、熱伝導性フィラーの沈降が抑制されると共に、ポリオール原料等における粘度の上昇も低減することができる。例えば、熱伝導性フィラーの最大長さは、500μm以下であることが望ましい。
【0046】
(2)発泡成形工程
本工程は、先の原料混合工程にて得られた混合原料を発泡型のキャビティ内に注入し、該キャビティ内の磁束密度が略均一になるように磁場をかけながら発泡成形する工程である。
【0047】
磁場は、熱伝導性フィラーを配向させる方向に形成すればよい。例えば、熱伝導性フィラーを直線状に配向させる場合、発泡型のキャビティ内の磁力線が、キャビティの一端から他端に向かって略平行になるよう形成することが望ましい。このような磁場を形成するためには、例えば発泡型を挟むように、発泡型の一端および他端の両面近傍に磁石を配置すればよい。磁石には、永久磁石または電磁石を用いればよい。電磁石を用いると、磁場形成のオン、オフを瞬時に切り替えることができ、磁場の強さの制御が容易である。よって、発泡成形を制御しやすい。
【0048】
また、磁場を構成する磁力線は閉ループを形成していることが望ましい。こうすることで、磁力線の漏洩が抑制され、キャビティ内に安定した磁場を形成することができる。なお、発泡型の外部に配置した磁石により、発泡型の内部に磁場を形成させるには、発泡型としては透磁率の低い材質、つまり非磁性の材質のものを使用するとよい。例えば、通常ポリウレタンの発泡成形に使用されるアルミニウムやアルミニウム合金製の発泡型であれば問題ない。この場合、電磁石等の磁力源から発生する磁場、磁力線が影響を受けにくく、磁場状態のコントロールがしやすい。ただし、必要とする磁場、磁力線の状態に応じて適宜、磁性材料からなる発泡型を使用してもよい。
【0049】
本工程において、磁場は、キャビティ内の磁束密度が略均一になるように形成される。例えば、キャビティ内の磁束密度の差が、±10%以内であるとよい。±5%以内、さらには±3%以内であるとより好適である。発泡型のキャビティ内に一様な磁場を形成することで、熱伝導性フィラーの偏在を抑制することができ、所望の配向状態を得ることができる。また、発泡成形は、150mT以上350mT以下の磁束密度で行うとよい。こうすることで、混合原料中の熱伝導性フィラーを、確実に配向させることができる。
【0050】
磁場は、発泡ウレタン樹脂原料の粘度が比較的低い間にかけられることが望ましい。発泡ウレタン樹脂原料が増粘し、発泡成形がある程度終了した時に磁場をかけると、熱伝導性フィラーが配向しにくいため、所望の熱伝導性を得ることが難しい。なお、発泡成形を行う時間のすべてにおいて磁場をかける必要はない。
【0051】
本工程にて発泡成形が終了した後、脱型して、本発明のウレタン発泡成形体を得る。この際、発泡成形の仕方により、ウレタン発泡成形体の一端および他端の少なくとも一方に、表皮層が形成される。当該表皮層は、用途に応じて切除してもよい(勿論切除しなくてもよい)。
【実施例】
【0052】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0053】
(1)熱伝導性
<複合粒子の製造>
次のようにして、二種類の複合粒子を製造した。まず、熱伝導性粒子としての天然黒鉛粉末(日本黒鉛工業(株)製「F♯2」、薄片状、平均粒子径130μm、熱伝導率250W/m・K)と、磁性粒子としてのステンレス鋼粉末(大同特殊鋼(株)製「DAP410L」、SUS410、球状、平均粒子径10μm)と、バインダーとしてのヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株)製「TC−5」)と、を準備した。次に、天然黒鉛粉末、ステンレス鋼粉末、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースを、高速攪拌型混合造粒機((株)奈良機械製作所製「NMG−1L」)の容器内へ投入して、約3分間混合した。天然黒鉛粉末とステンレス鋼粉末との配合割合は、体積比で6:4とした。また、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの配合割合は、天然黒鉛粉末およびステンレス鋼粉末の合計質量を100質量%とした場合の、2質量%とした。その後、水を添加して、さらに20分間混合した。得られた粉末を乾燥した後、目開き500μmの篩いにより篩い分けして、最大長さが500μm以下の粒子を回収した。このようにして、実施例1の複合粒子を製造した。
【0054】
また、磁性粒子としての上記ステンレス鋼粉末を、次のようにして扁平化した粉末(薄片状、平均粒子径20μm)に変更した以外は、上記同様にして、実施例2の複合粒子を製造した。すなわち、ステンレス鋼粉末(同上)を、遊星ボールミル(Gokin Planetaring社製「Planet−M」)に、直径5mmのジルコニア製ボールと共に充填して、300rpmで1時間、処理を行った。
【0055】
製造した実施例1、2の複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。図1に、実施例1の複合粒子のSEM写真を示す(倍率200倍)。図2に、実施例2の複合粒子のSEM写真を示す(倍率200倍)。図1、2に示すように、いずれの複合粒子においても、天然黒鉛粒子の表面に、ステンレス鋼粒子が付着していることが確認できた。
【0056】
<ウレタン発泡成形体の製造>
[実施例1、2]
製造した二種類の複合粒子を、各々、熱伝導性フィラーとして配合して、ウレタン発泡成形体を製造した。まず、発泡ウレタン樹脂原料を、次のようにして調製した。ポリオール成分のポリエーテルポリオール(住化バイエルウレタン(株)製「S−0248」、平均分子量6000、官能基数3、OH価28mgKOH/g)100質量部と、架橋剤のジエチレングリコール(三菱化学(株)製)2質量部と、発泡剤の水2質量部と、テトラエチレンジアミン系触媒(花王(株)製「カオーライザー(登録商標)No.31」)1質量部と、シリコーン系整泡剤(東レ・ダウコーニング(株)製「SZ−1313」)0.5質量部と、を混合して、ポリオール原料を調製した。調製したポリオール原料に、ポリイソシアネート成分のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(BASFINOACポリウレタン(株)製「NE1320B」、NCO=44.8wt%)を加えて混合し、発泡ウレタン樹脂原料とした。ここで、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との配合比(PO:ISO)は、両者の合計質量を100%として、PO:ISO=78.5:21.5とした。
【0057】
次に、調製した発泡ウレタン樹脂原料に、実施例1、2の複合粒子を各々混合して、二種類の混合原料を調製した。実施例1の複合粒子については、製造するウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の3.89体積%となるように、実施例2の複合粒子については、3.42体積%となるように、各々配合した。
【0058】
続いて、各混合原料を、アルミニウム製の発泡型(後述する図3、図4参照。キャビティは直径100mm×厚さ20mmの円筒形。)に注入し、密閉した。続いて、発泡型を第一磁気誘導発泡成形装置に設置して、発泡成形を行った。図3に、第一磁気誘導発泡成形装置の斜視図を示す。図4に、同装置の断面図を示す。図3、図4に示すように、第一磁気誘導発泡成形装置1は、一対の電磁石部2U、2Dと、ヨーク部3と、を備えている。
【0059】
電磁石部2Uは、芯部20Uとコイル部21Uとを備えている。芯部20Uは、強磁性体製であって、上下方向に延びる円柱状を呈している。コイル部21Uは、芯部20Uの外周面に配置されている。コイル部21Uは、芯部20Uの外周面に巻装された導線210Uにより、形成されている。導線210Uは、電源(図略)に接続されている。
【0060】
電磁石部2Dは、発泡型4を挟んで、上記電磁石部2Uの下方に配置されている。電磁石部2Dは、上記電磁石部2Uと同様の構成を備えている。すなわち、電磁石部2Dは、芯部20Dとコイル部21Dとを備えている。コイル部21Dは、芯部20Dの外周面に巻装された導線210Dにより、形成されている。導線210Dは、電源(図略)に接続されている。
【0061】
ヨーク部3は、C字状を呈している。ヨーク部3のC字上端は、電磁石部2Uの芯部20U上端に接続されている。一方、ヨーク部3のC字下端は、電磁石部2Dの芯部20D下端に接続されている。
【0062】
発泡型4は、上型40Uと下型40Dとを備えている。発泡型4は、電磁石部2Uの芯部20Uと電磁石部2Dの芯部20Dとの間に、介装されている。上型40Uは、角柱状を呈している。上型40Uの下面には、円筒状の凹部が形成されている。同様に、下型40Dは、角柱状を呈している。下型40Dの上面には、円筒状の凹部が形成されている。上型40Uと下型40Dとは、互いの凹部の開口同士が向き合うように配置されている。上型40Uと下型40Dとの間には、上記凹部同士が合体することにより、キャビティ41が区画されている。キャビティ41には、前述したように、混合原料が充填されている。
【0063】
導線210Uに接続された電源および導線210Dに接続された電源を、共にオンにすると、上方の電磁石部2Uの芯部20Uの上端がS極に、下端がN極に磁化される。このため、芯部20Uに、上方から下方に向かって磁力線L(図4に点線で示す)が発生する。また、下方の電磁石部2Dの芯部20Dの上端がS極に、下端がN極に磁化される。このため、芯部20Dに、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。また、芯部20U下端はN極であり、芯部20D上端はS極である。このため、芯部20Uと芯部20Dとの間には、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。以上説明したように、電磁石部2U、2D間には、上方から下方に向かって磁力線Lが発生する。下方の電磁石部2Dの芯部20D下端から放射された磁力線Lは、ヨーク部3を通って、上方の電磁石部2Uの芯部20U上端に流入する。このように、磁力線Lは閉ループを構成するため、磁力線Lの漏洩を抑制することができる。
【0064】
前述したように、発泡型4は、芯部20Uと芯部20Dとの間に介装されている。このため、発泡型4のキャビティ41内には、上方から下方に向かって略平行な磁力線Lにより一様な磁場が形成されている。具体的には、キャビティ41内の磁束密度は、約200mTであった。また、キャビティ41内における磁束密度の差は、±3%以内であった。発泡型4を第一磁気誘導発泡成形装置1に設置した後、最初の約2分間は、磁場をかけながら発泡成形を行った。続く約5分間は、磁場をかけないで、発泡成形を行った。発泡成形が終了した後、脱型して、円柱状のウレタン発泡成形体を得た。得られたウレタン発泡成形体を、複合粒子(熱伝導性フィラー)の番号と対応させて、実施例1、2のウレタン発泡成形体とした。両ウレタン発泡成形体の断面を、目視で観察したところ、熱伝導性フィラーが互いに連接して配向していた。
【0065】
[比較例]
実施例1の複合粒子の製造に使用した天然黒鉛粉末(熱伝導性粒子)と、ステンレス鋼粉末(球状の磁性粒子)と、を複合化せずに、各々単体として配合した点以外は、上記実施例1、2と同様にして、ウレタン発泡成形体を製造した。天然黒鉛粉末については、製造するウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の2.34体積%、ステンレス鋼粉末については、1.78体積%、となるように配合した。得られたウレタン発泡成形体を、比較例のウレタン発泡成形体とした。
【0066】
<熱伝導率の測定>
製造した実施例1、2および比較例のウレタン発泡成形体の熱伝導率を測定した。熱伝導率は、JIS R2616(2001)に準拠した熱線法(プローブ法)により測定した。測定には、京都電子工業(株)製「QTM−D3」を使用した。図5に、各ウレタン発泡成形体における熱伝導率の測定結果を示す。図5中、各曲線は、フィラーを配合しない場合(配合量0体積%)のウレタン発泡成形体の熱伝導率(約0.04W/mK)と、実施例等の各ウレタン発泡成形体の熱伝導率と、を結んだ近似曲線である。各ウレタン発泡成形体の熱伝導率は、実施例1については0.204W/mK(熱伝導性フィラーの配合量3.89体積%)、実施例2については0.207W/mK(同配合量3.42体積%)、比較例については0.198W/mK(天然黒鉛粉末およびステンレス鋼粉末の合計配合量4.12体積%)であった。
【0067】
図5に示すように、同じフィラーの配合量において比較すると、実施例1、2のウレタン発泡成形体の熱伝導率は、比較例のウレタン発泡成形体の熱伝導率よりも、大きくなることがわかる。すなわち、実施例1、2のウレタン発泡成形体によると、より少量のフィラーにより、熱伝導性が向上することがわかる。特に、複合粒子に薄片状の磁性粒子を用いた実施例2のウレタン発泡成形体によると、熱伝導性フィラーの配合量が少ないにも関わらず、熱伝導率が大きくなった。この理由は、磁性粒子と熱伝導性粒子との接触面積が大きくなったこと、および隣接する熱伝導性粒子間の距離が短くなったこと、により、隣接する複合粒子間における熱伝導性が向上したためと考えられる。
【0068】
(2)難燃性
<複合粒子の製造>
次のようにして、A〜Dの四種類の複合粒子を製造した。
【0069】
[複合粒子A]
熱伝導性粒子として、膨張黒鉛粉末(三洋貿易(株)から購入した「SYZR502FP」)、および天然黒鉛粉末(同上)を用い、磁性粒子として、ステンレス鋼粉末(同上)を用いて、複合粒子を製造した。まず、膨張黒鉛粉末と、天然黒鉛粉末と、ステンレス鋼粉末と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(同上)と、を高速攪拌型混合造粒機(同上)の容器内へ投入して、約3分間混合した。次に、水を添加して、さらに20分間混合した。得られた粉末を乾燥して、複合粒子Aを得た。なお、使用した材料の配合割合については、下記表1に示す(以下の複合粒子B〜Dについても同じ)。
【0070】
[複合粒子B]
磁性粒子、バインダーの配合割合を、各々変更した以外は、上記複合粒子Aと同様にして、複合粒子Bを製造した。
【0071】
[複合粒子C]
膨張黒鉛粉末を用いずに、複合粒子Cを製造した。すなわち、天然黒鉛粉末、ステンレス鋼粉末、およびバインダーを用いて、上記複合粒子Aと同様にして、複合粒子Cを製造した。熱伝導性粒子として膨張黒鉛粒子を含まないという点において、複合粒子Cは、上記実施例1の複合粒子と同じである。
【0072】
[複合粒子D]
天然黒鉛粉末を用いずに、複合粒子Dを製造した。すなわち、膨張黒鉛粉末、ステンレス鋼粉末、およびバインダーを用いて、上記複合粒子Aと同様にして、複合粒子Dを製造した。
【表1】

【0073】
<ウレタン発泡成形体の製造>
[実施例3]
製造した複合粒子Aを熱伝導性フィラーとして用いて、ウレタン発泡成形体を製造した。複合粒子Aのうち、膨張黒鉛粒子を熱伝導性粒子とする粒子は50質量%、天然黒鉛粒子を熱伝導性粒子とする粒子は50質量%である。まず、ポリエーテルポリオール(同上)100質量部と、架橋剤のジエチレングリコール(同上)2質量部と、発泡剤の水2質量部と、テトラエチレンジアミン系触媒(同上)1.5質量部と、シリコーン系整泡剤(同上)0.5質量部と、を混合して、ポリオール原料を調製した。また、ポリイソシアネート原料として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(同上)を準備した。
【0074】
次に、ポリオール原料100質量部に、複合粒子A129.7質量部を添加、混合して、プレミックスポリオールを調製した。続いて、プレミックスポリオール100.6gと、ポリイソシアネート原料13.7gと、を混合して、混合原料とした。
【0075】
それから、混合原料を、アルミニウム製の発泡型(後述する図6、図7参照。キャビティは縦130mm×横130mm×厚さ20mmの直方体。)に注入し、発泡型を密閉した。そして、発泡型を第二磁気誘導発泡成形装置に設置して、発泡成形を行った。図6に、第二磁気誘導発泡成形装置の斜視図を示す。図7に、同装置の断面図を示す。図7においては、説明の便宜上、ヨーク部および芯部のハッチングを省略して示す。図6、図7に示すように、第二磁気誘導発泡成形装置5は、架台6と、電磁石部7と、発泡型8と、を備えている。
【0076】
電磁石部7は、架台6の上面に載置されている。電磁石部7と架台6とは、各々にブラケット61をねじ止めすることにより、固定されている。電磁石部7は、ヨーク部70U、70Dと、コイル部71L、71Rと、ポールピース72U、72Dと、を備えている。
【0077】
ヨーク部70Uは、鉄製であり、平板状を呈している。ヨーク部70Dも同様に、鉄製であり、平板状を呈している。ヨーク部70U、70Dは、上下方向に対向して配置されている。
【0078】
コイル部71Lは、ヨーク部70U、70Dの間に介装されている。コイル部71Lは、発泡型8の左側に配置されている。コイル部71Lは、上下方向に二つ重ねて配置されている。コイル部71Lは、各々、芯部710Lと導線711Lとを備えている。芯部710Lは、鉄製であって、上下方向に延びる柱状を呈している。導線711Lは、芯部710Lの外周面に巻装されている。導線711Lは、電源(図略)に接続されている。
【0079】
コイル部71Rは、ヨーク部70U、70Dの間に介装されている。コイル部71Rは、発泡型8の右側に配置されている。コイル部71Rは、上下方向に二つ重ねて配置されている。コイル部71Rは、各々、コイル部71Lと同様の構成を備えている。すなわち、コイル部71Rは、芯部710Rと導線711Rとを備えている。導線711Rは、芯部710Rの外周面に巻装されている。導線711Rは、電源(図略)に接続されている。
【0080】
ポールピース72Uは、鉄製であり、平板状を呈している。ポールピース72Uは、ヨーク部70Uの下面中央に配置されている。ポールピース72Uは、ヨーク部70Uと発泡型8との間に介装されている。ポールピース72Dは、鉄製であり、平板状を呈している。ポールピース72Dは、ヨーク部70Dの上面中央に配置されている。ポールピース72Dは、ヨーク部70Dと発泡型8との間に介装されている。
【0081】
発泡型8は、コイル部71Lとコイル部71Rとの間に、配置されている。発泡型8は、上型80Uと下型80Dとを備えている。上型80Uは、角柱状を呈している。上型80Uの下面には、凹部が形成されている。同様に、下型80Dは、角柱状を呈している。下型80Dの上面には、凹部が形成されている。上型80Uと下型80Dとは、互いの凹部の開口同士が向き合うように配置されている。上型80Uと下型80Dとの間には、上記凹部同士が合体することにより、直方体状のキャビティ81が区画されている。キャビティ81には、上述したように、混合原料が充填されている。
【0082】
導線711Lに接続された電源および導線711Rに接続された電源を、共にオンにすると、コイル部71Lの芯部710Lの上端がN極に、下端がS極に磁化される。このため、芯部710Lに、下方から上方に向かって磁力線L(図7に点線で示す)が発生する。同様に、コイル部71Rの芯部710Rの上端がN極に、下端がS極に磁化される。このため、芯部710Rに、下方から上方に向かって磁力線Lが発生する。
【0083】
コイル部71Lの芯部710L上端から放射された磁力線Lは、ヨーク部70U、ポールピース72Uを通って、発泡型8のキャビティ81内に流入する。その後、ポールピース72D、ヨーク部70Dを通って、芯部710L下端に流入する。同様に、コイル部71Rの芯部710R上端から放射された磁力線Lは、ヨーク部70U、ポールピース72Uを通って、発泡型8のキャビティ81内に流入する。その後、ポールピース72D、ヨーク部70Dを通って、芯部710R下端に流入する。このように、磁力線Lは閉ループを構成するため、磁力線Lの漏洩は抑制される。また、発泡型8のキャビティ81内には、上方から下方に向かって略平行な磁力線Lにより一様な磁場が形成される。具体的には、キャビティ81内の磁束密度は、約200mTであった。また、キャビティ81内における磁束密度の差は、±3%以内であった。
【0084】
発泡成形は、最初の約2分間は磁場をかけながら行い、続く約5分間は磁場をかけないで行った。発泡成形が終了した後、脱型して、ウレタン発泡成形体を得た。得られたウレタン発泡成形体を、実施例3のウレタン発泡成形体とした。実施例3のウレタン発泡成形体において、熱伝導性フィラー(複合粒子A)の含有量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の4体積%であった。
【0085】
[実施例4]
製造した複合粒子Bを熱伝導性フィラーとして用いて、ウレタン発泡成形体を製造した。複合粒子Bのうち、膨張黒鉛粒子を熱伝導性粒子とする粒子は50質量%、天然黒鉛粒子を熱伝導性粒子とする粒子は50質量%である。まず、上記実施例3で使用したポリオール原料100質量部に、複合粒子B261.5質量部と、可塑剤20質量部と、を添加、混合して、プレミックスポリオールを調製した。次に、プレミックスポリオール381gと、上記実施例3で使用したポリイソシアネート原料15.1gと、を混合して、混合原料とした。そして、混合原料を発泡型(同上)に注入し、発泡型を密閉して、上記実施例3と同様に、磁場中で発泡成形を行った。得られたウレタン発泡成形体を、実施例4のウレタン発泡成形体とした。実施例4のウレタン発泡成形体において、熱伝導性フィラー(複合粒子B)の含有量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の19.3体積%であった。
【0086】
[実施例5]
製造した複合粒子Dを熱伝導性フィラーとして用いて、ウレタン発泡成形体を製造した。複合粒子Dを構成する熱伝導性粒子は、全て膨張黒鉛粒子である。まず、上記実施例3で使用したポリオール原料100質量部に、複合粒子D129.7質量部を添加、混合して、プレミックスポリオールを調製した。次に、プレミックスポリオール100.6gと、上記実施例3で使用したポリイソシアネート原料13.7gと、を混合して、混合原料とした。そして、混合原料を発泡型(同上)に注入し、発泡型を密閉して、上記実施例3と同様に、磁場中で発泡成形を行った。得られたウレタン発泡成形体を、実施例5のウレタン発泡成形体とした。実施例5のウレタン発泡成形体において、熱伝導性フィラー(複合粒子D)の含有量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の4体積%であった。
【0087】
[参考例]
製造した複合粒子Cを熱伝導性フィラーとして用いて、ウレタン発泡成形体を製造した。複合粒子Cを構成する熱伝導性粒子は、全て天然黒鉛粒子である。まず、上記実施例3で使用したポリオール原料100質量部に、複合粒子C129.7質量部を添加、混合して、プレミックスポリオールを調製した。次に、プレミックスポリオール100.6gと、上記実施例3で使用したポリイソシアネート原料13.7gと、を混合して、混合原料とした。そして、混合原料を発泡型(同上)に注入し、発泡型を密閉して、上記実施例3と同様に、磁場中で発泡成形を行った。得られたウレタン発泡成形体を、参考例のウレタン発泡成形体とした。参考例のウレタン発泡成形体において、熱伝導性フィラー(複合粒子C)の含有量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の4体積%であった。
【0088】
<難燃性の評価>
実施例および参考例の各ウレタン発泡成形体について、難燃性を評価した。難燃性の評価は、米国のUnderwriters Laboratories,Inc.により制定された燃焼試験規格(UL94)に基づいて、行った。そして、「V−0」の判定基準を満たした場合を合格(表2中○印で示す)、満たさなかった場合を不合格(表2中×印で示す)と評価した。評価結果を、各ウレタン発泡成形体における原料の配合量と共に、表2に示す。
【表2】

【0089】
表2に示すように、実施例の各ウレタン発泡成形体については、UL94のV−0基準をクリアした。一方、熱伝導性粒子として膨張黒鉛粒子を含まない参考例のウレタン発泡成形体は、V−0基準の難燃性を達成することはできなかった。このように、熱伝導性粒子として膨張黒鉛粒子を用いた場合、本発明のウレタン発泡成形体は、磁性粒子を含有していても、難燃性に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のウレタン発泡成形体は、自動車、電子機器、建築等の幅広い分野において用いることができる。また、放熱性に加えて、高い難燃性を要求される用途にも用いることができる。例えば、路面の凹凸に起因する騒音を低減するための防音タイヤ、エンジンの騒音を低減するために車両のエンジンルームに配置されるエンジンカバーやサイドカバー、OA(Office Automation)機器や家電製品のモーター用吸音材、パソコン等の電子機器の放熱性吸音材、家屋の内外壁用吸音材、太陽光発電システムのパワーコンディショナ用リアクトルに用いられる防振材等に好適である。
【符号の説明】
【0091】
1:第一磁気誘導発泡成形装置
2U、2D:電磁石部 20U、20D:芯部 21U、21D:コイル部 210U、210D:導線 3:ヨーク部 4:発泡型 40U:上型 40D:下型 41:キャビティ
5:第二磁気誘導発泡成形装置
6:架台 61:ブラケット 7:電磁石部 70D、70U:ヨーク部 71L、71R:コイル部 72D、72U:ポールピース 710L、710R:芯部 711L、711R:導線 8:発泡型 80U:上型 80D:下型 81:キャビティ
L:磁力線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材中に配合され互いに連接して配向している熱伝導性フィラーと、を有し、
該熱伝導性フィラーは、非磁性体からなる熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面に付着された磁性粒子と、を有する複合粒子からなることを特徴とするウレタン発泡成形体。
【請求項2】
前記磁性粒子は、薄片状を呈している請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項3】
前記磁性粒子は、鉄、ニッケル、コバルト、およびこれらの鉄系合金から選ばれる一種以上からなる請求項1または請求項2に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項4】
前記磁性粒子の平均粒子径は、1μm以上である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のウレタン発泡成形体。
【請求項5】
前記熱伝導性粒子の平均粒子径は、500μm以下である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のウレタン発泡成形体。
【請求項6】
前記複合粒子は、攪拌造粒法により製造されており、
前記熱伝導性粒子と前記磁性粒子とは、バインダーにより接着されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のウレタン発泡成形体。
【請求項7】
前記熱伝導性粒子は、黒鉛からなる請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のウレタン発泡成形体。
【請求項8】
前記複合粒子における前記黒鉛と前記磁性粒子との体積割合は、7:3〜5:5である請求項7に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項9】
前記熱伝導性粒子は、膨張黒鉛粒子を含む請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のウレタン発泡成形体。
【請求項10】
前記熱伝導性粒子は、さらに膨張黒鉛以外の黒鉛粒子を含む請求項9に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項11】
前記膨張黒鉛粒子の含有量は、ウレタン発泡成形体全体の質量を100質量%とした場合の5質量%以上である請求項9または請求項10に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項12】
前記複合粒子の表面は、絶縁層で被覆されている請求項1ないし請求項11のいずれかに記載のウレタン発泡成形体。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれかに記載のウレタン発泡成形体の製造方法であって、
発泡ウレタン樹脂原料と、前記熱伝導性フィラーと、を混合して混合原料とする原料混合工程と、
該混合原料を発泡型のキャビティ内に注入し、該キャビティ内の磁束密度が略均一になるように磁場をかけながら発泡成形する発泡成形工程と、
を有することを特徴とするウレタン発泡成形体の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−225833(P2011−225833A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65476(P2011−65476)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000219668)東海化成工業株式会社 (39)
【Fターム(参考)】