説明

ウレタン製マウント部材の製造方法、およびウレタン製マウント部材

【課題】優れた耐久性を有するウレタン製マウント部材の製造方法、およびウレタン製マウント部材を提供すること。
【解決手段】ウレタン製マウント部材の製造方法において、熱可塑性ポリウレタン組成物を加熱により溶融状態とする溶融工程と、溶融状態の熱可塑性ポリウレタン組成物に超臨界状態の非反応性ガスを混合し、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物とする溶解工程と、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を金型に射出成形する射出成形工程と、を含むものとし、溶解工程での非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を160〜240℃の範囲内とし、射出成形工程での金型温度を20〜50℃の範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のサスペンションにおいて好適に使用され、優れた耐久性を有するウレタン製マウント部材の製造方法、およびウレタン製マウント部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のサスペンションにおいては、車体と車輪との間に生ずる変位量を弾性的に規制するために、弾性体で構成されたマウント部材を備えたマウント装置が配設されており、かかる弾性体としてはゴムが一般的に使用されている。しかし、近年においては、マウント装置の軽量化や、マウント部材が圧縮変形する際に発生する異音防止などの観点から、かかる弾性体として発泡ポリウレタンが使用される傾向がある。
【0003】
一般的に発泡ポリウレタンは、ポリエステル系ポリオールと、ポリイソシアネートと、発泡剤と、を含有する組成物を原料とし、発泡・硬化させることにより得られる。しかし、ポリエステル系ポリオールを必須成分として合成された発泡ポリウレタンをマウント部材として使用した場合、走行時などにおける水の付着や、空気中の水分の影響で、発泡ポリウレタンが経時的に加水分解を受ける傾向があった。その結果、発泡ポリウレタンの弾性的な特性が悪化する、さらには破損するなどにより、マウント装置の耐久性が悪化する傾向があった。
【0004】
下記特許文献1では、マウント部材を構成する発泡ウレタンとして、ポリエステル系ポリオールと、ポリイソシアネートと、発泡剤と、に加えて、フッ素系撥水剤を必須成分とする発泡性組成物を発泡・硬化させて得られた発泡ポリウレタンで構成されたマウント部材が記載されている。このマウント部材を構成する発泡ポリウレタンは、必須成分としてフッ素系撥水剤を使用する点が最大の特徴であり、このような構成により、かかる特許文献1に記載の発明では、発泡ポリウレタンの耐加水分解性を向上し、ひいてはマウント装置の耐久性を向上することを目的としている。しかしながら、かかる特許文献1に記載の発泡ウレタンは、そのスキン層が極めて薄いことから、依然として加水分解を受け易く、ウレタン製マウント部材の耐久性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−293697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた耐久性を有するウレタン製マウント部材の製造方法、およびウレタン製マウント部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために、発泡ポリウレタンのスキン層の厚みと、発泡ポリウレタンの耐加水分解性との関係につき鋭意検討したところ、スキン層の厚みが薄いと発泡ポリウレタンは加水分解を受け易く、耐加水分解性が悪化することにより、その耐久性も悪化する傾向があることを見出した。本発明は、上記の検討の結果なされたものであり、下記の如き構成により上述の目的を達成するものである。
【0008】
即ち、本発明に係るウレタン製マウント部材の製造方法は、熱可塑性ポリウレタン組成物を加熱により溶融状態とする溶融工程と、溶融状態の前記熱可塑性ポリウレタン組成物に超臨界状態の非反応性ガスを混合し、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物とする溶解工程と、前記非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を金型に射出成形する射出成形工程と、を含むウレタン製マウント部材の製造方法であって、前記溶解工程での前記非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を160〜240℃の範囲内とし、前記射出成形工程での前記金型温度を20〜50℃の範囲内とすることを特徴とする。
【0009】
上記ウレタン製マウント部材の製造方法では、溶解工程での非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を160〜240℃の範囲内に調整しつつ、これを20〜50℃の範囲内に調整された金型に射出成形する。これにより、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物中の非反応性ガスが気化することで、熱可塑性ポリウレタン組成物が発泡するとともに、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物が金型内で急速に冷却され、十分な厚みを有するスキン層を備えた発泡ポリウレタンで構成されたウレタン製マウント部材、具体的には、厚みが50μm〜150μm、好ましくは100〜150μmであるスキン層を備え、耐加水分解性が向上した発泡ポリウレタンで構成されたウレタン製マウント部材を製造することができる。その結果、上記ウレタン製マウント部材の製造方法では、耐久性を向上したウレタン製マウント部材を製造することができる。
【0010】
ここで、本発明において発泡ポリウレタンの「スキン層の厚み」とは、以下の方法により測定するものとする。
a)発泡ポリウレタンを、その表面に対して垂直に、鋭利な刃物で裁断した裁断面における算術平均粗さ(以下、「Ra」という)を、発泡ポリウレタン表面から垂直方向(厚み方向)に10μm間隔で、表面から1.5mm厚み位置まで順次測定する。Raは、非接触高速3次元形状測定システム(MAP−3D(コムス社製))を用いて、任意の厚み位置にて発泡ポリウレタン表面と平行に1mm長の断面形状にて測定(n=5)し、平均化することにより算出する。
b)発泡ポリウレタン表面から1.5mm厚み位置でのRaを測定する(この測定値を「基準Ra」とする)。
c)発泡ポリウレタン表面から垂直方向(厚み方向)に10μm間隔(厚み位置10μm、20μm・・・)で測定したRaが、0.3×(基準Ra)以下である厚み位置の中で、サンプル表面から最も離れた厚み位置までの厚みをスキン層の厚みとする。
【0011】
上記ウレタン製マウント部材の製造方法において、前記熱可塑性ポリウレタン組成物に対する前記非反応性ガスの混合量が0.01〜5重量%であることが好ましい。かかる製造方法によれば、所望の密度を有する発泡ポリウレタン、具体的には密度が0.4〜0.8である発泡ポリウレタンが得られることから、発泡ポリウレタンのスキン層の厚みを、容易に50μm〜150μmとすることができ、より確実に耐久性を向上したウレタン製マウント部材を製造することができる。
【0012】
上記ウレタン製マウント部材の製造方法において、前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、ポリエーテル系ポリオール、ポリラクトン系ポリオールおよびポリカーボネート系ポリオールの少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートとを必須成分として合成された熱可塑性ポリウレタンを含有するものであることが好ましい。一般的にポリエーテル系ポリオール、ポリラクトン系ポリオールまたはポリカーボネート系ポリオールを使用して発泡ポリウレタンを製造する場合、成形性が著しく低下するなどの難点がある。しかし、かかる製造方法によれば、成形性を低下することなく発泡ポリウレタンを製造することができ、かつアジペート系ポリオールを使用した発泡ポリウレタンに比べて、その耐加水分解性を向上することができる。その結果、かかる製造方法では、より耐久性を向上したウレタン製マウント部材を製造することができる。
【0013】
また、本発明に係るウレタン製マウント部材は、溶融状態の熱可塑性ポリウレタン組成物に超臨界状態の非反応性ガスを混合して得られる非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を、金型に射出成形することにより得られる発泡ポリウレタンで構成されたウレタン製マウント部材であって、前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、ポリエーテル系ポリオール、ポリラクトン系ポリオールおよびポリカーボネート系ポリオールの少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートとを必須成分として合成された熱可塑性ポリウレタンを含有するものであり、前記発泡ポリウレタンのスキン層の厚みが50μm〜150μmであることを特徴とする。
【0014】
上記ウレタン製マウント部材は、スキン層の厚みが50μm〜150μmであって、耐加水分解性が向上した発泡ポリウレタンで構成されているため、非常に耐久性に優れるものである。発泡ポリウレタンの耐加水分解性をより向上し、ウレタン製マウント部材の耐久性を特に向上するためには、発泡ポリウレタンの独泡率は70〜98%であることが好ましく、75〜95%であることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)耐久性の評価方法を表した図、(b)耐久性評価サンプルの形状を表した図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るウレタン製マウント部材の製造方法は、熱可塑性ポリウレタン組成物を加熱により溶融状態とする溶融工程と、溶融状態の熱可塑性ポリウレタン組成物に超臨界状態の非反応性ガスを混合し、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物とする溶解工程と、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を金型に射出成形する射出成形工程と、を含む。以下、各工程について射出成形により製造する例により説明する。
【0017】
(溶融工程)
まず、溶融工程において熱可塑性ポリウレタン組成物を加熱により溶融状態とする。具体的には、熱可塑性ポリウレタン組成物を、ホッパーなどより、射出成形機の樹脂溶融シリンダー内に送入し、熱可塑性ポリウレタン組成物の融点あるいは可塑化温度以上の温度、具体的には160〜240℃の温度にて加熱することにより溶融状態とする。
【0018】
熱可塑性ポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンと、必要に応じて他の熱可塑性樹脂とを含有する。熱可塑性ポリウレタンは、ポリエーテル系ポリオール、ポリラクトン系ポリオールおよびポリカーボネート系ポリオールの少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートとを必須成分として合成される。
【0019】
ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなどが挙げられる。ポリラクトン系ポリオールとしては、ポリカプロラクトングリコール、ポリプロピオラクトングリコール、ポリバレロラクトングリコールなどが挙げられる。ポリカーボネート系ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオールなどの多価アルコールと、ジエチレンカーボネート、ジプロピレンカーボネートなどとの脱アルコール反応により得られるポリオールが挙げられる。これらのポリエーテル系ポリオール、ポリラクトン系ポリオールまたはポリカーボネート系ポリオールは、単独で、あるいは2種以上のポリオールを混合して使用することができる。
【0020】
ポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジメチルジフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独で、あるいは2種以上のポリイソシアネートを混合して使用することができる。
【0021】
熱可塑性ポリウレタンは、上記必須成分に加えて、任意成分として他のポリオール、鎖延長剤などを含有する組成物から合成されたものであってもよい。但し、発泡ポリウレタンの耐加水分解性を向上し、ウレタン製マウント部材の耐久性を向上するためには、ポリエステル系ポリオールを含有しない組成物から合成されたものであることが好ましい。
【0022】
鎖延長剤としては、両末端に活性水素を有する2官能性鎖延長剤を使用する。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルオクタンジオール、1,9−ノナンジオールなどの脂肪族ジオール類;1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール類;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ヒドロキノン、レゾルシン、クロロヒドロキノン、ブロモヒドロキノン、メチルヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、フェノキシヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルサルファイド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビスフェノールA、1,1−ジ(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)エタン、1,4−ジヒドロキシナフタリン、2,6−ジヒドロキシナフタリンなどの芳香族ジオールなどが挙げられる。これらの鎖延長剤は、単独で、あるいは2種以上の鎖延長剤を混合して使用することができる。
【0023】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリブテン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。熱可塑性樹脂を熱可塑性ポリウレタンとともに使用する場合、ポリウレタンの特性を良好に維持するためには、熱可塑性ポリウレタン100重量部に対して、熱可塑性樹脂の含有量は20重量部以下であることが好ましく、10重量部以下であることがより好ましい。
【0024】
熱可塑性ポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンと、他の熱可塑性樹脂とに加えて、必要に応じて可塑剤、分散剤、相溶化剤、架橋剤、架橋助剤、プロセスオイル、顔料、酸化防止剤、補強材、着色剤、整泡剤、加水分解防止剤などを含有してもよい。
【0025】
(溶解工程)
つぎに、溶解工程において溶融状態の熱可塑性ポリウレタン組成物に超臨界状態の非反応性ガスを混合し、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物とする。具体的には、射出成形機の樹脂溶融シリンダー内にて溶融状態に保たれた熱可塑性ポリウレタン組成物に、超臨界状態の窒素ガス、二酸化炭素ガスなどの非反応性ガスを混合し、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物とする。例えば、超臨界状態の非反応性ガスは、液化(または気化)状態の非反応性ガスを貯蔵するボンベより定量ポンプに注入され、該定量ポンプ内で昇圧され、射出成形機の樹脂溶融シリンダー内にて溶融状態に保たれた熱可塑性ポリウレタン組成物に混合される。このとき、樹脂溶融シリンダー内に存在する非反応性ガスが超臨界状態であると、溶融状態の熱可塑性ポリウレタン組成物に対する溶解拡散効果が大幅に高まり、短時間で溶融状態にある熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物中に浸透する。溶解工程において、射出成形機の樹脂溶融シリンダー内の設定温度は、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度を160〜240℃の範囲内とするために、165〜245℃とすることが好ましい。
【0026】
溶解工程において、熱可塑性ポリウレタン組成物に対する非反応性ガスの混合量は0.01〜5重量%であることが好ましく、0.05〜3重量%であることがより好ましい。かかる製造方法によれば、所望の密度を有する発泡ポリウレタン、具体的には密度が0.4〜0.8である発泡ポリウレタンが得られることから、発泡ポリウレタンのスキン層の厚みを、容易に50μm〜150μmとすることができ、より確実に耐久性を向上したウレタン製マウント部材を製造することができる。
【0027】
(射出成形工程)
つぎに、射出成形工程において、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を金型に射出成形する。具体的には、射出成形機の樹脂溶融シリンダー内に存在する非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を、例えば射出プランジャーを備える射出装置に送入し、かかる射出装置にて計量した後、金型内に射出する。本発明に係る製造方法においては、射出成形工程における非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の射出量と、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物中の非反応性ガスの混合量とを調整することにより、任意の密度および発泡倍率を有する発泡ウレタンを製造することができる。
【0028】
本発明においては、溶解工程での非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を160〜240℃の範囲内とし、射出成形工程での金型温度を20〜50℃の範囲内とすることを特徴とする。これにより、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物中の非反応性ガスが気化することで、熱可塑性ポリウレタン組成物が発泡するとともに、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物が金型内で急速に冷却され、十分な厚みを有するスキン層を備えた発泡ポリウレタンで構成されたウレタン製マウント部材、具体的には、厚みが50μm〜150μm、好ましくは100〜150μmであるスキン層を備え、耐加水分解性が向上した発泡ポリウレタンで構成されたウレタン製マウント部材を製造することができる。その結果、上記ウレタン製マウント部材の製造方法では、耐久性を向上したウレタン製マウント部材を製造することができる。
【0029】
射出成形工程での金型温度が20℃未満であると、金型に射出された非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の流動性が悪化し、得られる発泡ポリウレタンのスキン層表面が荒れたり、発泡ポリウレタンにてボイドが発生する傾向がある。一方、射出成形工程での金型温度が50℃を超えると、発泡ポリウレタンのスキン層厚みが薄くなる傾向がある。発泡ポリウレタンのスキン層の厚みをより確実に所望の範囲内に調整するためには、射出成形工程での金型温度を30〜45℃の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
上述した製造方法により製造されるウレタン製マウント部材は、スキン層の厚みが50μm〜150μmであって、耐加水分解性が向上した発泡ポリウレタンで構成されているため、非常に耐久性に優れるものである。発泡ポリウレタンの耐加水分解性をより向上し、ウレタン製マウント部材の耐久性を特に向上するためには、発泡ポリウレタンの独泡率は70〜98%であることが好ましく、75〜95%であることがより好ましい。本発明においては、ウレタン製マウント部材として、所望の形状を有する発泡ポリウレタンとなるように金型を設計することにより、容易にウレタン製マウント部材を製造することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、発泡ポリウレタンの諸物性の評価は、以下のようにして行った。
【0032】
(1)独泡率
発泡ポリウレタンを、スキン層を含まないように20×20×25mmのサンプル形状にて切り出し、空気比較式比重計930型(ベックマン社製)を使用して測定した。独泡率は、測定で得たカウンター値と、サンプル容積値とに基づき、以下の式より算出した。
(独泡率(%))=100×(カウンター値)/(サンプル容積値)
【0033】
(2)含水率
発泡ポリウレタンを、スキン層を含まないように20×20×25mmのサンプル形状にて切り出し、かかるサンプルの重量を測定した後、24時間水中に浸漬させた。その後、水中から取り出し、サンプル表面の水滴をふき取って重量を測定した。水中への浸漬前後での重量に基づき、以下の式より算出した。
(含水率(%))=100×((浸漬後重量)−(浸漬前重量))/(浸漬前重量)
【0034】
(3)耐加水分解性(湿熱劣化による引張強度保持率の半減期)
発泡ポリウレタンサンプル(100×50×3mmのスキン層を含まないシート形状)を、温度80℃/湿度95%の恒温恒湿槽内にて、168時間(1週間)、504時間(3週間)、1008時間(6週間)、2016時間(12週間)、3024時間(18週間)、4032時間(24週間)養生し、その後恒温恒湿槽から取り出して、引張試験をJIS K−7312に準じてダンベル状試験片に2号形を用いて行い、引張強度を測定した。恒温恒湿槽で養生前のサンプルで測定した引張強度に対する養生後のサンプルの引張強度の保持率を算出して、横軸に養生時間、縦軸に引張強度保持率のグラフを作成し、その曲線において引張強度保持率が50%となるときの養生時間(引張強度保持率の半減期)を読み取った。なお、4032時間養生後の引張強度保持率が50%超の場合は、半減期を「4000時間以上」とする。発泡ポリウレタンの引張強度保持率の半減期が長時間であるほど、耐加水分解性を有する発泡ポリウレタンであることを意味する。
【0035】
(4)耐久性(湿熱劣化後の静的バネ定数変化率)
図1に示すとおり、予め静的バネ定数を測定したリング状発泡ポリウレタンサンプル1(形状:外径R1=55mm、内径R2=33mm、高さH=18mm;図1(b))2個(1セット)を、内筒2を挟み込みつつ外筒3内に設置し、温度80℃/湿度95%の恒温恒湿槽内にて168時間(1週間)養生し、その後恒温恒湿槽から取り出して、荷重±4900N、加振周波数2Hzで1万回振動を与えた時の静的バネ定数を測定した。なお、静的バネ定数Ksは、所定荷重をかけた状態から常温にて、JIS K6385に準拠して、静的特性試験の両方向負荷方式において、変位速度10mm/分で±4900Nの範囲の撓みを3回負荷し、3回目の負荷過程での荷重−撓みの関係を測定し、この関係を用いて同規格に記載の計算方法により、撓み範囲=±980Nで算出される。養生前の静的バネ定数と養生及び振動1万回後の静的バネ定数に基づき、以下の式より算出した。
(湿熱劣化後の静的バネ定数変化率(%))
=100×((養生及び振動1万回後の静的バネ定数)−(養生前の静的バネ定数))/(養生前の静的バネ定数)
【0036】
参考比較例1
ポリエステル系ポリオールであるポリエチレンアジペートポリエステルポリオール(「ポリライトODX−2402」、大日本インキ化学工業社製)85重量部と、ナフタレンジイソシアネート(「コスモネートND」、(三井化学ポリウレタン社製)25重量部とを予め反応させてNCO末端プレポリマーを合成した。次に、このNCO末端プレポリマーに、ポリエチレンアジペートポリエステルポリオール(「ポリライトODX−2402」、大日本インキ化学工業社製)15重量部と発泡剤(水)2重量部とを加えて撹拌した後、その混合物を75℃に設定した金型内に注入した。注入20分後、脱型して更にポストキュアを行って、発泡ポリウレタンを製造した。かかる発泡ポリウレタンを使用して、上記特性評価を行った結果を表1に示す。
【0037】
実施例1
ポリテトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよびジフェニルメタンジイソシアネートを含有する組成物から合成された熱可塑性ポリウレタン(「E380」、日本ポリウレタン工業社製)を、90℃にて5時間以上乾燥させた。この熱可塑性ポリウレタンを、MuCell型射出成形機(日本製鋼所社製)のホッパーから樹脂溶融シリンダー内に送入して溶融し(溶融工程)、さらに超臨界状態の窒素ガス(非反応性ガス)を、熱可塑性ポリウレタン組成物に対して0.1重量%となるように樹脂溶融シリンダー内に送入して混合し、窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物とした(溶解工程)。溶解工程における樹脂溶融シリンダー内の設定温度は200℃に設定し、このときの窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度は195℃であった。さらに、195℃の窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を、40℃に設定した金型内に射出成形し、5分間放置後に金型より脱型して発泡ポリウレタンを製造した。かかる発泡ポリウレタンを使用して、上記特性評価を行った結果を表1に示す。
【0038】
実施例2
熱可塑性ポリウレタンとして、ポリテトラメチレングリコール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンおよびジフェニルメタンジイソシアネートを含有する組成物から合成された熱可塑性ポリウレタン(「XST−021」、三井化学ポリウレタン社製)を使用し、溶解工程における樹脂溶融シリンダー内の設定温度を220℃に設定した(このときの窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度は215℃)以外は、実施例1と同様の方法により発泡ポリウレタンを製造した。かかる発泡ポリウレタンを使用して、上記特性評価を行った結果を表1に示す。
【0039】
実施例3
熱可塑性ポリウレタンとして、ポリテトラメチレングリコール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンおよびジフェニルメタンジイソシアネートを含有する組成物から合成された熱可塑性ポリウレタン(「ESTANE−58881」、Lubrizol社製)を使用し、溶解工程における窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度が195℃である以外は、実施例1と同様の方法により発泡ポリウレタンを製造した。かかる発泡ポリウレタンを使用して、上記特性評価を行った結果を表1に示す。
【0040】
実施例4
熱可塑性ポリウレタンとして、ポリヘキサメチレンカーボネートポリオールおよびジフェニルメタンジイソシアネートを含有する組成物から合成された熱可塑性ポリウレタン(「E980」、日本ポリウレタン社製)を使用し、溶解工程における窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度が195℃である以外は、実施例1と同様の方法により発泡ポリウレタンを製造した。かかる発泡ポリウレタンを使用して、上記特性評価を行った結果を表1に示す。
【0041】
比較例1
熱可塑性ポリウレタンとして、ポリテトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよびジフェニルメタンジイソシアネートを含有する組成物から合成された熱可塑性ポリウレタン(「E380」、日本ポリウレタン工業社製)を使用し、溶解工程における樹脂溶融シリンダー内の設定温度を200℃に設定し(このときの窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度は195℃)、射出工程における金型温度を80℃に設定した以外は、実施例1と同様の方法により発泡ポリウレタンを製造した。かかる発泡ポリウレタンを使用して、上記特性評価を行った結果を表1に示す。
【0042】
比較例2
熱可塑性ポリウレタンとして、ポリテトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよびジフェニルメタンジイソシアネートを含有する組成物から合成された熱可塑性ポリウレタン(「E380」、日本ポリウレタン工業社製)を使用し、溶解工程における樹脂溶融シリンダー内の設定温度を200℃に設定し(このときの窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度は195℃)、射出工程における金型温度を0℃に設定した以外は、実施例1と同様の方法により発泡ポリウレタンを製造した。かかる発泡ポリウレタンを使用して、上記特性評価を行った結果を表1に示す。
【0043】
比較例3
熱可塑性ポリウレタンとして、ポリテトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよびジフェニルメタンジイソシアネートを含有する組成物から合成された熱可塑性ポリウレタン(「E380」、日本ポリウレタン工業社製)を使用し、溶解工程における樹脂溶融シリンダー内の設定温度を145℃に設定し(このときの窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度は140℃)、射出工程における金型温度を40℃に設定した以外は、実施例1と同様の方法により発泡ポリウレタンの製造を試みたが、射出圧異常(高射出圧)となったため、製造できなかった。
【0044】
比較例4
熱可塑性ポリウレタンとして、ポリテトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよびジフェニルメタンジイソシアネートを含有する組成物から合成された熱可塑性ポリウレタン(「E380」、日本ポリウレタン工業社製)を使用し、溶解工程における樹脂溶融シリンダー内の設定温度を265℃に設定し(このときの窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度は260℃)、射出工程における金型温度を40℃に設定した以外は、実施例1と同様の方法により発泡ポリウレタンを製造した。かかる発泡ポリウレタンを使用して、上記特性評価を行った結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果から、実施例1〜3の発泡ポリウレタンは、いずれも耐加水分解性および耐久性に優れることがわかる。一方、参考比較例1の発泡ポリウレタンは、実施例1〜4の発泡ポリウレタンに比べて、スキン層の厚みが極端に薄く、耐加水分解性が著しく悪化し、かつ耐久性も悪化した。また、比較例1の発泡ポリウレタンは、実施例1〜4の発泡ポリウレタンに比べてスキン層の厚みが薄いため、耐加水分解性が悪化し、かつ耐久性も悪化した。次に、比較例2の発泡ポリウレタンは、スキン層表面荒れとボイド発生という成形不良を生じ、かつボイドの影響により耐久性が著しく悪化した。なお、比較例4の発泡ポリウレタンは、窒素ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物の温度が高すぎるため、ポリウレタン樹脂の劣化による変色が発生した。加えて、耐加水分解性が悪化し、かつ耐久性も悪化した。
【符号の説明】
【0047】
1:リング状発泡ポリウレタンサンプル
2:内筒
3:外筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタン組成物を加熱により溶融状態とする溶融工程と、溶融状態の前記熱可塑性ポリウレタン組成物に超臨界状態の非反応性ガスを混合し、非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物とする溶解工程と、前記非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を金型に射出成形する射出成形工程と、を含むウレタン製マウント部材の製造方法であって、
前記溶解工程での前記非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を160〜240℃の範囲内とし、前記射出成形工程での前記金型温度を20〜50℃の範囲内とすることを特徴とするウレタン製マウント部材の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタン組成物に対する前記非反応性ガスの混合量が0.01〜5重量%である請求項1に記載のウレタン製マウント部材の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、ポリエーテル系ポリオール、ポリラクトン系ポリオールおよびポリカーボネート系ポリオールの少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートとを必須成分として合成された熱可塑性ポリウレタンを含有するものである請求項1または2に記載のウレタン製マウント部材の製造方法。
【請求項4】
溶融状態の熱可塑性ポリウレタン組成物に超臨界状態の非反応性ガスを混合して得られる非反応性ガス溶解熱可塑性ポリウレタン組成物を、金型に射出成形することにより得られる発泡ポリウレタンで構成されたウレタン製マウント部材であって、
前記熱可塑性ポリウレタン組成物が、ポリエーテル系ポリオール、ポリラクトン系ポリオールおよびポリカーボネート系ポリオールの少なくとも1種のポリオールと、ポリイソシアネートとを必須成分として合成された熱可塑性ポリウレタンを含有するものであり、
前記発泡ポリウレタンのスキン層の厚みが50μm〜150μmであることを特徴とするウレタン製マウント部材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−201868(P2010−201868A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52346(P2009−52346)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】