説明

エアバッグ用ポリエステル原糸及びその製造方法

本発明は、エアバッグ用織物に使用可能なポリエステル原糸に関し、特に、常温で測定されたポリエステル原糸の1.0g/d応力時の伸率が0.5%以上であり、4.0g/d応力時の伸率が4.3%以上であり、7.0g/d応力時の伸率が7.5%以上であり、前記ポリエステル原糸の初期モジュラスが40乃至100g/dである、エアバッグ用ポリエステル原糸、その製造方法、及びこれから製造されたエアバッグ用織物に関する。
本発明のポリエステル原糸は、剛軟度を顕著に低くし、優れた機械的物性を確保することによって、エアバッグ用織物に使用される時に優れた収納性、形態安定性、及び空気遮断効果を提供すると同時に、搭乗者に加えられる衝撃を最小化して、搭乗者を安全に保護することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用織物に使用可能なポリエステル原糸に関し、より詳細には、優れた機械的物性、形態安定性、収納性などの特性を有する高強力低モジュラスのポリエステル原糸及びその製造方法、これを利用したエアバッグ用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エアバッグ(air bag)は、走行中の車両が約40km/h以上の速度で正面衝突する時に、車両に加えられる衝突衝撃を衝撃センサーで感知した後、火薬を爆発させてエアバッグの内部にガスを供給して膨張させることによって、運転者及び搭乗者を保護する装置であり、一般的なエアバッグシステムの構造は、図1に示した通りである。
【0003】
図1に示されたように、一般的なエアバッグシステムは、雷管122の点火によってガスを発生させるインフレータ(inflator)121、その発生したガスによって運転席の運転者側に膨張展開するエアバッグ124からなり、操向ホイール101に装着されるエアバッグモジュール100、衝突時に衝撃信号を発生させる衝撃センサー130、及びその衝撃信号によってインフレータ121の雷管122を点火させる電子制御モジュール(Electronic Control Module)110を含んで構成されている。このように構成されたエアバッグシステムは、車両が正面衝突すると、衝撃センサー130で衝撃を感知して、電子制御モジュール110に信号を伝達する。この時、これを認識した電子制御モジュール110は、雷管122を点火させて、インフレータ121の内部のガス発生剤を燃焼させる。このように燃焼するガス発生剤は、急速なガスの発生によってエアバッグ124を膨張させる。このように膨張して展開したエアバッグ124は、運転者の前面上体と接触して、衝突による衝撃荷重を部分的に吸収し、運転者の頭と胸が慣性によって前方に押し出されて膨張して展開したエアバッグ124と衝突する場合、エアバッグ124の内部のガスは、エアバッグ124に形成された排出孔から急速に排出されて、運転者の前面に対して緩衝作用をするようになる。したがって、前面衝突時に運転者に加えられる衝撃を効果的に緩衝させることによって、2次傷害を軽減させることができるようになる。
【0004】
前記のように、自動車に使用されるエアバッグは、一定の形態に製造された後、その体積を最小化するために折り畳まれた状態で自動車のハンドルや自動車の側面ガラス窓または側面構造物などに装着されて、折り畳まれた状態を維持し、インフレータ121の作動時にエアバッグが膨張して展開されるようにする。
【0005】
したがって、自動車への装着時に、エアバッグのホールディング性及びパッケージ性を効果的に維持し、エアバッグそのものの損傷及び破裂を防止して、優れたエアバッグクッションの展開性能を発揮し、搭乗者に加えられる衝撃を最小化するためには、エアバッグ織物の優れた機械的物性と共に、ホールディング性及び搭乗者に加えられる衝撃を減少させるための柔軟性が非常に重要である。しかし、搭乗者の安全のために優れた空気遮断効果及び柔軟性を同時に維持し、エアバッグが受ける衝撃に十分に耐えて、自動車内に効果的に装着されて使用されるエアバッグ用織物は提案されていないのが現状である。
【0006】
従来は、ナイロン66などのポリアミド繊維がエアバッグ用原糸の材料として使用されていた。しかし、ナイロン66は、耐衝撃性は優れているが、ポリエステル繊維に比べて耐湿熱性、耐光性、形態安定性の側面で性能が低く、原料費用も高い短所がある。
【0007】
一方、特許文献1には、このような欠点を軽減させることができるポリエステル繊維の使用が提案されている。しかし、このように既存のポリエステル原糸を使用してエアバッグを製造する場合には、高いモジュラスによって自動車への装着時に狭い空間に収納するのが難しく、高温高湿の苛酷な条件下で十分な機械的物性及び展開性能を維持するのに限界があった。
【0008】
したがって、エアバッグ用織物に使用するのに適するように、優れた形態安定性及び空気遮断効果を維持し、搭乗者に加えられる衝撃を減少させるための柔軟性、収納性、及び高温高湿の苛酷な条件下で優れた機械的物性を維持する繊維原糸の開発に対する研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平04−214437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、エアバッグ用織物に使用可能なように優れた形態安定性及び柔軟性、収納性を確保して、高温高湿の苛酷な条件下で十分な性能を維持する、エアバッグ用ポリエステル原糸を提供する。
【0011】
本発明は、また、前記ポリエステル原糸を製造する方法を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記ポリエステル原糸を使用して製造されるエアバッグ用織物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明は、常温で、1.0g/d応力時に伸率が0.5%以上であり、4.0g/d応力時に伸率が4.3%以上であり、7.0g/d応力時に伸率が7.5%以上であり、前記ポリエステル原糸の初期モジュラスが40乃至100g/dである、エアバッグ用ポリエステル原糸を提供する。
【0014】
本発明は、また、固有粘度が0.85dl/g以上のポリエステル重合体を270乃至300℃で溶融紡糸してポリエステル未延伸糸を製造する段階、及び前記ポリエステル未延伸糸を延伸する段階を含む、前記エアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法を提供する。
【0015】
本発明は、また、前記ポリエステル原糸を使用して製造されるエアバッグ用織物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、初期モジュラス及び伸率などが所定の範囲に最適化されて、機械的物性、柔軟性、及びホールディング性が優れたエアバッグ用織物を製造することができるエアバッグ用ポリエステル原糸が提供される。
このようなエアバッグ用ポリエステル原糸は、低モジュラス、高強力、高伸率に最適化されることによって、エアバッグ用織物に使用される時に、優れた形態安定性、機械的物性、空気遮断効果を達成することができるだけでなく、優れたホールディング性及び柔軟性を確保することができて、自動車への装着時に収納性を顕著に改善し、搭乗者に加えられる衝撃を最小化して、搭乗者を安全に保護することができる。
したがって、本発明のポリエステル原糸及びこれを利用したポリエステル織物は、車両用エアバッグの製造などに非常に好ましく使用される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一般的なエアバッグシステムを示した図面である。
【図2】本発明の一実施態様によるエアバッグ用ポリエステル原糸の製造工程を模式的に示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の具体的な実施態様によるエアバッグ用ポリエステル原糸及びその製造方法、これから製造されるエアバッグ用織物について、より詳細に説明する。しかし、これは、本発明の一例として提示されるものであって、本発明の権利範囲がこれによって限定されるのではなく、発明の権利範囲内で実施態様が多様に変形可能であることは当業者に自明である。
【0019】
追加的に、本明細書全体においては、特別な言及がない限り、「含む」または「含有する」という表現は、ある構成要素(または構成成分)を特別な制限なく含むことを意味し、他の構成要素(または構成成分)の付加を除外するものと解釈されない。
ポリエステルエアバッグ用織物は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETとする)を含む重合体を溶融紡糸して未延伸糸を製造し、これを延伸して延伸糸(つまり、原糸)を製造した後、このような工程によって製造されたポリエステル原糸を製織加工して製造される。したがって、前記ポリエステル原糸の特性がポリエステルエアバッグ用織物の物性に直/間接的に反映される。
【0020】
特に、従来のナイロン66などのポリアミド繊維の代わりにポリエステルをエアバッグ用原糸に適用するためには、既存のポリエステル原糸の高いモジュラスや剛軟度などによるホールディング性の低下及び低い溶融熱容量による高温高湿の苛酷な条件下での物性の低下、これに伴う展開性能の低下を克服しなければならない。
【0021】
ポリエステルは、分子の構造上、ナイロンなどに比べて剛軟性(stiffness)の高い構造からなり、高いモジュラス(high modulus)の特性を有する。これによって、エアバッグ用織物として使用して自動車に装着する場合、収納性(packing)が顕著に低下するようになる。また、ポリエステル分子鎖内のカルボキシル末端基(Carboxyl End Group、以下、CEGとする)は、高温高湿条件でエステル基(ester bond)を攻撃して、分子鎖の切断をもたらし、エイジング後の物性を低下させる原因となる。
【0022】
それによって、本発明は、ポリエステル原糸における初期モジュラス及び伸率などの物性の範囲を最適化することによって、剛軟度を顕著に低くして、強靱性(タフネス(toughness))などの優れた機械的物性及び空気遮断性能などを維持することができ、エアバッグ用織物に効果的に適用することができる。
【0023】
特に、本発明者の実験の結果、所定の特性のポリエステル原糸からエアバッグ用織物を製造することにより、より向上したホールディング性、形態安定性、及び空気遮断効果を示し、エアバッグ用織物として使用する時に、自動車への装着などにおいてより優れた収納性(packing)及び高温高湿の苛酷な条件下でも優れた機械的物性、空気流出防止、気密性などを維持することができることが明らかになった。
【0024】
発明の一実施態様により、本発明は、所定の特性のポリエステル原糸が提供される。このようなポリエステル原糸は、常温で測定された原糸の1.0g/d応力での伸率が0.5%以上であり、4.0g/d応力での伸率が4.3%以上であり、7.0g/d応力での伸率が7.5%以上であり、前記ポリエステル原糸の初期モジュラスが40乃至100g/dである。
【0025】
このようなポリエステル原糸は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分として含むのが好ましい。この時、前記PETは、その製造段階で多様な添加剤が添加されるが、エアバッグ用織物に適した物性を示すためには、少なくとも70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む原糸である。以下で、PETという用語は、特別な説明なくPET高分子が70モル%以上である場合を意味する。
【0026】
前記本発明の一実施態様によるポリエステル原糸は、後述する溶融紡糸及び延伸条件下で製造され、初期モジュラスが40乃至100g/dであり、常温で測定された原糸が1.0g/dの応力では0.5%以上伸び、4.0g/dの応力では4.3%以上伸び、7.0g/dの応力では7.5%以上伸びる特性を示す。
【0027】
一般に、ポリエステルは、分子の構造上、ナイロンなどに比べて剛軟性(stiffness)の高い構造からなり、これによって高いモジュラスの特性を示し、エアバッグ用織物に使用する時に、ホールディング性及びパッキング性(packing)が顕著に低下して、自動車の狭い空間に収納するのが難しい。しかし、調節された溶融紡糸及び延伸工程によって製造された前記ポリエステル原糸は、高強力低モジュラスの特性を示し、従来から知られたポリエステル産業用原糸より低い初期モジュラス、つまり40乃至100g/d、好ましくは50乃至100g/d、より好ましくは55乃至95g/dの初期モジュラスを示す。この時、前記ポリエステル原糸のモジュラスは、引張試験時に得られる応力変形度線図の弾性区間の傾きから得られる弾性係数の物性値であって、物体を両側から引っ張る時に物体の伸びる程度及び変形程度を示す弾性率に相当する値である。また、原糸の初期モジュラスは、応力変形度においてほぼ「0」点以降に弾性区間が始まる地点での弾性係数の物性値である。前記原糸の初期モジュラスが高いと、弾性は好ましいが、織物の剛軟度(stiffness)が低下し、初期モジュラスが非常に低いと、織物の剛軟度は好ましいが、弾性回復力が低下して、織物の強靭性が低下する。しかし、本発明のポリエステル原糸は、初期モジュラスが従来のポリエステル産業用原糸よりはるかに低い範囲に最適化されたものである。このように、既存のものに比べて低い範囲の初期モジュラスを示すポリエステル原糸から製造されたエアバッグ用織物は、既存のポリエステル織物の高い剛軟度(stiffness)の問題などを解決して、優れたホールディング性、柔軟性、及び収納性を示す。
【0028】
前記ポリエステル原糸は、また、低い初期モジュラスと共に最小化された延伸を示す。これによって、前記ポリエステル原糸は、常温で1.0g/dの応力では0.5%以上または0.5%乃至1.5%、好ましくは0.7%乃至1.2%伸び、4.0g/dの応力では4.3%以上または4.3%乃至20%、好ましくは4.3%乃至15%伸び、7.0g/dの応力では7.5%以上または7.5%乃至25%、好ましくは7.5%乃至20%伸びる。このような特性により、前記ポリエステル原糸から製造されたエアバッグ用織物は、既存のポリエステル織物の高い剛軟度(stiffness)の問題などを解決して、優れたホールディング性、柔軟性、及び収納性を示す。
【0029】
これと同時に、前記ポリエステル原糸は、従来から知られたポリエステル原糸に比べてより向上した固有粘度、つまり0.8dl/g以上または0.8dl/g乃至1.2dl/g、好ましくは0.85dl/g乃至1.15dl/g、より好ましくは0.90dl/g乃至1.10dl/gの固有粘度を示す。固有粘度は、前記ポリエステル原糸をエアバッグに適用する時に、コーティング工程などで熱的変形が発生しないようにするために前記範囲に維持されるのが好ましい。
【0030】
前記原糸の固有粘度が0.8dl/g以上である場合に、低延伸で高強力を発揮して、エアバッグ原糸に要求される強力を満たすことができるので好ましく、そうでない場合には、高延伸で物性を発現しなければならなくなる。このように、高延伸を適用する場合、繊維配向度が上昇して、高いモジュラスの物性を示すようになる。したがって、前記原糸の固有粘度を0.8dl/g以上に維持して、低延伸を適用して、低モジュラスが発現可能になるようにするのが好ましい。また、原糸の粘度が1.2dl/gを超過して延伸する場合には、延伸張力が上昇して、工程上の問題が発生することがあるので、1.2dl/g以下であるのがより好ましい。特に、本発明のポリエステル原糸は、このように高い固有粘度を維持することによって、低延伸で低い剛軟度を提供すると同時に、エアバッグ用織物に十分な機械的物性及び耐衝撃性、タフネス(toughness)などを提供する高強力特性がさらに与えられる。
【0031】
したがって、このような低い初期モジュラス及び高い伸率、好ましくは高い固有粘度を示すポリエステル原糸を利用して、優れた機械的物性及び収納性、形態安定性、耐衝撃性、空気遮断効果を同時に示すエアバッグ用織物が製造可能になる。したがって、前記ポリエステル原糸を利用すれば、より低い剛軟度及びホールディング性、柔軟性、収納性を示して、優れた耐衝撃性、形態安定性、機械的物性、気密性を示すエアバッグ用織物が製造される。このようなエアバッグ用ポリエステル織物は、優れた機械的物性、形態安定性、空気遮断効果を示して、自動車の狭い空間に装着する時に、優れたホールディング性、収納性を提供すると同時に、優れた柔軟性で搭乗者に加えられる衝撃を最小化して、搭乗者を安全に保護することができるので、エアバッグ用織物などに好ましく適用される。
【0032】
また、本発明のポリエステル原糸は、後述する溶融紡糸及び延伸条件下で製造されて、従来から知られたポリエステル原糸に比べて非常に低いカルボキシル末端基(CEG)含有量を示すことができる。つまり、前記ポリエステル原糸は、50meq/kg以下、好ましくは40meq/kg以下、より好ましくは30meq/kg以下のCEG含有量を示すことができる。ポリエステル分子鎖内のカルボキシル末端基(CEG)は、高温高湿条件でエステル基(esterbond)を攻撃して分子鎖の切断をもたらし、これによってエイジング(aging)後の物性を低下させる。特に、前記CEG含有量が50meq/kgを超過するようになると、エアバッグに適用する時に、高湿条件下でCEGによってエステル結合が切断されて物性の低下が引き起こされるので、前記CEG含有量は50meq/kg以下であるのが好ましい。
【0033】
一方、前記本発明の一実施態様によるポリエステル原糸は、引張強度が6.5g/d以上または6.5g/d乃至11.0g/d、好ましくは7.5g/d以上または7.5g/d乃至10.0g/dであり、切断伸度が13%以上または13%乃至35%、好ましくは15%以上または15%乃至25%である。また、前記原糸は、乾熱収縮率が10.0%以下または2.0%乃至10.0%、好ましくは2.2%以下または2.2%乃至10.0%であり、タフネス値が30×10−1g/d以上または30×10−1g/d乃至46×10−1g/d、好ましくは31×10−1g/d以上または31×10−1g/d乃至44×10−1g/dである。前記のように、固有粘度及び初期モジュラス、伸率の範囲を最適な範囲に維持することによって、本発明のポリエステル原糸は、優れた強度及び物性を確保することができるだけでなく、エアバッグ用織物に製造する時に、優れた性能を発揮することができる。
【0034】
また、本発明のポリエステル原糸は、一般的なコーティング織物のラミネートコーティング温度に相当する150℃での収縮応力が0.005乃至0.075g/dであるのが好ましく、一般的なコーティング織物のゾルコーティング温度に相当する200℃での収縮応力が0.005乃至0.075g/dであるのが好ましい。つまり、前記150℃及び200℃での収縮応力が各々0.005g/d以上である場合に、コーティング工程中の熱による織物の傾き現象を防止することができ、0.075g/d以下である場合に、コーティング工程を経て常温で冷却される時に、弛緩応力を緩和させることができる。前記収縮応力は、0.10g/dの固定荷重下で測定した値を基準にした。
【0035】
以上のようにコーティングなどの熱処理工程での変形を防止するためには、前記ポリエステル原糸は、また、結晶化度が40%乃至55%であり、好ましくは41%乃至52%、より好ましくは41%乃至50%である。前記原糸の結晶化度は、エアバッグ用織物に適用する時に、熱的形態安定性の維持などのために40%以上であるのが好ましく、前記結晶化度が55%を超過する場合には、非結晶領域の減少によって衝撃吸収性能が低下する問題が発生することがあるので、55%以下であるのが好ましい。
【0036】
また、前記ポリエステル原糸は、単糸繊度が0.5乃至20デニール、好ましくは2.0乃至10.5デニールである。前記ポリエステル原糸がエアバッグ用織物に効果的に使用されるためには、収納性の側面から低繊度高強力に維持しなければならないので、適用可能な原糸の総繊度は200乃至1,000デニール、好ましくは220乃至840デニール、より好ましくは250乃至600デニールである。また、前記原糸のフィラメント数が多いほどソフトな感触を与えることができるが、多すぎる場合には紡糸性が低いので、フィラメント数は50乃至240、好ましくは55乃至220、より好ましくは60乃至200である。
【0037】
一方、前記のような発明の一実施態様によるポリエステル原糸は、ポリエステル重合体、例えばPETチップを溶融紡糸して未延伸糸を製造し、前記未延伸糸を延伸する方法で製造され、前記のような各段階の具体的な条件や進行方法がポリエステル原糸の物性に直/間接的に反映されて、前記物性のポリエステル原糸が製造される。
【0038】
特に、このような工程の最適化によって、初期モジュラスが40乃至100g/dであり、常温で1.0g/dの応力では0.5%以上伸び、4.0g/dの応力では4.3%以上伸び、7.0g/dの応力では7.5%以上伸びるエアバッグ用ポリエステル原糸を確保することができることが明らかになった。また、本発明において、このような溶融紡糸及び延伸工程の最適化によって、高湿条件下で酸で存在して、ポリエステル原糸の基本分子鎖の切断を誘発するカルボキシル末端基(CEG、Carboxyl End Group)を最小化することができることが明らかになった。したがって、このようなポリエステル原糸は、低い初期モジュラス及び高い伸率を同時に示して、優れた機械的物性及び収納性、形態安定性、耐衝撃性、空気遮断効果を有するエアバッグ用織物に好ましく適用される。
【0039】
このようなポリエステル原糸の製造方法を、各段階別により具体的に説明する。
前記エアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法は、固有粘度が0.85dl/g以上のポリエステル重合体を270乃至300℃で溶融紡糸してポリエステル未延伸糸を製造する段階、及び前記ポリエステル未延伸糸を延伸する段階を含む。
まず、添付した図面を参照して、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施することができるように、本発明の溶融紡糸及び延伸工程の実施形態を簡略に説明する。
【0040】
図2は本発明の一実施態様による前記溶融紡糸及び延伸段階を含むポリエステル原糸の製造工程を模式的に示した工程図である。図2のように、本発明のエアバッグ用ポリエステル原糸の製造方式は、前記のような方式で製造されたポリエステル重合体を溶融させて口金によって紡糸した溶融高分子を急冷空気(quenching−air)で冷却し、油剤ロール120(またはオイルジェット)を利用して未延伸糸に油剤を付加し、前集束機(pre−interlacer)130を使用して一定の空気圧力で未延伸糸に付加された油剤を原糸の表面に均一に分散させる。その後、多段の延伸装置141〜146によって延伸工程を経た後、最終的にセカンド集束機(2nd Interlacer)150で一定の圧力で原糸をインターミングル(intermingle)し、巻取機160で巻取って、原糸を生産することができる。
【0041】
一方、本発明の製造方法は、まず、エアバッグ用織物に効果的に使用することができる高強力低モジュラスのポリエステル原糸を製造するために、高粘度のポリエステル重合体を製造して使用する。特に、前記ポリエステル重合体は、ジカルボン酸とグリコールを利用して、ポリエステルの製造時に、重縮合反応後にグリコールを追加的に投入して製造することができる。このように製造されたポリエステル重合体は、高い固有粘度と共に低いカルボキシル末端基(CEG)含有量を示すことによって、ポリエステル原糸に加工する時に、高温高湿の苛酷な条件下でエイジング後にも優れた機械的物性及び空気流出防止、気密性などを維持することができて、エアバッグ用織物に効果的に適用することができる。
【0042】
本発明の製造方法において、前記ポリエステル重合体は、a)ジカルボン酸及びグリコールをエステル反応させる段階、b)前記エステル反応によって生成されたオリゴマーを重縮合反応させる段階、及びc)前記重縮合された重合体にグリコールを追加的に添加して減圧反応させる段階を含む工程で製造することができる。
【0043】
この時、前記ジカルボン酸は、炭素数6乃至24の芳香族ジカルボン酸、炭素数6乃至24の脂環族ジカルボン酸、炭素数2乃至8のアルカンジカルボン酸、及びそのエステル形成誘導体からなる群より選択された1種以上である。より具体的には、本発明のポリエステル原糸を製造するのに使用可能なジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸など炭素数6〜24の芳香族ジカルボン酸及びそのエステル形成誘導体、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸など炭素数6〜24の脂環族ジカルボン酸、炭素数2〜6のアルカンジカルボン酸などがある。
この中でも、経済性及び完成品の物性などを考慮して、テレフタル酸を使用するのが好ましく、特に、前記ジカルボン酸として1種以上の化合物を使用する場合、テレフタル酸を70モル%以上含むものを使用するのが好ましい。
【0044】
また、前記a)及びc)段階で各々使用されるグリコールは、互いに同一または相異して、本発明において使用可能なグリコールは、炭素数2〜8のアルカンジオール、炭素数6〜24の脂環族ジオール、炭素数6〜24の芳香族ジオール、及びそのエチレンオキシドまたはプロピレンオキシド付加物からなる群より選択された1種以上がある。より具体的には、本発明のポリエステルを製造するのに使用可能なグリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなど炭素数2〜8のアルカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなど炭素数6〜24の脂環族ジオール、及びビスフェノールA、ビスフェノールSなど炭素数6〜24の芳香族ジオール、芳香族ジオールのエチレンオキシドあるいはプロピレンオキシド付加物などがある。
このようなポリエステル重合体の製造工程は、ジカルボン酸及び二価アルコールであるグリコールを反応させてエステル化するTPA(Terephthalic Acid)工法が適用される。一般的なポリエステルTPA工法は、前記ジカルボン酸及びグリコールを反応させてエステル化するエステル化反応において、触媒を使用せずに自己酸触媒反応する直接反応である。例えば、下記の反応式1に示したように、テトラフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応(esterfication)で直接的にポリエチレンテレフタレート(PET)を製造する方法がある。
【0045】
【化1】



・・・(反応式1)
【0046】
このようなTPA反応では、ジカルボン酸の不溶性及び低い反応性のために、高温を維持しなければならない。このように形成されたオリゴマーを高真空雰囲気で触媒を添加して高温で重縮合反応させて、一定の粘度のポリマーを形成する。このように形成されたポリマーをギヤポンプを利用したり高圧の不活性気体(N)を利用してノズルを通過させて排出する。このように排出されたポリマーを冷却水で固化させて適した大きさに切断する。
【0047】
前記のように、一般的なTPA工法によるポリエステルの製造時には、高温で行われるエステル化反応及び重縮合反応による熱分解の発生によってカルボキシル末端基が生成され、原料にカルボキシル末端基を含むジカルボン酸を使用するため、製造されたポリエステル最終ポリマーに多量のカルボキシル末端基が含まれるようになる。また、このように多量のカルボキシル末端基が含まれているポリエステル原糸をエアバッグ用織物に適用する場合には、前記のように、高温高湿下で酸で存在するカルボキシル末端基のために既存の分子鎖の切断が誘発されて、織物の物性が低下する。
したがって、本発明では、ポリエステル重合体の製造時に、ジカルボン酸及びグリコールの重縮合反応後にグリコールを追加的に投入して減圧反応を行うことによって、このようなカルボキシル末端基の含有量を最小化するだけでなく、このような反応によって反応性が高いヒドロキシ末端基を生成して、追加的にポリマーの分子量を増加させることができる。
【0048】
本発明において、前記ジカルボン酸及びグリコールのエステル化反応及び重縮合反応は、TPA工法として知られた通常の方法によって行うことができ、特に別途の工程条件に限定されない。
【0049】
ただし、本発明の好ましい一実施態様によれば、前記a)段階でジカルボン酸及びグリコールのモル比は1:1乃至1:1.5、好ましくは1:1.1乃至1:1.45、より好ましくは1:1.2乃至1:1.4であり、ポリマーの物性及び生産性向上の側面から反応物のモル比を前記のように維持するのが好ましい。
【0050】
前記a)段階のエステル化反応は、温度は230乃至300℃、好ましくは250乃至280℃で行うことができ、反応時間は2時間乃至7時間、好ましくは3乃至5時間で行うことができる。この時、反応時間及び反応温度は、ポリマーの物性及び生産性向上の側面から調節して行うことができる。
【0051】
また、前記b)段階の重縮合反応は、温度は280乃至310℃、好ましくは285乃至295℃で行うことができ、圧力は0乃至10Torr、好ましくは0乃至5Torrで行うことができ、反応時間は1乃至5時間、好ましくは2乃至4時間で行うことができる。この時、反応時間及び反応温度は、ポリマーの物性及び生産性向上の側面から調節して行うことができる。
【0052】
本発明では、前記重縮合反応を終えた後に、前記のようなグリコールを追加的に投入して減圧条件下で追加反応を行って、生成されたポリマーでカルボキシル末端基を封鎖すると同時に、生成されるヒドロキシ末端基を利用して、最終ポリマーの分子量を増加させることができる。
【0053】
前記c)段階で、グリコールは、前記a)段階で添加されたグリコール総量に対して0.001乃至20重量%、好ましくは0.01乃至15重量%、より好ましくは0.01乃至10重量%の含有量で追加的に投入され、ポリマーの物性及び生産性向上の側面から追加投入されるグリコールの含有量を前記範囲に維持するのが好ましい。
【0054】
また、前記グリコールの追加投入は、常圧を維持しながら行われ、グリコールの追加投入後には減圧条件で追加反応を行う。この時、前記追加反応は、1乃至10Torr、好ましくは0乃至5Torrの減圧条件下で行われ、ポリマーの物性及び生産性向上の側面から前記圧力範囲に維持するのが好ましい。
【0055】
前記c)段階は、重縮合反応後に真空を破棄して常圧を維持した直後にグリコールを追加投入し、減圧条件によって反応温度は異なる。また、グリコール追加投入反応を行う反応時間は5分乃至1時間、好ましくは5分乃至30分である。この時、反応時間及び反応温度は、ポリマーの物性及び生産性向上の側面から調節して行うことができる。
【0056】
このようにグリコールを追加的に投入して減圧反応を行った後に生成されたポリエステル重合体(chip)、つまり溶融重合ポリマーチップは、固有粘度が0.4dl/g以上または0.4乃至0.9dl/g、好ましくは0.5dl/g以上または0.5乃至0.8dl/gになるようにするのがポリマーの物性向上の側面から好ましい。
【0057】
また、必要に応じて、前記c)段階の減圧反応後に、生成されたポリエステル重合体を固体重合させる段階を追加的に含むことができる。この時、前記固体重合反応は、温度は220乃至260℃、好ましくは230乃至250℃で行うことができ、圧力は0乃至10Torr、好ましくは1.0Torr以下で行うことができ、反応時間は10乃至40時間、好ましくは30時間以内で行うことができる。この時、反応時間及び反応温度は、最終粘度及び紡糸性向上の側面から調節して行うことができる。
【0058】
このように固体重合反応を追加的に行ったポリエステル重合体は、固有粘度が0.7dl/g以上または0.7乃至2.0dl/g、好ましくは0.85dl/g以上または0.85乃至2.0dl/g、より好ましくは0.90dl/g以上または0.90dl/g乃至2.0dl/gになるようにするのが原糸の物性及び紡糸性向上の側面から好ましい。前記チップの固有粘度が0.7dl/g以上である場合に、好ましい高強力及び高伸率の特性を有する原糸を製造することができ、2.0dl/g以下である場合に、チップの溶融温度の上昇による分子鎖の切断及び紡糸パックでの圧力の増加を防止することができる。
【0059】
ただし、前記のように高強力低モジュラスのポリエステル原糸を製造するためには、未延伸糸製造工程で高粘度ポリエステル重合体、例えば固有粘度0.85dl/g以上のポリエステル重合体を使用し、溶融紡糸及び延伸工程によってこのような高粘度の範囲を最大限維持して、低延伸で高強力を発揮させ、モジュラスを効果的に低下させるのが好ましい。また、前記ポリエステル重合体の溶融温度の上昇による分子鎖の切断及び紡糸パックからの吐出量による圧力の増加を防止するためには、固有粘度が2.0dl/g以下であるのがより好ましい。
【0060】
また、ポリエステル原糸で製造してエアバッグ用織物に適用する時に、高温高湿条件下でも優れた物性を維持することができるようにするためには、前記ポリエステル重合体の分子内のCEG含有量は30meq/kg以下であるのが好ましい。ここで、前記ポリエステル重合体のCEG含有量は、溶融紡糸及び延伸工程を行った後にも最大限低い範囲に維持されて、最終製造されたポリエステル原糸が高強力及び優れた形態安定性、機械的物性、苛酷な条件下で優れた物性発現特性を確保することができるようにするのが好ましい。このような側面から、前記ポリエステル重合体のCEG含有量が30meq/kgを超過する場合には、溶融紡糸及び延伸工程によって最終製造されたポリエステル原糸の分子内のCEG含有量が過剰で、例えば30meq/kg乃至50meq/kgを超過する程度に増加して、高湿条件下でCEGによってエステル結合が切断されて、原糸そのもの及びこれから製造された織物の物性の低下が引き起こされる。
【0061】
前記ポリエステル重合体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分として含むのが好ましく、エアバッグ用原糸としての機械的物性を確保するためには、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むことができる。
一方、本発明のポリエステル原糸の製造方法は、前記高い固有粘度及び低いCEG含有量のポリエステル重合体を溶融紡糸して、ポリエステル未延伸糸を製造する。
【0062】
この時、低い初期モジュラス及び高い伸率の範囲のポリエステル未延伸糸を製造するためには、前記溶融紡糸工程は、ポリエステル重合体の熱分解を最小化することができるように低い温度範囲で行うのが好ましい。特に、高粘度のポリエステル重合体の固有粘度及びCEG含有量などに対して工程による物性の低下を最小化することができるように、つまりポリエステル重合体の高粘度及び低いCEG含有量を維持することができるように、低温紡糸、例えば270乃至300℃、好ましくは280乃至298℃、より好ましくは282乃至298℃の温度で行うことができる。ここで、紡糸温度とは、射出機(Extruder)温度を示し、前記溶融紡糸工程が300℃を超過する温度で行われる場合には、ポリエステル重合体の熱分解が多量に発生して、固有粘度の低下によって分子量の減少及びCEG含有量の増加が著しくなり、原糸の表面の損傷によって全般的な物性の低下をもたらすので好ましくない。これに反して、前記溶融紡糸工程を270℃未満の温度で行う場合には、ポリエステル重合体の溶融が難しく、N/Z表面の冷却によって紡糸性が低下するので、前記温度範囲内で溶融紡糸工程を行うのが好ましい。
【0063】
実験の結果、このような低い温度範囲でポリエステル重合体の溶融紡糸工程を行うことによって、ポリエステル重合体の分解反応を最小化し、高い固有粘度を維持して、高い分子量を確保することによって、後続する延伸工程で高い延伸比率を適用しなくても、高強力の原糸を製造することができ、このように低延伸工程を行うことができるため、モジュラスを効果的に低下させることができて、前記物性を満たすポリエステル原糸が製造されることが明らかになった。
【0064】
また、前記溶融紡糸工程は、ポリエステル重合体の分解反応を最小化する側面から、より低い紡糸張力下で行われるように、つまり紡糸張力を最小化することができるように、例えば前記ポリエステル重合体を溶融紡糸する速度を300乃至1,000m/minの低速に調節することができ、好ましくは350乃至700m/minに調節することができる。このように選択的に低い紡糸張力及び低い紡糸速度下でポリエステル重合体の溶融紡糸工程を行うことによって、ポリエステル重合体の分解反応をより最小化することができる。
【0065】
一方、このような溶融紡糸工程を経て製造された未延伸糸は、0.8dl/g以上または0.8dl/g乃至1.2dl/g、好ましくは0.85dl/g以上または0.85dl/g乃至1.15dl/g、より好ましくは0.90dl/g以上または0.90dl/g乃至1.10dl/gの固有粘度を示す。また、このように低温紡糸によって製造された未延伸糸の分子内のCEG含有量は、50meq/kg以下、好ましくは40meq/kg以下、より好ましくは30meq/kg以下である。このような未延伸糸の分子内のCEG含有量は、後続の延伸工程を行った延伸糸、つまりポリエステル原糸でも同一な水準に維持される。
【0066】
特に、このような高粘度及び低いCEG含有量のポリエステル重合体は、前記のような低温条件下で溶融紡糸を行ってポリエステル重合体の熱分解などを最大限抑制することによって、ポリエステル重合体とポリエステル原糸との固有粘度及びCEG含有量の差を最小化することができる。例えば、ポリエステル重合体とポリエステル原糸との固有粘度の差が0.5dl/g以下または0乃至0.5dl/g、好ましくは0.4dl/g以下または0.1乃至0.4dl/gになるように溶融紡糸及び後続工程を行うことができる。また、ポリエステル重合体とポリエステル原糸との分子内のCEG含有量の差が20meq/kg以下または0乃至20meq/kg、好ましくは15meq/kg以下または3乃至15meq/kgになるように工程を行うことができる。
【0067】
本発明は、このようにポリエステル重合体の固有粘度の低下及びCEG含有量の増加を最大限抑制することによって、ポリエステル原糸の優れた機械的物性を維持すると同時に、優れた伸率を確保して、エアバッグ用織物に適した高強力低モジュラス原糸を製造することができる。
【0068】
そして、前記ポリエステル重合体、例えばPETチップは、モノフィラメントの繊度が0.5乃至20デニール、好ましくは1乃至15デニールになるように考案された口金によって紡糸されるのが好ましい。つまり、紡糸中に糸切れが発生する可能性及び冷却時に相互干渉によって糸切れが発生する可能性を低くするためには、モノフィラメントの繊度が1.5デニール以上でなければならず、冷却効率を向上させるためには、モノフィラメントの繊度が15デニール以下であるのが好ましい。
【0069】
また、前記ポリエステル重合体を溶融紡糸した後には、冷却工程を付加して、前記ポリエステル未延伸糸を製造することができる。このような冷却工程は、15乃至60℃の冷却風を加える方法で行うのが好ましく、各々の冷却風の温度条件において冷却風量を0.4乃至1.5m/sに調節するのが好ましい。それによって、本発明の一実施態様による諸般の物性を示すポリエステル未延伸糸をより容易に製造することができる。
【0070】
一方、このような紡糸段階によってポリエステル未延伸糸を製造した後には、このような未延伸糸を延伸して延伸糸を製造する。この時、前記延伸工程は、5.0乃至6.0、好ましくは5.0乃至5.8の延伸比条件下で行うことができる。前記ポリエステル未延伸糸は、溶融紡糸工程を最適化して、高い固有粘度及び低い初期モジュラスを維持して、分子内のCEG含有量も最小化した状態である。したがって、6.0を越える高い延伸比条件下で前記延伸工程を行うと、過延伸水準になって、前記延伸糸に糸切れまたは毛羽などが発生し、高い繊維配向度によって低伸率高モジュラスの原糸が製造される。特に、このように高い延伸比条件下で原糸の伸率が低下してモジュラスが増加する場合、エアバッグ用織物に適用する時に、ホールディング性、収納性が低下する。反面、比較的低い延伸比条件下で延伸工程を行うと、繊維配向度が低くなり、これから製造されたポリエステル原糸の強度が一部低くなる。つまり、物性の側面から5.0以上の延伸比条件下で延伸工程を行えば、例えばエアバッグ用織物などに適用されるのに適した高強力低モジュラスのポリエステル原糸が製造可能なので、前記延伸工程は、5.0乃至6.0の延伸比条件下で行うのが好ましい。
【0071】
本発明の他の適切な実施形態によれば、直接紡糸延伸工程で高強度及び低収縮の特性を同時に満たして、低モジュラスのポリエステル原糸を製造するために、高粘度のポリエステル重合チップを使用して溶融紡糸した後、ワインダで巻取るまで多段コデットローラを経て、延伸、熱固定、弛緩、巻取工程を含むことができる。
前記延伸工程は、前記未延伸糸をオイルピックアップ量0.2%乃至2.0%の条件下でコデットローラを通過させた後に行うことができる。
【0072】
前記弛緩工程において、弛緩率は1%乃至14%であるのが好ましく、1%未満である場合には、収縮率の発現が難しく、高い延伸比条件下と同様に、高い繊維配向度の形成によって高伸率低モジュラス繊維の製造が難しくなり、14%を超過する場合には、コデットローラ上で糸もつれが著しくなって、作業性を確保することができない。
【0073】
また、前記延伸工程では、前記未延伸糸を約170乃至250℃の温度で熱処理する熱固定工程を追加的に行うことができ、好ましくは前記延伸工程の適切な進行のために、175乃至240℃、より好ましくは180乃至245℃の温度で熱処理することができる。ここで、温度が170℃未満である場合には、熱効率が十分でなく、弛緩効率が低下して、収縮率を達成するのが難しく、250℃を超過する場合には、熱分解による原糸の強度の低下及びローラ上のタールの発生が増加して、作業性が低下する。
【0074】
この時、巻取速度は2,000乃至4,000m/min、好ましくは2,500乃至3,700m/minで行うことができる。
ここで、発明のまた他の実施態様により、前記ポリエステル原糸を含むエアバッグ用ポリエステル織物が提供される。
【0075】
本発明において、エアバッグ(airbag)用織物とは、自動車用エアバッグの製造に使用される織物または不織布などを示し、前記のような工程で製造されたポリエステル原糸を使用して製造されることを特徴とする。
【0076】
特に、本発明は、既存の高強度低伸率及び高モジュラスのポリエステル繊維でなく、高強度高伸率及び低モジュラスのポリエステル繊維を使用することによって、エアバッグの膨張時のエネルギー吸収能力が優れているだけでなく、優れた形態安定性と空気遮断性及び優れたホールディング性、柔軟性、収納性を有するエアバッグ用ポリエステル織物を提供することができる。また、前記エアバッグ用織物は、常温での物性が優れているだけでなく、高温高湿の苛酷な条件下でエイジング(aging)後にも優れた機械的物性及び気密性などを維持することができる。
【0077】
より具体的に、本発明のエアバッグ用織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 5034方法で常温で測定した引張強度が220kgf/inchまたは220乃至350kgf/inchであり、好ましくは230kgf/inchまたは230乃至300kgf/inch程度の範囲である。前記引張強度は、既存のエアバッグに要求される物性の側面から220kgf/inch以上であるのが好ましく、現実的に、物性発現の側面から350kgf/inch以下であるのが好ましい。
【0078】
前記エアバッグ用織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 5034方法で常温で測定した切断伸度が20%以上または20%乃至60%であり、好ましくは30%以上または30%乃至50%程度の範囲である。前記切断伸度は、既存のエアバッグに要求される物性の側面から20%以上であるのが好ましく、現実的に、物性発現の側面から60%以下であるのが好ましい。
【0079】
また、エアバッグ用コーティング織物は、高温高圧のガスによって急速に膨張するので、優れた引裂強度が要求されるが、前記エアバッグ用コーティング織物の破裂強度を示す引裂強度を米国材料試験協会規格ASTM D 2261方法で常温で測定した時、23kgf以上または23乃至60kgf、好ましくは25kgf以上または25乃至55kgfである。ここで、コーティング織物の引裂強度が前記下限値、つまり常温で23kgf未満である場合には、エアバッグの展開時にエアバッグが破裂して、エアバッグの機能に大きな危険をもたらすことがある。
【0080】
本発明によるエアバッグ用織物は、ASTM D 1776方法で測定した経糸方向及び緯糸方向の織物収縮率が各々4.0%以下、好ましくは2.0%以下である。ここで、織物の形態安定性の側面から、経糸方向及び緯糸方向の織物収縮率が1.0%を超えないのが最も好ましい。
【0081】
前記織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 737方法で常温で測定した空気透過度が10.0cfm以下または0乃至10.0cfmである。特に、エアバッグ用織物の空気透過度は、織物にゴム成分コーティングを行うことによって顕著に低くすることができ、ほぼ0cfmに近似する空気透過度を確保することもできる。ただし、このようなゴム成分コーティングを行わない場合、本発明の非コーティング織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 737方法で常温で測定した空気透過度が10.0cfm以下または0乃至10.0cfm、好ましくは3.5cfm以下または0.1乃至3.5cfm、より好ましくは1.5cfm以下または0.5乃至1.5cfmである。この時、空気透過度が10.0cfm、より好ましくは3.5cfmを超過する場合には、エアバッグ用織物の気密性を維持する側面から好ましくない。
【0082】
また、本発明のエアバッグ用織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 4032方法で常温で測定した剛軟度が0.2kgf以上または0.2乃至1.2kgf、好ましくは0.5kgf以上または0.5乃至1.0kgfである。特に、530デニール以上である場合に1.2kgf以下になり、460デニール未満である場合に0.8kgf以下になる。
【0083】
本発明の織物は、エアバッグ用に使用するためには、前記剛軟度の範囲を維持するのが好ましく、剛軟度が0.2kgf未満と非常に低い場合には、エアバッグの膨張展開時に十分な保護支持機能を果たすことができず、車両への装着時にも形態維持性能が低下して、収納性が低下する。また、非常に固い状態になって折り畳むのが難しくなるため、収納性が低下するのを防止して、織物の変質現象を防止するためには、前記剛軟度は1.2kgf以下であるのが好ましく、特に、460デニール未満である場合には0.8kgf以下であるのが好ましく、530デニール以上である場合にも1.2kgf以下であるのが好ましい。
【0084】
また、本発明のまた他の実施態様により、ポリエステル原糸を使用したエアバッグ用織物の製造方法が提供される。本発明のエアバッグ用織物の製造方法は、前記ポリエステル原糸を使用してエアバッグ用生地を製織する段階、前記製織されたエアバッグ用生地を精練する段階、及び前記精練された織物をテンターリングする段階を含む。
本発明において、前記ポリエステル原糸は、通常の製織方法、精練及びテンターリング工程を経て最終的なエアバッグ用織物に製造される。この時、織物の製織形態は特定の形態に限定されず、平織タイプ及びOPW(One Piece Woven)タイプの両方が好ましい。
【0085】
特に、本発明のエアバッグ用織物は、前記ポリエステル原糸を緯糸及び経糸として利用して、ビーミング(beaming)、製織、精練、及びテンターリング工程を経て製造される。前記織物は、通常の製織機を使用して製造され、ある特定の織機を使用することに限定されない。ただし、平織形態の織物は、レピア織機(Rapier Loom)やエアージェット織機(Air Jet Loom)、またはウォータージェット織機(Water Jet Loom)などを使用して製造され、OPW形態の織物は、ジャカード織機(Jacquard Loom)を使用して製造される。
【0086】
また、本発明のエアバッグ用織物は、表面にコーティングまたはラミネートされたシリコン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂などの1種以上からなる樹脂コーティング層をさらに含むのが好ましく、コーティング樹脂の種類は前記で言及された物質に限定されない。前記樹脂コーティング層は、ナイフコーティング法、ドクターブレード法、または噴霧コーティング法が適用されてコーティングされるが、これも前記で言及された方法に限定されない。
【0087】
前記樹脂コーティング層の単位面積当りコーティング量は、20乃至200g/m、好ましくは20乃至100g/mである。特に、OPW(One Piece Woven)タイプのサイドカーテンエアバッグ用織物の場合には、前記コーティング量が30g/m乃至95g/mであるのが好ましく、平織タイプのエアバック用織物の場合には、前記コーティング量が20g/m乃至50g/mであるのが好ましい。
このようにコーティングされたエアバッグ用織物は、裁断及び縫製工程を経て一定の形態からなるエアバッグクッションに製造される。前記エアバッグは、特別な形態に限定されず、一般的な形態に製造される。
【0088】
一方、本発明のまた他の実施態様により、前記エアバッグを含むエアバッグシステムが提供される。前記エアバッグシステムは、関連業者に周知の通常の装置を備えることができる。前記エアバッグは、大きく、フロンタルエアバッグ(Frontal Airbag)及びサイドカーテンエアバッグ(Side Curtain Airbag)に区分される。前記フロンタルエアバッグには、運転席用、助手席用、側面保護用、膝保護用、足首保護用、歩行者保護用エアバッグなどがあり、サイドカーテンエアバッグは、自動車の側面衝突や転覆事故時に搭乗者を保護する。したがって、本発明のエアバッグは、フロンタルエアバッグ及びサイドカーテンエアバッグを全て含む。
【0089】
本発明において、前記に記載された内容以外の事項は、必要に応じて加減が可能であり、本発明では特に限定されない。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の理解のために、本発明の好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するためのもので、本発明の範囲は下記の実施例に限定されない。
【0091】
実施例1〜5
下記の表1に示した工程条件で、テレフタル酸及びエチレングリコールのモル比(エチレングリコール/テレフタル酸)が1.3になるようにして、エステル化反応を250〜280℃で4時間行った。前記エステル反応後、生成されたオリゴマーを280〜290℃で3時間30分にわたって重縮合反応を行って、ポリマーを生成した。
【0092】
前記重縮合反応を経た後、常圧に維持した状態で、エチレングリコールを初期投入されたグリコール総量に対して各々1%及び3%の含有量で追加投入した後、追加反応を0.5Torrの高真空雰囲気で1分以上行った。この時、追加反応によって生成された溶融重合ポリエステル重合体(chip)の固有粘度(IV)が0.5〜0.8dl/g程度になるように追加反応を行った。
【0093】
また、前記重縮合反応及び追加反応によって生成されたポリエステル重合体(chip)を220〜245℃で追加的に固体重合反応を行って、固有粘度(IV)が0.7〜1.3dl/gのポリエステル固体重合チップを製造した。
前記ポリエステル固体重合チップは、図1に示したような工程で溶融紡糸して延伸する段階を経て、エアバッグ用ポリエステル原糸を製造した。
【0094】
特に、前記ポリエステル固体重合チップは、283〜295℃の温度で溶融して紡糸口金を通して溶融ポリエステルを吐出し、前記吐出された溶融ポリエステルをフードヒーター及び断熱板から構成された遅延冷却区間を通過させて遅延急冷(delayed quenching)した。
【0095】
前記遅延急冷されたポリエステル繊維にロール形態の油剤付与装置を利用して油剤を付与した。この時、前記油剤の量は、原糸100重量部に対して0.8重量部であり、使用された油剤は、エチレンオキシド/プロピレンオキシド付加ジオールエステル(30重量部)、エチレンオキシド付加ジオールエステル(15重量部)、グリセリルトリエステル(10重量部)、トリメチルプロパントリエステル(10重量部)、及び少量の帯電防止剤を混合した紡糸油剤を使用した。
【0096】
前記油剤が付与された原糸を前集束機に通過させて、コデットローラを利用して延伸した。
【0097】
前記延伸後に、セカンド集束機(2nd Interlacer)を利用して前記延伸されたポリエステル原糸にインターミングルを付与した後、巻取機で巻取ってポリエステル原糸を製造した。
【0098】
この時、グリコール/ジカルボン酸のモル比、エステル化反応、重縮合反応、グリコール追加投入反応、固体重合反応の温度、圧力、反応時間、PET重合体の固有粘度と分子内のCEG含有量、溶融紡糸工程時の紡糸速度及び紡糸張力、紡糸温度条件、延伸比、熱処理温度などは下記の表1に示された通りであり、残りの条件はポリエステル原糸の製造のための通常の条件の通りである。
【0099】
【表1】

【0100】
前記実施例1〜5により製造されたポリエステル原糸に対して下記の方法で物性を測定し、測定された物性を下記の表2に整理した。
【0101】
1)結晶化度
ポリエステル原糸の密度ρは、n−ヘプタン及び四塩化炭素を利用した密度勾配管法によって25℃で測定し、結晶化度は下記の計算式1によって計算した。
【0102】
[計算式1]
Xc(結晶化度)=ρc(ρ−ρa)/ρ(ρc−ρa)
前記式で、ρは原糸の密度、ρcは結晶の密度(PETの場合は1.457g/cm)、及びρaは非結晶の密度(PETの場合は1.336g/cm)である。
【0103】
2)固有粘度
四塩化炭素を利用して試料から油剤を抽出し、160±2℃でOCP(Ortho Chloro Phenol)で溶解した後、25℃の温度で自動粘度測定器(Skyvis−4000)を利用して粘度管での試料の粘度を測定し、下記の計算式2によってポリエステル原糸の固有粘度(intrinsic viscosity、IV)を計算した。
【0104】
[計算式2]
固有粘性度(IV)={(0.0242×Rel)+0.2634}×F
前記式で、
Rel=溶液秒数×溶液比重×粘度係数/OCP粘度 であり、
F=スタンダードチップのIV/スタンダードチップを標準動作で測定した3つの平均IVである。
【0105】
3)CEGの含有量
ポリエステル原糸のカルボキシル末端基(CEG、Carboxyl End Group)は、ASTM D 664及びD 4094の規定により、試料0.2gを50mLの三角フラスコに入れた後、ベンジルアルコール20mLを加えてホットプレート(hot plate)を利用して180℃まで昇温して5分間維持し、試料を完全に溶解した後、160℃に冷却して、135℃に到達する時にフェノールフタレン5〜6滴を加えて、0.02N KOHで適正して、無色からピンク色に変わる適正点で、下記の計算式3によってCEGの含有量(COOH million equiv./試料kg)を計算した。
【0106】
[計算式3]
CEG=(A−B)×20×1/W
前記式で、Aは試料の適正に消費されたKOHの量(mL)であり、Bは空試料の適正に消費されたKOHの量(mL)であり、Wは試料の重量(g)である。
【0107】
4)初期モジュラス
米国材料試験協会規格ASTM D 885の方法により、引張試験時に得られる応力変形度グラフの弾性区間の傾きから弾性係数を算出して、初期モジュラスを測定した。
【0108】
5)引張強度及び切断伸度
ポリエステル原糸の引張強度及び切断伸度を万能材料試験器(Instron)を使用して測定し、試料の長さは250mm、引張速度は300mm/minとし、初期荷重は0.05g/dに設定した。
【0109】
6)乾熱収縮率
英国テストライト(Testrite)社のTestrite MK−V装備を使用して、180℃の温度及び最張力(30g)で乾熱収縮率を2分間測定した。
【0110】
7)タフネス値
下記の計算式4によって、タフネス(Toughness、10−1g/d)値を計算した。
【0111】
[計算式4]
Toughness=強度(g/d)×√破断点伸度(%)
【0112】
8)単糸繊度
単糸繊度は、糸繰りを利用して原糸を9000mだけ取ってその重量を測定し、原糸の総繊度(Denier)を求めた後、フィラメント数で割る方法で測定した。
【0113】
9)伸率
前記引張強度及び切断伸度の測定方法と同様な方法で測定し、S−Sカーブ(Curve)で各荷重(Load)に相当する伸率を確認した。
【0114】
【表2】

【0115】
比較例1〜5
下記の表3に記載された条件を除いては、実施例1〜5と同様な方法により、比較例1〜5のポリエステル原糸を製造した。
【0116】
【表3】

【0117】
前記比較例1〜5により製造されたポリエステル原糸の物性を下記の表4に整理した。
【0118】
【表4】

【0119】
製造例1〜5
実施例1〜5により製造されたポリエステル原糸を使用してレピア織機でエアバッグ用織物生地を製織し、精練及びテンターリング工程を経て、エアバッグ用織物を製造し、前記織物にポリ塩化ビニル(PVC)樹脂をナイフコーティング(knife over ro1l coating)方法でコーティングして、PVCコーティングされた織物を製造した。
この時、織物の経糸及び緯糸の製織密度、製織形態、樹脂コーティング量は、下記の表5に示した通りであり、残りの条件はエアバッグ用ポリエステル織物の製造のための通常の条件の通りである。
【0120】
【表5】

【0121】
前記実施例1〜5により製造されたポリエステル原糸を使用して製造された各々のエアバッグ用ポリエステル織物に対して下記の方法で物性を測定し、測定された物性を下記表6に整理した。
【0122】
(a)引張強度及び切断伸度
エアバッグ織物から試片を裁断して、米国材料試験協会規格ASTM D 5034による引張強度測定装置の下部クランプに固定して、上部クランプを上に移動させながらエアバッグ織物の試片が破断される時の強度及び伸率を測定した。
【0123】
(b)引裂強度
米国材料試験協会規格ASTM D 2261によりエアバッグ用織物の引裂強度を測定した。
【0124】
(c)経糸及び緯糸方向の織物収縮率
米国材料試験協会規格ASTM D 1776により経/緯糸方向の織物収縮率を測定した。まず、OPWタイプエアバッグ用織物から試片を裁断した後、経糸及び緯糸方向に収縮前の長さである20cmを表示し、チェンバで149℃で1時間熱処理した試片の収縮した長さを測定して、傾斜方向及び緯糸方向の織物収縮率{(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ×100%}を測定した。
【0125】
(d)剛軟度
米国材料試験協会規格ASTM D 4032による剛軟度測定装置を利用してサーキュラーベンド(Circular Bend)法で織物の剛軟度を測定した。また、剛軟度の測定法としてカンチレバー法を適用することもでき、織物にベンディングを与えるために一定の角度の傾斜を与えた試験台であるカンチレバー測定機器を利用して、織物のベンディングの長さの測定によって剛軟度を測定することもできる。
【0126】
(e)厚度
米国材料試験協会規格ASTM D 1777によってエアバッグ用織物の厚度を測定した。
【0127】
(e)空気透過度
米国材料試験協会規格ASTM D 737によりエアバッグ用織物を20℃、65%RH下で1日以上放置した後、125Paの圧力の空気が38cmの円形断面を通過する量を測定した。
【0128】
【表6】

【0129】
比較製造例1〜5
比較例1〜5により製造されたポリエステル原糸を使用したことを除いては、製造例1〜5と同様な方法によりエアバッグ用ポリエステル織物を製造して物性を測定し、下記の表7に整理した。
【0130】
【表7】

【0131】
前記表6に示したように、実施例1〜5で製造されて、高固有粘度、高伸率、及び低初期モジュラスなどの特性を有するポリエステル原糸から製造された製造例1〜5のエアバッグ用織物は、引張強度が235〜249kgf/inchであり、引裂強度が15〜21kgfであり、織物収縮率が経糸方向及び緯糸方向に各々0.5%〜0.7%及び0.3%〜0.6%と非常に優れていることが分かる。これと同時に、前記製造例1〜5のエアバッグ用ポリエステル織物は、剛軟度が0.54〜0.79kgfと優れた最適な範囲を維持することによって、優れた形態安定性、機械的物性と共に、優れたホールディング性、収納性を有することが確認された。
【0132】
特に、製造例1〜5のエアバッグ用織物は、高強力低モジュラス原糸を使用して、コーティング織物の空気透過度が1.4cfm以下と優れた気密性を有することが確認された。
【0133】
反面、前記表7に示したように、比較例1〜5のポリエステル原糸を使用した比較製造例1〜5のエアバッグ用織物は、このような特性を満たさないことが確認された。特に、比較製造例1〜5のエアバッグ用織物は、引張強度は類似した程度であったが、経糸方向及び緯糸方向に織物収縮率が各々0.8%〜1.2%及び0.7%〜1.1%であり、引裂強度が10〜14kgfと顕著に低いことが分かる。このように、織物収縮率及び引裂強度などが顕著に低い織物がエアバッグ装置に使用される場合、エアバッグの展開時にエアバッグが破裂するなど機械的物性の低下による問題が発生することがある。
また、比較製造例1〜5によるコーティング織物の空気透過度は1.7〜2.1cfmと大きく増加し、気密性が低いことが分かり、このように空気透過度が増加した場合には、エアバッグの展開時に空気が簡単に抜けて、エアバッグの役割を果たすことができない問題が発生することがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で測定されたポリエステル原糸の1.0g/d応力時の伸率が0.5%以上であり、4.0g/d応力時の伸率が4.3%以上であり、7.0g/d応力時の伸率が7.5%以上であり、
前記ポリエステル原糸の初期モジュラスが40乃至100g/dである、エアバッグ用ポリエステル原糸。
【請求項2】
固有粘度が0.8dl/g以上である、請求項1に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸。
【請求項3】
カルボキシル末端基の含有量が50meq/kg以下である、請求項1に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸。
【請求項4】
結晶化度が40%乃至55%である、請求項1に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸。
【請求項5】
引張強度が6.5g/d以上であり、切断伸度が13%以上である、請求項1に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸。
【請求項6】
乾熱収縮率が10%以下であり、タフネス値が30×10−1g/d以上である、請求項1に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸。
【請求項7】
前記原糸は、単糸繊度が0.5乃至20デニールである、請求項1に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸。
【請求項8】
前記原糸は、総繊度が200乃至1,000デニールである、請求項1に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸。
【請求項9】
前記原糸は、フィラメント数が50乃至240である、請求項1に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸。
【請求項10】
固有粘度が0.85dl/g以上であるポリエステル重合体を270乃至300℃で溶融紡糸してポリエステル未延伸糸を製造する段階、及び
前記ポリエステル未延伸糸を延伸する段階を含む、請求項1乃至請求項9のうちのいずれか一項によるエアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法。
【請求項11】
前記ポリエステル重合体は、ポリエチレンテレフタレートを70モル%以上含む、請求項10に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法。
【請求項12】
前記ポリエステル重合体と原糸との固有粘度の差が0.5dl/g以下である、請求項10に記載のポリエステル原糸の製造方法。
【請求項13】
前記ポリエステル重合体のカルボキシル末端基の含有量が30meq/kg以下である、請求項10に記載のポリエステル原糸の製造方法。
【請求項14】
前記ポリエステル重合体と原糸とのカルボキシル末端基の含有量の差が20meq/kg以下である、請求項10に記載のポリエステル原糸の製造方法。
【請求項15】
前記紡糸工程を300m/min乃至1,000m/minの紡糸速度で行う、請求項10に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法。
【請求項16】
前記延伸工程を5.0乃至6.0の延伸比で行う、請求項10に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法。
【請求項17】
前記未延伸糸をオイルピックアップ量0.2%乃至2.0%の条件下でコデットローラを通過させた後に、延伸工程を行う、請求項10に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法。
【請求項18】
前記未延伸糸を延伸した後に、170乃至250℃の温度で熱固定工程を追加的に行う、請求項10に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法。
【請求項19】
前記未延伸糸を延伸した後に、弛緩率1%乃至14%の弛緩工程を追加的に行う、請求項10に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法。
【請求項20】
前記未延伸糸を延伸した後に、巻取速度2,000乃至4,000m/minの巻取工程を追加的に行う、請求項10に記載のエアバッグ用ポリエステル原糸の製造方法。
【請求項21】
請求項1乃至請求項9のうちのいずれか一項によるポリエステル原糸を含む、エアバッグ用ポリエステル織物。
【請求項22】
前記織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 5034方法で測定した引張強度が220kgf/inch以上である、請求項21に記載のエアバッグ用ポリエステル織物。
【請求項23】
前記織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 2261方法で測定した引裂強度が23kgf以上である、請求項21に記載のエアバッグ用ポリエステル織物。
【請求項24】
前記織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 1776方法で測定した経糸方向及び緯糸方向の織物収縮率が各々4.0%以下である、請求項21に記載のエアバッグ用ポリエステル織物。
【請求項25】
前記織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 4032方法で測定した剛軟度が0.2kgf以上である、請求項21に記載のエアバッグ用ポリエステル織物。
【請求項26】
前記織物は、米国材料試験協会規格ASTM D 737方法で測定した空気透過度が10.0cfm以下である、請求項21に記載のエアバッグ用ポリエステル織物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−524173(P2012−524173A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505817(P2012−505817)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国際出願番号】PCT/KR2010/002301
【国際公開番号】WO2010/120107
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(597114649)コーロン インダストリーズ インク (99)
【Fターム(参考)】