説明

エアバッグ装置付きステアリングホイール

【課題】運転席に着座した運転者の着座状態の如何に拘わらず、この運転者を容易かつ適正に保護できるようにする。
【解決手段】エアバッグ装置11をステアリングホイール7に取り付けるためのエアバッグ基部(リテーナ35)と、このエアバッグ基部に設けられたインフレータ9と、このインフレータ9から供給されたガスによって膨張展開するエアバッグ10と、上記ステアリングホイール7のパッド部13に設置されてエアバッグ10の設置部の車室内側面を覆うカバー部16とを有し、このカバー部16には、上記エアバッグ10の膨張展開時に破断する破断部19と、その破断に応じて展開する展開部27とが設けられるともに、この展開部27の基端部に設けられた揺動支点となるヒンジ部43が、側面視においてステアリングホイール7の上部前面と下部前面とを結んだ線Lよりも前方側に配設された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者により保持されるリング部を有するステアリングホイールの略中央部に位置するパッド部に、車両の衝突時に運転者を保護するエアバッグ装置が配設されたエアバッグ装置付きステアリングホイールの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、運転者からなる運転者の頭部に対応する上側展開部および運転者の頭部よりも下方に対応する下側展開部と、その左左右に位置する左側展開部および右側展開部と、これらの展開部の間に位置する中央展開部とを備えたエアバッグにおいて、上記下側展開部、右側展開部および左側展開部を、上記中央展開部の運転者側に適宜の順序でステアリングホイール上に折り重ね、さらにその上に上側展開部を重ねて折り畳むことにより、上記エアバッグの展開時に、まず上側展開部を運転者の頭部に対応させるように迅速に展開させることが行われている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、リング部(リム部)と、このリング部の内側に位置するボス部と、これらのリング部とボス部とを連結するスポーク部とを備えたステアリングホイール本体と、上記ボス部に備えられるエアバッグ装置とを具備したステアリングホイールにおいて、エアバッグの展開時に形成される扉部を外周側に展開させて上記リング部に当接させることにより、このリング部と上記ボス部との間の空間を上記扉部により覆った状態でエアバッグを展開させることが行われている。
【0004】
さらに、下記特許文献3には、ステアリングホイールに設けられたエアバッグと、事故の際にこのエアバッグを膨らませるための少なくとも一つのガス発生装置(インフレータ)とを有する車両用エアバッグ装置において、当該エアバッグ装置を、2つあるいは3つの塑性変形可能な部材か、あるいは弾性部材に取り付けることにより、エアバッグの展開時に上記エアバッグ装置の少なくとも一部を運転者から離れる方向に移動させるようにした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−238973号公報
【特許文献2】特開2008−30718号公報
【特許文献3】特開平8−67226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された発明では、衝突事故の発生時に、ステアリングホイール上に折り畳まれた各展開部のうち、最も運転者よりかつ上側部に位置して折り畳まれた上側展開部が最初に展開してエアバッグの運転者の体に当接するため、抵抗の少ない部位であるステアリングホイールのリング部の上側部とエアバッグ装置との間の空間部を通って上記車両の前側方へと逃げるようにエアバッグを膨張展開させることができれば、運転者がステアリングホイールに近接して着座した非通常時の着座状態であっても、エアバッグから運転者に加えられる衝撃を緩和することが可能である。
【0007】
しかし、上記エアバッグの上側展開部は、運転者に向けて早期に展開するようにその展開方向が設定されているため、運転者がステアリングホイールに近接した非通常時の着座状態でエアバッグを膨張展開させる際に、その展開方向を車両の前方側へと適正に変換することができなければ、上記運転者の頭部等に強固にエアバッグが当接することに起因して、運転者が違和感を受けるのを避けることができないという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献2に開示された発明では、運転者がステアリングホイールに近接して着座している状態で展開したエアバッグが、リング部の内側空間に充分に入りきらないことに起因して運転者の顎部の下側に止まった状態となるのを防止するように構成されているが、この構成では、エアバッグの展開方向を車両の前方側に変換させようとしても、その変換が上記扉部によって阻害されるため、上記非通常時の着座状態にある運転者がエアバッグの膨張圧を受けて、より違和感を受け易いという問題がある。
【0009】
一方、上記特許文献3に開示されているように、ステアリングホイールに取り付けられたエアバッグ装置を部分的に車両の運転者から離れる方向に移動可能に支持した構成とした場合には、上記エアバッグ装置の支持力が弱いと、通常の着座状態にある運転者が車両の衝突時に作用する慣性力に応じて前方へ付勢された際に、この運転者を適正に保護することができない可能性がある。逆に、上記エアバッグ装置の支持力が強いと、前屈みの着座状態にある運転者の頭部等に強固にエアバッグが当接することが避けられず、上記エアバッグ装置の支持力を適正値に設定することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、運転席に着座した運転者の着座状態の如何に拘わらず、この運転者を容易かつ適正に保護することができるエアバッグ装置付きステアリングホイールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、運転者により保持されるリング部を有するステアリングホイールの略中央部に位置するパッド部に、車両の衝突時に運転者を保護するエアバッグ装置が配設されたエアバッグ装置付きステアリングホイールにおいて、上記エアバッグ装置をステアリングホイールに取り付けるためのエアバッグ基部と、このエアバッグ基部に設けられたインフレータと、このインフレータから供給されたガスによって膨張展開するエアバッグと、上記ステアリングホイールのパッド部に設置されてエアバッグの設置部の車室内側面を覆うカバー部とを有し、このカバー部には、上記エアバッグの膨張展開時に破断する破断部と、その破断により揺動変位して展開する展開部が設けられるともに、この展開部の基端部に設けられた揺動支点となるヒンジ部が、側面視においてステアリングホイールの上部前面と下部前面とを結んだ線よりも前方側に配設されたものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイールにおいて、上記展開部が、ステアリングシャフトの軸心と直交した面に対して前方へ傾斜した状態で設置されたものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、上記請求項2に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイールにおいて、上記カバー部の展開部が、パッド部の横方向に延びる第1破断部と、その左右両側端部からパッド部の縦方向に延びる第2,第3破断部とにより区画されたものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、上記請求項3に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイールにおいて、上記第1破断部からヒンジ部までの距離が、上記リング部の上方内周面から上記ヒンジ部までの長さよりも短く設定されたものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、上記請求項2に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイールにおいて、上記インフレータが、ステアリングシャフトの軸心と直交した面に対して前方へ傾斜した状態でエアバッグ基部に取り付けられたものである。
【0016】
請求項6に係る発明は、上記請求項5に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイールにおいて、上記エアバッグ基部が、インフレータをステアリングホイールに固定するリテーナからなり、このリテーナが、ステアリングホイールに取り付けられる上側取付部および下側取付部と、インフレータの保持部とを有し、この保持部の上端が、上記上側取付部の前端に接続されるとともに、上記保持部の下端が、下側取付部の後端に接続されたものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明では、カバー部に設けられた展開部が揺動変位して展開する際に、その揺動支点となるヒンジ部を、側面視においてステアリングホイールの上部前面と下部前面とを結んだ線よりも前方側に配設したため、上記展開部の先端部がステアリングホイールのリング部に干渉するのを防止しつつ、車両の衝突時に、非通常時の着座状態にある運転者に対して最も影響の大きいエアバッグの上部の膨張展開が上記カバー部により阻害されるのを効果的に防止しつつ、上記リング部とパッド部との間の空間部を通ってエアバッグを車両の前側方に展開させることにより、運転者がステアリングホイールに近接して着座した非通常時の着座状態にある場合においても、上記エアバッグから運転者に加えられる衝撃を効果的に緩和して運転者が違和感を受けるのを防止できるという利点がある。
【0018】
請求項2に係る発明では、上記展開部を、ステアリングシャフトの軸心と直交した面に対して前方へ傾斜させることで、展開部表面からリング部の内周面までの距離を大きくすることができるため、上記エアバッグを車両の前方側に展開させるための空間を大きく確保し、エアバッグの前方への展開が促進されるという利点がある。しかも、上記ヒンジ部を支点に展開部を車両の前側方へと揺動変位させる方向に、上記エアバッグの展開圧を効率よく作用させることができるため、上記展開部をスムーズに展開させることができるとともに、上記ステアリングホイールの外観に奥行き感を持たせることにより、そのデザインを効果的に向上できるという利点もある。
【0019】
請求項3に係る発明では、上記カバー部の展開部を、パッド部の横方向に延びる第1破断部と、その左右両側端部からパッド部の縦方向に延びる第2,第3破断部とにより区画して形成したため、上記展開部を揺動変位させて展開させる際に、この展開部の先端部が上記ステアリングホイールのリング部に干渉してその展開が阻害されるという事態の発生を確実に防止し、上記展開部をスムーズに展開させることができる。
【0020】
請求項4に係る発明では、上記第1破断部からヒンジ部までの距離を、上記リング部の上方内周面から上記ヒンジ部までの長さよりも短く設定したため、このヒンジ部を支点として上記展開部を揺動変位させて展開させる際に、この展開部の先端部が上記リング部に干渉してその展開が阻害されるという事態の発生を確実に防止し、上記展開部をスムーズに展開できるという利点がある。
【0021】
請求項5に係る発明では、上記インフレータを、ステアリングシャフトの軸心と直交した面に対して前方へ傾斜させた状態でエアバッグ基部に取り付けた構成としたため、車両の衝突時に上記インフレータから供給されたガスを、ステアリングシャフトの軸心に対して斜め上方側へと積極的に供給することにより、上記エアバッグの上部を下部よりも迅速に膨張展開させることができる。したがって、車両の衝突時に、ステアリングホイールに近接した着座状態にある運転者に対して最も影響の大きいエアバッグの上部を運転者に向けて早期に膨張展開させることにより、このエアバッグの展開方向を車体の前方側へとスムーズに変換させることができるため、上記エアバッグから運転者に加えられる衝撃を効果的に緩和できるという利点がある。しかも、上記のようにインフレータが前方へ傾斜した状態で取り付けられることにより、ステアリングシャフトの軸心と直交する方向にインフレータを取り付けた場合に比べ、インフレータからカバー部までの距離を広く取ることができ、この部分を折り畳まれたエアバックの収納スペースとして利用することができる。
【0022】
請求項6に係る発明では、上記エアバッグ基部を、インフレータをステアリングホイールに固定するリテーナにより構成し、このリテーナに、ステアリングホイールに取り付けられる上側取付部および下側取付部と、インフレータの保持部とを設け、この保持部の上端を、上記上側取付部の前端に接続するとともに、上記保持部の下端を、下側取付部の後端に接続した構成としたため、上記インフレータの保持部に傾斜面部を設ける等の手段を講じることなく、簡単な構成で上記リテーナの保持部にインフレータを保持させることにより、上記軸心に直交した面に対して前方へ傾斜させた状態でインフレータを設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るエアバッグ装置付きステアリングホイールを有する車両の車室前部の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明に係るエアバッグ装置付きステアリングホイールの実施形態を示す側面断面図である。
【図3】ステアリングホイールの具体的構成を示す説明図である。
【図4】インフレータの取付部の具体的構成を示す分解斜視図である。
【図5】エアバッグの展開過程を示す側面断面図である。
【図6】展開部の展開状態を示す説明図である。
【図7】通常の着座状態におけるエアバッグの展開状態を示す説明図である。
【図8】非通常時の着座状態におけるエアバッグの展開状態を示す説明図である。
【図9】エアバッグ装置付きステアリングホイールの比較例を示す説明図である。
【図10】本発明に係るエアバッグ装置付きステアリングホイールの別の実施形態を示す図2相当図である。
【図11】上記実施形態におけるリテーナの具体的構成を示す斜視図である。
【図12】リテーナの別の具体的例を示す斜視図である。
【図13】本発明に係るエアバッグ装置付きステアリングホイールのさらに別の実施形態を示す図6相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係るエアバッグ装置付きステアリングホイールが設けられた車室前部の概略構成を示している。この車室前部には、車室の床面を構成するフロアパネル1と、車室前部を構成するインストルメントパネル2とが設けられている。このインストルメントパネル2には、各種メータ類3、空調装置4およびナビゲーション装置の表示装置5等が装備されるとともに、上記インストルメントパネル2の運転席側にはステアリング装置6が装備されている。
【0025】
上記ステアリング装置6は、図2および図3に示すように、運転者によって操作されるステアリングホイール7と、該ステアリングホイール7の操作に応じて回転駆動されるステアリングシャフト8とを備えている。上記ステアリングホイール7には、衝突センサ(不図示)によって車両の衝突が検出された場合にガスを発生するインフレータ9と、このインフレータ9から供給されたガスによって膨張展開するエアバッグ10とを有するエアバッグ装置11が内蔵されている。
【0026】
具体的には、上記ステアリングホイール7は、運転者によって把持される円環状のリング部12と、このリング部12の略中央部に位置するパッド部13と、このパッド部13にリング部12を連結するスポーク部14とを備えている。そして、上記パッド部13がステアリングシャフト8の基端部(後端部)に固定されるとともに、このパッド部13内に、上記エアバッグ装置11が配設されている。なお、当実施形態では、上記リング部12とパッド部13とが3本のスポーク部14で連結されているが、このスポーク部14の本数は、特に限定されるものではなく、例えば4本であってもよい。
【0027】
上記ステアリングホイール7のリング部12およびスポーク部14は、所定の形状を有する芯材が、例えばウレタン材等からなる合成樹脂製の被覆層で覆われることにより形成されている。また、上記パッド部13は、ステアリングシャフト8に固定される固定部15と、パッド部13の運転者側に配設されたカバー部16とを有している。
【0028】
上記パッド部13の固定部15は、ステアリングシャフト8の基端部に取り付けられる芯材15aと、この芯材15aの前面側部を覆うトリム部15bとを備えている。また、上記カバー部16は、ステアリングホイール7のパッド部13内において折り畳まれた状態で収納されたエアバッグ10の車室内側面を覆うように設置されている。そして、上記カバー部16には、エアバッグ10の膨張展開時に破断する薄肉の線条部等からなる第1〜第8破断部19〜26と、その破断に応じて展開する第1〜第7展開部27〜33とが設けられている。
【0029】
上記エアバッグ装置11のインフレータ9は、リテーナ35からなるエアバッグ基部を介してステアリングホイール7のパッド部13、具体的には、上記カバー部16の内壁面部から車両の前方側に突設された上下の突部36,37に取り付けられている。上記リテーナ35は、図4に示すように、上記上下の突部36,37にビス止めされる上側取付部38および下側取付部39と、上側取付部38の後端と下側取付部39の前端とを連結するように延びるインフレータ9の保持部40とを有している。
【0030】
そして、上記リテーナ35の保持部40に形成された取付孔41にインフレータ9の上部が挿入されるとともに、このインフレータ9がリテーナリング42を介してリテーナ35に固定されることにより、上記インフレータ9の周面に形成されたガス噴出口9aがエアバッグ10に臨んだ状態で、上記インフレータ9がステアリングシャフト8の軸心Fに直交した面Gと略平行に設置されるように構成されている(図2参照)。また、上記取付孔41の外周部には、折り畳み状態にあるエアバッグ10の基部が、上記リテーナリング42を介して固着されている。
【0031】
また、図3に示すように、上記カバー部16の第1展開部27は、パッド部13の中央部に設けられたエンブレムEの下辺部に沿って横方向に延びる第1破断部19と、その左右両側端部からパッド部13の上方向(縦方向)に延びる第2,第3破断部20,21とにより、上記パッド部13の中央部から上方に向かうように区画された略長方形状部からなっている。そして、上記第1展開部27の上辺部には、この第1展開部27を上方に揺動変位させて展開させる際の揺動支点となるヒンジ部43が設けられている。
【0032】
上記第1展開部27のヒンジ部43は、図2に示すように、側面視においてステアリングホイール7の上部前面と下部前面とを結んだ線Lよりも前方側に配設されている。また、上記カバー部16に形成された第1破断部19からヒンジ部43までの距離により規定される第1展開部27の縦方向長さMは、上記ステアリングホイール7のリング部12の上方内周面から上記ヒンジ部43までの長さNよりも短く設定されている。
【0033】
上記第1展開部27の左右上部には、第1展開部27の上下方向中央部からそれぞれ横方向に延びるように設置された第4,第5破断部22,23と、上記第2,第3破断部20,21の上方部とにより区画された第2,第3展開部28,29が配設されている。この第2,第3展開部28,29は、その上辺部に配設されたヒンジ部44,45を支点として、それぞれ車両の上方側に揺動変位することにより展開するように構成されている。
【0034】
上記第1〜第3展開部27〜29は、側面視でステアリングシャフト8の軸心Fと直交した面Gに対して前方へ傾斜した状態で設置されている。そして、車両の衝突時に上記インフレータ9から供給されるガスによってエアバッグ10が膨張展開することにより、上記第1〜第5破断部19〜23が破断して、上記第1〜第3展開部27〜29がヒンジ部43〜45を支点に揺動変位するとともに、図5に示すように、上記エアバッグ10の一部が、ステアリングホイール7のリング部12とパッド部13との間を通って車体の前方側へ展開することが許容される位置に、上記第1〜第3展開部27〜29が展開するようになっている。
【0035】
また、上記第1展開部27の左右下部には、第1破断部19の左右両端からそれぞれ横方向に延びるように設置された第6,第7破断部24,25と、上記第4,第5破断部22,23と、上記第2,第3破断部20,21の下方部とにより区画された第4,第5展開部30,31が配設されている。この第4,第5展開部30,31は、その外側辺部に設けられたヒンジ部46,47を支点として図6に示すように、それぞれ車幅方向の外方側に揺動変位することにより展開するように構成されている。
【0036】
さらに、上記第1〜第3展開部27〜29の下方には、第1破断部19の中央から下方に延びるように設置された第8破断部26と、上記第1破断部18および第6,第7破断部24,25の下方部とにより区画された第6,第7展開部32,33が配設されている。この第6,第7展開部32,33は、その外側辺部に設けられたヒンジ部48,49を支点としてそれぞれ車幅方向の外方側に揺動変位することにより展開するように構成されている。
【0037】
上記構成において、図7に示すように、運転者がその上半身を、運転席シート50のシートバック50aに沿わせるように着座した状態で、車両の衝突が検出されてインフレータ9が作動状態となると、このインフレータ9からエアバッグ10を膨張展開させるガスが供給されることにより、上記カバー部16が車両の後方側に押圧される。そして、この押圧力に応じてカバー部16の第1〜第8破断部19〜26が破断し、上記第1〜第7展開部27〜33がヒンジ部43〜49を支点にそれぞれ所定の方向に揺動変位して展開することにより、エアバッグ10の設置部が開放される。この結果、上記通常の着座状態にある運転者に向けて、上記ステアリングホイール7のパッド部13から展開したエアバッグ10がスムーズに膨張することにより、運転者が保護されることになる。
【0038】
また、図8に示すように、運転者が前屈み状態で運転席シート50に着座し、あるいは前方を注視しようとして運転者が上半身を前方に乗り出す等によりステアリングホイール7に近接した位置に運転者が着座している非通常時の着座状態で、インフレータ9が作動することにより作用するエアバッグ10の膨張展開圧に応じ、上記カバー部16の第1〜第8破断部19〜26が破断すると、上記エアバッグ10は、第1〜第7展開部27〜33を揺動変位させて展開させつつ、前傾姿勢の運転者側に膨張展開して、上記エアバッグ10の上部が運転者に対して当接する。このようにしてエアバッグ10の後方への展開が規制されると、その展開方向が前方側に変換され、このエアバッグ10の上部が、上記リング部12の上側部とパッド部13との間の空間部を通って上記車両の前側方へと逃げるように案内されることになる。
【0039】
すなわち、一般的には、図9に示す比較例のように、上記直交面Gと略平行に延びるように展開部60が設置されるとともに、その基端部に設けられたヒンジ部61が、側面視においてステアリングホイール7の上部前面と下部前面とを結んだ線Lよりも後方側に配設されているため、上記ヒンジ部61の前方に位置する壁面部62によりエアバッグ10の展開が阻害され易く、これにより上記エアバッグ10の展開方向を前方側に変換させることが困難であった。
【0040】
これに対して図5等に示すように、上記第1展開部27を、その前辺部に設けられたヒンジ部43を支点として車両の上方側に揺動変位させることにより展開させるように構成するとともに、上記ヒンジ部43を、側面視においてステアリングホイール7の上端と下端とを結んだ線Lよりも前方側に配設した構造とした場合には、上記第1展開部27を車両の前方側へと大きく変位させることにより、エアバッグ10の展開が阻害されるのを防止することができる。したがって、車両の衝突時に、非通常時の着座状態にある運転者に対して最も影響の大きいエアバッグ10の上部の膨張展開が上記カバー部16により阻害されるのを効果的に防止し、上記エアバッグ10の展開方向を車体の前方側へと効果的に変換するように案内して、上記エアバッグ10から運転者に加えられる衝撃を効果的に緩和できるという利点がある。
【0041】
また、上記実施形態に示すように、第1展開部27をステアリングシャフト8の軸心Fと直交した面Gに対して前方へ傾斜させた構成とした場合には、上記第1展開部27の表面からリング部12の内周面までの距離を大きくすることができるため、上記エアバッグ10を車両の前方側に展開させるための空間を大きく確保することにより、エアバッグの前方への展開を促進することができる。したがって、運転者がステアリングホイール7に近接して着座した非通常時の着座状態にある場合においても、上記エアバッグ10から運転者に加えられる衝撃を効果的に緩和して運転者が違和感を受けるのを防止できるという利点がある。しかも、上記のようにカバー部16の第1〜第3展開部27〜29を上記面Gに対して前方へ傾斜させることにより、上記ヒンジ部43を支点に第1展開部27等を車両の前側方へと揺動変位させる方向に上記エアバッグ10の展開圧を効率よく作用させることができるとともに、上記ステアリングホイール7の外観に奥行き感を持たせることができ、そのデザインを効果的に向上できるという利点もある。
【0042】
さらに、上記実施形態では、パッド部13に設けられた上記第1展開部27を、横方向に延びる第1破断部19と、その左右両側端部からパッド部13の縦方向に延びる第2,第3破断部20,21とにより区画して形成したため、上記第1展開部27の形状を効果的に単純化することかできる。したがって、車両の衝突時にエアバッグ10の膨張展開圧に応じて上記第1〜第3破断部19〜21を容易に破断させることにより、上記非通常時の着座状態にある運転者に対して最も影響の大きいエアバッグ10の上部に対応した位置にある上記第1展開部27を、車両の衝突時に迅速かつ容易に展開させることができるとともに、上記エアバッグ10の展開方向を車体の前方側へと効果的に変換するように案内することができ、これによって上記エアバッグ10から運転者に加えられる衝撃を効果的に緩和できるという利点がある。
【0043】
特に、上記実施形態では、第1展開部27を、その前辺部に設けられたヒンジ部43を支点として車両の上方側に揺動変位させることにより展開させるように構成するとともに、上記第1破断部19によって規定される第1展開部27の先端部から基端部(ヒンジ部43)までの縦方向長さMを、上記リング部12の上方内周面からヒンジ部43までの長さNよりも短く設定したため、このヒンジ部43を支点として上記第1展開部27を揺動変位させて展開させる際に、この第1展開部27の先端部が上記リング部12に干渉してその展開が阻害されるという事態の発生を確実に防止し、上記第1展開部27をスムーズに展開させることができる。
【0044】
また、上記実施形態では、リテーナ35に設けられたインフレータ9の保持部40をステアリングシャフト8の軸心Fに直交した面Gと平行に設置するとともに、上記保持部40に保持されたインフレータ9をステアリングシャフト8の軸心Fに対して直角に設置したため、車両の衝突時に上記インフレータ9から供給されたガスによってエアバッグ10を上記ステアリングシャフト8の軸心Fに沿って運転者側へとスムーズに膨張展開させることができる。したがって、通常の着座状態にある運転者を上記エアバッグ10により効果的に保護することができる。
【0045】
なお、上記構成に代え、図10および図11に示すように、ステアリングシャフト8の軸心Fに直交した面Gに対して前方へ傾斜した傾斜面部40aを上記リテーナ35の保持部40に設けるとともに、このリテーナ35の傾斜面部40aにインフレータ9を保持させることにより、上記軸心Fに直交した面Gに対して前方へ傾斜させた状態でインフレータ9を設置するように構成してもよい。このようにインフレータ9を傾斜状態で設置した場合には、車両の衝突時に上記インフレータ9から供給されたガスを、ステアリングシャフト8の軸心Fに対して斜め上方側へと積極的に供給できるため、上記エアバッグ10の上部を下部よりも迅速に膨張展開させることができる。
【0046】
したがって、車両の衝突時に、ステアリングホイール7に近接した着座状態にある運転者に対して最も影響の大きいエアバッグ10の上部を運転者に向けて早期に膨張展開させることにより、このエアバッグ10の展開方向を車体の前方側へとスムーズに変換させることができるため、上記エアバッグ10から運転者に加えられる衝撃を効果的に緩和できるという利点がある。しかも、上記のようにインフレータ9を前方へ傾斜した状態で取り付けることにより、ステアリングシャフト8の軸心Fと直交する面Gと平行にインフレータ9を取り付けた場合に比べ、インフレータ9からカバー部16までの距離を広く取ることができ、この部分を折り畳まれたエアバック10の収納スペースとして利用することができる。
【0047】
また、図12に示すように、上記インフレータ9をステアリングホイール7に取り付けるためのエアバッグ基部を、エアバッグ装置11のリテーナ35により構成するとともに、このリテーナ35に、ステアリングホイール7のパッド部13に設けられた突部36,37に取り付けられる上側取付部38および下側取付部39と、インフレータ9の取付孔41を有する保持部51とを設け、この保持部51の上端を、上記上側取付部38の前端38aに接続するとともに、保持部51の下端を、上記下側取付部39の後端39aに接続した構造としてもよい。このように構成した場合には、上記保持部51に傾斜面部40aを設ける等の手段を講じることなく、簡単な構成で上記リテーナ35の保持部51にインフレータ9を保持させることにより、上記軸心Fに直交した面Gに対して前方へ傾斜させた状態でインフレータ9を設置できるという利点がある。
【0048】
なお、上記実施形態では、パッド部13の全面に展開部27〜33を設けた構造とした例について説明したが、図13に示すように、パッド部13の略中央に設けられたエンブレムEの設置部を除き、その周囲に展開部52〜57を配設するとともに、中心部に空洞部が設けられたドーナツ状のインフレータ(図示せず)を、上記パッド部13の周縁部から膨張展開させるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0049】
7 ステアリングホイール
8 ステアリングシャフト
9 インフレータ
10 エアバッグ
11 エアバッグ装置
12 リング部
13 パッド部
16 カバー部
19 第1破断部
20 第2破断部
21 第3破断部
27〜33 第1〜第7展開部
35 リテーナ(エアバッグ基部)
38 上側取付部
39 下側取付部
40 保持部
43 ヒンジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者により保持されるリング部を有するステアリングホイールの略中央部に位置するパッド部に、車両の衝突時に運転者を保護するエアバッグ装置が配設されたエアバッグ装置付きステアリングホイールにおいて、上記エアバッグ装置をステアリングホイールに取り付けるためのエアバッグ基部と、このエアバッグ基部に設けられたインフレータと、このインフレータから供給されたガスによって膨張展開するエアバッグと、上記ステアリングホイールのパッド部に設置されてエアバッグの設置部の車室内側面を覆うカバー部とを有し、このカバー部には、上記エアバッグの膨張展開時に破断する破断部と、その破断により揺動変位して展開する展開部が設けられるともに、この展開部の基端部に設けられた揺動支点となるヒンジ部が、側面視においてステアリングホイールの上部前面と下部前面とを結んだ線よりも前方側に配設されたことを特徴とするエアバッグ装置付きステアリングホイール。
【請求項2】
上記展開部は、ステアリングシャフトの軸心と直交した面に対して前方へ傾斜した状態で設置されたことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイール。
【請求項3】
上記カバー部の展開部は、パッド部の横方向に延びる第1破断部と、その左右両側端部からパッド部の縦方向に延びる第2,第3破断部とにより区画されたことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイール。
【請求項4】
上記第1破断部からヒンジ部までの距離が、上記リング部の上方内周面から上記ヒンジ部までの長さよりも短く設定されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイール。
【請求項5】
上記インフレータは、ステアリングシャフトの軸心と直交した面に対して前方へ傾斜した状態でエアバッグ基部に取り付けられたことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイール。
【請求項6】
上記エアバッグ基部は、インフレータをステアリングホイールに固定するリテーナからなり、このリテーナは、ステアリングホイールに取り付けられる上側取付部および下側取付部と、インフレータの保持部とを有し、この保持部の上端が、上記上側取付部の前端に接続されるとともに、上記保持部の下端が、下側取付部の後端に接続されたことを特徴とする請求項5に記載のエアバッグ装置付きステアリングホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−31821(P2011−31821A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181990(P2009−181990)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】