説明

エチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物ペレットおよびそれから得られる成形物およびその製造方法並びにエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物ペレットの製造方法

【課題】高級脂肪酸アミドが表面付着したペレットにおいて、従来の高級脂肪酸アミド表面付着ペレットが有するフィード性、ゲル発生防止効果を有しつつ、高速成形条件下においても成形物中の欠点の発生が防止される。
【解決手段】
エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対して10〜400ppmの高級脂肪酸アミドが表面に付着したエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットであり、
該ペレット100gを500mlビーカーを用いてイオン交換水300ml中でヘリカル翼を有するスリーワンモータにより、水温23℃において回転数250rpmで1時間水洗したときの該高級脂肪酸アミドの脱落量が、水洗前の表面付着量の35重量%未満であることを特徴とするエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットを用いる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑剤が表面に付着したエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物ペレットおよびそれから得られる成形物およびその製造方法並びにエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物ペレットの製造方法に関するものであり、詳細には高級脂肪酸アミドが表面に付着したエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物ペレットおよびそれから得られる成形物およびその製造方法並びにエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物ペレットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下、EVOHと称することがある)は、透明性、ガスバリア性、保香性などに優れており、成形性が良好であるため、その成形物は一般的に包装材料に用いられる。一般的に、かかる樹脂はペレットの状態で流通し、かかるペレットを押出機等の溶融成形機に供給し、溶融成形することによって所望の成形物を得る。
【0003】
従来より、高級脂肪酸アミド等の滑剤を表面に付着したEVOHペレットが知られている。これは、ペレットの溶融成形機に対するフィード性を高めたり(特許文献1参照)、溶融成形機の内壁やスクリューに対して溶融したEVOHが付着し、樹脂が長期間滞留して熱劣化してゲルが生じ、かかるゲルが成形物へ混入することを防ぐ目的で、ペレットが溶融成形機中で溶融するタイミングで滑剤が効果を発揮するようにするためである(特許文献2〜5参照)。
【0004】
かかる滑剤は通常溶融成形機中で混練されて樹脂中に均一に分散されるため、成形物の品質に問題を生じることはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-128996号公報
【特許文献2】特開2000-264972号公報
【特許文献3】特開2000-212344号公報
【特許文献4】特開2001-164059号公報
【特許文献5】特開2001-164070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、成形物生産のさらなる効率化が求められ、より高速・高吐出で成形作業を行うような場合において、かかるペレットを用いた場合欠点が多発することが明らかになった。そこで、高級脂肪酸アミド等の滑剤を表面に有しつつ、このような高速・高吐出成形条件下においても欠点が発生しないEVOHペレットが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは上記事情に鑑み鋭意検討の結果、かかる成形物中の欠点の原因が成形物中の高級脂肪酸アミドの凝集であることに着目した。そして、かかる原因は、溶融成形機内のペレット導入時(すなわちペレット形状が保持されている段階)にペレット表面から遊離し、単独で存在する滑剤が、溶融成形時に樹脂中に混練・分散されることなくそのまま成形物中に押し出されることにあると推測した。そして、高速・高吐出条件下では一般的に圧縮比の小さいスクリューを使用して比較的高温で溶融成形するため、混練の度合いが低くなり滑剤由来の欠点が発生しやすい状況にあると考えた。そこで、ペレット表面に付着させた滑剤が全てペレットに密着し、溶融成形機内で滑剤が遊離することのないEVOHペレットが上記の目的を満たすことを見出した。
【0008】
また、ペレット表面に付着させた滑剤が全てペレットに密着し、溶融成形機内で滑剤が遊離することがないEVOHペレットを得るためには、EVOHペレットの表面温度を、該滑剤の融点−50℃以上の高温とし、かつ該エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の融点未満にて高級脂肪酸アミドと接触させることにより、上記の目的を満たすEVOHペレットが得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、EVOHに対して重量基準にて10〜400ppmの高級脂肪酸アミドが表面に付着したEVOHペレットであり、該ペレット100gを500mlビーカーを用いてイオン交換水300ml中でヘリカル翼を有するスリーワンモータにより、水温23℃において回転数250rpmで1時間水洗したときの該高級脂肪酸アミドの脱落量が、水洗前の表面付着量の35重量%未満であることを特徴とするEVOHペレット、および、EVOHに対して重量基準にて10〜400ppmの高級脂肪酸アミドが表面に付着したEVOHペレットを得るに際し、EVOHペレットの表面温度を、該高級脂肪酸アミドの融点−50℃以上とし、かつ該エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の融点未満にて高級脂肪酸アミドと接触させることを特徴とするEVOHペレットの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のEVOHペレットおよび本願発明の製造方法によって得られるペレットは、ペレット表面に付着した滑剤である高級脂肪酸アミドが全てペレットに密着し、溶融成形機内で該滑剤が脱落して遊離しないため、従来の滑剤表面付着ペレットが有するフィード性、ゲル発生防止効果を有しつつも、高速成形条件下においても成形物中の欠点の発生が防止されるという効果が得られる。
【0011】
特に本発明の製造方法においては、EVOHペレットの表面温度が用いる高級脂肪酸アミドの融点−50℃以上であり、かつ該EVOHの融点未満であることが重要である。これにより、高級脂肪酸アミドがペレット表面にて十分軟化し、かつEVOHペレット表面の分子状態が好適な状態となるためか、高級脂肪酸アミドがペレット表面にコーティングされたように密着するものと推測される。
【0012】
なお、滑剤をペレット内部に均一添加した滑剤含有ペレットも公知であるが、本発明のように、滑剤をペレット外部表面に局在化させて添加する技術と、かかる内部に均一に添加する技術は、その目的および効果が異なる。
本願発明のように、ペレット表面に局在化して付着させるペレットは、ホッパー内でのペレット同士の摩擦力を低減して溶融成形機やスクリューへのフィード性を安定させたり、溶融成形機の内壁やスクリューに対して溶融したEVOHが付着し、樹脂が長期間滞留して熱劣化してゲルが生じ、かかるゲルが成形物へ混入することを防ぐ目的で、ペレットが溶融成形機中で溶融するタイミングで滑剤が効果を発揮するように付着させるものであるのに対し、ペレット内部に均一添加した滑剤は、押出成形時に樹脂が完全に溶融した状態において、ポリマー同士またはポリマーと装置表面とのせん断摩擦やせん断発熱を低減し、成形安定性を向上させフィッシュアイ低減などに効果を発揮するものである。
本願発明の効果は、滑剤を内部添加するのみでは得られないが、従来の内部均一添加技術と併用することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0014】
(EVOHの説明)
本発明で用いるエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)について説明する。
【0015】
本発明で用いるEVOHは、公知の樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。EVOHは、通常、ビニルエステル系モノマー(代表的には酢酸ビニル)とエチレンを共重合してエチレン−ビニルエステル系共重合体を得、これをケン化して得られるものである。すなわち、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化工程後に残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。上記共重合に際しては、溶液重合法など、公知の重合法が採用されうる。
【0016】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な点から通常は酢酸ビニルが用いられる。他にも、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0017】
また、EVOHのエチレン含有量は、エチレンとビニルエステル系モノマーの重合時に決定されるものであり、ケン化の前後で変化するものではない。ISO14663に基づいて測定したエチレン構造単位の含有率が通常20〜60モル%、好ましくは20〜55モル%、特に好ましくは25〜50モル%である。エチレン含有量が低すぎると耐衝撃性や加工性が低下する傾向があり、高すぎるとガスバリア性や耐溶剤性が低くなる傾向がある。
【0018】
さらに、EVOHのケン化度は滴定法(JIS K6726)(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)で測定した値で通常90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、特に好ましくは98〜100%である。ケン化度が低すぎるとガスバリア性が低下する傾向がある。
【0019】
EVOHのメルトフローレート(以下、MFRと称することがある)は210℃、荷重2160gで測定した値で通常0.1〜100g/10分、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは2〜40g/10分である。かかる値が高すぎたり低すぎたりすると加工性が低下する傾向がある。
【0020】
EVOHの融点は、示差走査熱量計(DSC)で昇降温速度10℃/minで測定した値で、通常100〜220℃、好ましくは120〜210℃、特には140〜200℃である。
【0021】
なお、本発明では、エチレンとビニルエステル以外に、EVOHに要求される特性を阻害しない範囲(例えば10モル%未満)で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよく、上記単量体としては、下記のものがあげられる。例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類や、2−プロペン−1−オール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類や、そのアシル化物、エステル化物が挙げられ、エステル化物としては、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、特に、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等があげられる。また、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩、ならびに、炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類があげられる。また、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、ならびに、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類や、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩ならびにその4級塩等のメタクリルアミド類があげられる。また、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類や、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、ならびに、酢酸アリル、塩化アリル、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルエチレンカーボネート、グリセリンモノアリルエーテル等があげられる。また、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等「後変性」されていても差し支えない。
特に延伸加工や真空・圧空成形などの二次成形性が必要な用途においてはヒドロキシ基含有α−オレフィン類を共重合したEVOH、特には1,2−ジオールを側鎖に有するEVOHが好ましく用いられる。
【0022】
本発明で用いられるEVOHには、目的に応じて、他の熱可塑性樹脂を含んでもよい。他の熱可塑性樹脂を含む場合、他の熱可塑性樹脂の含有量は樹脂組成物全体に対して通常30重量%未満である。
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、目的に応じて、他の配合剤成分を含んでいてもよい。これら配合剤の添加量は樹脂組成物に対して通常5重量%未満である。タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラス繊維などのフィラー、パラフィンオイル等の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、着色剤、難燃剤、分散剤、界面活性剤、乾燥剤、帯電防止剤、防菌剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、生分解用添加剤、蛍光増白剤、シランカップリング剤などが挙げられ、任意の配合剤を1種、または複数種にて含有することができる。
かかる含有可能な樹脂および配合剤は、樹脂分への均一添加である(ペレット内部均一添加である)ことを意味する。
【0023】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)などの塩;または、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛塩などの塩等の添加剤を添加してもよい。これらのうち、特に、酢酸、ホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加することが好ましい。
【0024】
酢酸を添加する場合、その添加量は、EVOH100重量部に対して通常0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.2重量部、特に好ましくは0.01〜0.1重量部である。酢酸の添加量が少なすぎると、酢酸の含有効果が十分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
【0025】
また、ホウ素化合物を添加する場合、その添加量は、EVOH100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001〜1重量部であり、好ましくは0.002〜0.2重量部であり、特に好ましくは0.005〜0.1重量部である。ホウ素化合物の添加量が少なすぎると、ホウ素化合物の添加効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。
【0026】
また、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)の添加量としては、EVOH系樹脂(A)100重量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部である。かかる添加量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。尚、EVOHに2種以上の塩を添加する場合は、その総量が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
【0027】
EVOHに酢酸、ホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加する方法については、特に限定されず、i)含水率20〜80重量%のEVOHの多孔性析出物を、添加物の水溶液と接触させて、添加物を含有させてから乾燥する方法;ii)EVOHの均一溶液(水/アルコール溶液等)に添加物を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法;iii)EVOHと添加物を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法;iv)EVOHの製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の有機酸類で中和して、残存する酢酸等の有機酸類や副生成する塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。
本発明の効果をより顕著に得るためには、添加物の分散性に優れるi)、ii)の方法、有機酸およびその塩を含有させる場合はiv)の方法を併用することが好ましい。
【0028】
かかるEVOHは通常ペレット形状にて市場流通し、各種溶融成形に供される。かかるペレットの形状は例えば、球形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、球状(ラグビーボール状)または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、球状の場合は径が通常1〜6mm、好ましくは2〜5mmであり、高さは通常1〜6mm、好ましくは2〜5mmであり、円柱状の場合は底面の直径が通常1〜6mm、好ましくは2〜5mmであり、長さは通常1〜6mm、好ましくは2〜5mmである。
【0029】
<高級脂肪酸アミドの説明>
本発明で用いる高級脂肪酸アミドとは、一般に滑剤として用いられる物質であり界面活性能を有する。該高級脂肪酸アミドの高級脂肪酸とは、通常炭素数10〜30、好ましくは15〜25の脂肪酸であり、かかる脂肪酸をアミン化合物にてアミド化した化合物である。かかる化合物はジアミン化合物にてアミド化し、ビス体として用いることも好ましい。なお、高級脂肪酸部にカルボキシル基以外の官能基を有していてもよい。カルボキシル基以外の官能基とは、例えば炭素数1〜4のアルキル基やエステル基、水酸基、ケトン基、アルデヒド基、エポキシ基等である。
例えば具体的には飽和高級脂肪族アミド(例えばカプリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等)、不飽和高級脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド、リノール酸アミド、エルカ酸アミド、等)、ビス高級脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、m−キシリレンビスステアロアミド,p−フェニレンビスステアロアミド,等)が挙げられる。
中でも、熱安定性や添加効果に優れる点で好ましくはビス高級脂肪酸アミドであり、特に好ましくは炭素数15〜25の高級脂肪酸アミドを用いたビス高級脂肪酸アミドである。具体的には、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドが挙げられる。
【0030】
上記高級脂肪酸アミドの融点は、通常100℃〜250℃であり、好ましくは110℃〜200℃であり、特に好ましくは120℃〜170℃である。
上記高級脂肪酸アミドは、通常、粒径が均一な粉体である。例えば、200メッシュ乾式パス(JIS K0069)が通常80%以上、好ましくは90%以上である。すなわち、全ての高級脂肪酸アミドが該篩を通過する粒子による粉体である。
【0031】
本発明にてペレット表面に付着する高級脂肪酸アミドの量は、EVOHに対して重量基準にて10〜400ppmであり、好ましくは50〜300ppm、特に好ましくは70〜250ppmである。かかる含有量が少なすぎる場合、ペレットのフィード安定性やEVOHの熱劣化ゲル防止)が十分発揮されない傾向があり、高すぎる場合、フィード性が逆に不安定になったり、本発明の効果(滑剤由来の欠点を防止する効果)が充分に得られない傾向がある。
【0032】
かかる表面付着量は、下記のようにして測定した値である。
50mlビーカーにフタル酸ジオクチル(DOP)を20g入れて、次いでEVOHペレット10gを入れてよくかき混ぜる。それから100℃に加熱したホットスターラー上で15分間加熱撹拌して、ペレット表面の滑剤をDOP中に溶出させる。滑剤が溶出したDOP液を微量窒素分析計(三菱化学社製、TN−10)に20〜30mg投入して窒素濃度を定量分析することにより、高級脂肪酸アミドの分子量から比率計算してその付着量を算出する。
【0033】
<ペレットおよびその製造方法の説明>
本発明のペレットは、EVOHに対して重量基準にて10〜400ppmの高級脂肪酸アミドが表面に付着したEVOHペレットであり、該ペレット100gを500mlビーカーを用いてイオン交換水300ml中でヘリカル翼を有するスリーワンモータにより、水温23℃において回転数250rpmで1時間水洗したときの該高級脂肪酸アミドの脱落量が、水洗前の表面付着量の35重量%未満である。すなわち、高級脂肪酸アミドがペレット表面に密着しており、水洗しても脱落し難いものである。
【0034】
かかる該高級脂肪酸アミドの脱落量は、35重量%未満であり、好ましくは25重量%未満であり、特に好ましくは20重量%未満である。かかる脱落量が多すぎる場合、高速・高吐出成形条件下において滑剤由来の欠点が成形物中に発生する傾向がある。
かかる該高級脂肪酸アミドの脱落量は、下記式にて算出する。
(水洗前ペレットの表面付着滑剤量−水洗後ペレットの表面付着滑剤量)/(水洗前ペレットの表面付着量)×100
【0035】
該高級脂肪酸アミドをペレット表面に付着させるに当たっては、例えば、(1)表面を特定の高温に調節したEVOHペレットと高級脂肪酸アミド粉末を接触させる方法、(2)表面を特定の高温に調節したEVOHペレットに少量の溶媒に溶解させた高級脂肪酸アミドをスプレー等して溶液コーティングする方法、(3)高級脂肪酸アミドエマルジョンをスプレー等してコーティングする方法(4)EVOHペレットと溶融状態の高級脂肪酸アミド等を接触させる等して溶融コーティングする方法等を挙げることが出来るが、(2)(3)はペレット表面において溶媒の気化を伴うため、高級脂肪酸アミドがペレット表面にて粉末化し、密着する効率が低くなる可能性があり、また(4)は高級脂肪酸アミドの添加量の調節が困難になる可能性が高いため、工業生産性の観点から(1)の方法が好ましい。
【0036】
特に本発明の製造方法においては、EVOHペレットの表面温度が、用いる高級脂肪酸アミドの融点−50℃以上であり、かつ該EVOHの融点未満の状態で高級脂肪酸アミドを接触することが重要である。これにより、高級脂肪酸アミドがペレット表面にて十分軟化し、かつEVOHペレット表面の分子状態が好適な状態となるためか、高級脂肪酸アミドがペレット表面にコーティングされたように密着するものと推測される。EVOHペレットの表面温度は好ましくは用いる高級脂肪酸アミドの融点−20℃以上であり、特に好ましくは高級脂肪酸アミドの融点以上である。
【0037】
高級脂肪酸アミドと接触する際のペレット表面温度は、通常50〜230℃であり、好ましくは100〜200℃であり、特に好ましくは120〜180℃である。かかる温度が高すぎる場合、ペレット同士が融着してブロッキングを引き起こす傾向があり、低すぎる場合、本発明の効果(滑剤由来の欠点の防止)に劣る傾向がある。
【0038】
このようにペレットの表面を調節する方法としては、たとえば、ペレットを耐熱容器に入れてオーブンや乾燥機内で所望の表面温度となるよう加熱する方法や、EVOHを押出機等の溶融成形機で溶融混練してペレット化し、表面が高温のペレットを得る方法があげられる。
かかる方法は生産効率の観点から適宜選択することが可能であり、製造しようとするペレットの製造工程に上記の工程がある場合、これを利用することが好ましい。
【0039】
<成形物の説明>
本発明のEVOHペレットおよび本発明の製造方法によって得られるEVOHペレットは、溶融成形して例えばフィルムやシート等の薄膜、袋、カップ、トレイ、チューブ、ボトル、タンク等の中空容器、蓋材等の各種成形物に供する。
【0040】
かかる溶融成形方法としては、例えばT−ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等の押出成形法、射出成形法等が挙げられる。
かかる溶融成形温度は、通常150〜300℃である。
【0041】
特に、本発明のEVOHペレットおよび本発明の製造方法によって得られるEVOHペレットは、高速・高吐出成形条件においても滑剤由来の欠点の発生が抑制され、工業生産性に優れるものである。
かかる高速・高吐出成形条件とは、一般的に圧縮比の小さいスクリューを使用して比較的高温で溶融成形することを意味するものである。すなわち混練の度合いは低くなり滑剤由来の欠点が発生しやすい状況にある。
例えば具体的には、スクリューの圧縮比が通常2.0〜3.5、さらには2.1〜3.0、特には2.2〜2.7であり、成形温度が通常220〜300℃、さらには235〜290℃、特には245〜280℃である。
また、スクリュ回転数は通常10〜100rpm、さらには20〜80rpm、特には30〜60rpmである。
【0042】
本発明のEVOHペレットおよび本発明の製造方法によって得られるEVOHペレットは、溶融成形して単独層にて各種成形物とすることができるが、機械的強度の向上やガスバリア性低下防止等の点から、EVOH層にEVOH以外の熱可塑性樹脂層を積層した多層構造体にて各種成形物に供することが好ましい。
EVOH以外の熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂(以下、「他の熱可塑性樹脂」と称することがある)としては、具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、等のポリプロピレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したものなどの広義のポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む);ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;アクリル系樹脂;ポリスチレン;ビニルエステル系樹脂;ポリエステルエラストマー;ポリウレタンエラストマー;塩素化ポリエチレン;塩素化ポリプロピレン;芳香族または脂肪族ポリケトン;さらにこれらを還元して得られるポリアルコール類が挙げられる。
中でも、樹脂組成物のガスバリア性低下を抑制する目的から疎水性樹脂を用いることが好ましく、具体的にはポリオレフィン系樹脂が好ましく、特にはポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0043】
上記樹脂組成物層および他の熱可塑性樹脂層は、多層構造体中にそれぞれ2層以上を有していても良い。
上記樹脂組成物層および他の熱可塑性樹脂層は、さらに樹脂組成物層と他の熱可塑性樹脂層との間に接着樹脂層が介在していても良い。
接着樹脂層としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその無水物をオレフィン系重合体(上述のポリオレフィン系樹脂)に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。具体的には、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等から選ばれた1種または2種
以上の混合物が好適なものとして挙げられる。このときの、熱可塑性樹脂に含有される不飽和カルボン酸又はその無水物の量は、通常0.001〜3重量%であり、好ましくは0.01〜1重量%、特に好ましくは0.03〜0.5重量%である。変性物中の変性量が少ないと、接着性が不充分となる傾向があり、逆に多いと架橋反応を起こし、成形性が悪くなる傾向がある。
これらの接着性樹脂には、EVOH(A)、他のEVOH、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分、さらにはポリオレフィン系樹脂層の樹脂等をブレンドすることも可能である。特に、接着性樹脂の母体のポリオレフィン系樹脂と異なるポリオレフィン系樹脂をブレンドすることも可能である。
【0044】
なお、他の熱可塑性樹脂層や接着樹脂層には、通常配合される公知の酸化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等が含まれていても良い。
【0045】
上記多層構造体は、本発明に係る樹脂組成物層を少なくとも1層含ものであればよく、その構成は特に限定しないが、水分による樹脂組成物のガスバリア性能の低下を防ぐ目的で、本発明の樹脂組成物層が中間層であることが好ましい。そして、他の熱可塑性樹脂層が外側層であることが好ましい。すなわち、たとえば多層構造体を包装物とした場合、他の熱可塑性樹脂層(特には疎水性樹脂層)が内包物と接触する層、および外気と接触する層となる。
【0046】
多層構造体の層構成は、樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、他の熱可塑性樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、通常3〜20層、好ましくは3〜15層、特に好ましくは3〜10層である。例えば具体的には、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。
また、かかる多層構造体は、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、樹脂組成物とEVOH以外の熱可塑性樹脂の混合物を含むリサイクル層を設けることが可能である。かかるリサイクル層をRとするとき、多層構造体の層構成は、例えばb/a/R、R/b/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等が挙げられる。
特にリサイクル層を設けることは、成形時に発生する多量のスクラップを有効に活用できる点で工業上好ましい。
【0047】
多層構造における各層の厚みは、層構成、用途や容器形態、要求される物性などにより調節される。例えば下記の通りである。なお、下記の数値は、樹脂組成物層、接着性樹脂層、他の熱可塑性樹脂層のうち少なくとも1種の層が2層以上存在する場合には、そのうちの最も厚い層の厚みを採用する。
【0048】
樹脂組成物層は通常1〜500μm、好ましくは3〜300μm、特に好ましくは5〜200μmである。樹脂組成物層が薄すぎる場合、ガスバリア性が低下する傾向があり、樹脂組成物層が厚すぎる場合、得られる成形物の柔軟性や二次加工性が低下する傾向がある。
他の熱可塑性樹脂層は通常10〜6000μm、好ましくは20〜4000μm、特に好ましくは100〜2000μmである。他の熱可塑性樹脂層が薄すぎる場合、得られる成形物の剛性が低下する傾向があり、他の熱可塑性樹脂層が厚すぎる場合、得られる成形物の柔軟性や二次加工性が低下する傾向がある。
接着性樹脂層は通常1〜100μm、好ましくは2〜50μm、特に好ましくは5〜40μmである。
また、各層の厚み比は、樹脂組成物層/他の熱可塑性樹脂層の厚み比=通常0.005〜1未満、好ましくは0.01〜1未満、特に好ましくは0.02〜0.2であり、樹脂組成物層/接着性樹脂層の厚み比=通常0.2〜100、好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5である。
【0049】
上記多層構造体は、さらに公知の方法で延伸処理を行っても良い。
なお、延伸については、公知の延伸方法でよく、例えば、一軸延伸、二軸延伸等が挙げられる。加熱延伸方法としては、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、共射出延伸ブロー法、深絞成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等のものが採用できる。二軸延伸の場合は同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる。共射出延伸ブロー法の場合はコールドパリソン法、ホットパリソン法のいずれの方式も採用できる。延伸温度は、多層構造体の温度(多層構造体近傍温度)で、通常80〜200℃、好ましくは100〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸倍率は、面積比にて、通常2〜100倍、好ましくは2〜50倍である。
【0050】
延伸処理された多層構造体における各層の厚みは、例えば下記の通りである。樹脂組成物層は通常0.1〜200μm、好ましくは1〜100μmである。他の熱可塑性樹脂層は通常1〜1000μm、好ましくは3〜500μmである。接着性樹脂層は通常0.1〜50μm、好ましくは1〜30μmである。また、各層の厚み比は、樹脂組成物層/他の熱可塑性樹脂層の厚み比=通常0.0002〜1未満、好ましくは0.01〜1未満であり、樹脂組成物層/接着性樹脂層の厚み比=0.2〜100、好ましくは1〜10である。
【0051】
上記の如く得られる多層構造体は、フィルム、シート等の薄膜、袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル、タンク等の中空容器、蓋材等の形状の容器に加工することが可能である。
かかる容器は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品、農薬品、工業薬品等の各種の包装容器として有用である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」、「%」とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
【0053】
実施例1
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物[エチレン含有量29モル%,ケン化度99.6モル%,MFR3.2g/10分(210℃、荷重2160g),融点188℃]の円柱形ペレットを100部用い、これをステンレス製容器内に入れ、窒素雰囲気下、オーブン内でペレット温度が150℃となるように加熱した。なお、かかるペレットの平均直径は2.7mmであり、平均高さは2.7mmであった。
同容器内に滑剤としてエチレンビスステアリン酸アミド[日本油脂社製“アルフローH50FP”, 粉末, 融点143℃]を0.015部配合して、よくかき混ぜてドライブレンドした。
得られたペレット表面にはエチレンビスステアリン酸アミドが付着していた。かかるペレット表面の滑剤量を下記の方法にて分析したところ、0.014部(EVOHに対して140ppm)であった。
50mlビーカーにフタル酸ジオクチル(DOP)を20g入れて、次いでEVOHペレット10gを入れてよくかき混ぜる。それから100℃に加熱したホットスターラー上で15分間加熱撹拌して、ペレット表面の滑剤をDOP中に溶出させる。滑剤が溶出したDOP液を微量窒素分析計(三菱化学社製、TN−10)に20〜30mg投入して窒素濃度を定量分析することにより、高級脂肪酸アミドの分子量から比率計算してその付着量を算出する。 かかるペレットを下記の評価に供した。
【0054】
<水洗評価>
上記ペレットを100gを500mlビーカーに入れ、イオン交換水300ml中でヘリカル翼を有するスリーワンモータを用い、水温23℃、回転数250rpm条件下で1時間水洗し、真空乾燥機で40℃で72時間乾燥後、ペレット表面の滑剤量を微量窒素分析計(三菱化学社製、TN−10)にて同様に分析した。
【0055】
<高速製膜評価>
得られたEVOHペレットを以下の高速・高吐出の条件で製膜して、500cm当たりの目視可能なラグビーボール状の穴あき欠点の数を確認した。
[製膜条件]
押出機;径40mm単軸押出機、L/D=28
ダイス;幅450mmコートハンガータイプTダイス リップクリアランス0.5mm
スクリュ;フルフライトタイプ
供給部長さ400mm,供給部深さ8.4mm
圧縮部長さ200mm
計量部長さ520mm,計量部深さ2.9mm
圧縮比2.5
スクリーンパック;90メッシュ/120メッシュ/90メッシュの三枚重ね
設定温度;C1/C2/C3/C4/H/D=180/200/245/245/245/245℃
スクリュ回転数;30rpm
冷却ロール温度;80℃
引取速度;8m/min
吐出量;12kg/hr
フィルム厚み;50μm
【0056】
実施例2
ペレット温度を100℃とした以外は実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。得られたペレット表面のエチレンビスステアリン酸アミド量を同様の手法で分析したところ、水洗前が0.013部(EVOHに対して150ppm)、水洗後が0.010部(EVOHに対して100ppm)であった。
かかるペレットを水洗評価および高速・高吐出製膜評価に供した。
【0057】
比較例1
ペレット温度を30℃とした以外は実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。得られたペレット表面のエチレンビスステアリン酸アミド量を同様の手法で分析したところ、水洗前が0.015部(EVOHに対して150ppm)、水洗後が0.009部(EVOHに対して90ppm)であった。
かかるペレットを水洗評価および高速・高吐出製膜評価に供した。
【0058】
比較例2
滑剤の配合量を0.050部とした以外は実施例1と同様にしてEVOHペレットを得た。得られたペレット表面のエチレンビスステアリン酸アミド量を同様の手法で分析したところ、水洗前が0.047部(EVOHに対して470ppm)、水洗後が0.042部(EVOHに対して420ppm)であった。
かかるペレットを水洗評価および高速・高吐出製膜評価に供した。
結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
上記表より、従来法によって得られた比較例1におけるペレットは、所定量の滑剤が表面に局在化して存在するものであったが、高速・高吐出製膜評価におけるフィード性が良好であるけれども製膜したフィルム中の欠点数が3個となり、改善の余地があることが判る。
かかる欠点を分析したところ、中心部から粉末が確認され、その粉末をIRで分析したところ滑剤であることが判明した。水洗試験により脱落した滑剤量が40重量%と多いことから、溶融成形機内のペレット溶融時にペレット表面から脱落して遊離し、単独で存在する滑剤が、溶融成形時に樹脂中に混練・分散されることなくそのまま成形物中に押し出された結果、かかる欠点の発生を誘起したものと推測される。
【0061】
これに対して実施例1における本発明のペレットは、所定量の滑剤が表面に局在化して存在しつつも、高速・高吐出製膜評価におけるフィード性が良好であり、かつ製膜したフィルム中の欠点数が0個となり、従来の高級脂肪酸アミド表面付着ペレットが有するフィード安定性、ゲル発生防止効果を有しつつ、高速・高吐出成形条件下においても成形物中の欠点の発生が防止されたことが明らかである。なお、かかるペレットの水洗試験により脱落した滑剤量は、14重量%と非常に少なかったことから、滑剤が良好にペレット表面に密着し、脱落して遊離することが無かったため、上記欠点の発生が防止されたものと推測される。
【0062】
なお、かかる本発明のペレットは、EVOHペレットの表面温度を150℃とし、エチレンビスステアリン酸アミドの融点(143℃)−50℃以上の状態でエチレンビスステアリン酸アミドと接触させることにより得られたものであり、これによってペレット表面にエチレンビスステアリン酸アミドが密着したことにより、上記効果が得られたものであると推測される。
【0063】
また、比較例2によれば、本願規定の量を超えた滑剤を添着しようとするものであるが、これによれば、水洗により脱落する滑剤の割合は少ないものの、その絶対量が多いためか、欠点数が40個と非常に多い結果となった。
これは、ペレット表面付近の滑剤はペレットの温度により軟化するが、かかる表面から遠い場所に存在する滑剤は軟化せず、単に接触付着するのみであるために水洗によって容易に落ちるためと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上の結果より、本発明のEVOHペレットおよび本願発明の製造方法によって得られるペレットは、ペレット表面に付着した滑剤である高級脂肪酸アミドが全てペレットに密着し、溶融成形機内で該滑剤が脱落して遊離しないため、従来の滑剤表面付着ペレットが有するフィード安定性、ゲル発生防止効果を有しつつも、高速・高吐出の成形条件下においても成形物中の欠点の発生が防止されるという効果が得られるので、かかるペレットから得られる成形物(フィルム、シート、チューブ、袋、ボトル、タンク、カップやトレーなど)は、食品や医薬品、農薬品、工業薬品等の包装用途に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対して重量基準にて10〜400ppmの高級脂肪酸アミドが表面に付着したエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットであり、
該ペレット100gを500mlビーカーを用いてイオン交換水300ml中でヘリカル翼を有するスリーワンモータにより、水温23℃において回転数250rpmで1時間水洗したときの該高級脂肪酸アミドの脱落量が、水洗前の表面付着量の35重量%未満であることを特徴とするエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレット。
【請求項2】
請求項1記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットを溶融成形して得られることを特徴とするエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物成形物。
【請求項3】
請求項1記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットを、押出成形機を用いて、圧縮比2.0〜3.5のスクリューを用いて押出成形することを特徴とするエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物成形物の製造方法。
【請求項4】
エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対して重量基準にて10〜400ppmの高級脂肪酸アミドが表面に付着したエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットを得るに際し、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットの表面温度を、該高級脂肪酸アミドの融点−50℃以上とし、かつ該エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物の融点未満にて高級脂肪酸アミドと接触させることを特徴とするエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットの製造方法。
【請求項5】
高級脂肪酸アミドの融点が、100〜250℃であることを特徴とする請求項4記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットの製造方法。
【請求項6】
ペレットの表面温度が、50〜230℃であることを特徴とする請求項4または5記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットの製造方法。
【請求項7】
上記温度調節したペレットに、粉末の高級脂肪酸アミドを接触させることを特徴とする請求項4〜6いずれか記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物ペレットの製造方法。

【公開番号】特開2012−92160(P2012−92160A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238338(P2010−238338)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】