説明

エチレン低重合体の製造方法

【課題】クロム系触媒を用いるエチレン低重合体の製造方法において、エチレン低重合体が分離されたハイボイラーからクロム系触媒等の分解生成物が生じにくい条件でデセンを回収する方法を提供する。
【解決手段】クロム系触媒を用いるエチレンの低重合反応により得られたエチレン低重合体を含む反応液から、蒸留操作によりエチレン低重合体とクロム系触媒、デセン、テトラデセン、及び副生ポリマーを含むハイボイラーとを分離し、次いで、ハイボイラーを蒸発分離器70及び液溜タンク80によりテトラデセン濃度が5重量%以上になるように濃縮すると共に、デセンを下記一般式(1)を満たすように蒸発分離する。式(1)中、Tは、蒸発分離器70における残溶液の温度、θは、蒸発分離器70における残溶液の滞留時間である。
θ/1.2EXP(850/T)≦1 (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン低重合体の製造方法に関し、より詳しくは、1−ヘキセン等のエチレン低重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン等のα−オレフィンを原料として、クロム系触媒を用いて1−ヘキセン等のα−オレフィン低重合体が選択的に得られる製造方法が知られている。
例えば、特許文献1においては、クロム化合物、アミン等の窒素含有化合物、アルキルアルミニウム化合物及びハロゲン含有化合物からなるクロム系触媒を用いて、1−ヘキセンを主体とするα−オレフィン低重合体を高収率及び高選択率に得られる製造方法が報告されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平08−003216号公報
【特許文献2】特開平10−109946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エチレンを原料とするエチレン低重合体の場合、通常、副反応生成物として、デセン、テトラデセン及びポリエチレン等の副生ポリマーが生じる。このような、副反応生成物は反応液からクロム系触媒と共に分離される。このとき、分離されたデセン、テトラデセン、及びポリエチレン等の副生ポリマーは、クロム系触媒と共に、通常、廃棄される。
しかし、廃棄されるデセンを回収し、例えば、燃料或いは溶剤等の製品として、また、溶媒としてリサイクル使用し、有効利用する場合がある。
【0005】
このように、デセンを有効に利用するためには、回収したデセン中に含まれる不純物の種類及び/または量が問題となる。
特に、クロム系触媒を用いてα−オレフィン低重合体を得る製造方法においては、クロム系触媒の構成成分として窒素化合物やハロゲン化合物が用いられるため、これらの化合物が回収されたデセン中に混入する可能性が大きい。また、濃縮分離操作が高温条件下で行われると、クロム系触媒の分解生成物が回収されたデセンに混入する場合もある。
【0006】
本発明は、このようなエチレン低重合体の製造方法における技術的な問題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、クロム系触媒を用いるエチレン低重合体の製造方法において、未反応エチレン、1−ヘキセン、溶媒が分離された残溶液からクロム系触媒の分解生成物が生じにくい条件でデセンを回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を達成するに至った。
かくして本発明によれば、クロム系触媒を用いるエチレン低重合体の製造方法であって、クロム系触媒の存在下、溶媒中でエチレンの低重合反応を行い、エチレンの低重合反応により得られた反応液から、エチレン低重合体を分離してデセン及びテトラデセンを含む溶液を得、下記一般式(1)の条件下で、蒸発分離器により、デセン及びテトラデセンを含む溶液からデセンを分離回収することを特徴とするエチレン低重合体の製造方法が提供される。
【0008】
【数1】

【0009】
(一般式(1)中、Tは、蒸発分離器における残溶液の温度(℃)であり、θは、蒸発分離器における残溶液の滞留時間(分)である。)
【0010】
ここで、本発明が適用されるエチレン低重合体の製造方法において、蒸発分離器により分離されたデセン中に含まれるハロゲン量が、蒸発分離器における残溶液に含まれるハロゲン量に対し、分解率10%以下であることが好ましい。
また、本発明が適用されるエチレン低重合体の製造方法において使用するクロム系触媒は、少なくとも、クロム化合物(a)と、窒素含有化合物(b)と、アルミニウム含有化合物(c)及びハロゲン含有化合物(d)と、の組み合わせから構成されることが好ましい。
また、使用する蒸発分離器が、薄膜式蒸発器であることが好ましい。
さらに、エチレン低重合体が、1−ヘキセンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、未反応エチレン、1−ヘキセン、溶媒が分離された残溶液(ハイボイラー、高沸点副生成物液とも呼ぶ)からクロム系触媒の分解生成物の含有量が少ないデセンを回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0013】
(エチレン)
本実施の形態が適用されるエチレン低重合体の製造方法において、原料として使用するエチレンとしては、エチレン以外の不純物成分を含んでいても構わない。具体的な成分としては、メタン、エタン、アセチレン、二酸化炭素等が挙げられる。これらの成分は、原料のエチレンに対して0.1mol%以下であることが好ましい。
【0014】
(クロム系触媒)
次に、クロム系触媒について説明する。本実施の形態において使用するクロム系触媒としては、少なくとも、クロム化合物(a)、アミン、アミド及びイミドより成る群から選ばれる1種以上の窒素含有化合物(b)、アルミニウム含有化合物(c)との組み合わせから構成される触媒が挙げられる。
さらに、本実施の形態において使用するクロム系触媒には、第4成分としてハロゲン含有化合物(d)が含まれる。以下、各成分について説明する。
【0015】
(クロム化合物(a))
本実施の形態で使用するクロム化合物(a)は、一般式、CrXで表される1種以上の化合物が挙げられる。ここで、一般式中、Xは、任意の有機基又は無機基もしくは陰性原子、nは1から6の整数を表し、2以上が好ましい。nが2以上の場合、Xは同一又は相互に異なっていても良い。
有機基としては、炭素数1〜炭素数30の炭化水素基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、β−ジケトナート基、β−ケトカルボキシル基、β−ケトエステル基、アミド基等が例示される。
また、無機基としては、硝酸基、硫酸基等のクロム塩形成基が挙げられる。また、陰性原子としては、酸素、ハロゲン等が挙げられる。ここで、ハロゲン含有クロム化合物は、後述するハロゲン含有化合物(d)には含まれない。
【0016】
クロム(Cr)の価数は0価乃至6価である。好ましいクロム化合物(a)としては、クロム(Cr)のカルボン酸塩が挙げられる。クロムのカルボン酸塩の具体例としては、例えば、クロム(II)アセテート、クロム(III)アセテート、クロム(III)−n−オクタノエート、クロム(III)−2−エチルヘキサノエート、クロム(III)ベンゾエート、クロム(III)ナフテネート等が挙げられる。これらの中でも、クロム(III)−2−エチルヘキサノエートが特に好ましい。
【0017】
(窒素含有化合物(b))
本実施の形態で使用する窒素含有化合物(b)は、アミン、アミド及びイミドから成る群から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。アミンとしては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、又はこれらの混合物が挙げられる。アミドとしては、1級アミン化合物又は2級アミン化合物から誘導される金属アミド化合物又はこれらの混合物、酸アミド化合物が挙げられる。イミドとしては、1,2−シクロヘキサンジカルボキシミド、スクシンイミド、フタルイミド、マレイミド等及びこれらの金属塩が挙げられる。
【0018】
本実施の形態で使用する好ましい窒素含有化合物(b)としては、2級アミン化合物が挙げられる。2級アミン化合物の具体例としては、例えば、ピロール、2,4−ジメチルピロール、2,5−ジメチルピロール、2−メチル−5−エチルピロール、2,5−ジメチル−3−エチルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジクロロピロール、2,3,4,5−テトラクロロピロール、2−アセチルピロール等のピロール、又はこれらの誘導体が挙げられる。
【0019】
誘導体としては、例えば、金属ピロライド誘導体が挙げられ、具体例としては、例えば、ジエチルアルミニウムピロライド、エチルアルミニウムジピロライド、アルミニウムトリピロライド、ナトリウムピロライド、リチウムピロライド、カリウムピロライド、ジエチルアルミニウム(2,5−ジメチルピロライド)、エチルアルミニウムビス(2,5−ジメチルピロライド)、アルミニウムトリス(2,5−ジメチルピロライド)、ナトリウム(2,5−ジメチルピロライド)、リチウム(2,5−ジメチルピロライド)、カリウム(2,5−ジメチルピロライド)等が挙げられる。これらの中でも、特に、2,5−ジメチルピロール、ジエチルアルミニウム(2,5−ジメチルピロライド)が好ましい。
ここで、アルミニウムピロライド類は、アルミニウム含有化合物(c)には含まれない。また、ハロゲンを含有するピロール化合物は、ハロゲン含有化合物(d)には含まれない。
【0020】
(アルミニウム含有化合物(c))
本実施の形態で使用するアルミニウム含有化合物(c)は、トリアルキルアルミニウム化合物、アルコキシアルキルアルミニウム化合物、水素化アルキルアルミニウム化合物等の1種以上の化合物が挙げられる。例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムヒドリド等が挙げられる。中でも特に、トリエチルアルミニウムが好ましい。
【0021】
(ハロゲン含有化合物(d))
本実施の形態で使用するクロム系触媒には、第4成分としてハロゲン含有化合物(d)が含まれる。ハロゲン含有化合物(d)としては、例えば、ハロゲン化アルキルアルミニウム化合物、3個以上のハロゲン原子を有する炭素数2以上の直鎖状ハロ炭化水素、3個以上のハロゲン原子を有する炭素数3以上の環状ハロ炭化水素の1種以上の化合物が挙げられる。(ハロゲン化アルキルアルミニウム化合物は、アルミニウム含有化合物(c)には、含まない。)例えば、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、四塩化炭素、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、1,2,3−トリクロロシクロプロパン、1,2,3,4,5,6−ヘキサクロロシクロヘキサン、1,4−ビス(トリクロロメチル)−2,3,5,6−テトラクロロベンゼン等が挙げられる。
【0022】
本実施の形態において、エチレンの低重合は、クロム化合物(a)とアルミニウム含有化合物(c)とが予め接触しない、又は予めの接触時間が短い態様でエチレンとクロム系触媒とを接触させるのが好ましい。このような接触態様により、選択的にエチレンの三量化反応を行わせ、原料のエチレンから1−ヘキセンを高収率で得ることができる。
【0023】
上記の連続反応形式における接触態様は、具体的には、たとえば、下記(1)〜(9)が挙げられる。
(1)触媒成分(a)、(b)及び(d)の混合物、触媒成分(c)をそれぞれ同時に反応器に導入する方法。
(2)触媒成分(b)〜(d)の混合物、触媒成分(a)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(3)触媒成分(a)及び(b)の混合物、触媒成分(c)及び(d)の混合物をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(4)触媒成分(a)及び(d)の混合物、触媒成分(b)及び(c)の混合物をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(5)触媒成分(a)及び(b)の混合物、触媒成分(c)、触媒成分(d)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(6)触媒成分(c)及び(d)の混合物、触媒成分(a)、触媒成分(b)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(7)触媒成分(a)及び(d)の混合物、触媒成分(b)、触媒成分(c)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(8)触媒成分(b)及び(c)の混合物、触媒成分(a)、触媒成分(d)をそれぞれ同時に反応器に供給する方法。
(9)各触媒成分(a)〜(d)をそれぞれ同時かつ独立に反応器に供給する方法。
上述した各触媒成分は、通常、反応に使用される溶媒に溶解して反応器に供給される。
【0024】
ここで、「クロム化合物(a)とアルミニウム含有化合物(c)とが予め接触しない態様」とは、反応の開始時に限定されず、その後の追加的なエチレン及び触媒成分の反応器への供給においても、このような態様が維持されることを意味する。
また、バッチ反応形式についても同様の態様を利用するのが望ましい。
【0025】
本実施の形態で使用するクロム系触媒の各構成成分の比率は、通常、クロム化合物(a)1モルに対し、窒素含有化合物(b)1モル〜50モル、好ましくは1モル〜30モルであり、アルミニウム含有化合物(c)1モル〜200モル、好ましくは10モル〜150モルである。また、ハロゲン含有化合物(d)は、クロム化合物(a)1モルに対し、ハロゲン含有化合物(d)は1モル〜50モル、好ましくは1モル〜30モルである。
【0026】
本実施の形態において、クロム系触媒の使用量は特に限定されないが、通常、後述する溶媒1リットルあたり、クロム化合物(a)のクロム原子あたり1.0×10−7モル〜0.5モル、好ましくは5.0×10−7モル〜0.2モル、更に好ましくは1.0×10−6モル〜0.05モルとなる量である。
このようなクロム系触媒を用いることにより、選択率90%以上でエチレンの三量体であるヘキセンを得ることができる。さらに、この場合、ヘキセンに占める1−ヘキセンの比率を99%以上にすることができる。
【0027】
(溶媒)
本実施の形態が適用されるエチレン低重合体の製造方法では、エチレンの低重合反応を溶媒中で行うことができる。
このような溶媒としては特に限定されないが、例えば、ブタン、ペンタン、3−メチルペンタン、ヘキサン、へプタン、2−メチルヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、デカリン等の炭素数1〜炭素数20の鎖状飽和炭化水素又は脂環式飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素等が使用される。また、エチレン低重合体を溶媒として用いてもよい。これらは、単独で使用する他、混合溶媒として使用することもできる。
特に、溶媒としては、炭素数4〜炭素数10の鎖状飽和炭化水素又は脂環式飽和炭化水素が好ましい。これらの溶媒を使用することにより、ポリエチレン等の副生ポリマーを抑制することができ、更に、脂環式飽和炭化水素を使用した場合は、高い触媒活性が得られる傾向がある。
【0028】
(エチレン低重合体の製造方法)
本発明におけるエチレン低重合体とは、モノマーであるエチレンが数個結合したものであるが、具体的には、モノマーであるエチレンが2個〜10個結合した重合体のことをいう。そして、エチレン低重合体としてエチレンの三量体である1−ヘキセンの製造を例に挙げ、エチレン低重合体の製造方法について説明する。
【0029】
図1は、本実施の形態におけるエチレン低重合体の製造フロー例を説明する図である。図1に示すエチレンを原料とする1−ヘキセンの製造フロー例には、エチレンをクロム系触媒存在下で低重合させる完全混合撹拌型の反応器10と、反応器10から抜き出された反応液から未反応エチレンガスを分離する脱ガス槽20と、脱ガス槽20から抜き出された反応液中のエチレンを溜出させるエチレン分離塔30と、エチレン分離塔30から抜き出された反応液からデセン、テトラデセン、及び副生ポリマーを含む溶液(以下、HB(ハイボイラー)と記す。)を分離する高沸分離塔40と、高沸分離塔40の塔頂から抜き出された反応液を蒸留し、1−ヘキセンを溜出させるヘキセン分離塔50とが示されている。
【0030】
また、脱ガス槽20及びコンデンサー16において分離された未反応エチレンを、循環配管21を介して反応器10に循環させる圧縮機17が設けられている。
尚、本実施の形態におけるハイボイラーには、エチレンの低重合反応の副生成物であるデセン、テトラデセン及び副生ポリマーが多く含有されるが、微量の触媒成分も含まれている。
【0031】
図1において、反応器10としては、例えば、撹拌機10a、バッフル、ジャケット等が付設された従来周知の形式のものが挙げられる。撹拌機10aとしては、パドル、ファウドラー、プロぺラ、タービン等の形式の撹拌翼が、平板、円筒、ヘアピンコイル等のバッフルとの組み合わせで用いられる。
【0032】
図1に示すように、エチレン供給配管12aから圧縮機17及び第1供給配管12を介して、反応器10にエチレンが連続的に供給される。ここで、圧縮機17が、例えば、2段圧縮方式であれば、1段目に循環配管31を接続し、2段目に循環配管21を接続する事で、電気代を低減する事も可能である。他方、触媒供給配管13aを介して第2供給配管13からクロム化合物(a)及び窒素含有化合物(b)が供給され、第3供給配管14からアルミニウム含有化合物(c)が供給され、第4供給配管15からハロゲン含有化合物(d)が供給される。また、第2供給配管13からは、エチレンの低重合反応に使用する溶媒が反応器10に供給される。
【0033】
本実施の形態では、反応器10における反応温度としては、通常、0℃〜250℃、好ましくは50℃〜200℃、更に好ましくは80℃〜170℃である。
また、反応圧力としては、通常、常圧〜250kgf/cm、好ましくは、5kgf/cm〜150kgf/cm、さらに好ましくは10kgf/cm〜100kgf/cmの範囲である。
【0034】
さらに、エチレンの三量化反応は、反応液中のエチレンに対する1−ヘキセンのモル比((反応液中の1−ヘキセン)/(反応液中のエチレン))が0.05〜1.5、特に0.10〜1.0となるように行うのが好ましい。即ち、連続反応の場合には、反応液中のエチレンと1−ヘキセンとのモル比が上記の範囲になるように、触媒濃度、反応圧力その他の条件を調節することが好ましい。また、回分反応の場合には、モル比が、上記の範囲にある時点において、エチレンの三量化反応を中止させることが好ましい。
このような条件でエチレンの三量化反応を行うことにより、1−ヘキセンよりも沸点の高い成分の副生が抑制されて、1−ヘキセンの選択率が更に高められる傾向がある。
【0035】
次に、反応器10の底から配管11を介して連続的に抜き出された反応液は、失活剤供給配管11aから供給された失活剤によりエチレンの三量化反応が停止され、脱ガス槽20に供給される。脱ガス槽20では上部から未反応エチレンが脱ガスされ循環配管21、コンデンサー16、圧縮機17及び第1供給配管12を介して反応器10に循環供給される。また、脱ガス槽20の槽底から未反応エチレンが脱ガスされた反応液が抜き出される。
脱ガス槽20の運転条件は、通常、温度0℃〜250℃、好ましくは、50℃〜200℃であり、圧力は常圧〜150kgf/cm、好ましくは、常圧〜90kgf/cmである。
【0036】
続いて、脱ガス槽20において未反応エチレンが脱ガスされた反応液は、脱ガス槽20の槽底から抜き出され、配管22によりエチレン分離塔30に供給される。エチレン分離塔30では蒸留により塔頂部からエチレンが溜出され、循環配管31及び第1供給配管12を介して反応器10に循環供給される。また、塔底部からエチレンが除去された反応液が抜き出される。
エチレン分離塔30の運転条件は、通常、塔頂部圧力は常圧〜30kgf/cm、好ましくは、常圧〜20kgf/cm、また、還流比(R/D)は、通常、0〜500、好ましくは、0.1〜100である。
【0037】
次に、エチレン分離塔30においてエチレンを溜出した反応液は、エチレン分離塔30の塔底から抜き出され、配管32により高沸分離塔40に供給される。高沸分離塔40では、塔頂から配管41によりエチレン低重合体である1−ヘキセンを含む溜出物が抜き出される。また、塔底からは、HB(ハイボイラー)が抜き出され、後述する蒸発分離器(図示せず)に供給される。尚、蒸発分離器におけるハイボイラーの処理については後述する。
高沸分離塔40の運転条件は、通常、塔頂部圧力0.1kgf/cm〜10kgf/cm、好ましくは、0.5kgf/cm〜5kgf/cm、また、還流比(R/D)は、通常、0〜100、好ましくは、0.1〜20である。
【0038】
続いて、高沸分離塔40の塔頂から抜き出された1−ヘキセンを含む留出物は、配管41によりヘキセン分離塔50に供給される。ヘキセン分離塔50では塔頂から蒸留による1−ヘキセンが配管51により溜出される。また、ヘキセン分離塔50の塔底からヘプタンが抜き出され、溶媒循環配管52を介して溶媒ドラム60に貯留され、さらに、第2供給配管13を介して反応溶媒として反応器10に循環供給される。
ヘキセン分離塔50の運転条件は、通常、塔頂部圧力0.1kgf/cm〜10kgf/cm、好ましくは、0.5kgf/cm〜5kgf/cm、また、還流比(R/D)は、通常、0〜100、好ましくは0.1〜20である。
【0039】
(蒸発分離器)
次に、高沸分離塔40の塔底から抜き出されたハイボイラーの処理について説明する。
図2は、蒸発分離器によるハイボイラーの蒸発分離のフロー例を説明する図である。図2に示す蒸発分離のフロー例には、前述した高沸分離塔40(図1参照)の塔底から抜き出されたハイボイラーを濃縮すると共に、ハイボイラー中のデセンを分離する蒸発分離器70と、デセンが分離され、且つ、濃縮されたテトラデセンと副生ポリマーを含んだ高粘度のハイボイラーの残りである残溶液を貯留する液溜タンク80と、残溶液が排出されるギアポンプ80cが示されている。
また、図2に示すように、蒸発分離器70によりハイボイラーから蒸発分離された気体上のデセンを液化するコンデンサー81が設けられている。
【0040】
ここで、蒸発分離器70としては、特に限定されず従来公知の各種のものが使用し得る。例えば、充填塔、円筒内型の伝熱面に対して回転する掻き取り羽根等を備えた薄膜式蒸発器、濡れ壁式蒸発器等が挙げられる。本実施の形態では、蒸発分離器70として、より短時間で高濃縮が可能な薄膜式蒸発器を使用している。
【0041】
図2において、前述した高沸分離塔40(図1参照)の塔底Aから配管42を介して抜き出され、1−ヘキセンを含む成分が蒸留分離されたハイボイラーは、ハイボイラフィード42cにより蒸発分離器70に供給され、所定の操作条件によりハイボイラー中のデセンが蒸発分離される。
【0042】
蒸発分離器70に供給されたハイボイラーは、デセンが蒸発分離されることにより濃縮される。濃縮の程度は、残溶液中に含まれるテトラデセン濃度が、5重量%以上、好ましくは、10重量%以上になる程度に濃縮される。但し、濃縮率(デセン回収率)を上げるために、過度に高温条件や長時間を熱処理されると触媒成分の分解が促進され、蒸発分離されるデセン中に、ハロゲン化合物等の混入量が増大する傾向がある。
【0043】
触媒残渣の熱分解により生成するクロル化合物としては、1−クロロ−2−エチルヘキシル、クロロデカン、クロロドデカン等がある。
【0044】
分析は原子発光検出器(塩素原子)を有したガスクロマトグラフィーによる分析を行なった。塩素原子を含むピークの全面積から塩素濃度を算出した。
【0045】
ここで、本実施の形態において、エチレン低重合体が蒸留分離されたハイボイラーは、蒸発分離器70によりハイボイラー中のデセンを、下記一般式(1)を満たすように蒸発分離する。
蒸発分離器70により、下記一般式(1)を満たすようにハイボイラーからデセンを蒸発分離することにより、蒸発分離されたデセン中に含まれるハロゲン量を、蒸発分離器70に供給されるハイボイラーに含まれる全ハロゲン量に対し、分解率10%以下に抑制することができる。
【0046】
【数2】

【0047】
(一般式(1)中、Tは、蒸発分離器における残溶液の温度(℃)であり、θは、蒸発分離器における残溶液の滞留時間(分)である。)
【0048】
一般式(1)は、クロル含有触媒残渣の熱分解によるクロル化合物の生成を抑制するために、ハイボイラーを濃縮する際の、蒸発分離器における温度と滞留時間との関係を示したものである。
クロル含有触媒残渣の熱分解により生成するクロル化合物の、生成の反応速度rは、r=kθ(k:速度定数、θ:滞留時間)で定義される。ここで、速度定数kは、生成反応の温度依存性を有し、この温度依存性をアレニウスの式として表したものが、一般式(1)における{1.2EXP(850/T)}の項である。
よって、クロル含有触媒残渣の熱分解による分解速度式は、r=k’×{1.2EXP(850/T)θ}で表される。この分解速度式において、温度Tと滞留時間θを決めれば、クロル含有触媒残渣の分解を抑制できることを意味している。
【0049】
ここで、図3は、本実施の形態における蒸発分離操作を行う一般式(1)の範囲を説明する図である。即ち、図3に示すように、蒸発分離器70及び液溜タンク80における蒸発分離操作を行う上記一般式(1)を満たす範囲は、残溶液の温度T(℃)を横軸とし、蒸発分離器70及び液溜タンク80における残溶液の滞留時間θ(分)を縦軸とすると、図3において斜線で示される領域として示される。
【0050】
本実施の形態において、蒸発分離器70及び液溜タンク80においてハイボイラー中のデセンを蒸発分離するための温度Tは、上記の条件の関係を満たすことを前提として、通常、80℃〜230℃、好ましくは、100℃〜200℃である。蒸発分離するための温度が過度に高いと、残溶液中のクロム系触媒等の分解が促進される傾向がある。
また、蒸発分離器70においてハイボイラー中のデセンを蒸発分離するための残溶液の滞留時間θは、上記の一般式(1)の関係を満たすことを前提として、通常、10分から1600分の間である。滞留時間θが過度に長いと、残溶液の濃縮が進み、蒸発分離器70の伝熱面が汚染される傾向がある。
【0051】
蒸発分離器70において蒸発分離された気体状のデセンは、配管80aを介してコンデンサー81に送られる。コンデンサー81において冷却された液状のデセンは、留出液Bとして回収される。
【0052】
尚、液溜タンク80に貯留された高粘度の残溶液は、含まれる副生ポリマーの可塑性によって液溜タンク80の底部から流れ落ち、ギアポンプ80cにより産業廃棄物Cとして廃棄される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(参考例1)
図1に示すように、反応器10、コンデンサー16、脱ガス槽20、エチレン分離塔30、高沸分離塔40、ヘキセン分離塔50及び、循環溶媒を貯蔵する溶媒ドラム60を有するプロセスにおいて、以下のエチレンの連続低重合反応を行う。
エチレンは、エチレン供給配管12aから新たに供給されるエチレンと共に、脱ガス槽20及びエチレン分離塔30から分離された未反応エチレンを、圧縮機17により第1供給配管12から反応器10に連続供給する。
また、溶媒は、ヘキセン分離塔50にて分離された回収n−ヘプタン溶媒を、溶媒ドラム60(2kgf/cm窒素シール)を経由し、流量40L/Hrで第2供給配管13から反応器10に連続供給する。
【0055】
次に、触媒は、クロム(III)2−エチルヘキサノエート(a)と2,5−ジメチルピロール(b)とを含有するn−ヘプタン溶液を、流量0.1L/Hrで、触媒供給配管13aから第2供給配管13を介して反応器10に連続供給する。
また、トリエチルアルミニウム(c)のn−ヘプタン溶液を、流量0.03L/Hrで、第3供給配管14から反応器10に連続供給する。さらに、ヘキサクロロエタン(d)のn−ヘプタン溶液を、流量0.02L/Hrで、第4供給配管15から反応器10に連続供給する。
尚、触媒の各成分のモル比は、(a):(b):(c):(d)=1:6:40:4である。また、触媒の各成分の溶液は、2kgf/cmに窒素シールされたタンク(図示せず)から供給する。
【0056】
反応器10におけるエチレンの連続低重合反応の反応条件は、120℃×51kgf/cmである。
反応器10から連続的に抜き出された反応液は、失活剤供給配管11aから、金属可溶化剤として2−エチルヘキサノールが流量0.005L/Hrで添加された後、順次、脱ガス槽20、エチレン分離塔30、高沸分離塔40、ヘキセン分離塔50にて処理される。
【0057】
ここで高沸分離塔40の塔底から抜き出されるハイボイラーをガスクロマトグラフィー(GC)で分析すると、デセン95重量%、テトラデセン2重量%であり、残り3重量%は、GCにて検出されない副生ポリマー及び触媒成分等のその他のものである。
【0058】
(実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例5)
<ハイボイラー原料の調製>
300mLのSUS製オートクレーブに、トリス2−エチルヘキサン酸クロム(0.243mmol)、2,5−ジメチルピロール(1.46mmol)、トリエチルアルミニウム(1.46mmol)をヘプタン溶媒中で前調整されたクロム系触媒1.25g−Cr/Lを94mL、トリエチルアルミニウム100g/Lのヘプタン溶液を9.4mL、ヘキサクロロエタン7.37g/Lのヘプタン溶液を31.2mL及びヘプタンを6.8mL窒素下で仕込んだ。オートクレーブを密閉後140℃に昇温し、1時間加熱した。その後2−エチルヘキサノールを4.27mL加えて触媒を失活させたのち、更に160℃で6時間加熱した。その後、95℃まで降温し、オートクレーブ内に窒素ガスを流通させながら、ヘプタン留去し触媒成分が乾固するまで乾燥させた。このように得られた固形物をハイボイラー原料とした。
【0059】
<サンプル調製>
次に4mLのSUS製小型容器に窒素下で、1−デセン2mLと上記調製した触媒固形物を0.2g仕込んだ。仕込み直後の1−デセン溶液中の塩素濃度はゼロである。
【0060】
<熱処理実験>
このように調製したサンプルの容器を密閉後、所定の処理温度T(℃)に調温されたサンドバスに小型容器を浸し、上下に振盪して内容液を撹拌しながら所定の処理時間θ(分)で熱処理した。その後、水浴に小型容器を水没させて冷却した。
処理後の液の溶液中の塩素濃度分析は原子発光検出器を具したガスクロマトグラフィー(AED/GC)を用いて以下の条件で行った。
【0061】
分析装置:ガスクロマトグラフィー(Agilent 6890)
原子発光検出器(塩素原子) Agilent G2350A(Cl 479nm)
Supelcowax−10 強極性 0.32mm 60m 0.25μm
測定条件: ガス He=40cm/s
注入口温度 250℃
カラム温度 50℃→200℃ 10℃/min
【0062】
塩素濃度の定量のためのキャリブレーションは、トリクロロエチレンのメーキャップ液で行なった。サンプル分析では、塩素原子を含むピークの全面積から塩素濃度を算出した。
尚、本実験では塩素成分として1−クロロ−2−エチルヘキサン、3−クロロデカン等が検出された。一方、仕込み原料中の塩素濃度は、塩素含有化合物の仕込量から算出したが、処理後に全量塩素が液中に存在した場合の塩素濃度は285重量ppmと計算された。
分解率(%)はサンプルの塩素濃度分析値(wtppm)/285wtppmとして算出した。上記と同じ条件で調整したサンプルに対して、処理温度T(℃)と処理時間θ(分)を変えて行い、前述した一般式(1)を満足するものを実施例1〜5、一般式(1)の条件を満足しないものを比較例1〜5として、表1にその結果をまとめた。
尚、表1中の「一般式(1)の左辺」とは、この実験での、処理温度T(℃)と処理時間θ(分)を、それぞれ前述した一般式(1)の残溶液の温度T(℃)と滞留時間θ(分)に代入して、得られた左辺の計算結果である。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示す結果から、前述した一般式(1)を満たすように、処理温度T(℃)と処理時間θ(分)で上記サンプルを熱処理すれば、ハイボイラー原料に含まれる塩素の分解(分解率(%))が少ないことが分かる。
尚、前述したサンプルには、参考例1の高沸分離塔40の塔底から抜き出されるハイボイラーに含まれる触媒成分の約10倍量の触媒成分が含まれており、表1に示す結果から、参考例1のハイボイラーを、前述した一般式(1)を満たすように蒸発分離することによって(実施例1〜実施例5)、回収されたデセン中に含まれる塩素量が減少し、蒸発分離操作前のハイボイラーに含まれる塩素量に対し、分解率10%以下に抑制される効果が期待できることは明らかである。
一方、前述した一般式(1)を満たさずに蒸発分離操作を行うと(比較例1〜比較例5)、回収されたデセン中に含まれる塩素量が増大することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施の形態におけるエチレン低重合体の製造フロー例を説明する図である。
【図2】蒸発分離器によるハイボイラーの蒸発分離のフロー例を説明する図である。
【図3】本実施の形態における蒸発分離操作を行う一般式(1)の範囲を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
10…反応器、10a…撹拌機、11,22,32,41,42,51,80a…配管、11a…失活剤供給配管、12…第1供給配管、12a…エチレン供給配管、13…第2供給配管、13a…触媒供給配管、14…第3供給配管、15…第4供給配管、21,31…循環配管、16,81…コンデンサー、17…圧縮機、20…脱ガス槽、30…エチレン分離塔、40…高沸分離塔、42c…ハイボイラフィード、50…ヘキセン分離塔、52…溶媒循環配管、60…溶媒ドラム、70…蒸発分離器、80…液溜タンク、80c…ギアポンプ、A…塔底、B…留出液、C…産業廃棄物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム系触媒を用いるエチレン低重合体の製造方法であって、クロム系触媒の存在下、溶媒中でエチレンの低重合反応を行い、当該エチレンの低重合反応により得られた反応液から、エチレン低重合体を分離してデセン及びテトラデセンを含む溶液を得、下記一般式(1)の条件下で、蒸発分離器により、デセン及びテトラデセンを含む前記溶液からデセンを分離回収することを特徴とするエチレン低重合体の製造方法。
【数1】

(一般式(1)中、Tは、蒸発分離器における残溶液の温度(℃)であり、θは、蒸発分離器における残溶液の滞留時間(分)である。)
【請求項2】
前記蒸発分離器により分離されたデセン中に含まれるハロゲン量が、前記蒸発分離器における残溶液に含まれるハロゲン量に対し、分解率10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項3】
前記クロム系触媒は、少なくとも、クロム化合物(a)と、窒素含有化合物(b)と、アルミニウム含有化合物(c)及びハロゲン含有化合物(d)と、の組み合わせから構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項4】
前記蒸発分離器が、薄膜式蒸発器であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエチレン低重合体の製造方法。
【請求項5】
前記エチレン低重合体が、1−ヘキセンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエチレン低重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−178873(P2008−178873A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341323(P2007−341323)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】