説明

エッチング方法

【課題】被処理体に対する熱の影響を抑えることができるエッチング方法を提供すること。
【解決手段】光の照射を受けて化学的に活性化するエッチング材料を含んだエッチングガス層を被処理体上に形成する層形成工程と、前記被処理体と前記エッチングガス層との界面に前記光を照射する光照射工程とを含む。エッチングガス層に光を照射し当該エッチングガス層に含まれるエッチング材料を化学的に活性化させることで、エッチング材料のラジカルやイオンが発生する。当該ラジカルやイオンが被処理体と反応することにより、被処理体がエッチングされる。このように、化学反応のみによって被処理体をエッチングすることができるので、プラズマを照射する場合に比べて被処理体に及ぼす熱の影響を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を構成する半導体基板やディスプレイデバイスに用いられるガラス基板は、微細な領域に多層の配線が形成されている。近年では、配線の微細化、多層化がより進んでおり、これに伴って半導体基板やガラス基板をより微細にエッチング加工する技術が求められている。このようなエッチング加工技術として、例えばエッチングマスクを用いる加工が広く知られている。
【0003】
さらに近年では、エッチングマスクを用いない技術も知られている。このようなマスクレスの技術として、例えば大気圧付近の圧力下でのプラズマ放電により生成される励起活性種を利用することで真空設備を必要とせずに低コストで被処理物の表面を様々に処理することができるプラズマ加工技術が知られている。
【0004】
プラズマ加工技術として、例えば電極と被処理体間との間で直接気体放電を生じさせ、発生するプラズマに直接曝露させる直接放電方式と、1対の電極間での気体放電によりプラズマを発生させ、それにより生成される励起活性種に被処理体を曝露させる間接放電方式とが知られている。
【特許文献1】特開2000−21614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラズマによって被処理体を加工する場合、被処理体がプラズマによって熱的にダメージを受けてしまう虞もある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、被処理体に対する熱の影響を抑えることができるエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るエッチング方法は、光の照射を受けて化学的に活性化するエッチング材料を含んだエッチングガス層を被処理体上に形成する層形成工程と、前記被処理体と前記エッチングガス層との界面に前記光を照射する光照射工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、エッチングガス層に光を照射し当該エッチングガス層に含まれるエッチング材料を化学的に活性化させることで、エッチング材料のラジカルやイオンが発生する。当該ラジカルやイオンが被処理体と反応することにより、被処理体がエッチングされる。このように、化学反応のみによって被処理体をエッチングすることができるので、プラズマを照射する場合に比べて被処理体に及ぼす熱の影響を抑えることができる。
【0009】
上記のエッチング方法は、前記層形成工程では、前記エッチングガス層を大気圧より大きい圧力にすることを特徴とする。
本発明によれば、エッチングガス層を活性化させた際、活性化部分の周囲が大気圧よりも高い圧力になるため、活性化によって発生するラジカルやイオンの平均自由工程が低く抑えられることになる。これにより、活性化部分の無制限な拡散を防ぐことができる。
【0010】
上記のエッチング方法は、前記光照射工程では、前記光を前記界面の一部の照射領域に照射することを特徴とする。
本発明によれば、界面の一部の照射領域に光を選択的に照射することで、局所的なエッチング加工が可能となる。更に、エッチングガス層のうち活性化した部分の周囲が大気圧よりも高い圧力になっている場合、活性化によって発生するラジカルやイオンの平均自由工程が低く抑えられることになり、活性化部分の拡散が抑制される。このため、当該活性化部分の拡散が抑制され、エッチングガス層をピンポイントで活性化させることができる。これにより、被処理体に対して局所的で高精度なエッチングが可能となるという利点がある。
【0011】
上記のエッチング方法は、前記光照射工程では、前記照射位置を移動させることを特徴とする。
本発明によれば、光の照射位置を移動させることにより、エッチングガス層の活性化される位置が界面上で移動する。被処理体は、光の照射位置を辿るようにエッチングされることとなる。このように、エッチング部分を描画するように処理することで、エッチング処理を容易かつ直感的に行うことができる。
【0012】
上記のエッチング方法は、前記光照射工程では、前記被処理体を透過させることで前記界面に前記光を到達させることを特徴とする。
本発明によれば、被処理体との界面からエッチングガス層に光を照射させることができるので、エッチングガス層の活性化する範囲を極力抑えることができる。これにより、被処理体上の狭い領域であっても高精度にエッチングすることができる。
【0013】
上記のエッチング方法は、前記エッチング材料として、ハロゲン系エッチングガスを含むエッチング材料が用いられることを特徴とする。
本発明によれば、エッチング材料として、ハロゲン系エッチングガスを含むエッチング材料が用いられるので、被処理体を容易かつ確実に加工することができる。ハロゲン系エッチングガスとしては、例えばCF、NF、SF、Clなどが挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第1実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係るエッチング装置1の構成を示す図である。
同図に示すように、エッチング装置1は、チャンバ2と、光源3と、エッチングガス供給部4と、制御部5とを有する。エッチング装置1は、被処理体としての基板Sをエッチングによって局所的に加工する装置である。基板Sとしては、例えばシリコンやガラスなどを主成分とする基板を用いることができる。
【0015】
エッチング装置1は、エッチングガスを用いて基板Sをエッチングする。エッチングガスとしては、光励起により化学的に活性化する材料を用いることができる。このようなエッチングガスとして、例えば、いわゆるドライエッチングに用いられるエッチングガスが挙げられる。このドライエッチングに用いられるエッチングガスのうち、例えばCF、NF、SF、Clなどのハロゲン系エッチングガスを用いることが好ましい。勿論、これら以外の材料を用いても、ハロゲン系エッチングガス以外の材料であっても構わない。本実施形態で用いられるエッチングガスは、光の照射を受けていない状態では化学的に不活性であることが好ましい。
【0016】
チャンバ2は、基板Sを収容すると共に、基板Sのエッチングに用いられるエッチングガスを収容する。チャンバ2は、密閉可能に形成されている。チャンバ2は、例えば底部(図中下辺側)に窓部2aを有している。窓部2aは、平面視で基板Sの収容される領域よりも広い領域に形成されている。窓部2aは、光源3からの光を透過可能な材料によって形成されている。窓部2aの位置は、チャンバ2の底部には限られず、側部(図中左辺側及び右辺側のうち少なくとも一方)あるいは天井部(図中上辺側)であっても構わない。窓部2aは1箇所に限られず、複数箇所に設けられていても構わない。
【0017】
光源3は、エッチングガスを化学的に活性化させる光を射出する。光源3は、光射出部3aが窓部2aに対向するように配置されている。光源3は、窓部2aの形成面に沿って移動可能に設けられている。光源3として、例えば波長248nmの光を射出するKrFエキシマレーザ光源、ArFエキシマレーザ光源、YAGレーザ光源、Fレーザ光源などのレーザ光源や、g線、i線などの紫外線を射出する水銀ランプ、波長172nmの光を射出するXeエキシマランプなどの光源を好適に用いることができる。本実施形態では、光源3から射出される光として、基板Sを透過可能な波長を有する光を選択する。エッチングガスの種類や基板Sの種類等に応じて最適な光源が選択して用いられる。
【0018】
エッチングガス供給部4は、チャンバ2にエッチングガスを供給する。エッチングガス供給部4としては、例えばエッチングガスを収容したガスボンベなどを用いることができる。制御部5は、光源3の動作やエッチングガス供給部4の動作など、エッチング装置1の各種動作を統括的に制御する。
【0019】
次に、図2〜図6を参照して、上記のように構成されたエッチング装置1を用いて基板Sをエッチングする過程を説明する。
まず、チャンバ2内に基板Sを収容する。基板Sを収容する際には、図2に示すように、平面視で窓部2aの形成領域内に収まるように基板Sを配置する。基板Sを収容しチャンバ2を密閉した後、制御部5は、エッチングガス供給部4からチャンバ2内にエッチングガスを供給させる。この動作により、図3に示すように、基板Sの上面Saにエッチングガス層Gが形成されることになり、上面Saとエッチングガス層Gとの間に界面Fが形成されることになる(層形成工程)。層形成工程では、制御部5は、エッチングガス層Gの圧力が大気圧よりも大きい圧力となるようにエッチングガスの供給量及び圧力を調節する。
【0020】
このような圧力として、例えばエッチングガスが液化しない範囲の圧力であって、チャンバ2内でのエッチング材料の平均自由工程が例えば1nm以下となるような圧力の範囲とすることが好ましい。より具体的には、大気圧〜15MPaの範囲の圧力とすることが好ましく、大気圧〜1MPaの範囲の圧力とすることがより好ましい。ここで、「〜15MPa」としたのは、例えばガスボンベなどのエッチングガス供給部4の能力に鑑みて、チャンバ2内を15MPaよりも高い圧力を維持することが困難となるからである。また、圧力の範囲を「〜1MPa」とすることにより、エッチング材料の平均自由工程を抑えつつエッチングガス供給部4の負担を軽減することができる。
【0021】
エッチング材料を構成する分子の平均自由工程の圧力依存性について、あらゆる分子中で最もサイズの小さいヘリウム分子を例に挙げて説明する。図7は、ヘリウムの平均自由工程の圧力依存性を示すグラフである。グラフ中、横軸が圧力(MPa)を示しており、縦軸が平均自由工程(m:対数表示)を示している。グラフ中、最も左側のポイントが大気圧における平均自由工程を示している。
【0022】
同図に示すように、圧力が大気圧から1MPaまで上昇した場合、平均自由工程はほぼ10分の1程度に減少している。ヘリウム分子はあらゆる分子の中で最もサイズの小さい分子であり、平均自由工程はあらゆる分子中で最も大きい。上記のエッチング材料を構成する分子(例えば上記のCF、NF、SF、Clなど)については、図7に示す値に比べて平均自由工程の値は小さくなるが、圧力の増加に対する平均自由工程の減少曲線は概ねヘリウム分子の場合と同様の曲線で示されることとなる。
【0023】
エッチングガス層Gを形成し、当該エッチングガス層Gの圧力を調節した後、制御部5は、光射出部3aが平面視で基板Sの所望の位置に重なるように光源3を移動させる。制御部5は、光源3を移動させた後、図4に示すように、当該光射出部3aから窓部2aへ光Lを照射させる(光照射工程)。この光Lは、窓部2a及び基板Sを透過し、基板Sとエッチングガス層Gとの界面Fの一部の領域を照射する。この光の照射を受けた界面の照射領域では、エッチングガスが化学的に活性化し、活性化部分Gaが形成される。具体的には、エッチングガスを構成する分子が光励起によって変化し、当該分子のラジカルやイオンなどが発生する。発生したラジカルやイオンは、基板Sとの間で化学反応を起こす。この化学反応によって、図5に示すように、基板Sの反応部分が除去され、除去部Sbが形成される。
【0024】
エッチングガス層Gのうち活性化部分Gaの周囲は大気圧よりも高い圧力であるため、光照射工程においては活性化部分Gaの拡散が抑制されることとなる。このように、光Lを照射することによりエッチングガス層Gに活性化部分Gaがピンポイントで形成されるため、基板Sは高精度にエッチングされることとなる。
【0025】
この光照射工程では、制御部5は、図6に示すように、基板Sのうちエッチングする領域に沿って光Lの照射位置を移動させる。例えば、図6に示すように、制御部5は、光源3を移動させることにより照射領域を移動させるようにする。光Lの照射領域の移動に伴い、エッチングガス層Gに形成される活性化部分Gaの位置も移動する。活性化部分Gaの移動により、基板Sには光Lの照射領域を辿るように除去部Sbが形成されていくこととなる。
【0026】
このように、本実施形態によれば、エッチングガスに光を照射し当該エッチングガスを化学的に活性化させることで基板Sがエッチングされる。化学反応のみによって基板Sをエッチングすることができるので、プラズマを照射する場合に比べて基板Sに及ぼす熱の影響を抑えることができる。
【0027】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態では、光射出部3aから射出した光Lの照射領域を、基板Sのうちエッチングする領域に沿って移動させることで除去部Sbを形成するようにしたが、これに限られることは無く、例えばマスクなどを用いて界面の所望の領域に光を一度に照射することにより、基板Sに除去部Sbを形成するようにしても構わない。
【0028】
また、上記実施形態では、光射出部3aからの光Lが基板Sを透過して界面Fに照射されるようにしたが、これに限られることは無く、例えば基板Sを透過させずに光Lを界面Fに照射するようにしても構わない。例えば基板Sの側方から界面Fに光を照射しても構わないし、基板Sではなくエッチングガス層Gを透過させて光Lを界面Fに照射しても構わない。
【0029】
また、上記実施形態のチャンバ2内に形成されるエッチングガス層Gにおいてエッチングガスを容器内で流動させる流動機構を設けるようにし、エッチングガスをかき混ぜることができる構成としても構わない。また、上記実施形態のチャンバ2内に収容されるエッチングガス層Gの温度を調節する温調装置を搭載する構成であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係るエッチング装置の構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係るエッチング装置を用いたエッチング動作を示す工程図。
【図3】同、工程図。
【図4】同、工程図。
【図5】同、工程図。
【図6】同、工程図。
【図7】ヘリウム分子の平均自由工程の圧力依存性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0031】
S…基板 G…エッチングガス層 Ga…活性化部分 F…界面 L…光 Sa…エッチング面 Sb…除去部 1…エッチング装置 2…チャンバ 2a…窓部 3…光源 3a…光射出部 4…エッチングガス供給部 5…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射を受けて化学的に活性化するエッチング材料を含んだエッチングガス層を被処理体上に形成する層形成工程と、
前記被処理体と前記エッチングガス層との界面に前記光を照射する光照射工程と
を含むことを特徴とするエッチング方法。
【請求項2】
前記層形成工程では、前記エッチングガス層を大気圧より大きい圧力にする
ことを特徴とする請求項1に記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記光照射工程では、前記光を前記界面の一部の照射領域に照射する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記光照射工程では、前記照射領域を移動させる
ことを特徴とする請求項3に記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記光照射工程では、前記被処理体を透過させることで前記界面に前記光を到達させる
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記光照射工程では、前記エッチングガス層を透過させることで前記界面に前記光を到達させる
ことを特徴とする請求項4に記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記エッチング材料として、ハロゲン系エッチングガスを含むエッチング材料が用いられる
ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−123612(P2010−123612A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293376(P2008−293376)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】