説明

エッチング装置及びエッチング方法

【課題】高圧下において面内均一性の向上を図るとともに、エッチングレートの低下を抑制することができるエッチング装置及びエッチング方法を提供する。
【解決手段】基板Sを収容する真空槽11と、基板Sが載置される下部電極25と、下部電極25に対してプラズマ生成空間PLを介して対向する上部電極12と、下部電極25に接続された高周波電源26と、真空槽11にエッチングガスを供給するガス導入口12aと、真空槽11内の圧力を調整する排気系制御部C2とを備えるエッチング装置であって、高周波電源26は、下部電極25にVHF周波数帯の高周波電力を供給し、排気系制御部C2は、真空槽11内を50Pa以上150Pa以下に調整し、下部電極25と上部電極12との間の電極間距離Lが50mm以上100mm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング装置及びエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エッチングプロセスで用いられる高周波放電プラズマとしては、主に容量結合型プラズマ(Capacitively Coupled Plasma;CCP)、誘導結合型プラズマ(Inductively Coupled Plasma)がある。このうち容量結合型プラズマ源を搭載したエッチング装置は、広い面積で一様な放電を生成しやすいといった利点から、例えば太陽電池等の大面積基板を処理する製造プロセス等で用いられている。
【0003】
図8に従来構成の容量結合型プラズマエッチング装置の一例を示す。エッチング装置100は、接地された真空槽101を有しており、真空槽101内にはプラズマ生成空間PLが設けられている。プラズマ生成空間PLの上部には、接地された上部電極102が設けられ、この上部電極102には、ガス供給口103を介して、ガス供給系104からエッチングガスが供給される。上部電極102に導入されたガスは、上部電極102の下面に設けられたシャワープレートから真空槽101内に供給される。また真空槽101内のガスは、排気口105に接続されたポンプ等の排気系106が駆動することによって、所定圧力範囲に維持される。
【0004】
また真空槽101内には、絶縁物からなる支持台107が設けられている。支持台107には、上部電極102と対向し且つ平行となるように下部電極108が配設されている。下部電極108は、基板Sが載置される平面を有し、整合器109を介して高周波電源110が接続されている。エッチングを実施する際には、真空槽101内にエッチングガスを供給しつつ、下部電極108に高周波電力を供給することにより、エッチングガスを原料としたプラズマを生成する。
【0005】
一方、容量結合型のプラズマ源は、誘導結合型プラズマ源に比べ、一般的に、生成できるプラズマの密度が低いことが知られている。このため、エッチング装置100の電極間距離Lは、プラズマ密度の向上を図るために、通常50mmよりも小さい距離に保持されている。
【0006】
しかし、電極間距離Lを小さくすると、プラズマ生成空間PLにエッチングガスを導入した際、ガス供給口103から排気口105に向かう方向へのガスの流れやすさが低下し、特にプラズマ生成空間PLの中央部にガスが滞留しやすくなる。その結果、プラズマ生成空間PL内のプラズマ密度は、基板中央部で高く、中央部から基板の径方向外側へ向かうにつれて低くなる。このように基板Sの径方向に沿ってプラズマ密度の勾配が生じると、基板Sの中央部とエッジ部におけるエッチングレートの面内均一性が低下したり、エッチング形状の均一性に悪影響を及ぼす。
【0007】
これに対し特許文献1では、レジストをマスクとしてシリコンエッチングを行う際に、エッチングレートが基板中央部において高く、エッジ部において低くなるといった問題を解消するため、シャワーヘッドの直下に、シャワーヘッドを囲むような環状凸部を設けることが提案されている。この環状凸部を形成することによって、ガス供給孔から吐出されるガス流れのコンダクタンスを低下させ、基板エッジ部における圧力を高め、空間内の圧力勾配の抑制を図っている。またガス供給孔をシャワーヘッドの中央部に集中して形成することにより、中央上部で生成されるエッチャントの量を低減させて、基板中央におけるエッチングレートを低下させ、面内均一性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−227829
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、真空槽内の圧力等の条件が変わることによって、面内のエッチング特性は大きく変化する。例えば、従来構成のエッチング装置を用い、例えば50Pa以上150Pa以下といった比較的高い圧力下でエッチングを実施した場合、エッチングレートは基板中央で低く、エッジ部で高くなることが発明者の実験により判っている。これは、プラズマ生成空間PLの中央部でガスが滞留しすぎる結果、中央部でプラズマ中の電子と正イオンとの再結合等が生じ、活性種が減少する過程が進行するためと考えられる。このため、高圧下でエッチングを実施するような場合に、従来構成のエッチング装置100に対しシャワーヘッドを囲むように環状凸部を形成すると、基板エッジ部だけでなく、基板中央部においてもガス供給口103から排気口105へ向かうガスの流れがますます低下し、基板中央部のエッチングレートをさらに低下させる要因となる。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高圧下において面内均一性の向上を図るとともに、エッチングレートの低下を抑制することができるエッチング装置及びエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、基板を収容する真空槽と、前記基板が載置される第1の電極と、前記第1の電極に対してプラズマ生成空間を介して対向する第2の電極と、前記第1の電極に接続された高周波電源と、前記真空槽にエッチングガスを供給するガス供給部と、前記真空槽内の圧力を調整する圧力制御部とを備えるエッチング装置であって、前記高周波電源は、前記第1の電極にVHF周波数帯の高周波電力を供給し、前記排気系制御部は、前記真空槽内を50Pa以上150Pa以下に調整し、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電極間距離が50mm以上100mm以下であることを要旨とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、真空槽内に設けられた第1の電極に基板を載置し、前記真空槽内にエッチングガスを供給しつつ前記第1の電極に高周波電力を供給することによって、前記第1の電極と該第1の電極と対向する第2の電極との間でプラズマを生成して前記基板をエッチングするエッチング方法であって、前記第1の電極に、周波数がVHF周波数帯に含まれる高周波電力を供給し、前記真空槽内を、50Pa以上150Pa以上の圧力に調整し、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電極間距離を50mm以上100mm以下とすることを要旨とする。
【0013】
請求項1及び3に記載の発明によれば、真空槽内を50Pa以上150Pa以下といった高圧下にすることで、第1の電極近傍のシース内で新たに生成され、異方性エッチングに寄与する正イオンの割合が増加される。一方、このような高圧下でプラズマを生成する場合、電極間距離が小さいと、中央部にガスが滞留し、基板の面内均一性の低下を招来する。従って、電極間距離を、一般的な電極間距離よりも大きい50mm以上100mm以下とすることで、高圧下でもガスの滞留を抑制して面内均一性を向上しつつ、プラズマ密度の低下も抑制することができる。このため、異方性エッチングを促進するとともに、基板の面内均一性を向上することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエッチング装置において、前記第2の電極を昇降させることで前記電極間距離を調整する電極位置制御部を備えるとともに、前記真空槽の内側面のうち、少なくとも前記第1の電極に対する最短距離が、前記電極間距離よりも小さい領域が絶縁体によって覆われていることを要旨とする。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、高周波電力が供給される第1の電極は、真空槽との間で放電し、プラズマを生成しやすい。プラズマが生成されると電極間の空間で生成されるプラズマの密度が低下する。特に上記したように電極間距離を50mm以上100mm以下といった大きな距離にすると、電極間距離よりも、第1の電極と真空槽との距離が小さくなり、それらの間で放電が生じやすくなる。従って、真空槽の内側面を上記絶縁体で覆うことで、第1の電極と真空槽との間でプラズマが生成されることを抑制することができる。また、第1の電極を昇降させると、第1の電極と真空槽との最短距離が電極間距離よりも小さい領域が、その都度、変更される。このため、第1の電極を昇降させる場合は、広い領域を絶縁体で覆う必要があるが、第2の電極を昇降させて電極間距離を調整するため、絶縁体によって覆う領域を、極力小さくすることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のエッチング方法において、前記エッチングガスは、フッ素含有ガスと酸素ガスとの混合ガスであって、前記フッ素含有ガス及び前記酸素ガスの流量は、それぞれ50sccm以上300sccm以下及び10sccm以上300sccm以下であることを要旨とする。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、フッ素含有ガス及び酸素ガスの流量をそれぞれ上記範囲としたので、排気速度を低下させて電極間にガスを滞留させずに、真空槽内の圧力を高めることができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載のエッチング方法において、
前記エッチングガスは、フッ素含有ガスとハロゲン化ガスとの混合ガスであって、前記フッ素含有ガス及び前記ハロゲン化ガスの流量は、それぞれ50sccm以上300sccm以下及び0sccm超150sccm以下であることを要旨とする。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、フッ素含有ガス及びハロゲン化ガスの流量をそれぞれ上記範囲としたので、排気速度を低下させて電極間にガスを滞留させずに、真空槽内の圧力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係わるエッチング装置の概略図。
【図2】基板に対するエッチングの過程を説明する模式図であって、(a)はバルクプラズマ内で加速された正イオンの作用を示し、(b)はシース内で加速された正イオンの作用を示す。
【図3】VHF周波数帯の高周波電圧を供給した際の基板に到達するイオンのイオンエネルギー分布を示す図。
【図4】電極間距離を50mmとした実施例1で得られたホールの断面を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真であって、(a)は基板中央部に形成されたホール、(b)は基板エッジ部に形成されたホールのSEM写真。
【図5】電極間距離を65mmとした実施例2で得られたホールの断面を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真であって、(a)は基板中央部に形成されたホール、(b)は基板エッジ部に形成されたホールのSEM写真。
【図6】電極間距離を100mmとした実施例3で得られたホールの断面を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真であって、(a)は基板中央部に形成されたホール、(b)は基板エッジ部に形成されたホールのSEM写真。
【図7】電極間距離を25mmとした比較例1で得られたホールの断面を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真であって、(a)は基板中央部に形成されたホール、(b)は基板エッジ部に形成されたホールのSEM写真。
【図8】従来構成のエッチング装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のエッチング装置及びエッチング方法を容量結合型のエッチング装置及びその装置を用いたエッチング方法に具体化した一実施形態について、図1〜図6にしたがって説明する。
【0022】
図1に示すように、エッチング装置10は、有蓋円筒状の真空槽11を有している。真空槽11は、アルミニウム等の耐蝕性を有する導電性材料から形成され、接地されている。また、真空槽11の底部には、真空槽11内の流体を排気する排気口11aが設けられ、排気口11aには、排気ポンプ等を有する排気系13が接続されている。排気系13は、圧力制御プログラムが格納された圧力制御部としての排気系制御部C2に電気的に接続されている。排気系制御部C2は、排気ポンプの駆動回路等を有するとともに、ダイアフラムゲージ等からなる圧力計15から真空槽11内の圧力を測定した圧力検出信号を入力する。そして、圧力検出信号に基づき、エッチング装置10での各処理の開始時から終了時までにわたり、圧力制御プログラムに従って排気系13を駆動することにより、真空槽11内を所定圧力範囲に保持する。
【0023】
また、真空槽11の側壁には、真空槽11内に基板Sを搬入及び搬出するための搬入出口11cが貫通形成されている。搬入出口11cにはゲートバルブVが接続され、真空槽11内を真空圧に保持可能となっている。
【0024】
真空槽11内の上部には、接地された上部電極12が配設されている。上部電極12は、その下面に、多数のガス供給孔14aが形成されたシャワープレート14を備えている。ガス供給孔14aは、シャワープレート14の一部に偏ることなく、ほぼ均等の密度で設けられている。また、上部電極12は、シャワープレート14によってその一面が囲まれたバッファ室12rを備え、このバッファ室12rには、上部電極12に形成された、ガス供給部としてのガス導入口12aが連通されている。
【0025】
ガス導入口12aには、ガス供給系17を構成するガス供給管18が接続されている。ガス供給系17は、ガス供給管18の他に、エッチングガスを送出するガス供給源19と、各種ガスを所定流量で真空槽11内に供給するマスフローコントローラ19mを有している。シリコンをエッチングする場合、エッチングガスとしては、フッ素含有ガス及び酸素の混合ガス、又はフッ素含有ガス及びハロゲン化水素ガスの混合ガスを用いることができる。フッ素含有ガスとしては、例えば、六フッ化硫黄ガス(SF)、フッ化炭素系ガス(CxHy、x、yは自然数)等を用いることができる。また、ハロゲン化ガスは、臭素水素ガス(HBr)、塩素系ガスを用いることができる。ガス供給源19は、これらのガスを送出する複数のガス供給源19a,19bからなり、それぞれ各ガスを充填したガスボンベやレギュレータ等を備えている。これらのガス供給源19a,19bから送出されたガスは、ガス供給管18で混合されて真空槽11内に供給される。
【0026】
また上部電極12は、真空槽11の中心軸(図中X軸方向)と平行な方向に、所定範囲だけ上下動可能な構成を有している。本実施形態では、上部電極12の上面に形成され、固定されたガス供給管18に対してスライド可能に設けられた筒部12bと、筒部12bを介して上部電極12を昇降させる昇降機構21と、昇降機構21を駆動する電極位置制御部C1とによって、上部電極12の位置を調整している。昇降機構21は、駆動源であるモータと、モータの駆動回路と、該モータの回転力を筒部12bをスライド移動させる力に変換する伝達機構とを有する。モータの駆動回路は、電極位置調整プログラムを格納した電極位置制御部C1に接続されている。電極位置制御部C1は、電極位置調整プログラムに従って、昇降機構21を駆動して、筒部12bをガス供給管18に対してスライドさせる。
【0027】
また、真空槽11の下方には、上部電極12に対向し、且つ平行となるように下部電極25が設けられている。下部電極25は、基板Sが載置されるステージも兼ねている。この下部電極25には、異方性向上及びエッチングレートの向上を図るために、例えばVHF周波数帯に含まれる60MHz以上150MHz以下の高周波電力を出力可能な高周波電源26が、整合器27を介して接続されている。高周波電源26は、下部電極25に高周波電力を供給し、上部電極12との間に設けられたプラズマ生成空間PLに電場を生成することによってエッチングガスをプラズマ化する。また、整合器27は、高周波電源26の出力インピーダンスと、真空槽11内を含む高周波電源26の入力インピーダンスとを整合させる。
【0028】
また、高周波電源26に接続された下部電極25と接地された真空槽11の底壁との間には、アルミナから形成された底部絶縁体30によって絶縁されている。本実施形態では、底部絶縁体30は略円環状をなしている。
【0029】
一方、エッチングの実施時に、下部電極25と上部電極12の端部であって、基板Sよりも外側となる領域で放電が生じると、その領域で生成されたプラズマは、エッチングに寄与し難い。このため、上部電極12の下面のうち、シャワープレート14の端部であってガス供給孔14aを閉塞しない位置には、略円環状の上部絶縁体20が設けられている。即ち、上部絶縁体20は、上部電極12側からみた平面視において基板Sと重複しない領域に設けられている。上部絶縁体20はアルミナから形成され、その高さが、電極間の空間のガスの流れを妨げないような高さに形成されている。
【0030】
また、高周波電源26から供給される高周波電力の周波数が超短波の周波数帯に含まれる場合、真空槽11の内周面11bの表面及び下部電極25がプラズマを介して誘導結合しやすい。特に、真空槽11の内周面11bのうち、下部電極25との距離が、上部電極12と下部電極25との相対距離である電極間距離L以下となる領域では、下部電極25との間で放電が生じやすい。このような領域で放電が生じることによりプラズマが生成されると、その分だけ高周波電力が損失され、エッチングに寄与するプラズマの生成に消費される高周波電力が少なくなることとなる。その結果、プラズマ密度が低下し、エッチングの異方性や、エッチングレートが低下することとなる。
【0031】
このため、真空槽11には、その内周面11bのうち下部電極25の縁部との間で放電しやすい領域を覆う側部絶縁体32が設けられている。側部絶縁体32は、真空槽11の内周面11bを、少なくとも上部電極12のシャワープレート14の可動範囲の上端位置から排気口11aに至る範囲を覆うように設けられている。
【0032】
側部絶縁体32は、アルミナからなる第1側部絶縁体33と、石英からなる第2側部絶縁体34とから構成されている。第1側部絶縁体33は、シャワープレート14の可動範囲の上端位置から下部電極25よりも下方の位置に至る範囲に設けられている。また、第1側部絶縁体33が、搬入出口11cに重なる位置には、真空槽11内と搬入出口11cとを連通する貫通孔32aが形成されている。第2側部絶縁体34は、第1側部絶縁体33よりも下方の位置であって、排気口11a側に設けられている。
【0033】
また下部電極25の外周には、石英からなる下部絶縁体31が設けられている。下部絶縁体31は、下部電極25の外周面全域を覆うように設けられるとともに、その上部に基板Sを内側に収容するための基板収容部31aを備えている。
【0034】
次に、本実施形態の作用について、エッチングの処理手順に従って説明する。
【0035】
まず、電極位置制御部C1は、電極位置制御プログラムに従って、昇降機構21を駆動することによって上部電極12の位置を調整し、電極間距離Lを50mm以上100mm以下の範囲にする。この際、上部電極12のシャワープレート14の位置は、側部絶縁体32の上端位置と同じ位置か、それよりも低い位置となっている。
【0036】
そして、ゲートバルブVが開かれ、トレー等に載置された基板Sが搬入出口11cから搬入される。基板Sは、下部電極25上であって、下部絶縁体31の基板収容部31a内側に載置される。下部電極25に基板Sを載置すると、ゲートバルブVが閉じられ、排気系制御部C2は、排気制御プログラムに従って、排気系13を駆動して真空槽11内を減圧する。
【0037】
また、ガス供給系17から、例えばSFガス及びOガスが、マスフローコントローラ19mによって所定流量に調整されながら送出され、混合ガスとして真空槽11内に供給される。排気系制御部C2は、真空槽11内が50Pa以上150Pa以下という高い圧力となるように真空槽11内の圧力を調整する。この際、SFガス等のフッ素含有ガスの流量は、50sccm以上300sccm以下が好ましく、Oガスの流量は10sccm以上300sccm以下が好ましい。また、混合ガスが、SF等のフッ素含有ガスとHBr等のハロゲン化ガスからなる場合には、フッ素含有ガスの流量は、50sccm以上300sccm以下が好ましく、ハロゲン化ガスの流量は0sccm超150sccm以下が好ましい。また、高周波電源26は、下部電極25に60MHz以上150MHz以下のVHF周波数帯の高周波電圧を印加する。
【0038】
真空槽11内の圧力を上記範囲に調整するのは以下の理由による。即ち、上部電極12と下部電極25との間のプラズマ生成空間PLには、各電極12,25側に位置するシース(暗部)と、そのシースに挟まれたバルクプラズマとが形成される。そして、他の粒子と衝突することなく基板Sに入射する正イオンとしては、以下のものがある。即ち、バルクプラズマでの電場加速を受け、加速によって得られたエネルギーをそのまま維持して基板Sに入射する第1の正イオンと、下部電極25近傍に形成されたシース内にて、中性子が他の正イオンとの間で電子交換を行うことによって新たに生成され、シース内で加速される第2の正イオンとである。
【0039】
また図2に示すように、処理対象となる基板Sは、例えばシリコン基板S1の上に、開口部OPを有するマスクS2を有している。この開口部OPを介してシリコン基板S1をエッチングすることによりホールHを形成する。このホールHの側面の直進性に寄与する正イオンは、主に開口部OPの真上で加速される正イオンである。この正イオンには、上記した第1の正イオンと第2の正イオンとがある。
【0040】
さらに図2(a)に示すように、開口部OPの真上に位置する第1の正イオンには、シリコン基板S1の表面の法線方向に飛行する第1の正イオンと、法線方向とは異なる方向に飛行する第1の正イオンとが存在する。第1の正イオンは、バルクプラズマで加速され飛行距離が長いため、法線方向に飛行する第1の正イオンは、図中中央の矢印で示すように開口部OPを介してシリコン基板S1に形成されたホールHの底面に到達する。法線方向と異なる方向に飛行する第1の正イオンは、図中左端及び右端の矢印で示すように、基板Sに到達するまでに開口部OPから逸れていきシリコン基板S1に到達しないか、もしくはホールHの側面に衝突することが多くなる。
【0041】
これに対し、図2(b)中の各矢印で示すように、第2の正イオンにも、シリコン基板S1の表面の法線方向に飛行する第2の正イオンと、法線方向とは異なる方向に飛行する第2の正イオンとが存在するが、第2の正イオンは、シース内で加速されるため飛行距離が比較的短い。このため、左端及び右端の矢印で示すように、法線方向とは異なる方向に加速されたとしても、第1の正イオンに比べて、ホールHの底面に到達する確率が高い。
【0042】
従って、エッチング形状の異方性を向上するためには、プラズマ生成空間PLに生成される正イオンのうち、第2の正イオンが占有する割合を増加させることが好ましい。第2の正イオンの割合を左右する因子は、下部電極25に供給する高周波電力の周波数帯の他に、真空槽11の圧力であることがわかっている。
【0043】
図3のイオンエネルギー分布に示すように、このうち第1の正イオンに由来するピークは、1対のピークP1,P2であるバイモーダルピークBPである。また、第2の正イオンに由来するピークは、バイモーダルピークBPよりも低いエネルギー領域に表れる低エネルギーピークP3である。即ち、第1の正イオンは、第2の正イオンよりも高いイオンエネルギー(eV)を有する。尚、図3では、高周波電力が150MHzの周波数帯の際に得られたエネルギー分布を示しており、低エネルギーピークP3が複数表れている。第2の正イオンの割合を増加させるためには、真空槽11内を、低エネルギーピークP3の強度(又は半値幅)を高める圧力にすればよい。また、良好なエッチングレートを得るために、イオンエネルギーが高い第1の正イオンも存在することが実用面において好ましい。
【0044】
図3のイオンエネルギー分布から、圧力を50Pa未満とした場合、第2の正イオンに帰属する低エネルギーピークP3が検出されず、圧力を150Pa超とすると、低エネルギーピークP3のみならず、バイモーダルピークBPも検出されないことがわかる。
【0045】
一方、圧力を50Pa以上150Pa以下とした状態で、高周波電力の周波数帯を60MHz未満とした場合、及び150MHz超とした場合の両方において、低エネルギーピークP3及びバイモーダルピークBPの両方が認められない(図示略)。
【0046】
従って、高周波電力の周波数を、60MHz以上150MHz以下とし、圧力を50Pa以上150Pa以下に調整すると、第2の正イオンの割合を増加させることができるが、その際に、各ガスの流量を上記範囲とすることで、ガスを電極間に滞留させることなく、排気することができる。
【0047】
一方、このように比較的高い圧力下でエッチングを実施する場合には、電極間距離Lを上記したように50mm以上100mm以下とすることが好ましい。高圧下において電極間距離Lを50mm未満とすると、ガスの流路のコンダクタンスが低下することにより、プラズマ生成空間PLの中央部にはガスが滞留し、中央部とその周りとの圧力勾配が大きくなる。第2の正イオンの割合は、上記したように圧力条件に応じて変化するため、プラズマ生成空間PLにおける圧力勾配が大きくなると、中央部の第2の正イオンの割合と、その周辺における第2の正イオンの割合の差が大きくなる。こうして異方性に寄与する第2の正イオンの割合の差が大きくなる結果、基板中央部と基板エッジ部とで得られるエッチング形状の均一性も低下し、エッチングレートの面内均一性も低下する。
【0048】
また、電極間距離Lが50mm以上100mm以下の範囲内では、第2の正イオンの割合の差が小さくなるとともにプラズマ密度が高まることで、面内均一性が良好であってエッチングレートが最大となる電極間距離Lが存在する。電極間距離Lをその距離よりも長くして100mmに近付けていくと、電極間のプラズマ密度が徐々に低下していくことから、エッチングレートが徐々に低下する。そして電極間距離Lを100mm超とすると、プラズマ生成空間PLの体積が拡大された分、プラズマ密度が低下し、全体的にエッチングレートが大きく低下してしまう。
【0049】
これに対し、電極間距離Lを上記範囲とすることで、ガスの中央部における滞留を抑制し、圧力勾配を小さくすることができる。このため、基板中央部での第2の正イオンの割合と、基板エッジ部での第2の正イオンの割合との差が小さくなるため、中央におけるエッチングレートとエッジ部におけるエッチングレートとの差を示す、下記式で表される面内均一性を5%以内とし、エッチング形状の均一性も向上することができる。
【0050】
そして、電極間距離Lを上記範囲とした状態で下部電極25に高周波電圧が印加されると、プラズマ中の正イオン等の活性種が基板Sに引き込まれる。また、活性種とシリコン原子との反応により、フッ化シリコン、酸化シリコン等の生成物が生成され、基板Sの厚さ方向に延びるホールHの側壁に堆積する。そして、側壁のエッチングを抑制して、異方性エッチングを促進することができる。
【0051】
以下に、本実施形態に従った実施例と、実施例に対する比較例を示す。
[実施例1]
上記実施形態のエッチング装置100を用いて以下の条件でエッチングを行った。
【0052】
基板:シリコン基板、厚さ750μm、8インチ、開口部の直径50μm
ガス組成及び流量:SF(流量75sccm)、O(流量75sccm)、HBr(流量15sccm)
高周波電力:60MHz
バイアス用高周波電源からの供給電力:1200W
圧力:50Pa
処理時間:600秒
電極間距離:50mm
この条件でエッチングを実施することにより得られたホールは、図4のSEM写真に示すように、基板中央部及び基板エッジ部の両方において、側壁における直進性が高いものであった。また、エッチングを実施した際の基板中央のエッチングレートRcntと、基板エッジ部のエッチングレートRedgと、面内均一性を以下に示す。
【0053】
基板中央部のエッチングレートRcnt:10.6μm/min
基板エッジ部のエッチングレートRedg:11.4μm/min
面内均一性:{(Redg−Rcnt)/(Redg+Rcnt)}・100%=3.6%
[実施例2]
実施例1の電極間距離Lを65mmに変更してエッチングを行った。電極間距離以外は実施例1と同様な条件である。図5のSEM写真に示すように、基板中央部及び基板エッジ部の両方において、側壁の直進性が高いホールが得られた。また、各エッチングレートと面内均一性を以下に示す。
【0054】
基板中央部のエッチングレートRcnt:10.7μm/min
基板エッジ部のエッチングレートRedg:10.8μm/min
面内均一性:0.5%
[実施例3]
実施例1の電極間距離Lを100mmに変更してエッチングを行った。電極間距離以外は実施例1と同様な条件である。図6のSEM写真に示すように、基板中央部及び基板エッジ部の両方において、側壁の直進性が高いホールが得られた。また、各エッチングレートと面内均一性を以下に示す。
【0055】
基板中央部のエッチングレートRcnt:6.9μm/min
基板エッジ部のエッチングレートRedg:7.28μm/min
面内均一性:2.7%
面内均一性は、5%以内であって良好であるが、電極間距離Lが65mmの場合に比べ大きい値となり、若干低下していることがわかる。また、電極間距離Lが65mmの場合に比べ、エッチングレートが小さくなっている。
[比較例1]
実施例1の電極間距離Lを、電極間距離Lの好適な範囲未満の25mmに変更して、エッチングを行った。電極間距離以外は実施例1と同様な条件である。図7(a)のSEM写真に示すように、基板中央ではホールの側面がエッチングされ、等方性エッチングが進行したことがわかる。図7(b)に示すように、基板エッジ部では、側壁の直進性が保たれた形状のホールが得られた。即ち、基板中央部で得られたエッチング形状と基板エッジ部で得られたエッチング形状の均一性が低下した。また、各エッチングレートと面内均一性を以下に示す。エッチングレートの面内均一性は5%超となり、各実施例に比べ大きく低下した。
【0056】
基板中央部のエッチングレートRcnt:6.4μm/min
基板エッジ部のエッチングレートRedg:8.2μm/min
面内均一性:12.3%
尚、電極間距離Lが65mmから100mmにかけて面内均一性及びエッチングレートが若干低下していることから、電極間距離Lが100mm超である場合については、実施例3よりも面内均一性及びエッチングレートが低下することが明らかである。
【0057】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0058】
(1)上記実施形態では、高周波電源26から下部電極25にVHF周波数帯の高周波電圧を供給し、排気系13により真空槽11内を50Pa以上150Pa以下に維持し、下部電極25と上部電極12との間の電極間距離Lを50mm以上100mm以下としてエッチングを実施する。即ち上記圧力範囲にすることで、第1の正イオンを消滅させずに、シース内で新たに生成される第2の正イオンの割合を増加できる。また、電極間距離Lを、一般的な電極間距離よりも大きい50mm以上100mm以下とすることで、高圧下でもガスの滞留を抑制してエッチングレートやエッチング形状の面内均一性を向上しつつ、電極間距離Lの拡大によるプラズマ密度の低下も抑制することができる。
【0059】
(2)上記実施形態では、真空槽11の内側面のうち、少なくとも下部電極25に対する最短距離が、電極間距離Lよりも小さい領域を側部絶縁体32によって覆うようにした。即ち、上記したように電極間距離Lを50mm以上100mm以下といった大きな距離にすると、電極間距離Lよりも、下部電極25と真空槽11との距離が小さくなり、それらの間で放電が生じやすくなる。従って、真空槽11の内側面を側部絶縁体32で覆うことで、下部電極25と真空槽11との間でプラズマが生成されることを抑制することができる。また、下部電極25を昇降可能とすると、その昇降する範囲に応じて、その絶縁体によって覆う領域を大きくしなければならない。このため、上部電極12を昇降させることで、絶縁体によって覆われる領域を極力小さくすることができる。
【0060】
(3)上記実施形態では、エッチングガスは、フッ素含有ガスと酸素ガスとの混合ガスであって、フッ素含有ガス及び酸素ガスの流量は、それぞれ50sccm以上300sccm以下及び10sccm以上300sccm以下とした。このため、排気速度を低下させて、電極間のガスの流れを滞留させることなく、真空槽11内の圧力を高めることができる。
【0061】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、ガス供給源19は、2種類のガスをそれぞれ送出するようにしたが、3種類以上のガスをそれぞれ送出するようにしてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、上部電極12を可動とし、下部電極25を固定したが、下部電極25を可動とし、上部電極12を固定としてもよい。この場合、側部絶縁体32は、真空槽11の側面のうち、軸方向において下部電極25の可動範囲の下端に至る範囲までを覆う。
【0064】
・上記実施形態では、エッチング装置10は、電極間距離Lを調整可能な機構を備えたが、該機構を省略した構成とし、電極間距離Lを一定距離に固定していてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、上部絶縁体20及び底部絶縁体30及び第1側部絶縁体33をアルミナから形成し、下部絶縁体31及び第2側部絶縁体34を石英から形成した。これ以外の構成として、上部絶縁体20、底部絶縁体30、第1側部絶縁体、下部絶縁体31及び第2側部絶縁体34を同一の絶縁材料から形成してもよい。また、上部絶縁体20及び底部絶縁体30及び第1側部絶縁体33を石英から形成し、下部絶縁体31及び第2側部絶縁体34をアルミナから形成してもよい。また、同一絶縁材料からなる部材の組み合わせを変更しても良い。
【符号の説明】
【0066】
C2…圧力制御部としての排気系制御部、C1…電極位置制御部、PL…プラズマ生成空間、S…基板、10,100…エッチング装置、11…真空槽、12…第2の電極としての上部電極、12a…ガス供給部としてのガス導入口、21…昇降機構、25…第1の電極としての下部電極、26…高周波電源、L…電極間距離、32…側部絶縁体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容する真空槽と、
前記基板が載置される第1の電極と、
前記第1の電極に対してプラズマ生成空間を介して対向する第2の電極と、
前記第1の電極に接続された高周波電源と、
前記真空槽にエッチングガスを供給するガス供給部と、
前記真空槽内の圧力を調整する圧力制御部とを備えるエッチング装置であって、
前記高周波電源は、前記第1の電極にVHF周波数帯の高周波電力を供給し、
前記圧力制御部は、前記真空槽内を50Pa以上150Pa以下に調整し、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の電極間距離が50mm以上100mm以下であることを特徴とするエッチング装置。
【請求項2】
前記第2の電極を昇降させることで前記電極間距離を調整する電極位置制御部を備えるとともに、
前記真空槽の内側面のうち、少なくとも前記第1の電極に対する最短距離が、前記電極間距離よりも小さい領域が絶縁体によって覆われている請求項1に記載のエッチング装置。
【請求項3】
真空槽内に設けられた第1の電極に基板を載置し、前記真空槽内にエッチングガスを供給しつつ前記第1の電極に高周波電力を供給することによって、前記第1の電極と該第1の電極と対向する第2の電極との間でプラズマを生成して前記基板をエッチングするエッチング方法であって、
前記第1の電極に、周波数がVHF周波数帯に含まれる高周波電力を供給し、
前記真空槽内を、50Pa以上150Pa以上の圧力に調整し、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の電極間距離を50mm以上100mm以下とすることを特徴とするエッチング方法。
【請求項4】
前記エッチングガスは、フッ素含有ガスと酸素ガスとの混合ガスであって、
前記フッ素含有ガス及び前記酸素ガスの流量は、それぞれ50sccm以上300sccm以下及び10sccm以上300sccm以下である請求項3に記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記エッチングガスは、フッ素含有ガスとハロゲン化ガスとの混合ガスであって、
前記フッ素含有ガス及び前記ハロゲン化ガスの流量は、それぞれ50sccm以上300sccm以下及び0sccm超150sccm以下である請求項3に記載のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−222270(P2012−222270A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88904(P2011−88904)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】