説明

エナンチオ選択的なエナミドのカルボニル基への求核付加反応方法と光学活性α−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステル、ヒドロキシジケトンの合成方法

医薬品、農薬、香料、機能性高分子等の製造のための原料や合成中間体として有用な、光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステル、光学活性α−ヒドロキシ−γ−アミノ酸エステル、そしてヒドロキシジケトン化合物等の不斉合成を可能とする、エナンチオ選択的なカルボニル基への求核付加反応方法として、カルボニル基へのヒドロキシル基(−OH)生成をともなうエナミド化合物の求核付加反応を銅もしくはニッケルをもってのキラル触媒の存在下に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この出願の発明は、医薬品、農薬、香料、機能性高分子等の製造のための原料や合成中間体として有用な、光学活性化合物の不斉合成を可能とする、エナンチオ選択的なエナミドのカルボニル基への求核付加反応方法と、これを応用した光学活性α−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステル、ヒドロキシジケトン等の合成方法に関するものである。
【背景技術】
従来よりアルデヒド化合物のアルデヒド基やアルデヒド化合物より誘導されたイミン化合物のイミノ基への求核付加反応方法が検討されているが、近年では、医薬、農薬、香料、機能性高分子等の製造のための原料や合成中間体としてのアミノ酸誘導体やヒドロキシルカルボン酸等を効率的に、さらには不斉合成するための手段としてこの求核付加反応が注目されている。
この出願の発明者らは、このような状況において、ポリマー担持触媒を用いてのN−アシルイミノエステル化合物への求核付加反応によるN−アシル化アミノ酸誘導体の合成方法(Journal of Combinatorial Chemistry,2001,Vol.3,No.5,401−403)を開発し、さらには、キラル銅触媒を用いてのこれらのエナンチオ選択的合成方法(Org.Lett.Vol.4,No.1,2002,143−145;J.Am.Chem.Soc.,Vol.125,No.9,2003,2507−2515)をすでに報告している。
しかしながら、これまでの発明者らによる検討による求核付加反応においては、求核反応剤としては、エステルあるいはチオエステル化合物より誘導されたシリルエノールエーテル、そしてアルキルビニルエーテルに限られており、求核付加反応の適用対象とその応用がどうしても制約されていた。
そこで、この出願の発明は、以上のような事情から、医薬品、農薬、香料、機能性高分子等の製造のための原料や合成中間体として有用な、α−ヒドロキシ−γ−ケト酸化合物、α−ヒドロキシ−γ−アミノ酸化合物等の不斉合成を可能とする、エナンチオ選択的なカルボニル化合物への求核付加反応方法を提供し、さらには、これを応用したα−ヒドロキシ−γ−ケト酸化合物等の新しい合成方法を提供することを課題としている。
【発明の開示】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、カルボニル基へのヒドロキシル基(−OH)生成をともなうエナミド化合物の求核付加反応方法であって、銅もしくはニッケルをもってのキラル触媒の存在下に反応させることを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法を提供する。
そして、この出願の発明は、上記方法について、第2には、キラル触媒は、有機酸または無機酸の塩もしくはこの塩の錯体または複合体である銅化合物もしくはニッケル化合物とキラルジアミン配位子とにより構成されていることを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法を、第3には、キラルジアミン配位子は、エチレンジアミン構造をその一部に有することを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法を提供する。
また、この出願の発明は、第4には、以上の方法において、次式

(式中のRaは置換基を有していてもよい炭化水素基もしくはR−CO−またはR−O−CO−であって、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Rbは、水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素基を示す)
で表わされるカルボニル基を有する化合物に対し、そのカルボニル基へのヒドロキシル基(−OH)の生成をともなうエナミド化合物による求核付加反応を行うことを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法を提供する。
第5には、カルボニル基を有する化合物がグリオキシル酸のエステルであることを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核的付加反応方法を提供し、第6には、アルデヒド化合物は、次式(1)

(式中のRは、置換基を有していてもよい炭化水素基を示す)で表わされるグリオキシル酸エステルであり、エナミド化合物は、次式(2)

(式中のRは、置換基を有していてもよい炭化水素基、または酸素原子を介して結合する置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、RおよびRは、各々、同一または別異に、水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、少なくとも一方は水素原子であることを示す。またRは、RまたはRと結合して環を形成していてもよい。)で表わされるものとすることを特徴とする方法を提供する。
第7には、この出願の発明は、上記の求核付加反応後に酸処理することにより次式(3)

(式中のR、R、RおよびRは各々前記のものを示す)の少なくともいずれかで表わされる化合物を生成させることを特徴とする光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステルの合成方法を提供し、第8には、上記の求核付加反応後に還元処理することにより次式(4)

(式中のR、R、R、RおよびRは各々前記のものを示す)の少なくともいずれかで表わされる化合物を生成させることを特徴とする光学活性なα−ヒドロキシ−γ−アミノ酸エステルの合成方法を提供し、さらに第9には、合成された光学活性なα−ヒドロキシ−γ−アミノ酸エステルのγ−アミノ基上の置換基(RCO−)を除去した後に環化反応させて、次式(5)

(式中のR、RおよびRは前記のものを示す)の少なくともいずれかで表わされる化合物を生成させることを特徴とする光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ラクタム類の合成方法を提供する。
またさらに、第10には、上記第7の発明により合成された光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステルを還元反応させ、続いて環化反応させて、次式(6)

(式中のR、RおよびRは各々前記のものを示す)の少なくともいずれかで表わされる化合物を生成させる光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ラクトン類の合成方法を提供する。
そして、第11には、上記第4の発明におけるエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応であって、カルボニル基を有する化合物が次式(7)

(式中のRおよびRは、同一または別異に、置換基を有していてもよい炭化水素基を示す)
で表わされるジケトン化合物であり、エナミド化合物は、次式(2)

(式中のRは、置換基を有していてもよい炭化水素基、または酸素原子を介して結合する置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、RおよびRは、各々、同一または別異に、水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、少なくとも一方は水素原子であることを示す。また、Rは、RまたはRと結合して環を形成していてもよい。)で表わされるものとすることを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法を提供し、第12には、この求核付加反応後に酸処理することにより次式(8)

(式中のR、R、R、RおよびRは各々前記のものを示す)で表わされる光学活性化合物を生成させることを特徴とする光学活性なヒドロキジケトン化合物の合成方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
この出願の発明のカルボニル基へのエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法では、触媒としてキラル銅触媒もしくはキラルニッケル触媒が用いられる。この場合のキラル触媒としては、銅(Cu)またはニッケル(Ni)原子をその構成に欠かせないものとして、かつキラルな有機分子の構造を付加している各種のものが考慮される。一般的には、銅化合物もしくはニッケル化合物とキラル有機化合物とにより構成されるものとするが、より実際的に、反応収率やエナンチオ選択性の観点からは、銅化合物もしくはニッケル化合物とキラルジアミン配位子化合物とにより構成されたものとすることが好適に考慮される。
銅化合物またはニッケル化合物としては、1価または2価の化合物として塩、錯塩、有機金属化合物等の各種のものから選択されてよいが、なかでも、有機酸または無機酸との塩、もしくはこの塩との錯体や有機複合体が好適なものとして挙げられる。なかでも、強酸との塩、たとえば、(パー)フルオロアルキルスルホン酸や過塩素酸、硫酸等の塩、それらの錯体や有機複合体が好ましいものとして例示される。たとえばCu(OTf)、CuClO、CuClO・4CHCN、Cu(ClO・6HO、Ni(OTf)、NiX+AgOTf(Xはハロゲン原子)等である。
一方のキラルジアミン配位子としては、分子構造中にエチレンジアミン構造をその一部として有するものが好適に用いられる。この場合のアミノ基はイミン結合を有していてもよい。たとえば代表的なものとして、たとえば次式のような各種のものが例示される。

ここで、式中のRは、置換を有していてもよい炭化水素基を示し、この炭化水素基は、鎖状、環状のうちの各種のものでよく、置換基としても、ハロゲン原子をはじめ、アルキル基等の炭化水素基やアルコキシ基等を有していてもよい。また、上記式中のPh(フェニル基)、そしてシクロヘキシル基においても置換基を有していてもよい。
この出願の発明における以上のような銅もしくはニッケルをもってのキラル触媒については、あらかじめ銅化合物やニッケル化合物とキラル有機分子とから錯体を調製して触媒として用いてもよいし、あるいは反応系において銅化合物やニッケル化合物とキラル有機分子とを混合して使用するようにしてもよい。触媒としての使用割合については、銅化合物やニッケル化合物もしくは銅化合物やニッケル化合物とキラル有機分子との錯体として、カルボニル化合物に対し、通常、0.5〜30モル%程度の割合とすることが考慮される。
反応に用いるカルボニル化合物は、この出願の発明の求核付加反応を阻害しない限り、置換基を有していてもよい脂肪族、脂環式、芳香族、あるいは複素環式のカルボニル化合物等の各種の構造のものでよい。たとえばこのようなカルボニル化合物としては、前記のとおりの次式

(式中のRaは置換基を有していてもよい炭化水素基もしくはR−CO−またはR−O−CO−であって、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Rbは、水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素基を示す)
で表わされるカルボニル基を有する化合物であってよい。
たとえば、カルボニル基を有する化合物としては、前記式(1)として示される、グリオキシル酸エステルが例として挙げられる。このものはエステル結合部を有しており、式中の符号Rは置換基を有していてもよい炭化水素基である。たとえば、鎖状または脂環状の炭化水素基、芳香族の炭化水素基、そしてこれらの組合わせとしての各種の炭化水素基であってよい。置換基としても、求核付加反応を阻害しない限り、アルキル基等の炭化水素基やアルコキシ基、スルフイド基、シアノ基、ニトロ基、エステル基等の各種のものを適宜に有していてもよい。
一方のエナミド化合物は、たとえば代表的には前記の式(2)として示すことができる。その特徴としては、アミド結合もしくはカーバメート結合を有していることである。式中の符号については、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基、または酸素原子を介して結合する置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、RおよびRは、各々、同一または別異に、水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、少なくとも一方は水素原子であることを示している。
炭化水素基としては、上記と同様に、脂肪族、脂環式、あるいは芳香族のうちの各種のものであってよく、置換基としても、アルキル基等の炭化水素基、ハロゲン原子、アルコキシ基、スルフイド基、シアノ基、ニトロ基、エステル基等の各種のものが適宜に考慮される。
また、符号Rについては、−OEt、−OBu、−OBn等の酸素原子を介して結合する炭化水素基が好適なものとして例示される。Rについては、フェニル基、ナフチル基、それらのハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等の置換基を有するものが好適なものとして例示される。グリオキシル酸エステルのアルデヒド基(−CHO)へのエナミド化合物の求核付加反応には、適宜な有機溶媒、たとえばハロゲン化炭化水素、アセトニトリル等のニトリル類、THF等のエーテル類等を用いてもよく、反応温度は、−20℃〜40℃程度の範囲が適宜に採用される。雰囲気は大気中もしくは不活性雰囲気とすることができるアルデヒド化合物とエナミド化合物との使用割合については、モル比として0.1〜10程度の範囲で適宜とすることができる。
エナミド化合物の求核付加反応においては、たとえば前記の式(1)のグリオキシル酸エステルと式(2)のエナミド化合物との反応を例に説明すると、次式

の少なくともいずれかで表わされる光学活性なα−ヒドロキシ−γ−イミノ酸エステルがエナンチオ選択的に生成されることになる。そして、特に、エナミド化合物の一種としてエンカルバメート(enecarbamate)を用いる場合には、高い立体選択性も実現されることになる。Z−体からはsyn−付加物が、E−体からはanti−付加物が高いジアステレオ選択性と高いエナンチオ選択性で得られる。上記のイミノ酸エステル化合物を単離することなしに、または単離して、酸処理、たとえばHCl、HBr等の水溶液による酸処理を施すことにより、前記式(3)で表わされる光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステルを高い収率で、しかも優れたエナンチオ選択性で取得することができる。
また、他方で、酸処理ではなく、還元処理を施すことにより、前記式(4)で表わされる光学活性なα−ヒドロキシ−γ−アミノ酸エステルを同様に高い収率で、しかも優れたエナンチオ選択性で取得することができる。この場合の還元処理は、たとえば、EtBOMe−NaBH等のホウ素還元剤化合物や他の金属水素化物または金属水素錯化合物を用いることができる。そして、生成された光学活性なα−ヒドロキシ−γ−アミノ酸エステルは、γ−アミノ基上のアシル基を除去(脱保護)することにより環化反応させて、前記の式(5)で表わされる光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ラクタム類に良好に転換することができる。たとえば、アシル基がベンジルオキシカルボニル基の場合には接触水素還元により脱保護−環化反応させることができる。
また、この出願の発明においては、前記のとおりの光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステルを還元反応させ、続いて環化反応させることにより、前記式(6)で表わされる光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ラクトン類を合成することも可能とされる。
そして、この出願の発明においては、カルボニル基を有する化合物が前記式(7)のようにジケトン化合物であることも好適な例として示される。式(7)における符号R、Rについては前記同様の各種の炭化水素基であってよい。このジケトン化合物に対しては、たとえば前記式(2)のエナミド化合物を求核付加反応させて、式(8)のような光学活性なヒドロキシジケトン化合物を合成することが可能となる。
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
以下の実施例においては、特に明記している場合以外には、キラルジアミン配位子(ligand)の符号は次のものを示している。

[実施例1]
次式において、Rが4−BrCであるキラルジアミン配位子(9.9mg,0.022mmol)のCHCl(1.5ml)の溶液を、CuClO・4CHCN(6.5mg,0.020mmol)にアルゴン雰囲気下に加え、優れた黄色溶液を8時間以上攪拌し、0℃に冷却した。

次いで、この混合溶液に、次式

で表わされるエチルグリオキシレート(100μl,0.40mmol)のCHCl(0.8ml)溶液を添加し、さらに表1に示した式(2)のエナミド(enamide)(0.20mmol)のCHCl(0.8ml)溶液を加えた。
反応混合液を0℃の温度で1時間攪拌し、NaHCO飽和水溶液を加えて反応を停止させた。その後、反応混合液を室温とし、CHClで抽出した。有機相を洗浄、乾燥した。溶媒を蒸発させた後に、残渣をEtOH(3.0ml)に溶解し、48%HBr水溶液(0.3ml)を加え、室温において1.5分間攪拌した。
反応混合物をCHClで抽出し、有機相を洗浄、乾燥し、溶媒を蒸発させて粗生成物を得た。このものはシリカゲルクロマトグラフィーにより精製した。
表1にはエナミドの種類に応じた反応収率とee(%)を示した。
なおee(%)は、HPLC分析により決定した。

No.1−1〜1−5の場合の生成物についての同定値を次に示した。


[実施例2]
実施例1のNo.1−1エナミドとエチルグリオキシレートを用い、各種のキラルジアミン配位子とCuClO・4CHCNとによりエナミドの求核付加反応を行い、α−ヒドロキシ−γ−イミノ酸エステルを合成した。
その結果を表2に示した。

[実施例3]
実施例2の反応を、各種のエナミドを用い、CuClO・4CHCNの使用量を変更して行った。その結果を表3に示した。キラル銅触媒の濃度が低い場合でも高収率、高ee%の結果が得られることがわかる。

[実施例4]
実施例2において、銅化合物をCu(OTf)他に代えて反応を行った。
その結果を表4に示した。生成物の絶対立体配置はRであった。

[実施例5]
実施例1−1において、HBr水溶液による酸処理に代えて以下の処理を行った。
すなわち、残渣分にTHF(2.0ml)とMeOH(0.5ml)の混合液を添加し、−78℃に冷却した。EtBOMe(79μl,0.6mmol)を添加し、15分間攪拌した。次いで、NaBH(22.7mg,0.6mmol)を添加した。混合液を−78℃の温度において2時間攪拌した。
AcOH(0.3μl)の添加により反応を停止させ、温度を室温とした。
次の化合物を、46.5mg、収率65%で得た。syn/anti=94/6であった。

同様にしてEtO溶媒中でZn(BH(1当量)を用いて3時間反応させたところ、収率66%、syn/anti=78/22の結果が得られた。
[実施例6]
次の反応式に従って、実施例5の生成物より、γ−ラクタム類(12)を合成した。

1)前記生成(10)(31.3mg,0.08mmol)のCHCl(0.6ml)溶液に、2.6−lutidine(12.0mg,0.114mmol)のCHCl(0.2ml)溶液と、tert−ブチルジメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート:TBDMSOTf(27.8mg,0.105mmol)のCHCl溶液を、0℃の温度で加えた。
反応混合物を室温において10時間攪拌した。
水を添加した後にCHClで抽出し、有機相を洗浄、乾燥した後に、溶媒を蒸発させた。粗生成物はシリカゲルクロマトグラフィーにより精製した。
次の化合物(11)を37.9mg(収率92%)得た。

2)上記生成物(11)(21.4mg,0.454mmol)のAcOEt(2.0ml)溶液に、AcOH(16.8mg,0.0272mmol)と、5%Pd/C(9.7mg,10mol%)を室温で添加した。雰囲気のアルゴンガスをHガスにより置換し、11時間攪拌した。
次の化合物(12)(13.4mg、定量的収率)を得た。ジアステレオマー(12)は、シリカゲルクロマトグラフィーにより分離可能である。

[実施例7]
実施例1において、前記式(2)で表わされるエナミドとして表10で示した各種のエンカルバメート(enecarbamate)を用いて反応させた。表5には、反応生成物の収率(%)と、syn/anti比、ee(%)を示し、反応生成物の7−1/7−2、7−3/7−4、7−5/7−6並びに7−7/7−8の同定値も示した。
この反応の結果から、E−体からはanti−付加物がZ−体からはsyn−付加物が、高いジアステレオ選択性およびエナンチオ選択性で得られることが確認された。


[実施例8]
実施例7と同様に、表6で示した各種のエンカルバメートを用いて反応させた。表6には、反応生成物の収率(%)、syn/anti比、ee(%)を示した。反応生成物の8−1/8−2並びに8−3/8−4の同定値も示した。
実施例7と同様に、E−体からはanti−付加物が、Z体からはsyn−付加物が、高いジアステレオ選択性およびエナンチオ選択性で得られることが確認された。


[実施例9]
実施何7と同様にして、エナミドとして次式

のエンカルバメートを用いて反応させた。次の化合物を、収率85%、syn/anti=16/84、94ee(%)で得た。

[実施例10]
実施例7と同様に、表7のとおりの、α−置換基をもつエナミド(2)を用いて反応を行った。その結果も表7に示した。

[実施列11]
実施例7で得られた反応生成物より、次の反応式

に従って、光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ラクトンを合成した。すなわち、反応生成物のanti−体(45.6mg,0.193mmol)のMeOH(1.0ml)にNaBH(14.6mg,0.39mmol)を0℃に加え、10分間攪拌した後にアセトンを添加し、さらに5分間攪拌した。次いで飽和NHCl水性溶液を添加した。
CHClで抽出し、乾燥、溶媒蒸発させた後に、そのCHCl(1ml)溶液にTsOH・HOを加え、室温で13.5時間攪拌した。
反応混合物に飽和NaHCO水溶液を加え、CHClで抽出し、乾燥、溶媒蒸発処理した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製した。生成物として、上記反応式に示したラクトン化合物とそのepi−体(比率:55/45)を、ジアステレオマー混合物として得た。19.8mg,収率53%。
生成物の同定値を次に示した。

同様にして、実施例7での生成物のsyn−体を原料とすることで、ラクトン化合物とそのepi−体(比率:86/14)を、収率84%で得た。
生成物の同定値を次に示した。

[実施例12]
アルゴン雰囲気、室温下で、次式に示したキラルジアミン(0.15mmol)のジクロロメタン溶液(3ml)をNi(OTf)のジクロロメタン溶液(2ml)に加え8時間攪拌した。この溶液を0℃に冷却した後、ジケトン(1.5mmol)のジクロロメタン溶液(2.5ml)とエナミド(1.0mmol)のジクロロメタン溶液(2.5ml)を続けて加えた。48時間攪拌後、48%臭化水素酸(0.5ml)を滴下し5分間攪拌後、炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液を加えた。反応用液をジクロロメタンで抽出し、有機相を水、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、減圧濃縮して得た組成生物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製したところヒドロキシジケトンを収率77%、光学純度59%eeで得た。
Ni(OTf)に代えてCu(OTf)を用い同様の条件下で反応を行ったところ、ヒドロキシジケトンが収率52%、光学純度72%eeで得られた。

[実施例13]
実施例12において、Ni(OTf)またはCu(OTf)と、各種のキラルジアミン配位子(A、B、C、D、E)とを用いて構成したキラル触媒系で反応を行った。その結果を表8に示した。

[実施例14]
実施例12において、Ni(OTf)に代えて、NiClとその2当量のAgOTfとを用いて反応を行った。
その結果、収率85%、光学純度57%の成績でヒドロキシジケトン化合物が得られた。また、AgOTfを3当量を用いた場合には、収率は56%で、光学純度は81%eeであった。
【産業上の利用可能性】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、医薬品、農薬、香料、機能性高分子等の製造のための原料や合成中間体として有用な、光学活性α−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステル、光学活性α−ヒドロキシ−γ−アミノ酸エステル、光学活性なヒドロキシジケトン等の不斉合成を可能とする、エナンチオ選択的なアルデヒド基への求核付加反応方法が提供される。そして、この出願の発明によれば、高立体選択的な反応も可能とされ、特に、α−1置換のエンカルバメートの場合には、高いジアステレオ選択性とエナンチオ選択性が実現されることになる。さらには、光学活性なγ−ラクタムやγ−ラクトン類の新しい合成方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル基へのヒドロキシル基(−OH)生成をともなうエナミド化合物の求核付加反応方法であって、銅もしくはニッケルをもってのキラル触媒の存在下に反応させることを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法。
【請求項2】
キラル触媒は、有機酸または無機酸の塩もしくはこの塩の錯体または複合体である銅化合物もしくはニッケル化合物とキラルジアミン配位子とにより構成されていることを特徴とする請求項1のエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法。
【請求項3】
キラルジアミン配位子は、エチレンジアミン構造をその一部に有することを特徴とする請求項2のエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかのエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法であって、次式

(式中のRaは置換基を有していてもよい炭化水素基もしくはR−CO−またはR−O−CO−であって、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Rbは、水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素基を示す)
で表わされるカルボニル基を有する化合物に対し、そのカルボニル基へのヒドロキシル基(−OH)の生成をともなうエナミド化合物による求核付加反応を行うことを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法。
【請求項5】
カルボニル基を有する化合物が、グリオキシル酸のエステルであることを特徴とする請求項4のエナンチオ選択的なエナミドの求核的付加反応方法。
【請求項6】
請求項5のエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法であって、カルボニル基を有する化合物が、次式(1)

(式中のRは、置換基を有していてもよい炭化水素基を示す)で表わされるグリオキシル酸エステルであり、エナミド化合物は、次式(2)

(式中のRは、置換基を有していてもよい炭化水素基、または酸素原子を介して結合する置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、RおよびRは、各々、同一または別異に、水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、少なくとも一方は水素原子であることを示す。また、Rは、RまたはRと結合して環を形成していてもよい。)で表わされるものとすることを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法。
【請求項7】
請求項6の求核付加反応後に酸処理することにより次式(3)

(式中のR、R、RおよびRは各々前記のものを示す)の少なくともいずれかで表わされる化合物を生成させることを特徴とする光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステルの合成方法。
【請求項8】
請求項6の求核付加反応後に還元処理することにより次(4)

(式中のR、R、R、RおよびRは各々前記のものを示す)の少なくともいずれかで表わされる化合物を生成させることを特徴とする光学活性なα−ヒドロキシ−γ−アミノ酸エステルの合成方法。
【請求項9】
請求項8の方法により合成された光学活性なα−ヒドロキシ−γ−アミノ酸エステルのγ−アミノ基上の置換基(RCO−)を除去した後に環化反応させて、次式(5)

(式中のR、RおよびRは前記のものを示す)の少なくともいずれかで表わされる化合物を生成させることを特徴とする光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ラクタム類の合成方法。
【請求項10】
請求項7の方法により合成された光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ケト酸エステルを還元反応させ、続いて環化反応させて、次式(6)

(式中のR、RおよびRは各々前記のものを示す)の少なくともいずれかで表わされる化合物を生成させることを特徴とする光学活性なα−ヒドロキシ−γ−ラクトン類の合成方法。
【請求項11】
請求項4のエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応であって、カルボニル基を有する化合物が次式(7)

(式中のRおよびRは、同一または別異に、置換基を有していてもよい炭化水素基を示す)
で表わされるジケトン化合物であり、エナミド化合物は、次式(2)

(式中のRは、置換基を有していてもよい炭化水素基、または酸素原子を介して結合する置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、RおよびRは、各々、同一または別異に、水素原子または置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、少なくとも一方は水素原子であることを示す。また、Rは、RまたはRと結合して環を形成していてもよい。)で表わされるものとすることを特徴とするエナンチオ選択的なエナミドの求核付加反応方法。
【請求項12】
請求項11の求核付加反応後に還元処理することにより次(8)

(式中のR、R、R、RおよびRは各々前記のものを示す)で表わされる光学活性化合物を生成させることを特徴とする光学活性なヒドロキジケトン化合物の合成方法。

【国際公開番号】WO2005/070864
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517333(P2005−517333)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001281
【国際出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】