説明

エネルギー分散型X線分光器による分析方法及びX線分析装置

【課題】 電子線照射により試料から発生するX線を検出する分析方法において、試料が電子線照射により損傷を受ける前に測定を自動的に停止させる。
【解決手段】 電子線照射により試料から発生したX線、二次電子等をそれぞれX線検出器24、電子検出器23で検出し経過時間情報、座標位置とともに時系列的に組み合わせた時系列データとして記憶部34に格納する。測定しながら、測定開始から一定の時間間隔で記憶部34からX線信号を抽出しX線スペクトルを再生する。スペクトル全体又は任意に指定したエネルギー範囲のX線強度の時間経過に伴う変動をモニタし、異常を検知したら手動又は自動的に測定を中止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に電子線を照射して放出される特性X線を検出するためのエネルギー分散型X線分光器(EDS)を備える透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)等のX線分析装置に係わり、特に測定経過時間とともに電子線損傷等により変化する試料の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線を照射して放出される特性X線を分光検出し、試料の分析を行なう元素分析方法及び装置が広く普及している。試料の中には電子線を照射すると組成や形状の変化を起こすものがある。ソーダガラスなどに含まれるナトリウム(Na),カリウム(K)などのアルカリ元素は、試料に電子線を照射して分析中に特性X線強度が減衰してしまう代表的元素である。特許文献1の特許第3950626号公報には、Na,K等の電子線照射によるダメージに敏感な元素に関して、定性スペクトルの特性X線ピーク強度を用いて簡易定量分析を行なうとき、予め求めておいた電子線照射分析計測時間と検出X線強度との関係を表す分析計測時間影響曲線によって特性X線ピーク強度を補正することにより分析精度を向上させる技術が開示されている。
【0003】
特許文献2の特開2007−198749号公報には、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を装着した表面分析装置において、検出したX線信号のエネルギーデータの間に測定経過時間を表すタグと試料上の位置(座標)情報を表すタグを配置して全てのX線信号データを順次記憶装置に格納することにより、EDSスペクトルを一度測定するだけで任意の時間毎のスペクトルを再生することのできる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3950626号公報
【特許文献2】特開2007−198749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の特許第3950626号公報に開示されている技術は、分析前に必ず分析計測時間影響曲線を作成しておかなければならない。しかし、電子線の照射電流値、電子線径等の分析条件が変わるとそれに応じた曲線が必要であるため準備に手間がかかるという問題がある。
【0006】
特許文献2の特開2007−198749号公報に開示されている技術は、一度データを取り込んでしまえば、測定開始後の任意の経過時間毎にX線スペクトルを再生できるので、測定中に試料の組成がどのように変化したかを知ることが出来る。また、その変化の様子から、所望するX線スペクトルのみを抽出し、定量分析等に用いることが出来る。しかし、データの測定中に、試料に対する電子線照射の影響が少ないうちに電子線照射(測定)を停止する技術は示されていない。また、線分析、面分析を行なっている間に、分析領域の一部が電子線照射による変化を起こしたときに、その変化を検知し、必要であれば測定を停止する技術も示されていない。
【0007】
本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、その目的は、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いたX線分析装置を備える透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)等の電子線装置において、試料が電子線照射により損傷を受ける前に測定を自動的に停止させることの出来るX線分析方法及び電子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するために、
請求項1に記載の発明は、電子線を試料に照射して該試料から発生する特性X線をエネルギー分散型X線分光器により検出し該試料の分析を行なうX線分析方法であって、
電子線の試料照射位置を2次元的に制御して該試料から発生した特性X線を検出する検出工程と、
前記検出工程により検出された特性X線のエネルギーを分析する分析工程と、
前記分析工程で検出されたエネルギーのX線信号データの生成及び特性X線の測定経過時間情報データの生成及び前記電子線の位置情報データの生成を行なうデータ処理工程と、
前記データ処理工程により生成された各データを時系列的に組み合わせた時系列データとして記憶装置に格納するデータ格納工程と、
格納された前記測定経過時間の指定された測定経過時間範囲及び/又は前記位置情報データの指定された位置情報範囲に含まれるX線信号データを前記時系列データから抽出する抽出工程とを有するX線分析方法において、
前記抽出工程によって抽出された前記X線信号データの全て又は一部のデータの時間経過に伴う変動を検出する変動検出工程を備え、
前記変動検出工程において検出されたデータの変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とする。
【0009】
また請求項2に記載の発明は、前記変動検出工程において、前記一定の時間間隔及び/又は一定の位置間隔毎の範囲に含まれるX線信号データを用いて、横軸を前記X線信号のエネルギー値、縦軸を前記X線信号の積算個数とするスペクトルを構築し、検出された前記スペクトルの変動に基づいて、試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また請求項3に記載の発明は、前記スペクトルの変動は、予め指定されたエネルギー範囲に含まれる前記X線信号の積算個数の変化であることを特徴とする。
【0011】
また請求項4に記載の発明は、前記測定経過時間の増加に伴う前記データの変動が予め指定された閾値を超えたとき、試料への電子線照射を停止する工程を更に備えたことを特徴とする。
【0012】
また請求項5に記載の発明は、前記一定の位置間隔により決まる領域において繰り返し測定されたX線信号データを前記記憶装置から抽出し、
前記繰り返し測定された前記X線信号データの前記繰り返し測定回数の増加に伴う変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とする。
【0013】
また請求項6に記載の発明は、前記繰り返し測定された前記X線信号データの全て又は一部を用いて前記領域を構成する区画のX線強度を求め、前記領域に対応する前記X線強度の分布を表す画像を前記繰り返し測定毎に構築し、前記繰り返し測定回数の増加に伴う前記強度分布の変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とする。
【0014】
また請求項7に記載の発明は、前記強度分布の変動は、前記画像を構成する任意の区画について前記繰り返し測定毎に構築された画像のX線強度の平均値と前記繰り返し測定の最後の画像構築に使用した画像のX線強度との差分であることを特徴とする。
【0015】
また請求項8に記載の発明は、前記強度分布の変動は、前記繰り返し測定毎に構築された画像に使用した全てのX線強度の標準偏差であることを特徴とする。
【0016】
また請求項9に記載の発明は、電子線を試料に照射して該試料から発生する特性X線を分光検出することにより該試料の分析を行なうエネルギー分散型X線分光器を装着したX線分析装置であって、
電子線の試料照射位置を2次元的に制御して該試料から発生した特性X線を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された特性X線のエネルギーを分析する分析手段と、
前記分析手段で検出されたエネルギーのX線信号データの生成及び特性X線の測定経過時間情報データの生成及び前記電子線の位置情報データの生成を行なうデータ処理手段と、
前記データ処理手段により生成された各データを時系列的に組み合わせた時系列データとして記憶装置に格納するデータ格納手段と、
格納された前記測定経過時間の指定された測定経過時間範囲及び/又は前記位置情報データの指定された位置情報範囲に含まれるX線信号データを前記時系列データから抽出する抽出手段とを有するX線分析装置において、
前記抽出手段によって抽出された前記X線信号データの全て又は一部のデータの時間経過に伴う変動を検出する変動検出手段を備え、
前記変動検出手段により検出されたデータの変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、
任意に指定された一定の時間間隔及び/又は一定の位置間隔の範囲に含まれるX線信号データを時系列データから抽出し、抽出された前記X線信号データの全て又は一部のデータの時間経過に伴う変動を検出する変動検出工程を備え、
前記変動検出工程において検出されたデータの変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたので、試料が電子線照射により損傷を受ける前に測定を自動的に停止させることができる。
【0018】
また、任意に指定された一定の時間間隔及び/又は一定の位置間隔の範囲に含まれるX線信号データを時系列データから抽出し、抽出された前記X線信号データの全て又は一部のデータの時間経過に伴う変動を検出する変動検出手段を備え、
前記変動検出手段により検出されたデータの変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたので、試料が電子線照射により損傷を受ける前に測定を自動的に停止させることのできるX線分析装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】

【図1】本発明を実施するSEMの概略構成例を示す図。
【図2】本発明において、格納されているデータから所望の時間範囲に含まれるX線信号データを抽出する方法を説明するための図。
【図3】本発明において、格納されているデータから抽出したX線信号データにより得られたX線スペクトルの例。
【図4】本発明において、格納されているデータから一定の時間間隔で抽出したX線信号により作成したX線スペクトルを用いてX線強度の変化をプロットしたグラフ。
【図5】本発明において、試料上に設定された区画を試料位置情報の単位として線分析を行なう場合を説明するための図。
【図6】本発明による線分析データの格納と抽出方法を示す図。
【図7】本発明において、試料上に設定された区画を試料位置情報の単位として面分析を行なう場合を説明するための図。
【図8】本発明による面分析データの格納と抽出方法を示す図。
【図9】本発明において、同じ面分析領域で測定を繰り返したデータから抽出されたX線信号により得られた複数の画像を示す図。
【図10】本発明において、注目する領域内のX線強度の変動を画像表示する例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものでは無い。各図において、同一または類似の動作を行なうものには共通の符号を付し、詳しい説明の重複を避ける。
【0021】
図1は本発明を実施するSEMの概略構成例を示す図である。鏡筒10の内部には、電子線12を発生する電子銃11、電子線12を細く絞る集束レンズ13と対物レンズ15、電子線12偏向する偏向器14からなる電子光学系が配置されている。電子光学系制御部16は電子銃11に印加される加速電圧、集束レンズ13と対物レンズ15の励磁電流、偏向器14の印加電圧などの制御を行なう。電子線12が試料21を照射する位置は偏向器14の印加電圧により決まる。
【0022】
試料室20の内部には、試料21を移動するための試料ステージ22、電子線照射によって試料から発生する電子(二次電子、反射電子等)検出するための電子検出器23及びX線を検出するためのエネルギー分散型のX線検出器24が配置されている。
【0023】
25はX線検出器24により検出されたX線信号のパルス波高値に基づいてマルチチャンネルアナライザによりエネルギー値を解析し対応するチャンネルを割り当てるためのX線信号処理部である。26は試料21を移動して電子線12の照射位置を変えるための試料ステージ制御部である。27は電子検出器23で検出した電子信号強度をデジタル信号としてコンピュータ31に送るための電子信号処理部である。電子信号処理部27からの電子信号強度データは、
偏向器14により決められた電子線12の照射位置と関連付けられてコンピュータ31に送られる。
【0024】
電子光学系制御部16、X線信号処理部25、試料ステージ制御部26、電子信号処理部27はバス30を介してコンピュータ31に接続されている。コンピュータ31には電子線画像、X線画像、操作画面等を表示する液晶ディスプレイ等の表示部32、マウスやキーボード等の入力部33、分析データを格納するハードディスク等の記憶部34がバス30を介して接続されている。
【0025】
鏡筒10内の電子線12の通路や試料室20の内部は、図示しない真空排気ポンプにより10−3Pa程度の真空が保たれるようになっている。なお、実際の装置では上記した以外にも、電子線シャッタ、絞り、非点収差補正コイル等が配置されているが説明を省略している。
【0026】
次に本発明を実行するために用いられる分析データの構造について説明する。本発明においては、電子線12の照射位置を変えるための偏向器14を電子光学系制御部16により制御し、試料21の所定の座標位置に電子線12を照射する。電子線照射により発生したX線をX線検出器24で検出してX線信号処理部25でX線信号に変換し、二次電子等を電子検出器23で検出して電子信号処理部27で電子信号に変換する。これらの信号のデータを測定の経過時間情報、座標位置とともに時系列的に組み合わせた時系列データとして記憶部34に格納する。
【0027】
なお、X線信号の取得とともに電子信号を取得することはX線分析にとって必須ではない。しかし、電子信号により形成される画像は、分析場所を知る上で重要な知見をもたらすため、X線信号と同時に取り込むことは大きなメリットがある。
【0028】
記憶部34に格納される時系列データの構造は、例えば位置情報データをP、X線信号データをD、電子検出器からの電子信号データをI、経過時間情報データをTとすると、
P,I,D,D,D,D,T,D,・・・,D,P,I,D,D・・・T,D,D・・・D,P,I,D,・・・,D,D,T,D,D,・・・のように表される。このデータ列は、それぞれのデータを紙面左側から右側に向かって測定経過時間軸に沿って直列に並べた時系列データとなっている。
【0029】
位置情報(P)は、試料上の分析位置を表す座標値で、電子線に直角なX,Y軸、電子線に平行なZ軸、試料傾斜のT軸、試料回転のR軸などの一部若しくは全てのデータを意味する。
【0030】
X線信号(D)は、X線検出器24に入射するX線量子のひとつひとつを解析したエネルギー値(又は対応するチャンネル)のデータを表しており、例えば13bit程度の深さを持つことが望ましい。
【0031】
電子信号(I)は、1つ以上の電子信号(二次電子、反射電子、透過電子等)のデータを意味する。
【0032】
経過時間情報(T)は、実経過時間(Real Time)又は有効時間(Live Time)の一部又は全てを意味するデータである。ここで、実経過時間とは測定開始から実際に経過した時間であり、有効時間とはEDSの不感時間(Dead Time)を除いた正味の測定時間である。
【0033】
なお、本発明におけるデータ構造は各種のデータを個々に積み重ねて順番に格納していくように作られているので、上記以外の例えば試料吸収電流、カソードルミネッセンスといった信号データを追加することも可能である。
(実施の形態1)
図2は、測定開始から所望の経過時間aから所望の時間bが経過した間に含まれるX線信号(D)データを記憶部34に格納された時系列データから抽出する方法を説明するための図である。図2(a)において、経過時間aのデータを持つ経過時間情報をTa、経過時間情報Taから時間bが経過したときの経過時間情報をTa+bで表すと、TaとTa+bとの間に含まれるX線信号(D)データを全て抽出すれば、ある時間内に収集されたX線のスペクトルを得ることが出来る。経過時間a及び時間範囲bは、データ列に測定時の経過時間情報Tを入れる最小時間間隔をtminとすればtminの倍数で任意に指定できる。
【0034】
格納されているデータから抽出したX線信号(D)データにより得られたX線スペクトルの例を図3に示す。図3において、横軸はX線のエネルギーを表し、マルチチャンネルアナライザの0.01KeV間隔に区切られた各チャンネルに対応している。縦軸はX線信号(D)の個数をチャンネル毎に積算した値である。この積算値は通常X線強度と呼称される。
【0035】
ROI(Region of Interest)は、所望のエネルギーを持つX線信号のみを選択するために設けられたエネルギー範囲を意味している。ROIの範囲は操作者が任意に設定できるが、操作者が元素を指定すると適当な範囲を自動的に設定する機能を備える装置もある。
【0036】
図3では、シリコン(Si−Kα)とカルシウム(Ca−Kα、Ca−Kβ)の特性X線を含むようにそれぞれROI(Si)とROI(Ca)を設定している。ROI(Ca)の設定範囲をCa−Kαのみが含まれるように設定しても良い。
【0037】
【表1】

【0038】
表1にX線エネルギーとD値とチャンネルの関係を示す。ROI(Si)は1.6KeV〜1.9KeV、ROI(Ca)は3.55KeV〜4.15KeVの範囲に設定されている。TaとTa+bとの間に含まれるX線信号(D)データの全ての個数を積算すれば、スペクトル全体のX線強度を知ることが出来る。また、ROI(Si)、ROI(Ca)の間の値を持つDの個数を積算すれば、SiとCaのX線強度を別々に知ることができる。
【0039】
なお、表1においては、D値がチャンネル番号に対応するようにX線のエネルギーをD値に変換しているが、これに限るわけではない。例えば、X線エネルギーを1eV単位で格納(1.6KeVのX線は「D=1600」)しておき、データを抽出してスペクトルを得るときにチャンネルのエネルギー幅に合わせて変換しても良い。
【0040】
図2(b)は、格納されているデータ列から経過時間情報を読み取り、任意の時間間隔でX線信号(D)データを抽出して、時系列的にX線スペクトルを得る場合を示している。図2(b)において、経過時間情報Ta+2b及びTa+nbは、経過時間aからそれぞれbの2倍及びbのn倍の時間が経過した時の経過時間データを持つTを意味している。
【0041】
次に、上記のようにして時系列的に得られるX線スペクトルを用いて、分析中に装置や試料に問題が生じていないかをモニタする方法について説明する。
【0042】
分析中にはいろいろな要因で測定データに異常が発生することがある。例えば、電子銃のフィラメントが切れそうになって輝度が大幅に変動することがある。また、電子線照射により試料が熱損傷を受けて変形したり、組成変化を起こすことがある。測定時に異常が発生したとき、測定を続けることは時間が無駄なばかりでなく、特に試料損傷が発生した場合は、速やかに電子線照射を停止する必要がある。
【0043】
図4は、図2(b)に示すような方法で測定開始から一定の時間間隔で抽出したX線信号により作成したX線スペクトルを用いて、全体又は任意に指定したエネルギー範囲のX線強度の変動をプロットしたグラフである。横軸は経過時間、縦軸は一定の時間間隔内に含まれるX線信号(D)の積算値を表す。例えば、電子線照射により試料表面が窪むと、試料表面から放出されるX線が余分な吸収を受けて減少することがある。その場合は、X線スペクトル全体のX線強度変化をモニタすることにより、試料損傷の進行度合いを知ることができる。図4に示すようなグラフを測定中にリアルタイムで表示させれば、変動の様子を操作者が確認して、測定を中止(電子線照射を停止)することができる。或いは、予め閾値を設定(図2のグラフでは開始時の95%)しておいて、X線強度が閾値に達したら測定を自動的に中止するようにしても良い。
【0044】
前述したように、ソーダガラスなどに含まれるナトリウム(Na),カリウム(K)などのアルカリ元素は特に電子線照射に弱いため、図3に示すようなROIをNa,Kに合わせて設定し、これらの元素のX線強度変化をモニタするようにしても良い。
【0045】
さらに、測定終了後にX線強度の変動の状況を確認して、分析に使用可能な範囲のデータのみを取り出すようにしても良い。
【0046】
(実施の形態2)
従来から、任意の線状若しくは帯状に電子線と試料を相対移動し、試料から得られる各種信号の強度変化のプロファイルを描く分析手法がある(以下の説明では、これを「線分析」と称す)。電子線と試料との相対移動は、偏向器14又は試料ステージ22又はこれら両方を使用して行われる。
【0047】
図5は、試料上に設定された区画(Section)を試料位置情報の単位として線分析を行なう場合を説明するための図である。電子線による試料照射は区画P1から開始され、Peで終了する。図6は、本発明による線分析データの格納と抽出方法を示す図である。図6(a)において、P1とPeはそれぞれライン上の先頭と終わりの位置情報を持つデータであることを示している。位置情報(P)に挟まれるX線信号(D)を抽出すれば、ライン上の任意の区間について、指定する元素のX線強度変化をプロファイルとして得ることが出来る。
【0048】
図6(b)は、ライン上を繰り返して測定したときの測定データを抽出する方法を示している。繰り返しの回数は、ラインエンドの位置情報Peをカウントすることにより知ることが出来る。ライン毎にX線強度積算を行ないながらLine_1から順にX線信号(D)の積算を行ない、図4に示すようなグラフを作成すれば、試料が熱損傷を受けたような場合でも、測定データの異常をいち早く発見し、電子線照射の停止等の操作を行なうことが可能である。
【0049】
なお、線分析により取得されたデータでも、測定経過時間情報をデータ列に加えておくことにより、位置情報とは独立して若しくは位置情報と関連付けて任意の時間範囲の測定データを抽出することが可能である。
【0050】
(実施の形態3)
従来から、任意の領域で二次元的に電子線と試料を相対移動し、試料から得られるX線強度変化をカラー等の画像で表示する分析手法がある(以下の説明では、これを「面分析」と称す)。電子線と試料との相対移動は、偏向器14又は試料ステージ22又はこれら両方を同時に使用して行われる。
【0051】
図7は、試料上に設定された区画(Section)を試料位置情報の単位として面分析を行なう場合を説明するための図である。電子線による試料照射は区画P11から開始され、Pxyで終了する。
【0052】
図8は、本発明による面分析データの格納と抽出方法を示す図である。図8(a)において、P11とPxyはそれぞれ面分析領域の先頭と終わりの位置情報を持つデータを意味している。図8(a)に示すデータ列は、電子線と試料との相対移動が、先ず紙面左上から始まって右方向に線状に移動して行なわれ、順次下方に1段下がって紙面左から再び線状に移動するように行なわれた場合に格納されるデータ例である。
【0053】
位置情報(P)に挟まれるX線信号(D)を抽出し積算すれば、面分析領域内に含まれる任意の区画について、指定する元素のX線強度を得ることが出来る。従って面分析領域のX線強度の変動を例えばカラー等の分布像として得ることが出来る。例えば、先頭と終わりの位置情報がそれぞれP27とP39であるブロック(Block)、先頭と終わりの位置情報がそれぞれP61とP612であるライン(Line)の変動を知りたければ、図8(a)に示すように範囲を指定することにより注目する領域を抽出することが出来る。このとき必要な元素についてROIを設定しておけば、各々の元素の分布像を得ることが出来る。
【0054】
図8(b)は、面分析領域を繰り返して測定したときの測定データからフレーム(Frame)毎のデータを抽出する方法を示している。P11からPxyまでのデータをFrame_1とし、Pxyが表れる毎に各Frameのデータを抽出すればよい。繰り返しの回数は、面分析領域の終わりの位置情報Pxyをカウントすれば知ることが出来る。
【0055】
図9は、同じ面分析領域で測定を繰り返したデータから、図8(b)に示すような方法で抽出されたX線信号(D)に基づいて得られた画像である。各フレームの先頭と終わりの位置情報に挟まれる全X線信号(D)もしくは特定の元素に設定されたROIに含まれるX線信号(D)の積算値を抽出すれば、X線強度の分布像を得ることができる。
【0056】
フレーム毎に面分析を繰り返しながら、Frame_1から順にX線信号(D)の抽出を行ない、図4に示すようなグラフを作成すれば、試料が熱損傷を受けたような場合でも、測定データの異常をいち早く発見し、電子線照射の停止等の操作を行なうことができる。
【0057】
なお、面分析により取得されたデータの場合でも、測定経過時間情報をデータ列に加えておくことにより、位置情報とは独立して若しくは位置情報と関連付けて任意の時間範囲の測定データを抽出することができる。
【0058】
(実施の形態4)
図9において、注目するセクションAm又はAmを含むブロックのX線強度の変動をモニタすることにより、測定データの異常を検出することが可能である。図10は、注目するセクションAmを含むブロックの変動Cを求め、変動Cの分布図を表示した例である。Frame_nまではAmを含むブロックに何も表示されていないが、Frame_n+1には変動Cが表示されている。すなわち、Frame_n+1の測定中にAmを含むブロックに含まれるデータの変動Cが一定の大きさを超えたことを意味している。
【0059】
変動Cとして、例えば、Frame_iのAmを含むブロックの積算値をfiとすると、下式(1)で算出されるFrame_nまでの平均値との偏差をとることができる。
【0060】
【数1】

【0061】
また例えば、下式(2)で算出されるようなFrame_nまでの標準偏差を表示しても良い。
【0062】
【数2】

【0063】
上記の説明において、格納されているデータから任意の時間間隔若しくは位置間隔で抽出するデータはX線信号(D)としているが、電子情報(I)であっても、又はカソードルミネッセンス等の他のデータであっても良い。
【0064】
以上述べたように、本発明によれば、測定開始から一定の時間間隔で抽出したX線信号により作成したX線スペクトルを用いて、全体又は任意に指定したエネルギー範囲のX線強度の変化をモニタすることにより、試料が電子線照射により損傷を受ける前に測定を停止させることができる。
【符号の説明】
【0065】
(同一または類似の動作を行なうものには共通の符号を付す。)
10…鏡筒
11…電子銃
12…電子線
13…集束レンズ
14…偏向器
15…対物レンズ
16…電子銃制御部
17…電子光学系制御部
20…試料室
21…試料
22…試料ステージ
23…電子検出器
24…X線検出器
25…X線信号処理部
26…試料ステージ制御部
27…電子信号処理部
30…バス
31…コンピュータ
32…表示部
33…入力部
34…記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を試料に照射して該試料から発生する特性X線をエネルギー分散型X線分光器により検出し該試料の分析を行なうX線分析方法であって、
電子線の試料照射位置を2次元的に制御して該試料から発生した特性X線を検出する検出工程と、
前記検出工程により検出された特性X線のエネルギーを分析する分析工程と、
前記分析工程で検出されたエネルギーのX線信号データの生成及び特性X線の測定経過時間情報データの生成及び前記電子線の位置情報データの生成を行なうデータ処理工程と、
前記データ処理工程により生成された各データを時系列的に組み合わせた時系列データとして記憶装置に格納するデータ格納工程と、
格納された前記測定経過時間の指定された測定経過時間範囲及び/又は前記位置情報データの指定された位置情報範囲に含まれるX線信号データを前記時系列データから抽出する抽出工程とを有するX線分析方法において、
前記抽出工程によって抽出された前記X線信号データの全て又は一部のデータの時間経過に伴う変動を検出する変動検出工程を備え、
前記変動検出工程において検出されたデータの変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とするX線分析方法。
【請求項2】
前記変動検出工程において、前記一定の時間間隔及び/又は一定の位置間隔毎の範囲に含まれるX線信号データを用いて、横軸を前記X線信号のエネルギー値、縦軸を前記X線信号の積算個数とするスペクトルを構築し、検出された前記スペクトルの変動に基づいて、試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のX線分析方法。
【請求項3】
前記スペクトルの変動は、予め指定されたエネルギー範囲に含まれる前記X線信号の積算個数の変化であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のX線分析方法。
【請求項4】
前記測定経過時間の増加に伴う前記データの変動が予め指定された閾値を超えたとき、試料への電子線照射を停止する工程を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のX線分析方法。
【請求項5】
前記一定の位置間隔により決まる領域において繰り返し測定されたX線信号データを前記記憶装置から抽出し、
前記繰り返し測定された前記X線信号データの前記繰り返し測定回数の増加に伴う変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のX線分析方法。
【請求項6】
前記繰り返し測定された前記X線信号データの全て又は一部を用いて前記領域を構成する区画のX線強度を求め、前記領域に対応する前記X線強度の分布を表す画像を前記繰り返し測定毎に構築し、前記繰り返し測定回数の増加に伴う前記強度分布の変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とする請求項5に記載のX線分析方法。
【請求項7】
前記強度分布の変動は、前記画像を構成する任意の区画について前記繰り返し測定毎に構築された画像のX線強度の平均値と前記繰り返し測定の最後の画像構築に使用した画像のX線強度との差分であることを特徴とする請求項6に記載のX線分析方法。
【請求項8】
前記強度分布の変動は、前記繰り返し測定毎に構築された画像に使用した全てのX線強度の標準偏差であることを特徴とする請求項6に記載のX線分析方法。
【請求項9】
電子線を試料に照射して該試料から発生する特性X線を分光検出することにより該試料の分析を行なうエネルギー分散型X線分光器を装着したX線分析装置であって、
電子線の試料照射位置を2次元的に制御して該試料から発生した特性X線を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された特性X線のエネルギーを分析する分析手段と、
前記分析手段で検出されたエネルギーのX線信号データの生成及び特性X線の測定経過時間情報データの生成及び前記電子線の位置情報データの生成を行なうデータ処理手段と、
前記データ処理手段により生成された各データを時系列的に組み合わせた時系列データとして記憶装置に格納するデータ格納手段と、
格納された前記測定経過時間の指定された測定経過時間範囲及び/又は前記位置情報データの指定された位置情報範囲に含まれるX線信号データを前記時系列データから抽出する抽出手段とを有するX線分析装置において、
前記抽出手段によって抽出された前記X線信号データの全て又は一部のデータの時間経過に伴う変動を検出する変動検出手段を備え、
前記変動検出手段により検出されたデータの変動に基づいて試料への電子線照射を停止するようにしたことを特徴とするX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−164442(P2010−164442A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7278(P2009−7278)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】