説明

エネルギー貯蔵デバイス

【課題】容量密度の大きなエネルギー貯蔵デバイスを提供する。
【解決手段】0.1M以上の濃度で電解液中に溶解したビオロゲン誘導体塩、もしくビピリジル誘導体塩を負極活物質として用い、正極として遷移金属錯体、アニリン系低分子化合物、中性ラジカル化合物、π共役高分子から選択された少なくとも一つの活物質を使用し、さらに電極として、活性炭素、繊維状炭素、多孔質炭素等を電極として使用する。例えば、少なくとも正極、負極、電解液、セパレータ、少なくとも一部が前記電解液中に溶解した活物質からなり、該活物質が含窒素芳香族化合物、及び/または含窒素芳香族化合物の四級化アンモニウム塩である事を特徴とするエネルギー貯蔵デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエネルギー貯蔵デバイスに関し、電解液に溶解したピリジニウム誘導体を活物質として用いた大容量エネルギー蓄積デバイスに関する。特にビピリジル誘導体の酸化/還元反応によりエネルギーを貯蔵する機構を備えた新規なエネルギー貯蔵デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、民生用電子機器のポータブル化、コードレス化等が進んでおり、これら電子機器の駆動用電源を担う小型、軽量で大容量を有するキャパシタ、電池への要望が高まっている。また、ハイブリッド自動車(HEV)や燃料電池自動車(FCEV)等の用途でも大容量のキャパシタ、電池が必要とされている。
【0003】
エネルギー貯蔵用小型デバイスとして最も大きな市場を形成しているのがリチウムイオン二次電池である。正極にリチウム含有遷移金属酸化物、負極に層状炭素材料を利用するリチウムイオン二次電池は大容量電池であり、すでに広い用途に使用されている。リチウムイオン二次電池の研究は盛んに行われており、正極、負極のみならず電解液に関する改良研究も行われている。(例えば、特許文献1参照)このリチウムイオン二次電池は容量密度が大きいと言う特徴を有するが、一方で出力密度が小さいと言う欠点を有している。このため如何にしてリチウムイオン二次電池の出力密度を大きくするか、と言う検討が広く行なわれている。(特許文献2、3)
一方で、出力密度の大きなエネルギー貯蔵用小型デバイスとして、電気二重層キャパシタが実用化されている。この電気二重層キャパシタは、電圧を加えたときに電極と電解質との界面に生じる電気二重層容量を利用したデバイスである。電気二重層容量による蓄電のメカニズムは電気化学反応を伴う前記リチウムイオン二次電池と比較して、より早い充放電が可能であり、充放電の繰り返し寿命特性にも優れているという特徴を有している。しかし、一方で二重層キャパシタはリチウム二次電池と比較して容量密度が小さいと言う欠点を有している。
【0004】
その他として金属酸化物や導電性高分子による擬似容量を用いたキャパシタが提案されている。擬似容量は電気二重層容量とは異なり、電極材料の酸化還元反応を伴って蓄えられ、例えば擬似容量は導電性高分子のレドックス反応、すなわちドープ・脱ドープ反応によって発現する。このような導電性高分子材料としてはポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン等のπ共役高分子が知られているが、やはり容量密度向上が課題である。
【0005】
また、リチウムイオン電解質型キャパシタと呼ばれる素子が提案されている。(例えば、特許文献4参照)これは、正極側に活性炭表面の電気二重層容量、負極側に層状炭素材料へのリチウムイオンのインターカレーション容量を利用して蓄電するもので、二重層キャパシタの使用電圧の範囲を拡大する事で容量密度の向上を目指したものである。しかしながら、これらの手法によるエネルギー密度向上の取り組みによっても、まだエネルギー密度と出力密度のいずれも十分に満足するエネルギー蓄積素子は出来ていない。
【0006】
以上のキャパシタおよび電池はいずれもエネルギー貯蔵手段として固体電極自体の酸化・還元反応または電極近傍の電気二重層を利用したデバイスである。すなわち電気エネルギーの貯蔵および放出は、電極材料自体の酸化還元や電極表面でのイオンの吸脱着等の、電極自体または電極近傍に関わる部位を利用して行われる。
【0007】
これに対して、溶媒溶解した活物質自体にエネルギーを蓄える全く別の方式によるエネルギー蓄積システムが提案されている。この様なエネルギー蓄積方式としてはレドックスフロー型の電池が知られており、その実用化検討が進んでいる。例えば、正極の液としてFe3+/Fe2+塩水溶液、負極としてCr2+/Cr3+塩水溶液を用いたシステム(特許文献5)、正極液にVO2+/VO、負極液にV2+/V3+を用いたシステム(特許文献6)が提案されている。この電池は電極で酸化及び還元された活物質を、循環させてそれぞれ別のタンクに貯め、大エネルギー蓄積を行なうもので、活物質を流動させて溜め込む所に特徴がある。したがって、別のタンクが必要である、循環機構を必要とする、などの問題点があり小型のエネルギー蓄積素子としては適当でない。
【0008】
我々は以上の点に着目し、電解液に溶解させた活物質の酸化還元反応を用いた全く新しい方式のエネルギー貯蔵を検討し、大容量のエネルギー貯蔵デバイスを実現する事を検討した。
【0009】
なお、本発明ではビオロゲンに代表されるピリジニウム誘導体塩などの含窒素芳香族誘導体の四級化塩が活物質として使用されるが、例えばビオロゲンはエレクトロクロミックデバイスとしての検討は成されているものの(特許文献7)、エネルギー貯蔵物質としての検討は成されていない。
【特許文献1】特開2003−338318号公報
【特許文献2】特開2005−223089号公報
【特許文献3】特表2007−529586号公報
【特許文献4】特開2006−286919号公報
【特許文献5】特開平1−60967号公報
【特許文献6】特開平8−138716号公報
【特許文献7】特表2003−507756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、小型で大容量・高出力のエネルギー貯蔵手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究の結果、電解液中に酸化・還元反応可能なピリジニウム塩の様な含窒素芳香族化合物、および/又は含窒素芳香族化合物の四級化アンモニウム塩を溶解した電解質にエネルギー蓄積が可能である事、このような電解質では高速の充放電が可能である事、さらにくり返し安定性にも優れる事、を発見して本発明を成すに至った。本発明の方式は前述のレドックスフロー型の方式とは全く異なるもので、本質的に溶解した活物質を流動させる事無く、従って活物資を貯蔵するための別のタンクも必要としないので、小型のエネルギー蓄積手段として極めて有効な方式である。
【0012】
すなわち本発明の第一は、少なくとも正極、負極、電解液、セパレータ、少なくとも一部が電解液中に溶解した活物質からなり、該活物質が含窒素芳香族化合物、及び/または含窒素芳香族化合物の四級化アンモニウム塩である事を特徴とするエネルギー貯蔵デバイスである。含窒素芳香族化合物の四級化アンモニウム塩とは、下記一般式(化1)で記載される化合物であり、2個以上の窒素を含む化合物であっても良い。また、溶解とは、分子レベルで溶媒と均一になっている事を意味する。
【0013】
【化1】


ここで、Rは水素、飽和アルキル基、不飽和アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、ホルミル基、カルボカルボニル基、エーテル基、アミノ基、シアノ基、ピリジニウム基、ニトロフェニル基、ジニトロフェニル基、等から選択される任意の置換基である。また、Xはアニオンを示し、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、フッ素アニオン、BFアニオン、ClOアニオン、PFアニオン、AsFアニオン、CFSOアニオン、(CFSONアニオンから選択される任意の元素、または化合物である。
【0014】
本発明の第ニは、少なくとも正極、負極、電解液、セパレータ、および少なくとも一部が電解液中に溶解した活物質からなり、該活物質がピリジニウム誘導体塩である事を特徴とするエネルギー貯蔵デバイスである。酸化・還元可能な有機化合物は数多く存在するが、酸化・還元可能なピリジニウム基を有する有機化合物はくり返し安定性に優れ、しかも、分子の拡散が小さいと言う特徴を持ち、本発明の目的に最適な化合物である。
【0015】
本発明の第三は、前記活物質がビピリジル誘導体塩であるエネルギー貯蔵デバイスである。ビピリジル誘導体はくり返し安定性が極めて高いと言う特徴を持っている。
【0016】
本発明の第四は、前記ビピリジル誘導体塩がビオロゲン誘導体塩であるエネルギー貯蔵デバイスである。ビオロゲン誘導体はピリジニウム基が4位で結合した2量体で本発明の活物質の代表的な化合物であり、くり返し安定性が極めて高いと言う特徴を持っている。
【0017】
本発明の第五は、前記のビピリジル誘導体塩、およびビオロゲン誘導体塩のアニオン成分を臭素アニオン、ヨウ素アニオン、PF、またはBFアニオンであるエネルギー貯蔵デバイスとする事である。アニオン成分として臭素またはヨウ素を用いた場合には負極側でのビピリジル誘導体の還元反応と同時に正極側での臭素の酸化反応が起きるため正極・負極の両側で同時にエネルギー蓄積が可能となる。また、BFアニオンを用いた場合には溶媒溶解性に優れた活物質となるので、エネルギー密度向上のためには好ましい。
【0018】
本発明の第六は、前記活物質を負極側に用いる事である。
【0019】
本発明の第七は、前記活物質を電解液中に0.1モル/リットル(M/L)以上の濃度で溶解したエネルギー貯蔵デバイスとする事である。本発明の目的は電解液にエネルギー蓄積を行う事で大容量と高出力を得ようとするものであるから、活物質は出来る限り電解液に高濃度で溶解している方が好ましい。すでに実用化されているリチウムイオン電池の出力密度や二重層キャパシタの容量密度を考慮すると電解液中に0.1M/L以上の濃度で溶解している事が好ましい。
【0020】
本発明の第八は、正極側の活物質が遷移金属錯体であるエネルギー貯蔵デバイスである。例えば、負極側の活物質を前記のピリジニウム塩化合物とし、正極側の活物質を遷移金属錯体とすと、遷移金属錯体の多くは酸化反応の過程でエネルギーの充放電を行なう事が出来るので正極、負極の両方で同時に安定なエネルギー蓄積が可能となる。
【0021】
本発明の第九は、正極側の活物質として、2個以上、10個以下のベンゼン環を含み、かつ2個以上、10個以下の窒素原子を含み、分子量が184以上である有機分子であるエネルギー貯蔵デバイスとすることである。正極側に用いられた活物質は溶媒溶解性に優れ、酸化反応の過程でエネルギーの充放電を行なう事が出来るので、正極側にこの様な活物質を使用する事で正極、負極の両方で同時に安定なエネルギー蓄積が可能となる。
【0022】
本発明の第10は、正極側の活物質としてラジカル化合物をもちいたエネルギー貯蔵デバイスとする事である。例えば、負極側の活物質をピリジニウム塩化合物とし、正極側の活物質をラジカル化合物とする事で、正極側に用いられた活物質は酸化反応の過程でエネルギーの充放電を行なう事が出来るので、正極、負極の両方で同時に安定なエネルギー蓄積が可能となる。
【0023】
本発明の第11は、正極側の活物質としてπ共役高分子を用いたエネルギー貯蔵デバイスとする事である。正極側の活物質をπ共役高分子化合物とする事である。正極側に用いられた活物質は酸化反応の過程(アニオンドーピング)でエネルギーの充放電を行なう事が出来るので、正極側にこの様な活物質を使用する事で正極、負極の両方で同時に安定なエネルギー蓄積が可能となる。
【0024】
本発明の第12は、記正極または負極の少なくとも一方が、多孔質素材、または/および繊維状素材から形成される電極であるエネルギー貯蔵デバイスである。前記正極または負極の少なくとも一方を、多孔質素材、または/および繊維状素材から形成される電極とする事である。本発明では電解液にエネルギー蓄積を行なうが、電極表面からどの程度離れた活物質までのエネルギーが取り出せるか(すなわち酸化・還元できるか)が大きな課題となる。後述するようにビオロゲン誘導体化合物では電極からおよそ10μm程度の距離までの活物質の酸化・還元は可能であると考えられるので、溶解された活物質から見て少なくとも最も近い電極との距離が10μm以内にする事が好ましい。例えば円筒状の孔が形成された多孔質電極である場合、その孔の半径は10μm以下である事が好ましい。正極を多孔質素材や繊維状素材を用いた電極構造とする事でこの様な構造を実現し、溶解した活物質を効果的に酸化・還元できる。
【0025】
本発明の第13は、前記の電極密度を0.2g/cm以上、1.8g/cm以下である様にしたエネルギー貯蔵デバイスである。炭素は本発明の電極構造を実現するために最も好ましい素材であり、単独で用いても良く、適当なバインダーとの複合電極とし良い。本発明では電極に活物質を含む電解液が含浸されるので電極の密度が0.2g/cm以上、1.8g/cm以下である事がより大量の電解液を含浸する目的には好ましい。
【0026】
本発明の第14は、前記セパレータがイオン交換膜であるエネルギー貯蔵デバイスである。本発明の方式では溶媒に溶解した活物質が電解液中を流動して対極に達し放電する事を防止する事が課題である。この様な現象は素子の自己放電特性として現れるが、通常の電池で使用される多孔質セパレータの代りにイオン交換膜を正極と負極の間に設ける事で自己放電を防止する事が出来る。
【0027】
本発明の第15は、前記正極、および/または負極が活性炭電極であるエネルギー貯蔵デバイスである。このデバイスでは活物質の酸化還元による蓄電以外に、活性炭表面に形成される二重層容量も同時に利用できると言う大きな特徴をもっており、全体のデバイス容量はさらに大きくする事ができる。
【0028】
本発明の第16は、前記電解液の溶媒がアセトニトリル、γ−ブチルラクトン、プロピレンカーボネート、エチルカーボネート、ブチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、からなる群から選ばれる少なくとも1つであるエネルギー貯蔵デバイスである。これらの溶媒は、支持塩の溶解度が高く、さらに電位窓が広く、安定で比較的低粘度であり本発明の目的に用いられる溶媒として好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の活物質溶解型電解質を用いたエネルギー蓄積手段は原理的には活物質の種類により正極側にも負極側にも用いる事が出来るが、本発明の含窒素芳香族化合物、および/又は含窒素芳香族化合物の四級化アンモニウム塩は負極側の活物質として用いる事が好ましい。例えば、本発明のピリジニウム誘導体塩を陰極に、酸化反応可能な活物質を陽極に用いる事により、大容量・高出力のエネルギー貯蔵デバイスを得ることが可能となる。さらに正極、負極として電気二重層キャパシタ用活性炭電極を用いる事で、二重層容量に酸化・還元による蓄電容量が加算された新規なデバイスを構築する事ができる。この新規デバイスでは、従来デバイスの出力特性や充放電効率、サイクル寿命特性などを損なうことなく、充放電容量を大幅に増加できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、これまで小型エネルギー素子のエネルギー貯蔵手段としては利用されて来なかった電解液領域をエネルギー貯蔵手段として利用できることを発見して成されたものである。
【0031】
本発明の素子は基本的にエネルギー貯蔵可能な電解液と集電体電極からなり、そのエネルギー貯蔵方式は原理的には正極としても負極としても用いられる。酸化・還元可能なピリジニウム基を有する化合物からなる本発明の活物質を用いた場合、活物質が塩の形である場合には負極側に、中性状態である場合には正極として用いられる。以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
<活物質−1>
本発明では電解液に溶解させて用いる活物質として含窒素芳香族化合物、および/又は含窒素芳香族化合物の四級化アンモニウム塩を用いる。含窒素芳香族化合物の四級化アンモニウム塩とは前記一般式(化1)で記載される化合物であり、具体的にはピリジニウム塩(化2)、キノリニウム塩(化3)、イソキノリニウム塩(化4)、アクリジニウム塩(化5)などを意味し、2個以上の窒素を含む化合物であっても良い。2個以上の窒素を含む化合物の具体的例としてはピラジニウム塩(化6)、トリアジニウム塩(化7)、キナジリニウム塩(化8)、フェナジニウム塩(化9)などの様なアンモニウム塩を例示できる。
【0032】
【化2】


ここで、Rはそれぞれ独立に、水素、飽和アルキル基、不飽和アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、ホルミル基、カルボカルボニル基、エーテル基、アミノ基、シアノ基、ピリジニウム基、ニトロフェニル基、ジニトロフェニル基、ベンジル基、等から選択される任意の置換基である。また、Xはアニオンを示し、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、フッ素アニオン、BFアニオン、ClOアニオン、PFアニオン、AsFアニオン、CFSOアニオン、(CFSONアニオンなどを例示できる。
【0033】
また、含窒素芳香族化合物に飽和アルキル基、不飽和アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、ホルミル基、カルボカルボニル基、エーテル基、アミノ基、シアノ基、ピリジニウム基、ニトロフェニル基、ジニトロフェニル基、ベンジル基、等から選択される任意の置換基が付いていても良い。
【0034】
これらの含窒素芳香族化合物の四級化アンモニウム塩の溶媒溶解性を高めるにはアニオンとしてヨウ素アニオン、BFアニオン、ClOアニオン、PFアニオン等を選択し、RとしてC以上の飽和アルキル基を選択すると良い。中でもピリジニウム誘導体塩は溶媒溶解性の高い化合物となる事が多く本発明の目的に好ましく用いられる。
【0035】
<活物質−2>
また、本発明では電解液に溶解させて用いる活物質として、酸化/還元可能なピリジニウム基を有する化合物を用いる事が好ましい。酸化/還元可能なピリジニウム基を有する化合物とは、例えばビオロゲン誘導体と呼ばれる、2つのピリジニウム基が互いに4位で結合した化合物を例示できる。ビオロゲン誘導体は以下の一般式(化10)で表示される化合物で、通常は化10のごとく塩の形で取り扱われる。
【0036】
【化3】


ここで、R〜R10はそれぞれ独立に、水素、飽和アルキル基、不飽和アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、ホルミル基、カルボカルボニル基、エーテル基、アミノ基、シアノ基、ピリジニウム基、ニトロフェニル基、ジニトロフェニル基、等から選択される任意の置換基である。また、Xはアニオンを示し、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、フッ素アニオン、BFアニオン、ClOアニオン、PFアニオン、AsFアニオン、CFSOアニオン、(CFSONアニオンなどを例示できる。
【0037】
中でも、R、Rとして置換基を有していてもよいC〜C20の飽和アルキル基、置換基を有していてもよいC〜C20のアリール基、R〜R10が水素原子、XがBrまたはBFであるビオロゲン誘導体は溶媒溶解性に優れ、本発明の目的に適した活物質である。Brを用いた場合には、Brの酸化反応が正極側で起きるため、正極、負極の両方で同時に充電する事が可能と成る。また、BFを用いた場合には活物質の溶解度を向上させる事が出来、大容量エネルギー蓄積には好ましい。
【0038】
ビオロゲン誘導体の一例として、1,1’−ジ−n−オクチルー4,4’ビピリジニウム・BF塩(以下オクチルビオロゲン・BFと略す)の還元・酸化特性を図1に示す。この特性はγブチロラクトン(GBL)を溶媒として用い、オクチルビオロゲン・BF、0.1M/L、トリエチルアンモニウムBFを支持塩として用いて測定をおこなった結果である。電圧測定想定範囲は−1.5V〜0V、使用電極はPt円盤電極、20mV/sCVである。
【0039】
図1は還元側(−電位側)で2段階の可逆反応が起きる事を示しており、これはオクチルビオロゲン・BFの還元反応である。この反応は、(化11)に示した酸化状態から、(化12)に示す一電子還元状態を経て、(化13)に示す二電子還元状態となる反応である。
【0040】
【化4】


ビオロゲン誘導体は特に酸化・還元反応に対して非常に安定で、優れた耐久性・くり返し特性を示すので、本発明のエネルギー用の活物質として非常に有効である。
特にビオロゲン誘導体の塩を電解液に溶解させた場合には電気化学素子の負極として有効に働く事ができる。ビオロゲン誘導体としてはいろいろな誘導体が知られているが、例えば化14に示す様なジシアノジフェニルビオロゲンや、ジベンジルビオロゲン、ジフェニルビオロゲン等多くの誘導体の例を示す事が出来る。
【0041】
【化5】


ビオロゲン誘導体以外の酸化・還元可能なピリジニウム基を有する化合物の例として、例えば一般式(化15)で表される化合物を示す事ができる。この様な化合物もビオロゲン誘導体と同様に、安定な酸化・還元特性とすぐれた溶解性を有し、本発明の目的の活物質として好ましく用いる事が出来る。
【0042】
【化6】


ここで、R11〜R13はそれぞれ独立に、水素、飽和アルキル基、不飽和アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ヒドロキシル基、ホルミル基、カルボカルボニル基、エーテル基、アミノ基、シアノ基、ピリジニウム基から選択される任意の置換基である。また、Xはアニオンを示し、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、フッ素アニオン、BFアニオン、ClOアニオン、PFアニオン、AsFアニオン、CFSOアニオン、(CFSONアニオンなどを例示できる。(化15)の一般式で示された化合物の具体的な例として、例えば(化16)で示されるピリジルピリジニウム化合物を例示できる。
【0043】
【化7】


上記、酸化・還元が可能なピリジニウム基を有する化合物は1種類のみを電解液に添加しても良く、複数種類を添加しても良い。上記、酸化・還元が可能なピリジニウム基を有する化合物は分子の大きさや置換基によって溶解度、蓄電量、安定性などの特性が異なるので、適切に複数種類を電解液に添加すれば、バランスの良い特性を実現できる。
<活物質−3>
前述の様に、本発明のピリジニウム誘導体塩は還元反応によってエネルギーの充放電が行なわれるので負極側で用いられる事が好ましい。これに対して正極側で好ましく用いられる活物質としては遷移金属有機化合物を例示する事ができる。ここで遷移金属錯体とは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどの金属錯体のことを言う。特にVおよびFeが好適に用いられ、中でも鉄錯体は正極側で用いられる活物質として最も好ましい。
【0044】
これらの有機遷移金属錯体はそれぞれ用いる錯体の種類、荷電状態によって正極として用いるか負極として用いるかが決まるが、例えば4価のバナジウム酸化物を用いた場合の反応はVO2+とVOの間で起こり正極として用いられる。
【0045】
鉄錯体の場合は、例えばt-ブチルフェロセンやアセチルフェロセンなどのフェロセン誘導体を例示する事が出来る。ここで、フェロセン誘導体とは下記一般式(化17)で示される錯体のことである。
【0046】
【化8】


ここでR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10の少なくとも一つが、アルキル基、アセチル基、アセトニトリル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の置換基で置換された化合物である。
【0047】
具体的には、エチルフェロセン、iープロピロフェロセン、t-ブチルフェロセン、n-ブチルフェロセン、アセチルフェロセン、メトキシフェロセン、エトキシフェロセン、プロポキシフェロセン、フェロセンアセトニトリル、ヒドロキシルエチルフェロセン、フェロセンカルボン酸、1,1'−フェロセンジカルボン酸、1,1'−フェロセンジイソプロピル、1,1'−フェロセンジエチル、等を例示できる。
【0048】
フェロセン誘導体はアニオンがドープされたFe3+と脱ドープされたFe2+の間でエネルギー蓄積、放出を行なうので正極として用いられる。t-ブチルフェロセンにおける充放電反応式を図2にしめす。
<活物質‐4>
正極側で用いられる酸化反応可能な活物質の第二の候補として、2個以上、10個以下のベンゼン環を含み、かつ2個以上、10個以下の窒素原子を含み、分子量が184以上である有機分子を例示する事が出来る。具体的には(化18〜38)で示される様な化合物を例示する事が出来る。無論、本発明の有機分子はこれらの例示分子に限定されるものではない事は言うまでも無く、例えば、ここに示した有機分子の各種異性体は本発明の範囲に含まれる。また、これらの分子におけるN位の水素原子、ベンゼン環の水素原子を、それぞれ各種アルキル基、アルコキシ基、二トロ基、水酸基、スルホン酸基、アルコキシスルホン酸基、フッ素原子、フッ素化アルキル基、等に置換した有機低分子も本発明の目的に好ましく用いられる。例えば、化8で示される有機分子は分子量184であり、本発明の範疇にはいる最も分子量の小さな分子の例の一つである。これらの分子はいずれも導電性高分子のドープ・脱ドープ反応に相当する酸化反応を示し、酸化反応本能の過程で充放電が行なわれる。
【0049】
【化9】

【0050】
【化10】

【0051】
【化11】


<活物質‐5>
正極側で用いられる酸化反応可能な活物質の第三の候補としてπ共役高分子を挙げる事が出来る。これらのπ共役高分子においはそのドープ・脱ドープ反応により充放電が可能となる。π共役高分子としては、ポリピロールおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体を例示できる。なかでも、分子量が5000以下のポリアニリン(化39)、あるいは例えば(化40)〜(化42)に例示したポリアニリン誘導体は優れた溶媒溶解性を有するものが多く本発明の目的に好ましい。
【0052】
【化12】


<活物質‐6>
正極側で用いられる酸化反応可能な活物質の第四の候補として中性ラジカル化合物を挙げる事が出来る。具体的には(化43)〜(化92)で示される様な化合物を例示する事が出来る。
【0053】
これらの例示化合物の内(化43)、(化54)、(化61)、(化68)、(化74)、(化79)、(化83)、(化84)、(化86)、は一般式であり、これらの化合物に記載されたR〜R31の置換基の具体的な例を(化44)〜(化53)、(化55)〜(化60)、(化62)〜(化67)、(化69)〜(化73)、(化75)〜(化78)、(化80)〜(化82)、(化85)、(化86)に記載した。無論、本発明の有機分子はこれらの例示分子に限定されるものではない事は言うまでも無い。
【0054】
【化13】

【0055】
【化14】

【0056】
【化15】

【0057】
【化16】

【0058】
【化17】

【0059】
【化18】


TEMPO(化69)を例に中性ラジカル塩の充放電反応を図3に示す。中性ラジカル塩は溶媒溶解性に優れ、反応が高速で起きるなどの特徴を有し、本発明の正極側活物質として好ましい。
<電解液>
本発明の電解液には酸化・還元によるエネルギー貯蔵が可能な前記ピリジニウム基を有する化合物の少なくとも一部が溶解状態で含まれる事が特徴である。原理的には本発明のピリジニウム基を有する化合物は電解液に溶解していても分散していても良いが、分散状態を長期間安定に維持することや、溶解している場合に比べて十分な容量を取り出す事が困難なため、本発明のピリジニウム基を有する化合物は電解液中に溶解していることが好ましい。また、後述する様に本発明では電極として繊維状電極や多孔質電極などが用いられるが、電極の微細構造の隙間に活物質が入り易くするためにも活物質は電解液に溶解しているほうが望ましい。
【0060】
電解液中で酸化・還元を行うピリジニウム基を有する化合物は溶解濃度が高いほどエネルギー密度を向上させる事ができる。このためエネルギー貯蔵デバイスの使用目的にもよるが、望ましい濃度が存在する。本発明で好ましい溶解度の下限を二重層キャパシタの正極容量であると仮定すると、必要な溶解濃度は0.1M/L以上である事が好ましい。さらにリチウムイオンキャパシタの電極を負極として用いたデバイスを想定すると溶解度は大きい事が好ましく、0.2M/L以上の濃度である事が好ましく、0.5M/L以上の溶解度である事はより好ましい。
【0061】
電解液の溶媒としては例えば通常の有機溶媒を使用可能であるが、高濃度で電解質(ドーパントとなるイオン)を溶解でき、電位窓が広いものが好ましい。具体的にはアセトニトリル(ATN)、γ−ブチルラクトン(GBL)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルカーボネート(EC)、ブチルカーボネート(BC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、スルホラン(SL)、およびこれらの混合溶媒を例示できる。
【0062】
これらの電解液には本発明の活物質以外に、支持塩塩を溶解させる事が好ましい。溶解される電解質(支持塩)としては、常温で固体であるLiPF、LiBF等のLi塩、四級化アンモニウム塩、四級化ホスホニウム塩、を例示できる。これら電解質のカチオン成分としては、リチウム、エチル・トリメチルアンモ二ウム、ジエチル・ジメチルアンモニウム、トリエチル・メチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、エチル・メチルイミダゾリウム、ブチル・メチルイミダゾリウム等を例示できる。また、カチオン成分としては、BFアニオン、ClOアニオン、PFアニオン、AsFアニオン、CFSOアニオン、(CFSONアニオン、ハロゲンアニオンなどを例示できる
また、溶媒に電解質を溶解させる代わりに、溶媒を含まず常温でイオンのみから構成される液体であるイオン性液体(常温溶融塩)を利用することも可能である。イオン性液体は、常温で液体状態の塩であって、代表的なものとしてカチオン成分がイミダゾリウム誘導体、アンモニウム誘導体、ピリジニウム誘導体、フォスフォニウム誘導体等であり、アニオン成分が、BF、PF等のフッ素を含む原子団、スルホン酸アニオン(−SO)を含む原子団、アニオン成分がカルボキシラト(−COO)を含む原子団等が知られている。これらのイオン液体は、高いイオン伝導性を示し、イオン濃度を通常の電解液よりも高くすることができる。
【0063】
本発明の電解液は少なくとも溶媒、および溶媒に溶解した電解質および活物質からなり、電解質塩は支持塩としての役割と、特に中性の活物質を用いた場合には活物質が酸化・還元を起こす時のドーパントとしての役割を果たす。溶媒、電解質、活物質の組み合わせはそれぞれの溶解度によって決定されるが、溶媒に対する電解質、活物質の溶解度が高いほど蓄積されるエネルギーは大きくなるので好ましい。電解質、活物質の好ましい溶解度はそれぞれ、0.1M/L以上である事が好ましく、0.2M/L以上である事はより好ましく、0.5M/L以上である事は最も好ましい。
【0064】
例えば、好ましい組み合わせとして、GBL溶媒、オクチルビオロゲン・BF4塩、LiBFの組み合わせがあり、この組み合わせではオクチルビオロゲン・BF4塩の濃度0.5M/L、LiBFの濃度0.5M/Lを実現できる。GBL、オクチルビオロゲン・BF4塩、LiPFの組み合わせでは、オクチルビオロゲン・BF4塩、0.5M/L、LiPF、0.8M/Lの濃度が実現できる。無論これらの組み合わせは本発明の好ましい一例を示したもので、本発明の範囲はこれらの例に限定されるものでない事は言うまでもない。
<電極構造>
本発明のエネルギー貯蔵方式は原理的には正極としても負極としても用いられる。活物質としてビオロゲン誘導体塩を用いた場合にはすでに図1において説明した様に負極として用いられ、活物質として中性ビオロゲン誘導体を用いた場合には正極として用いられる。これは中性ビオロゲン誘導体が支持塩のアニオンによりビオロゲン塩となり、これが充電された状態(酸化状態)であるためである。
【0065】
本発明のエネルギー貯蔵状態では両電極間に電位差をもたせることにより行なわれるが、電極表面で充電されたビオロゲンが自由拡散によって電極近傍から離れてしまうとそのエネルギーを取り出せなくなる。このため、本発明の集電体電極には溶解された活物質の自由拡散を抑制する手段を設ける事が好ましい。
【0066】
図4にはへキシルビオロゲン(濃度:0.2モル)を用いて最適電極構造の検討を行った結果を示す。この図は放電電荷と濃度から計算した充放電に有効に利用された電解液の液体厚さ(μm)を示し、電極から最近接の部分が100%使用されたと仮定した場合、すなわち考えられる最少の液の厚を示す。図中1は放電容量から計算した、有効利用される電解液厚さ(μm)を示し、2はブランクである。測定はTEA・BF4(1M)、GBL溶液、Pt(1x1cm)板状電極、3極充放電特性である。この結果は電流密度の大きさによって影響されるが、電極からほぼ10〜1μm程度の距離の液体からのエネルギーが取り出せる事を示している。
【0067】
この様な結果から、電極として活物質が電極表面から10μm以上離れない様な構造の電極を実現できれば、電極近傍での電解液の自由拡散を抑制することが可能となる。例えば円筒状の穴からなる多孔質電極を考えると、その穴の半径が10μm以内であれば、電解液からのエネルギーを取り出せる。すなわち、本発明のエネルギー蓄積素子は電極に多孔質電極、または繊維状電極を用い、その電極で形成される空間の距離が20μm以内になる様にする事が好ましい。高速でのエネルギー取り出しを考えるとより好ましくは5μm以内、最も好ましくは1μm以内である。
【0068】
この様な構造の電極を実現する最も簡易な方法が炭素・グラファイト電極を使用する事である。炭素・グラファイト電極は、原料に多孔質高分子材料を用いて炭素化・グラファイト化する手法、原料炭素を各種の方法で発泡させて穴を形成する方法、賦活により穴を形成する方法、鋳型炭素法と呼ばれる手法、キセロゲル法、など多様な手法で多孔質炭素を作製する事が出来、本発明のエネルギー蓄積素子用の電極としていずれも好ましい素材であり、その作製方法は限定されない。
【0069】
多孔質高分子材料をもちいて多孔質炭素・グラファイト電極を作製する例として、ポリイミドやポリアミドイミドの多孔質膜を原料に用いる方法、メラミン樹脂発泡体多孔質材料を原料に用いる方法等を例示できる。これらの高分子は溶融する事無く炭素化・グラファイト化するために、希望の大きさの孔を有する炭素・グラファイト電極の作製ができる。例えば原料であるメラミン樹脂多孔体は市販のスポンジ樹脂として容易に入手が可能であり、ポリイミド多孔体は例えば宇部興産(株)からの入手が、ポリアミドイミド多孔体はダイセル化学工業(株)からからの入手が可能である。
【0070】
また、カーボンナノチューブに代表される微細炭素繊維や微細グラファイト繊維をもちいて電極を作製し、実質的に本発明に好ましい構造の電極を作製する事も可能である。例えば、得られた多孔質活性炭やカーボンナノチューブなどの微細炭素繊維を電極にするには、電極形状の形成・保持に必要な最低量のバインダーと混合し、その後これを圧縮成型することで作製する事が出来る。バインダーとしては、例えばポリビニリデンフルオライド(PVDF)あるいはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)あるいはエチレンプロピレンゴム(EPDM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリプロピレン、ポリエチレンがあるが、特にこれら制限られるものではない。バインダーの使用量としては、特に制限はないが、例えば電極材料中に占めるバインダーの重量比が0.5〜30%程度が好ましい。
【0071】
この時、必要に応じて集電体や導電補助剤を用いても良い。集電体は熱力学的、電気化学的に安定な材料で導電性が高ければ良く、通常アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス、タンタル、銅等の金属が用いられる。これらの金属は、圧延箔、電解箔、エッチド箔、メッシュ箔、エキスパンドメタル箔またはパンチングメタル箔の形態で用いることができる。導電補助剤は電極バルクの導電性を向上し、大容量の電気化学素子を作製するのに効果があり、例えばカーボンブラックやアセチレンブラックなどが用いられる。使用量としては、特に制限はないが、例えば電極材料中に占める導電補助材の重量比が1〜30%程度が好ましい。
【0072】
作製方法としては、例えば微細炭素繊維、導電補助剤、及びバインダーを、重量比で微細炭素繊維:導電補助剤:バインダー=100〜50:0〜50:0〜50の割合で加えて溶媒と共に混練しペーストを作製する。得られたペーストを集電体に圧着または塗布し、40℃から300℃で乾燥して分散媒を除去することにより電極を作製する。溶媒としては、1−メチル−2−ピロリドンやエタノール、メタノール等のアルコール系溶媒が用いられる。
本発明では電極に活物質を含む電解液が含浸されるので、より大量の電解液を含浸する目的のためには電極の密度は1.8g/cm以下である事が好ましく、1.5g/cm以下である事はより好ましく、1.2g/cm以下である事は最も好ましい。好ましい電極密度の下限は電極としての働きを果たす限りにおいては特に限定されないが、通常0.2g/cm以上である事が好ましい。一般に0.2g/cm以下の密度の電極では必要な電気伝導度を保持する事が困難であり、また
先に述べた、活物質が電極表面から10μm以上離れない様な構造の電極を実現する事が難しい。
【0073】
炭素とバインダーからなる複合電極の場合、通常圧延処理して電極を作製するが、本発明の様な低密度の電極を実現するためには圧延工程を省くか、通常より低い圧力の処理を行なう事が好ましい。
<セパレータ>
通常のエネルギー貯蔵デバイスでは正、負両電極間の短絡を防止する目的でセパレータを介在させる事が一般的に行われ、本発明の構成のエネルギー蓄積デバイスにおいても短絡防止目的のセパレータは必要である。この様な目的に用いられるセパレータとしては、ガラス繊維フィルタ、ポリポロピレン(PP)多孔質フィルタ、セルロースセパレータ、などを例示できる。
【0074】
しかし、使用される活物質の種類や素子構成によってはセパレータより積極的な意味を持つ重要な構成要素となる場合がある。すなわち、本発明では電解液中に活物質が溶解しているために、例えば正極で充電状態(酸化状態)となった活物質が液中を移動して、負極に到達しそのまま放電(還元状態に戻る)と言う現象が起き易い。この現象は電池やキャパシタの自己放電として知られるものであるが、本発明の方式ではこの自己放電を如何に防止するかが重要である。
【0075】
この様な問題点を解決するために我々は鋭意検討を重ねた結果、セパレータとして通常用いられるガラス繊維フィルタ、ポリポロピレン(PP)多孔質フィルタ、セルロースセパレータ、などを用いても自己放電を完全には防止する事は出来ないが、イオン交換樹脂膜をセパレータとして用いる事で自己放電をほぼ完全に防止できる事を見出した。イオン交換樹脂膜では活物質分子の移動はブロックされるが、放電時には分子の持つイオンが膜中を移動して負極に至る事になる。イオン交換膜にはカチオン交換膜、アニオン交換膜があるが本発明の目的にはどちらの交換膜も好ましく用いられる。
【0076】
本発明のエネルギー蓄積デバイスに用いられるイオン交換膜はそのインピーダンスが出来るだけ小さい事が求められ、イオン交換容量に優れ、薄膜を形成するものである事が望ましい。カチオン交換膜としてはすでに薄膜状のイオン交換膜が市販されておりインピーダンスを低下させる目的には好ましい。この様な目的に使用されるイオン交換膜としてフルオロカーボン系イオン交換膜、炭化水素系イオン交換膜を例示する事が出来る。アニオン交換膜は本発明の目的には好ましいが薄膜状のイオン交換膜を入手し難いと言う問題がある。なお、本発明の実施例はカチオン交換膜で行なっているが、これは薄膜状のアニオン交換膜が入手し難い事によるのであって本発明の目的にアニオン交換膜が好ましい事は言うまでもない。
【0077】
フルオロカーボン系イオン交換膜はパーフルオロアルキレンを主骨格とし、一部にパーフルオロビニルエーテル側鎖の末端にスルホン酸基、カルボン酸基等のイオン交換基を有するフッ素系膜である。この様なフッ素系膜としては、Nafion(登録商標)膜(Du Pont社、USP4,330,654)、Dow膜(Dow Chemical社、特開平4−366137)、Aciplex膜(旭化成工業(株)、特開平6−342665)、Flemion 膜(旭硝子(株)社)等が知られており、これらは本発明の目的に好ましく用いる事ができる。
【0078】
例えばナフィオンは市販のナフィオンフィルムをそのまま使用しても良く、溶媒タイプのナフィオンを用いてPPフィルタや炭素繊維フィルタ、ガラスフィルタなどの素材に含浸、あるいは塗布して複合セパレータを形成しても良い。本発明のセパレータは可能な限り薄いものが好ましいので複合セパレータとする事で機械的な強度との両立を図る事は好ましい。具体的なナフィオン膜としてはALDRICH社製、Nafion(登録商標)112(膜厚51μm)、Nafion(登録商標)1135(膜厚89μm)、Nafion(登録商標)115(膜厚127μm)、Nafion(登録商標)117(膜厚183μm)を例示できる。また、複合セパレータのための溶液タイプとしてNafion(登録商標)5wt%溶液、Nafion(登録商標)10wt%水分散液、Nafion(登録商標)20wt%溶液を例示できる。
【0079】
炭化水素系イオン交換膜としてはスチレン−ジビニルベンゼン共重合体や芳香族系高分子系材料がある。後者はポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等の芳香族系高分子材料に直接スルホン酸基、カルボン酸基などを導入したものである。これらの炭化水素系イオン交換膜も本発明の目的に好ましく用いられる。
【0080】
一方、無機材料が添加された高分子フィルムも本発明の目的に用いる事が出来る。例えば、加水分解性シリル化合物中に種々の酸を添加することにより得られるプロトン伝導性の無機材料を高分子フィルムに分散したもの、プロトン伝導性の無機材料を粉砕してエラストマーと混合したもの、スルホン酸基含有高分子と混合したもの等である。
【0081】
<デバイス構成>
図5に、本発明のエネルギー蓄積素子概念図を示す。図中2、5は前述の多孔質
電極を示し、電極内部に本発明の活物質を溶解した電解液3、6が含浸されている。4はセパレータ、1は正極(集電体)、7は負極(集電体)であり必要に応じて二重層キャパシタ用の活性炭電極やグラファイト電極等が用いられる。また、セパレータとしてポリプロピレン多孔質膜、セルロース膜、ナフィオン等のイオン交換膜、が用いられる。なお、図5は簡略化された模式図であり、本発明の素子形状はこれに限定されるものではなく、例えば薄型、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、積層型等の様々な形状の電池や、電気自動車等に用いる大型電池にも適用可能である。以下のデバイス構成の例を示す。
【0082】
<デバイス構成例−1>
このデバイス例は本発明のビオロゲン誘導体BF塩活物質を負極側に用い、二重層キャパシタ活性炭電極を正極、負極の両側に用いた構成である。このデバイスの最も典型的な電極は活性炭とバインダーおよび伝導度向上のための導電補助剤から作製される。二重層容量は概ね表面積に比例して増加するので活性炭が用いられるのであるが、これをポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダーで固形化して電極を作製する。通常の二重層キャパシタには電解液として、例えばプロピレンカーボネート(PC)やγブチロラクトン(GBL)などを用い、支持電解質としてアンモニウム塩、例えばトリエチル・メチルアンモニウム・BF4(EtMeNBF4)などが溶解して用いられる。
【0083】
本発明のデバイス構成では、この様な電解液に酸化・還元が可能なビオロゲン塩を溶解させることで、負極側では通常の電気二重層容量に加えて、電解液中の鉄錯体の酸化・還元反応による容量が加算されるため、デバイスのエネルギー貯蔵量は増加する。電気二重層容量によるエネルギー貯蔵は充放電速度が速いため、電解液中の活物質の還元反応によるエネルギー貯蔵を組み合わせることにより、充放電速度に優れ、エネルギー貯蔵量の大きいデバイスを作ることができる。本発明では電極間の短絡を防止し、さらに溶解した活物質の自己拡散を防止するために、セパレータを設ける事が好ましい。通常の二重層キャパシタのセパレータとして用いられる多孔性のポリプロピレン(PP)やセルロースセパレータを用いる事も可能であるが、活物質の自己拡散を完全に防止するためにはセパレータとしてイオン交換膜を設ける事が好ましい。
【0084】
本発明のビオロゲン誘導体・BF塩は負極側で還元されて中世ビオロゲンとなる過程で事でエネルギー蓄積がなされるので、負極側の容量向上に寄与する。二重層キャパシタの全体の容量(C)は、1/C=1/Cc+1/Caなる式で表され(ここでCcは正極容量、Caは負極容量である)、負極容量の向上がそのまま二重層容量に反映される訳ではない。しかし、例えば負極で2倍の容量密度が実現できたとすると、デバイス全体としては1.33倍の容量向上が実現でき、10倍の容量が実現したとすると1.82倍の容量向上が実現する。二重層キャパシタにおける電極容量は6〜7Wh/Kg程度であるから、この様なデバイス構成で10〜13Wh/Kgのエネルギー素子が実現できる事になる。
【0085】
また、一定体積のデバイスを仮定すると、正極の容量を向上させれば正極の体積を小さくする事が出来、相対的に負極の体積を増大させる事が出来るのでこの様なやり方でもデバイス全体の容量密度を向上させる事が出来る。
【0086】
<デバイス構成例−2>
このデバイスは本発明のビオロゲン誘導体Br塩を活物質として用い、二重層キャパシタ活性炭電極を正極・負極に用いた構成である。活物質としてヘプチルビオロゲン・Br塩を用いた場合には正極側ではBrの酸化が、負極側ではビオロゲンの還元が起きて充電状態となる。図6にはヘプチルビオロゲン・Br塩のCV特性を示し、酸化側(+電位側)、還元側(−電位側)の両方でそれぞれ2段階の可逆反応が起きる事を示している。酸化側の可逆反応はアニオンBrの酸化反応であり、還元側の反応はヘプチルビオロゲンの還元反応である。このデバイスでは容量増加は正極、負極両方で起きるために、デバイス構成例1とは異なり、活物質による容量増加はそのままデバイスの容量増加に加算される。
【0087】
このデバイスにおいては通常の電気二重層容量と電解液中の活物質の酸化・還元反応による容量が共存して出現する事が特徴の一つである。電気二重層容量によるエネルギー貯蔵は充放電速度が速いため、電解液中の鉄錯体の酸化・還元反応によるエネルギー貯蔵を組み合わせることにより、充放電速度に優れ、エネルギー貯蔵量の大きいデバイスを作ることができる。本発明では電解液に溶解した活物質の自己拡散を防止するために、セパレータとしてイオン交換膜や通常の二重層キャパシタのセパレータとして用いられる多孔性のポリプロピレン(PP)やセルロースセパレータを用いる事も可能である。
<デバイス構成例−3>
このデバイスの構成例はオクチルビオロゲン・BF塩を負極側に用い、正極側には酸化可能な中性活物質としてフェロセンを用いた構成である。フェロセンのC−V特性を図7に示す。
【0088】
このデバイス構成では正極、負極を共に活性炭電極としても良く、先に述べた最適電極構造を持つ多孔質炭素電極としても良い。この様なデバイスでは容量向上がそのままデバイス容量の向上につながる好ましいデバイス構成の一つである。
【0089】
このデバイスでは、まず、ビオロゲン・BFが還元されて中性ビオロゲンとBFアニオンに乖離し、アニオンは正極側に移動してフェロセンを酸化して充電に寄与する。電解液としては例えば、PC、GBL、EC、DEC、及びこれらの混合溶液などが用いられ、これらはそれぞれの構成成分の溶解度を考慮して選択される。また、セパレータは正極・陰極間の短絡を防止する目的で用いられ、電池やコンデンサ用のセパレータとして用いられる、PP多孔質膜などが用いられる。
【0090】
<デバイス構成例−4>
このデバイスの構成例はオクチルビオロゲン・BF塩を負極側に用い、正極側には酸化可能な中性活物質としてNN'−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン(NNDP(化26))を用いた構成である。NNDPのC−V特性を図8に示す。
【0091】
このデバイスでは正極、負極を共に活性炭電極としても良く、先に述べた最適電極構造を持つ多孔質炭素電極としても良い。この様なデバイスでは容量向上がそのままデバイス容量の向上につながる好ましいデバイス構成の一つである。
【0092】
このデバイス構成では、まず、ビオロゲン・BFが還元されて中性ビオロゲンとBFアニオンに乖離し、アニオンは正極側に移動してNNDPを酸化して充電に寄与する。電解液としては例えば、PC、GBL、EC、DEC、及びこれらの混合溶液などが用いられ、これらはそれぞれの構成成分の溶解度を考慮して選択される。
【0093】
<デバイス構成例−5>
このデバイスの構成例はオクチルビオロゲン・BF塩を負極側に用い、正極側には酸化可能な活物質として(化40)に記載されたポリメトキシアニリンを用いた例である。ポリメトキシアニリンのC−V特性を図9に示す。
【0094】
このデバイス構成では、まず、ビオロゲン・BFが還元されて中性ビオロゲンとBFアニオンに乖離し、アニオンは正極側に移動してポリメトキシアニリンを酸化(ドープ)して充電に寄与する。電解液としては例えば、PC、GBL、EC、DEC、及びこれらの混合溶液などが用いられ、これらはそれぞれの構成成分の溶解度を考慮して選択される。
【0095】
<デバイス構成例−6>
このデバイスの構成例はオクチルビオロゲン・BF塩を負極側に用い、正極側には酸化可能な中性活物質として正極側で用いられる酸化反応可能な活物質として(化69)で示される中性ラジカル化合物(PEMPO)を用いた例である。TEMPOラジカルのC−V特性を図10に示す。
【0096】
このデバイス構成では、まず、ビオロゲン・BFが還元されて中性ビオロゲンとBFアニオンに乖離し、アニオンは正極側に移動してTEMPOラジカルを酸化して充電に寄与する。
【0097】
電解液としては例えば、PC、GBL、EC、DEC、及びこれらの混合溶液などが用いられ、これらはそれぞれの構成成分の溶解度を考慮して選択される。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0099】
<ビオロゲン化合物塩>
本発明の実施例に用いたビオロゲンは以下の2種類である。
【0100】
(V−1)オクチルビオロゲン・Br(東京化成工業(株)社製:製品番号D−1854)
(V−2)オクチルビオロゲン・BF(V−1のアニオン交換により合成)
<支持塩>
本発明の実施例に用いた支持塩はテトラエチルアンモニウム・BF4(東京化成工業(株)社製:製品番号T0837)であり、これを精製して用いた。
【0101】
<I−V特性測定>
本発明の電解液の充放電特性を測定するため、定電流充放電測定を行なった。この測定では作用極および対極を幅1cm、長さ4cmの白金板とし、ともに1cmサンプル溶液に浸漬させた。参照極はBAS社製RE−5参照電極(Ag/Ag、標準水素電極に対して+490mV)を用いた。充放電測定の電位スイープは、自然電位から始めて、最初は−方向に向かって参照極に対して−1.5V〜+1.5Vの範囲で行った。定電流充放電の電流は1.6mAとした。充放電測定は、大気中の水分の影響を排除するために全て高純度アルゴンで置換したグローブボックス中で行った。
【0102】
<電極>
本発明の実施例に用いた電極は、(C−1)活性炭電極、(C−2)カーボンナノチューブ電極、(C−3)多孔質グラファイト電極の3種類である。それぞれの電極の作成法について記載する。
【0103】
(C−1)活性炭電極
活性炭シート電極は、賦活処理した活性炭粉末(平均粒径5〜20μm)に導電助剤としてアセチレンブラックを添加し、PTFEをバインダーとしてシート状に成形したものである。このシート電極の密度は0.45〜0.55g/cmであり、比表面積は1700〜2200m/gである。
【0104】
(C−2)カーボンナノチューブ電極
カーボンナノチューブ(平均直径40〜50nm、平均長さ16〜24μm)、PTFEを91:9の重量比で混合し、圧延して厚さ490〜510μm、密度0.50〜0.60g/cmのシート状に成形した。このシート電極を直径13mmの円形に打ち抜き、正極とした。密度0.4g/cmであった。
【0105】
(C−3)多孔質グラファイト電極
市販の発泡メラミン樹脂を3000℃処理して多孔質グラファイト電極を作製した。1000℃までは真空中での処理、1000〜3000℃はアルゴン雰囲気中での処理でした。メラミン樹脂は溶融する事無く炭素化・グラファイト化し、縮発泡メラミン樹脂の孔をそのまま保持したまま体積比率でおよそ1/10に収縮し、およそ0.2μmの空間を有する多孔質電極となった。
【0106】
<セパレータ>
本発明の実施例に用いたセパレータは以下の2種類である
(S1)Nafion112(ALDRICH社製、製品番号541265:膜厚51μm)を直径19mmの円形に打ち抜いたものを用いた。
(S2)PPセパレータ(85μm)を直径19mmの円形に打ち抜いたものを用いた。
【0107】
<電極、セパレータの調製>
これらの正極、負極、セパレータを、3時間、真空状態で120℃に保ち、乾燥させた。次に乾燥後の正極、負極、セパレータを電解液に浸漬し、10分間真空状態にして電解液を含浸させ、常圧に戻した。この真空含浸をさらに2回行い、合計3回電解液の含浸を行った。
【0108】
<モデルセル作製>
作製した負極、セパレータ、正極を、下から順に同心円状に重なるようにして宝泉社製HSセルに入れ、蓋をして、評価・測定用のキャパシタモデルセルとした。大気中の水分の混入を防ぐために、電解液の調製および、電極、セパレータへの電解液の含浸、セルの組み立ては、すべて高純度アルゴンで置換した露点−70℃以下のグローブボックス中で行った。
【0109】
<モデルセルの特性評価>
作製したキャパシタモデルセルを、1mAの一定電流で3サイクル充放電させた。充放電の電圧範囲は‐1.5V〜+1.23Vとし、測定の最初は、自然電位から充電を開始した。充放電測定にはSolartron社製1470Eマルチスタットを使用した。
(実施例1)
γ−ブチロラクトンに活物質として(V−1)を0.2M、支持塩としてTEA・BFを0.3M溶解させ、電解液とした。正極・負極共には直径13mm、厚さ0.5mmの活性炭シート電極(C−1)、セパレータとしてS−2を用いた。3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電荷、クーロン効率はそれぞれ5.27C、5.08C、96.4%であった。下記の比較例1との比較から、電解液にV−1を添加することにより、電気二重層キャパシタ型のエネルギー貯蔵デバイスの容量を増大させられることが分かる。
(実施例2)
γ−ブチロラクトンに活物質として(V−2)を0.5M、支持塩としてTEA・BFを0.8M溶解させ、正極側の活物質としてフェロセン1.0Mを電解液に添加し電解液とした。負極は直径13mm、厚さ0.5mmの活性炭シート電極(C−1)、正極は直径15mm、厚さ0.5mmの活性炭シート電極(C−1)、セパレータとしてS−2を用いた。3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電荷、クーロン効率はそれぞれ7.28C、7.01C、96.3%であった。下記の比較例1との比較から、電解液にV−2、およびフェロセンを添加することにより、電気二重層キャパシタ型のエネルギー貯蔵デバイスの容量を増大させられることが分かる。
(実施例3)
正極側の活物質としてNN'−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン(NNDP(化26))、0.5Mを電解液に添加した以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、モデルセルの3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電化、クーロン効率はそれぞれ6.96C、6.69C、96.1%であった。下記の比較例1との比較から、電解液にV−2、NNDPを添加することにより、電気二重層キャパシタ型のエネルギー貯蔵デバイスの容量を増大させられることが分かる。
(実施例4)
正極側の活物質としてポリメトキシアニリン(化40)、0.5Mを電解液に添加した以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、モデルセルの3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電化、クーロン効率はそれぞれ5.44C、5.30C、97.4%であった。下記の比較例1との比較から、電解液にV−2、およびポリメトキシアニリンを添加することにより、電気二重層キャパシタ型のエネルギー貯蔵デバイスの容量を増大させられることが分かる。
(実施例5)
正極側の活物質としてTEMPO(化55)を1.0Mを電解液に添加した以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、モデルセルの3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電化、クーロン効率はそれぞれ7.71C、7.39C、95.8%であった。下記の比較例1との比較から、電解液にV−2、およびTEMPOを添加することにより、電気二重層キャパシタ型のエネルギー貯蔵デバイスの容量を増大させられることが分かる。
(比較例1)
γ−ブチロラクトンに支持塩としてTEA・BFを0.8M溶解させ、電解液とした。負極は直径13mm、厚さ0.5mmの活性炭シート電極(C−1)、正極は直径15mm、厚さ0.5mmの活性炭シート電極(C−1)、セパレータとしてS−2を用いた。3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電荷、クーロン効率はそれぞれ3.11C、3.04C、97.7%であった。
(実施例6)
正極・負極としてC−2を用いた以外は実施例2と同様の実験を行なった。その結果、C−2電極を用いた場合には、モデルセルの3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電化、クーロン効率はそれぞれ3.72C、3.45C、92.7%であった。下記の比較例2との比較から、電解液にV−2を添加することにより、C−2電極を用いてもエネルギー貯蔵デバイスの容量を増大させられることが分かる。
(比較例2)
γ−ブチロラクトンに支持塩としてTEA・BFを0.8M溶解させ、電解液とした。正極、負極は直径13mm、厚さ0.5mmのC−2電極用いた。3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電荷、クーロン効率はそれぞれ1.11C、1.04C、93.7%であった。
(実施例7)
電極としてC−3を用いた以外は実施例2と同様の実験を行なった。その結果、C−3電極を用いた場合にはモデルセルの3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電化、クーロン効率はそれぞれ1.92C、1.86C、96.9%であった。下記の比較例3との比較から、電解液にV−2を添加することにより、C−3電極を用いてもエネルギー貯蔵デバイスの容量を増大させられることが分かる。
(比較例3)
γ−ブチロラクトンに支持塩としてTEA・BFを0.8M溶解させ、電解液とした。正極、負極は直径13mm、厚さ0.5mmのC−3電極用いた。3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電荷、クーロン効率はそれぞれ0.11C、0.10C、90.9%であった。
(実施例8)
セパレータとしてS−1を用いた以外は実施例1と同様の実験を行なった。3サイクル目の充放電の充電電荷、放電電荷、クーロン効率はそれぞれ5.20C、4.81C、92.5%であり、実施例1に比べてやや低い値であった。一方、充電状態での電圧保持時間を測定し、自己放電効率を測定した。実施例1では300分経過後の電圧保持率は85%であったが、実施例8では94%であり、自己放電特性が改良できる事が分かった。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】ヘプチルビオロゲンのサイクリックボルタモグラム。
【図2】フェロセン誘導体(t-ブチルフェロセン)の充放電反応式。
【図3】中性ラジカル塩(TEMPO)の充放電反応式。
【図4】最適電極構造の検討結果。放電電荷と電解液濃度から計算した、充放電に有効に利用された電解液の電極からの距離(μm)
【図5】本発明のエネルギー貯蔵デバイスの概念図
【図6】ヘプチルビオロゲンオ・Br塩のサイクリックボルタモグラム
【図7】フェロセンおよびアセチルフェロセンのサイクリックボルタモグラム 1はフェロセンのサイクリックボルタモグラム、 2はアセチルフェロセンのサイクリックボルタモグラム
【図8】NNDPのサイクリックボルタモグラム
【図9】ポリメトキシアニリンのサイクリックボルタモグラム(ドープ・脱ドープ特性
【図10】TEMPOのサイクリックボルタモグラム
【符号の説明】
【0111】
図4中、1はNNDP(0.33M)GBL溶液の放電容量から計算した有効利用される電解液厚さ(μm)、2はブランクでTEA・BF(1.0M)GBL溶液の放電容量から計算した有効利用される電解液厚さ(μm)を表す。
図5中、1は正極(集電体)、2は多孔質電極、3は電解液、4はセパレータ、5は多孔質電極、6は電解液、7は負極(集電体)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも正極、負極、電解液、セパレータ、少なくとも一部が前記電解液中に溶解した活物質からなり、該活物質が含窒素芳香族化合物、及び/又は含窒素芳香族化合物の四級化アンモニウム塩である事を特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項2】
少なくとも正極、負極、電解液、セパレータ、少なくとも一部が前記電解液中に溶解した活物質からなり、該活物質がピリジニウム誘導体塩である事を特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項3】
前記活物質がビピリジル誘導体塩である請求項2記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項4】
前記ビピリジル誘導体塩がビオロゲン誘導体塩である請求項3記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項5】
請求項3記載のビピリジル誘導体塩、および請求項4記載のビオロゲン誘導体のアニオン成分が臭素アニオン、ヨウ素アニオン、PFまたはBFアニオンであるエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項6】
前記活物質が負極側に用いられた事を特徴とする、請求項1〜5記載のエネルギーデバイス。
【請求項7】
前記活物質が電解液中に0.1モル/リットル(M/L)以上の濃度で溶解している事を特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項8】
正極側の活物質が遷移金属錯体である事を特徴とする、請求項6、または7に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項9】
正極側の活物質が、2個以上、10個以下のベンゼン環を含み、かつ2個以上、10個以下の窒素原子を含み、分子量が184以上である有機分子である事を特徴とする請求項6、または7に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項10】
正極側の活物質がラジカル化合物である事を特徴とする請求項6、または7に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項11】
正極側の活物質がπ共役高分子である事を特徴とする請求項6、または7に記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項12】
前記正極または負極の少なくとも一方が、多孔質素材、または/および繊維状素材から形成される電極である請求項1〜11のいずれかに記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項13】
請求項12記載の電極密度が0.2g/cm以上、1.8g/cm以下であるエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項14】
前記セパレータがイオン交換膜である請求項1〜13のいずれかに記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項15】
前記正極、および/または負極が活性炭電極である事を特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項16】
前記電解液の溶媒がアセトニトリル、γ−ブチルラクトン、プロピレンカーボネート、エチルカーボネート、ブチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜14のいずれかに記載のエネルギー貯蔵デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−295922(P2009−295922A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150673(P2008−150673)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】