説明

エネルギー貯蔵装置に有用なカーボン

【課題】天然に生じる炭水化物、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよび前述のものの組合せの中から選択されるカーボン前駆体から経済的に製造されるカーボンが提供される。また、このようなカーボンを製造するプロセス、ならびに(i)エネルギー貯蔵用途、例えばバッテリー、燃料電池および電気二重層キャパシタなどの用途、および(ii)容量方式による水の脱イオン化用途において使用するための電極構造の形態のカーボンの使用も提供する。
【解決手段】カーボン材料が、天然に生じる炭水化物、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよび前述のものの組合せから選択されるカーボン前駆体から誘導され、ここで、該カーボン材料が1.0重量%より多量の元素性窒素を含有し、また、該カーボン材料が1,500m/gより大きな表面積を呈する、カーボン材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然に生じる炭水化物材料、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよび前述のものの組合せの中から選択されるカーボン前駆体から製造されるカーボンに関係し、これらのカーボンはエネルギー貯蔵装置に有用である。また、本発明は、このようなカーボンを製造するためのプロセス、ならびに(i)エネルギー貯蔵用途、例えばバッテリー、燃料電池および電気二重層キャパシタなどの用途、および(ii)容量方式による水の脱イオン化用途において使用するための電極構造の形態におけるこのようなカーボンの使用にも関係する。
【背景技術】
【0002】
カーボンをベースとした電極を用いるエネルギー貯蔵装置は商業的に入手可能である。エネルギー貯蔵装置を用途として、例えば電気二重層キャパシタ(時として、ウルトラキャパシタまたはスーパーキャパシタと呼ばれることもある)が普及しているが、増強された特性を有する新たなカーボンに対するニーズも拡大している。
【0003】
殆どの従来のウルトラキャパシタの静電容量は、これらの電極の表面積と直接的に関係している。従って、理論的には、ある与えられた活性炭に対する比表面積が大きければ大きいほど、これに対応して、この活性炭に対する比静電容量も大きくなるはずである。しかし、実際には、表面積と静電容量との関係はそれほど単純ではない。即ち、一般的に言えば、ある与えられた活性炭の表面積が増大すると、この活性炭の細孔体積も増大する。活性炭の細孔体積が増大すると、このカーボンの密度が減少し、また、この活性炭が呈するエネルギー密度(体積静電容量)も典型的には減少する。実際には、殆どの従来の活性炭では、単位体積当たりの静電容量(F/cm)は、単位重量当たりの表面積が約2,000m/gのときに最大化され、単位重量当たりの表面積が約2,500m/gを超えると逆に減少する傾向がある。
【0004】
更に一層大きな体積静電容量を呈するウルトラキャパシタに対する商業的なニーズを受け、更に一層大きな表面積を有する適切な電極材料を開発することに対するはずみがついている。このニーズを満たすべく、様々な材料の研究が行われている。これらの殆どの材料は、高コストのポリマーフィルムの使用、及び/又は複雑な実験室的製作および活性化プロセスを通じて製造される材料のいずれかであり、これらはいずれも工業的大量生産に移すのは困難であるかもしくは不経済である。
【0005】
エネルギー貯蔵装置用の電極において使用するための低コストで高性能のこのような材料を提供するための一つの手法が、Ueharaらによる米国特許出願公開公報第2003/0086860号に開示されている。Ueharaらは多孔質のカーボンを製造するための方法を開示しており、この方法は、カルボン酸イオンおよび少なくとも1つの金属イオンの存在下におけるアルカリを伴う軟質カーボンタイプのカーボン材料を活性化するステップを含み、前述の金属イオンは鉄イオン、コバルトイオン、マンガンイオンおよびニッケルイオンからなるグループから選択される。Ueharaらは、彼らの方法を使用することにより、≧1,000m/cmの体積比表面積を呈する活性炭を製造することができ、これらのカーボンを用いる電気二重層キャパシタは≧20F/cmの単位体積当たりの静電容量を呈することができると報じている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0086860号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Ueharaの公報に開示されている如き金属イオンの使用は、結果として得られるカーボンがエネルギー貯蔵装置、例えばウルトラキャパシタなどに組み込まれたときに、安定性にかかわる問題をもたらしかねない。即ち、結果として得られるカーボン中における電気活性金属の存在は大きな電流漏れを引き起こしかねず、この大きな電流漏れにより、エネルギー貯蔵装置が不満足なものになりかねない。それ故、このようなカーボンを例えばウルトラキャパシタに組み込む前に、結果として得られるカーボンから電気活性金属を除去すべく、付加的な処理ステップが必要となろう。従って、エネルギー貯蔵装置、例えばウルトラキャパシタなどのための電極において使用され、工業的な規模で経済的に製作することができる、低コストで高性能の材料に対するニーズが依然として存在する。
【0007】
驚くべきことに、我々は、天然に生じる炭水化物、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよび前述のものの組合せから選択されるカーボン前駆体から誘導される活性炭に比較的少量の窒素官能性を組み入れることにより、高いエネルギー密度を呈する大きな表面積の材料を提供し得ることを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの態様においては、カーボン材料が提供され、このカーボン材料は天然に生じる炭水化物、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよび前述のものの組合せから選択されるカーボン前駆体から誘導され、ここで、このカーボン材料は1.0重量%より多量の元素性窒素を含有し、また、このカーボン材料は1,500m/gより大きな表面積を呈する。
【0009】
本発明の別の態様においては、電極が提供され、この電極は本発明のカーボン材料を含み、このカーボン材料は天然に生じる炭水化物、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよび前述のものの組合せから選択されるカーボン前駆体から誘導され、ここで、このカーボン材料は1.0重量%より多量の元素性窒素を含有し、また、このカーボン材料は1,500m/gより大きな表面積を呈する。
【0010】
本発明の別の態様においては、ウルトラキャパシタキャパシタが提供され、このウルトラキャパシタは本発明の電極を含む。
【0011】
本発明の別の態様においては、バッテリーが提供され、このバッテリーは本発明の電極を含む。
【0012】
本発明の別の態様においては、エネルギー貯蔵装置が提供され、このエネルギー貯蔵装置は本発明の電極を含み、ここで、このエネルギー貯蔵装置は2.5ボルトより大きな動作電圧を呈する。
【0013】
本発明の別の態様においては、自動車、電力品質、エンジン始動、光電池におけるエネルギー貯蔵、風車におけるエネルギー貯蔵、医療用システム、可動式推進システム、軍事用エレクトロニクス、輸送システム、商業用エレクトロニクス、消費者用エレクトロニクス、可搬式エレクトロニクス、オーディオシステムおよび消費者用電気器具から選択されるシステムにおける、本発明のエネルギー貯蔵装置の使用が提供される。
【0014】
本発明の別の態様においては、天然に生じる炭水化物、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよび前述のものの組合せから選択されるカーボン前駆体からカーボン材料を製造するための方法が提供され、この方法は、前述のカーボン前駆体に窒素官能性を加えるステップを含み、ここで、このカーボン材料は1.0重量%より多量の元素性窒素を含有し、また、このカーボン材料は1,500m/gより大きな表面積を呈する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ここで定められているすべての範囲は境界値を含み、組合せ可能である。
【0016】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される「糖」という用語は、数多くの有用なあらゆる糖類材料を包含する。有用な糖のリストには単糖類、二糖類および多糖類、ならびにこれらの糖類の分解産物、例として、ペントース、例えばアルドペントース、メチルペントース、ケプトペントースを含め、例えばキシロースおよびアラビノースなど;デオキシラドース、例えばラムノースなど;ヘキソースおよび還元性の糖類、例えばアルドヘキソースなどであり、例えばグルコース、ガラクトースおよびマンノースなど;ケトヘキソース、例えばフルクトースおよびソルボースなど;二糖類、例えばラクトースおよびマルトースなど;非還元性の二糖類、例えばスクロースなど、および他の多糖類、例えばデキストリンおよびラフィノースなど;ならびに構成成分としてオリゴ糖を含有する加水分解デンプンが含まれる。数多くのシュガーシロップ、例えばコーンシロップ、高フルクトースコーンシロップなどを含むシュガーシロップは、様々な顆粒状および粉末状の形態の場合と同様、一般的なソースである。
【0017】
本発明と共に使用するのに適した天然に生じる炭水化物は、例えば天然に生じる糖;多糖類;デンプン;リグニン;セルロース;および前述のものの混合物を含む。
【0018】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料はカーボン前駆体から調製され、ここで、このカーボン前駆体は、木材、ヤシ殻、糖および前述のものの混合物から選択される、天然に生じる炭水化物である。
【0019】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料はカーボン前駆体から調製され、ここで、このカーボン前駆体は、木材、ヤシ殻、スクロース、フルクトースおよび前述のものの混合物から選択される、天然に生じる炭水化物である。
【0020】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料はカーボン前駆体から調製され、ここで、このカーボン前駆体は、スクロースから選択される、天然に生じる炭水化物である。
【0021】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料はカーボン前駆体から調製され、ここで、このカーボン前駆体は、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよび前述のものの混合物から選択される。
【0022】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は少なくとも1.0重量%の元素性窒素;代替的には1.5重量%より多量;代替的には1.75重量%より多量;代替的には2.0重量%より多量;代替的には1.0重量%から10.0重量%までの間;代替的には1.0重量%から8.0重量%までの間;代替的には1.0重量%から7.0重量%までの間;代替的には1.0重量%から5.0重量%までの間;代替的には1.0重量%から3.0重量%までの間の元素性窒素を含有する。本カーボン材料の元素性窒素含量は、伝統的な燃焼元素分析法およびX線光電子分光法(XPS)を用いて決定されてよい。XPSは、正確で信頼性の高い元素性窒素値を提供する。更に、XPSを用いることにより、この窒素官能性の性状をも決定することが可能になる。我々が行った分析は、この元素性窒素がニトリル、アミド、アミン、アンモニウムおよび環窒素官能性として存在し得ることを示している。
【0023】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は、Brunauer、Emmett、Teller(BET)分析法を用いて決定したときに、1,500m/gより大きな表面積;代替的には1,500m/gから3,000m/gまでの間;代替的には1,500m/gから2,500m/gまでの間の表面積を呈する。
【0024】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は、窒素吸着法で決定したときに、0.1cm/gから2.0cm/gまでの間の細孔体積;代替的には0.5cm/gから2.0cm/gまでの間の細孔体積を呈する。
【0025】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は、Horvath−Kawazoe(H−K)法により決定したときに、50.0nm未満の少なくとも1つのピークを伴う細孔サイズ分布;代替的には5.0nm未満の少なくとも1つのピークを伴う細孔サイズ分布;代替的には0.1nmから5.0nmまでの間の少なくとも1つのピークを伴う細孔サイズ分布を呈する。
【0026】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は、窒素吸着法で決定したときに、2cm/g未満の細孔体積を呈し、H−K法により決定したときに、0.1nmから50nmまでの間の少なくとも1つのピークを伴う細孔サイズ分布を呈する。
【0027】
本発明のカーボン材料は様々な通常の形または物体の形態に製造もしくは形成されてよく、このような形状または物体は、例えば粉末、顆粒、モノリス、ビーズ、シート、ブロック、細線、フィラメント、チューブ、ペーパー、膜、フェルト、発泡体、プレート、織物および不織布を含む。
【0028】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は粉末として提供されてよく;代替的には≦50μmの体積平均粒径を呈する粉末として;代替的には<50μmの体積平均粒径を呈する粉末として;代替的には≦10μmの体積平均粒径を呈する粉末として提供されてよい。
【0029】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は様々なエネルギー貯蔵装置およびエネルギー管理装置において使用するための電極の形態に形成されてよく、このようなエネルギー貯蔵装置およびエネルギー管理装置は、例えば電気二重層キャパシタ(ウルトラキャパシタおよびスーパーキャパシタとしても知られている)、バッテリー、燃料電池、電力安定化装置、および電気容量方式による水の脱イオン化装置を含む。
【0030】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は、キャパシタ、例えば二重層キャパシタにおいて使用するための電極を製造するために使用することができ、この二重層キャパシタは、少なくとも2つのこのような電極、前述の少なくとも2つのこのような電極の間に配置される少なくとも1つの多孔質セパレーターおよび電解液を含み、この電解液は、前述の少なくとも2つのこのような電極構造物および前述の少なくとも1つの多孔質セパレーターと接触している。
【0031】
本発明と共に使用するのに適した電解液は、例えば有機電解液および水性電解液を含む。
【0032】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料を包含した二重層キャパシタは有機電解液を含み;代替的には、電解質を一つの有機溶媒中または複数の有機溶媒の混合物中に溶解することにより得られる有機電解液を含む。
【0033】
本発明の電解液において使用するのに適した有機溶媒は、例えば電気化学的に安定した炭酸エチレン;炭酸プロピレン;炭酸ブチレン;γ−ブチロラクトン;スルホラン;スルホラン誘導体;3−メチルスルホラン;1,2−ジメトキシエタン;アセトニトリル;グルタロニトリル;バレロニトリル;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;テトラヒドロフラン;ジメトキシエタン;ギ酸メチル;炭酸ジメチル;炭酸ジエチル;炭酸エチルメチルおよび前述のものの混合物を含む。
【0034】
本発明の電解液において使用するのに適した電解質は、例えば、RまたはRで表される第四級オニウムカチオン[式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立してC1−6アルキル基である]および例えばBF、PF、ClO、CFSOおよび(SO)(SO)N[式中、RおよびRは、それぞれ独立してC1−4アルキル基、アルキレン基および集合的に環構造である]から選択されるアニオンを有する塩を含む。幾つかの実施形態においては、電解質はあるグループから選択され、このグループは(CNBF、(C(CH)NBF、(CPBFおよび(C(CH)PBFを含む。幾つかの実施形態においては、上記の塩のうちの一つが有機溶液中に0.1mol/Lから2.5mol/Lまでの濃度で、代替的には0.5mol/Lから2mol/Lまでの濃度で溶解される。
【0035】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料を包含した二重層キャパシタは水性電解液を含む。
【0036】
本発明と共に使用するのに適した水性電解液は、電解質を水溶液中に溶解することにより得られてよい。
【0037】
本発明の電解液において使用するのに適した水溶液は、例えば水酸化カリウムおよび硫酸を含む。
【0038】
本発明の二重層キャパシタにおいて使用するのに適したセパレーターは、例えばポリプロピレン繊維の不織布、ガラス繊維の不織布、合成セルロース、天然セルロースおよび前述のものの組合せを含む。
【0039】
幾つかの実施形態においては、有機電解液中において本発明のカーボン材料を含む電極は、80F/gより大きな静電容量;代替的には100F/gより大きな静電容量を呈するであろう。
【0040】
幾つかの実施形態においては、本発明の二重層キャパシタは≧2.5ボルトの動作電圧を呈するであろう。
【0041】
幾つかの実施形態においては、本発明のエネルギー貯蔵装置は様々なシステムにおいて使用することができ、このようなシステムは、例えば;自動車、電力品質システム、エンジン始動システム、光電池でのエネルギー貯蔵システム、風車でのエネルギー貯蔵システム、医療用システム、可動式推進システム、軍事用エレクトロニクスシステム、輸送システム、商業用エレクトロニクスシステム、消費者用エレクトロニクスシステム、可搬式エレクトロニクスシステム、オーディオシステムおよび消費者用電気器具を含む。
【0042】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は、以下の操作:
a)脱水する操作;
b)熱分解する操作;
c)活性化する操作;および
d)窒素官能性を導入する操作;
の組合せを用いてカーボン前駆体を処理することにより調製されてよい。操作(a)−(d)のうちの2つまたはそれ以上を単一の操作にまとめてもよい。例えば、熱分解する操作と活性化する操作を単一の操作にまとめてもよい。更に、操作(a)−(d)はどんな順番で行われてもよい。例えば、窒素官能性を導入する操作は脱水する操作の前または後に行われてよく;代替的に活性化する操作の前または後に行われてよい。また、操作(a)−(c)のうちの1つまたはそれ以上を省略してもよい。
【0043】
幾つかの実施形態においては、本発明のカーボン材料は、窒素官能性をカーボン前駆体に導入し、以下の操作:
a)カーボン前駆体を脱水する操作;
b)カーボン前駆体を熱分解する操作;および
c)カーボン前駆体を活性化する操作;
のうちの少なくとも2つを果たすことにより、天然に生じる炭水化物カーボン前駆体から調製されてよい。上述の操作(a)−(c)のうちの2つまたはそれ以上を単一の操作にまとめてもよい。例えば、熱分解する操作と活性化する操作を単一の操作にまとめてもよい。更に、操作(a)−(c)はどんな順番で行われてもよく、また、窒素官能性をカーボン前駆体に導入する操作の前に行われてもよいし、または導入する操作の後に行われてもよい。例えば、窒素官能性を導入する操作は脱水する操作の前または後に行われてよく;代替的に活性化する操作の前または後に行われてもよい。
【0044】
本発明のプロセスにおけるカーボン前駆体を脱水する操作、特に天然に生じる炭水化物カーボン前駆体を脱水する操作は通常の手段を用いて果たされてよく、これらの通常の手段は反応性添加物の添加を含んでよい。天然に生じる炭水化物を脱水する操作において使用するのに適した反応性添加物は、例えば、酸および酸の塩、例えば硫酸およびリン酸などを含む。これらの反応性添加物を使用することにより、水としての−OH基の除去および炭水化物または糖環構造における二重結合の形成を促進することができる。
【0045】
本発明のプロセスにおけるカーボン前駆体を熱分解する操作は通常の手段を用いて果たされる。例えば、不活性雰囲気もしくは活性化雰囲気、またはこれら両者の組合せ下において、カーボン前駆体が熱分解されてよい。熱分解温度は、例えば400℃から2,000℃までの範囲に収まってよく;代替的には700℃から1,500℃までの間;代替的には800℃から1,200℃までの間であってよい。熱分解時間は1時間から12時間までの範囲にわたってよく;代替的には2時間から10時間までの間;代替的には3時間から8時間までの間であってよい。熱分解雰囲気は、不活性雰囲気もしくは活性化雰囲気のいずれかであってよく、またはこれら2つの組合せであってよい。不活性な熱分解雰囲気は、不活性で非酸化性の気体、例えば窒素、アルゴンおよびヘリウムを含む。活性化雰囲気は、例えば一酸化炭素、二酸化炭素、蒸気および空気を含む。代替的に、水酸化アルカリ、例えば水酸化カリウムなど、鉱酸、例えば硫酸など、またはルイス酸、例えば二塩化亜鉛などを用いて、化学的な活性化を果たしてもよい。幾つかの実施形態においては、不活性な熱分解操作の後、本カーボン材料の多孔度および表面積を増大させるべく、活性化プロセスを行うことができる。
【0046】
空気、二酸化炭素および蒸気が関与する活性化操作は、酸素を含有する非窒素官能基を本カーボン材料に導入するために行われてよい。このような官能基はヒドロキシルおよびカルボン酸部分を含む。これらの官能基は疑似静電容量をもたらすことにより全体的な静電容量を高めることができる。しかし、このような疑似静電容量は長い時間を掛けて劣質化し、エネルギー貯蔵装置の不安定化に寄与する可能性がある。酸素を含有する官能基は、例えばオルガノシランシリル化剤を用いて誘導体化することにより、例えばヘキサメチルジシランおよびトリメチルクロロシランを含むオルガノシランシリル化剤を用いて誘導体化することにより、安定化させることができる。
【0047】
窒素官能性は、本発明のカーボン材料を調製するためのプロセス中におけるあらゆるポイントでカーボン前駆体に導入されてよい。例えば、窒素官能性は、脱水する操作、熱分解する操作または活性化する操作の前または後に導入されてよい。
【0048】
窒素官能性を導入する方法は、例えばアンモ酸化および窒素含有添加物の使用を含む。アンモ酸化は、本カーボン材料を製造するプロセス中におけるあるポイントで、カーボン前駆体材料をアンモニウムガスまたはアンモニウム/酸素ガス混合物と接触させることを要件とする。前述の窒素含有添加剤の使用は、本カーボン材料を製造するプロセス中におけるあるポイントで、カーボン前駆体材料を窒素含有添加剤と接触させることを要件とし、この窒素含有添加剤は、高められた温度において前述のカーボン前駆体と反応する。このような窒素含有添加剤は、例えば塩化アンモニウム、ポリアリルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレンイミン、トリエタノールアミン、メラミン、硫酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、尿素、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸水素アンモニウム、ベタイン、酢酸アンモニウムおよび前述のものの混合物を含む。
【実施例】
【0049】
実施例
次に、本発明の幾つかの実施形態を以下の実施例において詳細に説明する。
【0050】
(比較用実施例1)
元素性窒素を含有していない活性炭材料を以下の如くにしてスクロースを用いて調製した:
(a)500グラムのスクロースを350グラムの蒸留水中に溶解した;
(b)56グラムの96重量%硫酸を(a)の生成物に激しく混合しながらゆっくりと加えた;
(c)(b)の生成物をガラス製のトレーに注いだ;
(d)このガラス製のトレーを室温でオーブンに入れた;
(e)オーブンの温度を120℃に上げ、この温度で夜通し維持した;
(f)翌日、このガラス製のトレーに黒色のカーボンチャーが形成されているのが観測された;
(g)この黒色のカーボンチャーをガラス製のトレーから取り出し、10メッシュ未満の粒径に磨り潰した(この粒径は、篩い表示:USA Standard Testing Sieve ASTME−11 Specification No.10 and Tyler Equivalent 9 meshの付いた公称2.00mmの篩い開口を有するスクリーンを用いて測定された)。
(h)100グラムの(g)の生成物をアルミナ製のチューブに入れ、管状炉内において、5℃/分で窒素の流れ下において500℃にまで加熱し、この温度で3.0時間保持した;また、
(i)この後、(h)から得られた材料を1,000℃に加熱し、COで2.5時間活性化することにより、2,058m/gの表面積および1.0cm/gの細孔体積を有する生成物活性炭材料が得られた。
【0051】
この例により得られた生成物をXPSを用いて分析し、元素性窒素が含まれていないことを確認した。
【0052】
(比較用実施例2)
Kuraray Chemical CompanyからBP−20として商業的に入手可能な活性炭材料(この材料は元素性窒素を含んでいない)を比較の目的で使用した。
【0053】
(実施例3)
元素性窒素を含有した活性炭材料を以下の如くにしてスクロースを用いて調製した:
(a)150グラムの塩化アンモニウムを350グラムの蒸留水中に溶解した;
(b)500グラムのスクロースを(a)の生成物に混合しながらゆっくりと加えた;
(c)120グラムの96重量%硫酸を(b)の生成物に激しく混合しながらゆっくりと加えた;
(d)(c)の生成物をガラス製のトレーに注いだ;
(e)このガラス製のトレーを室温でオーブンに入れた;
(f)オーブンの温度を120℃に上げ、この温度で夜通し維持した;
(g)翌日、このガラス製のトレーに黒色のカーボンチャーが形成されているのが観測された;
(h)この黒色のカーボンチャーをガラス製のトレーから取り出し、10メッシュ未満の粒径に磨り潰した(この粒径は、篩い表示:USA Standard Testing Sieve ASTME−11 Specification No.10 and Tyler Equivalent 9 meshの付いた公称2.00mmの篩い開口を有するスクリーンを用いて測定された)。
(i)100グラムの(h)の生成物をアルミナ製のチューブに入れ、管状炉内において、5℃/分で窒素の流れ下において500℃にまで加熱し、この温度で3.0時間保持した;また、
(i)この後、(h)から得られた材料を1,000℃に加熱し、COで4.5時間活性化することにより、2,064m/gの表面積および0.885cm/gの細孔体積を有する生成物活性炭材料が得られた。
【0054】
この実施例により得られた生成物は、XPS分析を用いて1.5重量%の元素性窒素含量を有していることが測定された。
【0055】
(実施例4)
元素性窒素を含有した活性炭材料を以下の如くにしてスクロースを用いて調製した:
(a)100グラムの塩化アンモニウムを350グラムの蒸留水中に溶解した;
(b)500グラムのスクロースを(a)の生成物に混合しながらゆっくりと加えた;
(c)120グラムの96重量%硫酸を(b)の生成物に激しく混合しながらゆっくりと加えた;
(d)(c)の生成物をガラス製のトレーに注いだ;
(e)このガラス製のトレーを室温でオーブンに入れた;
(f)オーブンの温度を120℃に上げ、この温度で夜通し維持した;
(g)翌日、このガラス製のトレーに黒色のカーボンチャーが形成されているのが観測された;
(h)この黒色のカーボンチャーをガラス製のトレーから取り出し、10メッシュ未満の粒径に磨り潰した(この粒径は、篩い表示:USA Standard Testing Sieve ASTME−11 Specification No.10 and Tyler Equivalent 9 meshの付いた公称2.00mmの篩い開口を有するスクリーンを用いて決定された)。
(i)100グラムの(h)の生成物をアルミナ製のチューブに入れ、管状炉内において、5℃/分で窒素の流れ下において500℃にまで加熱し、この温度で3.0時間保持した;また、
(i)この後、(h)から得られた材料を1,000℃に加熱し、COで4.0時間活性化することにより、2,227m/gの表面積および1.0cm/gの細孔体積を有する生成物活性炭材料が得られた。
【0056】
この実施例により得られた生成物は、XPS分析を用いて1.5重量%の元素性窒素含量を有していることが測定された。
【0057】
(実施例5)
元素性窒素を含有した活性炭材料を以下の如くにしてスクロースを用いて調製した:
(a)100グラムの塩化アンモニウムを350グラムの蒸留水中に溶解した;
(b)500グラムのスクロースを(a)の生成物に混合しながらゆっくりと加えた;
(c)120グラムの96重量%硫酸を(b)の生成物に激しく混合しながらゆっくりと加えた;
(d)(c)の生成物をガラス製のトレーに注いだ;
(e)このガラス製のトレーを室温でオーブンに入れた;
(f)オーブンの温度を120℃に上げ、この温度で夜通し維持した;
(g)翌日、このガラス製のトレーに黒色のカーボンチャーが形成されているのが観測された;
(h)この黒色のカーボンチャーをガラス製のトレーから取り出し、10メッシュ未満の粒径に磨り潰した(この粒径は、篩い表示:USA Standard Testing Sieve ASTME−11 Specification No.10 and Tyler Equivalent 9 meshの付いた公称2.00mmの篩い開口を有するスクリーンを用いて測定された)。
(i)100グラムの(h)の生成物をアルミナ製のチューブに入れ、管状炉内において、5℃/分で窒素の流れ下において500℃にまで加熱し、この温度で3.0時間保持した;また、
(i)この後、(h)から得られた材料を1,000℃に加熱し、COで3.0時間活性化することにより、1,703m/gの表面積および0.726cm/gの細孔体積を有する生成物活性炭材料が得られた。
【0058】
この実施例により得られた生成物は、XPS分析を用いて1.65重量%の元素性窒素含量を有していることが測定された。
【0059】
(実施例6)
実施例1−5から得られた活性炭を以下の表1に示されている様々な性能パラメーターについて試験した。表1に示されているデータを得るために使用した機器のリストを以下に示す:
a)周波数応答分析装置(FRA)、Schlumberger Solartron Model 1250;
b)ポテンシオスタット、EG&G Model 273;
c)デジタルマルチメーター、Keithley Model 197;
d)静電容量テストボックス S/N 005、100オームに設定;
e)RCLメーター、Philips PM6303;
f)電源装置、Hewlett−Packard Model E3610A;
g)天秤、Mettler H10;
h)マイクロメーター、Brown/Sharp;
i)漏れ電流装置;
j)バッテリー/キャパシタテスター、Arbin Model HSP−2042。
【0060】
有機電解液キャパシタ性能試験
実施例1−5でもたらされたそれぞれのカーボンのサンプルを、有機電解液を有する電気化学キャパシタにおける電極材料としての特性および性能について評価した。これらのカーボンサンプルはすべて粒子状の形態で採取され、直径1.59cmおよび厚み0.005cmを有する別々の電極に形作られた。この試験キャパシタシステムにおいて使用されたセパレーターは〜0.0076cmの厚みであった。これらの各試験電極を真空条件(機械式荒引きポンプ)下において195℃で18時間乾燥させた。この後、これらの乾燥させた試験電極を電解液中に浸漬した。これらの冷まされた試験電極(まだ真空下にある)をドライボックスに移した。以降のすべての組み立て作業はこのドライボックス内で実施された。これらの試験電極を有機電解液中に更に10分間浸漬し、この後、これらの電極を電池の形態に組み立てた。この電解液は、1.0Mのテトラエチルアンモニウムテトラフルオロホウ酸塩(TEATFB)を含有する炭酸プロピレン(PC)および炭酸ジメチル(DMC)の等体積混合物を含んだ。使用したセパレーターは、電池の形態に組み立てた際の厚みが約0.0076cmの「オープンセルフォームタイプ」の材料であった。試験するため、これらの組み立てられた電池をドライボックスから取り出した。それぞれの導電面−プレートに金属プレートをクランプし、集電体として使用した。次いで、これらの試験キャパシタ電池を1.0Vにおいて10分間コンディショニングし、この後、これらの電池の特性を測定した。次いで、これらの試験キャパシタ電池を2.0Vにおいて10分間コンディショニングし、この後、これらの電池の特性を再度測定した。
【0061】
キャパシタ電池試験測定
これらのキャパシタ電池での試験測定はすべて室温で行われた。
【0062】
1.0Vにおけるシーケンスは以下の通りであった:RCLメーターを用いる1kHzでのESR、静電容量テストボックスを用いる100オーム直列抵抗での充電静電容量、漏れ電流装置を用いる30分後の漏れ電流、ポテンシオスタットおよびFRAを用いる電気化学インピーダンススペクトロスコピー(EIS)測定。
【0063】
2.0Vにおけるシーケンスは1.0Vにおいて使用したシーケンスと同じであった。最後の測定は、Arbinを用いる定電流充電/放電測定であった。EIS測定は、0.010−V−振幅の正弦波信号を用いる4−リード構成で行われた。
【0064】
C100充電静電容量は、キャパシタおよび直列に接続された100Ωの抵抗器を通じて行われる1.0ボルトまたは2.0ボルトの適用後に、キャパシタを0V(1−1/e)V=0.632Vから充電するのに要する時間を測定することにより決定された。
【0065】
この後、充電時間(秒単位)を100(直列抵抗値)で割り算するすることにより、重量静電容量(F/g単位)を算出した。体積静電容量は、重量静電容量にカーボンの密度を掛け算することにより算出された。
【表1】

【0066】
(実施例7:酸素官能性を包含するカーボンのシリル化(予測的開示))
90%の炭素、5%の酸素、2%の窒素および3%の水素を含有するカーボン(表面積2,000m/g、1.0cc/g)の5グラムのサンプルに100mlの無水トルエンおよび2.0グラムのクロロトリメチルシランを加える。この混合物を加熱して還流させ、12時間保持する。濾過によりカーボンを回収し、過剰量のトルエンで洗い、真空下で乾燥させることにより、2.5%のSiを含有するカーボンが得られる。
【0067】
結果として得られるカーボン材料は安定しており、ウルトラキャパシタ装置用の電極として有用である。
【0068】
(実施例8:コールタールピッチカーボン前駆体(予測的開示))
コールタールピッチカーボン前駆体から以下のようにしてカーボン材料が調製される:
(a)100グラムのメラミンを500グラムのコールタールピッチと混合する;
(b)(a)の混合物をガラス製のトレーに注ぐ;
(c)そのガラス製のトレーを室温でオーブンに入れる;
(d)窒素の流れ下においてオーブンの温度をゆっくりと800℃に上げ、その温度で8時間維持する;
(e)その後、(d)から得られる材料を1,000℃に加熱し、COで2.5時間活性化することにより、2,000m/g以上の表面積、1.0cm/gの細孔体積および1.0重量%より多量の元素性窒素を有する生成物活性炭材料が得られる。
【0069】
結果として得られるカーボン材料はウルトラキャパシタ用の電極として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン材料であり、該カーボン材料が、天然に生じる炭水化物、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよびこれらの組合せから選択されるカーボン前駆体から誘導され、ここで、該カーボン材料が1.0重量%より多い元素性窒素を含有し、さらに該カーボン材料が1,500m/gより大きな表面積を示す、カーボン材料。
【請求項2】
該カーボン材料が2cm/g未満の細孔体積を示し、さらに0.1nmから50nmまでの間の少なくとも1つのピークを伴う細孔サイズ分布を示す、請求項1記載のカーボン材料。
【請求項3】
請求項1記載のカーボン材料を含む電極。
【請求項4】
請求項3記載の電極を含むウルトラキャパシタ。
【請求項5】
請求項3記載の電極を含むバッテリー。
【請求項6】
請求項3記載の電極を含むエネルギー貯蔵装置であり、ここで、該エネルギー貯蔵装置が2.5ボルトより大きい動作電圧を示す、エネルギー貯蔵装置。
【請求項7】
自動車、電力品質、エンジン始動、光電池におけるエネルギー貯蔵、風車におけるエネルギー貯蔵、医療用システム、可動式推進システム、軍事用エレクトロニクス、輸送システム、商業用エレクトロニクス、消費者用エレクトロニクス、可搬式エレクトロニクス、オーディオシステムおよび消費者用電気器具から選択されるシステムにおける、請求項6記載のエネルギー貯蔵装置の使用。
【請求項8】
天然に生じる炭水化物、コールタールから誘導されるピッチ、石油から誘導されるピッチおよびこれらの組合せから選択されるカーボン前駆体からカーボン材料を製造するための方法であり、該方法は窒素官能性をカーボン前駆体に加えることを含み、ここで該カーボン材料が1.0重量%より多い元素性窒素を含有し、さらに該カーボン材料が1,500m/gより大きな表面積を示す、カーボン材料を製造するための方法。
【請求項9】
カーボン前駆体が天然に生じる炭水化物であり、ここで該方法が以下の:
a)該カーボン前駆体を脱水すること;
b)該カーボン前駆体を熱分解すること;および
c)該カーボン前駆体を活性化すること;
のうちの少なくとも2つをさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該カーボン材料が酸素を含有する官能基を有しており、ここで当該方法が、前記酸素を含有する官能基をシリル化することをさらに含む、請求項8記載の方法。

【公開番号】特開2006−160597(P2006−160597A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−319016(P2005−319016)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】