説明

エピタキシャル膜、圧電体素子、強誘電体素子、これらの製造方法及び液体吐出ヘッド

【課題】均一な組成を有し、結晶配向性に優れた、大面積のエピタキシャル膜やその製造方法、さらに、格子整合に優れたエピタキシャル膜をSi基板とのバッファ層として用いて、単一配向性結晶構造を有し、優れた特性を有し、大面積の圧電体素子、強誘電体素子や、それらの製造方法、液体吐出性能に優れ、大型の液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】組成式(1):yA(1−y)B(式中、AはY、Scを含む希土類元素を含む元素を示し、BはZrを示し、yは0.03以上0.20以下の数値を示す。)で表される金属ターゲットを用い、膜厚が1.0nm以上10nm以下のSiO2層を表面に有するSi基板を加熱し、該基板上に、組成式(2):xA23−(1−x)BO2(式中、A、Bは式(1)におけるA、Bとそれぞれ同じ金属元素を示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。)で表されるエピタキシャル膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si基板上に形成される電子デバイスを作成するためのバッファ層に好適なエピタキシャル膜、これを用いた圧電体素子、強誘電体素子や、これらの製造方法、及び液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体単結晶基板であるSi基板は、結晶性に優れ、大面積化が可能であることから、電子デバイスを作成する基板として好適であり、汎用的に用いられている。Si基板上に積層して作成する電子デバイスとしては、誘電体デバイス、圧電体デバイス、強誘電体デバイス、焦電体デバイス等があり、その結晶構造の向上を図るためSi基板上に形成する下地層としてのバッファ層の検討が行われている。
【0003】
上記バッファ層としては、基板のSi結晶との格子整合と共に、電子デバイスを構成するペロブスカイト型酸化物等の結晶との格子整合が優れているものとして、エピタキシャル成膜したZrO2や、これにY等をドープした安定化ZrO2等が用いられている。
【0004】
このようなバッファ層として、具体的には、酸化ジルコニウム又はY等により安定化された安定化酸化ジルコニウム薄膜等を用いた積層薄膜(特許文献1)や、YSZ(Y安定化ジルコニア)を用いた圧電素子(特許文献2)等が報告されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるバッファ層は、電子ビームを用いた蒸着法により基板表面とその結晶面を揃えた積層膜を形成するものであり、大面積の成膜には不向きである。このため、大面積のバッファ層の形成を可能とする成膜技術の確立が要請されている。
【0006】
また、従来のエピタキシャル膜として得られるバッファ層は、安定化ZrO2中のSc、Yを含む希土類元素の含有量が多いものであり、しかも、3インチ以上の大面積の成膜をした場合、面内組成のばらつきが大きくなるという問題がある。例えば、Y23−ZrO2のバルク単結晶体におけるYの含有量は最大3.7%であるのに対して、エピタキシャル膜中のYの含有量は10%以上であり、得られる膜中のYの含有量を下げることは困難である。一般に、スパッタリング法により成膜を行う場合、ターゲットの組成が得られるエピタキシャル膜の組成にそのまま反映されるものではなく、目的とする組成のエピタキシャル膜を得るためのターゲットの最適な組成を見出すことは非常に困難である。
【0007】
このため、酸化ジルコニウムに対し過剰な酸化イットリウムを含有するエピタキシャル膜はY23に起因する結晶構造の正方晶系を呈し、膜中に(100)配向及び(001)配向が混在し、単一結晶性の薄膜は得られていない。
【0008】
その他、特許文献3の実施例1には、「Si基板上に成膜された(Y2O3)x(ZrO2)l−x(x=0.04)のエピタキシャル成長膜」が記載されている。
【特許文献1】特開平9−110592号公報
【特許文献2】特開2002−234156号公報
【特許文献3】特開平2−082585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、均一な組成を有し、結晶配向性に優れた、大面積のエピタキシャル膜やその製造方法を提供することにある。さらに、格子整合に優れたエピタキシャル膜をSi基板とのバッファ層として用いることにより、単一配向性結晶構造を有し、優れた特性を有し、大面積の圧電体素子、強誘電体素子や、それらの製造方法を提供することにある。さらに、これらの素子を用いることにより、液体吐出性能に優れ、大型の液体吐出ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、エピタキシャル膜を積層するSi基板、エピタキシャル膜のスパッタリング法による成膜に用いるターゲット材料の組成、得られるエピタキシャル膜の組成との関連について鋭意研究を行った。その結果、表面のSiO2層が特定の厚さを有するSi基板上に、特定の割合で金属元素を含む金属をターゲット材料としてスパッタリングすることにより、金属元素が均一に分布し、単一配向結晶性の大面積のエピタキシャル膜が得られることの知見を得た。かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は 組成式:yA(1−y)B (1)
(式中、AはY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BはZrを示し、yは0.03以上0.20以下の数値を示す。)で表される金属ターゲットを用い、膜厚が1.0nm以上10nm以下のSiO2層を表面に有するSi基板を加熱し、該基板上に、
組成式:xA23−(1−x)BO2 (2)
(式中、A、Bは式(1)におけるA、Bとそれぞれ同じ金属元素を示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。)で表されるエピタキシャル膜を成膜することを特徴とするエピタキシャル膜の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、Si基板上に成膜され、
組成式:xA23−(1−x)BO2 (2)
(式中、AがY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BがZrを示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。)で表されることを特徴とするエピタキシャル膜に関する。
【0013】
また、本発明は、Si基板上に、第一の電極層、圧電体層及び第二の電極層をこの順に有する圧電体素子において、前記Si基板と前記第一の電極層との間に、
組成式:xA23−(1−x)BO2 (2)
(式中、AがY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BがZrを示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。)で表されるエピタキシャル膜を有することを特徴とする圧電体素子に関する。
【0014】
また、本発明は、Si基板上に、第一の電極層、強誘電体層及び第二の電極層をこの順に有する強誘電体素子において、前記Si基板と前記第一の電極層との間に、
組成式:xA23−(1−x)BO2 (2)
(式中、AがY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BがZrを示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。)で表されるエピタキシャル膜を有することを特徴とする強誘電体素子に関する。
【0015】
また、本発明は、上記圧電体素子を有し、該圧電体素子を用いて液体を吐出することを特徴とする液体吐出ヘッドに関する。
【0016】
また、本発明は上記エピタキシャル膜の製造方法を用いてSi基板上にエピタキシャル膜を成膜する工程、第一の電極層を設ける工程、Si基板に対して、(100)配向、(001)配向、(110)配向、(111)配向、又は、(100)配向と(001)配向との混合配向である圧電体層を設ける工程、第二の電極層を設ける工程を有することを特徴とする圧電体素子の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、上記エピタキシャル膜の製造方法を用いてSi基板上にエピタキシャル膜を成膜する工程、第一の電極層を設ける工程、Si基板に対して、(111)配向の強誘電体層を設ける工程、第二の電極層を設ける工程を有することを特徴とする強誘電体素子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエピタキシャル膜は、均一な組成を有し、単一配向性の結晶構造を有し、大面積のものが作製可能である。
【0019】
また、本発明のエピタキシャル膜の製造方法は、均一な組成を有し、単一配向性の結晶構造を有し、大面積のエピタキシャル膜を容易に製造することができる。
【0020】
また、本発明の圧電体素子や、強誘電体素子は、格子整合に優れた上記エピタキシャル膜をSi基板とのバッファ層として用いることにより、単一配向性結晶構造を有し、優れた特性を備え、大面積のものが作製可能である。
【0021】
また、本発明のこれらの素子の製造方法は、金属元素が均一に分布した、単一配向の結晶構造を有し、大面積の素子を容易に製造することができる。
【0022】
本発明の液体吐出ヘッドは、高解像度化、高速吐出が可能であり、吐出口が高密度に設けられても液体吐出量が多く、大型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[エピタキシャル膜の製造方法]
本発明のエピタキシャル膜の製造方法は、組成式(1)で表される金属ターゲットを用い、膜厚が1.0nm以上10nm以下のSiO2層を表面に有するSi基板を加熱し、該基板上に、組成式(2)で表されるエピタキシャル膜を成膜することを特徴とする。
【0024】
本発明のエピタキシャル膜の製造方法において用いる金属ターゲットは、組成式(1):yA−(1−y)Bで表される。式(1)中、AはY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BはZrを示し、yは0.03以上0.20以下の数値を示す。上記組成のターゲットを用いることにより、目的の組成である組成式(2)で表される組成を有するエピタキシャル膜を得ることができる。
【0025】
式(1)中、Aが示す金属元素としては、具体的には、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Dy、Yb、Lu、Euを挙げることができ、好ましくは、Y、La、Ce、Dyである。
【0026】
金属ターゲット中のAが示す金属元素は、金属ターゲット中の全金属元素を1としたとき、その数、すなわち組成式(1)中のyが、0.03以上0.20以下である。金属ターゲットに含まれるAが示す元素の数が、金属ターゲット中の金属元素の数を1としたとき、0.03以上であれば、エピタキシャル膜において、式(2)中のxが0.010以上となり、Aで示す金属元素の含有が適当であり、結晶性に優れ安定な膜となる。金属ターゲットに含まれるAが示す元素の数が、金属ターゲット中の金属元素の数1に対し、0.20以下であれば、金属ターゲットを容易に作成することができ、均一な組成のエピタキシャル膜を得ることができる。
【0027】
このような組成を有する金属ターゲットは練りこみ金属ターゲットを用いることが好ましい。練りこみ金属性ターゲットは、組成式(1)中、A、Bをそれぞれy、1−yの元素組成の割合で混合し、これを真空中で溶融して作成することができる。このような不純物の混入を排除して得られたターゲットを用いることにより、エピタキシャル膜として組成ばらつき、膜厚ばらつきの少ない、結晶性に優れた良質な膜を得ることができる。また、金属ターゲットに対し、スパッタリング装置に設置後、エピタキシャル膜の成膜前に、表面のクリーニングのためのスパッタリング、いわゆるプレスパッタを行うことが好ましい。
【0028】
本発明のエピタキシャル膜の製造方法において用いるSi基板は、単結晶構造を有することが、その上に単一配向構造のエピタキシャル膜を成膜することが容易であることから好ましい。単結晶構造のSi基板としては、表面が(100)配向であることが好ましい。また、Si基板としてSOI基板を用いる場合も、基板表面が(100)配向単結晶構造を有することが好ましい。基板にハンドル層を有する場合、ハンドル層の結晶構造は(110)であってもよい。
【0029】
このようなSi基板は表面に膜厚が1.0nm以上10nm以下のSiO2層を有する。Si基板が、かかる膜厚のSiO2層を有することにより、ターゲットからスパッタリングされた金属元素の酸化物の、結晶性に優れる上記組成のエピタキシャル膜をSi基板上に形成させることができる。SiO2層の膜厚が1.0nm以上であれば、組成が均一で結晶性が向上したエピタキシャル膜が得られ、大面積のSi基板であっても、結晶性のよいエピタキシャル膜を成膜することができる。また、SiO2層の膜厚が10nm以下であれば、初期成膜工程に要する時間を短縮することができ、短時間で基板温度を上昇させることができ、エピタキシャル膜の生産性の低下を抑制することができる。SiO2層の膜厚は1.0nm以上、5.0nm以下であることが好ましい。
【0030】
上記SiO2層はSi基板の表面をバッファードフッ酸処理して表面に付着する不純物を除去した後、アンモニア性過酸化水処理、塩酸性過酸化水処理等の酸化処理により、所望の膜厚に形成することができる。
【0031】
ここで、SiO2層の膜厚は、分光エリプソメーター(JOBIN YVON社製:UVISEL)で測定した測定値を採用することができる。
【0032】
上記Si基板上へのエピタキシャル膜の成膜はスパッタリング法による。スパッタリング法は、加速した粒子をターゲットに衝突させ、ターゲットの元素を空間に放出させ、これを基板上に導き、基板上に導かれた元素相互間、及び基板との結合により、基板上にエピタキシャル膜を成膜させる方法である。スパッタリング法としては、高周波スパッタリング、直流二極スパッタリング、マグネトロン・スパッタリング、イオンビーム・スパッタリング、化成スパッタリング等、いずれであってもよいが、高周波スパッタリングが好ましい。スパッタリング法によるエピタキシャル膜の形成には公知のスパッタリング装置を用いることができる。
【0033】
スパッタリング法における条件としては、エピタキシャル膜の成膜の開始直後の初期形成時は、酸素含有ガスを用いず、Ar等の不活性ガスを用い、ガス圧を0.1Pa以上1.0Pa以下とすることが好ましい。より好ましくは0.1Pa以上0.9Pa以下である。スパッタ電力は1W/cm2以上5W/cm2以下とすることが好ましい。ここで、エピタキシャル膜の成膜の開始直後の初期形成時とは、成膜条件にもよるが、成膜開始から1〜500秒とすることができ、より好ましくは、1〜250秒である。エピタキシャル膜の成膜の開始直後の初期形成時に、酸素含有ガスを使用しないことにより、Si基板上に成膜されるエピタキシャル膜の膜厚の制御を可能とし、エピタキシャル成長と酸化の競争反応において、結晶性が阻害されることを抑制することができる。酸素分圧としては、具体的には、1×10-4Pa以下であることが好ましく、1×10-5Pa以下がより好ましい。
【0034】
エピタキシャル膜初期形成後は、酸素を含有するガスを使用することが膜厚が厚いエピタキシャル膜を効率よく成膜することができるため好ましい。具体的には、O2、Arを適宜割合で混合した混合ガスに変え、上記と同様のガス圧で、スパッタ電力を5W/cm2以上10W/cm2以下とすることが好ましい。
【0035】
基板の温度は、400℃以上760℃以下が好まく、より好ましくは、400℃以上640℃以下である。基板温度は、基板埋め込み型熱電対で測定することができ、設定した一定温度となった後に成膜を開始することが、単一配向の結晶構造のエピタキシャル膜形成を可能とするため好ましい。
【0036】
上記スパッタリング法により、Si基板上に得られるエピタキシャル膜は、組成式(2)xA23−(1−x)BO2で表され、式中、A、Bはそれぞれ式(1)と同じ金属元素を示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す安定化酸化物である。組成式(2)中、xが、0.035以下であることにより、正方晶の結晶軸c/a比が1.0に近くなり、膜の結晶性が向上する。xが0.010以上であれば、A23で表される酸化物の存在により、キューリー温度のない不安定化状態となるのを免れることができる。
【0037】
式(2)中、AはY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示す。具体的には、上記式(1)で例示した元素と同様のものを具体的に挙げることができる。式(2)中、BはZrを示す。さらに、式(2)中、AがYを示し、BがZrを示すエピタキシャル膜では、Y23により安定化されたZrO2から構成され、格子定数が0.515nm以上0.518nm以下の結晶構造を有するものとなる。このような安定化酸化物のエピタキシャル膜は、YSZのバルク単結晶体、0.037Y23−0.963ZrO2の格子定数0.516nmに対し、その差異が0.3〜0.4%以内の範囲にある。このため上記エピタキシャル膜はその膜中の応力が小さく、大面積で成膜した場合でも、基板の反りの発生を抑制することができ、その上に各種デバイスを大面積で積層することを可能とする。すなわち、このエピタキシャル膜上に、結晶性に優れた膜の形成を可能とする。
【0038】
上記エピタキシャル膜は膜厚が1.0nm以上500nm以下であることが好ましい。膜厚が1.0nm以上であれば、この上に設ける圧電体層、強誘電体層の配向性の制御が容易となる。また、膜厚が500nm以下であれば、成膜時間が長時間に及ぶのを抑制することができ、効率的なデバイスの作成を可能とする。
【0039】
また、上記膜厚のエピタキシャル膜において、XRD(X線回折)測定による(200)配向のピーク強度が8000cps以上であり、該ピークの半価幅が0.8°以下である。このエピタキシャル膜上に電極層、圧電体層等を積層した場合、XRD測定によるピーク強度は減少するが、例えば、3μm程度の膜厚の圧電体層を設けた場合、エピタキシャル膜の(200)配向のピーク強度は200cps以上である。このようなエピタキシャル膜上には、安定して結晶性のよい誘電体層、圧電体層、強誘電体層等を設けることができる。
【0040】
本発明の圧電体素子は、Si基板上に、第一の電極層、圧電体層及び第二の電極層をこの順に有する圧電体素子において、Si基板と第一の電極層との間に、組成式:xA23−(1−x)BO2 (2)で表されるエピタキシャル膜を有することを特徴とする。式(2)中、AがY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BがZrを示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。
【0041】
本発明の圧電体素子における、Si基板や、Si基板上に設けられるエピタキシャル膜は上記のものと同様のものを挙げることができ、上記エピタキシャル膜はバッファ層として機能する。
【0042】
上記圧電素子における第一の電極層、第二の電極層には、金属や、導電性酸化物が用いられる。かかる金属としては、Pt、Ir、Ru、Au、Ni、Al、W等を挙げることができ、これらのうち、面心立方晶金属のPt、Ir、Au、Ni、Alが特に好ましい。導電性酸化物としては、IrO2、RuO2、RbO2、La-SrTiO3、SrRuO3、LaNiO3等を挙げることができる。第一の電極層と、第二の電極層とは同一の材質で形成しても、異なる材質で形成してもよい。第一の電極層には、導電性酸化物が含まれることが好ましい。
【0043】
上記電極層を形成するには、上記エピタキシャル膜を成膜した後、同一チャンバー内で、或いは大気暴露せずに、連続して成膜することが好ましい。これにより、優れた結晶性が維持された状態で配向膜あるいは単結晶膜を成膜することができる。
【0044】
上記組成式(2)で表されるエピタキシャル膜のバッファ層と電極層の間に、更に異なる組成の、例えば、蛍石型酸化物等のバッファ層を設けてもよい。
【0045】
上記圧電素子における圧電体層には、ABO3ペロブスカイト型酸化物等を用いることができる。圧電体層はSi基板に対して、(100)配向、(001)配向、(110)配向、(111)配向、又は、(100)配向と(001)配向との混合配向の結晶構造を有するものが好ましい。圧電体層を(100)配向、(001)配向、又はこれらの混合配向とするためには、次のようにする。すなわち、上記エピタキシャル膜上に蛍石型酸化物、好ましくはCeO2をエピタキシャル成膜させる。次に、SrRuO3/LaNiO3等の積層構造の酸化物の電極層を設け、そのSrRuO3上に圧電体層を設ければよい。
【0046】
また、圧電体層を(110)配向にするためには、上記エピタキシャル膜上に、直接ABO3ペロブスカイト型酸化物の電極層をエピタキシャル成膜させて、(110)配向の電極層を得て、圧電体層を成膜させればよい。電極層の好ましいABO3ペロブスカイト型酸化物としては、上記と同様のものを挙げることができる。
【0047】
また、圧電体層を(111)配向にするためには、上記エピタキシャル膜上に、金属、好ましくは上記面心立方晶金属の電極層を成膜させて、圧電体層を成膜させればよい。電極層としては金属上にSrRuO3等の酸化物を積層したものであってもよい。上記配向の圧電体層としては例えば、PZT、PMN、PNN、PSN、PMN−PT、PNN−PT、PSN−PT、PZN−PT、BTO等の圧電体材料を用いることができる。
【0048】
上記圧電体素子は、結晶性に優れたエピタキシャル膜のバッファ層を有するため、単一結晶構造や単一配向結晶構造を有する極めて優れた結晶性を有する。このために、圧電体材料を選択し、所望の結晶配向を有する、面内方向の配向も膜厚方向に配向度の高い結晶性の優れた圧電体素子を得ることができる。
【0049】
上記圧電体素子は、上記Si基板上に上記エピタキシャル膜を形成した後、第一の電極層、圧電体層、第二の電極層を順次設けることにより製造することができる。これらの圧電体素子は、半導体製造プロセスで用いられている堆積膜成形技術を適用した方法を挙げることができる。
【0050】
上記第一の電極層の成膜方法としては、スパッタリング法、ゾルゲル法等を挙げることができる。また、圧電体層の成膜方法としては、スパッタリング法、ゾルゲル法、CVD法、EB法、蒸着法等を挙げることができる。第二の電極層の成膜方法としては、塗布法、蒸着法、スパッタ法等を挙げることができる。
【0051】
本発明の強誘電体素子は、Si基板上に、第一の電極層、強誘電体層及び第二の電極層をこの順に有する強誘電体素子において、Si基板と第一の電極層との間に、
組成式(2):xA23−(1−x)BO2 (2)で表されるエピタキシャル膜を有することを特徴とする。式(2)中、AがY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BがZrを示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。
【0052】
本発明の強誘電体素子における、Si基板や、Si基板上に設けられるエピタキシャル膜、第一の電極層、第二の電極層としては、具体的には、上記圧電体素子におけるこれらのものと同様のものを挙げることができ、これらは上記と同様の方法により得られる。
【0053】
上記誘電体素子における強誘電体層には、ABO3ペロブスカイト型酸化物等を用いることができる。強誘電体層はSi基板に対して、(111)配向の結晶構造を有するものが好ましい。(111)配向の結晶構造を有する強誘電体層は、上記(111)配向の圧電体層と同様のものを具体的に挙げることができる。このような強誘電体層は上記圧電体素子の圧電体層と同様の方法により形成することができる。
【0054】
本発明の強誘電体素子は、Si基板上に、結晶性の優れたエピタキシャル膜からなるバッファ層を介して形成されるため、結晶性が良質で、耐久特性の良好な強誘電体層を有する。
【0055】
本発明の液体吐出ヘッドは、上記圧電体素子を有し、該圧電体素子を用いて液体を吐出するものであれば、いずれのものであってもよい。具体的には、液体を吐出する吐出口と、吐出口に連通する個別液室と、個別液室の一部を構成する振動板と、個別液室の外部に設けられた振動板に振動を付与するための上記圧電体素子とを有するものを挙げることができる。このような液体吐出ヘッドでは、振動板により生じる個別液室内の体積変化によって個別液室内の液体が吐出口から吐出される。
【0056】
上記液体吐出ヘッドは、上記エピタキシャル膜からなるバッファ層を有する圧電膜素子を用いることで、均一で高い吐出性能を示し、耐久性に優れ、大型のものを容易に得ることができる。上記液体吐出ヘッドは、インクジェットプリンタやファクシミリ、複合機、複写機などの画像形成装置、あるいは、インク以外の液体を吐出する産業用吐出装置に使用することができる。
【0057】
本発明の液体吐出ヘッドの一例を図1を参照して説明する。図1に示す液体吐出ヘッドには、液体を吐出する吐出口11、吐出口11と個別液室13を連通する連通孔12、個別液室13に液を供給する共通液室14が備えられる。個別液室13の一部は振動板15で構成され、振動板15に振動を付与する圧電体素子10が振動板15上に設けられる。圧電体素子10は、図2の断面摸式図に示すように、Si基板に相当する振動板15上に上記エピタキシャル膜からなるバッファ層19、第一の電極層16、圧電体層7、第二の電極層18とが順次積層された構造を有する。圧電素子10は矩形状を有しているが、台形、逆台形であってもよい。
【0058】
このような液体吐出ヘッドの製造方法の一例を、図3の工程図を参照して説明する。一部が振動板15に適用される基板5上に、エピタキシャル膜からなるバッファ層、第一の電極層、圧電体層、第二の電極層をした圧電体膜10aをパターニングして圧電体素子10を形成し、基板の裏面をエッチングして個別液室13を形成する。一方、連通孔12、吐出口11を形成した基板14と、個別液室13を形成した基板5とを接合し、液体吐出ヘッドを形成する。
【0059】
このような液体吐出ヘッドは、圧電特性が優れ、大面積なものが得られる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明のエピタキシャル膜、圧電体素子、強誘電体素子、液体吐出ヘッドについて、実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
[エピタキシャル膜の作製]
Y成分とZr成分を含有する真空溶融法で作成した練りこみ金属ターゲット0.11Y−0.89Zrを用いて、Si(100)単結晶基板上に、以下のようにエピタキシャル膜を成膜した。
【0061】
(初期層成膜)
加熱温度を624℃に設定し、30分間基板を加熱した。30分経過した後、Arガスを導入し、スパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、0.5Paと2.96W/cm2とした。10分間プレスパッタを行った後、4秒間スパッタし、初期層を成膜した。
【0062】
(酸化層成膜)
初期層を形成した後、スパッタ電源を落とし、O2ガスを導入した。再びスパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、0.3Paと5.92W/cm2とし、ArとO2の混合ガスを用いた。プレスパッタは初期層のプレスパッタ開始時間からの積算時間が15分になったところで終了させ、その後に酸化層を成膜した。
【0063】
[エピタキシャル膜の評価]
(XRDによる評価)
得られたエピタキシャル膜をXRD(パナリティカル社製:X'Pert MRD)を行い評価した。管球にはCuKα1を用い、管電圧は45kV、管電流は40mAとした。測定は平行ビーム法で行い、光学系は、入射側にはGe(220)のハイブリッドミラー、縦発散防止の1/2°スリット、横発散防止の0.02radソーラースリットを用いた。また、受光側には0.09°のコリメータを用いた。エピタキシャル膜のXRDを図4に示す。Y23−ZrO2(200)配向のピーク強度は9997cpsであった。また、該ピークの半価幅は0.7552°、格子定数は0.517nmであった。
【0064】
また、初期層成膜時に酸素ガスを導入して作製したエピタキシャル膜では、(200)配向のピーク強度が300cps以下となり、結晶性が不良であった。また、この膜上に圧電体層を設けた場合では、(200)配向のピークは観測されなかった。
【0065】
(分光エリプソによる評価)
分光エリプソメーター(JOBIN YVON社製:UVISEL)によりエピタキシャル膜成膜後のSi基板上のSiO2層、Y23−ZrO2層の膜厚を測定した。それぞれ2.3nmと158.1nmであった。
【0066】
(XRFによる評価)
XRF(蛍光X線分析装置、パナリティカル社製:Magix Pro)により、得られたエピタキシャル膜の組成を測定した。0.020Y23−0.980ZrO2であった。
【0067】
[圧電体素子の作製]
上記エピタキシャル膜上に、CeO2層、LaNiO3とSrRuO3の第一の電極層をスパッタ成膜し、その上にPZT(001)圧電膜を3.0μm厚で成膜し、第二の電極層としてAu電極を蒸着し、圧電体素子を得た。
【0068】
得られた圧電体素子についてXRD測定を行った。結果を図5に示す。PZT層は(001)/(100)エピタキシャル配向し、エピタキシャル膜のYSZ層のピーク強度は、400cpsであった。
【0069】
[液体吐出ヘッド]
上記圧電体素子を用いて、図1の形態の液体吐出ヘッドを作製し、液吐出特性を評価した。変位特性及び耐久特性ともに良好なヘッドであった。特に、4インチSi基板からのヘッド取り出しで、特性が安定し、歩留まりが向上した。
【0070】
[実施例2]
[エピタキシャル膜の作製]
Y成分とZr成分を含有する練りこみ金属ターゲット0.14Y−0.86Zrを用いて、Si(100)単結晶基板上に、以下のようにエピタキシャル膜を成膜した。
【0071】
(初期層成膜)
加熱温度を635℃に設定し、30分間基板を加熱した。30分経過した後、Arガスを導入し、スパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、0.3Paと2.96W/cm2とした。10分間プレスパッタを行った後、4秒間スパッタし、初期層を成膜した。
【0072】
(酸化層成膜)
初期層を形成した後、スパッタ電源を落とし、O2ガスを導入した。再びスパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、0.3Paと5.92W/cm2とし、ArとO2の混合ガスを用いた。プレスパッタは初期層のプレスパッタ開始時間からの積算時間が15分になったところで終了させ、その後に酸化層を成膜した。
【0073】
[エピタキシャル膜の評価]
(XRDによる評価)
得られたエピタキシャル膜を実施例1と同様にしてXRD測定を行った。Y23−ZrO2(200)配向のピーク強度は8652cpsであった。また、該ピークの半価幅は0.7787°、格子定数は0.517nmであった。
【0074】
(分光エリプソによる評価)
実施例1と同様にしてエピタキシャル膜成膜後のSi基板上のSiO2層、Y23−ZrO2層の膜厚を測定した。それぞれ2.1nmと141.7nmであった。
【0075】
(XRFによる評価)
実施例1と同様にして得られたエピタキシャル膜の組成を測定した。0.035Y23−0.965ZrO2であった。
【0076】
[実施例3]
[エピタキシャル膜の作製]
Y成分とZr成分を含有する作成した練りこみ金属ターゲット0.07Y−0.93Zrを用いて、Si(100)単結晶基板上に、以下のようにエピタキシャル膜を成膜した。
【0077】
(初期層成膜)
加熱温度を600℃に設定し、25分間基板を加熱した。35分経過した後、Arガスを導入し、スパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、0.5Paと2.96W/cm2とした。10分間プレスパッタを行った後、4秒間スパッタし、初期層を成膜した。
【0078】
(酸化層成膜)
初期層を形成した後、スパッタ電源を落とし、O2ガスを導入した。再びスパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、0.5Paと5.92W/cm2とし、ArとO2の混合ガスを用いた。プレスパッタは初期層のプレスパッタ開始時間からの積算時間が15分になったところで終了させ、その後に酸化層を成膜した。
【0079】
[エピタキシャル膜の評価]
(XRDによる評価)
得られたエピタキシャル膜を実施例1と同様にしてXRD測定を行った。Y23−ZrO2(200)配向のピーク強度は8315cpsであった。また、該ピークの半価幅は0.7982°、格子定数は0.517nmであった。
【0080】
(分光エリプソによる評価)
実施例1と同様にしてエピタキシャル膜成膜後のSi基板上のSiO2層、Y23−ZrO2層の膜厚を測定した。それぞれ2.2nmと168.3nmであった。
【0081】
(XRFによる評価)
実施例1と同様にして得られたエピタキシャル膜の組成を測定した。0.010Y23−0.990ZrO2であった。
【0082】
[比較例1]
Y成分とZr成分を含有する練りこみ金属ターゲット0.22Y−0.78Zrを用いて、Si(100)単結晶基板上にエピタキシャル膜を成膜した。
【0083】
(初期層成膜)
加熱温度を800℃に設定し、25分間基板を加熱した。35分経過した後、Arガスを導入し、スパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、0.3Paと2.96W/cm2とした。10分間プレスパッタを行った後、4秒間スパッタし、初期層を成膜した。
【0084】
(酸化層成膜)
初期層を形成した後、スパッタ電源を落とし、O2ガスを導入した。再びスパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、0.5Paと2.76W/cm2とした。プレスパッタは初期層のプレスパッタ開始時間からの積算時間が15分になったところで終了させ、その後に酸化層を成膜した。
【0085】
[エピタキシャル膜の評価]
(XRDによる評価)
得られたエピタキシャル膜を実施例1と同様にしてXRD測定を行った。Y23−ZrO2(200)配向のピーク強度は1641cpsであった。また、該ピークの半価幅は0.9474°、格子定数は0.518nmであった。
【0086】
(分光エリプソによる評価)
実施例1と同様にして、エピタキシャル膜成膜後のSi基板上のSiO2層、Y23−ZrO2層の膜厚を測定した。それぞれ2.2nmと117.3nmであった。
【0087】
(XRFによる評価)
実施例1と同様にして、得られたエピタキシャル膜の組成を測定した。0.037Y23−0.963ZrO2であった。ここでY23の量とY23−ZrO2(200)配向の半価幅の関係を図6に示す。図6から分かるようにY23の量が0.035molを超えると半価幅は広がり、0.8°を超える。また、0.010molより少なくなるときも半価幅は0.8°を超える。
【0088】
[比較例2]
Y成分とZr成分を含有する練りこみ金属ターゲット0.32Y−0.68Zrを用いて、Si(100)単結晶基板上にエピタキシャル膜を成膜した。
【0089】
(初期層成膜)
加熱温度を760℃に設定し、30分間基板を加熱した。30分経過した後、Arガスを導入し、スパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、1.0Paと0.69W/cm2とした。10分間プレスパッタを行った後、4秒間スパッタし、初期層を成膜した。
【0090】
(酸化層成膜)
初期層を形成した後、スパッタ電源を落とし、O2ガスを導入した。再びスパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、1.0Paと2.76W/cm2とした。プレスパッタは初期層のプレスパッタ開始時間からの積算時間が15分になったところで終了させ、その後に酸化層を成膜した。
【0091】
[エピタキシャル膜の評価]
(XRDによる評価)
得られたエピタクシャル膜を実施例1と同様にしてXRD測定を行った。Y23−ZrO2(002)配向のピーク強度は142.7cps、該ピークの半価幅、格子定数は測定不能だった。
【0092】
(分光エリプソによる評価)
実施例1と同様にして、エピタキシャル膜成膜後のSi基板上のSiO2層、Y23−ZrO2層の膜厚を測定した。それぞれ2.3nmと158.1nmであった。
【0093】
(XRFによる評価)
実施例1と同様にして、得られたエピタキシャル膜の組成を測定した。0.113Y23−0.887ZrO2であった。
【0094】
[比較例3]
金属Zr上に2.5mm角のY金属チップを4枚中心から15mmの位置に放射状に配置した積載ターゲットを用いて、Si(100)単結晶基板上にエピタキシャル膜を成膜した。
【0095】
(初期層成膜)
加熱温度を624℃に設定し、30分間基板を加熱した。30分経過した後、Arガスを導入し、スパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、1.3Paと2.96W/cm2とした。10分間プレスパッタを行った後、6秒間スパッタし、初期層を成膜した。
【0096】
(酸化層成膜)
初期層を形成した後、スパッタ電源を落とし、O2ガスを導入した。再びスパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、0.9Paと5.92W/cm2とし、ArとO2の混合ガスを用いた。プレスパッタは初期層のプレスパッタ開始時間からの積算時間が15分になったところで終了させ、その後に酸化層を成膜した。
【0097】
[エピタキシャル膜の評価]
(XRDによる評価)
得られたエピタクシャル膜を実施例1と同様にしてXRD測定を行った。Y23−ZrO2(002)配向のピーク強度は273.8cps、該ピークの半価幅は1.8759°、格子定数は0.520nmであった。
【0098】
(XRFによる評価)
実施例1と同様にして、得られたエピタキシャル膜の組成を測定した。0.208Y23−0.792ZrO2であった。Y23−ZrO2層の膜厚は117.3nmであった。
【0099】
[比較例4]
金属Zr上に2.5mm角のYチップを4枚中心から15mmの位置に放射状に配置したターゲットを用いて、Si(100)単結晶基板上にエピタキシャル膜を成膜した。
【0100】
(初期層成膜)
基板の加熱温度を900℃に設定した他は比較例2と同様にして、初期層を成膜した。
【0101】
(酸化層成膜)
初期層を形成した後、スパッタ電源を落とし、O2ガスを導入した。再びスパッタ電源をつけ、プレスパッタを開始した。このときのガス圧とスパッタ電力はそれぞれ、1.3Paと5.92W/cm2とした。プレスパッタは初期層のプレスパッタ開始時間からの積算時間が15分になったところで終了させ、その後に酸化層を成膜した。
【0102】
[エピタキシャル膜の評価]
(XRDによる評価)
得られたエピタクシャル膜を実施例1と同様にしてXRD測定を行った。Y23−ZrO2(002)配向のピーク強度は確認できず、結晶化していなかった。また、見た目も白濁していた。
【0103】
(XRFによる評価)
実施例1と同様にして、得られたエピタキシャル膜の組成を測定した。0.14Y23−0.862ZrO2であった。Y23−ZrO2層の膜厚は104.8nmであった。
【0104】
[実施例4]
[強誘電体素子の作製]
実施例1と同様にしてYSZからなるエピタキシャル膜上に、Pt(111)エピタキシャル膜を成膜し、その上にSrRuO3(111)膜を成膜した。この上にPZTを成膜した、結晶性のよい(111)エピタキシャル膜を得ることができた。膜厚は、150nmとした。この膜の残留分極率Prは、40μC/cm2近くあり、繰り返し耐性に関しても良好であった。
【0105】
上記結果より、本発明のエピタキシャル膜の製造方法により、Si基板上にバルク単結晶同等以上の結晶性に優れたエピタキシャル膜を得ることができる。また、上記エピタキシャル膜をバッファ層として利用した圧電体素子、強誘電体素子は、特性に優れ、大面積で作製可能であることがわかる。また、液体吐出ヘッドは液吐出量が多く、液吐出は高速であり、大面積で作製可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の圧電体素子の一例を示す概略模式図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明のエピタキシャル膜の実施例1のX線回折によるプロファイルを示す図である。
【図5】本発明の圧電体素子の実施例1のX線回折によるプロファイルを示す図である。
【図6】本発明のエピタキシャル膜のY23量と半価幅の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
5 基板
7 圧電体層
10 圧電体素子
16 第一の電極層
16 第二の電極層
19 エピタキシャル膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:yA(1−y)B (1)
(式中、AはY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BはZrを示し、yは0.03以上0.20以下の数値を示す。)で表される金属ターゲットを用い、膜厚が1.0nm以上10nm以下のSiO2層を表面に有するSi基板を加熱し、該基板上に、
組成式:xA23−(1−x)BO2 (2)
(式中、A、Bは式(1)におけるA、Bとそれぞれ同じ金属元素を示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。)で表されるエピタキシャル膜を成膜することを特徴とするエピタキシャル膜の製造方法。
【請求項2】
前記エピタキシャル膜が、組成式(2)中、AがYを示し、格子定数が0.515nm以上0.518nm以下の結晶構造を有することを特徴とする請求項1記載のエピタキシャル膜の製造方法。
【請求項3】
前記成膜にスパッタリング法を用いることを特徴とする請求項1又は2記載のエピタキシャル膜の製造方法。
【請求項4】
前記成膜を不活性ガスの中で開始することを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のエピタキシャル膜の製造方法。
【請求項5】
前記Si基板を400℃以上760℃以下に加熱することを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のエピタキシャル膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のエピタキシャル膜の製造方法を用いてSi基板上にエピタキシャル膜を成膜する工程、第一の電極層を設ける工程、Si基板に対して、(100)配向、(001)配向、(110)配向、(111)配向、又は、(100)配向と(001)配向との混合配向である圧電体層を設ける工程、第二の電極層を設ける工程を有することを特徴とする圧電体素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のエピタキシャル膜の製造方法を用いてSi基板上にエピタキシャル膜を成膜する工程、第一の電極層を設ける工程、Si基板に対して、(111)配向の強誘電体層を設ける工程、第二の電極層を設ける工程を有することを特徴とする強誘電体素子の製造方法。
【請求項8】
Si基板上に成膜され、
組成式:xA23−(1−x)BO2 (2)
(式中、AがY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BがZrを示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。)で表されることを特徴とするエピタキシャル膜。
【請求項9】
格子定数が0.515nm以上0.518nm以下であることを特徴とする請求項8記載のエピタキシャル膜。
【請求項10】
膜厚が1.0nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項8又は9記載のエピタキシャル膜。
【請求項11】
Si基板上に、第一の電極層、圧電体層及び第二の電極層をこの順に有する圧電体素子において、前記Si基板と前記第一の電極層との間に、
組成式:xA23−(1−x)BO2 (2)
(式中、AがY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BがZrを示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。)で表されるエピタキシャル膜を有することを特徴とする圧電体素子。
【請求項12】
前記圧電体層が、前記Si基板に対して、(100)配向、(001)配向、(110)配向、(111)配向、又は、(100)配向と(001)配向との混合配向であることを特徴とする請求項11記載の圧電体素子。
【請求項13】
前記圧電体層の膜厚が、1.0nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項11又は12記載の圧電体素子。
【請求項14】
請求項11から13のいずれか記載の圧電体素子を有し、該圧電体素子を用いて液体を吐出することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項15】
Si基板上に、第一の電極層、強誘電体層、及び第二の電極層をこの順に有する強誘電体素子において、前記Si基板と前記第一の電極層との間に、
組成式:xA23−(1−x)BO2 (2)
(式中、AがY、Scを含む希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含む元素を示し、BがZrを示し、xが0.010以上0.035以下の数値を示す。)で表されるエピタキシャル膜を有することを特徴とする強誘電体素子。
【請求項16】
前記強誘電体層が、前記Si基板に対して、(111)配向であることを特徴とする請求項15記載の強誘電体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−277783(P2008−277783A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77627(P2008−77627)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】