説明

エピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板及びその製造方法

【解決課題】従来以上の配向性を有し、かつ高強度のエピタキシャル薄膜形成用の配向基板、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、金属層と、前記金属層の少なくとも一方の面に接合された銀層とからなるエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板であって、前記銀層は、結晶軸のずれ角Δφが、Δφ≦9°である{100}〈001〉立方体集合組織を有するエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板である。この配向金属基板は、含有酸素濃度が30〜200ppmの銀板を、熱間加工・熱処理する配向化処理を行い、金属板と配向化処理した銀板とを表面活性化接合することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル薄膜形成用の配向金属基板及びその製造方法に関し、詳細には、所定の配向組織を有する銀層を備え、高品位かつエピタキシャル成長させることができると共に、強度が確保された配向金属基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エピタキシャル結晶組織の特性に着目した薄膜が様々な分野で用いられている。例えば、エピタキシャル結晶組織を持つ超電導薄膜(酸化物超電導材料から構成)が、各種電力機器に適用される超電導導体、超電導シールド等に使用されている。しかし、かかるエピタキシャル結晶組織を持つ超電導薄膜は加工性に乏しく所望の形状に成形することが困難である欠点を持つ。そのため、従来から、超電導材料の適用のためには必要な基板を適宜用い、その表面上に超電導膜をエピタキシャル成長させることで用途に応じた形状の超電導体を得ている。
【0003】
このようなエピタキシャル薄膜形成のための基板としては、銀、銀合金からなり、{100}〈001〉立方体集合組織を有するクラッド配向金属基板が用いられている(例えば、非特許文献1)。エピタキシャル薄膜の特性は、構成する結晶の配向性に依存するものであるところ、エピタキシャル成長により形成させる結晶組織は、その基板表面の配向性の影響を受ける。銀系の金属材料は、適宜の加工処理及び熱処理(再結晶)を加えることで容易に配向性に優れた基板を得ることができる。
【非特許文献1】“Control of texture in Ag andAg-alloy substrates for superconducting tapes” by T A Gladstone, JC Moore, B M Henry, SSpeller, C J Salter, A J Wilkinson and C R M Grovenor, Department of Materials,University of Oxford, Supecond. Sci.Techno. 13(2000) 1399-1407, printed in the UK
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の銀系材料からなるエピタキシャル薄膜形成用の配向金属基板にはいくつかの問題があり、特に強度面での問題が指摘されている。これは、配向金属基板の結晶組織は、基本的に再結晶により形成されたものであり、再結晶組織を有する金属は、金属材料一般の性質として強度低下を回避することができないことによる。そして、強度に乏しい基板は、エピタキシャル薄膜形成時において破損するおそれがある等取扱い性が悪い。
【0005】
また、従来の銀系の基板は、配向組織を一応有するとしても必ずしも満足行くものではなかった。基板の配向性は、その上のエピタキシャル薄膜の特性に大きく影響を及ぼすものであり、できる限り配向性の良好な基板が求められる。
【0006】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、従来以上の配向性を有し、かつ高強度のエピタキシャル薄膜形成用の配向基板、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、強度面の改善法として2層構造のクラッド配向金属基板を用い、エピタキシャル薄膜の成長のための基板となる銀層と、これを支持する金属層とからなるものとした。
【0008】
即ち、本発明は、金属層と、前記金属層の少なくとも一方の面に接合された銀層とからなるエピタキシャル薄膜形成用クラッド配向金属基板であって、前記銀層は、結晶軸のずれ角Δφが、Δφ≦9°である{100}〈001〉立方体集合組織を有するエピタキシャル薄膜形成用クラッド配向金属基板である。
【0009】
本発明における銀層の結晶組織は、{100}〈001〉立方体集合組織であり、その配向性の指標(配向度)として、結晶軸のずれ角Δφを基準としてΔφ≦9°となっているものである。本発明においては銀層を構成する金属結晶が2軸配向するものであり、{100}面が基板面に略平行であり、〈001〉軸が基板面の長手方向に略平行に配向し、そのずれ角Δφが9°以下である。より高品位のエピタキシャル薄膜を形成するためには、Δφが9°以下とすることが必要だからである。このΔφは、できるだけ小さいものが好ましく、理想的には0°、即ち結晶軸のずれがないものであるが、生産可能性を考慮すれば0.1°以上のものが好ましい。
【0010】
本発明に係るエピタキシャル薄膜形成用の配向基板においては、金属層と銀層との接合面が略フラットとなっており、そのうねりが1〜500nmであるものが好ましい。接合界面の凹凸が大きい場合、銀層の厚さを不均一なものとする。特に、銀層が薄い場合においては、わずかな凹凸でも銀層の厚さが不均一なものとなるが、このような場合、その上に成長させるエピタキシャル薄膜に悪影響を与えることとなる。そこで、金属層と銀層との接合界面は、十分に平坦化されると共に、平坦化を阻害する酸化物被膜、吸着物がない状態のものが好ましい。本発明において、うねりとは、接合面の断面観察の際にみられる凹凸であり、その大きさは隣接する波の上端と下端との間の振幅を示すものである。本発明では、断面観察(SEM、TEM)により測定されるうねりの平均値が1〜500nmであるものが好ましい。
【0011】
また、銀層の表面の面粗さRaは、10nm以下とすることが好ましい。銀層表面の面粗さについても、その上に成長させるエピタキシャル薄膜の特性に影響を与え得るからである。この面粗さの下限値については、可能な限り小さいことが好ましいが、加工限界、効率を考慮すると0.1nm以上とすることが好ましい。
【0012】
以上説明した銀層に対して、これを支持して基板を構成する金属層としては、ステンレス、ニッケル合金(ハステロイ合金、インコネル合金、インコロイ合金、モネル合金等)のいずれかよりなるものが好ましい。銀層の強度を確保するためには、薄板状、テープ状としても十分な強度、柔軟性が必要であり、その観点から上記の材料が好適である。
【0013】
尚、本発明に係る配向金属基板の厚さ(銀層と金属層との厚さの合計)については特に限定するものではなく、製造目的となるエピタキシャル薄膜の厚さに応じて設定でき、板状、薄板状のものからテープ状(1mm以下)のものまで対応できる。また、銀層、金属層の厚さについても特に限定はないが、強度確保の観点から、金属層の厚さは配向基板全体の40%以上とするのが好ましい。また、金属層の厚さは10μm以上とするのが好ましい。
【0014】
本発明に係るエピタキシャル薄膜形成用の配向金属基板の製造においては、銀層の配向性を十分なものとすると共に、銀層と金属層との接合を強固なものとする必要がある。かかる要求に対して、その製造方法としては、結晶配向された銀板と、金属層となる金属板とを圧接するクラッド方法が考えられるが、この方法では圧接時の圧力により銀層の結晶配向が乱れ、配向基板を製造するという本来の目的が達成できない。一方、まず、銀板と金属板とをクラッドし、その後、熱処理をして銀層の配向処理する方法も考えられるが、この場合には、配向処理の際の熱処理により金属板が軟化し、補強材としての機能を消失し、高強度という目的が達成できない。
【0015】
このような結晶組織の配向性と接合強度確保との両立の要求に対し、(1)まず配向処理された銀層を形成し、表面活性化接合の適用により無加圧或いは低加圧でクラッドする方法、及び(2)配向処理されていない銀層と金属層とについて、拡散接合を行うことにより接合と配向処理とを同時に行う方法、の2つの方法がクラッド配向金属基板の製造方法に好適であることを見出した。以下その内容を順次説明する。
【0016】
(1)表面活性化接合法に基づく製造方法
この本発明に係る第1の製造法は、以下の工程からなるものである。
(a)含有酸素濃度が30〜200ppmの銀板を、50〜300℃、95%以上の加工率で熱間加工し、前記熱間加工で得られた銀板を、非還元性雰囲気下で熱処理することで、少なくとも表面部分で、結晶軸のずれ角Δφが、Δφ≦9°となる{100}〈001〉立方体集合組織とする配向化熱処理工程。
(b)金属板を用意する工程。
(c)前記配向化熱処理工程で得られた銀板及び前記金属板の接合面を非酸化性雰囲気下で乾式エッチングを行い、接合面の酸化物、吸着物を除去した後、銀板と金属板とを無加圧又は加圧下で接合する表面活性化接合工程。
【0017】
本発明に係る第1の方法では、まず、銀板を上記(a)工程のように、熱間加工及び熱処理して、その組織の配向化を行なう。銀板の加工率は95%以上、好ましくは97%以上であり、95%未満の加工率では十分な配向化組織を得ることができない。熱間加工の加工温度は、50〜300℃である。この加工温度を設定するのは、50℃未満では、配向した立方体集合組織にならないからであり、300℃を超えると立方体集合組織とは異なる方位が生じるからである。そして、好ましい加工温度は130〜200℃である。
【0018】
熱間加工後の配向化熱処理(再結晶処理)の処理温度は、400℃以上、銀の融点以下とすることが好ましい。400℃未満の熱処理では、十分な配向組織が得られない場合がある。また、熱処理は融点以下とするが好ましくは800℃以下である。より好ましい熱処理温度は、600〜800℃である。また、熱処理時間は、1〜30分とするのが好ましい。熱処理温度が800℃より高い、又は熱処理時間が30分より長い場合には、結晶粒界のグルーヴ(溝)が深くなることがあり、配向処理後にこれを除去するための研磨を要することがある。
【0019】
このようにして銀板を配向化熱処理した後、銀板と接合する金属板を用意する(上記(b)工程)。この金属板は、市販の板材、テープ材をそのまま利用しても良いし、圧延等加工の前処理を行なっても良い。
【0020】
そして、本発明に係る第1の方法は、配向処理後の銀層と金属層との接合法として、表面活性化接合を適用することを特徴とする(上記(c)工程)。表面活性化接合とは、上記説明のように、接合面(表面)の酸化物、吸着物を乾式エッチングにより除去し、素地(純金属)を露出させた直後に両者を接合する方法である。この方法は、表面に酸化物等の不純物が全くない状態の原子(分子)間で生じる金属原子間力に基づき接合する方法である。
【0021】
表面活性化のための乾式エッチングの具体的な手法としては、アルゴン等のイオンビームエッチング若しくは原子ビームエッチングの他、プラズマエッチングのいずれかが適用できる。この乾式エッチングは、非酸化性雰囲気で行なうことが必要であり、特に、真空下で行なうのが好ましい。
【0022】
表面活性化接合は、無加圧での接合を可能とするものであり、接合対象となる材料を重ね合わせるだけでも接合できる。但し、両材料の位置合わせ、或いは、より強固な接合のために加圧しても良い。もっとも、この場合の加圧力は、材料の変形が生じることのない程度に低圧であって、0.01〜300MPaとするのが好ましい。また、表面活性化接合は、常温での接合が可能である。従って、接合時の加工雰囲気を加熱する必要はない。尚、乾式エッチングによって、材料表面の温度上昇がみられることはあるが、これは接合のための加熱とは異なるものである。尚、この接合の際においても、非酸化性雰囲気とすることが好ましい。
【0023】
(2)拡散接合法を含む方法:
本発明に係る第2の製造方法は、以下の工程による。
(a)含有酸素濃度が30〜2000ppmの銀板を、50〜300℃、95%以上の加工率で熱間加工する工程。
(b)金属板を用意する工程。
(c)(a)工程で熱間加工された銀板及び(b)工程で用意された金属板を面接触させ、400℃以上、銀の融点以下の温度で加熱することにより、金属板と銀板とを拡散接合すると共に、銀板の少なくとも表面部分をその結晶軸のずれ角Δφが、Δφ≦9°の{100}〈001〉立方体集合組織となるように配向化処理する工程。
【0024】
この本発明に係る第2の方法では、クラッドの前に銀板の配向化を行なわないものである。即ち、(a)工程の銀板の熱間加工は、基板としての形状を制御すると共に、その後の配向化のための前処理である。但し、配向化の前処理であることから、加工率、加工温度等の好適な範囲は、上記第1の方法と同様である。また、(b)工程についても同様である。
【0025】
そして、この製造方法においては、(c)工程において、銀板と金属板とを拡散接合と銀板の配向化を同時に行うことを特徴とする。拡散接合は、加熱による接合材料間の原子拡散を利用する接合であり、低加圧下での接合が可能である。そして、本発明者等によれば、銀という金属材料に関しては、拡散接合が可能となる温度領域においては、金属板との原子拡散と同時に結晶組織の配向化がなされる。
【0026】
この拡散接合及び配向処理は、脱脂等の前処理を必要に応じて行った後、窒素ガス雰囲気等の非還元性雰囲気中で、両板を、面合わせした後、一定の圧力をかけつつ、所定時間、加熱温度400℃〜融点で加熱する。より好ましい、加熱条件は、700〜900℃、10〜30分である。また、加圧力は2軸配向の結晶組織を破壊しないように上限を設けることが好ましく、例えば0.5〜100kPaの圧力が望ましい。これにより、接合界面では原子拡散による強固な結合がなされると共に、銀板を配向組織とすることができる。
【0027】
以上説明した、2つの製造方法により、少なくとも表面部分に結晶配向組織を有する銀層と、金属層とからなるクラッド配向金属基板を製造することができる。
【0028】
ところで、上記した2つの製造方法においては、銀板の含有酸素量に制限がある。これは、十分に結晶組織が配向した銀層を得るためには、所定量以上の酸素が必要であるという本発明者等が得た知見に基づくものである。酸素含有量と配向化との関連については、その原因は明らかではないが、酸素含有量が30ppm未満の銀板については、これを如何に加工、熱処理しても完全な配向組織を得ることができない。また、200ppmを超えて酸素を含有する場合、一部の酸素が固溶しておらず材料中にピンホールなどの欠陥を形成するおそれがある等の不都合がある。そして、酸素含有量の好ましい範囲は、50〜200ppmである。尚、この銀板中の酸素は、その後の熱処理(配向化熱処理、拡散接合)の際に雰囲気中に飛散し、配向化された銀中の酸素濃度は熱処理前より低下する。また、銀板については、酸素以外の不純物は少ない方が好ましく、銀純度が99.9%以上のものが好ましい。
【0029】
そして、以上説明した酸素濃度と銀の配向性との関係から、酸素濃度を制限することで、金属板をクラッドしない銀単層の金属板について、配向性を有するものを製造することが可能である。
【0030】
また、本発明においては、銀層の表面(エピタキシャル薄膜を成長させる面)の面粗さRaが10nm以下であることが好ましいことから、銀層について、適宜の表面処理を行なうことが好ましい。この銀層表面の面粗さ調整の処理としては、電解研磨、機械研磨、化学研磨や化学機械研磨等の化学的研磨、電解砥粒研磨や電解機械研磨等の電解複合研磨のいずれかの研磨によるものが好ましく、これらを少なくとも配向化処理後の銀板(上記第2の方法の場合には接合後の銀板)について、研磨するのが好ましい。また、配向処理前の銀板の仕上げ圧延前後にも研磨を行い、配向化処理後(接合後)に再度研磨を行っても良い。
【0031】
尚、本発明係るクラッド基板においては、銀層と金属層とのうねりが小さいものが好ましいが、このうねりの制御は、銀板、金属板の圧延の際の圧延ロールを平坦なものとすることで可能である。表面活性化接合、拡散接合による接合では、無加圧或いは低加圧での接合が可能であることから、接合前の接合面がフラットとすることでそのままの状態を維持することができる。この点、圧延に際しては、仕上げ圧延において、うねりを発生させ難い超鋼製のラップロールを用いることが好ましい。また、上記のような研磨を行っても良い。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明に係るエピタキシャル薄膜形成用の基板は、配向組織を有する銀層に、金属層をクラッドしたことにより、従来の基板よりも高い強度を有する。本発明によれば、基板への超電導膜等のエピタキシャル薄膜の形成工程において、基板を破損させることなく安定的に、高品位の薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面等を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について、説明する。
【0034】
第1実施形態:ここでは表面活性化接合法を含む方法によりクラッド配向金属基板を製造した。板厚600μmのテープ状の銀板(含有酸素濃度;50ppm)を用意し、当該銀板を圧延ロールで加工率95%に設定して、150℃で熱間圧延し、板厚30μmに圧延した。この圧延後の銀板を、クロム酸―塩酸系研磨液を用いて30秒間、化学機械研磨を行った。その後、この化学機械研磨後の銀板を熱処理して結晶組織を配向化した。この熱処理は、温度800℃で、非還元性雰囲気で30分加熱することにより行った。
【0035】
次に、上記銀板にクラッドする金属板を用意した。金属板は、事前に圧延された厚さ100μmのテープ状のステンレス(SUS304)板を用意した。そして、銀板、金属板を、以下説明する表面活性化接合装置100を用いて、表面活性化接合によりクラッド化した。
【0036】
図1は、実施形態1で使用した表面活性化接合装置100の概略図を示す。表面活性化接合装置100は、真空装置であって、エッチングチャンバ22A、22Bと、真空槽1に区切られている。また、真空槽1、エッチングチャンバ22A、22Bは、それぞれ排気ポンプユニット9、25に接続されている。電極ロール6A、6Bは、その一部がエッチングチャンバ22A、22Bに突き出しており、そこでは真空シールされ配置されている。そして、エッチングチャンバ22A、22B外壁には、電極ロール6A、6Bに通電するための電極(図示せず)が設けられている。そして、各電極との間に高電圧を付与する電源部7A、7Bが設置されている。そして、真空槽1内には、乾式エッチング処理前の銀板20A、金属板20Bを巻き出す巻出しリール3A、3Bが設置されている。また、乾式エッチングされ接合された銀板20A及び金属板20Bを巻取る巻取りロール5が設置されている。
【0037】
この表面活性化接合装置100では、巻出しリール3A、3Bから巻き出された銀板20A、金属板20Bが、電極ロール6A、6Bの外周面にそれぞれ張架され、エッチングチャンバ22A、22B内で高電圧が負荷され、室内に封入されたアルゴンガス等の不活性ガスがグロー放電され、不活性ガス分子が高電圧により銀板20A、金属板20Bの表面を叩きつけエッチングする。これにより、表面の酸化物、吸着物は除去され、清浄かつ平坦な表面を得ることができる。その後、活性化された銀板20A、金属板20Bは、巻取りリール5の巻取り動作とともに接合され、クラッド配向金属基板30が製造されていく。本実施形態においては、乾式エッチングの条件を以下のとおりとした。
【0038】
・エッチング方式:アルゴンビームエッチング
・真空度:10−5Pa
(真空槽、エッチングチャンバ内はアルゴンガス雰囲気下)
・印加電圧:2kV
・エッチング時間:5分間
・クラッド時加圧力:2MPa
【0039】
以上により製造したクラッド配向金属基板を回収し、上記と同様の条件にて銀層表面の化学機械研磨を行った。その後、銀層の配向性、接合界面の状態を確認した。
【0040】
第2実施形態:ここでは、拡散接合を適用してクラッド配向金属基板を製造した。第1実施形態と同様の銀板について、同様の熱間加工、化学機械研磨を行うと共に、第1実施形態と同様のSUS板を用意した。そして、これらを拡散接合した。
【0041】
拡散接合工程(配向処理工程)は、銀板、SUS板が巻き取られた、二つの巻き出しロールから、それぞれの板材を引き出し、対向ロールで両者を重ね合わせつつ加熱した。このときの加熱温度は、800℃とし、加熱時間が3分間となるようにした。また、加圧力は1kPaとした。これにより、銀板とSUS板とは接合され、また、銀板の配向処理がなされた。
【0042】
比較例1:第1実施形態と同様の銀板について、配向化熱処理を800℃から300℃に変更し、その他の条件は第1実施形態と同じにしてクラッド配向金属基板を製造した。
【0043】
配向性の評価;以上製造したエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板について、銀層の配向性を検討した。この検討は、X線極点図解析(XPFA)により行った。図2〜図4は、各試料の(111)面のX線極点図を示すものである。図からわかるように、両実施形態で製造したエピタキシャル薄膜形成用クラッド配向金属基板の銀層は、独立した4つのピークが明瞭に現れており、良好な配向性を有することが確認された(図2、3)。そして、ずれ角Δφは、φスキャンを行い、そのピークの半値幅(FWHM)により求めたが、上記の試料の銀層のずれ角Δφは、いずれも8.0°であった。一方、比較例1(図4)では、上述のように明瞭なピークがなく良好な配向性は得られないことが確認された。
【0044】
接合界面の評価
図5は、第1実施形態に係るクラッド配向金属基板の接合界面を示す写真(倍率×5000)である。図5からわかるように、銀層と金属層との界面は略フラットであり平滑度も300nm以下であった。
【0045】
酸素含有量の検討
次に、配向化熱処理を行う際の銀板の含有酸素濃度と配向性との関係について検討した。第1実施形態における基板製造工程において、酸素濃度が10ppm、30ppmの2種類の銀板を用意し、それぞれについて第1実施形態と同様の工程にてクラッド基板を製造した。そして、それぞれの銀層表面についてX線極点図解析を行った。図6はその結果を示す。図6から、銀板中の酸素濃度10ppmの銀板においては、熱処理を行っても全く配向化が生じない複合組織のままであることがわかる。そして、配向化は、酸素濃度を30ppmとなった段階で生じており、少なくとも30ppm以上の酸素濃度が必要であること、より好ましくは第1実施形態のように50ppm以上の酸素濃度が必要であることがわかる(図2)。尚、図6の酸素濃度30ppmの極点図において、中央部分の波形はバックグラウンドである。従って、このバックグラウンドを除してみれば、この試料において十分な配向性が確保されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態における表面活性化接合装置の概略図。
【図2】第1実施形態に係るクラッド配向金属基板の銀層表面のX線極点図。
【図3】第2実施形態に係るクラッド配向金属基板の銀層表面のX線極点図。
【図4】比較例1に係るクラッド配向金属基板の銀層表面のX線極点図。
【図5】第1実施形態に係るクラッド配向金属基板の銀層と金属層との接合界面を示す断面写真。
【図6】銀板の酸素濃度を10ppm、30ppmとしたときの銀層表面のX線極点図。
【符号の説明】
【0047】
1 真空槽
3A、3B 巻出しリール
5 巻き取りリール
6A、6B 電極ロール
7A、7B 電源部
9、25 排気ポンプユニット
20A 銀板
20B 金属板
22A、22B エッチングチャンバ
100 表面活性化接合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と、前記金属層の少なくとも一方の面に接合された銀層とからなるエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板であって、
前記銀層は、結晶軸のずれ角Δφが、Δφ≦9°である{100}〈001〉立方体集合組織を有するエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板。
【請求項2】
金属層と銀層との接合面は、略フラットであり、うねりが1〜500nmである請求項1に記載のエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板。
【請求項3】
銀層の表面の面粗さRaが、10nm以下である請求項1又は2に記載のエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板。
【請求項4】
金属層は、ステンレス、ニッケル合金である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエピタキシャル薄膜形成用クラッド配向金属基板。
【請求項5】
エピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板の製造方法であって、下記工程を含む方法。
(a)含有酸素濃度が30〜200ppmの銀板を、50〜300℃、95%以上の加工率で熱間加工し、前記熱間加工で得られた銀板を、非還元性雰囲気下で熱処理することで、少なくとも表面部分で、結晶軸のずれ角Δφが、Δφ≦9°となる{100}〈001〉立方体集合組織とする配向化熱処理工程。
(b)金属板を用意する工程。
(c)前記配向化熱処理工程で得られた銀板及び前記金属板の接合面を非酸化性雰囲気下で乾式エッチングを行い、接合面の酸化物、吸着物を除去した後、銀板と金属板とを無加圧又は加圧下で接合する表面活性化接合工程。
【請求項6】
(a)工程の配向化熱処理の処理温度は、400℃以上、銀の融点以下である請求項5記載のエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板の製造方法。
【請求項7】
(c)工程の表面活性化接合工程の乾式エッチングは、イオンビームエッチング、原子ビームエッチング、プラズマエッチングのいずれかによるものである請求項5又は6に記載のエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板の製造方法。
【請求項8】
(c)工程の表面活性化接合工程における、乾式エッチング後の銀板と金属板との接合の際の加圧力は、0.01〜300MPaである請求項5〜7のいずれか1項に記載のエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板の製造方法。
【請求項9】
少なくとも配向化熱処理後の銀板表面について研磨を行い、面粗さRaを10nm以下とする工程を含む請求項5〜8のいずれか1項に記載のエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板の製造方法。
【請求項10】
エピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板の製造方法であって、下記工程を含む方法。
(a)含有酸素濃度が30〜2000ppmの銀板を、50〜300℃、95%以上の加工率で熱間加工する工程。
(b)金属板を用意する工程。
(c)(a)工程で熱間加工された銀板及び(b)工程で用意された金属板を面接触させ、400℃以上、銀の融点以下の温度で加熱することにより、金属板と銀板とを拡散接合すると共に、銀板の少なくとも表面部分をその結晶軸のずれ角Δφが、Δφ≦9°の{100}〈001〉立方体集合組織となるように配向化処理する工程。
【請求項11】
(c)工程の拡散接合及び配向化処理を、非還元性雰囲気下で行われる請求項10に記載のエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板の製造工程。
【請求項12】
(c)工程の加熱を、5〜120分間行う請求項10又は11に記載のエピタキシャル薄膜形成用クラッド配向金属基板の製造工程。
【請求項13】
少なくとも(c)工程の接合後の銀板表面について研磨を行い、面粗さRaを10nm以下とする工程を含む請求項10〜12のいずれか1項に記載のエピタキシャル薄膜形成用のクラッド配向金属基板の製造方法。
【請求項14】
含有酸素濃度が30〜200ppmの銀板を、50〜300℃、95%以上の加工率で熱間加工し、これを非還元性雰囲気下で熱処理することにより、少なくとも表面部分の結晶軸のずれ角Δφが、Δφ≦9°である{100}〈001〉立方体集合組織とする銀の結晶組織の配向化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−266687(P2008−266687A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108607(P2007−108607)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】