説明

エポキシ樹脂、これを含むエポキシ樹脂組成物、塗料組成物、及びこれを用いた塗膜の形成方法

エポキシ樹脂、これを含むエポキシ樹脂組成物、塗料組成物、及びこれを用いた塗膜の形成方法が開示される。
低い粘度を有し、かつ、優れた耐水性を有するエポキシ樹脂、これを含むエポキシ樹脂組成物、塗料組成物、及びこれを使用した塗膜の形成方法の発明において、エポキシ樹脂組成物が、カルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドールからなる群から選択された少なくとも1つのカシューナッツ殻抽出物とハロアルキレンオキシドとを反応させて製造されたエポキシ樹脂を含んでいることを特徴とする。このようなエポキシ樹脂組成物を含む塗料組成物は優れた作業性及び低温硬化性を有し、向上された耐水性を有する塗膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、これを含むエポキシ樹脂組成物、塗料組成物、及びこれを用いた塗膜の形成方法に関する。より詳細には、低い粘度を有しながら優れた耐水性を有するエポキシ樹脂、これを含むエポキシ樹脂組成物、塗料組成物、及びこれを用いた塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エポキシ樹脂は他の種類の樹脂に対して、引張強度、機械的強度、接着性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐酸性、耐化学性等の物性に優れたものと知られている。これにより、前記特性を有するエポキシ樹脂は船舶、土木、及び建築用樹脂、電気、電子材料等の幅広い産業界で広く使用されている。又、エポキシ樹脂は、鉄板の腐食を防止するための内側、外側、及び各種腐食性素材の防食剤であって、その需要が増大されている。
【0003】
例えば、船舶及び重防食に用いられるエポキシ樹脂は、乾燥性と耐水性等の物性に優れる必要がある。これにより、液体状態のエポキシ樹脂を使用することよりは、分子量が約1000以上で、エポキシ当量約500g/eq以上である固体状態のエポキシ樹脂を各種溶剤に溶解させて、必要な粘度に調節されたエポキシ樹脂組成物が使用されている。
【0004】
エポキシ樹脂組成物の粘度を低くする方法には、一般的にエポキシ化合物にグリシジルエーテル系反応性エポキシ希釈剤やモルタル、無水タール、松根油(pine oil)、ハイゾル(Hi−Sol)、パナゾル(Panasol)のような非揮発性の非反応性希釈剤を混合する方法が知られている。しかし、このような希釈形エポキシ樹脂は、硬化速度が非常に遅くなるのみならず、硬化剤との架橋密度が低いため、耐水性が顕著に劣化されるという問題がある。これにより、硬化性及び耐水性に優れつつも粘度が低いエポキシ樹脂及びこれを含むエポキシ樹脂組成物の開発が要求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、硬化性及び耐水性に優れ、粘度が低いエポキシ樹脂を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、前述したエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の更に他の目的は、前述したエポキシ樹脂組成物を含む塗料組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の更に他の目的は、前述した塗料組成物を利用して塗膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの実施の形態によると、エポキシ樹脂はカシューナッツ殻抽出物(CNSL)とハロアルキレンオキシドとの反応生成物を含んでいる。このカシューナッツ殻抽出物(CNSL)は、カルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドールから選択された少なくとも1つを含んでおり、そして、このエポキシ樹脂は約25℃で約500乃至約3000cps範囲の粘度を有している。
【0010】
本発明のもう一つの実施の形態によると、エポキシ樹脂組成物は、カルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドールから選択された少なくとも1つのカシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されたエポキシ樹脂、及び、ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマー及びトリグリシジルエーテル化合物からなる群から選択された少なくとも1つのエポキシ化合物を含んでいる。
【0011】
本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂の約10乃至約80重量%及び前記エポキシ化合物の約20乃至約90重量%を含んでいる。又、前記エポキシ樹脂組成物は約25℃で約500乃至約3000cps範囲の粘度を有し、約195乃至約300g/eqのエポキシ当量を有している。
【0012】
本発明の更に他の実施の形態によると、塗料組成物は、カルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドールからなる群から選択された少なくとも1つを含むカシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されるエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物の約50乃至約80重量%、及び、硬化剤の約20乃至約50重量%を含んでいる。
【0013】
本発明の実施の形態によると、前記塗料組成物は、前記エポキシ樹脂と共にビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマー、トリグリシジルエーテル化合物又はこれらの混合物のようなエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂組成物を含んでいる。又、前記塗料組成物は、硬化促進剤、無機充填剤、粘度調節剤等のような添加剤を更に含むことができる。
【0014】
本発明の更に他の実施の形態によると、対象体上に塗膜を形成する塗膜の形成方法がある。この方法でエポキシ樹脂組成物を約50乃至約80重量%、及び、硬化剤を約20乃至約50重量%含む塗料組成物を対象対に塗布して塗膜を形成する。エポキシ樹脂組成物はカルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドールからなる群から選択された少なくとも1つのカシューナッツ殻抽出物とハロアルキレンオキシドとを反応させて製造されるエポキシ樹脂を含んでいる。
【0015】
本発明によると、前記エポキシ樹脂組成物は、既存の高粘度エポキシ樹脂に対し相対的に粘度が低い。このため、このエポキシ樹脂組成物は粘度低下剤としての溶剤を使用しなくても優れた物性を有する塗膜を形成するために使用することができる。このエポキシ樹脂組成物は、その低い粘度ゆえに、塗膜形成時に作業性が非常に優れている。又、前記エポキシ樹脂組成物は、粘度が低い上に優れた耐水性及び低温硬化性を有しているので、多様な産業分野でコーティング剤として有用に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に述べる、本発明の実施の形態には、ここに開示した発明の本質を外れることなく、多くの異なる分野において様々な方法があること、それ故、本発明の目的が以下に具体的に示すものに限定されるものでないことを理解されるべきである。むしろ、これらの具体例はこの開示に限定されるものではないが、全てを開示して技術の向上のために発明の本質を完全に伝えることを目的に提供された。
【0017】
エポキシ樹脂
本発明の実施の形態によるエポキシ樹脂は、カシューナッツ殻抽出物(Cashew Nut Shell Liquid;CNSL)をハロアルキレンオキシドと反応させ製造される。カシューナッツ殻抽出物としてカルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドール又はその混合物を例示することができる。
【0018】
前記カシューナッツ殻抽出物は、下記構造式で表示される。具体的に、下記構造式1はカルドールを、下記構造式2はカルダノールを、下記構造式3はアナカルド酸を、下記構造式4はアルキルカルドールを示す。
【化1】

前記構造式1乃至4において、R、R、R、及びRは、それぞれ独立的にC1531−nのアルキル基を示し、nは0、2、4又は6の定数を示し、RはC〜Cの低級アルキル基を示す。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂の製造に用いられるハロアルキレンオキシドの例としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、1−クロロ−3,4−エポキシブタン、1−ブロモ−3,4−エポキシブタン、1−ヨード−3,4−エポキシブタン、1−クロロ−4,5−エポキシペンタン、1−ブロモ−4,5−エポキシペンタン、1−ヨード−4,5−エポキシペンタン、1−クロロ−5,6−エポキシヘキサン、1−ブロモ−5,6−エポキシヘキサン、又は1−ヨード−5,6−エポキシヘキサン等が挙げられる。これらは単独又は混合して使用することができる。
【0020】
本発明の実施の形態によると、前記カシューナッツ殻抽出物と前記ハロアルキレンオキシドを約1:1乃至約1:15のモル比で反応させてエポキシ樹脂を製造することができる。前記カシューナッツ殻抽出物と前記ハロアルキレンオキシドの反応モル比が約1:1未満である場合、得られるエポキシ樹脂の粘度が高くなって、充分な作業性を有するエポキシ樹脂を得ることが難しくなることがある。一方、前記カシューナッツ殻抽出物と前記ハロアルキレンオキシドの反応モル比が約1:15を超える場合、エポキシ樹脂の粘度は十分低くなるが、反応収率が低下し、経済性に劣ることがある。
【0021】
本発明の実施の形態によると、前記カシューナッツ殻抽出物と前記ハロアルキレンオキシドの反応は、約130℃以下の温度で行うことができる。反応温度が約130℃を超える場合、望まない副反応によってエポキシ樹脂の純度が劣化し、粘度が過度に増加することがある。更に、還流されるハロゲンオキシドの損失が大きくなるので、エポキシ樹脂の収率が低下することがある。前記カシューナッツ殻抽出物と前記ハロアルキレンオキシドの反応は約130℃以下、例えば、約100℃乃至約110℃の温度で行うことができる。
【0022】
本発明の実施の形態によると、前記カシューナッツ殻抽出物と前記ハロアルキレンオキシドの反応には触媒を使用することができる。エポキシ樹脂の製造に使用することができる触媒の具体的な例としては、アンモニウム塩化合物、ホウ素酸塩化合物、ホスホニウム化合物、イミダゾール化合物、3級アミン化合物、アルカリ金属水酸化物等が挙げられる。これらは単独又は混合して使用することができる。
【0023】
例えば、アルカリ金属水酸化物を触媒として使用する場合、アルカリ金属水酸化物と水からなる水溶液を反応に使用することができる。具体的に、カシューナッツ殻抽出物とハロアルキレンオキシドの混合物にアルカリ金属水酸化物の水溶液を連続的に添加しながら還流して反応を行うことができる。反応液の還流の間に発生した水は除去することができ、ハロアルキレンオキシドは回収され反応に再利用することができる。アルカリ金属水酸化物の水溶液を触媒として使用する場合、アルコール、エステルのような極性溶媒を添加して反応の進行を円滑にすることができる。
【0024】
本発明の実施の形態によると、エポキシ樹脂において、約25℃での粘度が約500cpsから約3000cpsの範囲にあることができる。エポキシ樹脂の約25℃での粘度が約500cps未満である場合、低温硬化性が悪くなって乾燥時間が長くかかり、耐水性、強度のような塗膜物性が低下することがある。一方、エポキシ樹脂の粘度が約3000cpsを超える場合、塗膜の作業性が悪くなり、均一な厚みを有する塗膜を形成しにくいことがある。従って、前記エポキシ樹脂は約25℃で約500乃至約3000cpsの範囲の粘度を有し、好ましくは、約500乃至約2500cpsの範囲の粘度を有することが可能である。
【0025】
本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂は、既存の高粘度エポキシ樹脂に対して相対的に粘度が低いので、溶剤を使用しなくても優れた物性を有する塗膜を形成することができ、塗膜形成時に作業性が非常に優れている。又、前記エポキシ樹脂は、粘度が低い上に、優れた耐水性及び低温硬化性を有しているので、多様な産業分野でコーティング剤として有用に使用することができる。
【0026】
エポキシ樹脂組成物
本発明の実施の形態によると、エポキシ樹脂組成物は、前述したカシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されたエポキシ樹脂と共に、ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマー、トリグリシジルエーテル化合物又はこれらの混合物のようなエポキシ化合物を含んでいる。カシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されるエポキシ樹脂については前述したことと同様であり、重複を避けるためにこれ以上の説明は省略する。
【0027】
本発明の実施の形態によると、エポキシ樹脂組成物が前記エポキシ樹脂を約10重量%未満含む場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなって、塗膜形成時に、作業性と塗膜の均一性が低下することがある。一方、前記エポキシ樹脂の含量が約80重量%を超える場合、硬化反応性が低下すことがある。従って、本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物は約10乃至約80重量%の範囲の前記エポキシ樹脂を含むことが可能である。
【0028】
本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物は、ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマー、トリグリシジルエーテル化合物、又はこれらの混合物のようなエポキシ化合物を含んでいる。
【0029】
前記エポキシ樹脂組成物に使用することができるビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマーの例としては、重量平均分子量が約300乃至約1000であるビスフェノールAジグリシジルエーテルオリゴマー、重量平均分子量が約300乃至約1000であるビスフェノールFジグリシジルエーテルオリゴマー、重量平均分子量が約300乃至約1000であるビスフェノールAFジグリシジルエーテルオリゴマー等を挙げることができる。これらは単独又は混合して使用することができる。
【0030】
前記エポキシ樹脂組成物に使用することができるトリグリシジルエーテル化合物の例としては、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリフェニロールメタントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは単独又は混合して使用することができる。
【0031】
本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物が前記エポキシ化合物を約20重量%未満含む場合、エポキシ樹脂組成物の硬化反応性が低下することがある。一方、前記エポキシ化合物の含量が約90重量%を超える場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなって塗膜形成時に作業性と塗膜の均一性が低下することがある。従って、本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物は約20乃至約90重量%の前記エポキシ化合物を含むことが可能である。
【0032】
本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物において、約25℃での粘度が約500cps未満である場合、低温硬化性が悪くなって乾燥時間が長くかかり、耐水性、強度のような塗膜物性が低下することがある。一方、前記エポキシ樹脂組成物の粘度が約3000cpsを超える場合、塗膜の作業性が低下し、均一な厚みを有する塗膜を形成しにくくなることがある。従って、本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物は、約25℃で約500乃至約3000cpsの範囲の粘度を有し、好ましくは約500乃至約2500cpsの範囲の粘度を有することが可能である。
【0033】
本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物において、エポキシ当量が約195g/eq未満である場合、塗膜形成時に硬化反応性が低下することがある。一方、前記エポキシ樹脂組成物のエポキシ当量が約300g/eqを超過する場合、組成物の粘度が高くなって塗料使用時に作業性が低下することがある。従って、本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物は約195乃至約300g/eqのエポキシ当量を有することが可能である。
【0034】
本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物は、カシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されたエポキシ樹脂、並びに、ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマー及びトリグリシジルエーテル化合物を含むことがある。この場合、前記エポキシ樹脂組成物は前記エポキシ樹脂を約10乃至約80重量%、前記ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマーを約15乃至約50重量%及びトリグリシジルエーテル化合物を約5乃至約40重量%含むことが可能である。
【0035】
本発明の実施の形態によると、前記エポキシ樹脂組成物は、既存の高粘度エポキシ樹脂に対して相対的に粘度が低いエポキシ樹脂を含んでいるので、粘度低下剤としての溶剤を使用しなくても優れた物性を有する塗膜を形成することができる。また、この低粘度のために、塗膜形成時の作業性にも非常に優れている。又、前記エポキシ樹脂組成物は粘度が低い上に、優れた耐水性及び低温硬化性を有しているので、多様な産業分野でコーティング剤として有用に使用することができる。
【0036】
塗料組成物
本発明の実施の形態によると、塗料組成物は、前記カシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されたエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物と硬化剤を含んでいる。
【0037】
本発明のある実施の形態によると、前記塗料組成物に含まれるエポキシ樹脂組成物は、カシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されたエポキシ樹脂のみを含むことができる。又、本発明の他の実施の形態によると、エポキシ樹脂組成物は、カシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されたエポキシ樹脂と共に他のエポキシ化合物を含むことができる。前記エポキシ化合物の例としては、ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマー、トリグリシジルエーテル化合物又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0038】
本発明の形態によると、前記塗料組成物に含まれるエポキシ樹脂組成物の含量が約50重要%未満である場合、組成物の硬化速度が非常に速いので、硬化反応を制御するのが難しくなることがある。塗膜の物理的、化学的物性も低下することになる。一方、エポキシ樹脂組成物の含量が約80重量%を超える場合、硬化反応性が低く、乾燥速度が遅くなることがある。従って、本発明の一実施例による塗料組成物は約50乃至約80重量%のエポキシ樹脂組成物を含むことが可能である。
【0039】
前記塗料組成物に使用することができる硬化剤の例としては、アミン、酸無水物、アミド等が挙げられる。硬化剤の具体的な例としては、フェナルカミン、ジシアンジアミド、フタル酸無水物、メチルナド酸無水物、イミダゾール、BFアミン錯体、キニジン誘導体等が挙げられる。これらは単独又は混合して使用することができる。
【0040】
本発明の実施の形態によると、前記塗料組成物に含まれる硬化剤の含量が約20重量%未満である場合、硬化反応性が低く乾燥速度が遅くなることがある。一方、硬化剤の含量が約50重量%を超える場合、組成物の硬化速度が非常に速いため、硬化反応を制御するのが難しく、物理的、化学的物性が低下することがある。従って、本発明の実施の形態によると、前記塗料組成物は約20乃至約50重量%の硬化剤を含むことが可能である。
【0041】
本発明の実施の形態によると、前記塗料組成物は、その用途及び物性を考慮して硬化促進剤、無機充填剤、粘度調節剤等のような添加剤を更に含むことができる。前記塗料組成物に使用することができる硬化促進剤の例としては、イミダゾール、3級アミン、ホスフィン化合物等が挙げられる。例えば、前記硬化促進剤は、エポキシ樹脂組成物約100重量部に対して約0.1乃至約5重量部を使用することが可能である。
【0042】
本発明の実施の形態によると、前記塗料組成物において、約25℃での粘度が約500cps未満である場合、低温硬化性が悪くなって乾燥時間が長くかかり、耐水性、強度のような塗膜物性が低下することがある。一方、塗料組成物の粘度が約3000cpsを超える場合、塗膜の作業性が悪くなり、均一の厚みを有する塗膜を形成することが難しくなることがある。従って、本発明の実施の形態によると、塗料組成物は約25℃で約500乃至約3000cps範囲の粘度を有し、好ましくは約500乃至約2500cpsの粘度を有することが可能である。
【0043】
本発明の実施の形態によると、前記塗料組成物は、既存の高粘度エポキシ樹脂に対して相対的に粘度が低いエポキシ樹脂を含んでいるので、粘度低下剤としての溶剤を使用しなくても優れた物性を有する塗膜を形成することができる。この塗料組成物は低粘度故に、塗膜形成時の作業性にも非常に優れている。又、前記塗料組成物は、優れた耐水性及び低温硬化性を有し、多様な産業分野でコーティング剤として有用に使用することができる。
【0044】
塗膜の形成方法
本発明の実施の形態によると、塗膜の形成方法では、前述した塗料組成物を対象体上に塗布して塗膜を形成する。
【0045】
具体的に、対象体上にカシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されたエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物と硬化剤を含む塗料組成物を塗布して塗膜を形成する。塗膜の形成に使用することができる前記塗料組成物については前述したことと同様であり、重複を避けるためにこの以上の具体的な説明は省略する。
【0046】
塗膜が形成される対象体は、形状や素材に限定されない。耐水性が要求される対象体ならいずれも可能である。例えば、腐食防止が要求される各種鉄板、船舶構造物、建築資材、電気材料、電子材料等が挙げられる。
【0047】
前述した塗料組成物を対象体上に塗布して塗膜を形成した後、常温で放置して硬化させる。これにより、望む物理的、化学的物性を有する塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、下記実施例は本発明を例示するためのもので、本発明は下記実施例によって限定されず、多様に修正及び変更することができる。
【0049】
エポキシ樹脂の製造
<合成例1>
容量が2Lである4口フラスコに温度計、凝縮器、攪拌器、及び加熱器を付着した。カルダノール約600重量部、エピクロロヒドリン約740重量部、及び触媒として使用されるトリエチルアンモニウムクロライド約500ppmを前記フラスコに入れた後、窒素雰囲気下で温度を約80℃に調節した。ここに、約80℃に昇温した50%の水酸化ナトリウム水溶液約90重量部を約120分にかけて投入した。更に、3時間反応させた。反応が完了された後、未反応物として残っているエピクロロヒドリンを回転蒸発器を使用して減圧条件下で加熱しながら除去した。反応生成物を約200重量部のトルエンに溶解し、中性になるまで繰り返し水で洗浄した。この混合物より水溶性層を分離・除去して、約680重量部のエポキシ樹脂を得た。得られたエポキシ樹脂は、室温で液状であり、エポキシ当量が約420g/eqで、Brookfield LVII粘度計で測定した粘度は約25℃で約30cpsであった。
【0050】
<実施例1>
容量が4Lである4口フラスコに温度計、凝縮器、攪拌器、及び加熱器を付着した。カルドール約1200重量部、エピクロロヒドリン約2000重量部、及び触媒として使用されるトリエチルアンモニウムクロライド約500ppmを前記フラスコに投入した後、窒素雰囲気下で温度を約80℃に調節した。ここに、約80℃に昇温した50%の水酸化ナトリウム水溶液約300重量部を約120分にかけて滴下した。更に3時間反応させた。反応完了後、残っている未反応のエピクロロヒドリンを回転蒸発器を利用して減圧条件下で加熱しながら除去した。その後、反応生成物を約500重量部のトルエンに溶解し、中性になるまで繰り返し水で洗浄した。水溶性層を分離・除去してエポキシ樹脂約1650重量部を得た。得られたエポキシ樹脂は、室温で液状でありエポキシ当量が約250g/eqで、Brookfield LVII粘度計で測定した粘度が約25℃で約1050cpsであった。
【0051】
エポキシ樹脂組成物の製造
<実施例2>
合成例1で製造したエポキシ樹脂約15重量部、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル約10重量部、エポキシ当量が約190g/eqで、重量平均分子量が約380であるビスフェノールA型エポキシ樹脂約75重量部を約30分間、常温で均一に混合してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物は、室温で液状であり、エポキシ当量が約200g/eq、Brookfield LVII粘度計で測定した粘度が約25℃で約1500cpsであった。
【0052】
<実施例3>
合成例1で製造したエポキシ樹脂約10重量部、実施例1で製造したエポキシ樹脂約60重量部、エポキシ当量が約190g/eqで重量平均分子量が約380であるビスフェノールA型エポキシ樹脂約30重量部を約30分間常温で均一に混合してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物は液状であり、エポキシ当量が約240g/eq、Brookfield LVII粘度計で測定した粘度が約25℃で約950cpsであった。
【0053】
<比較例1>
エポキシ当量が約190g/eqで、粘度が約12000cpsである市販のエポキシ樹脂であるYD−128(商品名、Kukdo化学、韓国)を準備した。
【0054】
塗料組成物の製造
<実施例4>
フェナルカミン(Phenalkamine)硬化剤のうちの1つで、粘度が約1500乃至約3000cpsで、活性水素当量(AHEW)が約125で、アミン価が約310乃至約345mgKOH/gであるCardolite−NC−541 LV (商品名、Cardolite社、米国)約50重量部と実施例1で製造されたエポキシ樹脂約100重量部を混合して塗料組成物を製造した。
【0055】
<実施例5及び実施例6>
実施例1で製造されたエポキシ樹脂の代わりに、それぞれ実施例2及び3で製造されたエポキシ樹脂組成物を使用することと、硬化剤との混合比を除いては、実施例4と実質的に同じ方法で塗料組成物を製造した。エポキシ樹脂組成物(又はエポキシ樹脂)と硬化剤の混合比を変化させた。混合比はエポキシ樹脂組成物の重量(A)/硬化剤の重量(B)を意味し、これを下記表1に示す。
【0056】
<比較例2及び3>
それぞれ合成例1及び比較例1で製造されたエポキシ樹脂を使用することと硬化剤との混合比を除いては、実施例4と実質的に同じ方法で塗料組成物を製造した。
【0057】
【表1】

【0058】
粘度評価
前記実施例の方法で製造されたエポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、及び塗料組成物の粘度を測定して下記表2に示す。粘度はBrookfield LVII粘度計を使用し、約25℃で測定した。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示すとおり、本発明のエポキシ樹脂組成物及び塗料組成物は、それぞれ約25℃で約3000cps以下の粘度を有している。このような組成物の粘度は既存に使用されるエポキシ樹脂組成物に対して低い粘度を有している。これによって、本発明のエポキシ樹脂組成物と塗料組成物は、別途の溶剤や希釈剤を使用しなくても塗膜を形成することができる。更に、本発明のエポキシ樹脂組成物と塗料組成物は改善された塗布性を有する塗膜を形成することができる。
【0061】
低温硬化性評価
前記実施例4乃至6及び比較例2及び3で製造された塗料組成物に対して約5℃での低温硬化性を評価した。それぞれの塗料組成物を使用して鉄板に約300μmの厚みを有する塗膜を形成した後、英国のSheen社のBK Drying Recorder機器(Model BK3)を使用して指触乾燥時間を測定した。評価結果を下記表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示したとおり、本発明の塗料組成物は指触乾燥時間が約15時間以内であった。すなわち、本発明の塗料組成物は優れた自然乾燥特性及び低温硬化性を有することが確認された。
【0064】
耐水性評価
前記実施例4乃至6及び比較例2及び3で製造された塗料組成物に対して硬化塗膜の促進耐水性を評価した。
【0065】
7×15cmの鉄板に前記実施例4乃至6及び比較例2及び3で製造されたエポキシ樹脂組成物をそれぞれ塗布して約300μmの厚みを有する塗膜を形成した後、約7日間常温で乾燥させて試片を製造した。前記試片を浸透圧試験機の低温槽及び高温槽の間に隔壁として設置した。この場合、高温と低温の温度差による浸透圧現象に速く塗膜内に水が浸透するので、塗膜にブリスターが形成されるか、更に進行されると、鉄板に腐食が発生される。高温槽は約50℃の温度に維持し、低温槽は約30℃の温度に維持した。
【0066】
耐水性の評価は、前記のような条件で約100時間放置した後、塗膜に発生されたブリスターの個数によって評価した。評価結果を下記表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
表4を参照すると、比較例3で製造された塗料組成物は約100個以上のブリスターが発生したが、本発明の塗料組成物は約8個以下の少ない数のブリスターの発生であった。これから本発明の塗料組成物は、約3000cps以下の低い粘度を有しながらも優れた耐水性を有することがわかる
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の実施の形態によると、本発明のエポキシ樹脂組成物は、向上された低温硬化性及び耐水性を有している。又、本発明によるエポキシ樹脂組成物は、既存の高粘度エポキシ樹脂に対して相対的に粘度が低いので、溶剤を使用しなくても優れた物性を有する塗膜を形成することができ、塗膜形成時に作業性が非常に優れている。従って、本発明のエポキシ樹脂組成物は改質剤、織物、紙、自動車、スポーツ用品、材木、建築、船舶、造船などの各種産業用コーティング剤等に有用に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドールからなる群から選択された少なくとも1つを含むカシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されるエポキシ樹脂と、
ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマー及びトリグリシジルエーテル化合物からなる群から選択された少なくとも1つのエポキシ化合物と、を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂を約10乃至約80重量%及び前記エポキシ化合物を約20乃至約90重量%含むことを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂を約10乃至約80重量%、前記ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマーを約15乃至約50重量%及びトリグリシジルエーテル化合物を約5乃至約40重量%含むことを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、前記カシューナッツ殻抽出物と前記ハロアルキレンオキシドを約1:1乃至約1:15のモル比で反応させて製造されることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマーが、重量平均分子量が約300乃至約1000であるビスフェノールAジグリシジルエーテルオリゴマー、重量平均分子量が約300乃至約1000であるビスフェノールFジグリシジルエーテルオリゴマー、及び重量平均分子量が約300乃至約1000であるビスフェノールAFジグリシジルエーテルオリゴマーからなる群から選択された少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記トリグリシジルエーテル化合物が、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリフェニロールメタントリグリシジルエーテル、及びトリメチロールエタントリグリシジルエーテルからなる群から選択された少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂組成物が、約25℃で約500乃至約3000cps範囲の粘度を有することを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂組成物が、約195乃至約300g/eqのエポキシ当量を有することを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
カルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドールからなる群から選択された少なくとも1つを含むカシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造された、約25℃で約500乃至約3000cps範囲の粘度を有することを特徴とするエポキシ樹脂。
【請求項10】
カルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドールからなる群から選択された少なくとも1つを含むカシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されるエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物の約50乃至約80重量%と、
硬化剤の約20乃至約50重量%を含むことを特徴とする塗料組成物。
【請求項11】
前記エポキシ樹脂組成物が、ビスフェノールジグリシジルエーテルオリゴマー及びトリグリシジルエーテル化合物からなる群から選択された少なくとも1つのエポキシ化合物を更に含むことを特徴とする請求項10記載の塗料組成物。
【請求項12】
前記塗料組成物が、約25℃で約500乃至約3000cps範囲の粘度を有することを特徴とする請求項10記載の塗料組成物。
【請求項13】
前記塗料組成物が、硬化促進剤、無機充填剤、及び粘度調節剤からなる群から選択された少なくとも1つの添加剤を更に含むことを特徴とする請求項10記載の塗料組成物。
【請求項14】
対象体上にカルドール、カルダノール、アナカルド酸、及びアルキルカルドールからなる群から選択された少なくとも1つを含むカシューナッツ殻抽出物をハロアルキレンオキシドと反応させて製造されたエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物の約50乃至約80重量%、及び硬化剤の約20乃至約50重量%を含む塗料組成物を塗布して塗膜を形成する段階を含む塗膜の形成方法。

【公表番号】特表2009−540046(P2009−540046A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514217(P2009−514217)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006871
【国際公開番号】WO2008/078967
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(508362778)ディピアイ ホールディングズ カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】