説明

エポキシ樹脂コンポジット

【課題】本発明は弾性率だけでなく、樹脂成形体本来の強度も向上した微細セルロース繊維を含有するエポキシ樹脂コンポジットを提供する。
【解決手段】本発明は、天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を下記式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物で処理して得られる微細修飾セルロース繊維0.01〜25質量部と、エポキシ樹脂100質量部からなるエポキシ樹脂コンポジットを提供する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、技術の進展に伴い、使用される用途に応じて樹脂に対してより高度な特性が要求されるようになってきた。このような要求特性を満たす技術の一つとして、樹脂に層状化合物、ナノフィラーをナノスケールで分散させた組成物、所謂ナノコンポジットが最近注目されている。ナノコンポジットを形成することにより、高耐熱化、高弾性化、難燃化、ガスバリア性能の向上等、様々な特性の向上が実現している(非特許文献1)。ナノコンポジットを形成するためには、層状化合物をナノスケールで分散させる必要があり、様々な方法が試みられている。
【0002】
ナノフィラーとしてはカーボンナノファイバーなどの繊維状ファイバー、層状珪酸塩などの層状化合物を用いた材料開発が盛んに行われている。特に生物由来のフィラーとしてミクロフィブリル化セルロースは軽くて強度が高く、さらには生分解性も高いためパソコン、携帯電話等の家電製品の筐体、文房具等の事務機器、スポーツ用品、輸送機器、建築材料など幅広い分野への応用が期待されている。このようなミクロフィブリル化セルロースの機械的特性を、既に幅広く利用されている樹脂の分野に活用することが試みられている。例えば、樹脂の物性、機能等の向上、新たな物性、機能等の付与を目的として、樹脂にミクロフィブリル化セルロースを混合、複合等することが試みられている。特に、環境負荷の観点から生分解性樹脂が注目されており、この生分解性樹脂とミクロフィブリル化セルロースを混合、複合することが試みられている。
【0003】
またミクロフィブリル化セルロースは、セルロース系繊維をリファイナー、ホモジナイザー等により磨砕ないし叩解することにより製造できることが知られている(例えば特許文献1参照)。しかしこのようなプロセスではエネルギーコストが高く、かつミクロフィブリルセルロースが凝集しやすいといった問題があった。さらにミクロフィブリル化セルロースを樹脂中に分散させることが非常に困難であり、均一な複合樹脂を得ることが難しかった。
【0004】
さらに汎用的に入手可能な植物系の精製セルロース(木材パルプやリンターパルプ等)を元のミクロフィブリルまでダウンサイジングする技術として、特許文献2には、高圧ホモジナイザーと呼ばれる、極めて高い圧力でフィブリル状物質を高度に微細化できる装置を用いることによりセルロースのナノファイバーが得られることが開示されている。しかしながら、該方法では、高圧ホモジナイザーによる処理時に多大なエネルギーを要し、コスト的に不利であると同時に、得られる微細化繊維の繊維径にも分布が存在し、一般的な処理条件下では微細化の程度も不完全であり、1μm以上の太い繊維も若干残ることが多い。
【0005】
一方特許文献3においては天然セルロース原料を2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(以下TEMPOと略称することがある)触媒にて酸化および精製した後、水分散体とし、該分散体中へ比較的弱い分散力を加える事によって得られる繊維径が数nmから数10nmの微細セルロース繊維の分散体が開示されており、
この繊維は水中において良分散したナノファイバーで、かつ天然セルロースが有するセルロースI型結晶構造が通常の再生セルロースでは維持されないのに対して、上記の微細セルロース繊維では維持されている事が報告されている。従って上記の微細セルロース繊維は良好な弾性率、強度を有しているものと考えられている。
【0006】
一方、エポキシ樹脂はプリント基板の他、軽量・高強度のカーボンファイバーやアラミド繊維等の接着マトリックスとしてエポキシ樹脂が重要な役割を果たしている。またガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸させたコンポジット素材も知られている。しかし微細セルロースがエポキシ樹脂に良好な状態で分散されたエポキシ樹脂コンポジットについては今まで報告されていない。
【0007】
【特許文献1】特公昭50−38720号公報
【特許文献2】特開昭56−100801号公報
【特許文献3】特開2008−1728公報
【非特許文献1】中条澄著、「ナノコンポジットの世界」、第1版、工業調査会、2000年8月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は弾性率だけでなく、樹脂成形体本来の強度も向上した微細セルロース繊維を含有するエポキシ樹脂コンポジットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、従来の微細セルロース繊維は親水性ファイバーであるため、樹脂に添加すると凝集しやすく、また微細セルロースと樹脂との界面強度が弱いなどのため良好なコンポジットが得られないという問題点があり、そしてこの問題点は、有機オニウム化合物で微細セルロース繊維を処理して得られる微細セルロース繊維誘導体をコンポジットに用いることにより、解決されることを見出し本発明に至った。すなわち本発明は以下の構成を要旨とするものである。
【0010】
1. 天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を下記式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物で処理して得られる微細修飾セルロース繊維0.01〜25質量部と、エポキシ樹脂100質量部からなるエポキシ樹脂コンポジット。
【化1】

(式中、Mは窒素原子またはリン原子を表し、R、R、RおよびRは炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。R、R、RおよびRの炭素数の合計は4〜120である。R、R、RおよびRは互いに連結して環を形成してもよい。)
2. 反応物繊維が、カルボキシ基とアルデヒド基を合計で0.1〜2.2mmol/g(反応物繊維の質量当たり)有する微細セルロース繊維である上記1.記載のエポキシ樹脂コンポジット。
3. 有機オニウム化合物として、有機ホスホニウム化合物を用いて処理された微細修飾セルロース繊維よりなる上記1.または2.記載のエポキシ樹脂コンポジット。
4. 上記1.に記載したエポキシ樹脂コンポジットの製造方法であって、天然セルロースを原料とし、溶媒中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して溶媒を含浸させた該反応物繊維を得る精製工程、溶媒を含浸させた該反応物繊維を分散媒に分散させ微細セルロース繊維分散体を得る分散工程、該微細セルロース繊維分散体に有機オニウム化合物を加えて処理して微細修飾セルロース繊維を得る有機オニウム処理工程、および該微細修飾セルロース繊維をエポキシ樹脂に加えて硬化処理してエポキシ樹脂コンポジットを得るコンポジット工程を有することを特徴とするエポキシ樹脂コンポジットの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、酸化処理および有機オニウム化合物により処理(以下、有機オニウム処理と称することがある)された微細修飾セルロース繊維をエポキシ樹脂に添加することにより、破断伸度を維持しつつヤング率を向上させたエポキシ樹脂コンポジットを提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いられる微細セルロース誘導体繊維は、特開2008−1728号公報に開示された、天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維(微細セルロース繊維)またはその分散体を有機オニウム処理して得ることができる。
【0013】
本発明で用いる天然セルロースは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。より具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリントのような綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、BC(バクテリアセルロース)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロースなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。天然セルロースは、好ましくは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができる。さらに、天然セルロースとして、単離、精製の後、ネバードライで保存していたものを使用するとミクロフィブリルの集束体が膨潤し易い状態であるため、やはり反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができ、好ましい。
【0014】
本発明において、セルロースの酸化触媒として用いるN−オキシル化合物としては、公知のものが使用できる(「Cellulose」Vol.10、2003年、第335〜341ページにおけるI. Shibata及びA. Isogaiによる「TEMPO誘導体を用いたセルロースの触媒酸化:酸化生成物のHPSEC及びNMR分析」と題する記事)が、特に、2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPOは常温での反応速度が良好な点において好ましい。
【0015】
本発明において用いる共酸化剤として、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、および過有機酸などが挙げられるが、好ましくはアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、たとえば、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムである。次亜塩素酸ナトリウムのような次亜ハロゲン酸塩を使用する場合、臭化アルカリ金属、たとえば臭化ナトリウムの存在下で反応を進めることが反応速度を高めるにおいて特に好ましい。
【0016】
なお、上記のN−オキシル化合物および共酸化剤による天然セルロースの処理によって、セルロース鎖の構成モノマー単位であるグルコピラノーズ環中のC6位の一級ヒドロキシ基が選択的に酸化され、アルデヒド基やカルボキシ基にまで酸化された反応物繊維が得られる。
【0017】
本発明において用いる反応物繊維においては、そのカルボキシ基とアルデヒド基の量の総和が、反応物繊維の重量に対し0.1〜2.2mmol/gであることが好ましい。
【0018】
本発明において用いる反応物繊維においては、その最大繊維径が1000nm以下かつ数平均繊維径が2〜150nmのものが好ましく、最大繊維径が500nm以下かつ数平均繊維径が2〜100nmであるものがより好ましく、最大繊維径が30nm以下かつ数平均繊維径が2〜10nmであるものが更に好ましい。このように、該反応物繊維は非常に微細であり、以下、該反応物繊維を微細セルロースと称することがある。
【0019】
さらに、カルボキシ基の量が、反応物繊維の質量に対し0.1〜2.2mmol/gであることが好ましい。
【0020】
本発明で用いられる微細修飾セルロース繊維を得るために、天然セルロースを、上記のN−オキシル化合物、および共酸化剤により酸化して反応物繊維(微細セルロース繊維)を得る際は、天然セルロースを溶媒中に分散させて行うのが好ましい。溶媒としては原料の天然セルロース、N−オキシル化合物、および共酸化剤と、酸化反応や取り扱いの条件下で顕著な反応性を示さないものであれば、何でも良いが、安価で扱い易いなどの点で水が最も好ましい。
【0021】
本発明において用いる有機オニウム化合物としては、下記式(1)で示されるカチオン構造を有するものを好ましく挙げることができる。
【0022】
【化2】

(式中、Mは窒素原子またはリン原子を表し、R、R、RおよびRは炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。R、R、RおよびRの炭素数の合計は4〜120である。R、R、RおよびRは互いに連結して環を形成してもよい。)
【0023】
、R、RおよびRが炭化水素基である場合の例として、アルキル基、アラルキル基、および芳香族基を挙げることができる。アルキル基としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、およびn−オクタデシルを例示することができる。アラルキル基としては、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、例としてはベンジル基、o−トルイルメチル基、m−トルイルメチル基、p−トルイルメチル基、2−フェニルエチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基などが挙げられる。また、芳香族基としては、炭素数6〜20の芳香族基が好ましく、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トシル基などを例示することができる。R〜Rは、それらの熱安定性に影響を及ぼさないメチル、エチル、弗素、塩素などのような置換基を有してもよい。
【0024】
ヘテロ原子を含む炭化水素基の例としては、炭素数1〜30のヒドロキシ置換炭化水素基、アルコキシ置換炭化水素基、およびフェノキシ置換炭化水素基が挙げられ、好適には、以下のような置換基およびその異性体を例示することができる。(ここで下記式中、aおよびbは1以上29以下の整数であり、置換基中での炭素数が30以下になる整数である。また、cは1以上15以下の整数、dは1以上14以下の整数である。)
【0025】
ヒドロキシ置換炭化水素基
【化3】

【0026】
アルコキシ置換炭化水素基:
【化4】

【0027】
フェノキシ置換炭化水素基:
【化5】

【0028】
フタルイミド置換炭化水素基:
【化6】

【0029】
ポリ(オキシアルキレン)基:
【化7】

【0030】
さらにR、R、R及びRが環を形成する場合にはピリジン、メチルピリジン、エチルピリジン、ジメチルピリジン、ヒドロキシピリジン、ジメチルアミノピリジン等のピリジン誘導体、イミダゾール、メチルイミダゾール、ジメチルイミダゾール、エチルイミダゾール、ベンズイミダゾール等のイミダゾール誘導体、ピラゾール、メチルピラゾール、ジメチルピラゾール、エチルピラゾール、ベンズピラゾール等のピラゾール誘導体からなる有機オニウムを挙げることができる。
【0031】
前記式(I)中のMが窒素原子である場合の具体例としては、各種のテトラアルキルアンモニウムを好適なものとして挙げられるがその他にも、例えば、N,N′−ジメチルイミダゾリニウム、N−エチル−N′−メチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1−エチル−3,4−ジメチルイミダゾリニウム、2−エチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、4−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,2−ジエチル−3−メチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−2−メチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−4−メチルイミダゾリニウム、1,2−ジエチル−3−メチルイミダゾリニウム、1,4−ジエチル−3−メチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3,5−トリメチルイミダゾリニウム、1−エチル−3,4,5−トリメチルイミダゾリニウム、2−エチル−1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、4−エチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、4−エチル−1,3,5−トリメチルイミダゾリニウム、1,2−ジエチル−3,4−ジメチルイミダゾリニウム、1,2−ジエチル−3,5−ジメチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−2,4−ジメチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−2,5−ジメチルイミダゾリニウム、1,4−ジエチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,5−ジエチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,5−ジエチル−3,4−ジメチルイミダゾリニウム、2,3−ジエチル−1,4−ジメチルイミダゾリニウム、2,3−ジエチル−1,5−ジメチルイミダゾリニウム、2,4−ジエチル−1,5−ジメチルイミダゾリニウム、2,5−ジエチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、3,4−ジエチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、3,4−ジエチル−1,5−ジメチルイミダゾリニウム、3,5−ジエチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、3,5−ジエチル−1,4−ジメチルイミダゾリニウム、4,5−ジエチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリエチル−4−メチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリエチル−2−メチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリエチル−5−メチルイミダゾリニウム、2,3,4−トリエチル−1−メチルイミダゾリニウム、2,3,5−トリエチル−1−メチルイミダゾリニウム、3,4,5−トリエチル−1−メチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリニウム、1,3,4,5−テトラエチルイミダゾリニウム等の各種イミダゾリニウム、などのアンモニウムイオンが挙げられるが、合成の容易さ、コスト面から特にテトラアルキルアンモニウムイオンがさらに好ましい。具体例としてはドデシルトリメチルアンモニム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、オレイルトリメチルアンモニウム、ジドデシルジメチルアンモニウム、ジテトラデシルジメチルアンモニウム、ジヘキサデシルジメチルアンモニウム、ジオクタデシルジメチルアンモニウム、ジオレイルジメチルアンモニウム、ドデシルジメチルベンジルアンモニム、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、オレイルジメチルベンジル、ヒドロキシポリオキシエチレンドデシルジメチルアンモニウム、ヒドロキシポリオキシエチレンテトラデシルジメチルアンモニウム、ヒドロキシポリオキシエチレンヘキサデシルジメチルアンモニウム、ヒドロキシポリオキシエチレンオクタデシルジメチルアンモニウム、ヒドロキシポリオキシエチレンオレイルジメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンドデシルメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンテトラデシルメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンヘキサデシルメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンオクタデシルメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンオレイルメチルアンモニウムが挙げられる。これらは単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0032】
さらに前記式(I)中のMがP原子、つまり有機オニウムが有機ホスホニウムイオンである場合の具体例としてはテトラエチルホスホニウム、トリエチルベンジルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、トリメチルデシルホスホニウム、トリメチルドデシルホスホニウム、トリメチルヘキサデシルホスホニウム、トリメチルオクタデシルホスホニウム、トリブチルメチルホスホニウム、トリブチルドデシルホスホニウム、トリブチルオクタデシルホスホニウム、トリオクチルエチルホスフォニウム、トリブチルヘキサデシルホスフォニウム、メチルトリフェニルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、ジフェニルジオクチルホスホニウム、トリフェニルオクタデシルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、トリブチルアリルホスフォニウムなどが挙げられる。これらの有機ホスホニウムイオンは、単独でも組み合わせても用いることができる。
【0033】
以上述べた有機オニウムの中で、耐熱性の点から好ましいのは前記式(I)中のMがリン原子である有機オニウム、つまりホスホニウムイオンである。
また、前記の有機オニウムと対を成す陰イオン成分としては、塩素イオンや臭素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェイトイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヒドロキシイオンなどが好ましいものとして挙げられるが、特に好ましいものはハロゲンイオンである。
【0034】
以上述べたとおり、天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を、前記式(I)のカチオン構造を有する有機オニウム化合物で処理すると微細修飾セルロース繊維が得られる。なお、この微細修飾セルロース繊維が、天然セルロースと同じセルロースI型結晶構造を有していることを、X線回折分析により確認できる。また、本発明で用いる微細修飾セルロース繊維は、有機オニウム処理により、樹脂へ添加した際の凝集が極めて少なく、これは公知の微細セルロース繊維には無い特性である。
【0035】
本願発明のエポキシ樹脂コンポジットは、エポキシ樹脂100質量部と、前記の微細修飾セルロース繊維0.01〜25質量部、好ましくは0.5〜10質量部、さらに好ましくは1〜5質量部からなるものである。
【0036】
本発明で使用されるエポキシ樹脂は、エポキシ基を2個以上有し、多価アミンや酸無水物などの硬化剤により硬化して樹脂状物を形成するものである。例えばエピクロルヒドリンと、ビスフェノール類などの多価フェノール類や多価アルコールとの縮合によって得られるもので、ビスフェノールA型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、ノボラック型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、テトラフェニロールエタン型などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を例示することができる。その他エピクロルヒドリンとフタル酸誘導体や脂肪酸などのカルボン酸との縮合によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンとアミン類、シアヌル酸類、ヒダントイン類との反応によって得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、さらには様々な方法で変性したエポキシ樹脂を使用することもできる。
【0037】
本発明で使用することができる硬化剤は、エポキシ樹脂に広く使用されているものであってよく、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシリレンジアミン、イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジドなどのアミン系硬化剤、ドデセニル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水ヘッド酸などの酸無水物系硬化剤、ノボラック型フェノール樹脂などのポリフェノール系硬化剤、ポリサルファイド、チオエステルなどのポリメルカプタン系硬化剤、イソシアネートプレポリマーなどのイソシアネート系硬化剤、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン系硬化剤、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール系硬化剤、BFモノエチルアミン、BFピペラジンなどのルイス酸系硬化剤、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂などの縮合型硬化剤を例示することができる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物には必要に応じ、種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、硬化促進剤、離型剤、接着付与剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、無機充填剤などを例示することができる。
【0039】
[製造方法]
本発明のエポキシ樹脂コンポジットは、天然セルロースを原料とし、溶媒中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、該反応物繊維から不純物を除去して水を含浸させた該反応物繊維(微細セルロース繊維)を得る精製工程、水を含浸させた該反応物繊維を分散媒に分散させ該反応物繊維(微細セルロース繊維)分散体を得る分散工程、該反応物繊維(微細セルロース繊維)分散体に有機オニウム化合物を加えて処理して微細修飾セルロース繊維を得る有機オニウム処理工程、および該微細修飾セルロース繊維をエポキシ樹脂に加えて硬化処理してエポキシ樹脂コンポジットを得るコンポジット工程を有することを特徴とする製造方法によって得ることができる。以下に各工程について説明する。
【0040】
[酸化反応工程]
まず、酸化反応工程では、溶媒に天然セルロースを分散させた混合液に前記のN−オキシル化合物、および共酸化剤を添加して酸化反応を行い、反応物繊維を得る。反応水溶液中の天然セルロース濃度は、試薬の十分な拡散が可能な濃度であれば任意であるが、通常、溶媒の質量に対して約5%以下である。また、N−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、好ましくは0.1〜4mmol/L、さらに好ましくは0.2〜2mmol/Lの範囲で上記混合液に添加する。前記のとおり、溶媒としては、安価で扱い易いなどの点で水が最も好ましい。
【0041】
溶媒として水を用いる時は、反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0042】
該酸化反応工程で用いる共酸化剤の添加量は、天然セルロース1gに対して約0.5〜8mmolの範囲で選択することが好ましく、前記のとおり、次亜ハロゲン酸塩と臭化アルカリ金属を併用する際は、臭化アルカリ金属の添加量が、N−オキシル化合物に対して1〜40倍モル量が好ましく、5〜30倍モル量であるとより好ましく、10〜20倍モル量であるとより一層好ましい。
【0043】
本発明で用いる微細修飾セルロース繊維を得るために好ましい反応物繊維中のカルボキシ基量は天然セルロース種により異なり、カルボキシ基量が多いほど、微細化処理後の最大繊維径、及び数平均繊維径は小さくなる。たとえば、木材系パルプおよび綿系パルプでは0.2〜2.2mmol/g、BCやホヤからの抽出セルロースでは0.1〜0.8mmol/gの範囲でカルボキシ基が導入されて微細化は進む。従って、酸化の程度を共酸化剤の添加量と反応時間により制御し、天然セルロース種に応じた酸化条件を最適化することで、目的とするカルボキシ基量を得ることが好ましい。なお、反応は約5〜120分、長くとも240分以内に完了する。
【0044】
[精製工程]
精製工程に於いては、未反応の次亜塩素酸や各種副生成物等の反応スラリー中に含まれる反応物繊維と水等の溶媒以外の化合物を系外へ除去するが、反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち洗浄とろ過を繰り返すことで高純度(99質量%以上)の反応物繊維と溶媒の分散体とする。該精製工程における精製方法は遠心分離を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどんな装置を利用しても構わない。こうして得られる反応物繊維の含溶媒物は絞った状態で固形分(セルロース)濃度としておよそ10質量%〜50質量%の範囲にある。この後の工程で、ナノファイバーへ分散させることを考慮すると、50質量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0045】
[分散工程]
分散工程においては、上述した精製工程にて得られる溶媒を含浸した反応物繊維(微細セルロース)を、さらに分散媒中に分散させ分散処理を施すことにより、微細セルロース繊維の分散体として提供する。
【0046】
ここで、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶するアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)やN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等を使用してもよい。また、これらの混合物も好適に使用できる。さらに、上述した反応物繊維の分散体を溶媒によって希釈、分散する際には、少しずつ溶媒を加えて分散していく、段階的な分散を試みると効率的にナノファイバーレベルの繊維の分散体を得ることができることがある。操作上の問題から、分散工程後の状態は粘性のある分散液あるいはゲル状の状態となるように分散条件を選ぶとよい。
【0047】
次に、分散工程で使用する分散機としては、種々なものを使用することができる。具体例を示せば、反応物繊維における反応の進行度(アルデヒド基やカルボキシ基への変換量)にも依存するが、好適に反応が進行する条件下では、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等の工業生産機としての汎用の分散機で十分に本発明の微細セルロース繊維の分散体を得ることができる。
【0048】
しかし、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、およびグラインダーのようなより強力で叩解能力のある装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となる。さらに、これらの装置を使用することにより、アルデヒド基やカルボキシ基の量が比較的小さい場合(例えば、アルデヒド基やカルボキシ基のセルロースに対する総和量として、0.1〜0.5mmol/g)にも高度に微細化された本発明の微細セルロース繊維の分散体を提供できる。
【0049】
[有機オニウム処理工程]
有機オニウム化合物で処理する方法としては分散工程で得られた微細セルロース繊維の分散体に有機オニウム塩を含む溶液を添加することによって容易に行うことができる。例えば、カチオン交換前の微細セルロースを水に分散させた液と有機オニウム化合物の溶液を混合攪拌した後、生じた微細修飾セルロース繊維をろ過、遠心分離等の方法により媒体と分離し洗浄する。
【0050】
処理においてに好ましい濃度としては、セルロース濃度として0.01〜10質量%で、溶解した有機オニウムと反応させることが好ましい。0.01質量%よりも濃度が低い場合には、溶液全体の量が多くなり過ぎ、取り扱う上で好ましくない場合がある。10質量%を超える場合には分散液の粘度が高くなりすぎるため、陽イオン交換率が低下することがある。微細セルロースとしては、0.05〜5質量%がさらに好ましく、0.2〜2質量%がより好ましい。反応時の温度としては、分散液が攪拌するのに充分低い粘度を有すればよく、例えば、水の場合には、概略20〜100℃程度で陽イオン交換反応を行うことが好ましい。こうして得られた修飾後の有機オニウム塩処理微細セルロースは反応終了後、未反応の有機ホスホニウムイオンを取り除くため十分に洗浄することが好ましい。洗浄方法としては特に限定するものではないが、例えば有機溶媒等の有機ホスホニウムの良溶媒洗浄することが挙げられる。
【0051】
なお、本工程における処理の効果は、主に、微細セルロース繊維表面のカルボキシ基が塩を形成しているアルカリ金属カチオン(酸化処理工程で用いた共酸化剤に由来する)が、有機オニウムによってイオン交換されることによるものと考えられる。これは、有機オニウム処理によって得られた微細修飾セルロース繊維がNMP、DMSOなどの有機溶媒に分散し容易に沈殿を生じないことからも明らかである。
【0052】
本工程における修飾率(陽イオン交換率)を下記式にて定義すると、修飾率は65〜100%以上であると分散性の点で有利であり、65〜100%であるとさらに好ましく、70〜100%であるとより一層好ましい。
修飾率(%)=1−(A/B)
ここで、A:イオン交換後の微細セルロース中のアルカリ金属量[質量ppm]
B:イオン交換前の微細セルロース中のアルカリ金属量[質量ppm]
【0053】
[コンポジット工程]
コンポジット工程においては、有機オニウム処理工程で得られた微細修飾セルロース繊維、前記のエポキシ樹脂、硬化剤、および用途によって必要な場合は添加剤と共に混合した後、硬化処理を行い本発明のエポキシ樹脂コンポジットを得る。微細修飾セルロース繊維等の混合方法は常用の攪拌装置、例えば、スクリュー型ミキサー、ホモジナイザー、ニーダー等を使用する公知の方法でよい。
【0054】
硬化処理の方法としては、上記の混合物をそのまま所定温度まで加熱して硬化させる方法、上記の混合物を加熱溶融して金型等に注ぎ、該金型をさらに加熱して成形する方法、上記の混合物を溶融させ、得られる溶融物を予め加熱された金型に注入し硬化する方法、上記の混合物を部分硬化させ、得られる部分硬化物を粉砕してなる粉末を金型に充填し、該充填粉末を溶融成形する方法、上記の混合物を(必要な場合は、溶媒に溶解して攪拌しながら部分硬化させ、得られた溶液を)キャストした後、溶媒を通風加熱乾燥等で乾燥除去し、必要な場合はプレス機等で圧力をかけながら、充分に硬化が進む高温にて所定時間加熱する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0056】
(1)セルロースの結晶形態
本発明の微細セルロース繊維がI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と2シータ=22〜23°付近の二つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0057】
(2)セルロース繊維の質量に対するセルロースのアルデヒド基およびカルボキシ基の量(mmol/g)
乾燥質量を精秤したセルロース試料から0.5〜1質量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液量(V)から、下式を用いて官能基量1を決定する。該官能基量1がカルボキシ基の量を示す。
次に、セルロース試料を、酢酸でpHを4〜5に調製した2%亜塩素酸ナトリウム水溶液中でさらに48時間常温で酸化し、上記手法によって再び官能基量2を測定する。この酸化によって追加された官能基量(=官能基量2−官能基量1)を算出し、アルデヒド基量とした。
官能基量1または2(mmol/g)=V(mL)×0.05/セルロースの質量(g)
【0058】
(3)修飾率
微細セルロース繊維を有機オニウム化合物により処理した修飾率は、処理前後のアルカリ金属量を測定する事で行う事ができる。すなわち
修飾率(%)=1−(A/B)
ここで、A:イオン交換後の微細セルロース繊維中のアルカリ金属量[質量ppm]
B:イオン交換前の微細セルロース繊維中のアルカリ金属量[質量ppm]
なおアルカリ金属量は蛍光X線にて測定を行った。
【0059】
(4)フィルム機械物性
オリエンテック株式会社製テンシロン万能試験機1225Aにて測定を行った。
【0060】
[参考例1]微細セルロース繊維の合成
微細セルロースの合成は、天然セルロースとして日本製紙株式会社製のLBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)を用いて、特開2008―1728号公報に従って行なった。合成した乾燥微細セルロースをイオン交換水に添加した後、回転刃式ミキサーで約5分間の処理を行い最終的に0.2%質量の分散体を得た。この微細セルロース繊維のアルデヒド基の量およびカルボキシ基の量は、それぞれ0.30mmol/gおよび0.8mmol/gであった。
【0061】
[実施例1]
参考例1で得られた微細セルロース繊維分散体100質量部を、攪拌羽根を供えたビーカーに入れ70℃に加熱攪拌した。ここにトリ−n−ブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド(日本化成工業製、カタログナンバー:PX416)11質量部をイオン交換水300質量部で溶解させた溶液を加え70℃で3時間攪拌した。混合物から固体を濾別し、メタノールで3回、水で3回洗浄した後、有機オニウム処理された微細修飾セルロース繊維を得た。修飾率(陽イオン交換率)は100%であった。この微細修飾セルロース繊維を一昼夜減圧乾燥した。次にこの乾燥した微細修飾セルロース繊維1.0質量部をエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、カタログナンバー:828)99質量部に分散したのちホモジナイザーで10分間分散処理を行った。この分散液に硬化剤としてトリエチレンテトラミン(東京化成製)11質量部を加えさらにホモジナイザーにて約2分間攪拌処理した。さらに泡とり機(THINKY社製、あわとり練太郎(登録商標))にて約2分間真空脱泡する事で透明な粘調溶液を得る事ができた。この溶液をステンレス(SUS304)板上にキャストし70℃のオーブンにて処理した。約30分後にサンプルを取り出しステンレス上のキャスト膜を剥離させ、ガラス基板上に載せさらに130℃で熱処理を5時間行った。作成したフィルムの厚みを測定した所0.25mmであった。このフィルムの機械物性を測定した所破断点伸度は2.9%、ヤング率2.3GPaであった。
【0062】
[実施例2]
参考例1で得られた微細セルロース繊維分散体100質量部を、攪拌羽根を供えたビーカーに入れ70℃に過熱攪拌した。有機オニウム塩としてヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(日本油脂製)に代え6.4質量部を加えた他は同様な操作にて微細修飾セルロース繊維を合成した。この微細修飾セルロース繊維を1.0質量部、エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、カタログナンバー:828)99質量部、硬化剤としてトリエチレンテトラミン(東京化成製)を11質量加えてフィルムを作成した他は同様な操作にて合成した。作成したフィルムの厚みを測定した所0.24mmであった。このフィルムの機械物性を測定した所破断点伸度は2.8%、ヤング率2.2GPaであった。
【0063】
[比較例1]
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、カタログナンバー:828)90質量部、硬化剤としてトリエチレンテトラミン(東京化成製)を10質量加えてフィルムを作成した他は同様な操作にて合成した。作成したフィルムの厚みを測定した所0.23mmであった。このフィルムの機械物性を測定した所破断点伸度は2.6%、ヤング率1.8GPaであった。
【0064】
[比較例2]
参考例1で得られた微細セルロース繊維分散体を、トリ−n−ブチルヘキサデシルホスホニウムブロミドで処理することを行わないこと以外は実施例1と同様に、濾別、洗浄、乾燥処理を行って得た微細セルロース繊維1.0質量部をエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、カタログナンバー:828)99質量部に加え、ホモジナイザーで分散処理を行ったが、分散処理をやめると急速に微細セルロースが沈殿してしまい、以後の操作において分散体として扱えなかった為、実施例1と同様の操作をして微細セルロース繊維が分散したエポキシ樹脂のフィルムを得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を下記式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物で処理して得られる微細修飾セルロース繊維0.01〜25質量部と、エポキシ樹脂100質量部からなるエポキシ樹脂コンポジット。
【化1】

(式中、Mは窒素原子またはリン原子を表し、R、R、RおよびRは炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。R、R、RおよびRの炭素数の合計は4〜120である。R、R、RおよびRは互いに連結して環を形成してもよい。)
【請求項2】
反応物繊維が、カルボキシ基とアルデヒド基を合計で0.1〜2.2mmol/g(反応物繊維の質量当たり)有する微細セルロース繊維である請求項1記載のエポキシ樹脂コンポジット。
【請求項3】
有機オニウム化合物として、有機ホスホニウム化合物を用いて処理された微細修飾セルロース繊維よりなる請求項1または2に記載のエポキシ樹脂コンポジット。
【請求項4】
請求項1に記載したエポキシ樹脂コンポジットの製造方法であって、天然セルロースを原料とし、溶媒中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して溶媒を含浸させた該反応物繊維を得る精製工程、溶媒を含浸させた該反応物繊維を分散媒に分散させ微細セルロース繊維分散体を得る分散工程、該微細セルロース繊維分散体に有機オニウム化合物を加えて処理して微細修飾セルロース繊維を得る有機オニウム処理工程、および該微細修飾セルロース繊維をエポキシ樹脂に加えて硬化処理してエポキシ樹脂コンポジットを得るコンポジット工程を有することを特徴とするエポキシ樹脂コンポジットの製造方法。

【公開番号】特開2010−59304(P2010−59304A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225919(P2008−225919)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】