説明

エポキシ樹脂用難燃剤及びそれを用いたエポキシ樹脂組成物

【課題】 少量の使用で効果的に作用し、エポキシ樹脂組成物の本来有する特性を実質的に損なうことなく難燃性向上効果を付与することが可能なエポキシ樹脂用の難燃剤、及びそれを含有する、半導体封止材として好適な難燃性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 三酸化バナジウム、五酸化バナジウムなどのバナジウム酸化物とトリアリールホスフィンオキシドを少量エポキシ樹脂に配合する。エポキシ樹脂には、他にフェノール化合物系硬化剤、硬化促進剤、無機充填材などを任意に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止材用途に有用なエポキシ樹脂用の難燃剤及びそれを含有する難燃性エポキシ樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、少量の使用で効果的に作用し、エポキシ樹脂組成物の本来有する特性を実質的に損なうことなく難燃性向上効果を付与することが可能なエポキシ樹脂用の難燃剤及びそれを含有する難燃性エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の封止材としては、近年、フェノールノボラック樹脂やフェノールアラルキル樹脂等のフェノール化合物系硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物が多用されている。これは、熱硬化時の硬化性が良く、硬化物についても耐湿性、低応力、低粘度であり、コストも廉価であるところから、モールド型封止樹脂の主流となっている。しかしながらその成形体の耐燃焼性は一般的に十分でないため、難燃剤を添加して難燃化を実現する方法がしばしば採用されている。現用の難燃剤として、窒素系、リン系、アンチモン系、ハロゲン系、シリコーン系、金属化合物系などの難燃剤が用いられており、その種類はきわめて多様である。しかし一部には、環境に対する負荷が大きいものや、添加量次第では、成形硬化性等の封止材の特性を低下させることがあり、使用に際しては、環境面や実用面に対するリスクを伴うことが多いのが現状である。
【0003】
例えば従来、ハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤の併用による難燃化処方が広く採用されていたが、燃焼時における有害物質生成が疑われるところから、ノンハロゲン化処方が求められていた。このような要請に応えるものとして、金属酸化物や金属錯体などの金属化合物を難燃剤として使用することが提案されている(特許文献1〜2)。しかしながらこれらの提案においては、アルミニウム、コバルト、ニッケル、銅などの金属化合物の使用がとくに好ましい旨の記載はあるが、金属酸化物として具体的に難燃効果が確認しているものは見当たらない。またリン系難燃剤は、リン酸エステルが最も一般的であるが、加水分解し易いことが問題であり、多量に使用すると電気的特性を損なうという難点があった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−204227号明細書
【特許文献2】特開2000−273157号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、リン系化合物の中でも、多量添加時に物性低下をもたらすという欠点を有しながらも、入手が容易で難燃効果が高く、耐加水分解性に優れたトリアリールホスフィンオキシドの性質に興味を持ち、その利用可能性につき鋭意検討を行った結果、バナジウム酸化物との組み合わせることにより、少量の配合でも高い難燃効果を発揮することを見出し、本発明に至った。したがって本発明の目的は、エポキシ樹脂組成物の本来有する特性を実質的に損なうことなく、優れた難燃効果を発揮することができるエポキシ樹脂用難燃剤及びそれを配合した難燃性エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、バナジウム酸化物及びトリアリールホスフィンオキシドからなるエポキシ樹脂用難燃剤に関する。エポキシ樹脂にこれら難燃剤を配合するに際して、これらを予めフェノール化合物系エポキシ樹脂硬化剤に配合しておくことができる。
【0007】
本発明はまた、バナジウム酸化物及びトリアリールホスフィンオキシドを含有してなる難燃性エポキシ樹脂組成物が提供される。難燃性エポキシ樹脂組成物には、好ましくはフェノール化合物系硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤、より好ましくはこれら全ての添加剤が配合されていることが望ましい。このようなエポキシ樹脂組成物は、好ましくは半導体装置における半導体素子の封止材として使用される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃剤は、エポキシ樹脂に少量添加するだけで十分な難燃効果を発揮することができ、エポキシ樹脂の硬化特性や硬化物物性に実質的に悪影響を及ぼすことがない。したがってこれら難燃剤を配合した本発明のエポキシ樹脂組成物は、半導体装置における半導体素子の封止材として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においては、エポキシ樹脂の難燃剤としてバナジウム酸化物とトリアリールホスフィンオキシドを混合使用するものである。バナジウムの酸化物としては、2〜5価の酸化物を挙げることができる。具体的には二酸化バナジウム、三酸化バナジウム、四酸化バナジウム、五酸化バナジウム、あるいはこれらの混合物などを例示することができ、とくに三酸化バナジウム、五酸化バナジウムの使用が好ましい。またトリアリールホスフィンオキシドとしては、トリフェニルホスフィンオキシド、トリクレジルホスフィンオキシド
などを例示することができるが、とくにトリフェニルホスフィンオキシドの使用が好ましい。
【0010】
本発明の上記混合難燃剤は、必要に応じて窒素系、リン系、アンチモン系、ハロゲン系、シリコーン系あるいは無機化合物系などの公知の難燃剤と併用することができる。中でも環境面及び半導体封止材としての用途を考慮すると、無機化合物系難燃剤の併用が好ましく、例えばマグネシウム、アルミニウム、鉄、モリブデン、タングステンなどの金属酸化物あるいは水酸化物などが好適である。これら他の難燃剤を併用する場合には、その使用比率は本発明の効果を阻害しない範囲であればとくに制限はなく、他の難燃剤の種類によっても大幅に異なるが、例えば他の難燃剤/本発明の混合難燃剤(重量比)で0.1/1〜100/1の範囲で選択することができる。
【0011】
上記難燃剤を配合するのに使用されるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール、ナフトールなどのキシリレン結合によるアラルキル樹脂のエポキシ化物、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂など、分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が挙げられる。これらエポキシ樹脂は単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0012】
上記エポキシ樹脂には、公知の硬化剤を1種又は2種以上配合することができる。硬化剤として種々のものを選択することができるが、とくにフェノール化合物系硬化剤を使用するのが好ましい。このようなフェノール化合物系硬化剤としては、1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物であって、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、フェノールナフチルアラルキル樹脂、フェノールビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン型ノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂などを例示することができる。これら硬化剤をエポキシ樹脂に配合するに際し、バナジウム酸化物及びトリアリールホスフィンオキシドの少なくとも一方、好ましくは双方を予め硬化剤に配合しておくこともできる。その場合、硬化剤100重量部に対し、例えば上記混合難燃剤成分を0.1〜20重量部、とくに1〜10重量部程度配合したものが好適に使用できる。
【0013】
エポキシ樹脂にフェノール化合物系硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物を、半導体封止用に使用する場合は、無機充填剤の添加は必須である。このような無機充填剤の例として、非晶性シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、ガラス、珪酸カルシウム、石膏、炭酸カルシウム、マグネサイト、クレー、タルク、マイカ、マグネシア、硫酸バリウムなどを挙げることができるが、とくに非晶性シリカ、結晶性シリカなどが好ましい。また優れた成形性を維持しつつ、充填剤の配合量を高めるために、細密充填を可能とするような粒度分布の広い球形の充填剤を使用することが好ましい。
【0014】
上記エポキシ樹脂組成物には、必要に応じ他の添加剤、例えば硬化促進剤、カップリング剤、離型剤、着色剤、低応力剤などを配合することができる。
【0015】
硬化促進剤としては、エポキシ樹脂をフェノール樹脂系硬化剤で硬化させるための公知の硬化促進剤を用いることができ、例えば第3級アミン、第4級アンモニウム塩、イミダゾール類、有機ホスフィン化合物、第4級ホスホニウム塩などを挙げることができる。より具体的には、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセンー7などの第3級アミン、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィンなどの有機ホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラナフトエ酸ボレートなどを挙げることができる。
【0016】
カップリング剤の例としては、ビニルシラン系、アミノシラン系、エポキシシラン系などのシラン系カップリング剤やチタン系カップリング剤を、離型剤の例としてはカルナバワックス、パラフィンワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスなど、また着色剤としては、カーボンブラックなどを例示することができる。低応力剤の例としては、シリコンゴム、変性ニトリルゴム、変性ブタジエンゴム、変性シリコンオイルなどを挙げることができる。
【0017】
本発明のエポキシ樹脂用難燃剤における両成分の使用比率は、バナジウム酸化物/トリアリールホスフィンオキシド(重量比)で0.1/1〜10/1、とくに0.5/1〜1/1となる割合が好ましい。バナジウム酸化物としては、難燃性を考慮すると、粒径が0.1〜100μm、とくに1〜50μmのものを使用するのが好ましい。また本発明のエポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂100重量部に対して、バナジウム酸化物が0.1〜10重量部、とくに1〜5重量部、またトリアリールホスフィンオキシドが0.1〜10重量部、とくに1〜5重量部となる割合で配合するのがよい。また上記エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂に上記フェノール化合物系硬化剤を配合する場合は、成形性及び樹脂硬化物の特性を考慮すると、フェノール性水酸基/エポキシ基の当量比が、0.5〜1.5、とくに0.8〜1.2の範囲となるように配合するのが好ましい。さらに硬化促進剤は、エポキシ樹脂100重量部に対し、0.1〜5重量部程度配合すると効果的である。さらに半導体封止材として使用する場合においては、無機充填剤は、その種類によっても異なるが、組成物全体の60〜93重量%を占めるような割合で配合することが好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂を成形材料として調製する場合の一般的な方法としては、所定の割合の各原料を、例えばミキサーによって充分混合後、熱ロールやニーダーなどによって混練処理し、これを冷却して固化したものを適当な大きさに粉砕するなどの手法を挙げることができる。難燃剤として使用されるバナジウム酸化物やトリアリールホスフィンオキシドは、前述のように予めフェノール化合物系硬化剤に配合しておき、これをエポキシ樹脂に配合することができる。このようにして得た成形材料は、例えば低圧トランスファー成形などにより半導体素子を封止することにより、半導体装置を製造することができる。エポキシ樹脂組成物の硬化は、例えば100〜250℃の温度範囲で行うことができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
[実施例1〜2]
ビフェノール型エポキシ樹脂YX−4000H(ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量190g/eq)、フェノールアラルキル樹脂HE100C−15(エア・ウォーター・ケミカル(株)製、水酸基当量175g/eq)、溶融法シリカ、トリフェニルホスフィン、バナジウム酸化物及びトリフェニルホスフィンオキシドを表1に示す割合で配合し、充分に混合した後、85℃±3℃の2本ロールで3分混練し、冷却、粉砕することにより、エポキシ樹脂組成物を得た。これを用いて175℃時溶融粘度及びキュラストメータ硬化性を測定した。
【0021】
またトランスファー成形機でエポキシ樹脂組成物を圧力100kgf/cmで175℃、2分間成形後、175℃、6時間ポストキュアを行い、吸水性試験、曲げ試験、ガラス転位温度(Tg)測定及び燃焼性試験用のテストピースを得た。
【0022】
これらエポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物の特性を、次の方法により測定した。
【0023】
(1)175℃時溶融粘度
エポキシ樹脂組成物1gをタブレットにして高下式フローテスター(温度175℃、圧力10kgf/cm、オリフィス径1mm、長さ1mm)で組成物の溶融粘度を測定した。
【0024】
(1)175℃時キュラストメータ硬化性試験
エポキシ樹脂組成物5gをタブレットにして、金型温度175℃のキュラストメータで硬化に応じたトルク変化を測定した。
【0025】
(3)吸水性試験
サンプル形状50mm径×3mmの円盤を、85℃、相対湿度85%RH雰囲気下で168時間吸水させたときの吸水率を測定した。
吸水率(%)=(処理後の重量増加分/処理前の重量)×100
【0026】
(4)曲げ試験
サンプル形状80mm×10mm×4mmの短冊を、240℃雰囲気で10分放置後、JIS K6911に準じて測定した。
【0027】
(5)ガラス転位温度(Tg)測定
サンプル形状5mm×5mm×2mmの短冊を用いて、TMAにより線膨張係数を測定し、線膨張係数の変曲点をTgとした。
【0028】
(6)燃焼性試験
サンプル形状125mm×13mm×4mmの短冊を用いて、UL−94規格の方法に従って難燃性を評価した。
【0029】
以上の項目について行った評価結果を表1に併記する。
【0030】
[比較例1]
難燃剤を配合しなかった以外は、実施例1〜2と同様にしてエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を作成し、その評価を行った。結果を表1に示す。
【0031】
[比較例2]
難燃剤として、トリフェニルホスフィンオキシドのみを表1に示す割合で使用した以外は、実施例1〜2と同様にしてエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を作成し、その評価を行った。結果を表1に示す。
【0032】
[比較例3]
難燃剤として、酸化バナジウム(III)のみを表1に示す割合で使用した以外は、実施例1〜2と同様にしてエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を作成し、その評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1における実施例1及び2と比較例1との対比によれば、バナジウム酸化物とトリフェニルホスフィンオキシドの併用配合により、エポキシ樹脂組成物の難燃性を著しく向上させる一方で、硬化特性や硬化物の特性に悪影響を及ぼしていないことが分かる。また実施例1と比較例2及び3との対比により、バナジウム酸化物とトリフェニルホスフィンオキシドの併用は、それぞれの単独使用より高い難燃効果が得られることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウム酸化物及びトリアリールホスフィンオキシドからなるエポキシ樹脂用難燃剤。
【請求項2】
トリアリールホスフィンオキシドがトリフェニルホスフィンオキシドである請求項1記載のエポキシ樹脂用難燃剤。
【請求項3】
バナジウム酸化物及びトリアリールホスフィンオキシドを含有してなるフェノール化合物系エポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項4】
バナジウム酸化物及びトリアリールホスフィンオキシドを含有してなる難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
さらにフェノール化合物系硬化剤を含有してなる請求項4記載の難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
さらに無機充填材を含有してなる請求項4又は5記載の難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
さらに硬化促進剤を含有してなる請求項4〜6記載の難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
半導体封止材用である請求項4〜7記載の難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項4〜8記載の難燃性エポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物。
【請求項10】
請求項8記載の難燃性エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなる半導体装置。

【公開番号】特開2006−131653(P2006−131653A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318705(P2004−318705)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(398037527)エア・ウォーター・ケミカル株式会社 (15)
【Fターム(参考)】