説明

エポキシ樹脂組成物、その硬化物、ビルドアップフィルム絶縁層用樹脂組成物、及び新規フェノール樹脂

【課題】エポキシ樹脂硬化物自体の線膨張係数が著しく低く、電子部品の絶縁材料として硬化物の寸法安定性に優れ、かつ、硬化物の耐熱性及び靱性が高く耐久性に優れ、とりわけビルドアップフィルム絶縁層に適したエポキシ樹脂組成物、及びこれらの特性を発現する新規フェノール樹脂を提供する。
【解決手段】2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン化合物をパラキシレングリコールジメトキサイドと反応させて得られる新規フェノール樹脂、及び、これをエポキシ樹脂用硬化剤として用いるエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物のガラス領域、及び硬化物が暴される温度領域(サーマルサイクル条件下)における線膨張係数が極めて低いために寸法安定性に優れ、且つ熱的衝撃/物理的衝撃にも優れる(強靭性)エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂及びその硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物は、その硬化物において優れた耐熱性と絶縁性を発現することから、半導体やプリント配線基板などの電子部品用途において広く用いられている。
【0003】
この電子部品用途のなかでも半導体パッケージ基板材料におけるビルドアップ基板の技術分野では、絶縁材料に用いられる樹脂材料としてこれまでの液状材料に代わり、エポキシ樹脂及び硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物からフィルム状に成形した所謂ビルドアップフィルムを基板上にラミネート、硬化させる技術が注目されている。然し乍ら、通常、該フィルムを構成する絶縁層であるエポキシ樹脂硬化物は、銅配線、半田等といった異種材料との線膨張係数が相違(CTEミスマッチ)するために、寸法安定性に劣ることに加え、熱衝撃による応力によってクラックが生じやすいという問題を有していた。従って、硬化物の線膨張率が低く、且つ熱衝撃や物理的衝撃に対して強い、靭性の高いエポキシ樹脂硬化物、及びこれら特性を発現するエポキシ樹脂組成物が求められていた。
【0004】
そこで、例えば、接着フィルムを構成する絶縁材料として、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、固形エポキシ樹脂、エポキシ樹脂用硬化剤、及び無機充填材を必須成分としたエポキシ樹脂組成物を用い、かつ、該無機充填材を多量に使用して材料自体の線膨張係数を低く抑制した技術が知られている(下記、特許文献1参照)。
【0005】
然し乍ら、近年、電子部品の高性能化に伴い半導体パッケージ基板には多段ビア構造が採用されるなど、接着フィルムにはより低い線膨張係数を有するものが求められているところ、前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂硬化物自体の線膨張係数の低減という点では十分ではなく、近年の著しい半導体装置の高速化に対応可能な水準に達していないのが現状であった。更に、前記エポキシ樹脂組成物は、ビルドアップ工法用に不可欠なビアホール形成時のレーザーによる加工性や、めっき層との密着性が十分なものではなかった。
他方、エポキシ樹脂硬化物の線膨張係数のより一層の低減化を図ることを目的として結晶性の高いエポキシ樹脂を用いた場合、結晶性エポキシ樹脂は溶剤溶解性に乏しいことからフィルム形状への成形が極めて困難なものとなってしまうものであった。
【0006】
【特許文献1】特開2005−154727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、エポキシ樹脂硬化物自体の線膨張係数が著しく低く、電子部品の絶縁材料として硬化物の寸法安定性に優れ、かつ、硬化物の耐熱性及び靱性が高く耐久性に優れ、とりわけビルドアップフィルム絶縁層に適したエポキシ樹脂組成物、及びこれらの特性を発現する新規フェノール樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン化合物を特定条件下に2官能性アラルキル化剤と反応させて得られる「2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)がフェニレンビスアルキリデン基(Y)で結節されてなる新規フェノール樹脂」を硬化剤として用いるエポキシ樹脂組成物は、その硬化物が極めて低い線膨張係数を達成でき、また高い耐熱性と強靭性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、エポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、前記硬化剤(B)が、
複数のビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)がフェニレンビスアルキリデン基(Y)を介して結節された分子構造を有するフェノール樹脂であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関する。
【0010】
本発明は、更に、上記エポキシ樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物に関する。
【0011】
本発明は、更に、上記エポキシ樹脂組成物からなることを特徴とするビルドアップフィルム絶縁層用樹脂組成物に関する。
【0012】
本発明は、更に、下記一般式(1)
【0013】
【化1】

(式中、nは繰り返し単位の平均で0.05〜5.0である。)
で表される分子構造を有し、かつ、該一般式(1)中、「X」で表される構造部位が、
下記構造式X1で表される構造部位、
【0014】
【化2】


下記構造式X2で表される構造部位、
【0015】
【化3】


及び、下記構造式X3で表される構造部位、
【0016】
【化4】

(上記各構造式X1〜X3中、R、R、R3、R4、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子を表す。)
からなる群から選択されるものであり、かつ、
該一般式(1)中、「Y」で表される構造部位が、下記構造式Y1
【0017】
【化5】


(式中、R9、及びR10はそれぞれ独立的に水素原子又はメチル基を表す。)
で表されるものであることを特徴とする新規フェノール樹脂に関する。
【0018】
また、本発明は、上述したエポキシ樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、エポキシ樹脂硬化物自体の線膨張係数が著しく低く、電子部品の絶縁材料として硬化物の寸法安定性に優れ、かつ、硬化物の耐熱性が高く、且つ靱性が高いため耐久性に優れ、とりわけビルドアップフィルム絶縁層に適したエポキシ樹脂組成物、及び新規フェノール樹脂が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記した通り、エポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、前記硬化剤(B)が、複数のビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)がフェニレンビスアルキリデン基(Y)を介して結節された分子構造を有するフェノール樹脂であることを特徴とするものである。本発明では、このように分子構造内にスルホニル構造を有することから、樹脂自体に優れた凝集力を付与できる。また、該フェノール樹脂は、ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)の芳香核がアラルキル基で結節した構造を有することから、熱エネルギーに対して運動しにくくなる結果、硬化物の線膨張係数は極めて低いものとなり、物理的衝撃に強い靭性の高い硬化物を得ることができる。
【0021】
ここでビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)は、4,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造、2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造の何れであってもよいが、本発明では特に2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造であることが好ましい。即ち、一般にビスフェノールスルホンは、結晶性の高いモノマーとして知られているところ、前記した「2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)がフェニレンビスアルキリデン基(Y)で結節されてなるフェノール樹脂」は、ベンゼン環上の置換位置においてスルホニル基に対してヒドロキシル基が2,4’−位にあること、また、該スルホン構造(X)がフェニレンビスアルキリデン基(Y)で結節されていることから、フェノール樹脂の結晶性が低くなってアモルファス性状となり、有機溶剤への溶解性が飛躍的に向上するものである。その結果、かかるスルホニル基に対してヒドロキシル基が2,4’−位にあるフェノール樹脂を含む樹脂組成物は、フィルム成形が容易となる他、線膨張係数が低く、寸法安定性、耐熱性に優れ、靱性も高い硬化物を与えるため、とりわけビルドアップフィルム絶縁層に適したものとなる。
【0022】
よって、前記フェノール樹脂は、更に具体的には、前記2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)を「X」、前記フェニレンビスアルキリデン基(Y)を「Y」、水素原子を「H」とした場合に、下記一般式(1)
【0023】
【化6】


で表されるものがビルドアップフィルム絶縁層への適用が容易である点から好ましい。上記一般式(1)中、nは繰り返し単位の平均で0.05〜5であるが、特に溶剤溶解性が良好となる点から0.05〜1.0であることが好ましい。
【0024】
ここで、前記2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)としては、具体的には、例えば下記構造式X1
【0025】
【化7】

(上記構造式X1中、R、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子を表す。)で表される構造部位、
下記構造式X2
【0026】
【化8】

(上記構造式X2中、R、R、R3、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子を表す。)で表される構造部位、及び、下記構造式X3
【0027】
【化9】

(上記構造式X3中、R、R、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子を表す。)で表される構造部位が挙げられる。
【0028】
上記各構造式中のR、R、R、R、R5、R6、R7、及びRを構成する炭素原子数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、及びt−ブチル基等が挙げられ、前記ハロゲン原子としては塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0029】
このような上記構造式X1〜X3に代表される2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)は、更に具体的には、例えば前記構造式S1で表される構造部位S1は、下記構造式X1−1〜X1−8のものが挙げられる。
【0030】
【化10】

【0031】
また、前記構造式X2で表される構造部位は、下記構造式X2−1〜X2−9のものが挙げられる。
【0032】
【化11】


【0033】
また、前記構造式X3で表される構造部位は、下記構造式X3−1〜X3−8のものが挙げられる。
【0034】
【化12】

【0035】
これらの中でも、上記構造式X1〜X3におけるR、R、R3、R、R5、R6、R7、R8が水素原子、メチル基、エチル基であるものがフェノール樹脂の有機溶剤への溶解性の点から好ましく、また、ヒドロキシル基に対してオルソ又はパラの位置に炭素原子数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子を有するものが工業的生産が容易である点から好ましい。更に、本発明ではとりわけ上記構造式X1〜X3中のR〜Rの全てが水素原子であることが、硬化物の線膨張係数が低く、かつ、硬化物がより高耐熱性、高靱性になる点から好ましい。
【0036】
一方、上記2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)を結節する結節基であるフェニレンビスアルキリデン基(Y)は、下記構造式Y1
【0037】
【化13】


で表されるものが挙げられる。
【0038】
上記構造式Y1中のR9、R10はそれぞれ独立的に水素原子又はメチル基を表す。
【0039】
よって、前記フェニレンビスアルキリデン基(Y)は、具体的には、下記Y1−1〜Y1−2で表される構造が挙げられる。
【0040】
【化14】



これらのなかでも工業的製造法が簡便であり、その入手が容易である点から、Y1−1で表される構造であることが好ましい。
【0041】
また、前記フェノール樹脂の軟化点は、50〜180℃の範囲が好ましく、溶剤溶解性と耐熱性を兼備できる点で、60〜150℃の範囲であることが特に好ましい。ここで、軟化点は、「JIS K7234(2001)」に準拠して測定される値である。
【0042】
以上、詳述したフェノール樹脂を工業的に生産するには、例えば、下記構造式a1
【0043】
【化15】


(式中、R、R、R3、R4、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子を表すが、それぞれのベンゼン環の2箇所以上が水素原子である。)
で表される2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン化合物(a)と、下記構造式a2
【0044】
【化16】


(式中、Y’はメトキシメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、又はビニル基を表す。)で表される2官能性アラルキル化剤(B)とを、触媒(c)の存在下に反応させる方法が挙げられる。
【0045】
上記製造方法は、具体的には
工程1: 触媒(c)の存在下に、前記2,4’−ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン化合物(a)と、前記化合物(b)とを反応させる工程
工程2: 反応終了後、得られた反応生成物を、質量基準で1.5〜8倍量の非水溶性有機溶媒に溶解させてフェノール樹脂溶液とする工程
工程3: 工程2で得られたフェノール樹脂溶液を水洗する工程、
工程4: 次いで、フェノール樹脂溶液から非水溶性有機溶媒を除去して目的物たるフェノール樹脂を得る工程
を必須の製造工程とするものであることが生産性の点から好ましい。
【0046】
本発明で用いる2,4’−ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン化合物(a)の具体例としては、2,4’−ビスフェノールスルホン、3,3'−ジメチル−2,4’−ビスフェノールスルホン、3,3'−ジエチル−2,4’−ビスフェノールスルホン等が挙げられる。これらの中でも、2,4’−ビスフェノールスルホンを用いた場合、前記した通り、溶剤溶解性に優れた新規なフェノール樹脂が得られ、その硬化物自体に低線膨張係数、高耐熱性、高靱性を付与できる点から好ましい。
【0047】
次に、前記化合物(b)は、具体的には、パラキシレングリコールジメトキサイド、ジビニルベンゼン、フェニレンビスクロロメチル、フェニレンビスブロモメチルが挙げられる。これらの中でも工業的製造方法が簡便で、その入手が容易である点から、パラキシレングリコールジメトキサイド、又はジビニルベンゼンが好ましい。
【0048】
前記第1工程は、触媒(c)の存在下に、前記2,4’−ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン化合物(a)と、前記化合物(b)とを反応させる工程である。ここで用いる触媒(c)は酸触媒が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸、三弗化ホウ素、無水塩化アルミニウム、塩化亜鉛などのルイス酸などが挙げられる。その使用量は仕込み原料の総質量に対して、0.1〜5質量%なる範囲であることが好ましい。
【0049】
ここで、前記2,4’−ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン化合物(a)と、化合物(b)との仕込み割合は、質量基準で前者/後者=10/1〜1.1/1の範囲であることが、反応して得られるフェノール樹脂の軟化点が50〜180℃の範囲であることから好ましい。
【0050】
また、第1工程の反応は、水や有機溶剤の存在下に行うことが好ましい。有機溶媒としては特に限定されないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が挙げられる。水と有機溶媒を併用しても構わない。具体的には、例えば、攪拌機を内部に具備する反応容器内に、2,4’−ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン化合物(a)、前記化合物(b)、水とアルコール類(例:イソプロピルアルコール)とを仕込み、不活性ガス雰囲気下で攪拌を開始する。この際に加える、水、アルコール類は、系内が攪拌可能となるような量である。系内が分散された状態となった後、触媒(c)を加えて昇温し、リフラックス温度(95℃)を超えない温度でホールドして反応せしめる方法等が挙げられる。
【0051】
この工程1の反応において得られるフェノール樹脂の着色を抑制する点から、この反応系に酸化防止剤や還元剤を添加しても良い。酸化防止剤としては特に限定されないが、例えば2,6−ジアルキルフェノール誘導体などのヒンダートフェノール系化合物や2価のイオウ系化合物や3価のリン原子を含む亜リン酸エステル系化合物などを挙げることができる。還元剤としては、次亜リン酸、亜リン酸、チオ硫酸、亜硫酸、ハイドロサルファイトまたはこれらの塩などが挙げられる。
【0052】
次に、工程2は、上記工程1による反応が終了した後、得られた反応生成物を、前記化合物(b)に対して、質量基準で1.5〜8倍量の非水溶性有機溶媒に溶解させてフェノール樹脂溶液とする工程である。ここで用いる非水溶性有機溶媒の中でも、目的物であるフェノール樹脂の抽出効率が良好となる点から、非水溶性の脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、及び脂肪族ケトン有機溶媒が好ましい。ここで、非水溶性の脂肪族アルコールとしては、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、及びジエチレングリコールが挙げられる。非水溶性の脂肪族エーテルとしては、ジエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。非水溶性の脂肪族ケトンとしては、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが挙げられる。
【0053】
これらの中でも、特に沸点が100〜130℃の範囲であることが工程2における作業効率が良好な点から好ましく、具体的には、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、ジエチレングリコール、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0054】
工程1において、水や有機溶媒を併用した場合では、反応に供した水や縮合水を脱水させた後、非水溶性有機溶媒を用いて溶解させることが好ましい。上述した通り、前記化合物(b)に対して、質量基準で1.5〜8倍量の非水溶性有機溶媒で反応生成物から目的物たるフェノール樹脂を抽出してフェノール樹脂溶液とする工程である。
【0055】
次に工程3は、工程2で得られたフェノール樹脂溶液を水洗する工程である。水洗は常法に従って行うことができるが、フェノール樹脂溶液のpHが3〜7、好ましくは5〜7になるまで行うことが好ましい。また、工程3では、水洗の前、及び水洗時において、反応に用いた触媒(c)を中和剤によって予め中和処理を行っても良い。ここで用いられる中和剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0056】
次に工程4は、フェノール樹脂溶液から非水溶性有機溶媒を除去して目的物たるフェノール樹脂を得る工程である。フェノール樹脂溶液から非水溶性有機溶媒を除去する方法は、具体的には、加熱減圧蒸留によって非水溶性有機溶媒を除去すれば良い。この際の条件は、150〜200℃、3kPa以下の範囲であることが好ましい。
【0057】
以上の工程1〜工程4を経て、目的とするフェノール樹脂が得られる。
【0058】
得られるフェノール樹脂は、2,4’−ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン化合物(a)の化学構造種と、化合物(b)の化学構造種によって異なるものが得られるが、例えば、(a)に2,4’−ビス(ヒドロキシフェニル)スルホンを用い、(b)にパラキシリレングリコールジメトキサイドを選択した場合、下記構造式b1
【0059】
【化17】


または下記構造式b2
【0060】
【化18】


または下記構造式b3
【0061】
【化19】


の何れかで表される構造を繰り返し単位として有するフェノール樹脂の混合物となる。
【0062】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤として以上詳述したフェノール樹脂の他に、本発明の効果を損なわない範囲で他の硬化剤と併用することができる。エポキシ樹脂組成物中の全硬化剤に占める本発明のフェノール樹脂の割合が30重量%以上となる範囲、特に40重量%以上となる範囲であることが好ましい。
【0063】
前記フェノール樹脂と併用されうる他の硬化剤としては、特に制限されるものではなく、例えばアミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、前記したフェノール樹脂以外のフェノ−ル系化合物、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミンやベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)の多価フェノール化合物等が挙げられる。
【0064】
これらの中でも、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、ビフェニル変性ナフトール樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂が難燃性に優れることから好ましく、特にフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、ビフェニル変性ナフトール樹脂等の高芳香族性、高水酸基当量のフェノール樹脂や窒素原子を含有するアミノトリアジン変性フェノール樹脂等の化合物を用いることが、得られる硬化物の難燃性や誘電特性が優れる点から好ましい。
【0065】
本発明のエポキシ樹脂組成物で用いられるエポキシ樹脂(A)は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0066】
また上記したエポキシ樹脂以外に、本発明では、前記したフェノール樹脂を中間体とした前記エポキシ樹脂が挙げられる。
【0067】
これらのなかでも、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂及び「2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)がフェニレンビスアルキリデン基(Y)で結節されてなるフェノール樹脂」を中間体としたエポキシ樹脂が、低線膨張係数、強靭性、耐熱性に優れる特性を発現させる点から特に好ましい。
【0068】
本発明のエポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)の配合量としては、特に制限されるものではないが、得られる硬化物特性が良好である点から、エポキシ樹脂のエポキシ基の合計1当量に対して、前記フェノール樹脂を含む硬化剤中の活性基が0.5〜1.5当量になる量が好ましい。
【0069】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記した各成分に加え、更に、硬化促進剤(C)を併用してもよい。
【0070】
ここで使用し得る硬化促進剤(C)は、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。この中でも、硬化物の低線膨張係数化の効果が顕著なものとなる点からリン系化合物、第3級アミン、イミダゾールが好ましい。
【0071】
また、硬化促進剤(C)の添加量は、目標とする硬化時間等によって適宜調整することができるが、前記したエポキシ樹脂成分、硬化剤成分及び前記硬化促進剤(D)の総質量に対して0.01〜7質量%となる範囲であることが好ましい。
【0072】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、用途に応じて、上記した各成分に加え、更に有機溶剤(D)を使用することができる。例えば、エポキシ樹脂組成物を積層板用ワニスとして用いる場合には基材への含浸性が改善される他、ビルドアップ用接着フィルムとして用いる場合には、基材シートへの塗工性が良好になる。ここで使用し得る有機溶剤(D)は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0073】
また、有機溶剤(D)の添加量は、目標とする粘度によって適宜調整することができるが、固形分濃度([エポキシ樹脂(A)及びその他エポキシ樹脂成分+硬化剤(B)]/[エポキシ樹脂(A)及びその他エポキシ樹脂成分+硬化剤(B)+有機溶剤(D)]で示される質量基準の濃度)が、50〜80質量%となる範囲であることが好ましい。
【0074】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記した各成分に加え、更に、更に無機質充填材を使用することができる。この無機質充填材は、具体的には、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミ等が挙げられる。無機質充填材の配合量を特に大きくする場合は、溶融シリカを用いることが好ましい。溶融シリカは、破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め、且つ成形材料の溶融粘度の上昇を抑えるためには、球状のものを主に用いる方が好ましい。更に、球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布がより広くなるように調製することが好ましい。
ここで無機質充填材の使用量は、エポキシ樹脂組成物の用途に応じ適宜選択することができるが、例えばビルドアップフィルム絶縁層用途では、該無機質充填材の使用量を増加させた場合には、硬化物の線膨張係数はより低くなるものの、めっき層との接着性が低下する傾向にある。本発明のエポキシ樹脂組成物はその硬化物が顕著に低い線膨張係数を示すことから、ビルドアップフィルム絶縁層用途では無機質充填材の使用量を低く抑えることができ、例えば、エポキシ樹脂組成物中無機充填剤を80質量%以下となる範囲で用いることができ、特に20〜50質量%の範囲、更に20〜30質量%の範囲で用いることができる。また、ビルドアップフィルム絶縁層用途では、その硬化物の線膨張係数が低くいことから無機充填剤を何等使用することなく、ビルドアップフィルムに供することができる。
【0075】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、難燃剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料等の種々の配合剤を添加することができる。
【0076】
ここで、難燃剤としては、ハロゲン化合物、燐原子含有化合物や窒素原子含有化合物や無機系難燃化合物などが挙げられる。具体的には、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂などのハロゲン化合物、赤燐、燐酸エステル化合物などの燐原子含有化合物、メラミンなどの窒素原子含有化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、硼酸カルシウムなどの無機系難燃化合物が挙げられる。
【0077】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記した各成分を均一に混合することにより得られ、接着剤、塗料、半導体封止材、回路基板材、複合材料、及びビルドアップフィルム等の各種の用途に適用できる。
【0078】
例えば、無溶剤型の接着剤や塗料や封止材用エポキシ樹脂組成物を調整するには、当該エポキシ樹脂を含む、硬化剤及び、必要に応じて無機充填材などの成分を、予備混合した後に、撹拌混合機や押出機、ニ−ダ、ロ−ル等を用いて均一になるまで充分に混合して製造することができる。これらの用途において無機充填材の使用量は通常、充填率30〜95質量%となる範囲である。
【0079】
また、溶剤型の接着剤、塗料、銅張り積層板、ビルドアップ基板、繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物を調整するには、本発明のエポキシ樹脂成分、硬化剤成分、硬化促進剤、及び、必要により難燃剤等をトルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の有機溶剤に溶解させることにより製造することができる。この際の溶剤の使用量は、前記組成物ワニス中、10〜70質量%となる範囲であることが好ましい。
【0080】
この様にして得られた本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させるには、例えば、塗料用途の場合、上記の様にして調整された塗料を基材に塗布して、それを15〜200℃の環境で5分間〜1週間放置することによって、目的の塗膜硬化物を得ることができる。
【0081】
また、接着剤の場合は、それを用いて基材を接着後、塗料と同様にして硬化させればよい。封止材硬化物は、該組成物を注型、或いはトランスファ−成形機、射出成形機などを用いて成形し、さらに80〜200℃で2〜10時間に加熱することにより硬化物を得ることができる。
【0082】
また、回路基板材や複合材料用のワニス組成物の硬化物は積層物であり、この硬化物を得る方法としては、回路基板用ワニスをガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙などの基材に含浸させ加熱乾燥してプリプレグを得て、それを熱プレス成形して得ることができる。
【0083】
以上の各種用途のなかでも、本発明では、特に、ビルドアップフィルム絶縁層、及び、積層板用プリプレグがとりわけ有用である。
【0084】
本発明のビルドアップフィルム絶縁層用樹脂組成物からビルドアップフィルム絶縁層を製造する方法は、例えば、本発明のエポキシ樹脂組成物を、支持フィルム上に塗布、乾燥させてフィルム状の絶縁層を形成する方法が挙げられる。このようにして形成させたフィルム状の絶縁層は、多層プリント配線板用のビルドアップフィルムとして使用できる。
【0085】
本発明のエポキシ樹脂組成物から製造されたビルドアップフィルムは、真空ラミネート法におけるラミネートの温度条件(通常70℃〜140℃)で軟化し、回路基板のラミネートと同時に、回路基板に存在するビアホール或いはスルーホール内の樹脂充填が可能な流動性(樹脂流れ)を示すことが肝要であり、このような特性を発現するよう上記各成分を配合することが好ましい。
【0086】
ここで、多層プリント配線板のスルーホールの直径は通常0.1〜0.5mm、深さは通常0.1〜1.2mmであり、通常この範囲で樹脂充填可能となるようエポキシ樹脂組成物中の各配合成分を調節することが好ましい。なお回路基板の両面をラミネートする場合はスルーホールの1/2程度充填されることが望ましい。
【0087】
上記ビルドアップフィルムの製造方法について、更に詳述すれば、具体的にはワニス状の本発明のエポキシ樹脂組成物を調製した後、支持フィルム(y)の表面に、このワニス状の組成物を塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等の乾燥工程により有機溶剤を除去させることにより、絶縁層であるビルドアップフィルム樹脂組成物の層(x)を形成させることにより製造することができる。
【0088】
前記乾燥工程の条件は、ビルドアップフィルム樹脂組成物の層(x)中の有機溶剤(D)の含有率が10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させることが好ましい。乾燥条件はワニス中の有機溶媒量によっても異なるが、例えば30〜60質量%の有機溶剤を含むワニスを50〜150℃で3〜10分程度乾燥させることができる。
【0089】
形成される層(x)の厚さは、通常、導体層の厚さ以上とする。回路基板が有する導体層の厚さは通常5〜70μmの範囲であるので、樹脂組成物層の厚さは10〜100μmの厚みを有するのが好ましい。
【0090】
なお、本発明における層(x)は、保護フィルムで保護されることが、エポキシ樹脂組成物層表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができる点から好ましい。
【0091】
前記した支持フィルム及び保護フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、更には離型紙や銅箔、アルミニウム箔等の金属箔などを挙げることができる。なお、支持フィルム及び保護フィルムはマッド処理、コロナ処理の他、離型処理を施してあってもよい。
【0092】
支持フィルムの厚さは特に限定されないが、通常10〜150μmであり、好ましくは25〜50μmの範囲で用いられる。また保護フィルムの厚さは1〜40μmとするのが好ましい。
【0093】
上記した支持フィルム(y)は、回路基板にラミネートした後に、或いは加熱硬化することにより絶縁層を形成した後に、剥離される。接着フィルムを加熱硬化した後に支持フィルム(y)を剥離すれば、硬化工程でのゴミ等の付着を防ぐことができる。硬化後に剥離する場合、通常、支持フィルムには予め離型処理が施される。
【0094】
次に、上記のようして得られたビルドアップフィルムを用いて多層プリント配線板を製造する方法は、例えば、層(x)が保護フィルムで保護されている場合はこれらを剥離した後、層(x)を回路基板に直接接するように、回路基板の片面又は両面に、例えば真空ラミネート法によりラミネートする。ラミネートの方法はバッチ式であってもロールでの連続式であってもよい。またラミネートを行う前に接着フィルム及び回路基板を必要により加熱(プレヒート)しておいてもよい。
【0095】
ラミネートの条件は、圧着温度(ラミネート温度)を好ましくは70〜140℃、圧着圧力を好ましくは1〜11kgf/cm2(9.8×104〜107.9×104N/m2)とし、空気圧20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下でラミネートすることが好ましい。
【0096】
ここで、回路基板とは、ガラスエポキシ、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等の基板の片面又は両面にパターン加工された導体層(回路)が形成されたものが挙げられる。
【0097】
このように接着フィルムを回路基板にラミネートした後、支持フィルム(y)を剥離する場合は剥離し、熱硬化することにより回路基板に絶縁層が形成される。加熱硬化の条件は150℃〜220℃で20分〜180分の範囲で選択され、より好ましくは160℃〜200℃で30〜120分である。
【0098】
絶縁層を形成した後、硬化前に支持フィルム(y)を剥離しなかった場合は、ここで剥離する。次に回路基板上に形成された絶縁層に、ドリル、レーザー、プラズマ等の方法により、穴開けを行いビアホール、スルーホールを形成する。
【0099】
次いで、絶縁層表面を酸化剤より粗化処理を行う。酸化剤としては、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の過マンガン酸塩、重クロム酸塩、オゾン、及び硝酸等が挙げられる。
【0100】
次に、粗化処理により凸凹のアンカーが形成された樹脂組成物層表面に、無電解めっきと電解めっきを組み合わせた方法で導体層を形成する。また導体層とは逆パターンのめっきレジストを形成し、無電解めっきのみで導体層を形成してもよい。なお導体層形成後、150〜200℃で20〜90分アニール処理することにより、導体層のピール強度をさらに向上、安定化させることができる。本発明では、前記したとおり、無機充填材の使用量を低く抑えることができる点から、優れたピール強度を発現させることができる。
【0101】
また、導体層をパターン加工し回路形成する方法としては、例えばサブトラクティブ法、セミアディディブ法などを用いることができる。
【0102】
次に、繊維からなるシート状補強基材に本発明のエポキシ該樹脂組成物を含浸させて多層プリント配線板の層間絶縁層用のプリプレグを製造する方法は、例えば、本発明のエポキシ樹脂組成物を繊維からなるシート状補強基材にホットメルト法又はソルベント法により含浸させ、加熱により半硬化させることにより製造する方法が挙げられる。ここで使用し得る繊維からなるシート状補強基材としては、例えばガラスクロスやアラミド繊維等が挙げられる。
【0103】
次に上記プリプレグを用いて多層プリント配線板を製造する方法は、例えば回路基板に本発明のプリプレグを1枚あるいは必要により数枚重ね、離型フィルムを介して金属プレートを挟み加圧・加熱条件下でプレス積層する方法が挙げられる。圧力条件は具体的には5〜40kgf/cm、温度は120〜200℃で20〜100分の範囲であることが好ましい。また接着フィルムと同様に真空ラミネート法により回路基板にラミネートした後、加熱硬化することによっても製造可能である。その後、前に記載した方法と同様、酸化剤により硬化したプリプレグ表面を粗化した後、導体層をめっきにより形成して多層プリント配線板を製造することができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例及び比較例において本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例及び比較例中のエポキシ樹脂の性状値の測定方法は下記の通りである。
[エポキシ当量]
「JIS K7236(2001)」に準拠して測定した。
[軟化点]
「JIS K7234」に準拠して測定した。
[ICI粘度]
「ASTM D4287」に準拠して測定し、150℃における溶融粘度を測定した。
[GPC]
測定装置 :東ソー株式会社製「HLC−8220 GPC」、
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL−L」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G3000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G4000HXL」
検出器: RI(示差屈折径)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
測定条件: カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 : 前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
試料 : 樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)。
[FT−IR]
良くすりつぶした試料をKBrの脱水粉末と均一に混合(メノウ乳鉢)して成型器にいれ、真空加圧して透明な錠剤を作り、日本分光(株)製「FT/IR-550」を用いて測定した。
[NMR]
日本電子株式会社「NMR GSX270」にて測定した。
【0105】
実施例1(2,4’−ビスフェノールスルホンアラルキル樹脂の合成−1)
温度計、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、2,4’−ビスフェノールスルホン(日華化学株式会社製「BPS−24C」)250.0g(1.0モル)、パラキリレングリコールジメトキサイド(イハラニッケイ株式会社製「PXDM」)83.0g(0.50モル)、メチルイソブチルケトン337.5gを仕込み、系内を減圧窒素置換して攪拌、分散させた。その後、窒素ガスパージを施しながら、パラトルエンスルホン酸・1水和物 3.3gを添加して、昇温を開始した。系内温度が150℃となるまで昇温した結果、分留管内にメチルイソブチルケトン約280gが留去した状態となり、同温度でホールドし、5時間反応を続けた。反応によって生成するメタノールは分留菅で系外から除去した。その後、メチルイソブチルケトン500.0gを添加して、系内を80℃に降温させて、同温度で水洗を行った。水洗は、水200gを用いて7回、水層のpHが中性となるまで実施した。次いで共沸によって系内を脱水し、精密濾過を経た後に、溶媒を減圧下で留去して、2,4’−ビスフェノールスルホンアラルキル型フェノール樹脂(P−1)292.0gを得た。このフェノール樹脂(P−1)の軟化点115℃、ICI粘度62dPa・s(150℃)、前記構造式1における繰り返し単位の平均nの値は0.4であった。フェノール樹脂(P−1)のGPCチャート図を図1に、IRスペクトル図を図2に、13C−NMRチャート図を図3に示す。
【0106】
実施例2(2,4’−ビスフェノールスルホンアラルキル型フェノール樹脂の合成−2)
実施例1における、パラキシリレングリコールジメトキサイド(イハラニッケイ株式会社製「PXDM」)83.0g(0.5モル)を、41.5g(0.25モル)に変更する以外は、実施例1と同様にして2,4’−ビスフェノールスルホンアラルキル型フェノール樹脂(P−2)267.2gを得た。このフェノール樹脂(P−2)は、軟化点は測定不能(結晶析出)、ICI粘度2.5dPa・s(150℃)、前記構造式1における繰り返し単位の平均nの値は0.1であった。フェノール樹脂(P−2)のGPCチャート図を図4に、IRスペクトル図を図5に、13C−NMRチャート図を図6に示す。
【0107】
比較例1(4,4’−ビスフェノールスルホンアラルキル型フェノール樹脂の合成)
実施例1における2,4’−ビスフェノールスルホン250gを4,4’−ビスフェノールスルホン(小西化学工業製「BS−PN」)250gに変更する以外は、実施例1と同様にしてアラルキル化反応を実施したが、原料自体、及び得られるフェノール樹脂の結晶性が強く溶解性が悪いためか、樹脂を得ることすらできなかった。
【0108】
実施例3〜6及び比較例2〜6
表1及び表2に示す各成分を配合比率に従って、エポキシ樹脂組成物(ワニス)を調整した。次に、この樹脂ワニスを銅箔(厚さ18μm)上に、乾燥後の樹脂厚みが70μmとなるようにダイコーターにて塗布し、80℃〜120℃(平均100℃)で10分乾燥させ、180℃で1.5時間の硬化させた。その後、エッチング液(第二塩化鉄液)にて全面エッチングを行い、乾燥させることでフィルム状硬化物試験片を得、評価に供した。
【0109】
<耐熱性(ガラス転移温度)>
粘弾性測定装置(DMA:レオメトリック社製固体粘弾性測定装置RSAII、レクタンギュラーテンション法;周波数1Hz、昇温速度3℃/min)を用いて、弾性率変化が最大となる(tanδ変化率が最も大きい)温度をガラス転移温度として評価した。
【0110】
<熱膨張係数の評価>
硬化物フィルムを幅約3mm長さ約15mmの試験片とし、熱機械分析装置(TMA:セイコーインスツルメント社製SS−6100)を用いて、引張モードで熱機械分析を行った。(測定架重:30mN、昇温速度:3℃/分で2回、測定温度範囲:−50℃から250℃)
2回目の測定における、1)ガラス領域(50℃)における線膨張係数、2)硬化物が暴される温度領域における線膨張係数(30℃から150℃の温度範囲における平均膨張係数)を評価した。
【0111】
<硬化物の強靭性(機械強度)の評価>
硬化物フィルムを用いて、日本工業規格(JIS K7127)に準拠し、引張破断強度測定を行った。
【0112】
【表1】


【0113】
【表2】

【0114】
表1及び表2中の各成分は、以下の通りである。
エポキシ樹脂(R−1):大日本インキ化学工業株式会社製ナフタレン型2官能エポキシ樹脂(1,6−ジグリシジルオキシナフタレン)「エピクロン HP−4032」(エポキシ当量:150g/当量 褐色半固形 ICI粘度 <0.1dPa.s
【0115】
エポキシ樹脂(R−2):大日本インキ化学工業株式会社製ナフタレン型4官能エポキシ樹脂(ビス(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン)「エピクロン HP−4700」(エポキシ当量:167g/当量 軟化点:91℃ ICI粘度 4.5dPa.s)
【0116】
エポキシ樹脂(R−3):大日本インキ化学工業株式会社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂「エピクロン 850S」(エポキシ当量:188g/当量 液状 ICI粘度 <0.1dPa.s)
【0117】
硬化剤(H−1):大日本インキ化学工業株式会社製フェノールノボラック樹脂「フェノライトTD−2090−60M」(水酸基当量105g/当量、固形分軟化点120℃、不揮発分60質量%(溶剤:MEK))
【0118】
硬化剤(H−2):大日本インキ化学工業株式会社製メラミン変性フェノールノボラック樹脂「フェノライトLA−1356」(水酸基当量146g/当量、固形分軟化点135℃、不揮発分60質量%、窒素含有量19質量%)
2E4MZ:2−エチル−4−メチルイミダゾール)
MEK:メチルエチルケトン
※1):MEKは、前記硬化剤(H−1)及び硬化剤(H−2)中に含まれているMEKの量を考慮して、組成物全体に占めるMEKの全量が表1又は表2中の量となるように配合した。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】図1は実施例1で得られたフェノール樹脂(P−1)のGPCチャート図である。
【図2】図2は実施例1で得られたフェノール樹脂(P−1)のFT−IRスペクトル図である。
【図3】図3は実施例1で得られたフェノール樹脂(P−1)の13C−NMRチャート図である。
【図4】図4は実施例2で得られたフェノール樹脂(P−2)のGPCチャート図である。
【図5】図5は実施例2で得られたフェノール樹脂(P−2)のFT−IRスペクトル図である。
【図6】図6は実施例2で得られたフェノール樹脂(P−2)の13C−NMRチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、前記硬化剤(B)が、
複数のビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)がフェニレンビスアルキリデン基(Y)を介して結節された分子構造を有するフェノール樹脂であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェノール樹脂の分子構造中に含まれるビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)が2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造である請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記フェノール樹脂が、
前記2,4’−ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)を「X」、
前記フェニレンビスアルキリデン基(Y)を「Y」
水素原子を「H」
とした場合に、下記一般式(1)
【化1】

(式中、nは繰り返し単位の平均で0.05〜5.0である。)
で表されるものである請求項2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)中、「X」で表される前記ビス(ヒドロキシフェニレン)スルホン構造(X)が、下記構造式X1で表される構造部位、
【化2】

下記構造式X2で表される構造部位、
【化3】


及び、下記構造式X3で表される構造部位、
【化4】

(上記各構造式X1〜X3中、R、R、R3、R4、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子を表す。)
からなる群から選択されるものであり、かつ、
「Y」で表される前記フェニレンビスアルキリデン基(Y)が、下記構造式Y1
【化5】


(式中、R9、及びR10はそれぞれ独立的に水素原子又はメチル基を表す。)
で表されるものである請求項3記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)に加え、更に、硬化促進剤(C)を含有する請求項1〜4の何れか1つに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)に加え、更に、有機溶剤(D)を、固形分濃度(A+Bの割合)が50〜80質量%となる割合で含有する請求項1〜5の何れか1つに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1つに記載のエポキシ樹脂組成物からなることを特徴とするビルドアップフィルム絶縁層用樹脂組成物。
【請求項9】
下記一般式(1)
【化6】

(式中、nは繰り返し単位の平均で0.05〜5.0である。)
で表される分子構造を有し、かつ、該一般式(1)中、「X」で表される構造部位が、
下記構造式X1で表される構造部位、
【化7】


下記構造式X2で表される構造部位、
【化8】


及び、下記構造式X3で表される構造部位、
【化9】

(上記各構造式X1〜X3中、R、R、R3、R4、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子を表す。)
からなる群から選択されるものであり、かつ、
該一般式(1)中、「Y」で表される構造部位が、下記構造式Y1
【化10】


(式中、R9、R10はそれぞれ独立的に水素原子又はメチル基を表す。)
で表されるものであることを特徴とする新規フェノール樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−297431(P2008−297431A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144984(P2007−144984)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】