説明

エポキシ樹脂組成物のための活性剤

本発明は、式(I)の熱硬化性エポキシ樹脂組成物もしくは式(Ia)のイソシアネートまたはエポキシドでの変換物のための活性剤と、当該活性剤の熱硬化性エポキシ樹脂組成物での使用とに関する。当該活性剤は、すぐれた活性作用と貯蔵安定性とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性エポキシ樹脂による骨組用接着剤の領域に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物は以前から知られている。熱硬化性エポキシ樹脂組成物の重要な使用領域は車両組立であり、特に接着または骨組内の空洞の充填に際して使用される。どちらの場合においても、エポキシ樹脂組成物が塗布された後、ボディがKTL(陰極浸漬塗装)炉内で加熱され、それによって熱硬化性エポキシ樹脂組成物も硬化し、場合によっては発泡する。
【0003】
迅速な硬化を可能にするために、一般的にはエポキシ樹脂用の熱活性化硬化剤の他に、促進剤または活性剤が用いられる。しかしながら、不利なことに、大部分の活性剤もしくは促進剤では、硬化したエポキシ樹脂の機械的性質は著しく低下する。活性剤もしくは促進剤としては、尿素の他にイミダゾリンが知られている。例えば、欧州特許出願公開第0501074号明細書には1‐イソプロピル‐2‐フェニル‐イミダゾリンが記載されており、米国特許第4,246,394号明細書は熱硬化性エポキシ樹脂組成物で使用するための様々なイミダゾリンを開示している。最後に、米国特許第4,997,951号明細書には、サリチル酸メチルから生成されるイミダゾリンが記載されている。しかしながら、これらのイミダゾリンにはある程度の欠点が、特に活性化挙動において見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0501074号明細書
【特許文献2】米国特許第4,246,394号明細書
【特許文献3】米国特許第4,997,951号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1152019号明細書
【特許文献5】米国特許第5,707,439号明細書
【特許文献6】米国特許第6,197,849号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第0308664号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第0338985号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第0353190号明細書
【特許文献10】国際公開第00/20483号パンフレット
【特許文献11】国際公開第01/94492号パンフレット
【特許文献12】国際公開第03/078163号パンフレット
【特許文献13】国際公開第2005/007766号パンフレット
【特許文献14】欧州特許出願公開第1728825号明細書
【特許文献15】国際公開第2006/052726号パンフレット
【特許文献16】国際公開第2006/052729号パンフレット
【特許文献17】国際公開第2004/055092号パンフレット
【特許文献18】国際公開第2005/007720号パンフレット
【特許文献19】国際公開第2007/020266号パンフレット
【特許文献20】独国特許出願公開第123033号明細書
【特許文献21】米国特許出願公開第2008/0076886号明細書
【特許文献22】国際公開第2008/016889号パンフレット
【特許文献23】国際公開第2007/025007号パンフレット
【特許文献24】米国特許第6,322,890号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Roempp, CD Roempp Chemie Lexikon, Version 1, Stuttgart/New York, Georg Thieme Verlag 1995
【非特許文献2】T.J.Hermel-Davidock et al., J.Polym.Sci.Part B: Polym.Phys. 2007, 45, 3338-3348
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物のための新しい活性剤であって、作用効果が良好であるにも関わらず、高い貯蔵安定性を有する活性剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、本課題は請求項1に記載の活性剤によって解決されることが明らかになっている。
【0008】
当該活性剤は、比較的低い温度においてすでに、エポキシ樹脂の硬化を強く活性化もしくは促進している。しかしながら当該活性剤はさらに、高い貯蔵安定性も有しているので、問題なくエポキシ樹脂に添加することが可能であり、かつ、長時間に渡って50℃未満の温度で貯蔵することが可能である。それに加えて、硬化したエポキシ樹脂組成物の機械的性質は、当該活性剤によっては低下しないか、低下したとしても非常にわずかな程度であることが明らかになっている。
【0009】
また、請求項8にしたがって熱硬化性エポキシ樹脂組成物が製造される。
【0010】
本発明のさらなる態様は、請求項15に記載の接着方法と、請求項16に記載の使用と、請求項17に記載の接着した物品と、に関する。
【0011】
特に好ましい実施形態は従属請求項の対象である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の態様において、本発明はエポキシ樹脂組成物のための活性剤Cに関する。活性剤Cは式(I)を有するか、または式(Ia)の化合物をイソシアネートまたはエポキシドで変換したものである。
【0013】
【化1】

【0014】
式中、nは1、2、3、または4である。
【0015】
さらにR2およびR3は、互いに独立に、H、OH、ハロゲン、NH2、NHR7、もしくはN(R7)2であるか、または、特に炭素数1〜10のアルコキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、もしくはアリールアルキル基であるか、あるいは、R2およびR3は共に、場合によっては置換された脂環または芳香環を形成する。
【0016】
R4およびR5は、互いに独立に、HもしくはOHであるか、または、R4およびR5は共に、場合によっては置換された脂環または芳香環を形成する。好ましくは、アルコキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、もしくはアリールアルキル基は炭素数が1〜10であり、特にC4〜C6のアルキレン基である。
【0017】
さらにR1は、n価の、場合によってはヘテロ原子を有する、脂肪族、脂環族、もしくは芳香族の有機残基であるか、または、R1は式(II)の残基である。
【0018】
【化2】

【0019】
式中、i、j、およびkはそれぞれ0〜10の値であるが、iとjとの合計は少なくとも2であることが条件である。XはO、S、またはNR7である。YはOR7、SR7、もしくはN(R7)(R7’)、または式(III)の置換基である。
【0020】
【化3】

【0021】
R2’およびR3’は、互いに独立に、H、OH、ハロゲン、NH2、NHR7、もしくはN(R7)2であるか、または、アルコキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、もしくはアリールアルキル基であるか、あるいは、R2’およびR3’は共に、場合によっては置換された脂環または芳香環を形成する。
【0022】
最後にR7およびR7’は、互いに独立に、Hであるか、または、炭素数1〜8のアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、もしくはアリール基である。
【0023】
本明細書の式中の破線は、各場合に、置換基とそれに結合した分子の残基との間の結合を示す。
【0024】
ここでは、残基R2、R3、R4、およびR5のうち少なくとも1つがHではないこと、ならびに、残基R2’および/またはR3’が存在する場合、残基R2、R2’、R3、R3’のうち少なくとも3つがHではないことが条件である。
【0025】
好ましくは、R1は式(II)の残基である。
【0026】
本明細書において「互いに独立に」とは、置換基、残基または基に関して、同じ表記の置換基、残基、または基が、同一の分子において同時に様々な意味を有していても良い、という解釈において使用される。
【0027】
本発明にとっては、残基R2、R3、R4、およびR5のうち少なくとも1つがHではないことが重要であることに注意すべきである。したがって、特に1‐メチル‐2‐フェニル‐イミダゾリン、1‐イソプロピル‐2‐フェニル‐イミダゾリン、または2‐フェニル‐イミダゾリンは式(I)には合致せず、それゆえに本発明に係る活性剤ではない。
【0028】
特に活性剤Cは、式(I-1)または(I-2)を有する。
【0029】
【化4A】

【化4B】

【0030】
式中、gは0、1、2、または3であり、hは0、1、または2である。
【0031】
残基R2およびR2’は特にOHであり、R3および/またはR3’は特にOH、Cl、CH3、またはOCH3である。好ましくは、R2およびR2’はそれぞれOHであり、R3およびR3’はそれぞれClである。さらに、好ましくは、R2およびR2’はそれぞれOHであり、R3およびR3’はそれぞれCH3である。好ましくは、R2およびR3、もしくはR2’およびR3’は互いにメタの位置にある。
【0032】
【化5】

【0033】
式(I-1)、(I-1’)、および(I-2)の場合のように、活性剤Cの式中に残基R2’および/またはR3’が存在する場合、本発明にとっては残基R2、R3、R4、およびR5のうち少なくとも1つがHではないことが重要である一方で、残基R2、R2’、R3、R3’のうち少なくとも3つがHではないことも重要であることに注意すべきである。
【0034】
したがって、特に以下の2つの式の化合物は式(I)には合致せず、それゆえに本発明に係る活性剤ではない。
【0035】
【化6】

【0036】
式(I)の活性剤Cの大部分は、式(I-1a)のカルボン酸メチルエステル(Methylsaeureester)とアミンとから製造される。
【0037】
また、式(I-1)の活性剤Cは、式(I-1a)および/または式(I-1a’)のカルボン酸メチルエステルと、式(I-1b)のポリアミンとから製造される。好ましくは、R2および/またはR2’は、エステル基に対してオルトの位置にある。
【0038】
【化7】

【0039】
式(I-2)の活性剤Cは、式(I-1a)のカルボン酸メチルエステルと、式(I-2b)のポリアミンとから製造される。このとき、式(I-2c)の中間生成物が生じる。当該中間生成物は、閉環によって縮合し、式(I-2)の活性剤に変換可能である。
【0040】
【化8】

【0041】
これらの反応は一般的に、(I-1a)と(I-1b)もしくは(I-2b)のモル比が少なくとも2:1、特に3:1〜4:1で行われる。変換が2:1よりも小さいモル比で行われると、式(I-3a)または(I-3b)の化合物が生成される。
【0042】
【化9】

【0043】
式(I-3a)または(I-3b)の化合物は、式(I-1a’)のカルボン酸メチルエステルによって活性剤に変換可能である。当該活性剤において、R2≠R2’および/またはR3≠R3’である。
【0044】
式(I-1a)のカルボン酸メチルエステルを、式(I-4a)のアミンで変換すると、式(I-4)の活性剤Cが製造される。
【0045】
【化10】

【0046】
式(I-1a)のカルボン酸メチルエステルを、h=0における式(I-2b)のアミンに相当する、式(I-5a)のアミンで変換すると、化学量論に応じて、カルボン酸メチルエステルと式(I-5a)のアミンとの間に、式(I-5)、式(I-5’)、または式(I-5’’)の活性剤Cが製造される。
【0047】
【化11】

【0048】
さらに活性剤Cは、式(Ia)の化合物のイソシアネート、特にモノイソシアネートまたはジイソシアネートでの変換物であり得る。このとき特に、活性剤Cは少なくとも式(Ia-1)の構造要素を有する。
【0049】
【化12】

【0050】
イソシアネートとしては、特にモノイソシアネートまたはジイソシアネートが適している。モノイソシアネートとしては、特にフェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、またはトルイルスルホニルモノイソシアネートが適している。
【0051】
ジイソシアネートとしては、脂肪族、脂環族、芳香族、またはアラリファティック(araliphatisch)ジイソシアネートが適しており、特にメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルオールジイソシアネート(TDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、2,5‐または2,6‐ビス‐(イソシアナトメチル)‐ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,5‐ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジシクロヘキシルメチルジイソシアネート(H12MDI)、p‐フェニレンジイソシアネート(PPDI)、m‐テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ならびにこれらの二量体または三量体が適している。
【0052】
好ましいジイソシアネートはHDI、IPDI、MDI、またはTDIである。
【0053】
フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、およびトルオールジイソシアネート(TDI)から成る群から選択されるモノイソシアネートまたはジイソシアネートが好ましい。
【0054】
式(Ia)の化合物のイソシアネートでの変換は、ポリウレタンの当業者に知られている方法で行われる。
【0055】
さらに活性剤Cは、式(Ia)の化合物の、エポキシド、特にモノグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、またはトリグリシジルエーテルでの変換物であり得る。このとき特に、活性剤Cは少なくとも式(Ia-2)の、特に式(Ia-2’)の構造要素を有する。
【0056】
【化13】

【0057】
エポキシドとして特に適しているのは、
‐飽和または不飽和の、分岐状または直鎖状の、環式または鎖式のC4〜C30の1価アルコールのグリシジルエーテルであり、特にブタノールグリシジルエーテル、ヘキサノールグリシジルエーテル、2‐エチルヘキサノールグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、テトラヒドロフルフリルグリシジルエーテル、フルフリルグリシジルエーテル、トリメトキシシリルプロピルグリシジルエーテル(3‐グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン)から成る群から選択されるもの、
‐飽和または不飽和の、分岐状または直鎖状の、環式または鎖式のC2〜C30の2価アルコールのグリシジルエーテルであり、特にエチレングリコールグリシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、ヘキサンジオールグリシジルエーテル、オクタンジオールグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルから成る群から選択されるもの、
‐飽和または不飽和の、分岐状または直鎖状の、環式または鎖式の3価または多価アルコールのグリシジルエーテルで、例えばエポキシ化ひまし油、エポキシ化トリメチロールプロパン、エポキシ化ペンタエリスリトール、またはソルビトール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル、
‐フェノール化合物およびアニリン化合物のグリシジルエーテルであり、特にフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p‐tert‐ブチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェノールグリシジルエーテル、3‐n‐ペンタデセニル‐グリシジルエーテル(カシューナッツシェルオイルからのもの)、N,N‐ジグリシジルアニリン、およびp‐アミノフェノールのトリグリシジルから成る群から選択されるもの、
‐N,N‐ジグリシジルシクロへキシルアミンなどのエポキシ化アミン、
‐エポキシ化モノカルボン酸またはジカルボン酸であり、特にネオデカン酸‐グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、安息香酸グリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、および二量体の脂肪酸のジグリシジルエステル、ならびにテレフタル酸グリシジルエステル、トリメリット酸グリシジルエステルから成る群から選択されるもの、
‐エポキシ化された、低分子量から高分子量までの2価または3価のポリエーテルポリオールであり、特にポリエチレングリコール‐ジグリシジルエーテルまたはポリプロピレングリコール‐ジグリシジルエーテル、および、
‐熱硬化性エポキシ樹脂組成物の構成要素としてのエポキシ樹脂Aと表記されるエポキシ樹脂であり、特にビスフェノール‐Aおよび/またはFのジグリシジルエーテル、
である。
【0058】
特に好ましいのは、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p‐tert‐ブチルフェニルグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、およびポリエチレングリコールジグリシジルエーテルである。
【0059】
式(Ia)の化合物のエポキシドでの変換は、エポキシの当業者に知られている方法で行われる。
【0060】
ポリエポキシド、すなわち特にジグリシジルエーテルまたはトリグリシジルエーテルの場合、式(Ia)を準化学量論的に設定すると、少なくとも1つの遊離エポキシ基を有する活性剤Cが生成される。このようにして活性剤Cは、以下に記載する熱硬化性エポキシ樹脂組成物において、その活性化機能を負うものであるが、最終的にはエポキシ樹脂基体に化学的に含有される。それによって、活性剤Cが次第に、特に熱、水、または化学的負荷などの環境による影響を受けて、硬化した組成物から分離され、硬化した組成物と接触する周囲に放出されることが防止される。
【0061】
基本的に、活性剤Cは第1級または第2級アミノ基を有さない方が良い。しかしながら、活性剤Cが当該アミノ基を有していたとしても重大な問題ではない。なぜなら、活性剤Cは、以下に記載する熱硬化性エポキシ樹脂組成物において使用される場合にエポキシ樹脂と反応するが、当該反応では、同じく活性剤として機能する高分子量の変換物が生成されるにとどまるからである。また、この場合、エポキシ樹脂と活性剤との濃度比によって、活性化を行うイミダゾリン構造の他に遊離エポキシ基をも有する変換物が生成されるとも考えられる。これによって、当該活性剤も同様にエポキシ樹脂基体に含有され、上記の利点がもたらされる。
【0062】
驚くべきことに、活性剤Cが熱によってエポキシ樹脂の硬化を非常に効率良く活性化することが明らかになっている。この改善された活性化は、比較的低い温度での硬化に際して作用する。このことは、DSCにおいて、活性剤Cを含有するエポキシ樹脂混合物を最初に加熱した際に、反応のピークもしくはいわゆるオンセットが、活性剤Cを含有しない対応組成物と比較してより低い温度に移動することによって明らかである。したがって、すでに150℃から、時にはすでに140℃から硬化が可能である。当該硬化は、いわゆる低温加熱(low-bake)硬化プロセスで必要とされる。
【0063】
比較的低い温度で硬化が行われるが、硬化したエポキシ樹脂組成物のガラス転移点(Tg)は悪化しないか、悪化したとしてもわずかな程度である。
【0064】
同時に、この増加した活性がエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性にネガティブな影響を与えることはない。40℃までの温度で貯蔵している間、一般的には半年以上という長期間に渡って貯蔵しても、組成物の粘度が大幅に上昇することはないか、またはゲル化は全く生じない。
【0065】
さらなる態様において、本発明は、
a)分子当り平均して1つ以上のエポキシ基を有する少なくとも1つのエポキシ樹脂Aと、
b)エポキシ樹脂用の、加熱によって活性化する少なくとも1つの硬化剤Bと、
c)これまでで詳細に説明された、少なくとも1つの活性剤Cと、
を含有する熱硬化性エポキシ樹脂組成物に関する。
【0066】
分子当り平均して1つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂Aは、好ましくはエポキシ液状樹脂またはエポキシ固体樹脂である。「エポキシ固体樹脂」という概念は、エポキシの当業者には非常によく知られており、「エポキシ液状樹脂」との対照において用いられる。固体樹脂のガラス転移点は雰囲気温度よりも高い。すなわち、固体樹脂は雰囲気温度においては、ばら積み可能な粉末になる。
【0067】
好ましいエポキシ固体樹脂は式(X)を有する。
【0068】
【化14】

【0069】
式中、置換基R’およびR’’は、互いに独立に、HまたはCH3である。さらに、指数sは1.5よりも大きく、特に2〜12である。
【0070】
こうしたエポキシ固体樹脂は、例えばDow社、Huntsman社、またはHexion社などの製品として入手可能である。
【0071】
式(X)で指数sが1〜1.5の化合物は、当業者によって半固体エポキシ樹脂と呼ばれている。本発明に関しては、半固体樹脂も同じく固体樹脂とみなされる。しかしながら、好ましいのは狭義のエポキシ樹脂、すなわち指数sが1.5よりも大きい樹脂である。
【0072】
好ましいエポキシ液状樹脂は式(XI)を有する。
【0073】
【化15】

【0074】
式中、置換基R’’’およびR’’’’は、互いに独立に、HまたはCH3である。さらに、指数rは0〜1である。好ましくは指数rは0.2よりも小さい。
【0075】
したがって、ビスフェノール‐A(DGEBA)、ビスフェノール‐F、およびビスフェノール‐A/Fのジグリシジルエーテルが好ましい(ここでA/Fという表記は、アセトンとホルムアルデヒドとの混合物を示しており、当該混合物は製造時の出発物質として用いられる)。当該液状樹脂は、例えばHuntsman社のAraldite(登録商標)GY 250、Araldite(登録商標)PY 304、Araldite(登録商標)GY 282、またはDow社のD.E.R.(登録商標) 331もしくはD.E.R.(登録商標) 330、またはHexion社のEpikote 828として入手できる。
【0076】
さらに、エポキシ樹脂Aとして適しているのは、いわゆるノボラックである。ノボラックは特に以下の式を有する。
【0077】
【化16】

【0078】
ここでは特に、フェノールまたはクレゾールのノボラックである(R2=CH2)。
【0079】
これらのエポキシ樹脂は、Huntsman社の商品名EPNもしくはECN、ならびにTactix(登録商標)の製品として、またはDow Chemical社のD.E.N.(登録商標)シリーズの製品として入手可能である。
【0080】
好ましくはエポキシ樹脂Aは、式(XI)のエポキシ液状樹脂である。さらに好ましい実施形態において、熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、少なくとも1つの式(XI)のエポキシ液状樹脂と、少なくとも1つの式(X)のエポキシ固体樹脂とを含有する。
【0081】
組成物の重量におけるエポキシ樹脂Aの占める割合は、好ましくは10重量%〜85重量%、より好ましくは15重量%〜70重量%、さらに好ましくは15重量%〜60重量%である。
【0082】
本発明に係る組成物はさらに、少なくとも1つの加熱によって活性化するエポキシ樹脂用硬化剤Bを含む。このとき、ジシアンジアミド、グアナミン、グアニジン、アミノグアニジン、およびそれらの誘導体から成る群から選択される硬化剤が好ましい。さらに、置換尿素のような促進効果のある硬化剤であっても良い。例えば、3‐(3‐クロロ‐4‐メチルフェニル)‐1,1‐ジメチル尿素(クロロトルロン)、またはフェニル‐ジメチル尿素などであり、特にp‐クロロフェニル‐N,N‐ジメチル尿素(モニュロン)、3‐フェニル‐1,1‐ジメチル尿素(フェヌロン)、3,4‐ジクロロフェニル‐N,N‐ジメチル尿素(ジウロン)、またはN,N‐ジメチル尿素である。さらに、イミダゾール類とアミン錯体との化合物も用いられる。
【0083】
好ましくは硬化剤Bは、ジシアンジアミド、グアナミン、グアニジン、アミノグアニジン、およびそれらの誘導体;置換尿素、特に3‐(3‐クロロ‐4‐メチルフェニル)‐1,1‐ジメチル尿素(クロロトルロン)、またはフェニル‐ジメチル尿素、特にp‐クロロフェニル‐N,N‐ジメチル尿素(モニュロン)、3‐フェニル‐1,1‐ジメチル尿素(フェヌロン)、3,4‐ジクロロフェニル‐N,N‐ジメチル尿素(ジウロン)、N,N‐ジメチル尿素、ならびにイミダゾール、イミダゾール塩、およびアミン錯体から成る群から選択される硬化剤である。
【0084】
硬化剤Bとして特に好ましいのは、ジシアンジアミドである。
【0085】
組成物の総重量における硬化剤Bの占める割合の合計は、好ましくは1重量%〜10重量%、より好ましくは2重量%〜8重量%である。
【0086】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、さらに尿素誘導体に基づくチキソトロープ剤Cを含有しても良い。当該尿素誘導体は、特に芳香族単量体ジイソシアネートの、脂肪族アミン化合物での変換物である。複数の異なる単量体ジイソシアネートを、1つもしくは複数の脂肪族アミン化合物で変換すること、または、1つの単量体ジイソシアネートを複数の脂肪族アミン化合物で変換することも十分に可能である。特に有利なのは、4,4’‐ジフェニルメチレン‐ジイソシアネート(MDI)のブチルアミンでの変換物であることが明らかになっている。
【0087】
好ましくは、尿素誘導体は基材中に存在する。当該基材は軟化剤、特にフタル酸塩またはアジピン酸塩、好ましくはジイソデシルフタレート(DIDP)またはジオクチルアジペート(DOA)である。当該基材は拡散しない基材であっても良い。これは、反応しなかった成分の、硬化の後での移動を極力少なくするために好ましい。拡散しない基材として好ましいのは、ブロックしたポリウレタンプレポリマーである。
【0088】
このような好ましい尿素誘導体および基材の製造について、欧州特許出願公開第1152019号明細書に詳細に記載されている。有利には、当該基材はブロックしたポリウレタンプレポリマーであり、特に三官能性ポリエーテルポリオールのIPDIでの変換、および、その後に行われる末端イソシアネート基のε‐カプロラクタムでのブロックから得られる。
【0089】
組成物全体の重量におけるチキソトロープ剤Cの占める割合の合計は、好ましくは0重量%〜40重量%、より好ましくは5重量%〜25重量%である。尿素誘導体の重量の、場合によって存在する基材の重量に対する比は、好ましくは2/98〜50/50、より好ましくは5/95〜25/75である。
【0090】
さらに、単一成分の熱硬化性エポキシ樹脂組成物が、少なくとも1つの増粘剤Dを追加的に含有していると特に有利であることが明らかになっている。この追加的な増粘剤Dは、固体状でも液状でも良い。
【0091】
特に増粘剤Dは、ブロックしたポリウレタンポリマー、液状ゴム、エポキシ樹脂で修飾された液状ゴム、およびコアシェルポリマーから成る群から選択される。
【0092】
一実施形態において、増粘剤Dは液状ゴムD1であり、液状ゴムD1はアクリロニトリル/ブタジエン‐コポリマーである。当該コポリマーは、カルボキシル基、(メタ)アクリレート基、もしくはエポキシ基で終端しているか、またはその誘導体である。このような液状ゴムは、例えばドイツのNanoresins AG社もしくはEmerald Performance Materials LLC社のHypro(登録商標)(旧Hycar(登録商標))CTBN、CTBNX、およびETBNなどの製品として入手できる。誘導体として適しているのは、特にエポキシ基を有する、エラストマーで修飾されたプレポリマーであり、例えば、Struktol(登録商標)社(Schill+Seilacherグループ、ドイツ)のPolydis(登録商標)シリーズ、好ましくはPolydis(登録商標)36から、またはAlbipoxシリーズ(Nanoresins、ドイツ)から、製品として入手できる。
【0093】
さらなる実施形態において、増粘剤Dはポリアクリレート液状ゴムD2である。液状ゴムD2はエポキシ液状樹脂と完全に混合可能であるとともに、エポキシ樹脂基材の硬化に際して初めて微小液滴に分離する。このようなポリアクリレート液状ゴムは、例えばRohm and Haas社の20208-XPAとして入手可能である。
【0094】
当業者には、液状ゴムの混合物ももちろん使用可能であるということ、特にカルボキシルもしくはエポキシ末端アクリロニトリル/ブタジエン‐コポリマーまたはその誘導体と、エポキシ末端ポリウレタンプレポリマーとの混合物が使用可能であるということが明らかである。
【0095】
さらなる実施形態において、増粘剤Dはイオン交換した有機層状鉱物DE1である固体状増粘剤である。
【0096】
イオン交換した層状鉱物D1は、陽イオン交換した層状鉱物DE1cか、または陰イオン交換した層状鉱物DE1aである。
【0097】
このとき、陽イオン交換した層状鉱物DE1cは、少なくとも陽イオンの一部が有機陽イオンによって交換された層状鉱物DE1’から得られる。このような陽イオン交換した層状鉱物DE1cの例は、特に米国特許第5,707,439号明細書または米国特許第6,197,849号明細書に記載されている。また、当該特許文献には、陽イオン交換した層状鉱物DE1cの製造方法も記載されている。好ましくは、層状鉱物DE1’は層状ケイ酸塩である。層状鉱物DE1’として特に好ましいのは、米国特許第6,197,849号明細書の第2欄第38行〜第3欄第5行に記載されたフィロケイ酸塩、特にベントナイトである。カオリナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、またはイライトなどの層状鉱物DE1’が特に適していることが明らかになっている。
【0098】
層状鉱物DE1’の陽イオンの少なくとも一部は、有機陽イオンによって交換される。このような陽イオンの例として挙げられるのは、n‐オクチル‐アンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、ジメチルドデシルアンモニウム、ビス(ヒドロキシエチル)オクタデシルアンモニウム、もしくは天然の油脂から得られる、類似のアミン誘導体;またはグアニジン陽イオンもしくはアミジン陽イオン;またはピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリンのN‐置換誘導体の陽イオン;または1,4‐ジアゾビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)および1‐アゾビシクロ[2.2.2]オクタンの陽イオン;またはピリジン、ピロール、イミダゾール、オキサゾール、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、ピラジン、インドール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサジオール、チアゾール、フェナジン、2,2’‐ビピリジンのN‐置換誘導体の陽イオンである。さらに、特に米国特許第6,197,849号明細書の第3欄第6行〜第4欄第67行に記載された環状アミジン陽イオンが適している。環状アンモニウム化合物は、熱によるホフマン分解が生じないので、直鎖アンモニウム化合物に比べて高い熱安定性を有する。
【0099】
好ましい陽イオン交換した層状鉱物DE1cは、当業者には有機粘土またはナノクレイという術語で知られており、例えばSuedchemie社のTixogel(登録商標)、Nanofil(登録商標)、Southern Clay Products社のCloisite(登録商標)、Nanocor Inc.のNanomer(登録商標)、Rockwood社のGaramite(登録商標)などのシリーズで製品として入手できる。
【0100】
このとき、陰イオン交換した層状鉱物DE1aは、少なくとも陰イオンの一部が有機陰イオンによって交換された層状鉱物DE1’’から得られる。このような陰イオン交換した層状鉱物DE1aの例としては、ハイドロタルサイトDE1’’が挙げられる。ハイドロタルサイトDE1’’においては、中間層の炭酸アニオンの少なくとも一部が有機陰イオンによって交換されている。
【0101】
当該組成物が、陽イオン交換した層状鉱物DE1cと陰イオン交換した層状鉱物DE1aとを同時に含有することも十分に可能である。
【0102】
さらなる実施形態において、増粘剤Dは固体状増粘剤であり、当該固体状増粘剤はブロックコポリマーDE2である。ブロックコポリマーDE2は、メタクリル酸エステルと、オレフィン二重結合を有する少なくとも1つのさらなるモノマーとの陰イオン重合または制御ラジカル重合から得られる。オレフィン二重結合を有するモノマーとして特に好ましいのは、当該二重結合がヘテロ原子と、または少なくとも1つのさらなる二重結合と直接結合しているようなモノマーである。特に適しているのは、スチロール、ブタジエン、アクリロニトリル、酢酸ビニルを含む群から選択されるモノマーである。好ましいのはアクリレート‐スチロール‐アクリロニトリル(ASA)コポリマーであり、例えばGE Plastics社のGELOY 1020などで製品として入手できる。
【0103】
特に好ましいブロックコポリマーDE2は、メタクリル酸メチルエステル、スチロール、およびブタジエンからなるブロックコポリマーである。このようなブロックコポリマーは、例えばトリブロックコポリマーとして、Arkema社のSBMシリーズなどで入手できる。
【0104】
さらなる実施形態において、増粘剤DはコアシェルポリマーDE3である。コアシェルポリマーは、弾性コアポリマーと硬質シェルポリマーとから成る。特に適しているのは、弾性アクリレートポリマーまたはブタジエンポリマーによるコアから成るコアシェルポリマーである。当該コアを、硬質の熱可塑性ポリマーの硬質シェルが包囲している。このコアシェル構造は、ブロックコポリマーの分離によって自然に生成されるか、またはラテックスとしての重合によって、もしくは懸濁重合と後続のグラフトによって得られる。好ましいコアシェルポリマーはいわゆるMBSポリマーであり、Atofina社のClearstrength(登録商標)、Rohm and Haas社のParaloid(登録商標)、またはZeon社のF-351(登録商標)などで入手できる。
【0105】
特に好ましいのは、すでに乾燥ポリマーラテックスとして存在するコアシェルポリマー粒子である。例えば、ポリシロキサンコアとアクリレートシェルとを有するWacker社のGENIOPERL M23A、Eliokem社のNEPシリーズの放射線架橋ゴム粒子、Lanxess社のNanoprene、Rohm and Haas社のParaloid EXL、またはKaneka社のKane ACE MX-120である。
【0106】
コアシェルポリマーのさらなる比較可能な例としては、ドイツのNanoresins AG社のAlbidur(登録商標)が挙げられる。
【0107】
エポキシ基体中のナノスケールケイ酸塩も適している。例えば、ドイツのNanoresins AG社のNonopoxなどである。
【0108】
さらなる実施形態において、増粘剤Dは、カルボキシル化された固体ニトリルゴムの過剰エポキシ樹脂での変換物DE4である。
【0109】
さらなる実施形態において、増粘剤Dは式(IV)のブロックされたポリウレタンポリマーである。
【0110】
【化17】

【0111】
式中、mおよびm’はそれぞれ0〜8の値であるが、m+m’=1〜8であることが条件である。
【0112】
さらに、Y1は、m+m’イソシアネート基で終端した、直鎖状または分岐状のポリウレタンポリマーPU1の、全ての末端イソシアネート基を取り除いたものである。
【0113】
Y2は互いに独立に、100℃を超える温度で分離するブロック基である。
【0114】
Y3は互いに独立に、式(IV’)の基である。
【0115】
【化18】

【0116】
式中、R14は、第1級または第2級ヒドロキシル基を有する脂肪族、脂環族、芳香族、またはアラリファティックエポキシドの残基の、ヒドロキシ基およびエポキシ基を取り除いたものであり、pは1、2、または3である。
【0117】
本明細書において「アラリファティックな残基」とは、アラルキル基、すなわちアリール基によって置換されたアルキル基と理解される(Roempp, CD Roempp Chemie Lexikon, Version 1, Stuttgart/New York, Georg Thieme Verlag 1995を参照のこと)。
【0118】
Y2は特に互いに独立に、以下の群から選択される置換基である。
【0119】
【化19】

【0120】
式中、R15、R16、R17、およびR18はそれぞれ互いに独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、もしくはアリールアルキル基であるか、またはR15はR16とともに、もしくはR17はR18とともに、必要に応じて置換される四員環〜七員環の一部を形成する。
【0121】
さらに、R19、R19’、およびR20はそれぞれ互いに独立に、アルキル基、アラルキル基、もしくはアリールアルキル基であるか、またはアルキルオキシ基、アリールオキシ基、もしくはアラルキルオキシ基であり、R21はアルキル基である。
【0122】
R23およびR24はそれぞれ互いに独立に、場合によっては二重結合を有するか、もしくは置換される炭素数2〜5のアルキレン基、またはフェニレン基、または水素化されたフェニレン基であり、R25、R26、およびR27はそれぞれ互いに独立に、H、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基である。
【0123】
最後に、R28はアラルキル基、または単環もしくは多環の置換されたもしくは無置換の、場合によっては芳香族ヒドロキシル基を有する芳香族基である。
【0124】
R28は一方では特に、ヒドロキシル基を取り除いた後のフェノールまたはビスフェノールと見なされる。このようなフェノールおよびビスフェノールの例として好ましいのは、特にフェノール、クレゾール、レゾルシノール、カテコール、カルダノール(3‐ペンタデセニルフェノール(カシューナッツシェルオイルからのもの))、ノニルフェノール、スチロールまたはジシクロペンタジエンで変換されたフェノール、ビスフェノール‐A、ビスフェノール‐F、および2,2’‐ジアリル‐ビスフェノール‐Aである。
【0125】
R28は他方では特に、ヒドロキシル基を取り除いた後のヒドロキシベンジルアルコールおよびベンジルアルコールであると見なされる。
【0126】
R15、R16、R17、R18、R19、R19’、R20、R21、R25、R26、またはR27がアルキル基である場合、当該基は特に直鎖状または分岐状のC1‐C20‐アルキル基である。
【0127】
R15、R16、R17、R18、R19、R19’、R20、R25、R26、R27、またはR28がアラルキル基である場合、この分類は特にメチレンを介して結合した芳香族、特にベンジル基である。
【0128】
R15、R16、R17、R18、R19、R19’、またはR20がアルキルアリール基である場合、当該基は特にフェニレンを介して結合したC1‐C20‐アルキル基、例えばトリルまたはキシリルである。
【0129】
特に好ましい残基Y2は、以下の群から選択される残基である。
【0130】
【化20】

【0131】
式中、残基Yは炭素数1〜20の飽和炭化水素残基またはオレフィンの不飽和炭化水素残基であるが、炭素数は1〜15が好ましい。Yとしては特にアリル、メチル、ノニル、ドデシル、または1〜3の二重結合を有する不飽和のC15‐アルキル残基が好ましい。
【0132】
残基XはHか、またはアルキル基、アリール基、アラルキル基、特にHまたはメチルである。
【0133】
指数z’およびz’’は0、1、2、3、4、または5の値であるが、z’+z’’が1〜5の値であることが条件である。
【0134】
好ましくはmは0ではない。
【0135】
式(IV)のブロックされたポリウレタンポリマーの製造は、1つまたは複数のイソシアネート反応性化合物Y2Hおよび/またはY3Hを有する、イソシアネート基で終端化された、直鎖状または分岐状ポリウレタンポリマーPU1から行われる。このようなイソシアネート反応性化合物が複数用いられる場合、当該反応は順次的に行われるか、またはこれらの化合物を混合して行われる。
【0136】
当該変換は、1つまたは複数のイソシアネート反応性化合物Y2Hおよび/またはY3Hが化学量論にしたがって、または化学量論的に過剰に使用されることによって、全てのNCO基が確実に変換されるように行われる。
【0137】
イソシアネート反応性化合物Y3Hは、式(IVa)のモノヒドロキシル‐エポキシ化合物である。
【0138】
【化21】

【0139】
このようなモノヒドロキシル‐エポキシ化合物を複数使用する場合、当該反応は順次的に行われるか、またはこれらの化合物を混合して行われる。
【0140】
式(IVa)のモノヒドロキシル‐エポキシ化合物は、1、2、または3つのエポキシ基を有する。当該モノヒドロキシル‐エポキシ化合物(IVa)のヒドロキシル基は、第1級または第2級ヒドロキシル基であり得る。
【0141】
このようなモノヒドロキシル‐エポキシ化合物は、例えばポリオールのエピクロルヒドリンでの変換から製造される。反応の進行によっては、多価アルコールをエピクロルヒドリンで変換する際に副生成物として、様々な濃度の、対応するモノヒドロキシル‐エポキシ化合物も生成される。当該化合物は通常の分離操作によって分離する。しかし一般的には、ポリオールのグリシジル化反応の際に得られる、完全および部分的にグリシジルエーテルに反応したポリオールによる混合物を用いれば十分である。このようなヒドロキシル含有エポキシドの例は、ブタンジオールモノグリシジルエーテル(ブタンジオールジグリシジルエーテルに含有される)、ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル(ヘキサンジオールジグリシジルエーテルに含有される)、シクロヘキサンジメタノールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル(トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル中に混合物として含まれる)、グリセリンジグリシジルエーテル(グリセリントリグリシジルエーテル中に混合物として含まれる)、ペンタエリスライトトリグリシジルエーテル(ペンタエリスライトテトラグリシジルエーテル中に混合物として含まれる)である。好ましくは、通常の方法で製造されたトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル中に比較的大きな割合で見られるトリメチロールプロパンジグリシジルエーテルが使用される。
【0142】
しかしまた、その他類似のヒドロキシル含有エポキシド、特にグリシドール、3‐グリシジルオキシベンジルアルコール、またはヒドロキシメチル‐シクロヘキセン酸化物も用いることができる。さらに、ビスフェノール‐A(R=CH3)およびエピクロルヒドリンから製造されたエポキシ液状樹脂製品に約15%含まれる式(IVb)のβ‐ヒドロキシエーテルと、ビスフェノール‐F(R=H)またはビスフェノール‐Aとビスフェノール‐Fとの混合物がエピクロルヒドリンと反応する際に生成される、式(IVb)の対応するβ‐ヒドロキシエーテルとが好ましい。
【0143】
【化22】

【0144】
さらに、高純度の蒸留エポキシ液状樹脂を製造する際に生じる蒸留残滓も好ましい。このような蒸留残滓は、非蒸留エポキシ液状樹脂製品の1〜3倍の濃度のヒドロキシル含有エポキシドを有する。さらに、β‐ヒドロキシエーテル基を有する様々なエポキシドを用いても良い。当該エポキシドは、(ポリ)エポキシドと、化学量論的に不足した量のカルボン酸、フェノール、チオール、または第2級アミンなどの1価の求核試薬との反応によって製造される。
【0145】
特に好ましくは、残基R14は、以下の式の3価の残基である。
【0146】
【化23】

【0147】
式中、RはメチルまたはHである。
【0148】
式(IVa)のモノヒドロキシル‐エポキシ化合物の自由な第1級または第2級OH官能性によって、エポキシ成分を過度に過剰に使用せずとも、ポリマーの末端イソシアネート基での効率的な変換が可能になる。
【0149】
Y1が基盤にするポリウレタンポリマーPU1は、少なくとも1つのジイソシアネートまたはトリイソシアネートから、ならびに、末端アミノ基、チオール基、またはヒドロキシル基を有する少なくとも1つのポリマーQPMから、および/または場合によって置換されるポリフェノールQPPから製造される。
【0150】
適したジイソシアネートは例えば、脂肪族、脂環族、芳香族、またはアラリファティックジイソシアネート、特にメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、1,4‐ブタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルオールジイソシアネート(TDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、2,5‐または2,6‐ビス‐(イソシアナトメチル)‐ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,5‐ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジシクロヘキシルメチルジイソシアネート(H12MDI)、p‐フェニレンジイソシアネート(PPDI)、またはm‐テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ならびにこれらの二量体などの製品である。好ましいのはHDI、IPDI、MDI、またはTDIである。
【0151】
適したトリイソシアネートは例えば、脂肪族、脂環族、芳香族、またはアラリファティックジイソシアネートの三量体またはビウレット、特に前段落に記載したジイソシアネートのイソシアヌレートおよびビウレットである。
【0152】
自明のことながら、ジイソシアネートまたはトリイソシアネートの適切な混合物を用いても良い。
【0153】
末端アミノ基、チオール基、またはヒドロキシル基を有するポリマーQPMとしては、特に2つまたは3つの末端アミノ基、チオール基、またはヒドロキシル基を有するポリマーQPMが適している。
【0154】
ポリマーQPMは、好ましくは300〜6000、より好ましくは600〜4000、さらに好ましくは700〜2200g/等価NCO‐反応基の当量を有する。
【0155】
ポリマーQPMとして適しているのは特に、ポリエーテルポリオールとも称される、ポリオキシアルキレンポリオール、ヒドロキシ基で終端化されたポリブタジエンポリオール、スチロール‐アクリロニトリルをグラフトしたポリエーテルポリオール、ポリヒドロキシ基で終端化されたアクリロニトリル/ブタジエン‐コポリマー、ポリエステルポリオール、ならびにポリカーボネートポリオールである。
【0156】
ポリフェノールQPPとして特に適しているのは、ビスフェノール、トリスフェノール、およびテトラフェノールである。これには、純粋なフェノールだけではなく、場合によっては置換されたフェノールも含まれるものと理解される。置換方法は非常に多様であり得る。これには特に、フェノール性OH基が結合している芳香環での直接の置換が含まれるものと理解される。さらにフェノールには、単環式芳香族化合物だけではなく、多環式芳香族化合物、縮合芳香族化合物、またはヘテロ芳香族化合物も含まれるものと理解される。当該芳香族化合物は、芳香環に直接フェノール性OH基を有しているか、もしくはヘテロ芳香環を有している。
【0157】
特に適しているのは、ビスフェノールおよびトリスフェノールである。ビスフェノールまたはトリスフェノールとして適しているのは例えば、1,4‐ジヒドロキシベンゼン、1,3‐ジヒドロキシベンゼン、1,2‐ジヒドロキシベンゼン、1,3‐ジヒドロキシトルオール、3,5‐ジヒドロキシベンゾエート、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノール‐A)、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)メタン(=ビスフェノール‐F)、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホン(=ビスフェノール‐S)、ナフトレゾルシン、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシアントラキノン、ジヒドロキシ‐ビフェニル、3,3‐ビス(p‐ヒドロキシフェニル)フタリド、5,5‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)ヘキサヒドロ‐4,7‐メタノインダン、フェノールフタレイン、フルオレセイン、4,4’‐[ビス‐(ヒドロキシフェニル)‐1,3‐フェニレンビス‐(1‐メチル‐エチリデン)](=ビスフェノール‐M)、4,4’‐[ビス‐(ヒドロキシフェニル)‐1,4‐フェニレンビス‐(1‐メチル‐エチリデン)](=ビスフェノール‐P)、2,2’‐ジアリル‐ビスフェノール‐A、フェノールまたはクレゾールのジ‐イソプロピリデンベンゼンでの変換によって製造されるジフェノールおよびジクレゾール、フロログルシン、没食子酸エステル、OH官能性2.0〜3.5のフェノールまたはクレゾールのノボラック、ならびに前記化合物のあらゆる異性体である。
【0158】
組成物内に必要に応じて存在する増粘剤Dとして特に適しているのは、ヒドロキシル基を有する両親媒性ブロックコポリマーである増粘剤である。例えば、Dow Chemical社のFortegra(登録商標)、特にFortegra(登録商標) 100、もしくはそのポリイソシアネートおよび場合によってはさらなるイソシアネート反応性化合物との変換物である。
【0159】
組成物内に必要に応じて存在する増粘剤Dとして特に適しているのは、以下の論文もしくは特許文献に開示されたものであり、その内容は、参照することによって本願に組み込まれている:欧州特許出願公開第0308664号明細書、特に式(I)、特に第5ページ第14行〜第13ページ第24行;欧州特許出願公開第0338985号明細書、欧州特許出願公開第0353190号明細書、国際公開第00/20483号パンフレット、特に式(I)、特に第8ページ第18行〜第12ページ第2行;国際公開第01/94492号パンフレット、特にD)およびE)と表記された反応生成物、特に第10ページ第15行〜第14ページ第22行;国際公開第03/078163号パンフレット、特にB)と表記されたアクリレートで終端化されたウレタン樹脂、特に第14ページ第6行〜第14ページ第35行;国際公開第2005/007766号パンフレット、特に式(I)または式(II)、特に第4ページ第5行〜第11ページ第20行;欧州特許出願公開第1728825号明細書、特に式(I)、特に第3ページ第21行〜第4ページ第47行;国際公開第2006/052726号パンフレット、特にb)と表記された両親媒性ブロックコポリマー、特に第6ページ第17行〜第9ページ第10行;国際公開第2006/052729号パンフレット、特にb)と表記された両親媒性ブロックコポリマー、特に第6ページ第25行〜第10ページ第2行;T.J.Hermel-Davidock et al., J.Polym.Sci.Part B: Polym.Phys. 2007, 45, 3338-3348、特に両親媒性ブロックコポリマー、特に第3339ページ第2欄〜第3341ページ第2欄;国際公開第2004/055092号パンフレット、特に式(I)、特に第7ページ第28行〜第13ページ第15行;国際公開第2005/007720号パンフレット、特に式(I)、特に第8ページ第1行〜第17ページ第10行;国際公開第2007/020266号パンフレット、特に式(I)、特に第3ページ第1行〜第11ページ第6行;独国特許出願公開第123033号明細書;米国特許出願公開第2008/0076886号明細書;国際公開第2008/016889号パンフレット;国際公開第2007/025007号パンフレット。
【0160】
組成物内には複数の増粘剤、特に複数の増粘剤Dが存在すると有利であることが明らかになっている。
【0161】
組成物の重量における増粘剤Dの割合は、好ましくは1重量%〜35重量%、より好ましくは1重量%〜25重量%である。
【0162】
さらなる好ましい実施形態では、当該組成物はさらに少なくとも1つの増量剤Fを含有している。このとき好ましいのは、雲母、タルク、カオリン、珪灰石、長石、閃長岩、緑泥石、ベントナイト、モンモリロナイト、炭酸カルシウム(沈殿または粉末)、ドロマイト、石英、ケイ酸(焼成または沈殿)、クリストバライト、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、セラミックス中空球、ガラス中空球、有機中空球、ガラス球、着色顔料である。増量剤Fとしては、有機で層状の形態と、層状ではなく、製品として入手可能で、当業者に知られた形態とが考えられる。
【0163】
さらなる例としては、米国特許第6,322,890号明細書などに記載された、官能化されたアルモキサン(Alumoxane)が挙げられる。
【0164】
組成物の重量における増量剤Fの割合は、好ましくは3重量%〜50重量%、より好ましくは5重量%〜35重量%、さらに好ましくは5重量%〜25重量%である。
【0165】
さらなる好ましい実施形態では、当該組成物は物理的または化学的発泡剤を含有している。例えば、Akzo Nobel社のExpancel(登録商標)、Chemtura社のCelogen(登録商標)、またはLehmann&Voss社のLuvopor(登録商標)などである。組成物の重量における発泡剤の割合は、好ましくは0.1重量%〜3重量%である。
【0166】
さらなる好ましい実施形態では、当該組成物はさらに、エポキシ基を有する反応性希釈剤Gを少なくとも1つ含有している。反応性希釈剤Gは特に、
‐飽和または不飽和の、分岐状または直鎖状の、環式または鎖式のC4〜C30の1価アルコールのグリシジルエーテルであり、特にブタノールグリシジルエーテル、ヘキサノールグリシジルエーテル、2‐エチルヘキサノールグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、テトラヒドロフルフリルグリシジルエーテル、フルフリルグリシジルエーテル、トリメトキシシリルプロピルグリシジルエーテル(3‐グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン)から成る群から選択されるもの、
‐飽和または不飽和の、分岐状または直鎖状の、環式または鎖式のC2〜C30の2価アルコールのグリシジルエーテルであり、特にエチレングリコールグリシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、ヘキサンジオールグリシジルエーテル、オクタンジオールグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルから成る群から選択されるもの、
‐飽和または不飽和の、分岐状または直鎖状の、環式または鎖式の3価または多価アルコールのグリシジルエーテルで、例えばエポキシ化ひまし油、エポキシ化トリメチロールプロパン、エポキシ化ペンタエリスリトール、またはソルビトール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル、
‐フェノール化合物およびアニリン化合物のグリシジルエーテルであり、特にフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p‐tert‐ブチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェノールグリシジルエーテル、3‐n‐ペンタデセニル‐グリシジルエーテル(カシューナッツシェルオイルからのもの)、N,N‐ジグリシジルアニリン、およびp‐アミノフェノールのトリグリシジルから成る群から選択されるもの、
‐N,N‐ジグリシジルシクロへキシルアミンなどのエポキシ化アミン、
‐エポキシ化モノカルボン酸またはジカルボン酸であり、特にネオデカン酸‐グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、安息香酸グリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、および二量体の脂肪酸のジグリシジルエステル、ならびにテレフタル酸グリシジルエステル、トリメリット酸グリシジルエステルから成る群から選択されるもの、
‐エポキシ化された、低分子量から高分子量までの2価または3価のポリエーテルポリオールであり、特にポリエチレングリコール‐ジグリシジルエーテルまたはポリプロピレングリコール‐ジグリシジルエーテル、
である。
【0167】
特に好ましいのは、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p‐tert‐ブチルフェニルグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、およびポリエチレングリコールジグリシジルエーテルである。
【0168】
組成物の重量におけるエポキシ基を有する反応性希釈剤Gの割合は、好ましくは0.1重量%〜20重量%、より好ましくは1重量%〜8重量%である。
【0169】
当該組成物はさらなる成分、特に触媒、安定剤、特に熱安定剤および/または光安定剤、チキソトロープ剤、軟化剤、溶媒、無機または有機増量剤、発泡剤、着色剤および顔料、防食剤、界面活性剤、消泡剤、ならびに接着促進剤を含有しても良い。
【0170】
軟化剤として特に適しているのは、フェノール‐アルキルスルホン酸エステルまたはベンゼンスルホン酸‐N‐ブチルアミドである。例えば、Bayer社のMesamoll(登録商標)もしくはDellatol BBSなどが製品として入手可能である。
【0171】
安定剤として特に適しているのは、Elikem社のBHTもしくはWingstay(登録商標)Tなどの必要に応じて置換されたフェノール、立体障害性アミン、またはEvonik社のTEMPOなどのN‐オキシル化合物である。
【0172】
前記熱硬化性エポキシ樹脂組成物が特に単一成分の接着剤に適していることが明らかになっている。このような単一成分接着剤は、幅広く使用することができる。比較的高い温度でも、特に0℃〜−40℃の低い温度でも衝撃靭性が高いという特徴を備えた熱硬化性単一成分接着剤が特に実現可能である。このような接着剤は、熱安定性物質の接着に必要とされる。熱安定性物質として理解されるのは、100℃〜220℃、好ましくは120℃〜200℃の硬化温度において、少なくとも硬化時間の間は形態が安定している物質である。例えば特に、ABS、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルなどの金属およびプラスチック、SMCなどの複合材料、不飽和ポリエステルGFK、エポキシまたはアクリレート混合物である。当該物質を使用する際、少なくとも1つの物質が金属であると好ましい。特に好ましくは、同じまたは異なる金属を特に自動車の骨組に接着させるために用いられる。特に好ましい金属は鋼であり、特に電解亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、オイルコーティングが施された鋼、ボナジンク(Bonazink)でコーティングされた鋼、および後からリン酸塩処理された鋼、ならびに特に自動車製造において一般的に用いられる種類のアルミニウムである。
【0173】
本発明に係る熱硬化性組成物に基づく接着剤によって、高い衝撃靭性と、高い使用温度および低い使用温度との所望の組み合わせが実現する。
【0174】
このような接着剤は特に、接着すべき物質と10℃〜80℃、好ましくは10℃〜60℃の温度で接触し、その後一般には100℃〜220℃、好ましくは120℃〜200℃で硬化する。
【0175】
本発明のさらなる態様は、熱安定性基板の接着方法に関する。当該方法は、
i) 以上で詳細に説明した熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、熱安定性基板S1の表面、特に金属表面に塗布するステップと、
ii) 塗布された熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、さらなる熱安定性基板S2の表面、特に金属表面に接触させるステップと、
iii) 当該組成物を100℃〜220℃、好ましくは140℃〜200℃、より好ましくは160℃〜190℃にまで加熱するステップと、
を有する。
【0176】
基板S2はS1と同じ物質または異なる物質から構成される。
【0177】
このような熱安定性物質の接着方法に基づいて、物品の接着が行われる。好ましくは、接着した物品は、車両または車両の一部である。
【0178】
自明のことながら、本発明に係る組成物によって、熱硬化性接着剤の他にもシール剤またはコーティング剤を実現することもできる。さらに、本発明に係る組成物は自動車製造だけではなく、その他の使用領域にも適している。特に船舶、貨物車、バス、もしくは鉄道車両などの輸送手段の製造、または洗濯機などの耐久使用財の製造において、類似の使用がなされる。
【0179】
本発明に係る組成物によって接着された物質は、一般的には120℃〜−40℃の間、好ましくは100℃〜−40℃の間、より好ましくは80℃〜−40℃の間で使用される。
【0180】
本発明に係る熱硬化性エポキシ樹脂組成物の特に好ましい使用は、車両製造における骨組用熱硬化性単一成分接着剤としての使用、または硬化剤としての使用、または構造物および補強要素の空洞を補強するための、発泡可能な熱硬化性組成物としての使用である。
【実施例1】
【0181】
活性剤の製造
C-1およびC-3に関する一般的な指示(1つのイミダゾリン構造を有する)
0.5molのアミンをエチレングリコールに溶解させた後、0.33molの各エステルを130℃で滴加した。反応が完全に行われた後、0.17molのエステルを再び添加し、4時間に渡って130℃で攪拌した。その後、2時間に渡って170℃でさらに攪拌し、活性剤が結晶化するまで溶媒のエチレングリコールを真空下で蒸留した。上記の場合とは異なり、溶液が細かく砕いた氷の上に注がれ、活性剤が粉末として沈殿する場合もあった。
【0182】
C-2およびC-参考例に関する一般的な指示(2つのイミダゾリン構造を有する)
0.25molのアミンを、エチレングリコール中に溶解した0.75molのエステルにゆっくりと滴加した。混合液を加熱し、4時間に渡って130℃で攪拌した。除去および分離はすでにモル比1:1の場合について説明したように行われた。蒸留に際しては、過剰なエステルも除去された。
【0183】
【表1】

【0184】
エポキシ樹脂組成物の製造
1〜6および参考例1〜2のエポキシ樹脂組成物を製造するために、Huntsman社のAraldite(登録商標)GY 250(“BADGE”)およびAlzchem社のDyhard(登録商標)100SF(Dicyandiamid)(“dicy”)の混合物に、各活性剤が加えられた。表2には、その量が部で示されている。
【0185】
このようにして混合されたエポキシ樹脂組成物をそれぞれ、Mettler社のDSC 822Eにセットし、測定を行った(25℃から250℃への加熱を、10K/分の速度で行った)。測定された曲線から、反応のピークの最大値をTmaxとして、当該曲線から算出されたオンセットをTonsetとして決定した。
【0186】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂組成物のための活性剤Cであって、前記活性剤は式(I)を有するか、または式(Ia)の化合物のイソシアネートもしくはエポキシドでの変換物であり、
【化1】

式中、nは1、2、3、または4であり、
R1は、n価の、場合によってはヘテロ原子を有する、脂肪族、脂環族、もしくは芳香族の有機残基であるか、または、R1は式(II)の残基であり、
【化2】

式中、i、j、およびkはそれぞれ0〜10の値であるが、iとjとの合計は少なくとも2であることが条件であり、XはO、S、またはNR7であり、YはOR7、SR7、もしくはN(R7)(R7’)、または式(III)の置換基であり、
【化3】

R2’およびR3’は、互いに独立に、H、OH、ハロゲン、NH2、NHR7、もしくはN(R7)2であるか、または、アルコキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、もしくはアリールアルキル基であるか、あるいは、R2’およびR3’は共に、場合によっては置換された脂環または芳香環を形成し、
R7およびR7’は、互いに独立に、Hであるか、または、炭素数1〜8のアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、もしくはアリール基であり、
R2およびR3は、互いに独立に、H、OH、ハロゲン、NH2、NHR7、もしくはN(R7)2であるか、またはアルコキシ基、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、もしくはアリールアルキル基であるか、あるいは、R2およびR3は共に、場合によっては置換された脂環または芳香環を形成し、
R4およびR5は、互いに独立に、HもしくはOHであるか、または、R4およびR5は共に、場合によっては置換された脂環もしくは芳香環を形成するが、
残基R2、R3、R4、およびR5のうち少なくとも1つがHではないこと、ならびに、残基R2’および/またはR3’が存在する場合、残基R2、R2’、R3、およびR3’のうち少なくとも3つがHではないことが条件である活性剤。
【請求項2】
前記活性剤Cが式(I-1)または(I-2)を有しており、
【化4A】

【化4B】

式中、gは0、1、2、または3であり、hは0、1、または2であることを特徴とする請求項1に記載の活性剤。
【請求項3】
R2およびR2’はOHであり、R3および/またはR3’はOH、Cl、CH3、またはOCH3、好ましくはClであることを特徴とする請求項2に記載の活性剤。
【請求項4】
前記活性剤Cは、式(Ia)の化合物のイソシアネート、特にモノイソシアネートまたはジイソシアネートでの変換物であり、少なくとも式(Ia-1)
【化5】

の構造要素を有することを特徴とする請求項1に記載の活性剤。
【請求項5】
前記モノイソシアネートまたは前記ジイソシアネートが、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、およびトルオールジイソシアネート(TDI)から成る群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の活性剤。
【請求項6】
前記活性剤Cは、式(Ia)の化合物の、エポキシド、特にモノグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、またはトリグリシジルエーテルでの変換物であり、式(Ia-2)の、特に式(Ia-2’)
【化6】

の構造要素を少なくとも1つ有することを特徴とする請求項1に記載の活性剤。
【請求項7】
前記活性剤Cは、第1級または第2級アミノ基を有さないことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の活性剤。
【請求項8】
a)分子当り平均して1つ以上のエポキシ基を有する少なくとも1つのエポキシ樹脂Aと、
b)エポキシ樹脂用の、加熱によって活性化する少なくとも1つの硬化剤Bと、
c)請求項1から7のいずれか一項に係る少なくとも1つの活性剤Cと、
を含有する熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂組成物が、少なくとも1つの増粘剤Dを追加的に含有していることを特徴とする請求項8に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
前記増粘剤Dは、ブロックされたポリウレタンポリマー、液状ゴム、エポキシ樹脂で修飾された液状ゴム、およびコアシェルポリマーから成る群から選択されることを特徴とする請求項9に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
前記増粘剤Dは液状ゴムであり、前記液状ゴムはアクリロニトリル/ブタジエン‐コポリマーであり、前記コポリマーは、カルボキシル基、(メタ)アクリレート基、もしくはエポキシ基で終端しているか、またはその誘導体であることを特徴とする請求項10に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
前記増粘剤Dは、式(IV)のブロックされたポリウレタンポリマーであり、
【化7】

式中、Y1は、m+m’イソシアネート基で終端した、直鎖状または分岐状のポリウレタンポリマーPU1の、全ての末端イソシアネート基を取り除いたものであり、
Y2は互いに独立に、100℃を超える温度で分離するブロック基であり、
Y3は互いに独立に、式(IV’)の基であり、
【化8】

式中、R14は、第1級または第2級ヒドロキシル基を有する脂肪族、脂環族、芳香族、またはアラリファティック(araliphatisch)エポキシドの残基の、ヒドロキシ基およびエポキシ基を取り除いたものであり、
pは1、2、または3であり、
mおよびm’はそれぞれ0〜8の値であるが、m+m’=2〜8であることが条件であることを特徴とする請求項9または10に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
Y2は、
【化9】

から成る群から選択される残基であり、
式中、R15、R16、R17、およびR18はそれぞれ互いに独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、もしくはアリールアルキル基であるか、またはR15はR16とともに、もしくはR17はR18とともに、必要に応じて置換される四員環〜七員環の一部を形成し、
R19、R19’、およびR20はそれぞれ互いに独立に、アルキル基、アラルキル基、アリール基、もしくはアリールアルキル基であるか、またはアルキルオキシ基、アリールオキシ基、もしくはアラルキルオキシ基であり、
R21はアルキル基であり、
R22、R23、およびR24はそれぞれ互いに独立に、場合によっては二重結合を有するか、もしくは置換される炭素数2〜5のアルキレン基、またはフェニレン基、または水素化されたフェニレン基であり、
R25、R26、およびR27はそれぞれ互いに独立に、H、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基であり、
R28はアラルキル基、または単環もしくは多環の置換されたもしくは無置換の、場合によっては芳香族ヒドロキシル基を有する芳香族基であることを特徴とする請求項12に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項14】
mは0ではないことを特徴とする請求項12または13に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項15】
i)請求項8から14のいずれか一項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、熱安定性基板S1の表面、特に金属表面に塗布するステップと、
ii)塗布された前記熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、さらなる熱安定性基板S2の表面、特に金属表面に接触させるステップと、
iii)前記組成物を100℃〜220℃、好ましくは140℃〜200℃、より好ましくは160℃〜190℃にまで加熱するステップと、を有しており、
前記基板S2は前記基板S1と同じ物質または異なる物質から構成されている、
熱安定性基板の接着方法。
【請求項16】
請求項8から14のいずれか一項に記載の単一成分熱硬化性エポキシ樹脂組成物の、車両製造における骨組用熱硬化性単一成分接着剤としての使用、または硬化剤としての使用、または構造物および補強要素の空洞を補強するための、発泡可能な熱硬化性組成物としての使用。
【請求項17】
請求項15に記載の方法によって接着された物品、特に車両または車両の一部。

【公表番号】特表2011−518936(P2011−518936A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506718(P2011−506718)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055252
【国際公開番号】WO2009/133168
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】