説明

エレベータの群管理制御装置

【課題】ビルの交通需要に応じて各号機が応答するゾーンを動的に変更することで、満員通過を未然に防止して効率的な運行制御を行う。
【解決手段】新規発生した乗場呼びおよび将来的に発生する利用客によって登録される乗場呼びに対し、ゾーン分割テーブル24に設定された各ゾーンで各エレベータを運行するための最適な階床巡回スケジュールを作成する(探索演算処理部26)。この階床巡回スケジュールに従って各エレベータを運行した場合での各ゾーンの長待ち時間を評価して(階床巡回スケジュール評価部27)、ゾーン分割テーブル24に現在設定されている各ゾーンの幅を変更する(ゾーン分割テーブル管理部28)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台のエレベータを一括して制御する群管理制御装置に係り、例えば昼食時などの時間帯で特定の階に利用者が集中する交通需要において、特定の階付近の階で満員通過となる乗場のサービス低下を防止するのに有効なエレベータの群管理制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高層のオフィスビル等では、例えば昼食時間帯になると、食堂階へ向かうエレベータの利用者が多くなる。このため、食堂階へ向かうエレベータ(乗りかご)が直に満員状態となり、食堂階付近の階の乗場では、満員通過により利用者の待ち行列が生じてしまうことがある。
【0003】
例えば、ビルの1階に食堂階があるとする。このような場合に、他の階から1階行きの利用者が多数乗り込んでくるため、2階や3階ではエレベータが満員状態で通過してしまう可能性が高くなり、その乗場では利用者の待ち行列が生じることになる。
【0004】
このような問題に対し、従来、満員通過が発生したとき、該乗場はサービスが低下しているものと判断し、サービスが低下している乗場よりも前方の乗場から乗車する乗客の数を満員荷重よりも制限して、途中階での乗場待ち客に対するサービスを向上させている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−193879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の手法では、満員通過が発生しなければ、サービス低下と判断しないため、サービス低下を未然に防ぐことができない。また、満員荷重を制限することで、エレベータ利用客に不快感を与えてしまう。
【0007】
本発明の目的は、ビルの交通需要に応じて各号機が応答するゾーンを動的に変更することで、満員通過を未然に防止して効率的な運行制御を行うことのできるエレベータの群管理制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエレベータの群管理制御装置は、複数台のエレベータの運転を群管理制御するエレベータの群管理制御装置において、上記各エレベータの乗りかごに乗車する人数を各階床毎に検出する乗車人数検出手段と、かご呼びの登録状況および上記乗車人数検出手段によって検出された各階床の乗車人数に基づいて、各階床毎に利用客の発生間隔および行先階の分布を示す需要学習テーブルを作成する需要学習手段と、この需要学習手段によって作成された需要学習テーブルに基づいて、現在および近い将来に渡って乗場で待つ利用客の発生時刻および行先階を予測する仮想交通需要生成手段と、上記各エレベータが応答する階床を複数のゾーンで分割した情報が設定されたゾーン分割テーブルと、新規発生した乗場呼びおよび上記仮想交通需要生成手段によって予測された将来的に発生する利用客によって登録される乗場呼びに対し、上記ゾーン分割テーブルに設定された各ゾーンで上記各エレベータを運行するための最適な階床巡回スケジュールを作成する探索演算処理手段と、この探索演算処理手段によって作成された階床巡回スケジュールに従って上記各エレベータを運行した場合での上記各ゾーンの長待ち時間を評価する階床巡回スケジュール評価手段と、この階床巡回スケジュール評価手段によって得られた評価値に基づいて、上記ゾーン分割テーブルに現在設定されている各ゾーンの幅を変更するゾーン分割テーブル管理手段と、このゾーン分割テーブル管理手段によって管理された上記ゾーン分割テーブルを用いて上記各エレベータに対する乗場呼びの割当制御を行う割当制御手段とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ビルの交通需要に応じて各号機が応答するゾーンを動的に変更することで、満員通過を未然に防止して効率的な運行制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るエレベータのシステム構成を示す図である。
【図2】図2は同実施形態におけるエレベータの乗りかごに出入りする利用者の状態を示す図である。
【図3】図3は同実施形態におけるエレベータの乗りかごの最小荷重と戸閉完了時の荷重との関係を示す図である。
【図4】図4は同実施形態における交通需要学習部に設けられた第1の需要学習テーブルの例を示す図である。
【図5】図5は同実施形態における交通需要学習部に設けられた第2の需要学習テーブルの例を示す図である。
【図6】図6は同実施形態における仮想交通需要生成部の予測結果テーブルTB3の例を示す図である。
【図7】図7は同実施形態におけるゾーン分割テーブルの例を示す図である。
【図8】図8は同実施形態における群管理制御装置に設けられた探索演算処理部の動作手順を示すフローチャートである。
【図9】図9は同実施形態における群管理制御装置に設けられたゾーン分割テーブル管理部の動作手順を示すフローチャートである。
【図10】図10は同実施形態における仮変更後のゾーン分割テーブルの例を示す図である。
【図11】図11は同実施形態における仮変更後のゾーン分割テーブルの別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態に係るエレベータのシステム構成を示す図である。なお、図1では、本発明に関連する部分のみ図示しており、基本的なエレベータのシステム構成要素(例えばエレベータの駆動装置など)は省略されている。
【0013】
以下では「エレベータ」と言った場合には、基本的には「乗りかご」のことを示すものとする。また、複数台あった場合に、「号機」という言い方もする。
【0014】
本システムの群管理制御装置10は、例えばビル最上部の機械室などに設置され、複数台(A〜D号機の4台)のエレベータの運転を統括的に管理している。各エレベータは、それぞれにかご制御部11a,11b,11c,11dと、利用者を乗せて各階に運ぶための乗りかご12a,12b,12c,12dを有する。
【0015】
かご制御部11aは、エレベータ単体の制御装置であって、ドアの開閉制御などを含む乗りかご12aの運転に関わる制御を行う。他のかご制御部11b,11c,11dについても同様であり、それぞれに管理下にある乗りかご12b,12c,12dの運転制御を行う。
【0016】
また、乗りかご12a,12b,12c,12dには、利用客が行先階を登録するためのかご呼び釦13a,13b,13c,13dと、積載荷重を測定するための積載荷重測定装置14a,14b,14c,14dが設けられている。これらの信号は、各乗りかご12a,12b,12c,12dに対応したかご制御部11a,11b,11c,11dを介して群管理制御装置10に与えられる。
【0017】
一方、各階の乗場(エレベータの乗場)には、利用者がエレベータを呼ぶための乗場呼び釦15a,15b,15cが設けられている。乗場呼び釦15a,15b,15cは、利用者の行先方向(上方向/下方向)を指定するための押し釦で構成される。乗場呼び釦15a,15b,15cのいずれかが操作されると、階床/方向情報が図示せぬ伝送ケーブルを介して群管理制御装置10に与えられる。
【0018】
なお、図1では、各号機間に乗場呼び釦を設置した例を示したが、各号機の隣に1ずつ乗場呼び釦を設置する構成であっても良く、本発明では特にその設置構成について限定されるものではない。また、他の階床についても同様にいくつかの乗場呼び釦が設置されている。
【0019】
群管理制御装置10は、CPU、ROM、RAMなどを備えた汎用のコンピュータからなる。この群管理制御装置10は、例えば新たに発生した乗場呼びに対し、最適なエレベータを選定して、そのエレベータの乗りかごを当該乗場呼びのあった階床に応答させるなどの制御を行う。
【0020】
ここで、本実施形態において、群管理制御装置10には、乗車人数検出部21、交通需要学習部22、仮想交通需要生成部23、ゾーン分割テーブル24、ゾーン分割決定部25、割当制御部29が備えられている。これらはソフトウェアにて実行される処理部であり、図1に示されるように各部で情報の授受が可能となっている。
【0021】
なお、ここでは便宜上、各部を群管理制御装置10に配置したが、必ずしも同一装置に配置する必要はなく、別々の装置あるいはCPUにて動作するものであっても良い。
【0022】
乗車人数検出部21では、乗りかご12a,12b,12c,12dのそれぞれについて、積載荷重測定装置14a,14b,14c,14dから得られる荷重データに基づいて乗車人数を階床毎に算出する。
【0023】
図2および図3に示すように、A号機の乗りかご12aを例にすると、乗りかご12aが着床後、戸開から戸閉までの間の最小荷重Llow と戸閉完了時の荷重(最大荷重)Lhighを記録する。なお、乗りかご12aから利用者が降車した後に、乗場で待っていた利用者が乗車するものとする。
【0024】
ここで、(1)式に示すように、最小荷重Llowと戸閉完了時の荷重(最大荷重)Lhighとの差分を大人1人の平均体重Wave で割ることにより、乗車人数Pinを算出する。他の乗りかご12b,12c,12dについても同様である。
【数1】

【0025】
需要学習部22では、乗車人数検出部21から得られる乗りかご12a,12b,12c,12dの乗車人数Pinを階床毎に累積することで、各階床での利用者1人あたりの発生間隔λoccer,nを(2)式のようにして算出する。この場合、1日を所定の時間帯毎(例えば10分間隔)に区分し、各時間帯での発生間隔λoccer,nを求める。
【数2】

【0026】
また、交通需要学習部22では、(3)式に示すように、発生間隔λoccer,nを基にして、前回記録した学習発生間隔λLDoccer,n,pre を一定の反映割合σで反映させた学習発生間隔λLDoccer,n を算出する。なお、反映割合σは、予め各階床毎に混雑状況等を考慮して設定されている。
【数3】

【0027】
交通需要学習部22は、このようにして算出された学習発生間隔λLDoccer,nを時間帯毎に第1の需要学習テーブルTB1に記録する。
【0028】
図4に第1の需要学習テーブルTB1の例を示す。
ここでは、ビル構成を1F〜15Fとしている。例えば、1Fの「00:00〜00:10」の時間帯では「25」秒間隔、「00:10〜00:20」の時間帯では「50」秒間隔で利用者が当該乗場に来ることが示されている。また、15Fの「00:00〜00:10」の時間帯では「120」秒間隔、「00:10〜00:20」の時間帯では「120」秒間隔で利用者が当該乗場に来ることが示されている。
【0029】
さらに、交通需要学習部22では、利用客の行先階を学習しており、乗りかご12a,12b,12c,12dが各階床で戸開してから次の戸開開始までに登録されるかご呼び登録数を所定の時間帯毎(例えば10分間隔)に第2の需要学習テーブルTB2に記録している。
【0030】
図5に第2の需要学習テーブルTB2の例を示す。
ここでは、ビル構成を1F〜15Fとしている。例えば1Fにおいて、2Fを行先階としたかご呼びは、「00:00〜00:10」の時間帯で4個、「00:10〜00:20」の時間帯では5個登録されていることが示されている。また、15Fにおいて、1Fを行先階としたかご呼びは、「00:00〜00:10」の時間帯で1個登録、「00:10〜00:20」の時間帯では0個であることが示されている。
【0031】
なお、図4および図5の例では、テーブルTB1,TB2を1日分のみを示したが、曜日毎、日にち毎に記録されるものであっても良い。
【0032】
仮想交通需要生成部23は、交通需要学習部22にてテーブルTB1,TB2に記録される学習発生間隔および行先階登録数に基づいて、既発生の乗場呼びに対する利用客および一定時間先の将来的に発生すると予測される利用客の発生時刻および行先階を予測する。この予測結果は、予測結果テーブルTB3で階床毎に管理される。
【0033】
図6に予測結果テーブルTB3の例を示す。
ここでは、ビル構成を1F〜15Fで、現時刻が「12:10:30」とした場合での各階床での予測結果を示している。既発生乗場呼びに対する利用客の人数は、乗場呼び発生時刻からの経過時間から算出される。
【0034】
例えば1Fにおいて、「12:10:00」に発生した乗場呼びを例にすると、図4の第1の需要学習テーブルTB1のインデックス60に記憶されている学習発生間隔5secを基にして、現時刻が「12:10:30」であれば、発生時刻から5sec間隔で利用客が定期的に発生しているものと予測される。したがって、1Fの待ち人数は7人(30/5+1)と算出される。
【0035】
さらに、一定時間先までの需要予測として、例えば60sec先までの需要予測を行う場合に、上記1Fにて「12:10:00」に発生した乗場呼びでは、発生時刻「12:10:00」から「12:11:30」までの90sec間で待ち人数19人(90/5+1)が予測され、図6の予測結果テーブルTB3に、その予測された各利用者の発生時刻および行先階が記録される。
【0036】
個々の利用客の発生時刻は「12:10:00」から5sec間隔で発生するものとして予測され、行先階は図5の第2の需要学習テーブルTB2に記録された行先階の統計情報から乱数により求められる。
【0037】
また、現時刻の「12:10:30」において、乗場呼びが発生していない乗場においても(図6の例では、3Fと15F)、将来的に発生する利用客を予測し、既発生乗場呼びと同様に現時刻から一定時間先までの予測した利用客の発生時刻および行先階が記録される。
【0038】
なお、ここでは、将来予測を一定時間(60sec)先までとしたが、一定人数までの予測としても良い。また、利用客の発生間隔を学習発生間隔に記憶されるデータを使用し一定間隔としたが、学習発生間隔を平均値とする分布(例えばポアソン分布)から乱数により発生間隔を求めるものであっても良い。
【0039】
ゾーン分割テーブル24は、各号機が応答する階床を複数のゾーンで分割した情報が設定されている。具体的には、図7に示すように、各階床を複数のゾーンおよび共通階に分類し、各号機毎に乗場呼びに対し、割当許可/不可を“0”、“1”のデータ形式で記憶している。この場合、基準階や食堂階などの需要が高い階を共通階として全号機を割当許可とする。また、その他の階は連続した階床とする複数のゾーンに分割される。
【0040】
図7の例では、2F−UP/DN〜4F−DNまでをゾーン1、4F−UP〜8F−UPまでをゾーン2、8F−UP〜14F−UP/DNまでをゾーン3としている。そして、各号機は“1”で示される階床をサービス階とする。すなわち、A号機はゾーン1と共通階、B号機はゾーン2と共通階、C号機とD号機はゾーン3と共通階をサービス階として応答する。この例では、共通階は1Fと15Fである。
【0041】
このゾーン分割テーブル24は、図1に示すように、探索演算処理部26、ゾーン分割テーブル管理部28および割当制御部29から参照できるようになっており、各階床の乗場呼びに対し、サービス可能な号機を制限するものである。
【0042】
また、ゾーン分割決定部25は、ゾーンを動的に変更するための処理を行う部分であり、探索演算処理部26、階床巡回スケジュール評価部27、ゾーン分割テーブル管理部28からなる。
【0043】
探索演算処理部26は、新規発生した乗場呼びおよび仮想交通需要生成部23によって予測された将来的に発生する利用客によって登録される乗場呼びに対し、ゾーン分割テーブル24に設定された各ゾーンで各号機を運行するための最適な階床巡回スケジュールを作成する
階床巡回スケジュール評価部27は、探索演算処理部26によって作成された階床巡回スケジュールに従って各号機を運行した場合での各ゾーンの長待ち時間を評価する。
【0044】
ゾーン分割テーブル管理部28は、階床巡回スケジュール評価部27によって得られた評価値に基づいて、ゾーン分割テーブル24に現在設定されている各ゾーンの幅を変更する。
【0045】
割当制御部29は、ゾーン分割テーブル管理部28によって管理されたゾーン分割テーブル24を用いて各号機に対する乗場呼びの割当制御を行う。
【0046】
次に、同実施形態の動作を説明する。
【0047】
(a)階床巡回スケジュールの最適化
図8は群管理制御装置10に設けられた探索演算処理部26の動作手順を示すフローチャートであり、各号機の階床巡回スケジュールを最適化するための処理が示されている。
【0048】
各号機の乗りかごの運転状態および乗場呼びの割当状況に基づいて、乗場呼びの発生から応答までの到着時間が予測される。ここで、予測到着時間が一定値(ここでは60sec)以上となる乗場呼びが発生するものと予測された場合に(ステップS11のYES)、以下のような処理が実行される。
【0049】
なお、「乗りかごの運転状態」とは、かご位置、運転方向、かご呼び登録等であり、それぞれに各号機に対応したかご制御部11a,11b,11c,11dから得られる。
【0050】
すなわち、予測到着時間が一定値(ここでは60sec)以上となる乗場呼びが発生すると、探索演算処理部26は、既発生乗場呼びに対して、乗場で待つ利用客および将来的に発生すると予測される利用客の発生時刻・行先階情報を仮想交通需要生成部23へ要求し、例えば図6の予測結果テーブルTB3に示される利用客の発生時刻、行先階を得る(ステップS12)。
【0051】
また、探索演算処理部26は、各号機の乗りかごの状態、乗場呼びの割当状況および仮想交通需要生成部23から得られる既発生の乗場呼びに対する行先階情報に基づいて、各号機を効率的に運行するための階床巡回スケジュールを作成し、これを起点階床巡回スケジュールとする(ステップS13)。
【0052】
なお、起点階床巡回スケジュールには、将来的に発生すると予測される利用客によって登録される呼びは含まない。また、階床巡回スケジュールは、かご定員制限による利用客の積み残しも考慮して作成される。利用客の積み残しがある場合は、その積み残した利用客によって新たに乗場呼びが生成されることとなる。
【0053】
次に、探索演算処理部26は、将来的に発生すると予測される利用客のうち、現時刻に最も近い発生時刻の利用客から順に探索し(ステップS14,S15)、該利用客によって乗場呼びが新規に発生するか否かを判断する(ステップS16)。
【0054】
なお、図中のiは利用客の発生順インデックスを示す。また、同じ発生時刻が複数ある場合には下の階床を優先とする。
【0055】
乗場呼びが新規に発生する場合(ステップS16のNO)、探索演算処理部26は、該利用客によって発生する乗場呼びを仮想的に生成する(ステップS17)。新規発生でない場合には(ステップS16のYES)、続けて次に発生すると予測される利用客について、上記同様にステップS15〜S17の処理を実施する(ステップS21)。
【0056】
そして、仮想的に生成した該乗場呼びについて、探索演算処理部26は、ゾーン分割テーブル24を参照して、割当可能な乗りかごへ割当を行った場合の階床巡回スケジュールを新たに作成する(ステップS18)。
【0057】
また、作成した階床巡回スケジュールについて、探索演算処理部26は、後述する階床巡回スケジュール評価部27から階床巡回スケジュールに対する評価値を取得して(ステップS19)、評価値が最も良好なスケジュールを起点階床巡回スケジュールとして更新する(ステップS20)。
【0058】
続けて、次に発生すると予測される利用客について、上記同様にステップS15〜S20の処理を繰り返し実施する(ステップS21)。現時刻から予測範囲である60secを超え、予測される利用客が存在しなくなった場合(ステップS15のNO)、そのときに得られている起点階床巡回スケジュールを最適階床巡回スケジュールとする(ステップS22)。
【0059】
最適階床巡回スケジュールは、階床巡回スケジュール評価部27で示される評価指標の下で、現状のゾーン分割テーブル24を用いて、既発生の需要および将来需要予測に対して最適に乗場呼び割当を行った場合の階床巡回スケジュールを意味する。
【0060】
なお、本実施形態では、探索演算処理部26の実施条件を予測到着時間60sec以上の乗場呼び発生としたが、実施条件を新規乗場呼びが発生タイミングとして、ゾーン分割テーブル24に現在設定されている各ゾーンを見直すものであっても良い。更に別の手法として、実施条件を予め設定された一定の時間間隔で、ゾーン分割テーブル24を見直すようにしても良い。
【0061】
階床巡回スケジュール評価部27は、下記に示す評価指標の下、階床巡回スケジュールを評価するものである。
評価指標:乗場で長く待つ利用客を減らす。
【0062】
例えば、評価関数を式(4)とすることで、将来的な利用客を含む個々の利用客の長待ちを指標として階床巡回スケジュールの評価値を導出する。この評価値は、利用客の長待ちを評価したものであり、図8のステップS19の処理において、最適階床巡回スケジュールを導出するために使用される。
【数4】

【0063】
上記式(4)は、階床巡回スケジュールを評価するためのものであり、既発生の乗場呼びに対して乗場で待つ各利用客の待ち時間の総和と、将来的に発生すると予測される各利用客の待ち時間の総和との合計を評価値として算出する。
【0064】
また、階床巡回スケジュール評価部27では、探索演算処理部26で導出した最適階床巡回スケジュールについて、ゾーン分割テーブル24で分割されるゾーン毎の利用客の長待ち評価が行われる。
【0065】
例えば、図7に示したゾーン分割テーブル24では、各ゾーンの共通階1Fおよび15Fを除き、2F〜4F−DN(ゾーンインデックス=1)、4F−UP〜8F−DN(ゾーンインデックス=2)、8F−UP〜14F(ゾーンインデックス=3)の3つのゾーンに分割されている。
【0066】
これら3つのゾーン毎に、例えば式(5)に示す評価関数により各ゾーンの評価値が導出される。導出された評価値は、後述するゾーン分割テーブル管理部28において、ゾーン分割テーブル24を変更するときの判断基準として使用される。
【数5】

【0067】
上記式(5)は、各ゾーンを評価するためのものであり、各ゾーンのそれぞれについて、既発生の乗場呼びに対して乗場で待つ各利用客の待ち時間の総和と、将来的に発生すると予測される各利用客の待ち時間の総和との合計を評価値として算出する。
【0068】
(b)ゾーンの最適化
次に、ゾーン分割テーブル管理部28の動作を図9で説明する。
図9は群管理制御装置10に設けられたゾーン分割テーブル管理部28の動作手順を示すフローチャートであり、ゾーンを最適化するための処理が示されている。
【0069】
探索演算処理部26にて最適階床巡回スケジュールが導出されると、ゾーン分割テーブル管理部28は、階床巡回スケジュール評価部27に対し、最適階床巡回スケジュールのゾーン毎の評価値Cを要求する(ステップS31)。
【0070】
例えば図7のようにゾーン分割の例において、乗場で長く待つ利用客のゾーンがゾーン3>ゾーン2>ゾーン1の順であった場合には、各ゾーンの評価値CもC>C>Cといった順になる。なお、一般的に評価関数式では、評価値の数値が大きいほど評価が悪く、評価値の数値が小さいほど評価が良いことを表わす。
【0071】
ゾーン分割テーブル管理部28は、これらのゾーン1,2,3の中で最悪ゾーンであるゾーン3の評価値Cが既定値より悪い(数値が大きい)場合、ゾーン3のサービスが著しく低下しているものと判断する(ステップS32)。
【0072】
ここで、評価値Cに対する既定値は、各階床で同じ時間帯における過去の平均待ち時間をmとすると、式(6)で求められる。
【0073】
既定値=α・m(L+N) …(6)
上記式(6)において、αは任意の係数であり、例えばα=1.5とすることで、過去の平均待ち時間より1.5倍悪化している状態を既定値として求めることができる。
【0074】
ゾーン3の評価値Cが既定値より悪い場合に(ステップS32のYES)、ゾーン分割テーブル管理部28は、最良ゾーンであるゾーン1と最悪ゾーンであるゾーン3の評価値に一定値(例えば、一定値=最良値×0.5)以上の差があるか否かを判断する(ステップS33)。
【0075】
一定値以上の差があった場合には(ステップS33のYES)、ゾーン分割テーブル管理部28は、最良ゾーンの幅を1階床分増やし、逆に、最悪ゾーンの幅を1階床分減らすようにゾーン分割テーブル24を仮変更する(ステップS34)。
【0076】
図10に仮変更後のゾーン分割テーブル24の例を示す。
【0077】
最悪値となっているゾーン3について、ゾーン3から見て最良ゾーン(ゾーン1)側のゾーン幅(階床数)が−1階床となり、また、最良値となっているゾーン1について、ゾーン1から見て最悪ゾーン(ゾーン3)側のゾーン幅が+1階床となっている。
【0078】
このようにして、ゾーン分割テーブル24を仮変更した後、ゾーン分割テーブル管理部28は、再度、探索演算処理部26に対し最適階床巡回スケジュールの生成を要求し、そして、階床巡回スケジュール評価部27から各ゾーンの評価値を再び得る(ステップS35)。
【0079】
この結果、仮変更したゾーン分割テーブル24において、各ゾーンとも既定値以内となった場合(ステップS36のYES)、ゾーン分割テーブル管理部28は、その仮変更の内容でゾーン分割テーブル24を更新(つまり本変更)する(ステップS37,S38)。
【0080】
一方、今回の仮変更で、最悪ゾーンであるゾーン3がまだ既定値外にあり(ステップS36のNO)、他ゾーン1,2が既定値以内であれば(ステップS39のNO)、ゾーン分割テーブル管理部28は、ゾーン3の評価値が既定値以内、あるいは他ゾーン1,2の評価値が既定値外となるまで、上記ステップS33〜S35までの処理を繰り返し実施する。
【0081】
また、他ゾーン1,2が既定値外となった場合には(ステップS39のYES)、今回のゾーン変更を実施しても、他ゾーンのサービスが悪化することになるので、今回の仮変更は実施しない。
【0082】
ただし、仮変更が2回以上実施していれば(ステップS40のYES)、ゾーン分割テーブル管理部28は、前回の仮変更の内容でゾーン分割テーブル24を更新する(ステップS41)。仮変更1回目であれば(ステップS40のNO)、ゾーン分担テーブルの変更は実施しないものとする。
【0083】
このように、各号機の応答する階を少なくとも2つ以上のゾーンで分割して運行する場合において、ビルの交通需要を予測し、利用客の長待ちが発生しているゾーン、あるいは近い将来、長待ちが発生すると予測されるゾーンの幅を狭くするようにゾーン分割テーブル24を動的に変更することで、満員通過を未然に防止して効率的な運行制御を行うことができる。
【0084】
なお、上記実施形態では、仮変更のゾーン幅増減を1階床としたが、最良値と最悪値との評価差の大きさに応じてゾーンの増減幅を2階床以上としても良い。
【0085】
また、図11に示すように、例えば最悪ゾーンがゾーン1、最良ゾーンがゾーン3であった場合に、ゾーン幅を増減せず、乗りかごの分担ゾーンをゾーン3からゾーン1へ変更するものでも良い。図11の例では、D号機が応答するゾーンがゾーン3からゾーン1へ変更されている。
【0086】
また、交通需要が低下し、各階床で同じ時間帯における過去の平均待ち時間が一定値以以下となったことを条件にして、探索演算処理部26を実施し、ゾーン分割テーブル24の見直しを行うことで、一時的な需要の偏りによって変更したゾーン幅が見直される。ただし、上記条件にて見直しを行う場合には、各ゾーンの評価値が均等になるようにゾーン分割テーブル24の見直しが行われる。割当制御部29は、ゾーン分割テーブル24に従い、新規発生する乗場呼びに対する割当かごを決定する。
【0087】
以上のように、本発明によれば、下記のような効果が奏せられる。
【0088】
(1)各号機を複数のゾーンで分割した範囲を個別に応答させる場合に、交通需要の予測結果に応じて、ゾーン分割テーブルを動的に変更することで、長待ちによるサービス低下を解消して、効率的な運行制御が可能となる。
【0089】
(2)既発生の乗場呼びに対する予測到着時間がある一定値以上の場合に、ゾーン分割テーブルの見直しを行うことで、一時的な偏りの需要で、ゾーン変更しなくても直ぐに解消されるような状況に対し、ゾーン分割テーブルの変更を制約することができる。
【0090】
(3)乗場呼び発生のタイミングにて、ゾーン分割テーブルの見直しを行うことで、過渡的な需要の変更に対し、柔軟にゾーン分割テーブルを変更できる。
【0091】
(4)予め設定された時間にゾーン分割テーブルの見直しを行うことで、一時的な偏りの需要で、ゾーン変更しなくても直ぐに解消されるような状況に対し、ゾーン分割テーブルの変更を制約することができる。
【0092】
(5)同じ時間帯における過去の平均待ち時間が一定値以下の値となったとき、ゾーン分割テーブルの見直しを行うことで、一時的な需要の変化により偏ったゾーン幅を見直すことができる。
【0093】
(6)階床巡回スケジュールの評価値に応じてゾーン幅の増減を複数階とすることで、評価演算の実行回数を減らして、群管理制御装置の処理負担を低減できる。
【0094】
(7)階床巡回スケジュールの評価値に応じて最悪ゾーンの台数を増加、また、その他のゾーンについては台数を削減することで、現在サービス低下しているゾーンのサービス低下を解消、あるいは将来的にサービスが低下しそうなゾーンのサービス低下を防止することが可能となる。
【0095】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…群管理制御装置、11a,11b,11c,11d…かご制御部、12a,12b,12c,12d…乗りかご、13a,13b,13c,13d…かご呼び釦、14a,14b,14c,14d…積載荷重測定装置、15a,15b,15c…乗場呼び釦、21…乗車人数検出部、22…交通需要学習部、23…仮想交通需要生成部、24…ゾーン分割テーブル、25…ゾーン分割決定部、26…探索演算処理部、27…階床巡回スケジュール評価部、28…ゾーン分割テーブル管理部、TB1…需要学習用の第1のテーブル、TB2…第2の需要学習テーブルTB2、TB3…予測結果テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数台のエレベータの運転を群管理制御するエレベータの群管理制御装置において、
上記各エレベータの乗りかごに乗車する人数を各階床毎に検出する乗車人数検出手段と、
かご呼びの登録状況および上記乗車人数検出手段によって検出された各階床の乗車人数に基づいて、各階床毎に利用客の発生間隔および行先階の分布を示す需要学習テーブルを作成する需要学習手段と、
この需要学習手段によって作成された需要学習テーブルに基づいて、現在および近い将来に渡って乗場で待つ利用客の発生時刻および行先階を予測する仮想交通需要生成手段と、
上記各エレベータが応答する階床を複数のゾーンで分割した情報が設定されたゾーン分割テーブルと、
新規発生した乗場呼びおよび上記仮想交通需要生成手段によって予測された将来的に発生する利用客によって登録される乗場呼びに対し、上記ゾーン分割テーブルに設定された各ゾーンで上記各エレベータを運行するための最適な階床巡回スケジュールを作成する探索演算処理手段と、
この探索演算処理手段によって作成された階床巡回スケジュールに従って上記各エレベータを運行した場合での上記各ゾーンの長待ち時間を評価する階床巡回スケジュール評価手段と、
この階床巡回スケジュール評価手段によって得られた評価値に基づいて、上記ゾーン分割テーブルに現在設定されている各ゾーンの幅を変更するゾーン分割テーブル管理手段と、
このゾーン分割テーブル管理手段によって管理された上記ゾーン分割テーブルを用いて上記各エレベータに対する乗場呼びの割当制御を行う割当制御手段と
を具備したことを特徴とするエレベータの群管理制御装置。
【請求項2】
上記ゾーン分割テーブル管理手段は、
上記各ゾーンの中で最も評価の悪い最悪ゾーンの評価値が既定値以上であり、かつ、最も評価の良い最良ゾーンとの間に一定以上の評価差が生じている場合に、上記各ゾーンの幅を仮変更し、上記階床巡回スケジュール評価手段により再度演算された上記各ゾーンの評価値が規定値以内となるときに上記仮変更の内容で上記ゾーン分割テーブルを更新することを特徴とする請求項1記載のエレベータの群管理制御装置。
【請求項3】
上記ゾーン分割テーブル管理手段は、
乗場呼び発生から応答までの予測到着時間が一定値上となる乗場呼びが発生するものと予測された場合に、上記ゾーン分割テーブルに現在設定されている各ゾーンの見直しを実施することを特徴とする請求項1記載のエレベータの群管理制御装置。
【請求項4】
上記ゾーン分割テーブル管理手段は、
乗場呼び発生のタイミングにて、上記ゾーン分割テーブルに現在設定されている各ゾーンの見直しを実施することを特徴とする請求項1記載のエレベータの群管理制御装置。
【請求項5】
上記ゾーン分割テーブル管理手段は、
予め設定された時間になったときに、上記ゾーン分割テーブルに現在設定されている各ゾーンの見直しを実施することを特徴とする請求項1記載のエレベータの群管理制御装置。
【請求項6】
上記ゾーン分割テーブル管理手段は、
各階床で同じ時間帯における過去の平均待ち時間となったとき、上記ゾーン分割テーブルに現在設定されている各ゾーンの見直しを実施することを特徴とする請求項1記載のエレベータの群管理制御装置。
【請求項7】
上記ゾーン分割テーブル管理手段は、
上記階床巡回スケジュール評価手段によって得られた評価値に応じて、上記最悪ゾーンの幅を少なくとも1階床分狭く、上記最良ゾーンの幅を少なくとも1階床分広くすることを特徴とする請求項2記載のエレベータの群管理制御装置。
【請求項8】
上記ゾーン分割テーブル管理手段は、
上記階床巡回スケジュール評価手段によって得られた評価値に応じて、上記最悪ゾーンに応答するエレベータ台数を増やし、上記最良ゾーンに応答するエレベータ台数を減らすことを特徴とする請求項2記載のエレベータの群管理制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−195281(P2011−195281A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64354(P2010−64354)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】