説明

エレベータシステムに関連する方法およびエレベータシステム

本発明はエレベータシステム、ならびにエレベータかご(3)および/または釣合い重り(4)を安全装置(5、14)から引き離す方法に関する。本方法において、エレベータの巻上げ機(1)でトルクパルス(10A、10B、10C)を生成し、把持され固着したエレベータかご(3)および/または把持され固着した釣合い重り(4)を解除する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、把持され固着したエレベータかごおよび/または釣合い重りを解除する方式に関するものである。
【発明の背景】
【0002】
エレベータシステムの安全な運行は一般に、ガイドレールを把持する安全装置によって保証される。エレベータかごまたは釣合い重りの停止に安全装置を使用することができる。安全装置は、エレベータかごの過速度によるなどのさまざまな理由で駆動することが可能である。例えばエレベータかごが保守運転で動いてエレベータ昇降路における保守員の作業スペース用区画にはいる場合にも、安全装置を駆動することができる。安全装置はまた、例えばエレベータかごがドアを開けたままそのエレベータの停止階からずれ動くのを防止するのにも使用することができる。
【0003】
安全装置のフレームは一般に、エレベータかごに対して固定されている。通常、フレームはハウジングを有し、これはガイドレールに対面した制動面を含み、ハウジングの内側にエレベータガイドレールが配置されている。同様に、このハウジングはウェッジもしくはローラを有し、これは安全装置が作動するとエレベータガイドレールに接触し、ハウジング内の軌道上に位置する。エレベータガイドレールは制動面とウェッジもしくはローラとの間にある。軌道の形状は、ウェッジもしくはローラが軌道上をガイドレールの方向に動くと、ウェッジもしくはローラの生成する制動作用によってガイドレールが制動面を押圧し、これによってエレベータかごが停止するようになっている。安全装置は一般に、エレベータかごの下方への動きを停止するが、上方もしくは双方向に作動する安全装置も従来技術で公知である。
【0004】
安全装置の上述のウェッジもしくはローラは、把持の進行につれ軌道上でガイドレールに対してますます強く押し付けられる。把持されたエレベータかごを引き離すには、エレベータかごを把持力の伝播方向とは反対の方向に引く必要がある。安全装置の作動原理によれば、把持されたエレベータかごを引き離すには一般に、かなり大きな力が必要である。このため、ティラック巻上げ機もしくは同様の別の巻上げ装置がエレベータかごの解除に従来から使用されてきた。
【発明の概要】
【0005】
とりわけ上述の理由で、本発明は、固く把持されたエレベータかごおよび/または釣合い重りを解除する改善された方法およびエレベータシステムを開示する。本発明によれば、エレベータかごおよび/または釣合い重りは、別の巻上げ装置なしに解除することができ、または少なくとも別個に必要な巻上げ装置の寸法を本質的に減らすことができる。
【0006】
本発明の特徴事項に関しては請求項を参照する。
【0007】
本発明の第1の側面は、把持され固着したエレベータかごを解除する方法、把持され固着した釣合い重りを解除する方法、または把持され固着したエレベータかごおよび把持され固着した釣合い重りも解除する方法に関するものである。
【0008】
本発明の1つ以上の実施例によれば、トルクインパルスをエレベータの巻上げ機で生成し、把持され固着したエレベータかごおよび/または釣合い重りを解除する。連続するトルクインパルスを生成する巻上げ機に供給される電流は実質的に短い連続する電流パルスで形成され、この電流により生じる巻上げ機の加熱および/または巻上げ機の給電装置の加熱も、例えば直流を巻上げ機へ供給して把持されたエレベータかごおよび/または釣合い重りを解除する場合より小さくなる。このため、電流の瞬時値を、したがって解除トルクのピーク値も大きくすることができる。その場合、エレベータかごおよび/または釣合い重りが別個の巻上げ装置を用いずにエレベータの巻上げ装置だけを使って解除されれば、解除作業も、必要ならば自動化することができる。
【0009】
本発明の1以上の実施例によれば、トルクインパルスをエレベータの巻上げ装置で生成し、このトルクインパルスはエレベータかごおよび/または釣合い重りに対して把持の伝播方向とは反対方向に働く。その場合、トルクインパルスにより生成される解除力を巻上げ機によってできる限り効率的に誘導してエレベータかごおよび/または釣合い重りを解除することができる。
【0010】
本発明の1つ以上の実施例によれば、安全装置の作動を観測し、安全装置の作動に基づいてエレベータかごおよび/または釣合い重りの把持を推定する。安全装置の作動は、例えば安全装置に関連して配設した安全スイッチなどのセンサの状態を測定することによって観測することができる。安全装置の作動の観測を用いて、エレベータシステムの安全性の監視および、例えば把持状態の解除を行なうこともできる。把持の結果も、例えばカメラモニタによるサービスセンタからの遠隔通信によって検査することができる。
【0011】
本発明の1つ以上の実施例によれば、エレベータかごおよび/または釣合い重りの把持についての情報をサービスセンタに送ることができる。その場合、サービスセンタは把持状況に迅速に対応することができる。
【0012】
本発明の1つ以上の実施例では、トルクインパルスは、実質的にパルス様の電流をエレベータの巻上げ機へ供給することによってエレベータの巻上げ機で生成する。パルス様電流は、巻上げ機の巻線および/または、例えば巻上げ機に接続された周波数変換器の電力用半導体などの巻上げ機の給電装置に対して長パルス幅の直流より少ない応力を与える。
【0013】
本発明の1つ以上の実施例によれば、把持され固着したエレベータかごおよび/または把持され固着した釣合い重りの解除機能をサービスセンタから駆動する。したがって把持状態は、例えば巻上げ機の給電装置による巻上げ機への電流供給をサービスセンタからの遠隔操作で開始することによって、解除することができる。その場合、把持状態は迅速に解除することができる。把持状態および同状態の解除も、必要ならば例えばエレベータ昇降路内、停止階および/またはエレベータかご内に設置されたカメラでサービスセンタから監視することができる。
【0014】
本発明の1つ以上の実施例によれば、把持され固着したエレベータかごおよび/または把持され固着した釣合い重りの解除機能をエレベータ制御装置のユーザインタフェースにより駆動する。ユーザインタフェースは、例えばエレベータの停止階もしくは機械室内などのエレベータの昇降路の外部に設置することができ、その場合、保守員は把持状態をエレベータの昇降路の外部から解除することができる。
【0015】
本発明の1つ以上の実施例によれば、連続するトルクインパルスは、エレベータシステムの機械振動の共振周波数に実質的に対応する周波数で生成する。共振周波数の連続トルクインパルスよって、振動エネルギーがエレベータかご、サスペンションロープ、および場合によっては釣合い重りなどのエレベータ機械装置に累積的に加わる。その場合、換言すれば、エレベータロープもしくはエレベータベルトおよび他の可撓性部品のバネ定数、ならびに/またはエレベータ機械装置に加わる振動エネルギーを利用することによって、解除トルクを増大させることができる。
【0016】
本発明の1つ以上の実施例によれば、トルクインパルスによって生ずる巻上げ機および/またはエレベータかごの動きを測定し、また巻上げ機および/またはエレベータかごの動きの大きさが増して終了限界値を超えると、把持され固着したエレベータかごおよび/または把持され固着した釣合い重りの解除機能が終了する。その場合、解除機能は、巻上げ機および/またはエレベータかごの動きの測定に基づいて自動的に終了することができる。
【0017】
本発明の1つ以上の実施例によれば、トルクパルスにより生じた巻上げ機の動きを測定し、巻上げ機の速度が減速して遮断限界を下回ると、個々のトルクインパルスを遮断する。その場合、エレベータロープ/ベルトの伸びがバネ定数で決まる伸びの幅のピーク点に達すると、トルクインパルスを遮断することができる。
【0018】
本発明の第2の側面はエレベータシステムに関するものである。
【0019】
本発明の1つ以上の実施例によれば、エレベータシステムは、エレベータかごと、エレベータかごをエレベータ昇降路内で移動させる巻上げ機と、巻エレベータかごの動きを止める安全装置と、巻上げ機へ接続され巻上げ機でトルクを生成する給電装置と、この給電装置に関連して配設された制御装置とを含む。この制御装置は、エレベータの巻上げ機でトルクパルスを生成して、把持され固着したエレベータかごを解除するよう配設されている。
【0020】
本発明の1つ以上の実施例では、エレベータシステムは、釣合い重りと、釣合い重りをエレベータ昇降路内で動かす巻上げ機と、釣合い重りの動きを止める安全装置と、巻上げ機に接続され巻上げ機でトルクを生成する給電装置と、給電装置に関連して配設された制御装置を含む。この制御装置は、エレベータの巻上げ機でトルクインパルスを生成して、把持され固着した釣合い重りを解除するよう配設されている。巻上げ機へ供給され連続トルクインパルスを生成する電流が実質的に短い連続電流パルスで形成されている場合、この電流により生じる巻上げ機の加熱および/または巻上げ機の給電装置の加熱も、例えば直流を巻上げ機へ供給して把持され固着したエレベータかごおよび/または釣合い重りを解除する場合より少なくなる。このため、電流の瞬時値を、したがって解除トルクのピーク値も大きくすることができる。エレベータかごおよび/または釣合い重りが別の巻上げ機を使わずにエレベータの巻上げ機だけを使って解除されると、解除工程も、必要ならば自動化することもできる。エレベータシステムは、釣合い重りを備えてもよく、または釣合い重りなしでもよい。エレベータの巻上げ機は回転モータもしくはリニアモータでもよい。
【0021】
本発明の1つ以上の実施例によれば、上述の制御装置は、エレベータの巻上げ機でトルクインパルスを生成し、トルクインパルスはエレベータかごおよび/または釣合い重りに対して把持の伝播方向とは反対方向に作用するように構成されている。その場合、トルクインパルスで生ずる解除力は、エレベータかごおよび/または釣合い重りを引き離すように可能な限り効率的に巻上げ機へ向けることができる。
【0022】
本発明の1つ以上の実施例によれば、エレベータシステムは、エレベータかごおよび/または釣合い重りを昇降路内で懸装するロープもしくはベルトを含む。
【0023】
本発明の1つ以上の実施例によれば、制御装置は駆動信号用の入力を含み、税魚装置は、信号を受信した後、把持され固着したエレベータかごおよび/または把持され固着した釣合い重りの解除機能を駆動するように配設されている。解除機能はこの場合、例えばユーザインタフェースもしくはサービスセンタから制御された方法で開始することができる。
【0024】
本発明の1つ以上の実施例によれば、エレベータシステムはエレベータ制御ユニットを含み、エレベータ制御ユニットと制御装置との間にはデータ転送チャネルが形成され、駆動信号をエレベータ制御ユニットから制御装置へ送る。その場合、解除機能はエレベータ制御ユニットの制御論理機構によって開始することができる。
【0025】
本発明の1つ以上の実施例によれば、エレベータ制御ユニットはユーザインタフェースを含み、把持され固着したエレベータかごおよび/または把持され固着した釣合い重りの解除機能は、ユーザインタフェースから得られた駆動指示の結果として駆動されるよう配設されている。ユーザインタフェースは、例えばエレベータの停止階もしくは機械室などのエレベータ昇降路の外部に設置することができ、その場合、保守員は把持状態をエレベータ昇降路の外部から解除することができる。
【0026】
本発明の1つ以上の実施例によれば、エレベータ制御ユニットはサービスセンタへデータ転送線により接続され、把持され固着したエレベータかごおよび/または把持され固着した釣合い重りの解除機能は、サービスセンタから得られた駆動指示の結果として駆動されるよう配設されている。したがって把持状態は、例えば巻上げ機の給電装置による巻上げ機への電流供給をサービスセンタからの遠隔制御で開始することにより、解除することができる。その場合、把持状態は従来技術におけるより迅速に解除することができる。把持状態および同状態の解除も、必要ならば例えばエレベータ昇降路内、停止階および/またはエレベータかご内に設置されたカメラによってサービスセンタから監視することもできる。
【0027】
本発明の1つ以上の実施例によれば、エレベータ制御ユニットは安全装置の作動状態を判定するセンサを含み、エレベータ制御ユニットは安全装置の作動状態を判定する上述のセンサの測定信号用の入力を含む。安全装置の作動は、例えば安全装置に関連して配設した安全スイッチなどのセンサの状態を測定することによって、観測することができる。安全装置の作動の観測を利用して、エレベータシステムの安全性の監視および、例えば把持状態の解除も行なうことができる。把持の結果も、例えばサービスセンタからのカメラモニタによる遠隔通信で点検することもできる。把持に関する情報をエレベータ制御ユニットからサービスセンタへ、例えば無線リンクなどのデータ転送線を介して送ることもできる。
【0028】
本発明の1つ以上の実施例によれば、上述の制御装置は、エレベータシステムの機械振動の共振周波数に実質的に対応する周波数でエレベータの巻上げ機によって連続トルクインパルスを生成するよう配設されている。共振周波数の連続トルクインパルスによって、振動エネルギーがエレベータかご、サスペンションロープおよび場合によっては釣合い重りなどのエレベータの機械装置に累積的に加わる。その場合、換言すれば、エレベータロープもしくはエレベータのベルトおよび他の可撓性部品のばね定数、ならびに/または機械装置へ加わる振動エネルギーを利用して、解除トルクを増大させることができる。
【0029】
上述の巻上げ機は好ましくは、エレベータかごを動かすトルクを生成する永久磁石同期モータを含む。永久磁石同期モータの使用は、なかでも、永久磁石同期モータの優れた力生成特性の点で望ましい。
【0030】
上述の概要ならびに以下に示す本発明の他の構成要件および利点は、次のいくつかの実施例の説明によってよりよく理解されるが、該説明は本発明の適用範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明によるエレベータシステムを示すブロック図である。
【図2】本発明による一安全装置を示す図である。
【図3a】エレベータの巻上げ機で生ずるトルクインパルスを示す図である。
【図3b】エレベータの巻上げ機で生ずるトルクインパルスに対する応答としてエレベータの巻上げ機の動きを示す図である。
【図4】把持され固着したエレベータかごの1回の解除操作の測定結果を示す図である。
【発明による好適実施例の詳細な説明】
【0032】
図1は、エレベータシステムを示すブロック図であり、エレベータかご3と釣合い重り4は、エレベータ昇降路12において巻上げ機1の駆動綱車を経由して通るエレベータロープ、ベルトもしくは同等物15で懸装されている。エレベータかご3を動かすトルクは巻上げ機1の永久磁石同期モータによって生成される。永久磁石同期モータへの給電は、エレベータの通常運転中は配電網6から周波数変換器2によって行なわれる。周波数変換器2はインバータを有し、これはインバータ制御回路13を有している。インバータ制御回路13によって可変周波数および可変振幅の電流が永久磁石同期モータへ供給されるが、これは、インバータ制御回路13により生成されるスイッチング基準信号によって周波数変換器の固体スイッチを制御することによって行なわれる。周波数変換器2は、エレベータ制御ユニット8により算出された速度基準値へ向けて巻上げ機1の速度を調節する。エレベータかごは、停止階およびエレベータかごから受信したエレベータ呼びに応答して速度基準値に従ってエレベータ昇降路内を走行する。図1のエレベータシステムは1本以上の釣り合いロープ19も有し、これは、エレベータかご3と釣合い重り4との間にあって、エレベータ昇降路12の底部内に設置された方向転換プーリ5を経由するものである。しかし、エレベータシステムは釣り合いロープ19なしで実現してもよい。もっとも、釣り合いロープ19を使えば、エレベータロープ、ベルトもしくは同等物15の質量により巻上げ機1の駆動綱車の両側に生じる重量差を小さくすることができる。釣り合いロープ19は、エレベータかご3の急停止の際に釣合い重り4が動き続けるのを防止することもできる。さらに、釣り合いロープに代えて、ベルトもしくは同等物を使用することもできる。
【0033】
図1のエレベータ装置は、安全装置としてエレベータかごの安全装置5を有し、この安全装置によって危難な状況でもエレベータかごの動きを停止する。本発明の一実施例では、エレベータシステムは安全装置として釣合い重りの安全装置14も有し、この安全装置により危険な状況において釣合い重りの動きを停止する。エレベータかごの何らかの安全装置5の一作動原理を図2に示す。図2による安全装置は図1のエレベータシステムにも使用することができる。安全装置5のフレーム部20はエレベータかごに対して固定されている。フレーム部はハウジング21を有し、これはエレベータガイドレール22に対面した制動面23を含み、ハウジングの内側にはエレベータガイドレール22が配置されている。同様に、ハウジングはローラ24を有し、これは、安全装置5が作動するとエレベータガイドレール22に接触し、ハウジング内の軌道25上に位置する。エレベータガイドレール22は制動面23とローラ24との間にある。軌道25の形状は、ローラ24が軌道25上をガイドレール22の方向に動くと、制動を引き起こすローラ24の作用によってガイドレールが制動面23を押圧し、これによってエレベータかごが停止するようになっている。例えば、エレベータの過速度防止装置7にロープ27を介して関連している伝動手段がローラを軌道25に沿って上方へ引張ってガイドレールを把持すると、図2に示すように矢印の方向に下方へ移動するエレベータかごの把持が開始する。実際上これは、エレベータかご3が動いているときに過速度防止装置7でロープ27の動きをロックすることによって生じるが、その場合、エレベータかごに伴うローラ24の動きは移動用軌道25に対して減速され、ローラは軌道25に対する把持位置へ移動する。
【0034】
把持されたエレベータかごを下方へ動かす際、引き離すには、エレベータかごを上方に、すなわち把持の伝播方向とは反対の方向に引く必要がある。同様に、把持されたエレベータかごを上方へ動かす際、引き離すには、エレベータかごを下方へ引く必要がある。図1のエレベータシステムでは、エレベータの巻上げ機1によってトルクインパルスを生成する。トルクインパルスは、エレベータロープ、ベルトもしくは同等物15を経由してエレベータかご3に対して把持の伝播方向とは反対の方向に作用する。他方、釣り合いロープ19も、トルクインパルスを生ずる解除力の伝達に使用可能であろう。トルクインパルスを生成するには、周波数変換器2は、図3aに示す短い連続電流パルス10A、10B、10Cをインバータ制御回路13によりエレベータの巻上げ機の永久磁石同期モータへ永久磁石同期モータの磁化軸に実質的に垂直な方向に供給する。その場合、供給される電流パルス10A、10B、10Cは、永久磁石同期モータにより生成されるトルクに直接比例する。電流パルス10A、10B、10Cのパルス幅は、例えばおおよそ300ミリ秒でよく、相続く電流パルス間の無電流時間は、例えばおおよそ200ミリ秒でよい。パルスのパルス幅に対する相続くパルス間の無電流時間も可変でよい。電流パルス10A、10B、10Cにより生ずるモータの連続トルクインパルスの周波数は、エレベータシステムの機械振動の共振周波数に実質的に対応するよう選択することができる。機械振動の共振周波数を使用することは有利である。なぜなら、このような場合、連続トルクインパルス10A、10B、10Cによってより多くの振動エネルギーがエレベータシステムの機械振動回路へ累積的に加わることができ、その結果、エレベータかごの解除トルクを増大させることができるからである。エレベータシステムの機械振動回路において、なかでも、かご3および釣合い重り4の質量は、例えばエレベータロープ、ベルトもしくは同等物15などの可撓性部品のばね定数によって決まる周波数で振動する。図3bは、図3aのトルクを生成する電流パルス10A、10B、10Cに対する応答としてのエレベータの巻上げ機1の速度信号11を示す。速度信号11は、巻上げ機1の回転部に機械的に接触するエンコーダにより測定される。ここでは、巻上げ機の速度信号11がほとんど0まで減少すると常に、個々の電流パルス10A、10B、10Cが遮断される。この状態では、エレベータかご3と巻上げ機1の駆動綱車との間におけるエレベータロープ、ベルトもしくは同等物15の伸張は、実質的にその最大点に達する。累積的に供給される連続電流パルス10A、10B、10Cによってエレベータシステムの機械振動回路へより多くのエネルギーが加わるので、電流パルス10A、10B、10Cに対応して連続速度パルス11の振幅も大きくなり、その結果、エレベータかご3の解除トルクも大きくなる。
【0035】
図4は、例えば図1によるエレベータシステムにおいて、把持され固着したエレベータかごの1回の解除操作の測定結果を示す。トルクインパルス10A、10B、10Cはエレベータの巻上げ機で生成される。これは、周波数変換器2により電流パルスを巻上げ機1の永久磁石同期モータへ、例えば図3a、図3bの実施例にて説明したやり方で供給することによって行なわれる。トルクインパルスにより生成されるエレベータの巻上げ機1の速度も測定され、エレベータかごが安全装置から離れたことが観察されると、解除機能は停止する。安全装置からのエレベータかごの解除は、巻上げ機1の速度11が上昇して設定最終限界を超えると、検出される。エレベータの巻上げ機の速度測定11に代わって、エレベータかご3の速度を、例えばエレベータかごとガイドレールとの間に接続されたエンコーダによって、または過速度防止装置7のローププーリへ接続されたエンコーダによって直接測定することもできるであろう。
【0036】
エレベータかご3の解除機能は、例えばサービスセンタ17から駆動信号を、サービスセンタとエレベータシステムのエレベータ制御ユニット8との間の無線リンクを介して送信することによって、開始することができる。エレベータかご3の解除機能は、例えばエレベータ制御ユニット8の操作パネル9から駆動信号を、エレベータ制御ユニット8と周波数変換器2との間のシリアル通信バス16を介して送信することによっても、開始できるであろう。例えば、保守員用のいわゆるMAP(保守アクセスパネル)ユーザインタフェースを操作パネル9として使用することもできる。操作パネル9は、例えばエレベータの停止階もしくは機械室内に設置することができ、その場合、エレベータかごの解除操作はエレベータ昇降路12の外部から開始することができる。解除機能は、例えば先ず駆動パラメータをMAPユーザインタフェースから周波数変換器のインバータ制御回路13へシリアル通信バス16を介して送信することによって、駆動することができ、その後、解除機能を緊急駆動スイッチ(RDFスイッチ)によってMAPユーザインタフェースから開始する。この場合、緊急駆動スイッチによって緊急上昇駆動を選択すると、エレベータの巻上げ機1はトルクインパルス10A、10B、10Bを生成し始め、これらがエレベータかごを上方へ引張ろうとする。同様に、緊急下降駆動を選択すると、トルクインパルスはエレベータかごに対して下方へ働く。
【0037】
これまでエレベータかごの安全装置5について本発明を説明したが、本発明により、例えば釣合い重り4も同様のやり方で安全装置14から引き離すことができる。
【0038】
安全装置5、14の作動は、例えば安全装置に関連して取り付けられた安全スイッチなどのセンサの状態を測定することによって、観測することができる。したがって、安全装置5、14の作動の観測結果を把持状態の解除に利用することもできる。把持の結果は、例えばカメラモニタによるサービスセンタ17からの遠隔通信によって検査することもできる。把持に関する情報をエレベータ制御ユニット8からサービスセンタ17へ、例えば無線リンクを介して送信することもできる。
【0039】
先に、釣合い重り付きエレベータシステムについて本発明を説明したが、本発明による解決策は釣合い重りなしのエレベータシステムにも適している。
【0040】
先の図2の実施例は、とくにエレベータかごの安全装置5の構造および作動を説明するものである。一般に、釣合い重りの安全装置14はその構造および作動がエレベータかごの上述の安全装置5と類似している。
【0041】
本発明は上述の実施例のみに限定されず、以下の請求項により明記する発明概念の範囲内で多くの変形が可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクインパルス(10A、10B、10C)をエレベータの巻上げ機(1)で生成し、把持され固着したエレベータかごおよび/または把持され固着した釣合い重り(4)を解除することを特徴とするエレベータシステムに関連する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、該方法は、トルクインパルスを前記エレベータの巻上げ機(1)で生成し、該トルクインパルスは、前記エレベータかごおよび/または釣合い重り(4)に対して把持の伝播方向とは反対の方向に作用させることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、該方法は、
安全装置(5、14)の作動を観測し、
前記エレベータかご(3)および/または釣合い重り(4)の把持を前記安全装置(5、14)の作動に基づいて推定することを特徴とする方法。
【請求項4】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、該方法は、前記エレベータかご(3)および/または釣合い重り(4)の把持に関する情報をサービスセンタ(17)へ送信することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、該方法は、実質的にパルス様の電流を前記エレベータの巻上げ機へ供給することによってトルクインパルスを該エレベータの巻上げ機で生成することを特徴とする方法。
【請求項6】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、該方法は、把持され固着したエレベータかご(3)および/または把持され固着した釣合い重り(4)の解除機能をサービスセンタ(17)から駆動することを特徴とする方法。
【請求項7】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、該方法は、把持され固着したエレベータかご(3)および/または把持され固着した釣合い重り(4)の解除機能をエレベータ制御ユニットのユーザインタフェース(9)により駆動することを特徴とする方法。
【請求項8】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、該方法は、連続するトルクインパルス(10A、10B、10C)を前記エレベータシステムの機械振動の共振周波数と実質的に対応する周波数で生成することを特徴とする方法。
【請求項9】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、該方法は、
前記トルクインパルス(10A、10B、10C)により生じる巻上げ機および/またはエレベータかごの動き(11)を測定し、
該巻上げ機および/またはエレベータかごの動き(11)の大きさが増大して最終限度を超えると、前記把持され固着したエレベータかご(3)および/または把持され固着した釣合い重り(4)の解除機能を終了することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、該方法は、
トルクインパルス(10A、10B、10C)により生じる前記巻上げ機の動き(11)を測定し、
該巻上げ機の速度(11)が減速して遮断限界を下回ると、個々のトルクインパルス(10A、10B、10C)を遮断することを特徴とする方法。
【請求項11】
エレベータかご(3)と、
該エレベータかご(3)をエレベータ昇降路(12)内で移動させる巻上げ機(1)と、
該エレベータかご(3)の動きを停止させる安全装置(5)と、
前記巻上げ機(1)へ接続され、該巻上げ機(1)でトルクを生成する給電装置(2)とを含むエレベータシステムにおいて、
該エレベータシステムは制御器(13)を含み、該制御器は給電装置(2)に関連して配設され、
該制御器(13)は、前記エレベータの巻上げ機(1)でトルクインパルス(10A、10B、10C)を生成し、把持され固着したエレベータかご(3)を解除するように配設されていることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項12】
釣合い重り(4)と、
該釣合い重り(4)をエレベータ昇降路(12)において移動させる巻上げ機(1)と、
前記釣合い重り(4)の動きを停止させる安全装置(4)と、
前記巻上げ機(1)へ接続され、該巻上げ機(1)でトルクを生成する給電装置(2)とを含むエレベータシステムにおいて、
該エレベータシステムは制御器(13)を含み、該制御器は、給電装置(2)に関連して配設され、該制御器(13)は、前記エレベータの巻上げ機(1)でトルクインパルス(10A、10B、10C)を生成し、把持され固着した釣合い重り(4)を解除するように配設されていることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項13】
請求項11または12に記載のエレベータシステムにおいて、前記制御器(13)は、前記エレベータの巻上げ機(1)でトルクインパルス(10A、10B、10C)を生成し、該トルクインパルスは、前記エレベータかご(3)および/または釣合い重り(4)に把持の伝播方向とは反対の方向に作用するよう配設されていることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項14】
請求項11ないし13のいずれかに記載のエレベータシステムにおいて、該エレベータシステムは、前記エレベータかご(3)および/または釣合い重り(4)を前記エレベータ昇降路(12)内に懸装するロープもしくはベルト(15)を含むことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項15】
請求項11ないし14のいずれかに記載のエレベータシステムにおいて、前記制御器(13)は駆動信号用の入力を含み、
前記制御器(13)は、前記駆動信号を受信した後、把持され固着したエレベータかご(3)および/または把持され固着した釣合い重り(4)の解除機能を駆動するように配設されていることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項16】
請求項11ないし16のいずれかに記載のエレベータシステムにおいて、該エレベータシステムはエレベータ制御ユニット(8)を含み、
該エレベータ制御ユニット(8)と前記制御器(13)との間にデータ転送チャネルが形成され、駆動信号を該エレベータ制御ユニット(8)から該制御器(13)へ送信することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項17】
請求項16に記載のエレベータシステムにおいて、前記エレベータ制御ユニット(8)はユーザインタフェース(9)を含み、
把持され固着したエレベータかご(3)および/または把持され固着した釣合い重り(4)の解除機能は、前記ユーザインタフェース(9)から得られた駆動指示の結果として駆動されるように配設されていることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項18】
請求項16または17に記載のエレベータシステムにおいて、前記エレベータ制御ユニット(8)はデータ転送線によってサービスセンタ(17)へ接続され、
把持され固着したエレベータかご(3)および/または把持され固着した釣合い重り(4)の解除機能は、前記ユーザインタフェース(9)から得られた駆動指示の結果として駆動されるように配設されていることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項19】
請求項11ないし18のいずれかに記載のエレベータシステムにおいて、該エレベータシステムは前記安全装置(5、14)の作動状態を判定するセンサを含み、
前記エレベータ制御ユニット(8)は、該安全装置(5、14)の作動状態を判定する前記センサの測定信号用の入力を含むことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項20】
請求項11ないし19のいずれかに記載のエレベータシステムにおいて、前記制御器(13)は、該エレベータシステムの機械振動の共振周波数に実質的に対応する周波数の連続トルクインパルス(10A、10B、10C)を前記エレベータの巻上げ機で生成するように配設されていることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項21】
請求項11ないし20のいずれかに記載のエレベータシステムにおいて、前記巻上げ機(1)は、前記エレベータかご(3)を動かすトルクを生成する永久磁石同期モータを含むことを特徴とするエレベータシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−510058(P2013−510058A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537429(P2012−537429)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050884
【国際公開番号】WO2011/058219
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(591159044)コネ コーポレイション (75)
【氏名又は名称原語表記】KONE CORPORATION
【Fターム(参考)】