説明

エレベータ制動装置

【課題】有効な制動が効きやすく騒音を発生しないエレベータ制動装置を提供すること。
【解決手段】一例のエレベータ制動装置は、エレベータかごを昇降させるロープを回転により駆動制御する駆動モータの回転面に押圧され、両面に環状の摩擦環を設けられた円板状のディスクと、このディスクに当接される制動板と、この制動板を前記ディスクの裏面から電磁的に押圧し、前記摩擦環の位置に対応して設けられた圧縮バネと、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータ装置の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ装置では、通常、乗客が乗り降りするエレベータかごを上下方向に移動制御するために錘(カウンターウェイト)とエレベータかごのロープをつけ、このロープをモータにより駆動される円形回転体の縁に回してこのロープを移動させる。エレベータかごを所定の階に昇降させたり止めるために上記回転体の回転を止めるブレーキも当然、必要である。
【0003】
この巻き上げ機駆動制御部の構造の一例を図1に示す。回転する回転駆動モータ11の心軸12の一方に、ロープ13を上縁部に巻回する駆動綱車(シープ)14が設けられ、心軸12の他方に、回転駆動モータ11の回転を抑止する制動装置15が設けられる。
【0004】
拡大した制動装置15の断面構造を図2に示す。制動装置15は、縁部の両面にリング状の摩擦環21a,21bを固着したディスク21と、心軸を除いて上下に設けられディスク21に押圧される2枚の制動板22c,22dと、これらの制動板に対応して設けられ、電磁コイル23c,23dとこの電磁コイルにより押圧制御される電磁圧縮バネ24c,24dを内部に有する制止板25c,25dと、これらの制止板25c,制動板22c,ディスク21及び制止板25d、制動板22d,ディスク21を回転駆動モータ11の固定部分に各々固定する取付ボルト26c,26dとを有する。電磁コイル23cにより電磁圧縮バネ24cが制御され、この電磁コイル23に通電されると電磁圧縮バネ24cが圧縮され、電気がオフになると、電磁圧縮バネが伸びて制動板22cが、ディスク21のほうに押し付けられ、制動がかけられる。電磁コイル23dによる電磁圧縮バネ24dの制御も同様である。
【0005】
従来の場合の制動装置の、図1の矢印A、A方向から見た制動装置15の摩擦環21b、制動板22c,22d及びバネ24の関係を図3に示す。
【0006】
図3に示すように、上下の制動板22c,22dは、各々4つの取付ボルト26c,26dにより取り付けられる。制動板22cを押圧する4つの電磁圧縮バネ24c、制動板22dを押圧する4つの電磁圧縮バネ24dは、各制動板に対して四隅に設けられる。
【0007】
従来の制動装置ではこのように、電磁圧縮バネは制動板に対して四隅を抑えるような位置に設けられていた。したがって、電磁圧縮バネが制動板の摩擦環に対応する位置に設けられているとは限らず、有効な制動が効きにくく、制動力を強くすると、騒音を発生するなどの問題があった。
【0008】
エレベータのブレーキにおいて、ディスクとライニングの摺動により生ずる摩擦粉を用いて静摩擦係数の高いブレーキが知られている。しかし、必ずしも十分な制動が得られない場合も多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−146564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有効な制動が効きやすく騒音を発生しないエレベータ制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態によれば、エレベータかごを昇降させるロープを回転により駆動制御する駆動モータの回転面に押圧され、両面に環状の摩擦環を設けられた円板状のディスクと、このディスクに当接される制動板と、この制動板を前記ディスクの裏面から電磁的に押圧し、前記摩擦環の位置に対応して設けられた圧縮バネと、を有することを特徴とするエレベータ制動装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】エレベータ装置における制動装置及び回転駆動モータの機構を示す図である。
【図2】エレベータ装置における制動装置の機構の拡大図である。
【図3】従来の制動装置における摩擦環と圧縮バネの関係を示す図である。
【図4】一実施形態の制動装置における摩擦環と圧縮バネの関係を示す図である。
【図5】一実施形態の制動装置の機構の拡大図である。
【図6】他の実施形態における摩擦環と圧縮バネの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態について、図面を用いて説明する。従来の制動装置の図3に対応する実施形態の平面図を図4に示す。また、図2に対応する制動装置の断面構造図を図5に示す。
【0014】
この図において、符号32,31b,32c,32d,34c,34d,36c,36dは図1及び図2における、符号12,22b,22b,24c,24d,26c,26dに対応する。
【0015】
制御板32cには押圧される電磁圧縮バネ34cは、摩擦環31bの存在する位置に、図4に示す例では4個設けられている。
【0016】
他の構造は図2と同様である。すなわち、この制動装置は、縁に近い部分の周囲で両側に設けられた摩擦環31a,31bを有するディスク31と、このディスク31に押圧される制動板32c,32dと、制止板35c,35dと、これらの制動板、制止板及びディスクを固定する取付ボルト36c,36dを有する。摩擦環31aは、回転駆動モータ11の回転面に摺接する。
【0017】
制止板35cは内部に4本の電磁圧縮バネ34cを図4に示すように上向きの円弧上の位置に有しており、これらの電磁圧縮バネ34cを通電制御する電磁コイル33cをも制止板35c内に有する。制止板35dは内部に4本の電磁圧縮バネ34dを図4に示すように下向きの円弧上の位置に有しており、これらの電磁圧縮バネ34dを通電制御する電磁コイル33dをも制止板35d内に有する。8本の電磁圧縮バネ34c,34dの強さはほぼ同一とする。電磁コイル33c,33dは通電がなされないとき、電磁圧縮バネ34c,34dは、その本来の力で、制動板32c,32dをその裏面からディスク31に押圧することになる。
【0018】
取付ボルト36cは、制動板32c及び制止板35cに対応して四隅に設けられており、取付ボルト36dは、制動板32d及び制止板35dに対応して四隅に設けられている。
【0019】
図4及び図5を用いてこの実施形態の動作を説明する。電磁コイル33c,33dに通電されると、電磁圧縮バネ34c,34dは、矢印37c,37dの方向に圧縮され、ディスク31に加えられる押圧力が減小し、ディスクから回転駆動モータ11への押圧力が減少し、回転駆動モータ11が回転するようになる。電磁コイル33c,33dへの通電がなくなると、電磁圧縮バネ34c,34dは自然に伸びて、制動板32c、32dがディスク31に押圧力が増加する。この制動は、例えば電磁コイル33c、33dに通電する電流に反比例する。
【0020】
したがって通常は、電磁コイル33c,33dへの通電をしない状態から徐々に通電し電流を大きくしてエレベータかごを吊るロープ13の回転を速くすることにより、エレベータかごの昇降速度を上げ、目的階に近づくと、再び電磁コイル33c,33dへの通電電流を小さくして制動をかけ、目的階で通電電流を止めて、制動板32c,32dをディスク31に押圧することになる。
【0021】
このようにして、電磁コイル33c,33dへの通電電流を変えてエレベータかごの昇降速度、停止を制御できる。
【0022】
なお、電磁コイル33c,33dへの通電を徐々に大きくしていったときに、電磁圧縮バネ34c,34dの制動板32c,32dへの押圧力を徐々に大きくしていくことも可能である。
【0023】
この実施形態によれば、電磁圧縮バネ34c、34dが、ディスク31の摩擦環31bに対応する位置に設けられているので、電磁コイル33c、33dの通電電流を変えていくことにより、ブレーキの制動を容易に効かせることが可能となる。
【0024】
ところで、上記実施形態では、ほぼ同一の押圧力を有する8本の電磁圧縮バネが設けられる制動装置について説明した。しかし、これらのバネは同じ程度に押圧力を有していなくてもよい。
【0025】
この種の実施形態の図4に対応する図を図6に示す。この場合の電磁圧縮バネは通常の押圧力を有する電磁圧縮バネ44cのほかにより強い押圧力を有する電磁圧縮バネ44c‘、44d’を有する。
【0026】
図6において、41b,42c,42d,46c,46dは、図4における31b,32c,32d,36c,36dに対応する。制御板42cに押圧される電磁圧縮バネ44c、44c‘は、図6に示す例では各々2個ずつ、計4個設けられている。制御板42dに押圧される電磁圧縮バネ44d、44d’は、図6に示す例では4個設けられている。他は図5に示す構造と同様である。
【0027】
制動板42cは、取付ボルト46cにより、四隅を止められる。制動板42dは、取付ボルト46dにより、四隅を止められている。
【0028】
上記図6に示す実施形態では、電磁圧縮バネの強さは2種類としていたが3種類以上あってもよい。また、バネの強いものを中央2つ並べて置く必要もなく、バネ力の強いものと弱いものを交互に設けてもよい。
【0029】
この実施形態によれば、電磁圧縮バネ44c,44c‘,44d,44d’が、ディスクの摩擦環41bに対応する位置に設けられているので、電磁コイルの通電電流を変えていくことにより、ブレーキの制動を容易に効かせることが可能となる。また、電磁圧縮バネの強さが異なっており、ブレーキの制動が図4に示す実施形態より更に容易に効く利点がある。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態を説明したがこれらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
11・・・・回転駆動モータ、
12・・・・心軸、
13・・・・ロープ、
14・・・・駆動綱車(シープ)、
15・・・・制動装置、
21,31・・・・ディスク、
21a,21b,31a,31b・・・・摩擦環、
22c,22d,32c,32d,42c,42d・・・・制動板、
23c,23d,33c,33d・・・・電磁コイル、
24c,24d,34c,34d,44c,44c‘,44d,44d’・・・・電磁圧縮バネ、
25c,25d,35c,35d・・・・制止板、
26c,26d,36c,36d,46c,46d・・・・取付ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータかごを昇降させるロープを回転により駆動制御する駆動モータの回転面に押圧され、両面に環状の摩擦環を設けられた円板状のディスクと、
このディスクに当接される制動板と、
この制動板を前記ディスクの裏面から電磁的に押圧し、前記摩擦環の位置に対応して設けられた圧縮バネと、
を有することを特徴とするエレベータ制動装置。
【請求項2】
前記制動板は、2つの板からなることを特徴とする請求項1記載のエレベータ制動装置。
【請求項3】
前記圧縮バネは、強さのほぼ同一の複数のバネから成ることを特徴とする請求項1又は2記載のエレベータ制動装置。
【請求項4】
前記圧縮バネは、強さの異なる複数のバネから成ることを特徴とする請求項1又は2記載のエレベータ制動装置。
【請求項5】
前記圧縮バネは、この圧縮バネを押圧する電磁コイルとともに、制止板に設けられて成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエレベータ制動装置。
【請求項6】
エレベータかごを昇降させるロープを回転により駆動制御する駆動モータの回転面に押圧され、両面に環状の摩擦環を設けられた円板状のディスクと、
このディスクに当接される2つの板から成る制動板と、
これらの制動板を前記ディスクの裏面から押圧し、前記摩擦環の位置に対応して設けられた複数の圧縮バネと、
この圧縮バネ及び通電することにより前記圧縮バネの前記制動板への押圧力を制御する電磁コイルと、
この電磁コイル及び前記圧縮バネを収容する制止板と、
を有することを特徴とするエレベータ制動装置。
【請求項7】
前記圧縮バネは、強さのほぼ同一の複数のバネから成ることを特徴とする請求項6記載のエレベータ制動装置。
【請求項8】
前記圧縮バネは、強さの異なる複数のバネから成ることを特徴とする請求項6記載のエレベータ制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−103832(P2013−103832A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250704(P2011−250704)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】