説明

エレベータ巻上機用制動装置

【課題】コイルへの通電遮断時における制動に際して、コアとブレーキドラムとの間に介在するブレーキ部を複雑な構造とすること無く、当接による衝突音を低減すること。
【解決手段】巻上機に連結されるブレーキドラム3と、ブレーキドラムに制動力を付与するブレーキ部9,10と、ブレーキ部が固定されているアマチュア7と、ブレーキドラムの当接位置又は非当接位置に位置するようにアマチュアを移動させるコア1と、コアを支える浮遊ばね4と、コアとアマチュアとの間に吸引力を発生させる第一のコイル13と、コアとアマチュアの間隔を調整するストローク調整ボルト11と、を備え、巻上機に固定のボディ2とコア1との間でコアをボディ側に引き付ける吸引力を発生させる第二のコイル12をコア1に設け、第二のコイル12の巻数は、第一のコイル13よりもコイルの巻数を少なくし、第一及び第二のコイルへの通電遮断時にブレーキ部9,10のブレーキドラム非当接位置を二段階変位(S→δS)させること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベータ巻上機用制動装置に係わり、特に通電遮断時における制動装置の衝撃音を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキライニング等の制動体によってブレーキドラム等の回転体を押圧し、回転体を付設した回転輪を保持する方式を採用している巻上機用制動装置では、ブレーキライニングとブレーキドラムとの衝突音が大きく、エレベータのかごに乗っている乗客に不快感を与えるという課題があるため、衝突音を低減することが求められている。
【0003】
制動時における衝撃音を低減する従来技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が挙げられ、この特許文献1によると、巻上機に変位機構を介してダンパーを装備して常時は制動体に対向した所定位置に保持し、制動動作した制動体により押圧されて制動体の押圧動作を緩衝する旨が開示されている。
【0004】
また、ブレーキ動作時の衝突音を軽減し騒音を少なくする従来技術として、例えば特許文献2があり、これによると、非通電時における電磁マグネットから生じる推力を増幅してブレーキライニングに伝える推力増幅伝達部と、電磁マグネットの可動部のストロークをロータドラムとの接離に係わるブレーキライニングの微小ストロークに変換するストローク減縮変換部と、を備えることで当初の課題を解決することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−137879号公報
【特許文献2】特開2003−40558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1の従来技術では、衝突音低減のためにダンパーを使用して衝突速度を遅くすることで衝突音の低減を図っているが、ダンパー内のオイルが漏れて制動面に付着するおそれがある。
【0007】
また、上記の特許文献2の従来技術では、衝突音低減のためにストロークに対してギャップが小さくなるように推力増幅伝達部による減衰機構を用いて、見かけ上のストロークを小さくしているため、推力増幅伝達部やストローク減縮変換部などを設置する必要があり、構造が複雑になり、部品数も多くなるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
巻上機に連結されるブレーキドラムと、前記ブレーキドラムの外周部に当接して前記ブレーキドラムに制動力を付与するブレーキ部と、前記ブレーキ部が固定されているアマチュアと、前記ブレーキ部が前記ブレーキドラムの当接位置又は非当接位置に位置するように前記アマチュアを電磁力で移動させるコアと、前記コアを巻上機に対して支える浮遊ばねと、通電により前記コアを励磁して前記コアと前記アマチュアとの間に吸引力を発生させる第一のコイルと、前記コアと前記アマチュアの間隔を調整するストローク調整ボルトと、を備えたエレベータ巻上機用制動装置であって、前記コアを挟んで前記ブレーキ部と反対側に配置された巻上機固定のボディと前記コアとの間で前記コアを前記ボディ側に引き付ける吸引力を発生させる第二のコイルを、前記コアに設け、前記第二のコイルの巻数は、前記第一のコイルよりもコイルの巻数を少なくし、前記第一及び第二のコイルへの通電遮断時に前記ブレーキ部の前記非当接位置を二段階変位させる構成とする。
【0009】
また、前記エレベータ巻上機用制動装置において、前記ボディと前記コアとの間に設けられ、前記コアを前記ブレーキドラムの方向に押し付けるストローク変換ばねが、前記ストローク調整ボルトに嵌挿されること。さらに、前記ストローク変換ばねのばね定数は、前記浮遊ばねのそれよりも大きく、前記コアと前記アマチュアとの間に設けられて互いを引き離す制動ばねのそれよりも小さいこと。さらに、前記一と前記第二のコイルへの通電遮断時に前記第二のコイルによる前記コアの前記ボディ側への吸引力が喪失することに伴って前記浮遊ばねの付勢力と前記ストローク調整ばねの付勢力がバランスすることにより、前記ブレーキ部と前記ブレーキドラムとの間隔δSが前記一と前記第二のコイルへの通電時における間隔Sよりも小さくなること。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コイルへの通電遮断時にブレーキライニングのブレーキドラムへの当接による制動に際して、コアとブレーキドラムとの間に介在するブレーキ部を複雑な構造とすること無く、当接による衝突音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るエレベータ巻上機用制動装置のコイル非通電時における正面図、側面図及び正面図である。
【図2】本実施形態に係るエレベータ巻上機用制動装置のコイル通電時における正面図である。
【図3】本実施形態に係るエレベータ巻上機用制動装置のコイル非通電時におけるブレーキ部のブレーキドラムへの接近位置状況を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る巻上機用制動装置について、図1〜図3を参照しながら以下説明する。まず、本実施形態に係る巻上機用制動装置の構成と機能について図1を用いて説明する。
【0013】
図1(a)は、本実施形態に係る巻上機用制動装置をコイル非通電時に正面から見た図であり、図1(b)は、本実施形態に係る巻上機用制動装置をコイル非通電時に側面から見た図であり、図1(c)は、本実施形態に係る巻上機用制動装置をコイル非通電時に上面から見た図である。
【0014】
図1において、符号1で示すコア1は、アマチュア7との間にコア1とアマチュア7を引き付ける向きに吸引力を発生させる第一のコイル13と、ボディ2との間にコア1とボディ2を引き付ける向きに吸引力を発生させる第二のコイル12と、を内部に含んだ構成であり、符号2はボルトで巻上機14に固定されているボディであり、符号3は外力を受けて回転するブレーキドラムである。
【0015】
また、符号4はコア1と巻上機14の間にありコア1を両側から押し上げてストローク調整ボルト11の先端に押し付ける浮遊ばね4であり、符号5はコア1とアマチュア7の間にあり第一のコイル12の非通電時にコア1とアマチュア7を引き離す制動ばねであり、符号6は浮遊ばね4より強く制動ばね5よりも弱いばね力を持ち第二のコイルの非通電時にコア1をブレーキドラム方向に変位させるストローク変換ばねである。図1の図示構造から分かるように、直方体形状のコア1の4つの隅部のそれぞれの略下半分に切欠きを設け、その切欠きにそれぞれ4つの制動ばね5を装着する。さらに、コア1の短手方向の側面部において、左右の側面部の中央部分にそれぞれ切欠きを設け(2つの切欠き)、当該2つの切欠きに浮遊ばね4を装着する。
【0016】
また、符号7はロッド8を介してブレーキシュー9を固定しているアマチュア、符号8はアマチュア7に圧入されブレーキシュー9の反対側でコア1の挿入孔(不図示)に挿通されておりコア1とアマチュア7を平行に保つロッド、符号9はアマチュア7側ではロッド8に固定されブレーキドラム3側ではブレーキライニング10を固定しているブレーキシュー、符号10は第一及び第二のコイルの非通電時にブレーキドラム3方向に押し付けられブレーキドラム3が回転しないように保持するブレーキライニング、符号11はコア1とアマチュア7の間のストロークを調整するためのストローク調整ボルト、をそれぞれ表す。なお、ブレーキシュー9とブレーキライニング10からなるものをブレーキ部と称する。
【0017】
さらに、符号12は第二のコイルであり、コア1とボディ2の間にコア1とボディ2を引き付ける向きに吸引力を発生させるコイルであり、第一のコイル13よりも巻き数が少なく第一のコイル13よりも吸引力が小さいコイルであり、符号13はコア1とアマチュア7の間にコア1とアマチュア7を引き付ける向きに吸引力を発生させる第一のコイルであり、符号14は符号1〜符号13からなる制動装置が取り付けられた巻上機である
次に、本実施形態に係る巻上機用制動装置の動作について、図2と図3を参照しながら以下説明する。まず、第一及び第二のコイル13,12の通電時、すなわち一例として、エレベータに適用される巻上機用制動装置である場合に、エレベータが平常運転であるとき、図2に示すように、コア1とアマチュア7の間の吸引力によって制動ばね5に抗してアマチュア7がコア1に引き付けられ、それに伴いロッド8を介してアマチュア7に固定されているブレーキシュー9とブレーキシュー9に固定されているブレーキライニング10もコア1方向へ移動し、ブレーキドラム3とブレーキライニング10の間にストロークSが生じる。
【0018】
そして、ストロークSの保持状態でブレーキドラム3は、ブレーキライニング10から開放されて回転する。ここで、コア1は、第二のコイル12の吸引力によってボディ2の方向へ引き付けられているためストローク調整ボルト11の先端部から離れず、第一及び第二のコイル13,12の通電時に、コア1がブレーキドラム3の方向へ変位することはない。
【0019】
いま、第一及び第二のコイル13,12の通電遮断時、すなわち一例として、エレベータに適用される巻上機用制動装置である場合に、エレベータが非常時になるとき、第二のコイル12が第一のコイル13の方よりもコイル巻数が少ないため、先に吸引力を失う(コイル巻数の多寡に伴うインダクタンス成分の大小による遅れ発生によって)。コア1とボディ2の間の吸引力が無くなることによって、浮遊ばね4よりもばね定数の強いストローク変換ばね6が浮遊ばね4とストローク変換ばね6の力が吊り合う位置までブレーキドラム3側にコア1を変位させる。
【0020】
コア1のこの変位と連動して、アマチュア7、ロッド8、ブレーキシュー9、ブレーキライニング10もブレーキドラム3側へ変位させられる。この結果、図3に示すように、ブレーキドラム3とブレーキライニング10の間のストロークSが図2のSからδS(δS<S)に変換される。
【0021】
その後、第一のコイル13の吸引力が無くなり、制動ばね5によってコア1がストローク調整ボルト11側へ、さらに同時にアマチュア7がブレーキドラム3側へと変位させられる。アマチュア7がブレーキドラム3側へ変位させられることによって、ロッド8、ブレーキシュー9、ブレーキライニング10もブレーキドラム3側へ変位させられる。そして、ブレーキライニング10とブレーキドラム3が衝突する際、ブレーキライニング10とブレーキドラム3の間のストロークSがδSに減少しているため、ブレーキライニング10とブレーキドラム3との衝突音も減少する。衝突後に図1の状態に戻る。
【0022】
このように、第一及び第二のコイル13,12への通電遮断時に図2に示すδS(δS<S)を一時的に形成させるためには、浮遊ばね4のばね定数<ストローク変換ばね6のばね定数<制動ばね5のばね定数、の関係、第二のコイル12のコイル巻数<第一のコイルの巻数、の関係をもつ必要がある。以上の説明では、第一のコイル13と第二のコイル12は同時に通電遮断させ、その電磁吸引力に時間差をもたせる異なるコイル巻数の構成を前提としてが、これに限らず、第一と第二のコイルに個別に電流遮断のタイミングを異ならせるようにしてもよい。要は、既存のストローク調整ボルト11に対してストローク変換ばね6を設けてブレーキシュー9及びブレーキライニング10を二段階変位させ、ブレーキドラムに接近した第二段階目の間隔δSにおいて第一コイル13による電磁力吸引力を釈放するものである。換言すると、コアの上と下に設置したコイル13,12の磁力が消える時間に差を設け、コイルへの通電遮断時にブレーキシュー9及びブレーキライニング10のストロークを二段階変化するようにして、ブレーキドラムへの衝突音を小さくするものである。
【0023】
以上述べたように、本実施形態では、コア1と、反ブレーキライニング10側に配置されたボディ2と、の間にストローク変換ばね6を入れることによって、ブレーキライニング10とブレーキドラム3との間のストロークSがδSに減少し、減少した状態で第一のコイルによるアマチュア7への吸引力が喪失するのでブレーキライニング10とブレーキドラム3の衝突音も減少する。
【符号の説明】
【0024】
1 コア
2 ボディ
3 ブレーキドラム
4 浮遊ばね
5 制動ばね
6 ストローク変換ばね
7 アマチュア
8 ロッド
9 ブレーキシュー
10 ブレーキライニング
11 ストローク調整ボルト
12 第二のコイル
13 第一のコイル
14 巻上機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機に連結されるブレーキドラムと、前記ブレーキドラムの外周部に当接して前記ブレーキドラムに制動力を付与するブレーキ部と、前記ブレーキ部が固定されているアマチュアと、前記ブレーキ部が前記ブレーキドラムの当接位置又は非当接位置に位置するように前記アマチュアを電磁力で移動させるコアと、前記コアを巻上機に対して支える浮遊ばねと、通電により前記コアを励磁して前記コアと前記アマチュアとの間に吸引力を発生させる第一のコイルと、前記コアと前記アマチュアの間隔を調整するストローク調整ボルトと、を備えたエレベータ巻上機用制動装置であって、
前記コアを挟んで前記ブレーキ部と反対側に配置された巻上機固定のボディと前記コアとの間で前記コアを前記ボディ側に引き付ける吸引力を発生させる第二のコイルを、前記コアに設け、
前記第二のコイルの巻数は、前記第一のコイルよりもコイルの巻数を少なくし、
前記第一及び第二のコイルへの通電遮断時に前記ブレーキ部の前記非当接位置を二段階変位させる
ことを特徴とするエレベータ巻上機用制動装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ボディと前記コアとの間に設けられ、前記コアを前記ブレーキドラムの方向に押し付けるストローク変換ばねが、前記ストローク調整ボルトに嵌挿されることを特徴とするエレベータ巻上機用制動装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第二のコイルの巻数を前記第一のコイルのそれよりも少なくすることに代えて、前記第一と前記第二のコイルとの巻数の多寡に関係ない第一と第二のコイルを設け、
前記第一のコイルへの通電遮断タイミングを第二のコイルのそれよりも遅らせて前記ブレーキ部の前記非当接位置を二段階変位させる
ことを特徴とするエレベータ巻上機用制動装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記ストローク変換ばねのばね定数は、前記浮遊ばねのそれよりも大きく、前記コアと前記アマチュアとの間に設けられて互いを引き離す制動ばねのそれよりも小さい
ことを特徴とするエレベータ巻上機用制動装置。
【請求項5】
請求項2または4において、
前記一と前記第二のコイルへの通電遮断時に前記第二のコイルによる前記コアの前記ボディ側への吸引力が喪失することに伴って前記浮遊ばねの付勢力と前記ストローク調整ばねの付勢力がバランスすることにより、前記ブレーキ部と前記ブレーキドラムとの間隔δSが前記一と前記第二のコイルへの通電時における間隔Sよりも小さくなる
ことを特徴とするエレベータ巻上機用制動装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記付勢力がバランスした間隔δSを保持した後に前記第一のコイルの吸引力が喪失することによって、前記ブレーキ部が前記ブレーキドラムに当接することを特徴とするエレベータ巻上機用制動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−18646(P2013−18646A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155720(P2011−155720)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】