説明

エンジンのオイル循環構造

【課題】旋回走行等においてもオイルを効率よく循環させ、オイル戻りの悪化を防止して潤滑性が向上する車両用エンジンのオイル循環装置を提供する。
【解決手段】シリンダヘッド7設けた動弁室7aに配設される吸気カム軸15及び排気カム軸17に配設された吸気カムスプロケット19及び排気カムスプロケット21と、クランク軸12によって回転駆動されるアイドラースプロケット14とに巻装するタイミングチェーン23を収容するチェーン室11と、シリンダブロックの底部に設けたオイル溜室5とを備え、チェーン室11とオイル溜室5を連通し、かつチェーン室11と動弁室7aと連通すると共に、排気側カムスプロケット21に連れ回るオイルの流れを遮断してタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bに沿った流れに整流する第1オイル整流手段35を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのオイル循環構造に関し、特に動弁室へ供給したオイルの一部をチェーン室を経てオイル溜室へ戻るようにしたエンジンのオイル循環構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエンジンのオイル潤滑油構造としては、例えば特許文献1や特許文献2に開示されるような構造のものが存在する。
【0003】
即ち、タイミングチェーンを使用するエンジンは、タイミングチェーンを収容するチェーン室を動弁室とオイル溜室とを連通するオイル戻し通路として利用することで、循環走行するタイミングチェーンによって動弁室側からオイル溜室に効率的にオイルを戻すことができ、オイルの循環効率が向上する。このオイル循環効率の向上によりオイルの定格容量を低減させることができる。また、チェーン室をオイル戻し通路として利用することでタイミングチェーン、各カムスプロケット、チェーンテンショナ等のチェーン室の必要潤滑部位が同時に潤滑されるため構造の簡素化が可能になる。
【0004】
また、特許文献3に開示されるように、複数のバンクを有する水平対向エンジンやV型エンジン等において、各バンクの動弁室とシリンダブロックの底部に設けたオイル溜室がチェーン室を介して連通するオイル循環装置が知られている。この場合、オイル溜室に貯留されたオイルをオイルポンプによりオイルギャラリ等を介して各動弁室に供給して動弁室内を潤滑し、動弁室内を潤滑したオイルはオイル戻し通路及びチェーン室を介してオイル溜室に戻される。
【0005】
【特許文献1】特開2004−251199号公報
【特許文献2】特開2006−70758号公報
【特許文献3】特開2001−115813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記水平対向エンジンやV型エンジンにあっては、オイル溜室と動弁室との高低差が比較的小さく、この種のエンジンを搭載した車両が旋回走行した際に、その旋回走行等の横方向加速度(横G)によってオイル溜室側から片側のバンクの動弁室側にオイルが流動して偏在して滞留してしまう。そのため、オイル溜室に戻り難くなるため、相対的にオイル溜室のオイルが減少してオイルポンプにエア吸い込みが発生したり、オイル戻りの悪化による潤滑効率の低下が懸念される。
【0007】
この対策としてオイルの定格容量を増加させるとオイル溜室の容量増加に伴いエンジンの大型化や重量増加を招く要因となる。
【0008】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、オイルの定格容量を増加させることなくエンジンに加速度等が作用するような状況においてもオイルを効率よく循環させ、オイル戻りの悪化を防止して潤滑性を向上することが可能なエンジンのオイル循環装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する請求項1のエンジンのオイル循環構造は、シリンダヘッドに設けた動弁室に配設される第1カム軸及び第2カム軸にそれぞれ配設された第1カムスプロケット及び第2カムスプロケット、クランク軸によって回転駆動されるチェーンスプロケット、上記各スプロケットに巻装して上記チェーンスプロケットから上記第2カムスプロケットに至る外方向移動領域と上記第2カムスプロケットから上記第1カムスプロケットに至る上昇移動領域と上記第2カムスプロケットから上記チェーンスプロケットに至る周回の循環走行するタイミングチェーン、及び上記チェーンスプロケットと上記第1カムスプロケットとの間において上記タイミングチェーンの内方移動範囲の上側に沿って延在するチェーンガイドを収容するチェーン室と、シリンダブロックの底部に設けたオイル溜室とを備えるエンジンにおいて、上記チェーン室と上記オイル溜室とをオイル戻し通路を介して連通し、かつ上記チェーン室と動弁室とをオイル連通路を介して連通すると共に、上記チェーン室に、上記第2カムスプロケットに連れ回るオイルの流れを遮断すると共にタイミングチェーンの上昇移動領域に沿ったオイルの流れに整流する第1オイル整流手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
この発明によると、エンジンに加速度が作用してオイル溜室側から動弁室にオイルが流入した際に、動弁室に流入された過剰のオイルがオイル連通路からチェーン室に流出する。一方、チェーン室内のシリンダヘッド側下部に滞留するオイルは、第2カムスプロケットに連れ回るオイルの流れが第1オイル整流手段によって遮断される。従って、オイルはタイミングチェーンの上昇移動領域に沿った流れに整流され、循環走行するタイミングチェーンの上昇移動領域によって第1カムスプロケット側に効率的に運ばれる。更に循環走行するタイミングチェーンの内方向移動領域によってチェーンガイドに沿って誘導されてチェーンスプロケット側に運ばれ、オイル溜室に戻される。これにより動弁室に過剰にオイルが滞留することなく相対的にオイル溜室内のオイルが確保され、オイル戻りの悪化による潤滑効率の低下が回避される。また、潤滑効率の向上によりオイルの定格量の低減が可能になりエンジンの小型化及び軽量化が可能になる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1のエンジンのオイル循環構造において、上記第1オイル整流手段は、上部が上記第1カム軸の軸心と上記第2カム軸の軸心との間において上記タイミングチェーンの上昇移動領域に沿って延在し下端が上記第2カム軸に接近すると共に頂縁が上記第2カムスプロケットの側面に対向する上記チェーン室に設けられたビードであることを特徴とする。
【0012】
この発明によると、第1オイル整流手段が、上部が第1カム軸の軸心と第2カム軸の軸心との間においてタイミングチェーンの上昇移動領域に沿って延在し下端が第2カム軸に接近し、かつ頂縁が第2カムスプロケットの側面に対向するチェーン室に設けられたビードによる簡単な構成で形成できる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2のエンジンのオイル循環構造において、上記チェーン室は、上記シリンダブロック及びシリンダヘッドの前面と、該前面を覆うチェーンカバーによって形成され、上記第1オイル整流手段は、上部が上記第1カム軸の軸心と上記第2カム軸の軸心との間において上記タイミングチェーンの上昇移動領域に沿って延在し下端が上記第2カム軸に接近すると共に頂縁が上記第2カムスプロケットの外側面に対向する上記チェーンカバーに一体形成された第1ビードを備えたことを特徴とする。
【0014】
この発明によると、第1オイル整流手段がチェーン室を形成するチェーンカバーに一体形成された第1ビードによって形成することから、構成部材を増加させることなく第1オイル整流手段を形成することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項のエンジンのオイル循環構造において、上記チェーン室は、上記シリンダブロック及びシリンダヘッドの前面と、該前面を覆うチェーンカバーによって形成され、上記第1オイル整流手段は、上部が上記第1カム軸の軸心と上記第2カム軸の軸心との間において上記タイミングチェーンの上昇移動領域に沿って延在し下端が上記第2カム軸に接近すると共に頂縁が上記第2カムスプロケットの内側面に対向する上記シリンダヘッドの前面に一体形成された第2ビードを備えたことを特徴とする。
【0016】
この発明によると、第1オイル整流手段がチェーン室を形成するシリンダヘッドの前面に一体形成された第2ビードによって形成することから、構成部材を増加させることなく第1オイル整流手段を形成することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項のエンジンのオイル循環構造において、上記チェーン室に、上記第1カムスプロケットの回転に伴う遠心力で飛散する方向のオイルの流れを遮断して上記タイミングチェーンの内方向移動領域に沿ったオイルの流れに整流する第2オイル整流手段を設けたことを特徴とする。
【0018】
この発明によると、請求項1〜4のいずれか1項の発明に加え、循環移動するタイミングチェーンの上昇移動領域によって第1カムスプロケット側に運ばれたオイルが、第1カムスプロケットの回転に伴う遠心力による飛散が抑制されてタイミングチェーンの内方向移動領域に沿った流れに整流される。従って、オイル流れを効率的にタイミングチェーンの内方向移動領域及びチェーンスプロケット側に誘導できる。
【0019】
請求項6の発明は、請求項5のエンジンのオイル循環構造において、上記第2オイル整流手段は、上記第1カムスプロケットの上方で上記タイミングチェーンの内方向移動範囲の延在方向に延在するオイル誘導板を備えたことを特徴とする。
【0020】
この発明によると、第2オイル整流手段が、第1カムスプロケットの上方でタイミングチェーンの内方向移動範囲の延在方向に延在するオイル誘導板によって形成できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、エンジンに加速度が作用してオイル溜室側から動弁室にオイルが流入した際に、動弁室に流入された過剰のオイルがオイル連通路路からチェーン室に流出する一方、チェーン室内において第2カムスプロケットに連れ回るオイルの流れが第1オイル整流手段によって遮断される。更にオイル流れがタイミングチェーンの上昇移動領域に沿った流れに整流され、循環走行するタイミングチェーンによって効率的にチェーンスプロケット側に運ばれてオイル溜室に戻される。これにより動弁室に過剰にオイルが滞留することなく相対的にオイル溜室内のオイルが確保され、オイル戻りの悪化による潤滑効率の低下が回避される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態を図1乃至図6を参照して説明する。
【0023】
図1はチェーンカバーを外したエンジンの正面図、図2は図1のII−II線概略断面図である。なお、図1において説明の便宜上チェーンカバーに設けられる第1オイル整流手段の第1リブ及び第2オイル整流手段のオイル誘導板は図示されている。また、図2において矢印Frは車両に搭載された状態における前方方向を示す。
【0024】
図中1は複数のバンクを有するエンジンであり、本形態では水平対向エンジンを示す。そして、エンジン1のシリンダブロック2は、クランクケースを一体に有し、クランク軸12を中心に左右方向へ延出する左バンク側(以下「LH」と略記する)シリンダブロック2a及び右バンク側(以下「RH」と略記する)シリンダブロック2bから構成されている。
【0025】
また、シリンダブロック2の底部にオイルパン4が設けられ、このオイルパン4とシリンダブロック2におけるクランクケース底部とでオイル溜室5が形成される。一方、LH、RHシリンダブロック2a、2bにそれぞれLHシリンダヘッド7、RHシリンダヘッド8が取り付けられている。また、オイル溜室5と各シリンダヘッド7、8に形成されているLH動弁室7a、RH動弁室8aとが、それぞれ各シリンダヘッド7、8及びLH、RHシリンダブロック2a、2bに形成したLHオイル戻し通路2c、RHオイル戻し通路2dを介して連通されている。
【0026】
更に、シリンダブロック2の前面2e及びLH、RHシリンダヘッド7、8の前面7e、8eに亘ってチェーンカバー10が設けられ、このシリンダブロック2の前面2e及びLH、RHシリンダヘッド7、8の前面7e、8eとチェーンカバー10とによってチェーン室11が形成される。
【0027】
チェーンカバー10に覆われるシリンダブロック2の前面2eには、クランク軸12の軸端部に装着されるクランクギヤ13、クランクギヤ13の上方に配置されたアイドラースプロケット14、各シリンダヘッド7、8の動弁室7a、8aに各々配置されている吸気カム軸15、16及び排気カム軸17、18の軸端部に装着されている吸気側カムスプロケット19、20及び排気側カムスプロケット21、22等が配置される。アイドラースプロケット14は、クランクギヤ13に噛み合うドリブンギヤ14aとLHタイミングチェーン23及びRHタイミングチェーン27がそれぞれ巻回されるスプロケット14b、14cが一体形成されている。
【0028】
アイドラースプロケット14とLHシリンダヘッド7に設けられた吸気側カムスプロケット19及び排気側カムスプロケット21とにLHタイミングチェーン23が巻装されている。また、アイドラースプロケット14と排気側カムスプロケット21との間及び吸気側カムスプロケット19と排気側カムスプロケット21との間にそれぞれLHタイミングチェーン23に圧接してLHタイミングチェーン23の張力を調整するチェーンテンショナ24が配置される。更に、アイドラースプロケット14と吸気側カムスプロケット19との間及び吸気側カムスプロケット19と排気側カムスプロケット21の間にチェーンガイド25、26が配設されている。これらチェーンテンショナ24及びチェーンガイド25、26はシリンダブロック2の前面2e及びLHシリンダヘッド7の前面7eに取り付け支持されている。
【0029】
そして、クランク軸12の回転によってクランクギヤ13を介してアイドラースプロケット14が回転し、アイドラースプロケット14の回転がLHタイミングチェーン23によってLHシリンダヘッド7の各カムスプロケット19、21に伝達される。これによりクランク軸12に対してLHシリンダヘッド6のカム軸15、17が同期して回転される。
【0030】
また、アイドラースプロケット14とRHシリンダヘッド8に設けられた吸気側カムスプロケット20及び排気側カムスプロケット22とにRHタイミングチェーン27が巻装されており、アイドラースプロケット14と排気側カムスプロケット22との間、吸気側カムスプロケット20と排気側カムスプロケット22との間にチェーンガイド29、30が配設されている。また、吸気側カムスプロケット20とアイドラースプロケット14との間にRHタイミングチェーン27に圧接してRHタイミングチェーン27の張力を調整するチェーンテンショナ28が配置されている。これらチェーンテンショナ28及びチェーンガイド29、30はシリンダブロック2及びRHシリンダヘッド8の前面8eに取り付け支持されている。
【0031】
そして、クランク軸12の回転によってクランクギヤ13を介してアイドラースプロケット14が回転し、アイドラースプロケット14の回転がRHタイミングチェーン27によってRHシリンダヘッド8の各カムスプロケット20、22に伝達される。これによりクランク軸12に対してRHシリンダヘッド8のカム軸16、18が同期して回転される。
【0032】
クランク軸12は、図1の時計回り方向へ回転するように設定されている。即ち、LHタイミングチェーン23は、アイドラースプロケット14からチェーンテンショナ24に誘導されてチェーン室11の隆起した下面11aに沿ってLHシリンダヘッド7の排気側カムスプロケット21へ、更に排気側カムスプロケット21からチェーンガイド25に誘導されてチェーン室11の側面11bに沿って吸気側カムスプロケット19へ、吸気側カムスプロケット19からチェーンガイド26に誘導されてチェーン室11の上面11cに沿ってアイドラースプロケット14に至る反時計回り方向へ循環走行する。このLHタイミングチェーン23においてアイドラースプロケット14からチェーン室11の下面11aに沿って排気側カムスプロケット21に達する範囲が外方向移動領域23A、排気側カムスプロケット21からチェーン室11の側面11bに沿って吸気側カムスプロケット19に達する範囲が上昇移動領域23B、吸気側カムスプロケット19からチェーン室11の上面11cに沿ってアイドラースプロケット14に達する範囲が内方向移動領域23Cとなる。
【0033】
一方、RHタイミングチェーン27は、アイドラースプロケット14からチェーンテンショナ28に誘導されてチェーン室11の上面11dに沿ってRHシリンダヘッド8の吸気側カムスプロケット20へ、吸気側カムスプロケット20からチェーンガイド29に誘導されてチェーン室11の側面11eに沿って排気側カムスプロケット22へ、更に排気側カムスプロケット22からチェーンガイド30に誘導されてアイドラースプロケット14に至る反時計回り方向に循環走行する。このRHタイミングチェーン27においてアイドラースプロケット14から吸気側カムスプロケット20に達する範囲が外方向移動領域27A、吸気側カムスプロケット20から排気側カムスプロケット22に達する範囲が下降移動領域27B、排気側カムスプロケット22からアイドラースプロケット14に達する範囲が内方向移動領域27Cとなる。
【0034】
また、チェーン室11の下端とオイル溜室5とがシリンダブロック2bに形成されたオイル戻り通路32を介して連通されており、チェーン室11の底部にオイル溜部5と同じレベルのオイルが貯留される。
【0035】
この場合、オイル室5に貯留されているオイルを吸引し、必要潤滑部位へオイルギャラリ等を介してオイルを供給するオイルポンプ(図示せず)はクランク軸12に直接連結されている。
【0036】
LHシリンダヘッド7の動弁室7aは、吸気カム軸15と排気カム軸17との間においてLHシリンダヘッド7に形成されたオイル連通路33を介してチェーン室11に連通されている。RHシリンダヘッド8の動弁室8aは、吸気カム軸16と排気カム軸18との間においてRHシリンダヘッド8に形成されたオイル連通路34を介してチェーン室11に連通されている。
【0037】
チェーン室11内においてLHシリンダヘッド7側の排気カム軸17の外側から吸気カム軸15の方向に延在するLHタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bに、排気側カムスプロケット21に連れ回るオイルの流れを遮断してLHタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bに沿ったオイルの流れに整流する第1オイル整流手段35が設けられている。
【0038】
第1オイル整流手段35は、図3に図1のA部拡大図を示し、図4に図2のIV−IV線拡大断面図を示し、更に図5にLHシリンダヘッド7の要部拡大図を示すように、チェーンカバー10の内面10aにLHタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bに沿って突設された第1リブ36とLHシリンダヘッド7の前面7eにLHタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bに沿って突設された第2リブ37を備えている。
【0039】
チェーンカバー10の内面10aに一体形成される第1リブ36は、上部36aが吸気カム軸15の軸心と排気カム軸17の軸心との間においてLHタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bに沿って延在する。また、下端36bが排気カム軸17側に折曲乃至湾曲して排気カム軸17に接近する。更に頂縁36cが排気側カムスプロケット21の外側面21aと対向する。
【0040】
一方、LHシリンダヘッド7の前面7eに形成される第2リブ37は、上部37aが吸気カム軸15の軸心と排気カム軸17の軸心との間においてLHタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bに沿って延在する。また、下端37bが排気カム軸17側に折曲乃至湾曲して排気カム軸17に接近する。
更に頂縁37cが排気側カムスプロケット21の内側面21bに対向する。これら第1リブ36及び第2リブ37はそれぞれチェーンカバー10及びLHシリンダヘッド7と一体形成することにより、構成部材を追加することなく容易に形成できる。
【0041】
即ち、排気側スプロケット21は、チェーンカバー10の内面10aに突設されてLHタイミングチェーン23の上昇移動範囲23Bに沿って延在する第1リブ36の頂縁36cとLHシリンダヘッド7の前面7eに突設されてLHタイミングチェーン23の上昇移動範囲23Bに沿って延在する第2リブ37の頂縁37cとの間に配置される。
【0042】
また、LHシリンダヘッド7側の吸気側カムスプロケット19の上方に、吸気側カムスプロケット19の遠心力で外方向に飛散するオイルを遮断してLHタイミングチェーン23の内方向移動領域23Cに沿ったオイル流れに整流する第2オイル整流手段38が設けられている。
【0043】
第2オイル整流手段38は、図3、図4及び図5に示すように、チェーン室11の上面11cと吸気側カムスプロケット19との間において上面11cに沿ってチェーンガイド26に連続するように延在して吸気側カムスプロケット19の上方を覆う板状のオイル誘導板39を有し、オイル誘導板39はチェーンカバー10の内面10aに突設された突起10bにボルト10cにより固設される。このオイル誘導板39の内方端39aはチェーンガイド26の外方端26aに近接配置される。
【0044】
次に、上記構成により本実施の形態の作用について説明する。エンジンが稼動すると、クランク軸12に連接するオイルポンプがオイル溜室5内に貯留されているオイルを吸引し、エンジン内部の必要潤滑部位へオイルギャラリ等を介して供給する。
【0045】
同時に、クランク軸12に装着されているクランクギヤ13に噛み合うアイドラースプロケット14がクランクギヤ13と逆回転方向に回転する。アイドラースプロケット14に巻装されているLHタイミングチェーン23が図1において反時計回り方向に循環移動し、チェーン室11の底部に滞留しているオイルをLHタイミングチェーン23の上昇移動範囲23Bに沿って延在する第1リブ36及び第2リブ37に誘導させて上方に運ぶ。更にLHタイミングチェーン23の内方向移動領域23Cに沿って延在するオイル誘導板39及びチェーンガイド26に誘導させてアイドラースプロケット14の近傍へ運ぶオイルの流れが発生する。一方、RHタイミングチェーン27がクランク軸12と反対の図1において反時計回り方向に循環移動し、チェーン室11の底部に滞留しているオイルをオイル戻り通路32に運ぶオイルの流れが発生する。
【0046】
ここで、左旋回走行等によって右方向の横加速度(横G)が作用してオイル溜室5側からRHシリンダ8の動弁室8aに流入した際には、流入したオイルの一部はRHオイル戻し通路2dを経てオイル溜室5へ戻され、残りの動弁室8aのオイルはオイル連通路路34からチェーン室11に流出する。このオイル連通路34からチェーン室11に流出したオイルは循環走行するRHタイミングチェーン27の吸気カムスプロケット20側からチェーン室11の側面11eに沿って下降する下降移動領域27Bによって下方に誘導される。更に排気側カムスプロケット22側からチェーン室11の下面11fに沿って走行する内方向移動領域27Cによって積極的に下面11fに沿ってオイル戻し通路32側に誘導され、オイル戻し通路23を経てオイル溜室5に戻される。これにより動弁室8aに過剰にオイルが滞留することなく相対的にオイル溜室5内のオイルが確保され、オイルポンプにエア吸いが発生したり、オイル戻りの悪化による潤滑効率の低下が回避される。
【0047】
一方、右旋回走行等によって左方向の横加速度が作用してオイル溜室5側からLHシリンダヘッド7の動弁室7aに流入した際には、流入された過剰のオイルの一部はLHオイル戻し通路2cを経てオイル溜室5へ戻され、残りの動弁室7aのオイルはオイル連通路路33からチェーン室11に流出する。
【0048】
ここで、チェーン室11内のLHシリンダヘッド7側の下部に滞留するオイルは、図3に矢印Fで示すように、排気カムスプロケット21に連れ回るオイルの流れが排気側カムスプロケット21を隔てて対向配置された第1オイル整流手段35の第1リブ36及び第2リブ37によって遮断される。その結果、オイルの流れは第1リブ36及び第2リブ37とチェーン室11の側面11bとの間をLHタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bに沿って上昇する流れに変えられ、第1リブ36及び第2リブ37に誘導されて吸気側カムスプロケット19側に運ばれる。このLHタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bによって運ばれるオイルの流量は排気側カムスプロケット21の連れ回りの減少により、多くの量が確保され、速い流速が維持されて確実に吸気側カムスプロケット19側に運ばれる。
【0049】
一方、吸気側カムスプロケット19側に運ばれたオイルは、吸気側カムスプロケット19の回転に伴う遠心力で吸気側カムスプロケット19から飛散しようとする。しかし、吸気側カムスプロケット19の上方に配置された第2オイル整流手段38のオイル誘導板39によって受け止められて吸気側カムスプロケット19からの飛散は抑制され、LHタイミングチェーン23の内方向移動領域23Cによってチェーンガイド26側に誘導される。更にLHタイミングチェーン23の内方移動領域23Cに沿って延在するオイル誘導板39によってチェーンガイド26の下面側に運ばれ、アイドラースプロケット14の近傍まで搬送され、オイル戻し通路32を経てオイル溜室5に戻される。なお、図3における破線Lはチェーン室11内のオイルの液面位置を示す。これにより動弁室7aに過剰にオイルが滞留することなく相対的にオイル溜室5内のオイルが確保され、オイルの定格容量を増加させることなくオイルポンプにエア吸いが発生したり、オイル戻りの悪化による潤滑効率の低下が回避される。
【0050】
本実施形態と比較するために、第1オイル整流手段35及び第2オイル整流手段38を備えない比較例を、図6を参照して説明する。
【0051】
右旋回走行等によって左方向の横加速度が作用してオイル溜室5側からLHシリンダ7の動弁室7aに流入した際には、流入された過剰のオイルの一部はLHオイル戻し通路2cを経てオイル溜室5へ戻され、残りの動弁室7aのオイルはオイル連通路路33からチェーン室11に流出する。
【0052】
ここで、チェーン室11内のLHシリンダヘッド7側に滞留するオイルは、矢印Fで示すように排気側カムスプロケット21に多くの量が連れ回り、排気側カムスプロケット21に連れ回るオイル量の増大に伴ってLHタイミングチェーン23の上昇移動領域23Bに沿って吸気側カムスプロケット19側に運ばれるオイル量が少なく、かつ流速も遅くなる。更に吸気側カムスプロケット19側に運ばれたオイルは吸気側カムスプロケット19の回転に伴う遠心力で吸気カムスプロケット19から飛散してチェーン室11の上面11cに沿って流れてチェーンガイド26と上面11cとの間に送られる。チェーンガイド26の上方に送られたオイルはLHタイミングチェーン23の内方移動領域23Cによる搬送力が付与されることなく流速を失い下方向に落下してアイドラースプロケット14側に搬送されるオイルが極めて少なくなり、チェーン室11内のLHシリンダヘッド7側に滞留するオイルが増大する。なお、図6における破線Lはチェーン室11内のオイルの液面位置を示す。
【0053】
チェーン室11内に滞留するオイルの増加により動弁室7aに過剰に滞留したオイルはオイル連通路33を介してチェーン室11への流出が妨げられ、相対的にオイル溜室5内のオイル量が減少してオイルポンプにエア吸いが発生したり、オイル戻りの悪化による潤滑効率の低下が懸念される。また、排気側カムスプロケット21によりオイルの連れ回り増大によるオイル攪拌抵抗が多くなりオイルの劣化を誘発し、かつ燃費の悪化を招く要因となる。
【0054】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施の形態では第1整流手段35をチェーンカバー10の内面10aから突出する第1リブ36及びLHシリンダヘッド7の前面7eから突出する第2リブ37によって形成したが、チェーンカバー10の内面10aやLHシリンダヘッド7の前面eにボルト結合されるオイル誘導板によって形成することができる。
【0055】
更に、第2整流手段38をチェーンカバー10にボルト結合されたオイル誘導板39によって形成したが、オイル誘導板39をLHシリンダヘッド7の前面7eにボルト結合することも、また第2整流手段38をチェーンカバー10の内面10a或いはLHシリンダヘッド7の前面7eから突出するリブによって形成することもできる。なお、これら第1整流手段35や第2整流手段38は、エンジンの仕様等に応じて実験やシミュレーション等により適宜大きさや形状に変更することが好ましい。
【0056】
また、本実施形態ではクランク軸にクランクギヤを装着し、アイドラースプロケットを介在してLH、RHタイミングチェーンを循環走行させて各バンクに配設された各吸気側各スプロケット及び排気側スプロケットを回転駆動するエンジンを例に説明したが、アイドラースプロケットを介在することなくクランク軸にクランクスプロケットを装着し、クランクスプロケットによってLH、RHタイミングチェーンを巻装して各バンクに配設された吸気側スプラケット及び排気側スプロケットを回転駆動するタイプのエンジンに適用することができる。
【0057】
更に、本実施の形態では、水平対向エンジンに適用した例について説明したが、複数のバンクを備えたエンジンとして、V型エンジン等にも適用可能である。また、複数のバンクを備えたエンジンに限らず、オイル溜室と動弁室との高低差が比較的小さい、例えば傾斜型エンジンや、横置き配置した直列エンジン等に適用しても良い。さらに、汎用エンジン等、車両以外のエンジンにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の一形態に係るチェーンカバーを外したエンジンの正面図である。
【図2】図1のII−II線概略断面図である。
【図3】図1のA部拡大図である。
【図4】図2のIV−IV線拡大断面図である。
【図5】LHシリンダヘッド要部拡大図である。
【図6】比較説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 エンジン
2 シリンダブロック
2a LHシリンダブロック
2b RHシリンダブロック
2c LHオイル戻し通路
2e 前壁面
5 オイル溜室
7 LHシリンダヘッド
7a LH動弁室
8 RHシリンダヘッド
8a RH動弁室
10 チェーンカバー
11 チェーン室
12 クランク軸
13 クランクギヤ
14 アイドラースプロケット(チェーンスプロケット)
14a ドリブンギヤ
14b、14c スプロケット
15、16 吸気カム軸(第1カム軸)
17、18 排気カム軸(第2カム軸)
19、20 吸気側カムスプロケット(第1カムスプロケット)
21、22 排気側カムスプロケット(第2カムスプロケット)
21a 外側面
21b 内側面
23 LHタイミングチェー
24 チェーンテンショナ
25、26 チェーンガイド
32 オイル戻り通路
33 オイル連通路
35 第1オイル整流手段
36 第1リブ
36a 上部
36b 下端
36c 頂縁
37 第2リブ
37a 上部
37b 下端
37c 頂縁
38 第2オイル整流手段
39 オイル誘導板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに設けた動弁室に配設される第1カム軸及び第2カム軸にそれぞれ配設された第1カムスプロケット及び第2カムスプロケット、クランク軸によって回転駆動されるチェーンスプロケット、上記各スプロケットに巻装して上記チェーンスプロケットから上記第2カムスプロケットに至る外方向移動領域と上記第2カムスプロケットから上記第1カムスプロケットに至る上昇移動領域と上記第2カムスプロケットから上記チェーンスプロケットに至る周回の循環走行するタイミングチェーン、及び上記チェーンスプロケットと上記第1カムスプロケットとの間において上記タイミングチェーンの内方移動範囲の上側に沿って延在するチェーンガイドを収容するチェーン室と、シリンダブロックの底部に設けたオイル溜室とを備えるエンジンにおいて、
上記チェーン室と上記オイル溜室とをオイル戻し通路を介して連通し、かつ上記チェーン室と動弁室とをオイル連通路を介して連通すると共に、
上記チェーン室に、上記第2カムスプロケットに連れ回るオイルの流れを遮断すると共にタイミングチェーンの上昇移動領域に沿ったオイルの流れに整流する第1オイル整流手段を設けたことを特徴とするエンジンのオイル循環構造。
【請求項2】
上記第1オイル整流手段は、
上部が上記第1カム軸の軸心と上記第2カム軸の軸心との間において上記タイミングチェーンの上昇移動領域に沿って延在し下端が上記第2カム軸に接近すると共に頂縁が上記第2カムスプロケットの側面に対向する上記チェーン室に設けられたビードであることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのオイル循環構造。
【請求項3】
上記チェーン室は、上記シリンダブロック及びシリンダヘッドの前面と、該前面を覆うチェーンカバーによって形成され、
上記第1オイル整流手段は、
上部が上記第1カム軸の軸心と上記第2カム軸の軸心との間において上記タイミングチェーンの上昇移動領域に沿って延在し下端が上記第2カム軸に接近すると共に頂縁が上記第2カムスプロケットの外側面に対向する上記チェーンカバーに一体形成された第1ビードを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのオイル循環構造。
【請求項4】
上記チェーン室は、上記シリンダブロック及びシリンダヘッドの前面と、該前面を覆うチェーンカバーによって形成され、
上記第1オイル整流手段は、
上部が上記第1カム軸の軸心と上記第2カム軸の軸心との間において上記タイミングチェーンの上昇移動領域に沿って延在し下端が上記第2カム軸に接近すると共に頂縁が上記第2カムスプロケットの内側面に対向する上記シリンダヘッドの前面に一体形成された第2ビードを備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンのオイル循環構造。
【請求項5】
上記チェーン室に、上記第1カムスプロケットの回転に伴う遠心力で飛散する方向のオイルの流れを遮断して上記タイミングチェーンの内方向移動領域に沿ったオイルの流れに整流する第2オイル整流手段を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジンのオイル循環構造。
【請求項6】
上記第2オイル整流手段は、
上記第1カムスプロケットの上方で上記タイミングチェーンの内方向移動範囲の延在方向に延在するオイル誘導板を備えたことを特徴とする請求項5に記載のエンジンのオイル循環構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−97398(P2009−97398A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268784(P2007−268784)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】