説明

エンジンの冷却構造およびエンジンの冷却構造の製造方法

【課題】ボア間領域に溝部と蓋部とで形成する冷却媒体通路の設定自由度を高めることが可能なシリンダブロックの冷却構造を提供する。
【解決手段】エンジンの冷却構造1Aは、複数のボア13が形成されたシリンダブロック10Aのうち、隣り合うボア13間の部分に形成された溝部11Aと、溝部11Aとともに冷却媒体通路であるクーリングチャンネル20Aを形成する蓋部12Aと、を備える。蓋部12Aは、溝部11Aに対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで設けられている。溝部11Aに蓋部12Aを設けるにあたっては、シリンダブロック10Aを適宜移動させるとともに、必要に応じてシリンダブロック10Aの姿勢の変化させることで、材料の供給位置およびレーザービームの照射位置を変えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの冷却構造およびエンジンの冷却構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンでは、複数のボアが形成されたシリンダブロックのうち、隣り合うボア間の部分(ボア間領域)で特に温度が上昇し易いことが知られている。特許文献1では、シリンダブロックのシリンダヘッド装着側の端部からスリットを形成し、このスリットの開口端部に異種材を接合して冷却通路を形成したエンジンのボア間構造が開示されている。特許文献2では、シリンダブロック冷却水通路の吸気側部分と排気側部分とを連通するボア間冷却水通路をシリンダボア間に設けたエンジンの冷却水循環装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−122033号公報
【特許文献2】特開平5−272336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボア間領域に溝部と蓋部とで冷却媒体通路を形成する場合、例えば摩擦圧接によって溝部に対して蓋部を接合することが考えられる。しかしながら、この場合には蓋部にある程度の剛性が必要とされる。このため、蓋部の大きさに制約が生じる結果、冷却媒体通路の幅も制約される。したがって、冷却媒体通路の設定自由度が低くなる。結果、冷却媒体通路の冷却性能を所望の冷却性能にすることができないことがある。或いは、ボア間領域が狭い場合には、冷却媒体通路の形成自体が成立しなくなることがある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み、ボア間領域に溝部と蓋部とで形成する冷却媒体通路の設定自由度を高めることが可能なシリンダブロックの冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は複数のボアが形成されたシリンダブロックのうち、隣り合うボア間の部分に形成された溝部と、前記溝部とともに冷却媒体通路を形成する蓋部と、を備え、前記溝部に対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで、前記蓋部を設けているエンジンの冷却構造である。
【0007】
また本発明は前記シリンダブロックのうち、前記複数のボアの周辺部にシリンダブロック冷却媒体通路が設けられており、前記溝部が、両端で前記シリンダブロック冷却媒体通路に連通するとともに、前記冷却媒体通路が、両端で前記シリンダブロック冷却媒体通路に連通している構成とすることができる。
【0008】
また本発明は前記シリンダブロックのうち、前記複数のボアの周辺部にシリンダブロック冷却媒体通路が設けられており、前記溝部が、両端のうち、一端のみで前記シリンダブロック冷却媒体通路に連通し、前記冷却媒体通路が、一端で前記シリンダブロック冷却媒体通路に連通するとともに、他端で前記シリンダブロックのデッキ面に開口しており、且つ前記蓋部が、前記溝部のうち、一端側で底壁部をなす壁部と所定の間隔を有して設けられている構成とすることができる。
【0009】
また本発明は複数のボアが形成されたシリンダブロックのうち、隣り合うボア間の部分に形成された溝部と、前記溝部とともに冷却媒体通路を形成する蓋部と、を備え、前記溝部に前記蓋部を配置した状態で、前記蓋部のうち、母材の部分にレーザービームを照射し、前記蓋部のうち、前記溝部との接触部に施されたメッキを溶融することで、前記蓋部を設けているエンジンの冷却構造である。
【0010】
また本発明は複数のボアが形成されたシリンダブロックのうち、隣り合うボア間の部分に溝部を形成し、前記溝部に対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで、前記溝部とともに冷却媒体通路を形成する蓋部を設けるエンジンの冷却構造の製造方法である。
【0011】
また本発明は複数のボアが形成されたシリンダブロックのうち、隣り合うボア間の部分に溝部を形成し、前記溝部に配置した状態で、母材の部分にレーザービームを照射し、前記溝部との接触部に施されたメッキを溶融することで、前記溝部とともに冷却媒体通路を形成する蓋部を設けるエンジンの冷却構造の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボア間領域に溝部と蓋部とで形成する冷却媒体通路の設定自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のシリンダブロックの概略構成図である。
【図2】図1に示すA−A断面図である。
【図3】図2に示すB部の拡大図である。
【図4】実施例1の蓋部の形成方法を示す図である。
【図5】実施例2の冷却構造の要部を示す図である。
【図6】実施例2の蓋部の形成方法を示す図である。
【図7】実施例3の冷却構造の要部を示す図である。
【図8】実施例3の蓋部の第1の形成方法を示す図である。
【図9】実施例3の蓋部の第2の形成方法を示す図である。
【図10】走査パターンの例を示す図である。
【図11】実施例3の蓋部の加工条件を示す図である。
【図12】レーザービームの波長と銅のレーザー吸収率との関係を示す図である。
【図13】実施例4の冷却構造の要部を示す図である。
【図14】仮設材の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1はシリンダブロック10Aの概略構成図である。図2は図1に示すA−A断面図である。図3は図2に示すB部の拡大図である。シリンダブロック10Aはアルミ合金製であり、図示しないエンジンに設けられる。シリンダブロック10Aはエンジンの冷却構造(以下、冷却構造と称す)1Aを備えている。冷却構造1Aは溝部11Aと蓋部12Aとを備えている。
【0016】
シリンダブロック10Aには複数のボア13やシリンダブロック冷却媒体通路に相当するウォータジャケット(以下、W/Jと称す)14が形成されている。シリンダブロック10Aはデッキ面にW/J14が開口したオープンデッキタイプのシリンダブロックになっている。
【0017】
溝部11Aは、シリンダブロック10Aのうち、隣り合うボア13間の部分に形成されている。溝部11Aは、シリンダブロック10Aのデッキ面に開口している。溝部11Aは、底壁部をなす壁部Wがデッキ面に対して平行になるように設けられている。また、複数のボア13の周辺部に設けられたW/J14に両端で連通するように設けられている。溝部11Aはスリット加工によって設けられている。
【0018】
蓋部12Aは、溝部11Aに対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで設けられている。蓋部12Aは壁部Wと所定の間隔を有して設けられている。蓋部12Aは、溝部11Aとともに冷却媒体通路に相当するクーリングチャンネル(以下、C/Cと称す)20Aを形成している。C/C20Aは両端でW/J14に連通している。このためC/C20Aには、W/J14を流通する冷却媒体である冷却水の一部が流通するようになっている。
【0019】
蓋部12Aは例えば次のようにして設けることができる。図4は蓋部12Aの形成方法を模式的に示す図である。第1の装置30はレーザービーム供給源31と、集光レンザ32と、フィーダ33と、オッシレータ34と、シールドガスノズル35とを備えている。
【0020】
レーザービーム供給源31は、レーザービームを発生させる。レーザービームは例えばファイバーレーザーやCOレーザーである。集光レンズ32はレーザービームを集光する。フィーダ33は溝部11Aに対して材料を供給する。オッシレータ34は、レーザービーム供給源31から集光レンズ32を介して投射されたレーザービームを高周期振動させ、フィーダ33が供給した材料に照射する。シールドガスノズル35は材料を外部空気から遮断するシールドガスを供給する。シールドガス35は例えばアルゴンガスである。
【0021】
材料は例えば金属粉末である。金属粉末には例えば銅や、コルソン合金などの銅合金の粉末を適用できる。材料は、銅やニッケルなど、複数の種類の金属粉末を混合した金属粉末の混合物であってもよい。
【0022】
第1の装置30は、溝部11Aに対して供給した材料をレーザービームで溶融し、肉盛り(クラッド)することで、蓋部12Aを設ける。溝部11Aに蓋部12Aを設けるにあたっては、シリンダブロック10Aを適宜移動させるとともに、必要に応じてシリンダブロック10Aの姿勢の変化させることで、材料の供給位置およびレーザービームの照射位置を変えることができる。
【0023】
矢印X、Yで示すように、シリンダブロック10Aの移動は例えばボア13の配列方向や溝部11Aの延伸方向に沿って行うことができる。また、矢印Rで示すように、姿勢変化は例えばボア13の配列方向においてデッキ面が傾くようにシリンダブロック10Aの姿勢を変化させることができる。また、必要に応じて例えば溝部11Aのうち、蓋部12Aが設けられる部分の幅がデッキ面側に向かって次第に拡大するように溝部11Aを設けることができる。
【0024】
例えば波長1070nmのファイバーレーザーをレーザービームとする場合、加工条件は次の通り設定することができる。すなわち、レーザービームの出力は例えば2.3kWに設定することができる。加工速度は例えば300mm/minに設定することができる。材料の粉末供給量は例えば0.3g/secに設定することができる。加工条件はこれに限られず、適宜設定されてよい。蓋部12Aは例えば材料の供給およびレーザービームの照射を行うことが可能な同軸ノズルを用いて設けることもできる。
【0025】
次に冷却構造1Aの作用効果について説明する。冷却構造1Aでは、溝部11Aに対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで蓋部12Aを設けている。このため、C/C20Aの幅は蓋部12Aの形成方法によって特段制約されない。したがって、これにより冷却構造1Aは、C/C20Aの設定自由度を高めることができる。結果、具体的にはボア13の壁部のうち、上部の冷却を好適に行うことで、ノッキングを好適に改善できる。
【0026】
また、冷却構造1Aは蓋部12Aと壁部Wとの間隔によって(換言すれば蓋部12Aの厚さによって)、C/C20Aの流路断面積を設定できる。そしてこれにより、所望する冷却性能に応じてC/C20Aの冷却性能を容易に設定することもできる。
【0027】
また、冷却構造1Aでは溝部11Aに対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで、溝部11Aと蓋部12Aとで空間であるC/C20Aを形成している。すなわち、冷却構造1Aでは工法上、適用が困難と想定されるC/C20Aの形成に対し、材料を供給し、レーザービームで溶融する工法を適用することで、C/C20Aを形成している。このため冷却構造1Aは、かかる工法適用の面においても一般的ではなく、独特なものとなっている。
【0028】
そして、かかる工法を適用して製造する冷却構造1Aは、例えば接合する溝部および蓋部に高い寸法精度が求められる摩擦圧接を適用する場合と比較して、コスト面でも有利である。
【実施例2】
【0029】
図5は冷却構造1Bの要部を示す図である。図5では、図3と同様にして冷却構造1Bの要部を示している。シリンダブロック10Bは冷却構造1Aの代わりに冷却構造1Bを備えている点以外、シリンダブロック10Aと実質的に同一である。冷却構造1Bは、溝部11Bと蓋部12Bとを備えている。溝部11Bおよび蓋部12Bは以下に示すように設けられている点以外、溝部11Aおよび蓋部12Aと同様にして設けられている。
【0030】
溝部11Bは、両端のうち、一端のみでW/J14に連通している。具体的には溝部11Bは、一端側で底壁部をなす壁部W´が、他端側でデッキ面に向かって立ち上がるように設けられている。壁部W´は、スリット加工によって一端側から他端側に向かって、デッキ面に対して平行に延伸させるとともに、途中から円弧状に立ち上がるように設けることができる。
【0031】
蓋部12Bは壁部W´と所定の間隔を有して設けられている。蓋部12Bは溝部11BとともにC/C20Bを形成している。C/C20Bは一端でW/J14に連通するとともに、他端でデッキ面に開口している。C/C20BはW/J14からデッキ面に設けられるシリンダヘッド(図示省略)に冷却水を流通させることができる。この点、溝部11Bは、具体的にはシリンダヘッドに冷却水を流通させるドリルパスに他端側で連通させることができる。
【0032】
蓋部12Bは例えば次のようにして設けることができる。図6は蓋部12Bの形成方法を模式的に示す図である。蓋部12Bを設けるにあたっては、まず溝部11Bの側壁部に対し、壁部W´から所定の間隔離れた位置に材料の供給およびレーザービームの照射を行う。そして、(a)から(c)に示すようにシリンダブロック10Bを移動および姿勢変化させながら、材料の供給およびレーザービームの照射を行う。そして、形成し終わった分だけシリンダブロック10Bを遠ざけるとともに、これら一連の動作を繰り返す。
【0033】
これら一連の動作は、ボア13の配列方向においてデッキ面が傾くようにシリンダブロック10Bの姿勢を変化させることで、溝部11Bの側壁部それぞれに対して行うことができる。また、必要に応じて例えば溝部11Bの側壁部それぞれのうち、壁部W´から所定の間隔だけ離れた位置に、壁部W´側の部分よりも溝部11Bの幅を拡大する段差部を設けることができる。蓋部12Bは第1の装置30や同軸ノズルを用いて設けることができる。
【0034】
また、蓋部12Bは積層造形によって設けられてもよい。この場合、レーザービームには例えばCOレーザーや半導体レーザーを用いることができる。例えば波長10.6μmのCOレーザーをレーザービームとする場合、加工条件は次の通り設定することができる。
【0035】
すなわち、レーザービームの出力は例えば2.5kWから3.5kWの範囲内で設定することができる。また、加工速度は例えば50mm/minから500mm/minの範囲内で設定することができる。レーザービーム径は例えばφ0.3mmからφ1.0mmの範囲内で設定することができる。材料の粉末量は例えば0.01g/secから1.0g/secの範囲内で設定することができる。積層ピッチは例えば50μmから300μmの範囲内で設定することができる。
【0036】
次に冷却構造1Bの作用効果について説明する。冷却構造1Bでも冷却構造1Aと同様、溝部11Bに対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで蓋部12Bを設けている。このため、冷却構造1Bでも冷却構造1Aと同様、C/C20Bの幅が蓋部12Bの形成方法によって特段制約されない。したがって、これにより冷却構造1Bは、C/C20Bの設定自由度を高めることができる。
【0037】
また、冷却構造1Bは壁部W´と所定の間隔を有して蓋部12Bを設けることで、W/J14からシリンダヘッドに冷却水を流通させる場合に、C/C20Bの流路断面積の急激な低下も抑制できる。そしてこれにより、よどみの発生などで冷却を行う冷却水の流通が阻害されることも防止できる。結果、良好な冷却性能を得ることもできる。
【0038】
また、冷却構造1Bは蓋部12Bと壁部W´との間隔によって、C/C20Bの流路断面積を設定できる。そしてこれにより、冷却水の流通態様の面から良好な冷却性能を得つつ、所望する冷却性能に応じてC/C20Bの冷却性能を容易に設定することもできる。また、冷却構造1Bは積層造形によって蓋部12Bを設けることで、より高い精度でC/C20Bを形成することができる。
【実施例3】
【0039】
図7は冷却構造1Cの要部を示す図である。図7では、ボア13の配列方向に平行な断面で冷却構造1Cの要部を示している。シリンダブロック10Cは冷却構造1Aの代わりに冷却構造1Cを備えている点以外、シリンダブロック10Aと実質的に同一である。冷却構造1Cは、溝部11Cと蓋部12Cとを備えている。溝部11Cは以下に示すように設けられている点以外、溝部11Aと同様にして設けられている。
【0040】
溝部11Cは、壁部Wから所定の間隔だけ離れた位置に、壁部W側の部分よりも溝部11Cの幅を拡大する段差部Sを側壁部それぞれに備えている。溝部11Cは、段差部Sよりも壁部W側の部分で、蓋部12CとともにC/C20Cを形成する。C/C20Cは両端でW/J14に連通する。
【0041】
蓋部12Cは溝部11Cに設けられている。蓋部12Cの先端部は断面三角形状の形状を有している。このため、溝部11Cに設けられた蓋部12Cは、先端部で段差部Sに当接するようになっている。蓋部12CはメッキPが施された部材である。メッキPは蓋部12Cのうち、溝部11Cとの接触部に施されている。蓋部12Cの母材BMは例えば銅であり、メッキPは例えば銀である。メッキPの厚さは例えば20μmである。
【0042】
蓋部12Cは、例えば次に示すようにして溝部11Cに設けることができる。図8は蓋部12Cの第1の形成方法を模式的に示す図である。第2の装置40は、レーザービーム供給源41と、コリメーションレンズ42と、ホモジナイザー43と、集光レンズ44と、シールドガスノズル45とを備えている。
【0043】
レーザービーム供給源41は、レーザービームを発生させる。レーザービームは例えばファイバーレーザーである。コリメーションレンズ42は入射光を平行にする。ホモジナイザー43はレーザービームの集光形状を矩形に整形する。集光レンズ44はレーザービームを集光する。シールドガスノズル45はシールドガスを供給する。
【0044】
第2の装置40は、次のようにして溝部11Cに蓋部12Cを設ける。すなわち、まず溝部11Cに蓋部12Cを配置する。そして溝部11Cに配置した状態で、蓋部12Cのうち、母材BMの部分にレーザービームを照射する。そしてこれにより、母材BMの温度を高めることで、溝部11Cとの接触部に施されたメッキPを熱で溶融する。さらに、溶融したメッキPでアルミ合金製の溝部11Cを溶融することで、溝部11Cと蓋部12Cとを接合する。
【0045】
この点、第2の装置40は、レーザービームの集光形状を矩形に整形することで、集光形状が円形である場合と比較して、エネルギーの集中を抑制することができる。集光形状の大きさは、コリメーションレンズ42やホモジナイザー43や集光レンズ44のほか、シリンダブロック10Cとの間の距離によって任意に設定できる。コリメーションレンズ42および集光レンズ44の焦点距離は例えばそれぞれ120mmに設定できる。
【0046】
そして、レーザービームのエネルギーの集中を抑制した第2の装置40では、例えば溝部11Cの延伸方向やボア13の配列方向に沿ってレーザービームを走査しながら、母材BMに熱を次第に加えることで、メッキPを溶融させることができる。レーザービームの走査は例えばシリンダブロック10Cの移動によって行うことができる。
【0047】
また、蓋部12Cは例えば次に示すようにして溝部11Cに設けることもできる。図9は蓋部12Cの第2の形成方法を模式的に示す図である。第2の装置40´は、レーザービーム供給源41と、集光レンズ44と、シールドガスノズル45と、ガルバノメータミラー46とを備えている。ガルバノメータミラー46はレーザー走査機構であり、レーザービーム供給源41から照射されたレーザービームを走査する。
【0048】
第2の装置40´では、溝部11Cに蓋部12Cを設けるにあたって、次のようにしてレーザービームを走査することができる。すなわち、第2の装置40´では、蓋部12Cのうち、母材BMの部分に対し、所定の走査パターンでレーザービームを素早く走査することができる。そして、これにより母材BMに熱を次第に加えることで、メッキPを溶融させることができる。
【0049】
図10は走査パターンの例を示す図である。走査パターンは、例えば(a)に示すように、母材BMの表面の大きさに合わせて設定したループ形状とすることができる。また、例えば(b)に示すように、蓋部12Cのうち、母材BMの表面全般に及ぶジグザグ形状とすることができる。
【0050】
図11は蓋部12Cの加工条件を示す図である。縦軸はレーザービームの出力、横軸は加工速度を示す。図11は、母材BMを銅、メッキPを銀とした場合を示す。メッキPの厚さは20μmである。レーザーは、波長が1070nmのファイバーレーザーである。
【0051】
図11に示すように、メッキPはレーザービームの出力が小さすぎると溶融しない。逆に、レーザービームの出力が大きすぎると過大に溶融する。また、適切なレーザービームの出力は加工速度に応じて変化する。具体的には加工速度が高くなるほど、必要なレーザービームの出力も大きくなる傾向がある。
【0052】
このため、レーザービームの出力および加工速度は、これらに応じて設定される領域において、メッキPが溶融しない範囲を区分する線L1と、メッキPが過大に溶融する範囲を区分する線L2との間に形成される範囲内で設定することができる。
【0053】
これに対し、レーザービームの出力は具体的には例えば1.8kWから6.0kWの範囲内で設定することができる。また、加工速度は例えば1000mm/mmから10000mm/minの範囲内で設定することができる。レーザービーム径は例えばφ0.2mmからφ0.5mmの範囲内で設定することができる。
【0054】
図12はレーザービームの波長と銅のレーザー吸収率との関係を示す図である。図12に示すように、波長が1070nmのファイバーレーザーの場合、銅のレーザー吸収率が低いことがわかる。このため、母材BMを銅、レーザービームをファイバーレーザーとする場合、母材BMに熱を次第に加えることで、母材BMが概ね原形を維持するようにしつつ、メッキPを溶融させることができる。
【0055】
図12に示す関係上、レーザービームには高エネルギーのレーザービームとして、ファイバーレーザーのほか、例えば波長が1068nmのYAGレーザーを用いることができる。また、例えば波長が10.6μmのCOレーザーを用いることもできる。一方、母材BMには銅のほか、例えばレーザービームとの組み合わせでレーザー吸収率が低くなる高熱伝導材を用いることができる。
【0056】
メッキPには銀のほか、適宜のメッキを用いることができる。この点、例えば蓋部12Cの先端部に施すメッキPに、アルミ合金との腐食電位差が少ない材料(例えば亜鉛やすず)を用いることで、冷却水の浸入を防止するとともに、銅とアルミ合金との接触による電位差腐食を抑制することができる。
【0057】
次に冷却構造1Cの作用効果について説明する。冷却構造1Cでは、溝部11Cに対して蓋部12Cを設けるにあたり、蓋部12Cのうち、母材BMの部分にレーザービームを照射している。このため、冷却構造1Cでも、C/C20Cの幅が蓋部12Cの形成方法によって特段制約されない。したがって、これにより冷却構造1Cは、C/C20Cの設定自由度を高めることができる。
【0058】
また、溝部11Cに対して蓋部12Cを設けるにあたっては、例えばメッキPにレーザービームを直接照射することも考えられる。しかしながらこの場合には、アルミ合金から気泡(Hガス)が発生し易くなるとともに、銅、アルミ合金間の金属間化合物が生成され易くなる。結果、溶接部内部に多量の亀裂が発生し易くなる。
【0059】
これに対し冷却構造1Cでは、溝部11Cに対して蓋部12Cを設けるにあたって、蓋部12Cのうち、母材BMの部分にレーザービームを照射することで、Hガスの発生および金属間化合物の生成を抑制できる。このため、冷却構造1Cは溝部11Cに対して蓋部12Cを設けるにあたり、より健全な接合を行うこともできる。
【0060】
また、冷却構造1Cでは、溝部11Cに対して蓋部12Cを設けるにあたり、第2の装置40や40´を用いることで、母材BMに熱を次第に加えることができる。このため冷却構造1Cは、溝部11Cに対して蓋部12Cを設けるにあたり、母材BMが概ね原形を維持するようにしつつ、メッキPを溶融させることができる。
【実施例4】
【0061】
図13は冷却構造1Dの要部を示す図である。図13では、ボア13の配列方向に平行な断面で冷却構造1Dの要部を示している。シリンダブロック10Dは冷却構造1Aの代わりに冷却構造1Dを備えている点以外、シリンダブロック10Aと実質的に同一である。冷却構造1Dは、溝部11Dと蓋部12Dとを備えている。溝部11Dおよび蓋部12Dは以下に示すように設けられている点以外、溝部11Aおよび蓋部12Aと同様にして設けられている。
【0062】
溝部11Dは、蓋部12Dが設けられる部分の幅がデッキ面側に向かって次第に拡大するように設けられている。蓋部12Dは仮設材Tを有している。蓋部12Dは溝部11Dのうち、蓋部12Dが設けられる部分に対して、仮設材Tを設置した上で溝部11Dに対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで設けられている。材料の供給およびレーザービームの照射を行うには、例えば第1の装置30や同軸ノズルを用いることができる。蓋部12Dは溝部11DとともにC/C20Dを形成している。C/C20Dは両端でW/J14に連通する。
【0063】
仮設材Tは丸棒であり、その径は溝部11Dのうち、C/C20Dを形成する部分の幅よりも大きくなっている。仮設材Tの材質は例えば銅や銅合金である。仮設材Tには、溝部11Dのうち、C/C20Dを形成する部分の幅よりも幅が大きく、且つ溝部11Dの側壁部それぞれに当接する延伸材料を適用できる。図14は仮設材Tの他の例を示す図である。仮設材Tには丸棒のほか、例えば対角線を幅とし、溝部11Dのうち、C/C20Dを形成する部分の幅よりも対角線が長い角柱を適用できる。
【0064】
次に冷却構造1Dの作用効果について説明する。冷却構造1Dでは、溝部11Dのうち、蓋部12Dが設けられる部分に対して仮設材Tを設置した上で溝部11Dに対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで蓋部12Dを設けている。このため、冷却構造1Dでも、C/C20Dの幅が蓋部12Dの形成方法によって特段制約されない。したがって、これにより冷却構造1Dは、C/C20Dの設定自由度を高めることができる。また、冷却構造1Dは溝部11Dのうち、C/C20Dを形成する部分の幅よりも径が大きい仮設材Tを用いることで、溶融した材料の垂れを確実に防止できる点で、蓋部12Dを好適に設けることができる。
【0065】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば溝部に対して供給する材料には、シリンダブロックよりも熱伝導率が低い材料を適用してもよい。この場合、冷却損失が大きいシリンダヘッドの冷却性が高まることを抑制できる。結果、熱効率の向上を図ることができる。また、実施例3に相当する場合を含め、例えば蓋部の上に断熱材をコーティングすることで、同様に熱効率の向上を図ることもできる。
【0066】
また、例えば実施例2に相当する場合においても、溝部のうち、蓋部が設けられる部分に対して、仮設材を設置した上で溝部に対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで、蓋部を設けてもよい。この場合、仮設材には例えばワイヤーなどを用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
冷却構造 1A、1B、1C、1D
シリンダブロック 10A、10B、10C、10D
溝部 11A、11B、11C,11D
蓋部 12A、12B、12C、12D
ボア 13
W/J 14
C/C 20A、20B、20C、20D
第1の装置 30
第2の装置 40、40´


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のボアが形成されたシリンダブロックのうち、隣り合うボア間の部分に形成された溝部と、
前記溝部とともに冷却媒体通路を形成する蓋部と、を備え、
前記溝部に対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで、前記蓋部を設けているエンジンの冷却構造。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンの冷却構造であって、
前記シリンダブロックのうち、前記複数のボアの周辺部にシリンダブロック冷却媒体通路が設けられており、
前記溝部が、両端で前記シリンダブロック冷却媒体通路に連通するとともに、前記冷却媒体通路が、両端で前記シリンダブロック冷却媒体通路に連通しているエンジンの冷却構造。
【請求項3】
請求項1記載のエンジンの冷却構造であって、
前記シリンダブロックのうち、前記複数のボアの周辺部にシリンダブロック冷却媒体通路が設けられており、
前記溝部が、両端のうち、一端のみで前記シリンダブロック冷却媒体通路に連通し、前記冷却媒体通路が、一端で前記シリンダブロック冷却媒体通路に連通するとともに、他端で前記シリンダブロックのデッキ面に開口しており、且つ前記蓋部が、前記溝部のうち、一端側で底壁部をなす壁部と所定の間隔を有して設けられているエンジンの冷却構造。
【請求項4】
複数のボアが形成されたシリンダブロックのうち、隣り合うボア間の部分に形成された溝部と、
前記溝部とともに冷却媒体通路を形成する蓋部と、を備え、
前記溝部に前記蓋部を配置した状態で、前記蓋部のうち、母材の部分にレーザービームを照射し、前記蓋部のうち、前記溝部との接触部に施されたメッキを溶融することで、前記蓋部を設けているエンジンの冷却構造。
【請求項5】
複数のボアが形成されたシリンダブロックのうち、隣り合うボア間の部分に溝部を形成し、
前記溝部に対して材料を供給し、レーザービームで溶融することで、前記溝部とともに冷却媒体通路を形成する蓋部を設けるエンジンの冷却構造の製造方法。
【請求項6】
複数のボアが形成されたシリンダブロックのうち、隣り合うボア間の部分に溝部を形成し、
前記溝部に配置した状態で、母材の部分にレーザービームを照射し、前記溝部との接触部に施されたメッキを溶融することで、前記溝部とともに冷却媒体通路を形成する蓋部を設けるエンジンの冷却構造の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−97719(P2012−97719A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248704(P2010−248704)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】